第142回–2019年10月
"生き物捕獲バラエティー番組で事前に動物を用意"
TBSテレビ『クレイジージャーニー』を討議
第142回放送倫理検証委員会は10月11日に開催され、10月7日に当該放送局への通知と公表の記者会見を行った長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
また、委員会が7月5日に通知・公表した日本テレビ『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な改善策を含めた取り組み状況など対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、当該対応報告を了承し、公表することとした。
出演者の不適切な差別的発言を放送し審議中の関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、担当委員から意見書の原案が示された。次回委員会には意見書の修正案が提出される予定である。
街頭取材で、取材協力者の性別を執拗に確認する内容を放送し審議中の読売テレビのローカルニュース『かんさい情報ネットten.』について、担当委員から意見書の修正案が示され、意見交換を行った。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し、前回審議入りした北海道放送の『今日ドキッ!』について、当該放送局の番組関係者の一部に対して行われたヒアリングの結果について担当委員から報告があった。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして、前回審議入りしたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、近く予定されている番組関係者へのヒアリングのポイント等について意見交換を行い、確認した。
少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ、前回の委員会で審議入りしたTBSテレビの『消えた天才』について、当該放送局から追加報告書が提出され、これを受けて担当委員から、当該番組関係者に対するヒアリングの準備に入る旨の報告があった。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組を放送した際、事前に準備した動物をその場で発見し捕獲したように見せる演出を行ったTBSテレビの『クレイジージャーニー』について、当該放送局から提出された報告書を基に討議した。その結果、番組内容が民放連放送基準に抵触している疑いがあり、他方で、当該放送局が調査を継続中であり、追加の報告書が提出される見込みであることを踏まえ、討議を継続することとした。
1. 長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見を通知・公表
長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見(委員会決定第30号)について、当該放送局に対する通知と公表の記者会見が10月7日に行われた。
長野放送が3月21日にローカル放送した持ち込み番組『働き方改革から始まる未来』については、5月の委員会で、番組で取り上げられている特定企業の事業紹介が広告放送と誤解されかねない内容になっているのではないか、考査が適正だったか検証する必要があるとして審議入りし、議論を続けてきた。
委員会は、長野放送が、民放連放送基準の「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」や、民放連が策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」の「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らした適正な考査を行わず、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した。
今回の委員会では、委員会決定を伝えた長野放送のニュースを視聴し、委員長や担当委員から、会見での質疑応答などが報告された。
2. 日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見への対応報告を了承
委員会が7月5日に通知公表した、日本テレビの『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』2つの「祭り企画」に関する意見(委員会決定第29号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、情報・制作局の全社員が意見書を読んだ感想をアンケートとして集め、それを基にミーティングを開いたこと、意見書の真意をより深く理解するために放送倫理検証委員会の担当委員を招いて勉強会を開催したことなどが記載され、それぞれの会合で出た意見や感想が具体的かつ詳細に記されている。
委員会では、勉強会に出席した委員の「活発な意見交換ができた」という感想を踏まえて意見交換を行い、当該放送局が意見書で指摘した課題を受け止め、個々の社員においても自分の問題として受け止めていることが窺われ、局の対応も適切であるとして、当該対応報告を了承して、公表することにした。(委員会決定など2019年度 参照)
3. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』について審議
関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について、当該放送局は、4月の放送前に制作や考査の責任者らが検討し、「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」と判断して放送したとしていたが、6月に、視聴者への配慮が足りず心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだったと謝罪した。
委員会は7月、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている民放連の放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から意見書の原案が示され、それを基に議論した。次回委員会には、意見書の修正案が示される予定である。
4. 人権にかかわる不適切な取材と内容を放送した読売テレビの『かんさい情報ネットten.』について審議
読売テレビは、5月10日夕方のローカルニュース『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会において、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りした。
今回は、前回の意見書の原案に対する議論を受けて担当委員から示された修正案の内容について意見交換が行われ、次回の委員会でも引き続き議論を行う予定である。
5. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議
北海道放送が参議院選挙公示前日の7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。前回の委員会において、その他の比例代表の候補者や政党にはまったく言及しておらず、参議院比例代表選挙には制度上北海道という区切りを入れる余地がないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは、道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できないことからすれば、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性を害し、放送倫理違反となる可能性があり、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして審議入りした。
委員会では、当該放送局の番組関係者の一部に対して行われたヒアリングの結果が報告された。次回の委員会までに引き続きヒアリングを実施し、意見書の骨子案が示される予定である。
6. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議
2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3名がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。
前回の委員会において、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りした。
委員会では、担当委員が、近く予定されている番組関係者へのヒアリングのポイント等について説明し、意見交換を行った。
7. 少年野球のピッチャーの投球などスポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議
TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたことが社内調査で判明したと報告があった。
前回の委員会において、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りが決まった。
委員会では、当該放送局から、その後の調査において当該番組の全放送回で他に同様の加工はなかった旨の追加報告書が提出されたことを受けて、担当委員から、当該番組関係者に対するヒアリングの準備に入る旨の報告があった。
8. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』を討議
TBSテレビは、2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する番組を放送した際、制作スタッフが事前に準備した動物を、その場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行っていたと発表した。
当該放送局の報告書によれば、専門家が「爬虫類ハンター」としてメキシコを訪れ、珍しい爬虫類を発見・捕獲するという企画で、放送後、外部からの指摘を受け社内調査したところ、紹介した動物6種類のうち4種類が、事前に現地の協力者に依頼して捕獲し、生息地付近に放すなどしたものを使って撮影していたことがわかったという。また過去10回の「爬虫類ハンター」企画を調べた結果、計7回、11種類の生物が、事前に用意されたものであることがわかったという。
委員会では、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に討議が行われた。委員からは「民放連放送基準『(32)ニュースは事実に基づいて報道し公正でなければならない』に抵触する疑いがある」「当該放送局が認めているように、この番組のロケ部分はドキュメンタリーや情報番組においても虚偽やねつ造が許されないことと同様に過剰な演出にならないように注意する必要がある」「事実を伝えていないという点で視聴者との約束に反している」などの意見が出された。
委員会は、当該放送局が、現在も海外の現地協力者などに対して調査を続けており、その結果について追加の報告書を提出するとしていることから、討議を継続することとした。
以上