[通知]
通知は午後1時から、坂井眞委員長と、事案を担当した二関辰郎委員、紙谷雅子委員が出席して行われた。申立人の舛添雅美氏は代理人の弁護士とともに出席し、被申立人のフジテレビからは番組担当者ら6人が出席した。
坂井委員長が決定文に沿って説明し、結論について「子どもに対する肖像権侵害は成立しない。また、雅美氏に関する本件場面の放送は放送倫理上の問題として検討するのが妥当であり、その検討結果として、意図的に不合理な編集がされたわけではなく放送倫理上の問題があるとまではいえないと判断した。ただ、雅美さんは実際には事務所家賃の問題ではなく子どもの撮影に対して抗議をしていたに過ぎなかったという部分がある。取材方法については、取材依頼を事前にすべきであったのにしなかった。被取材者からの言葉に正面から対応しなかったということは、取材・撮影される側が抱く心情や不安に対する配慮、特に本件では子どものことを気にかける親の心情や不安に対する配慮が足りなかったと考える。委員会は、フジテレビに対し、本件場面を放送したことを正当化する主張に固執せず、本決定の趣旨を真摯に受け止め、上記に指摘された点に留意し、今後の番組制作に生かすよう要望する」と述べた。
続いて、紙谷委員が説明し「社会的な評価が下がったという、その基礎となる事実を指摘していないのではないかという観点から、名誉毀損の成立は無理だろうと、ある意味ちょっと技術的な判断を示している。申立人が抗議している場面は、子どもの撮影のことでやり取りがあったというようなことが、仮に説明されていたならば、家賃の質問に怒っているという誤解は生じなかったのではないか。その辺について、ちょっと工夫の余地があったのではないか。レベルの高い日本のテレビ局ということで私たちは期待しているので、もうちょっと配慮があり得たのではないかということになる。子どもが映されることについて、懸念は分かるという委員もいたが、政治家が子どもをダシに取って、『いや、ここからはオフリミット』というふうに取材させないということが起こるのも困る事態ではないかということも議論した。やはり家族が出てくる場面というのは、公人・私人、区別として大変難しいだろうと。映り込みという説明をしているが、簡単に線が引ける問題ではないということは私たちも認識している」と述べた。
二関委員は、曽我部真裕委員と連名で書いた少数意見について説明し、「委員会決定(多数意見)は放送倫理上問題がないとした上で要望を述べているが、少数意見は、雅美氏による抗議を放送した部分につき放送倫理上問題があるのではないかという立場を取っている。多数意見は、申立人のイメージダウンにつながる誤解を視聴者に与えるということをフジテレビは理解できたのではなかろうかと指摘しつつも、理由を4つほど挙げて、そういった事情もあるから放送倫理上問題ないという結論にした構造になっていると思われる。少数意見は、4つの事情をいずれもフジテレビに特に有利な事情と位置付けるのは適当ではないという立場で、例えば、ここでは一つ目についてのみ説明すると、多数意見は映像の順序を入れ替えたり途中でカットしていないという言い方をしているが、本件場面を切り取ったこと自体、そこだけを流すこと自体が不自然な編集であったと評価している。そういったことから、放送倫理上問題があると考える立場が少数意見」と述べた。
決定を受けた申立人は「私に関わる名誉毀損よりも、子どもの撮影に関する主張を何としても認めていただきたいと考えていた。極めて遺憾としか言いようがない。撮影とか取材という名目のもとに、平然と子どもの人権侵害が行われることに強い危惧を感じる」と述べた。
一方、フジテレビは「真摯に受け止めたいと思っている。我々は我々なりの思いで、取材し放送したことは確かだが、第三者の目からご覧になって指摘された点に関しては、真摯に受け止めざるを得ないと思っている」と述べた。
[公表]
午後2時25分から千代田放送会館2階ホールで記者会見をして決定を公表した。23社51人が取材した。
まず、坂井委員長が判断部分を中心に、「要望あり」の見解となった決定を説明した。続いて、紙谷委員が補足的な説明を行い、二関委員は曽我部委員と連名で書いた少数意見について説明した。
続いて、質疑応答を行った。概要は以下のとおりである。
(質問)
舛添さん側の反応は?
