第245回放送と人権等権利に関する委員会

第245回 – 2017年3月

都知事関連報道事案のヒアリングと審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の通知・公表の報告、浜名湖切断遺体事件報道事案の審理…など

都知事関連報道事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。また事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の通知・公表の概要を事務局から報告、浜名湖切断遺体事件報道事案を審理した。

議事の詳細

日時
2017年3月21日(火)午後3時~8時25分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、中島委員、二関委員 (曽我部委員は欠席)

1.「都知事関連報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。この放送について、雅美氏と2人の子供が人権侵害を訴え申立てを行った。
今月の委員会では申立人と被申立人のフジテレビにヒアリングを実施し、詳しい話を聴いた。
申立人側は雅美氏が代理人の弁護士とともに出席し、「私が『撮らないでください』と伝えているにもかかわらず、フジテレビが子供2人を自宅前で登校時、カメラを避けようがない状況で撮影したことは揺るぎない事実だ。子供は大変な精神的苦痛を受けた。子供の姿が放送されなかったから良いということではなく、撮影自体が既に肖像権を侵害している。子供の撮影は必要なことではなく、私は怒り心頭で『いくらなんでも失礼です』と抗議した。子供を護るため母親としての当然の行為であったと考える。ところが、フジテレビは、あたかも私が取材を感情的に拒否しているかのように映像を編集し、意図的に事実とは違う印象を明らかに視聴者に与える放送を行った。この撮影は、もともと公共性・公益性を目的にしたものではなく、放送内容に真実性はなく、悪意を持って意図的に子供を撮影し、ことさらに私を貶めるように編集されたもので、それを放送したことは名誉毀損にあたる」等と述べた。
フジテレビからは番組の制作責任者ら5人が出席し、「疑惑解明に不可欠なのは、株式会社舛添政治経済研究所の代表者である舛添氏の妻、雅美氏本人の取材である。当然、子供への取材は何の意味も持たず、取材する意図は全くなかった。執拗な取材・撮影はあり得ず、その事実も一切あり得ない。雅美氏のインタビュー部分は、取材時のディレクターの質問から雅美氏の返答を一連の流れとしてノーカットで放送したもので、作為的編集という事実は一切ない。『いくらなんでも失礼です』という発言は、早朝に訪れて取材申込みをしたことが失礼であると同時に『間違ったことをしていないにもかかわらず、直接取材に来たことは失礼である』との意味で発せられたものと理解している。極めて公共性、公益性の高い取材だったと考える。政治家の疑惑を追及するための取材が問題とされるケースが常態化すれば、現場が委縮し、権力の監視と言う我々の役割が支障をきたすのではないかと強く懸念している」等と述べた。
ヒアリング後、本件の論点を踏まえ審理を続行した。

2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の通知・公表の報告

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の通知・公表の報告

本事案に関する「委員会決定」の通知・公表が3月10日に行われた。委員会では、その概要を事務局が報告し、決定内容を伝える当該局による放送録画を視聴した。委員長からは、公表時に様々な質疑があったことを紹介したうえで、放送には警察をチェックする役割もあるので、この決定内容からそうした社会的要請が改めて受け止められることを期待したい旨の発言があった。

4.「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、テレビ静岡が2016年7月14日に放送したニュース。静岡県浜松市の浜名湖周辺で切断された遺体が発見された事件で「捜査本部が関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」等と放送した。
この放送に対し、同県在住の男性は9月18日付で申立書を委員会に提出。同事件の捜査において、「実際には全く関係ないにもかかわらず、『浜名湖切断遺体 関係先を捜索 複数の車押収』と断定したテロップをつけ、記者が『捜査本部は遺体の状況から殺人事件と断定して捜査を進めています』と殺人事件に関わったかのように伝えながら、許可なく私の自宅前である私道で撮影した、捜査員が自宅に入る姿や、窓や干してあったプライバシーである布団一式を放送し、名誉や信頼を傷つけられた」として、放送法9条に基づく訂正放送、謝罪およびネット上に出ている画像の削除を求めた。
また申立人は、この日県警捜査員が同氏自宅を訪れたのは、申立人とは関係のない窃盗事件の証拠物である車を押収するためであり、「私の自宅である建物内は一切捜索されていない」と主張。「このニュースの映像だけを見れば、家宅捜索された印象を受け、いかにもこの家の主が犯人ではないかという印象を視聴者に与えてしまう。私は今回の件で仕事を辞めざるをえなくなった」と訴えている。
この申立てに対し、テレビ静岡は11月2日に「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件放送が『真実でない』ことを放送したものであるという申立人の主張には理由がなく、訂正放送の請求には応じかねる」と述べた。この中で、「当社取材陣は、信頼できる取材源より、浜名湖死体損壊・遺棄事件に関連して捜査の動きがある旨の情報を得て取材活動を行ったものであり、当日の取材の際にも取材陣は捜査員の応対から当日の捜索が浜名湖事件との関連でなされたものであることの確証を得たほか、さらに複数の取材源にも確認しており、この捜索が浜名湖事件に関連したものとしてなされたことは事実」であり、「本件放送は、その事件との関連で捜査がなされた場所という意味で本件住宅を『関係先』と指称しているもの。また本件放送では、申立人の氏名に言及するなど一切しておらず、『申立人が浜名湖の件の被疑者、若しくは事件にかかわった者』との放送は一切していない」と反論した。
さらに、「捜査機関の行為は手続き上も押収だけでなく『捜索』も行われたことは明らか。すなわち、捜査員が本件住宅内で確認を行い、本件住宅の駐車場で軽自動車を現認して差し押さえたことから、本件住宅で捜索活動が行われたことは間違いなく、したがって、『関係先とみられる住宅などを捜索』との報道は事実であり、虚偽ではあり得ない」と主張した。
今月の委員会では、次回4月の委員会で申立人と被申立人のテレビ静岡にヒアリングを実施し詳しい話を聴くことを決めた。

5.その他

  • 三好専務理事から、3月10日に開かれたBPO理事会で、放送人権委員会の委員を1名増員することが了承されたと報告された。また、2017年度の事務局の新体制についても報告された。

以上

第244回放送と人権等権利に関する委員会

第244回 – 2017年2月

STAP細胞報道事案の通知・公表の報告、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、都知事関連報道事案の審理、浜名湖切断遺体事件報道事案の審理…など

STAP細胞報道事案の通知・公表の概要を事務局から報告。また事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の「委員会決定」案を検討して委員長一任となり、都知事関連報道事案、浜名湖切断遺体事件報道事案を審理した。

議事の詳細

日時
2017年2月21日(火)午後4時~10時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の通知・公表の報告

本事案に関する「委員会決定」の通知・公表が2月10日に行われた。委員会では、その概要を事務局が報告し、当該局のNHKが放送した決定を伝えるニュースの同録DVDを視聴した。

2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の審理

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の審理

対象となったのはテレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれニュースで扱った地方公務員による準強制わいせつ容疑での逮捕に関する放送。申立人は、放送は事実と異なる内容であり、初期報道における「極悪人のような報道内容」などにより深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めているもの。
この日の委員会では、「委員会決定」案の読み合わせを行いながら修正が加えられ、委員長一任とすることを了承した。これを受けて、2月中に委員長が最終確認のうえ、3月に申立人、被申立人に対して通知し、公表することを決めた。

4.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は、1メートル位の至近距離からの執拗な撮影行為によって衝撃を受け、これがトラウマになって家を出て登校するたびに恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した答弁書において、長男と長女を取材・撮影する意図は全くなく執拗な撮影行為など一切行っておらず、放送した雅美氏の発言は、ディレクターが家賃について質問した以降のやり取りを恣意性を排除するためにノーカットで使用したとしている。さらに雅美氏は政治資金の使い道について説明責任がある当事者で、雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
今月の委員会では、次回3月の委員会で申立人と被申立人のフジテレビにヒアリングを実施し詳しい話を聴くことを決めた。

