福島県内の各局との意見交換会を開催
福島県内の各局と放送倫理検証委員会との意見交換会「福島を伝え続けるために――放送倫理を軸に」が、2013年12月4日、福島市内で開催された。参加者は、放送局側からは、福島テレビ、福島中央テレビ、福島放送、テレビユー福島、ラジオ福島、エフエム福島、NHK福島放送局の全7局から21人、委員会からは、水島久光委員長代行、小出五郎委員、森まゆみ委員の3人である。第1部で、水島委員長代行が放送倫理検証委員会の基本的な考え方について説明し、第2部では、福島の放送局が抱えている具体的な問題について、意見を交換した。
◆第1部 委員会の議論から福島の報道を考える◆
第1部では、まず水島委員長代行が、意見交換で基調となる放送倫理検証委員会の基本的な考え方について、これまでの4つの委員会決定に基づいて説明した。この中で水島委員長代行は、これらの意見書から読み解くべきポイントとして次の2点を挙げた。
1つは、放送の使命を実現していくために、それを脅かすように作用する政治的な力や経済的利害、ルーティンにはまってしまっている自分たち自身などに対して、我々は常にケアしなくてはいけないという点である。もう1点は、具体的なリスクがどこに潜んでいて、どういうところでそれを踏み越えてしまうのかという点を、ポイントとして読み解くべきであると述べた。
そして、これまでの検証委員会での議論を振り返って改めて感じたこととして、「信頼」は放送倫理基本綱領の中でも特に注目したい言葉で、それは日々の活動の中で作られるものであり、目標・目的であると同時に、次なる番組作りの前提となるものだと述べた。
水島委員長代行の話はこちら
この後の質疑応答では、「光市のようなケース(委員会決定第4号)であっても、どこかに冷静で客観的な視点があれば、バランスは保てるのではないか」「ブラックノート(委員会決定第8号)のように社会的使命と取材手法とがせめぎ合うような場合、局としては社会的使命に照らしてこれ以外に方法はないと思ってやったとしても、必ずしもそれは支持されるとは限らないので躊躇してしまう」などの意見や感想が出され、水島委員長代行は、すべての事案はケース・バイ・ケースで、個別具体的、かつ自律的に判断するべきであるという委員会の考え方を、あらためて示した。
◆第2部 「分断」「温度差」「風化」を乗り越えるために◆
第2部では、事前の聞き取りやアンケートの結果から設定したテーマに基づいて、各局が簡単な報告をしたあと、委員と意見を交換した。
1.放射線の健康被害に関する考え方の違いによる「分断」
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まず、現在、福島県民の間で生じているさまざまな「分断」のうち、放射線の健康被害に対する考え方の違いから生まれる「分断」について、放射線情報をどう伝えるか、その「分断」をどう乗り越えるかについて、各局から以下のような報告があった。
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問題提起のきっかけとして2013年2月に県内の5,000世帯に対して郵送で行ったアンケート結果を紹介すると、放射線について不安を感じている人は8割、人間関係や発言の内容に気を使うようになった人は7割、憂鬱な気分が続くようになった家族がいる人は5割、7割近くの人は家族の誰も避難しなかったけれども、そのうちの4割近くは避難したくてもできなかった、などである。放射線の問題については、被害の拡大を防止したいし、何か出来ることはあるはずだと日々思っているが、中立であったり両論併記の報道をしていると、非常にもどかしく感じることがたびたびある。納得いく判断が出来るような情報を視聴者にきちんと伝えていくことを最低限のスタンスにしたいと思い、毎日、悩みながら報道に当たっている。(テレビユー福島)
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原発事故から1000日目を迎えても、放射線の健康への影響については、我々もグレーとしか答えようがない。いろいろな情報を示して視聴者の方に判断してもらうしかないと思っているが、日々こうした情報に向き合っている我々でもこんなに難しいことを、一般の人に判断できるのか、という思いがある。健康被害に関する情報については、いつも判断のたびに揺れていて、やはりデータを蓄積するしかないと思っているが、一方で健康調査を受けたくない人もいて当然とも思うので、全員受けるように呼び掛けるべきかどうか考える。食品に含まれる放射性物質の情報にしても、国の基準は下回っているが10とか20ベクレル程度の場合など、どのように伝えるか、日々、葛藤の中で伝えている。(福島中央テレビ)
