2014年6月9日
顏なしインタビュー等についての要望
~最近の委員会決定をふまえての委員長談話~
放送と人権等権利に関する委員会
委員長 三宅 弘
I.情報の自由な伝達と名誉・プライバシーの保護など
人が自由に様々な意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことは、個人として自己の思想及び人格を形成、発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保を実効あるものとするためにも必要である。しかし、高度情報通信社会において、他人に知られたくない個人のプライバシー、名誉、肖像などはみだりに侵害されることのないよう保護することも必要である。情報の自由な伝達とプライバシーや秘密の保護との適正な調整があってこそ、行きすぎた社会の匿名化を防ぐことができる。
II.安易な顔なしインタビューが行われていないか
テレビニュースなどで、ボカシやモザイクを施したり、顔を写さないようにして、取材対象が特定できないようにする、いわゆる顔なしインタビューが放送されることがある。
知る権利に奉仕する取材・報道の自由の観点からは、取材・放送にあたり放送倫理における、事実の正確性、客観性、真実に迫る努力などを順守するために、顔出しインタビューを原則とすべきである。
この点について、テレビ局各局では、顔出しインタビューを原則としつつ、例外として顔なしインタビューを認める場合について検討し、社内ルールを定めている。海外では、例外としての顔なしインタビューをするにあたり、国際通信社傘下の映像配信会社が理由を付記したうえで配信したり、放送局が報道部門幹部だけでなく、法務部等社内複数の関係部署の承諾を義務付けている例もある。
しかし、実際の取材現場では、被取材者側に顔を出してインタビューに応じることへの抵抗感が強まる傾向があることや取材者側に顔を出すよう説得する十分な時間がないなどの理由から、顔なしインタビューが行われるケースも多いのではないかと推測される。とりわけ、地域の出来事について、周辺住民のインタビューをする際に、特に匿名にしなければならない具体的な理由が見当たらないにもかかわらず、安易に、顔なしインタビューが行われてはいないだろうか。
III.安易なボカシ、モザイク、顔なし映像はテレビ媒体の信頼低下を追認していないか
テレビ画面では一層、ボカシやモザイク、顔なしインタビューが日常化している。しかし、事実を伝えるべき報道・情報番組がこの流れに乗って、安易に顔なし映像を用いることは、テレビ媒体への信頼低下をテレビ自らが追認しているかのようで、残念な光景である。テレビ局の取材に対して取材対象者が顔出しでインタビューに応じてくれるかどうかは、テレビという媒体が、あるいは取材者が、どこまで信頼されているかを測る指標の一つであると考えられるからである。
IV.取材、放送にあたり委員会が考える留意点
以上をふまえると、取材にあたっては、次の事項に留意すべきである。
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(1)真実性担保の努力を
安易な顔なしインタビューを避けて、可能な限り発言の真実性を担保するため、検証可能な映像を確保することなどの努力を行うことが大切ではないか。 -
(2)取材対象者と最大限の意思疎通を
安易な顔なしインタビューを避けるには、限られた時間であっても取材対象者と可能な限り意思疎通を図るよう努めるべきではないか。 - (3)情報源の秘匿は基本的倫理
情報の発信源は明示することが基本であるが、情報の提供者を保護するなどの目的で情報源を秘匿しなければならない場合、これを貫くことは放送人の基本的倫理である。
放送時においても、原則は顔出しインタビューとすべきである。一方、特にデジタル化時代の放送に対し、インターネットなどを用いた無断での二次的利用等が起こりうる可能性を十分に斟酌したボカシ・モザイク処理の要件を確立すべきである。
よって、放送にあたっては、次の事項に留意すべきである。
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(4)プライバシー保護は徹底的に
プライバシー保護が特に必要な場合は、一般の視聴者のみならず取材対象者の周辺にいる関係者においても、放送された人物が本人であると識別されることのないように慎重に行うべきである。その場合でも、前後の映像やコメント等によって識別されることがありうるので注意すべきである。中途半端なボカシ・モザイク処理は憶測を呼ぶなどかえって逆効果になりうることに留意すべきではないか。 -
(5)放送段階で使わない勇気を
伝える内容と使用する映像との関係を十分に吟味し、ボカシなど加工を施してまで使用することが必然ではない映像については、放送時にこれに代替する映像素材を検討し、場合によってはその映像を使わないことも認めることがあってもよいのではないか。 -
(6)映像処理や匿名の説明を
ボカシ・モザイク使用や顔なし映像の場合は、画面上でその理由を注記(字幕表示等)することで、メディア取材に対する市民意識を変える努力をすべきではないか。 -
(7)局内議論の活性化と具体的行動を
一つ一つの映像を放送するに当たり、逮捕時の連行映像など定型的にボカシ・モザイク処理をするものも含め、なぜ必要なのかの議論を日常的に行うことが大切ではないか。社内ルールが定められていない放送局においては早急にルールが策定されるべきである。
V.行き過ぎた"社会の匿名化"に注意を促す
以上の留意点をふまえ、原則は顔出しインタビューであり、あくまで例外として顔なしインタビューを認めるという点について、テレビ局各局は、放送関係者だけではなく、一般社会においても認知されるよう努力すべきである。その際、取材対象となる市民との信頼関係に基づく十分な意思疎通が必要である。これにより、人が自由に様々な意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことの大切さを認識することができる。また、例外的に顔なし映像を用いたり匿名化の処理をする場合には、画面上でその処理の理由を注記することなどにより、行きすぎた社会全体の匿名化にも注意を促すことができるものと考える。