第237回-2021年8月
「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」の審議入り…など
2021年8月24日、第237回青少年委員会を千代田放送会館会議室およびオンラインで開催し、6人の委員が出席しました。
2件の討論案件のうち、「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」については、視聴者やBPOの中高生モニターから、出演者に痛みを伴う行為を仕掛け、それをみんなで笑うような、苦痛を笑いのネタにする各番組は、「不快に思う」、「いじめを助長する」などの意見が継続的に寄せられてきていること等を踏まえ、委員会で視聴者意見が寄せられた複数の番組を視聴した上で討論しました。その結果、青少年に与える影響の重大性に鑑み、このテーマの審議入りを決めました。
一方、千葉県八街市の飲酒運転による児童5人死傷事故の取材で、被害者の同級生へのインタビューを放送した番組については、委員会で複数の放送局に対し、取材の目的・保護者等への許諾の取り方・チェック体制・2005年の「『児童殺傷事件等の報道』についての要望」の認識状況、などを文書にて問い合わせをし、その報告メモを基に討論を進めました。その結果、子どもに与える影響という観点から取材や放送時に留意すべき点について、討論を継続することになりました。
7月後半から8月前半までに視聴者から、高校生が深夜に出演した東京オリンピック開会式や、バスの中で吊革や手すりにつかまらないことにチャレンジするバラエティー、大浴場の脱衣所で男性芸人が全裸状態のままピンチを迎えるドッキリ系バラエティーなどについて、批判的な意見が寄せられました。委員会ではこれらの視聴者意見について議論しました。
8月の中高生モニターのリポートのテーマは「終戦関連番組(ドラマ・ドキュメンタリーなど)について」でした。太平洋戦争末期の米軍捕虜を実験体にした生体解剖事件を描いたドラマについて、「私たちは、ある程度自由に意見を言うことのできる時代に生きています。それは幸せなことだと感じました」などのリポートがありました。委員会ではモニターからの意見について議論しました。
最後に今後の予定について話し合いました。
次回は、9月28日に定例委員会を開催します。
「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」の審議入り
BPOに寄せられる視聴者の声や中高生モニターの自由記載に、出演者に痛みを伴う行為を仕掛け、それをみんなで笑うような「苦痛を笑いのネタにする番組」について、「不快に思う」「いじめを助長する」という意見が継続的に寄せられていること等を踏まえ、青少年委員会では視聴者意見が寄せられた複数の番組を視聴した上で討論を行ってきました。
委員会では、青少年、特に児童に与える影響を考えると放送局の制作現場に配慮を求めることを検討する必要があるとして、審議入りすることとなりました。
委員からは、概要、以下のような意見が出されました。
- 当委員会から2000年と2007年の2回、上記について見解を出し、あるいは2009年に放送倫理検証委員会でバラエティー番組の在り方についての具体的な意見が出されたが、その後も継続的に視聴者意見が寄せられている。特に痛みを伴う…肉体的のみでなく精神的なものも含め…今まで視聴したように、ある程度作り込んだものではなくて、明らかに本人が痛がっていると思われる、苦しんでいると思われるものを放送することの意味合いについて、今回改めて検討する必要があろう。
- 2009年に放送倫理検証委員会が出した「最近のテレビ・バラエティーに関する意見」で触れられた「バラエティーが『嫌われる』5つの瞬間」をまとめた報告書は優れたものである。これは、おおよそ大人を相手にした、大人が見るバラエティーにということを前提にバラエティー制作者に向けたものだったと理解したが、青少年委員会としては、視聴者意見や中高生モニターの意見を踏まえ、子どもの発達と認知の仕方への配慮という視点が重要であろう。
- 映像で代理罰…「こういうことはしていけない、なぜならば、そういう悪いことをした人は映像の中でこっぴどく叱られる」ということで、罰を映像で見せることが本人の行動を抑制するのに効くかという点に関しては、これは心理学で分かっていることであるが、全くそうではない。「よい子はマネしないでね」という注意喚起を出してもマネをする。
- 人が痛みを感じている、それもリアリティーがあるような形で痛みを感じているのを皆で見ながら嘲笑する、冷たい笑い…冷笑をするということが青少年、とりわけ子どもの内面や子どもの社会にどういう影響を与えるのかを検討する必要がある。
- 視聴した番組の中には工夫されていると思われるものもあったと思う。中には、ネタで人を痛めているとか、意地悪しているように見えても、他のところでフォローする、尊厳までは傷つけない…というような演出に持っていくように気をつけていると受け取れる番組もあった。
- 安全性の面などにおいて、それなりにマイルドになってきているところがあると思う。それでも、年齢の低い青少年、特に子ども(=児童)に与える影響や気をつけなければいけないポイントについて、外部の専門家の意見も参考にして反映させるべきだ。
- 検討にあたっては、子ども達に対して、どのように、どのような心理的な影響を与えるのかについて番組制作者側と意思疎通を図り、理解を得ることが重要だと思う。
討論の結果、次回委員会から実質的な審議に入ることにしました。
八街市児童5人死傷事故報道における同級生へのインタビューを放送した番組の討論
