2010年度 第46号

「大学病院教授からの訴え」事案

委員会決定 第46号 – 2011年2月8日 放送局:テレビ朝日・朝日放送

見解:放送倫理上問題あり
テレビ朝日・朝日放送の報道番組『サンデープロジェクト』で2010年2月に放送した「密着5年 隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」の特集に対して、大学病院教授が、自分が直接当事者ではなかった過去の出来事に関連して、事前の同意を得ることなく取材を強行されたことや番組で実名や取材映像を使用されたのは人格権の侵害だと訴えた事案。

2011年2月8日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第46号

申立人
A
被申立人
株式会社テレビ朝日・朝日放送株式会社
苦情の対象となった番組
『サンデープロジェクト』
(毎週日曜日 午前10時~11時45分、2010年3月終了)
放送日時
2010年2月28日(日)(番組の後半の特集 約34分)
「密着5年 隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」

本決定の概要

本件は、報道番組『サンデープロジェクト』の中の「密着5年 隠蔽体質を変える~大学病院医師の孤独な闘い~」と題する特集コーナーの後半部分で、1998年に金沢大学附属病院で起きた「患者の同意なき臨床試験」をめぐる裁判と大学病院側の対応等を取り上げたこと、および事前の同意を得ることなく「直撃取材」を行ったことに対して、この取材を受け、また番組で実名および取材映像を使用された金沢大学附属病院産婦人科学講座の教授である申立人が、人格権侵害等の違法と放送倫理違反を申し立てたものである。
放送と人権等権利に関する委員会(以下「委員会」という)は、結論として、本件取材には人格権侵害の違法性は認められないが、放送内容には、企画意図は理解できるものの、放送倫理上の問題および表現上の問題があると判断した。とりわけ問題となるのは、番組のインタビュー部分における申立人の扱いと、「患者の同意なき臨床試験」をめぐる裁判の紹介の仕方である。本件放送における申立人インタビュー部分の取り上げ方は、真実性の追求や反論の機会の確保とはほど遠いものであり、また、「患者の同意なき臨床試験」をめぐる裁判結果の紹介は、上訴審以降の経過を捨象し、その結果を誤り伝えたため、裁判所も患者が実験目的を主とした臨床試験の対象にされたと認定したかのような不正確なものになっているとの批判を免れない。これらについて委員会は、放送倫理上の問題があると判断した。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の申立ての要旨
  • 4.被申立人(放送局)の答弁の要旨

II.委員会の判断

  • 1.審理の対象
  • 2.実名・映像の使用による人格権侵害
  • 3.取材上の問題点
  • 4.放送内容の問題点

III.結論と措置

IV.審理経過

全文PDFはこちらpdf

2011年6月20日【委員会決定を受けてのテレビ朝日・朝日放送の取組み】

全文PDFはこちらpdf

2011年7月4日【「委員会決定を受けての取り組み」に対する意見】

全文PDFはこちらpdf

2010年度 第45号

「機能訓練士からの訴え」 事案

委員会決定 第45号 – 2010年9月16日 放送局:TBSテレビ

見解:問題なし
TBSの報道番組『報道特集NEXT』が2009年4月と11月に放送した車イスの少女の普通中学校入学をめぐる問題を扱った特集について、映像に登場した少女の機能訓練士が無断で訓練の映像を使用されたとして肖像権や名誉、財産権等の侵害を訴えた事案。

2010年9月16日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第45号

申立人
(有)A
B
C
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『報道特集NEXT』
(毎週土曜日午後5時30分~6時50分)
放送日時
2010年2月28日(日)(番組の後半の特集 約34分)
(1) 2009年4月11日
特集「車イスの少女が入学できない訳」19分20秒
(2) 2009年11月7日
特集「Dさん入学・・・豊かな教育」24分10秒

本決定の概要

TBSテレビ(以下「被申立人」という)は、報道番組『報道特集NEXT』において、2009年4月11日に特集「車イスの少女が入学できない訳」を、2009年11月7日に特集「Dさん入学・・・豊かな教育」を放送した。これらの番組は、普通小学校に通うことができた少女がなぜ普通中学校に通うことができないのかという企画意図に基づくものであったが、番組中、(有)A(以下「A」という)の代表者であるB氏、同社員であるC氏(以下三者をあわせて「申立人ら」という)が少女に機能訓練を行う映像が放送された。この映像は少女の両親が撮影したものであった。
申立人らは、4月11日の放送については、事前にB氏C氏両名の肖像を使用することについて被申立人が了解を得ておらず肖像権侵害にあたるとしたほか、申立人らの名誉、財産権(特許技術)、著作権、営業権を侵害したものと主張した。11月7日の放送については、放送前に被申立人から連絡があり一応の許諾を与えたものの、その後許諾を与えた前提に反する対応があったことから、結局、B氏C氏両名の肖像権、申立人らの名誉、財産権(特許技術)、著作権、営業権を侵害したものであり、いずれの放送も申立人らの活動を曲解させ、または、不法な説明があり、申立人らの活動を阻害するもので、申立人らの被申立人に対する善意を踏みにじるものであるとして、申立てに及んだ。
放送と人権等権利に関する委員会(以下「委員会」という)は審理の結果、以下の理由により、本件放送内容については名誉、肖像権等の権利侵害はなく、また、放送倫理違反にあたる点も認められないと判断した。
まず、B氏C氏両名の肖像の使用については、4月11日の放送については事後の承諾が与えられており、11月7日の放送については事前の承諾が与えられているので、いずれも肖像権の侵害があったとはいえない。また、放送において視聴者に申立人らの活動を曲解させるような内容や不法な説明があり、そのことによって申立人らの活動を阻害した事実は認められず、そのほか、申立人らとの対応のうえで、被申立人において申立人らの善意を踏みにじる行為があったとする点もこれを認めることができなかった。
ただし、被申立人においては肖像にかかわる権利処理について軽率なところがあり、その点において報道される側に対する配慮に欠けた部分があったと考えるので、この点については、今後の放送の糧として欲しい。
なお、財産権(特許技術)、営業権に関わる部分については、委員会の審理の対象とはならないので判断しない。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の申立ての要旨
  • 4.被申立人(放送局)の答弁の要旨

