放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第220回

第220回 – 2015年5月

審理要請案件2件の審理入り決定
佐村河内事案2件のヒアリングと審理…など

審理要請案件3件を検討し、そのうち2件の審理入りを決定し、1件を審理対象外とした。佐村河内守氏が申し立てた2事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。

議事の詳細

日時
2015年5月19日(火)午後2時30分~9時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.審理要請案件:「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」
~審理入り決定

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人物、地名等固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたと訴える申立書を4月1日付で委員会に提出し、謝罪・訂正と名誉の回復を求めた。
申立書によると、「取材は被害者の一方のみ、加害者の調査は一切していない」とされ、取材を受けたとされる被害者らが放送前に、同社での事件が番組で放送されることを社内で言い回っていたという。その結果、放送前にそれが会社内等に知れ渡り、放送により申立人及び家族が精神的ダメージを受けたとしている。
これに対しフジテレビは4月27日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組であり、取材した映像・音声・内容を加工や変更を加えることで、本件番組の放送によって人物が特定されないよう配慮しているから、相手方側の取材を行う必要性がない」と主張している。
そのうえで同社は、「本件番組を放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない。また、申立人が自らの名誉が毀損されたとする原因事実は、本件番組及びその放送自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の中で流布されたことにあると考えられ、本件番組の放送による人権侵害があったとは考えられない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

2.審理要請案件:「農協改革報道に対する申立て」~審理対象外

政府が進める農協改革をめぐる報道に対し、全国の農業協同組合等の組織・事業及び経営の指導や、監査等を行うA会から提出された申立書について、審理要請案件として検討し、以下のとおり審理対象外と判断した。
申立ての対象となったのは、B局が本年2月に放送した情報バラエティー番組。
申立ては、「事前に取材もなかったほか、事実と異なる内容が多く、農業協同組合グループに関して悪いイメージを植え付けられ、著しく名誉を傷つけられた」と主張、文書および放送での謝罪を求めた。
これに対し局側は、「番組が取り上げた内容は、『農協改革』についての『検証』と『論評』であり、関係者や専門家への取材に基づいたもの。A会は明確な根拠をほとんど示すことなく、『事実と異なる』として謝罪を求めているのであり、受け入れることはできない」と反論した。
申立てはA会を代表して同会会長名で提出された。
当委員会は、放送により権利の侵害を受けた個人からの苦情申立てを原則としている。
団体からの苦情申立てについては、例外的に「団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるとき」は取り扱うことができることになっている。
A会が提出した資料等によると、2012年度現在、A会の会員である農業協同組合は、正組合員(461万人)、准組合員(536万人)を合わせた総組合員998万人を擁し、全国の農業協同組合数は2015年1月1日現在694組合に達している。A会はこれら全国の農業協同組合等の運営に関する共通の方針を確立してその普及徹底に務めるために相当に分化された組織によって運営されている。A会が行う、行政や全国的な組織との連携・調整等を含む事業には高度の社会性が認められ、さらに、A会会長による定期的な記者会見など、A会が相当程度の情報発信力を備えていることも認められる。
こうした団体としての規模、組織、社会的性格等に鑑み、上記運営規則に照らして、本件申立ては、当委員会が例外的に救済する必要性が高い事案とは認められないとの判断に至った。
このため委員会では、本件申立てについては、上記のとおり、委員会の審理対象外と判断した。

* 委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)1.(6)において、「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人またはその直接の利害関係人を原則とする。ただし、団体からの申立てについては、委員会において、団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるときは、取り扱うことができる。」と定めています。

3.審理要請案件:「出家詐欺報道に対する申立て」~審理入り決定

対象となったのは、NHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えたもので、出家を斡旋する「ブローカー」が出家により名前を変えることを考えていた「多重債務者」の相談を受けるシーンや、その二人のインタビューなどが放送された。二人とも匿名で、映像は肩から下のみ、または顔にボカシが施され、音声も加工されていた。
この放送に対し、番組内で「ブローカー」として紹介された男性が本年4月21日、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出。その中で、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」としたうえで、「申立人には、手の形や手の動き、喋り方に特徴があり、申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」と述べた。その結果、2014年末頃から番組ホームページで番組の動画を閲覧した「父親や友人などからは、『お前ブローカーなんてやっているのか!』といった強い叱責がなされた」として、申立人がブローカーではなかったとする訂正放送を求めている。
さらに申立人は、撮影は「再現映像若しくは資料映像との認識で撮影に応じたもの。申立人は上記問題部分がそもそも放送されるのか、放送されるとして、いつ、どの番組で、どのように放送されるのか、といった点について全く説明を受けていない」と主張している。
これに対しNHKは5月14日に委員会に提出した本申立てに対する「経緯と見解」書面の中で、「十分な裏付けのないまま、番組で申立人を『ブローカー』と断定的に伝えたことは適切ではなかった」としながらも、「申立人は『われわれブローカー』と称するなど、ブローカーとして本件番組の取材に応じており、取材班も申立人がブローカーであると信じていた。申立人は、インタビューの中で、仲介する寺や住職の見つけ方、勧誘の仕方、多重債務者を説得する際の言葉の使い方を詳しく語るなど、ブローカーと信じるに足る要素が多くあった」と反論した。
NHKはまた、記者やディレクターが、取材の趣旨や放送予定も収録前に申立人に伝えていたとするとともに、「収録した映像と音声は申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

