2020年度 第76号

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」
に関する委員会決定

2021年3月30日 放送局:フジテレビ

見解:放送倫理上問題あり(補足意見、少数意見付記)
当事案は、フジテレビが2020年5月19日未明に放送した『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』に出演していた女性が放送後に亡くなったことについて、女性の母親が、娘の死は番組内の「過剰な演出」がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと訴え、委員会に申し立てたもの。
これに対してフジテレビは、番組で「女性を暴力的に描いていない」などと主張するとともに、社内調査の結果を基に、「人権侵害は認められない」と反論した。
委員会は、審理の結果、人権侵害は認められないとしたが、出演者の身体的・精神的な健康状態に関する配慮が欠けていた点について、放送倫理上の問題があったと判断した。その上で、フジテレビに、本決定を真摯に受け止め、改善のための対策を講じることを要望した。 なお、本決定には補足意見と2つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

 申立ての対象は、2020年5月19日に放送されたフジテレビの『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』(本件番組)。出演していたプロレスラーの木村花氏が放送後に亡くなったことについて、同氏の母親が、娘の死は番組の“過剰な演出”がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと申し立てた。本件番組は、募集によって選ばれた初対面の男女6人が「テラスハウス」で共同生活する様子を映し、スタジオのタレントらがそれにコメントするスタイルのいわゆるリアリティ番組であり、Netflix等で配信され、数週間後に地上波で放送されていた。
 本件放送の中盤、木村花氏が共用の洗濯乾燥機に置き忘れていた重要な試合用のコスチュームを、男性出演者が誤って洗濯、乾燥してしまったため縮んで着用できなくなったことに対し、木村氏が怒りをあらわにする様子が描かれる。木村氏は、テラスハウス住人全員が顔を合わせたところで、男性に怒りの言葉をぶつけ、「ふざけた帽子かぶってんじゃねえよ」と言い、男性がかぶっていた帽子をとって投げ捨てる。この場面が「コスチューム事件」と名付けられ、SNS上で木村氏に対する多数の誹謗中傷を招いた。
 「コスチューム事件」が最初に人々の目に触れたのは3月31日のNetflix配信においてであるが、その直後、木村氏は自傷行為に至る。その後、5月14日には、未公開動画として、女性出演者から落ち度を指摘されたことに対し、木村氏が自身の正当性を主張するかのような動画がYouTube上で公開され、再度誹謗中傷を招いた。5月19日には地上波にて本件放送が行われ、5月23日、木村氏は自死した。
 以上の事案につき、人権侵害については3点の判断を行った。第1に、申立人は、視聴者からの誹謗中傷がインターネット上で殺到することは十分に認識可能であることから、放送局に「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」 の責任があると主張した。これについては、表現の自由との関係で問題があり、一般論としてはこうした主張は受け入れられない。ただ、本件では、先行するNetflix配信が誹謗中傷を招き、自傷行為という重大な結果を招いたという特殊性がある。このような場合においては、少なくとも、先行する放送ないし配信によって本件の自傷行為のような重大な被害が生じている場合、それを認識しながら特段の対応をすることなく漫然と実質的に同一の内容を放送・配信することは、具体的な被害が予見可能であるのにあえてそうした被害をもたらす行為をしたものとして、人権侵害の責任が生じうるものと考えられる。
