第219回放送と人権等権利に関する委員会

第219回 – 2015年4月

散骨場計画事案の対応報告
大阪府議事案通知・公表の報告
佐村河内事案2件の審理…など

散骨場計画事案で、静岡放送が提出した対応報告を検討し、了承した。また大阪府議事案(TBSラジオ)の通知・公表の模様を事務局から報告。佐村河内守氏が申し立てた2事案について、ヒアリングの論点と質問事項を議論した。

議事の詳細

日時
2015年4月21日(火)午後3時00分~7時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

4月1日に就任した坂井委員長の下での初の委員会となり、冒頭、新委員長による委員長代行の指名が行われた。坂井委員長は奥武則委員と市川委員を委員長代行に指名し、二人ともこれを受諾した。
引き続き報道機関による資料用撮影が行われ、テレビ・新聞各社から9社が取材に訪れた。

1.「散骨場計画報道への申立て」事案の対応報告

2015年1月16日に通知・公表された「委員会決定第53号」に対し、静岡放送(SBS)から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月10日付で提出された。この日の委員会で報告書の内容が検討され、了承された。

2.「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)事案の通知・公表

4月14日に行われた本事案に関する「委員会決定」の通知・公表について、事務局がまとめた資料をもとに報告した。また、当該局であるTBSラジオ&コミュニケーションズが委員会決定について報じた当日の番組の録音と、TBSテレビが放送した番組同録DVDを視聴した。 【詳細はこちら】

3.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
今月の委員会では、ヒアリングに向けて本件事案の論点と申立人と被申立人への質問事項を議論した。論点としては、本件放送が伝えた事実は何か、本件放送の公共性・公益目的をどのように考えるか等を検討した。

4.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
今月の委員会では、ヒアリングに向けて本件事案の論点と申立人と被申立人への質問事項を議論した。論点では、申立人を「お題」で取り上げることの公共性やバラエティー番組の公共性についてどう考えるか等を検討した。

5.その他

  • 放送人権委員会の2014年度中の「苦情対応状況」について、事務局が資料をもとに報告した。同年度中、当事者からの苦情申立てが18件あり、そのうち審理入りしたのが5件(うち審理入り後取下げが1件)、委員会決定の通知・公表が1件あった。また仲介・斡旋による解決が6件あった。

  • 今年度中に予定している放送局現場視察について、各委員の日程調整をした。

  • 次回委員会は5月19日に開かれる。。

以上

2015年4月14日

「大阪府議からの申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は4月14日、上記事案に関する「委員会決定第54号」の通知・公表を行い、本件放送は申立人の名誉を毀損したり名誉感情を侵害するものではなく、放送倫理上の問題もないとの「見解」を示した。

[通知]
通知は午後1時からBPO会議室で行われた。委員会からは坂井眞委員長と起草を担当した市川正司委員、小山剛前委員が出席し、申立人本人と被申立人であるTBSラジオ&コミュニケーションズの取締役ら4人に対して委員会決定を通知した。
まず、坂井委員長が放送人権委員会の委員の構成が4月1日付で変わったが今回の委員会決定については審理に参加した委員名で通知・公表するとした上で、「決定の概要」「委員会の判断」を読み上げる形で、申立人と局側の双方に決定内容を伝えた。
続いて、小山前委員が「一般論としては申立人が言うように、公人といっても何を言われてもいいというわけではない。今回の事案に当てはめると、申立人がこだわっていた『キモイ』という言葉は当該局が初めて出したものではなく、一連の動きの中で既に出てきている言葉だったことと、申立人本人が府議会議員であることなどからこのような結論となった」などと、説明した。
局側が一旦退席した後、委員長から委員会決定に対する意見・感想を聞かれた申立人は、「この委員会決定については『はい、分かりました』ということです」と答えた。続いて一連の問題と市長選挙との関連について、「個別の放送に関してはここで取り上げられて議論の対象となるが、一連のこと全体に対して実際どうだったのかということについて検証する場がないではないか」と述べた。
また、申立人と入れ替わって席に着いたTBSラジオ&コミュニケーションズの取締役は「私どもの主張のうちで公人としての議員の不適切な行動を論評したということを一定程度受け止めていただいたと考えている。一方では、やはり人権というものへの配慮は我々が放送するうえでも大切なものなので、この決定を社員教育などに使いながら今後の一つの基調としてやっていきたい」と述べた。
市川委員は、番組での発言は申立人の行動に対するもので、人格に対してのものではないとする局側の主張に対し「それらを峻別することは難しいという立場に立って判断した」と述べた。また、「キモイ」という言葉について「すべての場合許容されるわけではないと書いてある。その言葉の厳しさというか、例えば子供に対して使われたらどうかという問題もあるので、慎重に考えていただきたい」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館の2階ホールで記者会見を行い「委員会決定」を公表した。23社46人が取材し、テレビカメラ5台が入った。
会見では、まず坂井委員長が主に「決定の概要」と「委員会の判断」の部分を読み上げながら決定の内容を説明した。続いて、補足意見について、「三宅前委員長が9年の在任中に4件の政治家に関わる事案の判断に関わられた経験があり、その経験を前提に補足の意見を書かれた」としたうえで、その主旨を紹介した。
市川委員は、番組での論評は議員の行為だけに着目したもので、人格に対する非難、あるいは社会的評価の低下とはならない、と局側が主張したことに対して、「行為と人格を峻別することは困難な場合が多く、本件でもそれを峻別する事はできないと判断した。枠組みとしては、一定の社会的評価の低下、名誉感情の侵害があるという前提で、それが公共性・公益性との関係で許容されるのかということを、委員会としては比較考量して判断した」と局側の主張する枠組みと委員会決定の枠組みの違いについて説明した。
また、補足意見に触れ「私も同感と考えている」と述べた。
小山前委員は「バラエティー番組の特性は局側が強調していたポイントのひとつだった。このバラエティーについては、かつて放送人権委員会決定第28号があるが委員会決定第28号は、独り歩きして、場合によっては都合よく拡大解釈されているのではないかという印象を持っている。バラエティーだから全部許されるのか、どこまで許されるのかは、今後、局側としても慎重に考えていかなければいけない。また、人権委員会の宿題でもあるのではないかと認識している」と述べた。
続いて質疑応答が行われた。

(質問)
日本テレビの『スッキリ!!』についての申立てが1月に取り下げられたが、申立人は取下げの理由をどう説明しているのか。
(坂井委員長)
取り下げられた事案なので、その理由を説明するのは、あまり適当ではないと思う。放送人権委員会は申立てがあって初めて審理が進められるので、理由の内容によって取り下げを認めないとかという話でもない。

(質問)
今回の判断には、『スッキリ!!』に関する委員会としての判断は示していないということか。
(坂井委員長)
そうだ。『スッキリ!!』は取り下げられた時点で、審理の対象ではなくなっている訳なので、今回についてはTBSラジオの放送のみについての判断ということだ。ただ、ここで説明した内容については、一般的な考え方も入っているので、それについて、突然また違ったことを我々委員会が言うとは思えない。
(小山前委員)
『スッキリ!!』の事案は、ヒアリングをやる前に取下げられた。ある程度、論点を整理したが、やはりヒアリングを聞いた上で具体的な事実関係とか、具体的な主張の内容を確認することになる。
一般論としては、今回の決定で使った規範の部分は取り下げられた番組にも、当然そのまま当てはまる。したがって、どういう場合にどこまで許容され、あるいはどういう場合に、人格権侵害になるかという判断の基準自体は同じだが、例外的に人格権侵害に当たるような事情があったのかどうかの確認は全くやってないので、その結論については何も申し上げることができないということだ。

(質問)
決定では「申立人の主張には理由がない」となっているが、これは問題なしという見解とはまた異なるものなのか。
(坂井委員長)
理由がないということは、申立人が主張している人権侵害、放送倫理上の問題は認められないという結論だと理解していただいて結構だ。結論として、申立ての趣旨は認められないということと全く同じだ。

(質問)
問題なし、という判断をする事によって、みだりに申立てを行うような傾向は、少し抑えられると考えるか。

(坂井委員長)
「みだりに」というところに非常に難しい評価が入っているので答えづらいが、申立てがいっぱいあればいいとは決して思っていないけれども、人権侵害や放送倫理上問題があるといった事案が出てしまえば、それは遠慮しないで申立てていただいたほうがいいと思っている。この事案で人権侵害、放送倫理上の問題はなかったからといって、一般的に、申立てることが控えられる方向になるとは思っていない。あくまで個別の判断だ。

(質問)
みだりにというか、似たような申立てがあまり起こらないように、例えば、審理入り自体を行わないという判断が今後あり得るのか。
(坂井委員長)
我々としては、原則個人の申立てで、人権侵害、名誉毀損やプライバシー侵害がある、ないしは放送倫理上の問題があるという申立てがあれば、審理を開始するということになる。そこでは、規則に定められた要件に合うかどうかということだけを考える。
それから先は個別事案を判断していく。地方議会議員は全てを受忍しなければいけないということは、もちろん無い訳で、地方議会議員であっても最も極端な例を言えば、寝室だとか浴室を暴かれていいはずはない。
ただ、そういう立場の方が申立てる時点で、申立てすべき事案かどうか本人ご自身が判断をすると思う。公的な立場だからそういう問題にはならないと考えるのか、そうでなく、いくら公的な立場でもやり過ぎだと思えば申立てる。我々は、規則に従って要件があえば審理を開始して判断をするということになる。

