第187回

第187回–2023年9月

NHK『ニュースウオッチ9』について審議

第187回放送倫理検証委員会は、9月8日に千代田放送会館で開催された。
ワクチンを接種後に亡くなった人の遺族の訴えを、新型コロナウイルスに感染して亡くなったと受け取られるように伝え、適切ではなかったと謝罪し、6月の委員会で審議入りしたNHKの『ニュースウオッチ9』について、今回の委員会では、担当委員からヒアリングの内容と意見書の原案についての報告があり、次回の委員会までにさらに必要なヒアリングを実施し、意見書の修正案を作成することになった。
1月12日放送のTBSテレビの報道番組『news23』において、農業協同組合(JA)で職員が共済販売の過大なノルマを課され、職員やその家族が不必要な契約を結ぶ「自爆営業」が横行していると報じた。放送後、身元を隠す措置が不十分だったため、内部告発した職員が退職に追い込まれたとの週刊誌報道やテレビ局の取材対象に対する不誠実な姿勢が問題だという視聴者の声がBPOへ寄せられ、委員会は、取材源の秘匿という原則が損なわれるという放送倫理違反の疑いがあり、詳しく検証する必要があるとして8月の委員会で審議入りを決めた。今回の委員会では担当委員から当該放送局の関係者にヒアリングした結果が報告された。今後は意見書の原案の作成を進める。
統一地方選挙を前に公認立候補予定者が出演したラジオ大阪の番組『大阪を前へ!』等について、政治的な公平性の観点から問題はないか等を判断するために7月の委員会で討議入りし、今回の委員会には当該放送局から番組審議会の議事録等が提出され議論したが、さらに討議を継続することとした。
証言の一部を誤解して放送した報道情報番組について、当該放送局から提出された報告書を基に議論した。
8月にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見などが報告された。

議事の詳細

日時
2023年9月8日(金)午後5時~午後8時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、大石委員、
大村委員、長嶋委員、西土委員、毛利委員、米倉委員

1. NHK『ニュースウオッチ9』について審議

NHKの『ニュースウオッチ9』(5月15日放送)は、ワクチン接種後に亡くなった人の遺族を、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の遺族と受け取られるような伝え方をし、放送倫理違反の疑いがあるとして6月の委員会で審議入りとなった。
今回の委員会では、担当委員から当該番組の関係者に対して実施したヒアリングの内容と意見書の原案についての報告があった。委員から組織的な問題をより照射する方向性の意見などが出され、次回の委員会までにさらに必要なヒアリングを実施し、意見書の修正案を作成することになった。

2.TBSテレビ『news23』について審議

TBSテレビは1月12日、報道番組『news 23』の調査報道23時のコーナーにおいて、農業協同組合(JA)で職員が共済販売の過大なノルマを課され、ノルマ達成の為に職員やその家族が不必要な契約を結ぶ、いわゆる“自爆営業”が横行していると報じた。放送後、身元を隠す措置が不十分だったため、A地方のJAに勤める男性は職場で身元がばれて居づらくなり、退職に追い込まれたとの週刊誌報道があった。また、取材を受けた職員とは3回程度会話をしたことがあるという人から「放送を見て誰であるかを私ですら特定できた。彼は農協の問題を告発し多くの職員の声を代弁してくれた。退職になりとても残念だ。テレビ局の取材対象に対する不誠実な姿勢を問題にしてもらいたい」といった声がBPOへ寄せられた。委員会は、報道の取材源の秘匿という原則が損なわれるという放送倫理違反の疑いがあり、取材から放送に至る経緯等について詳しく検証する必要があるとして8月の委員会で審議入りを決めた。
今回の委員会では、担当委員から当該放送局の関係者にヒアリングした結果が報告された。委員からは「内部告発者を取材する際は高いレベルの取材源の秘匿が求められる。今回は最終的にそれが徹底できなかった。なぜ徹底できなかったのかについて意見書では説明を尽くすべきだ」「今回BPOが一石を投じたことによって、調査報道に対する取り組み方を抜本的に改めようとか、調査報道の取材にもっと力を入れようとか、いい方向へ進んでいくのであれば、本事案を問題化したことが放送業界にとってプラスになると思う」といった意見が出た。これらを踏まえて今後は担当委員が意見書の原案の作成を進める。

3.ラジオ大阪『大阪を前へ!』等について討議

大阪放送(ラジオ大阪)の番組『大阪を前へ!』、『兵庫を前へ!』は、統一地方選挙前半(3月31日告示、4月9日投票)の約2カ月前の2023年1月12日から1月29日までの間に計15回(15分番組×13回、30分番組×2回)放送された。ゲストは各回とも同じ政党の公認立候補予定者だった。
7月の委員会で、政治的な公平性に抵触しているのではないか等の観点から討議入りした。今回の委員会には、当該放送局が8月に臨時開催した番組審議会の議事録と現状報告等が提出され議論したが、今後の対応等をまとめた報告書の提出を待つこととし、引き続き討議を継続することにした。

4.証言の一部を誤解して放送した報道情報番組について議論

報道情報番組で販売店の元店長の証言をVTRで放送した後に、関係先の企業から事実と異なる点を指摘され、テレビ局が後日お詫びした。当該放送局から委員会に提出された報告書によると、改めて調査した結果、証言の一部を番組側が誤解していたことが判明し、また事前に関係先に対する確認取材を行っていなかったことも分かった。関係先へは当該放送局の幹部が説明とお詫びに行き、理解を得られたという。委員会では、相手先にとっての不利益な情報を放送するにあたり、報道の基本である裏付けや確認取材を怠ったことは、にわかに信じがたい事である等の非常に厳しい意見が出た一方で、事実関係を速やかに解明し関係先へも対応していることから、現時点では委員会が調査をする必要性までは認められないとし、議事概要で取り上げるにとどめ、議論を終えた。

