第139回 放送倫理検証委員会

第139回–2019年7月

関西テレビ『胸いっぱいサミット!』審議入り

第139回放送倫理検証委員会は7月12日に開催され、7月5日に当該放送局への通知と公表の記者会見を行った日本テレビの『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見について、出席した委員長代行や担当委員から当日の様子が報告された。
街頭取材で取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送し、前回の委員会で審議入りした読売テレビのローカルニュース『かんさい情報ネットten.』について、当該放送局など番組関係者に対するヒアリングが始まり、担当委員からその途中経過が報告された。
内容が番組か広告か曖昧であるとして審議中の長野放送のローカル番組『働き方改革から始まる未来』については、担当委員から示された意見書案について議論された。
出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』について、当該放送局から報告書と同録DVDの提出を受け討議を行った。その結果、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われず放送に至った経緯や放送後にお詫びに至るまでの経緯について、詳しく調査し検証する必要があるとして審議入りすることを決めた。
6月12日に放送されたTBSテレビのバラエティー番組『水曜日のダウンタウン』の企画「中継先にヤバめ素人が現れてもベテランリポーターなら華麗にさばける説」における「ヤバめ素人」の描かれ方について当該放送局から報告書と同録DVDの提出を受け討議を行った。その結果、当該企画は、民放連の放送基準に抵触している疑いがあるが、当該放送局は放送直後に視聴者から批判を受け、演出上の配慮や注意喚起が十分ではなかったと真摯に受け止めており、また、番組制作者にも差別に関する研修に参加するよう指導するなどの自主的・自律的な対応もとられているとして討議を終了することとした。
番組内で差別的表現があったことをお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』について、委員会は討議を継続していたが、当該放送局のその後の自主的・自律的な対応を踏まえて討議を終了した。

1. 日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見の通知・公表について

日本テレビ『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見(委員会決定第29号)について、当該放送局に対する通知と公表の記者会見が7月5日に行われた。2017年2月に放送された「タイのカリフラワー祭り」と2018年5月に放送された「ラオスの橋祭り」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、委員会は、この2つの「祭り企画」を対象に審議を続けていた。
委員会は、「祭り」が番組のために用意されたものであったのに制作スタッフがその過程を把握していなかったこと、また視聴者の「了解」の範囲を見誤りナレーションによって地元に根差した「祭り」に出演者が体当たりで挑戦していると思わせてしまったこと、さらに挑戦の舞台である「祭り」への制作スタッフの関心が薄くなっていく中で安易なナレーションを生んでしまった、と検証したうえで、程度は重いとは言えないものの放送倫理違反があったと言わざるをえないと判断した。
委員会では、委員会決定を伝えた日本テレビのニュースを視聴し、委員長代行や担当委員から、通知の際のやりとりや会見での質疑応答などが報告された。

2. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について審議

読売テレビは、5月10日夕方のローカルニュース『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別確認のために名前や住所、異性の恋人の有無を聞くなどしたうえ、本人の健康保険証の性別欄を撮影し、胸部に触るなどの執拗な確認行為をする模様を放送した。ロケのVTR終了後、レギュラー出演の男性コメンテーターが番組内容について、許し難い人権感覚の欠如であって報道番組としての感覚を疑うと厳しく叱責したが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。
その後読売テレビは、取材協力者や視聴者に謝罪するとともに、なぜ当該コーナーを取材し放送に至ったのかについて検証する番組を放送した。さらに社内に「検証・再発防止検討チーム」を設置して、人権に関する全社研修会の実施や映像チェック体制の強化を図るとともに、独自の検証結果を公表した。
委員会は、当該放送局の自主的・自律的な迅速な対応は評価できるものの、なぜ十分な議論や反対意見が出された形跡がないまま、この内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして、前回審議入りを決めた。7月上旬、担当委員が当該放送局や制作会社の担当者の一部に対してヒアリングを行い、その途中経過が報告された。次回委員会までに引き続きヒアリングを実施する予定である。

3.「内容が番組か広告か曖昧だ」とされた長野放送の『働き方改革から始まる未来』を審議

長野放送が3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』について、5月の委員会で、民放連放送基準に照らし番組で取り上げている特定企業の事業紹介が広告放送であるとの疑いが大きい内容になっているのではないか、考査が適正だったか検証する必要があるとして審議入りしている。委員会では前回に引き続き、担当委員から示された意見書案の内容について意見交換が行われた。次回も意見書案について議論を続ける予定である。

4. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議入り決定

4月6日と5月18日に放送された関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』で、コメンテーターとして出演した女性作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言し、民族差別や女性蔑視をあおる人権的配慮を欠いた放送であるとの批判的意見や、番組は生放送ではなく収録されたもので、編集作業で発言がカットされなかったことについての批判がBPOに多数寄せられた。
当該放送局の報告書によると、4月6日の番組内容について、制作や考査の責任者らが事前に発言を検討し、当該発言は「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」「配偶者が韓国人であり、頻繁に韓国を訪れ親近感を持っているコメンテーターならではの比喩表現であり、差別には当たらない」との判断を行った、5月18日についても、発言には差別的意図はないと判断し、放送したとしている。
放送後、関西テレビは、5月24日、「人種、民族、性別や自傷行為を繰り返す方々への差別的意図はない」という見解をまとめたものの、その後、6月18日に至り、「視聴者への配慮が足りず、心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送するという判断は誤りだった」とする謝罪コメントを発表、社長も記者会見で謝罪した。
委員会は、当該放送局から提出された報告書と当該番組のDVDを基に討議した結果、民放連の放送基準が、人種・性別などを表現する時に、なにげない表現が当事者にとって重大な侮蔑あるいは差別として受け取られることが少なくないなどとしていることに照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われず放送に至った経緯や放送後にお詫びに至るまでの経緯について、詳しく調査し検証する必要があるとして審議入りを決めた。今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行い、審議を進める予定である。

5. TBSテレビ『水曜日のダウンタウン』の「中継先にヤバめ素人が現れてもベテランリポーターなら華麗にさばける説」企画について討議

6月12日に放送されたTBSテレビのバラエティー番組『水曜日のダウンタウン』の企画「中継先にヤバめ素人が現れてもベテランリポーターなら華麗にさばける説」について、放送後BPOに「障害者をネタとし、健常な対応がとれない素人に(リポーターが)どう対応するかを笑う特集になっています」など批判的な意見が複数寄せられた。このため委員会は、当該放送局に番組の同録DVDと報告書の提出を求め、討議を行った。
TBSテレビの報告書によると、『水曜日のダウンタウン』で2018年10月3日にも「中継先に現れたヤバめ素人のさばき方で芸人の力量丸わかり説」という企画を放送し、その時と同じ俳優が「ヤバめ素人」を演じたという。また、昨年10月の放送後「障害者をイメージさせて不快である」という主旨の意見が2件寄せられていたため、今回の企画においては、視聴者にそのような意図にとられないよう検討した上で演出を行ったということであるが、TBSテレビには視聴者から「障害者を演じている設定に見えました」「障害者を笑うつもりですか」などと批判的な意見が寄せられ、身内に発達障害の方がいるという局員からも「障害がある者を身内に持つ身としては、辛い部分もあった」という指摘を受け、改めて社内で話し合ったという。
委員会では、当該企画は民放連の放送基準「(56)精神的・肉体的障害に触れる時は、同じ障害に悩む人々の感情に配慮しなければならない」で記されている配慮が足りなかったという意見が大勢を占め、上記の演出の工夫では改善されたとは思えないという意見も出されたが、昨年10月の放送への批判を受け、限定的ではあるが改善する努力をしていた点を考慮できるとの意見もあった。
その結果、障害がある方やその家族の視点を踏まえた演出上の配慮や注意喚起が十分ではなかったと真摯に受け止めており、また、番組制作者にも差別に関する研修に参加するよう指導したり、番組スタッフ全員で問題点を共有し、今回のような配慮が足りず不快感を与えるような演出については避けるなどの自主的・自律的な対応もとられているとして討議を終了することとした。

6. 高校中退芸人の差別的発言をお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』を討議

テレビ朝日は2月14日に放送したバラエティー番組『アメトーーク!』の中で出演者の女性芸人が自身の体験を語った際、自身が中途退学した高校の実名を挙げ、学校側が不良生徒対策をしているかのような発言をした。また司会者も、その方面に行かない方がいいという趣旨の差別的な表現をした。さらに、他の出演者の「道できれいな10円を12円で売っている」人がいたとの発言に、その様子をイメージするかのようなイラストを挿入するなどの内容を放送した。
当該放送局の報告書によると、3月に当該高校などから謝罪・訂正を求められ、番組担当者が関係者と面会して直接謝罪したという。そして当該高校などからは一連の対応に理解を示してもらったという。
委員会では、討議を継続してきたが、当事者間で話し合いの場を設けてお詫びをしており、当該放送局の自主的・自律的な取り組みを評価して、委員からの意見を議事概要に公表することにして討議を終了した。

【委員の主な意見】

  • 番組内容のチェックが甘く、差別や人権など社会問題に対する認識が見受けられない。制作者には教育と啓発が必要である。

  • 高校の実名を出す必要性が感じられない。

  • 放送倫理上の問題があるが、放送やホームページで訂正するなど、抗議を受けた後は自主的・自律的に対応している。

以上

第271回放送と人権等権利に関する委員会

第271回 – 2019年7月

審理要請案件「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」…など

議事の詳細

日時
2019年7月16日(火)午後4時00分~8時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、二関委員、廣田委員、水野委員

1. 審理案件「情報公開請求に基づく報道に対する申立て」

対象となったのは、秋田県内で放送された今年1月21日夜の『NHKニュースこまち845』。情報公開請求などによって明らかになった過去5年間の県内の国公立大学における教員のハラスメントによる処分に関するニュースを伝えた中で、匿名で、ある男性教員に対してハラスメントが認められ、「訓告の処分を受けた」と報じた。この放送に対して男性教員が、氏名は公表されていないが、関係者には自分だと判断される内容であり、「不正確な情報を、あたかも実際に起きたかのように間違って報道された」と主張し、「大学で正常に勤務できない状況が作られた」として、NHKに謝罪を求め、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
委員会は、第269回委員会において運営規則の要件を満たしているとして審理入りを決定した。今委員会では、放送によって人物の特定が可能であったかどうか等、論点やヒアリングにおける質問項目を絞り込み、次回委員会で、申立人、被申立人双方に対してヒアリングを行うことを決めた

