2019年10月30日

「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」に関する委員会決定の通知・公表

[通知]
放送人権委員会は、2019年10月30日午後1時30分からBPO会議室において、奥武則委員長、起草を担当した紙谷雅子委員と二関辰郎委員が出席して、委員会決定を通知した。申立人の大学教員、被申立人のNHKから秋田放送局長ら2人が出席した。
奥委員長が冒頭「名誉毀損はない。放送倫理上の問題もない」と結論を告げ、その後決定文に沿って説明した。「申立人は大学当局のハラスメント認定について不当性を強く主張していたが、委員会は、放送がある人の人権を侵害したかどうか、それに関わって放送倫理上の問題があるかどうかを検討する場である。大学当局のハラスメント認定が事実に基づいていたか否かを判断する立場にはない。本件放送には男性教員であるということ以外、個人情報は含まれていない。申立人の所属する学部学科にも言及していない。総合的に考えると本件放送によって、広く不特定多数の一般視聴者が男性教員を申立人であると特定する可能性はない。ただし本件放送の中に新しい情報が含まれていて、それに申立人の特定に繋がる情報が含まれていたとすると、問題は違ってくる。具体的には『小中学生でもできる』という表現が放送の中にある。しかし、すでにわかっていた威圧的な言動という情報は、何らかの具体的な言葉か行動を必然的に伴う。この点、『小中学生でもできる』という表現は社会的に是認できる表現ではないものの、そのような言動の具体例として、とりわけ新たに申立人の社会的評価を低下させるものとは考えられない。よって、本件放送は申立人に対する名誉毀損にはあたらない。
次に放送倫理上の問題だが、訓告措置に変更がないかなどメールや電話で大学当局に数回にわたって追加取材を行っている。放送倫理に求められる事実の正確性、真実に迫る努力などの観点に照らして、本件放送に放送倫理上の問題はないという判断に至った」と述べた。
続いて紙谷委員が、「申立人は、大学の決定について非常に力を入れて説明していたが、この委員会のできることの範囲の外であるということは、重要なことだ。委員会は、この放送によって、あなたが実際に名誉毀損されたのかどうか、をポイントに判断した」と述べた。
二関委員は「今回名誉毀損について特定するものではないと判断し、その後の公共性などに入ることなく、この結論に至っている。さらに不特定多数の一般視聴者が特定できないだろうと言った上で、もともと知っていた人たちがどう受け止めるのかということも判断して、社会的評価が低下することはないという結論に至った」と述べた。
決定を受けた申立人は「大学の措置が正しい情報によって判定されているのであれば何も申し上げることはないが、そうではない。その辺の問題を踏まえた上で決定を出すことが、非常に難しいとはわかるが、幾分そこは考慮していただきたかった。残念だ」と述べた。
一方、NHKからは「私どもの説明をご理解いただいたものだと受け止めている。ご指摘のように、情報公開請求は、私どもにとって大変大事な取材手法の1つであるが、それが右から左へということではなく、きちんと追加取材をして、裏取りすることは大前提だと思っている。今後もそうした取材を行い、人権に配慮した公益性の高い報道を続けて行きたい」と述べた。

[公表]
午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、委員会決定を公表した。
18社32人が取材した。テレビカメラの取材は日本テレビが代表して行った。
まず、奥委員長が「問題なし」とする決定内容を説明し、紙谷委員と二関委員が補足的な説明をした。

その後の質疑応答の概要は以下の通り。

(質問)
今年、人権委員会も含めてBPOに持ち込まれるケースが、昨年よりも増えているようだ。その背景の1つとして、一般の方の誤解のような部分もあるのか。
(奥委員長)
誤解と言っていいのかどうかはわからないが、放送人権委員会という存在が、かなり認知度が高まっている状況が背景にある。一方で、放送人権委員会は一体何をしてくれるのか必ずしも正確な知識を持っていない。そういう部分も確かにあるだろうと思っている。

(質問)
今回の放送は匿名報道であった。だから、本人が特定されるかどうかというのが論点の1つになっていたかと思う。ただ名誉毀損については、違法性阻却事由としては、公共性、公益性、真実相当性だ。このあたりはどのように判断したのか。また、今後、匿名報道ではなく実名報道する場合もあり得ると思うが、どのように判断していくのか。
(二関委員)
名誉毀損の成否が争いになったら、その人の社会的評価を低下するか否かを考える。そして低下するとなったら、その先に阻却事由がないかどうかという判断に進んで行く。今回は、特定されていない。一部の人について特定はあるけれど、社会的評価の低下はないというところで、もう判断は終わっている。一応今回の決定の論点というのを、公共性、公益目的があるか、真実性、真実相当性は認められるかと、5ページで項目として挙げているが、そこの判断に入るまでもなく、名誉毀損はないという結論に至ったので、それ以上には踏み込んでいない。だから、実名で、かつ社会的評価を低下するのであれば、当然その先のほうに判断は入って行くことになる。

以上

第275回放送と人権等権利に関する委員会

第275回 – 2019年11月

「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2019年11月19日(火)午後4時~9時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案の審理

テレビ東京は2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部は加工されないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「必要かつ十分な配慮を行った」とした上で、音声の一部が加工されないまま放送された点について「編集作業上のミスで反省している。放送後速やかに社内ルールを見直し、再発防止に努めている」としている。
今委員会では、起草担当の委員から提出された委員会決定の草案について審理を行った。はじめに、起草担当委員が決定案の構成等について説明し、申立人が訴えるプライバシー権、肖像権の侵害に関する評価、取材・編集方法に放送倫理上の問題があったか等、意見が交わされた。今回の議論を基に決定文の修正を行い、次回委員会で引き続き審理することになった。

2.「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案の審理

テレビ埼玉は、2019年4月11日の『News545』の中で損害賠償訴訟のニュースを放送した。この放送に対して元市議から申立てがあった。元市議は、放送の中で「自分が起こした裁判であるのに、自分がセクハラで訴えられたかのようなニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられたと申し立てた。また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であると主張している。
これに対しテレビ埼玉は、ニュースの中では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に表現しており、全体をみれば誤解を招くような内容ではなく、名誉毀損や選挙妨害には当たらず、放送倫理上問題もないと反論している。またテレビ埼玉は、申立人との交渉のなかで「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことを認め、当該放送日の夜のニュースで言葉を修正した放送を行ったほか、市議会選挙直後の4月22日の『News545』の中でお詫びと訂正を行っている。
今委員会では論点整理が行われ、また、申立人、被申立人に対するヒアリングにおいて、それぞれに尋ねる質問項目を決めた。ヒアリングは、次回12月の委員会で行う予定。

3.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理

フジテレビが去年7月、オウム真理教の松本智津夫死刑囚らの死刑執行を報じた特別番組について、松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱い、父親の死が利用されたことで遺族としての名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、速報情報を扱う生放送の時間的、技術的制約の中で、複数の死刑囚の執行情報を分かりやすく伝えたもので、その方法には必要性、相当性があり、申立人の権利を侵害していないなどと反論している。委員会は、前回、審理入りを決めた。
今委員会では、書面が出そろっていないことから、論点として検討すべきポイントや今後の議論の進め方について意見交換を行った。

4. その他

  • 申立てについて事務局より報告し、意見が交わされた。
  • 委員会運営について意見交換を行った。
  • 次回委員会は12月17日に開かれる。

以上

第143回 放送倫理検証委員会

第143回–2019年11月

読売テレビ『かんさい情報ネットten.』委員会決定を通知・公表へ

第143回放送倫理検証委員会は11月8日に開催された。
出演者の不適切な差別的発言を放送し審議中の関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、担当委員から意見書の修正案が示された。次回委員会には意見書の再修正案が提出される予定である。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送し審議中の読売テレビのローカルニュース『かんさい情報ネットten.』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、12月上旬に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うこととなった。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送の『今日ドキッ!』について、当該放送局の番組関係者に対して行われたヒアリングの概要が担当委員から報告され、意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。次回委員会には、意見書の原案が示される予定である。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。
少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ審議中のTBSテレビの『消えた天才』について、当該放送局の番組関係者に対して行われたヒアリングの概要が担当委員から報告され、意見書の骨子案が示され、意見交換を行った。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組を放送した際、事前に準備した動物をその場で発見し捕獲したように見せる演出を行ったTBSテレビの『クレイジージャーニー』について、当該放送局から追加の報告書が提出され討議した結果、番組内容が民放連放送基準に抵触している疑いがあるとして審議入りすることを決めた。
スーパーマーケットの買い物客に密着する企画で、ディレクターの知人を客として登場させた内容を放送したテレビ朝日の報道番組『スーパーJチャンネル』について、当該局から提出された同録DVDや報告書などを基に討議した。その結果、番組内容が放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を解明する必要があるとして審議入りすることを決めた。

1. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議

関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について、当該放送局は、4月の放送前に制作や考査の責任者らが検討し、「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」と判断して放送したとしていたが、6月になって、視聴者への配慮が足りず心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだったと謝罪した。
委員会は7月、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている民放連の放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から意見書の修正案が示され、それを基に意見交換した。次回委員会には、意見書の再修正案が示される予定である。

2. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』の審議 12月上旬、通知公表へ

読売テレビは、5月10日夕方のローカルニュース『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会において、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りした。
今回は、前回の意見書の原案に対する議論を受けて担当委員から示された再修正案の内容について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、12月上旬に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うこととなった。

3. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議

北海道放送が参議院選挙公示前日の7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。9月の委員会において、その他の比例代表の候補者や政党にはまったく言及しておらず、参議院比例代表選挙には制度上北海道という区切りを入れる余地がないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは、道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できないことからすれば、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性を害し、放送倫理違反となる可能性があり、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして審議入りした。
今回の委員会では、担当委員から、当該放送局の番組関係者に対して行われたヒアリングの概要が報告され、意見書の骨子案が示され、これを基に意見交換を行った。次回の委員会には、意見書の原案が示される予定である。

4. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議

2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。
委員会は9月、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から、意見書の骨子案が示され、これを基に意見交換を行った。次回委員会には、意見書の原案が示される予定である。

5. 少年野球のピッチャーの投球などスポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議

TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたことが社内調査で判明したと報告があった。
9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りが決まった。
今回の委員会では、担当委員から、番組関係者に対して行ったヒアリングの概要が報告され、意見書の骨子案が示され、これを基に意見交換を行った。次回の委員会には意見書の原案が提出される予定である。

6. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』審議入り

TBSテレビは、2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、制作スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行っていたと発表した。
当該放送局の報告書によれば、専門家が「爬虫類ハンター」としてメキシコを訪れ、珍しい爬虫類を発見・捕獲するという企画で、放送後、外部からの指摘を受け社内調査したところ、紹介した動物6種類のうち4種類が、事前に現地の協力者に依頼して捕獲し、生息地付近に放すなどしたものを使って撮影していたことがわかったという。また過去10回の「爬虫類ハンター」企画を調べた結果、計7回、11種類の生物が、事前に用意されたものであることがわかったという。
委員会は10月、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に討議し、委員からは「民放連放送基準『(32)ニュースは事実に基づいて報道し公正でなければならない』に抵触する疑いがある」「事実を伝えていないという点で視聴者との約束に反している」など放送倫理違反の疑いがあるとの意見が出されたが、当該放送局によるメキシコなど現地協力者への調査が継続中であることから、討議を継続していた。
今回、当該放送局から調査結果をまとめた追加報告書が新たに提出され、これらを基に委員会で討議した結果、民放連放送基準に抵触している疑いがあることを踏まえ審議入りを決めた。

7. スーパーで偶然出会ったように放送した買い物客4人が取材ディレクターの知人だったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』審議入り

テレビ朝日は今年3月15日、報道番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーマーケットの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が、取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。
当該放送局から提出された報告書によると、当該企画は、業務用の食品などを扱うスーパーを紹介し、個人で利用する客の事情など生活の様子を描くもので、当該放送局の関連会社に派遣されたディレクターが単独でロケ取材を行っていたという。企画の主要なエピソードの中心人物である4人はこのディレクターの知人で、事前にロケのスケジュールなどを伝えていた。
委員会では、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に討議として意見交換が行われ、委員からは「利害関係者を番組企画に登場させるなど、過失ではなく故意に行われた事案である可能性が大きく、放送倫理違反の疑いがある」などの意見が出され、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして、審議入りを決めた。

以上

2019年10月3日

意見交換会(山形)の概要

◆概要◆

青少年委員青少年委員会は、言論と表現の自由を確保しつつ視聴者の基本的人権を擁護し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与するというBPOの目的の為、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能」を果たすという役割を担っています。今回その活動の一環として、山形県の放送局との相互理解を深め、番組向上に役立てることを目的に、2019年10月3日の14時から17時まで「意見交換会」を開催しました。
BPO青少年委員会からは、榊原洋一委員長、緑川由香副委員長、大平健委員が参加しました。放送局の参加者は、NHK、山形放送、山形テレビ、テレビユー山形、さくらんぼテレビジョン、エフエム山形の各連絡責任者、制作・報道・情報番組関係者など24人です。
会合ではまず、緑川副委員長が「青少年委員会が出してきた青少年が関わる事件・事故報道に関する見解について」を説明したのち、第一部では「青少年が関わる事件・事故報道」について。第二部では「災害報道における子ども、被災者への配慮」についての活発な意見交換がなされたのち、第三部として小児科医である榊原委員長から「放送関係者のための"発達障害"の基礎知識」の説明が行われました。最後に地元放送局を代表して山形テレビ 大塚大介 常務取締役編成制作局長から閉会のご挨拶をいただきました。

<青少年委員会が出してきた青少年が関わる事件・事故報道に関する提言・要望等について>

〇緑川副委員長
BPO青少年委員会が発表した4つの提言・要望などがある。

(1) 「衝撃的な事件・事故報道の子どもへの配慮」についての提言(2002年3月15日)
2002年3月15日に発表したジャーナリズムの責務と子どもへの配慮についての提言である。まず、テレビ報道が事実を伝えるのは国民の知る権利に応えることであり、民主主義社会の発展には欠かせないものであり、その内容が時にはショッキングな映像であったとしても、真実を伝えるために必要であると判断した場合には、これを放送するのはジャーナリズムとして当然であり、子どもにとってもニュース・報道番組を視聴することは市民社会の一員として成長していく上で欠かせないとして、ジャーナリズムの責務について述べている。
他方において、子どもたちはニュースの価値についての判断がつきにくく、突然飛び込んできた映像にショックを受けることがあり、そのためテレビで報道するに当たっては、子供の視聴を意識した慎重な配慮、特に子どもが関わった事件の報道に際しては、PTSDも含めた配慮が必要になってくることを指摘し、その上で、放送局に対して検討を要望したい事項を挙げた。その1つ目が、刺激的な映像の使用に関する慎重な配慮として、衝撃的な事件や事故報道の子どもへの影響に配慮し、子どもが関係する事件においては特別な配慮をしてほしいこと、2つ目が、繰り返し効果のもたらす影響への慎重な検討と配慮、3つ目が、メディアの積極的関与として、多様な子ども向けのサービスを展開して、子どもを対象にしたニュース解説のようなものを放送することを検討してほしいこと、4つ目として、子どもに配慮した特別番組と、保護者を支援する番組のための研究と対応として、子どもへの影響を配慮した特別番組や、衝撃的なニュース報道などによって、影響を受けた子どもの心のケアに関して保護者を支援するような番組を組めるように研究や検討を深めていってほしいと要望した。