5.8月に寄せられた視聴者・聴取者意見を報告

8月に寄せられた視聴者・聴取者の意見のうち、芸能事務所創立者による性加害問題について、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の記者会見と、当該事務所が設置した外部の専門家による「再発防止特別チーム」の調査結果公表があり、さまざまな意見が多数寄せられたこと、その中にはBPOに対応を求めるものが含まれていることなどについて事務局から報告があり、BPOの審議には、規約・委員会規則による制約があることなどの議論を行った。

以上

第186回

第186回–2023年8月

TBSテレビ『news23』が審議入り

第186回放送倫理検証委員会は、8月4日に千代田放送会館で開催された。
ワクチンを接種後に亡くなった人の遺族の訴えを、新型コロナウイルスに感染して亡くなったと受け取られるように伝え、適切ではなかったと謝罪し、6月の委員会で審議入りしたNHKの『ニュースウオッチ9』について、今回の委員会では、担当委員から当該番組の関係者に対して実施したヒアリング内容の報告があった。これに対して、他の委員からは事実関係についての質問などが出された。次回の委員会までにさらに必要なヒアリングを実施し、意見書の原案作成を目指すことになった。
1月12日放送のTBSテレビの報道番組『news23』において、農業協同組合(JA)で職員が共済販売の過大なノルマを課され、職員やその家族が不必要な契約を結ぶ「自爆営業」が横行していると報じた。放送後、身元を隠す措置が不十分だったため、内部告発した職員が退職に追い込まれたとの週刊誌報道やテレビ局の取材対象に対する不誠実な姿勢が問題だという視聴者の声がBPOへ寄せられた。委員会は、取材源の秘匿という原則が損なわれるという放送倫理違反の疑いがあり、詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
統一地方選挙を前に公認立候補予定者が出演したラジオ大阪の番組『大阪を前へ!』等について、政治的な公平性の観点から問題はないか等を判断するために前回の委員会で討議入りしたが、さらに討議を継続することとした。
7月にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見などが報告された。

議事の詳細

日時
2023年8月4日(金)午後5時~午後7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、毛利委員、米倉委員

1. NHK『ニュースウオッチ9』について審議

NHKの『ニュースウオッチ9』は、ワクチン接種後に亡くなった遺族を、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の遺族と受け取られるような伝え方をし、放送倫理違反の疑いがあるとして6月の委員会で審議入りとなった。
同番組は5月15日に「新型コロナ5類移行から1週間・戻りつつある日常」と題する1分5秒のVTRを放送した。VTRには、ワクチン被害者の遺族の会から遺族3人が出演したが、3人がワクチン接種後に亡くなった人の遺族であるとの説明は無く、テロップで「夫を亡くした」「母を亡くした」と紹介するにとどまった。
今回の委員会では、担当委員から当該番組の関係者に対して実施したヒアリングの報告があった。これに対して、他の委員からは事実関係についての質問などが出された。次回の委員会までにさらに必要なヒアリングを実施し、意見書の原案作成を目指すことになった。

2.TBSテレビ『news23』について審議

TBSテレビは1月12日、報道番組『news 23』の調査報道23時のコーナーにおいて、農業協同組合(JA)で職員が共済販売の過大なノルマを課され、ノルマ達成の為に職員やその家族が不必要な契約を結ぶ、いわゆる“自爆営業”が横行していると報じた。その中で、A地方のJAに勤める男性が、顔をぼかし声も変えてインタビューを受け、ノルマ達成のために1歳と5歳の子供に必要のない共済をかけていると語った。このインタビューには顔をぼかし声も変えた別のJAの職員も同席していた。また、JAのBに勤める男性は、顔をぼかし声も変えて、上司から給与やボーナスが支払えなくなるといわれ職員や農協の為にノルマを無くせないと述べた。
放送後、身元を隠す措置が不十分だったため、A地方のJAに勤める男性は職場で身元がばれて居づらくなり、退職に追い込まれたとの週刊誌報道があった。また、取材を受けた職員とは3回程度会話をしたことがあるという人から「放送を見て誰であるかを私ですら特定できた。彼は農協の問題を告発し多くの職員の声を代弁してくれた。退職になりとても残念だ。テレビ局の取材対象に対する不誠実な姿勢を問題にしてもらいたい」といった声がBPOへ寄せられた。
委員会は、当該放送局に報告書と番組DVDを求めて協議した。その結果、報道の取材源の秘匿という原則が損なわれるという放送倫理違反の疑いがあり、取材から放送に至る経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

3.ラジオ大阪『大阪を前へ!』等について討議

大阪放送(ラジオ大阪)の番組『大阪を前へ!』、『兵庫を前へ!』は、統一地方選挙前半(3月31日告示、4月9日投票)の約2カ月前の2023年1月12日から1月29日までの間に計15回(15分番組×13回、30分番組×2回)放送された。ゲストは各回とも同じ政党の公認立候補予定者だった。
番組最終回の放送翌日、聴取者からBPOに「特定政党のキャッチフレーズをそのままタイトルにした番組で、ゲストはこの党の政治家と決まっており、内容は党の活動や今後の取り組みを紹介し宣伝することに尽きる。特定政党のPR番組を一般の番組と同じ扱いで放送することは問題だ」という趣旨の意見が寄せられた。
前回の委員会で、政治的な公平性に抵触しているのではないか等の観点から討議入りし、今回の委員会では様々な意見が出されたが、引き続き討議を継続することとした。

4.7月に寄せられた視聴者・聴取者意見を報告

7月に寄せられた視聴者・聴取者の意見のうち、シングルマザーとして娘を育てる女性が、スリランカ出身の男性と恋に落ち、3人で家族を作るというストーリーのテレビドラマに対して、「違法滞在を美化している」「不法移民を正当化している」などの意見が寄せられたことなどについて事務局から報告があった。