2. 審理要請案件「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」

テレビ東京は、2018年5月16日午後の『ゆうがたサテライト』ニュースで「オウム真理教事件の死刑囚らの刑執行の可能性が高まる中、オウム真理教はアレフと名前を変えて存続している」として、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」を特集した。その中で、アレフの札幌道場前での申立人と取材記者とのやり取りを紹介した際、申立人の顔にボカシをかけたが、音声の一部が加工されないまま放送された。
これについて申立人は、再三撮影をしないよう訴えたにもかかわらず、無断で全国放送し肖像権を侵害したほか、申立人が特定できるなどプライバシーを侵害したと訴え、テレビ東京に謝罪と映像の消去などを求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してテレビ東京は、「音声が加工されずに出たのは、編集上の手違いで特定の意図はない」と説明するとともに、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象」として、「報道には公益性がある」と主張している。
委員会は、運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

3. その他

  • 申立て状況について事務局から報告。映像を視聴し意見を交換した。

  • 7月26日に予定される事例研究会の進行について報告した。

以上

2019年7月5日

日本テレビ
『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』
2つの「祭り企画」に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、7月5日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会から神田安積委員長、升味佐江子委員長代行、岸本葉子委員、中野剛委員、藤田真文委員の5人が出席し、日本テレビからは取締役執行役員(コンプライアンス担当)ら3人が出席した。
まず升味委員長代行が、「祭り」が番組のために用意されたものであったのに制作スタッフがその過程を把握していなかったこと、また視聴者の「了解」の範囲を見誤りナレーションによって地元に根差した「祭り」に出演者が体当たりしていると思わせてしまったこと、さらに挑戦の舞台である「祭り」への関心が薄くなっていく中で安易なナレーションを生んでしまった、という委員会の検証を解説し、程度は重いとは言えないものの放送倫理違反があったと言わざるをえないという判断になったことを説明した。
これに対して日本テレビは、「丁寧な審議に感謝している。今回の決定を真摯に受け止め、今後の番組制作にいかしていく。視聴者に自信を持って伝えられる体制を整えてから、ぜひ『祭り企画』を再開させたい」と述べた。
その後、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には、30社62人が出席した。
はじめに升味委員長代行が、意見書の内容を紹介して判断にいたった経緯を説明した。岸本委員は「どこまで視聴者に伝える必要があるのかという問いが現場から聞かれたが、それ以前に、制作過程を正確に把握していなかったことが問題だ。すべてを把握してはじめて、バラエティーが豊かな番組空間を作り出せる」と述べた。中野委員は「日曜日の夜8時にこの番組を見ている人たちは、番組のコアなファンだけでなく、多様な視聴者がいることを忘れてはならない。現地コーディネーターに頼りすぎるのでなく、コーディネーターとのコミュニケーションを密にしてほしい」と呼び掛けた。さらに藤田委員は、これまでに放送倫理検証委員会が出したバラエティーの意見書(決定第7号 2009年11月17日)について触れ、「番組のすみずみまで計算しつくしてはじめてバラエティーが成り立つ」という委員会の考えに変わりがないことを説明した。

記者との主な質疑応答は以下のとおり。

Q: 祭り企画は全部で111回放送しているが、2つ以外の「祭り企画」を審議の対象とはしなかったのか?
A: 審議に必要なものは視聴したが、この2件について掘り下げて審議することに意味があると考えた。(升味委員長代行)
   
Q: 現地コーディネーターは、制作スタッフの一員なのか?あるいは外部の存在なのか?
A: 独立した当事者。企画が通ってはじめて経済的にも対価を得ている。制作スタッフと現地コーディネーターとの関係は、放送局と制作会社との関係とは異なる。(中野委員)
   
  制作スタッフは、企画の提案を各方面に投げかけ、提案されたいくつもの企画の中から選んだものについてロケをしている。選ばれた企画の現地コーディネーターは、制作スタッフと一体ではなく、制作会社と契約関係にある独立した他者だ。ただし、制作スタッフがその企画を採用して番組にしているのだから企画内容には責任を伴い、ロケに入ってからは制作スタッフと現地コーディネーターのコミュニケーションが大切であるのに、今回はこのコミュニケーションが欠けていた。(藤田委員)
   
  日本テレビは問題が明るみに出た当初、現地コーディネーターを切り離して外の存在であるかのように言っていたが、その後、番組制作の大切な協力者だと訂正した。委員会のヒアリングの対象は普段は放送局と制作会社だが、今回は制作会社の協力者という立場で、コーディネーターにもヒアリングに応じてもらった。(岸本委員)
   
Q: 「やらせ」「でっちあげ」という指摘については、どういう議論があったのか?
A: これまでも、委員会では、「やらせ」「でっち上げ」を定義し、その番組がこれにあたるかあたらないかという判断の仕方はとっていない。今回の『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』についていえば、バラエティー番組であり、番組の素材として番組のために何か物を作る、何かを準備するということ自体が倫理違反であるとは考えていない。そこにある事実そのものを伝える報道番組やそのようなドキュメンタリーとは違う面があると考えている。(升味委員長代行)

以上

2019年7月16日

「宗教団体会員からの肖像権等に関する申立て」審理入り決定

BPO放送人権委員会は、7月16日の第271回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。

テレビ東京は、2018年5月16日午後の『ゆうがたサテライト』ニュース内で、「オウム真理教事件の死刑囚らの刑執行の可能性が高まる中、オウム真理教はアレフと名前を変えて存続している」として、「教祖を失う可能性に揺らぐ教団の実態」を特集し、その一部として最大規模の施設とされるアレフの札幌道場を取材し放送した。
放送では、テレビ東京の取材チームがアレフ道場前を取材中、申立人が「盗撮ですか」などと声をかけ、記者が「セミナーですか」と問い返す等のやり取りの場面が紹介された。この場面では、まず申立人の顔に白いボカシをかけ音声も加工されていたが、さらに続けて顔のボカシはそのままに音声は加工していない状態で「盗撮ですよ」と話す様子などが放送された。
これについて申立人は、再三撮影をしないよう訴えたにもかかわらず、無断で全国放送し肖像権を侵害したほか、加工されていない声が放送され申立人が特定できるなどとプライバシーの侵害を訴え、テレビ東京に謝罪と映像の消去などを求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してテレビ東京は、「音声が加工されずに出たのは、編集上の手違い」と説明し、「特定の意図はなく、不快な気持ちにさせたことは誠に遺憾だ」と述べる一方、「アレフは団体規制法に基づく観察処分の対象となっている」として、「報道には公益性がある」と主張している。

16日に開かれたBPO放送人権委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2019年7月12日

関西テレビの情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』審議入り

放送倫理検証委員会は7月12日の第139回委員会で、関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』で、コメンテーターの作家が、韓国人の気質について、「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言。民族差別や女性蔑視をあおる人権的配慮を欠いた放送であるとの批判的な意見がBPOに寄せられた。番組は生放送ではなく収録されたもので、編集でカットされなかったことについても批判が相次いだ。
委員会は、当該番組の制作の経緯を知る必要があるとして、当該放送局に対して報告書と同録DVDの提出を求めたうえで討議し、審議入りを決めた。
神田安積委員長は、民放連の放送基準が、人種や性別などによって取り扱いを差別しないとしていることを挙げ、「当該放送局がスタジオ収録を経て編集・放送、そしてお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要がある」と話している。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2019年5月21日

意見交換会(高知)の概要

◆概要◆

青少年委員会は、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能」を果たすための活動の一環として、各地で様々な形の意見交換会を開催しています。今回は、5月21日13時30分から17時まで、高知県の放送局とBPOとの相互理解を深め、番組向上に役立てることを目的に意見を交換しました。高知では、初めての開催でした。
BPOからは、榊原洋一青少年委員会委員長、緑川由香副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、菅原ますみ委員、中橋雄委員、吉永みち子委員と濱田純一BPO理事長が参加しました。放送局からは、NHK、高知放送、テレビ高知、高知さんさんテレビ、エフエム高知の各連絡責任者、編成、制作、報道番組担当者など19人が参加しました。

<BPOの活動について>

冒頭、濱田純一理事長が、「BPOの活動について」というテーマで講演をしました。そのポイントは、以下の通りです。

(濱田理事長)

  • BPOは、放送という市民にとって身近なメディアに関わる問題を、政府、権力の手によって解決するのではなく、自分たちの手で解決するところに大事なポイントがある。自分たちの手で解決しようとするプロセスを経る中で、放送に対する視聴者の理解が深められていく、あるいは、放送人の職業意識も鍛えられていくとよいと思う。
  • BPOは、放送局が第三者の支援を得て自律を確保するという仕組みである。BPOという第三者機関が放送人の自律を促していく、支えていく、そういう構造になっている。したがって、自律の主体はあくまで放送の現場の方々、放送人である。BPO自身が何か活動をすれば、それでおしまいということではなく、あくまで主体は放送人だという考え方である。
    どうやってこの自律がうまく機能するかということだが、さまざまな決定を委員会が出すだけでなく、その後の放送局からの3カ月報告、当該局研修、今日のような意見交換会、事例研究会、講師派遣、視聴者意見を局に伝える、などの多様な方法を通じて放送界の自律を促すという仕組みをとっている。
  • 意見を出す委員の思いは、その決定の結論だけを見て勝った負けたということを考えてほしくないということである。むしろ、ある問題が生じたときに、何を考えることが必要か、そのきっかけとなるメッセージを含んでいることを読み取ってほしい。その上で「自分の頭で考える」きっかけにしてほしい。
  • 今回、出席者から選挙報道における公平・公正についても触れてほしいという要望があったので、それについて少し話す。詳しくは、放送倫理検証委員会による判断をBPOのウェブサイトで読んでもらいたい。ポイントとしては、いくつかの案件については、選挙における公平・公正の確保の重要性について、放送に当たった側の認識不足、不注意があったのではないかと指摘しているが、他方でコンプライアンス至上主義、思考停止にならないようにとも述べている。放送のプロフェッショナルであることを自覚して、放送の使命を考えながら制作現場でしっかり議論してほしいと期待している。また、別の意見書では、特に選挙の際の公平・公正は、量的な公平性、形式的な公平性ではなく、質的な公平性、内容的・実質的な公平性を目指してほしいと指摘している。
  • 各委員会の考え方として、「べからず集」をつくって、マニュアル人間をつくることはしたくない。あくまで委員会で述べたことをきっかけに、しっかり考えていってもらいたいということである。自分の頭でしっかり考えて番組作りをすることが、ジャーナリズムの本質だと思う。