 しかし、本件では、自傷行為後にフジテレビ側は一定のケア対応をしており、また、本件放送を行う前にも一定の慎重さをもって判断がなされたため、漫然と本件放送を決定したものとはいえず、人権侵害があったとまでは断定できない。
 第2に、申立人は、木村氏の言動は、著しく一方的な「同意書兼誓約書」の威嚇の下、煽りや指示によってなされたものだから、自己決定権及び人格権の侵害があると主張する。この点について、若者であるとはいえ成人である出演者が自由意思で応募して出演している番組制作の過程で、制作スタッフからなされた指示が違法性を帯びることは、自由な意思決定の余地が事実上奪われているような例外的な場合である。本件では、制作スタッフからの強い影響力が及んでいたことは想像に難くないが、上記のような例外的な場合にあったとはいえず、自己決定権等の侵害は認められない。
 第3に、コスチューム事件における木村氏の言動が、通常他人に見られたくないと考えられるものでプライバシー侵害に当たるとする主張については、撮影されることを認識し認容していたことなどからして、違法なプライバシー侵害であるとは言えない。
 他方、放送倫理上の問題に関して、3点につき判断した。第1に、それまでの経緯からして、木村氏に精神的な負担が生じることが明らかである本件放送を行うとする決定過程で、出演者の精神的な健康状態に対する配慮に欠けていた点で、放送倫理上の問題があったと判断した。すなわち、リアリティ番組には、出演者のありのままの言動や感情を提示し、共感や反発を呼ぶことによって視聴者の関心を引きつける側面がある。しかし、ドラマなどのフィクションとは違い、真意に基づく言動とは異なる姿に対するものも含め、視聴者の共感や反発は、生身の出演者自身に向かうことになることから、リアリティ番組には、出演者に対する毀誉褒貶を、出演者自身が直接引き受けなければならない構造がある。そして、出演者の番組中の言動や容姿、性格等についてあれこれコメントをSNSなどで共有することがリアリティ番組の楽しみ方となっており、自身の言動や容姿、性格等に関する誹謗中傷によって出演者自身が精神的負担を負うリスクは、フィクションの場合よりも格段に高い。このことなどを踏まえると、出演者の身体的・精神的な健康状態に放送局が配慮すべきことは、もともと放送倫理の当然の内容をなすものと考えられるが、リアリティ番組においては特にそれがあてはまる。しかし、上述のとおり、本件においてはこうした配慮が欠けており、放送倫理上の問題がある。
 第2に、申立人が、ことさらに視聴者の感情を刺激するような過剰な編集、演出を行ったことによる問題があると主張した点については、事実関係が確定できないこと、および、木村氏の怒りの場面は、少なくとも相当程度には真意が表現されたものと理解でき、放送倫理上の問題があるとは言えない。
 第3に、フジテレビの検証が内部調査にとどまった点の評価については、番組による人権侵害等を判断する委員会の基本的任務とは距離があり、本決定では判断を行わない。
 最後に、リアリティ番組の制作・放送を行うに当たっての体制の問題を、課題として指摘せざるを得ない。本決定を真摯に受け止めた上で、フジテレビが木村氏の死去後に自ら定める対策を着実に実施し、その効果の不断の検証を踏まえて改善を続けるなどして再発防止に努めるとともに、本決定の主旨を放送するよう要望する。
 同時に、放送界全体が本件及び本決定から教訓を汲み取り、木村花氏に起こったような悲劇が二度と起こらないよう、自主的な取り組みを進めるよう期待する。