以上

2023年8月4日

TBSテレビ『news23』が審議入り

TBSテレビは1月12日、報道番組『news 23』の調査報道23時のコーナーにおいて、農業協同組合(JA)で職員が共済販売の過大なノルマを課され、ノルマ達成の為に職員やその家族が不必要な契約を結ぶ、いわゆる“自爆営業”が横行していると報じた。その中で、A地方のJAに勤める男性が、顔をぼかし声も変えてインタビューを受け、ノルマ達成のために1歳と5歳の子供に必要のない共済をかけていると語った。このインタビューには顔をぼかし声も変えた別のJAの職員も同席していた。また、JAのBに勤める男性は、顔をぼかし声も変えて、上司から給与やボーナスが支払えなくなるといわれ職員や農協の為にノルマを無くせないと述べた。
放送後、身元を隠す措置が不十分だったため、A地方のJAに勤める男性は職場で身元がばれて居づらくなり、退職に追い込まれたとの週刊誌報道があった。また、取材を受けた職員とは3回程度会話をしたことがあるという人から「放送を見て誰であるかを私ですら特定できた。彼は農協の問題を告発し多くの職員の声を代弁してくれた。退職になりとても残念だ。テレビ局の取材対象に対する不誠実な姿勢を問題にしてもらいたい」といった声がBPOへ寄せられた。
委員会は、当該放送局に報告書と番組DVDを求めそれらを踏まえて協議した。その結果、報道の取材源の秘匿という原則が損なわれるという放送倫理違反の疑いがあり、取材から放送に至る経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第185回

第185回–2023年7月

NHK『ニュースウオッチ9』について審議

第185回放送倫理検証委員会は、7月14日に千代田放送会館で開催された。
ワクチンを接種後に亡くなった人の遺族の訴えを、新型コロナウイルスに感染して亡くなったと受け取られるように伝え、適切ではなかったと謝罪し、6月の委員会で審議入りしたNHKの『ニュースウオッチ9』について、今回の委員会では、担当委員が作成した資料をもとに議論した。今後は当該番組の関係者に対してヒアリングを行っていく。
統一地方選挙を前に公認立候補予定者が出演したラジオ大阪の番組『大阪を前へ!』等について、当該放送局から提出された報告書と番組CDを踏まえて議論した。その結果、政治的な公平性の観点から問題はないか等を判断するため、討議事案としてさらに議論を継続することとした。
タマネギの糖度を紹介する特集で数値をねつ造した鹿児島読売テレビの情報番組『かごピタ』について、当該放送局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて討議したが、一連の訂正とお詫びの放送や再発防止策等を受け、今回で討議は終了し審議の対象としないこととした。
6月にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見などが報告され議論した。

議事の詳細

日時
2023年7月14日(金)午後6時~午後9時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、毛利委員、米倉委員

1. NHK『ニュースウオッチ9』について審議

NHKの『ニュースウオッチ9』は、ワクチン接種後に亡くなった遺族を、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の遺族と受け取られるような伝え方をし、放送倫理違反の疑いがあるとして6月の委員会で審議入りとなった。
同番組は5月15日に「新型コロナ5類移行から1週間・戻りつつある日常」と題する1分5秒のVTRを放送した。VTRには、ワクチン被害者の遺族の会から遺族3人が出演したが、3人がワクチン接種後に亡くなった人の遺族であるとの説明はなく、テロップで「夫を亡くした」「母を亡くした」と紹介するにとどまった。
今回の委員会では、担当委員から企画の提案、取材、編集、試写などの各段階において、詳細な疑問点と問題のある可能性が提示され、議論した。
委員会は今後、当該番組の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2.ラジオ大阪『大阪を前へ!』等について討議

大阪放送(ラジオ大阪)の番組『大阪を前へ!』、『兵庫を前へ!』は、統一地方選挙前半(3月31日告示、4月9日投票)の約2カ月前の2023年1月12日から1月29日までの間に計15回(15分番組×13回、30分番組×2回)放送された。ゲストは各回とも同じ政党の公認立候補予定者だった。
番組最終回の放送翌日、聴取者からBPOに「特定政党のキャッチフレーズをそのままタイトルにした番組で、ゲストはこの党の政治家と決まっており、内容は党の活動や今後の取り組みを紹介し宣伝することに尽きる。特定政党のPR番組を一般の番組と同じ扱いで放送することは問題だ」という趣旨の意見が寄せられた。
これを受けて委員会では報告書と番組CDの提出を当該放送局に求めた。報告書によれば、2022年11月末に広告代理店から番組企画の打診があり、社内で検討。同年12月に統一地方選まで2カ月を逆算し、空いている放送枠を確認して収録した。放送期間は2023年1月12日から1月29日に決定したという。また、すべての回でゲストが特定政党から公認を受けた立候補予定者であり、番組CDで放送内容を聴取すると、立候補予定者の議会や地元選挙区などでの活動実績や抱負、経歴などが紹介されていた。委員会は、政治的な公平性に抵触しているのではないか等の観点から、番組を討議事案としてさらに議論を継続することとした。

3.鹿児島読売テレビ『かごピタ』について討議

鹿児島読売テレビは2023年2月24日に、情報番組『かごピタ』内でタマネギの糖度について約13分半にわたる特集を放送した。その後6月14日に地元地方紙が数値のねつ造等を報じ、同日当該放送局からも自主申告があったため委員会は報告書と番組DVDの提出を求め、討議を行った。
報告書によれば、新タマネギと普通のタマネギの糖度の違いを糖度計で比較した映像を流したが、普通のタマネギについては、タマネギを使わずに砂糖水を計測した数値を紹介。新タマネギについては加熱した場合の糖度を表示していたものの、計測時の現場では値が高く出過ぎたと判断し、水を加えて数値を低くして放送したという。
当該特集について3月に、業務委託をしている制作会社のスタッフから「納得がいかない」旨の相談を当該放送局の社員が受け、調査したところ数値のねつ造・改ざんが明らかになった。番組担当者は「インターネットで調べた一般的な数値に近づけるために行った」などと説明している。番組では3月31日に、不正確なところがあったとして内容の訂正とお詫びをしたが、糖度を偽ったことについては全く説明がなかった。
6月14日の地元紙報道を受けて、6月16日の同番組で「砂糖水を使って数値を『ねつ造』したこと」、「水を加えて数値の『改ざん』をしたこと」、「3月31日の訂正とお詫びの放送で『誤った計測方法について伝えていなかったこと』」の3点を認めて放送し、改めて謝罪した。
当該放送局は、タマネギの糖度の数値についてねつ造・改ざんを把握したにもかかわらず、3月のお詫び放送ではその旨の説明を全くしておらず、地元紙報道を受けてようやくねつ造・改ざんを認め謝罪したのであって、放送倫理が内発的に遵守されるべき点からは問題があると言わざるを得ない。もっとも、再発防止の対応策として、番組プロデューサーに報道経験者を加えることや取材における留意事項を記載したチェックシートを新たに導入したこと、また、研修会の実施、番組審議会で審議されたこと等が示されていることを踏まえ、委員会での意見を議事概要に掲載した上で討議を終了し、審議の対象としないこととした。