5.「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、テレビ静岡が2016年7月14日に放送したニュース。静岡県浜松市の浜名湖周辺で切断された遺体が発見された事件で「捜査本部が関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」等と放送した。
この放送に対し、同県在住の男性は9月18日付で申立書を委員会に提出。同事件の捜査において、「実際には全く関係ないにもかかわらず、『浜名湖切断遺体 関係先を捜索 複数の車押収』と断定したテロップをつけ、記者が『捜査本部は遺体の状況から殺人事件と断定して捜査を進めています』と殺人事件に関わったかのように伝えながら、許可なく私の自宅前である私道で撮影した、捜査員が自宅に入る姿や、窓や干してあったプライバシーである布団一式を放送し、名誉や信頼を傷つけられた」として、放送法9条に基づく訂正放送、謝罪およびネット上に出ている画像の削除を求めた。
また申立人は、この日県警捜査員が同氏自宅を訪れたのは、申立人とは関係のない窃盗事件の証拠物である車を押収するためであり、「私の自宅である建物内は一切捜索されていない」と主張。「このニュースの映像だけを見れば、家宅捜索された印象を受け、いかにもこの家の主が犯人ではないかという印象を視聴者に与えてしまう。私は今回の件で仕事を辞めざるをえなくなった」と訴えている。
この申立てに対し、テレビ静岡は11月2日に「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件放送が『真実でない』ことを放送したものであるという申立人の主張には理由がなく、訂正放送の請求には応じかねる」と述べた。この中で、「当社取材陣は、信頼できる取材源より、浜名湖死体損壊・遺棄事件に関連して捜査の動きがある旨の情報を得て取材活動を行ったものであり、当日の取材の際にも取材陣は捜査員の応対から当日の捜索が浜名湖事件との関連でなされたものであることの確証を得たほか、さらに複数の取材源にも確認しており、この捜索が浜名湖事件に関連したものとしてなされたことは事実」であり、「本件放送は、その事件との関連で捜査がなされた場所という意味で本件住宅を『関係先』と指称しているもの。また本件放送では、申立人の氏名に言及するなど一切しておらず、『申立人が浜名湖の件の被疑者、若しくは事件にかかわった者』との放送は一切していない」と反論した。
さらに、「捜査機関の行為は手続き上も押収だけでなく『捜索』も行われたことは明らか。すなわち、捜査員が本件住宅内で確認を行い、本件住宅の駐車場で軽自動車を現認して差し押さえたことから、本件住宅で捜索活動が行われたことは間違いなく、したがって、『関係先とみられる住宅などを捜索』との報道は事実であり、虚偽ではあり得ない」と主張した。
今月の委員会では、起草担当委員から本件事案の論点とヒアリングの質問項目の案が示され審理した。

6.その他

  • 委員会が1月31日に広島で開催した中国・四国地区意見交換会の概要を事務局が報告、その模様を地元局が伝えるニュース番組の同録DVDを視聴した。
  • 2017年度委員会活動計画案を事務局が説明し、了承された。
  • 3月16日にBPOが開催する2016年度年次報告会および3月22日に開催される放送倫理検証委員会10周年記念シンポジウムについて事務局が説明した。
  • 次回委員会は3月21日に開かれる。

以上

第243回放送と人権等権利に関する委員会

第243回 – 2017年1月

STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、都知事関連報道事案の審理、浜名湖切断遺体事件報道事案の審理…など

STAP細胞報道事案の「委員会決定」を最終承認した。また事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の「委員会決定」修正案を議論し、都知事関連報道事案、浜名湖切断遺体事件報道事案を審理した。

議事の詳細

日時
2017年1月17日(火)午後4時~8時50分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では、前回委員会での議論を踏まえた「委員会決定」最終案が提出され、一部の字句を修正のうえ了承された。その結果、2月に「委員会決定」の通知・公表を行う運びとなった。

2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の審理

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の審理

対象となったのはテレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれニュースで扱った地方公務員による準強制わいせつ容疑での逮捕に関する放送。申立人は、放送は事実と異なる内容であり、初期報道における「極悪人のような報道内容」などにより深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めているもの。
今回の委員会では、まず、第3回起草委員会において修正された決定文案について起草委員より説明があり、その後、各委員から意見を聞いた。今回も警察広報担当者の情報の扱いを巡る議論を中心に意見が交わされ、決定文の表現について調整が図られた。そのうえで、放送倫理上の問題について、本件放送が、初期報道という制約がある中で、適切な取材と表現によってなされたかどうかとの観点から各委員の意見が示された。委員会は、こうした議論を受け第4回起草委員会を開くことを決め、決定文案の修正を行い、次回委員会でさらに議論を深める方針を確認した。

4.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は、1メートル位の至近距離からの執拗な撮影行為によって衝撃を受け、これがトラウマになって家を出て登校するたびに恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した答弁書において、長男と長女を取材・撮影する意図は全くなく執拗な撮影行為など一切行っておらず、放送した雅美氏の発言は、ディレクターが家賃について質問した以降のやり取りを恣意性を排除するためにノーカットで使用したとしている。さらに雅美氏は政治資金の使い道について説明責任がある当事者で、雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
今月の委員会では、本件事案の論点とヒアリングの質問項目を確認し、先行している事案の審理の状況をふまえヒアリングを実施することを決めた。

5.「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、テレビ静岡が2016年7月14日に放送したニュース番組(全国ネット及びローカル)で、静岡県浜松市の浜名湖周辺で切断された遺体が発見された事件で「捜査本部が関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」等と放送した。
この放送に対し、同県在住の男性は同月16日テレビ静岡に電話し、自分は事件とは関係ないのに同社記者が勝手に私有地に入って撮影し、犯人であるかのように全国ネットで報道をした等と抗議した。
同氏はその後テレビ静岡と話し合いを続けたが不調に終わり、9月18日付で申立書を委員会に提出。同事件の捜査において、「実際には全く関係ないにもかかわらず、『浜名湖切断遺体 関係先を捜索 複数の車押収』と断定したテロップをつけ、記者が『捜査本部は遺体の状況から殺人事件と断定して捜査を進めています』と殺人事件に関わったかのように伝えながら、許可なく私の自宅前である私道で撮影した、捜査員が自宅に入る姿や、窓や干してあったプライバシーである布団一式を放送し、名誉や信頼を傷つけられた」として、放送法9条に基づく訂正放送、謝罪およびネット上に出ている画像の削除を求めた。
また申立人は、この日県警捜査員が同氏自宅を訪れたのは、申立人とは関係のない窃盗事件の証拠物である車を押収するためであり、「私の自宅である建物内は一切捜索されていない」と主張、そのうえで、「このニュースの映像だけを見れば、家宅捜索された印象を受け、いかにもこの家の主が犯人ではないかという印象を視聴者に与えてしまう。私は今回の件で仕事を辞めざるをえなくなった」と訴えている。
この申立てに対しテレビ静岡は11月2日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件放送が『真実でない』ことを放送したものであるという申立人の主張には理由がなく、訂正放送の請求には応じかねる」と述べた。この中で、「当社取材陣は、信頼できる取材源より、浜名湖死体損壊・遺棄事件に関連して捜査の動きがある旨の情報を得て取材活動を行ったものであり、当日の取材の際にも取材陣は捜査員の応対から当日の捜索が浜名湖事件との関連でなされたものであることの確証を得たほか、さらに複数の取材源にも確認しており、この捜索が浜名湖事件に関連したものとしてなされたことは事実」であり、「本件放送は、その事件との関連で捜査がなされた場所という意味で本件住宅を『関係先』と指称しているもの。また本件放送では、申立人の氏名に言及するなど一切しておらず、『申立人が浜名湖の件の被疑者、若しくは事件にかかわった者』との放送は一切していない」と反論した。
さらに、「捜査機関の行為は手続き上も押収だけでなく『捜索』も行われたことは明らか。すなわち、捜査員が本件住宅内で確認を行い、本件住宅の駐車場で軽自動車を現認して差し押さえたことから、本件住宅で捜索活動が行われたことは間違いなく、したがって、『関係先とみられる住宅などを捜索』との報道は事実であり、虚偽ではあり得ない」と主張した。
12月の委員会後、被申立人から「再答弁書」が提出され、所定の書面が出揃った。今回の委員会では、事務局がこれまでの双方の主張を取りまとめた資料を基に説明、論点を整理するため起草委員が集まって協議することとなった。

6.その他

  • 委員会が1月31日に広島で開催する予定の中国・四国地区意見交換会の議題、進行案等を説明し、了承された。
  • 2月23日に開かれる第13回BPO事例研究会の概要を事務局が説明した。
  • 次回委員会は2月21日に開かれる。

以上

第242回放送と人権等権利に関する委員会

第242回 – 2016年12月

STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、都知事関連報道事案の審理、浜名湖切断遺体事件報道事案の審理、世田谷一家殺害事件特番事案の対応報告…など

STAP細胞報道事案および事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の「委員会決定」案をそれぞれ議論、また都知事関連報道事案、浜名湖切断遺体事件報道を審理した。世田谷一家殺害事件特番事案について、テレビ朝日から提出された対応報告を了承した。

議事の詳細

日時
2016年12月20日(火)午後4時~9時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では、11月30日に行われた第4回起草委員会での議論を経て提出された「委員会決定」案を事務局が読み上げ、それに対して各委員が意見を出した。委員会で指摘された修正部分を反映した決定案を次回委員会に提出、最終的に確認する運びとなった。