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2021年3月30日 第76号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第76号

申立人
番組出演者の母親
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』第38話
放送日
2020年5月19日(火)
放送時間
午前0時25分~0時55分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.委員会の判断の対象
    • (1) 本件番組及びその関連動画の相互関係
    • (2) 委員会の判断の対象
  • 2.事案の概要
    • (1) 本件番組について
    • (2) 木村花氏の本件番組への出演契約の際の状況
    • (3) 本件放送について
    • (4) 第38話のNetflix 配信後の状況
    • (5) 5月14日の未公開動画の配信
    • (6) 本件放送前後の状況
    • (7) SNS対策とSNS上の誹謗中傷の状況
      • ① 本件番組におけるSNS対策について
      • ② 第38話のNetflix配信及び本件放送を受けたSNS上の誹謗中傷の状況
    • (8) 木村氏死去後のフジテレビの対応
  • 3. 「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」について
    • (1) 当事者の主張
    • (2) 人権侵害の判断基準について
      • ①「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」に関する一般論
      • ② リアリティ番組における、視聴者の行為を介した人権侵害に関する放送局の責任
      • ③ 本件放送の特殊性
    • (3) Netflix 配信の前後から本件放送の前後までのフジテレビの対応について
      • ① Netflix配信前の状況
      • ② 自傷行為後の木村氏へのケアについて
      • ③ 5月14日の本件未公開動画の公開について
      • ④ 本件放送を行うとする判断について
    • (4) 人権侵害についての検討
  • 4. 自己決定権及び人格権の侵害について
    • (1) 当事者の主張
    • (2) 検討
    • (3) 小括
  • 5. プライバシー侵害について
  • 6. 放送倫理上の問題について
    • (1) 本件放送を行うとする決定に際しての出演者への配慮について
      • ① 出演者の身体的・精神的な健康状態への配慮と放送倫理
      • ② 本件について
    • (2)「過剰な編集、演出を行ったことによる放送倫理上の重大な問題」について
    • (3)「検証を十分に行わなかったことによる放送倫理上の重大な問題」について
    • (4) 申立人に対する対応について

