第79回 放送と人権等権利に関する委員会

第079回 – 2003年8月

7月の苦情対応状況

「山口県議選事前報道で名誉毀損」審理要請申立て…など

7月の苦情対応状況

7月1日のBPO発足から、6月までと比べて、寄せられた苦情等の集約の仕方が変わった点を事務局が説明した。

BPOに寄せられた7月1か月間の苦情・意見は次のとおり。

◆件数 1215件=内訳

  • 人権関連の苦情 55件
  • 番組関連の苦情  319件
  • 青少年関連の苦情  239件
  • BPOへの問い合わせ  92件
  • その他(心因性含む)  510件

◆人権関連の苦情〔55件〕

  • 斡旋・審理に関連する苦情(関係人からの人権関連の苦情で、氏名や連絡先 番組名などが明らかなもの)・・・17件
  • 人権一般の苦情 (人権関連だが、関係人・当事者ではない視聴者からの苦情、または、氏名・連絡先や番組名などが不明なもの)・・・38件

◆その他、放送人権委員会への問い合わせなど・・・3件

この後、個別の苦情内容の概要が説明され、その中で、「患者からの一方的な取材のみに基づく放送で、医師が非難された」という苦情が紹介されたが、このケースは、本人の医師が”表面に出たくない”という事で、”相談”という段階に留まっているとの説明があった。

「山口県議選事前報道で名誉毀損」審理要請申立て

まず、事務局から本件事案の概要が報告された。その内容は、以下のとおり。

今年4月の山口県議会議員選挙に立候補した男性が申し立ててきた対象番組は、テレビ山口が3月25日に放送した夕方のローカルニュース番組の中の「統一地方選挙企画シリーズ・県議選なんでも一番」。これまでの県議選のデータの中から最年少当選者や最年長当選者、最多当選回数者、最多得票者など何でも1番を伝えた後に、申立人が最多立候補者として実名・顔写真付きで紹介された。その時の放送コメントは「合わせて12回出馬していますが、いずれも当選にいたっていません」で、また画面スーパーで「いずれも落選」と表示された。

この報道に対し、申立人は「選挙前に落選12回との報道は、”この人は投票しても役立ちそうにない”と選挙民を誘導することになり、選挙妨害である。 自分は繰上げ当選資格者であり断じて落選者ではない。虚偽報道で名誉を毀損された。

また、放送された写真は、自宅の外壁前で故意に撮ったもので、それを無断で使われ、肖像権の侵害だ」と主張している。

これに対しテレビ山口は、「落選12回という表現は事実に基づいた内容で、申立人の選挙ポスターなどにも記載されており、本人が隠したかった内容とは思えない。申立人が訴えた山口地方法務局人権擁護課からは『今回の報道は名誉毀損や人権を侵害したとまでは言えない』との見解が出ており、違法性はない」と主張している。また写真については「選挙用の顔写真を各社一緒に撮影した時に当社の担当が休みでいなかった為、後日、本人の了解を得て自宅前で撮ったもの」と説明している。

この後、当該局から委員会に提出された放送済みビデオを視聴し、この事案を審理するかどうか検討した。その結果、双方の主張は相容れない状況になっていると判断できることなどから放送人権委員会運営規則第5条の「苦情の取り扱い基準」に該当しているとして、本事案を審理することを決めた。

なお、この日の委員会では以下のような意見があった。

  • 法定得票数を確保しているから落選ではないと申立人が主張している点はいかがか
  • このケースは、申立人の名誉感情を害されたという問題と、報道によって選挙結果に不利に作用したかという問題の二つに大別されるのではないか。
  • 選挙情報を伝えることは、国民の知る権利に報道機関が応える当然の責務であり、これと名誉感情が害されたかどうかのどちらが優先するか吟味する必要がある。
  • 告示前という時期の放送としてはどうか。

