第95回–2015年7月
"出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』他を審議。
韓国での街頭インタビューの翻訳が一部間違っていたフジテレビの番組『池上彰 緊急スペシャル!』を討議。次回も継続…など
第95回放送倫理検証委員会は7月10日に開催された。
放送倫理違反の疑いが濃いとして、審議入りしたNHK総合の『クローズアップ現代』の出家詐欺報道とその基になった『かんさい熱視線』について、追加ヒアリングの結果が報告され、論点整理を行った。
日韓問題を扱ったフジテレビの情報番組『金曜プレミアム 池上彰 緊急スペシャル!』で、韓国での街頭インタビューの翻訳テロップと吹き替え音声が一部間違っていたことが分かり、後日ホームページなどでお詫びした。委員会は、当該局の報告をもとに討議した結果、さらなる確認や検討が必要だとして、討議を継続することを決めた。
フジテレビの情報番組『とくダネ!』が放送したNPO法人の特集企画をめぐって、放送局とNPO法人の主張が対立している問題を討議した結果、委員会が放送倫理上の観点から取り上げるのは適切ではなく、当事者間で解決を図るべきであるとして、審議の対象とはしないことにした。
テレビ大阪のバラエティー番組『たかじんNOマネーBLACK』で使われた大阪都構想のニュース映像が政治的公平性を欠くと自民党から抗議があり、当該局はホームページでお詫びした。委員会は、当該局の報告書が途中経過の報告であったことから、最終的な報告の提出を求めることとし、討議を継続することになった。
1."出家詐欺"の報道に「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』他を審議
NHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)では、出家して僧侶となり法名を授けられると、家庭裁判所の許可を受けて戸籍の名を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
この中の"出家詐欺"を斡旋する「ブローカー」と客の「多重債務者」が相談している場面について、「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではなく、演技指導によるやらせ取材だった」などと主張。これに対して当該局は、「意図的または故意に、架空の場面を作り上げたり演技をさせたりして、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はなかったが、放送ガイドラインを逸脱する『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」とする報告書を公表した。
この2番組の取材・制作にあたった記者やディレクターなどのヒアリングは既に実施されていたが、担当委員による追加のヒアリングが継続して行われ、今委員会でその内容が報告された。
そして、相談場面の取材・制作の手法に問題はなかったのか、「過剰な演出」などと結論付けた当該局の判断は妥当なものと言えるのか、などの問題点について意見交換が行われた。その結果、論点はほぼ整理され、意見書の骨格もおおむね固まったとして、次回委員会までに担当委員が意見書の原案を作成することになった。
2.韓国での街頭インタビューの翻訳が一部間違っていたフジテレビの日韓問題番組『池上彰 緊急スペシャル!』を討議
フジテレビは、日韓問題を扱った約2時間の情報番組『金曜プレミアム 池上彰 緊急スペシャル!』を6月5日に放送した。その中で、韓国人男女2人の約10秒間の街頭インタビューについて、映像から聞き取れる原語とは異なる内容の翻訳テロップと吹き替え音声で紹介されていたことが視聴者からの指摘で判明し、当該局はホームページなどでお詫びした。
委員会への報告書によると、インタビュー映像は通訳によって翻訳され、タイムコードと日本語が書かれた翻訳シートが作られて、担当ディレクターが、そのシートをもとに編集作業を進めた。その際、女性インタビューについては、タイムコードの入力を誤って、別の部分の映像が抜き出されたため、使用予定の翻訳テロップが映像の内容と異なるものとなり、男性インタビューについては、長めに抜き出した映像を短縮する再編集時にミスが重なり、映像と翻訳テロップがずれて合わなくなってしまった、としている。
そのうえ、スタジオ収録や事前の試写などのチェックの際に、翻訳の適切さについての確認をしていなかったため、字幕テロップと吹き替え音声が、映像の発言と異なっていることに誰も気付かず放送に至ったという。報告書には、今後は制作の最終段階の翻訳チェックを基本とするなどの対応策も記載されている。
委員会の討議では、「詳細な分かりやすい報告書で、間違った経緯はよく理解できたが、視聴者への説明責任が十分に果たされているとは言えない」「放送された翻訳部分が、実際の取材テープに本当にあったのかという視聴者の疑問を解消する必要がある」など、さまざまな意見が交わされた。そして、この事案は、さらに確認や検討が必要な点もあるとして、次回の委員会で討議を継続することになった。
[委員の主な意見]
- 編集上の単純なミスが積み重なった経緯は報告書でよくわかったが、日韓問題のような重いテーマなのに、実際の編集が始まって放送前のチェックまでの間、通訳が全く立ち会っていないというのが信じられない。最終段階でチェックしていれば、起こりえないことではないのか。
- 経費や時間の制約もあり、こうした事前収録の番組で、通訳が最終チェックに立ち会うことは、ほとんどないのではないか。
- 番組の制作委託を受けた制作会社の編集やチェック作業の杜撰さは否めないが、当該局のチェック機能の甘さも指摘しなければならないだろう。
