2017年度 第65号

「都知事関連報道に対する申立て」に関する委員会決定

2017年7月4日 放送局:フジテレビ

見解:要望あり(少数意見付記)
フジテレビは2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』で、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑を取り上げ、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を伝えた。放送2日前の早朝に取材クルーを舛添氏の自宅・事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
この放送について、雅美氏と未成年の長男、長女が番組での謝罪などを求める申立書を委員会に提出した。2人の子どもは家を出て登校する際に1メートルくらいの至近距離からの執拗に撮影されたと肖像権侵害を訴え、雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。
委員会は、審理の結果、子どもに対する肖像権侵害は認められないと判断した。また、雅美氏による抗議の放送場面は名誉毀損を問題とせず、放送倫理上の問題として検討するのが妥当であるとし、その検討結果として、映像の順序を入れ替えたり途中の一部をカットしたといった事情はないこと等に照らすならば、放送倫理上の問題があるとまではいえないと判断した。もっとも、この場面の放送については視聴者に誤解を生じさせないための工夫の余地があったと考えられるとした。
また、取材方法については、公共性・公益性の高い問題である以上まずは取材依頼をするべきであったし、取材の際に被取材者の言葉に正面から対応しなかったのは妥当ではなかったとした。
委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を真摯に受け止め、指摘された点に留意し、今後の番組制作に活かすよう要望した。
なお、本決定には、雅美氏による抗議を放送した部分につき、結論を異にする少数意見が付記された。

【決定の概要】

フジテレビは、2016年5月22日放送の『Mr.サンデー』において、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金の私的流用疑惑を取り上げ、この中で舛添氏の政治団体が、夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃を支払っていた問題を伝えた。放送2日前の早朝にカメラクルーが舛添氏の自宅・事務所前で雅美氏を取材し、番組では雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様などを放送した。
この放送について、雅美氏と長男、長女が番組での謝罪などを求める申立書を委員会に提出した。二人の子どもは取材の際に1メートルくらいの至近距離から執拗な撮影をされ衝撃を受けたとして肖像権侵害を訴え、また、雅美氏はこうした子どもの撮影に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、事務所家賃に関する質問を拒否したかのように都合よく編集して放送されたために名誉を毀損されたと主張している。また、取材依頼なしでの取材、子どもの登校時にあわせた早朝の取材、子どもの撮影をやめるよう求めたのにフジテレビが答えなかったこと等につき放送倫理上の問題があったと主張している。
委員会はこの申立てを審理し、大要、次のとおり判断した。
二人の子どもの撮影は、フジテレビによる雅美氏の取材の際に、いわゆる映り込みとして生じたと考えられる。政治資金流用疑惑のある家賃支払先の会社代表者である雅美氏を取材することには高い公共性・公益性が認められ、子どもの撮影は、そのような取材に伴う付随的撮影として相当な範囲を超えるものではないから、二人の子どもに対する肖像権侵害は認められない。
雅美氏による抗議を放送した部分は、政治資金流用疑惑のある家賃関係の質問に対して雅美氏がキレて怒った印象を視聴者に与え、雅美氏にマイナスイメージを与える。しかしながら、社会的評価の低下をもたらす具体的事実は摘示していないし、実際の映像を放送したにすぎないといった事情から、この点は名誉毀損を問題とせず、放送倫理上の問題として検討するのが妥当である。
そのうえで、この部分につき放送倫理上の問題を検討すると、同放送部分は、雅美氏が実際には子どもの撮影に対して抗議をしたのに、家賃問題に関する質問に対してキレたという誤解を視聴者に与えるものである。ただし、映像の順序を入れ替えたり映像の途中を一部カットしたといった事情はないこと等に照らすならば、放送倫理上の問題があるとまでは言えない。もっとも、この場面の放送については視聴者に誤解を生じさせないための工夫の余地があったと考えられ、フジテレビは、本決定の指摘を真摯に受け止めて今後の番組制作に活かすよう要望する。
取材方法に関しては、早朝に取材を行ったことに特に問題はないが、取材依頼を試みることは通常の取材手続きとして重要かつ基本的なことであるうえ、本件は政治資金流用疑惑という公共性のある事項についての取材であったから、仮に事前に取材を申し込んでも十分な対応は期待できないと判断したとしても、事前に取材依頼を試みるべきだったと考えられる。また、取材の際に被取材者からの言葉に正面から対応しなかったのは妥当ではなかった。これらはいずれも放送倫理上の問題まで生じさせるものではないが、フジテレビがこれらの点に改善の余地がなかったか検討し今後の番組制作に活かすよう要望する。
なお、本決定には、雅美氏による抗議を放送した部分につき、結論を異にする少数意見がある。

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2017年7月4日 第65号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第65号

申立人
舛添雅美および同人の長男、長女
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『 Mr.サンデー 』
放送日時
2016年5月22日(日)午後11時~午前0時15分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.人権侵害に関する判断
  • 2.放送倫理上の問題に関する判断

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2017年7月4日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2017年7月4日午後1時からBPO第1会議室で行われ、このあと午後2時25分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

第116回 放送倫理検証委員会

第116回–2017年6月

沖縄基地反対運動の特集を放送したTOKYO MXの『ニュース女子』について審議など

沖縄の基地反対運動の特集で、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りしている東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』について、特集を取材・制作した制作会社にTOKYO MX経由で質問項目を送りヒアリングへの協力を求めたが、その回答が文書で寄せられた。担当委員からは制作会社の回答のポイントについて報告があり、委員会がどのような検証や調査を行うべきかなど、今後の審議の進め方について議論が交わされた。
多摩川の河川敷で生活している男性に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして4月に審議入りしたTBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』について、担当委員から、5月に行われた制作担当者などへのヒアリングの報告と意見書の骨子案の説明があり、意見交換が行われた。次回の委員会で意見書の原案が提出される。
フジテレビの情報バラエティー番組『ワイドナショー』は、宮崎駿監督の引退発言についてネット上の誤った記述を引用したとして謝罪した。当該放送局からの報告書をもとに委員会で議論した結果、「ネット情報のみでテレビ番組を作る危険性をきちんと指摘することが必要ではないか」などの意見が出され、次回委員会で討議を継続することになった。

議事の詳細

日時
2017年6月9日(金)午後5時00分~8時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、神田委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 沖縄基地反対運動の特集を放送した東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)の『ニュース女子』を審議