2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の審理

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の審理

対象となったのはテレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれニュースで扱った地方公務員による準強制わいせつ容疑での逮捕に関する放送。申立人は、放送は事実と異なる内容であり、初期報道における「極悪人のような報道内容」などにより深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めていたもので、9月に双方からヒアリングを行っている。
今委員会では、まず起草委員より第2回起草委員会で修正した「委員会決定」案について説明を行った上で各委員から意見を求めた。委員からは、警察広報担当者による発言に基づく記事内容の扱いを巡って突っ込んだ意見が交わされた。これを受けて委員会は、来月初めに第3回起草委員会を開くことを決め、今委員会での意見を反映した修正案を次回委員会に提出し、さらに議論を深めることとなった。

4.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は、1メートル位の至近距離からの執拗な撮影行為によって衝撃を受け、これがトラウマになって家を出て登校するたびに恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した答弁書において、長男と長女を取材・撮影する意図は全くなく執拗な撮影行為など一切行っておらず、放送した雅美氏の発言は、ディレクターが家賃について質問した以降のやり取りを恣意性を排除するためにノーカットで使用したとしている。さらに雅美氏は政治資金の使い道について説明責任がある当事者で、雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
今月の委員会では、前回委員会での検討を経て一部修正された本件事案の論点とヒアリングの質問項目の案が示され、ほぼ確定した。

5.「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、テレビ静岡が本年7月14日に放送したニュース番組(全国ネット及びローカル)で、静岡県浜松市の浜名湖周辺で切断された遺体が発見された事件で「捜査本部が関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」等と放送した。
この放送に対し、同県在住の男性は同月16日テレビ静岡に電話し、自分は事件とは関係ないのに同社記者が勝手に私有地に入って撮影し、犯人であるかのように全国ネットで報道をした等と抗議した。
同氏はその後テレビ静岡と話し合いを続けたが不調に終わり、9月18日付で申立書を委員会に提出。同事件の捜査において、「実際には全く関係ないにもかかわらず、『浜名湖切断遺体 関係先を捜索 複数の車押収』と断定したテロップをつけ、記者が『捜査本部は遺体の状況から殺人事件と断定して捜査を進めています』と殺人事件に関わったかのように伝えながら、許可なく私の自宅前である私道で撮影した、捜査員が自宅に入る姿や、窓や干してあったプライバシーである布団一式を放送し、名誉や信頼を傷つけられた」として、放送法9条に基づく訂正放送、謝罪およびネット上に出ている画像の削除を求めた。
また申立人は、この日県警捜査員が同氏自宅を訪れたのは、申立人とは関係のない窃盗事件の証拠物である車を押収するためであり、「私の自宅である建物内は一切捜索されていない」と主張、そのうえで、「このニュースの映像だけを見れば、家宅捜索された印象を受け、いかにもこの家の主が犯人ではないかという印象を視聴者に与えてしまう。私は今回の件で仕事を辞めざるをえなくなった」と訴えている。
この申立てに対しテレビ静岡は11月2日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件放送が『真実でない』ことを放送したものであるという申立人の主張には理由がなく、訂正放送の請求には応じかねる」と述べた。この中で、「当社取材陣は、信頼できる取材源より、浜名湖死体損壊・遺棄事件に関連して捜査の動きがある旨の情報を得て取材活動を行ったものであり、当日の取材の際にも取材陣は捜査員の応対から当日の捜索が浜名湖事件との関連でなされたものであることの確証を得たほか、さらに複数の取材源にも確認しており、この捜索が浜名湖事件に関連したものとしてなされたことは事実」であり、「本件放送は、その事件との関連で捜査がなされた場所という意味で本件住宅を『関係先』と指称しているもの。また本件放送では、申立人の氏名に言及するなど一切しておらず、『申立人が浜名湖の件の被疑者、若しくは事件にかかわった者』との放送は一切していない」と反論した。
さらに、「捜査機関の行為は手続き上も押収だけでなく『捜索』も行われたことは明らか。すなわち、捜査員が本件住宅内で確認を行い、本件住宅の駐車場で軽自動車を現認して差し押さえたことから、本件住宅で捜索活動が行われたことは間違いなく、したがって、『関係先とみられる住宅などを捜索』との報道は事実であり、虚偽ではあり得ない」と主張した。
前回の委員会で審理入りが決まったのを受けてテレビ静岡から申立書に対する答弁書が提出され、申立人からは反論書が提出された。今月の委員会ではこれまでの双方の主張を事務局が説明した。

6.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」対応報告

2016年9月12日に通知・公表が行われた本決定(勧告:放送倫理上重大な問題あり)に対して、テレビ朝日から対応と取り組みをまとめた報告書が12月9日付で提出され、委員会はこれを了承した。

7.その他

  • 委員会が1月31日に広島で開催する予定の中国・四国地区意見交換会の概要を事務局が説明し、了承された。
  • 次回委員会は1月17日に開かれる。

以上

第241回放送と人権等権利に関する委員会

第241回 – 2016年11月

STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、都知事関連報道事案の審理、浜名湖切断遺体事件報道事案の審理入り決定…など

STAP細胞報道事案および事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の「委員会決定」案をそれぞれ検討、また都知事関連報道事案を審理し、浜名湖切断遺体事件報道に対する申立てを審理要請案件として検討して審理入りを決定した。

議事の詳細

日時
2016年11月15日(火)午後4時~10時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では、10月末に行われた第3回起草委員会での議論を経て提出された「委員会決定」修正案について各委員が意見を出した。次回委員会までに第4回起草委員会を開いて、さらに修正を加えた「委員会決定」案を次回委員会に提出して検討することとなった。

2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の審理

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の審理

対象となったのはテレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれニュースで扱った地方公務員による準強制わいせつ容疑での逮捕に関する放送。申立人は、放送は事実と異なる内容であり、初期報道における「極悪人のような報道内容」などにより深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めていたもので、9月に双方からヒアリングを行っている。
今委員会では、11月上旬の第1回起草委員会でまとめられた「委員会決定」案について起草委員が説明し、それを受けて委員の間で意見交換が行われた。議論では、警察広報文と警察取材に基づく情報の扱いなどについて意見が交わされたほか、熊本県民テレビについては出演者のコメントについても議論された。委員会は、こうした議論を基に第2回起草委員会を開き、次回委員会に修正を加えた「委員会決定」案を提出することを決めた。

4.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は、1メートル位の至近距離からの執拗な撮影行為によって衝撃を受け、これがトラウマになって家を出て登校するたびに恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した答弁書において、長男と長女を取材・撮影する意図は全くなく執拗な撮影行為など一切行っておらず、放送した雅美氏の発言は、ディレクターが家賃について質問した以降のやり取りを恣意性を排除するためにノーカットで使用したとしている。さらに雅美氏は政治資金の使い道について説明責任がある当事者で、雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
今月の委員会では、起草担当委員から本件事案の論点とヒアリングの質問項目の案が示され審理した。ヒアリングについては、今後、先行している事案の審理状況を見ながら実施することになった。

5.審理要請案件:「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」

上記申立てについて審理要請案件として検討し、審理入りを決定した。
対象となった番組は、テレビ静岡が本年7月14日に放送したニュース番組(全国ネット及びローカル)で、静岡県浜松市の浜名湖周辺で切断された遺体が発見された事件で「捜査本部が関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」等と放送した。
この放送に対し、同県在住の男性は同月16日テレビ静岡に電話し、自分は事件とは関係ないのに同社記者が勝手に私有地に入って撮影し、犯人であるかのように全国ネットで報道をした等と抗議した。
同氏はその後テレビ静岡と話し合いを続けたが不調に終わり、9月18日付で申立書を委員会に提出。同事件の捜査において、「実際には全く関係ないにもかかわらず、『浜名湖切断遺体 関係先を捜索 複数の車押収』と断定したテロップをつけ、記者が『捜査本部は遺体の状況から殺人事件と断定して捜査を進めています』と殺人事件に関わったかのように伝えながら、許可なく私の自宅前である私道で撮影した、捜査員が自宅に入る姿や、窓や干してあったプライバシーである布団一式を放送し、名誉や信頼を傷つけられた」として、放送法9条に基づく訂正放送、謝罪およびネット上に出ている画像の削除を求めた。
また申立人は、この日県警捜査員が同氏自宅を訪れたのは、申立人とは関係のない窃盗事件の証拠物である車を押収するためであり、「私の自宅である建物内は一切捜索されていない」と主張、そのうえで、「このニュースの映像だけを見れば、家宅捜索された印象を受け、いかにもこの家の主が犯人ではないかという印象を視聴者に与えてしまう。私は今回の件で仕事を辞めざるをえなくなった」と訴えている。
この申立てに対しテレビ静岡は11月2日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件放送が『真実でない』ことを放送したものであるという申立人の主張には理由がなく、訂正放送の請求には応じかねる」と述べた。この中で、「当社取材陣は、信頼できる取材源より、浜名湖死体損壊・遺棄事件に関連して捜査の動きがある旨の情報を得て取材活動を行ったものであり、当日の取材の際にも取材陣は捜査員の応対から当日の捜索が浜名湖事件との関連でなされたものであることの確証を得たほか、さらに複数の取材源にも確認しており、この捜索が浜名湖事件に関連したものとしてなされたことは事実」であり、「本件放送は、その事件との関連で捜査がなされた場所という意味で本件住宅を『関係先』と指称しているもの。また本件放送では、申立人の氏名に言及するなど一切しておらず、『申立人が浜名湖の件の被疑者、若しくは事件にかかわった者』との放送は一切していない」と反論した。
さらに、「捜査機関の行為は手続き上も押収だけでなく『捜索』も行われたことは明らか。すなわち、捜査員が本件住宅内で確認を行い、本件住宅の駐車場で軽自動車を現認して差し押さえたことから、本件住宅で捜索活動が行われたことは間違いなく、したがって、『関係先とみられる住宅などを捜索』との報道は事実であり、虚偽ではあり得ない」と主張した。