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福島県に暮らす私たちには、たとえば先ほどのアンケートの話にもあったが、避難したか/しなかったかの、ゼロか1かで割り切れないような思いがある。そうした人の内面を少しずつていねいに拾い、放送することで、立場が違う人たちが少しでもお互いに理解できるようなことにつながり、「分断」の溝を少しでも埋められれば、というのが今一番思っているところだ。放射線に関する情報については、これから廃炉になるまで数十年、専門的な知識を、この実地の取材の中で積み重ねていくということが私達に求められていることなのだと思う。そして、ある程度道しるべを示せるようになることが信頼につながってくるのかなと思っている。(福島テレビ)
各局からの報告を受けて、小出委員が以下のように意見を述べた。
小出委員:放射線の影響について、白黒はっきりした情報を伝えたいけれどもなかなかそう断言できないところがあって非常に迷いがあるというお話だったが、私も全く同感だ。このような場合、どのように話せば分かってもらえるかということだが、ポイントの1つは「分からないところはどこか」ということだ。「このことについては分かっているが、このことは分かっていない。この問題はそういう状況にある」ということをまず分かってもらわないと、そこから話が進まない。その上で、分かっていない理由は何か、さらに、いつになるとそれは分かってくるのか、ということも必要だ。2つ目は、不確実な問題というものには、科学的な側面と社会的な側面の両方あるので、そういう問題の構造に乗ってものを伝えると、分かってもらえるのではないかという気がしている。そしてもう1つ大事なことは、代替案だ。代替案を複数提示して話をすることが必要だろう。
こうした「何とも言い切れない話」ではいろいろな情報が発信されるが、キーポイントとなるのは、それが公正で透明なプロセスから出てきた情報かどうかということだ。放送局は情報のプロセスをチェックし、公正で透明性のあるプロセスから出てきた情報は、きちんと伝えていくべきではないかと思う。もう1つのチェックポイントとしては、迅速に出てきた情報か、ということがある。いろいろ考慮された結果出てきた情報というのは、あまり信用出来ない。
そしてもう1つ大変重要なことは、その時、最終的にものを決めるのは誰かということだ。不確実な問題というのは、科学的な問題もあるけれども同時に社会的な問題も非常にあるわけで、そうなると、地域社会が決めることが最優先なのではないかと思う。政府や企業が決める話ではない。これが、こういった問題の一番基本的なスタンスだと思う。
リスクコミュニケーションでALARAの原則というのがある。ALARAとは、as low as reasonably achievableの頭文字を取ったものだが、科学技術の問題とそれから社会経済、政治的な問題というものをいろいろ勘案して、被害を一番合理的に最小限になるように調整していくという原則だ。ここで一番大事なのは、社会的合理性と科学技術的合理性とのバランスであって、Aさんの説とBさんの説ということではない。
情報の伝え方について、今、皆さんがおっしゃったようなことは、私も常々感じている。けっこう悩みながら、「どう言ったらいいかな」なんて顔を見ながら考えるようなところがあるわけだが、長いこと話して、顔もお互い分かって、言葉の意味するニュアンスが分かってくるぐらいまでいかないと、なかなか有効に話は伝わらない。対面で伝えるのが一番だろうが、放送でも、ある程度できるのではないかと、期待を込めて思っている。
科学ジャーナリストである小出委員の発言の後、質疑応答に入った。多様な立場の放射線の専門家からじっくりと話を聞く一般公開番組を制作し、自社のYouTube公式チャンネルに公開しているテレビ局(テレビユー福島)から、放射線の影響に関する情報の伝え方について、かなり専門的なレベルでの質問が続いた。小出委員は、「あるデータを取り上げる時には、このデータはここまでは言えるけれどもここから先はちょっとあやふやなんだとかの条件を付けるなど、データの見方について、ある程度時間をかけて伝えていかなければならないのではないかと思う。情報の出し方は重要で、情報公開のプロセスに不信感があったら、何を言っても通じない」などと述べた。
2.さまざまな「分断」を考える
放射線の考え方の違いによる「分断」以外にも福島で生じているさまざまな「分断」について、意見交換を行った。まず、局の方から以下のような報告があった。
