第239回 – 2016年9月
事件報道に対する地方公務員からの申立て事案のヒアリングと審理、世田谷一家殺害事件特番事案の通知・公表の報告、STAP細胞報道事案の審理、都知事関連報道事案の審理…など
事件報道に対する地方公務員からの申立て事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人の2局から詳しく事情を聞いた。また世田谷一家殺害事件特番事案の通知・公表について事務局から報告し、STAP細胞報道事案、都知事関連報道事案を審理した。
議事の詳細
- 日時
- 2016年9月13日(火)午後3時~10時20分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.事件報道に対する地方公務員からの申立て(テレビ熊本)事案のヒアリングと審理
2.事件報道に対する地方公務員からの申立て(熊本県民テレビ)事案のヒアリングと審理
3.世田谷一家殺害事件特番事案の通知・公表の報告
4.STAP細胞報道事案の審理
5.都知事関連報道事案の審理
6.その他 - 出席者
-
坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員
1.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案のヒアリングと審理
2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案のヒアリングと審理
対象となったのはテレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれニュースで扱った地方公務員による準強制わいせつ容疑での逮捕に関する放送。申立人は、放送は事実と異なる内容であり、初期報道における「極悪人のような報道内容」などにより深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めた。
今回の委員会では、申立人と被申立人であるテレビ熊本と熊本県民テレビの出席を求め、それぞれ個別にヒアリングを行った。テレビ熊本からは取締役報道編成制作局長ら2人が、熊本県民テレビからは取締役報道局長ら3人が出席した。
この中で申立人は、まず事案全般について「事実と違う内容、過剰な報道、フェイスブックの写真を複数無断で使用された点が大きな問題だ」と指摘すると同時に、対象の2局は「公務員に対する偏向報道が顕著だ」と主張した。特に申立人は、フェイスブックの写真使用について、「個人アカウントを特定され、自分への誹謗中傷や、友人、家族にも被害が及ぶ可能性があり、かなり危険だ」と述べた。
その上で、テレビ熊本について、自宅前での記者リポートを取り上げ「自宅の映像まで放送したことは、いかがなものかと思う」と述べた。また、不起訴後にもかかわらず「公務員の不祥事」をまとめた年末企画の中で扱ったことを問題と指摘した。
これに対して、テレビ熊本は「現職の公務員による準強制わいせつ事案であり、社会的関心も高く、警察取材を基に事実のみを伝えた」と主張した。また、記者リポートは、「現場を特定するもので、交通事故の現場等と照らし合わせても正当だ」と説明するとともに、年末企画は「匿名とするなど人権に配慮した」と主張した。
一方、熊本県民テレビに対して申立人は、放送の中で「卑劣な行為」と出演者がコメントしたことについて、「人気キャスターの発言は影響力が強く、有罪だと思わせるものだった」と主張した。これに対して熊本県民テレビは、「警察以外に対して取材する努力は大切だが、性犯罪の密室性、被害者のプライバシー等の問題もあり、一報の段階では警察発表に基づいて報道することに一定の合理性があったと思う」と主張した。また、出演者のコメントについて「行為について言ったもので、不適切とは考えていない」と述べた。
委員会はこの後、論点に即してヒアリング内容について意見交換を行い、10月初めに起草委員が起草準備のための会合を開くことを決めた。
3.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の通知・公表の報告
本件事案に関する「委員会決定」の通知・公表が9月12日に行われた。委員会では、その概要を事務局が報告し、当該局のテレビ朝日が放送した決定を伝えるニュースの同録DVDを視聴した。
4.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理
対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2,000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今月の委員会では、9月6日に行われた第2回起草委員会を経て提出された「委員会決定」案について審理した。次回委員会では、さらにこの決定案の検討を続けることになった。
5.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理
対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日に放送した情報番組『Mr.サンデー』で、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体が夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃を支払っていた問題を取り上げた。番組では、雅美氏を取材するため早朝に取材クルーを団体と会社の所在地である舛添氏の自宅兼事務所に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は1メートル位の至近距離から執拗な撮影をされて衝撃を受け、これがトラウマになって登校のため家を出る際に恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集され、視聴者に雅美氏を誤解させる放送だったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した「経緯と見解」書面において、2人の子供を取材・撮影する意図は全くなく、執拗な撮影行為など一切行っておらず、雅美氏の発言も家賃に関する質問から雅美氏の回答を一連の流れとしてノーカットで放送したもので、作為的編集の事実は一切ないとしている。さらに政治資金の流れの鍵を握るキーパーソンで使い道について説明責任がある雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
前回の委員会で審理入りが決まったのを受けてフジテレビから申立書に対する答弁書が提出され、今月の委員会ではこれまでの双方の主張をまとめた資料を事務局が提出した。
6.その他
- 次回委員会は10月18日に開かれる。
以上