【委員の主な意見】

・数値を変えたという、事実と異なる内容を放送したことは放送倫理違反と言えよう。類似事例では『発掘!あるある大事典Ⅱ』があるが、その番組はかなりの構造的な問題点や、繰り返し改ざんがされていたというような案件であり、それと比較して提出された報告書以上の事実が出てくるとは思われず、恒常的なものとは認められないだろう。
・初回(3月31日)のお詫び放送では、数値改ざん等には触れておらず新聞報道後に、初めてねつ造・改ざんの事実を2回目のお詫び放送の中で伝えた。この報道がなければそのままになっていたのではないか、という点では猛省してほしい。
・事後的な是正も一定程度なされていると考えられ、再発防止策も報告されている。

4.6月に寄せられた視聴者・聴取者意見を議論

6月に寄せられた視聴者・聴取者の意見のうち、芸能人の不倫の問題をめぐって、本人たちの自筆の手紙や交換日記を映したり、内容を報道したりすることはプライバシーの侵害ではないかといった批判的な意見が多数あったことや、歌舞伎俳優の自殺ほう助事件に関して、睡眠薬の種類、量、その方法などについて詳しく報じるのはあきらかに過剰であり、WHOの自殺報道ガイドラインに抵触し、視聴者の自殺を助長するのではないかといった疑問を呈する意見などが事務局から報告され、議論した。

以上

第184回

第184回–2023年6月

NHK『ニュースウオッチ9』が審議入り

第184回放送倫理検証委員会は、6月9日に千代田放送会館で開催された。
NHK『ニュースウオッチ9』は、エンディングVTRにおいて、ワクチンを接種後に亡くなった人の遺族の訴えを、新型コロナウイルスに感染して亡くなったと受け取られるように伝え、適切ではなかったと謝罪した。当該放送局から提出された報告書や番組DVDを踏まえて協議した結果、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
前回の委員会に引き続き、民放ラジオのコメンテーター発言について議論したが、当該放送局の番組審議会での意見や是正措置を評価し議論を終了した。
5月にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見などが報告され議論した。

議事の詳細

日時
2023年6月9日(金)午後5時~午後8時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、毛利委員、米倉委員

1. NHK『ニュースウオッチ9』について審議

NHKは5月15日の『ニュースウオッチ9』のエンディングで「新型コロナ5類移行から1週間・戻りつつある日常」と題する1分5秒のVTRを放送した。
VTRには、ワクチン被害者の遺族の会から遺族3人が出演。「遺族の人たちの声を届けていきたい」「風化させることはしたくない」などと語ったが、3人がワクチン接種後に亡くなった人の遺族だとの説明は無く、テロップで「夫を亡くした」「母を亡くした」という紹介にとどまった。このため視聴者には、新型コロナウイルス感染により亡くなったかのような印象を与える放送となった。
NHKは遺族の会から抗議を受け、16日の同番組で「新型コロナに感染して亡くなったと受け取られるように伝えてしまった。適切ではありませんでした」と謝罪した。
委員会は、NHKから提出された報告書と番組DVDを踏まえて協議を行った。その結果、企画、取材、編集の各段階で不明な点が多く報告書は納得できる内容ではなく、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
委員会は今後、当該番組の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2. 民放ラジオのコメンテーター発言について議論

民放ラジオ局でコメンテーターが発言した内容とそこに至る経緯について、前回に引き続いて議論が行われた。当該放送局の番組審議会で厳しい意見が連続して出されていることや、当該放送局でとられたコンプライアンスの強化や発言に関する知識を深めるなどの活動があり、是正措置が一定程度評価できるものであることを考慮し、議論を今回で終了することにした。

3. 5月に寄せられた視聴者・聴取者意見を議論

5月に寄せられた視聴者・聴取者意見のうち、過大なノルマを達成するために職員やその家族が不必要な契約を結ぶいわゆる“自爆営業”がJAで横行している実態を放送した際、インタビューに応じたJA職員の身元を隠す措置が不十分だったため、特定され退職に追い込まれたとする報道を受けて、取材対象に対する不誠実な姿勢は問題だとの意見が寄せられたことなどを事務局が報告し、議論した。

以上

2023年6月9日

NHK『ニュースウオッチ9』が審議入り

NHKは5月15日の『ニュースウオッチ9』のエンディングで「新型コロナ5類移行から1週間・戻りつつある日常」と題する1分5秒のVTRを放送した。
VTRには、ワクチン被害者の遺族の会から遺族3人が出演。「遺族の人たちの声を届けていきたい」「風化させることはしたくない」などと語ったが、3人がワクチン接種後に亡くなった人の遺族だとの説明は無く、テロップで「夫を亡くした」「母を亡くした」という紹介にとどまった。このため視聴者には、新型コロナウイルス感染により亡くなったかのような印象を与える放送となった。
NHKは遺族の会から抗議を受け、16日の同番組で「新型コロナに感染して亡くなったと受け取られるように伝えてしまった。適切ではありませんでした」と謝罪した。
委員会は、NHKから提出された報告書と番組DVDを踏まえて協議を行った。その結果、企画、取材、編集の各段階で不明な点が多く報告書は納得できる内容ではなく、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
委員会は今後、当該番組の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第183回

第183回–2023年5月

民放ラジオのコメンテーター発言について議論

第183回放送倫理検証委員会は5月12日に開催され、前回の委員会で議論した番組の関連資料や、4月にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見などが報告され議論した。