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2021年3月30日 決定の通知と公表の記者会見

通知は2021年3月30日午後1時から千代田放送会館2階ホールにおいて、午後3時から紀尾井カンファレンス・メインルームで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

2021年7月20日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

委員会決定第76号に対して、フジテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が6月25日付で提出され、委員会はこれを了承した。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2020年度 第75号

「一時金申請に関する取材・報道に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年11月16日 放送局:札幌テレビ放送

見解:問題なし
札幌テレビは2019年4月26日の『どさんこワイド179』で、札幌市内に住む男性が「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」に基づき、一時金を申請する模様を伝えた。
男性は札幌テレビの記者の働きかけで不本意ながら申請をし、これが報道されたことで名誉が毀損された等として、札幌テレビに謝罪と訂正を求めて申立書を提出した。
札幌テレビは、申立人に申請を働きかけたことはなく、取材と報道は公正なものだと反論していた。
委員会は、審理の結果、人権侵害の問題はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 札幌テレビは、2019年4月26日(金)夕方のニュース『どさんこワイド179』において、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という)に基づく北海道初の一時金支給申請者として、申立人による申請の模様を伝えた(以下「本件放送」という)。
 申立人は、本件放送について、一時金申請を希望していなかった申立人に対し、札幌テレビのA記者が申請するよう働きかけた結果、不本意な申請をすることになり、これを広く報道されたことで名誉が毀損されたなどと人権侵害および放送倫理上の問題があったと主張して、本件申立てを行った。一方、札幌テレビは、信頼関係があったからこそ可能となった放送であり、取材と報道は公正なものと反論した。委員会は、審理のうえ、名誉毀損等の人権侵害はなく、放送倫理上の問題も認められないと判断した。
 申立人は、旧優生保護法に基づいてかつて強制不妊手術を受けた被害者として、国家賠償を求める旧優生保護法被害者訴訟を提起している原告の一人である。
 まず、名誉毀損について、一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とすれば、本件放送が報じたのは、新たに成立した一時金支給法に基づいて申立人が申請したという合法的な行為の紹介であり、これによって申立人の社会的評価は低下しない。また、本件放送は、申立人の複雑な心境や悩みまで浮き彫りにし、国に対する批判的なナレーションもまじえるなど申立人のような被害者の立場に寄り添った視点で構成されたものであって、申立人が一時金支給法の内容について批判的見解を有していたことを知る視聴者の観点を前提として検討した場合であっても、やはり社会的評価を低下させるものではない。よって、本件放送による名誉毀損は成立しない。
 次に、放送倫理上の問題について検討した。仮に、報道機関として報道したいと考える内容にあわせるよう事実を歪めたり、本来であれば存在しなかった事実を作出したりすることがあれば、問題がある。本件に即せば、当初の取材意図に固執するあまり、申立人に自己の意思に反して一時金申請を行わせるようA記者が働きかけた事情がもしもあれば、正当な取材活動を逸脱したものとして放送倫理上問題が生じる。また、その際、国家賠償請求訴訟との関連で一時金申請に伴う利害得失について訴訟弁護団の助言を受ける機会を申立人から奪うような言動がA記者にあったとすれば、放送倫理上の問題にかかわるだろう。しかし、文書とヒアリングにおける双方の主張を踏まえると、申立人による一時金申請は、申請が時期的に可能になったことをA記者から伝えられたことを契機としているものの、A記者との電話の後に申立人自ら北海道庁に電話し担当者から一時金支給法と裁判は関係ないとの説明を受けたことを理由として、一時金申請をする意思を抱いたと考えられる。この間A記者が、申立人が弁護団に相談するのを妨げる言動なども認められない。電話翌日の同行取材が決まったのも申立人の方からA記者に電話をかけたことを契機としている。また、申立人は、本件放送によって報じられた一時金申請の後、同年5月に申請を一旦取り下げたものの、2020年2月には、弁護団の助けを借りて再び申請をしている。したがって、これらの事実経過に照らすならば、申立人の意思に反して一時金申請を行わせるようA記者が働きかけて翻意させたとか、訴訟弁護団から助言を受ける機会を奪ったとか、それ以外にも事実を歪めたりありもしない事実を作出したりしたと評価すべき行き過ぎた取材があったとまでは言えないと委員会は判断する。
 よって、放送倫理上の問題も認められない。