(質問)
三宅前委員長の補足意見の所にもあるし、市川委員も同感ということだが、受忍限度は地方議員よりも国会議員のほうがさらに高くなくてはいけないという指摘がある。これは昨今の政治状況等を反映しての補足意見あるいはお考えと考えてよいのか。
(坂井委員長)
私の個人的な意見だが、補足意見には「国政を担う政治家の行動についてはなおさら妥当する」とあるだけで、必ずしもより高くなるとまでは書かれていない。地方議会議員の場合は、一般私人に対する論評よりも受忍すべき限度は高いというのは、今回の決定で我々が書いたことで、それについて、なおさら妥当すると書いているだけだ。ただ、選挙で選ばれる議員は、公的な立場として最も強いということは、争いのないことだろうと思う。
(小山前委員)
公人というのはずいぶん広い意味で使われる場合もあって、この決定では公人という言葉は使っていない。「公人が…、公人が…」と言うのではなくて、それぞれがどういう人かで判断したほうがいい。
(市川委員)
委員会としては、これは濫用的な申立てであるとか、あるいは介入的な要素があるとか、そういうことを判断するという立場にはないし、そういう基準も持ち合わせてはいない。委員会としては、来たものをまず申立て要件にあてはまるかどうかを粛々と検討する。
放送人権委員会の場合には、人権侵害あるいは放送倫理違反という主張があれば審理入りをしなければいけないということになっている。それが本当にあるかどうかは全く考えずに審理入りをするというふうになっている。そこでの審理の開始というのは、ある意味では無色透明なものだと理解してほしい。
その上で、委員会としては、なるべく速やかに結論を出していくことによって、申立てするかどうかの判断を、自ずからみなさんが考えてくれるようになるのではないかと考えている。
(坂井委員長)
公人という言葉を使っていなくて個別に判断する訳だが、数年前ある国家試験委員をやっている方についての事案があった。もちろん、公職選挙で選ばれる方とは違う訳だが、国家試験委員をやっている方の公的な立場はどうなのかというような個別の判断をした。それぞれ、事案によって判断されていくことになると思う。
取扱い基準は、放送と人権等権利に関する委員会運営規則の第5条に書いてある。第5条の1.の(1)で「名誉・信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とする」ということが書いてあり、その中で1.の(6)に「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人または直接の利害関係人を原則とする。ただし、団体からの申立てについては、委員会において、団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるときは、取り扱うことができる」と書いてある。こういう規定に従ってやっていくということになる。

(質問)
「キモイ」という言葉自体の意味と、委員会としてこれを無限定に使うことを是とするものではないということを付言しているが、あえてこれを書いたねらいは何か。
(坂井委員長)
私の個人的な考えになるが、このケースでは「キモイ」とか「キモジュン」とかの言葉が繰り返し使われていて、それは今回の申立人の立場、この放送内容を前提にして受忍限度内だということを言っているのだが、それが誤解されては困る。青少年の間のLINEでの村八分みたいな話など、色々な事象が今、報道されている。そういう中で、「キモイ」は人を傷つける場合もあるので、全部OKということは決してないということは、付言をしておきたい、というのが私の理解だ。
(市川委員)
この決定が与えるメッセージとして、「キモイ」という言葉自体にお墨付きを与えるというか、そういうことであってはいけないということが、基本的な考え方だ。審理の中でも「キモイ」という言葉の与える強い打撃を指摘する委員もいた。場面によっては、違うことになるので指摘したほうがいいだろうと思う。
ただ逆に、これはいいとかこれは悪いとかと、一律に言葉を選別するというのも適切ではないと思っているので、その辺りのことを配慮した記述にしたと考えている。

(質問)
ということは、逆に言うと、言葉の使い方について縛りをかけるという意味ではないと理解していいのか。
(坂井委員長)
この言葉について、一定の評価を一般的にかけている訳ではなくて、どの場面でどう使われるかによって、深く人を傷つける意味を持つ事もあるという意味で理解してほしい。使われる場面で、全く変わってくると思うので、一般的に言葉狩りみたいな形になってしまうのがいいとは、思っていない。

(質問)
今回の委員会の判断の中で、「キモイ」という言葉がキーワードのひとつであると書いてあるが、もし、中学生が「キモイ」と言わなければ、こういう判断基準にはならなかった可能性もあるのか。
(坂井委員長)
それは、むしろ逆で、元々この話はLINEで「キモイ」という言葉が使われて、議員のほうがそれに反論したということが報道された事案だ。それを取り上げる時に、「キモイ」という言葉を抜きにして取り上げるのは難しい。元々報道すべき事象の中に、既に「キモイ」という言葉があったので、事実の報道として、「キモイ」は出て来てしまう訳だ。
今回の番組は、必ずしも事実の報道そのものではなくて、ラジオの番組で論評をしたということだ。その中で、その事象に出てきた言葉を出演者が使ったということで、ことさらに「キモイ」という言葉の人を非常に傷つける部分を強調して使うために、あえて選んだのではないと、そういう文脈で私は理解している。
(小山前委員)
今の質問は基準が変わるのかという質問だったと思うが、基準自体は全く変わらない。基準はどこで決まるかというと、相手が公人、この場合府議会議員であり、かつまた、その論評の対象となった出来事が、府議会議員としての公務に付随した行為だった。そこのところで基準は決まる。簡単に言うと、人身攻撃みたいな例外的な場合でない限りは「我慢しろ」というのが基準だ。
要するに、確かに「キモイ」という表現は不愉快な表現だ。でも、その「キモイ」という表現は、この事案では元々のやりとりの中で既に使われていた言葉であり、殊更この申立人を誹謗中傷するつもりで言った言葉ではない。むしろ、事件のキーワードになった言葉だから、例外的な誹謗中傷にあたるような場合には該当しない。

(質問)
申立人は納得したのか。
(坂井委員長)
心の中まではわからないが、先ほど通知公表をして、格別な意見なり感想なりというのはなかったので、委員会の判断として受け止めたのだと、私は理解している。

以上

第92回 放送倫理検証委員会

第92回–2015年4月

"出家詐欺"報道で「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』を討議…など

第92回放送倫理検証委員会は4月10日に開催された。
冒頭、BPO規約25条に従い、川端委員長が、退任した小町谷委員長代行の後任に升味委員を指名した。また、新たに中野委員が就任した。
"出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』について、当該局から報告書が提出され意見交換を行った。しかし、この報告書は「中間報告」であり、さらに調査を進めたうえで、まとまり次第最終報告をするということなので、それを待って本格的な議論をすることになった。

議事の詳細

日時
2015年4月10日(金)午後5時~7時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1."出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』を討議

NHK総合の『クローズアップ現代』で2014年5月14日に放送された「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」は、寺で出家の儀式「得度」を受けると戸籍の下の名前を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
番組では、宗教関係者や行政の担当者が対応に苦慮していることや、実際に「ブローカー」と「多重債務者」が相談している隠し撮りの現場などが紹介されたが、その「ブローカー」と「多重債務者」の相談シーンは「やらせ取材」だったと、ことし3月、週刊誌が告発した。
NHKは、放送で「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではない」などと主張しているため、調査チームが記者や「ブローカー」「多重債務者」への聴き取りを行い、委員会に報告書を提出した。しかし、この報告書の内容は、これまでの聴き取り等の状況や検証のポイントをまとめた「中間報告」的なものであり、NHKは、副会長を委員長とし、3人の外部委員も加えた調査委員会を設置して、「やらせ」の有無、取材制作の進め方、表現の適切さなどについて調査したうえで、最終的な「調査報告書」をとりまとめて公表するという。
委員会では、NHKの最終報告書の提出を待って本格的な議論をすることになった。

【委員の主な意見】

  • 当該番組を視聴し、提出された報告書を読んだだけでも、放送倫理違反ではないかと感じられるところがあった。

  • 問題の場面は、映像も音声も処理されているが、調査報道は、モザイクの後ろに真実があると視聴者に信じてもらえるものでなければならないのではないのか。

  • もともと記者と「多重債務者」が知り合いだとすれば、記者が「多重債務者」を追いかけてインタビューするというのは、過剰演出や虚偽ではないのか。

  • 記者が2人にだまされた可能性もないとは言えないので、慎重できちんとした事実認定が不可欠だろう。

  • この放送の1か月前に、関西ローカルで放送された同じテーマの番組についても、その内容を見たいので、DVD映像と報告書を要請してほしい。

  • 当該局としては、これまでにないほどの態勢で迅速に調査をして、その結果を公表すると言っているのだから、まずはその結果を見て、委員会としてどのように臨むかを決めればいいのではないか。

  • 本当に「ブローカー」だったのかが問題になっているようだが、取材のディテールそのものに放送倫理上の問題が潜んでいるようにも思われるし、制作段階でどのようなチェックが行われていたかも、明確にしてほしい。

以上

2015年度 第54号

「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)に関する委員会決定

2015年4月14日 放送局:TBSラジオ&コミュニケーションズ

見解:問題なし
TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』のオープニングトークで、お笑いタレント「おぎやはぎ」が、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯など一連の事態について語った。これに対し、山本府議が番組での「思いついたことはキモイだね。完全に」などの発言は「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」として申し立てたもの。
放送人権委員会は審理の結果、4月14日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送は申立人の名誉を毀損したり名誉感情を侵害するものではなく、取り上げるべき放送倫理上の問題もないとの判断を示した。

