2015年度 第58号

「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」に関する委員会決定

2016年2月15日 放送局:フジテレビ

勧告:人権侵害(補足意見付記)
フジテレビは2015年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』で地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内いじめ行為を取り上げた。番組では、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとされ名誉を毀損されたと申し立てた事案。放送人権委員会は審理の結果、2月15日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には人権侵害があったとの判断を示した。

【決定の概要】

本件は、フジテレビがバラエティー番組『ニュースな晩餐会』(2015年3月8日の放送)で、「ストーカー事件」の被害の問題について、その一例を伝える目的で放送し、職場の同僚の間で行われたつきまとい行為やこれに関連する社内いじめを取り上げたものである。この中で、役者による事件の再現映像と、申立人の職場の人物のインタビュー映像や隠し撮り映像、申立人自身の会話の隠し録音などが随所に織り込まれた映像が放送された。
申立人は、この放送について、申立人を社内いじめの「首謀者」、「中心人物」とし、つきまとい行為を指示したとする事実無根の放送を行ったものであるとし、この放送によって名誉を著しく毀損されたとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送は、関係者の映像等にボカシを入れ音声を加工したこと、役者による再現には「イメージ」とのテロップを付し、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」とのテロップも付したことから、フジテレビは、本件放送が特定の人物や事件について報道するものではないとしている。しかし、現実にあった事件の関係者本人の映像や音声を随所に織り込み、再現の部分も含めて一連の事件として放送している以上、視聴者は、現実に起きた特定の事件を放送しているものと受け止める。
本件放送には一定のボカシがかけられるなどしているものの、職場の駐車場の映像や、申立人の職場関係者に関する情報が含まれていること、取材協力者でもあった事件関係者らが、本件放送が行われることを予め職場などで話して回ることも十分予想できる状況下であったことなどから、本件放送内容は、職場の同僚にとって、登場人物が申立人であると同定できるものであった。
以上を前提とすると、本件放送は、申立人を社内いじめの「首謀者」、「中心人物」とし、実行者に「ストーカー行為をさせ」ていたなどと指摘するものであることになるが、これらの点が真実であるとはおよそ認められず、真実と信じたことに相当性もない。したがって、本件放送は、申立人の名誉を毀損するものであった。
フジテレビは、本件放送が基本的には現実の事件を再現するものとして視聴者に受け止められるにもかかわらず、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」等のテロップを付したことなどから、本件放送が現実の事件の真実から離れても問題はないと安易に思い込み、取材においても一方当事者への取材のみに依拠して職場内での事件の背景や実態を正確に把握する努力を怠り、真実とは認めがたい申立人に関する事実を放送して申立人の名誉を毀損してしまうこととなった。
したがって、委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を放送するとともに、再発防止のために、人権と放送倫理にいっそう配慮するよう勧告する。

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2016年2月15日 第58号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第58号

申立人
食品工場契約社員 A氏
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『ニュースな晩餐会』(日曜日 午後7時58分~8時54分)
放送日時
2015年3月8日(日)午後7時58分から約27分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送と現実の事件の関係
  • 2.本件放送の登場人物と申立人の同定可能性
    • (1)本件放送内容と申立人の同定可能性
    • (2)フジテレビの反論について
  • 3.本件放送の内容と申立人の名誉の毀損
  • 4.本件放送の公共性・公益性
  • 5.申立人に関する放送内容の真実性
  • 6.申立人に関する事実を真実と信じたことの相当性
  • 7.小括
  • 8.放送倫理上の問題

III.結論

  • 補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2016年2月15日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、午後1時からBPO会議室で行われ、坂井委員長と起草を担当した市川委員長代行、紙谷委員が出席し、申立人本人と、被申立人のフジテレビからは編成統括責任者ら4人が出席した。午後3時から千代田放送会館2階ホールで、坂井委員長、市川委員長代行、紙谷委員が出席して記者会見を行い、2事案の委員会決定を公表した。報道関係者は21社41人が出席し、テレビカメラ3台(うち1台は民放代表カメラ)が入った。

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2016年5月17日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

2016年2月15日に通知・公表された「委員会決定第58号」ならびに「委員会決定第59号」に対し、フジテレビジョンから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が5月13日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2015年度 第59号

