第224回 – 2015年9月
自転車事故企画事案の審理入り決定、
ストーカー事件再現ドラマ事案のヒアリングと審理、
ストーカー事件映像事案の審理、佐村河内氏事案2件の審理、
出家詐欺事案の審理、STAP細胞事案の審理…など
自転車事故企画事案を審理要請案件として改めて検討し、審理入りを決めた。ストーカー事件再現ドラマ事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。ストーカー事件映像事案を審理し、佐村河内守氏が申し立てた2事案の「委員会決定」修正案を検討、STAP細胞報道事案の審理に入った。
1.審理要請案件:「自転車事故企画に対する申立て」
上記申立てについて前回に引き続き審理要請案件として検討し、審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年2月17日にバラエティー番組『カスペ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」と題する企画コーナー。同コーナーでは冒頭、自転車との衝突事故で母親を亡くした東光宏氏が自転車事故の悲惨さを訴えるインタビューが実名で流れた後、「事実のみを集めたリアルストーリー」として、14歳の息子が自転車事故で小学生にケガをさせた家族の体験を描いた再現ドラマを放送した。再現ドラマは、この家族が「被害者」弁護士との示談交渉の末に1500万円の賠償金を払ったが、実はこの小学生は意図的にぶつかってきた「当たり屋」だったという結末だった。
この放送に対し、インタビューを受けた東氏が7月5日付で委員会に申立書を提出。「私に対する事前取材にあたって、このような当たり屋がドラマのメインとして登場することについて、全く説明がなかった」としたうえで、番組冒頭でコメントした申立人についても、「『実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ』との誤解を視聴者に与えかねない状況にあり、私の名誉ないし信用が害され、犯罪被害者としての尊厳が害された」と訴えた。
申立書はまた、「私のインタビュー映像が、交通犯罪被害者および遺族を愚弄し冒涜する低俗な番組の前ふりに利用された」と主張。1500万円の賠償金について、「交通犯罪の被害者が、あたかも非常識な高額の賠償金を請求しているかのような間違った印象を与えかねない」、「本件番組は勝手な推測に基づく虚偽放送に当たる」等として、放送内容の訂正報道と文書による謝罪および訂正・謝罪のホームページ掲載を求めている。
これを受けてフジテレビは7月24日、本件申立てに対する「経緯と見解」書面を委員会に提出し、申立人のインタビューはあくまで当該コーナーの導入部分で、「自転車事故の悲惨さを実例で示し、視聴者の問題意識を高めた上で再構成ドラマに入り込んでいくことを目的」に放送したと主張した。そのうえで、「ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない。すなわち、再構成ドラマと申立人のインタビューの内容となった母親が被害者となった事件に関連性はなく、登場人物を含む設定の内容も類似性が全くない。『申立人があたかも当たり屋である』という受け取り方を視聴者がするとは全く考えていない。」として、番組による申立人の名誉・信用の侵害はないと述べている。
賠償金額については、「免許を必要とせず、手軽に利用できる自転車が時として甚大な被害を与え、利用者が重大な事故の加害者となり得る」ということを強く視聴者に印象付けるため慰謝料やケガの治療費、逸失利益等を加算して設定したもので、「非常識な」金額ではないと主張している。
またフジテレビは、申立人が「当たり屋」メインのドラマについて事前に説明が全くなかったとしていることについて、担当プロデューサーが申立人に台本の提供を申し入れたが、申立人がこれを断ったため、「結果として説明するタイミングを失った」と釈明している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回定例委員会(10月20日)より実質審理に入る。
2.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案のヒアリングと審理
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、申立人と被申立人のフジテレビから個別にヒアリングを行い、詳しく事情を聴いた。
申立人は、「(被害者側のみの)一方的取材で、ひどい内容の放送だった。私がストーカーをしろなんて指導したことはない。私は首謀者でもなんでもない」と述べるとともに、再現ドラマで申立人とみられる女性がストーカー被害者のロッカーに大量のガラス片を入れたことについて、全く事実でないと主張。また番組が「一部再構成というが、一部がどこまでかテレビを見ている人には分からない。会社の人はテレビで放送されたのだから事実であるという認識を持っている。(番組を見た人から)よくあんなことできるなと言われた。未だに挨拶を返してくれない人もいる。辛いし、悔しかった。本当に精神的苦痛を受けた。家族も同じだった」と訴えた。さらに被害者の取材映像や取材協力者から提供された映像にマスキング・音声加工が施されていたことについては、「(駐車場が)会社の人ならあの場所だって分かる」とする一方、事件が本件番組で放送されることを被害者らが事前に社内で流布したことに触れながらも、再現ドラマを見れば「会社の人は全部、私だって分かると思う」と、番組内容だけでも社内では申立人が特定可能だったと主張した。
一方フジテレビからは編成担当幹部ら4人が出席し、番組は「実際の事件を題材にしているが、それ以外の部分は、登場する方々が特定されないように改編している。その部分には常時『イメージ』というテロップを出しており、視聴者の方は認識できる」と説明。申立人らに取材しなかったことについても、被害者の身の安全・プライバシー保護のため「反対取材は不可能と考えていた」と述べた。また、再現ドラマで申立人とみられる女性を事件の"首謀者"としたことについて、「取材協力者から得た証言や取材内容、取材協力者と申立人の会話を録音したICレコーダーを聴いて判断した」、「100%真実をつきとめることがこの番組の目的ではない。取材をした人の証言に基づいて再構成」したと説明、また申立人がガラス片をロッカーに入れたとした根拠を問われ、「(被害者の)証言だけ」と答えた。このほか、被害者らが放送前に番組内容を社内に流布したことについて、「その事実を加味すれば、(申立人らが)特定されることは当然」としながらも、「放送自体によって人物が特定されることはないという認識で、また情報の流布については非常に予見ができないもの」として、「放送上の責任はない」と主張した。