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2020年11月16日 第75号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第75号

申立人
札幌市在住の男性
被申立人
札幌テレビ放送株式会社
苦情の対象となった番組
『どさんこワイド179』
放送日時
2019年4月26日(金)
午後3時48分~午後7時00分のうち午後6時54分から約2分間(ローカル)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.背景となる事情
  • 2.人権侵害の有無
  • 3.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年11月16日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年11月16日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館ホールで公表の記者会見が行われた。
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2020年度 第74号

「大縄跳び禁止報道に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年10月14日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された問題を放送した。インタビューに答えた周辺住民女性が、突然マイクを向けられ誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。フジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており、「捏造には該当しない」などと反論した。
委員会決定は、本件放送に、人権侵害、また放送倫理上の問題があったとは判断できない、とした。

【決定の概要】

 2019年8月30日に放送されたフジテレビの『とくダネ!』は、都内の公園で近隣の受験塾の生徒が大縄跳びをしながら歴史上の人物名などを暗唱していることに周辺住民から苦情があり、行政が大縄跳びを禁止する看板を立てたことなどを紹介した。申立人はインタビューを受けた周辺住民の一人で、「本を読んでたりとか、集中して何かをやんなきゃいけない日だったりすると、ちょっとうるさいなと思って」などと答える場面が17秒にわたり放送された。
 申立人は、日没後に犬を連れて公園を散歩中、突然、若い女性に背後から声をかけられ、放送局名・番組名や取材の趣旨を告げられず、撮影許可を明示的に求められぬままインタビューを受け、また大縄跳びは「一度も目撃したことがなく、理解に苦しむ内容」なのに「誘導尋問」され、あたかも迷惑しているかのような発言を「捏造」された、と主張している。「懇意にしている学習塾の批判にもつながり、非常に憤慨している」として、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて、BPO放送と人権等権利に関する委員会に申立書を提出した。
 一方、フジテレビは、取材したディレクターが2度にわたり「フジテレビ、とくダネ!です」と伝え、「(大縄跳びを禁止するという)看板について取材しているのですが」などと断ってからインタビューと撮影を開始したのであり、申立人は撮影・放送(いわゆる「顔出し」を含む)を承諾していた、また「誘導尋問」はしておらず、インタビュー内容も加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」と反論している。
 申立書などの書面とヒアリングを総合して検討した結果、委員会は、撮影・放送それ自体に対する申立人の承諾がなかったとまではいえず、また質問者が本意でない答えを強いるという意味での「誘導尋問」や「捏造」があったと断定することもできないため、本件放送が申立人の肖像権など人格権を不当に侵害したと判断することはできない。同じ理由で、取材交渉を含めたインタビューの手法とその編集方法についても、放送倫理上の問題があったと判断することはできない。
 ただし、本件放送のような、通行人が予期せず声をかけられる種の街頭インタビューの場合、被取材者の大多数は申立人のようにマス・メディアの取材・報道に不慣れであることから、取材者は放送局名・番組名をはじめ、質問の対象・趣旨などを取材に際して可能な範囲で説明し、かつ撮影した映像等の実際の使用についても本人の意向を明確に確認しておくことが望ましい。