TOKYO MXの『ニュース女子』は、2017年1月2日に「マスコミが報道しない真実」と題し、沖縄の米軍基地反対運動を現地リポートとスタジオトークで特集して、「反対派が救急車を止めた?」「反対派の人達は何らかの組織に雇われているのか」などの話題も取り上げた。委員会は2月、情報や事実についての裏付けが十分であったのか、放送局の考査が機能していたのかなどを検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この番組は、TOKYO MXは制作に関与していない「持ち込み番組」であるため、番組を取材・制作した制作会社からも話を聞く必要があるとして、委員会からの質問事項を文書にとりまとめヒアリングへの協力を求めていたが、5月末、制作会社から文書で回答が寄せられた。委員会では、担当委員から回答のポイントについて報告があり、さらに今後の審議の進め方について、「もう少し具体的な説明を求めるべき項目もある」「過去にも独自に調査した例があり、委員会でどんな検証ができるか検討すべきだ」などの議論が交わされた。その結果、制作会社に対して当該放送局経由でいくつかの追加質問を行うことになった。

2. ホームレス男性の特集で不適切な表現や取材手法があったTBSテレビの『白熱ライブ ビビット』を審議

TBSテレビの情報番組『白熱ライブ ビビット』は、1月31日に放送した「犬17匹飼うホームレス直撃」という企画内容に不適切な表現と取材手法があったとして、3月3日の番組内で謝罪すると同時に、番組ホームページに経緯を掲載した。委員会は4月、取材対象者に対する明らかな偏見と名誉毀損的な表現があり、ホームレスの人たちを「迷惑モノ」として扱っている姿勢も看過できないとして審議入りを決めた。
委員会では、担当委員から、5月に3日間にわたり行われた制作担当者などへのヒアリングの概要が報告され、取材の経緯や放送前の内容チェックが十分行われなかった原因などについての説明があった。その上で、取材ディレクターが男性に依頼した具体的な内容や状況、別の男性への取材の内容や流れをさらに確認する必要があるとして、当該放送局に追加質問を行うことになった。また、ヒアリングに基づいた意見書の骨子案も提出され、そのポイントについても意見交換が行われた。その結果、これらの議論をもとに担当委員が意見書の原案を作成し、次回委員会に提出することになった。

3. 宮崎駿監督の引退宣言をネットから誤引用したフジテレビ『ワイドナショー』を討議

フジテレビの情報バラエティー番組『ワイドナショー』は、5月28日、ジブリの宮崎駿監督の引退に関する発言を紹介したが、これはネット上に掲載されている誤った情報を転用したもので、「実際には宮崎氏の発言ではなかった」として6月4日の番組内と番組ホームページで謝罪した。
委員会では、当該放送局からの報告書をもとに議論が交わされたが、「今後も起こりうる事案で、ネット情報のみでテレビ番組を作る危険性の指摘が必要ではないか」「あまりにネットに頼り信じすぎている。単純だが根が深い問題だ」などの厳しい意見が相次いだ。また、当該放送局ではその後、別の情報番組でもネット情報をもとに実在しない商品の画像を紹介したことが明らかになったため、この件についても報告書の提出を求め、『ワイドナショー』については、次回委員会で討議を継続することになった。

[委員の主な意見]

  • 流布する情報に対する警戒感がまったくない。ネットに載っていればすべて正しいと思っているのではないか。
  • 情報バラエティー番組といっても裏付けが必要なことなど、かつて委員会が公表した「若き制作者への手紙」で指摘していることがすべてあてはまる。ネット情報を安易に信じ込み、それを前提に番組を収録している。
  • ネットの情報のみで番組を作るという傾向に対し、安直でよくないと注意喚起する必要がある。

以上

2017年3月10日

「事件報道に対する地方公務員からの申立て」事案の通知・公表

[通知]
本事案の2つの委員会決定の通知は、3月10日にBPO会議室において行われ、委員会から坂井眞委員長、市川正司委員長代行、白波瀬佐和子委員に加え、少数意見を書いた中島徹委員が出席した。少数意見を書いた、奥武則委員長代行と曽我部真裕委員は海外出張のため欠席した。
通知は、まず午後1時からテレビ熊本に対する委員会決定第63号について、申立人と被申立人であるテレビ熊本の取締役報道編成制作局長ら3名が出席して行われた。引き続き午後2時からは、熊本県民テレビに対する委員会決定第64号について、申立人と被申立人である熊本県民テレビの取締役報道局長ら2名が出席して行われた。
それぞれの通知では、坂井委員長が委員会決定の判断のポイント部分を中心に説明し、名誉を毀損したとは判断しないが、放送倫理上問題があるとの結論を告げた。その上で、テレビ熊本、熊本県民テレビそれぞれに対して「本決定を真摯に受け止めた上で、本決定の趣旨を放送するとともに、公務員の不祥事への批判と言う社会の関心に応えようとする余り、容疑者の人権への配慮がおろそかになっていなかったかなどを局内で検討し、今後の取り組みに活かすことを期待する」との委員会決定を伝えた。
また、少数意見について、欠席した2名の委員の少数意見を坂井委員長から伝えた後、中島委員が自身の少数意見について述べた。
委員会決定の通知を受け、申立人は、「自分の主張の一部が認められたことはよかったが、人権侵害を認めてもらえず残念だ」との感想を述べた。これに対して、被申立人のテレビ熊本は、「真摯に受け止め、人権に配慮した報道に取り組んでいきたい」と述べ、熊本県民テレビは、「真摯に受け止め、指摘を受けた内容を今後の放送に活かしていきたい」と述べた。

[公表]
委員会決定の通知後、午後3時15分から千代田放送会館2階ホールにおいて記者会見を行い、決定内容を公表した。22社48名が出席し、テレビカメラはNHKが在京放送局各社の代表カメラとして会見室に入った。
参加した委員は、坂井眞委員長、市川正司委員長代行、白波瀬佐和子委員、中島徹委員の4名。少数意見を書いた奥武則委員長代行、曽我部真裕委員は、海外出張のため欠席した。
会見ではまず、坂井委員長が委員会決定第63号と第64号を続けて、それぞれの判断のポイントを中心に説明した。その要旨は、放送が示した事実のうち、逮捕の直接の容疑となった事実以外の、テレビ熊本においては4つの、熊本県民テレビにおいては3つの事実について、「真実であることの証明はできていないが、副署長の説明に基づいてこれらの点を真実と信じて放送をしたことについて、相当性が認められ、名誉毀損が成立するとはいえない。」と判断したが、しかし、真実性の証明できない事実を、本件に特殊な事情があるにもかかわらず、真実であるとして放送したことは、「申立人の名誉への配慮が十分ではなく、正確性に疑いのある放送を行う結果となったものであることから、放送倫理上問題がある。」としたというものであった。
委員長からの説明を受けて、起草を担当した市川代行、白波瀬委員から補足の説明を行った。市川代行は、「名誉毀損には当たらないとしたが、別途に、『放送と人権等権利に関する委員会(BRC)決定』や民放連の『裁判員制度下における事件報道について』の指針等に鑑みて、放送倫理上求められることを検討することは必要なことと考えた」と述べ、放送倫理上の問題として検討した背景を伝えた。また、白波瀬委員は、「何を真実とするか、現場は大変なことがあると思うが、報道される当事者がいることへの配慮と注意を払ってほしい」と付け加えた。
一方、委員会決定と意見を異にする少数意見については、欠席した奥代行、曽我部委員の少数意見の内容を坂井委員長が伝えた後、中島委員から、自らの少数意見について、「委員会決定は、警察への取材に疑問を抱き質問するべきであったと指摘しているが、それを現場に求めるのは酷な状況だった。今後確立するべき倫理を一気に確立させようというのは行き過ぎのように思う」と説明した。