「ストーカー事件映像に対する申立て」に関する委員会決定

2016年2月15日 放送局:フジテレビ

見解:放送倫理上問題あり
フジテレビは、2015年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』で地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内いじめ行為を取り上げた。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、映像のボカシが薄く、会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなので自分と特定されてしまう、として人権侵害を申し立てた事案。委員会は人権侵害があったとは認められないが、放送倫理上問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

本件は、フジテレビがバラエティー番組『ニュースな晩餐会』(2015年3月8日の放送)で、「ストーカー事件」の被害の問題について、その一例を伝える目的で放送し、職場の同僚の間で行われたつきまとい行為やこれに関連する社内いじめを取り上げたものである。この中で、役者による事件の再現映像と、申立人の職場の人物のインタビュー映像や申立人が隠し撮りされた映像、同僚同士の会話の隠し録音などが随所に織り込まれた映像が放送された。
申立人は、この放送で「ストーカー行為を行った人物」として取り扱われ、そのことが職場に広く知れ渡ってしまい、また、放送内容も事実と大きく異なっていたために、本件放送によって名誉を毀損されるなどの人権侵害を受けたとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には、申立人の名誉を毀損する等の人権侵害があるとはいえないが、放送倫理上の問題があると判断した。決定の概要は、以下のとおりである。
フジテレビは、関係者の映像等にボカシを入れ音声を加工したこと、役者による再現には「イメージ」とのテロップや、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」とのテロップを付したことから、本件放送が特定の人物や事件について報道するものではないとしているが、現実にあった事件の関係者の映像や音声を随所に織り込み、再現の部分も含めて一連の事件として放送している以上、視聴者は、現実に起きた特定の事件を放送しているものと受け止める。
本件放送では、一定のボカシがかかっているとはいえ、職場の駐車場の映像や、申立人の職場関係者に関する情報が含まれていること、放送当日、取材協力者でもあった「ストーカー事件」の被害者らが、本件放送が行われることを予め職場などで話して回ることも十分予想できる状況下であったことなどから、職場の同僚には本件放送の登場人物が申立人であると同定できる。
とはいえ、本件放送は、公共の利害に関する事実を、公益をはかる目的で放送したものであり、申立人が行っていたことに関する基本的事実関係については真実であると認められるので、申立人に対する名誉毀損等の人権侵害があるとはいえない。
しかし、フジテレビは、本件放送が基本的には現実の事件を再現するものとして視聴者に受け止められるにもかかわらず、「被害者の証言に基づいて一部再構成しています」などのテロップを付したことなどによって本件放送が現実の事件の真実から離れても問題はないと安易に思い込み、真実に迫るための最善の努力を怠り、取材においても一方当事者からの取材のみに依拠して、職場内での処遇の不満や紛争という事件の背景や実態を正確に把握する努力を怠った。また、このような取材、放送の在り方は、申立人の名誉やプライバシーへの配慮を欠くものであった。さらに、フジテレビは、本件放送に対する申立人らの苦情に真摯に向き合わなかった。これらの点で、本件放送と放送後のフジテレビの対応には放送倫理上の問題がある。
したがって、委員会は、フジテレビに対し、本決定の趣旨を放送するとともに、再発防止のために、人権と放送倫理にいっそう配慮するよう要望する。

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2016年2月15日 第59号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第59号

申立人
食品工場社員 B氏
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『ニュースな晩餐会』(日曜日 午後7時58分~8時54分)
放送日時
2015年3月8日(日)午後7時58分から約27分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送と現実の事件の関係
  • 2.本件放送の登場人物と申立人の同定可能性
    • (1)本件放送内容と申立人の同定可能性
    • (2)フジテレビの反論について
  • 3.本件放送の内容と申立人の名誉の毀損
  • 4.本件放送の公共性・公益性
  • 5.申立人に関する放送内容の真実性など
  • 6.放送倫理上の問題
    • (1)事実を事実として伝える必要性
    • (2)関係者の名誉やプライバシーに配慮する必要性
    • (3)小括~本件放送内容にかかわる放送倫理上の問題
    • (4)放送後の対応の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2016年2月15日 決定の通知と公表の記者会見