【決定の概要】

本件申立ては、TBSラジオ&コミュニケーションズ(以下「TBSラジオ」という)が2014年8月22日(金)に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』で、お笑いタレント「おぎやはぎ」が展開したオープニングトークでの発言を対象としたものである。このトークでは、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員(以下「申立人」という)が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯や、それに関連してテレビの情報番組でコメンテーターが「こいつキモイもん」と発言したことに対し申立人が放送人権委員会に人権侵害であると申し立てた一連の事態について語られた。
本事案は、おぎやはぎの小木氏らが「思いついたことはキモイだね。完全に」などと発言したことに対して申立人が「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」等として放送人権委員会に申し立てたもの。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送における「キモイ」等の発言は、申立人の社会的評価を低下させ、申立人の名誉感情に不快の念を覚えさせる論評である。しかし、その種の論評であっても、公共の利害に関わる事項について公益を図る目的でなされたものであるときは、表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、論評の基礎となった事実の主要な点に誤りがなく、人身攻撃に及ぶなど論評の域を逸脱したものでない限り、その論評は権利侵害として評価されるべきではない。
本件放送が論評の対象とした事象は、府議会議員である申立人自身が議員活動の一環として行っていたと説明している、中学生とのLINEでのやりとりと、テレビの情報番組内でのコメントに対する放送人権委員会への申立てである。これらの事象について、その議員に対する評価を含めて論評することは、市民の正当な関心事にこたえるものであり、本件放送には、公共性・公益性がある。これに対して、本件放送の論評によって新たに申立人の社会的評価の低下があったとしても、それはわずかなものと考えられる。
また、本件放送は申立人の名誉感情に不快の念を持たせるものではあるが、「キモイ」という言葉は、申立人と中学生のLINEでのやりとりの中で中学生が使った言葉として、本件放送の題材におけるキーワードの一つでもあり、本件放送は申立人の人格をことさら誹謗中傷するものとまではいえない。
以上に鑑みれば、本件放送は、地方議会議員の行動に関わる事実に対する論評として公共性・公益性が認められ、他方で本件放送による社会的評価の低下や名誉感情の不快の念の程度を考慮すると、本件放送の論評については、申立人は地方議会議員として、これを受忍すべきものと考える。
また、申立人は、2014年8月に申立人の中学生グループとのやりとりが報道されるようになったのは、同年9月に実施された交野市長選挙にかかわる政治的背景があったと主張するが、その主張と本件放送による人権侵害の有無の問題は関係を持たない。また、本件放送のタイミングにも特段の不自然さはないため、放送倫理上の問題もない。
なお、「キモイ」という言葉は、それが使われる相手や場面によっては、相手の人格を傷つけ、深いダメージを与えうるものであるが、委員会は、これを無限定に使うことを是とするものではないことを付言する

全文PDFはこちら pdf

2015年4月14日 第54号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第54号

申立人
山本 景
被申立人
株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ
苦情の対象となった番組
『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』
放送日時
2014年8月22日(金)午前1時00分~3時00分
(本件放送は冒頭の約7分)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送の内容と申立人の名誉・名誉感情の侵害の有無について
    • (1) 問題の所在
    • (2) 本件放送の論評の対象と地方議会議員の名誉権、名誉感情
    • (3) 本件放送と権利侵害の有無
    • (4) 小括
  • 2.本件放送と市長選との関係について

III.結論

補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年4月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、4月14日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人本人と放送局側(被申立人)に対して委員会決定を通知した。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は23社46人が取材し、テレビカメラ5台が入った。
詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2015年3月に視聴者から寄せられた意見

2015年3月に視聴者から寄せられた意見

東日本大震災から4年経過したが、この日だけを特別視するような報道姿勢に批判の声。オウム真理教の地下鉄サリン事件から20年、教祖の昔の説法を流すのは危険だといった意見や、出演した教祖の娘に謝罪を求めるような放送に対し、多くの批判意見など。

2015年3月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,511件で、先月と比較して290件減少した。
意見のアクセス方法の割合は、メール70%、電話28%、FAX1%、手紙ほか1%。
男女別は男性72%、女性26%、不明2%で、世代別では40歳代27%、30歳代24%、20歳代17%、50歳代17%、60歳以上10%、10歳代5%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。3月の通知数は677件【40局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、21件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

東日本大震災から4年が経過したが、この日だけを特別視するようなマスコミの報道姿勢に対し、批判が寄せられた。
オウム真理教の地下鉄サリン事件から20年がたち、報道番組や情報番組がさまざまな角度からオウム事件を取り上げたが、教祖の昔の説法を流したりすることは危険だといった意見や、出演した教祖の娘に謝罪を求めるような放送に対し、多くの批判意見が寄せられた。
チュニジアの博物館襲撃テロで日本人が死亡したが、被害者の卒業文集を放送することは如何なものかといった批判があった。
政務活動費問題で辞任した元県議への突撃取材に対して、まさにマスコミの横暴だという声が多数寄せられた。
ラジオに関する意見は63件、CMについては51件あった。

青少年に関する意見

3月中に青少年委員会に寄せられた意見は116件で、前月から35件減少した。
今月は、「言葉」に関する意見が20件と最も多く、次に「性的表現」と「暴力・殺人・残虐シーン」が15件、「表現・演出」と「いじめ・虐待」が11件と続いた。
「言葉」については、バラエティー番組でゲストが自分の妻に暴言を吐いたことについて、多くの意見が寄せられた。また、別のバラエティー番組の女性出演者の呼び方について、中高年の女性を侮辱しているようで不愉快だとの意見が複数あったほか、川崎市で中学生が殺害された事件に関連して、「殺す」などの言葉を安易に使用しないように求める声もあった。
「性的表現」については、複数の番組に対し、春休み期間中であることを踏まえ、番組内での表現に留意すべきとの意見が寄せられた。
「暴力・殺人・残虐シーン」については、ドラマにおける暴力表現が青少年に与える影響を懸念する声が寄せられた。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • 3月11日の東日本大震災の日には、バラエティーやスポーツ観戦ではなく、震災のことや被害に遭われた方、今も懸命に復興に取り組まれている方などを考える番組をもっと放送してほしかった。震災の風化と言われているが、11日をみんなでいろいろ考える日にすることが大切だと思う。また逆なことを言うようだが、この日だけをお祭りのように報道するマスコミには、違和感を覚える。普段から震災に関する報道を地道に続けるべきだ。

  • 私は東日本大震災後、福島県から栃木県に移ってきた。震災から丸4年の今日の放送は、「"ここが福島だ"と実感できる場所がこちらです」との紹介で始まった。故郷の数々の名所などを期待していると、醜い除染廃棄物置場が映っていた。あまりの光景に心が張り裂けそうになった。いつか帰る日を夢見ている者には、「今の福島を象徴するのは、廃棄物の山」と言われることは耐えられない。現実は現実として受け入れるが、故郷を懐かしむ人の夢を打ち砕くようなことを言わないでほしい。

  • 東日本大震災から4年経ってもなかなか復興が進まない。原因はいろいろあるが、震災関連の報道にも一因があると思う。今までの報道番組では、明るく前向きな被災者や不平・不満を言わない被災者が主に取り上げられてきた。本当はそうした人たちばかりではない。失業や病気で困窮する人たちも多数いるのに、実態が報道されていない。今後、復興のスピードを上げるためにも、放送局には、たとえば「被ばく問題」「広域がれき処理」「「除染」「高い防波堤の建設」など、骨太の番組をどんどん放送してほしい。

  • 震災から丸4年となる今日、各局とも震災一色になっている。戦後の日本にとって未曾有の災害であったことは確かだが、どこの局も似たり寄ったりの放送をしている。同じような内容を放送するなら、1局くらい他の話題を提供しても良いのではないか。それに比べて太平洋戦争で日本が体験した苦しみ、特に3月の大空襲や広島・長崎の原爆については伝え方が足りない。このままでは若い人たちをはじめ、日本人の心から戦禍の記憶が消えてしまうのではないか。

  • 震災特集で、チェルノブイリと福島の原発事故を比較し、チェルノブイリと同様に放射線による甲状腺がんや新生児の障害が起こるのではないのかと思わせる放送をしていた。しかも不安をあおるような音楽まで入れていた。チェルノブイリと福島では、事故の性質がまったく違うことを説明していない。国連の専門機関が、日本では放射線に起因する障害が起こる可能性はほぼないと報告しているとも聞いている。「可能性はゼロではない」といったらどんな不安もあおることができる。風評被害は深刻だ。復興を支援すると言いながら、如何なものか。

  • 原発事故の汚染土が中間貯蔵施設に搬入できるというニュースが報じられた。その際、大臣が「福島の"除染"や復興の第一歩となる」と言ったのに、「福島の"汚染"」と間違ったテロップが表示された。局に電話をしたが訂正を入れるかどうか今決められないと言われた。訂正は直ぐにするべきである。

  • 「東北応援スペシャル」と称し、東北地方にある珍しい光景を取り上げていた。私の住む福島県では、よく東北を取り上げた番組が放送されるが、その大半は震災関連のニュースやドキュメンタリーといった硬派な番組だ。いくら震災が大切なこと、忘れてはいけないこととはいえ、東北を取り上げた番組となると、硬く暗い感じの番組ばかり放送されるので、見ていて疲れを感じていた。特にこの日は節目の日だったので、どの局も長時間にわたり震災関連の番組を放送していた。そんな中、この番組ではバラエティーの雰囲気で東北を取り上げ、暗い気持ちになることなく、東北の良さや面白さに改めて気づいた。本当に良かった。この番組のように、違った視点から物事を見る番組がもっと増えることを願っている。

  • オウム真理教の「地下鉄サリン事件」から丸20年経つということで、最近オウム関連の報道がとても多い。もちろん事件を風化させてはいけないが、だからといって教祖の説法のテープをそのまま流したり、過去の記者会見の映像を流すなど、オウムの宣伝のようなことをするのは非常に危険だ。一連の事件をよく知らない若い世代に興味を植え付けることになるのではないかと、心配している。

  • オウムの後継団体で配られているCDに教祖の肉声が含まれていると報じていた。しかし、肉声を放送するのは極めて不適切だ。教祖の声により元信者がオウムの思想に回帰したり、信者が更に洗脳されたりする可能性がある。それをテレビで放送するのは極めて危険だ。「肉声で修行するように促している」とナレーションで伝えるだけで十分なはずだ。テロを起こした宗教団体に関する報道手法についてのガイドラインを提示すべきではないのか。

  • 教祖の三女へのインタビューだが、インタビュアーの態度は主観的で、彼女を理解せずに言い返すという印象だった。まったく誠意が感じられず、とても不愉快だった。司会者、コメンテーターも「彼女も謝罪すべきだ」「謝罪する気持ちを感じない」と発言していた。彼女が犯罪者のような内容だった。もちろん、オウム真理教がしたことは許されないことで、裁判でも相応の結果が出ている。しかし、その娘に責任があるのだろうか。被害者は、犯人とその家族までも憎いのかもしれないが、報道者が一方的な立場にのみ偏り、報道してもよいのか。