委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

6.その他

  • 委員会が10月27日に沖縄で開催した県単位意見交換会について、事務局から概要を説明し、その模様を放送した番組の同録DVDを視聴した。委員会から坂井眞委員長、奥武則委員長代行、曽我部真裕委員の3人が出席し、放送局側からは県内の民放5局とNHK沖縄放送局から合計42人が参加、地元沖縄の事例や最近の委員会決定について活発な意見交換が行われた。
  • 「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案で、「放送倫理上重大な問題あり」(勧告)の委員会決定を受けたテレビ朝日で、11月10日に坂井眞委員長と担当した奥武則委員長代行、紙谷雅子委員が出席して研修会が開かれたことを、事務局が報告した。報道や制作の現場の社員ら約130人が出席し、2時間にわたって決定のポイントやテレビ的技法の使い方等をめぐって意見を交わした。
  • 次回委員会は12月20日に開かれる。

以上

第240回放送と人権等権利に関する委員会

第240回 – 2016年10月

STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、都知事関連報道事案の審理…など

STAP細胞報道事案の「委員会決定」案を検討、また事件報道に対する地方公務員からの申立て事案、都知事関連報道事案を審理した。

議事の詳細

日時
2016年10月18日(火)午後4時~9時50分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では、前回に引き続き「委員会決定」案について審理した。各委員から出された意見を踏まえ、次回委員会までに第3回起草委員会を開き、次回委員会に修正案を提出してさらに検討を続ける。

2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の審理

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の審理

対象となったのはテレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれニュースで扱った地方公務員による準強制わいせつ容疑での逮捕に関する放送。申立人は、放送は事実と異なる内容であり、初期報道における「極悪人のような報道内容」などにより深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めた。
前回委員会で、申立人と被申立人であるテレビ熊本と熊本県民テレビの出席を求め、それぞれ個別にヒアリングを行った。
今回の委員会では、起草委員がヒアリング内容を基にまとめた論点整理メモに沿って審理が行われた。審理では、警察の広報連絡文と放送局による警察取材内容の扱い等について議論が交わされたほか、フェイスブック写真の使用について、当事者以外に波及するプライバシー問題への配慮の必要性を委員会として指摘するべきではないかといった意見が出された。そのうえで、次回委員会までに第1回起草委員会を開くことを決めた。

4.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は、1メートル位の至近距離からの執拗な撮影行為によって衝撃を受け、これがトラウマになって家を出て登校するたびに恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した答弁書において、長男と長女を取材・撮影する意図は全くなく執拗な撮影行為など一切行っておらず、放送した雅美氏の発言は、ディレクターが家賃について質問した以降のやり取りを恣意性を排除するためにノーカットで使用したとしている。さらに雅美氏は政治資金の使い道について説明責任がある当事者で、雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
前回の委員会後、申立人から反論書が、フジテレビからこれに対する再答弁書が提出された。今月の委員会では事務局が双方の主張をまとめた資料を説明し、それを基に意見を交わした。

5.その他

  • 委員会が今年度中に開催予定の地区別意見交換会について、事務局から中国・四国地区の加盟社を対象に2017年1月31日に広島で開催することを報告、了承された。
  • 次回委員会は11月15日に開かれる。

以上

第239回放送と人権等権利に関する委員会

第239回 – 2016年9月

事件報道に対する地方公務員からの申立て事案のヒアリングと審理、世田谷一家殺害事件特番事案の通知・公表の報告、STAP細胞報道事案の審理、都知事関連報道事案の審理…など

事件報道に対する地方公務員からの申立て事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人の2局から詳しく事情を聞いた。また世田谷一家殺害事件特番事案の通知・公表について事務局から報告し、STAP細胞報道事案、都知事関連報道事案を審理した。

議事の詳細

日時
2016年9月13日(火)午後3時~10時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案のヒアリングと審理

2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案のヒアリングと審理

対象となったのはテレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれニュースで扱った地方公務員による準強制わいせつ容疑での逮捕に関する放送。申立人は、放送は事実と異なる内容であり、初期報道における「極悪人のような報道内容」などにより深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めた。
今回の委員会では、申立人と被申立人であるテレビ熊本と熊本県民テレビの出席を求め、それぞれ個別にヒアリングを行った。テレビ熊本からは取締役報道編成制作局長ら2人が、熊本県民テレビからは取締役報道局長ら3人が出席した。
この中で申立人は、まず事案全般について「事実と違う内容、過剰な報道、フェイスブックの写真を複数無断で使用された点が大きな問題だ」と指摘すると同時に、対象の2局は「公務員に対する偏向報道が顕著だ」と主張した。特に申立人は、フェイスブックの写真使用について、「個人アカウントを特定され、自分への誹謗中傷や、友人、家族にも被害が及ぶ可能性があり、かなり危険だ」と述べた。
その上で、テレビ熊本について、自宅前での記者リポートを取り上げ「自宅の映像まで放送したことは、いかがなものかと思う」と述べた。また、不起訴後にもかかわらず「公務員の不祥事」をまとめた年末企画の中で扱ったことを問題と指摘した。
これに対して、テレビ熊本は「現職の公務員による準強制わいせつ事案であり、社会的関心も高く、警察取材を基に事実のみを伝えた」と主張した。また、記者リポートは、「現場を特定するもので、交通事故の現場等と照らし合わせても正当だ」と説明するとともに、年末企画は「匿名とするなど人権に配慮した」と主張した。
一方、熊本県民テレビに対して申立人は、放送の中で「卑劣な行為」と出演者がコメントしたことについて、「人気キャスターの発言は影響力が強く、有罪だと思わせるものだった」と主張した。これに対して熊本県民テレビは、「警察以外に対して取材する努力は大切だが、性犯罪の密室性、被害者のプライバシー等の問題もあり、一報の段階では警察発表に基づいて報道することに一定の合理性があったと思う」と主張した。また、出演者のコメントについて「行為について言ったもので、不適切とは考えていない」と述べた。
委員会はこの後、論点に即してヒアリング内容について意見交換を行い、10月初めに起草委員が起草準備のための会合を開くことを決めた。

3.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の通知・公表の報告

本件事案に関する「委員会決定」の通知・公表が9月12日に行われた。委員会では、その概要を事務局が報告し、当該局のテレビ朝日が放送した決定を伝えるニュースの同録DVDを視聴した。

4.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2,000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今月の委員会では、9月6日に行われた第2回起草委員会を経て提出された「委員会決定」案について審理した。次回委員会では、さらにこの決定案の検討を続けることになった。

5.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日に放送した情報番組『Mr.サンデー』で、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体が夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃を支払っていた問題を取り上げた。番組では、雅美氏を取材するため早朝に取材クルーを団体と会社の所在地である舛添氏の自宅兼事務所に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は1メートル位の至近距離から執拗な撮影をされて衝撃を受け、これがトラウマになって登校のため家を出る際に恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集され、視聴者に雅美氏を誤解させる放送だったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した「経緯と見解」書面において、2人の子供を取材・撮影する意図は全くなく、執拗な撮影行為など一切行っておらず、雅美氏の発言も家賃に関する質問から雅美氏の回答を一連の流れとしてノーカットで放送したもので、作為的編集の事実は一切ないとしている。さらに政治資金の流れの鍵を握るキーパーソンで使い道について説明責任がある雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
前回の委員会で審理入りが決まったのを受けてフジテレビから申立書に対する答弁書が提出され、今月の委員会ではこれまでの双方の主張をまとめた資料を事務局が提出した。