この後、質疑応答に移った。主な内容は以下の通り。

<申立人、被申立人の反応について>
(質問)
決定に対する申立人と被申立人の反応はどうか。

(坂井委員長)
申立人は「自分の主張で認められた部分があることはよかったが、人権侵害がなかったというのは残念だ」と述べた。テレビ熊本は、「真摯に受け止める」、熊本県民テレビは「真摯に受け止め、今後の報道に生かしていく」と述べた。また、申立人はさらに、「(放送局が)真摯に受け止めると言うだけで終わってしまうのでは、私の失ったものの大きさと比べて納得感がない」、「放送で情報を流すのは簡単だが、流された方はそれだけで終わりではない、その後も人生が長く続く、それを意識して報道して欲しい」と述べた。

<放送原稿の表現について>
(質問)
「逮捕されたのは誰々です」その後に「逮捕容疑については認めている」という表現なら印象が変わるのか。あるいは、最後に「逮捕容疑を認めている」と書くことであれば、純粋な逮捕容疑を認めているという、全体ではないですよ、ということにはならないか。
また、原稿の「容疑を認めているということです」、記者レポートの「連れ込んだということです」と、「いうことです」というのは、警察からの伝聞だということで入れている表現で、テレビではよく使う言い回しだ。「連れ込んだと警察が説明しています」とか「と見られます」ならいいのか。
あるいは、例えば「調べに対して容疑者は『間違いありません』と逮捕容疑を認めているということです」という原稿であれば、判断は変わるのか。容疑と経緯を分けて書かないといけないというのは違和感がある。

(坂井委員長)
「逮捕容疑を認めています」とあれば必ず容疑事実に限られるとか、「ということです」を「と見られます」に言葉を1つ替えればよいのか、ということではない。番組全体を一般視聴者が見た時に、どういう印象を受けるかということが重要だ。それはダイオキシン報道についての最高裁判決が参考になる。その点は、当然、全体的な報道の仕方で変わってくる場合もある。ご質問の点について、あくまでひとつの例として挙げれば、「逮捕の容疑事実はこうで、それは被疑者は認めているけれど、警察はこういうことも疑っている」とか、犯行に至る経緯については「警察はこう言っている」というように放送していたら、だいぶ一般視聴者の受ける印象は変わるのではないか。
また、本件独自の特殊性もある。そのひとつであるが、裸の女性を無断で写真に撮ったことを被疑事実として準強制わいせつで逮捕というケースはあまりない。意識を失わせて自宅に連れ込んで、その後無断で服を脱がせたというのなら、通常はそれだけで強制わいせつになる。しかし、本件では、そのような事実は容疑事実とされておらず、無断で裸の写真を撮ったという事実だけが容疑事実とされている。警察がより悪質性の高い部分まで疑いを持つのはあり得ることだとしても、逮捕容疑はその点をのぞいたところだけに絞られていた。であれば、それはなぜかという疑問も生じ得る状況だったわけだ。しかし、本件放送全体として見た場合に、広報担当が容疑事実について「それを認めている」と説明したことについて、容疑事実に含まれておらず犯行の経緯とされていたより重い事実についてまで、それらの事実を「認めている」と理解できる放送内容になっていたところが問題なのだ。
逮捕容疑事実として事案の概要に書いてあることしか報道してはいけないと委員会が言っているわけではない。公式発表とか確定した事実以外で独自に取材をして、「これは事実だ」と思って書くことは当然あっていい。報道はそういうものだと思うが、その場合、書く側に真実性ないし相当性の立証ができなければならないから、その確信がなければいけないということだ。そうでなければ、客観的な事実として放送するのではなく、警察はこういう疑いも持っているという表現にとどめるべきだということになる。

(質問)
警察の広報は、逮捕直後に取った調書を基に各社に話すと思う。それで「認めている」と言えば、それを信じて書いてしまう。「どこまで認めているのか」と副署長に聞けば良かったということか。

(坂井委員長)
そうすればはっきり分けて書けたかもしれない。本件の取材の経過を聞くと、その点をはっきりさせないで、そのまま容疑事実以外の部分まで認めたとして放送したということだと思う。しかし本件の問題は、「どこまで認めているのか」と副署長に聞けば良かったかどうかということではない。記者の質問の内容と、それに対する広報担当の対応に行き違いがあり、それが本件のような放送内容につながったという点だ。記者に、広報連絡記載の事案の概要について「容疑事実を認めているのか」と質問され、広報担当は逮捕容疑事実を「認めています」と答えた。ところがその後のやり取りの中で、事案の概要に記載のない警察の見立てについて広報担当が述べてしまい、そのために容疑事実をはみ出た部分まで被疑者が認めていると記者は信じてしまった。そのような経緯からすると相当性は否定することまではできない、と決定は判断した。
基本的に逮捕容疑事実以外のことについて「認めていますか」とは聞かないはずだから、「認めている」というのは容疑の話になるはずだ。けれど、そのはみ出た部分の話まで広報担当が述べてしまい、それを含めて認めたと記者が信じたことからこういう問題になったのだと思う。

(質問)
視聴者がどう受け取るかということですが、警察からどう聞いたかというのを聞いた時に、果たして、分けて書く、分けて書いたら、視聴者にほんとに通じるのか、逮捕容疑と容疑を、「逮捕容疑を認めているという」と、「容疑を認めている」というのを、その2つで何か違いがそこまであるのか。

