2002年度 第20号

女性国際戦犯法廷・番組出演者の申立て

委員会決定 第20号 – 2003年3月31日 放送局:NHK

見解:放送倫理違反(少数意見・補足意見付記)
NHKは2001年1月末から4日連続でETV2001シリーズ「戦争をどう裁くか」を放送した。この2回目「問われる戦時性暴力」に出演した女性が、「何の連絡もなく発言を改変し放送した。この結果、発言が視聴者に不正確に伝わり、研究者としての立場や思想に対する著しい誤解を生み、名誉権および著作者人格権を侵害した」などと申し立てた。

2003年3月31日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第20号

申立人
A・カリフォルニア大学準教授
被申立人
NHK
対象番組
NHK 「戦争をどう裁くか」第2回「問われる戦時性暴力」
放送日時
2001年1月30日

申立てに至る経緯

2000年12月、東京で民間法廷「日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷」(以下「女性国際戦犯法廷」または「女性法廷」という)が開催された。日本放送協会(以下「被申立人」または「NHK」という)は、この「女性国際戦犯法廷」を取材し、2001年1月29日から2月1日までの4日間連続で、ETV2001シリーズ「戦争をどう裁くか」を放送した。
申立人のカリフォルニア大学準教授、A氏(以下「申立人」または「A氏」という)は、上記シリーズの第2回「問われる戦時性暴力」および第3回「いまも続く戦時性暴力」の放送に、コメンテーターとして出演したが、このうち、第2回「問われる戦時性暴力」(2001年1月30日午後10時~10時40分放送)に対し、「スタジオ収録後、NHKの制作意図の変更に伴い、申立人に対して何の連絡もなく、申立人の発言を改変し放送した。この結果、申立人の発言が視聴者に不正確に伝わり、申立人の研究者としての立場や思想に対する著しい誤解を生み、名誉権及び著作者人格権を侵害した」として、2002年1月10日、BRCに権利侵害救済の申立てを行いたい旨、連絡があった。
BRCでは、NHKに相容れない状況にあるのか確認したところ、「A氏とは、個人の人権侵害について直接には一度も話し合いがなされていない」との説明があり、BRCとしては、双方に当事者間での交渉を継続するよう要請した。
この交渉の中で、同年7月8日、一時帰国したA氏とNHKとの直接面談が実現したが、双方の主張、認識の差が大きく、これ以上、話し合いの余地がないことを双方で確認して、交渉は物別れに終わった。このため、申立人が8月2日、BRCに権利侵害救済の申立てを行ったものである。
他方、NHKは、「女性国際戦犯法廷」の主催団体の一つとその代表者が、現在、NHK及び制作委託プロダクションを相手に損害賠償を求めている裁判と「対象番組が同一」「当事者が実質的に同一」であり、「問題とされている事実も同一」との判断から「裁判係争中の事案」に当たり、BRCの審理対象にならないと主張した。
しかし、BRCは本件申立てと裁判係争中の事案とでは当事者が別人格であること、申立て事由が、申立人自らの発言部分に関する指摘である、ことなどを総合的に判断した結果、2002年9月17日の委員会で審理することを決定した。

目次

  • Ⅰ. 申立てに至る経緯
  • Ⅱ. 申立人の申立て要旨
  • Ⅲ. 被申立人の答弁要旨
  • IV. 委員会の判断

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2002年度 第19号

福井・産廃業者行政処分報道

委員会決定 第19号 – 2002年12月10日 放送局:NHK福井放送局

見解:問題なし
福井県は2002年5月、申立人である産廃の収集運搬業者の事業許可を取り消す行政処分を行なった。NHK福井放送局は同日のニュースでこれを伝えたが、申立人は「処分が発効する前の一方的な放送で、名誉・信用を著しく損ねた」と訴えた。

2002年12月10日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第19号

申立人
福井県内の産業廃棄物収集運搬業者
被申立人
NHK福井放送局
対象番組
NHK福井放送局 ローカルニュース
放送日時
2002年5月24日 午後6時10分からと午後8時45分から