(2) 「児童殺傷事件等の報道」についての要望(2005年12月9日)
先ほど紹介した2002年の提言に加え、特に検討を求めたい事項を要望したものである。
1つ目として、殺傷方法などの詳細な報道に関する慎重な配慮をしてほしいとして、模倣の誘発、視聴者たる子どもをおびえさせるなどの影響を懸念し、この点について配慮した上での報道の検討を要望している。
2つ目として、被害児童の家族や友人に対する取材への配慮である。大人はもちろん、未成熟な子どもに対する心理的影響に配慮しつつ取材に対応してほしいという趣旨である。
3つ目が、被害児童及び未成年被疑者の文章などの放送についての配慮である。これはプライバシー、家族への慎重な配慮をきめ細やかに配慮した上での取材・報道を求めたいという要望事項だ。

(3) 「子どもへの影響を配慮した震災報道」についての要望(2012年3月2日)
2011年の東日本大震災以後、震災報道を視聴することによるストレスについての視聴者意見がBPOに寄せられたということを踏まえ、震災後1年を迎える時期に放送局に対する要望を発表したものだ。当時、震災報道に関して大人にとってもショッキングな映像が流れていたが、そのような映像がもたらす子どものストレスへの注意喚起をした。また、震災のストレスに関する知識を保護者たちが共有できること。震災ストレスに対する啓発のための番組の制作、保護者に対する情報提供などを踏まえた番組づくりの検討をしてほしいという意見をまとめたものだ。加えて、津波などの非常に強い衝撃のある映像などの使用について、予告なく目に飛び込んでくるスポット映像や、子どもへのストレス増長の危険性について協議した上で、十分な配慮をして番組づくりをしてほしいという意見を出している。

(4) "ネット情報の取り扱い"に関する「委員長コメント」(2015年4月28日)
残虐・悲惨な事件や事故などの映像を、そのまま映像を伴って配信しているインターネット上のサイトを情報番組で紹介した企画について、当時、青少年委員会に視聴者意見が寄せられ、ネット情報の取り扱いに関する委員長コメントを発表した。今、私たちの周りは無限大のネットの情報空間があり、世界のあちこちで貧困と格差の拡大、局地戦争、人権無視の暴力や殺りく、テロ、深刻な環境破壊問題が起こっていて、それらの最前線の具体的事実については、そのほとんどを私たちは知らないでいるという現実があること、そのことを伝えることを大事だと考え、私的に利用できるネットで公開しようとする人たちが出てくるのも必然であり、そのネット上の情報が瞬時に世界を飛び回るという状況にあること、地上波のテレビメディアもその周辺でこうした情報空間が広がってきている現実を無視することができなくなっていく可能性があり、ネットメディアの情報をテレビが紹介したり、それに触発されて新たに番組を制作したりすることも、これから増えていくことが予想されると指摘した。そして、テレビ局の情報収集力は限られているが、ネット情報には、例えそれが吟味されたものではないにしても、無限と言ってよいほどの収集力と提供力があり、その中でテレビ局の独自性と責任性を、どこにあると考えていくべきなのであろうかという問題提起だった。

<意見交換会の概要>

第一部「青少年が関わる事件・事故報道」について

〇事務局
各社これまで青少年の事件・事故報道で取材時、編集時、放送時に困ったこと、悩んだこと等があったら、挙手して教えていただきたい。

〇放送局
かつていじめられていたというお子さんを取材して番組を企画したときに、端的に言うと本人もご家族も了解だった。しかし、こちらが本人やご家族が了解だからと全てを紹介すると、全てが明らかになって、誰がいじめた、どこの学校であるとか、そこから推察されそうな情報がたくさん出てしまうということで、ある意味自主規制で子どもの顔を出さなかったり、いろいろ配慮して情報量としては半分ぐらいに削って出したような記憶がある。その判断はその時点では正しかったと思っているが、ご本人が了解だという場合に何でもかんでも出すべきというのは、そのときの制作者の判断によってしまうのだが、何か指針のようなものを持って考えればいいということがあるのかな、と思った。

〇放送局
いじめた相手の方も少年や未成年ということだろうし、そういった反対側の方の配慮というのは間違いなく必要だろうから、自主規制という話だったが、やはり何らかの線引きというか、配慮は必ず必要になってくるのではないかと考える。

〇放送局
2014年、天童で当時中学1年生の女子生徒がいじめを苦に自殺をしたという事件があり、その報道の出し方を巡って女子生徒が通っていた中学校の実名を出すかどうか、弊社を含め各局でかなり対応が分かれたと記憶している。ちなみに、弊社は当時、部内でいろいろ協議を重ねた結果、実名で行こうということで中学校名を出して報じたという経過がある。繰り返し放送になるということもあり、果たしてそれが本当によかったのか、今振り返ると思う部分もなくもない。

〇事務局
天童のいじめ事件では各局で対応が割れたようだが、それぞれの局の対応はどうだったか教えてほしい。

〇放送局
弊社も実名で中学校は出した。天童に中学校は少ないので、ネット上では既に特定されているような状況もあった。ただ亡くなった彼女なり、遺族の特定にはならないようにという配慮をした上で、原則実名で行きたいという思いもあり、匿名か実名かのせめぎ合いだったように記憶している。

〇放送局
弊社では、当初は一報段階では学校名などは伏せていたが、その後問題が大きくなるにつれ、社内でも議論を重ね学校名は出した。ただ山形は人口が少なくて、天童で事案が起きた周りの人は言わずもがな、どこの誰だと当然知っている。田舎であるために、その名前を出す出さないによってどこまで影響があるのかということも考えた上で、学校名は出すという判断に至った。ただその映像について学校名を出していながら、学校の外観を思い切り映すのかどうなのか、議論になった。建物に対しても、例え学校名を出しているにしても、何らかの配慮が必要なのではないかというような議論をした。

〇榊原委員長
いじめ事件・事故報道と関連した報道に、犯罪報道がある。しかし犯罪といじめというのは少し違う。私は東京のある区のいじめの対策の第三者委員会の委員をやっているが、いじめの場合には犯罪と少し違う点として、いじめられた子ども人といじめた子ども、その両方とも多くの場合未成年であるということがまず違うと思う。
もう一つの違いは、そこに学校がかかわってくるということである。学校というもう一つの主体があるところが問題を難しくしていると思う。さらに学校の後ろには教育委員会があったり、地域社会がかかわってくるという大きな課題がある。そこがいじめ問題の報道の難しさだと思う。
結論はなかなか出ないと思うが、報道というのは真実を伝えるという第一義的な意味があるが、いじめの場合に学校などの名前を出すことにどういう意味があるのか、皆さんが悩んで検討されたと思うが、それが大きなポイントかと思っている。

〇事務局
山形県内で親による子どもの虐待事件が何件か起こっていて、虐待事件ならではの苦労もあったと聞いている。

〇放送局
4月以降、県内で親が自分の実の子どもに対して暴力を振るったり、けがを負わせたりという事案が相次いだ。子どもは未就学、小学校、中学校と様々だったのだが、親の名前を出すかどうかという点で報道部内で議論をした。親の名前を出すと子どもまで紐づいて分かってしまうのではないか。子どもへの影響を考えての議論だったわけだが、こういった事件が相次ぎ、全国的に悲惨な事件も起きているので、社会性があるのではないかという点。それから知る権利に応えねばならない、事件の正確性を保たなければいけないという点。その上で再発防止なども含めて実名で出すという判断をした。一部、もう既に裁判になっている母親のケースでは、否認をして係争中で別の実の子ども、兄弟が証言台に立って、弟は「自分の目の前で暴力を振るわれていた」などと証言をしいる。逮捕、起訴、それから裁判と、続けて報道をしていくことにもなる。そういった場合にどう判断をしていったらいいのか悩ましいというか、考えさせられる。

〇事務局
その際に御社内には実名を出さないほうがいいのではないか、というような意見はあったのか。

〇放送局
基本は実名で行こうとなった。他社でも出さなかったところがあり、子どもへの配慮を考えての判断だろうということで、今後の報道の仕方について考える一つの材料になっていくのかなという議論はした。

〇大平委員
精神科医として感じるのは、名前とか権利とかというものに対して、法整備が遅れているのか、きちんと考えが行き届いてないのか、大人であれ子どもであれ、被疑者の段階で報道されて名前が出ていくということ自体が、まだ推定無罪が原則というのが全く貫徹しようのないような状況があって、そもそも問題じゃないかと思う。
逮捕されたり起訴されたりしたときに、これから裁判を受けるのであるから、まだ有罪ではないのだから名前を出されてはいけない。ただそうすると被害者のほうはどうかということになるが、日本の親子関係の規定というのが、きちっとしていない気がする。親の権利は守られているのか、子どもが一人で生きていく権利というのが親とセットになっていて、堂々と子どもが一人で親と関係なしに生きていくことが考えられていない、前提になっていないということがあると思う。
大事なのは、「うちはこれでやります」と何でやるのかということを1行でも報道するときに言ってもらったら、視聴者の方には伝わるものがあると思う。堂々と言えるような、自分たちの主張として言えるというのがいいことなのではないかと思う。皆さんが現実に一所懸命考えているわけだから、そのこともちゃんと報道しておく、そのことを伝えておくということが大事だと思う。映像にボカシを入れているのは、こんなことは報道としてはしたくないが、横流ししてネット上で流す不埒な人間がいるので、そういう人たちのせいで犠牲者が出るのは嫌なので顔を出さないんだ、と堂々とやれば。それを全部自分のところの部局だけで良い悪いと議論して、何を議論したのかも出さないで、すっとニュースにしてしまうせいで、日本の報道、テレビに限らずラジオも同じだが、どれほど損しているかと思う。
警察の発表というのは名前に限らず、本当にお上が出したいものだけしか出さないの典型だ。日本の役所はおそらく全部そう。新聞でも結構多いことなので非常に問題だが、警察がここまでしか出さないので、ここまでしか報道できないんですと言う。私が望んでいるのは、「警察が発表しないので報道できないのです」ということをきっちりと言ってくれる時代が来ることだ。例えばアメリカでは、事件があったときに、必ず署長なり保安官が出てきてテレビの前で説明する。そのときにみんなが質問して答えなかったらどうなるかというと、翌日の新聞の第1面、テレビでもネットの放送でも、どこどこのシェリフはちゃんと答えなかったというのがヘッドラインになる。それは何をしているのかというと、自分たちの姿勢を訴えるんだということ。自分たちはどこまでも真実を訴えたいんだと。そういうことをやはり主張してほしい。

〇緑川副委員長
法的な権利関係の視点からのポイントのひとつとして、犯罪報道の場合、被疑者の実名報道については、無罪推定の原則との関係で、実名を報道することによって有罪視報道になってしまわないかということがある。
もう一つは、これは犯罪報道に限らず、子ども同士のいじめ、刑事事件になっていないようないじめ、最近の京都アニメーションの事件における被害者の実名報道、災害のときの被災者の実名報道など全てに共通する問題としては、プライバシーと知る権利に支えられる報道の自由との調整の問題がある。
3つめは、放送局の場合には映像を流すため肖像権の問題も出てくると思う。
先ほどの子どもの虐待事件は、既に逮捕されて刑事事件になっている。そういうときに逮捕された親の実名を報道することによって、子どもが特定されてしまうという視点は、子どものプライバシーであるとか、子どもの成長発達権とか、その子どもの視点、人権に立った上での配慮ないし検討事項であり、とても重要なことだ。
一方で、無罪の推定原則があり、逮捕された親を最初から非難する方向での犯人視報道をしたとして、裁判が進んでいって、もし有罪じゃない、あるいは、違う事実が出てきたときにどうするのか、そういう視点からの検討は必要だろうと思う。ただ、必ず匿名報道すべきだというのではなく、推定無罪の原則がある中で、その事案の具体的内容を十分に調査し、それでも被疑者を実名報道すべきなのかどうかという視点から検討すべきなのではないかということだ。
プライバシーの問題になるともっと広がってきて、刑事事件に限らず、全ての実名報道すべきかどうかという問題において検討する事項になってくる。例えば、いじめの問題で、いじめた側もいじめられた側も、どちらも子どもであって、刑事事件にもなっていないし、民事事件にもなっていないというような状況だったとして、被害者側が実名について承諾していたとしても、加害者側が承諾していないというところで加害者が特定されるような報道をすることによって、加害者側のプライバシーというのが侵害される可能性がある。加害者のプライバシーが侵害されるから報道してはいけないというように簡単に結論が出る問題ではなく、判例上、報道される側のプライバシーと、一方で報道することの必要性、憲法21条の表現の自由、報道の自由、知る権利の比較衡量で結論を出していくので、プライバシーが侵害されているとしても、それを上回る報道する必要性、知る権利を充足させるための報道の必要性があるのかどうか、その報道の仕方として相当なのかというところを、詰めて考えておかないといけないと思う。
学校側からクレームがついたとしても、そこの比較衡量において、「自分たちの社ではこう判断したから特定できるかもしれないけれども、こういうふうに報道した」というふうにいえるだけの検討をしているかどうか、ということだろう。プライバシーとそれを押しても報道する必要性、報道の仕方の相当性があるかどうかということを詰める、そこを整理して考えることによって、何か不安だというところからもう一歩進んだ問題点を洗い出していけるのではないか。テレビの場合には肖像権の問題があるので、肖像権という視点からも人物を特定するような報道をするというときには、そこも検討事項としてはクリアしておかなければいけないと思う。

〇榊原委員長
いじめのことで、学校側が知られたくないという場合は結構多い。それは、いじめというのはどこに責任があるのかというのはなかなか難しい問題であるが、多くの場合、学校が監督責任あるいは、教育の責任として責任が問われることがあるために、学校側としては余り報道されたくないという事態があると思う。それで学校のほうから報道しないでくれ、あるいは、学校の名前を出すのは困るという意見が出るのだと思う。
そこで、学校名を出すことの意義を皆さんが詰めて考える必要があると思う。学校側の教育的な配慮が足らなかったことを訴えたいという結論が出たとしたら、それは学校名を出すということもあり得ると思う。当然、学校側は反発すると思うが、いろいろな状況から考えると学校側の責任もあるのではないかということを社会的に出していくために学校名を出す必要があるという覚悟で報道するという意味もあると思う。例えば学校側の責任の問題というのが真実の一つとしてある、というふうに考えれば学校名を出すことになるだろう。
ただその時々のさまざまな条件、いじめは必ずしも犯罪ではないので、推定無罪の原則というのはないのだが、いじめられた子といじめた子どものプライバシーの問題、あるいは知る権利の問題、あるいは、いじめの場合は肖像権は必ずしも出ないと思うが、幾つかの相反する要因を検討して報道するということに尽きるのではないか。

〇事務局
ここまでは我々が知り得た個人名や学校名をこちら側が出すか出さないかという判断についてだが、警察サイドが名前等を出さなくなってきている状況もあるようだが。

〇放送局
いま代表的な問題となっているのは、京都アニメーションの事件だと思う。警察が被害者の名前を遺族に配慮して出さない。もっと遡るとやまゆり学園の事件で、障害のある人たちの被害者の名前を警察は出さなかった。要は警察側が被害者側の意向を汲んで出さなくなっている傾向が多々見られる。山形では大きな凶悪な事件はないが、交通事故に関しても、骨折した子供の名前を「親御さんが名前言わないでくれと言っているから」というものも警察署によってはあったりするが、それはどうなのかと思う。
警察は大きな公権力を持っているので、基本、仕入れた情報は出すのが大原則で、それを受けて我々が出すかどうかを判断するというスタンスが大事なのではないかと考えている。警察が名前を出さないのを我々が無理やり嫌がっている被害者に名前出せといって出させているような対立構図に捕えられがちになっていて、実名報道に関しても1つの事件ごとに、この場合はどうする、この事件についてはどうすると、本当に個別の対応が迫られていて非常に頭を悩ませている。そこまで大きな社会問題、一般の人も巻き込んでの問題になってきているのかなと日々感じている。