千葉県八街市の飲酒運転による児童5人死傷事故の取材で、被害者の同級生へのインタビューがPTSD等の配慮に欠けた無神経なもので、モザイクもなく中には回答を誘導するようなものもあったとの意見が寄せられました。
委員会では、複数の放送局に対し、取材の目的・保護者等への許諾の取り方・チェック体制・2005年の「『児童殺傷事件等の報道』についての要望」の認識状況、などを文書にて問い合わせをし、その報告メモを基に討論を進めました。
委員からは、概要、以下のような意見が出されました。
- テレビ局からの回答により、放送するにあたって協議が行われたことが分かったが、一方で内容を見ると、顔出しの意味がどれだけあったのか疑問だ。
- 誘導かどうかの判断は難しい。放送に際しては、今の時代画像が保存・拡散され、証言をしてくれた子が周りからどのように言われるか配慮が必要と考える。
- 取材に際して、将来フラッシュバックのような心理的リスクもあることを提示して保護者に許諾を取ったのか、すなわち、保護者がその危険性・問題点を認識できるような許諾の採り方をしていたかが気になる。
- 児童への被害者に関する「人となり」取材は、事件・事故には欠かせない公共性・公益性が高い要素であると回答されているが、親が承諾した、この言葉が取れたから…という、やはり「画・音」が欲しいという考えが優先し、子どもに与える影響に対する検討が不十分になってしまっていなかったか懸念がある。
- 2005年の「『児童殺傷事件等の報道』についての要望」は各局認識していると回答があったが、改めてその趣旨を確認することは重要だと思う。
- 今回のような事件での子どもに対する取材報道では、第一に、事件直後に被害者の周辺にいてショックを受けている子ども達にこうした取材をすることによって、子どもにどういう心理的な影響を与えるものなのかを、慎重に判断してほしい。
以上のような意見を受けて、子どもの取材やインタビューの放送時に留意すべきと考える点について次回継続して討論を行い、「委員長コメント」を公表する方向で進めることになりました。
視聴者からの意見について
7月後半から8月前半に寄せられた視聴者意見について議論しました。
オリンピックの開会式に未成年者の高校生を合唱で出演させていた件について、「労働基準法第61条に抵触するのでは」「児童福祉法第違反では」等の意見が寄せられました。
委員からは、「対価を得ての労働とは違うので、1988年に労働省(当時)が出した『芸能タレント通達』に照らし合わせても、法律違反とは言えない」との意見が出されました。
バスの中で吊革に掴まらず手すりにも接触しないことにチャレンジするバラエティー番組に対して、「ヘルメット等の着用、倒れた時用の緩衝材等の対策は取られていたが、非常に危険だ」「私はバスの運転手だが、子どもが真似をすると非常に危険。せめて絶対にマネしないでと注意喚起するテロップは流せなかったものか」という意見が寄せられました。
委員からは、「安全確認をしていれば許容されるものであろう」「マネしないように、という注意喚起は必要だろう」との意見が出されました。
大浴場の脱衣所で男性芸人のロッカーが開かなくなり全裸状態のまま男湯と女湯がチェンジする時間となり、そこへ生動画配信の女性が入って来るという「全裸ピンチ」ドッキリ番組に対して、「その様子をモニターで見て皆で笑う光景はイジメだ」「男性を犯罪者に仕立て上げ警察を呼び、それを皆で笑うのは男性蔑視で不快」との意見が寄せられました。
委員からは、「出演者も承知のシチュエーションコントとして楽しむものとは思うが、痛めつけて周りが笑うというその構図自体が不愉快なのだろう」「やはり男性の裸は女性に比べて軽々しく扱われている、男女が逆ならありえない」との意見が出されました。
中高生モニター報告について
35人の中高生モニターにお願いした8月のテーマは、「終戦関連番組(ドラマ・ドキュメンタリーなど)について」でした。「自由記述」と「青少年へのおすすめ番組」の欄も設けました。全部で32人から報告がありました。
「終戦関連番組(ドラマ・ドキュメンタリーなど)について」では、複数のモニターから意見が寄せられたのは6番組でした。『NHKスペシャル「原爆初動調査 隠された真実」』(NHK総合)に6人から、『特集番組「#あちこちのすずさん2021~教えてください あなたの戦争~』(NHK総合)に5人から(「青少年へのおすすめ番組」と合わせると12人から)、『NHKスペシャル 選「原爆投下・10秒の衝撃」』(NHK総合)と『ドラマ×マンガ「特攻兵の幸福食堂」』(NHK‐BSプレミアム)、『池上彰のニュースそうだったのか‼ 戦争のこと 改めて考えてみようSP』(テレビ朝日)にそれぞれ3人から、『終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」』(NHK総合)に2人から報告がありました。それ以外のモニターは別々のものを取り上げており、全部で16番組について報告がありました。
「自由記述」では、オリンピックに関連して記述したモニターが最も多く、「東京オリンピックが無事開催できて良かった」「選手の活躍に感動した」という内容が複数件ずつ寄せられました。一方で、放送局がオリンピック選手に行うインタビューについて、「競技終了直後の息切れで苦しそうな選手に、そのタイミングでインタビューする必要が本当にあるのか」という意見も複数上がっていました。
「青少年へのおすすめ番組」では、『特集番組「#あちこちのすずさん2021~教えてください あなたの戦争~』(NHK総合)と『1億人の大質問!?笑ってコラえて!2時間SP』(日本テレビ)にそれぞれ6人が、『ボクらの時代』(フジテレビ)に4人が、『サマーウォーズ』(BS12 トゥエルビ)に2人が感想を寄せました。
◆委員の感想◆
◆モニターからの報告◆
以上