第88回 放送と人権等権利に関する委員会

第088回 – 2004年5月

「国会・不規則発言編集問題」ヒアリング

「中学校教諭・懲戒処分修正裁決報道」委員会決定の総括…など

「国会・不規則発言編集問題」ヒアリング

◆ 申立人側ヒアリング

(出席者)申立人 自民党衆議院議員 藤井 孝男 氏
外2名

冒頭、申立人が持参した「意見要旨」に基づいて申立人が下記のような心情を陳述した。

「自分は、従前より北朝鮮問題について消極的な姿勢を示したことはなく、特に拉致被害者の救済に関する問題について妨害をするような態度をとったことはない。しかるに『ビートたけしのTVタックル』(03年9月15日放送)においては、横田めぐみさんの実名を公表した野党議員に対し、あたかも自分がその発言を妨害するために不規則発言を繰り返したかのような印象を与える編集映像が流された。

これによって自分の名誉が毀損されたことは明らかであり、政治的信条・政策に関わる本件のような虚偽の報道をされることは、まさに政治的生命を絶たれかねないほどの衝撃がある。

テレビ朝日は、ダイジェスト保存版テープから編集したことによる、全くの思い違いから犯した『誤った編集』であったと弁解しているが、「確定的な意図」に基づいた捏造編集であるとの疑いは未だ払拭できない」

この本人陳述に続いて質疑が行われた。委員からの主な質問は以下のとおり。

  • テレビ朝日は、申立人に発言の機会を番組で与えたり、謝罪番組を2回放送したり、さらには社長が系列社長会で謝罪したりと、局側としてはおそらく最大限の対応をしていると思うが、この点はどうか。
  • 具体的に編集のどういう経緯を明らかにされればよいと考えるか。
  • 今、テレビ朝日に一番求めることはなにか。
  • 申立人のいう「確定的な意図」とは何か。

(申立人側ヒアリング約50分間)

◆被申立人側ヒアリング

(出席者)被申立人 テレビ朝日 編成制作局編成専任局次長
外2名

冒頭、テレビ朝日側から「なぜ『誤った乱暴な編集』がおこなわれたか」について下記のような説明があった。  「『TVタックル』は制作会社との共同制作で、具体的な番組制作は制作会社で、内容チェック・放送責任はテレビ朝日が負っている。

昨年9月放送の当該番組は3部構成で、その第1部が『自民党総裁選の4候補と北朝鮮問題への取り組み視点について』をテーマとしていた。

この日ゲストの西村真悟委員が1997年(当時新進党)国会ではじめて横田めぐみさん拉致の問題を取り上げたが、当時内閣・国会がどういう空気でこれを捉えていたかということを認識してもらうために、そのときのビデオテープを使った。この時、番組で保存していたダイジェスト版テープから抜き出して、西村発言と(10分後の藤井議員の)不規則発言を直接つなぐという乱暴な編集をしてしまったのである。尺を短くするというディレクターの判断だったが、藤井議員はじめ視聴者にも誤解を与える表現をしたことは、本当に申し訳なく思っている。

藤井議員の指摘を受けて、調査結果等について話し合いをしようとしたが、藤井氏が『この問題は自民党の問題で、党に全て任せてある』という立場だったので、直接の話し合いの場は全くといっていいほど持てなかった。当時の幹事長・幹事長代理には謝罪放送の話はしたが、藤井氏とは意思の疎通が得られなかったことは非常に残念に思う」

この意見陳述に続いて質疑が行なわれた。委員からの主な質問は以下のとおり。

  • 「保存テープ」とか「ダイジェスト版」といった言葉が出てくるが、どういう意味か。
  • このダイジェスト版というのは、横田さん拉致問題、加藤幹事長北朝鮮へのコメ支援問題、不規則発言の3か所のダイジェスト保存版からの編集としているが。
  • それがどうしてあのような編集になったのか。
  • 一貫性があるとしたら、コメ支援を推進した加藤幹事長の問題についての部分を入れた上で不規則発言が入るならば言われた意味はわかるが、コメ支援問題が全部ドロップしてしまったのはなぜか。
  • これまでのお詫びや謝罪でテレビ朝日側の責任は果たせたと考えるか。

(被申立人側ヒアリング約70分)

