第96回 放送と人権等権利に関する委員会

第096回 – 2005年1月

「文化財遺跡発掘関連報道」案件の報告について

斡旋解決事案「キス強要バラエティー番組に抗議」の報告…など

「文化財遺跡発掘関連報道」案件の報告について

2004年8月に大阪府の男性から「文化財遺跡の発掘について取材を受けたが、応えた内容と放送された内容が違っていて、闇の事件屋扱いされた」との苦情が寄せられた案件。

前回12月の委員会で、申立人が問うている番組の制作姿勢や営業上の損失等は放送人権委員会運営規則の〔苦情の取り扱い基準〕になじまず、本件申立ては審理対象外と決まったのを受けて、委員長名でその旨を文書で申立人に通知したことを事務局から報告した。

年明け後も、申立人から特に反応はなく、委員会はこの件の審理を終了することにした。

斡旋解決事案「キス強要バラエティー番組に抗議」の報告

12月に愛知県の女性から、「駐車していたところ、お笑いコンビの一人が無断で乗り込んできて無理やりキスをしようとした。しかも、この一部始終をテレビカメラに撮影された。局側に抗議したら放送しないと答えたが、問題の本質がわかっていない。こんな取材・撮影は絶対許せない」と強い苦情がBPOに寄せられた。

BPOの要請で双方が話し合った結果、当該局が「深く謝罪するとともに、問題となったコーナー企画を即時打ち切る」ことなどで女性と合意した。

事務局からこの件を本委員会に報告、承認された。これで本年度の斡旋解決は4件となった。

人権に関する苦情対応状況(12月)

2004年12月の1か月間に寄せられた放送人権委員会関連の苦情の内訳は、次のとおり。

◆人権関連の苦情〔14件〕

  • 斡旋・審理に関連する苦情(関係人からの人権関連の苦情で,氏名・連絡先や番組名などが明らかなもの)・・・10件
  • 人権一般の苦情(人権関連だが、関係人ではない視聴者からの苦情)・・・4件

また、BPO発足2003年7月以降、2004年12月までの、苦情・斡旋・決定の累積件数は、次のとおり。

03.7 ~04.12 斡旋・審理関連 人権一般 斡旋解決/決定
189 168 357 8/3

(注)
2004年「決定」事案    3件
「中学校教諭・懲戒処分修正裁決報道」(北海道文化放送)
「国会・不規則発言編集問題」(テレビ朝日)
「警察官ストーカー被害者報道」(名古屋テレビ)

2004年「斡旋解決」案件  3件

「リタイア盲導犬の世話を巡り名誉毀損」とのペット美容室経営者の訴え
「取材協力したのに虚偽の放送をされ、名誉・信用毀損」とのヘリコプター・オーナーからの苦情
「被虐待児ドキュメントで子供を無断撮影し放送された」との母親からの抗議

“訂正放送請求事件”の最高裁判決について意見交換

1996年6月にNHKが放送した中高年の離婚を考える番組『生活ほっとモーニング~妻からの離縁状・突然の別れに戸惑う夫たち』で、離婚した夫の一方的な話を放送されたとして名誉毀損・プライバシー侵害を訴えていた埼玉県の女性が、NHKに訂正放送などを求めた訴訟の上告審判決が、2004年11月25日に最高裁第一小法廷であった。

この判決内容は、今後の放送人権委員会の役割や審理に深く関わってくると見られることから、委員会で右崎正博委員に解説してもらい、意見交換した。

右崎委員はレジュメに基づき、判決内容を解説。論点として、この最高裁判決は、「?放送法4条1項について、放送内容の真実性の保障及び他からの干渉を排除することによる表現の自由の確保の観点から、放送事業者に対し、自律的に訂正放送等を行うことを国民全体に対する公法上の義務として定めたものであって、被害者に対して訂正放送等を求める私法上の請求権を付与する趣旨の規定ではないとしている」「今後、放送事業者は訂正放送等について自律的・自主的に対応することが求められるが、その際には、放送事業者によって自主的に設立された第三者機関としての放送人権委員会が、大きな役割を果たすことが期待されるのではないか」「放送人権委員会が権利侵害の認定をした場合は、謝罪放送や訂正放送を求める申立てに対して、委員会決定の中で、そういうことを示すことが必要になるかもしれない。その是非も含め検討が必要だ」と問題提起した。

また、「?民法第723条に基づく謝罪放送については、この請求部分についての上告がなされなかったので、最高裁での審理判断の対象にならなかった。しかし、放送法第4条に基づく訂正放送請求権が私法上の権利として認められないことになった一方で、民法第723条に基づく名誉回復措置としての謝罪放送・訂正放送の請求の可否については未解決のまま残された」と解説した。

この後意見交換を行ったが、主な意見は以下の通り。

  • 今後は放送法に代わって民法第723条に基づいて訂正放送請求等が行われることになるが、この条文は名誉回復措置だけが対象だ。プライバシー侵害等は対象外で、局側は名誉毀損以外はフリーハンドになる。このあたりが問題になりそうだ。
  • 裁判で、民法第723条を活用するより放送人権委員会に申立てたほうが、もっと幅広い対応が可能ではないかという流れが出てくることも予想される。
  • 放送局側も謝罪・訂正放送を求められた場合、自分の判断で決めないで、放送人権委員会でいったん判断してもらい、その上で、「放送人権委員会が求めるのだからやりましょう」というスタンスになるのではないか。放送人権委員会もそういう役割を期待されると思う。
  • 基本的には放送局の自主・自律的な決定が一番大事で、放送人権委員会に全面委任してくるケースはないと思う。

“番組に政治介入”との報道について意見交換

2005年1月12日付の朝日新聞(朝刊)が、「NHKが2001年1月に教育テレビで放送した、慰安婦問題などを取り上げた民間法廷を素材とした特集番組『ETV2001戦争をどう裁くか~問われる戦時性暴力』(4回シリーズの第2回)について、自民党の国会議員2人が”偏った内容だ”などと介入し、NHKは、その後番組内容を改変した」と報道し、NHKと、名指しされた議員2人は「朝日の取材は最初から意図的で、歪曲・誘導されたものだ」などと反発、抗議している問題について委員会で話し合った。

報道された番組については、出演者がNHKを相手取って申し立て、放送人権委員会が2003年3月に委員会決定を出した事案でもあり、事務局から当時の放送人権委員会の審理概要について説明した。放送人権委員会としても、「番組への政治介入があったのかどうか」について、今後も事実関係の解明を注意深く見守っていくことにした。

その他

事務局より、3月7日(月)広島市で開かれる「放送人権委員会委員と中・四国地区担当者との意見交換会」について、スケジュールなどを相談。また、今年度の「BPO年次報告会」を、3月24日(木)に開催することを報告した。

平成17年度の放送人権委員会の委員会の日程について協議し、原則第3火曜日午後4時からとし、例外として、8月は第4火曜日の23日、18年3月は第2火曜日の14日に開催することとした。

次回放送人権委員会を2月15日午後4時から開くことを決め、閉会した。

以上