〇事務局
京都アニメーションの問題は皆さん関心が高いと思うが、プライバシー保護と報道について、他にご意見は。

〇放送局
京都アニメーションの事件に関しては、当初被害者の実名を出さなかった経緯について、いろいろ問題視していることなどが逆に報じられている。プライバシーに配慮しつつというが、公益性などを勘案したときに、警察がプライバシーの保護を優先して公表しないということに相当問題があるのではないか。事件の正確性や社会性も含めてきちんと報じるべきところを報じなければというのが報道の立場だとは思うが、それができないというところが非常にもどかしい。警察の対応のおかしさを感じてしまう。実際報道する、しないについては報道機関のほうで判断すべきところは判断すべきだと思うが、情報として出してこないことに関しては非常に憤りというか、どうしたことだというような形で受け取っている。

〇緑川副委員長 
京都アニメーションの被害者の実名が40日間警察から出てこなかったということと、出てきた後で報道されたことについて、SNSなどで批判的な意見が出していた。いろいろな意味で社会的に多くの人が関心を持ったことだったと思う。今回の京アニ事件の被害者の実名報道はプライバシーとの利益衡量の問題だと思うが、ここで警察の発表と報道を分けて考えないといけないと思う。警察などの公的機関が実名を含めて情報を出すことは重要かつ必要なので求めていかないといけないと思う。それによって報道機関はその事実の正確性や、さらに事案を深掘りしていって報道すべき重要なことがあるのかないのか、そういうことを取材できる端緒にもなるので、公的機関は報道機関に対して公表すべきと思う。
他方において、それを報道機関が報道するかについては、プライバシーの問題や、推定無罪との関係で有罪視報道にならないか、あるいは放送の場合には肖像権の侵害の問題など、さらなる視点を踏まえて十分に考えた上で、どのような形で報道していくかということになると思う。40日後の発表が遅いか早いかということに関しては、メディア関係者が実名報道の理由として挙げる報道機関の使命である正確な報道とか、社会的に重大な事実を記録するために実名報道が原則という視点から考えれば、40日後であったとしても、1年後だったとしても、記録するという意味では問題ないのではないかと思う。
2005年に所属している日弁連の人権と報道の調査部会でニューヨークタイムズに行ったことがある。2001年に9.11が起こって、調査に行ったのが2005年だったが、そのときニューヨークタイムズの方たちから聞いたのは、被害者、犠牲者全員の名前をプロフィールを含めて新聞に出したが、それは事件が起こってから全部で2年か3年かかったと。2年か3年かかったけれども、1つずつ掘り起こしていって全部出したという話であった。また、その際、アメリカの報道機関では、被害者本人が嫌だというから実名を出さないという視点はないという話も聞いた。アメリカは憲法の最初に表現の自由の保障が規定されていることも踏まえて興味深い話であったが、2年、3年かかっても、その人たちが生きてきた歴史を刻む、それが報道に必要だから報道したという考えであるのならば、40日が遅かったかどうかというのは、40日であっても1年後であっても、京アニで活躍していた方たちの生きてきた証を掘り起こした記事を出すということで、それは遅くはないだろうと思う。
一方で、安否確認という視点から被害者の実名報道を考えると、被害者や遺族の意向を尊重しつつも、早期の公表と報道の必要性を検討すべきかもしれない。
そのあたりを整理して考えて、そしてその整理して考えた結果、なぜ被害者の実名を出すことが必要なのかということを丁寧に社会の人たちに知らせていって、社会のコンセンサスを得る努力をしていかなければいけないのではないかと思う。

〇放送局
遺族が亡くなった家族の名前を出してほしくない、報道せずにそっとしておいてほしいという遺族側の心情は理解できる。しかし、我々としては実名報道という部分は原則としてはあるというところで、価値観が対立しているのかという気もする。一方で遺族が取材を余り受けたがらない背景には、報道する側の取材の態度だったり、いわゆるメディアスクラムというのが大きいのかなと思っている。
聞いた話だが、滋賀県の幼稚園の子どもたちが車にはねられて大々的に報道されたことがあったが、そのとき遺族取材で最初はテレビ局、新聞を含めて皆で遺族の家に押しかけるような取材だったのだが、クラブ内で話し合いを持ち、当番制で1社ずつ時間を区切って遺族への取材に行くような対応をしたということで、我々の報道する姿勢もちょっと今後変わってくるのかなと思った。遺族への配慮というのをこちらも見せないと、遺族側も取材を受けたがらないのではないかと思い、自分たちを改革していく必要もあるのではないかと感じた。

第二部「災害報道における子ども、被災者への配慮」について

〇事務局
最近、災害報道について「撮影している暇があったら復旧を手伝え」「被災者の家に入り込んで何をやっているんだ」などと言った意見がBPOに来ることが多い。災害報道での子どもや被災者への配慮に加えて、視聴者の意見についての見解を教えてほしい。

〇放送局
阪神淡路、最近は東日本大震災を経験し、報道の仕方の勉強会を数々開いてきた。今年6月の新潟・山形地震に関しては朝番組で生中継をやったが、避難場所の中には入らず、外で中継して、中には人が入って取材して、それを外で伝えるという報道姿勢でやった。
ヘリコプター騒音に関しても、基本的には航空法で定められている高さを守っている。しかし夜10時22分発生の地震だったので、朝になり明るくならないと状況が分からないというところで、各社一斉に夜明けを待ってヘリコプターが向かったと思う。
液状化の取材が一か所に集中していたという視聴者意見だが、幸い地震被害がそれほど大きくなく、液状化現象が鶴岡駅前だけに集中していて、その事実を伝えるために何回も放送された。鳥居などが倒れているのも、象徴的なのでその映像が繰り返されたことは事実だと思う。現場へ向かう記者、カメラマン等の安全確保も基本になっており、注意報が出ているところには行かせない。記者の安全も守りながら今回も報道した。
津波が起こると視聴者へ注意喚起の呼びかけをするが、アナウンサーが中心になって、どう呼びかけるかという勉強会をやっている。想定集があるので、それに則ってやるようにしている。しかし津波というのは危険なので「早く逃げてください」、大雨の時も「自分の命を守ってください」というようなことも想定集の中にどんどん入れ込んで、どれがいいのかを取捨選択してアナウンサーはやっているというのが現在の報道姿勢だ。

〇放送局
今回の新潟・山形地震では、震度が6弱ということで山形でこれまで経験したことのない大きな揺れだったということ。それからもう一つ、津波注意報が出た。日ごろから訓練して、報道のあり方について社内でも取り組んではいるが、急な大きな地震ということで、対応にはさまざま反省点も出ているところだ。
1つは津波注意報が出たということで「すぐ逃げろ」とか、「今すぐ逃げてください」というような呼びかけが一部報道の中にあった。しかしそこまでではない「沿岸に近づかないでください」という呼びかけで、伝える側の正確な情報の発信という意味でどうだったのかという反省が出た。発災が夜だったということで「逃げてください」とか「避難所へ向かってください」というようなことについても、「足元に注意して」とか、「夜だから家の中にまずは待機して情報を見極めてから」とか、夜の発災ということを踏まえた呼びかけがどうだったのかという点で事後に議論した経緯がある。
我々は酒田市でタクシーをチャーターして、そのタクシーから撮影した映像を流したが、「津波注意報が出ている。タクシーの運転手を巻き込んでいいのか」というような視聴者からの指摘があった。これについても酒田市役所が避難所になっており、津波注意報のレベルで想定される津波の高さからすると、この場所については大丈夫だろうということでこういう手法をとった。しかし視聴者の方の指摘、いろいろな見方、我々に抜けているような指摘もいただいているという印象だ。ヘリコプター騒音についても、現地の記者からの電話が聞こえないぐらいヘリが来ていた。大きな災害に慣れていなかったこともあるが、配慮しなければいけないと改めて認識した。
幸い被害が少なかった中で、温海の小岩川地区は瓦が落ちたりして被害が大きかったのだが、メディアスクラム的な集中をしてしまい被災者への配慮、取材者の意識の問題等も反省点として出てきた。

〇事務局
大きな災害になると被災者にとってはラジオが情報源になると思う。大きな災害時にラジオはどう対応したか。

〇放送局
東日本大震災の時は、5時間半の生ワイド番組を放送していたが、その最中に揺れた。そこから番組の内容を切りかえて、情報を常に提供し続けるということを夜10時、11時くらいまで続けた記憶がある。当初はテレビと同じようにどこが震源で、どこが揺れていて、どこに被害が発生しているか、被害状況を説明するというようなことを行った。ただ情報収集には限界があって、ややもすると正しい情報をなかなか伝えられないし、画像が我々のところに届いているわけではないので山形県以外の、例えば岩手県や宮城県の被害状況を言葉で伝えることはできても、その状況を見ていないので伝えることには限界があった。そのうちにリスナーから求められているのが、"報道"ではなくて"情報"だということに気がついた。それは例えば食料はどこで買えるのか、水はどこで手に入れることができるのか。特にあのとき山形県内は広い範囲で停電になり、その停電の復旧状況、情報などが非常に求められていると感じた。
ではその情報をどうやって集めるかということを社内で協議した結果、リスナーから民間レベルの情報を集めるのはどうかという意見が出た。リスナーの情報をそのまま鵜呑みにして放送するというのは非常に危険なのでそういう例は過去なかったが、状況が状況だったのでとにかくリスナーからライフライン情報等を集めて、それを提供することにしようと最終的に当時の社長が決定した。今まで被害状況を伝えていたのを今度は山形県内でどこのコンビニやスーパーが営業しているのか、どこのガソリンスタンドが営業しているのかといった状況を中心に、リスナーから情報を集めて報道することを決めた。恐ろしいほどの情報が集まって、ひっきりなしにメールやファクスが動くような状況になった。まず食料品を買える情報、水が得られる情報、お風呂に入れる情報、オムツが買えるところはどこだとか。最終的には停電の復旧状況の話が中心になってきて、山形市内でもいろいろ差があったので、どこどこは停電から復旧した、水も出るようになったという情報が今度は集まってきた。するとリスナーから他の地区も頑張って下さいというようなコメントもついてくるようになって、それを紹介しながら続けていたという記憶がある。
ラジオに求められているのは、"報道"よりも"情報"なのだなと思った。コミュニティ放送だったらより市町村に密着しているので、もっと濃い情報を集められるだろう。ただ、果たしてその情報が100%正しかったかどうか、検証するすべはなかったような状況だった。もし被害状況がもっと長く続けば、今度は安否確認情報なども入ってきただろうと思うが、幸いにしてそれほど長期の停電が続かなかったので、そこまで至らないで終わったような状況であった。もし同じ規模の災害が発生した場合も、やはりラジオとしては、最初は被害状況を伝えるに止まるが、被害が長期に及べば情報提供をするような役割がラジオに求められているということを認識してやっていきたい。

〇榊原委員長
ラジオの情報というのは非常に重要だと思っている。この意見交換会は、この1年半ぐらいの間に熊本、盛岡、高知、そしてこちら山形でやってきた。盛岡、山形は東日本大震災。熊本は熊本震災があった。高知は南海トラフ地震を非常に心配していて、それぞれの地域の放送局がさまざまな取り組みをしているのを見聞してきた。1つは、災害の放送で子どもたち、青少年が見ているというので、放送の仕方について、例えばPTSDを引き起こさないようにとか、非常に悲惨な画像は考えてくれということで意見を申し上げてきた。 
もう一つは、取材を受けた大人もそうだが、子どもに何度も取材がいき、思い返しをすることによってPTSDのようなことが起こりやすくなるということで、放送局の方が苦心されていた。高知では南海トラフの地震の起こる可能性が高い。いつ来るかわからない。現在の子どもが大人になってから来る可能性もあるということで、大災害に対する子どもの教育に放送局が熱心に取り組んでいるのも見てきた。
青少年委員会としては、地震のような大災害と報道と子どもの関係というのはさまざまなところでリンクしている、非常に重要なことがあると思っている。報道の仕方・取材、それを日本全国の子どもが見ているわけだから、子どもへの災害教育的な意味もあると思う。地震のような大災害に対していろいろな困難を皆様は経験されたと思うが、それを日本全国の放送界で共有していくというようなことが重要なのではないか。偶然この1年半の間に大きな災害があった所で意見交換会をしてきので、そのような印象を持った。

〇事務局
被災者の実名を公表するか、非公表かというのは国に統一基準がなく、各自治体の判断に委ねられている。法令で氏名公表の統一的な基準を設けるべきではないかという意見もある。

〇緑川副委員長
災害の被害者名を自治体、行政機関が発表するかについて、国による全国統一の基準がないとしても、自治体は自治体の責任で公表するかしないを決める必要があるだろう。事故のときにも情報を持っている警察などの公的機関が氏名を公表しないことによって、報道機関は取材の端緒を得られない、そのことによって事件を深く取材して報道することができなくなっていく可能性があるし、権力監視という報道機関の使命を果たすことが難しくなるという懸念もある。報道機関は、自治体や警察などの公共機関に対して、情報を公開するよう求めていくべきことであろう。
なぜ最近、警察が公表しないのか。公表しない理由として挙げられるメディアスクラムやプライバシーの問題だけではなく、背後に情報をコントロールするという意図があるのかもしれない。プライバシーの問題やメディアスクラムで遺族が被害を受けるからと言わせてしまわないように、メディア側も理解を得らえる対応を示す必要があると思う。少しずつではあってもメディアの使命を社会に知ってもらう。そのことで権力側が情報隠しをしない、公表しなければいけないというコンセンサスを得られるような状況ができていったらいいと思う。

〇放送局
実名を出して、事象によっては忖度というのが生まれて、それは警察がずっとそういうことをやり出すと、出す、出さないを勝手に決められるということが、むしろプライバシーというところは、京都アニメーションはすごいデリケートなんですけれども、その他にも波及していくと思う。やっぱり基本的には実名を出すという姿勢を警察は事件なのだから、やってもらわないと困る。困った時代になっていくのではないかと思う。

〇放送局
難しいのは、実名報道は原則だけれども、我々ローカルはどうしても地元密着で被害者に向き合い、寄り添わなければいけない。大きな局でさえ1人の生死にかかわるような要望が来ると、それはやはり無視できない。そうすると原則実名だけれども、そういう理由があるから1人は伏せて放送するとか、非常にまだらな判断が生まれる。忖度の次には、どうやって整合性をとっていくのかという難しい選択が来るということで、その先も難しい問題が山積みになっていって、丁寧に向き合っていかねばならないと思っている。
緑川副委員長にお伺いしたいが、最近、遺族側の弁護士を通して取材の自粛要請とかが非常に増えているような気がする。その辺の動きというのはどうなのか。

〇緑川副委員長
意見交換会などで見聞した印象ではあるが、増えているようには思う。それはメディア対応に限らず、犯罪被害者保護に関する法的整備や被害者保護についての社会の理解が進んできて、被害者に弁護士が代理人としてつくような事案が増えてきているように思う。被害者の代理人がメディア対応も行うことから、弁護士が入って被害者のメディア対応の窓口となるということがあると思う。
以前は、犯罪被害者に代理人がつくことは珍しく、自分で全部対応していかねばならなかった。メディアスクラムについてのメディア側の申し合わせなどもなかったころは、現在よりも大変だったと思う。そういう時代に、捜査などで被害者とも接点が多くなる警察が、相談を受けて、メディアに対して被害者の意向を伝えるというようなこともあったように聞いている。弁護士有志で、20年ほど前に、犯罪被害者に限定せずにメディアスクラム被害について調査して、弁護士が被害者の代理人としてメディア対応ができることもあるのではないかということを検討したことがあった。今は、犯罪被害者の保護の対応として、弁護士がメディア対応もやっているという流れであるような印象だ。