議事の詳細

日時
2023年5月12日(金)午後5時~午後7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、毛利委員、米倉委員

1. 民放ラジオのコメンテーター発言について議論

民放ラジオ局でコメンテーターが発言した内容とそこに至る経緯について、当該放送局から届けられた報告書等を基に議論が行われた。当該放送局の番組審議会でも活発な議論が行われていることにも注目し、その推移を見守りながら継続して議論することになった。

2. 4月に寄せられた視聴者・聴取者意見を議論

4月に寄せられた視聴者・聴取者意見のうち、岸田首相襲撃事件の報道で、爆弾の作り方や殺傷能力の高め方が分かるような内容があったこと、芸能事務所創立者による性加害疑惑がほとんど報じられていないことなどに意見が寄せられたことが事務局から報告され、議論が行われた。

以上

第182回

第182回–2023年4月

東海地区ラジオ局との意見交換会の報告

第182回放送倫理検証委員会は、新しく毛利透委員が加わり10人の委員が出席して4月14日に開催され、3月に名古屋市で行われた東海地区ラジオ局との意見交換会の模様や、3月にBPOに寄せられた視聴者意見などが報告され議論を行った。

議事の詳細

日時
2023年4月14日(金)午後5時~午後6時50分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、毛利委員、米倉委員

1. 東海地区ラジオ局との意見交換会の報告

3月17日に名古屋市で、愛知・岐阜・三重の3県のラジオ局8局から約20人が参加して、委員との意見交換会が行われた。ラジオ局だけを対象にした意見交換会を開くのは、2007年の委員会発足以来、初めてのことである。
参加した委員からは「私たちはこれまでラジオにあまり目配りをしてこなかった。今回を初めの一歩として今後も続けていきたい」「議論の主たるテーマの1つだった『政治的公平性』について、放送局によって意識のばらつきがあることが分かった」「ラジオとテレビでは、同じ放送事業者とはいえ番組制作の事情がかなり異なることが分かった」といった感想や報告があった。
意見交換会の詳細はこちら

2. 3月に寄せられた視聴者・聴取者意見を議論

3月に寄せられた視聴者・聴取者意見のうち、ニュース番組でメジャーリーグの大谷翔平選手を乗せた飛行機を撮影しようと、取材ヘリコプターが夜遅くに羽田空港付近で長時間旋回し、騒音被害を受けたという苦情が多数寄せられたことや、ゲストが差別的な発言と受け取れるコメントをした番組があったことや、情報番組で動物園から生中継をした際に、出演者がペンギンのいる池にわざと何回も落ちたことについて「ペンギンを虐待している」という意見が殺到したことなどが事務局から報告され、議論が行われた。

以上

2023年3月17日

東海地区3県のラジオ局と意見交換会を開催

愛知、岐阜、三重の3県のラジオ局と放送倫理検証委員会との意見交換会が、2023年3月17日、名古屋市で開催された。ラジオ局側の参加者はAM、FMあわせて8局20人、委員会からは小町谷育子委員長、岸本葉子委員長代行、大石裕委員、大村恵実委員、長嶋甲兵委員の5人が出席した。放送倫理検証委員会がラジオ局だけを対象にした意見交換会を開くのは、2007年の委員会発足以来、初めてのことである。

冒頭、小町谷委員長が「昨年、数は少ないものの、ラジオ局の番組について聴取者から意見が届いた。それをきっかけにラジオ局について考えはじめたところ、私たちがラジオ局の実情をあまり知らないということに気づいた。というのも委員会は過去、ラジオ局の事案を議論したことがなかったからだ。そこでまずは、ラジオ局のみなさんと意見交換をさせていただこうということになった」と述べ、開催の趣旨を説明した。
これに続いて主に、次の3つのテーマについて意見が交換された。
「パーソナリティーについて」「政治的公平性について」「番組と広告について」である。

パーソナリティーについて

司会をつとめる放送倫理検証委員会の調査役から、関西のラジオ局で起きたひとつの事案が紹介された。朝のラジオ番組で、俳優が亡くなったことを報じる新聞記事を取り上げた際、違法薬物の影響を疑うような発言をし、結果、謝罪に至ったというもの。
これについて、生放送を多く担当するラジオ局の参加者から、「パーソナリティーには年齢を重ねられた人生の大先輩が多く、若手の制作者が何かを指摘しても受け入れてもらえないことがある」という趣旨の発言があった。
「同じ放送といっても、ラジオの場合はテレビと異なり、1人のディレクターが長時間の生放送を担当するケースが多く、流れの中でパーソナリティーにおまかせ、という状態になることもある」、「パーソナリティーとはよく言ったもので、個性を打ち出すことによってリスナーを引きつけるという現実がある」、「ヒヤリ、ハットのおそれは社内で絶えず共有している。ただ、今のラジオが生放送を中心にやっている以上、このリスクを減らすのは難しい」などの意見も出された。
その一方、「放送内容で分からないことがあったら必ず確認する。まるまるパーソナリティーにおまかせして、その人の発言が、間違いを含めて出ることがないよう心がけている」という趣旨の発言もあり、局や番組によって制作環境に違いのあることが明らかになった。
これらに対し、在京ラジオ局の番組審議会委員長をつとめた経験のある大石委員からは「ラジオがもっと多くのリスナーを獲得していこうと考えるなら、保守的な感性に陥ることなく、『あっ、こういう面白い人がいる』と、冒険をすることも必要だ。可能性を信じて頑張っていただきたい」という発言があった。
放送番組の制作にたずさわる長嶋委員は「(ラジオというメディアが)personalであり、intimate(親密)であるからこそ、テレビとは違う、面白い個性が発掘される可能性は、まだまだある」と指摘した。
現役のラジオ番組出演者でもある岸本委員長代行は、コスト・コントロールとリスク管理の両立、さらにはマンパワーの問題が、ラジオ局共通の問題であることを指摘した上で、自分の体験をもとに、定年後のスタッフの活用方法が、今後の番組作りの鍵になる可能性があることを示唆した。