<未成年を取材する難しさと課題>

意見交換会第1部のテーマは、「未成年を取材する難しさと課題」でした。まず、日頃の取材活動で困っている課題、配慮していることなどについて出席者から次のような報告がありました。

(放送局)
「高知県は子どもの貧困という意味でも厳しい。そういう課題を解決するような、子ども食堂などいろいろな取り組みをしている。最近、小学校で、朝ご飯を子どもに作らせるという、校長先生の熱意で行われた朝食支援の取り組みを取材した。貧困家庭の子どもにご飯の作り方を覚えてほしいとか、ご飯を提供したいとか、学校のターゲットはしっかり決まっていたが、個別家庭を取材する際、学校から紹介してもらったが、本当の貧困家庭は厳しく、本当に取材できていることと放送に出せる内容が違ってしまった。その子どもに感動して取材したが、やはり子どもが特定されてしまうから、そのエピソードは話しづらく、奥歯に物が挟まったような言い方しかできなかった」

(放送局)
「荒れている中学校を校長先生が立て直しているのを取材したが、校長先生と現場の教頭先生の意見が全然違っていることもあった。校長先生は、多少荒れているところでも、これがありのままなのでどうぞ取材してくださいと、取材を許可されたが、校長先生が用事で外出し、教頭先生に変わったら、もう一切、ここで取材シャットアウトとされ、授業以外は取材しないでくださいとされた。教頭先生は、ちょっと荒れているような現場は見せたくないという思いだっただろうが、トップの見解によって正反対の対応をされ困ったこともあった」

これに対し、委員からは次のような意見が出されました。

(榊原委員長)
「貧困の問題とか、荒れている学校の問題など社会的に知ってもらうことは重要だ、という目的で取材されたと思うが、それを放送することによって、いろいろな批判が来たりするということで、オンエアを控えたこともあると思う。しかし、これをやってはいけないというのではなく、ある意味でファジーな部分については、勇気をもって出していただきたい。そこに寄せられた意見については検討すればよい。例えば、BPOにたくさん意見が寄せられた場合には、それに対して、どういう意図で作ったことであって、その批判が当たるか当たらないか判断することになるが、中立的な立場からサポートできることもあると思う。それがBPO青少年委員会の一つの役目である。子ども食堂は、貧困の子どもが行くところというイメージが強くなっているが、現実には違う。子どもに団らんの場を作ろうということで、貧困だけでなく、うちで食事ができない子どもがいるために、全国に子ども食堂という運動が広がっている。それを取材することは社会的に非常に意味がある。様々な批判もあると思うが、それに対しては、きっちりと子ども食堂は決して貧困の子どもだけを対象にしたものでないことを説明してほしい」

(吉永委員)
「取材をするべきと判断したテーマがあり、取材を進めたことによって知りえた真実があった時に、それがいろいろなところに配慮しなければならないということで、その真実を放送できないというのは、ものすごく厳しい現実だと思う。それは、テレビでは映像をつけなければならないから、どうしても難しくなる。映像が使えないということであきらめてしまうという部分があるのではないか。それを何か違う形でクリアすることはできないのか。さらに、ネット社会など、この時の流れの中で、かつてはできたけれども、今はできなくなったこともあるのではないか。また、いろいろなところで文句を言う層が膨れ上がっていることにより、現実的な判断として、これをやると後で面倒くさいことになるからやめておこうということはないのか。また放送局内で、現場と上層部とのやりとりにより、本来放送されるべき、取材で見えた真実が葬り去られることが、時代とともに増えているという印象を持っているのか知りたい」

これに対して、出席者からは次のような意見が出されました。

(放送局)
「小学校の朝食支援の取材では、キーとなる貧困家庭があった。取り組みとして、そのエピソードを伝えたかったが、校長先生も、これを言ったらどうしても特定されてしまうという思いがあり、十分に伝えきれず、残念な思いがあった。私は、映像で表現できないときの代替としては、できるだけインタビューで引き出すように工夫している。インタビューが多くなると見づらくなるとは思うが…」

(放送局)
「この春に廃校になる小学校があり、そこの子どもに生中継で出てもらったが、学校の中に一人だけ親御さんが許可しないで出られなかった子どもがいた。その子は先に帰ったが、そういうことが起こると、その子も多分傷ついているだろうと思うし、学校の中に変な空気が起こるのではないかと、心配になることもある」

これについて、委員からは次のような意見が出されました。

(菅原委員)
「学校現場も、報道に対してどうするかということを考えていく必要があると思う。教育委員会、学校、文科省と皆さんが交流して工夫していくことが必要だと感じた。原則はオプトアウト方式にならざるを得ないと思う。保護者の許可がいるので、うちは映さないでくださいという親がいたら、その子は映さないようにしなくてはいけないが、あらかじめわかっていれば、子どもたちを傷つけないように工夫ができるかもしれないので、学校の先生方にもこの問題は考えてほしい。また、子どもたちの立場からすると、テレビに出ることは傷つくだけではなく、すごく成長のチャンスになるし、うれしいことでもあるだろう。委縮し過ぎて、子どもたちの成長の場が失われているのは残念だと思う。それともう一つ、貧困や虐待の問題では、ケースが出てくると力がある。実際のケースが出てくることにより、社会的な関心が大きくなり、物事が進んでいくので、報道することを諦めないでほしい。どういう形ならケースを紹介できるのか、教育界ともメディア界とも話し合いながら、ゼロにならない工夫が必要だと思う。なかなか悩ましいところだが、子どもがテレビから姿がなくなるということは、ますます子どもにとって不利な状況になることは確かだと思う」

また、委員から次のような質問も出されました。

(榊原委員長)
「後半のテーマに関連するが、皆さんが作られた防災に関する番組のDVDを視聴させてもらったが、中学生や高校生が出ていた。今は、取材するときに、本人はもちろんだと思うが、学校や保護者の方の許可を全部取ってやるという時代になっているのか」

これに対して、参加者からは、次のような答えがありました。

(放送局)
「毎月1回のペースで、子どもたちの防災活動の番組を制作しているが、これまでトラブル等は、一回もない。防災というテーマだからこそなのかもしれないが、事前に映してはいけない生徒、児童の方いますかと学校側に問い合わせて、まず確認していただいて、ありませんということで、あとはフリーに取材している。こちらから直接、保護者に連絡したことは、一回もない。学校側に聞くと、年度が変わったときに、保護者にテレビの撮影等あった場合に、露出しても構わないか打診しているという。防災に関しては子どもたちの地道な活動を紹介してもらえるということで、学校側も積極的に協力してくれる。逆に制作するときに気をつけているのは、全員の子どもが映るようにということを意識している」

また、委員からは、次のような意見が出されました。

(吉永委員)
「やはり、不幸な事件、事故があったときにテレビクルーがどういうふうな形で子どもたちに話を聞くのか、というところで大きな問題になることがある。友だちが亡くなってしまったような事件・事故では、取材に応じた子どもが後で学校でいじめにあったり、批判されたりという事例はあるのだろうか。事件・事故が起きたというだけで、子どもたちにとっては非日常である。そういうときに、自分が思っていることをちゃんと表現できない子どもが多いと思う。おそらく、子どもはその対応をしてしまったことが、あとで自分の中で何であんなことを言っちゃたんだろうと考える子もいるのではないか。そのことに関して、あとで何か問題が浮上したか、クレームが来たか、テレビ局が後で何か問題はありませんでしたかというようなフォローがあるのかないのか、そこが子どもを持つ親の立場からすると気になるところである。視聴者がテレビ局の取材に対して距離感を生む一番大きな原因はそこにあるのではないか。最初から、『メディアの取材お断り』みたいな張り紙を出されるのは、いい関係ではないので、もし、その辺の実感があったら教えてもらいたい」

これについて、出席者からは、次のような発言がありました。

(放送局)
「去年、高知ではプールで溺れて意識不明になったり、通学路で交通事故に遭い亡くなったりという事例があり取材したが、やはり、学校の壁は非常に厚く、保護者が許可しないので学校は撮らないでほしい、普通の登校風景も撮らないでほしい、さらに事故に絡めて報道するのはやめてほしいと、かなり簡単な映像取材でもつまずいてしまった。映像がないと何も言えないところも、一般視聴者から見ると、なぜそんなところを撮るのということで、事件・事故があると何も撮れないことがある」

(放送局)
「事件・事故の際、全国ニュースでは顔を切って、声を変えて同級生に話を聞くという映像を見ることがあるが、高知のローカルでは、よほどの事案でなければ、同級生や未成年にマイクを向けることは控えるようにしている。学校内で傷害事件、暴行事件が多かった時期があり、生徒が先生に暴力をふるったという事件の取材をする際、その生徒の人となりを聞くのではなく、学校としてどう対応していくかを取材したくて、教育委員会に学校名を聞くのだが、学校が特定できないような撮り方をするということで、10年ほど前は、教育委員会の方も趣旨を理解してくれたが、ここ数年は、もう一貫、全部NGというケースが増えている」

これについて委員からは、次のような発言がありました。

(榊原委員長)
「未成年であるからということによって、放送、テレビに子どもの生の声が表に出ない形になっていると感じる。結果的に、なにか子どもの意見をスクリーニングされた意見しか国民に知らされない。災害などの取材で、子どもとしてそういうことを感じると発言したという意味もあると思うが、その子に聞くのは酷だという意見が来る。保護者、学校の許可ということを考えていくと、放送にだんだん子ども自身の生の声が出せなくなってくるという事態があると感じた」