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2013年3月、震災原発事故2年のタイミングに合わせ、ニュース番組の中のシリーズ企画で、原発事故の避難者が多く暮らす自治体で生じた避難者と地元の人たちの軋轢についてレポートした。「こんな軋轢もあるけれども解決に向けた模索も始まっている」という内容で放送したのだが、かなりの反響が寄せられた。伝える前からこうした問題は難しいだろうとは思っていたが、問題提起をするという狙いで放送した。放送したことに加え、多くの意見をいただいたことについても意義があったと思っているが、同時に、様々な立場の人たちの思いをしっかりと汲み取って報道することの大切さやバランス感覚が大事だということを再認識させられた。(NHK福島放送局)
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事故から2年9ヶ月が経ち、避難されている方の中でも意見や考え方がかなり分かれてきていると感じている。たとえば、自主避難を含めて避難した方と残られた方の考え方の差、食品の安全性に対する考え方の違い。こうしたものはなかなか埋められない。また、補償がもらえる、もらえないのお金の部分での分断も起きている。
多少間違いがあっても、はっきりものを言う方に一般の人が引っ張られていってしまう傾向が強いような気がしているが、そうした物言いが多いネットの世界と比べ、我々放送局は、視聴者側から見れば、問題提起をするだけで判断をせず、非常に中途半端というかあいまい、と受け取られているような気がする。それがテレビに対する信頼性を損なわせていく一因となっているような気がしている。(福島放送)
これを受けて森委員が以下のようにコメントした。
森委員:私たちは、自分たちの地域でお互いのことを考えていこうと、『谷根千』という雑誌を30年前に始めた。30年の活動の中で、みんなで集まってみんなで考えていくネットワーク、そこでは自分が本当に考えていることを話しても非難されないという場所、を地域の中に作ってきた。震災以降はそこを中心に動き、被災地応援や脱原発デモなどの映像を全世界発信し、自分たちでエネルギー問題など勉強する会もやった。こういう、冷静に物を見られる人たちの核を地域の中に作って放送局の応援団にしていくことは大事だと思う。そうしないと、相手が見えずに、ちょっとした声に怯えて自主規制してしまうことになるのではないか。既にNPOやNGOのある地域ならそういう人たちとつながって、その地域でどんな声が上がっているのかを絶えず探ることは必要だと思う。
放射線については、子どもたちの住環境や健康調査の記録を取り続けることで将来に備えるということが、すごく大事だと思う。水俣病と同じく被害者が立証責任を負わされることになるのではないかと思うので、その時のために、住民の健康についてのデータを積み重ねていくということも、メディアがしなくてはいけないことだろうと思う。
忘れられてしまいそうな事象も記録しておくということが大事なのではないか。昔、『解体ユーゴスラビア』という、ユーゴスラビアに住んでいる日本人女性の目を通して近所に暮らす人たちのかそけき生の声を拾った本を読み、とても感動した。日常の変化や言葉の中に、いろいろな問題の萌芽が詰まっている。だから私も、3月11日から、そうしたことをブログに書き続け、それをまとめて『震災日録』(岩波新書)で出した。
私は畑を持っていた宮城県南部の丸森町にお手伝いに行くが、宮城県全体が北部のリアス式海岸の津波復興のほうに目が向いてしまっていて、放射線値の高い南部の方にはあまり関心が向けられていない。逆に福島県では、やや放射能のほうに関心が強まっているために、海辺の津波被災地がどう記録されているのかということも心配になる。
森委員の話を受けて、ラジオ局のアナウンサーから、生放送のインタビュー番組で、放射線量のリスク評価が自分とは異なる人に対するリアクションに困ったという発言があった。森委員は、「同様なことは私も経験した。立場によっていろいろな考えがあって仕方ないが、率直に語り合える場をできるだけ作りたいと思っている」と答えた。
3.さまざまな問題を乗り越えるための各局の取り組み
続いて、ラジオというメディア特性を生かしたラジオ局の取り組みや、「温度差」や「風化」の問題を乗り越えるためのテレビ局の取り組みが紹介された。
【ラジオ局の取り組み】
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震災が起きてから1ヶ月間、24時間、情報を発信してきたが、リスナーの方の「子どもがなかなか寝つけないので子ども向けの音楽を流して欲しい」との声を耳にして、子どもに聞きやすい歌を流したりした。通常の放送に戻ってからは、FMとしてやれることは何かと議論を進め、放射線に対する質問に答える番組を約1年ほどラジオ福島さんと並行してやったり、『風評被害をぶっ飛ばせ』という番組を約1年ほど放送したりした。米の生産者の力になろうということで、田植えも収穫も行い、放射線を測定して安全であると訴える番組も作った。田植えの時は復興大臣と郡山市長にも参加していただいた。