前事案に引き続き午後2時から、本件の通知を行い、申立人と、フジテレビ側からは編成担当者ら4人が出席した。 午後3時から千代田放送会館2階ホールで、坂井委員長、市川委員長代行、紙谷委員が出席して記者会見を行い、2事案の委員会決定を公表した。報道関係者は21社41人が出席し、テレビカメラ3台(うち1台は民放代表カメラ)が入った。

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2016年5月17日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

2016年2月15日に通知・公表された「委員会決定第58号」ならびに「委員会決定第59号」に対し、フジテレビジョンから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が5月13日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。

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2015年度 第57号

「出家詐欺報道に対する申立て」に関する委員会決定

2015年12月11日 放送局:NHK

勧告:放送倫理上重大な問題あり
NHKは2014年5月14日(水)に放送した報道番組『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』で、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」と紹介されたA氏(申立人)が、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」「申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」などとして、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
これに対しNHKは、「映像・音声の加工による匿名化が万全に行われており、申立人であることは本人をよく知る人も含めて視聴者には分からない」などと反論、人権侵害も名誉棄損も成立する余地はないと主張した。
委員会は2015年12月11日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には放送倫理上重大な問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

NHKは、2014年5月14日(水)に放送した報道番組『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』で、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた(以下、「本件放送」という)。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」と紹介されたA氏(申立人)が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
これに対し、NHKは、映像・音声の加工による匿名化が万全に行われており、申立人であることは本人をよく知る人も含めて視聴者には分からないと反論した。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送には申立人が4か所登場する(以下、「本件映像」という)。本件映像では申立人の顔はまったく見えない。申立人はNHKの記者が持参したセーターに着替え、腕時計や指輪もはずして、撮影に臨んだ。申立人は体型としぐさの特徴などによって本人を特定できると主張するが、本件映像を詳細に検討しても、申立人と特定できるものではない。申立人と特定できない以上、本件映像は人権侵害には当たらない。
しかし、番組が放送された場合、視聴者が申立人と特定できなくても、申立人自身は自らが放送されていることを当然認識できる。それが実際の申立人とは異なる虚構だったとすれば、そこには放送倫理上求められる「事実の正確性」に係る問題が生まれる。
NHKの記者は、かねてからの取材協力者であり、本件映像に多重債務者として登場するB氏の話から申立人が「出家詐欺のブローカー」であると信じていたと思われる。しかし、「出家詐欺」をテーマとする番組に、それを斡旋する「ブローカー」として申立人を登場させる以上、最低限、本人への裏付け取材を行うべきだったし、たとえ、本人への直接取材ができなくとも裏付け取材の方法はいくつも考えられる。本件映像はそうした必要な裏付け取材を欠いていた。
また、本件映像には申立人の「ブローカー活動」の実際に関して、記者によるナレーションなどが伴っている。それらは「たどりついたのはオフィスビルの一室。看板の出ていない部屋が活動拠点でした」など、明確な虚偽を含むもので、全体として実際の申立人と異なる虚構を伝えるものだった。
NHKは必要な裏付け取材を欠いたまま、本件映像で申立人を「出家詐欺のブローカー」として断定的に放送した。また、明確な虚偽を含むナレーションを通じて、全体として実際の申立人と異なる虚構を視聴者に伝えた。匿名化のうえで「出家詐欺のブローカー」として映像化されることに申立人の一定の了解があったとはいえ、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」(「放送倫理基本綱領」日本民間放送連盟・日本放送協会制定)との規定に照らして、本件映像には放送倫理上重大な問題がある。委員会は、NHKに対して、本決定を真摯に受けとめ、その趣旨を放送するとともに、今後こうした放送倫理上の問題がふたたび生じないよう、『クローズアップ現代』をはじめとする報道番組の取材・制作において放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する。

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2015年12月11日 第57号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第57号

申立人
大阪府在住A
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』
放送日時
2014年5月14日(水)午後7時30分~7時56分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.人権侵害に関する判断
  • 3.放送倫理上の検討

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年12月11日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には12月11日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人へは、放送局への通知と同時刻に大阪市内の申立人の代理人弁護士事務所で行われた。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は24社59人が出席した。
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2016年3月15日 委員会決定に対するNHKの対応と取り組み

2015年12月11日に通知・公表された「委員会決定第57号」に対し、NHKから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年3月10日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。