  • チュニジアのテロで被害に遭った女性の顔写真や小学校の卒業文集を放送していたが、違和感を覚えた。犯罪者ならまだしも、全く罪もなく不運に命を落とした方のプライバシーを出すことは全く必要性を感じない。中学校の頃に卒業文集で書いた夢など今見たら赤面ものだし、その人の人間性を表すものとして取り上げるのは意味がない。

  • チュニジア襲撃事件で、ISILから声明発表があった件で「イスラム国」という語句を出していた。「イスラム国」との呼び名は誤解を与えかねないので「ISIL」という表現にしようという世界的な流れの中、未だに平然と使用する神経がわからない。手間を惜しまず、適切な措置をとるべきだ。

  • チュニジア襲撃テロ事件の被害者に対し、重傷を負っているにもかかわらず取材をし、なおかつ本人の承諾を得ないまま報道したといわれているが、もしそれが本当ならば言語道断であり、報道の暴走である。被害者の感情を意識し、配慮ある放送倫理を学んでほしい。

  • 「川崎市中1殺害事件」をはじめ、最近LINEに関連した青少年の事件が多発している。日本ではほぼ7割というダントツの普及率だが、他国ではそれほど普及していない。他国では、むしろその危険性を重視して"国として"普及させていないらしい。これは、発祥の国と言われている韓国でさえ、普及率が20%に満たないことからもわかる。このことを、どれほどの日本人が知っているのか。LINEの危険性も報道するべきではないのか。

  • 川崎市中1殺害事件に関し、最後に「殺される」という連絡をLINEを通じて友人の1人が受け取ったと話していた。自分が13歳の頃に同じ立場だったら、そうしたことを連絡されても戸惑っただろう。中学生の子どもにはメッセージを受け取っても、実際に救うための具体的な行動が出来なくて当たり前であることにも触れてほしかった。

  • ニュース番組はただ出来事を伝えるだけでなく、番組やキャスターなどの思いをきちんと示してほしい。批評性のないものは報道として不十分だ。その点、この番組は素晴らしい。番組としての批評・意見を示してくれることで、視聴者にも自分はどう思うか考えさせてくれる。その日の出来事に流されるだけでは、考えが深まらない。批判的な意見もどんどん放送して、考えるきっかけを与えてほしい。

  • 災害公営住宅での孤独死を取り上げた。本来、匿名で報道されるべきだが、個人情報や生前の部屋まで映像で流れた。いくら遺族が承諾したとしても、やり過ぎではないだろうか。本人のプライバシーを侵す行為である。孤独死のような報道は匿名性を重んじていただきたい。

  • 韓国で米国大使の頬が切りつけられた事件について報道していた。その際に大使の切れた頬が何の修正もなく、そのまま放送されていた。傷口はもちろん、血が出たままだった。画像を見せたい気持ちもわかるが、不快感を覚える視聴者もいる。

  • 大阪では統一地方選挙と大阪都構想住民投票という大きな政治的イベントが今後行われる。維新の党対他政党という構図のもと、あらゆる場面で政治的な議論が活発になると思われるが、反維新の政治活動などをしている学者コメンテーターが、「中立」を宣誓しながら、反維新的発言をしている。反対派・賛成派がともに、将来の大阪のあり方について議論することを視聴者としては期待しているが、片方の意見のみを公共の電波を使って垂れ流すのは如何なものか。

  • 集団的自衛権のシビリアンコントロールに関して、男性コメンテーターが「国民に理解が得られない」「国民に説明していない」など、常に「国民」を頭につけて、あたかも「国民の総意」であるが如く発言していた。少なくとも自分や周囲の半数は理解しているし、賛同している。自分の意見・考え方だけをもって「国民の総意」としていないか。

  • 政権の圧力を陰に陽に感じる番組が増えている。番組を仔細に見ると、言質を取られないように、微妙な言い回しに終始している。これは非常によくない。局や番組によっては政権の意向を忖度しているようなものもある。まれに政権に立ち向かっているような番組もあるが、コメンテーターを更迭するという噂も耳にする。いずれにせよ、権力に与せず、報道の基本を堅持してほしい。

  • イスラム国の人質事件にも関連して、「紛争地に行く人間もどうなのか」などといった報道がされているが、それなら一体誰が戦争の現状を人々に伝えるのか。「行く側にも責任がある」などという意見は、70年前の日本でどのようなことが起こっていたかを全く知らないから他人事のように言えるのだろう。紛争地に行くことを肯定する訳ではないが、今回殺害されたジャーナリストが、危険を冒してまで戦争の現状を報道しているからこそ、戦争や無差別テロがどれほど残虐で悲惨なのかを知ることができる。70年前の戦争を繰り返さない為にも、どんな形であれ、こういう戦争について報道していくべきだ。

  • 「少年法の適用年齢引き下げ」について、反対派の論客ばかりを集めていたが、一方向への誘導を目論んでいるとしか思えない構成だった。なにも予備知識がなく、テレビを信じ切っている人が見たら、簡単に思想を誘導できる。放送法を念頭に置いていると思えないものが多くあるので留意してほしい。

  • 北陸新幹線が長野駅と金沢駅の間で延伸開業する。多くの番組ではそのことに関する話題で盛り上がっている。列車が東京発のためかどうかは知らないが、内容を見ていると、あたかも今まで首都圏と北陸の間の移動手段が全く存在しなかったかのような報道内容だ。また連日のように新幹線と言っていることにしつこさを感じ、素直に開業を祝う気が無くなってくる。新幹線関連の話題に限らず、最近のテレビ番組は東京キー局の番組を中心に内容がマンネリ化したものが増えている。独自性のある番組を作ってほしい。

  • 北陸新幹線の開業で、首都圏から北陸へのアクセスが便利になったとの首都圏寄りの報道が気になった。北陸から首都圏へのアクセスも便利になったが、逆に富山県から関西・中京方面へのアクセスは不便になった。また、並行在来線として第三セクターへ移行された路線の報道が全くされていなかった。地域住民の足は新幹線というより、通勤や通学、通院や買い物などに使う在来線のはずだ。在来線の本数の減便や運賃の値上げなど、生活に直結した現状も伝えるべきだ。

  • 大阪の警官が起こした殺人事件について、その上司である署長の謝罪録音テープがテレビで流された。しかし犯罪者の勤務先の上司はどのような法的責任があるのか。道義的責任から謝りに行ったのに、録音され、放送され、世間のさらし者にされた。怒りをむけるべきは犯人である。テレビが自分勝手な正義の仮面をかぶり鉄槌をくだすことはメディアリンチだ。

  • 政務活動費の問題で辞めた元県議を執拗に追いかけ、無理矢理インタビューしようとしていた。映像を見る限り、あからさまな弱い者いじめで、吐き気がした。テレビ局のモラル欠如などですむ問題ではなく、マスコミによるリンチと言われても仕方がない。いじめの問題などを取り上げることの多いニュース番組でのこのような事態が残念でならない。

  • 民放の夕方のニュース番組に意見したい。長い時間を費やしているのに、グルメや芸能ニュースに力を入れている。それよりも国会での質疑や提言などを、詳細に放送してほしい。新聞を取らず、インターネットも使わない世代はテレビの情報がすべてだ。グルメもいいが、もっと大事な情報があるはずだ。

  • コメンテーターの1人が降板することが明らかになった。降板に際して、圧力に屈したテレビ局を批判するような発言をしていたが、私は彼を評価したい。新聞社の論説委員ばかりのコメンテーターの中で、彼が一番わかりやすく、本当のことを言ってくれているような気がした。彼を降板させるのは、報道の自由が侵害されたのも同然だ。

  • コメンテーターが番組降板に当たり、「圧力」や「それに屈したテレビ局が原因」など、私憤としか思えないことをとうとうと述べていた。こんな個人的な意見を放送するのは問題ではないのだろうか。確たる証拠も示さず公共の場で述べることは、名誉毀損に当たるのではないか。

【番組全般・その他】

  • 実際に発生した難解な殺人事件を題材にして、警察が如何にして容疑者を特定したのかをクイズにしていた。事件は海外で起きたもので、夫が若い不倫相手の女性に夢中になり、一家を惨殺するに至ったという凄惨な事件だった。幼い子ども達までもが無残に殺害された事件にもかかわらず、クイズ形式で出演者たちに出題して、正解すればプレゼントという演出に、倫理上とても違和感を覚えた。ちなみに出演者たちは正解することができ、上機嫌で笑っていた。番組制作者は、殺害された被害者や殺人に関することをクイズの題材にして放送することを、どう思っているのだろうか。

  • 関東近辺の情報ばかり全国に垂れ流している。関東以外の視聴者を完全に無視していることが許せない。嫌なら見なければいいと言っている次元ではない。昼休みや家事の合間など、全国の人が見る貴重な時間帯に、なぜ関東紹介だけをするのか。わざわざ全国ネットにする必要がどこにあるのか。どうせ視聴率も関東の数字なのだから関東ローカルにするべきなのではないか。

  • 犬の虐待動画の投稿が相次いでいるというニュースが流れた。原稿を読み上げるだけならまだしも、動画そのものを放送したことに強い憤りを覚える。そもそも個人が撮影した動画を本人の同意なしに放送することは、許される行為なのだろうか。また視聴者の中には、人間よりも動物が虐げられている映像の方が不愉快に感じる人もいる。映像を流す前にキャスターが一言断るか、テロップ等で注意を促すべきであった。

  • このほど渋谷区が同性婚のパートナーシップ証明を認めると発表したことを受け、討論していた。しかしゲストのレズビアンカップルは当然としても、レギュラー陣らがそろって同性婚を認める発言をしていた。わずかに国会議員だけが家族制度や伝統を重視する慎重な意見を言っていた。彼が一言発すると皆が一斉に反発し、多勢に無勢の構図だった。同性愛者の存在を認めるのは時代の流れかも知れないが、「婚姻」となると別次元の話だ。「討論番組」を謳うなら、反対派や慎重派などの出演者も揃えるべきだ。