現在の取り組みとしては、やはりラジオは音声が主なので、音楽の力を信じて積極的にできるだけ明るい音楽を流している。「元気をもらった。ありがとう」という返事をもらったりする。するとアナウンサーが、「また元気をもらいました」と。そのような双方向的なラジオの特性を活かして、現在も番組では明るめの音楽を中心に、音楽を生かした放送を積極的に行なっている。(エフエム福島)
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震災以降、私たちが取り組んできたこととして、1つは、被災者の生の声をできるだけ出そうと、毎日、番組コーナーで電話インタビューをしたり、中継車を出して、いろんな取り組みをされている方を紹介したりしている。もう1つは、できるだけ制作者の意図を介さずストレートなお話をしてもらおうと、震災の年からずっと月曜日の19時から21時まで2時間の生番組を組んでいる。
放射線関連の問題に関しては、ラジオは数字を伝えるのが非常に苦手な媒体だが、できる限りデータをそのまま伝え、科学的な根拠に基づく情報を出して行きたいと考えている。震災以来2年数ヶ月の間の大きな出来事として、東京発の情報ワイド番組をシーズン途中で止めたという事があった。ゲストコメンテーターの方が、根拠のない、あるいは科学的根拠に乏しいような、あるいは福島県民を翻弄させるような発言を繰返しており、制作局に問題を指摘したが満足な訂正がされず、私どもでは番組を打ち切った。いろんな悩み方をしながら、毎日、番組編成だったり制作をしている。
放射線関連の問題に関しては、臨時災害FM局の南相馬ひばりFMさんと番組交換をして、南相馬ひばりFM制作で、東大医科研の先生が南相馬中央病院でボディカウンターの実測値を元に内部被曝の影響を説明されている番組を、私どもで放送している。臨時災害FM局との連携は富岡町のおたがいさまFMともやっており、互いに連携して、心のつながり、被災者の心のつながりを作っていこうというとしている。
「分断」というテーマがあったが、福島県と私どもラジオ福島の企画「ふくしまきずな物語プラス」に寄せられた作文を見る限り、心の分断を叫んでいるものは意外に少なかった。ラジオはフォーラム的な話し合いの場を非常に作りやすいメディアなので、今後、我々が県民のために役立つことができる方法がおそらくまだまだあるだろうと、さきほどの森委員のお話を聞いて思った。
小出委員から話があった社会的な合理性と科学的な合理性についても、冷静に考えれば落とし所というのがあるんだろうなとも考えられるが、被災県の福島としては、心証的に受け入れ難い。そういう部分を埋め合わせるメディアとして今後も努力していきたいと考えている。(ラジオ福島)
【「温度差」「風化」を乗り越えるためのテレビ局の試み】
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2012年の5月に福島市の小学校で2年ぶりに屋外で運動会が開かれた。それを全国放送するからということでキー局に送ると、キー局のデスクから「なんでマスクをしているところを映さないのか。マスクをしていないと、何の珍しい絵にもならないじゃないか。なんで全国ニュースで流すと思っているのか」と言われた。その時点でマスクをしている子は、小学校ではほとんどいなかった。その時は、かなり頭に来た。
それ以来ずっと、キー局とは飽きるほど何度もケンカをした。キー局との中でも、このぐらいの温度差というのはある。(テレビユー福島)
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日々のニュースやドキュメンタリーは、ずっと発信し続けて行こうという話を社内でもしている。また、深夜帯だが、報道記者が独自の視点で作り、震災をみつめ直すようなコーナーを数年前から始め、ようやく軌道に乗ってきたところだ。ただ、全国的には、3年近く経つと、枠の確保といった点でもなかなか厳しい。西日本では、話題がもう東南海地震とその被害想定の話に全てすり替わっているような部分も感じる。番組制作では、弊社が制作しているバラエティー番組や旅番組等を全国の系列局さんに買っていただくという形で、福島県の現状を積極的にアピールしている。(福島放送)
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NHKでは東京の全国ニュースの担当者の間でも震災や原発事故関連のニュースを積極的に集めて伝えていこうというマインドは定着しており、温度差は局内的にはそれほど大きくはない。工夫している取り組みとしては、県外に避難している人たちも見ることができるように、放送が終わったニュースをNHK福島放送局のホームページにアップしている。風化の防止に対しては、ネットワークを活かし、様々なチャンネルを通じて、地道に情報を発信し続けていくということに尽きると思う。(NHK福島放送局)