(休憩後審理再開)

委員長からまず、「今日のヒアリングを通じて若干新しい情報として伝わったものはあった。全く新しい事実が出てきたというようなことではないが、ヒアリングを終えて改めて考えるべきことがあれば述べて欲しい」との要請があり、各委員が次のような意見を述べた。

「『誤って編集した』とするテレビ朝日の弁明は歯切れが悪いが、根拠はないとはいえないし、ましてや故意に『藤井議員が拉致の事実に消極的であるという印象を視聴者に与える』という意図の下に編集したとまでは認められないようだ」

「テレビ朝日側が(誤りを)明確に認めているのであれば、放送人権委員会で改めて認定する必要はなく、テレビ朝日がそれを認めているという事実だけを記述すればよいという意見を前回の委員会で申し上げたが、その点今日聞いた限りではどうもはっきりしない」

以上のような議論の後に、もう一度持ち回り委員会で最終的な詰めを行ったうえで「委員会決定」を完成させ、6月4日に通知・公表することを決めた。

「中学校教諭・懲戒処分修正裁決報道」委員会決定の総括

委員長が、「5月14日に(上記表題の)委員会決定を通知・公表した」と述べ、続いて事務局から次のように経過報告した。

「5月14日、委員長以下4人の委員が出席のもと、『委員会決定』を北海道文化放送(UHB)に通知、その後記者会見をして『委員会決定』の内容を公表した。北海道在住で、当日授業のため上京できなかった申立人には、放送人権委員会担当調査役が札幌に赴き、『委員会決定』を手渡し、委員会判断部分を朗読した。これに対し申立人は、『委員の先生方が自分の事案のために多くの時間を割いていただいたことに感謝する。自分自身もこの委員会決定をいろいろな意味で重く受け止めている』と話した。

また、UHBからは本日、『委員会決定』に対する『見解』と『委員会決定』の主旨を伝えるニュースのビデオテープが届いた。その見解は、『今回の決定を受けて、今後、取材・編集体制を強化するとともに、スタッフに対する人権教育をさらに徹底し、放送倫理と人権に一層配慮する』というものであった」 (委員会決定と当該放送局の「見解」を伝えるビデオテープを視聴の後、事務局から以下のとおり説明を補足)

「UHBの報道は、コンパクトではあるが、よく『委員会決定』の主旨を伝えているのではないか。今後、UHBは、民放連の申し合わせ通り、勧告に対する対応と改善策を3か月以内に放送人権委員会に報告することになるが、真摯に対応していただけるだろうと思う」

4月の苦情対応

◆人権関連の苦情〔12件〕

  • 斡旋・審理に関連する苦情(関係人からの人権関連の苦情で、氏名や連絡先 番組名などが明らかなもの)・・・6件
  • 人権一般の苦情 (人権関連だが、関係人・当事者ではない視聴者からの苦情、または、氏名・連絡先や番組名などが不明なもの)・・・6件

◆その他、放送人権委員会への問い合わせなど・・・0件

◆事務局から検討事項の報告があり、検討した。

「すでに4月20日の委員会で『審理対象外』としたドキュメンタリー番組事案の申立人から、『お礼と要望及び質問について』とする文書が届いた(5月6日)。そこでは『真の開発者たちの誇りを傷つけた道義上の責任はもとより、違法行為とも思われるような他人や他社を登場させた放送局の行為は、人権救済を目的とした放送人権委員会の審理対象とはならないのか』といった質問への回答を求めている」と報告。これに対し、委員からは「(この事案は)取り上げることはしないということを、前回の委員会で了解を得て、すでに委員長名で『ご連絡』として申立人に送付しているが、さらに何か最終的な通告をすべきかどうか」「前回文書が委員会からの最終文書のはずであるから、その必要はないのではないか」などといった意見が出されたが、検討の結果、事務局名で前回委員会の結論である『審理対象外とすることに変更がない』旨の文書を送付することが了承された。

その他

事務局内の異動について紹介があり、当事者が挨拶。

続いて事務局から、BPOの存在と意義を広く知ってもらうために、放送人権委員会と青少年委員会のそれぞれが個別の告知スポットCFを現在製作中で、7月から全国の放送局で放送してもらうことになっていることなどについて報告した。

(閉会 19時10分)

以上