(坂井委員長)
結論については極めて遺憾だというご意見だが、ポイントは、自分としては子どもの撮影の問題に重点があったというご主張だった。委員会決定と少数意見は、雅美さんの「いくらなんでも失礼です」と言う発言をめぐって分かれたが、そこについて遺憾というよりも、子どもが勝手に撮影されてしまう問題をきちんと取り上げてもらいたかった、子どもの人権が侵害されているという気持ちが強かったということがまず一点。委員会決定で認定した撮影状況については、当時現場におられたわけで、自分が認識しているものとはちょっと違うと思うというご意見もあった。
子どもの映像の関係で言うと、映像素材は放送目的以外には出せないというのは、これはもう原則で当然だと思うが、申立人は、撮られた側からしたら、それは見せてもらっても当然じゃないかというお考えをお持ちのようだった。それについて、私の方から「映像素材は原則として放送目的以外には使用しない」という一般的な説明はしたが、ちょっと不満があるということだった。
(質問)
申立人は具体的にどのようにおっしゃっていたのか、また被申立人はこの結果についてどう受け止めていたのか?
(坂井委員長)
「遺憾」の意味は多義的で、私が解説して正確に言えるかどうか分からないが、納得のいかない部分があるということだろうと理解している。1番のポイントは、子どもの撮影に関して問題があると認めてもらいたかったと言っておられたと、私は理解している。
フジテレビのほうは、決定の内容は真摯に受け止めますと、要望の点についてだと思うが、真摯に受け止めますと。局としてはいろいろ考えてちゃんとやったつもりだけれども、ご指摘があるので、それを真摯に受け止めますと、おっしゃっておられた。
(質問)
フジテレビにどういうことを要望したのか、簡潔に教えていただきたい。
(坂井委員長)
実際は雅美さんが子どもの撮影に抗議しているのに、事務所家賃の質問に対してキレてしまったような印象を与えていると、委員会は判断をしている。それについてはやはり問題がありますね。あえて本件場面を放送するのであれば、視聴者に誤解を与えない工夫をすべきではなかったのでしょうかと。例えば、雅美氏が怒っているのは子どもの撮影に関してであったと分かるようなナレーションを付加するなり、実はこの前に子どもの話がありましたよ、ということが分かるようにしていただければ、こういう誤解は生じなかったのではないか、それが1点。
次に、取材方法の適切性がある。まず、取材依頼なしでの取材、これは一般的にアポなし取材を否定しているわけではないが、本件に関しては、こんな早朝に取材に行くのであれば、子どもが出てくることが想定できるのだったら、しかも公共性の高い取材内容だとおっしゃっているわけだから、正面から事前に取材申し込みをしたらよかったのではないでしょうかと。それから、雅美さんは子どもの撮影のことをすごく気にしておられる。結局それが1番問題だった言っておられる。ディレクターが「お話を伺ってもいいですか」と言ったら、「失礼ですよ。子どもなんですよ。やめてください」と反応をしているのに、それに正面から答えないで、続けて家賃収入の件を聞いてしまう。そうすると、被取材者の質問に正面から対応しなかった部分は問題があるんじゃないかと。実際にカメラが焦点を当てていないとしても、長男が撮影されていると雅美さんが不安に感じたことは、撮影対応から考えれば理解できないではない。番組クルーは撮影される側が抱く心情や不安に対する配慮が足りなかった、不安にちゃんと答えていなかったのではないかということに関して要望している。
(質問)
私も早朝とか深夜の取材の経験があるが、やっぱり聞かなきゃいけないことはある。丁寧に説明し、お子さんを取材しているわけではありませんと説明したい気持ちはあるが、けんもほろろに、ワッとやられると、それを工夫しろと言われても、現実的にはなかなか難しいのではないか。
(坂井委員長)
そういうシチュエーションはあるだろうと私も思う。ご質問は、被取材者に対応していると、それで答えが拒絶されたりする時もあるから、そう簡単じゃないという趣旨だと思う。でも、これはお子さんが登校する時間帯に取材に行っているわけで、正当な話なだから、ちゃんと正面から取材依頼をしておけば、子どもが出てきて撮られたという話にはならなかったのではないかという文脈で考えている。取材依頼をしたらよかったのではないかと考えたということですね。
(質問)
