第220回放送と人権等権利に関する委員会

第220回 – 2015年5月

審理要請案件2件の審理入り決定
佐村河内事案2件のヒアリングと審理…など

審理要請案件3件を検討し、そのうち2件の審理入りを決定し、1件を審理対象外とした。佐村河内守氏が申し立てた2事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。

議事の詳細

日時
2015年5月19日(火)午後2時30分~9時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.審理要請案件:「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」
~審理入り決定

上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人物、地名等固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者らの映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたと訴える申立書を4月1日付で委員会に提出し、謝罪・訂正と名誉の回復を求めた。
申立書によると、「取材は被害者の一方のみ、加害者の調査は一切していない」とされ、取材を受けたとされる被害者らが放送前に、同社での事件が番組で放送されることを社内で言い回っていたという。その結果、放送前にそれが会社内等に知れ渡り、放送により申立人及び家族が精神的ダメージを受けたとしている。
これに対しフジテレビは4月27日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組であり、取材した映像・音声・内容を加工や変更を加えることで、本件番組の放送によって人物が特定されないよう配慮しているから、相手方側の取材を行う必要性がない」と主張している。
そのうえで同社は、「本件番組を放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない。また、申立人が自らの名誉が毀損されたとする原因事実は、本件番組及びその放送自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の中で流布されたことにあると考えられ、本件番組の放送による人権侵害があったとは考えられない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

2.審理要請案件:「農協改革報道に対する申立て」~審理対象外

政府が進める農協改革をめぐる報道に対し、全国の農業協同組合等の組織・事業及び経営の指導や、監査等を行うA会から提出された申立書について、審理要請案件として検討し、以下のとおり審理対象外と判断した。
申立ての対象となったのは、B局が本年2月に放送した情報バラエティー番組。
申立ては、「事前に取材もなかったほか、事実と異なる内容が多く、農業協同組合グループに関して悪いイメージを植え付けられ、著しく名誉を傷つけられた」と主張、文書および放送での謝罪を求めた。
これに対し局側は、「番組が取り上げた内容は、『農協改革』についての『検証』と『論評』であり、関係者や専門家への取材に基づいたもの。A会は明確な根拠をほとんど示すことなく、『事実と異なる』として謝罪を求めているのであり、受け入れることはできない」と反論した。
申立てはA会を代表して同会会長名で提出された。
当委員会は、放送により権利の侵害を受けた個人からの苦情申立てを原則としている。
団体からの苦情申立てについては、例外的に「団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるとき」は取り扱うことができることになっている。
A会が提出した資料等によると、2012年度現在、A会の会員である農業協同組合は、正組合員(461万人)、准組合員(536万人)を合わせた総組合員998万人を擁し、全国の農業協同組合数は2015年1月1日現在694組合に達している。A会はこれら全国の農業協同組合等の運営に関する共通の方針を確立してその普及徹底に務めるために相当に分化された組織によって運営されている。A会が行う、行政や全国的な組織との連携・調整等を含む事業には高度の社会性が認められ、さらに、A会会長による定期的な記者会見など、A会が相当程度の情報発信力を備えていることも認められる。
こうした団体としての規模、組織、社会的性格等に鑑み、上記運営規則に照らして、本件申立ては、当委員会が例外的に救済する必要性が高い事案とは認められないとの判断に至った。
このため委員会では、本件申立てについては、上記のとおり、委員会の審理対象外と判断した。

* 委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)1.(6)において、「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人またはその直接の利害関係人を原則とする。ただし、団体からの申立てについては、委員会において、団体の規模、組織、社会的性格等に鑑み、救済の必要性が高いなど相当と認めるときは、取り扱うことができる。」と定めています。

3.審理要請案件:「出家詐欺報道に対する申立て」~審理入り決定

対象となったのは、NHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えたもので、出家を斡旋する「ブローカー」が出家により名前を変えることを考えていた「多重債務者」の相談を受けるシーンや、その二人のインタビューなどが放送された。二人とも匿名で、映像は肩から下のみ、または顔にボカシが施され、音声も加工されていた。
この放送に対し、番組内で「ブローカー」として紹介された男性が本年4月21日、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出。その中で、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」としたうえで、「申立人には、手の形や手の動き、喋り方に特徴があり、申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」と述べた。その結果、2014年末頃から番組ホームページで番組の動画を閲覧した「父親や友人などからは、『お前ブローカーなんてやっているのか!』といった強い叱責がなされた」として、申立人がブローカーではなかったとする訂正放送を求めている。
さらに申立人は、撮影は「再現映像若しくは資料映像との認識で撮影に応じたもの。申立人は上記問題部分がそもそも放送されるのか、放送されるとして、いつ、どの番組で、どのように放送されるのか、といった点について全く説明を受けていない」と主張している。
これに対しNHKは5月14日に委員会に提出した本申立てに対する「経緯と見解」書面の中で、「十分な裏付けのないまま、番組で申立人を『ブローカー』と断定的に伝えたことは適切ではなかった」としながらも、「申立人は『われわれブローカー』と称するなど、ブローカーとして本件番組の取材に応じており、取材班も申立人がブローカーであると信じていた。申立人は、インタビューの中で、仲介する寺や住職の見つけ方、勧誘の仕方、多重債務者を説得する際の言葉の使い方を詳しく語るなど、ブローカーと信じるに足る要素が多くあった」と反論した。
NHKはまた、記者やディレクターが、取材の趣旨や放送予定も収録前に申立人に伝えていたとするとともに、「収録した映像と音声は申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

4.「謝罪会見報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

審理の対象は2014年3月9日放送のTBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』。佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げ、会見のVTRと出演者によるスタジオトークを生放送した。この放送に対し、佐村河内氏が「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与えた。申立人の名誉を著しく侵害するとともに同じ程度の聴覚障害を持つ人にも社会生活上深刻な悪影響を与えた」と申し立てた。
今月の委員会では、申立人とTBSテレビからそれぞれヒアリングを行った。
申立人は2人の代理人弁護士とともに出席した。申立人側は「ABR検査という科学的な検査結果が出ているにもかかわらず、また感音性難聴という診断結果についても正しく放送せず、あたかも手話通訳が不要であるかのような印象を与える放送だった。限りなく健常者に近いという印象を与えたと感じる。ABR検査によって申立人が一定程度の難聴であることは否定できない事実である。取材を受けた医師は、実際に申立人を診断してコメントしているわけではなく、一般論として診断書のデータに整合しない点があると述べているだけである。申立人側の質問状に対して、医師は記者会見で申立人が手話通訳を使ったことは不合理とは思えないと回答している。医師が自信をもって詐聴の可能性を指摘したのであれば、その根拠を回答するはずだが、それはなく、逆にTBS側に不自然とは伝えていないと答えている。申立人が会見で手話通訳を介さずに回答している場面があるとすれば、それは、それ相応の理由がある。放送されたペンを渡す場面は、2本のペンを示されればどっちを使うかという質問の意図は誰にも分かるし、その前のやりとりで申立人は『細いペンを使う』と答えている。申立人と同じような難聴者に対する偏見や誤解を助長する不当な編集である。最初から申立人たたきの番組構成で、あら探しのように不自然な箇所を探してそれだけを取り上げて報道することに公共性・公益性はないと思う」等述べた。
被申立人のTBSテレビからは番組担当者ら4人が出席した。TBS側は「放送の際、日本の聴覚医学会で一番権威ある医師を取材しコメントをもらっているので、放送後確認をしたが、放送内容に間違いないということだった。医師が言っているのは診断書を見た限りにおいて手話通訳が必要ないということだけで、謝罪会見が不自然だったとは我々も聞いていない。医師から診断書のデータでは詐聴の疑いが考えられると言われ番組で伝えた。感音性難聴という言葉は結果的に使わなかったが、『音が歪んで聞こえる』と申立人が言っていることは伝えているし、少なくとも一切聴覚障害がないという放送はしていない。ペンを渡す場面の映像は、色紙にサインする場面とあわせ聴覚障害を前提とすると不自然なやりとりだと判断して使ったもので、その前段にペンに関するやり取りがあったとしても誤った放送にはなっていないと認識している。番組の最後に、聴覚障害者に誤解が及ばないよう「50dB程度の聴力の方でも手話通訳があると助かるということも実際あるそうです」というコメントを、一番伝わりやすい場所として入れた。この番組は情報バラエティーで、タレントがスタジオで視聴者代表として一種の井戸端会議をするという見え方をしているが、あくまでベースは報道で、きちっとした事実の積み重ねの上での演出という形になっている。謝罪会見は申立人が自らの意思で開いたもので、多くの人の注目を集めた点で公共性も高く公益性もあった。真実性は十分で人権侵害には当たらないと考えている」等述べた。

