第97回 放送と人権等権利に関する委員会

第097回 – 2005年2月

「産婦人科医院・行政指導報道」案件について協議

「けん銃密輸事件報道」案件について協議…など

「産婦人科医院・行政指導報道」案件について協議

愛知県の産婦人科開業医院長からNHKのニュース番組(2005年1月25日放送)について、1月31日事務局に、下記の苦情申立てがあり、2月8日に「申立書」が提出された。委員会では、この案件について審理入りするどうかについて検討した。

申し立てた院長は、NHKの記者から、「助産師不足の実態を調べ現状の改善に役立つ番組を企画したい」と番組企画を持ち出して協力要請があったので、取材に応じた。しかし、その日の夕方のニュースで、2003年10月に助産師の資格がない看護師、准看護師に助産行為をさせていたとして行政指導を受けたことを取り上げ、実名で報道された。2年も前のことを今になって取り上げた、この放送によって、名誉と信用を毀損され人権を侵害された、としている。

これに対し、NHK名古屋放送局は、「無資格者による助産行為は重大な社会的問題と認識し、愛知県内でも行政指導の事例があったことを啓発することが重要だと判断して報道したのであって、特定の意図を持って報道したものではない」「記者は最初から事実関係を確認したいと告げて取材した」と反論している。

また、NHKとしては、「院長から抗議を受けた『コメント内容の間違い』と『改善指導をうけた時期の明示』については、翌日修正放送などをし、放送上の対応については理解を得られたと認識している。今後も誠意を持って話し合いを続け、要求に対しては誠意をもって対応したい」としている。

委員会では、院長からの「申立書」とNHKからの「対応報告」を基にこの件を審理対象とするかどうか協議した結果、申立人が放送人権委員会での審理を強く求めていることや、当該局とこれ以上の話し合いを拒否していることから、審理事案とすることを決めた。

放送人権委員会では、「申立書」に当該局への要求が明確に記載されていないなど不備があるため、次回3月の委員会までに補正した「権利侵害申立書」を提出してもらうとともに、それに対する当該局の「答弁書」などの提出を求め、それを基に実質審理に入ることにした。

「けん銃密輸事件報道」案件について協議

奈良県の女性から、ニュース番組の特集(2004年10月放送)について、事務局に12月24日抗議文が送付され、1月28日「申立書」が届いた。内容は、「『けん銃密輸事件』を伝えた特集で、虚偽の報道をされて精神的打撃を被るとともに、けん銃密輸入グループの一員として犯人視され、人権が侵害された」と申し立ててきたもの。

委員会では、申立書や当該局の見解を検討する一方、当該局から提出された放送済みVTRを視聴し協議した。

放送人権委員会の運営規則第5条(2)には、苦情の取り扱い基準として、「放送されていない事項は原則として取り扱わない」と規定されているが、報道された首謀者に関する放送内容に誤りや歪曲があった場合には、共犯とされる者からの申立てであっても例外的に審理対象とするのが公平ではないかとの視点からも、慎重に検討した。

しかし、当該番組を視聴し判断したところ、申立人を特定して共犯者とうかがわせる事実は見出せなかった。したがって、本件報道による被報道者としての申立人資格を認めることは困難であり、このようなケースまで審理対象の範囲を拡大すると、報道を萎縮させるおそれがあるという意見が大勢を占めた。

こうした理由から、委員会は本件申立ては審理対象外として、審理しないことを決め、事由を記載した委員長名による文書を、申立人に送付することにした。

「委員会決定」に関する名古屋テレビの対応について検討

2004年12月に委員会決定を通知・公表した「警察官ストーカー被害者報道」事案(放送人権委員会決定24号)に関して、名古屋テレビから「対応報告」が提出されたことを、事務局から報告した。この委員会決定は、”問題なし”とする見解であり、委員会は当該放送局に決定通知後の対応・改善報告を求めていなかったが、05年1月末に名古屋テレビから自主的に提出された。

名古屋テレビの取り組みの概要は、「以前から同局が運用している『人権・プライバシーの尊重、報道被害の防止、名誉毀損の防止等にかかわる留意事項』を、全社員・スタッフで再確認した」とし、具体的には、「どのようなニュースでも取材・放送の是非、対応の仕方等で疑問がある場合は、複数の階層に多岐にわたって判断を仰ぐこと」や、「事案を担当した第一次取材者は取材内容や関係者の発言内容等を詳細な記録として文書化すること」などを改めて確認した、というもの。

委員会では、名古屋テレビから自主的に対応報告が提出されたことを評価するとともに、報告内容を了承した。

人権に関する苦情対応状況(1月)

2005年1月の1か月間に寄せられた放送人権委員会関連の苦情の内訳は、次のとおり。

◆人権関連の苦情〔12件〕

  • 斡旋・審理に関連する苦情(関係人からの人権関連の苦情で、氏名・連絡先や番組名などが明らかなもの)・・・7件
  • 人権一般の苦情(人権関連だが、関係人ではない視聴者からの苦情、または、氏名・連絡先や番組名などが不明なもの)・・・5件

「視聴率調査に関わる検証会」報告

飽戸委員長から、民放連と広告主協会、広告業協会で構成する「視聴率調査に関わる検証会」の発足について報告があった。飽戸委員長は「この検証会の発足は、『視聴率に関するBPO三委員長の見解と提言』に基づいて、民放連会長直属の「視聴率等のあり方に関する調査研究会」(座長=清水英夫BPO理事長)が設置を決めたもので、私も委員として参加することになった。視聴率調査の監査を外国のようにきちんとやろうということで、検証活動を積極的に進めていくことになる」と経過を語った。

その他

事務局より、3月7日(月)広島市で開かれる「放送人権委員会委員との意見交換会[中・四国]」について、スケジュール案などを報告し、調整・相談。

次回放送人権委員会を3月15日午後4時から開くことを決め、閉会した。

以上