第三部 放送関係者のための『発達障害』基礎知識

今回の意見交換会に小児科医であり、発達障害が専門の榊原洋一委員長が出席するならば「発達障害」について知り、今後の取材、原稿制作、編集、放送に役立つ基礎知識を身につけたいというリクエストが出席者から出された。これを受けて、榊原委員長から、発達障害の基礎知識についての説明があった。そのポイントは、以下の通りである。

〇榊原委員長
*発達障害とよく使われるが、発達障害は複数の障害を含んだ総称である。

*発達障害の理解が困難な理由
(1)「発達」も「障害」も誰でも知っている言葉。個々人の解釈が存在する
(2)通常の病気のように、はっきりした症状(発熱、咳、痛み)や検査所見(血圧上昇、血糖値上昇、白血球増多)がない
(3)確定診断のための検査法がなく、専門家の間でも見立てが異なることがある
(4)定型発達児の行動と発達障害の行動は連続していて境目がない

*発達障害を構成する障害
(1)注意欠陥多動性障害(ADHD) (2)自閉症スペクトラム (3)学習障害

*生得的な障害(遺伝的)であり発達過程で発現
*併存(合併)が多い
*知的障害が併存することはあるが必須ではない
*罹病率が高い ADHDは小児期の心理、精神的障害で最多
*男児に多い *小児期に顕在化するが、成人期まで存続する
*家庭、地域、学校といった集団場面での困難が顕著

〇榊原委員長
*以前、さまざまな障害を理解しようというテレビ番組があった。二、三十人が胸に自分の障害名を書いてスタジオにいたが、その中に「発達障害」という診断名をつけて出ている人がいた。かなり愕然とした。発達障害という診断名はない。もし診断名、症状名を出すとすれば注意欠陥多動性障害とか、自閉症スペクトラムとか、学習障害とか。人によっては注意欠陥多動性障害とアスペルガー症候群両方あると、こういうように言わないとメッセージが伝わらない。

*"障害を乗り越えて"というと、乗り越えようと思っても既にあるものなので、乗り越えられるものではないという意見もある。障害は性格みたいなものだという説明は確かにする。しかし、注意欠陥多動性障害は症状ベースで言うと、日本で子どもときには4%だが、大人だと1.6%。アメリカでは子供が7%、大人になると4%と言われているから、そういう意味で治る。自閉症スペクトラムでもアスペルガー症候群の一部は本人自身の経験の中で、ほとんど社会生活に支障を来たさなくなる。ある意味で治る、乗り越えることはできるが、ただ障害は個性、あるいは性格だというような言い方がかなり定着しているので乗り越えるというと、それは無理だというような気持ちになる親御さんがいるのは理解できる。

*アスペルガー症候群あるいはADHDの行動の特徴が犯罪に結びついたと思われるようなシナリオがあった場合には、それは考えるべきだろう。しかし、例えば犯罪で捕まった人が実はアスペルガー症候群でした、といった場合にその間の関係があるかどうかというのはわからない。報道としては、その人がそういう診断名を持っているかということが明らかにその犯罪と結びつく場合には考えなくてはいけないだろう。しかしそれ以外の場合には注意しないとアスペルガー症候群でしたと言うと、聞いた人が「そうか。アスペルガー症候群の行動の特徴で犯罪を犯すんだな」と思ってしまうので、そこは慎重にすべきだろう。

*インタビューなどでどうしても発達障害の特徴が出るような場合には、編集するときにどうなんだろう。言いよどんだりした場合は、そのまま出さないほうがいいんじゃないか、と悩んでいる放送関係者がいる。これはその番組の性格によると思う。発達障害の中のどれかについての番組だとすると、特徴が出たほうがいいと思うが、そうではない番組で言いよどんだということで、発達障害だからといって特別に普通の定型発達の人と差をつける必要はないと思う。言いよどんだというのが分からなくなるよう、ここは編集してカットということでいいのではないかと思う。

<まとめ>

〇大平委員
一般的に理解されていないのが、"インタビュー"というのはお互いに見るという意味。向こうも見ているその間の空間のことを意味しているということが意外と忘れられていて、皆さんがインタビューする立場になったら、見られているという感覚がなくなっていると思う。相手、向こうは見ている。お互いに見るという人間関係だということが忘れられていて、情報を取る人と情報を提供しなければいけない人の関係だと、いつの間にか誤解されている。
ではどうすればいいのか。すごく簡単なことで、向こうも自分の態度を見ている。善心を持って自分は相手を尊重するということだ。立場からいうと自分のほうがお話を聞かせて頂かなくてはいけないわけだから、これは向こうの人に気に入ってもらえる、こいつなら話していいやと思えるように、自分の人間性というのを指し示さなければいけないということだ。
実名報道とも関わってくるのは、実名というのはそもそも報道とは離れて何なのかといったら、相手の個としての、個人の個としての尊重ということ。結局我々が相手を人間として認めるときには名前というのがついて回る。だからこそ報道で真実を追い求めるというときに、どういう人なのかということの出発点になるのは、我々の関心のスタートがそこにあるからなのだ。それをねじ曲げて名前は教えないと言っているのはおかしいわけだ。しかし、それは変なことではなく自分の名前を知られるということは良いことが何もないという時代になっている。人のプライバシーを売り物にしているだけではなく、人の個人としての尊重をするどころか、人間性を失わせようとする連中がいっぱいいるということだ。だからみんな名前を取られる、名前を明らかにするのが本能的なリアクションとして感情的に嫌になっている。
いわゆる報道の現場では、そういう背景に実名報道というのがあるということを理解してほしい。取材に行ったときには、ただの取材をする1人の人間なんだ。自分の人間性を見せるように、見ていただく。自分がマイク持ってお話を伺いにと行ったときに、相手は判断つけていますよということ。だからとても感じのいい人になっていただきたい。そうすれば、よくなってくると思う。皆さんの周りのとても感じのいい人たちが、お話聞かせて下さいと言ったら、悪い気はしないと思う。目が血走ってマイク持って、何が何でもこいつから話聞いて帰らないとデスクから叱られるみたいな切羽詰まった人たちがワッと押し寄せてきて、一言聞かせて下さいと言われたらこれはたまらないと思う。そういう状況にならないように皆さんが気をつけていると、5年後、10年後には取材に行くとウエルカムになると思う。そうなれば、実名報道も当然じゃないでしょうか、というふうに広まっていく一助になるかもしれない。

〇榊原委員長
テーマとしては、特に実名報道ということに焦点が絞られて、さまざまな深いお話ができたと思う。青少年委員会としては、子どもであるという要因が加わった非常に複雑な問題を解かなくてはいけない、そういう状況にあると思っている。ただ、そのときにやはり重要なことは、皆さんがきっちり話を詰めて、皆さんの報道する立場、なぜするのかということを見据えて対処していく。その場合には責任も伴うので、そういう判断をして、その結果、社会的な反論がなされた場合には、それに対してもきっちり応えていく。そのようなことが必要なのではないかと思った。
青少年にかかわる、例えば青少年が取材の対象になったり、あるいは視聴者としての青少年がいる、そういう立場から皆様と意見を交換しながら青少年委員会は、日本の放送の質を高めるための機関だと自負しており、今後も皆さんと意見交流しながら放送をよいものにしていきたいと思っているし、その思いを新たにした。

〇事務局
閉会のご挨拶を山形テレビ常務取締役編成制作局長 大塚大介様からよろしくお願いいたします。

〇大塚常務取締役編成制作局長
皆様、大変お疲れさまでございました。私、このたび幹事を務めさせていただきました山形テレビ、大塚でございます。
BPO青少年委員会様、各局様には日ごろ大変お世話になっております。また、本日は委員の先生方には大変お忙しい中、遠路山形にお越しいただきまして誠にありがとうございます。おかげさまで本日は各局様から放送と子ども、青少年に関する問題について活発にご意見をいただきました。とりわけ実名報道については、プライバシーの問題と真実を報道するという問題の中でどう判断していくのか。その根本は、やはりそれぞれがきっちりと責任ある報道をすることであるというふうに受けとめた次第でございます。活発にご意見、ご発言をいただきまして大変有意義な意見交換会になったと思っております。委員の先生方、各局様のご協力に感謝を申し上げます。

以上

2019年9月24日

福島で県単位意見交換会

放送人権委員会の「意見交換会」が2019年9月24日に福島市で行われた。委員会から奥武則委員長、城戸真亜子委員、廣田智子委員が参加、福島県の放送局7社からは編成や報道、コンプライアンスの担当者など30人が参加し、3時間にわたって活発な意見交換が行われた。

会議ではまず、BPOの竹内専務理事が、BPOはNHKと民放事業者が作った第三者機関で、放送局と視聴者の間の問題を解決するのが目的であり、世界的にもほかに例を見ない日本独自の仕組みであると紹介した。続けて奥委員長が、放送人権委員会は決定文を書くだけではなく、研修会や意見交換会を通して、放送現場の生の声を聴く機会を重視しており、今日は活発な意見交換をお願いしたいと、あいさつした。

意見交換会は二部構成で行われた。前半は、委員が最近の委員会決定とその趣旨の説明を行い、まず奥委員長が第66号「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」に関する委員会決定を、廣田委員が第69号「芸能ニュースに対する申立て」に関する委員会決定を解説し、それぞれ質疑応答の形で参加者と意見の交換が行われた。
後半は、事前アンケートの結果を基に、福島県内で放送や取材の過程で生じた問題や疑問などをテーマに意見交換が行われ、参加者からは、被害者の実名報道や、顔写真・映像の放送に対する家族からの苦情や要望に、どう応えるべきかなどの質問が数多く出された。また、BPOが果たすべき役割について、城戸委員より委員会の目的は「表現と言論の自由を守ること」であるといった説明があった。

◆第一部 委員会決定の説明と質疑応答

第66号「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」に関する委員会決定

冒頭、奥委員長は、1961年3月に起こった「名張毒ブドウ酒事件」の新聞記事などを引用し、当時は人権を問題視することはなく、逮捕された人物は呼び捨て、また「朝食ぺろりと平らげる」などの恣意的な見出しや、手錠を掛けられた写真が堂々と使われていた事を紹介し、この数十年で人権意識が大きく進化してきたことを強調した。
さらに、事件報道には、いつの時代も、どうしても払拭できない「悪」の側面があることも事実であり、事件事故の当事者にとっては、触れてほしくない事実を報道しなければならないとうジレンマがあると述べた上で、「浜名湖切断遺体事件に対する申立て」の委員会の判断についての説明に入った。

●奥委員長
この事案は、2016年7月8日、テレビ静岡が、浜名湖で切断された遺体が見つかった事件の続報として伝えたニュースの中で、「関係者」と表現された人物から、自分は事件の「関係者」ではなく、撮影された自宅も「関係先」ではないなどと、委員会に人権侵害の申立てがあったものです。
申立人の「自宅の映像が放送され、プライバシーが侵害された」との主張について、委員会は次のように考えました。「他者に知られることを欲しない個人に関する情報や私生活上の事柄」を、「本人の意思に反してみだりに公開した場合」に、プライバシーの侵害が問われます。この「みだりに」というところが重要で、本件映像を仔細に見るとロングの映像は使っておらず、直ちに申立人宅が特定されるものではありませんでした。表札もちゃんと消されているなど、プライバシーの侵害には当たらないという結論となりました。
次に、委員会が名誉毀損の判断をする時の入り口は、申立人の社会的評価が低下したかどうかです。朝から警察が来て、ワサワサとやっていたわけですから、当日の状況を知る周辺の住民が申立人宅を特定した可能性は否定できない。そういう意味では、社会的評価の低下は、一定程度認められます。しかし、そのニュースが伝えた事実に、公共性とか、公益目的があり、さらに、真実性、あるいは真実と考えるに足るそれなりの理由があるという「真実相当性」が認められれば、社会的評価が低下したとしても名誉毀損には当たらないという判断になるわけです。
これは、浜名湖事件という、特に地元では、大変関心のある大きな事件の続報ですから、ニュースに公共性・公益目的があったことは、はっきりしている。問題は真実性・真実相当性の検討です。ニュースの中では、「関係者」、「関係先の捜索」という表現が使われており、申立人はこれを一番問題にしている。つまり、申立人は事件の「関係者」であったのか、さらに申立人宅は事件の「関係先」であったのかということです。
取材したテレビ静岡は、「何かあるよ」というリークを受けて、警察の車を追尾してこの申立人宅に着いた。そこで大々的に車の押収が行われ、捜査員が外で何やら話をしている場面があり、殺人事件の捜索が行われたと考えたとしても、不思議はないということになり、この点では、真実相当性が認められるということになりました。

では、「関係先」と「関係者」について、どういう表現が適切であったのかということですが、容疑者とされる人と申立人は、一緒に食事をしたり、車を譲り受けたりしている関係ですから、捜査の一環としてその日警察が接触したとなると、やはり「関係者」とか「関係先」という表現以外に、代わるものはないだろうと委員会は考えました。
事件報道の通常の用語として、「関係者」とか「関係先」というのは、特段おかしなものではないということで、最終的に名誉毀損には当たらないという判断になったわけです。
ただ決定の最後に、補足的に意見を付け加えたのですが、申立人宅の映像の使用は、「より抑制的であるべきではなかったか」ということです。つまり申立人宅が、事件の本筋と深く関わるっているものではないことは、時間の経緯とともに分かってきたはずです。ところが逆に、午後の遅い時間、夕方の時間帯になると、申立人宅の映像が増えてきます。これはちょっと問題があるのではないかと指摘しました。

 この問題を考えるのに、最初の話と少しつなげて終わりたいと思っています。事件報道というものは、嫌がる人の話を引き出したりして、隠しておきたいことを聞くというようなことを、どうしてもやらないといけない。そうすると、解決できない問題も生じる。どうしたらいいのか。
結論から言うと、熟練した職業人としての腕と情熱、そして品性を持ったジャーナリストが一方にいて、もう一方には成熟した市民がいて、これが両側から、犯罪報道、事件報道が持っている「悪」の要素を飼い慣らす、順化していく、そういう方向しかないだろうと思います。
「熟練した職業人」という言い方をしましたが、プロの報道者、つまり新聞記者、テレビの記者、番組の制作者、そういう人たちが、「ここまで書いていいのか」、「これは書いちゃいけないのか」、ということをしっかりと判断する。そのとき重要になるのが「品性」だと、私は思っています。
人権というものは、どんどん進化し、変わっていきます。取材する側にとっては、以前はここまで踏み込んでも問題なかったものが、取材される側の当事者からは、大きな人権侵害だとアピールされることが増えています。
その一方で、取材記者・報道記者というのは、そういう新しい社会問題を、発見していく立場にもあるわけです。LGBTで差別されている人がいるなら、そういう問題を発掘する。障害者の差別の問題があれば、それを発掘しニュースにしていく。それによって人権が進化し、深まっていく。そういう立場にあるということを、元新聞記者として、私は痛感しています。
どういうことをやったら人権侵害になるのか、どんなことが放送倫理違反なのか、しっかりと書いてあるものがあるといい、というようなご意見もありましたが、実はマニュアルでは対応できないと思います。
事件・事故というものは、日々新しい出来事で、その都度、何らかの場面で新しい判断が求められます。誰が判断するかというと、個々のジャーナリストが判断するしかありません。マニュアルを超えたものが、いつもあるわけです。そうすると、先ほど「品性」といいましたが、一人一人が、物事の正邪の感覚というか、理非曲直の感覚をしっかりと身に付ける、それが重要だと思います。
少し浜名湖事件を超えた話をしましたが、細部についてご質問があれば、お答えしたいと思います。