ヒアリング終了後、委員会はその結果を踏まえて審理し、10月に第1回起草委員会を開くことを決めた。
3.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理
対象となったのは前事案と同じ、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、取材した音声データなどについては音声を変更し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会では、再度、論点の整理と質問項目の精査が行われ、次回定例委員会でヒアリングを行うことを決定した。
4.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の審理
審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。
この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
TBSテレビは「放送は聴覚障害者に対する誹謗や中傷も生んだ申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」と主張している。
今月の委員会では第3回起草委員会を経て一部修正された「委員会決定」案を審理し、今月初めに行われた担当委員による耳鼻咽喉科の医師への聴き取りの結果が報告された。
5.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の審理
審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
これに対し、フジテレビは答弁書で「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、不当に申立人の名誉感情を侵害するものでなく、いじめを容認・助長するおそれがあるとして児童青少年の人格形成に有害なものではない」と主張している。
今月の委員会では、これまでの検討で「委員会決定」案はほぼ固まっていることを確認し、前項の「謝罪会見報道に対する申立て」事案と同日に通知・公表を行う方針を決めた。
6.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理
審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
この日の委員会では、双方からの書面やヒアリングの結果をもとに第1回起草委員会を経て提示された「委員会決定」案の検討に入った。委員会の判断のポイントについて担当委員が説明し、各委員が意見を述べた。今後、第2回起草委員会を開いてさらに修正した決定案をまとめ、次回委員会に諮ることになった。
7.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理
対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は、人権侵害、プライバシー侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」として、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
また、論文に掲載されている画像やグラフに関し、「何らの科学的説明もないまま、『7割以上の不正』があったとする強いイメージを視聴者に与える番組構成は、強い意図をもって申立人らを断罪した」と主張。番組が申立人に無断で実験ノートや電子メールの内容を放送したことについては、著作権侵害やプライバシー侵害、通信の秘密に対する侵害行為にあたると訴えている。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」と主張した。
さらに、画像やグラフに関する申立人の主張に対して、「専門家が疑義や不自然な点があると指摘した事実を紹介したに過ぎず、NHKの恣意的な評価が含まれている訳でもない」と反論。申立人の実験ノートや電子メールの内容を放送したことについては、「本件番組において紹介することが極めて重要なものである」として、違法な侵害にはあたらないと述べている。
今月の委員会では事務局が双方の主張を取りまとめた資料を説明した。次回委員会では、申立人の「反論書」、被申立人の「再答弁書」の提出を受けて審理を進める予定。
8.その他
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10月5日に山形で開催する県単位意見交換会について、坂井眞委員長、市川正司委員長代行、城戸真亜子委員が出席することや、参加局との事前打合せの状況について事務局から報告した。
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系列単位意見交換会を11月24日にTBS系列の北信越4局を対象に金沢で開催することになり、事務局から概要を説明した。同意見交換会には、坂井眞委員長、二関辰郎委員、林香里委員が出席する。
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本年度中に福岡で開催する地区単位意見交換会(九州・沖縄地区)について、各委員の日程調整の結果、2月上旬に開催する方向で準備に入ることになった。同意見交換会には9人の委員全員のほか、濱田純一BPO理事長が出席する予定。
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次回委員会は10月13日に臨時委員会を開催する。10月は20日の定例委員会と合わせ2回開催となる。
以上