本事案については、次回委員会で論点整理を行うなど、本格的な審理に入ることになった。

苦情対応事案について

事務局から、斡旋解決事案と審理等再検討要請への対応、それに苦情申し入れ案件についての報告があり、意見交換した。

  • 「写真の無断使用に苦情」=斡旋解決
    8月1日に大阪の男性からBPOに寄せられた苦情で、その内容は「6月に放送された、精神障害者の社会復帰を目指す番組の中で、仲間と一緒に自分が写っている8年前の写真が断りもなく使われた。その後、仲間とは立場や考えが変わり、一緒の写真を使われて非常に迷惑している」というもの。
    事務局では、当該局に「苦情連絡表」を送る一方、苦情申立人に放送局側との話し合いを勧めた。
    その結果、局側が、無断での写真使用を陳謝する謝罪文を出し、決着した。
    本件は、今年度4件目の斡旋解決事案となった。
    なお、委員から「このケースを含めて斡旋解決事案を今後の教訓として生かし、蓄積していく為にも、謝罪文や合意文書を、出来れば当事者から取り寄せておくことが望ましい」という意見が出、今後検討していくことになった。
  • 審理等再検討要請に理事長名文書=報告
    去年6月に高校教諭が痴漢容疑で逮捕されたニュースで、学校名を実名で放送されたことに対して、当時のPTA会長が「教育的配慮に欠ける」と放送人権委員会に申し立てたが、放送人権委員会は審理対象外とした件で、今年7月元PTA会長から新組織BPOで再検討してほしいとの要請があった。BPOで検討した結果、理事長名の文書を元PTA会長に送り、理解を求めた。
    文書の概要は、「再検討要請を7月の放送人権委員会に報告し、BPO内にある放送番組委員会で扱えないかなどを検討した。しかし、番組委員会は苦情処理機関としての性格付けがなされていないので、直ちにこの問題を検討・審理するのは難しい。また、指摘された匿名か実名かの問題も、今、BPOが一つの方向を放送局側に押し付けるわけにもいかない。今後、各委員会のあり方などを検討していく中で、こうした問題にも取り組んでいくので、ご理解願いたい」というもの。
    委員会は以上の報告を了承した。
  • 「”ゴミ屋敷”番組に精神科医が抗議」=報告
    ゴミをため込んだ家を訪れ片付けるよう働きかける番組に、大阪の精神科医が抗議し、「放送人権委員会で検討して欲しい」と要請してきたケース。精神科医が指摘する点は、「取材対象の屋敷の住人は精神障害の可能性があるが、そういう人達を了解を得ずに取り上げると、人権侵害につながったり、障害者差別を助長する恐れがある」、また「こうしたゴミ屋敷問題の解決は、行政など公的機関が当たるべきで、何の権限もないテレビ局が直接解決に当たるのは許されるのか」という内容で、「番組は生活の奇妙さや異質さを強調して笑いを取ろうとしており、問題だ」としている。
    これに対し、精神科医が事務局に送ってきた当該局の返答文書によると、放送局側は「ゴミ屋敷問題を取り上げ放送することには、公共性・公益性がある。住民が精神障害者である可能性を前提にした議論は差し控えたい」と述べている。
    このケースは、現行の放送人権委員会運営規則では、精神科医に申立人の資格がないこと、住人が障害者か否か確認しにくいことなどから、放送人権委員会の審理対象にはなりにくいものの、テレビ番組の本来あるべき姿を考える素材を有していることから、引き続き委員会で検討することになった。

そ の 他

事務局から以下の3点について説明・報告があった。

  • 法律専門調査役を採用
    放送人権委員会の機能強化等を目的に、若手弁護士(30歳)を法律専門調査役(非常勤)として9月1日から採用する。苦情・審理事案などについて法律面でのアドバイスを求め、委員会にも出席してもらうことになる。
  • BPO事務局と在京放送事業者との意見交換会
    9月中にも開催して、今抱えている課題などについて意見交換し、BPO事務局からの要望も伝えたい。
  • 放送人権委員会委員と北海道地区担当者との意見交換会
    委員が現地に出かけて、その地域の放送局の担当者等と意見交換を行う。
    今回は10月下旬に札幌で行う予定。

最後に、次回の定例委員会の開催予定を9月16日(火)午後4時からと申し合わせ、議事を終了した。

以上