(坂井委員長)
「逮捕容疑を認めている」と「容疑を認めている」とを比べて視聴者がどう受け取るかに関し違いはないのではないかと質問されているが、決定はそういうことは述べていない。視聴者に違いが分かるように放送するべきだと述べている。そしてその違いが分かるように放送する意味はあるということだ。逮捕された容疑は何かと、警察がどういう疑いを持っているかということは、意味が違うし、警察が間違うこともある。場合によったら警察発表に疑いを持つのもメディアの役割だ。「警察が言ったから事実と信じた」というだけでは通らないと思う。この決定は、そこをちゃんと区別しましょうという決定だ。

(質問)
「薬物」に関する表現で、テレビ熊本の「疑いもあると見て、容疑者を追及する方針です」は、「疑い」と「追求する方針」という言葉が強いということだが、熊本県民テレビは「警察は容疑者が・・・薬物を使って意識を朦朧とさせた可能性も含めて」と、むしろ「容疑者が」と名前を出していて、「やった」という印象が強いのではないか。

(坂井委員長)
テレビ熊本は「容疑者が」と明示して入ってはいないが、文脈としては「容疑者が」と読める。また、明確に「追及する方針です」と書くことと「可能性も含めて調べる」とではニュアンスは大分違う。

<フェイスブックの写真使用について>
(質問)
フェイスブック等からの画像の引用について、出典の明示をした場合の、懸念される事象についての言及がなされているが、委員会では出典を明示すべきかどうかについて、まとまった意見はあるのか。

(坂井委員長)
メディアでは、「フェイスブックより」と書かれることが多いのは理解しているが、本件ではその点については触れていない。この事案では「フェイスブックより」と書いたことで、全く関係のない親族や友人が実際に迷惑をこうむったようなので、そのような問題もあるからその点は少し考えたほうがいいということを指摘した。

(質問)
最近フェイスブックの写真を使うケースが多い。このぐらいの重さの事案であれば、(使用は)おおむね大丈夫と理解していいか。

(坂井委員長)
大丈夫という言い方は出来ないが、今メディアの中でフェイスブックの写真を使っていて、フェイスブックの写真は一般的にはある程度の範囲で見られてもやむを得ないという前提で載せられている。従って「だめだ」ということにはならないが、使い方によっては、問題が起きることもある。つまり、どんなケースでもOKだということにはならない。いろいろな議論があり、この点はまだコンセンサスが出来ていないと思う。ただ、フェイスブックから写真をもってくること一般がだめという議論をしているわけではない。それはケースバイケースだろう。一般論を言えば肖像権が万能ではない。表現の自由、報道の自由という問題もある、そのバランスのとり方ということだ。

<その他・審理の経緯等について>
(質問)
示談が成立して女性が被害届を取り下げて不起訴になった背景は、どの程度考慮されたのか。事実が非常にグレーな中で、放送倫理上問題があると判断したことについて説明してほしい。

(坂井委員長)
社会的評価が下がる事実を適示して報道する以上は、報道する側が真実性、相当性の立証責任を負う。この放送で示された事実についての真実性の立証は出来ていなかったが、相当性があったということで、名誉棄損ではないと判断した。
しかし、この事案で重要な部分、裸の写真を無断で撮るという事実だけでなく、それだけでなく女の人を酒に酔わせて家に連れ込んで、意識のない女性を裸にして、写真を無断で撮ったというのでは、社会的な非難は違う。そのような重要な事実について放送する以上、その真実性や相当性を放送する側は立証しなければいけない。
そして、相当性はあるが、真実性はないという結論であるならば、そのような重要な事実について真実性の立証できない事実を放送したことについて、名誉棄損にはならないとしても、放送倫理の問題として考えるべきだということだ。

(質問)
あまり抑制的に話されても困るが、BPOとして、警察の発表の仕方に何らかの考えを伝えることはあるか。

(坂井委員長)
警察に対して何か伝えるようなことはない。

(白波瀬委員)
専門も違うし、初めての経験で、不適切かもしれないが、質疑応答をずっと聞いていて、違和感を覚える。この事案は、申立てがあって議論を積み重ねたものだ。皆さんの質問を聞くと、ほんとに身につまされる感じを受ける。ただ、この報道は、一般視聴者に対して発せられた時点で具体的な姿として出てくる。その時に、どういうかたちで報道を積み上げたかという議論をしているが、その報道の対象となった人がいる。皆さんは、どういうかたちでマニュアル化して、今後、同様の申立てが来ないようにしようかとしているのはわかるが、委員会での議論の中で、非常に感じたのは、公務員に対するバッシングという社会的背景と、連れ込んだ裸の写真というものが、非常に既成の枠組みの中で解釈されているということだ。
それは、今まで、ある意味では常識的だったことであるかもしれないが、その常識だと、こういうストーリーはあるだろうといった危険性には、どこかでブレーキをかけるべきではないかと感じた。
私は、裸の写真を撮るというのは、もしかしたら今の若い子たちにとったら、そんなに特別なことではないかもしれないし、そのこと自体がどれだけの問題があるのかっていうことも含めて、ちょっと見直し、疑問を持っても、十分良いというか、立ち止まるべき時期で、この結論は、論を尽くした結果ということだ。

(質問)
白波瀬委員にお尋ねします。今の若い女性にとっては、裸の写真を撮られるのは何でもないことではないのか、とおっしゃいましたが、被害者の話を聞かずに議論をされている中で、それはどのような見識に基づいているのでしょうか。

(白波瀬委員)
大したことではない、と言ったのは、すごく語弊があるのだが、何が起こったのかといった時に、裸の写真を撮ったということは、申立人は認めているが、連れ込んだ云々については認められないということであり、そういうことはないかもしれないというふうに私は言ったつもりだったのだが。
つまり、状況というのが出て来た時に、もちろん何の合意もなく、そういう行為をした、つまり裸の写真を強制的に撮ったとか、そういうことは、もちろん問題だとは思うのだが、状況自体で、そのストーリーを、良し悪しを最初から前提としてつけるというのは問題ではないかといった意味での例を出したつもりだ。
すいません、言葉足らずで申し訳なかったです。
つまり、そういう状況自体を想定するときに、我々もずっと年齢的には高く理解しにくいが、その場面が、今実際の場面と同じようなことが起こっていると想定することが、正しいかどうかということ自体も、疑問符がつくという意味だったのですが。

(市川代行)
白波瀬委員の発言は、審議の中で、本件のことと言うのではなく一般に、知人の女性と、一定の関係のある女性と、部屋の中で裸の写真を撮るという行為が、意外と若い方の中では、同意の上でそういう例もあるかもしれないということも指摘があったということであって、いろんな背景を想定したということだ。

(質問)
「見解」が出ると、放送倫理、あるいは番組の質の向上のために、見解の内容をどういうふうに落とし込むべきか現場では考える。その点、委員会にも理解していただきたい。判断に至った法律的な論拠みたいなものはいっぱい書いてあるが、その先、どういうふうに現場に落とし込むかという部分への道筋みたいなものが見えない。もちろんそれを考えるのは私達だということかもしれないが。