6.その他

  • 次回委員会は10月18日に開かれる。

以上

第238回放送と人権等権利に関する委員会

第238回 – 2016年8月

自転車事故企画事案の対応報告、世田谷一家殺害事件特番事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、都知事関連報道事案の審理入り決定…など

自転車事故企画事案について、フジテレビから提出された対応報告を了承した。世田谷一家殺害事件特番事案の「委員会決定」案を検討し、大筋で了承。またSTAP細胞報道事案、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案を審理した。都知事関連報道に対する申立てを審理要請案件として検討し、審理入りを決めた。

議事の詳細

日時
2016年8月16日(火)午後4時~10時00分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「自転車事故企画に対する申立て」事案の対応報告

2016年5月16日に通知・公表が行われた本決定(見解:放送倫理上問題あり)に対して、フジテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が8月9日付で提出され、委員会はこれを了承した。

2.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の審理

対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤泰子さんの実姉で、事件当時、隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
今月の委員会では、「委員会決定」再修正案が提示され、詳細に検討した。その結果、大筋で了承されて委員長一任となり、9月に決定の通知・公表が行われる運びになった。

3.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会には、8月9日の第1回起草委員会での議論を反映した決定文の素案が提出され、各委員が意見を述べた。9月に第2回起草委員会を開き、次回委員会で「委員会決定」案について審理をさらに進めることになった。

4.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本) 事案の審理

5.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の審理

対象となったのは、テレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれ放送したニュース番組で、地方公務員が準強制わいせつ容疑で逮捕された事件について報道した。
申立人は、放送は事実と異なる内容であり、フェイスブックの写真を無断使用され、初期報道における「極悪人のような報道内容」により深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めた。
これに対してテレビ熊本は「現職公務員による準強制わいせつの事案であり、取材を積み重ね、事実のみを報道した」と主張、熊本県民テレビは、「報道は、正当な方法によって得た取材結果に基づいて客観的な立場からなされたものであり、悪意的でモラルを欠いた内容ではない」と主張している。
この日の委員会では、まず起草委員より論点案と申立人、被申立人に対する質問項目案が説明された。これを基に委員の間で意見交換が行われ、論点と質問項目を決定、9月13日の次回委員会で本事案に関するヒアリングを行うことを決めた。

6.審理要請案件:「都知事関連報道に対する申立て」

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日に放送した情報番組『Mr.サンデー』で、舛添要一東京都知事(当時)の「政治資金私的流用疑惑」に関連して、舛添氏の資金管理団体が、ファミリー企業である舛添政治経済研究所に事務所家賃を支払っていた問題をテーマの一つとして取り上げた。番組は、同研究所の代表取締役で夫人の雅美氏を取材するため、同月20日朝、番組クルーを舛添氏の自宅兼事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
この放送に対し、親権者である舛添夫妻は代理人を通じてフジテレビに5月25日付で書面を送り、未成年の長男と長女を執拗に撮影したことは肖像権の侵害に当たると主張、また雅美氏の発言を「作為的に編集、放送した」等と抗議した。これに対しフジテレビは6月2日、長男、長女への「執拗な撮影はしていない」、雅美氏の発言は「ノーカットで放送されており、作為的編集・放送はしていない」等とする回答書を舛添氏代理人に送付した。
これを受けて、雅美氏と二人の子供は6月22日付で人権侵害を訴える申立書を委員会に提出(要一氏、雅美氏は子供両名の法定代理人親権者)。本件放送は雅美氏が「視聴者から誤解を受けるよう仕向ける行為であり、視聴者をも欺く」作為的編集、放送だったとして、番組内での謝罪、作為的な編集と未成年者に対する撮影の中止、放送局としての姿勢の改革、再発防止のための抜本的な改善策の策定・公表を求めた。
申立書は、番組カメラマンが自宅前で長男を執拗に撮影したため、雅美氏が「子供を映さないでください」と何度も抗議したが、その部分は放送ではカットされ、その後、執拗な撮影に対し「いくらなんでも失礼です」と抗議しているにもかかわらず、「それが、視聴者にはわからないように、あたかも同社リポーターの家賃についての質問に答えているかのように、都合よく、カット編集されて、放映された」としている。
さらに二人の子供への撮影行為については、「1mくらいの至近距離からの、執拗な撮影行為により、未成年者である長男と長女は、衝撃を受けた。そのため、両名は、これがトラウマとなり、登校するために、家を出る際、恐怖感を感じ、時には、泣いて家に戻ることもある」と訴えている。
この申立てに対しフジテレビは8月9日、「経緯と見解」書面を委員会に提出、申立人が指摘している放送部分は、「家賃収入に関する女性ディレクター(申立書ではレポーターと記載)の質問から雅美氏の回答部分を一連の流れとしてノーカットで放送したもので、その際には、女性ディレクターの質問の音声の場所を動かすなどの加工も一切していない」として、「申立人が主張するような作為的編集、放送は一切ない」と反論。そのうえで、雅美氏の「いくらなんでも失礼です」という発言については、「早朝であること、アポイントメントを取っていないことなど雅美氏への我々の取材姿勢について『失礼』という発言につながったと理解していている」と述べた。
またフジテレビは自宅兼事務所周辺の取材の主な目的は雅美氏への質問にあり、「取材スタッフには長男、長女を撮影するという意図は全くなく、二人に対する執拗な撮影行為など一切行っていない」と主張。そのうえで、番組では長男、長女の映像は一切使用しないという判断をしたことから、「雅美氏が子供の取材について言及した一連の発言は、当然放送では使用しなかった」と主張した。
長男に関しては、「雅美氏を撮影していた際に、ごく短時間映り込んでしまったものにすぎず」、長女については、「雅美氏を撮影する意図で撮影を開始したところ、2階出入口から出てきたのが長女であったために即座に撮影を中止した」と反論した。
このほかフジテレビは、家賃問題など一連の疑惑において、「金の流れの鍵を握る重要なキーパーソンが雅美氏であり、単なる『家族』ではなく、政治資金の使い道についての説明責任がある立派な『当事者』で、雅美氏を取材することについては、『公共性公益性』が極めて高いと考えている」と、主張している。
委員会事務局は申立人と被申立人に対し、話し合いによる解決を模索するよう要請したが、不調に終わり、申立人代理人から7月26日、改めて「委員会の判断を仰ぎたい」との申立人の意思が事務局に伝えられた。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

7.その他

  • 委員会が年内に開催する系列別意見交換会について、事務局から概要を説明し、詳細を詰めることになった。
  • 次回委員会は9月13日に開かれる。

以上

第237回放送と人権等権利に関する委員会

第237回 – 2016年7月

世田谷一家殺害事件特番事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理…など

世田谷一家殺害事件特番事案の「委員会決定」修正案を検討し、STAP細胞報道事案を引き続き審理した。また、在熊本民放2局を対象にした事件報道に対する地方公務員からの申立て事案を審理した。

議事の詳細

日時
2016年7月19日(火)午後4時~10時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の審理

対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤泰子さんの実姉で、事件当時、隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
今月の委員会では、6月30日の第2回起草委員会を経て提出された「委員会決定」修正案を検討した。その結果、次回委員会でさらに審理を続けることになった。

2.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では、7月13日に会合を開いた起草担当委員から「委員会決定」の骨子メモが提出され、それを軸に各委員が意見を述べた。その結果、担当委員が決定文の起草に入ることになり、次回委員会までに第1回起草委員会を開くことを決めた。

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本) 事案の審理

4.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の審理

対象となったのは、テレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれ放送したニュース番組で、地方公務員が準強制わいせつ容疑で逮捕された事件について報道した。
申立人は、放送は事実と異なる内容であり、フェイスブックの写真を無断使用され、初期報道における「極悪人のような報道内容」により深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めた。
両事案は6月から実質的な審理に入り、今回の委員会を前に被申立人からそれぞれ再答弁書が提出された。その中でテレビ熊本は「現職公務員による準強制猥褻事案であり社会的影響は大きい」とこれまでの主張を繰り返し、熊本県民テレビは「警察を軸に取材し放送内容を組み立てるのは、逮捕の第一報では一定の合理性がある」と主張した。
今月の委員会では、その再答弁書の内容を事務局が説明し、委員の間で意見交換が行われた。委員会は、双方の提出書類が全て出揃ったことから、今後、ヒアリングに向けた起草委員による論点整理を進めることを決めた。