お子さんを映しているわけじゃありませんと、説明しなかった、できなかった点が問題だと言っているわけではないということか。
(坂井委員長)
申立人が、最初から子どもの撮影をすごく気にしていて、「失礼ですよ。子どもなんですよ」ということを言っている時に、それに答えていない。例えば「お子さん撮るつもりはもちろんありません」、「カメラを一旦止めますから」というような対応は一切なくて、お子さんのことに対しては答えない。そのことで、雅美さんが、ますます「いくら何でも失礼です」と言ったように見える、そこの問題は、取材依頼とはちょっと別の問題としてあると思う。
(質問)
でも、取材者に対してこちらの取材姿勢を説明する時間があったら、聞くべきことを聞きたいと思う。
(坂井委員長)
お気持ちは理解するが、お子さんが登校している時に、お母さんが怒ったら、そこはやっぱり配慮したほうがいいんじゃないかと思う。
(質問)
理想論としてはそうかもしれないが、実際には現場でそんな余裕はないかと思う。あまり言い過ぎて、要するに取材を萎縮させてはいけない。
(坂井委員長)
萎縮させてはいけないが、委員会として言うべきことは言わないといけないこともある。そういうご質問がよく出るが、よく考えていただきたいのは、本件に関しては、勧告でもなく、見解の中の「放送倫理上問題あり」でもなく、あくまで「要望」として述べているというところを見てもらいたい。
(質問)
結果的に断られるか否かは別として、取材依頼を試みることは通常の取材手続きとして重要かつ基本的なことであると。なおさら正面から取材申し込みをすべきであった、と書かれているが、取材者たちは何とかコメントを取ろう、何とか肉声を取りたいと、ありとあらゆることを総合的に判断して取材に出ていると思う。別のケースによっては、相手の状況を鑑みて、気を付けながらも夜討ち朝駆けもありだという理解でいいのか。
(坂井委員長)
そういう理解でいい。以前の国家試験委員の事案(委員会決定49号)の時にはそういうことは言っていないので、それはケースバイケースだと。今回はお子さんが絡んでしまったケースなので、そういうやり方がよかったんじゃないかと。
これは委員長の立場を離れるが、私の弁護士としての活動でいきなり取材が来ることはもちろんあるし、事務所の前でメディアの方が待っていることも経験している。一般論として事前に取材依頼をしないとダメだということを言ったという趣旨ではない。
(質問)
フジテレビに対して、「正当化する主張に固執せず」という表現があるが、これがあえて入っているのは何か意味があるのか。
(坂井委員長)
決定文でフジテレビの主張をカギ括弧で引用しているが、この放送の正当性をかなり主張されている。それについて、結論として放送倫理上問題ありとはしていないけれども、要望する点があるので、そこも考えてねと、そういう文脈の記載です。
(質問)
私も事件取材が長く、疑惑の渦中の人に対して取材依頼するが、だいたい断られる。そういった場合には、家から出てくるところにぶら下がったり、突撃インタビューとかするが、それも拒否される。一度取材依頼をしているから、ちょっと無理やりインタビューしようという考えもあるが、そういったときに時にあまり取材の配慮が足りないと言われると、ちょっと現場が萎縮してしまうのではないか。
(坂井委員長)
それは全然そういうことではなくて、これは子どもの話が絡んでいるのでこうなっている。申立人が政治資金規正法に絡む会社の代表として取材依頼を受けた時に、拒否をしたと、例えばですね。それで、拒否されても、これは聞くべき事項だから取材に行く、当然だと私も思う。取材拒否されても、聞くべき事項だから聞くのは大いに当然でしょという話ですね。
(質問)
本件の場合、取材依頼をしていなかったというのは若干問題があるんじゃないかと思うが、もし取材依頼をして拒否された場合でも、こういうやり取りは普通あると思う、子どもが出てきた時にどうしても行かざるを得ない、そういう状況もあると思う。
(坂井委員長)
例えば、子どもと一緒にしか出てこないという人がいるかもしれない。そういう時に、子どもがいるから取材できないという話だったら、それは間違っていると思う。われわれも子どもの映り込みについては肖像権侵害ではないと判断している。相当の範囲で映り込むのはやむを得ない、だから肖像権侵害もないし、放送倫理上の問題があるとも言っていない、でもここは気を使ってよ、というレベルの話です。
以上