(坂井委員長)
委員会が考えていないわけではない。しかし、現場でどう落とし込むかと言う問題は、本質的には、決定の内容を受けて現場の皆さんが考えることではないか。NHKと民放連、民放各局が作ったBPOで、評議委員会によって選ばれた委員会のメンバーが、運営規則に則って判断をしている。そこでの判断は、現場がどう受け止めるのかという視点ではなくて、申立人が、申し立ての対象とした放送内容について、申立て内容との関係で、その放送はどう評価されるべきかという観点において、言わばフラットな立場で判断している。その判断の際に、現場のことを考えて判断するという姿勢で結論を出し、その結果、お手盛りなどと言われるようなことがあってはならないと思っている。
現場のことを考えていないと言われたらそれは悲しいことだが、実際問題として、ここを考えればこういう内容にできるのに、という私なりの考えはある。各地での意見交換会の機会にも、その際の題材に応じて、こういう問題なので、ここはこう考えれば問題を生じませんよということを話している。そういうことは我々の方からこうしなさいということではなくて、まずは自律的にやるべきことであろうと思う。逆に現場の方が、ここは違うのでないかという意見があれば、是非聞きたいし、委員会の側も意見を言う。そういう中で自律的に動いていくものなのだと思う。

(質問)
他の地元局、NHKも、同じような報道をしたと思うが、他局はこの正確性に欠いた細かいニュアンスの部分を上手く分けて報道したのか。他局も同様な表現があるのに、そこを審議しないのはフェアではないのでは。

(坂井委員長)
制度の問題であり、放送人権委員会は、申立てのあった放送を取り上げることしかできない。我々の側から、関連する他の放送を取り上げて、その番組に口を出すことはしてはいけないし、できない。
本件でも、かなりの時間をかけて議論をする中で、こういう問題があるということで決定の結論に収束をしていった。3つの少数意見も、問題があるとまでは言わないが、決して現状でいいと言っているわけではない。逆に、放送倫理上問題があるとは言えないが、こういうことは問題だと、さらに補足をしている。9人の委員が議論を続けて、この結論になったとしか申し上げられない。
この事案に関して言えば、放送によって申立人がどういう状況に陥ったかを考える視点は必要だろう。放送はその時だけのことだが、放送された影響を受けて、申立人の人生はずっと続いていくという重さがある。そのような放送の持つ重みという意識も必要で、決定の結論の背景として指摘しておきたい。

(市川代行)
テレビ熊本も熊本県民テレビも、警察の発表に依拠して報道しており、真実と信じたことについて相当性があると考えて、報道は認められるべきだとの立場であろうが、本件は、警察の情報に依拠する中で、どういう点に気を付けるべきなのかというのが中心的な論点ではないか。
また、決定の「はじめに」で、この2局だけが直面した問題ではないだろうと書いた。通常の取材過程の中で発生し得る問題だという問題意識は、我々も触れていている。申立てを受けていないものについて委員会が判断するわけにはいかないが、決定がいろいろな現場に与える影響、現場の受け止め方も考えている。おそらく各委員も、同じ思いで、どういうグラデーションでいくのかと議論し、その結果が今回の結果だと思う。

(質問)
「抗拒不能」は法律用語で、一般のニュース、日常会話では使わない。それはどういうものかと、容疑事実を確認している。でも、視聴者はこれ全部容疑事実と思うのではないかとか、これだけのことをバツと言われている。そこをもっとしっかりやりなさいというのは分かるが、ここまで言うと萎縮してしまうのではないか。

(坂井委員長)
その点に関しては、決定は相当性を認め、名誉毀損は成立していないという結論としていることをよく理解してもらいたい。それを踏まえれば、放送倫理上の問題を指摘されたから委縮するなどということにはならないのではないか。そうではなく、今後対応することが可能な問題だと思っている。犯罪報道の在り方は、古くて新しい問題だ。容疑事実を認めるとした場合、どこまでどのように書けるかという話が繰り返し出て来る。そのような状況でも、本件に関して出来ることはあっただろうというのが、今回の委員会の決定だ。

以上

2017年5月に視聴者から寄せられた意見

2017年5月に視聴者から寄せられた意見

愛媛県今治市連続殺傷事件について、各局の情報番組における容疑者やその家族への取材のあり方への意見。痴漢疑惑による線路立ち入り事件についての報道のあり方や、情報番組でのコメンテーターへの批判など。

2017年5月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,476件で、先月と比較して20件増加した。
意見のアクセス方法の割合は、メール74%、電話24%、FAX1%、手紙ほか1%。
男女別は男性70%、女性29%、不明1%で、世代別では30歳代26%、40歳代25%、50歳代22%、20歳代14%、60歳以上11%、10歳代2%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該放送局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。5月の通知数は664件【50局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、19件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

愛媛県今治市連続殺傷事件について、各局の情報番組における容疑者やその家族への取材のあり方への意見が多く寄せられた。また、痴漢疑惑による線路立ち入り事件についての報道のあり方や、情報番組においてのコメンテーターへの批判も多く寄せられた。
ラジオに関する意見は70件、CMについては22件あった。

青少年に関する意見

5月中に青少年委員会に寄せられた意見は123件で、前月から33件増加した。
今月は「低俗・モラルに反する」が28件と最も多く、次に「表現・演出」が18件、「いじめ・虐待」が16件、「性的表現」が12件と続いた。
「低俗・モラルに反する」では、全裸でお盆だけを使って股間を隠す男性芸人の出演について意見が寄せられた。「表現・演出」では、相方の頭を叩く芸人の出演について意見が寄せられた。「いじめ・虐待」では、バラエティー番組でのプロレス技をかける企画について意見が寄せられた。「性的表現」では、アニメ番組の内容について意見が寄せられた。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • 今治市連続殺傷事件に関連し、参考人が自殺したことについて。報道では、警察の事情聴取のやり方を論じようとしているが、メディアの取材・報道の仕方が適切だったのかどうかも甚だ疑問。防犯カメラに映っていたというだけの時点で、参考人となった女性の自宅前に取材陣が殺到し、自宅から出てきた捜査員の前を塞ぐように撮影し、事情聴取の行われた翌朝には母親にインタビューする。そうした行為が女性に精神的なプレッシャーを与え、自殺に追い込んだという可能性はないのか。「現地の状況を伝える」という報道の役割を逸脱し、各局が競うように「犯人探し」をしていなかったか。検証し、問題があれば正す必要があるのではないか。