5.その他

  • 「自転車事故企画に対する申立て」事案で、「放送倫理上問題あり」(見解)の委員会決定を受けたフジテレビで、7月11日に坂井眞委員長と担当した二関辰郎委員が出席して研修会が開かれたことを、事務局が報告した。
    社員や制作会社スタッフら約190人が出席し、2時間にわたって決定のポイントやインタビュー取材のあり方等をめぐって意見を交わした。
  • 次回委員会は8月16日に開かれる。

以上

第236回放送と人権等権利に関する委員会

第236回 – 2016年6月

世田谷一家殺害事件特番事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、審理要請案件の取下げ報告…など

世田谷一家殺害事件特番事案の「委員会決定」案を検討し、STAP細胞報道事案を引き続き審理した。また、在熊本の民放2局を対象にした事件報道に対する地方公務員からの申立てについて実質審理に入った。前回委員会で審理要請案件として検討した生活保護ビジネス企画に対する申立てについて、取下げ書が提出されたため事務局から報告した。

議事の詳細

日時
2016年6月21日(火)午後4時~8時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の審理

対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
今月の委員会では、6月6日の第1回起草委員会を経て委員会に提出された「委員会決定」案を審理した。その結果、第2回起草委員会を開催して、次回委員会でさらに検討を続けることになった。

2.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
前回委員会で行った被申立人のヒアリングを受けて、委員会から送った追加質問に対する回答書等がNHKから提出された。今回の委員会では、この回答書も含めた双方のヒアリングの結果を踏まえ、各委員が意見を述べた。次回委員会までに起草担当委員が集まって議論を整理し、次回委員会で引き続き審理することになった。

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の審理

4.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ)事案の審理

対象となったのは、テレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日に放送したニュース番組で、地方公務員が準強制わいせつ容疑で逮捕された事件についてそれぞれ報道した。この放送に対し、同公務員が委員会に申立書を提出、放送は事実と異なる内容であり、フェイスブックの写真を無断使用され、初期報道における「極悪人のような報道内容」により、深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出などを求めた。
これに対しテレビ熊本は、「現職の公務員による事案であり、社会的影響は極めて大きいと考え、取材を重ね事実のみを報道した」として、また、熊本県民テレビは、「報道は正当な方法によって得た取材結果に基づき客観的な立場からなされたもの」として、それぞれ人権侵害はなかったと反論している。
委員会は4月の定例委員会で2局に対する申立てについて審理入りを決定したが、熊本県を中心に起きた地震被害への対応等に配慮しつつ審理することにしていた。その後両局から答弁書、申立人から反論書が提出されたのを受けて今回委員会から実質審理に入った。委員会では、事務局が申立人と被申立人2局それぞれの主張を整理して説明し、委員から意見が示された。今後、両局の再答弁書の提出を待って論点整理を行う方針を確認した。

5.審理要請案件:「生活保護ビジネス企画に対する申立て」 ~取下げ~

5月の定例委員会で審理要請案件として検討したが、その後、事務局の斡旋で申立人と被申立人が改めて話し合いを行った。その結果、双方が合意に達し、申立人から6月15日付で取下げ書が提出された。委員会では、事務局から一連の経緯について報告した。

6.その他

  • 委員会が秋に予定している県単位意見交換会について、事務局が概要を説明し、今後詳細を詰めるとになった。

  • 次回委員会は7月19日に開かれる。

以上

第235回放送と人権等権利に関する委員会

第235回 – 2016年5月

STAP細胞報道事案のヒアリングと審理…など

STAP細胞報道事案のヒアリングを行うため臨時委員会を開催し、被申立人から詳しく事情を聞いた。

議事の詳細

日時
2016年5月31日(火)午後4時30分~10時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
熊本地震の報道対応のため延期していた被申立人のヒアリングを行うため、この日、臨時委員会を開催した。なお、申立人のヒアリングは4月26日に臨時開催された第233回委員会で行われた。(申立人のヒアリングについては第233回委員会の「議事概要」参照
ヒアリングには、被申立人のNHKからSTAP細胞問題を取材してきた科学担当記者や番組担当者ら7人が出席した。
まず、番組の制作意図としてNHKは、「当時はSTAP細胞の存在や、その正体がES細胞なのかどうかも確定していなかった。STAP問題は真相が明らかにならないまま、幕引きが図られる恐れがあった。こうした状況の中、この問題をしっかり検証し再発防止への一助となっていくことがジャーナリズムの重要な役割と考えた」と述べた。
さらに「調査報道なので、1歩1歩、1つ1つ事実を掘り起こして、あの時点で私たちが事実としてつかみ、そして客観的にも紹介できると思ったもので、これはやはり提示しておくべきではないかと判断したものについて番組の中で触れた」「当時は、まだ、それが、いわゆるオフィシャルな形で事実だと言われていない中での取材でありながら、今となってみれば、実際のところ蓋を開けてみると事実だったことは、たくさんある。それだからこそ、最大限の注意を払って制作した」と説明した。
番組が若山教授の言い分に偏っていて公平ではないと申立人が主張していることについては、「様々な疑問を申立人と若山教授のいずれにも向けて取材を続けてきた。常に若山教授が述べていることに矛盾はないか、どこまで客観的に証明できるかを念頭に置いて取材を進めた。ES細胞の混入の可能性について、申立人、若山教授、いずれの考えもそれぞれきちんと伝えている」と述べた。
申立人がマウスの取り違えの可能性に触れずにES細胞混入を指摘したと主張する点については、「番組では若山教授が語った『僕の方に何か間違いがあったのか』というコメントを紹介している。これは若山教授がマウスを渡し間違えたか、と言っているわけだ」「若山教授の歯切れの悪い様子もそのまま伝えており、どちらとも断定していない番組にきちんとなっている」と述べた。
申立人が、視聴者に伝わったのは申立人によるES細胞の窃盗疑惑である、と主張している点については、「盗んだかどうかはわからないが、ファクトとして留学生のES細胞がそこにあったことを伝えた」「番組では、アクロシンが入ったES細胞の話はいったん終わって次の新たな事実について述べるとコメントし、新たな話を始めるとの意図をもって映像も理研の外観を出した」「この部分は時間としてはつながっているが、科学的な側面と管理状況の側面を並立させて見せている」と主張した。
実験ノートの番組での使用について申立人が著作権侵害だと訴えている点についてNHKは、「実験ノートは報道のための利用であり、著作権侵害には当たらない」「多くの人間が閲覧して吟味することを目的として作成されているものなので、本来、著作者人格権の公表権の行使が予定されている著作物ではない」などと主張した。
笹井教授とのメールの公開については「当該のメールは理研の調査委員会に提出された公の資料で、笹井教授本人が実験における自らのかかわりを説明するために提出したものだ。一連のSTAP細胞の件では、発表されたことが二転三転することも多々あり、その中で我々が重要と考えたのはとにかく事実を提示することだった。メールのやり取りは笹井教授が論文作成に確かに関わっていた明確な証拠だ」と述べた。
番組で専門家として紹介した人たちが論文の疑義を指摘した点について、「明らかに科学的におかしいとわかるところをどうやってピックアップするかについて長時間ディスカッションした」「集まってもらった専門家は、それぞれ学会の中での役を務めているような人たちで、ひとつひとつの図について点数のようなものを付けて、その上での最終的な結果が番組で紹介したものだ」と説明した。
申立人が、NHKの強引な取材によって怪我をさせられたと訴えている点については、「怪我をさせた、させないに関わらず、迷惑をかけたという認識は変わっていない。しかしながら、申立人の主張には事実と異なる部分がいくつもあり、その点については複数の映像や取材スタッフの証言をもとに再度確認して説明した」など、詳しく考えを述べた。

2.その他

  • 4月の定例委員会で審理入りが決まった「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)と同(熊本県民テレビ)に関連して、熊本地震の被害状況等について事務局から報告し、6月の委員会で実質審理入りすることが決まった。

  • 次回は6月21日に定例委員会を開催する。

以上

第234回放送と人権等権利に関する委員会

第234回 – 2016年5月

世田谷一家殺害事件特番事案のヒアリングと審理、自転車事故企画事案の通知・公表の報告、ストーカー事件2事案の対応報告、STAP細胞報道事案の審理、審理要請案件の検討…など

世田谷一家殺害事件特番事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。自転車事故企画事案の通知・公表について、事務局から概要を報告した。ストーカー事件再現ドラマ、ストーカー事件映像の2事案について、フジテレビから提出された対応報告を了承した。STAP細胞報道事案を引き続き審理、また生活保護ビジネス企画に対する申立てを審理要請案件として検討した。

