第70回 – 2013年4月>
"内部告発者"のモザイク映像が別人だった
関西テレビの『スーパーニュースアンカー』を審議入り
知事選挙期間中に候補者映像を放送のバラエティー番組
審議入りせずも、各局に注意喚起の「委員長コメント」公表
第70回放送倫理検証委員会は4月12日に開催された。
5人の新委員を迎えて、新しい任期が始まる委員会となったため、冒頭、委員の互選による委員長の選任が行われ、川端委員長の留任が決まった。また、川端委員長の指名により、委員長代行に小町谷委員(留任)と水島委員(新任)が就任することになった。
関西テレビの報道番組で、内部告発者のモザイク映像として放送されたものが別人を使って撮影したものであったことが、新聞報道で明らかになった。告発者本人から一切の撮影を拒否され、取材スタッフの後姿を撮影していたという。取材担当者は放送前にこうした事情を上司に報告していなかった。また、事情が判明した後も、当該局は3か月以上、視聴者への説明やお詫びなどを行っていなかった。委員会は、取材・制作の手法にも、放送後の対応にも、放送倫理上の問題があることは明らかだとして、審議入りすることを決めた。
フジテレビのバラエティー番組で、選挙期間中の現職知事の映像が約10秒間放送された。過去の映像を総集編的にまとめて紹介する中に、昨年11月、知事がこの番組に出演した時のものが含まれていた。制作担当者には選挙期間中であることの認識がなく、局内のチェックも機能しなかった。委員会は、選挙の公平性・公正性に万全を期すよう求めた3年前の意見書の趣旨が徹底されていないとして、審議入りはしないものの、「委員長コメント」をBPOのホームページなどに公表し、各局にも注意を喚起することとした。
議事の詳細
- 日時
- 2013年4月12日(金)午後5時~8時
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.内部告発者のモザイク映像が別人だった関西テレビの報道番組『スーパーニュースアンカー』
2. 知事選挙の期間中に現職候補者の映像を放送したフジテレビのバラエティー番組『VS嵐』 - 出席者
- 川端委員長、小町谷委員長代行、水島委員長代行、香山委員、小出委員、是枝委員、斎藤委員、渋谷委員、升味委員
1.内部告発者の映像が別人だった関西テレビの『スーパーニュースアンカー』
関西テレビの夕方のローカル報道番組『スーパーニュースアンカー』は2012年11月30日、「大阪市職員 兼業の実態」と題した特集企画で、兼業の実態を証言する"内部告発者"のインタビューを放送した。その際、音声は告発者本人の声にボイスチェンジを施したものだったが、映像は取材スタッフの後姿にモザイクをかけて偽装したものだった。告発者本人が、自分の体が少しでも映ることを拒んだためだという。
この撮影は、担当記者の判断によって行われたが、放送まで10日以上もあったにもかかわらず、デスクや編集責任者など上司への相談や報告はなく、内部チェックは機能しなかった。
放送終了後に取材スタッフからの通報で問題が表面化したあと、報道局だけでなく、社内のコンプライアンス担当者の会議などでも、問題点を探り再発を防ぐための議論は行われたが、視聴者への説明やお詫びは何ひとつなされなかった。当該局によると、告発者を守るために不適切な手法を取ったが、告発者本人の声を伝えた報道の内容や趣旨に偽りはなかったためだという。視聴者への説明やお詫びが行われたのは、2013年3月13日に新聞報道がされたあとで、放送から3か月以上が経過していた。
委員会は、取材・制作の手法にも、放送後の対応にも、放送倫理上の問題があることは明らかだとして、審議入りを決めた。
【委員の主な意見】
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問題点は大きく言うと2つ。なぜそういう映像が作られ、チェックが働かずに放送されてしまったのか?なぜ誤りを犯した後の自主的・自律的な是正の措置が取られなかったのか?