  • 痴漢の疑いの男性が駅のホームから飛び降り、逃げる様子をニュースに取り上げていた。実名を公表するのはやり過ぎではないか。「男性がジュースをこぼし、隣に座っていた女性客ともめて線路に逃げた」と伝えていた。確かに、線路に降りて金網のフェンスを越えた行為は法に触れるかもしれないが、それだけで実名を流すテレビ局の基準が信じられない。彼はまだ若いし、これからの人生もあるのに、この件で会社を退職せざるを得なくなったり、場合によっては命を絶ったりするかもしれない。あまりにも犯した行為と、それに対して受けたテレビ局からの罰が比例しない。放送で実名をさらすことに見合う犯罪なのかどうか、厳正な基準を設けるべきだ。

  • 皇族と婚約される一般の男性について。大量の報道関係者が夜間に自宅に押しかけ、インターホンを鳴らして取材、早朝から「職場へ出発」などと中継、過去の交友関係を洗い出して根掘り葉掘りしているが、必要あるのか。皇族との婚約相手であろうが、現状は一般人だ。プライベート情報を流すのは如何なものか。さらに、「職場へ出発」など、正直、どうでもいいレベルの内容で報道する。これは意味のないことではないか。報道のあり方、内容がかなり行き過ぎている。

【番組全般・その他】

  • 獣医学部新設について、文科省前事務次官が現政権にとって致命傷となるような爆弾発言をした。前後してその人が不適切な店に通っていたことがすっぱ抜かれ、各局のワイドショーでは、そちらのほうが大きく騒がれている。「文科省のトップにいた人物が何という体たらくか」と怒りを覚えるのは確かだ。しかし、彼の発言の重大さは、不適切な店に通うこととは別次元のものだ。簡単に片づけられるものではない。問題のすり替えは官邸側を利するだけだ。テレビなどのメディアは、問題の本質を見誤ることなく、伝えるべきことを伝えてほしい。

  • 情報番組で、タレントがコメンテーターとして出演しているとすごく不愉快になる。事件そのものを批判するのではなく、相手によって批判したり、擁護したりすること。例えば、不倫騒動も「こいつは芸能界から引退してほしい」「人としてどうなんだ」とまで言っていたかと思えば、別の人の不倫だと「この方は活躍のスケールが違うから」などと扱い方が全く違う。「不倫自体が悪い」と一貫してほしい。色々な事件も、ことを起こした芸能人によって、許容範囲だったり、許せなかったりではおかしい。相手が大物タレントの場合や、後々仕事に影響がありそうな人に対しては擁護する発言をする。これは聞いていてあきれる。そんな人はコメンテーターとして仕事をしないでほしい。

  • 「テレビに映った美人を追跡」と題し、路上インタビューを受けた女性や、高校野球中継に映ったチアガールを探して会いに行くという企画をやっていた。なかでも、チアガールの女性に対しては、在籍していた高校へ電話し、卒業後の居場所について尋ねるといったシーンも放送され、さもストーカーのように感じた。彼女に対して過度に執着を持つ人が現れる危険性もある。当該女性には、すでに何らかの手段で出演依頼をしていたのだろうが、このような企画は、今後、一般の人でも、気になった人物が映れば、居場所を特定してもよいと誤解させるような内容だった。

  • いつも楽しく見ているが、今回はあまりにもふざけ過ぎていた。女性芸人が登山をするコーナーで、プロの登山家まで使って危険がないようにサポートしているのに、かたや芸人とはいえ、お尻丸出し、鼻水垂れ流し、体調不良で脱落した芸人が、下山してきたメンバーやサポートしていたプロの登山家の前に、あられもない水着姿で登場するなど、ふざけ過ぎている。この芸人達は、温泉同好会というコーナーにも出て裸になっていた。ボカシが入るなら何をやってもいいものなのか。

  • 紹介したフリップが間違いであったとテレビ局が謝罪した。「真偽を確認しないまま放送に至り」とコメントしているが、放送する情報について「真偽を確認」することは放送人の基本ではないか。事実でもウソでも面白ければ何でもいい程度の感覚なのか。だとすれば、他の情報の真偽はきっちりと確認しているのか疑問になる。放送倫理に関する理解が足りなすぎる。スタッフや出演者が、誰もウソ情報に気付かなかったのも不思議だ。ネタ元と思われるSNSを確認するだけでも、ある程度は真偽が分かるはずだ。出演者がこのウソ情報を基に、映画監督を馬鹿にするように笑っているように感じた。誰かを揶揄したり、傷つけたり、迷惑をかけたりするような笑いは不愉快だ。

  • アフリカの貧困層やシリアからの難民が直面している食糧難、国内でも貧困児童が存在する現状を、定時ニュースなどで伝えた後に、「大食い番組」を平然と流すのは道徳上よくないのではないか。一方では満足な食事ができない人達がいるのに、もう一方では残飯を出し、捨てている。

  • 男性アナウンサーが「他局の女性アナウンサーと婚約した」と出演した番組内で発言した後に、女性アナウンサーがMCを務める報道番組で、自分の婚約について話をしていた。受信料を徴収している公共放送でこのような個人的なことを話すのは如何なものか。他に伝えるべきニュースがたくさんあるはずだ。最近、アナウンサーがこのような話題を話すことが増えているようだが、個人的な事は避けるべきだ。

  • BSの紀行番組でハワイ・ハレイワを紹介していた。定番の観光地を避けようとするあまり、退屈な内容になることもあるが、この日の番組は良かった。誰もが行きたいと思うような美しい場所、美味しそうな食事もきっちり紹介されていた。特に、サーフィンの取り上げ方が印象的だった。ビーチで、サーファーの見事なライディングを見せ、街歩きの途中にサーフボードの工房を訪れ、後半では、障害を持つサーファーの、ビーチを転がってでも波に乗りたいという、サーフィンに対する強い思いがしっかり伝わってきた。ゆるい仕込みはあるそうだが、仕込みだとしても、それを感じさせない見事な構成と演出だった。私も障害を持つ身だが、これほど自然に、しかも重要な役割として障害者が登場する番組はなかなか無い。お涙頂戴や感動の押し売り的な意図も全く感じなかった。サーフィンとともにある、ハワイ・ハレイワの日常を見事に表現した素晴らしい番組だった。

【ラジオ】

  • 午前11時すぎに、DJが、面白おかしく「Jアラート」の音を流していた。テレビと違い、字幕などがないので、音声だけでは、その時にラジオをつけた人には何だか分からない。「これはテストです」とも言わず、番組の流れで「Jアラートの音声を聞いてみようか」ということで音声を流していた。不安を煽る紛らわしいことは流さないのが放送局の役目だ。北朝鮮問題など、世の中が不安で緊張している状況に、簡単に面白おかしく、こういった音声を流してしまう局の倫理観を疑う。