議事の詳細

日時
2016年5月17日(火)午後3時~9時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案のヒアリングと審理

対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
今月の委員会では、申立人と被申立人のテレビ朝日からヒアリングを行った。
申立人は代理人弁護士4人とともに出席し、「この番組を見た方たちは、私が著書や講演で述べている半年間にも及ぶ怨恨説の否定の作業と、その過程で見いだした生きる意味について一体何だったんだということになる。そこがぐらつくと、私の述べる悲しみからの再生は伝わらなくなってしまう。悲しみからの再生を決意し、これまで覚悟を持って積み重ねてきた私の活動、私の生き方そのものがこの番組によって破壊されたと感じた。風化を防ぐというもっともらしい目的を挙げ、報道番組だと言われたから真摯に取材に応じたのに、実は興味本位の視聴率稼ぎの番組に遺族役として当てはめられたと感じた」等と述べた。
テレビ朝日からは制作担当のプロデューサーら5人が出席し、「事件の重大性、内容から、報道局も加わった。取材方法や事実関係の確認や放送内容をチェックするという体制で慎重を期した。出演依頼時には企画書を提示し、犯人像・犯人動機を元プロファイラーが独自の分析でアプローチするというのがメインの趣旨であるということを伝えた。犯罪被害者遺族である申立人が、番組に出演して、過去の記憶が呼び覚まされ、苦痛を覚える可能性があるということも含み置いて出演の許諾をいただいた」等と述べた。
ヒアリング後の審理で、次回委員会に向けて担当委員が「委員会決定」文の起草に入ることになった。

2.「自転車事故企画に対する申立て」事案の通知・公表の報告

本件事案に関する「委員会決定」の通知・公表が5月16日に行われた。委員会では、その概要を事務局が報告し、当該局のフジテレビが放送した決定を伝えるニュースの同録DVDを視聴した。

3.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の対応報告

4.「ストーカー事件映像に対する申立て」の対応報告

2016年2月15日に通知・公表された「委員会決定第58号」ならびに「委員会決定第59号」に対し、フジテレビから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が5月13日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。両決定はフジテレビの同じ番組を対象にしている。

5.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
委員会は4月26日に臨時委員会を開いて申立人のヒアリングを行った。被申立人のNHKのヒアリングは熊本地震の報道対応のため主なメンバーの出席が不可能になったことからいったん延期し、5月31日に開催する臨時委員会で行うことになった。今回の委員会では、NHKのヒアリングに向けて、質問項目等が確認された。

6.審理要請案件:「生活保護ビジネス企画に対する申立て」

いわゆる「生活保護ビジネス」を取り上げたニュース企画に対する申立書について、委員会運営規則に照らして審理事案とする要件を満たしているかどうか検討した。次回委員会で改めて申立書の取り扱いを検討する。

7.その他

  • 4月の定例委員会で審理入りが決まった「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)と同(熊本県民テレビ)に関連して、熊本地震の被害状況等について事務局から報告し、引き続き現地の状況に配慮しつつ審理を進めることを確認した。

  • 次回委員会は5月31日に臨時委員会を開催する。6月の定例委員会は6月21日に開かれる。

以上

第233回放送と人権等権利に関する委員会

第233回 – 2016年4月

STAP細胞報道事案のヒアリングと審理…など

STAP細胞報道事案のヒアリングを行うため臨時委員会を開催し、申立人から詳しく事情を聞いた。

議事の詳細

日時
2016年4月26日(火)午後3時~7時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第2会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
本事案についてヒアリングを行うため、この日臨時委員会を開催した。ヒアリングには申立人が代理人弁護士2人とともに出席し、各委員が詳しく事情を聞いた。(被申立人のNHKのヒアリングもこの日予定されていたが、熊本地震の報道対応のため主なメンバーの出席が不可能になったことからいったん延期し、5月31日に臨時開催された第235回委員会で行われた。被申立人のヒアリングについては第235回委員会の「議事概要」参照
この日のヒアリングで申立人は、「NHKは番組を作成するうえで十分な取材・公平な取材の双方が不十分なまま、自分たちが捏造したストーリーに必要な材料だけを揃え、報道を行った。その報道姿勢は極めて強い人権侵害であり、報道機関として許されることではない」と述べた。
さらに、「本件番組構成は、NHKが正当性の根拠としている調査委員会の最終報告書でも認定されていない研究不正について、私を不当に犯人扱いしたものだ。独自取材に基づく調査報道番組であるとして、放送内容の正当性を述べているが、この発言と報道内容を踏まえると、NHKは独自の取材に基づいて調査し、NHKが悪と判断した人に制裁を与える権限があると考えている。これは報道機関として極めて深刻な人権侵害に対する感覚の鈍麻があることが明白だ」と主張した。
若山教授の描き方について、「番組では、疑問が指摘されて以降、STAP細胞があるのかを調べている人として若山教授が紹介されたが、若山教授は実際にSTAP研究を中心となって進めていたのだから、前提から視聴者を欺いている。NHKは、若山教授の言い分と自分たちがこうだと結論付けたものに沿った情報だけを流した。公平性に欠ける説明だし、偏向的な報道である」と主張した。
若山教授が渡したマウスと申立人が作製したSTAP細胞の遺伝子が異なっていたことの原因として、ES細胞が混入していたのではないか、と番組が指摘した点について、「若山教授が私に渡していたマウスとアクロシンGFPマウスの見た目は同じだ。であれば若山教授がアクロシンGFPマウスを誤って渡していたかもしれないと思うのが最初の発想だと思う。番組はそこを経ずにES細胞の存在をいきなり提示した」と主張した。
また、番組で申立人が使用する冷凍庫からES細胞が見つかったことを伝える部分について申立人は、「NHKは表現には十分に気を付けたと言うが、視聴者に伝わったのは小保方によるES細胞の窃盗の疑惑であったことは弁明の余地はない。実際には若山研究室が引越しの際に残していった不用品を引き取っただけで、警察の捜査によっても窃盗の容疑がないことが判明している」と述べた。
実験ノートの番組での使用については、「(たとえ公共性・公益性があったとしても公開されることは)我慢ならない。何故なら、それには、私のこれまでの、全ての秘密が書かれているからだ。私が見つけた細胞の秘密、細胞の神秘、私の発見、私のその時の感動、それが全て書かれたものだった」と訴えた。
笹井教授とのメールの公開については、「疑惑を私と笹井教授のみに向ける番組構成のためにプライバシーの侵害をしたうえ、あえて男女の音声を利用して二人の関係を視聴者に邪推させる悪質な演出が行われた」と述べた。
専門家として日本分子生物学会のメンバーの協力を得て論文を徹底検証したとされる部分については、「分子生物学会の会員ということから、STAPの研究について詳しく述べることができるということには全く繋がらない。噂レベル、井戸端会議みたいな感じだ」と述べた。
NHKの強引な取材によって怪我をさせられたと訴えている点については、「NHKは否定をしているが、私は本当に恐怖で全身が硬直して、右手と頸椎に激しい痛みをもたらす事実があったことは絶対間違いない。命をかけた検証実験をさせられている中で怪我まで負わせ、危険な目に合わせたこと自体反省することもなく、その事実さえ否定してくるNHKに憤りを感じている 」と訴えた。
さらに申立人は、「『ネイチャー』にはSTAPは否定されたが、まだSTAP研究は続いて続報が出ている。そのように科学は少しずつ進歩していくはずだった。それをNHKによって暴力的に握りつぶされた」「生きていくために社会によって認められている権利をNHKによって恣意的に否定された極めて強い人権侵害の事実にほかならない。この番組の放送、報道内容は故意の悪意に満ちた情報のみによって構成され視聴者を意図的に欺くものだった」など詳しく考えを述べた。

2.その他

  • 次回は5月17日に定例委員会を開催する。

以上

第232回放送と人権等権利に関する委員会

第232回 – 2016年4月

自転車事故企画事案、世田谷一家殺害事件特番事案、STAP細胞報道事案の審理、地方公務員からの申立て事案2件審理入り決定…など

自転車事故企画事案、世田谷一家殺害事件特番事案、STAP細胞報道事案を引き続き審理。また事件報道に対する地方公務員からの申立て事案2件を審理要請案件として検討し、審理入りを決めた。

議事の詳細

日時
2016年4月19日(火)午後3時~9時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラエティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前説明が十分でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
今月の委員会では、第2回起草委員会で修正された「委員会決定」案が提示され、詳細に検討した。その結果、大筋で了承されて委員長一任となり、5月に決定の通知・公表が行われる運びになった。

2.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の審理

対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
今月の委員会では、ヒアリングに向けて起草委員が作成した論点・質問項目案について検討した。その結果、5月の次回定例委員会で申立人、被申立人双方にヒアリングを実施することになった。