<質疑応答>

●参加者
「近所の人が判断できる」というのが、果たしてプライバシーの侵害に当たるのかどうか。もう一点、BPOに「抑制的」と言われると「使っちゃいけない」と思ってしまうが、使わないことは有り得ない。どういう使い方ならよいのでしょうか。

●奥委員長
今回の場合は、近所の人は、「誰々さんの家で、今朝あったあれだな」と分かっただろうと思わざるを得ない。それと、ニュース全体の中での「関係者」「関係先」という表現を巡るつながりの中で、忌まわしい殺人事件と関わりがある人だなということで、社会的評価は一定程度低下したと考えられます。
しかし、警察は家の中までは入ってはいないが、車を押収したという事実があり、それが浜名湖事件全体の捜査の一環であるということは間違いないので、そのレベルで考えると、近所の人がニュースを見て「あの人の家であったことだ」と言ったとしても、それは、ある意味で仕方がないということです。
もう一つ、「抑制的に使うべきでなかったか」というのは、テレビ静岡がリークされた情報を元に取材活動をして、いわば特ダネ映像として、あの現場を撮影したわけです。ですから映像として使うというのは全然問題ないのですが、朝から夕方まで取材が進むうちに、「ここは事件の本筋の場面ではないな」というのは、取材者としては分かってきたはずです。しかし実際は、別の車が押収される場面も、申立人宅の映像と合わせて使っている。それはちょっと行き過ぎじゃないのという話です。

●城戸委員
「関係先」という言葉は、ニュースの原稿などで普通に使われますし、使わないとしたらほかに何ていえばいいのか、皆さん疑問に感じていると思いますが、放送に携わっている人が思う常識的な言葉と、一般の人がテレビを見て感じるのはちょっと違うのかなと思います。自分のことを、「あなた関係者でしょ?」と言われたら、どう感じるでしょうか。みんなが当たり前に使っているからいいのではなく、言葉を使う人間として、ほかの言葉はないのかと考えることが必要ではないのかなと思います。例えば、「接点のあった人の」とか、いろいろ考えられると思います。そういう責任のある仕事をしているのだという自負と自覚、その両方が必要だと感じました。

第69号「芸能ニュースに対する申立て」に関する委員会決定

対象となった番組は2017年12月29日の21時から23時までTBSが放送した『新・情報7daysニュースキャスター』という番組の2時間特番で、2017年の芸能ニュースをランキング形式で取り上げ、その14位として、申立人の細川茂樹さんの所属事務所との契約トラブルについて伝えた。その中で、契約解除の理由が、あたかも申立人のパワハラにあったと強調するようなナレーションや編集がなされ、人権が侵害されたなどと委員会に申立てがあった。

●廣田委員
この事案の特徴として、申立人の被害感情が非常に強かったという点があります。この事案の理解のために、なぜ申立人が、そのように強い被害感情を持つことになったのか、背景事情を説明します。
放送の1年前の2016年12月、申立人は所属事務所から債務不履行を理由とする契約解除通知を受け取ります。申立人は年明けの1月には、専属契約上の地位にあることを仮に定めることなどを求めて、東京地裁に地位保全の仮処分の申し立てを行い、2月にそれが認められました。そのころ数多くのテレビ番組で申立人の契約解除が取りあげられており、申立人は各局に抗議を始めていました。TBSにも接触し、この番組の通常の放送では、申立人の仮処分申請が認められたことを伝えています。そして5月7日に申立人の事務所との契約は、事務所の解約申入れにより終了します。その後は、9月にTBSの別の番組スタッフと申立人が代理人と共に面会しています。申立人の抗議に対しては、別の在京キー局が12月になってホームページに謝罪コメントを掲載し、同様の動きは他局にも広がりつつありました。
申立人としては、自分が受けたと考える被害の回復に自分で努力をしているときに、この放送があったとしており、委員会も決定の中で、「申立人のそれまでの努力に冷や水を浴びせるものとも言える」と表現しています。
これに対してTBSは、「言葉足らずで、誤解を招きかねない部分があった。申立人に謝罪すると共に、ホームページ、あるいは放送を通じて視聴者に説明します。しかしながら、申立人を意図的に貶めようと放送したとの主張は全くの誤解である。仮処分決定に言及しなかったのは、短い放送の中で制約があったことに加えて、仮処分決定でパワハラの存在が否定されたわけではないと理解していたから」と答弁しています。
委員会がまず考えたのは、放送は何を伝えたのかです。申立人の被害感情や、放送局の意図がどうあれ、一般視聴者にはどう伝わったのかが重要です。
この部分の判断は、番組のナレーションでは、一般視聴者は、パワハラを理由に契約終了になったと理解する可能性もあるが、そうでないと理解する可能性もあり、ナレーションそのものからは確定できない。テロップは、パワハラが存在したことを断定しているとは言い難いが、赤文字でパワハラが存在したことを強調しているように見える。このナレーションやテロップに先立つ申立人を紹介するVTR映像には、「何を言われようとやんちゃに生きていきますね」という発言があり、パワハラが実際に存在したという印象を強める効果を持っている。
総合的にみて、本件放送は、申立人がパワハラを行ったことを断定しているとまでは言えないが、一般視聴者には、そうした疑惑が相当程度濃厚であると伝わった。よって、申立人の社会的評価を低下させるという判断になりました。
社会的評価の低下があれば、通常は免責事由として、公共性、公益目的、真実性、真実相当性があるのかどうかということを検討して、名誉毀損となるのかどうかを考えるのですが、本件の場合は、ナレーションとテロップは、重大な言及漏れがあるものの、概ね真実です。申立人が強い被害感情を抱くのは無理のない面もあるが、放送局に申立人を貶める意図や悪意があったわけではない。そして、TBSは当初から一定の問題点を認めて、解決に向けて協議に応じる意向を示していたが、申立人の過大な要求があって協議が頓挫していた。協議がまとまっていたなら、早期に被害回復措置が取られる可能性もあったと思われ、本件については放送倫理上の問題として取り上げる方が、BPOの目的である、正確な放送と放送倫理の高揚への寄与のために有益であると判断しました。

では具体的に放送倫理上の問題としてどのようなものが考えられるのか。ひとつは、仮処分決定に言及がなかったこと。司法の場に持ち込まれるほどの紛争トラブルの事案を扱う際に、特に求められる公平、公正性、及び正確性を欠くことになった点については、放送倫理上、問題があると判断しました。
次に、8年も前の「やんちゃ発言VTR」を使ったことについて、放送局は、男らしさ、気風の良さといった申立人の人柄を端的に表しているVTRを使用したまでで、悪意はないと述べていました。しかしこの放送の文脈の中で使われた場合に、視聴者にはそう理解することはできず、パワハラが疑惑ではなくて、実際に存在したという印象を強める効果を持っていると考えました。つまり申立人の名誉や名誉感情に対する配慮が不十分で、放送倫理上の問題があると判断しました。
また、仮処分決定後の事情について、事後的な確認がされておらず、本件番組とは別のTBSのスタッフが申立人と面会をして事情をよく知っていたという点や、他局のホームページに謝罪コメントが本件放送の前に掲載されていたという点について、申立人は強く問題としていますが、これについては、放送倫理上の問題があるとは言えないという判断になりました。

この話の中で普遍的な問題として、皆様の番組作りにも生かされると思うのが、追加取材の重要性です。最近では、問題が起こると、第三者委員会などが組織されて、調査結果が発表されることが多くなっています。その調査結果を皆さんもニュースとして報じられると思いますが、その結果に納得のいかない当事者が、裁判に訴えたり、新たな調査委員会が組まれるなどして、のちに事態が変わることがあります。そこで追加取材をせず、前に放送した内容をそのまま流してしまうと、新たな人権侵害、名誉棄損の問題を起こしてしまいます。名誉棄損の免責要件の一つである真実相当性は、それぞれの放送時点で判断されるので、以前の報道に再び触れる時には注意が必要です。
この番組、年末の2時間の特番ですが、単に噂話のようなものをランキングで見せるというものではなくて、長いインタビューコーナーがあって、その年の顔であった野村克也元監督や、市川海老蔵さん、ビートたけしさん、デビ夫人らの生き方を深く聞いている大変面白い番組でした。その中で、本文ではなくいわゆる見出しの部分の「アバンVTR」でこういうことが起こってしまうと、本当にもったいないと思います。チェックする方はきちんとチェックして、いい番組を作っていただきたいとしみじみ思いました。そのうえで、実際に番組を作る現場の人たちは、萎縮したりしないで、とにかく面白いもの、人をびっくりさせるようなもの、自分の作りたいものをのびのびと作って欲しいと切に願っています。

<質疑応答>

●参加者
アバンのVTRの中では、なるべく短くて、視聴者に興味を持ってもらえるような表現をするのが、ある意味作り手の腕の見せ所だったりすると思いますが、例えばアバンの中ではそれが端折られているけれども、番組の中ではしっかり補足されていれば、どうなのでしょう。アバンでもそういったところは全て網羅されているべきなのでしょうか?

●廣田委員
TBSの方も、短いものの中で「仮処分が…」とかいうと、仮処分が何かも説明しなければならなくなるし、中途半端に言ってしまうと、余計分からなくならないかと言っていましたが、やはり抜かしてはいけないものであったと思います。いくら短くても、そこは工夫するしかないのかなと。

●奥委員長
細川さんの話は、あれが全てであとは全然出てきません。確かにあの時間内で、仮処分について触れるのは、なかなか難しいですよね。でも、もう少し工夫はできたと思います。やはり裁判まで争って細川さん側の申立ては認められているわけだから、それにメンションしないというのは、「言葉足らず」という軽い表現で済ませることではなかったと思います。

◆第二部 アンケートを基にした意見交換

主なテーマは以下のとおり

  • 福島県内でこれまでに人権が問題となった事案
  • 被害者の実名、写真を報道することについての視聴者反応
  • BPOはどういう存在であるべきか

●参加者
2018年11月に発生した小野町の火災で、亡くなった方の写真を放送したら遺族から苦情があった。この件に限らず、最近、事件、事故に巻き込まれた被害者の顔写真を使うと、家族や親戚からお叱りを受けることが多い。特に写真はネット上に残るので、それに対する拒絶反応が強い。どう対応すればよいのか。

●奥委員長
事件・事故の被害者の顔写真を新聞やテレビ報道で使うことは、以前と変わらないと思いますが、遺族など載せられる側の意識が大きく変わってきました。取材側に求められることは、原点に帰って、なぜ顔写真が必要なのかをしっかり考えたうえで使うということです。
遺族や関係者から文句が出ることも、ネットで叩かれることもあるだろうが、しかしこのニュースにはこの顔写真が必要だということを考え、確信して、仕事をするしかない。そして必要であれば使う。
実際に、顔写真が出るのと出ないのでは全く違う。そのニュースの持つ重みはそこにかかっている。後でどう言われようが、顔写真が必要なニュースには顔写真は付ける。それしかないでしょう。

●参加者
被害者の写真を報道で使ったことが人権侵害だとBPOに持ち込まれた場合、どういう判断になるのでしょうか。

●奥委員長
そのニュースの論点、公共性とか公益目的、真実性とか真実相当性を検討して、最終的に判断せざるを得ない。もちろん取材のプロセスとか、事案の具体的な内容にもよります。嫌がる写真を強奪してきたとかであれば、話は別ですが、そうではなく、正当な方法で入手し放送で使ったことが、人権問題を構成することはないと思います。

●参加者
事件事故の現場の近所から顔写真を入手することが、人権問題になることがありますか。

●廣田委員
それもやはり、入手の仕方によります。たとえば、意図を伏せて、きちんと説明をしないで入手し放送すると問題になると思います。

●参加者
カメラを持った取材クルーが、「この近所で事件があって、誰々さんの写真を探しています。放送に使いたいので映させてください」とお願いして入手したものが、問題になるようなことはありますか。

●奥委員長
取材の過程は正当なわけですから、それが人権問題を構成するとか、あるいは放送倫理上の問題が発生するとは、私は思いません。

●廣田委員
写真を放送した後に、ご遺族から、こういう理由でやめてほしいという申し出があり、しかも何度もあったにもかかわらず、ずっと使っていたというような状況であれば、写真を何回も使う必要性があったのかという検討をすることになると思います。

●参加者
座間9遺体事件で福島県内の高校生が犠牲者とわかり、家族に取材を行った。別居していた父親がインタビューに応じたため、取材は父親に集中してしまった。しかし母親が、別居中の父親の反応を不快に思っているとの情報が入り、以降抑制的に使うことになった。たとえば家族の中で意見が違う場合、どのように対応すればよいでしょうか。

●奥委員長
やはりそのインタビューがこの事件を報道するのに必要で、非常に大切な部分であるのであれば、夫婦の問題とか、母親との関係があったとしても、ある程度使わざるを得ないと思います。そういう背景があったということで、使い方を抑えていたという判断はよかったと思います。マニュアルがあるわけではなく、その時取材した人間の感覚を大事にして、判断せざるを得ないと思います。

●廣田委員
座間の事件の時に、弁護士会のなかでも、「ご遺族にもさまざまな意見があり、家族を取材しないことにはわからないわけだから、それをあるご遺族がこう言ったからと全部決めることはできないのではないか」というのが話題になりました。
やはり、ご遺族のご要望があったとしても、これは実名で報じなければならないと判断されるのであれば、実名で報じて、なぜ自分たちが実名で報じるのかをしっかりと説明することが求められると思います。
また、人がどんどん匿名になって行く一方で、監視カメラが町中のあちこちに付いていて、誰が何をやっているかがすぐにわかるような状況になっている。そうした現状の中で事件を報じる時に、実名であるべきなのか、匿名にすべきなのかを考えるには、どういう社会であるべきなのかということも意識する必要があると思います

●参加者
県内の交通死亡事故で、記者が入手した防犯カメラに映った事故の映像を放送したところ、亡くなった男性の息子さんから、父親が死亡する瞬間の映像を流すのはいかがなものか、また家族に許可は取らないのかというクレームが入った。基本的に許可は必要ないと思っているが、このケースでは自宅を訪ね、放送する意味を説明し、納得いただいた。街中に映像がある一方で、それを放送に使用することについては、いろんな意見が寄せられる時代になった。説明責任を果たすことが重要だと、勉強になった。

●奥委員長
防犯カメラや監視カメラの映像を使用するのに、映っている人やその家族の許可がいるのかという問題がひとつですね。これは、映像の中身に依存する。交通事故の場面が、相当リアルで悲惨な状況であるような場合は、遺族は嫌がるだろうし、使う場合は許可を取る作業が必要になることもあるでしょう。ただ、一般的に、必ず許可が必要ではないと思います。ケースバイケースです。
もうひとつの問題は、視聴者から苦情が来た時に、テレビ局の担当者が、最初にどのように対応するかということで、これは実はすごく大きい。電話でやり取りするだけじゃなくて、実際に行って説明するという、大変丁寧な対応をされたわけで、こういう対応が重要なのだと思います。

●参加者
一般の人が撮ったスマホの映像は、監視カメラの映像と同じように借りてきて使っていいものなのでしょうか。

●奥委員長
たとえば台風の被害がいろいろなところで発生している時に、視聴者が撮った映像がある。あとからテレビ局のカメラマンが撮った映像よりも、もっとリアルであると。それは当然使うべきだと思います。
ただし、本当に間違いなくその映像なのかどうかを、撮った人に確認する必要があります。これも結構面倒な作業ですけれども、その出来事の全体像を伝えるという意味で、そういう映像は貴重な情報で、使うことに尻込みする必要はないと思います。