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兼業している人がいました、だけではなく、兼業者が存在する理由や背景に何が潜んでいるのかを伝えるのが、報道本来の使命やありかたなのではないか。そこから先にある、重要な問題に触れられていない。
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この内部告発者は、なぜ告発を決意したのだろう。そこにはどんな気持ちや状況があったのかも知りたいが、それにも触れられていない。
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声は内部告発者本人なのだから、映像は別人でもいいということが、報道の世界で通用するはずがない。たとえモザイク掛けであれ、本人が話していることが、報道の『信頼性』につながる。この手法は誠実ではない。
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果たして取材対象を守るために替え玉を用意するような場面だったのか?無理にそれらしい映像を作らなくても、代わりの映像や手法はいくらでもあるはずだ。
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やはり、映像と音声がそろってこその『報道』だろう。この事案が審議入りしたほうがよいと思う理由は、放送後の対応があまりに悪すぎるということもある。実は音声も作ったのではないか?という疑いすら持たれかねず、報道そのものに対する信頼性を失わせかねない。
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6年前、この局で起きた「あるある問題」の重い教訓は、現在も本当に根付いているのか。疑問を持たざるを得ない放送後の対応だ。
2.知事選挙期間中に現職候補者の映像を放送したフジテレビのバラエティー番組『VS嵐』
千葉県知事選挙(2月28日告示・3月17日投票)は、現職の森田健作知事が再選を果たしたが、選挙期間中の3月7日、フジテレビのバラエティー番組『VS嵐』で約10秒間、森田知事の映像が放送された。総集編形式で1年間の嵐メンバーの好プレー珍プレーを紹介した中に、昨年11月に出演した森田知事の映像が含まれていたもの。視聴者から指摘があるまで、制作担当者は放送日が千葉県知事選の期間中であることや、森田知事が立候補していることを認識しておらず、局内のチェックも機能していなかった。
委員会では、放送エリア内の千葉県知事選挙について、フジテレビの社内で情報の共有や注意喚起が行われていなかったことを危惧する意見が相次いだ。また、3年前に委員会が出した「参議院議員選挙にかかわる4番組についての意見」(委員会決定第9号)で、選挙は民主主義社会の根幹であり、公平性・公正性に万全を期すよう求めた趣旨が、放送現場に徹底されていないことを懸念する指摘もあった。最終的には、再放送の映像であり、短い時間の放送なので、審議入りしないことになったが、今年が参議院議員選挙の年であり、各局に対する注意喚起を兼ねて、何らかのメッセージを発するべきだとの意見で一致した。BPOのホームページなどに「委員長コメント」として公表する。
【委員の主な意見】
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千葉県に住んでいる番組制作スタッフは、ひとりもいなかったのか?それとも県知事選挙に関心が全くなかったのか?
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放送時間はわずかだが、「知事ボール」という声が聞こえるのは気になった。
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番組の制作スタッフは、嵐のメンバーの面白いシーンを集めることしか考えていなかったということだろう。
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千葉県知事選の立候補者について、社内で注意喚起していないのは、キー局としてはお粗末だ。放送エリア内の知事選ぐらいは、ちゃんとチェックしてほしい。
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3年前の委員会決定でも、芸能人の候補者に関する、今回とよく似た事案があって警鐘を鳴らしたが、その教訓が生かされていない。
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あのときの事案では、投票日当日に12分以上も候補者を放送していたので、それよりは罪が軽いといえるだろう。
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審議入りすべき事案とは考えないが、今年は参議院議員選挙の年でもあり、 各局に対してのメッセージは発したほうがいい。
■委員長コメント
フジテレビは千葉県知事選挙の選挙期間中であった本年3月7日に放送したバラエティー番組『VS嵐』で、知事選に立候補中の森田知事の映像を使用した。これは昨年11月に放送された回に「チーム千葉」の一員として出演していた森田知事の映像が総集編で使用されたものであるが、「知事ボール」と名付けたボールを使ってゲームを行い、それを「チーム千葉」の法被を着た森田知事が応援するという映像なので、森田氏と千葉県知事を強く結びつけるものであった。このようなことになったのは、番組制作者も編成担当者も、千葉県知事選挙の選挙期間中であり森田氏が立候補していることを全く失念し、視聴者から指摘されるまで気づかなかったためである。
この番組は、民放連放送基準第2章(12)の解説で「立候補者及び立候補予定者の出演は公示(告示)後はもちろん、少なくとも公示(告示)の1ケ月前までには取りやめることが望ましい」とされていることに明白に違反しており、実質的にも選挙の公平性を害するおそれがあったことは明らかであろう。
委員会は、「参議院議員選挙にかかわる4番組についての意見」(委員会決定第9号)で、候補者がリポーターとして出演する旅番組を投票日当日にBSジャパンが放送したことを審議の対象とした。一方、今回の番組では候補者の露出時間が約10秒であり、投票日当日に約12分にわたってリポーターとして出演し続けたBSジャパンの事例とは放送倫理違反の程度が著しく異なること、当該局が、地方を含むすべての選挙について編成部と報道局が連携して選挙予定と立候補が想定される人物について制作現場へ情報提供する体制を構築し、制作現場でもキャスティングに際して立候補の予定を可能な限り確認することとされたこと、ガイドライン「選挙立候補者などの番組出演に関する注意事項書」が作成され、バラエティー制作センターの全プロデューサーと全編成部員を対象とする講習会が開催されたことなど、再発防止策が徹底されたことから、審議の対象とはしないこととした。
しかしながら、在京キー局で千葉県知事選挙の選挙期間中であることを全く意識しないで番組が制作され、誰もチェックしないまま放送されたということは、放送の現場で、民主主義の根幹を成す選挙の公平・公正性を守ることの重要性についての意識が低下しているのではないかと疑わせるに十分な事態である。今年は参議院議員選挙の年であり、しかもこの選挙はこの国の方向性を決定的に左右する重要な選挙になると思われる。前述した委員会の意見書で述べたように「代議制民主主義制度において選挙が公平・公正に行われることはその統治の正統性を担保する唯一無二の手段であり、民主主義の根幹を成すきわめて重要なものである」ので「選挙にかかわる番組制作・放送における公平・公正性を徹底」することが絶対に必要である。委員会は、この機会にあらためて全放送局に対し、選挙の公平・公正性を守るという意識を高めることと、選挙の公平・公正性を守るために必要なチェックの仕組みがきちんと構築されているかどうかを再点検することを要請しておきたい。
以上