政治的公平性について

去年1月に放送された関西のテレビ局の番組で、ひとつの政党の関係者ばかりが出演するものがあり、これについて委員長談話(2022年6月)が出されたことが意見交換の導入になった。小町谷委員長は「ひとつの政党に関係する人だけが出演したことによって、質的公平が損なわれてはいないかという話をした」と、当時の議論を振り返った。
続いて司会者が、最近BPOに寄せられたラジオ番組のリスナーの意見から、以下の2つを紹介した。
「去年、参議院選挙の立候補予定者がディスクジョッキーをつとめる番組が放送されたのを聞いたが、実質的に候補の宣伝になってはいないか」、「国会議員が出演している番組があり、所属政党の公約や議員活動についての宣伝と、とれる話ばかりをしていた。放送倫理上の問題があるのではないか」。

ラジオ局の参加者からは、「番組のスポンサーが、自分が支持する特定政党の関係者をゲストに連れてきたりすると、なかなかNOと言いづらいことがある。しかし選挙に関して言えば、社内規則を設けており、選挙の一定期間内の出演には規制がかけられている」など、実例に即した説明があった。
別の参加者は、仮に地方議会議員が出ている番組があったとしても、例えば「介護」であるとか、その議員の専門分野に限って話をしてもらい、政党に関することは話をしないようにしてもらうよう、事前に打ち合わせをするようにしている、といった事情を紹介した。
「政治家候補と言われる人について、出演の要請があったことはある」と述べる参加者がいたが、そういう場合でも政治的な話はしないようにした、という補足をつけた。

これらに対し大石委員は、政治的に公平な番組を作っていくときに、公平さは考慮すべきものであるが、それはメディアが国家などから規制されることに対し、取材や表現の自由を確保するために持っているものだという趣旨の意見が表明された。さらに「ラジオ局がその地域に根ざし、どう貢献するかということ。問題提起型の、ジャーナリズム機能としての役割をどの程度、担っているのかについて注視している」という趣旨の発言をした。
大村委員はスイスでの居住経験をもとに、「地域のマイノリティー」としての感覚を語ったのに続けて、「ラジオにおいて、地域の特性や課題が放送されることは、そこに住む者にとっては、『あ、この社会に生きている』という実感を持つことにつながる」、「放送が民主的過程に貢献する価値をふまえ、放送に政治家が出演することや、政策を取り上げること自体については、(局側が)萎縮することがないようにと強く思っている」と述べた。
岸本委員長代行は、自分が地方取材でバスに乗った際、車内でラジオがかかり続けていた経験をもとに、「政治的な話はしなくても、バスを利用する人が、この時間はいつも同じ党の人が自己アピールみたいな話をしていると感じたら、番組についてどう思うか。一般のリスナーに番組がどう聞こえるかを想像してほしい。それがリスナーからの信頼につながると思う」と述べた。
長嶋委員は「視聴者の方が、これって(政治的に)極端な番組じゃないか?と疑問を感じ、いろんな意見を寄せるケースが増えている」と述べ、政治的公平性に関して、視聴者・リスナー側の意識が高まっていることを指摘し、よけいな政治介入を排除するためにも放送局の自主・自律が重要として、このテーマについての議論を締めくくった。

番組と広告について

委員会決定第30号、第36号、および2020年の委員長談話について、司会者から説明があったのち、「音声のみの放送」であるために、番組部分と広告部分の区別がつきにくいというメディアの特性について、ラジオ局側の参加者から発言があった。

日々の番組制作についての苦心がいくつも語られた。
「出演型の生CMなのか、それとも番組なのか。境界線が曖昧なものっていうのが、相談案件として非常に増えているという印象がある」、「この商品をというのではなくて、できる限り番組としての形を作って、リスナーへのサービス提供になるよう努力をしている」などが代表的なものである。
企業法務の経験がある大村委員は、「いろんな企業の仕事にたずさわる中で、広告ではなく、番組で取り上げてもらうために、企業がコンサルタントに対価を支払うケースがあると聞いている」と述べた上で、ラジオ局側に実情をたずねた。
ある参加者は、「(スポンサーサイドから)なるべく溶け込ませてください、広告と分からないよう告知してください、と言われることがあり、線引きが難しいことがあった」と自分の体験を明かした。
別の参加者は、「なくはないでしょう。しかし、局側としては番組を模索するスタンスを伝えるしかない」との趣旨、発言した。
長嶋委員は、「こういう問題がBPOで取り上げられることを、むしろクライアントの介入に対する盾にして、自分たちが制作したいものを作って欲しいと思います」と述べた。

以上の3つについて活発な意見交換がなされた後、「差別語・不快語・楽曲について」と題して、短時間の情報交換があった。民放連に放送音楽の取り扱いに関する内規(放送基準・61)が存在することが、司会者からラジオ局側参加者にあらためて情報共有された。

最後に参加局を代表して東海ラジオの岸田実也・制作局編成制作部専任部長が「有意義な時間を過ごさせていただいた。テーマごとに勉強になった。根底にあるのはリスナーのことを考えて、ということだと思うので、持ち帰って番組作りに役立てていきたい」と挨拶した。

以上

第181回 放送倫理検証委員会

第181回–2023年3月

ラジオ局との意見交換会の議事進行などを議論

第181回放送倫理検証委員会は3月10日に千代田放送会館会議室で開催され、ラジオ局との意見交換会開催の準備状況や、2月にBPOに寄せられた視聴者意見などが報告され議論を行った。

議事の詳細

日時
2023年3月10日(金)午後5時~午後6時30分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. ラジオ局との意見交換会の議事進行などを議論

委員会の活動とラジオの番組制作に関する特性や実務について相互に情報を共有するために初めて開かれるラジオ局との意見交換会について、先月に続き主要な議題や議事の進行などについて議論を行った。