  • 「番組をインターネットにアップロードするのは違法です」というテロップが頻繁に表示されるようになったが、目障りだ。映像よりテロップの方に目が行ってしまうことも多く、気が散って集中できない。いわゆるユーチューバーが必ずしもそういうことをやっている訳ではないし、テロップを表示したところで番組を動画サイトに投稿する人間がいなくなる訳ではない。

  • ここ数年のバラエティー番組の制作が横一列で呆れている。回答の直前にCMを入れたり、同じ場面を何回も繰り返す。このやり方はもうウンザリする。各局の個性溢れる番組制作に期待する。

  • 電車内で不快と思われる行為に、ベビーカーの使用が挙げられていた。不快に思うのは女性が多いという内容だった。その中で、ゲストが「女性のこの意見は子どもを産んでいない人が多いのではないか」という発言をした。何の根拠もなく、このような発言をすることは許せない。このような不適切で差別的な思い込みの発言を放送するテレビ局にも怒りを感じる。不妊で苦しんでいる女性や子どもに恵まれない方々を傷つける言葉の暴力だ。

  • 新聞の番組欄やHPに、例えば「今夜もスゲェの撮れてます」などという惹起文句が踊っている。ガラの悪い不良が使いそうな言葉で、なんとも品がない。深夜番組であればまだしも、ゴールデンタイムの番組として相応しくない。目立ちさえすれば良いという安易な発想はやめるべきだ。

  • 中国の挟まれ事故をパロディーにして、フェンスやロッカーに挟まれた人を救助隊が油を掛けて救出するコントをしていたが、JRの脱線事故を思いだし、大変不快に感じた。私はJRグループで働いており一部始終を知っている。損傷の激しかった車内で鉄製の手すりに挟まれ苦しみながら息絶えた方がいたことを思いだし、悲しかった。

  • 芸能コーナーで「ゆるキャラーの経済効果」についてテロップが出ていた。女性アナも「凄いですね」と言っていたが、どうなのだろうか。経済効果というのは「これぐらいの人がこれだけ買うだろうから、これぐらいの金額になる」といった憶測の金額だ。ある教授が「経済効果ほどデタラメな数字はない」と発言していたが、大げさな数字を言うだけのものになっている「経済効果」という言葉は禁止するべきではないだろうか。

  • 男性のお笑い芸人が、グラビアアイドルにした行為はセクハラではないか。テーブルに乗って足を組み、胸を突き出すポーズを取った彼女に対し、露出した太ももを叩き、さらに胸に手をやり、そのまま揉んだ。このようなことは深夜のバラエティー番組であるからといって容認することは、社会的影響を考えても害悪であり、立場の弱い人間に対しての人権侵害だと思う。

  • 3人の女性ゲストを呼んでいた。女性のうちの1人が大きい胸の人の感触を確かめるということをやっていたが、視聴率稼ぎにしか思えず下品だ。また女性タレントが、乳首の色や状態を暴露した。こんな下劣な番組は今すぐやめるべきだ。

  • 都内の神社での撮影だった。敷地内で若い女性をパンツ1枚にして、芸をやらせていた。乳首の部分は星印で隠していたが、如何なものか。神社や寺院ではマズイのではないのか。

  • 「世界最小」「ギネス認定」などと称して、身体の小さな方、大きな方を見世物にしていた。それぞれさまざまな身体の障害があって、自身の意思に反してこのような体格になっているのに、「超人」とはどういうことなのか。しかも海外からわざわざ呼び、日本で大勢の前で見世物にして、出演者は笑ってばかりいる。障害のある方々と接している私からすると、障害を笑いものにして放送することが信じられない。

  • 男性タレントと半同棲しているらしき男性についての特集だった。「国民的アイドルの同性愛疑惑」という演出の思惑がよく伝わってきた。「ゲイ疑惑」「禁断の関係」と、まるで同性愛が悪いものであるかのように取り上げ、実際はただの友達に過ぎない男性との交友関係を過剰な表現で盛り立てていた。「ゲイ疑惑」といった同性愛を斜めに見たテーマありきの番組だった。ゲイの親友がいる私にとっては涙が出るくらい辛かった。

  • 日本の評価されている部分の根底は各人の努力だけでなく、世界各国で産み出された技術や産物があってこそ成り立っている部分もあるといった「ものづくり」において大切な部分が繊細に描かれていて、大変良い番組と感じた。昨今は一方からの意見を鵜呑みにしたひどい企画や、タレントだらけでバカ騒ぎする情報番組にうんざりしているので、尚更だった。普段テレビをあまり見ないビジネスマンでも、ゆっくり腰を据えて見られる構成もよかった。

  • 海外での大食い対戦の様子を放送していたが、その国には食べることに窮する貧しい人々が大勢いるのに、嫌がらせのように感じた。食べ物に対する冒涜でもある。私の弟は難病指定の潰瘍性大腸炎を患い、手術後の経過も思わしくなく、満足に食事がとれない。全国にはいろいろな事情で十分に食事ができない人たちがいることに配慮せずに、このような番組を続けることは放送倫理に反するのではないのか。

  • 今日の日本のテレビの大きな問題の一つは、メディアの「総エンタメ化」「総バラエティー化」だと思う。どんな問題でも、面白おかしく取り上げ、エンタメ化することでしか視聴率や話題性が取れないと思い込んでいる。そういった「エンタメ依存」が今日のメディアの質的低下を誘発している。また政治家の言葉尻を捉え、面白おかしくあるいはスキャンダラスに紹介したりする。もっと放送に真摯に向かい合ってほしい。

【ラジオ】

  • 週刊誌の記事を紹介するコーナーで、川崎市中1殺害事件に関連して少年犯罪の実名報道について取り上げていた。この件では週刊誌が容疑者の少年の氏名と顔写真を公表しているが、当日の番組では番組パーソナリティーが記事を取り上げ、容疑者少年の氏名を読み上げて記事を紹介していた。少年法に関わる実名報道の是非は議論の別れるところであるが、現状は少なくとも放送においては公表しない取り扱いをしているものだと思っていたので、衝撃を受けた。また、他社の記事を紹介する形でこのような実名報道を安易に放送に乗せてしまうことにも違和感を覚えた。

  • パーソナリティーの対応だが、相手の素性によって差がありすぎる。番組内での暴言もひどい。例えば有識者や年配のゲストには媚びるように下手に出るが、若いゲストに向かっては「おまえ」「バカ」「帰れ」などと暴言を浴びせることが多い。聴取者として不快な気分になる。相手によって態度をこうも変えることは人間としていかがなものか。

【CM】

  • フリーターや就職浪人の自立支援を謳う企業のアニメ風CMが不快だ。企業と面接を受けるフリーターをそれぞれボクサーに見立て、"企業役"の巨漢ボクサーが「お前を雇う会社がどこにある」などと詰りながら、フリーター役の小柄ボクサーを叩きのめす。しかし、この企業で更生したフリーターが逆転勝ちをおさめ、決め台詞を吐くといった内容だが、フリーターはダメ人間と決めつけるのは、如何なものか。

青少年に関する意見

【言葉」に関する意見】

  • バラエティー番組でゲストが自分の妻に対して、「殺していい?」などの暴言を吐く場面が繰り返し放送された。当該タレントが日常生活でそのような発言をしているのだとしても、公共の電波を使って放送するレベルを超えている。この放送を人格形成中の子どもが見たらどう思うだろうか。なかには大人がこういう言葉を使うのだから、自分も使っていいと誤解する子どももいるかもしれない。

  • バラエティー番組で、ゲストが自分の子どもと電話している場面を放送していたが、「殺すぞ」といった言葉を多用していた。中学生が殺される事件があったばかりにもかかわらず、このような言葉を無神経に使っており腹が立った。テレビの影響で子どもたちがこのような言葉を安易に使用することも考えられるので、より一層の配慮が必要ではないか。

【「性的表現」に関する意見】

  • お笑いタレントが面白い体験談を話す番組で、あるタレントが、子どものときに姉の寝室に忍び込んで胸を触ったり、入浴シーンをビデオ撮影しようとしたことを話していた。これは性的いたずらであり、家庭内性暴力とも言えるのではないか。犯罪行為を面白い話として話すのは、青少年への悪影響が強いと思われる。

【「暴力・殺人・残虐シーン」に関する意見】

  • 人気アイドルグループが出演するドラマの暴力シーンが過激すぎる。川崎市で中学生が殺害され、世間がその悲惨な出来事に心を痛めている中、このような暴力シーンを放送すべきではない。

【「いじめ・虐待」に関する意見】

  • バラエティー番組で、若手お笑いタレントに激辛食品を食べさせたり、唐辛子風呂に入れさせたりしていた。この番組に限らず、多くのバラエティー番組で若手や売れないタレントに過激な行為を強要して、その姿を司会者などが笑うという手法が使われているが、パワーハラスメントではないかと感じる。いじめに苦しんでいる子どもたちが見たら、どう思うだろうか。

【「表現・演出」に関する意見】

  • ハンター役から一定時間逃げ切ると賞金がもらえる企画に女児タレントが出演していた。悲鳴をあげながら逃げ回ったり、何度も怖いと言っており、幼い子どもをこのような企画に参加させるべきではないと感じた。