4.「謝罪会見報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
今月の委員会では、申立人とTBSテレビからそれぞれヒアリングを行った。
申立人は2人の代理人弁護士とともに出席した。申立人側は「ABR検査という科学的な検査結果が出ているにもかかわらず、また感音性難聴という診断結果についても正しく放送せず、あたかも手話通訳が不要であるかのような印象を与える放送だった。限りなく健常者に近いという印象を与えたと感じる。ABR検査によって申立人が一定程度の難聴であることは否定できない事実である。取材を受けた医師は、実際に申立人を診断してコメントしているわけではなく、一般論として診断書のデータに整合しない点があると述べているだけである。申立人側の質問状に対して、医師は記者会見で申立人が手話通訳を使ったことは不合理とは思えないと回答している。医師が自信をもって詐聴の可能性を指摘したのであれば、その根拠を回答するはずだが、それはなく、逆にTBS側に不自然とは伝えていないと答えている。申立人が会見で手話通訳を介さずに回答している場面があるとすれば、それは、それ相応の理由がある。放送されたペンを渡す場面は、2本のペンを示されればどっちを使うかという質問の意図は誰にも分かるし、その前のやりとりで申立人は『細いペンを使う』と答えている。申立人と同じような難聴者に対する偏見や誤解を助長する不当な編集である。最初から申立人たたきの番組構成で、あら探しのように不自然な箇所を探してそれだけを取り上げて報道することに公共性・公益性はないと思う」等述べた。
被申立人のTBSテレビからは番組担当者ら4人が出席した。TBS側は「放送の際、日本の聴覚医学会で一番権威ある医師を取材しコメントをもらっているので、放送後確認をしたが、放送内容に間違いないということだった。医師が言っているのは診断書を見た限りにおいて手話通訳が必要ないということだけで、謝罪会見が不自然だったとは我々も聞いていない。医師から診断書のデータでは詐聴の疑いが考えられると言われ番組で伝えた。感音性難聴という言葉は結果的に使わなかったが、『音が歪んで聞こえる』と申立人が言っていることは伝えているし、少なくとも一切聴覚障害がないという放送はしていない。ペンを渡す場面の映像は、色紙にサインする場面とあわせ聴覚障害を前提とすると不自然なやりとりだと判断して使ったもので、その前段にペンに関するやり取りがあったとしても誤った放送にはなっていないと認識している。番組の最後に、聴覚障害者に誤解が及ばないよう「50dB程度の聴力の方でも手話通訳があると助かるということも実際あるそうです」というコメントを、一番伝わりやすい場所として入れた。この番組は情報バラエティーで、タレントがスタジオで視聴者代表として一種の井戸端会議をするという見え方をしているが、あくまでベースは報道で、きちっとした事実の積み重ねの上での演出という形になっている。謝罪会見は申立人が自らの意思で開いたもので、多くの人の注目を集めた点で公共性も高く公益性もあった。真実性は十分で人権侵害には当たらないと考えている」等述べた。

5.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案のヒアリングと審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
今月の委員会では、前項の「謝罪会見報道に対する申立て」事案と併せてヒアリングを行った。
申立人側は「有名で視聴率の高い番組のお題とされ、障害や風貌を茶化され非常に辱められ傷ついた。一音楽家に過ぎないという趣旨で申立人は一般市民だったが、謝罪会見でテレビ出演は本日が最後で、音楽活動からも退くとはっきり表明しているので、より一般市民性が濃くなったと考える。あくまで正当な社会的関心事であれば、大喜利の対象としていいと思うが、聴覚障害を揶揄することが正当な関心事と言えるだろうかというのが一番の問題である。総理大臣や政治の風刺は許容されると思うが、聴覚障害という人の最もセンシティブな部分をお笑いネタにすることは、番組のあり方として許されるべきではない。特に聴覚障害に関して性的な表現を使った回答が集中している点は悪質性が高いと考える。学校で体の障害や特徴を笑いものにするのはまさにいじめの典型的パターンだと思うが、テレビの人気番組で同じようなことをすると、子どもたちに与える影響はすごく大きい」等述べた。
フジテレビはバラエティー番組の制作責任者ら6人が出席した。フジ側は「申立人は記者会見を開いて確かに一回謝罪したが、社会的には必ずしも納得が得られず、いろいろな批判の対象になることは仕方がないと考える。そういう意味で公人的立場にあったと理解している。風刺による正当な批判表現は人権を侵害しないとか公序良俗に反しない等の一定の条件で認められるべきであり、一連の騒動のイメージを利用し風刺による批判表現を狙いとしてお題を設定することは問題ないと考える。回答としては、正当な批判に主眼をおいた回答と、そうではない回答の多分2種類あると思うが、全体を見渡せば正当な批判の中に入っていると判断している。申立人は社会的弱者ではなく、社会的弱者を批判しているわけではないので、いじめの助長とは考えていない。今回の事案が問題とされると、テレビのお笑いのジャンルから一つの表現手段が奪われかねず、公人的立場の人の不正に対する風刺による正当な批判が許されないことにつながると危惧している」等述べた。

6.その他

  • 今年度中に予定している放送局現場視察に関し、事務局から日程等について説明した。
  • 次回委員会は6月16日に開かれる。

以上