5.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案のヒアリングと審理

審理の対象はフジテレビが2014年5月24日に放送した大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。申立書で佐村河内守氏は、「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」とし、さらに「現代社会に蔓延する『児童・青少年に対する集団いじめ』を容認・助長するおそれがある点で、非常に重大な放送倫理上の問題点を含んでいる」としている。
今月の委員会では、前項の「謝罪会見報道に対する申立て」事案と併せてヒアリングを行った。
申立人側は「有名で視聴率の高い番組のお題とされ、障害や風貌を茶化され非常に辱められ傷ついた。一音楽家に過ぎないという趣旨で申立人は一般市民だったが、謝罪会見でテレビ出演は本日が最後で、音楽活動からも退くとはっきり表明しているので、より一般市民性が濃くなったと考える。あくまで正当な社会的関心事であれば、大喜利の対象としていいと思うが、聴覚障害を揶揄することが正当な関心事と言えるだろうかというのが一番の問題である。総理大臣や政治の風刺は許容されると思うが、聴覚障害という人の最もセンシティブな部分をお笑いネタにすることは、番組のあり方として許されるべきではない。特に聴覚障害に関して性的な表現を使った回答が集中している点は悪質性が高いと考える。学校で体の障害や特徴を笑いものにするのはまさにいじめの典型的パターンだと思うが、テレビの人気番組で同じようなことをすると、子どもたちに与える影響はすごく大きい」等述べた。
フジテレビはバラエティー番組の制作責任者ら6人が出席した。フジ側は「申立人は記者会見を開いて確かに一回謝罪したが、社会的には必ずしも納得が得られず、いろいろな批判の対象になることは仕方がないと考える。そういう意味で公人的立場にあったと理解している。風刺による正当な批判表現は人権を侵害しないとか公序良俗に反しない等の一定の条件で認められるべきであり、一連の騒動のイメージを利用し風刺による批判表現を狙いとしてお題を設定することは問題ないと考える。回答としては、正当な批判に主眼をおいた回答と、そうではない回答の多分2種類あると思うが、全体を見渡せば正当な批判の中に入っていると判断している。申立人は社会的弱者ではなく、社会的弱者を批判しているわけではないので、いじめの助長とは考えていない。今回の事案が問題とされると、テレビのお笑いのジャンルから一つの表現手段が奪われかねず、公人的立場の人の不正に対する風刺による正当な批判が許されないことにつながると危惧している」等述べた。

6.その他

  • 今年度中に予定している放送局現場視察に関し、事務局から日程等について説明した。
  • 次回委員会は6月16日に開かれる。

以上

第93回 放送倫理検証委員会

第93回–2015年5月

"出家詐欺"報道で「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』審議入り…など

第93回放送倫理検証委員会は5月8日に開催された。
委員会が今年2月に出したテレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見について、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することとした。
"出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれているNHK総合の『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)について、当該局から最終報告書が提出され意見交換を行った。その結果、放送倫理に違反する疑いが濃く、委員会として意見を言うことに意味がある事案であることで一致し、『クローズアップ現代』とその基になった『かんさい熱視線』(2014年4月25日放送 関西ローカル)の2番組を審議の対象とすることになった。

議事の詳細

日時
2015年5月8日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.テレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見への対応報告書を了承

2月9日に委員会が通知公表した、テレビ朝日の『報道ステーション』「川内原発報道」に関する意見(委員会決定第21号)への対応報告書が、4月末に、当該局から委員会に提出された。
報告書では、再発防止とより良い報道を目指して、検証委員会の担当委員を招いた勉強会を社内で開催したことや、問題発覚後に策定してすでに実施している再発防止策について、委員会決定後にその実施状況を検証し、必要に応じて見直しをしていることなどが記されている。
委員会では、勉強会の一部が紹介された広報番組も視聴した上で意見交換を行い、この対応報告書を了承して公表することとした。

2."出家詐欺"の追跡報道をめぐって「やらせ」疑惑が持たれている、NHK総合の『クローズアップ現代』を審議入り

NHK総合の『クローズアップ現代』で2014年5月14日に放送された「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」は、出家して僧侶となり法名を授けられる「得度」の儀式を受けると、家庭裁判所の許可を得て戸籍の氏名のうち名のほうを法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
番組では、宗教関係者や行政の担当者が、不活動宗教法人の対策に苦慮していることや、実際に「ブローカー」と「多重債務者」が相談している隠し撮りの現場などが紹介されたが、その相談シーンは「やらせ取材」だったと週刊誌が告発した。
NHKは、放送で「ブローカー」とされた人物が「自分はブローカーではない」などと主張しているため、外部委員を交えた調査委員会を作って関係者の聞き取りを行い、4月28日に最終報告を公表した。当委員会にもその報告書が提出された。
報告書は、「意図的または故意に、架空の場面を作り上げたり演技をさせたりして、事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はないと判断したが、一方で、放送ガイドラインを逸脱する『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」と結論付けている。
委員会では、報告書に記載されている「やらせ」と「過剰演出」の区別の適否や、主要な関係者の言い分が異なることをどうとらえるか、などを議論・検討した。また、番組で紹介された"出家詐欺"とされる事件の事実関係をはじめ、番組全体についても意見を交換した。その結果、放送倫理に違反する疑いが濃いことと、委員会として意見を言うことに意味がある内容の事案であることで一致したため、『クローズアップ現代』とその基になった『かんさい熱視線』(2014年4月25日放送 関西ローカル)の2番組を審議の対象とすることになった。

【委員の主な意見】

  • NHKの報告書には違和感を禁じえない。「やらせ」ではないということに終始しているのではないか。「やらせ」の有無の問題だけにとどまらず、どこに番組表現上の問題があったのか、なぜ視聴者に誤解を与えてしまったのかを、きちんと説明していない。
  • NHKが自主的に第三者を交えた調査委員会を立ち上げ、迅速に報告書を作成したこと自体は、評価してもよいのではないか。
  • なぜこうした問題が起きたのか、という基本的な問題意識や説得力ある指摘・言及を、報告書から読み取ることができない。組織・企業風土・職場環境など幅広い観点からの分析が必要ではないだろうか。
  • 報告書を読むと、問題のシーンが「やらせ」かどうかしか調査・検証していないことに疑問を感じる。審議入りして、委員会として言うべき意見を言うことにも意味があるように思われる。
  • 視聴者的な視点から見た時、この番組が伝えようとしていることに対して疑問を感じたところがあった。例えば"出家詐欺"は、水面下で本当に広がっているのだろうか。
  • 当該局の最終報告書が公表された同じ日に、総務省の行政指導が出されたことは、BPOの効果的な活動に期待するという国会の付帯決議の趣旨からしても、いかがなものかと感ずる。

以上

2015年5月19日

「出家詐欺報道に対する申立て」審理入り決定

放送人権委員会は5月19日の第220回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、NHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えたもので、出家を斡旋する「ブローカー」が出家により名前を変えることを考えていた「多重債務者」の相談を受けるシーンや、その二人のインタビューなどが放送された。二人とも匿名で、映像は肩から下のみ、または顔にボカシが施され、音声も加工されていた。
この放送に対し、番組内で「ブローカー」として紹介された男性が本年4月21日、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出。その中で、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」としたうえで、「申立人には、手の形や手の動き、喋り方に特徴があり、申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」と述べた。その結果、2014年末頃から番組ホームページで番組の動画を閲覧した「父親や友人などからは、『お前ブローカーなんてやっているのか!』といった強い叱責がなされた」として、申立人がブローカーではなかったとする訂正放送を求めている。
さらに申立人は、撮影は「再現映像若しくは資料映像との認識で撮影に応じたもの。申立人は上記問題部分がそもそも放送されるのか、放送されるとして、いつ、どの番組で、どのように放送されるのか、といった点について全く説明を受けていない」と主張している。
これに対しNHKは5月14日に委員会に提出した本申立てに対する「経緯と見解」書面の中で、「十分な裏付けのないまま、番組で申立人を『ブローカー』と断定的に伝えたことは適切ではなかった」としながらも、「申立人は『われわれブローカー』と称するなど、ブローカーとして本件番組の取材に応じており、取材班も申立人がブローカーであると信じていた。申立人は、インタビューの中で、仲介する寺や住職の見つけ方、勧誘の仕方、多重債務者を説得する際の言葉の使い方を詳しく語るなど、ブローカーと信じるに足る要素が多くあった」と反論している。
NHKはまた、記者やディレクターが、取材の趣旨や放送予定も収録前に申立人に伝えていたとするとともに、「収録した映像と音声は申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。
尚、申立書では、NHKが2014年4月25日に関西ローカルで放送した『かんさい熱視線』についても放送内容が類似しており、同様の問題点を指摘している。しかし、『クローズアップ現代』の動画が番組ホームページ上で2015年4月まで閲覧可能だったのに対し、『熱視線』は放送後ホームページでの閲覧は一切不可能だったため、運営規則第5条1.(4)の「原則として、放送のあった日から3か月以内に放送事業者に対し申し立てられ、かつ、1年以内に委員会に申し立てられたものとする」との要件を満たさないことから、『かんさい熱視線』は審理対象に含めないと判断した。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2015年5月19日

「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」審理入り決定

放送人権委員会は5月19日の第220回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。
対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。
番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イ
ジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供
された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。登場人
物、地名等固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された加害者ら
の映像にはマスキング・音声加工が施されていた。
この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分
の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたと
みられる放送内容で、名誉を毀損されたと訴える申立書を4月1日付で委員会に提出し、謝罪・訂
正と名誉の回復を求めた。
申立書によると、「取材は被害者の一方のみ、加害者の調査は一切していない」とされ、取材を
受けたとされる被害者らが放送前に、同社での事件が番組で放送されることを社内で言い回って
いたという。その結果、放送前にそれが会社内等に知れ渡り、その後の放送により申立人及び家
族が精神的ダメージを受けたと主張している。
これに対しフジテレビは4月27日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件番組は、特定の
人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組であり、取材した映像・
音声・内容を加工や変更を加えることで、本件番組の放送によって人物が特定されないよう配慮
しているから、相手方側の取材を行う必要性がない」と主張している。
そのうえで同社は、「本件番組を放送したことによって人物が特定されて第三者に認識されるもの
ではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等
の必要はない。また、申立人が自らの名誉が毀損されたとする原因事実は、本件番組及びその放送
自体ではなく、本件番組で申立人所属の会社のことが放送される旨会社の中で流布されたことにあ
ると考えられ、本件番組の放送による人権侵害があったとは考えられない」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満た
していると判断し、審理入りすることを決めた。
次回委員会より実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2015年1月22日

九州・沖縄FNS(フジテレビ系)各局と「意見交換会」を開催

フジテレビ系の九州・沖縄ブロック8局と放送倫理検証委員会の委員との意見交換会が、1月22日に福岡市内のホテルで開催された。同じ系列の地域放送局を対象とした意見交換会は3回目となる。
放送局側からは報道、編成、制作の部長など30人、委員会側からは是枝委員長代行と斎藤貴男委員が出席した。主な内容は以下のとおりである。

意見交換会ではまず、是枝代行と斎藤委員が、委員会の議論などを通じて日頃考えていることを述べた。
是枝代行は、「出演者のインタビューや自伝本などを鵜呑みにして裏取りもせず、ドキュメンタリーという枠の中で報道したり、再現ドラマにしたりすることが非常に増えている。その結果、虚偽の放送をしてしまったというケースがBPOの事案でも目立っている。本来なら疑ってかかることが結果的に取材対象者を守ることにつながるはずで、放送にかかわる人間は、いくら疑り深くても悪いことはないと思う。ドキュメンタリー、バラエティーを問わず、再現であることを前提にドラマを作ることの倫理性の欠如は、もう少し厳しく問われるべきではないか」と、映画やドキュメンタリーの制作者としての視点から、昨今の再現映像の氾濫について問題を提起した。
また斎藤委員は、この2年間の委員としての経験を踏まえ「テレビの制作者が、感動的な物語を作りたがりすぎるのではないか。世の中はそれほど単純なものではない。公に出すものである以上、個々の裏取りはもちろん、その背景にある構造など、すべて番組に出さないまでも、きちんと調べてほしかったと感じることは多い。しかし、委員会の議論で表現の自由に常に気を使っていることと、意見書を出すことで現場の人々を萎縮させてはいけないと絶えず意識していることは、ぜひ皆さんにもわかっていただきたいと思う」と語った。
その後、具体的な事例をもとにした意見交換に移り、審議事案となった鹿児島テレビの「他局取材音声の無断使用」、テレビ熊本が対象局のひとつとなった「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組」、そして討議事案となったテレビ西日本の「待機児童問題報道」の各事案について、当該各局から反省点や再発防止策について具体的な報告がなされた。
その中で出席者からは「実感として、情報と意識の全社的共有につきるなと思った。当該のセクションは契約の方が多く、選挙に関する情報と意識の共有が不十分で、放送人としての公共性の意識や選挙の公平性など会社としての教育も足らなかった」「スタッフとプロデューサーの距離感は密接でいわゆる丸投げといった問題はなかったが、取材が甘く裏取りもきちんとしていなかった。また、日頃の人間関係作りも含め、取材対象者や放送することによって影響を受ける関係者との距離感のあり方を、スタッフ間でもっと詰めておくべきだった」といった反省や、「再発防止策でチェック体制などというと現場が萎縮するのではという心配があったが、スタッフが積極的に日頃の勉強会やチェックを重ね、それがルーティンになることで、記者活動や取材活動にもむしろプラスになっていると感じる」といった発言がなされた。
これに対し、是枝代行からは「審議入りしたのかしなかったのか結果だけが取り上げられがちだが、審議入りした番組について意見書を書くのは、皆さんに読んでいただきその経験を共有財として持ってもらい、現場にフィードバックしてもらうためである」という説明があり、また、斎藤委員からは正社員と契約者が協業する放送の制作現場を念頭に「下積みから頭角を現す人間がいたら、表舞台に出してあげるような雰囲気や、表現者ならではのインセンティブを設けるような仕組みをぜひ検討してほしい」という発言があった。
最後に是枝代行より、「BPOは権力の介入に対する防波堤である、という自負が正しいのであれば、直接圧力が放送局に向かわないために何らかの役割が果たせるのではないかと思っているし、その覚悟をもって参加している。今回、意見交換会に出席して、その気持ちを新たにした」と締めくくった。

 今回の意見交換会終了後、参加者からは、以下のような感想が寄せられた。

  • 「BPO」という言葉のイメージが先行していたため、かなり気構えて参加したのですが、思いを新たにすることができ、非常に有意義な会になりました。様々なメディアが世の中にあふれ、ともすれば「放送」の役割や信頼性が、ひところより下がっている今の時代に、第三者的な視点を持って、時には厳しい意見、叱咤激励をしてくださるのが「BPO」だと感じました。もちろん、それは放送局自らが律しなければいけないことであり、そうした日々の努力によって、放送の質をより高めていく必要が、今後さらに高まってくると感じました。

  • 是枝委員長代行の「現場に悪い人間が減り、いい人間が増えた」との話は胸を突き刺さりました。最近の事例は「まさかそんなこととは思わなかった」「だまされた」という話が多いとのこと。「疑ってかかるのが取材対象者を守ることにつながる」…まさにその通りだと思います。プロダクションの派遣社員が多い現場。ちゃんと情報を共有しているか?責任までも押し付けていないか?現場の管理職として、考えさせられる時間でした。

  • 具体的な事例を挙げたことによって人員の不足・情報の共有、チェック体制といった点で各局の皆様が同じような悩み及び課題をお持ちだということが良く分かりました。またコミュニケーションを取ることの大切さを改めて感じさせられた会でもありました。最後に是枝さんが「権力の介入に対する防波堤となるのがBPOの役割」とお話になったところは印象的でした。

以上

第169回 放送と青少年に関する委員会

第169回–2015年4月28日

"ネット情報の取り扱い"に関する「委員長コメント」を公表…など

4月28日に第169回青少年委員会を、BPO第1会議室で開催しました。新任の4人を含め7人の委員全員が出席しました。まず、汐見委員長が新しい副委員長に最相委員を指名し、そのあと3月1日から4月15日までに寄せられた視聴者意見から、1案件について討論しました。4月の中高生モニター報告、調査研究の現状報告について話し合った他、2015年度事業計画案の承認、事務局からBPOと青少年委員会の業務についての説明などがありました。
次回は5月26日に定例委員会を開催します。

議事の詳細

日時
2015年4月28日(火) 午後4時30分~午後7時40分
場所
放送倫理・番組向上機構 [BPO] 第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
汐見稔幸委員長、最相葉月副委員長、稲増龍夫委員(新任)、大平健委員(新任)、川端裕人委員、菅原ますみ委員(新任)、緑川由香委員(新任)

視聴者意見について

●「日曜夜の情報番組で、凄惨な映像や事故の映像などを多く扱うサイトの特集をしていた。まだ子どもも起きている時間であるのに刺激が強すぎる」「引用した動画は放送許容範囲だと思うが、興味を持った子どもがサイトにアクセスする可能性が高く、看過できない」などの視聴者意見があった番組について討論しました。論点として「ネット映像をテレビで紹介すること」「放送した映像が青少年に与える影響」について話し合いました。
委員からは次のような意見が出ました。

  • 刺激的な映像は、見たくない人は見なければ良いというが、テレビの地上波は見たくなくても目に入ってしまう媒体であることを制作する側は理解する必要がある。
  • 刺激が強く不快感を抱く人が多いであろう映像で人を引き付けようとする場合など、制作者側は、なぜその映像を選んで放送したのかその背景や状況を説明し、立場を明確にする必要がある。
  • 子どもたちへの影響については、色々な条件があり、テレビだけの影響を考えるのは無理がある。
  • このようなサイトを紹介すれば、たとえ映像を放送しなくても見たい人は見てしまうだろう。すべての情報をシャットアウトすることは出来ないし、無菌状態で育てばそれで良いのかというとそうではない。難しい問題だ。
  • ついにこのサイトがテレビで紹介されたかという気持ちだ。子どもたちはテレビの情報がネットの情報より良心的で信じて良いものだと思っている。そのテレビがこのサイトを紹介することは、テレビがお墨付きを与えることになってしまう。民放連放送基準「第8章表現上の配慮(43)放送内容は、放送時間に応じて視聴者の生活状況を考慮し、不快な感じを与えないようにする。(46)人心に動揺や不安を与えるおそれのある内容のものは慎重に取り扱う。」などとの関係性を事前に議論したのだろうか。
  • 番組の企画としてこのサイトを紹介するのは当然だと思う。ただもう少し映像の取捨選択をしたら良かったのではないか。
  • このサイトを紹介すること自体は評価して良く、それなりの配慮は感じた。ただ、放送局側が何を伝えたかったのか分かりづらい。放送局内部でテレビの公共性についてどれ程議論したのか知りたい。
  • 制作現場では日々葛藤しながら番組制作を行っている。今回もこのサイトの主催者の意見を出していた。これが放送局側の考え方を示しているのではないか。
  • テレビは画像で伝えるものだ。写真が入手できない時にはネットの映像を使うだろう。今後ネット映像の使用についてのルールを業界全体で考えていく必要があるのではないか。

討論の結果、審議には進まないことにしましたが、汐見委員長は次のような「委員長コメント」を公表しました。

2015年4月28日

"ネット情報の取り扱い"に関する
「委員長コメント」

放送と青少年に関する委員会
委員長 汐見 稔幸

一般人が知り得ないような現場情報、特にその場にいた人間でないとつかみ得ないような情報をそのまま映像で流すことをミッションとしているインターネット上のサイトがある。その内容が戦争、虐待、人権無視、大災害など、平凡な日常生活を送っている人間には思わず目を背けたくなるような残虐なあるいは悲惨な事件や事故、出来事を、そのまま映像を伴って配信していることが多いのでとかく話題になっているのだが、日曜日の情報番組で、このサイトの流す情報のいくつかを紹介する企画があった。それを見た視聴者から、青少年が見る可能性のある時間帯であり、批判や懸念が多く寄せられたが、今回の放送については、映像をそのまま放送したのではなく、一定の取捨選択や配慮をしているので、課題はあるものの審議入りはしないという判断をした。
しかし、この番組はテレビという公共のための放送システムがこれから抱く可能性のある問題を先取りして示していたように思う。
メディアの発展は、これまで一般人が知り得なかった情報をわかりやすく大量に伝えることを可能にしてきた。他方で、世界では今あちこちで貧困と格差の拡大、局地戦争、人権無視の暴力や殺戮、テロ、深刻な環境破壊問題等々が起こっていて、それらの最前線の具体的事実についてはそのほとんどを私たちは知らないでいるという現実がある。そのため、その最前線の事実を、たとえそれがどんなに悲惨なものであっても、つかみ、伝えることが大事だと考える人が出てくる。なぜならそれが世界の現実だから、ということである。そしてそれを、私的に利用できるネットで公開しようとするようになるのも必然である。そうなればこうした情報も瞬時に世界を飛び回ってしまう。
公共的な責任を背負っている地上波のテレビメディアも、その周辺でこうした情報空間が広がっていくと、その現実を無視することができなくなっていく可能性がある。今回のようなネットメディアの情報をテレビが紹介したり、それに触発されて新たに番組を制作したりすることもこれから増えていくことが予想される。テレビ局の情報収集力は限られているが、ネット情報には、たとえそれが吟味されたものでないにしても、無限といってよいほどの収集力と提供力があるからである。しかし、その場合、テレビ局の独自性と責任性はどこにあると考えるべきか。このことはこれから大事な問題となっていくだろう。おそらく各局ともこの問題をめぐって自問自答を繰り返していく必要があると思う。こうした課題については、いずれ自由に意見交換する場を設けたい。
また、刺激的な情報が含まれる映像を放送する場合には、放送局側がどういう意図で放送することにしたのかを、まず丁寧に説明する方が視聴者に対して親切ではないか、という意見が青少年委員会で出たことも記しておきたい。
いずれにしても、今回の問題はこれからのテレビのあり方を考える際の大事な論点を示していると各放送局に受け取っていただきたいと思っている。

以上

中高生モニター報告について

2015年度は、全国の応募者の中から32人に中高生モニターをお願いすることにしました。
初回の4月は、「好きなテレビかラジオの番組を一つあげて、その番組の好きなところ、良いと思うところを具体的に報告してください」というテーマで書いてもらいました。32人のモニター全員から報告が寄せられました。
長い間続いている人気のバラエティー番組を支持する意見が目立ちました。『世界一受けたい授業』(日本テレビ)「生活の中で役に立つ豆知識や有名人の生き様などを紹介していて、とても役にたち、芸人がおもしろくしてくれるので楽しく見ることができる。芸人のネタが度を越えてふざけていないところが良い」(富山・中学1年男子)。『マツコの知らない世界』(TBSテレビ)「事例を紹介する人が熱を入れて説明すればするほど、マツコ・デラックスが冷めた口調で突っ込むので、その対比がおもしろい。お年寄りから小学生まで一緒に楽しめる番組だ」(兵庫・中学1年女子)。
地方放送局制作の番組についての報告もありました。『どさんこワイド179』「視聴者目線の優しい番組で、内容もニュース、スポーツ、エンタメなどがバランスよく配置されており視聴者と北海道を大切にしている番組だ」(北海道・中学3年男子)。『土曜ワラッター』(青森放送)「番組全体が遊び心に満ちていて、常にリスナーとの距離が近く、リスナーが関わる企画が多い。他のラジオ局でもこういう企画に挑戦してほしい。今後も青森県内外のたくさんのリスナーをたくさん笑わせてほしい」(青森・中学3年男子)。
新しい形の番組への関心も高いようです。『NEWS WEB』(NHK)「視聴者がtwitterのハッシュタグを利用して、取り扱われるニュースや番組に対して意見や質問をつぶやくことができる。一般人、特にtwitterをよく利用する若者世代の声が多く反映され、視聴者が一緒に作っていることを感じさせる番組」(愛知・高校2年男子)。
一方、番組への手厳しい批判も寄せられました。「最近ニュースの読み違いや字幕の間違いが多すぎる。たくさんの人が見るのだから、もう少し自分の仕事に責任を持ってほしい」(千葉・中学2年女子)。「最近は、ゴールデンタイムでも、放送に適さない言葉や下ネタがよく使われるのは問題だ。深夜なら理解はしようと思うが、ゴールデンで多用するのは止めてほしい」(鹿児島・中学3年女子)。「人を叩くことがおもしろいとでも思っているのだろうか。番組を作る側や出演者は、叩かれる方の気持ちや視聴者がどう思うか、もう一度考え直す必要がある」(千葉・中学3年女子)。

■中高生モニターの意見と委員の感想

●【委員の感想】非常に成熟したしっかりした意見を皆書いてくれていて感心した。特にインターネットとのかかわりについての意見や、これからの番組の作り方への厳しい要望を述べた意見が印象に残った。

  • (愛知・高校2年男子)『NEWS WEB』(NHK)放送中つぶやいた意見や質問が評価されたり、さらに議論ができたりすることで自分の肯定感を高めることができ、かつニュース・身近な出来事に関心を持つようになれた。一方で、一般的に子どものテレビ離れが進んでいると言われるが、その代わりに偏った情報をSNSなどから仕入れ、それが拡散して誤解を広めているような状況があり、よくないと思う。

  • (山梨・高校2年男子)今後は100人視聴者がいれば100人全員に支持される番組を1個作るのではなく、制作費が許される範囲で10人に支持される番組を10個、あるいは1人に支持される番組を100個作ろうとする動きがこれまで以上に必要になると考える。新聞と同様、ターゲットを絞るという意味で娯楽向けと教養向けというコンテンツの明確な2極化は避けられないと思う。

●【委員の感想】楽しい番組を親子一緒に見て、癒される、というテレビの原点はいまだに変わっていないようだ。

  • (東京・中学3年男子)僕が一番好きで家族と毎週欠かさず見ている番組は『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)です。いつも父と母と3人で心の底から笑って楽しめます。余り激しい無理な企画でなく、日曜日の夜ほっと一息付けて家族と笑って「明日からまた一週間頑張ろう」と思える楽しい企画だけで充分だと思います。

●【委員の感想】情報番組への興味が高いようだ。バラエティー番組であっても情報収集のできる番組の人気が高い。知りたい要求を充たしてくれるものを求めているように感じた。

●【委員の感想】モニターになり、テレビ番組をしっかり見ていると自然に中高生たちはメディアリテラシーを日々学んでいっているように思う。教えられるのではなく自分から意識的に学ぶことで、身についていくことは大変に良いと思う。

●【委員の感想】好きな番組は海外の情報を扱ったものが多かった。報告を読むと、海外のことを知ると同時にそれによって、自分たちのアイデンティティーを確認したいという欲求が強いように思った。

  • (福岡・中学2年女子)『YOUは何しに日本へ?』(テレビ東京/TVQ九州放送)この番組は日本に来る外国人の気持ちがわかるのでためになります。外国人がこんなに日本を好きになってくれているんだと分かって自分も日本人で良かったと思いました。それにいろんな国の文化を知ることができる良い番組だと思います。

●【委員の感想】非常に分析力が高く、番組に対する視線も鋭い報告が多かった。

  • (東京・中学3年男子)最近の民放夕方7時台から8時台のテレビはつまらない番組が増えたように思う。ネットが普及している今では、「今更」と思うような内容も多く見る気が起こらない。もっと本職の芸や芝居、スポーツなどでひきつける番組を作ってほしい。
  • (滋賀・高校2年女子)バラエティーなどのトークショーなどで同じ芸人ばかり出たり、お笑い番組などでネタをする芸人が同じ人ばかりなのをやめてほしい。はやりの芸人だけでなく、どの年代でも楽しめるように出演者を選ぶべきだと思う。

調査研究について

  • 2014年度の「中高生の生活とテレビに関する調査」について、5月中に報告書を完成させる予定であると事務局から報告がありました。

  • 新年度からの調査研究の担当は菅原委員に決まりました。

今後の予定について

  • 意見交換会を7月3日に愛媛県松山市で、9月29日に福岡市で開催することにしました。

その他

  • 2015年度青少年委員会事業計画が承認されました。

2015年4月に視聴者から寄せられた意見

2015年4月に視聴者から寄せられた意見

政権与党の調査会が、番組内容に問題があったとして放送局の幹部を事情聴取するということがあったが、表現の自由に対する圧力だといった意見や、報道機関は公平・中立を順守するべきだといった声など。

2015年4月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,448件で、先月と比較して63件減少した。
意見のアクセス方法の割合は、メール66%、電話31%、FAX1%、手紙ほか2%。
男女別は男性70%、女性27%、不明3%で、世代別では40歳代28%、30歳代27%、50歳代17%、20歳代14%、60歳以上12%、10歳代2%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。4月の通知数は590件【50局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、23件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

政権与党の調査会が、番組内容に問題があったとして放送局の幹部を事情聴取するということがあったが、表現の自由に対する圧力だといった意見や、報道機関は公平・中立を順守するべきだといった声など、様々な意見が多数寄せられている。
首相官邸の屋上にドローンが発見されたが、逐一屋上の様子を放送するのはセキュリティー上如何なものかといった声や、憶測に対して批判が寄せられた。
「やらせ」疑惑の番組に対して、調査報告が発表されたが、いずれにしても報道番組に演出は馴染まないといった意見などが寄せられた。
ラジオに関する意見は48件、CMについては48件あった。

青少年に関する意見

4月中に青少年委員会に寄せられた意見は92件で、前月から24件減少した。
今月は、「性的表現」に関する意見が19件と最も多く、次に「暴力・殺人・残虐シーン」が17件、「表現・演出」が12件、「言葉」が10件と続いた。
「性的表現」については、夕方のアニメ番組で性的な話題が取り上げられたことについて多くの意見が寄せられた。
「暴力・殺人・残虐シーン」は、情報番組で過激な映像が多く含まれるウェブサイトを特集したことについて、意見が数多く寄せられたほか、バラエティー番組の罰ゲームで、スタジオ観覧中の子どもの前で人を蹴ったことについても複数の意見が寄せられている。
「表現・演出」では、バラエティー番組で元受刑者が刑務所での実態などを紹介したことが不適切だとの意見が目立った。
「言葉」については、ドラマのタイトルにサディズムを意味するアルファベットが使用されていることについて、配慮が足りないとの意見が複数あった。
そのほか、「いじめ・虐待」に関する意見として、バラエティー番組の出演者が人の容姿を笑いのタネにしていることに対して、いじめのきっかけになりかねないとの意見が複数寄せられている。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • 政権与党が、放送局を聴取するとのことだが、如何なものか。まさしく、介入そのものではないのか。いまの政権は色々な所に口を出し過ぎだ。

  • 番組内でコメンテーターが、官邸の圧力を暴露した。これを受けて、政権与党が放送局を呼びつけている。これは明確な「圧力」である。しかし権力者はきっとこう言うだろう。「いいえ。圧力ではありません。公平・中立を求めたまでです」しかし、これは明確な介入だ。

  • 党の調査会が、放送局の放送について、局の幹部を呼びつけて聞き取りをすると聞いた。個別の番組内容に、政権政党が関与しようとすることは、明らかに政治的圧力ではないか。放送内容に政治が介入することは明らかに、言論・表現の自由への弾圧だ。視聴者、国民の知る権利の妨害だ。こういう時にこそ、第三者機関としてのBPOの存在意義が発揮されるのではないのか。

  • 放送局の番組について事情聴取をすることを取り上げていた。その際「この事情聴取は民主主義の根幹を揺るがす政府の圧力だ」と非難した。しかし、そもそも事の発端は番組のコメンテーターが一方的に政府を非難したものであり、その時点で公正さにかけていたことが問題なのだ。今回の事情聴取は「公平な放送をお願いする」というスタンスであるのに、明らかに誇張した解釈をしている。

  • 現政権による報道介入に対して抗議してほしい。最近どのテレビ局も政権批判ができなくなってきている感じがする。報道の自由に関し、特に健全な政権批判については放送業界全体で守ってほしい。またそのことと表裏一体の問題として、ヘイトスピーチをまき散らすような番組や、首相のお友達コメンテーターを平気で重用することはやめてほしい。

  • 「党が放送局を聴取したことは報道の自由の侵害だ」と手前勝手な視点からのみ報じているが、党の介入を招いた自らの反省はないのか。電波は公共のものだ。右も左も両方の意見を報じてこその報道だ。沖縄の基地、原発、安保法制といった国家的なテーマで、ただ反対する側の声だけを報じる。なんでも反対、声の大きな「弱者」の視点のみを報じるマスコミの姿勢は、もううんざりだ。

  • やらせ疑惑が問題になっているが、やらせの有無にかかわらず報道番組において演出があること自体問題ではないか。放送倫理として疑問を感じざるをえない。事実をありのままに報道するからこその、報道の自由ではないのか。

  • 「やらせ」疑惑が持たれている番組の調査報告が出たが、全く納得できない。あれが「やらせ」でないなら、なにが「やらせ」になるのか。あの人物は別の番組でも匿名の証言者として何回も出ていると聞いている。テレビ報道における匿名の証言をこのまま放置していいのか。

  • 統一地方選挙の開票速報だが、投票締め切りは20時なのに、20時ちょうどに「当確」と騒ぎ立てることはいかがなものか。「選挙管理委員会の公式な発表はありませんが」や「情勢取材をもとに」「明らかな場合は公式発表を待たずに」などと、以前にも増して言い訳めいたアナウンスが増えた。当選かどうかをきちんと発表することは選挙管理委員会であり、マスコミの仕事ではない。マスコミは結果を正確に伝えればいい。過去に"当確"が出ながら開票の結果、落選ということもあった。調査員のなかには「協力して当然」と無神経に聞いて来る輩もあり、不快なことこの上ない。

  • 女性の国会議員が国会を休んで旅行に行っていたことが取り沙汰されている。ところで今日、統一地方選挙の告示がされた。その時期に党の名前を出して彼女の行為を責めることはいかがなものか。選挙戦に入った以上、党のイメージダウンに繋がる内容は、節度をもって報道してほしい。

  • 福島県に開校した学校の開校式・入学式に、著名な若手の国会議員が出席した。彼の学園への尽力が詳しく紹介され、キャスターのインタビューもあり、功績をたたえる内容だった。彼は党の顔であり、強力な宣伝マンだ。選挙期間中に大きく取り上げるのは、如何なものか。

  • 「天皇陛下のパラオ訪問」を取り上げていた。その中でコメンテーターが「陛下の発言に政治的な意味をみるということは本当は良くない」と前置きをした後で「現在の安保法制は陛下の意思に反するのではないか」というニュアンスのコメントをしていた。世論誘導に等しく、目に余る。

  • 沖縄米軍基地について、沖縄の人は多くが反対している、賛成の人はいないと受け取れるような内容だった。番組では反対者の抗議の様子のみを映している。まるで沖縄に基地があることが悪のように感じた。私は米軍基地は必要だと考えている。同じ考えの人もいると思うが、ほとんどテレビで取り上げられることはない。

  • ニュース番組のタイトルに「沖縄VS日本政府」という表示があった。米軍基地の移転問題に関する話し合いを指すものだと思う。双方一歩も引かない厳しいやり取りを表現したかったのだろうが、まるで沖縄と日本が敵同士であるかのような言い方だ。沖縄県民の望むことが日本にとっては不利益になるとでも言いたいのだろうか。

  • アメリカ南部の警官による黒人射殺事件報道において、繰り返し射殺シーンを放送するのは、どのような必要性があってのことか。この件に限らず、殺人事件報道においてわざわざ現場の血痕をクローズアップにして流すなど、昨今の報道のあり方には疑問を感じざるを得ない。痛ましい事件を報じることと、血なまぐさい現場を大写しにしてセンセーショナルに煽ることは同義ではない。いつになったら自浄作用が働くのか。

  • プライバシーの保護の観点だと思うが、取材映像に個人、場所が特定されないようにモザイク処理、音声加工などが施されている。しかしこの手法だと、どこまでが真実なのか演出なのか、分からない。重要性は認識しているが、何か納得できない。

  • AIIBについて、"バスに乗り遅れるな"という論調を見るが、果たして本当に「行き先」を確認しなくても良いのか。この銀行の問題は、中国が総裁を決め、監査権も議決権もなくGDP比例で負担を求められる不透明な構造だ。さらに言えば日本は融資する側であり、融資基準も明らかになっていなく、不良債権化しかねない。なぜ問題点をなおざりにして、「孤立した」と大騒ぎするのか。

  • 「横浜市の元中学校長が買春」したことを伝えていた。どこのニュースでも「原因はストレスだったと供述」としているが、常識的に考えて、ストレスだけが原因だとは思えない。世の中にはストレスが溜まる仕事など山ほどある。ストレスがあったとしてもこのような犯罪に手を染めて良い訳はない。供述通りの報道は大切だと思うが、何か釈然としない。

  • 株価が2万円になったことについて、証券会社の人が「今後は2万2000円もありうる」と成果ばかりを取り上げていたが、国民の景気回復の実感のなさをあまり伝えていない。企業業績ばかりを強調していたが、明らかに不自然だ。実質賃金は上がってなく、むしろ不況という声は強い。雇用も非正規ならともかく、正規は減っていることが実態だ。

  • 96年発生の在ペルー日本大使公邸人質事件を扱い、ペルー軍救出部隊の突入時の状況について、スタジオに当時人質だった日本人を招き、話を聞くというくだりがあった。そこで、元人質の洒落の発言(麻雀をしていたのでテンパイになっていた人がいたことと、状況がテンパっていた事をかけたらしい)を出演者が爆笑した。しかし、当該救出作戦においては、まさに、当該人物をはじめとする日本人のために現地軍が命を賭して戦い、隊員も殉職している。その背景を知りながら、笑いにするとは如何なものか。

  • 「辺野古の基地建設に反対する運動に、中国からの資金援助があるというきな臭いうわさがある」というコメントがあった。反対運動の様子が「一部にきな臭いうわさも」というテロップ入りで放送された。沖縄県の方々の民意は先の選挙で示されており、反対運動がまるで中国の意を汲んだものであるかのような放送は、許しがたい。

  • 大阪都構想の議論で、MCとコメンテーターの発言が目に余る。市長は当然、賛同を得る立場から発言するが、番組ではそれが中立性を欠くという。反対を推奨する政策立案者はいない。市長は説明会を聞いた後で賛成・反対を決めてもらえばよいといっているのに、「賛成を押し付けている」との見解しか示さない。偏っているのは、番組そのものではないのか。

  • 「操作が簡単で軽量」であるとして、「無人飛行機ドローン」を紹介している。しかし利便性の高いドローンを個人が悪用すれば、犯罪につながる可能性もある。元々が軍事用であることを考慮し、これ以上テレビで紹介するべきではない。

  • 首相官邸屋上に"ドローン"が落下したというニュースで、屋上から邸内に落下物を運び出す様子を映していた。その際、屋上からの出入り口が開いている映像が流れた。開口部の位置や材質なども分かり、セキュリティー面で問題だと思った。取材ヘリが捉えたからといって、スクープ映像としてそのまま流すのは余りに無責任だ。

  • 総理官邸屋上にドローンが落ちた件を取り上げ、メインキャスターが「反原発派の仕業ですかね」という発言をした。それを受けてコメンテーターは否定していたが、発言は、反原発運動をしている人々は過激なことをするという印象を与える。また、福島原発事故で被災された方を侮辱するものだ。個人の憶測を安易に言うことはいかがなものか。

【番組全般・その他】

  • "美人なのに結婚できない女"という番組企画はセクハラに値するのではないのか。結婚するかしないかは、個人の意思に基づくものだ。また女性の品定めをするような放送内容は、時代錯誤そのものだ。

  • 癌などの死に至る病気の感動話を頻繁に放送している。人の死で感動の涙を誘って視聴率を稼いでいる。親しい友人を白血病で亡くした身としては、言葉には言い表せないほどの悲しみを、娯楽のように扱われていて不愉快だ。いまや癌は稀な病気でもないし、もう少し話題の取り扱いには慎重になるべきではないのか。

  • テレビ局のアナウンサーが、昨年自宅を購入した際に、スポンサー企業から無利子で多額の融資を受けたとして批判されている。本人からの反論がないところを見ると、おおむね事実のようだ。報道の第一線にいる者がそのような便宜を受けることは、重大な倫理違反だ。

  • 芸人達が色々なアクロバティックな体験をするコーナーがあった。そのなかで、火を付けたコートを着たまま自転車に乗って、水のなかに自転車ごと転落するという企画が気になった。他のアクロバティックなものとは異なり、身近にあるものなので、すぐに真似をできる危険性がある。この番組を見ている年代は若い方が多いと思う。だからこそ手の届く遊びとして、かなり危ないのではないのか。

  • 最近のテレビは同じような芸人が出る番組ばかりだ。特に番組の改編期であるせいか、だらだらと長時間に及ぶ番組が多く、うんざりする。今はちょうど春休みで、子どもたちは十分に時間がある。こういう時こそ面白くて、ためになる番組を放送してほしい。

  • 視聴率調査会社が1社しかなく、公平性が保たれない。いい作品でも視聴率が悪いと打ち切りになったりするが、視聴者のことを考えているのか。地デジになり、クイズなどに投票などできるのに、視聴率に関しては旧態依然としたモニター制度のままだ。放送関係者は、どう思っているのか。私の好きな番組は視聴率が悪いようで、打ち切りがささやかされている。勉強にもなっているので、放送を続けてほしい。

  • 若者の間で、カップルのラブラブ動画をSNSに公開することがブームになっているようだ。しかし、2人だけのことで済めば良いが、携帯の個人情報が漏れて、悪意で公開される可能性がある。また、今はラブラブであっても、別れた後に腹いせでその動画が公開されてしまうこともあり得る。安易に番組が紹介していい内容とは思えない。ネット動画のもつ危険性についても、もっと言及してほしかった。

  • 「男性芸能人3人が数時間の京都滞在中、約30万円の飲食費を使い切る」という企画だった。内容の馬鹿馬鹿しさにあきれた。最近の調査によると、貧困が原因で子どもの6人に1人が3食を食べられないそうだ。そのような社会にあって、貧しくもない芸能人が気持ち悪くなるまで食べ物を詰め込む様子を放送して何の意味があるのだろう。食材を育てた人や料理を作った人にも申し訳ない。このような飽食シーンを放送するのはやめてほしい。

  • タレントが世界の極限地で100時間サバイバルを行う番組だった。番組の終盤、手作りイカダで新たな島に渡るシーンがあった。途中で強い風によって進めなくなり、イカダも壊れかけた。そして夜になり、その場から進めないシーンで一旦CMに入った。そして、他のタレントの内容も伝えながら、番組のエンディングになった。100時間達成の瞬間をタレントに伝えるのだが、いつの間にか無人島に到達している場面になっていた。その間何が行われたのかカットされていた。あのイカダの状態からどうやって島に辿り着いたのか全く放送されていない。ドキュメンタリー番組ではなく、バラエティー番組なので、多少の演出によって番組を面白可笑しくすることは構わないが、あまりに不自然だった。

  • 元プロ野球選手の解説者が現役のサッカー選手に対して「引退したほうがいい」と発言していた。さらにサッカーの2部リーグを2軍と発言していたが、2軍で苦労しているクラブや2部を盛り上げている地元の人間に対して失礼だ。野球でもその選手と近い年齢で活躍している選手もいる。発言はほかの競技に対する侮辱でもある。

  • 母親たちを格付けする"春のママカースト"というコーナーがあった。夫の収入や学歴、持ち物などで母親たちにランクをつけるというもので、コーナー自体、差別的な内容だ。さらに差別の象徴である「カースト」という言葉を使い、より強調していた。なぜそんな言葉を使い、笑いをとろうとするのか。差別を肯定することはもちろん、助長するようなことがあってはならない。

  • 大阪は下品であるのが当たり前、大阪のおばちゃんは全て遠慮知らずだと言いふらす番組が、どうして許されるのか。どの街にもレベルの低い人間は沢山いる。それなのに大阪ばかりが品の悪い街として、テレビ番組で紹介されている。本質的特性でないことを、まるで地域の特性であるかのように言いふらすことは、ヘイトスピーチそのものだ。

  • 大阪人でも本物そっくりの拳銃でバーンとやられたら、さすがに「やられたー」とは言わないだろうという企画だった。バイト先に強盗が来るというドッキリは、他の客などは仕掛け人という設定だったが、やり過ぎなのではないか。最後に「ドッキリ」というボードを掲げれば何でも許されるというのは、如何なものか。

  • 「罰ゲーム」と表現し、同性愛者の憩いの場をアイドルが歩くことを、「檻に入れられた餌」と称することは、同性愛者への根強い偏見を再生産している。これを見た若い同性愛者は傷つき、異性愛者は「同性愛者は貶めて良い存在」という認識を植えつけられる。このような番組が、同性愛者へのいじめや偏見・差別を助長する。

  • トーク番組の、収録から10分後に放送する「ほぼ生放送」という企画で、出演者の不適切な発言に「ピー」という音がかぶせられていた。出演者の意見は意見として話してもらい、視聴者に判断をゆだねるべきだ。「ピー」という音は甚だ耳障りだし、不愉快だ。

  • 元IT会社の社長が、何事もなかったように、しれっとした顔で出演していた。刑期を終えたから良いのか。自分の体験談を笑い話にして「自分のようになるなよ」など、何様のつもりなのか。芸能人だから何でも許される風潮は残念だ。

  • 芸人数名が南房総を訪れ、レストランで料理を注文した。その際、男性タレントがウェイトレスに胸のサイズを尋ねた。はにかむ彼女に対し、「Dカップ?Cカップ?」などと迫り、周りの芸人はゲラゲラ笑い転げていた。これは明らかなセクハラだ。一般社会ではセクハラに対する厳しい対応が常識化しているというのに、芸能人による一般人への恥知らずな行為を見て、強い憤りを覚えた。

  • ボリビアの都市の映像の中で「野良犬の数、これは札幌市の人口と一緒です」というナレーションが入った。札幌市民は野良犬ではない。同じ扱いをするなと言いたい。しかも札幌市は、人口190万人と1桁違う。小学生でも知っている事実ではないか。非常に腹立たしい。

  • ホームチーム贔屓の実況・解説はいたしかたがないが、相手チームを批判したり、揶揄する発言があった。視聴しているのはホームチームのファンだけではなく、相手チームのファンも見ている。それを知っているはずなのに、そのような実況・解説は如何なものだろうか。

【ラジオ】

  • 沖縄の米軍基地移転に県知事が反対しているという話題で、男性司会者が首相の対応のまずさを批判した。その際「あのバカ野郎が、云々」と発言した。政治家批判は結構だが、暴言はよくない。

  • 番組ディレクターが結婚した際、MCが「彼はストーカー行為をして結婚してもらった。だからまだ結婚していない男性は、ストーカー行為をすると良い」と言った。お笑い芸人の冗談だとしてもストーカー行為は犯罪である。

  • 聴取率調査週間だからといって特別なことをしないでほしい。ラジオの聴取率調査週間になると、いつもより豪華なプレゼントをしたり、特別番組を編成することがある。聴取率調査週間以外の日は手を抜いているということなのだろうか。

【CM】

  • 料理の食事シーンのCMの音が不快です。「ズルッ」「ハフハフ」といった食事の際の音を、何故あんなに大音量で流しているのか。汚ならしくて、思わずチャンネルを替えてしまう。マナー上あんな音をたてて食べることは常識はずれだ。

  • スポーツジムのCMが頻繁に流れているが、いきなりメタボのだらしない腹のアップが画面に映し出され、不快になった。食事時の時間帯でもお構いなく頻繁に流しているが、如何なものか。

青少年に関する意見

【「性的表現」に関する意見】

  • 夕方6時台のアニメ番組での性的表現がひどすぎた。疑似性交用の人形のようなものや、いわゆるSMプレイに使う道具などが露骨に描かれ、使用されていた。放送局はいったい何を考えているのか。まだ、小学生が視聴するような放送時間帯である。

  • バラエティー番組で、「熊と出会ったときに死んだフリをしても助からない」との説明をする際に、熊の交尾写真を複数回使用していた。子どもの見ている時間帯に不必要な映像をわざわざ使用しないでほしい。

【「暴力・殺人・残虐シーン」に関する意見】

  • 情報番組で、凄惨な殺害シーンや事故などの過激な映像を多く含むウェブサイトを特集していた。日曜夜9時台の放送であり、子どもも多く視聴していると思われる。番組内で引用した同サイトの動画は放送での許容範囲を逸脱しない程度の衝撃度だと感じたが、興味を持った子どもたちが同サイトにアクセスして、より過激な映像を視聴してしまう可能性が高い。結果的に同サイトの宣伝をする形になってしまったのは極めて遺憾である。

  • バラエティー番組の罰ゲームで出演者が足蹴にされたのだが、それを見ていた他の出演者は笑っていた。スタジオ観覧中の小学生の目の前で行われたことであり、このようなシーンを子どもたちが見ると、精神の成長に悪影響があるのではないかと危惧している。

【「表現・演出」に関する意見】

  • バラエティー番組に元受刑者が出演し、刑務所の実態などを面白おかしく話していた。ディレイ放送にすることによって、表現については一定の配慮がされているが、子どもが見ている時間にこのような放送をするのは不適切だ。話している内容も美化されているように感じる。

【「言葉」に関する意見】

  • ドラマのタイトルにサディズムを意味するアルファベットが使用されている。子どもが見る放送時間帯にこのようなタイトルをつけるのはいかがなものか。タイトルの意味について子どもに聞かれた場合、どのように答えればいいのだろうか。

【「いじめ・虐待」に関する意見】

  • 私は生まれつき不正咬合で下あごが出ており、幼少期からからかわれてきた。最近、お笑い番組等でこのような容姿のお笑いタレントをからかって笑いを取ることが多く、それを見ると私も大変傷つく。生まれつきの身体的な問題を笑いのタネにしないでほしい。

2015年5月8日

NHK総合の『クローズアップ現代』審議入り

放送倫理検証委員会は5月8日の第93回委員会で、NHK総合の『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』と、この番組の基になった関西ローカルの『かんさい熱視線 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』の2番組について、審議入りを決めた。
審議入りの理由について、川端和治委員長は「放送倫理違反があるのは間違いないと思われる。委員会として言うべきことがあり、意見を言うことに意味がある」と述べた。
委員会は今後、担当記者やディレクターなど関係者のヒアリングを行ったうえで、「意見」を公表することにしている。
2014年5月14日に放送された『クローズアップ現代』は、寺で出家の儀式「得度」を受けると戸籍の下の名前を法名に変更できることを悪用して別人を装い、金融機関から融資をだまし取るケースが広がっていると紹介した。
番組では、宗教関係者や行政の担当者が対応に苦慮していることや、実際に「ブローカー」と「多重債務者」が相談している隠し撮りの現場などが紹介されたが、その「ブローカー」と「多重債務者」の相談シーンは「やらせ取材」だったと、今年3月、週刊誌が告発した。
NHKの調査委員会は4月28日、報告書を公表し「事実のねつ造につながるいわゆる『やらせ』はないと判断したが、一方で、放送ガイドラインを逸脱する『過剰な演出』や『視聴者に誤解を与える編集』が行われていた」として、担当記者ら15人の懲戒処分を決定した。