2015年2月13日

意見交換会(山梨)概要

◆概要◆

青少年委員会は2月13日の午後3時から6時にわたり、山梨県甲府市の山梨放送(山日YBS本社)で、在山梨放送局担当者との意見交換会を開催しました。
山梨地区の番組は、日本民間放送連盟賞の特別表彰部門「青少年向け番組」に多数入賞するなど、いわゆる「青少年向け番組」に関する取り組みが充実していることから、同地区放送局との意見交換を通じて相互理解を深め、放送界全体の番組向上に役立てるために企画したもので、同地区での意見交換会の開催は初めてとなります。
BPOからは汐見稔幸・青少年委員会委員長、加藤理・同副委員長、最相葉月・同委員の3名、放送局側からはNHK、山梨放送、テレビ山梨、エフエム富士の各BPO連絡責任者、制作・報道担当者など27名が参加し、論議が交わされました。
意見交換会は2部形式で実施し、第1部では、BPOや青少年委員会の役割などについて事務局から説明しました。また、委員が事前に視聴・聴取した、各局の「青少年向け番組」について感想を述べ、意見交換しました。委員からは、「視聴した後にも余韻をかみしめられるような、手間暇かけた内容の番組が多く、すがすがしい気持ちになった」「青少年だけではなく年代を越えて共感できる内容であり、作品に力がある」「新たな発見もあり、豊かな時間を過ごすことができた」などの感想が寄せられました。
第2部では、「地元密着型の番組制作」「青少年向け番組」「メディアリテラシー」のそれぞれのテーマについて、意見交換しました。
「地元密着型の番組制作」については、委員から、「家族のだんらんを大切にしている県民性や青少年を地域で育む意識が高いことなどが伝わってきた」「取材対象者との関わりかたが上手。距離をとりながら魅力的に人物を描いている」などの感想が寄せられました。放送局側からは、「山梨の人が山梨の良いところを知らないのではないかと感じている。東京に近くて大自然があり、NPO法人が調査した『ふるさと暮らし希望ランキング』で1位になるなど、潜在的な財産が多くある。メディアが発信していくことで地域に恩返ししたい」「山梨はケーブルテレビの普及率が高く、キー局の番組を受信できる環境にある視聴者も多い。そこで、キー局の番組との差別化を図るため、地元に密着した良質な番組を作り上げていこうという意識が強い」「NHKも含めてテレビ局が3局しかなく、互いに切磋琢磨している。また、番組コンクールでの受賞なども励みになっており、放送局間はもちろんのこと、同局の社員同士でも『負けたくない』との意識で一生懸命制作している」などの考えが示されました。その一方で、「狭い社会であり、少し番組に出ただけで注目されてしまうので取材が難しい。出演に際しての説得に苦慮している」など、現場ならではの苦労も披露されました。
「青少年向け番組」については、「そもそも青少年向け番組とは何か」との論議がありました。委員からは、「児童文学であれ放送であれ、素晴らしい作品ははじめから青少年向けに作られたものではない。当地区での作品も様々な年代の視聴者が共感できる内容となっている」との発言があり、放送局側からも、「青少年のみに視聴してもらうために制作している訳ではない。様々な年代の視聴者が納得できる作品を目指している」など、基本的な制作スタンスについての考えが示されました。報道や情報番組などにおける具体的な取材・制作手法については、「危険ドラッグの取り上げ方などに際しては、社内でも徹底的に議論するなど、細心の注意を払っている」「ゲームやスマートフォンを過剰に取り上げることで、子どもたちの欲求を惹起してしまうのではないかと考えると、取り扱いが悩ましい」などの発言がありました。また、メディアリテラシーについては、「視聴者によってリテラシーの差が大きく、基準をどこにあわせるかが難しい」などの悩みが寄せられました。
最後に汐見委員長から、「山梨地区における各放送局の番組作りは、足元にすばらしい自然や歴史、文化があることをメディアが広めて行く、ひとつのモデルになり得ると感じた。これからは、視聴者参加型の番組などを通じて、県民の皆さんに『私たちの番組』であるとの意識をもってもらうことが大切だと思う。キー局とは違ったアプローチでこれからも頑張ってほしい。本地区での取り組みを各局に伝えていくことを通じて、『視聴者と放送事業者を結ぶ回路』としての、青少年委員会の役割を広げていきたい」との、まとめの言葉があり、3時間にわたる会合を終了しました。

以上

2013年10月4日

意見交換会(札幌)概要

BPO・放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)は、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能」を果たす役割を担っています。今回その活動の一環として、札幌地区の放送局との相互理解を深め番組向上に役立てるため、10月4日に北海道放送会議室で意見交換会を行いました。参加したのは、青少年委員会から、加藤理副委員長(東京成徳大学教授)と渡邊淳子委員(弁護士)、放送局側からは、NHKと、札幌に拠点を置く北海道放送・札幌テレビ放送・北海道テレビ放送・テレビ北海道・北海道文化放送・STVラジオの7社からプロデューサー、ディレクター、広報関係者など43人です。
まず青少年委員会から、これまでに公表した「見解」などを説明し、続いて番組制作上の悩み、現場での課題等について意見交換しました。

意見交換の内容

  • 【委員】子どもにかかわる事件で、遺体で発見された中学生のいたましい様子を初めは赤裸々に報道したものの、その後詳しい表現を控えた。報道する際の表現方法に配慮はしているのか?
  • 【放送局側】当然人権に配慮することを常に念頭におきつつ報道しているが、やはり犯罪報道には情報を明らかにする使命があり、それは犯人逮捕につながることもあると思われる。
  • 【委員】少年事件を担当している弁護士の立場から言えば、報道現場は、いじめで自殺した子の友達にインタビューをしても、モザイクをかければいいじゃないか、という安易な考え方をしているように思う。撮れるものは撮ろうというような「いけいけどんどん」的なエスカレートした報道が多いのではないか。
  • 【放送局側】詳細情報を視聴者に伝えるという報道の原点を守ったものではあるが、常日頃から、人権の問題と報道の使命のせめぎあいの中で現場は苦しみつつ、悩みつつ、報道に向きあっているのが現状である。
  • 【委員】「暴風雪で父親をなくした少女」(注1)の報道に関して、直接被害者少女へのインタビューなしでは、事件が報道できなかったのか、疑問に思う。
  • 【放送局側】
    • 子どもの人権への配慮と必要な情報をとりたいという狭間で現場の記者は日々悩んでいる。
    • 少女への社会的同情が集まり、保護者からお礼を言いたいという申し出があったため取材した。
    • 現場で取材した記者は長い時間をかけて当事者の少女の信頼を受けるようになり、その記者になら答えていいということで対応してくれた。取材者と取材される側の信頼関係が重要と思う。
    • この暴風雪の報道を受けて、気象台でも天候に関する警報を「外出を避けてください」という強い文言を使うようになり、通信会社も消防からの要請があれば、携帯のGPS位置情報を教えるという体制が整うなど、その後の類似被害を防ぐ防災体制整備にこの報道が役に立った。
  • 【委員】子どもがたとえ事件直後にハイテンションになってインタビューに答えたとしても、その後極端にパニックに陥ることがあるので、やはり、子どもへのインタビューには賛成できない。また、少年犯罪で、すでに拘束された加害者の防犯カメラ映像が公開され、モザイクをかけてもかばんやスニーカーから個人が特定できる可能性があった事例について、その少年の更生のためには、既に身柄を確保された少年の映像を放送する必要性があったのか、疑問に思う。
  • 【放送局側】
    • 報道する側の立場として必要な情報を視聴者に提供する意味では、人権に配慮することは当然考えても、伝えるべきことは伝える姿勢は保っていきたい。
    • 入社4年目ではあるが、報道取材の現場で、いつも考え、悩みながら、日々、取材を行っている。

まとめ

「意見交換会」は、青少年委員会の活動の理解促進と、委員が制作現場の生の意見を聞くことを目的の一つにしています。閉会にあたって加藤副委員長は、「本日は忌憚のない意見が聞け、現場の悩みも率直に話していただいたと思う。我々委員も、取材の現場の状況や、取材側の立場や日々の葛藤を直接お聞きできて、大変勉強になった。今後とも積極的にこういう機会を持ちたい」と2時間半ほどにわたる意見交換会をしめくくりました。

(注1)
2013年3月2日から3日にかけて、北海道や東北を暴風雪が襲い、あわせて9人の命が奪われた。紋別郡湧別町では53歳の父親が9歳の長女を守って凍死した。2日の午後4時ころ、父親は親戚に電話をかけ、「燃料が少なくなってきた。近くの知人宅へ避難する。先方に、そう伝えておいてほしい」と頼んできたという。父親は地吹雪の中、娘を連れて歩いて知人宅を目指したが、途中で激しい地吹雪に行く手を阻まれた。発見された時、父親は娘を風から守るように、娘に覆いかぶさった状態で亡くなっていたという。娘は、奇跡的に無事だった。少女は、その後、『吹雪に襲われた時の様子』、『父親への思い』、『現在の心境』、などについて、各放送局のインタビューを受け、その内容が全国に放送された。

以上

2013年11月26日

在京局バラエティー制作者との意見交換会・勉強会 概要

青少年委員会は11月26日に、NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビのバラエティー番組を中心としたプロデューサー、ディレクターなど27人と、汐見委員長ら7人の委員が参加して、「いじり」や「いじめ」問題を中心とした勉強会を、千代田放送会館で開催しました。
小田桐委員が司会役を務め、最初に、最近の青少年委員会で話し合われている「いじり」や「いじめ」に関する問題について、意見交換が行われました。視聴者から寄せられた意見も踏まえながら、論議が交わされました。
次に、バラエティー番組を制作する上での基本的な考え方や方針について話し合われました。委員から、罰ゲームとはどのようなものと考えているか、子どもが真似するという視聴者の指摘についてどう認識しているか、などの質問が出されました。制作者側からは、バラエティー番組の「フィクション」と「ノンフィクション」のすみ分けなど、番組企画の理念の具体的な説明がありました。
また、番組の制作過程についても話し合われ、制作者側からは、現場では「制作者の意図と、番組を見る視聴者の受け止め方にギャップがないか」など、論議を重ねて作っている現状が述べられました。さらに、委員に対する質問や、委員会に対する意見・要望も出されました。
「勉強会」は、青少年委員会の活動の理解促進と、制作現場の生の意見を聞くことを目的の一つにして開催しています。汐見委員長は、「こういう忌憚のない意見を述べ合える勉強会をずっと開催したかった。もっと制作現場の話を聞きたい」「テレビを見て笑うことは、国民共通の富であり、国民の笑いはその国の力を表す」「楽しく見て笑えるバラエティー番組を躊躇せず、臆せず作っていってほしい」「テレビ番組制作者は、文化を“作る”一方で、“広める”という重要な二役をやっている。笑いの質が多様化していることを認識しつつ、視聴者に広く受け入れられ愛される21世紀の笑いのスタイルを作っていってほしい」と、2時間にわたる勉強会をまとめました。