II.委員会の判断

  • 1.申立ての要旨(1)について
  • 2.申立ての要旨(2)について
  • 3.申立ての要旨(3)について
  • 4.申立ての要旨(4)について

III.結論

IV.審理経過

全文PDFはこちらpdf

2010年度 第44号

「上田・隣人トラブル殺人事件報道」

委員会決定 第44号 – 2010年8月5日 放送局:テレビ朝日

見解:放送倫理上問題あり(意見付記)
テレビ朝日は、2008年12月の『報道ステーション』において、長野県上田市で夫婦が殺害され隣家の男が逮捕された事件を特集で取り上げた。この放送について、遺族が、夫婦が長年にわたって加害者やその親族に嫌がらせをしてきたことが、殺害の動機を形成したかのような事実に反する内容だったとして、名誉毀損などを訴えた事案。

2010年8月5日 委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第44号

申立人
A
被申立人
株式会社 テレビ朝日
苦情の対象となった番組
『報道ステーション』
(月~金 午後9時54分~11時10分)
特集「身近に潜む境界トラブルの悲劇 住宅地の惨劇はなぜ起きた」
放送日時
2008年12月23日(火)午後10時48分過ぎから約15分間

本決定の概要

テレビ朝日は、2008年12月23日放送の『報道ステーション』において、同年11月に長野県上田市で夫婦が殺害され、隣家の男が逮捕された事件を取り上げ、特集「身近に潜む境界トラブルの悲劇 住宅地の惨劇はなぜ起きた」(以下「本件放送」という)を放送した。
これに対して、申立人は、(1)本件放送において、申立人の両親である被害者夫妻が長年にわたって加害者やその親族に対して嫌がらせをしてきたことが加害者の殺害の動機を形成したかの真実に反する内容が放送されたことによって、被害者夫妻およびその子供である申立人自身の名誉が毀損され、あるいは申立人の被害者夫妻に対する敬愛追慕の情が侵害された、また、(2)本件放送が近隣住民から聴取した内容の真実性等に十分配慮することなくそのまま放送したことは、事実を正確に、かつ公平に報道すべきであるという放送倫理に違反すると主張して、放送内容の訂正と謝罪を求めて本件申立てを行った。
審理の結果、被害者夫妻が、自分の土地に加害者の車が入ることを嫌がって、加害者自宅から公道へ出るために通過する路地の屈曲箇所付近に障害物を置いて通行を妨害しようとした事実、また、事件当日、障害物を置いた上で、被害者(妻)が加害者の様子をうかがい、加害者を写真撮影しようとしていた事実が認められた。また、こうした被害者夫妻の行為が加害者による本件犯行の動機形成に影響したことは、加害者に対する刑事事件判決においても指摘されているところである。こうした認定に基づき、委員会は、これらの点に関する本件放送の報道内容は、主要な部分において真実であり、または真実と信じるにつき相当の理由があったといえ、申立人に対する名誉毀損に当たらず、その他の違法もないと判断する。したがって、訂正放送、謝罪放送はいずれも必要がない。
他方、委員会は、とりわけ本件放送が一般的な隣人トラブルにとどまらず殺人事件という深刻な犯罪を取り扱うものであったことを考慮すれば、(1)取材段階においては、少なくとも申立人ら遺族など被害者関係者と接触を試み、その言い分も聴取するなどの被害者保護の観点からの積極的姿勢が求められる場合であったにもかかわらず、そうした努力をしていなかった点において被害者に対する配慮に欠けるところがあり、また、(2)編集・放送段階においては、被害者夫妻が非常識であったといったイメージを与えかねない放送をする一方で、加害者の側の問題点には一切触れなかったため、被害者側への配慮に乏しく、公平性を欠く内容になっていることが否定できないものと認めた。
このように、本件放送は、取材や編集・放送の各段階において被害者夫妻および申立人ら遺族に対する配慮に欠ける点があったものと認められ、「放送倫理基本綱領」が「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」とし、民放連の報道指針が「事件の被害者に対し、節度をもった姿勢で接する」としていることに照らして、放送倫理上問題があると判断する。 したがって、委員会は、被申立人に対し、本決定の趣旨を放送するとともに、今後は、報道においてより正確性、公平性を確保するよう留意して真実を追求し、かつ被害者等の名誉と生活の平穏のいずれをも害することのないよう公平な取材・報道をするよう十分配慮することを要望する。

(決定の構成)

委員会決定は以下の構成をとっている。

I.事案の内容と経緯

  • 1.申立てに至る経緯
  • 2.放送内容の概要
  • 3.申立人の申立ての要旨
  • 4.被申立人の答弁の要旨

II.委員会の判断

  • 1 苦情申立てが期限内に行われなかったことについて
  • 2 申立人が名誉毀損等にあたると主張する事実
  • 3 これらの事実についての検討
  • 4 名誉毀損等の成否
  • 5 放送倫理上の問題
  • 6 小括

III.結論と措置

IV.審理経過

全文PDFはこちらpdf

2010年11月4日【委員会決定を受けてのテレビ朝日の取組み】

全文PDFはこちらpdf