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2015年度 第55号

「謝罪会見報道に対する申立て」に関する委員会決定

2015年11月17日 放送局:TBSテレビ

勧告:人権侵害(少数意見付記)
TBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』は2014年3月9日の放送で、佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げた。この放送について、佐村河内氏は「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与え、申立人の名誉を著しく侵害した」等として委員会に申し立てた。
これに対してTBSテレビは「申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」等と主張してきた。
委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
なお、本決定には結論を異にする2つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

TBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』は2014年3月9日の放送で、佐村河内守氏が自分の名義で発表してきた楽曲について新垣隆氏が作曲に関与していたことを謝罪する記者会見を取り上げた。この中で、佐村河内氏の聴覚障害について、会見のVTRや出演者のやり取りなどで、「検証」と「論評」を行ったとしている。
この放送について、佐村河内氏は「健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装って会見に臨んだ」との印象を与えるもので、名誉を著しく侵害されたとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
まず、本件放送によってどのような事実が摘示されたかについて、申立人の指摘する問題点を中心に、以下の検討を行った。(1)謝罪会見の際に申立人が配布した聴力に関する診断書に記載された検査結果について、本件放送が客観的な検査については十分に言及せず、むしろ自己申告制の検査であることを強調するなどして、一般視聴者に対し、診断書の検査結果の信頼性が低いという印象を与えた。(2)アナウンサーが「普通の会話は完全に聞こえる」との説明を行い、申立人には健常者と同等あるいはそれに近い聴力があるとの印象を与えたが、その説明は不適切であった。(3)本件放送が紹介した専門家の所見のうち、「通常の会話は比較的よく聞こえているはず」とする部分は、(2)の印象を裏付け強化するものであり、詐聴の可能性を指摘する部分は、(1)と同様、検査結果の信頼性が低いことを印象付ける。(4)「普通に会話が成立」というナレーションとテロップが付されて放送された本件謝罪会見のVTR部分は、申立人が謝罪会見の際、手話通訳なしに会話を交わすことが可能であったという事実を端的に摘示するものである。
以上、(4)を中心としつつ、(1)から(3)をも総合して一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば、本件放送において「申立人は、手話通訳も介さずに記者と普通に会話が成立していたのだから、健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装い会見に臨んだ」という摘示事実が認められ、これは申立人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損する。
名誉を毀損するような放送であっても、放送によって摘示された事実が公共の利害に関わり、かつ、主として公益目的によるものであって、当該事実が真実であるか又は真実と信じることについて相当の理由がある場合には、結論的には名誉毀損には当たらない。この点について、本件摘示事実については公共性があり、また、本件放送には公益目的があったと言えるが、TBSによる真実性の立証はない。さらに、相当性については、上記(4)に関し、放送されたVTR部分に先立つやり取りを踏まえた対応にすぎない可能性が十分にあり、また、謝罪会見を取材していたスタッフはこのようなやり取りについては承知していたはずであること、等から相当性も認められない。
以上より、本件放送は名誉毀損に該当すると言わざるをえない。
また、一般に、人権侵害を生じさせた放送は当然に放送倫理上の問題が存することになるが、本件放送に関して、委員会は、このような放送がなされてしまった背景に、TBSが申立人に対する否定的な評価の流れに棹さすごとく番組制作を行ったことがあるのではないかと考える。具体的には、事実をありのままに伝えること、専門性の高い情報を正確に伝えること、出演者への事前説明の努力、障害に触れる際の配慮の必要性、以上4点において放送倫理上の問題を指摘することができ、それらは決して軽視されるべきものではない。
バラエティー番組であっても、本件放送のような情報バラエティー番組には、事実を事実として正確に伝えることも求められる。とりわけ、本件放送は、聴覚障害という一般視聴者の予備知識が乏しい専門的なテーマに関するものであることから、番組による不正確な説明内容によって視聴者が容易に誘導されうることに配慮が必要であった。こうした問題は、本件放送が聴覚障害という人権に関わるセンシティブなテーマに触れるものであったことからすれば、より深刻である。
委員会は、被申立人であるTBSテレビに対し、本決定の主旨を放送するとともに、情報バラエティー番組において障害をはじめとする人権に関わる専門的な内容を含むテーマを取り扱う場合のあり方について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。

なお、本決定には結論を異にする2つの少数意見がある。

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2015年11月17日 第55号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第55号