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ネットに関する取り組みを報告する。ローカルのほうは、2011年の6月から月~金のお昼のローカルニュースをYouTubeの公式チャンネルにアップしている。夕方の企画ニュースも、項目を別に立てて200本くらいアップしており、現状では延べ260万回の再生回数があった。系列のほうは、2013年4月からFNNニュースローカルタイムというYouTubeの公式チャンネルに、被災3県の夕方のニュースのほぼ全項目をアップしている。これは、ありのままに近い福島の現状を知ってもらうツールとして有効だと思う。普通のニュースにこそ、普通に暮らす福島の人たちの姿が映っており、それが実は福島の空気感を一番正確に伝えていると思う。こうした普通のニュースは全国放送にはならないが、ネットでは発信でき、日本全国あるいは世界の方に見てもらえる。(福島テレビ)
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ホームページでのニュースの動画配信は震災前から始めていたが、震災以降は、県外の避難者のために、夕方の情報番組のニュース部門で権利上の問題がないものを20分以内でアップしている。避難者が多い新潟と山形の系列局には、避難者にも直接関わるようなニュースを、原稿も送った上で配信している。全国の方には、ドキュメントで伝えていくのが一番分かってもらえると思って、ドキュメントの制作も心掛けている。国際放送の番組も作りながら福島をアピールしているが、終わりのなき戦いの中でスタッフも疲弊してきており、だんだん厳しくなってきているというのが現状だ。風化を防ぐために、全国ニュースで伝えたいと思うと、平穏ないつも通りの福島の姿が伝わらずに大変なイメージばかりを膨らませてしまうというジレンマがあって、その両方の福島をどう伝えるかが私たちの課題だと思っている。(福島中央テレビ)
最後に各委員が、各局の報告者に感謝の意を伝えるとともに以下のような感想を述べ、意見交換会は終了した。
森委員:大変ななかでジャーナリストとして鍛えられている方たちの話を聞き、勉強になった。私の通っている丸森や石巻でも、どうにか立ち上がる人たちが出てきている。福島でも、そういう立ち上がる人々のことを、私たちは是非知りたい。応援がしたい。行政が全国の市町村から支援を得ているように、放送局も、たとえば大学などの支援を得て、ドキュメンタリー番組などを作って欲しい。
小出委員:いろいろなことをうかがって、私も大変勉強になった。やはり基本的には信頼の問題だと思うが、信頼を作っていくには、人の問題、組織の問題、システムの問題と、3つぐらい要素があると思う。特にシステムについては、エフエム福島やラジオ福島の方たちの試みのように、視聴者のいる所に片足を置いたシステム作りを、試行錯誤しながらやっていくことが必要なのではないかと思う。
そういう試行錯誤自体が、日々の業務のリアリズムの中ではものすごく難しいと思うが、やっぱりそこは放送という仕事で生きている者の志の問題でもあるのかなと思う。私も、とっくに定年を過ぎてはいるが、長いあいだ放送に携わってきて自分の一部のようになっている所もあり、放送が大好きで愛している。主役である現役の皆さんには、是非、志を持ってやっていただきたいと思う。私たちはそのために応援をしたい、できることを何でもやりたいと、本当にそう思っている。
水島委員長代行:最後に3つほど申しあげたい。1つは、最初に検証委員会が議論してきた放送倫理の話をしたが、特に真実性の問題と公平・公正性の問題は大きなポイントだ。真実性や公平・公正性を自分自身に向かって問い続けるだけでなく、他者に対しても同じように考えることが必要なのではないかと思う。
2つ目は、さまざまな取り組みを自分たちの現場だけで抱え込むと大変になる時に、どうやって連携を作るかということだ。力を借りたり貸したりしながら問題に取り組んでいくことが、次の課題となると思う。福島以外の人たちとの連携も、大きな課題になってくるのではないか。
3番目に、私の大学では、学生たちが発災から1000日を契機に、震災や原発事故について改めて考える勉強会を始めているが、何度でも出会い直し、考え直すためにどのように情報を発信していくかが、これからの大きな課題になると思う。思い出したくないこともたくさんあると思うが、やはり出会い直すことで見えてくることや、分かることもあると思うので、これからはそういうチャンスを作ることができればいいと思う。みなさんには、これからの放送と地域のために、是非がんばっていただきたいし、私どもも、応援をしていきたいと思っている。
小出五郎委員は2014年1月18日に逝去されました。心よりご冥福をお祈りいたします。