2. 2月に寄せられた視聴者意見を議論

2月に寄せられた視聴者意見のうち、「平成を彩った美女たちの今に迫る」という企画や「タレント、飲食業店員の容姿に対する出演者の査定発言」などに、「ルッキズムではないか」という批判的な指摘があったことが報告された。また生放送のバラエティー番組で、一連の広域強盗事件を指示した疑いのある「ルフィ」と名乗る容疑者が日本に送還される機上で逮捕されたことについて、番組独自のテロップで「速報“ルフィ”逮捕」と表示し、そのことを司会がシリアスな口調で繰り返してスタジオ観覧者の笑いを誘ったことに対し、「被害者がいるのに不謹慎だ」などの意見が複数寄せられたことなどが事務局から報告され、議論が行われた。

以上

第180回 放送倫理検証委員会

第180回–2023年2月

ラジオ局との意見交換会の議題などを議論

第180回放送倫理検証委員会は2月10日にオンライン会議形式で開催され、ラジオ局との意見交換会開催の企画や、1月にBPOに寄せられた視聴者意見などが報告され議論を行った。

議事の詳細

日時
2023年2月10日(金)午後5時~午後6時30分
場所
オンライン
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. ラジオ局との意見交換会の議題などを議論

委員会の活動とラジオ局の番組制作に関する特性や実務について相互に情報を共有するための初めてのラジオ局との意見交換会について、主要な議題や議事の進行などについて議論を行った。

2. 1月に寄せられた視聴者意見を議論

1月に寄せられた視聴者意見のうち、情報番組内のコーナー企画で番組ディレクターがガムを噛みながら生中継し批判的意見が殺到した件や、クイズ番組において無重力状態でインコやメダカの実験を行ったのは動物虐待だとする意見が多数寄せられたこと、またバラエティー番組で取り上げられた県の水道事業に関する内容が事実と異なり、県民に動揺や不安を与えたという意見などを事務局が報告し、議論した。

以上

第179回 放送倫理検証委員会

第179回–2023年1月

ラジオ局と初めての意見交換会開催へ

第179回放送倫理検証委員会は1月13日に千代田放送会館で開催され、ラジオ局との意見交換会開催の企画や、12月にBPOに寄せられた視聴者意見などが報告され議論を行った。

議事の詳細

日時
2023年1月13日(金)午後5時~午後7時分
場所
千代田放送会館
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. ラジオ局との意見交換会開催の企画を議論

委員会の活動とラジオ局の番組制作に関する特性や実務について相互に情報を共有するために、これまで開催実績のなかったラジオ局との意見交換会を開催する企画を検討していたが、今般、正式に開催することを決め、詳細を議論した。

2. 12月に寄せられた視聴者意見を議論

クイズ番組で、答えを間違えたり時間切れになったりすると出演者が5メートル下のクッションに落下するゲームの安全性、1軒の近隣住宅からの苦情で長野市が公園を廃止する件についての論調や取材した際の住民のプライバシーへの配慮、難病で聴力を失った男性を軸としたドラマのセリフや演技ならびに字幕の表現などについて意見が寄せられたことを事務局が報告し、議論した。

以上

2022年11月2日

宮城・山形地区テレビ・ラジオ各局と意見交換会を開催

宮城・山形地区のテレビ・ラジオ12局と放送倫理検証委員会との意見交換会が、2022年11月2日、仙台市内で開催された。放送局側の参加者は12局40人、委員会からは小町谷育子委員長、岸本葉子委員長代行、高田昌幸委員長代行、井桁大介委員、大石裕委員、長嶋甲兵委員、西土彰一郎委員、米倉律委員の8人が出席した。放送倫理検証委員会が新型コロナ感染拡大のため開催を控えていた地方での意見交換会を開くのは、2020年2月の大阪地区での開催以来2年9か月ぶりのことである。

開会にあたり、小町谷委員長が「意見交換会は研修会でも勉強会でもなく、参加者が互いに意見を活発に交換していただく会であり、BPOをよく知ってもらう機会だ。委員にとっては、地方局が抱えている問題点や悩みを教えていただく会でもある。実りの多い意義のある会にしたい」と挨拶した。

意見交換会の前半では、これまでに公表した委員会決定を踏まえ、「政治的公平性」と「番組と広告の境目」の2つのテーマについて、担当委員が説明するとともに質疑応答を行った。