3.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では論点と質問項目を確認したうえで、ヒアリングを行うために4月26日に臨時委員会を開催することを了承した。

4.審理要請案件:「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)~審理入り決定

上記申立てについて、審理入りを決定した。
対象となった番組は、テレビ熊本(TKU)が2015年11月19日に放送した『TKUみんなのニュース』と『TKUニュース』。番組では、熊本県内の地方公務員が同年7月、「酒を飲んで意識が朦朧としていた知人女性を自宅に連れ込み、デジカメで女性の裸を撮影した」等として準強制わいせつ容疑で逮捕されたと放送した。
同公務員は12月8日、不起訴処分で釈放された後、テレビ熊本に対し、逮捕から不起訴に至るまでの報道の有無とその内容に関する情報開示を請求するとともに、委員会に申立書を提出し、テレビ熊本の事件報道は、「警察発表に色を付けて報道しており、視聴者からすると、あたかも無理やり酒を飲ませて酔わせた挙句、無理やり家に連れ込み、無理やり服を脱がせたうえで写真を撮ったかのように受け取られる」など事実と異なる内容で、またフェイスブックから無断で使用された顔写真や職場の内部、自宅まで放送されるという「完全なる極悪人のような報道内容」、「初期報道でレイプや殺人犯かのような扱い」により、深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出、事実と異なる異常な報道であった旨の放送、インターネットに拡散している情報の削除を求めた。
申立人はその後テレビ熊本に出向いて同局の放送内容を確認のうえで2016年2月22日に追加書面を委員会に提出、その中で(1)自宅前での記者リポートの結果、そこにいられなくなり引っ越した。社会的に抹殺しようという意図が疑われる、(2)「意識朦朧とした女性を連れ込み」という表現により、無理やり連れ込んだという意識を植え付けた、(3)「飲酒以外の影響、薬物の使用」の疑いを強調して「間違いなく」使っているだろうという意識を植え付ける内容、(4)フェイスブックより写真を2枚使用され、画面全体に長時間にわたり表示された、(5)「服を脱がせて裸にして裸を撮影した疑い」という、容疑内容以外のことも容疑内容として放送しており、容疑を認めたという報道により、そのすべてを認めていると誤認させる、(6)「現在の基準に照らしても懲戒免職に該当する」という首長のコメントを放送しているが、詳細を確認し「準強制わいせつということが明確になれば、懲戒免職に該当する」というコメントの一部を抜粋し、恣意的な報道により視聴者に「コイツは懲戒免職になってしかるべき」という印象を植え付けた、(7)2015年12月16日の同番組年末企画「くまもとこの1年」において、不起訴処分にもかかわらず、再度、逮捕の報道を繰り返し、いたずらに名誉を傷つけられた――などと主張した。
これに対しテレビ熊本は3月28日、本件申立てに関する「経緯と見解」書面を委員会に提出。同書面の中で、「今回の事案は、現職の公務員が起こした準強制わいせつの事案であり、その社会的影響は極めて大きいものと考えて、これまでの他の事案に基づき、その上で取材を重ね、事実のみを報道した。その中には、思い込みや容疑者や被害者を陥れるような、また過剰な演出は全くなく、事実のみを伝えており、申立人が指摘するような事実は微塵もない」として、申立人に対する人権侵害は全くないと主張した。
同局はまた、放送は警察発表及び警察幹部への取材を基に行ったものであり、申立人が指摘した記者リポートについては「『犯行現場』でのリポートであり、これは通常の取材と照らし合わせても正当なもの」とする一方、フェイスブック等の写真は申立人の知人ら複数の人に本人確認したうえで使用しており、「著作権法上の報道引用の範囲であり、この事案の報道の主たるものではない」と指摘。さらに申立人が不起訴処分になった時点で申立人の氏名は「匿名」に切り替え、自治体の処分(懲戒免職)についても自治体側の記者会見を元に取材し報道したとしている。
このほか同局は、放送内容のホームページ上の掲載については、「アップされてから24時間で自動消去している。これはいたずらにネット上で拡散する事を防ぐ対応であり、他社と比較しても短いものであると考える」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回定例委員会より実質審理に入る。
尚、委員会は、熊本県を中心に発生した地震に伴う甚大な被害に配慮しつつ本事案の審理を進めることを確認した。

5.審理要請案件:「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ)~審理入り決定

上記申立てについて、審理良入りを決定した。
対象となった番組は、熊本県民テレビ(KKT)が2015年11月19日に情報番組『テレビタミン』内で放送したローカルニュース『テレビタニュース』。番組では、熊本県内の地方公務員が同年7月、「酒に酔って意識が朦朧としていた知人の女性を自分の家に連れて行き、着ていたものを脱がせて全裸をデジタルカメラで撮影した」等として準強制わいせつ容疑で逮捕されたと放送した。
同公務員は12月8日、不起訴処分で釈放された後、熊本県民テレビに対し、逮捕から不起訴に至るまでの報道の有無とその内容に関する情報開示を請求するとともに、委員会に申立書を提出し、熊本県民テレビの事件報道は、「警察発表に色を付けて報道しており、視聴者からすると、あたかも無理やり酒を飲ませて酔わせた挙句、無理やり家に連れ込み、無理やり服を脱がせたうえで写真を撮ったかのように受け取られる」など事実と異なる内容で、またフェイスブックから無断で使用された顔写真や職場の内部まで放送されるという「完全なる極悪人のような報道内容」、「初期報道でレイプや殺人犯かのような扱い」により、深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出、事実と異なる異常な報道であった旨の放送、インターネットに拡散している情報の削除を求めた。
申立人はその後熊本県民テレビに出向いて同局の放送内容を確認のうえで2016年2月22日に追加書面を委員会に提出、その中で(1)警察発表では「意識朦朧」といいう記載はないのに、なぜそのような表現になったのか。また無理やり家に引きずり込み、無理やり服を脱がせたかのように思わせる内容だが、そのような事実はない、(2)「意識が朦朧とした女性の服を脱がせ犯行に及んだ」という趣旨の放送もされており、薬か何かを用いているように思わせている、(3)「間違いありませんと容疑を認めている」と放送することにより、私は写真を撮ったという行為のみを認めているにもかかわらず、全てを認めているかのような報道内容、(4)所属していた職場のアップの映像が放送され、職場には絶対に戻ってこれないように社会的に抹殺してしまおうというモラルを欠いた映像の作り方になっている、(5)フェイスブックより写真が2枚使用されており、画面全体に長時間に渡り表示されていた、(6)スタジオでの男性司会者のコメントについて、有罪になった犯人でもないのに「卑劣な行為」と断言したことで、「コイツは犯人(刑法犯)」という思考にさせる。またそのような事実がないにもかかわらず、「薬物を使用した可能性がある」という点を強調している――などと主張した。
これに対し熊本県民テレビは4月8日、本件申立てに関する「経緯と見解」書面を委員会に提出。同書面の中で、「当社が報道した内容は、公務員が本人の承諾なく女性の裸体の写真を撮影したことによって準強制わいせつ容疑で逮捕されたというものであり、社会的に重大な事案であると考える。申立人の写真や職場の映像を使用したのは、容疑者がどのような人物なのか、どのような職務を行っていたのかを伝えるためで、これは国民の知る権利にこたえるためであり、手順等にも問題があるとは考えていない」と反論。
そのうえで、「今回の当社の報道は、正当な方法によって得た取材結果に基づいて客観的な立場からなされたものであり、申立人のいうような悪意的でモラルを欠いた報道内容であったとは考えていない」として、「当社の報道は、申立人の名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利を不当に侵害する内容ではなく、これらに係る放送倫理に違反した内容でもなく、公平・公正を欠いた内容でもないことから、当社としては、申立人の貴委員会への主張は妥当性がないものと考える」と述べた。
さらに同局は、申立人が不起訴処分になったのが分かった12月9日、ニュースでその事実を放送し、「その際は匿名で申立人の人権にも十分配慮しており、名誉回復は果たしていると考える」と主張した。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準) に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回定例委員会より実質審理に入る。
尚、委員会は、熊本県を中心に発生した地震に伴う甚大な被害に配慮しつつ本事案の審理を進めることを確認した。

6.その他

  • 放送人権委員会の2015年度中の「苦情対応状況」について、事務局が資料をもとに報告した。同年度中、当事者からの苦情申立てが27件あり、そのうち審理入りしたのが6件、委員会決定の通知・公表が6件あった。また仲介・斡旋による解決が3件あった。
  • 次回委員会は4月26日に臨時委員会を開催する。5月の定例委員会は5月17日に開かれる。

以上