2012年度 第49号

「国家試験の元試験委員からの申立て」に関する委員会決定

2013年3月29日 放送局:株式会社TBSテレビ

見解:番組表現等に要望(少数意見付記)
TBSテレビが2012年2月に放送した報道特集「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」で、国家資格である社会福祉士の試験委員会副委員長を務めた大学教授が、過去問題の解説集を出版するなど、国家試験の公平・公正性に疑念を招く行為があったと放送され、名誉と信用を毀損されたと申し立てたもの。

2013年3月29日 第49号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第49号

申立人
A
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『報道特集』(毎週土曜日午後5時30分~6時50分)
放送日時
2012年2月25日(土)
特集「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」午後5時48分頃から23分30秒間

本決定の概要

本件放送は、2012年2月の「国家資格の試験めぐり不平等が?疑念招いた1冊の書籍」と題する報道番組である。そのなかで被申立人は、国家資格である社会福祉士の試験委員であり、試験委員会副委員長であった大学教授を取り上げ、試験の過去問題解説集を出版して、これを大学の講義で用いたことなどが、試験委員としてふさわしくない行為で、国家試験の公正・公平性に疑念を招いたと伝えた。
これに対し申立人は、本件放送が、国家試験の試験問題の漏えいや出題のヒントを与えていたかのような印象を与えるものであり、これにより名誉と信用を毀損されたとして救済を求め、また放送倫理上の問題を指摘した。

委員会は、本件放送が、平均的な一般視聴者にとって、申立人による「漏えい」等の事実を指摘する内容であったと認定することはできず、違法な名誉毀損・信用毀損には当たらないと判断した。社会福祉士国家試験の試験委員による出版等の行為について国家試験の公正・公平性に疑義を生じさせるおそれがあると指摘した本件放送の問題提起には、社会的意義が認められる。申立人に異論があるとしても、国家試験委員であり委員会副委員長という立場にある以上、国家試験にかかわる事項に関する限り、申立人は「公人」として放送によるそのような批判は受けざるを得ないものと考える。
また、本件放送が、申立人についてマイナスの印象を強調して伝えたことは否めないが、公人の職務に関する報道であったことを勘案すれば、これに対する批判的言論として許容される限度を逸脱したものとは認められず、結論として、放送倫理上問題があったとはいえないものと、委員会は判断した。
ただし委員会は、局においても本件放送における表現内容、表現手法等に反省点がないか、再度検討されるべきものと考えるので、本決定が指摘する各意見を真摯に受け止め、今後の番組制作に生かすよう要望する。
なお、本件放送は申立人による「漏えい」や所属学生を具体的に有利に扱った事実を印象づけるものであって、放送倫理上問題があるとの、多数意見と結論を異にする少数意見が示された。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の主張
  • 4.被申立人(放送局)の答弁
  • 5.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送の企画意図
  • 2.申立人の立場
  • 3.問題とされた申立人の行為
    • (1)著作の出版行為
    • (2)著作を用いた大学での講義
  • 4.申立人による「漏えい」の事実を摘示しているか
    • (1)番組が挙げた2つの実例について
    • (2)厚生労働省のプレスリリースの扱いについて
    • (3)「漏えい」の事実摘示には当たらないこと
  • 5.放送のその他の問題点
    • (1)申立人の映像の扱い方について
    • (2)大学学長選挙と報道の時期について

III.結論

  • 少数意見

IV.審理経過

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2012年度 第48号

「肺がん治療薬イレッサ報道への申立て」に関する委員会決定

2013年3月28日 放送局:株式会社フジテレビジョン

見解:番組表現等に要望(少数意見付記)
フジテレビ『ニュースJAPAN』が2011年10月に2回にわたって放送した企画「イレッサの真実」に対し、長期取材を受けて番組にも登場した男性が「放送はイレッサの危険性を過小評価し有効性を過剰に強調する偏頗な内容で、客観性、正確性、公正さに欠け、放送倫理に抵触している。こうした放送や、申立人の主義主張とは反する発言の使われ方、取材休憩中の撮影とその映像の放送などによって名誉とプライバシーを侵害された」として、謝罪と放送内容の訂正を求め申し立てたもの。

2013年3月28日 第48号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第48号

申立人
X
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『ニュースJAPAN』
(月―木曜日 午後11時30分~11時55分、 金曜日 午後11時58分~午前0時23分)
放送日時
第1回 2011年10月5日(水)特集シリーズ「時代のカルテ」「イレッサの真実【前編】ガン新薬の副作用は薬害か?」(7分12秒)
第2回 2011年10月6日(木)特集シリーズ「時代のカルテ」「イレッサの真実【後編】承認から8年目の真実」(7分)