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2020年10月14日 第74号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第74号

申立人
東京都内在住 女性
被申立人
株式会社 フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『とくダネ!』
放送日時
2019年8月30日(金)
午前8時~9時50分のうち午前8時13分から8時35分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.申立人とフジテレビの対立点
    • (1) 取材経緯(承諾の有無)
    • (2) 発言内容(「誘導尋問」と発言の「捏造」)
  • 2.人権侵害
    • (1) 肖像権の侵害
    • (2) 「誘導尋問」と発言の「捏造」による人格権の侵害
  • 3.放送倫理上の問題
    • (1) 取材交渉を含めたインタビューの手法とその編集方法
    • (2) 申立人に対する本件放送後の一連の対応

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年10月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年10月14日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館ホールで公表の記者会見が行われた。
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2020年度 第73号

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年6月30日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは、2018年7月6日に放送した『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』で、オウム真理教の元幹部7人の死刑執行について報じた。
申立人の松本麗華氏はオウム真理教の代表だった松本智津夫元死刑囚の三女で、本件番組は、死刑囚の名前と顔写真を一覧にしたフリップに「執行」のシールを貼るなどした点で死刑執行をショーのように扱っているとし、父親の死が利用されたことや父親に対する出演者の発言によって名誉感情(敬愛追慕の情)を害されたなどとして、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
委員会は、審理の結果、いずれについても名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 申立ての対象は、2018年7月6日にフジテレビが放送した『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』(以下、「本件番組」という)である。本件番組は、地下鉄サリン事件などオウム真理教による一連の事件で死刑が確定したオウム真理教の教祖・麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚ら、教団の元幹部7人の死刑執行に関する情報を、中継やスタジオ解説などを交えて報じた。
 申立人は松本元死刑囚の三女で、本件番組は、死刑囚の顔写真を一覧にしたフリップに「執行」の表示を印字やシール貼付で行ったことなどの点で、人の命を奪う死刑執行をショーのように扱い、また、父親の死が利用されたことや父親に対する出演者(被害対策弁護団の伊藤芳朗弁護士)の「松本死刑囚が生きながらえればそれだけ、まあ生きているだけで悪影響というものはある」という発言が放送されたことによって、名誉感情(敬愛追慕の情)を害されたなどとして、フジテレビに謝罪を求め、BPO放送人権委員会に申立てを行った。これに対しフジテレビは、速報情報を生放送で扱う時間的、技術的制約の下、複数の死刑執行の情報等を迅速に分かりやすく伝えたものであり、人権や表現上の配慮を十分行っている、などと説明している。
 まず、本件番組の意義について検討すると、本件番組は、戦後犯罪史上屈指の重大事件の首謀者や、事件において重要な役割を果たした者の死刑が執行され、または執行されようとしているという極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものである。
 人権侵害に関しては、申立人の故人に対する敬愛追慕の情の侵害の有無が問題となる。敬愛追慕の情の違法な侵害があったと言えるかは、諸事情を総合考慮して社会的に妥当な許容限度(受忍限度)を超えたかどうかによって判断する。
 フリップ及び「執行」シール貼付の手法による人権侵害の有無については、申立人の立場からすれば、悲しみに追い打ちをかけられたと感じることも当然だとは思われるものの、生放送で速報情報を扱う時間的、技術的制約の下で、複数の死刑囚の執行情報を視聴者に分かりやすく伝えるという目的の正当性があり、「執行」の文字の大きさや色などについて配慮がなされていることなどからすれば、必要性・相当性も認められる。
 「執行」シールを貼付する場面についても、それは1回だけであり、時間もごく短いもので、貼付行為そのものに注意を促すような出演者の言動もなかったことから、一般視聴者に対してシールの貼付自体が殊更に強い印象を与えたとも言えない。シール貼付には、迅速かつ正確に最新情報を伝える現実的な手法として必要性・相当性が認められる。
 以上より、フリップ及び「執行」シール貼付の手法の利用は、本件番組が死刑執行直後であることを考慮しても、申立人の故人に対する敬愛追慕の情を許容限度を超えて侵害するものではない。
 伊藤弁護士の発言による人権侵害については、その発言の趣旨は、現在も教団の後継諸団体に対して松本元死刑囚が影響力を有しており、無差別大量殺人に及ぶ危険性があるという状況の下で、被害対策弁護団の一員として「松本死刑囚の死刑執行までに時間がかかれば、それだけ悪影響はある」というものであり、それに加えて、死刑執行がなされない限り、被害者・遺族に不安を与え続けていたという趣旨も含まれていると、一般視聴者には理解される。同元死刑囚の教団の後継諸団体への影響力の点は、公安審査委員会や公安調査庁の認識を踏まえれば虚偽ではなく、また、本件発言は、同元死刑囚を首謀者として遂行された戦後犯罪史上屈指の重大事件の被害者や遺族の被害感情を代弁する発言の一部として述べられたものであることからすれば、表現として不相当であるとも言えず、本件発言は、本件番組が死刑執行直後であることを考慮しても、申立人の故人に対する敬愛追慕の情を、許容限度を超えて侵害するものではない。
 本件番組には、元死刑囚らの移送された先の拘置所名や、元死刑囚らのかつての教団内での地位などについて誤りがあるが、一般に、生放送中にミスが生じることはありうることであって、また、そのほとんどは最終的には実質的に修正されているため、誤りがあることをもって死刑をショー化する等の意図があったとは言えない。
 放送倫理上の問題について、申立人は、本件番組が死刑をショー化しており、人命を軽視し、視聴者に不快感を与えるなどとして日本民間放送連盟放送基準や放送倫理基本綱領に違反すると主張する。しかし、前述のとおり、本件番組は、極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものであるし、「執行」シールを貼るという手法も、死刑の執行をことさらショーのように扱ったものではなく、放送倫理上の問題があるとは言えない。
 以上のとおり、委員会は、本件番組に人権侵害の問題はなく、放送倫理上の問題も認められないと判断する。