- 当該局は迅速な社内調査をして、詳細な原因分析や的確な対応策をまとめた報告書になっていると思う。この報告書どおりの経緯であれば、改めて審議してヒアリングする必要はないのではないか。
- 委員会への報告書は確かに分かりやすく、ミスをした原因や背景もきちんと分析されているが、ホームページや広報番組では、十分な説明がされていない。視聴者への説明責任が果たされているとはいえないだろう。
- 視聴者から寄せられた意見では、放送された翻訳の内容が、取材テープの中に本当にあったのかという疑問が非常に多い。これを解消するためには、何らかの情報開示がもっと必要なのではないか。
3.エコキャップ問題の特集で、取材先のNPO法人から放送倫理上の問題を指摘されたフジテレビの情報番組『とくダネ!』を討議
フジテレビの情報番組『とくダネ!』は、ワクチン代を寄付するために使うとうたってペットボトルのふたの回収活動をしているNPO法人エコキャップ推進協会が実はワクチン代を寄付していないと、新聞報道で指摘された問題について、「直撃御免 消えたワクチン代の行方」と題した特集企画を4月23日に放送した。
6月中旬になって法人側は、この企画は恣意的な編集をした「虚偽放送」で、放送倫理上の問題があるとして、記者会見で指摘・公表した。法人側は、番組側から「一部のリサイクル業者によるペットボトルのふたの横流し疑惑の追及」という趣旨で取材依頼があったので取材に協力したが、放送ではその問題には一切触れずに、取材した映像を使って法人の「経費問題」だけを伝えており、恣意的な編集による「虚偽放送」だと主張している。
これに対して当該局は、当初から法人側に対して、「経費問題」も含めた取材意図をきちんと伝えていて、「ひっかけ取材」や「恣意的な編集」はないと反論している。
委員会では、両者の資料をもとに討議した結果、この事案は「ひっかけ取材」と言えるかどうかが最大の争点となっているが、どちらの言い分が正しいかを委員会が判断するのは容易ではないうえ、取材意図を事前にどこまで取材先に伝えるかについて、委員会がこの事案で放送倫理上の基準を打ち出すのは、適切とは言えないとの結論になった。そして、問題の解決に向けては、当事者間の話し合いにゆだねるべきだとして議論を終え、審議の対象とはしないことを決めた。
[委員の主な意見]
- 法人側は、放送直後に局側に抗議したものの、その後は局側とまったく接触もないまま、今回の公表に至っているようだ。双方が、どうしてもっと率直な話し合いをしなかったのだろうか?
- 放送では、「疑惑の渦中の協会理事長を直撃」と文字スーパーなどで再三強調しているが、法人側の経費が多額なことを指摘するだけで、具体的にどういう疑惑があるのかの説明は十分とは言えないのではないか。「消えたワクチン代の行方」が不明確な放送内容には、不満が残る。
- 法人側の経費が多すぎる理由を理事長に確認するインタビューは放送されているので、「虚偽放送」とまでは言えないだろう。
- 取材の拙さは気になるが、この事案で、委員会が放送倫理上の問題として議論すべきなのは、取材意図を事前にどこまで取材先に伝えるべきかという点に絞られそうな気がする。丁寧に説明するに越したことはないが、テーマによっては、取材意図をつまびらかにできない取材もあるだろう。委員会として、そうした点にまで踏み込んだ基準を打ち出すのは難しいし、特にこの事案でそれを行うのは適切とは言えないのではないか。
4.既得権益問題をめぐる映像使用について政党から抗議を受けたテレビ大阪の情報番組『たかじんNOマネーBLACK』を討議
テレビ大阪のバラエティー番組『たかじんNOマネーBLACK』(5月30日放送)で、「FOOL JAPAN 世界から見たダメダメ日本」と題し、4人の在日外国人ゲストが日本に対して疑問に感じていることを指摘した。
その中の「日本人は怠け者で既得権益を守りすぎる」というパートで、「たとえ社会の発展や活性化につながるものでも」とのナレーション部分にTシャツ姿で街頭演説をする橋下大阪市長の映像を約4秒間、「既得権益のために政治が利用されてしまっているのが今の日本の姿」とのナレーション部分にスーツ姿で街頭演説をする自民党大阪市会議員団幹事長の映像を約6秒間、使用した。
自民党側の抗議を受けて、当該局は「一部誤解を招きかねない、配慮を欠いた表現がありました」と自社ホームページにお詫び文を掲載するとともに、自民党側に謝罪した。一方、自民党側からは議員団幹事長名で、委員会あてに「政治的公平性を欠く映像使用」だとする文書が届いた。
当該局の報告書によると、放送前のチェック段階で、大阪都構想の演説映像の使用に問題はないかという指摘はあったとのことだが、修正までには至らなかったという。また、再発防止策の策定などに向けて、社内の議論は継続中ということだった。委員会は、当該局に対して、最終的な報告書の提出を次回委員会までに求めることにして、討議を継続した。
[委員の主な意見]
- ゲストの在日外国人が大阪都構想については何も言及していないのに、そのニュース映像を使用したのは制作者の配慮が足りず、編集上問題があるのではないか。
- ホームページに掲載されたお詫び文は説明不足で、視聴者や関係者に何を謝っているのかよく分からない。
- この問題について、社内では今も議論を継続しているとのことなので、完成した報告書を見たうえで、改めて検討したい。
5.委員会運営規則の改定について検討
現在委員会は、審議や審理に入る前に、その適否を討議している。しかし討議の手続きは慣例で運用されているため、その手続き規程を設けるなど、現在の委員会運営規則を改定するべきではないか、との意見があり、委員会で検討したところ、その方向で事務局側が検討を進めることとなった。
以上