【CM】

  • ピザのCMで、飲食店の前でタクシーに乗り込む若い男女、男は勝ち誇ってVサインを送り、見送る男たちは「お持ち帰りいいなあ」と言って、羨ましそうな顔をしている。この「お持ち帰り」は、飲み会などの帰りに、気に入ったに女性を誘って家やホテルに連れ込む隠語ではないか。言葉として流布しているのは仕方がないが、CMで放送するのは疑問を感じる。

青少年に関する意見

【「低俗・モラルに反する」との意見】

  • バラエティー番組で、全裸でお盆だけで股間を隠す芸をしていたが、これは芸でもなんでもない。子どもが真似をして大変不快だ。面白ければなんでもいいという考えは改めてほしい。

  • バラエティー番組で、カリスマ編集者と名乗る人物が、男性編集者が女性作家にする「枕営業」について話していた。家族で安心して見られる番組だと思っていたので、セクハラへの無神経ぶりに呆れてしまった。

【「表現・演出」に関する意見】

  • あるお笑い芸人が、相方の頭をきつく叩いたり、「ばかちん」など暴言を吐いたりして、見ている方はとても不快だ。子どもが真似をして、怪我などしないか心配だ。

【「いじめ・虐待」に関する意見】

  • バラエティー番組で、突然にプロレス技をかける企画は、子どもがふざけて真似しかねない。面白おかしく放送し、怪我や弱いものいじめにつながる恐れがある。放送するなら、決して素人が真似しないよう「注意」をのせるべきだ。

  • 県民性を扱う番組は、見ていて不愉快になる。東京都だけ貶さず、他の道府県を見下しているように見える。これは、東京一極集中、地方の衰退、地方出身者に対するいじめや差別を助長する原因の一つになりやすい。

【「性的表現」に関する意見】

  • アニメ番組で、断ることのできない年上の男性から、若い女の子が身体を触られたり、下着を覗かれたりというシーンが放送された。ストーリーとはほとんど無関係だ。我が家の子どもも大好きで毎週欠かさず見ているが、子どもも見るアニメとしては不適切な内容だ。

【「要望・提言」】

  • テレビをつまらなくしないでほしい。「裸芸」を見て真似る子がどれだけいるだろうか。たぶん、ほとんどいないと思う。テレビの影響は悪いものばかりでなく、良いこと悪いことを判断する力を養う役目もあるはずだ。テレビを見ながら会話して、何をやってはいけないかを教えるのが親の役目だ。

第192回 放送と青少年に関する委員会

第192回-2017年5月23日

視聴者からの意見について…など

2017年5月23日、第192回青少年委員会をBPO第1会議室で開催しました。7人の委員全員が出席し、まず4月16日から5月15日までに寄せられた視聴者意見について意見を交わしました。そのあと、5月の中高生モニター報告や調査研究の調査票の検討、今後の予定などについて話し合いました。
中高生モニターに関しては、委員とモニターの中高生とのコミュニケーションを密にしてより深い感想等を引き出す試みとして、委員から一人ひとりに「お便り」を届けることを新たに始めました。概ね好評で、「頑張ってリポート書こうと思いました」などの感想が寄せられました。
次回は6月27日に定例委員会を開催します。

議事の詳細

日時
2017年5月23日(火) 午後4時30分~午後7時00分
場所
放送倫理・番組向上機構 [BPO] 第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
汐見稔幸委員長、最相葉月副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、菅原ますみ委員、中橋雄委員、緑川由香委員

視聴者からの意見について

海外の出来事を紹介するバラエティー番組で、「複数回の美容整形手術に失敗した女性の映像が瞬間的に出たのでテレビを消して回避する余裕がなかった。幼い娘も怖がって泣きじゃくっている」という視聴者意見に対して、委員からは、「人によって感じ方はいろいろではないか」という意見が出されました。また、全裸でお盆を使って股間を隠す芸人の出演に対して「子どもが真似をして大変不快だ」「テレビの影響力を考え、このような芸人は出さないでほしい」などの視聴者意見に対しては、委員からは、「一つの芸に対する考え方は人それぞれあるだろう」「芸として成立している」「子どもに悪影響を与えるかという点では、特に問題だとは思わない」などの意見が出されました。現段階ではいずれもこれ以上話し合う必要はない、となりました。

中高生モニター報告について

34人の中高生モニターにお願いした5月のテーマは、「最近見た報道・情報・ドキュメンタリー番組の感想」でした。また「自由記述」と「青少年へのおすすめ番組について」の欄も設けました。全部で33人から報告がありました。
「報道・情報・ドキュメンタリー番組の感想」では、報道番組について11人、情報番組については12人、ドキュメンタリー番組について10人から報告がありました。複数のモニターが報告を寄せた番組もあり、『報道ステーション』(テレビ朝日)、『めざましテレビ』(フジテレビ)、『情熱大陸』(TBS)にそれぞれ3人から、『サンデーモーニング』(TBSテレビ)と『逆・転・人・生』(NHK総合)には2人から報告がありました。
「自由記述」では、バラエティー番組での効果音の使い方が気になるという意見や、自分が暮らす県内で起きた殺人事件に関する報道をきっかけに情報やメディアについて考えた、という報告がありました。
「青少年へのおすすめ番組」では、『すイエんサー』(NHKEテレ)に5人から、『VS嵐』(フジテレビ)と『ダウントンアビー6 華麗なる英国貴族の館』(NHK総合)にそれぞれ2人から報告がありました。

◆委員の感想◆

  • 【最近見た報道・情報・ドキュメンタリー番組の感想】について

    • 『目撃!にっぽん~高校生ワーキングプア 旅立ちの春~』(NHK総合)を見ていろいろなことを感じ、苦しくなったという感想を書いたモニターが、視聴後にTwitterで番組の感想を検索するなど、自分の感じたことについて考えようとする姿勢に感心した。

    • 去年11月22日に起きた福島沖地震の津波の速報に関するリポートを書いたモニターがいた。「最近見た番組の感想」ではなく、去年の報道について書いてくるということは、よほど強い印象があり、何とかこの感想を吐き出したかったのだという気持ちが伝わってきた。

    • 『報道ステーション』(青森朝日放送/テレビ朝日)に関して取り上げたリポートで「報道番組は常に中立であってほしい」という意見があった。これに対して、「中立とは何か?」ということを考えることはもちろんだが、メディアの特性として「わかりやすく伝えるために強調する」ということもあるので、視聴者が読み解いていく必要があるということもわかってほしいと思う。