●参加者
フェイスブックやツイッター上に上がっている写真を、「緊急性があるから」と使っていいのかについてはいかがでしょうか。

●奥委員長
フェイスブックとかは、基本的には公開されているわけですよね。公開されている情報なのであって、様々な形で確認する作業は必要ですが、私は使っていい、使うことは仕方がないと思っています。
そもそも、フェイスブックとかに上げている人は、それが公開の情報だとわかっているわけでしょう。その公開されているものを使うのは、いわばコモンズですから。あまり問題はないと私は思います。

●廣田委員
皆さん既にやっておられますけど、「フェイスブックより」という断りを入れたりしますね。そのように、出典を明示して使うといいのではないかという話をした時に、そのフェイスブックに「これは自分の知り合いに向けたのものだから、第三者が勝手に使うことを禁止します」という文言を入れたらどうなのか、という質問がありました。その場合は、慎重に使わなければいけないことになるのだと思います。

●参加者
フェイスブックに限らず、いろんなものを、報道目的で引用することがあると思います。例えば、「私の知り合いのために見せるためだけのもの」と書いてあっても、緊急性のある報道引用として使うということについては、いかがですか。

●廣田委員
それは、掲載してよいのだと思います。もしそれが問題になったら、「自分たちはこういう必要性を持って、その写真を使ったのだ」ということを説明する。あとはその使い方の相当性の問題になっていくので、その写真がどういう状態で使われたのか。例えば、苦情が出た後もずっと使っていたとか。要は、報道機関の方が「これは必要だから使うのだ」と思ったら、その責任と覚悟の下に、使って報道するしかないと思います。

●参加者
そうすると、なぜ伝えるのか、なぜ実名なのか、公共性があるのか、その辺がBPO的に見ても大切になってくるということでしょうか。

●廣田委員
実名を言うことによって、予測される被害と、言うことの意義というのを、比較衡量することになるのだと思うので、なぜ実名なのか、なぜこれを報じるのかというのは、コアなんじゃないかと私は思います。

●参加者
街頭インタビューに答えた方から、やはり放送しないでほしいと言われたことがありました。
郡山市民の歌の取材で、歌をご存知の方をようやく見つけインタビューしたのですが、撮ってからできれば使わないでほしいと言われました。短い秒数でいいので使わせてほしいとお願いしたのですが、少しやり取りが曖昧になってしまいました。取材直後の放送は、仕方ないかなと思っていたとのことですが、2ヶ月後にまた別の番組でこの情報が放送され、クレームの電話が入りました。使って欲しくないと伝えたにもかかわらずなぜ使うのかと。電話でお話しさせていただき、取材時のやりとりに曖昧な点があったことや、聞いていたのに2度も使ってしまったことを丁寧にお詫びし、納得いただけました。

●司会
東京や大阪の局では、インタビューした人に、放送の承諾書をもらうことが多いと聞いていますが、各局ではどうなのでしょうか。

●参加者
承諾書は取っていませんでした。もし承諾書も取ったうえで、やはりやめてほしいという相談があった場合は、どうすべきでしょうか。

●奥委員長
テレビの取材だということを明示して、カメラを回しているという状況の中でインタビューに答えているわけですから、それが放送されることについては、その当人は納得していると考えていいと思います。ただ、当たり前ですが、何を伝えるにしても、曖昧なのはいけません。
インタビューするときに、これはどういう番組で、どういう取材だということはしっかり明示する必要があります。そういうことを名刺の裏に書いている取材記者もいましたよ。そういうことも必要だと思います。

●廣田委員
カメラの前でインタビューを受けたのだから、そこで承諾があったのは当たり前ということに対しては、それを使わないで欲しいという人はおそらく、「インタビューを受けたときは突然だったので、テレビカメラを向けられて舞い上がってしまい、使ってもいいと言ってしまったけれど、あとから落ち着いて考えたらやっぱり嫌だ」ということだと思います。しかし承諾したのは事実なので、そこは局の方に説得していただくしかないと思います。一度承諾しても撤回がまったくないわけではないので、場合によっては使って欲しくないという連絡が来たら、尊重しなければならないこともあると思います。

●参加者
原発事故で自主避難した中学生が避難先で頑張っている姿を系列局が取材し放送した際、いい内容だったので福島でも放送させてもらったら、当人から、「まさか福島県で放送されるとは思わなかった」と電話がありました。故郷を捨てたような形で避難しているのに、友達がどんな感情でみたか不安を覚える。もう放送してくれるなということでした。
ホームページ上のニュースにも原発被災関係としてあげていたので、それも消さないといけなくなりましたが、自社だけでなくキー局や系列局にもアップされていて、今や全てのデジタル情報を消すことは難しい状況でした。

●奥委員長
あのような大きな事故ですから、個々にいろんな状況が発生しているわけで、それぞれ個別のケースをどうニュースにするか、どう番組にするかは、すごくセンシティブな問題であると思います。

●廣田委員
私は、強制避難になった地区の皆さんの弁護団の一員として、たくさん話を聴いていますが、皆さん罪悪感みたいなものを持っておられる。ほかの人が地元で頑張っているのに、自分はそこから避難しているとかですね。けれども、誰もがそれぞれの家族の事情や、自分自身の事情を抱えて暮らしている。そこにすごく複雑な感情があるのだと思います。

●参加者
それ以降は他の県で頑張っている方の特集とかを放送するときには、福島県で放送することの了解を得てくださいってことを、お願いして放送するようにしています。ここでひとつ学んで、その後は気を付けるようにしましたが、その時は、秋田だったと思うのですが、そちらで放送されたからそれはOKだろうと勝手に判断していました。

●城戸委員
多分今後も、似たようなケースが出てくると思います。番組を作る側としてはよかれと思って頑張っている姿を紹介したつもりでも、もしかしたら我々には計り知れない、思春期の女の子の感情や、被災地に住む人たちの人間関係というのがあると思うので、非常に難しい問題だと思います。
この場で発表していただいたことによって、他の局で同じようなことが起きた場合にどうするか、もう1回許可を取るとか、そういう心構えができたかなと思いますし、我々もそういうことを学べて大変いいお話でした。ありがとうございました。

●参加者
ラジオ局ですが、番組のSNS、ツイッターとかフェイスブックを立ち上げていますが、そこでリスナー同士の言い争いが、かなりエスカレートしてしまうことが起きています。
番組に苦言を呈したリスナーがいて、それを別のリスナーが窘めたところ、今度はその人を攻撃したりして、リスナー同士がSNS上でケンカをしているような状態です。局や番組としては、どうしたらよいでしょうか。

●廣田委員
そのSNS自体を管理しているのは局になるわけですよね。そうすると、そこであまりにもひどい、明らかな誹謗中傷とか、プライバシーの曝露とか、明らかな名誉棄損のようなことが起こっているのを放置していると、SNSを管理している局側に、その責任が発生してしまう可能性があります。通常のリスナーの方同士のバトルも、それが違法というレベルまで達したときには、やはりなんらかの手立てをとらないと、管理者責任が問われることになりかねないと思います。

●司会
ツイッターとかのSNS上ですので、局管理とはいえないような気もするのですが。

●廣田委員
局や番組の公式ツイッターの中に書きこんで、それを管理しているのが局なり番組であるなら、名誉棄損とか、プライバシー侵害とかに発展し、それをそのまま放置していると、局に責任が発生する可能性はあると思います。

●城戸委員
個人への中傷とかは削除しますみたいな、ルールというか但し書きを明示するとよいのではないでしょうか。

●司会
事前アンケートで、「BPOはもう少し放送局に寄り添う側面があってもいいのではないか」というご意見をいただきましたが、なぜそう思われたのでしょうか。

●参加者
最近、局に入るクレームで、よく「BPOに訴えるぞ」と言われるようなことがあります。そう言われると、若い記者やスタッフの中には、萎縮して、真実を追究する前に、「これ以上突っ込むと、トラブルに巻き込まれそうだからやめておこう」と、引いてしまうことがあります。しっかり取材を尽くしたうえで、どう放送するかが大切だと指導はしていますが、人権意識がますます高まる中で、BPOは厳しいことを言われるところでもありますので、そのように思ったこともありました。ただ、今日お話を聞いて、「BPOの存在には、こういう意義があるのだ」と、改めて感じております。

●城戸委員
「寄り添う」と言ってしまうと、肩を持つみたいになってしまうので、言葉選びが難しいところではありますが、あくまでもスタンスは中立ということです。
でも、表現・言論の自由というのは、やはり保たれないとダメだと思います。例えば権力に屈するとか、遠慮するとか、つまり萎縮して取材ができなくなってしまっては、放送局としての意味がないと思いますので、人権は保護しつつも、萎縮せずに、より魅力ある番組を作って欲しいと、委員会としてそう考えています。
特に、今、ネット上でフェイクニュースが横行して、何の責任も持たずに、言いたいことを言っているような、そういう情報が飛び交う中で、放送局として、見ている人に正しい情報を伝えることは、すごく意味のあることだと思います。
BPOがどういう存在かということですが、放送は公共性と社会的影響が大変高いメディアですから、世の中の様々な出来事を人々にきちんと伝える責任がある。きちんと伝えるためには、放送はどうあるべきかを考え、言論と表現の自由を確保するために、委員会があるのだと思います。
ご存知のとおり、この放送人権委員会は、個人から「私、被害に遭いました」という申し立てがあって、初めて動きだすという委員会です。放送する側も、意図して人を傷つけるということは、まずありませんが、日常の放送の中で、「こんなに小さく写っている人の、ちょっとした一言だからいいのではないか」みたいな、ある意味慣れのようなことから、人を傷つけてしまうようなことを含めて、その放送の中身を第三者的に、中立的な立場で審理していくというのが、この委員会です。
奥委員長が、お手元に配った冊子の「はじめに」のところで、「放送の自主と自立をサポートするのが、この委員会の役割だと思っている」ということを書かれていますが、まさに、そういう存在だと思っていただければいいのかなと思います。

●奥委員長
「最近のBPOは、テレビ局に寄り添い過ぎだ」という批判があります。「BPOは放送局に対して、もっと厳しく当たるべきではないか」という意見が、世の中にはむしろ多いようですが、テレビ局の側からすれば、こんな小さな問題を取り上げて、放送倫理違反だとか、人権問題だとか言うのか、という考え方ももちろんある。
人権という問題が、かつてよりもずっとセンシティブな問題になってきているので、報道する側、番組を作る側がそのことを自覚していないと、いろいろな批判が起こるのは、どうしようもないことだと思います。
ただ、一方で、アグレッシブに、新しい社会問題を発掘したりすることもメディアの役割です。権力批判だけが、その役割ではないのです。例えばバラエティ番組で、いろんなことをやって、楽しい世の中を作っていくこともすごく重要で、役割のひとつであろうと思います。
委員会もそういうことを考えていますが、決して、放送局とは同じ意識にはならないということですね。同じ意識にはならないというのは、「人権侵害があった」と言って訴えてくる人に、とりあえずは耳を傾けなくてはならないという組織だからです。そこは、理解していただくしかないと思っています。
委員会決定を読んでもらうとわかると思いますが、大体いつも放送局に対してはエールを送っています。「いい番組ではある」とか、「優れた調査報道ではあるが」とかね。そういうところを、読み取っていただければ幸いです。

●廣田委員
私は「寄り添う」のではなくて、委員としてひとつひとつに「向き合って」います。番組を作る方は真剣に作っておられるわけですし、それに対して、「自分がこんな辛い思いをした」と言ってくる人は、単なるクレームの枠を越えて、申し立てというところまで来ているわけですから、その人の思いとか、被害にも、きちんと向き合わなければいけないし、作っている方たちにも向き合わなくてはならないと思っています。
そして「人権侵害だ」と申し立ててきた人に対して、「人権侵害ではない」と言う時には、ヒアリングでその人が言ったことを思い出して、すごく苦しい気持ちになります。
いいものを作ろうと頑張っている放送局に対しても、「これは放送倫理違反ですよ」、「これは人権侵害ですよ」と言うことも、やはりそれなりの痛みを感じながらやっています。
表現の自由とか、自由な取材とかは、ある意味誰かの権利と、抵触を起こしているのだと思います。だから、そういう放送を扱う方たちが、日々真剣に向き合っているように、それを判断する者としても、「被害にあった」と訴えている人に真剣に向き合うし、取材して番組を作っている人にも真剣に向き合って、表現の自由を守るためにはこういうものが必要だという結論を出して、ご理解をいただく以外にはないと思っています。とにかく、誰もがみな、何か痛みみたいなものを抱えながら、真剣にやっていくしかないのでないかと思っています。

●参加者
京都アニメーション事件の実名報道に関するご意見を、ぜひ聞きたいと思っています。局内でも議論しましたが、実名や顔写真の報道によって、リアリティや、人が生きた証みたいなものを伝えることができるのではないか。また再発防止という意味からも、実名で報じる意味があると考えています。そのためには、目の前に座っている記者に、「この人だったら話してもいい」とか、「写真を出してもいい」とか、そう思ってもらえる取材が必要だと思っています。
京都アニメーション事件では、大阪の局は、メディアスクラムを避けるために、代表取材方式をとりました。また、弊社の系列では、被害者の名前が公表されたときには、全部出したけれども、2回目以降は家族が望んでいない場合は出さないという配慮をしています。実名報道というのは、そういう配慮をもってやっていくべきなのかなと考えます。

●奥委員長
京都アニメーションの事件は、事件報道、実名報道という意味でも、非常に新しい次元を開いたのではないかと思っています。警察の対応、メディアの対応、いろんな意味で、悪くはなっていないのだなという感じがしました。
遺族が、実名にしたくないという大きな理由の一つは、メディアスクラムではないかと思います。メディアスクラムで、洗いざらい取材をされるのは嫌だということですね。そういう状況を作らないために、メディアの側でどうするか、自主的な取り組みをすることが重要です。

●廣田委員
被害者の実名報道については、弁護士会の中でもいろんな意見があります。私は「遺族がだめだと言っているのだからだめだ」という意見には、反対の立場ですけれども、ただ、ご遺族や実名報道に反対する弁護士たちが言っていることの中で、「そうだよね」と納得することが一つあります。
それは、「実名にする必要があるとしても、最初から実名でなくてもいいのではないか。実名で報道すべき関係性とか、関連性がわかった段階になってから、実名で報道するのでは遅いのですか」ということです。
また「せめて、お葬式と初七日が終わるまでは待ってもらえないか」という話が出た時に、あるメディアの方が、「初報というのがすごく重要で、一般の関心が集中している時に実名を出し、2回目、3回目以降は出さないようにする」と説明されていました。でも、このネット社会では、1回出てしまうと、後からどんなに匿名にしたとしても消えずに残ってしまうので、やはり「なぜ最初から実名でないといけないのか」という意見には、かなり説得力があると思います。