(中橋委員)
「テレビの制作現場にいる人は、すごくメディアリテラシーが高いが、一般的に取材を受ける側はそれほど高くはない。そのギャップをいかに埋めていくかが大事である。そのためには信頼関係を作ることが重要である。これは何のための取材なのかということをしっかりとコミュニケーションをとって理解してもらうことが重要だと思う。先ほどの校長先生はオーケーで、教頭先生はだめというのは、教頭先生はよく趣旨を理解していなくて、できるだけやめてほしい、安全なところで切り抜けたいというところがあったと思う。そこもやはりコミュニケーションを深めていって、この取材が社会に出なかったとしたら、社会は悪くなっていきますよということを理解してもらうことが必要だと思う。取材を受ける側がもう少し理解を深めていくには、日常的にコミュニケーションをとって、メディアはなぜ存在しているのか、この取材は何のためにやるのかということを一緒に考えていける場が必要だと思う」

<防災番組への取り組みについて>

第2部のテーマは、主に南海トラフ地震を見据えた「防災番組」の取り組みについてでした。事前に、各局が制作した以下の番組を参加者が視聴・聴取したうえで意見交換しました。

  • NHK高知
    • ・『四国らしんばん 南海トラフ巨大地震から命を守る~平成の記憶を新時代へ~』(2019年3月8日放送)
    • ・『西日本豪雨の教訓』(2018年9月5日放送)
    • ・『防災いちばん』(ビデオクリップ)
  • 高知放送
    • ・『eye+スーパー 学ぼうさい~黒磯町佐賀中学校の取り組み~』(2017年7月26日放送)
    • ・ RKCラジオ『地震防災メモ』
  • テレビ高知
    • ・『この海と生きる~世界津波の日 高校生サミット~』(2016年12月24日放送)
  • エフエム高知
    • ・『高知県防災力向上委員会 広がれ!防災の輪』

まず、委員から番組を視聴した感想を聞きました。

(稲増委員)
「全国放送ということで考えると、例えば関東大震災があった日とか、何か特別なときに関連する番組を一斉に大々的に放送するが、あとはほったらかしというのが今の状況ではないかと思う。本当に徹底的に、特に『学ぼうさい』というコーナーを毎月放送するのは、信じられないほどである。ネタは枯渇するだろうし、視聴率的にも苦戦するだろうと思う。しかし、あのコーナーをやり続けることはすごく意味のあることだと思う。高齢者の方が中学生に避難タワーに案内してもらい、感激しているところは、制作している側からすると別にどうということのない日常の風景だと思うが、我々の立場から見ると、これを継続的に放送し続けているのは、ものすごい努力だと思う」

(大平委員)
「同じことをずっとやっているとマンネリになって、話がつまらなくなると思うが、『世界津波の日 高校生サミット』の番組は、女子高校生2人を取り上げているようで、実は防災もやっているような感じで長続きするにはとてもいいのではないかと思った。終戦のこともだんだん風化して、ニュースがなくなっているが、なにかドキュメンタリーやドラマの背景に終戦、あるいは戦争の悲惨さがあるということを繰り返しやっているというのが、長続きできる理由ではないだろうか」

(菅原委員)
「大変勉強になった。とても中学生が頼もしく見えた。発達心理学の領域では、思春期の子どもたちは、こういう大きなイベントがあったときに、社会から頼りにされると、すごく伸びるという有名な研究結果がある。そういう意味であの子どもたちの将来が楽しみだと思った。一つのアイデアだが、今、AIを使った補助具なども発達しているので、未来的なAIを使った防災のあり方も特集されるといいなと思った」

(緑川副委員長)
「私が住んでいる地域は、東日本大震災の時に液状化して報道もされた。数カ月は非常に大変な状態を経験し、マンションで防災委員会が立ち上がるなどの取り組みをしているが、活動の広がりにつながらない面がある。時間が経過するにつれて、興味が薄れてくると思っていた。今回、皆さんが作った番組で、地域の小学生、中学生、高校生がこういう取り組みをされていることは、周りの大人たちも問題意識を持ち続けているからだと思う。それを地域のテレビ局、ラジオ局が取り上げることで、さらに地域全体の認知につながるという点で、大変良い取り組みだと思った」

(榊原委員長)
「一つは、子どもたちが主体的に、防災にかかわることをする意味である。南海トラフ地震は今すぐ起こるかもしれないし、何十年先かもしれない。その場合、次の世代に経験を伝えていくことが非常に重要だと思う。逆説的だが、マンネリズムと言われるくらいの方がむしろ何度も耳に残り、身に付くだろう。もう一つは、ラジオ番組という点である。テレビと違って、耳で聞くと言葉は残る。テレビは、映像があるため、言ったことは案外聞いてなくて、映像を見てしまう。ラジオでの、地震が来たときに、大事なことはこれとこれとこれ。津波で避難するときは、絶対に戻らないとか、私の耳に残っている。あれを何度も繰り返すことで、地域に住んでいる人に、そうだ、戻っちゃいけないんだという形が残る。そこにこのラジオ放送の意味があると思う」

(中橋委員)
「私も、当たり前のように継続されていることが素晴らしいと思った。マンネリになってしまうところを、いかにいろいろな取材対象を変え、テーマの切り口を変えて番組を生み出していくかが興味深いところだと思った。ラジオ番組については、普段、ラジオを聴いているとなかなか子どもの声は出て来ないが、急に、すごく小さな子どもの声が標語を言ってくれると、耳に響くし、記憶に残る。そこが秀逸だと思った。また、ちょっと驚いたのは、防災士が語るというコンセプトがおもしろいということだ。言葉だけが耳に入ってくることで、頭の中で、言葉で理解して、言葉で記憶しておく。それが、いざというときに行動につながっていく。これまであまり、ラジオの防災番組は聞いたことがなかったが、今回初めて聞いて、なるほど意味のあることだなと感じた」

(吉永委員)
「やはり、南海トラフ地震で34メートルの津波が来るという、具体的な数字とイメージが、防災の意識、防災の行動を充実させているという気がする。番組の中で、中学生が高齢者の手を取って避難の誘導をしていたが、ああいう姿はなかなか実現できないものかもしれない。しかし、中学生がおれたちが頼りなんだという意識を持つ、小さいうちから地域を自分で守るということは、災害という大きなものに備えるということで、ものすごい教育、人間の力をつけているなという印象を持った。やはり、これだけの放送があるということは、高知の人の防災意識は相当高いと思った」

委員の感想に対し、出席者からは次のような意見が出されました。

(放送局)
「弊社には現在、20人の防災士がいる。石を投げれば防災士に当たるくらいに、アナウンサーもどんどん資格を取るように、毎年、試験にチャレンジしている。ラジオで月曜から金曜日毎日放送していて、ネタ切れにならないかという指摘もあるが、マンネリを恐れないことにしている。いわば、素人のおじさんが防災士の資格を取って、『一番大事なのは一旦逃げたら戻らないことです』と話すと切実に聞こえる、という効果もあるかもしれない。私たち社員にしても、こうしてラジオで啓発してしゃべることは、自分のスキルを磨くことにもつながるので、これは続けていきたい。発災のときのラジオの力を私たちも訓練していて、重要なことは重々承知しているが、まずは、防災の部分に力を入れて、発災のときにどう動けるか、被害を受けてしまった場合には、皆さんの癒しの力、メッセージや音楽を届けながら復興の力にならなければいけない。ラジオの役割をそう感じている」

(放送局)
「『学ぼうさい』というコーナーは今、4年目になる。それまで普段のニュース番組の中では、大きなニュースバリューのある防災活動でないと紹介できなかったが、そこまでいかなくても、地道に日常的にやっているものを紹介できないか、と思ったことがきっかけであった。そして、やりたかったのは、大人の防災活動ではなく、子どもたちの防災活動だった。大人たちが一生懸命防災活動をしていると、この人たちは特別ではないか、自分とは違うと見てしまいがちだが、子どもたちだったら、頑張っているねという視点で見てもらえると思ったからだ。やってみて感じるのは、子どもたちが災害、防災とすごく真摯に、前向きに向き合っていることだ。取材では、打ち合わせはほとんどないが、こちらが想像以上に真剣に地域を守るんだということを、大人から言われた言葉ではなく、自分の言葉でしゃべってくれていることを感じ、自分の小学生の時と全然違うことを痛感し、頼もしく思っている」

(放送局)
「やはり、継続してやる、シリーズでやることは、すごく意味があると思う。防災ということが特別なものであってはいけない、日常の中になければならないと思う。
拝見した『学ぼうさい』の中で、印象的だったのは、おばあさんが避難タワーに到達したときに、『あっ、私も生きられるんや』という一言はすごく大きいなと感じた。高知の沿岸部に住んでいるお年寄りは、『もう地震が来たら死ぬだけや』と諦めている人が多いが、そういった人たちの意識を変えられる子どもたちの力はすごく大きいと感じた」

次にコンテンツの維持など、防災番組を継続可能なものにするための秘訣について参加者に聞きました。

(放送局)
「何とかここまでたどりついたというのが正直なところで、これから先、どうなるかは本当にやってみないとわからない。避難訓練などはメニュー的には同じものになってしまうが、救われるのは、子どもたちが変わると、違う子どもたちが頑張っている映像になるので、ある程度見てもらえるのではないか。防災と同時に、頑張っている子どもというのもテーマとしてやっているので、バランスを取りながら、苦慮しつつ続けていきたい」

(放送局)
「ネタの枯渇という点では、私たちのラジオ番組は、昨年10月にスタートしたが、秋口は小学校の防災の取り組み、防災フェアなどが多く、順調に進んでいたが、ここへきてネタに苦労している。また、ラジオは発災の際に力を発揮しなくて何のメディアだと考えている。しかし、ローカル局で非常に人数が少ない中、どうやって情報をつかんでいくか、人を動かしていくかということで、他の放送局に、局の垣根を越えて我々の動きが足りない部分を助けてくださいという相談をして、いざというときに情報をいただく態勢をとっている」

<放送関係者のための『発達障害』基礎知識>

出席者の中から、「発達障害についての番組を制作したことがあり、ある程度、分かったつもりだが、いろいろな事件報道の際など、メディアでの扱いについて疑問に思うこともある。改めて、取材の際にどんなことを気をつければいいのか知りたい」というリクエストが出され、小児科医であり、発達障害が専門の榊原洋一委員長が発達障害の基礎知識について説明しました。そのポイントは、以下の通りです。