    • 『めざましテレビ』(フジテレビ)を見るとさわやかな気持ちになるし「一日がんばろう!と思うことができる」というモニターが、リポートの最後に「ニュースに比べ芸能の割合が増えているように感じる。もっと政治や科学など、目を向けられにくいことも報道すべき」だと書いていて、冷静に見ていると感じた。

  • 【自由記述】について

    • 自分の暮らす県で発生した殺人事件の容疑者が自殺したという報道に衝撃を受けたというモニターが、その報道を機に、「報道と人権」などについて考えを巡らせたという報告を「なるほど」と思いながら読んだ。

    • 「この数年間で、報道番組で政府の批判を見かけることが少なくなった気がする。公平は重要だが、そのことで自粛しているのならばそれはメディアとして正しい形ではない」という意見を読んで、「公平とメディアの本来的な意義」についての鋭い視点を感じた。

◆モニターからの報告◆

  • 【最近見た報道・情報・ドキュメンタリー番組の感想】について

    • 『目撃!にっぽん~高校生ワーキングプア 旅立ちの春~』(NHK総合)  家庭の状況で働かざるを得ない高校生を追ったドキュメンタリーでした。何気なく見ていたのですが、途中から目が離せなくなりました。いろいろなことを感じさせ、苦しくなる番組でした。出てくる高校生は家族や進学のため、前向きに働き、夢を追っていました。すべてに圧倒された気持ちになりました。なぜこの状況が改善されないのか、周りのサポートはどうなっているのだろうかと疑問もわきました。番組を見た後、Twitterで感想を検索してみました。好意的な意見もある一方で、批判的な意見もありました。(千葉・中学2年・女子)

    • 『関口宏のサンデーモーニング』(TBSテレビ) 今、起きている様々なニュースや事件、政治について、難しい言葉をわかりやすく説明してくれているから見ています。国会で取り上げられている内容や北朝鮮との関係についてなど、実際の映像や絵にしたものに図表や数字を入れて解説してくれるので、全体の流れがつかみやすいです。ときには難しい言葉を丁寧に文字にしてくれているので、聞き流さずに言葉の理解もできます。特にいま北朝鮮のミサイルなど世界の様子が気になっているので、つい見てしまいます。ただし、コメンテーターの言っていることがよくわかりません。(東京・中学2年・男子)

    • 『臨時ニュース』(NHK総合) 去年11月に福島県沖で地震が発生し、津波警報が発表された。警報発表直後に緊急放送を開始しアナウンサーが避難を呼びかけた。とても緊迫感のあるアナウンスで危機感が伝わってきた。また赤字に白い文字で「つなみ!にげて!」などと表示され、子どもなどにもわかりやすく伝えられていた。ただ時間とともに画面上の情報量が増え、正直どこを見ればいいかわからなくなってきた。情報を並べるのではなく、目立つ情報は最小限にすべきだ。(青森・高校1年・男子)

  • 【自由記述】

    • ネット番組と違ってテレビ番組のいいところは、家族の誰かと一緒に見ることができ、共有した情報でコミュニケーションを取りやすくなることだと思います。(神奈川・中学1年・男子)

    • 最近、テレビで気になるのが、あまり面白くないことでも、笑い声を入れることです。それで、なんとなく面白いのかなぁという雰囲気をつくるのがいやです。スタジオで出演者や観客がVTRを観ているならまだ分かるのですが、そうではないのに、不自然に「ハハハ」と笑い声や、「おぉ~」などの声が入っているのが気になります。(鹿児島・中学2年・女子)

    • 自分の住んでいる県で、殺人事件の容疑者が自殺しました。どのテレビ局もこの事件を扱っていたので自分はかなり気になっていました。そのぶん、速報で「容疑者自殺」というニュースを見たときは衝撃を受けました。この事件では「容疑者が自殺したのは某局の朝の番組が事細かに放送したからでは?」というような意見を見ました。その放送を見ていないので詳しいことは分かりませんが、全国のニュースで扱うということはそれだけ関心があったということであり、事細かに放送するのはしょうがないのではないかと自分は思いましたが、逮捕していない人の自宅の位置を公開するのはやりすぎな気はしました。一方で、テレビなどのメディアがないと自分たちはなかなか情報を知ることができません。情報を知らないと不安なこともあります。メディアというものは難しいものだと、考えさせられる事件になりました。(愛媛・高校2年・男子)

    • ここ数年間で報道番組の中で政府の批判を見かけることが少なくなった気がする。政治的に公平であることは重要であるが、そのことによって批判を自粛しているのであれば、それはメディアとして正しい形ではないと感じる。個人的に報道番組で「何が起きているか」だけでなく「何が問題なのか」ということが知りたいと思っている。(神奈川・高校3年・男子)

  • 【青少年へのおすすめ番組について】

    • 『ダウントンアビー6 華麗なる英国貴族の館』(NHK総合) いつも母が見ています。私は最初から見ているわけではないので、話はよくわからないのですが、建物や洋服、髪型、食器や料理を見るだけでもテンションが上がります。(鹿児島・中学2年・女子)

    • 『世界ルーツ探検隊』(テレビ朝日) 普段の生活ではあえて気にすることのないことを、あえて気にしてその原点が何かを探る番組だった。お風呂の原点がギリシャだというのは映画「テルマエロマエ」で見たが、なぜお風呂が必要だったのかが、病気を治すためだというのは知らなかった。お風呂の他に、眼鏡のルーツや行った国でルーツを見つけるというのもあって、雑学をたくさん知ることができた。説明に再現ドラマやアニメがあって面白かった。(富山・中学2年・男子)

    • 『すイエんサー』(NHKEテレ) 普段は気にもとめない身近な疑問の解決方法を知ることができます。遠回りをしつつ全力で解決していく姿が見ていて楽しく、疑問の解決方法を知ることはもちろん解決していく「すイエんサーガールズ」たちの努力していく過程が見どころだと思いました。(愛知・高校2年・女子)

◇中高生モニター会議について◇

7月に開催予定の中高生モニター会議について、内容などを確認しました。

調査研究について

「青少年のメディア利用に関する調査票」案が委員会に提出され、担当委員から説明がありました。調査票案は大筋で了承され、今後最終的な字句の修正などを加え、6月初旬までに文案を確定し、9月の調査実施に向けて諸手続きを進めることとなりました。

今後の予定について

  • 6月30日に開催する意見交換会(山陰地区)について、事務局が地元放送局と行った準備会議の結果を報告、テーマ等についての実施案が了承されました。