以上

2013年9月3日

意見交換会(名古屋)概要

青少年委員会では、"視聴者と放送事業者を結ぶ回路"としての役割を果たすため、これまで、委員と在京キー局の担当者との「意見交換会」を行ってきました。今年は、1月22日にNHKを含む在阪テレビ6局と東京以外で初めての「意見交換会」を開催したのに続き、9月3日にはNHKを含む在名テレビ6局の担当者との「意見交換会」を名古屋市の中部日本放送本社で開催しました。NHK、中部日本放送、東海テレビ放送、名古屋テレビ放送、中京テレビ放送、テレビ愛知のプロデューサー、ディレクターなど42人と、汐見委員長ら7人の全委員が参加しました。
第1部で、7人の委員が自己紹介と、事前に視聴した在名テレビ各局制作番組に対する感想を述べました。その後、第2部では、これまでに青少年委員会が公表した『見解』などを事務局から説明し、その内容について意見を交換。続く第3部は、川端委員の司会・進行で"バラエティー番組・情報系番組の表現について"をテーマに話し合われました。
第3部では、特定の番組を取り上げるのではなく、青少年委員会に寄せられた視聴者意見を基に、委員会の姿勢や制作者の意識に関しての議論が中心となりました。視聴者意見を、(1)「取材・報道の在り方」 (2)「性的な表現」 (3)「バラエティー番組の中のいじめにつながりかねないとされる表現」 の三つのカテゴリーに類型化しました。
まず、(1)「取材・報道の在り方」では、事件や事故に巻き込まれた子どもへの取材や放送の表現方法が焦点となりました。放送局からは、取材される側への人権に配慮し、取材・放送の過程で制作担当者や管理者が議論を深めながら放送で取り上げている実情が語られました。(2)「性的な表現」では、たとえば乳幼児が入浴する映像などがネットで広まり、いつまでも残ってしまう現代の情報社会が抱える問題点をふまえた上で、このような現状では、「児童を対象とした性的な表現」への配慮から、乳幼児の裸体を放送することが問題視される傾向が強くなる一方だが、その中でも表現の幅を狭めず、放送の送り手と受け手が互いに認め合える表現内容をどのように求めていくか、現場の取り組みが述べられました。また、(3)「バラエティー番組の中のいじめにつながりかねないとされる表現」というテーマに関しては、在名各局から、そのようなバラエティー番組は作っておらず、むしろ、そのような対象となるのはキー局制作の番組ではないかとの指摘がありました。
「意見交換会」は、青少年委員会の活動の理解促進と、制作現場の生の意見を聞くことも目的の一つとしています。汐見委員長は、「地方には首都圏では視聴できない番組も多いので、地方局の制作者との意見交換には、大きな収穫があった。こうした機会を重ね、地方の番組制作者を応援していきたいと考えている」と、4時間にわたる意見交換会をまとめました。

以上

2013年1月22日

意見交換会(大阪)概要

青少年委員会として東京以外で初めての意見交換会を、1月22日午後3時から大阪・朝日放送アネックスの3A会議室で開催した。参加者は、NHKと在阪準キー局の毎日放送、朝日放送、テレビ大阪、関西テレビ、読売テレビの、合わせて6局の番組制作者を中心とした52人で、青少年委員7人とさまざまな意見交換を行った。
テーマは「大阪と東京の番組制作の違い」。まず、関西の人気番組『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送)の構成作家で、『永遠の0』などのベストセラー作品で知られる作家の百田尚樹氏が、「大阪の番組作りの秘密」と題する講演を行った。「大阪の局は東京に比べて予算が少ない分アイディアで勝負する」、「今のテレビに期待する役割として、バラバラになった家族を、テレビの力で再び茶の間にひき付けられないか」など、およそ30分にわたって経験談を披露してくれた。
その後、各委員が事前に視聴した各局制作の番組についてそれぞれの局の現場の制作者と意見交換を行った。続いて、番組が青少年に与える影響について、局側から「どんな反応があるのか手ごたえがなく、おそるおそるやっているのが実態である」とか、「自分には高一の娘がいるが、下ネタに関しては制作者として悩ましいところだ」などの意見が出た。汐見委員長は、「テレビは人間の行動の標準モデルを作る可能性を持っている。それが、テレビが持っている公共的な影響力だ」とテレビの持つ公共的側面を話し、「関西文化は庶民に対する優しさが根っこにあるのではないか。条件が非常に厳しい中で、熱い意思を持ってよい番組を作ろうとしている人たちがたくさんいることを改めて感じた」と3時間に及ぶ意見交換会を締めくくった。
今回のアンケート結果には、「もっと意見交換する時間がほしかった」、「各委員からすると興味深いテーマかもしれないが、制作者にとっては日常身にしみている話で、深まりが無かった」、「各委員のスタンスの違いが現れていて興味深かった」、「BPOの委員について先入観のようなものが無くなった。共にテレビ番組について考える存在なのだと思えた」などの意見があった。取り上げるテーマや形式など、参加者から寄せられた意見を参考に、次回以降の意見交換会の開催につなげたい。

以上

2014年11月25日

在京局報道担当者との意見交換会・勉強会 概要

青少年委員会は11月25日、「報道における青少年の扱いについて」をテーマに、在京テレビ各社(NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビ、東京MXテレビ)との「意見交換会・勉強会」を千代田放送会館で開催しました。各局からは、報道・情報番組の担当者など23人、青少年委員会からは汐見稔幸委員長ら7人の全委員が参加し、論議が交わされました。また、高木光太郎・青山学院大学社会情報学部教授をお招きし、ご講演いただきました。
司会役は渡邊淳子委員が務め、まず、事件関係者である青少年にインタビューする際に留意している点などについて、各局から説明がありました。各局からは、「原則として、中学生以下の場合は保護者の了解を必要条件としている。それ以上の未成年者についても必要な配慮をしている」「近年、SNSが社会に浸透していることなどから、取材する側、される側の想像を超えて情報が拡散することもあり得るので、さらなる配慮をしている」「青少年が被害者や目撃者である場合は、事件の全体像などを視聴者に伝えるために必要不可欠な場合のみ行うこととしている」などの発言がありました。
続いて、高木光太郎青山学院大学社会情報学部教授から、「子どもへのインタビューをめぐって~法心理学の視点~」と題する講演がありました。高木教授からは、刑事事件裁判での供述の信用性を心理学的に評価してきた立場から、「十分な知識がない人が子どもに話を聞いた場合、子どもの記憶が変わってしまうことがあることから、イギリスでは全警察官が子どもから適切に話を聞くための訓練を受けている」「小さい子どもは、自分の記憶、伝聞情報、空想を明確に区別していないと言われており、思い込みや大人の意見への迎合性が強いため、聴き取りに際しては一定の技法を用いることが重要である」など、子どもから話を聞くための技法や事例などについて説明がありました。また、「スピーディーかつ的確に子どもを取材する方法について、各局の現場における研究を進めてほしい」との提言がありました。
その後の意見交換では、各局から、青少年へのインタビュー取材に細心の注意を持って臨むのは当然のこととしたうえで、「青少年が事件・事故の被害にあった際、当該被害者の人物をよく知る同級生などにインタビューを行うことがあるが、具体的な事件・事故の輪郭について視聴者に関心を持ってもらうための1つの材料と考えて実施している」「青少年への取材に限らず、少しでも多くの事実を集め、客観的に判断して報道することが基本姿勢である」などの考えが示されました。そのうえで、「取材時以上に、テレビで放送する際の影響は大きいので、その段階でもあらためて、当該インタビュー映像の使用について検討する必要があろう」「記者やデスクとの意思疎通を日常的に図っておきたい」「記者などへの事前教育を行ったうえで、取材をしっかりさせたい」など、青少年への配慮についての意識をより高めていきたい旨の発言もありました。
一方、委員からは、被取材者の年齢を考慮したPTSDへのさらなる配慮や、取材後のケアの充実を求める意見がありました。
汐見委員長からは、「取材する側には視聴者に事実を伝える義務があるが、一方で取材される側にも様々な権利がある。真実の追及に取材は不可欠だが、取材される側の論理も念頭に置いて行うことが、ますます求められていることを認識してほしい。また、高木教授の講演を聞いて、取材する側には一定のスキルが必要だと実感した。今回の意見交換会・勉強会が、放送局の若い人たちへの教育を行う上でのきっかけとなってくれれば幸いだ。これからも放送局と青少年委員会が議論しながら、より良い放送のあり方を探っていきたい」との、まとめの言葉があり、2時間30分にわたる話し合いを終了しました。

以上

2014年6月6日

意見交換会(沖縄)概要

◆概要◆

青少年委員会は、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能」を果たす役割を担っています。その活動の一環として、沖縄地区の放送局関係者との相互理解を深め、番組向上に役立てることを目的に、6月6日にRBC4階ホールで「意見交換会」を開催しました。沖縄地区では初めての開催であり、14時から17時30分まで、活発な意見交換が行われました。
BPOからは、汐見稔幸・青少年委員会委員長(白梅学園大学学長)、小田桐誠・同委員(ジャーナリスト)、川端裕人・同委員(作家)と三好晴海・専務理事が参加しました。放送局側の参加者は、NHK、琉球放送、沖縄テレビ、ラジオ沖縄、FM沖縄、琉球朝日放送の各連絡責任者、制作・報道・情報番組制作者など36人です。
意見交換会は2部構成で行い、第1部では、三好専務理事から「BPO発足の経緯と役割」、事務局からは「青少年委員会が公表した『見解』など」について説明しました。
第2部では、(1)沖縄の抱える諸問題、(2)取材における子どもへの影響や人権への配慮、(3)報道番組や情報番組・バラエティー番組の制作上の悩みなどについて、委員と参加者が意見交換しました。