申立人
佐村河内 守
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『アッコにおまかせ!』
放送日時
2014年3月9日(日)午前11時45分~午後0時54分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送で摘示された事実と名誉毀損の成否
  • 2.本件放送の公共性・公益目的
  • 3.本件放送の真実性・相当性
  • 4.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年11月17日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、11月17日午後1時から、BPO会議室で行ない、その後、午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、決定を公表した。
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2016年2月16日 委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み

2015年11月17日に通知・公表された「委員会決定第55号」に対し、株式会社TBSテレビから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年2月15日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。
なお、本件の委員会勧告に基づいて局が行った放送対応に関し、当該番組でエンドロールの後一旦CMが放送されてからアナウンサーによるコメントの読み上げがなされた点について、多数の委員から、放送対応のタイミングについてより工夫がなされることが好ましかったとの意見が述べられた。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2015年度 第56号

「大喜利・バラエティー番組への申立て」に関する委員会決定

2015年11月17日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは2014年5月24日放送の大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
この放送について、佐村河内守氏は「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たる」等として委員会に申し立てた。
これに対し、フジテレビは「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、申立人の名誉感情を侵害するものでない」等と主張してきた。
委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、本件放送は許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えず、放送倫理上の問題もないとの「見解」を示した。

【決定の概要】

フジテレビは2014年5月24日に大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』を放送した。この中で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出して、お笑い芸人らが回答する模様を放送した。
この放送について、佐村河内氏は「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として、一般視聴者を巻き込んで笑い物にするものであるから、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」等として委員会に申し立てた。
名誉感情とは、人が自己の価値について有している意識や感情のことであり、法的保護の対象となりうるが、主観的なものであるだけに、名誉感情の侵害は、社会通念上の許容限度を超えた場合に初めて法的な保護を受ける。
大喜利は、しばしば世相に対する批判も含む表現形式として、社会的に定着した娯楽であり、たとえ個人に対する揶揄となったとしても、その者が正当な社会的関心の対象である場合には、個々の表現が許容限度を超えない限り許される。そして、大喜利には大げさな表現やナンセンスな表現、言葉遊び等も当然含まれうるし、即興性が特徴である。名誉感情侵害の判断においてもこうした大喜利の特徴を斟酌すべきである。
その上でまず、本件放送で申立人を取り上げたことの当否については、全聾の作曲家として高い評価を得ていた申立人が他人に作曲を依頼していたことが発覚し、また、その聴覚障害についても疑惑が持ち上がったことに社会的関心が向けられることは当然である。それは、申立人が謝罪のための記者会見を行ってから2か月半ほど経過した本件放送時点でも同様であり、本件放送において申立人を取り上げたことには正当性が認められる。
次に、個々の回答による名誉感情侵害の有無について、各回答を概観すると、a)聴覚障害に関するもの、b)音楽的才能に関するもの、c)風貌に関するもの、d)その他、の4類型に分類可能であるが、大喜利の特徴も踏まえれば、いずれも、許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えない。
また、申立人は放送倫理上の問題として、いじめや聴覚障害者に対する偏見を助長するおそれを主張するが、本件放送は、自らの言動によってファンや関係者の信頼を裏切ったことにより正当な社会的関心の対象となっている申立人個人に対する許容限度の範囲内での風刺等であり、いじめや聴覚障害者に対する偏見を助長する内容とは受け止めにくい。したがって、放送倫理上の問題は認められない。
以上より、本件放送は許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えず、また、放送倫理上の問題も認められないとの結論に至った。

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2015年11月17日 第56号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第56号

申立人
佐村河内 守
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『IPPONグランプリ』
放送日時
2014年5月24日(土)午後9時~11時10分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.判断の方法について
  • 2.本件放送で申立人を取り上げたことの当否
  • 3.個々の回答による名誉感情侵害の有無
  • 4.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年11月17日 決定の通知と公表の記者会見

