第165回 – 2010年9月
「大学病院教授からの訴え」事案の審理
「機能訓練士からの訴え」事案の通知・公表の報告 ……など
「大学病院教授からの訴え」事案の審理が行われ、番組で取り上げられた民事裁判の判決や教授への取材方法について、担当委員からの説明とそれに基づく議論が行われた。9月16日に行われた「機能訓練士からの訴え」事案の「委員会決定」の通知・公表について、事務局より報告した。委員会終了後、在京地区各社との意見交換会が開かれた。(意見交換会の詳細はシンポジウム・意見交換会の項をご覧ください)
議事の詳細
- 日時
- 2010年 9月21日(火) 午後3時~5時30分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 「大学病院教授からの訴え」事案の審理
「機能訓練士からの訴え」事案の通知・公表の報告
8月の苦情概要
その他 - 出席者
- 堀野委員長、樺山委員長代行、三宅委員長代行、大石委員、小山委員、坂井委員、武田委員、田中委員、山田委員
「大学病院教授からの訴え」事案の審理
この事案は、テレビ朝日・朝日放送が2010年2月28日に放送した『サンデープロジェクト』の特集コーナー「隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」について、大学病院教授から不当な直撃取材をされたことや放送の内容が偏向していたとして申立てがあったもの。
2回目の実質審理となった今回は、番組で取り上げられた民事裁判での地裁と高裁の判決について、症例登録票の扱いや患者に対する説明義務の有無などの争点と判決の解釈について、担当委員から説明が行われた。また取材担当の委員からは、教授への取材方法をめぐって問題点があったかどうか、報告が行われた。さらに「委員会決定」案の起草を行うことになった委員からは、全体的な観点から検討すべき問題点が指摘された。本事案の審理では、メディアの取材行為や医療裁判に関する的確な理解と判断が欠かせないため、このように委員が専門にかかわる分野について分担して問題点の整理を行う、これまでにない方法がとられた。
この日の委員会では、申立人、被申立人から詳しい事情を聞いたうえでさらに議論を深める必要があると判断され、次回委員会でヒアリングを行うことになった。
「機能訓練士からの訴え」事案の通知・公表の報告
9月16日に行われた本事案の「委員会決定」の通知・公表の概要、および通知・公表を受けての各局の放送対応をまとめた資料を事務局より配付し、報告した。
(決定全文はホームページの「委員会決定」の項、第45号をご覧ください)
通知・公表の概要は以下の通りである。通知は、9月16日午後1時30分よりBPO会議室で、堀野委員長および起草委員を務めた坂井委員と田中委員が出席し、申立人、被申立人が同席する形で行われた。
堀野委員長はまず、「本件放送に名誉や肖像権等の権利侵害はなく、放送倫理違反に当たる点も認められない」とする見解を通知し、「決定の概要」を読み上げた。そのうえで、権利侵害がないと委員会が判断した理由を説明するとともに、「補助的映像であっても、重要なものとして扱う以上は、そこに映されている人たちの肖像や気持ちに事前に十分に配慮してほしかった」と、被申立人に対して要望を述べた。
通知の後、個別に意見や感想を聞いた。
申立人は委員会での審理にお礼を述べた後、「事実関係の認定に不満はない。しかし、それをどう判断するかについては加害者側と被害者側で溝があるというのが率直な感想だ。委員会は社会的に許容される範囲内と判断されたのだと理解した。ただ、11月の放送で、自分たちの活動理念と全く立場を異にする例と一緒に放送されたことは大いに不満である。また、委員会で指摘していただいたが、これだけ映像を使用しながら事前に何の連絡もなかったことは、公共放送としておかしいのではないか」などと述べた。
被申立人は、「事実関係については主張を認めてもらえてありがたく思う。今回の映像使用に関しては、提供映像であったため権利処理に軽率な点があったことは指摘されたとおりである。提供映像を使用する場合、報道だけでなく制作も含め教訓として活かしていきたい」などと述べた。
午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。26社52名が取材に訪れ、テレビカメラ6台が入った。
まず堀野委員長が決定の概要を説明した後、坂井委員から「委員会決定」の流れに沿って詳しく説明した。坂井委員は「企画の意図はよかったが、映像に用いられている人たちの考え方に事前にもっと思いをいたしていれば、申立てを防ぐことも可能だったかもしれない」とコメントした。
田中委員は「テレビで取り上げられる側の期待と公平・公正でありたいと思う局側とのスタンスにはギャップがあるものだが、肖像権処理に問題があって双方のやり取りが増え、複雑になった。全体としてはよい番組だった」と述べた。
記者との質疑応答では、申立人からTBS宛て2010年1月15日付けのFAX文書について質問があった。申立人による番組の企画提案であった旨を答えると、「申立てにある『善意をふみにじる行為』の中にこのことも含まれているのか」と質問が続いた。
坂井委員と堀野委員長が回答し、TBSがこの企画案を断ったことを契機に申立てが行われたこと、素材となる一般の人の期待と現実の番組との間の「ずれ」や、放送される側の期待と局側の考えの「ずれ」が申立ての背景にはあると思われるが、編集権はあくまでも局側にあると判断したこと、企画についての具体的な合意が双方にあれば別だがそれはなかったことなどを説明した。
「TBSはこの機能訓練士に取材をしたのか」という質問が出た。取材をしていない旨を答えると、「なぜ取材をしなかったのか」と重ねて質問があった。
堀野委員長は、「番組のテーマは障害を持つ少女がなぜ普通中学校に進学できないのかを問題提起することにあり、少女の機能獲得のプロセスや方法がメインストリームではないということだった。企画意図を考えると、委員会は機能訓練士を取材しなかったこと自体に問題があるとは判断しなかった。しかし、映像の使用に関連して事前に挨拶はするべきであったと考えた」などと答えた。
8月の苦情概要
8月中にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、放送人権委員会関連の苦情・相談・批判の内訳は以下の通り。
- 審理・斡旋に関する苦情・相談・・・・・3件
(個人又は直接の関係人からの要請) - 人権一般の苦情や批判・・・・・・・・・41件
(人権問題、報道被害、差別的表現など一般視聴者からの苦情や批判)
その他
- 8月25日に開かれた総務省ICTフォーラムで、BPOの活動についてのヒアリングが行われた。当日のやり取りの概要を事務局より報告した。
- 毎年開かれている放送人権委員と各地のBPO加盟放送事業者との意見交換会を、今年は12月7日に札幌で北海道地区の放送事業者を対象に開くことになり、事務局より報告した。
- 次回委員会は10月19日(火)に開かれることになった。
以上