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2020年6月30日 第73号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第73号

申立人
松本 麗華
被申立人
株式会社 フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』
放送日
2018年7月6日(金)
放送時間
午前9時50分~11時25分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.今回の死刑執行報道の特殊性と本件番組の意義
    • (1) 今回の死刑執行報道の特殊性
    • (2) 本件番組の意義
  • 2.敬愛追慕の情の侵害による人権侵害について
    • (1) 判断方法
    • (2) フリップ及び「執行」シール貼付の手法による人権侵害について
    • (3) 伊藤芳朗弁護士の発言による人権侵害について
    • (4) 事実関係の誤りによる人権侵害について
    • (5) 小括
  • 3.放送倫理上の問題について

III.結論

  • 補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年6月30日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年6月30日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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2020年度 第72号

「訴訟報道に関する元市議からの申立て」に関する
委員会決定

2020年6月12日 放送局:テレビ埼玉

見解:問題なし
テレビ埼玉は2019年4月11日の『NEWS545』で、埼玉県内の元市議が提起した損害賠償訴訟のニュースを放送した。その中で、元市議は、自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられたかのような「ニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられ、また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であるとして、BPO放送人権員会に申し立てを行った。
委員会は、審理の結果、そのいずれについても、名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

テレビ埼玉は、2019年4月11日(木)の夕方のニュース番組『NEWS545』(以下、「本件番組」という)のトップ項目で、さいたま地裁Z支部(Zは放送では実名)で、埼玉県内のX元Y市議会議員(氏名X、市名Yともに放送では実名。以下同様)が提起した損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論のニュース(以下、「本件放送」という)を放送した。
元Y市議は、本件放送について以下の3つの点を問題として本件申立てを行ったが、委員会は、審理のうえ、そのいずれについても名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題も認められないと判断した。
(1) 申立人は、本件放送のタイトルが「元Y市議セクハラ訴訟」となっていること自体が問題であるとし、申立人が提訴した裁判であるのに、申立人がセクハラを訴えられたような印象を与え、申立人の名誉を損なうと主張している。
しかし、本件放送において、一般視聴者が新聞の見出しのように「元Y市議セクハラ訴訟」の部分だけを拾い出して見る事情はないから、本件放送が何を伝えたかは、本件放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断する。本件放送は、冒頭で「元Y市議が被害を訴えた女性職員を相手取った裁判」と明確に伝え、裁判では、申立人が女性職員から請求された慰謝料を支払う義務がないことの確認と女性職員に対する損害賠償を求めていること、申立人が女性職員の言うセクハラ被害は事実ではないと意見陳述したことなどを報じている。本件放送から一般視聴者が、この裁判について申立人がセクハラを訴えられたような印象を受けるとは認められず、名誉毀損は問題とならない。
また、「元Y市議セクハラ訴訟」との表示には、正確性と公正性の観点を配慮して工夫の余地があったとは言えるが、同表示は本件放送の一部であり、本件放送では、裁判における申立人の主張である請求の内容や意見陳述の内容が伝えられており、同表示に放送倫理上問題があるとはいえないと判断する。 
(2) 申立人は、実際には第三者委員会のハラスメント認定前に議員辞職しているのに、経緯の説明において「認定され、辞職しました」というナレーションがなされたことで、一般視聴者は、第三者委員会にハラスメントを認定されたのを受けて議員を辞職したと受け止め、議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等を与え名誉が損なわれたと主張している。
このナレーションによって、一般視聴者が、申立人はハラスメントを認定され、辞職したと、ナレーションの順番どおりの時系列で受け止める可能性はある。しかし、そのことを前提としても、本件放送は、申立人がハラスメントの事実を否定し、辞職理由について騒ぎに市議会を巻き込みたくなかったためであり断じてハラスメントの行為を認めたわけではないと意見陳述したことを報じており、本件放送によって一般視聴者が、申立人が議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等をするとは認められず、名誉毀損は問題とならない。同様の理由で、放送倫理上の問題もない。
この時系列の点について、申立人は代理人弁護士を介して本件放送直後に訂正の申入れをしたが、お詫びと訂正の放送は選挙投開票翌日となった。時間的制約などから当日の本件番組内で訂正しなかったことは一定程度理解できる。翌日、告示前に同じ時間帯の番組内でお詫びと訂正の放送をする選択があってしかるべきだったとは言えるが、本件放送当日夜のニュースでハラスメント認定と辞職の時系列がはっきりとわかるように修正して放送していること、本件放送は申立人の社会的評価を低下させるものとは認められないことから、それをしなかったことをもって放送倫理上問題があるとまではいえないと判断する。
(3) 申立人は、本件放送で次の市議会議員選挙への出馬に言及したことは、いくつものハラスメントを認定されて議員を辞職したばかりの元市議が性懲りもなく立候補するという印象を視聴者に与える選挙妨害であると主張している。
しかし、市議選への出馬は申立人自身が述べ、すでに周知されていたことであるし、本件放送では、申立人の提起した裁判の内容や意見陳述の内容を報じたうえで伝えており、申立人の市議選出馬に言及しても、申立人の社会的評価が低下することはないし、性懲りもなく立候補するという印象を一般視聴者に与えてもいない。市議選への出馬に言及したことは名誉毀損として問題にならないし、選挙を妨害するとは認められない。

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2020年6月12日 第72号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第72号

申立人
埼玉県在住 元市議会議員
被申立人
株式会社 テレビ埼玉
苦情の対象となった番組
『NEWS545』
放送日
2019年4月11日(木)
放送時間
午後5時45分~6時15分のうち午後5時45分~5時47分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.名誉毀損について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
      • ア 「本件放送は何を伝えたか」をどう判断するか
      • イ 本件放送は何を伝えたか、申立人の社会的評価を低下させたか
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 市議選出馬への言及に問題はなかったか
  • 2.放送倫理上の問題について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 本件番組中の訂正要求への対応とその後の措置について問題はなかったか
      • ア 事実経過
      • イ 委員会の判断

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年6月12日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年6月12日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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