●司会
今日は、長時間ありがとうございました。ぜひ今後の番組作りに生かしていただければと思います。

以上

第218回 放送と青少年に関する委員会

第218回-2019年10月

視聴者からの意見について…など

2019年10月29日、第218回青少年委員会をBPO第1会議室で開催し、7人の委員全員が出席しました。
委員会では、前回から継続討論している2件について意見を交わしました。バラエティー番組でタレントをモチーフにした全裸の着ぐるみキャラクターが小学校を訪問して、なぞなぞを仕掛け、不正解だと「オナラ」を発射する企画に関して「低俗で不愉快だ」「子どもに見せたくない」などの意見が寄せられた件については、「審議」には進まないが、後日「委員長コメント」を出すことになりました。また、深夜のバラエティー番組で女性アイドルグループのメンバーの顔に、男性タレントのお尻が近づき、どこまで我慢できるかを競う企画に関して「セクハラだ」「下品すぎる」などの意見が寄せられた件については、「審議」には進まず、討論を終了することになりました。
10月の中高生モニターのリポートのテーマは「最近聴いたラジオ番組について」でした。24人から報告がありました。
モニターからは、ラジオの中の学校をコンセプトにした番組ついて「私がこの番組を一番聴いていたのは、学校に行っていなかったころでした。毎日この番組の出演者の言葉やメッセージに支えられていました。学校に行っていなくて家にいるだけの毎日に光を与えてくれたといっても過言ではないです」、高校野球のラジオ中継について「ラジオでは目を閉じて聴けます。いつボールを投げたかも言ってくれるので試合の経過もよく分かります。『せっかくだから夏休みはのんびりしたい。だけど野球も楽しみたい』こんな私にラジオはぴったりです」、洋楽を中心とした音楽番組について「ラジオを久しぶりに聴いて感じたことは、他のマスメディアと比べて、リスナーとの距離が近いということです。MCがリスナーに電話する企画や、ツイッターを利用して視聴者と会話したり、すぐそこで会話しているような気持になることができます。このことは、これからのマスメディアにとってとても重要なことだと思います」、深夜の番組について「いつも疑問に思うのは『テレビではNGだけれどラジオでOKなことがあるのはどうしてだろう?』ということだ。例えば下ネタ。確実にテレビではタブーだと思われるのが普通にラジオで流れてくると戸惑ってしまう。この差は果たしてあっていいものだろうか。私は個人的には、差があってもいいと思っている。改めて考えると、『放送』って難しいことだなと思う。正解なんてどこにもないからだ。しかも、だからといってすべてが自由というわけではないからだ」などの意見が寄せられました。委員会では、これらの意見について議論しました。
次回は11月26日に定例委員会を開催します。

議事の詳細

日時
2019年10月29日(火)午後4時30分~午後6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
視聴者からの意見について
中高生モニター報告について
調査研究について
今後の予定について
出席者
榊原洋一委員長、緑川由香副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、菅原ますみ委員、中橋雄委員、吉永みち子委員

視聴者からの意見について

今回は前回委員会から継続討論となった2件について意見交換しました。
お笑いタレントをモチーフにした全裸の着ぐるみキャラクターが小学校を訪問して、股の間でなぞなぞを仕掛け、間違えた子どもには「オナラ」を発射するというバラエティー番組の企画に対して、「低俗で不快。しかも子どもたちが集まる場所でロケを行っている」などとの意見が寄せられていました。
これに対して委員からは、「子どもが大人になってセクハラ的なことを容認するようなバックグラウンドになり得るのではないか」「制作側は子どもに向けた番組を作るときには、大人向けの番組作るのと違う意識が必要なのではないか」「股間に顔を近づけさせられて、失敗したらオナラを吹きかけられるというのは、大人だけでなく、子どもにとってとても屈辱的な行為だろう。お笑いだからいいんだで済ませることができないような屈辱的なことを子どもたちに強要しているのではないか」「この企画は子どもが参加し、子どもが視聴する時間帯で、まさに子ども向けに行われている」などの意見が出されました。
議論の結果、この件は「審議」には進まないが、後日、「委員長コメント」を出すことになりました。
また、深夜のバラエティー番組で、椅子に座る女性アイドルの顔に男性お笑いタレントのお尻が近づいてきて、どこまで我慢できるかを競う企画に対して、「セクハラだ」「アイドルを番組の道具としか見なしていない」などとの意見が寄せられていました。
これに対して委員からは、「実社会でこれをやったらセクハラにあたるだろうが、深夜で子どもが見ていない時間帯に放送しており、出演者が大人のプロの芸能人であって、そういうことがある程度分かった人を対象に笑いをとっているのではないか」などの意見が出されました。
議論の結果、この件は、「審議」には進まず、討論を終了することになりました。

中高生モニター報告について

今月は10月のモニター報告について話し合われました。
34人の中高生モニターにお願いした10月のテーマは、「最近聴いたラジオ番組について」でした。また「自由記述」と「青少年へのおすすめ番組について」の欄も設けました。全部で24人から報告がありました。
「最近聴いたラジオ番組」では、複数のモニターが意見を寄せた番組は4番組ありました。パーソナリティーは異なりますが、『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)を4人が、『SCHOOL OF LOCK!』(エフエム東京)を3人が、『POP OF THE WORLD』(J-WAVE)と『高校生からはじめる「現代英語」』(NHKラジオ第2)を2人が取り上げています。そのほかのモニターはすべて異なる番組について報告していました。また、聴取方法について、リアルタイムだったか、またはタイムフリーのアプリ利用や録音だったか、ということについても尋ねました。リアルタイムは12人、アプリなどの利用は12人という結果でした。
「自由記述」では、7人のモニターが台風に関連する記述をしていました。被害をニュースで知って心配だという声、情報を得ることの重要性を痛感したという声、マスコミの取材の仕方に疑問を感じたという声など、内容はさまざまでした。一方で、台風関連以外の記述もありました。10月にスタートした2つのドラマについてこれまでのドラマとの違いを挙げ、「新たな挑戦」と評価する人や最新技術AIを駆使して制作された番組について「未来への可能性を感じている」と期待する人がいました。
「青少年へのおすすめ番組」では、『関口宏の東京フレンドパーク2019』(TBSテレビ)、『サンドウィッチマン&愛菜の博士ちゃん 初回2時間スペシャル』(テレビ朝日)、『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ)について取り上げたモニターがそれぞれ2人ずつでした。

◆委員の感想◆

  • 【最近聴いたラジオ番組について】

    • ラジオを自分の生活に取り入れ習慣として聴いているという中高生モニターが少なくないことが分かった。

    • モニターたちは、アーティストなど、ラジオ番組出演者の考えや思いを知り、より深く人間性に触れられるとしてラジオを受け入れ身近に感じている。これからのマスメディアにはラジオのような「視聴者との距離の近さ」が重要だという意見があったのが興味深い。

    • 出演者の素の言葉、本音を聴けることが醍醐味と感じるモニターが多いが、これは、ラジオではテレビよりも出演者がリラックスして話しているから、ということが関係していると思う。カメラがなくて緊張が少なく、伸び伸び話せるからこその聴き手との親密感、というのがあるのかもしれない。

    • 『SCHOOL OF LOCK!』(エフエム東京)について、聴いてみたら自分の耳元で語りかけられている、ふっと触られるぐらい近いという感覚があった。困っている子どもに向けた内容が多いが、上から目線ではなく、「一緒に飛んで壁を乗り越えてみようよ」という雰囲気作りがなされ、聴いている方は「一緒ならやれるかも」と思える。ラジオ番組の力を感じた。

    • テレビとラジオでOKな範囲が異なるということを指摘したモニターがいる。下ネタなどテレビではタブーだろうと思われることが、ラジオでは何となく受け入れられているということがあるが、そのことに対して「それぞれ違いがあっていいじゃないか」ということが書かれていた。興味深く感じた。

    • NHKの語学講座について、「飽きません」と書いたモニターが何人かいたが、語学を面白く聴いてもらうための工夫が中高生のモニターに伝わっていることを制作者に伝えたい。

    • 災害時のことを考えると、ラジオに日ごろから親しんでおくことが必要なのではないか。学校の授業や教育プログラムにラジオに関する授業があってもいいと思う。

◆モニターからの報告◆

  • 【最近聴いたラジオ番組について】

    • 『SCHOOL OF LOCK!』(エフエム東京)ラジオは、どこか聴いているリスナーに寄り添ってくれるのでテレビに負けないくらい私は好きです。この番組を私がいちばん聴いていたのは、学校に行っていなかったころでした。毎日、とーやま校長とあしざわ教頭の言葉、メッセージに支えられていました。学校に行けなくて家にいるだけの毎日に光を与えてくれたといっても過言ではないです。(兵庫・中学3年・女子)

    • 『SCHOOL OF LOCK!』(エフエム東京)ラジオで聴いたり、放送・編集後記を読んだりしています。この回は、「セカオワLOCKS!」が400回を迎えるから記念に何をするか、というお話でした。アーティストの方の声を楽曲以外で耳にすることはなく、「声」を耳にできるという点と、アーティストの方の考えに触れられる機会もないので、「想い」を知る、という点でとても有り難い番組です。(福岡・中学2年・女子)

    • 『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)素の会話や笑い、声を聴けるのはラジオの長所だと思います。ゲストとの掛け合いも声だけだからこそ、その人たちの性格の温かさも伝わりました。映像がなく、声だけの放送だからこそ、聴きながら自分のしたいことをして楽しめるのもいいなと思います。(福岡・中学3年・女子)

    • 『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)テレビと違ったアットホームな雰囲気があり、面白かった。視聴者参加型な感じでコメント等も読んでもらえるのでとても面白い。聴くだけで視覚を使う必要がないので勉強しながら聴けるのも魅力的だと思う。(大阪・高校1年・女子)

    • 『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)ラジオをきっかけに今まで聴いてこなかったジャンルの音楽や、知らないアーティストを知ることができますし、勉強にもなります。音楽のほかにも、クスっと笑える話や、元気が出る話がたくさんあり、受験のときやつらいときにも頑張ってこられたのはこの番組のおかげでした。しかし、私の周りにはラジオを聴いている友達が少なく、ラジオの話をすることができないのが悲しかった。もっとラジオが広まればいいのになと日々思っております。(石川・高校2年・女子)

    • 『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)いつも疑問に思うのが、「テレビではNGだけれどラジオではOKなことがあるのはどうしてだろう?」というものだ。例えば下ネタ。確実にテレビではタブーだろうと思われるのが普通にラジオで流れてくると戸惑ってしまうというか、焦るというか…。この差は果たしてあってもいいものなのだろうか。私は個人的には、差があってもいいと思っている。「テレビはテレビ、ラジオはラジオ」だからだ。改めて考えてみると、「放送」って難しいことだな、と思う。正解なんてどこにもないからだ。しかも、だからといってすべてが自由というわけでもないからだ。(佐賀・高校3年・女子)

    • 『POP OF THE WORLD』 (J-WAVE)ラジオを久しぶりに聴いて感じたことは、他のマスメディアと比べて、リスナーとの距離が近いということです。MCがリスナーに電話する企画や、ツイッターを利用して視聴者と会話したり、すぐそこで会話しているような気持ちになることができます。このことは、これからのマスメディアにとってとても重要なことだと思います。(東京・高校3年・女子)

    • 『POP OF THE WORLD』(J-WAVE)この番組に出会ったのは去年の夏ごろでした。英語の勉強へのモチベ上げにもなりますし、海外事情などなどいろいろ知れるので将来のためにもなると思います。個人的にいちばん好きなラジオ番組です!!(広島・高校2年・男子)

    • 『高校生からはじめる「現代英語」』(NHKラジオ第2)飽きがこないように適度に本文を通して流していて、解説を聴いた後にひと通り復習することができるようになっていて良かった。(東京・高校2年・女子)

    • 『基礎英語1』(NHKラジオ第2)小学6年生のときから聴いています。ストーリーがすごく面白いので、毎日聴いても全然飽きません。私が学校で習っている範囲よりも少し早いので予習にもなるので良いです。(東京・中学1年・女子)

    • 『サンドウィッチマンの天使のつくり笑い』(NHKラジオ第1)普段ラジオを聴く機会などめったにないので良い機会になりました。サンドウィッチマンはコントやトークが面白くて好きです。これからラジオを聴く機会を増やしていきたいです。(千葉・中学1年・男子)

    • 『気象通報』(NHKラジオ第2)中学2年生のときに課題で視聴して以来、長期休みや休日に視聴し、天気図を書くようになった。普段は気にしない部分であるが、風向や風力などの情報が簡潔にまとまっていて視聴すると(書くとなおさら)面白いものであると実感できた。日々変化しているのがはっきりと見えてくるのも非常に面白い。さらに教科書に載っている、夏冬の特徴的な前線が実際に見えることも良いと思った。(東京・高校1年・男子)

    • 『第101回全国高校野球選手権大会』(NHKラジオ第1)学校の技術の授業で作ったトランジスタラジオで聴きました。私はもともと高校野球が好きで毎年楽しみにしています。昨年まではテレビで高校野球を見ていましたが学校でラジオを作ってからは野球中継をラジオで聴くことも多くなりました。ラジオでは目を閉じて聴けます。いつボールを投げたかも言ってくれるので試合の経過もよく分かります。眠くなったら野球中継はいいBGMになります。「せっかくだから夏休みはのんびりしたい!だけど野球も楽しみたい!」こんな私にラジオはぴったりです。(鳥取・中学3年・女子)

    • 『SAISON CARD TOKIO HOT 100』(J-WAVE)ゆったりとした気持ちで聴くことができるため、日曜午後の放送時間はうってつけであると思う。また、上位の曲であるほど流れる時間が長く、解説も多くなる。よって、流行の曲ほど情報量が多いので聴いていて飽きない。(東京・高校1年・男子)

  • 【自由記述】

    • ラジオを聴いていて思ったのは、リスナーとの距離が非常に近いということです。他のリスナーやパーソナリティーとつながっているように思えました。このことがラジオの醍醐味なのでしょう。(愛媛・高校2年・女子)

    • ラグビーがベスト8でニュースで多く取り上げられています。バレーボールも史上初の5連勝をしたのに取り上げられなくてバレーボールファンとしては悲しさを感じる。(千葉・中学1年・男子)

    • 台風でとても大変そうです。心配しています。自然災害、となるとやはり情報の大切さを痛感します。(福岡・中学2年・女子)

    • 台風の被害の映像をニュースで見ていると泥や水のかき出し作業をしている最中にリポーターやカメラマンが入り邪魔ではないのかな…と思うときや、避難所でプライバシーが保護されていないんじゃないかな?と思う映像が流れていました。現状をいち早く、というのはとても大切なことではありますが撮ってはいけないところ、配慮しなければいけないところを冷静に判断して取材をしてほしいなと思います。(福岡・中学3年・女子)

    • 台風の際、テレビ局によっては外国人向けの英語サイトを特設しており、来年に向けて他局も導入するとより、外国人観光客も安心してサイトと併用しながらテレビを見ることができるだろうなと思いました。(東京・高校1年・女子)

    • 『NHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」』(NHK総合)ステージにAIでよみがえった美空ひばりさんが現れ歌いました。それを見て皆さん泣いていました。私もその再現度に驚き、初めて美空ひばりさんを見たような気がしました。私はこの番組を見て「テレビの力」を感じました。昔のテレビと今のテレビがつながったような気がしました。昔のテレビの大スターが今のテレビにしかできない力でよみがえる。これがテレビなのだと思いました。未来のテレビの可能性を感じました。(鳥取・中学3年・女子)

    • 10月スタートのドラマについて、思ったことは、今までなかったようなものが増えてるなということです。『同期のサクラ』(日本テレビ)は一話が一年という新しい展開だし、『俺の話は長い』(日本テレビ)は30分2本立てという"サザエさん方式"。今までになかったようなことをやる!という方針はすごくいいことだと思います。テレビもいろんなことにチャレンジして、もっとよくなれば良いなと思います!(神奈川・高校1年・女子)