(榊原委員長)

  • *言葉として発達障害とよく使われるが、一番多い誤解は、発達障害があたかも一つの障害名、診断名のように扱われていることである。発達障害は複数の障害を含んだ総称である。
  • *発達障害の理解が困難な理由は、発達障害の診断について、はっきりした症状や検査所見があるわけではなく、行動の特徴から判断するしかないことがあげられる。
  • *発達障害を構成する障害は、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム、学習障害であるが、この3つの特徴は、皆違う。
  • *発達障害は生まれつきのものであり、成育環境、育てられ方、何かつらい思いをしたトラウマなどからなるものではない。
  • *発達障害の3つの障害は、併存が多い。一人の中で2つ、ときには3つともの症状がある場合がある。
  • *家庭、地域、学校といった集団場面での困難が顕著になる。つまり、どこでもその行動の特徴が見られるために、社会的な大きな課題となる。
  • *発達障害の啓発番組を作る場合、発達障害という一つの言葉で説明しようとすると無理があると思う。ある番組の中で、「発達障害のときはこういう特徴があって、こういう対応をしたらいい」と言っていたが、それは困る。やはり、その3つが合併している人がいるとは言いながら、注意欠陥多動性障害の場合、自閉症スペクトラムの場合、あるいは学習障害の場合と、分けて啓発してほしい。

この後、事務局から、最近、事件報道などでの発達障害の扱いについてBPOに寄せられた視聴者意見も紹介されましたが、これらを受けて、榊原委員長より次のような発言がありました。

「犯罪を犯す人の大部分は、発達障害ではないことを、覚えておいてほしい。犯罪を犯す人の中に発達障害の可能性が特に高いというデータはない。
例えば、殺人を犯すということは、確かに常軌を逸しているが、その人が発達障害のない、精神的に普通の人が犯罪を犯していることは考えなくてはいけない。殺人を犯した理由が、小さい時からいじめられたことが、そういうことにつながったのかもしれない、何か職場で嫌なことがあったためかもしれないなど、いろいろあると思うが、そのような心理的な働きは、発達障害とは関係ない、ということを頭に入れてほしい。したがって、こういう犯罪などで発達障害の言葉を使うのは、やはり避けたほうがいいと思う。その因果関係を確証するのは、本当に難しい。発達障害というと何かそれで説明できてしまうんじゃないかという心理が、報道する人の中にはあるのではないだろうか」

以上のような、活発な議論が行われ、3時間半にわたる意見交換会は終了しました。

以上

第215回 放送と青少年に関する委員会

第215回-2019年6月

視聴者からの意見について…など

2019年6月25日、第215回青少年委員会をBPO第1会議室で開催し、6人の委員が出席しました。(1人の委員は所用のため欠席)
委員会ではまず、5月16日から6月15日までに寄せられた視聴者意見について意見を交わしました。
深夜のバラエティー番組で、10人の女性タレントが山奥でサバイバル生活をする企画で、一人が皆から無視されたり、陰口を言うシーンについて、「子どもも見るテレビで娯楽としていじめが行われるのは許せない」などの意見が寄せられた。これに対し、委員からは、「この番組を見たら、いじめはこんなに格好が悪いとか、いじめている側に否定的な感情を起こさせる作りだった」などの意見が出されました。
6月の中高生モニターのリポートのテーマは「最近見たドラマについて」でした。29人から報告がありました。
男性カップルの日々の食卓を描いたドラマについて、「ドラマでゲイやLGBTQのことについて放送するのは大切なことだと思いました。私もこのドラマで普通の生活をしている2人を見て自分と同じだと思い、身近に感じました。2人が2人を思いやる愛は他のカップルと何も変わらない。それを見たらたくさんの人がLGBTQの方々との壁をなくせるようになると思う」、大学病院を舞台に医学界の腐敗を追及したスペシャルドラマについて、「ほとんどの人が自己顕示欲と権力への憧れを心のどこかに抱えており、一度その欲を満たしてしまうとそれで満足ではなく、むしろよりもっとほしくなってしまうのではないか、そして弱い立場の人はその最大の被害者ではないでしょうか。このドラマは、忖度がはびこる現代社会の縮図であるとも思いました」、朝の連続ドラマについて、「まだ昔を残している時期の東京が、セットで緻密に表現されていてよかった。特に、主人公が住んでいるおでん屋は雰囲気が出ていると思う。戦争についての場面は、すべて実写もしくは再現映像だと思っていた。しかし、空襲の場面などが一部アニメになっていることは斬新だと感じた」などの意見が寄せられました。委員会では、これらの意見について議論しました。
次回は7月23日に定例委員会を開催します。

議事の詳細

日時
2019年6月25日(火) 午後4時30分~午後6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
視聴者からの意見について
中高生モニター報告について
調査研究について
今後の予定について
出席者
榊原洋一委員長、緑川由香副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、中橋雄委員、吉永みち子委員

視聴者からの意見について

深夜バラエティー番組で、女性10人が山奥で10日間のサバイバル生活を送る企画で、一人を皆が無視したり、陰口を言うシーンについて、「いじめをするひどい内容で子どもが真似をする」「子どもも見るテレビで娯楽としていじめが行われるのは許せない」といった意見が寄せられました。
これに対し委員からは、「見ていて、いい気持ちがしない番組だったが、この番組を見たら、いじめはこんなに格好が悪いとか、いじめている側に対して否定的な感情を起こさせるような番組の作りではないか」「逆にいじめはだめだとか、いじめをしている人間ってだめだと感じた」との意見が出されました。
川崎市で起きた通り魔殺傷事件の報道について、「加害者の血まみれの映像が薄いモザイクで流れ、気分が悪くなった」「保護者や子どもにインタビューするのはおかしい。ショックを受けていることは映像で流さなくても皆分かっている」「被害児童やその家族など傷ついた人にインタビューを試みたり、血だまりの現場を何度も映すなど配慮がない」「上空からの映像で被害者が運ばれる映像が流れたが、被害者や救助をしている人への配慮が全くない」などと言った意見が寄せられました。
これに対し委員からは、「取材しないわけにはいかない理由が、きちんと視聴者に伝わってないのではないか。視聴者とのコミュニケーションをインターネットなどを使って取れる時代だと思うので、そういう情報発信をしていく必要があるのでは」「犯人が倒れている映像が薄いモザイクで、相当の血が出ているというようなものが放送されていた。あれは犯人だったからできたのか。もしそれが被害者であったならば、あの映像を出しただろうかという疑問はあった」「空撮のヘリコプターが多数飛び過ぎていたような気はする。視聴者との関係性ということで言えば、こういう事件のときに本当に必要なのかと感じた」との意見が出されました。
これらの件に関しては、これ以上話し合う必要ない、となりました。

中高生モニター報告について

34人の中高生モニターにお願いした6月のテーマは、「最近見たドラマについて」でした。また「自由記述」と「青少年へのおすすめ番組について」の欄も設けました。全部で29人から報告がありました。
「ドラマについて」では、複数のモニターが意見を寄せたドラマが5番組あり、と『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ)、『インハンド』(TBSテレビ)にそれぞれ3人、『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日)と『ラジエーションハウス』(フジテレビ)、『きのう何食べた?』(テレビ東京)にそれぞれ2人から報告がありました。上記の『俺のスカート、どこ行った?』と『きのう何食べた?』の他、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK総合)を報告したモニターも1人おり、性的マイノリティーが登場するドラマへのリポートが6人から寄せられています。
「自由記述」では、「映画やドラマに影響を受けたとされる事件が起こることがあるが、だからといって内容が過激なドラマをなくしたり批判したりすることは間違っていると思う。その作品は誰かの娯楽として存在している可能性があるからだ」と意見を述べるモニターがいました。また、子どもが被害者となった事件の際に、学校側が児童・生徒への取材・撮影を控えるよう要請しているにも関わらず、その後も学校周辺での取材を続けるマスコミへの不快感を訴える意見も寄せられています。
「青少年へのおすすめ番組」では、『100分de名著 アルプスの少女ハイジ』(NHK Eテレ)を4人が、『ドキュメンタリードラマスペシャル reset~あの日、人生を変えた~』(NHK BS1)を3人が、『衝撃のアノ人に会ってみた!』(日本テレビ)を2人が取り上げています。

◆委員の感想◆

  • 【最近見たドラマについて】

    • 『ラジエーションハウス』(フジテレビ)について書いてくれたモニターは、将来外科医師になりたいという。やはり子どもたちは、自分の将来のこと、進学のことなどを常に考えているので、ドラマでも、そういうことにつながるテーマだと、入りやすいだろうと思った。

    • 『白衣の戦士!』(日本テレビ)について、ふだん接することが少ないナースの人がどういう生活を送り、どういうことを考えているか、ドラマを通じて見ることができたのが楽しかった、と書いているが、やはりある切り口があること、企画が斬新であることが評価されているのではないか。

    • 『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ)は、主人公の俳優の演技が強烈だったと思う。このテーマはうまくいくのかいかないのかと思っていたが、「すごく感動した」というリポートを見ると、子どもたちはそれぞれの見方をしながら、何かを受けってくれたのだろう。

    • 『俺のスカート、どこ行った?』(日本テレビ)は、タイトルがうまい。このタイトルに惹かれて、みんな見たくなるのではないか。

    • 『あなたの番です』(日本テレビ)について、殺人の仕方が面白い、と書いてきたモニターがいたが、これは、割と正しいというか、オーソドックスな感想だと思う。ドラマに限らず、小説でも、残忍なものを読むと、人間はモヤモヤしてもスッとするところがある。最近、そういうものを表にしてはいけないという傾向があるが、ごく少数の割合でそれに誘発される人がいるかもしれないが、それを全部なくしてしまうことは、かえって危ないのかもしれない。

◆モニターからの報告◆

  • 【最近見たドラマについて】

    • 『インハンド』(TBSテレビ)について、今まで病院の先生や警察のドラマは数多く制作されてきましたが、内閣官房や寄生虫学者にスポットをあてて制作しているのは面白いと思った。人気俳優が出演しているため、私たち中高生の関心も高く、影響を与えないように寄生虫をかわいいイラストで表現するなど配慮があって素晴らしいドラマだと思いました。(北海道・中学2年・女子)