申立てに至る経緯

2002年5月24日、福井県廃棄物対策課は、県内の産業廃棄物収集運搬業者である申立人が、契約のない処理業者に産業廃棄物を運び込んだ上、廃棄物の受け渡しを管理するための書類に虚偽の記載をしていたとして、この収集運搬業者の事業許可を取り消す行政処分を行った。
NHK福井放送局(以下「被申立人」または「福井局」という)は、県が公表したこの処分内容を同日午後6時10分からと午後8時45分からのローカルニュース枠で放送した。
この放送に対して、処分を受けた収集運搬業者である申立人は、6月6日「NHKのニュースは誤った内容である上、不適正な画像放映が為されたことにより、申立人の会社や役職員らの人権と名誉を著しく損ねた」と文書で福井局へ抗議し、謝罪報道等の救済措置を講ずるよう要求した。
福井局では、福井県に問い合わせるなど報道内容について再調査したところ事実関係に間違いがないことが確認できたとして、6月8日申立人側に電話で「県の発表に基づき事実を伝えたもので、映像についても県の発表後に撮影取材したもの」と説明した。
しかし申立人側はこの説明に納得せず、6月10日にBRO事務局に「放送局側は非を認めず、決裂状態になった」と伝え、申立ての意向を示した。
その後申立人は6月14日福井県と県知事を相手取って「処分の取り消しと損害賠償を求める訴え」を福井地裁に起こした。
この一か月余り後の7月24日付けで申立人は「被申立人は当方への取材・確認をしないまま、県の一方的な言い分を報道して、当方の名誉・信用を毀損した」などとして、BRCに申立てたものである。

目次

  • Ⅰ. 申立てに至る経緯
  • Ⅱ. 申立人の申立て要旨
  • Ⅲ. 被申立人の答弁要旨
  • IV. 委員会の判断

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2002年度 第18号

出演者比喩発言問題

委員会決定 第18号 – 2002年9月30日 放送局:テレビ朝日

見解:番組内・放送後の対応に問題あり(少数意見付記)
2001年9月のテレビ朝日の情報番組『サンデープロジェクト』の討論において、ゲスト出演者が「戸塚ヨットスクール」を比喩に用いて発言し、同スクールの校長が重大な名誉毀損だと訴えた事案。

2002年9月30日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第18号

申立人
A
戸塚ヨットスクール校長
被申立人
テレビ朝日
対象番組
テレビ朝日 報道番組『サンデープロジェクト』
放送日時
2001年9月9日午前10時

申立てに至る経緯

申立ての対象になった番組は、2001年9月9日(日)午前10時の全国朝日放送株式会社(以下「テレビ朝日」という)の報道番組『サンデープロジェクト』であるが、その中で、「緊急・救国経済大討論」のタイトルの下、当面する日本の経済危機をどう乗り切るかをテーマに、司会者と3人のゲスト出演者による討論が、約23分間、放送された。
上記放送の中で、ゲスト出演者の経済アナリスト・森永卓郎氏(以下「当該ゲスト」という)が、IMFの対日審査をめぐって、「IMFなんか受け入れたら、あれは戸塚ヨットスクールですからね」「しごきの理論しかないんですよ。もう、どれだけのアジアの国を駄目にしたか分かっているんですか。あれはひどいところなんですよ」と発言した(以下「当該発言」という)。
戸塚ヨットスクール(以下「ヨットスクール」ともいう)側は、次週放送の前日である9月15日(土)午後10時30分頃、テレビ朝日に電話し、「当該発言は戸塚ヨットスクールがしごきで子供を駄目にしたという意味になり、同スクールと同校校長のAに対する重大な名誉毀損にあたる。謝罪と訂正をしてほしい」と抗議した。これに対して、テレビ朝日側は、「名誉毀損には当たらない」などと答えた。
その後、申立人、被申立人とも弁護士を通じ、それぞれ3回の文書の交換を行ったが、解決に至らず、A氏は、2002年2月21日、放送と人権等権利に関する 委員会(以下「委員会」という)に申立てを行ったものである。
申立人が校長を務めるヨットスクールは、同人により、1977年、愛知県美浜町に開設されたもので、厳しいスパルタ式のヨット訓練などを標榜し、情緒障害などの子供を中心に、全国から訓練生を集めていた。
しかし、1980年以降に訓練生の死亡事件が発生し申立人らが起訴され、2002年2月25日に、最高裁判所は上告を棄却する決定を下したため、申立人に対して傷害致死による懲役6年の刑が確定した。申立人は、同年3月29日に収監されたことにより、申立人側は同人妻である戸塚幸子氏を申立人代理人とした。

2002年3月19日開催の委員会は、「直接話し合いによる解決の機会を持つべきである」と判断し、双方に話し合いを求めた。
同年6月14日、申立人側から、「テレビ朝日は『話し合いは弁護士同士で行いたい』と言っているが、これまでも弁護士同士で行ってきて、それでも解決しなかったのだから進展は期待できない。委員会で審理してほしい」との連絡があった。
これを受けて、同年6月18日開催の委員会は、「話し合いによる解決は難しい」と判断し、本件を審理事案とすることを決定した。

目次

  • Ⅰ. 申立てに至る経緯
  • Ⅱ. 申立人の申立て要旨
  • Ⅲ. 被申立人の答弁要旨
  • IV. 委員会の判断

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