本決定の概要

本件放送は、抗がん剤イレッサをテーマにした報道番組である。申立人は、イレッサの副作用で亡くなった患者の父親であり、その後、訴訟や社会的活動でイレッサの副作用にかかわる問題を追及しているが、本件放送中での扱いによって、これまで自身が続けてきている活動を否定されかねない人権侵害があるとして、委員会に苦情の申立てを行った。
本件放送は、「イレッサの真実」というタイトルのもと、2011年10月に二夜連続で放送された。ちょうど同時期、イレッサの副作用を巡る製薬会社や国の責任を問う訴訟が係争中であり、番組放送後間もない時期に控訴審判決が出された。被申立人には、いわゆる薬害について熱心に追跡・報道してきた実績がある。
委員会は、本件放送に、法的な意味での名誉毀損・人格権侵害はなかったとともに、放送倫理上問題があるとまではいえないと結論する。しかしながら、申立人を含む番組中の登場人物の対比のさせ方やコメントの使い方などにおいて、視聴者の誤解を招きかねない点があるなど、放送の一部に配慮不足があったと認められる。申立人である取材対象者の思いを軽視して長年の信頼関係を喪失したことは、報道機関として重く受け止める必要がある。取材者・放送人にとって取材先との信頼関係を喪失するという重大な事態を招いたことにつき十分に反省し、事前の取材・企画意図の説明や番組の構成・表現等の問題について再度検討を加え、今後の番組作りに生かすことを強く要望する。
なお、本決定には、多数意見と結論を異にし、「放送倫理上問題がある」とする少数意見がある。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の主張
  • 4.被申立人(放送局)の答弁

II.委員会の判断

  • はじめに~本件放送の構成と申立人の人権
  • 1.申立人の訴訟提起と東京地裁判決の伝え方
    • (1)東京地裁判決の引用の正確性
    • (2)T医師の東京地裁判決に対するコメント
    • (3)新薬の承認をめぐる研究者のコメント
    • (4)申立人とAさんの二人を対比的におくこと
  • 2.申立人のコメントの使用と人権侵害
    • (1)申立人のコメント使用の正確性
    • (2)申立人のコメント等の使用による人格権侵害の有無
  • 3.番組内容・構成における公平・公正

III.結論

  • 少数意見

IV.審理経過

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2012年度 第47号

「無許可スナック摘発報道への申立て」に関する委員会決定

2012年11月27日 放送局:株式会社テレビ神奈川

勧告:放送倫理上重大な問題あり(補足意見・意見付記)
テレビ神奈川が2012年4月、神奈川県警による無許可営業のスナック摘発と女性経営者の逮捕を現場で取材し、4月11日夜の『tvkNEWS930』でニュースとして放送したことに対し、この女性と家族から「軽微な罰金刑にもかかわらず、顔のアップ映像や、実名、自宅の住所等まで放送したのはプライバシーの侵害」等として申立てた事案。

2012年11月27日 第47号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第47号

申立人
スナック経営者とその家族
被申立人
株式会社テレビ神奈川
苦情の対象となった番組
『tvkNEWS930』(月-金 午後9時30分~10時)
放送日時
2012年4月11日(水)
午後9時35分頃から1分9秒

本決定の概要

テレビ神奈川は2012年4月11日夜の『tvkNEWS930』内で、神奈川県警によるスナック女性経営者の風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)違反の無許可営業の現行犯逮捕を実名、年齢、住所とともに放送した(以下、「本件放送」という)。冒頭にアナウンサーの「カメラは強制捜査から逮捕の瞬間までをとらえていました」とのコメントがあり、摘発現場を撮影した映像の存在を強調した構成だった。全体が1分9秒で、そのうち本人とはっきりと分かるかたちで、この女性経営者を写し出した映像が計4回37秒あった。顔のアップ映像や警察の車に連行される場面も含まれていた。
また、テレビ神奈川は本件放送を同社が運営するニュースサイトに動画とともに掲載した。ニュースサイトの項目は1週間で自動的に削除されたが、同社のサイトおよび、facebookページ、twitterアカウント等を通じて当該動画と静止画を閲覧できる状態が1か月以上続き、この女性経営者から抗議があるまで放置されていた。
本委員会は、女性経営者とその家族から本件放送によってプライバシー、肖像権を侵害され、名誉を毀損された等の申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下の通りである。
現行犯逮捕の事実を放送した本件放送の内容に誤りはないが、事案は風営法違反の中でも悪質性の比較的軽微な「無許可営業」(最終的に罰金50万円の略式命令)である。本件放送は、映像の存在を強調し、繰り返し女性経営者の映像を流した。その結果、この女性に対する過剰な制裁的・懲罰的効果が生じ、本人とその家族に精神的苦痛を与えた。この点で、本件放送は、プライバシー等に関する明確な権利侵害は認められないものの、「報道の自由」という観点を考慮しても、放送界がこれまで積み重ねてきた事件報道のあり方をめぐる議論を十分に踏まえた形跡はなく、人権への適切な配慮を著しく欠いており、放送倫理上重大な問題がある。
また、同社のサイトにテレビニュ―スがそのまま掲載され、かつ長期間閲覧可能な状態で放置されていた点、サイトの管理に問題があった。今後、適切な管理を行うことを要望する。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1. 申立てに至る経緯
  • 2. 放送内容の概要
  • 3. 申立人の主張
  • 4. 被申立人(放送局)の答弁

II.委員会の判断

  • 1. はじめに
  • 2.「報道の自由」の観点
  • 3. プライバシー侵害と名誉毀損について
  • 4. 肖像権をめぐって
  • 5. 放送倫理上の問題
  • 6. 抗議に対する対応

III.結論

  • 補足意見
  • 意見

IV.審理経過

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2013年2月26日 委員会決定に対するテレビ神奈川の対応と取組み

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目 次

  • 1.広報及び放送対応
  • 2.社内での報告・周知等
  • 3.申立人に対して
  • 4.番組審議委員会への対応
  • 5.意見交換会の実施
  • 6.報道部内での対策
  • 7.動画配信について
  • 8.放送倫理向上に向けた取り組みについて