  • 【青少年へのおすすめ番組】

    • 『サンドウィッチマン&愛菜の博士ちゃん 初回2時間スペシャル』(テレビ朝日)について、子どもたちを博士とし、芸能人が子どもから学ぶという構成だったのが面白かったです。博士と呼ばれる子どもたちに1日密着して、ランドセルを背負った姿を放送するなど、子どもだというところを見せるのもいいと思いました。(北海道・中学2年・女子)

    • 『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ)私が小さいころから放送していた国民的アニメ。まる子が駄々をこね、おじいちゃんが甘やかすシーンが面白くて和みます。(石川・高校2年・男子)

    • 『関口宏の東京フレンドパーク2019』(TBSテレビ)俳優の方々がドラマでは見せないような笑顔をしたり、協力してゲームに挑む姿が新鮮でした。素顔が垣間見えるバラエティー番組はいつもと違う一面が見られて余計に嬉しいのだなと感じました。(東京・高校1年・女子)

調査研究について

担当の中橋委員より、調査研究(青少年のメディアリテラシー育成に関する放送局の取り組みについて)の進捗状況について報告がありました。

今後の予定について

  • 学校の先生方と青少年委員会委員との意見交換会を、来年2月15日に開催することになりました。

以上

2019年11月8日

テレビ朝日『スーパーJチャンネル』審議入り

放送倫理検証委員会は11月8日の第143回委員会で、テレビ朝日の『スーパーJチャンネル』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、テレビ朝日が2019年3月15日、夕方のニュース番組『スーパーJチャンネル』で放送した「業務用スーパーの意外な利用法」という企画で、この企画に登場したスーパーの買い物客4人は、取材ディレクターの知人だったとして、テレビ朝日は記者会見を開き謝罪した。
当該企画は、業務用の食品などを扱うスーパーマーケットを紹介し、買い物客が業務用の商品を購入する事情など、それぞれの生活の様子を描いている。制作はテレビ朝日の関連会社に業務委託されており、取材したのは別のプロダクションから、この関連会社に派遣されていたディレクターで、一人でカメラも回しロケ取材を行っていたという。
委員会は、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、テレビ朝日に報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議し、審議入りを決めた。
神田安積委員長は、「取材対象者が担当ディレクターの知り合いであったということで放送倫理違反の疑いがあり審議入りした」と話している。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2019年11月8日

TBSテレビ『クレイジージャーニー』審議入り

放送倫理検証委員会は11月8日の第143回委員会で、TBSテレビの『クレイジージャーニー』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、TBSテレビが2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』。TBSテレビは、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、その場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行っていたと発表した。
専門家が「爬虫類ハンター」としてメキシコを訪れ、珍しい爬虫類を発見・捕獲するという企画で、放送後に外部からの指摘を受けて社内調査したところ、紹介した動物6種類のうち4種類が、事前に現地の協力者に依頼して捕獲し、生息地付近に放すなどしたものを使って撮影していたことが分かったという。
委員会は、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、TBSテレビに報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議を継続し、審議入りを決めた。
神田安積委員長は、「報告書や番組の映像を見る限り放送倫理違反の疑いがあり、審議入りした」と話している。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2019年10月に視聴者から寄せられた意見

2019年10月に視聴者から寄せられた意見

東日本を中心に大きな被害をもたらした台風19号に関する報道への意見や、神戸市の小学校における教師間のいじめ問題を取りげた番組への意見など。

2019年10月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,350件で、先月と比較して10件増加した。
意見のアクセス方法の割合は、メール73%、電話25%、FAX 1%、郵便 1%。
男女別は男性69%、女性30%、不明1%で、世代別では40歳代28%、30歳代24%、50歳代21%、60歳以上13%、20歳代12%、10歳代2%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該放送局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。10月の通知数は延べ724件【62局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、24件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

東日本を中心に大きな被害をもたらした台風19号に関する報道への意見が多く寄せられた。また、兵庫県神戸市の小学校における教師間のいじめ問題を取り上げた番組への意見も多く寄せられた。
ラジオに関する意見は47件、CMについては25件あった。

青少年に関する意見

10月中に青少年委員会に寄せられた意見は89件で、前月から18件減少した。
今月は「報道・情報」が33件、「表現・演出」が19件、「いじめ・虐待」が8件、「暴力・殺人・残虐」が7件と続いた。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • 台風19号関連のニュースが一日中流れていたが、取り上げられているのはほとんど首都圏ばかり。宮城県に住んでいるが、地元の情報は、画面の端に小さなテロップで流れるのみ。首都圏と、それ以外の地域の扱いの格差を感じてならない。台風が通過するまで安全に過ごすための情報が欲しいのだが、地元のテレビ局が県内の台風情報を流し始めたのは夜遅くなってから。その時点では風雨ともに最強レベルに達していた。首都圏の被害が大きかったことは理解できるが、ある程度時間が経過したなら、次に被害を受けそうな地域に焦点をしぼって、情報を提供してくれればと思った。

  • 千曲川の近くに住んでいる。長野県には民放が4局あるが、前日の夜は、普段通りバラエティー番組などを放送していた。一夜明けて、朝から台風情報を伝えていた局もあったが、首都圏の多摩川の様子が中心で、千曲川の水位についてはほとんど報じられなかった。テレビでやらないのであまり心配していなかったが、気になったので行政機関に電話で確認したところ、千曲川が氾濫しそうだと聞き、避難を始めた。せっかく県内に放送局があるのだから、災害時くらいはもっと地元に密着した情報を流すべきで、地方局の役割を果たしてほしかった。

【番組全般・その他】

  • 朝の番組で、台風19号におけるホームレス受け入れについて、東京23区に対し、「自主避難所の利用についての質問項目」と称し、アンケートを実施していた。台風による甚大な被害が出ている中、家屋を失い、避難を余儀なくされている人たちが大勢いる。職員がその対応に追われていることは分かりきっているはずなのに、なぜ、現場の人手をアンケートのために割くようなことをするのか。避難所で活動している職員の負担になっていることに気づいた方がいい。台風が通過してまだ日が浅い状況で、このような取材方法は控えるべきだと思う。

  • 朝の番組で、川崎市武蔵小杉の高層マンションを取り上げていた。台風により、停電や断水、トイレが使えないなどの被害が出ているのは、その中のごく一部の建物であるのに、"武蔵小杉のタワマン"という乱暴なくくりで語られるため、ここの高層マンションすべてが被害を受けた印象を与えている。建物の評判が悪くなれば資産価値が下がり、被害が軽微ですんだ大半の住民は、経済的損失という、必要のない損害を被ることになる。停電や断水をした建物もあるのは事実なので、それを伝えるのは仕方ないが、「被害が出ているのはその一部である」ことを明らかにして放送してもらいたい。

  • 防衛大臣の発言に対する報道は、あまりにもひどい。前後の脈絡からして失言でもないし、報道側の悪質な意図が読みとれる。千葉県に住んでいるが、大臣のツイートは、災害時に一番分かりやすく的確なものだった。このような報道に対して、大臣が謝罪せざるを得ない状況になったことは異常であると同時に、これを報じた番組は、報道の信憑性を大きく損なうことになったのではないかと思う。

  • 大阪のメロディーを特集した歌番組は、司会者も出演者も楽曲も文句なく、久しぶりに楽しい番組を見ることができた。台風被害のニュースなど、気持ちが沈みがちな昨今、心が洗われる思いがした。次回の放送を楽しみにしている。

  • 朝の番組で、"小物整理術"というコーナーがあったが、とても参考になりためになった。これからもがんばってほしい。

  • 神戸市の教師間いじめ問題が、連日くり返し報道されている。小学校の中で起きたことは犯罪であり、決して許されるものではない。しかし、いつの間にかその扱いが面白半分な内容になっている。同じ映像をくり返し流し、視聴者の興味をあおっているようにしか見えない。テレビ局のこのような姿勢が、この学校に通う子ども達の心をどのように傷つけ、学校、教師に対する不信感を必要以上に強めているかということを、よく考えてほしい。

  • 神戸市の教師間いじめ問題について。そもそも、いじめという表現を使うことに重大な問題がある。学校内での集団暴行や罵倒、恐喝などは明確な犯罪行為であり、被害者教師も訴訟の意思を示している。この状況をいじめという柔らかい表現に貶めることは、犯罪の矮小化に放送局各社が関与しているのと変わらない。児童や学生などの間で起きていた数々の事件も、いじめという名目で適当に濁されてきたが、成人間の問題でこのように扱うことが、未成年者に与える影響も懸念したい。犯罪が社会に矮小化されることが、成人の社会ですら発生するという、絶望的な認識を与えてしまいかねない。報道の役割は、社会問題の存在を明らかにし、問題意識を共有し、社会の意識を変えていく点にあるのではないか。犯罪を矮小化する手助けをメディアが率先して行うという、目を覆うような報道体制が改められることを望んでやまない。

青少年に関する意見

【「報道・情報」に関する意見】

  • ノーベル賞受賞者の報道で、他国の受賞者・研究についてほとんど報道されない。日本人受賞者についても研究内容よりプライベートについての報道が多い。日本人に限らずノーベル賞を受賞した研究内容を分かりやすく報道すべきではないか。将来を担う子どもたちに学問の素晴らしさ、楽しさを伝える良い機会なのだから。

  • 教師によるいじめの動画を放送しないでほしい。小学生が家にいてチャンネルを変える、テレビを消す対応をしている。ニュース内容だけでも衝撃的だったが、動画まで流されるようになり当該小学校の生徒、保護者の心情を考えるといたたまれない。

【「要望・提言」】

  • 東京オリンピックマラソン開催地変更の報道で、選手ファーストであるべきとしきりに言っているが、それだけでなくオリンピック精神も伝えるべきでないか。開催場所は問題でなく、メダルを取ることが目的でもなく、スポーツを通じて世界平和を目指すのが本来のオリンピック精神だということを子どもたちにも伝えてほしい。

第274回放送と人権等権利に関する委員会

第274回 – 2019年10月

「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2019年10月15日(火) 午後3時~9時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」事案のヒアリングと審理

テレビ東京は2018年5月16日午後のニュース番組『ゆうがたサテライト』で、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」としてオウム真理教の後継団体であるアレフを特集した。アレフ札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部は加工のないまま放送された。
アレフ会員である申立人は、肖像権とプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に対し謝罪と映像の消去などを求めて、放送人権委員会に申立てを行った。これに対しテレビ東京は、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象であり、報道には公益性がある」と主張。プライバシー保護については「必要かつ十分な配慮を行った」としている。
今委員会では、申立人とテレビ東京に対するヒアリングが行われた。申立人は、放送によって自身がアレフ会員であることが知られると、対外的な活動に支障を来すなど不利益を被る可能性があると訴えた。被申立人のテレビ東京は、「プライバシー保護には十分配慮した」と述べた一方、音声の一部が加工されないまま放送された点について「編集作業上のミスで反省している。放送後速やかに社内ルールを見直し、再発防止に努めている」と発言。また、申立人らのメディアに対する取材妨害の実態を伝えることも教団の閉鎖性などを伝える証左になると考え放送した、と説明した。
ヒアリング終了後、本件の論点を踏まえて審理を行い、担当委員が決定文の起草に入ることになった。

2.「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」事案の審理

対象番組は今年1月21日に秋田県内で放送された『NHKニュースこまち845』。情報公開請求等によって明らかになった過去5年間の県内の国公立大学における教員のハラスメントによる処分に関するニュースを伝えた中で、匿名で、ある男性教員に対してハラスメントが認められ「訓告の処分を受けた」と報じた。
この放送に対して男性教員が、氏名は公表されていないが、関係者には自分だと判断される内容であり、「大学で正常に勤務できない状況が作られた」として、NHKに謝罪を求めBPO放送人権委員会に申立てを行った。これに対してNHKは、「処分をされた教員はいずれも匿名で、役職や年齢に触れていないなど、個人が特定できないよう十分配慮している」と説明した。
今委員会では起草委員より委員会決定の修正案が示され、審理の結果、委員会決定を了承した。10月30日に通知・公表を行う運びとなった。

3. 「訴訟報道に関する元市議からの申立て」事案の審理

テレビ埼玉は、2019年4月11日午後の『News545』で、元市議が提訴した損害賠償訴訟のニュースを放送した。元市議は、その中で「自分がセクハラで訴えられたかのようなタイトル」をつけられたことや、「第三者委員会のセクハラ認定後に議員辞職したかのような誤解を与える表現」などによって、名誉が損なわれたとして申立てた。
これに対しテレビ埼玉は、ニュースの中では「元市議が被害を訴えた職員を相手取った裁判」と正確に説明しているなど、全体をみれば誤解されるようなものではなく、名誉毀損や放送倫理に反するものではないと反論している。またテレビ埼玉は「言葉の順番が違うことだけを見れば、誤解を招きかねない懸念が残る」ことは事実だとして、当該放送のあった日の午後9時半のニュースで表現を修正して放送したほか、市議会選挙直後の4月22日の『News545』の中でお詫びと訂正を行っている。
今委員会までに全ての必要書類が提出され、双方の主張が出そろったことを受け、次回委員会までに担当委員が論点等を整理することになった。

4. 審理要請案件「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」~審理入り

フジテレビは、2018年7月6日の「FNN 報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行」で、オウム真理教事件の松本智津夫死刑囚ら7人の死刑執行に関する情報を速報するかたちで放送した。
特別番組は、各拘置所からの中継、スタジオでの事件の解説、被害者遺族らの会見や反応など約1時間半にわたって生放送され、刑の執行情報は更新しながらフリップなどで伝えられた。
これに対して松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、番組は「人の命を奪う死刑執行をショーのように扱った」ことと、出演者のコメントが、遺族の名誉感情を傷つけるものであったなどと主張し、フジテレビに謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
フジテレビは、速報情報を扱う生放送の時間的、技術的制約の中で、複数の死刑囚の執行情報をできるだけ視聴者に分かりやすく伝えたと説明し、「ショーのように扱った」ものではなく、人権侵害にあたらないなどと反論している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。

5. 審理要請案件「俳優のドキュメンタリーに対する申立て」~審理入りせず

ある俳優に密着したドキュメンタリーの放送(以下、「本件放送」という)に対して、番組は俳優側との間で交した約束の趣旨と違う内容であり、番組に提供した映像が許可なく使われたなどとして、家族が2019年7月22日付けで、当該放送局に謝罪を求める申立書を委員会に提出した(以下、「本件申立て」という)。
委員会は、委員会運営規則5条1項の苦情の取り扱い基準に照らして本件申立てを審理するかどうか検討し、審理対象外と判断した。理由は以下の通り。
当機構は、放送への苦情や放送倫理上の問題に対し、自主的に、独立した第三者の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的としている(BPO規約第3条)。当該目的に鑑み、当委員会では、運営規則において、裁判で係争中の事案および申立てにおいて放送事業者に対し損害賠償を請求する事案は取り扱わないものと定めており(放送人権委員会運営規則第5条第1項第5号)、また、その趣旨を踏まえて、放送局に対する金銭要求が関係している事案については取り扱わないことを原則としている。
この点、申立人は、本件申立てに先立ち、当該放送局に対して損害賠償の支払いを請求している。
また、申立人は、本件申立てにおいて、本件放送は自身が撮影した映像を許可なく番組に使用したとして、当該映像について自身が有する権利を侵害するものであるとの主張もしている。これは、当該映像に関する著作権を主張しているものと解される。当委員会では、著作権に関わる問題については、財産的色彩が強く、上記目的を有する当委員会の審理に馴染まないことから、これも取り扱わないことにしている。
これらの理由から、当委員会は、本件申立てについて審理対象とはならないものと判断した。

6. その他

  • 申立ての状況について事務局より報告した。
  • 次回委員会は11月19日に開かれる。

以上