◆意見交換の概要◆

(1).キー局との"温度差"について

  • 【委員】"基地問題"など、沖縄特有の問題に関する報道について、地元の放送局とキー局との"温度差"を感じることはあるか?
  • 【放送局側】
    • 基地問題について、キー局側から「偏っているのではないか」と言われることがあるが、決して偏っているのではなく、沖縄県民の目線で感じていることを発信しているに過ぎない。全国目線での報道に加え、現地目線での報道をすることで、全国的な報道の中立が保たれているとも感じる。
    • 沖縄の基地問題はイデオロギーの問題である一方、身近な生活の問題でもある。"誰が悪い"というスタンスではなく、今後とも丁寧に取材していきたい。
    • 基地問題については「賛成派」「反対派」と単純に分けることはできない。地域住民、親戚等との軋轢などから、長い時間を経て「賛成」の立場に転じることになった人など、様々な背景がある。地元放送局として、そういった人々の心情や歴史を踏まえた、丁寧な報道をしていきたい。
    • 視聴率が取れないとの理由で、沖縄のニュースを全国ネットで取り上げてもらえない気がする。沖縄の放送局が全国に伝えなくてはいけないことはたくさんあるので、どう伝えるかを模索している。
  • 【委員】キー局などとの"温度差"を気にしすぎて、沖縄の放送局が自主規制に走ってしまうことが怖いと感じた。沖縄の人々が生活感覚として、基地がなくなることを望んでいるという情報はキー局もほしがっていると思う。情報を発信し続けてほしい。
  • 【放送局側】
    • まるで風物詩の映像を求めるように、一部の若者による"荒れる成人式"の映像をキー局から要求されることがある。他県の厳粛な成人式の映像を放送した後、「一方で沖縄は」との論調で使われており、沖縄の若者に対する悪いイメージが作り上げられてしまう。
    • 沖縄については、高い離婚率や低い所得など、極端な悪いデータが示されることが多い。沖縄には誇るべきこともたくさんあり、これらを放送で示していくことも大事だと考えている。

(2).沖縄のラジオについて

  • 【委員】沖縄のラジオ局は独特の存在感を出していると聞いている。実状を教えてほしい。
  • 【放送局側】
    • ラジオを時報代わりに聴いている中小の事業所が多いなど、沖縄には働きながらラジオを聴く慣習がある。また、鉄道がないことから車文化が発達しており、カーラジオが普及している。さらに、台風などの災害も多く、幼少時から停電対策などでラジオを聴く環境にある。
    • 当社の番組では、30~40代のパーソナリティーが中心となり、沖縄方言「うちなーぐち」で放送をしているが、年配の聴取者からイントネーションが違っているなどの苦情がくることがある。「うちなーぐち」は、地域によっても異なる。ラジオは正しい方言やアクセントを伝える一つのツールでもあり、青少年にどのように伝えていくか悩ましい。
    • ポッドキャストを利用した聴取環境が整ってきている。また、観光などで沖縄に来た際に、レンタカーでラジオを聴いて、沖縄のラジオ局のファンになったとの声が寄せられることもある。そこで、当社では、全国の聴取者を意識した放送を心掛け、「うちなーぐち」での発言については、必ず解説するようにしている。

(3).青少年への配慮についての実例(子ども情報の取り扱い)

まず、2013年3月に暴風雪に巻き込まれ、父親(凍死)に抱きかかえられて、命を取り留めた北海道の小学生に関する報道について、事務局から報告した後、意見交換を行いました。
この報道については、2013年10月に開催した「意見交換会(札幌)」で、委員から、被害者である少女への直接インタビューの必要性について質問があり、参加した各放送局からは、記者と被害者の信頼関係の重要性や、報道により防災体制が整備されたことなどが報告されています。また、一部の委員からは、子どもがインタビューの対象となった場合、事件直後のハイテンションな状態でインタビューに応えたとしても、その後に極端なパニック状態に陥ることがあるので、子どもへのインタビューには賛成できない旨の意見がありました。(詳細は『意見交換会(札幌)概要』参照)

  • 【委員】
    • ショッキングな事件などを近くで見た子どもがいれば、当然、取材する側は事実を直接聞きたいと考えるだろう。一方、取材された子どもは一生懸命答えるが、成長したときに、「なんで話してしまったのだろうか」「本当の気持ちだったのだろうか」と悩むことがある。思春期手前の子どもは特にそうで、話した自分を責めてしまうこともある。難しい問題でケースバイケースの判断が必要だが、このようなこともあり得るとの見識を持って取材に臨むことは必要だろう。
    • 年齢などにより、取材方法も変えていく必要があろう。映像の使い方も色々と考えるべきことがあると思う。原則としてきっちりと取材した後に、伝え方を慎重に考えることが大切ではないか。インターネットも発達しており、想定外の事態もおこりやすい社会環境にあることにも留意すべきだ。
    • 刺殺された少女の遺体が衣服を身に着けない状態で発見された事件があった。最近、容疑者が逮捕されたが、その際の報道で、「当時、少女が衣服を身に着けない状態で発見された」旨の情報が本当に必要だったのか、表現も含め、今一度考えるべきだろう。私は"死者の尊厳"もあると考える。特に青少年関連の報道については、そのときそのときに悩みながら配慮し、解決していくしかない。
  • 【放送局側】
    • 沖縄では青少年が集団飲酒を行って補導されることがあるが、報道した場合、模倣のおそれもあることから、慎重な判断をしている。
    • のどかな田舎で暮らしている家族を紹介するドキュメンタリー番組を制作した際、その家の男児(当時3歳ほど)の性器が一瞬映り込んだカットがあった。おおらかな暮らしぶりを描いたつもりだったが、結局、放送直前で再編集することとした。
  • 【委員】青少年委員会では、視聴者意見や、社会的な「児童ポルノ」に対する考え方も勘案して、2008年に「児童の裸、特に男児の性器を写すことについて」という注意喚起を出し、テレビ番組制作にあたっては、ほかの表現方法がないかなどを慎重に検討するよう求めている。
  • 【放送局側】沖縄では、ネグレクトなどの児童虐待やドメスティックバイオレンスの問題が深刻な課題だと感じている。しかし、当事者への配慮や周囲への影響を考えると取材が非常に難しく、課題を認識しながらもなかなか取材に踏み切れない。

◆まとめ◆

最後に、汐見委員長から出席者に謝辞が述べられるとともに、「人々が本当に平和で幸せに暮すために、どういう番組作りや報道をすればいいのか、時代の流れを鋭く感じ取る嗅覚を持ちながら、自信を持って仕事していただきたい。また、沖縄が抱える子どもの学力や貧困の問題についても、大いに取材・議論し、沖縄が進むべき道を提案していく責務があると考えている。"沖縄は新しい道を歩み始めた"と感じさせるような番組を作っていってほしい。青少年委員会は、未来を担う子どもたちや若者たちを励ますために、どのような番組が必要なのかを考え続けたいと思っているので、今後ともこういった機会を通じて意見交換したい」との感想があり、意見交換会を終えました。

以上

2014年9月9日

意見交換会(仙台)概要

◆概要◆

青少年委員会は、言論と表現の自由を確保しつつ視聴者の基本的人権を擁護し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与するというBPOの目的の為、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能」を果たす役割を担っています。今回その活動の一環として、仙台地区の放送局関係者との相互理解を深め番組向上に役立てるため、9月9日午後2時30分から午後6時までNHK仙台放送局第1スタジオで意見交換会を開催しました。
BPOから、飽戸弘BPO理事長、汐見稔幸委員会委員長、加藤理副委員長、小田桐誠委員、川端裕人委員、最相葉月委員、萩原滋委員、渡邊淳子委員が参加しました。放送局側からは、NHK・東北放送・仙台放送・宮城テレビ放送・東日本放送・FM仙台の各BPO連絡責任者、制作・報道・情報番組関係者など34人が参加しました。
意見交換会は2部構成で行い、第1部では、BPOの紹介及び青少年委員会がこれまでに公表した「見解」などの説明をしました。
第2部では、「震災後3年半を迎えた震災報道」を中心テーマに、"取材時の子どもへの影響や人権への配慮"などについて意見交換しました。
まず、NHK小林智紀記者から、「震災発生から3年半、震災報道 現在の取り組みと課題」をテーマに、次に、仙台放送西村和史ディレクターから「『ともに』を作りながら思うこと」についてそれぞれ基調報告をしてもらいました。
その後、放送局側からは番組制作上の悩みや努力の現状、委員からは報道現場に対する質問や要請が述べられました。
発災当時の報道の在り方と現在の在り方で違いを感じることがあるか?という委員の質問に対して放送局側からは、「発災当時、すぐ気仙沼に三陸沿岸の被災地の震災報道をするという拠点を設けた。当初はその拠点の意味も大きかったが、今は、全国で関心がある情報と地域として一番に伝えるべき情報の中味がだんだんずれてきている。しかし、地域の放送局として、長い道のりではあるが、伝えるべきものを粛々と伝えるべきだというスタンスに変わりはない」などの意見が述べられました。
"子どもへの影響を配慮した震災報道"をどう考えるか?というテーマについては、数人の制作者から、「基本的には取材する側とされる側の人間関係を作ることの重要性」があげられました。親密になった子どもとの会話から、あえて3月11日には取材に行かなかった経験談や、発災直後よりも3年半たった現在の方が子どもへの取材のハードルが高くなった話などが出ました。また、地元放送局として、津波の映像を極力出さないようにしている一方で、「過度の抑制は現実の過酷さを薄めることになるので配慮が必要だ」など、制作者の現場での様々な葛藤が述べられました。

◆まとめ◆

最後に、汐見委員長から出席者に謝辞が述べられるとともに、「この地域の放送関係者が、番組が青少年に与える影響について深く思考しながら、非常に慎重にかつ丁寧に対応されていることについて率直に私は感銘を受けた。今後ともこういった機会を通じて意見交換をしていきたい」旨の表明があり、3時間半にわたる意見交換会を終えました。

以上