    • 『きのう、何食べた?』(テレビ東京)について、改めてゲイの方やLGBTQの方について考えるきっかけになりました。私はもともと尊敬している人がゲイの方だったり、割と早いうちからいろんな人に興味があったので、LGBTQの方々についての本も読んでいました。それにこのドラマの影響もあって、私はLGBTQの方は身近な存在に感じています。ゲイの方について話していたとき、一人のクラスメイトが当たり前のように「先生や公務員になるのは無理やな。更衣のこともあるし」と言いました。まさかクラスメイトがそんな風に思っているとは知らなかったので、ショックでした。私はドラマでゲイやLGBTQのことについて放送するのは大切なことだと思いました。私もこのドラマで普通の生活をしている2人を見て自分と同じだと思い、身近に感じました。誰かを愛するということについても同じです。2人が2人を思いやる愛は他のカップルと何も変わらないです。それを見たらたくさんの人がLGBTQの方々との壁をなくせるようになると思います。(兵庫・中学3年・女子)

    • 『白い巨塔』(テレビ朝日)について、自分を失うほど権力を求め翻弄された一人の天才外科医。このドラマは財前という男が頂点からどん底に落ちていく模様を描いています。初めは皆、誰かを助けたいという純粋な思いで職に就いたはずです。それなのに、いつしかその心を忘れ自分の利益を何よりも優先させるようになってしまったのはなぜでしょうか。何が彼らを変えてしまったのでしょうか。それを解くキーワードは「権力」であると私は考えます。ほとんどの人が自己顕示欲と権力への憧れを心のどこかに抱えており、一度その欲を満たしてしまうとそれで満足ではなく、むしろよりもっとほしくなってしまうのではないか、そして弱い立場の人はその最大の被害者ではないでしょうか。このドラマは、忖度がはびこる現代社会の縮図であるとも思いました。(東京・高校1年・女子)

    • 『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ)について、ドラマの中で印象的だったのは、ただ家を売るだけでなく、現代の問題、例えば老人の居場所がどんどんなくなっているところや、心が自分の性別とは違う人の話や同性愛などのLGBTの人たちの話が出てきていた。その人たちへのぴったりの家を探すためにその現代の問題にどう接していくかが描かれていてとても架空の話とは思えない、現実味のあったドラマだった。また、主演が北川景子さんということもあり、とても演技が上手く恋の要素や笑える要素も含まれていてまさに笑いあり、涙ありという言葉がふさわしいドラマだったと思う。こういうドラマが増えれば、現代人が目を向けなければならない問題、つまり今の若者たちがあまり関心のない問題もたくさんの人が考えることができるんじゃないかなと思った。(大阪・高校1年・女子)

    • 『連続テレビ小説 なつぞら』(NHK総合)について、東京編では、まだ昔を残している時期の東京が、セットで緻密に表現されていてよかった。特に、主人公が住んでいるおでん屋は雰囲気が出ていると思う。
      戦争についての場面は、すべて実写もしくは再現映像だと思っていた。しかし、空襲の場面などが一部アニメになっていることは斬新だと感じた。戦争を題材にしたアニメ作品は多いが、ドラマの場合はそうでもないと思う。確かに、当時の白黒でやや不鮮明な映像を見るよりも想像しやすい点がよかったと感じた。(東京・高校1年・男子)

    • 『あなたの番です』(日本テレビ)について、「毎回人が死にます」のキャッチコピーに寄せられて見始めました。人間の心の移り変わりももちろん見どころの一つだと思いますが、それよりも私は「殺人の仕方」に重点を置いて見ています。小説では比較的「トリック」を重点にしたものが多いのですが、推理ドラマではあまり見ることがありません。しかし、この番組では、不思議な形で見つかった遺体などがあったので、面白かったです。(島根・高校1年・女子)

    • 『3年A組~今から皆さんは人質です~』(南海放送/日本テレビ)について、毎回予想もしない方向に物事が進んでいき、主人公がヒーローにも悪者にも見え、そのことが視聴者をこのドラマにひきつけたのだと思います。高校生という大人に近いけれどまだ子どもであるときに、このドラマに出会えたことで今後の人とのコミュニケーションに多大な影響を与えてくれたと思っています。自分に正直であること、自分の言動に責任を持つことの大切さを改めて感じました。また、見ている側にも俳優さんたちの熱意がひしひしと伝わってきて、毎回、涙なしに見ることができませんでした。(愛媛・高校2年・女子)

  • 【自由記述】

    • 映画やドラマに影響された事件が起こることがある。だからといって、内容の過激な映画やドラマをなくしたり、批評したりすることは間違っていると思う。その作品は誰かの娯楽として存在している可能性があると思ったからだ。(群馬・高校1年・女子)

    • ニュースのスポーツ特集が気になります。スポーツの国際試合などで、日本が勝った時は勝ったことを大々的に放送しています。しかし、負けてしまったときは、「日本チームの勝敗は…?」のように放送してCMの後に結果を言う場合が多いです。これらは、できるだけ多くの人に放送を視聴してほしいがためのやり方なのだろうと思っています。ですが、僕はこの方法には何か違和感があり、もう少しよい報道の仕方がありそうな気がします。(東京・高校1年・男子)

    • 川崎通り魔殺傷事件について、事件があった当日、学校側が「生徒などへの取材、撮影はお控えください」ということを言ったはずでしたが、事件数日後までマスコミの皆さんが校門付近で撮影を続けており、とても不快でした。(神奈川・高校1年・女子)

  • 【青少年へのおすすめ番組】

    • 『衝撃のアノ人に会ってみた!』(日本テレビ)について、この番組は「あの時のあの人、こんなふうになってるの?!」という見方もできるし、そのことを知らなくても「こんなことがあって話題になっていたんだなぁ」という見方もできるなと思いました。またいろいろな生き方を学べるので希望になるかもなと思いました。
      この日は櫻井翔さんが出演、今まで取材してきたオリンピックの中で、衝撃を受けたアスリートを紹介していました。櫻井翔さんはアイドルとして、俳優として、また、キャスターとしても活躍していますが、オリンピックを6大会取材していると聞くと、改めて桜井さんってスゴイ!と感じました。(神奈川・高校1年・女子)

    • 『100分de名著 アルプスの少女ハイジ』(NHK Eテレ)について、現代文の授業のような読み解き方で、もともと知っていた作品でしたが、新たな面が見られたと思いました。今後とも視聴したいと思います。(神奈川・高校1年・女子)

    • 『ドキュメンタリードラマスペシャル reset~あの日、人生を変えた~』(NHK BS1)について、パラアスリートたちのスポーツとの出会いやどのように障害をもったのかなど、彼らの人生の「リセット=生まれ変わり」について知ることができました。障害の「壁」など存在させない彼らの生き方に感銘を受けました。(広島・高校2年・男子)

調査研究について

担当の中橋委員より、調査研究(青少年のメディアリテラシー育成に関する放送局の取り組みについて)の進捗状況について報告がありました。

今後の予定について

  • 山形県の放送局の方々と青少年委員会委員との意見交換会について、10月3日に開催することが決まりました。

以上

第29号

日本テレビ
『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』
2つの「祭り企画」に関する意見

2019年7月5日 放送局:日本テレビ

日本テレビの『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』で、2017年2月に放送された「タイ・カリフラワー祭り」と2018年5月に放送された「ラオス・橋祭り」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、委員会は、この2つの「祭り企画」を対象に審議を続けてきた。
委員会は(1)「祭り」は番組のために用意されたものであったが、制作スタッフはその過程を把握していなかった(2)視聴者の「了解」の範囲を見誤り、地元に根差した「祭り」への体当たり挑戦だとナレーションで思わせた(3)挑戦の舞台である「祭り」そのものへの関心が希薄化したため安易なナレーションを生んだ、と分析した。そして、制作過程の重要な部分を制作者側が把握していなかった点でその過程が適正に保たれておらず、現地にもともとある祭りに出演者が参加しているように視聴者を誘導した点で、多くの視聴者が番組に求める約束に反したものだったと言われても仕方がないとして、2つの「祭り企画」には、程度は重いとは言えないものの放送倫理違反があったと言わざるを得ないと判断した。
そのうえで、世の中の権威や無意味な制約を笑いとばし、差別や偏見のばかばかしさを暴き、新たな驚きや笑いを視聴者に届けるしなやかさや気概を持ち続けてほしいとバラエティー制作者に呼びかけた。

2019年7月5日 第29号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

  • I はじめにpdf
  • II 審議の対象とした番組pdf
    • 1 「ラオス・橋祭り」
    • 2 「タイ・カリフラワー祭り」
  • III 本件放送の制作過程と問題が指摘されたあとの日本テレビの対応pdf
    • 1 『イッテQ!』の制作体制
    • 2 「祭り企画」について
    • 3 「ラオス・橋祭り」の制作過程
    • 4 「タイ・カリフラワー祭り」の制作過程
    • 5 問題が指摘されたあとの日本テレビの対応
    • 6 その他の「祭り企画」109回の調査報告の検討
  • IV 委員会の検証pdf
    • 1 「祭り」は番組のために用意されたものであったが、制作スタッフはその過程を把握していなかった
    • 2 視聴者の「了解」の範囲を見誤り、ナレーションによって地元に根差した「祭り」への体当たり挑戦と思わせた
    • 3 挑戦の舞台である「祭り」そのものへの関心が希薄化し、安易なナレーションを生んだ
  • V 委員会の判断pdf
  • VI おわりにpdf

2019年7月5日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2019年7月5日午後1時30分からBPO第1会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。記者会見には、30社62人が出席した。
詳細はこちら。

2019年10月11日【委員会決定を受けての日本テレビの対応】

標記事案の委員会決定(2019年7月5日)を受けて、当該の日本テレビは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
10月11日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

日本テレビの対応

全文pdf

目 次

  • 1、委員会決定についての報道
  • 2、情報・制作局の取り組み
  • 3、BPO委員を招いて研修会を実施
  • 4、決定内容の社内周知について
  • 5、番組審議会への報告
  • 6、イッテQ 再発防止への取り組み
  • 7、総括