通知と公表は、同じ佐村河内守氏が申し立てた「謝罪会見報道に対する申立て」事案の通知・公表とあわせて11月17日に行われた。
詳細はこちら。

2015年度 第54号

「大阪府議からの申立て」(TBSラジオ)に関する委員会決定

2015年4月14日 放送局:TBSラジオ&コミュニケーションズ

見解:問題なし
TBSラジオ&コミュニケーションズが2014年8月22日に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』のオープニングトークで、お笑いタレント「おぎやはぎ」が、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯など一連の事態について語った。これに対し、山本府議が番組での「思いついたことはキモイだね。完全に」などの発言は「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」として申し立てたもの。
放送人権委員会は審理の結果、4月14日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送は申立人の名誉を毀損したり名誉感情を侵害するものではなく、取り上げるべき放送倫理上の問題もないとの判断を示した。

【決定の概要】

本件申立ては、TBSラジオ&コミュニケーションズ(以下「TBSラジオ」という)が2014年8月22日(金)に放送した深夜トーク・バラエティー番組『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』で、お笑いタレント「おぎやはぎ」が展開したオープニングトークでの発言を対象としたものである。このトークでは、大阪維新の会(当時)の山本景・大阪府議会議員(以下「申立人」という)が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で地元中学生らとトラブルになった経緯や、それに関連してテレビの情報番組でコメンテーターが「こいつキモイもん」と発言したことに対し申立人が放送人権委員会に人権侵害であると申し立てた一連の事態について語られた。
本事案は、おぎやはぎの小木氏らが「思いついたことはキモイだね。完全に」などと発言したことに対して申立人が「全人格を否定し侮辱罪にあたる可能性が高い」等として放送人権委員会に申し立てたもの。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送における「キモイ」等の発言は、申立人の社会的評価を低下させ、申立人の名誉感情に不快の念を覚えさせる論評である。しかし、その種の論評であっても、公共の利害に関わる事項について公益を図る目的でなされたものであるときは、表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、論評の基礎となった事実の主要な点に誤りがなく、人身攻撃に及ぶなど論評の域を逸脱したものでない限り、その論評は権利侵害として評価されるべきではない。
本件放送が論評の対象とした事象は、府議会議員である申立人自身が議員活動の一環として行っていたと説明している、中学生とのLINEでのやりとりと、テレビの情報番組内でのコメントに対する放送人権委員会への申立てである。これらの事象について、その議員に対する評価を含めて論評することは、市民の正当な関心事にこたえるものであり、本件放送には、公共性・公益性がある。これに対して、本件放送の論評によって新たに申立人の社会的評価の低下があったとしても、それはわずかなものと考えられる。
また、本件放送は申立人の名誉感情に不快の念を持たせるものではあるが、「キモイ」という言葉は、申立人と中学生のLINEでのやりとりの中で中学生が使った言葉として、本件放送の題材におけるキーワードの一つでもあり、本件放送は申立人の人格をことさら誹謗中傷するものとまではいえない。
以上に鑑みれば、本件放送は、地方議会議員の行動に関わる事実に対する論評として公共性・公益性が認められ、他方で本件放送による社会的評価の低下や名誉感情の不快の念の程度を考慮すると、本件放送の論評については、申立人は地方議会議員として、これを受忍すべきものと考える。
また、申立人は、2014年8月に申立人の中学生グループとのやりとりが報道されるようになったのは、同年9月に実施された交野市長選挙にかかわる政治的背景があったと主張するが、その主張と本件放送による人権侵害の有無の問題は関係を持たない。また、本件放送のタイミングにも特段の不自然さはないため、放送倫理上の問題もない。
なお、「キモイ」という言葉は、それが使われる相手や場面によっては、相手の人格を傷つけ、深いダメージを与えうるものであるが、委員会は、これを無限定に使うことを是とするものではないことを付言する

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2015年4月14日 第54号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第54号

申立人
山本 景
被申立人
株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ
苦情の対象となった番組
『JUNK おぎやはぎのメガネびいき』
放送日時
2014年8月22日(金)午前1時00分~3時00分
(本件放送は冒頭の約7分)

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送の内容と申立人の名誉・名誉感情の侵害の有無について
    • (1) 問題の所在
    • (2) 本件放送の論評の対象と地方議会議員の名誉権、名誉感情
    • (3) 本件放送と権利侵害の有無
    • (4) 小括
  • 2.本件放送と市長選との関係について

III.結論

補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年4月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、4月14日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人本人と放送局側(被申立人)に対して委員会決定を通知した。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は23社46人が取材し、テレビカメラ5台が入った。
詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの