第99回 放送と人権等権利に関する委員会

第099回 – 2005年4月

「産婦人科医院・行政指導報道」事案の審理

審理要請案件「宝石販売報道」について…など

「産婦人科医院・行政指導報道」事案の審理

愛知県の産婦人科医院の院長が、2005年1月のNHK名古屋放送局のニュースで、「助産師資格のない看護師、准看護師に助産行為をさせていたとして03年10月に行政指導を受けたことを実名で報道された。すでに改善措置を講じているにもかかわらず、現在も違法行為を行っているかのように報道されたことにより、名誉と信用を毀損され、人権を侵害された」と申し立てている事案。

NHK名古屋放送局は、「無資格者による助産行為は重大な社会的問題であり、愛知県内でも行政指導の事例があったことを啓発することが重要だと判断して、報道したものだ」と反論している。

委員会では、前回3月の委員会を所用で欠席した竹田委員長代行が、本件事案についての見解を表明、ついで、「名誉権侵害(名誉毀損)の有無」「このニュースが視聴者にどう伝わったか」などについて意見を交わした。

今回は、委員会としての方向性を決めずに、次回5月の委員会で申立人、被申立人双方を呼んでヒアリングを行い、引き続き審理を続けることになった。

審理要請案件「宝石販売報道」について

京都府の男性が、2005年2月のニュース番組で「宝石販売を悪質デート商法と取り上げられ、違法行為をしていないのに行なったかのような報道で精神的苦痛を受けた。また記者の不適切な取材方法によって、店舗外での商談を禁止する会社の内規に違反するに至り降格処分を受けるなど、権利を侵害された」として、4月5日付けで申し立ててきた案件。

当初この案件は、3月10日付けで男性が勤める宝石販売会社名で申立書が送られてきたが、その後、申立人を会社から個人に代えて申請し直したもの。

再度の申立てを受けて、委員会では、本案件を審理対象とするか否か検討するため、当該局から自主的に提出された放送済みVTRを委員全員で視聴し、更に申立書と当該局の見解等を踏まえて意見を交わした。

その結果、「潜入取材や隠し撮りなど取材方法については検討する点はあろうが、申立人が番組の画面からは特定できない。特定できない以上当該番組で申立人の名誉が毀損されたとは言えない」とする意見が大勢を占め、本件は審理しないことに決めた。

委員会では、上記内容を文書化した「放送人権委員会の回答」を、飽戸委員長名で申立人に送付することにした。

総務省の行政指導について

総務省は2005年3月23日付けで熊本県民テレビ、テレビ東京と日本テレビの3社に対し”厳重注意”の行政指導を行なった。今回の行政指導は、昨年6月の山形テレビとテレビ朝日に次ぐもので、この行政指導に対してBPOは04年11月11日、「総務省は通達の中で放送人権委員会の事実認定や判断を引用するなどしたが、これは第三者機関に対する信頼を危うくする恐れが極めて強い」などとする『三委員長声明』を公表している。

今回の総務省の行政指導を重く見たBPOは、3委員会それぞれで意見を集約することになり、放送人権委員会では4月の委員会で議題として取り上げた。

委員会で出された主な意見は次の通り。

  • 放送局が自主的に訂正ないし謝罪をした後に、監督官庁が行政指導するのは、放送局の自主・自律をそいでしまうおそれがある。
  • 総務省がこういうケースで行政指導できる法的根拠はどこにあるのか。
  • 日本テレビに対する厳重注意では、「同社の番組基準に反し、放送法第3条の3第1項[番組基準]に抵触」となっているが、局側が自主的に設けた番組基準を行政指導の根拠に持ち出すのは如何か。
  • 今回は「放送人権委員会決定」等が引用されていないので、通達とBPOの間で直裁的な関連はなく、3委員長声明などの対応は難しいと思う。しかし、メディアの自律との関係で、どこかがきちんと意見を表明すべきだろう。
  • 民放3局への行政指導について、民放連が総務省に対し、指導を出す根拠や番組基準引用の是非などを問うよう働きかけてはどうか。

人権に関する苦情対応状況(3月)

2005年3月の1か月間に寄せられた放送人権委員会関連の苦情の内訳は、次のとおり。

◆人権関連の苦情〔13件〕

  • 斡旋・審理に関連する苦情(関係人からの人権関連の苦情で、氏名・連絡先や番組名などが明らかなもの)・・・4件
  • 人権一般の苦情(人権関連だが、関係人ではない視聴者からの苦情、または、氏名・連絡先や番組名などが不明なもの)・・・9件

1の案件のうち、「宝石販売報道」(2005年2月3日放送)の苦情申立ては、不適切な取材による誤った報道として、放送人権委員会に「苦情申立書」(3月10日付)が届いたもの。申立人が、法人(株式会社)となっていることから、委員会では協議の結果、放送人権委員会運営規則に基づき、このままでは受理できない旨、申立人に通知することになった。

その他

最後に、次回放送人権委員会はヒアリングがあるため、定例より1時間早め、5月17日午後3時から開くことを決め、閉会した。

以上