第95回 放送と人権等権利に関する委員会

第095回 – 2004年12月

審理要請案件「文化財遺跡発掘関連報道」の取り扱いについて

「警察官ストーカー被害者報道」事案の総括…など

審理要請案件「文化財遺跡発掘関連報道」の取り扱いについて

8月に大阪府の男性から、「文化財遺跡発掘について取材を受けたが、対応した内容と放送された内容が違っていて、事実関係を捏造され、事件屋扱いされた」と苦情が寄せられた案件。放送人権委員会では9月に双方へ話し合いを要請したが不調に終わったため、10月に「申立書」の提出を求め、11の委員会で「申立書」を基に協議したが、内容に不備があり、苦情申立人に申立書の補足を提出要請していた。

12月の放送人権委員会では、再提出された「申立書」、および、申立書に対する当該放送局の「見解」、放送局から提出された当該番組のVTRを視聴して、審理入りするかどうかを協議した。

その結果、「申立人は当該番組の制作姿勢や制作のあり方を厳しく問うているが、放送人権委員会は番組の企画や姿勢などを審理対象としていない」こと、また、「当該番組によって営業上の損失を受けたことを問題にしているが、放送人権委員会では経済的損失等は把握できない」ことなどの事由により、本件申立ては、運営規則第5条の1〔苦情の取扱基準〕に照らして”審理対象外”と判断することに決定した。

なお、同決定は放送人権委員会委員長名の文書で、申立人に審理対象外とした事由を記して通知し、あわせて当該放送局にその旨を連絡することとした。

「警察官ストーカー被害者報道」事案の総括

愛知県の女性から申立てがあった「警察官ストーカー被害者報道」事案に関する「委員会決定」(見解)の通知・公表と記者発表の模様について、事務局から以下のとおり報告した。

「委員会決定は12月10日午前10時30分に、申立人・被申立人双方に通知した。被申立人の名古屋テレビ放送にはBPO会議室で飽戸委員長から委員会決定文を手交し、申立人には調査役が名古屋に出向いて直接、同決定文を手渡し、内容を説明した。

申立人は、この決定について『取材・放送に不慣れな一般市民にインタビューする際、特に好奇の対象となりやすい事件の時には、その人が顔出しで放送されるとどのような影響が出るかを慎重に配慮してほしい。その影響や配慮の内容を取材される側にも説明し、了承を取ってほしい』と述べた。

一方、被申立人の名古屋テレビは、『決定は、人権侵害等は無かったとされていますが、肖像の使用にあたっては慎重な配慮が必要であるとしています。名古屋テレビでは、自社の放送基準を遵守し、今後も人権と放送倫理に充分な配慮をした報道活動に努めてまいります』とのコメントを公表した。

この後、午前11時から東京・千代田区紀尾井町の千代田放送会館内で記者発表を行い、『委員会決定』の内容を公表した。記者会見には、放送人権委員会から飽戸委員長と、起草委員の右崎委員と五代委員、それに渡邊委員が出席。メディア側からは記者22社32人が集まり、カメラ6台が入った。

会見では、まず飽戸委員長が『委員会決定』の概要を説明し、『今回の決定は少数意見がなく全員一致でした』と述べた。次いで右崎委員が、申立人・被申立人双方の主張が食い違った”申立人からの情報提供の有無”と”顔出し放送の諾否”の2点について説明した後、『審理全体を通して申立人の立場にも充分な配慮を払い公平な判断をしたと思う』と述べた。渡邊委員は、『素人にインタビューに応じてもらう際、どこまで説明し理解してもらえるか、放送従事者のプロとしての心構えが今後、問われることになる』と補足した。

最後に飽戸委員長が、『今回の委員会決定は”問題なし”と判断して被申立人側に対応措置の要請はしていない。しかし当該放送局も含め各局は、この放送人権委員会の決定を素材として活用し、(顔出し放送を含むインタビュー取材等における配慮のあり方についての)議論を深めてもらいたい』と述べた」。

以上の事務局からの報告の後、当該放送局が通知当日に放送した「委員会決定の主旨」を伝えるニュースのVTRを視聴。また、関連の新聞記事も資料として配付した。

飽戸委員長は、「記者会見では質問は殆ど出なかったが、会見終了後に記者達からいろいろ聞かれた。この中で『新聞記事についても肖像権に充分配慮しなければならないですね』という記者もいた」と当日の模様と感想を述べた。

斡旋解決事案の報告

事務局から以下の3件の苦情案件について、その後の経緯を報告した。

  • 「ヘリコプター・オーナーから名誉毀損」との苦情案件
    10月に大阪府の男性から寄せられた、「ヘリコプターのオーナーとして取材要請に応じたが、虚偽の内容を放送され、名誉・信用を毀損された」との苦情案件。当該放送局は、番組を紹介するHPの中で内容を訂正する措置をとったが、男性は納得せず、放送人権委員会に苦情を訴えてきた。
    放送人権委員会で話し合いを斡旋した結果、再度の話し合い結果に基づいて局側が、内容を修正した番組を男性の出身地などで放送することを提案し、男性もこれを了承し解決した。
  • 「ドキュメントで子どもを無断撮影し放送」との苦情案件
    8月に山形県の女性から寄せられた、「児童施設に預けている4歳の長男がドキュメンタリー番組で被虐待児の一人として撮影されたことを知った。局に放送をやめるように求めたが、映像処理を少し施されて結局、放送されてしまった」との苦情案件。局側は「学園長から撮影許可を得た。苦情に応えてモザイクを大きくした」と説明したが、女性は納得せず、話し合いは膠着状況になった。
    放送人権委員会は双方に重ねて話し合いを要請し、それに応えて放送局幹部が申立人と直接面談。改めて企画意図を説明して了解を求めた。女性は「親の承諾がないまま子どもを撮影したことは問題だ」と重ねて主張したが、新たな要求等はなく、その後数か月間、当該女性からの抗議・苦情もないことから、放送人権委員会では落着したものと判断した。

以上2件が斡旋解決として委員会で承認され、2004年度の斡旋解決事案は合わせて3件になった。

人権に関する苦情対応状況(11月)

11月の1か月間にBPOへ寄せられた、放送人権委員会関連の苦情の内訳は次のとおり。

◆人権関連の苦情〔25件〕

  • 斡旋・審理に関連する苦情(関係人からの人権関連の苦情で,氏名・連絡先や番組名などが明らかなもの)・・・21件
  • 人権一般の苦情(人権関連だが、関係人ではない視聴者からの苦情)・・・4件

その他

飽戸委員長から、「11月25日に『NHKに対する訂正放送要求裁判』の最高裁判決があったが、今後の放送人権委員会審理にも関係するところがあると思うので勉強会をしたい」との提案がなされ、来月の委員会で意見を交わすことを申し合わせた。

事務局から、「中・四国地区のBPO連絡責任者と放送人権委員会委員との意見交換会」を、2005年3月7日(月)の午後、広島市において開催する準備を進めていること、並びに、3月下旬に「BPO年次報告会」を開く予定であることが報告された。

次回放送人権委員会を1月18日午後4時から開催することを確認し、閉会した。

以上