2019年6月に視聴者から寄せられた意見

2019年6月に視聴者から寄せられた意見

元事務次官の父親が息子を殺害する事件について報じた番組の報道のあり方への意見や、反社会的集団のパーティーに出席した芸人たちの出演番組に対する批判など。

2019年6月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,589件で、先月と比較して892件減少した。
意見のアクセス方法の割合は、メール78%、電話20%、FAX 1%、郵便 1%。
男女別は男性71%、女性28%、不明1%で、世代別では40歳代28%、30歳代24%、50歳代22%、20歳代12%、60歳以上12%、10歳代2%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該放送局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。6月の通知数は延べ876件【56局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、25件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

東京都練馬区で、元事務次官の父親が息子を殺害する事件が起きた。それを報じた番組の報道のあり方への意見が多く寄せられた。また、反社会的集団のパーティーに出席した芸人たちの出演番組に対する批判も多く寄せられた。
ラジオに関する意見は74件、CMについては17件あった。

青少年に関する意見

6月中に青少年委員会に寄せられた意見は61件で、前月から90件減少した。
今月は「表現・演出」が19件、「暴力・殺人・残虐」が10件、「その他」が9件、「低俗・モラル」が6件と続いた。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • 最近、総理のイラン訪問など、外国のメディアが報じる内容とは全く違う伝え方がされていて、政府を擁護しているとしか思えない報道が目立つ。政府のための報道ではなく、国民のための報道になるべきではないかと思う。

  • 東京都練馬区で、元事務次官の父親が息子を殺害する事件が起きた。川崎殺傷事件直後のせいか、被害者の息子が悪で、加害者の親が正義であり親の責任を果たしたかのような意見や絶賛する意見も見られる。「引きこもり=犯罪者予備軍」という報道や世論が、今回の悲劇を招いたのではないだろうか。今回の事件に限らず、ワイドショーで根掘り葉掘りして犯人像を作り上げていくのはよくない。犯人一人のせいで似た生活をしている人間まで、犯罪者予備軍のようにされてしまう恐れがある。

  • 放送倫理の観点から、反社会的集団のパーティーに出席した芸人が出演しているすべての番組に対して疑義を申し述べたい。反社会的勢力との交流は、いずれの業界においても厳重に禁止されている。ましてや特殊詐欺グループだ。高齢者やその家族を食い物にする卑劣な犯罪者集団。「知らなかった、ギャラはもらっていない」では済まされない。これは、放送のみならず、あらゆる倫理に反する行為で、謝って済まされる問題ではない。視聴者に対する明確な説明なしに、彼らを出演させ続けているテレビ・ラジオ番組においては、これらもまた、倫理にもとると言わざるを得ない。

【番組全般・その他】

  • 複数の芸人が、反社会的集団から金銭を受け取っていたため、テレビ出演を控えることになったが、大手芸能事務所に所属している彼らは、番組の降板や打ち切りをせずに、軽い処分となるのだろうか。男性グループのメンバーが、所属事務所を退所後、地上波の番組ではほとんど見ることがなくなった。元の事務所でなければテレビ出演さえできないのか。反社会的なことをしていないのに、各局から排除されているように思われる。一方、芸人たちは、番組は打ち切りにならず降板もされない。社会的に許されない問題よりも、事務所との関係性を重視しているテレビ局側の都合が見えて、納得がいかない。

  • 元事務次官が息子を殺害した事件についての報道は、加害者の父親を、まるで被害者のように認識させている。死人に口なしの状況で、加害者の話だけを真実のように報道するのは視点がおかしい。被害者は、事件の数日前に一人暮らしから加害者宅に戻ったという状況で、それを引きこもり扱いしているのも間違っている。加害者の犯行の計画性や、都合のいい言い訳をしていないかを検証するべきなのに、それらを行わず、引きこもりが事件の原因のように断定し、偏見を広めているのではないだろうか。

  • 昼の番組で、商店街の路上に置かれた看板やのぼりを道路交通法違反として、店主に改善を求める市民の話題を取り上げていた。番組側の取り上げ方が公平さを欠いている。一方的に商店側の主張を支持し、警告を出し続ける市民を悪者、異常者として批判している。物事は、すっきりと善・悪で決められることはほとんど無い。主張する立場や視線によって判断は分かれるはずだ。それを一方の視線からだけで放送することは不適切だ。また、番組出演者の中にも、市民側の意見に同意する人もいたはずで、その人がなぜ黙っていたのかも理解できなかった。

  • 新潟や山形で大きな地震があった。その際、東京キー局のアナウンサーが、自分の担当番組を他のアナウンサーに任せ、新潟へタクシーで急行したとの報道があった。そのタクシー代は17万円にも及ぶという。系列局が新潟にあるのだから、その局に任せる方法もあろう。災害に対する報道人としての使命感もあったのだろうが、はたしてこの高額なタクシー代は、視聴者や番組スポンサーの理解を得られるのだろうか。

  • 学問的な話題やうんちくの披露になると、だいたい「諸説あります」との注釈が出てくる。そんな不確かな情報をテレビで流しても、視聴者には何の役にも立たない。諸説の存在は、少なくとも1個以上紹介すれば証明が済む。もし諸説が紹介できないなら、「諸説あります」の表現自体が虚偽にもなりうる。番組の無責任さを回避しようとして、別の無責任を呼んでいる状態だ。

  • 元々、テレビ大好き人間だったが、最近、なぜかテレビが面白くない。どの番組が、どのジャンルがということではなく、とにかく見ていて楽しくなくなってしまった。残念でならない。抽象的で申し訳ないが、楽しい番組を作ってもらいたい。期待している。

青少年に関する意見

【「表現・演出」に関する意見】

  • 路線バスに乗って旅をするバラエティー番組において、出演者が競艇場に寄り舟券を購入していた。番組を面白くするための演出もあるのだろうが、多くの未成年が見るゴールデンタイムに賭け事を奨励するかのような番組を放送するのはいかがなものか。

【「報道・情報」に関する意見】

  • 幼児虐待事件は詳しく内容まで報道する必要はないと思う。タバコの押しつけや水を浴びさせるなど、そのような内容を聞くと悲しみと怒りで体の具合が悪くなる。ニュースは見たくても、そのような事件があるとニュースを見ることも避けなければならない。

【「要望・提言」】

  • 児童虐待殺人事件をニュースで報じると、それに近い状況の親はますます虐待発覚を恐れて、さらに隠ぺい方向へ進むと思う。報道の際に「子育てやその環境で悩む親御さんは〇〇へ相談して下さい」と呼びかけることはできないか。最初の一歩の行動を起こさせるような呼びかけがあればひどい状況の乳幼児を救えるのではないか。

【「その他」の意見】

  • ドキュメンタリー番組で、安楽死にいたるまでの一か月を淡々と取材したことに驚いた。自殺ほう助とも取れる行為を黙って見過ごしたのかと思うといたたまれない。映像もリアルで、子どもたちには見せたくない内容だった。

第138回 放送倫理検証委員会

第138回–2019年6月

日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』の審議

第138回放送倫理検証委員会は6月14日に開催され、海外ロケをした「祭り企画」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、審議を続けている日本テレビの『世界の果てまでイッテQ!』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、7月初めにも当該放送局へ通知して公表の記者会見を開く見込みとなった。
長野放送がローカルで放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』については、放送内容が番組か広告か曖昧であり、考査が適正だったか検証する必要があるとして、前回の委員会で審議入りが決まった。その後、担当委員が当該放送局や制作会社の担当者に対してヒアリングを行い、それを基にまとめた意見書の構成や原案の一部が示され、意見交換を行った。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送した読売テレビのローカルニュース番組『かんさい情報ネットten.』について、当該放送局から提出された報告書などを基に討議した。その結果、プライバシーや人権への配慮を著しく欠いた不適切な放送であり、この内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして、審議入りすることを決めた。
番組内で差別的表現があったことをお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』について、追加報告書が提出されて委員会で議論したが、さらに討議を継続することになった。
統一地方選挙の告示約3週間前に立候補予定の現職知事のインタビューを放送したテレビ東京の『日曜ビッグバラエティ』および立候補していた現職の知事を、告示の翌日に番組内で取り上げたCBCテレビの『ゴゴスマ』について、当該放送局に報告書の提出を求めて討議した。報告書によると、前者については、制作スタッフは選挙を巡る放送基準は認識していたが、告示の3週間前であることに思いが及ばず放送に至ったとのことであり、後者については、制作スタッフは選挙期間中の候補者を扱う場合には注意が必要との認識はあったものの、紹介した知事が候補者かどうかの確認を怠ったという。委員会では、最近の討議事案と類似のミスが繰り返されていることに厳しい意見が出されたが、いずれの番組も他の候補者との間で実質的に公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまで達しておらず、今後、各放送局が、社内のチェック体制を構築して再発防止に努めるとしていることから、今回は審議に入らず、議事概要に主な意見を記載して改めて注意喚起をすることとし、討議を終了した。

1.「海外ロケの企画をでっち上げた疑いがある」と報じられた『世界の果てまでイッテQ!』を審議

日本テレビの『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』で、2017年2月に放送された「タイのカリフラワー祭り」と2018年5月に放送された「ラオスの橋祭り」にでっち上げの疑いがあると週刊誌が報じ、委員会は、この2つの「祭り企画」を対象に審議を続けてきた。
この日は、前回までの議論を受けて担当委員が作成した意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しをしたうえで、7月初めにも当該放送局へ通知して公表の記者会見を開く見込みとなった。
なお、神田委員長は当該番組の審議には参加していない。

2.「内容が番組か広告か曖昧だ」とされた長野放送の持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』を審議

長野放送が3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』について視聴者から「放送番組なのか広告なのか曖昧だ」という趣旨の意見がBPOに寄せられた。当該番組は30分枠の編成で、2分間のステーションブレークを除いた28分間には、中CMがなかった。前回の委員会で、当該番組で取り上げている特定の社会保険労務士法人の事業紹介は、民放連の放送基準に照らして広告放送であるとの疑いが大きい内容になっているのではないか、考査が適正だったのか検証する必要があるとして、審議入りを決めた。その後5月末から6月初めにかけて、担当委員が長野放送社員や番組を制作した制作会社の担当者にヒアリングを行った。
今回の委員会では、担当委員からヒアリングの概要が報告され、併せて、長野放送から再発防止策に向けた改善策などが記載された追加報告書が提出されたことも報告されたうえで、意見書の構成や原案の一部が示され、意見交換が行われた。次回も引き続き意見書案を中心に審議する予定である。

3. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について審議入り

読売テレビが5月10日に放送した夕方のローカルニュース番組『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画について、「プライバシーおよび人権を侵害しているのではないか」という批判的な意見がBPOに対して多数寄せられた。
「迷ってナンボ!」と題されたコーナー企画は、お笑い芸人2人が街頭に出て、人々のさまざまな疑問や迷いを探し、その場で解決していくというもので、当該番組は、大阪市内の飲食店の女性に依頼され、男性常連客の性別を確認するというものだった。その際、名前や住所、異性の恋人の有無を聞くなどしたうえ、本人の健康保険証の性別欄を撮影し、胸部に触るなどした。ロケのVTRが終わって映像がスタジオに切り替わった際、レギュラー出演している男性コメンテーターが「許し難い人権感覚の欠如だ。よくこんなもの放送できるね。報道番組としてどういう感覚なのか」と厳しく叱責し、司会のアナウンサーなど他の出演者がその指摘に特に応じることなくコーナーの放送は終わった。
これを受けて読売テレビは5月13日、取材協力者に謝罪するとともに、番組ホームページに謝罪コメントを掲載、その日の同番組冒頭でも「人権的配慮に欠けた不適切な放送であった」と謝罪した。5月15日には番組を拡大し、問題を指摘したコメンテーターも出演して、なぜ当該コーナーを取材し、放送に至ったのかについて検証する番組を放送した。また、「迷ってナンボ!」という当該コーナーを当面の間休止すると発表した。
さらに社内に、「検証・再発防止検討チーム」を設置して、人権に関する全社研修会の実施や映像チェック体制の強化を図るとともに、独自の検証結果を公表した。また、視聴者からの意見に答える番組『声 あなたと読売テレビ』で、寄せられた意見を紹介し今回の問題点や再発防止策などについて改めて視聴者に説明した。
委員会では、当該放送局から提出された映像素材や報告書を基に討議が行われ、委員から「性的少数者の描き方に根本的な問題がある」「あまりにもマジョリティーの立場に立ちすぎた放送で重大性は群を抜いている」「放送内容のみならず制作過程に大きな問題があるのではないか」などの批判的意見が相次いだ。また、「深刻なのはコメンテーターや視聴者から指摘されるまで出演者だけでなく制作陣が問題に気づいていなかったことだ」「社会の批判的感覚と局内の感覚に深いギャップがある」との指摘もあった。
討議の結果、当該放送局の自主・自律の迅速な対応は評価できるが、読売テレビの放送基準が準拠する民放連放送基準の条項に複数抵触するおそれがあるとの意見や、十分な議論や反対意見が出された形跡がないまま、この内容が放送されるに至ったかを解明する必要があるなどの意見が出され、審議入りを決定した。

4. 高校中退芸人の差別的表現をお詫びしたテレビ朝日の『アメトーーク!』を討議

テレビ朝日は2月14日に放送したバラエティー番組『アメトーーク!』の中で出演者の女性芸人が自身の体験を語った際、自身が中途退学した高校の実名を挙げ、学校側が不良生徒対策をしているかのような発言をした。また司会者も、その方面に行かない方がいいという趣旨の差別的な表現をした。さらに、他の出演者の「道できれいな10円を12円で売っている」人がいたとの発言にその様子をイメージするかのようなイラストを挿入するなどの内容を放送した。
当該放送局の報告書によると、3月に当該高校などから謝罪・訂正を求められ、番組担当者が関係者と面会して直接謝罪したという。当該高校などからは一連の対応に理解を示してもらったという。
委員会では、当該放送局から提出された追加報告書を基に意見交換したが、討議を継続することになった。

5-1. 統一地方選挙の告示約3週間前に現職知事のインタビューを放送したテレビ東京の『日曜ビッグバラエティ』を討議

テレビ東京はバラエティー番組『日曜ビッグバラエティ』で、3月3日に『不法投棄を許すな!ヤバいゴミぜんぶ拾う大作戦~東京湾ダイバー70人で潜って一斉清掃SP~』を放送した。この番組の「三重県の不法投棄地帯で奮闘する不法投棄Gメンに密着」という特集コーナーの中で、三重県知事がインタビュー出演した。番組はゴミの不法投棄を取り締まる三重県職員の奮闘ぶりを伝えるもので、その一部として現職知事のインタビューが37秒間放送された。
放送日は、統一地方選挙で三重県知事選挙の告示まで約3週間前だった。
委員会は、当該放送局に対して、告示の1カ月前を切った時期に現職知事を放送した経緯について、報告書と番組DVDの提出を求めて討議した。
報告書によると、制作会社のディレクターやプロデューサー、テレビ東京の社員も含め番組スタッフは民放連放送基準「(12)選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない」の規定は認識していたが、知事のインタビュー出演が選挙事前運動にあたるとは考えなかったという。このため放送日が「告示の1カ月前を切った、3週間前の放送」になってしまう事に思いが及ばず、放送に至ったとしている。
選挙関連の放送を巡っては、これまでに複数の委員会決定や委員長コメントを出しており、つい最近の討議事案においても改めて注意喚起したにもかかわらず同様のミスが繰り返されていることについて厳しい意見があった。他方で、放送倫理違反の有無の判断にあたっては、候補者が番組に出演しているかどうかという形式的な観点からの検討だけでは十分ではなく、視聴者、有権者に与える印象の程度を考慮して、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがないかどうかという実質的な観点も合わせて判断すべきであること(決定第9号)を踏まえ、視聴者に与える印象の程度、放送の時期が選挙期間中であるか否か、露出の時間の長短、番組の性質が候補者への投票を誘導するような影響を生じるものか否か等の観点から検討すると、本件番組は、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまで達しているとまでは言えないだろうとの判断で一致した。また、当該放送局は、今回の事案を受けて、社内に向けた注意喚起をより一層強化するとともに社内のチェック体制を構築し、制作会社に向けて説明する機会を設けるなど、再発防止に努めるとしている。
以上を踏まえ、委員会は、委員からの厳しい意見を議事概要に公表して、当該放送局に対して、当該担当部門だけでなく、全社をあげて選挙の公平・公正性の確保のために自主・自律に定めたルールが守られるよう注意喚起をすることとして、今回は審議に入らず討議を終了した。

【委員の主な意見】

  • 選挙は現職に有利であるとされており、インタビュー取材の相手は立候補予定者の現職知事ではなく、現職知事以外の責任者でも良かったはずではないか。

  • 現職の知事が自治体の最高責任者であることを踏まえて、懸案となっている不法投棄問題についてインタビュー取材を申し入れることはあり得ると考えられるが、今回のように、現職知事が政策や政治活動の実効性について発言することになれば、告示前であっても選挙の事前運動的効果が強いと視聴者に受け取られかねず注意が必要だ。

  • 統一地方選挙の時期である以上、日頃は守備範囲外である地方選挙に対しても感覚を鋭敏にすべきであるにもかかわらず、告示の3週間前であることなどについて意識が希薄であったことは問題であり、残念である。

  • 今年2月の委員会の選挙関連事案に際して注意喚起した意見が生かされておらず、大変遺憾である。

5-2. 統一地方選挙期間中に現職候補者の顔写真と名前を放送したCBCテレビの情報番組『ゴゴスマ』を討議

3月22日に放送されたCBCテレビの情報番組『ゴゴスマ』で、秋篠宮佳子さまの大学卒業の話題に関連して現職の鳥取県知事を扱った。番組では、佳子さま卒業のニュースを受け、佳子さまに関するエピソードのひとつとして「公務で見事な切り返し」と題して、鳥取県を訪問された際の知事とのやり取りを紹介した。その際、知事の顔写真と名前が書き込まれたフリップを約31秒間放送した。放送当日は、鳥取県知事選挙が告示された翌日でありフリップで紹介した知事も立候補していた。
委員会は、当該放送局に対して、統一地方選挙期間中にもかかわらず放送した経緯について、報告書と番組DVDの提出を求めて討議した。
報告書によると、番組制作スタッフは選挙期間中の候補者を扱う場合には十分な注意が必要であるという認識はあったものの、知事本人が選挙期間中の候補者かどうかという確認ができていなかったとしている。
本件番組に対しても、これまでに複数の委員会決定や委員長コメントを出しており、つい最近の討議事案においても改めて注意喚起したにもかかわらず同様のミスが繰り返されていることについて厳しい意見があった。そのうえで、上記と同様に、視聴者に与える印象の程度、放送の時期が選挙期間中であるか否か、露出の時間の長短、番組の性質が候補者への投票を誘導するような影響を生じるものか否か等の観点から検討すると、本件番組は、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまで達しているとまでは言えないだろうとの判断で一致した。
そして、当該放送局は、今回の放送では名前や顔写真を出さない手法もあったと反省しており、番組制作にかかわるスタッフ全員が改めて選挙の公正性について高い意識を持つように注意喚起をしたという。また、国政選挙だけでなく地方選挙も含めた全国の選挙スケジュールを可視化して各番組で共有するとともに、このようなミスを起こさないために運用している番組内容確認表に「選挙期間中の候補者の出演、紹介、映り込みの有無」という確認項目を追加するなど、チェック体制の強化を図ったとしている。
以上を踏まえ、委員会は、委員からの厳しい意見を議事概要に公表して、当該放送局に対して、当該担当部門だけでなく、全社をあげて選挙の公平・公正性の確保のために自主・自律に定めたルールが守られるよう注意喚起をすることとして、今回は審議に入らず討議を終了した。

【委員の主な意見】

  • 単純ミスであるとしても、告示の翌日という選挙期間中であることは軽視できない。

  • 政治家の写真を扱う際に、選挙に関係しているかどうかを調べることは、それほど難しい作業ではないと思う。

  • 今年2月の知事選挙に関連した討議事案があったことをBPO放送倫理検証委員会の議事概要で知っていたとのことであるが、その教訓が自らの番組作りに生かされなかったのは大変遺憾である。

  • 今年は参議院議員選挙もあるが、選挙事前運動に関する不注意には十分気をつけたうえで、選挙報道に関して萎縮することなく積極的に取り組んでもらいたい。

以上