「政治的公平性~委員長談話から」

冒頭、小町谷委員長がBPOおよび放送倫理検証委員会の設立の経緯や「審理」と「審議」の違いなどについて解説した。その上で「BPO放送倫理検証委員会とは何かと思ったときには、『委員会決定第1号』を読んでもらうと理解が進む。そこには『倫理は、外部から押しつけられるものではなく、内発的に生まれ、自律的に実践することによって鍛えられるものである』とあり、委員会の役割として『放送界が放送倫理と番組の質的向上のたゆまぬ努力をかさね、多様・多彩な放送活動をより自由に行うよう促すこと――委員会がめざすのは、この一点である』」と宣言していることに改めて言及した。
その上で小町谷委員長は、2022年6月に出された毎日放送『東野&吉田のほっとけない人』についての委員長談話を踏まえ「政治的公平性」について講演を行った。この中で委員長は、同番組には日本維新の会の橋下元代表、松井大阪市長、吉村大阪府知事の3人がそろって出演し、会の政策については多く語られたが、異なる視点があまり示されておらず、委員会は政治的公平性を損なっていると判断したと、経緯を説明した。一方で、政治的公平性についての意見書を公表すると、放送局が政治問題を伝えるにあたって質的公平性を追求する足かせになるのではないかということを懸念し、また放送後、(当該放送局の)番組審議会で厳しい意見が出され、社内チームによる調査がきちんとなされるなど、自主・自律的に事後対応が行われたことも考慮し、審理・審議入りはしなかったと述べた。
また視聴率を重視して、話題性のある面白い発言をする政治家がキャスティングされると、党派的に偏りが生じ、情報にも偏りが出る恐れがあること、異なる視点が提示されないと、1党派の政策が一方的、肯定的に放送されるきらいがあるなどの問題点が垣間見えたと述べ、政治的公平性を真剣に議論する努力を欠いた番組によって一番不利益を受けるのは、偏った情報を受け取ることになる視聴者であることを懸念し、委員長談話を公表したと述べた。
続いてこれまでに公表された選挙報道に関する委員会決定などに触れ、「特に参議院選挙では、その地域の候補者だけを取り上げたために、地方局の番組が審議入りすることが多い。放送局が独断で比例代表制の設定している選挙区域とは異なる区切りを設定して放送することは、選挙の公平・公正性を害し、選挙制度そのものをゆがめることになる」として注意を促した。
最後に小町谷委員長は、「放送倫理検証委員会は放送法改正の問題をきっかけに設立された。このため政府の動きは常に意識し、政治に向き合うことを余儀なくされている。だからこそ政治的公平性や選挙報道のような民主主義に直結する報道、放送については敏感にならざるを得ない。一方で政治についての意見を表明すればするほど、放送現場を窮屈にさせることになることも懸念している。多様な放送、よい番組が生まれるためにも、委員会は常に抑制的でなければならないと考えている」と締めくくった。
参加者からは「知事や市長等政治家の発言については、一方的にならないよう、公平・公正のバランスを考えているが、例えば、告示1か月を切ったあたりに、対立候補との接戦が見込まれるようなタイミングでコロナウイルスの感染爆発が起きたり、行政側の対応を追及しなければならない場合には、(現職の)出演自体を相当悩むと思う」という意見があった。
これに対し大石委員は「選挙とそれ以外の時は区分する必要があるが、すべて平等に取り上げるのではなく、その問題が重要だという強い認識があれば、掘り下げて報道することこそ放送ジャーナリズムの役割だ。それが『質的公正』である。選挙期間中でも、選挙関連報道が常に優先されるべきというわけではない。緊急事態が生じた場合には、関連情報を伝え、地域の人達の安全を優先するという判断を行うべき」と答えた。
また、長嶋委員は「放送局側は自ら忖度したり、萎縮したりして、党の政策などに切り込むことを怠っているのではないか。もっと党の主張などについては深く伝えないと視聴者は選択することもできない。メディアの役割を自覚し、外部からのさまざまな圧力は局側がポリシーをもって突っぱねてほしい」と述べた。
他の参加者からは、民放連放送基準(12)に関連し、「社員アナウンサーが参議院選挙に向けて立候補の準備をしていたが、出馬宣言前に他のテレビ局で報道されてしまったため、民放連等にも確認しながら、そのアナウンサーの録音番組・生放送を急遽差し替えたり取りやめた。予定していたお別れの挨拶番組もできず、結構大変だった。その後は、フリーの出演者でも選挙に出るかもしれないという報道が出た時点で本人の出演を止めるということにしている」という事例が報告された。

「番組と広告の境目について」

番組と広告をめぐる問題についてこれまで委員会が公表した2つの委員会決定(第30号、第36号)および委員長談話(2020年)を振り返り、事案の問題点と教訓、番組と広告の境目をめぐる問題を判断するための枠組み、枠組みの中で留意すべき視点などについて西土委員が講演した。
同委員は、放送倫理検証委員会の役割はガイドラインの策定を行うことではなく、民放連放送基準や各局の番組基準などを判断基準として、第三者としての視点から番組を検証し、判断することにあると強調した。
そして、番組と広告の境目を検証するための基準は、民放連放送基準(92)「広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」と民放連の「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」(2017年)であり、特に後者は番組と広告の境目を判断するための枠組みを示していると述べた。「留意事項」では特に留意すべき事項として3点を挙げているが、これはあくまで例示であり、実際の運用にあたっては視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていないかを総合的に判断する必要があり、そのための視点の一つは局による番組の位置づけが視聴者に理解されているかどうかであると指摘した。また、番組内の個別の要素・場面をとりあげて倫理違反を見出すのではなく、視聴後感において番組全体が広告放送であるとの印象を残すか否かがより重要だと述べた。その上で、総合的判断を行うためのポイントは、なぜ視聴者に広告放送であるとの誤解を招いてはならないかということを常に考えることだと述べ、番組と広告の線引きの判断に迷ったら、委員長談話「番組内容が広告放送と誤解される問題について」に記されている「『番組』は視聴者からの信頼を前提として放送されている。ところが『番組』の中に『広告』の要素が混在し、『番組』と『広告』の識別が困難になれば、視聴者の商品・サービスに対する判断を誤らせ、ひいては放送事業者に対する信頼や、番組の内容に対する信頼が損なわれてしまうのではないか」という原点に立ち戻ってほしいと訴えた。そして、緊張感をもって一線を画す日々の作業を記録し、検証することを積み重ねていけば、問題が起きた場合にも説明することができ、何よりも視聴者の信頼に応えることができると述べた。
続いて、高田委員長代行は「番組はあらゆるものから独立して、放送局、放送人が自らの判断で、役に立つ、有益である情報を視聴者に対して伝えることだ。その意味で、番組制作者が忠誠を第一に誓っているのは視聴者。広告は広告主から対価を得て作られており、第一に忠誠を誓うのは広告主。民放番組では両方とも必要であり、だからこそ、これは広告、これは番組だときちんとわかるように放送すること、視聴者目線に立って考えるというシンプルなことが強く求められているのではないか」と述べた。
参加局からは「ローカル局にとって、1社提供の番組は(営業的に)非常に大きい。長野放送の問題などが立て続けにあったとき、一時的に1社提供の番組を自粛した時期もあった。しかし制作現場と営業の間を編成、考査などがつないで何ができるかを詰める作業を繰り返し行うことで色々な問題を克服し、1社提供の番組が実現できた」という報告もあった。

後半は「委員と語ろう」と題して、参加局に対する事前アンケートで関心の高かったジェンダー表現について意見を交わした。

「ジェンダー表現」

アンケートには以下のような回答が寄せられた。

  • 「原稿で、どこまで性別に言及するのかいつも悩んでいる。30代の女性医師、容疑者の男・・・。絶えずデスクと記者が議論、話し合いをしている」

  • 「水着や浴衣の今年のトレンドをリポーターが紹介。どうしても女性ものが華やかで、たくさん飾ってある。男物を扱わなくていいの?って誰かが言ったら、ワンカット紹介して。本質的にこれ、どうなのかなって思いながら仕事をしている」

これらの回答に対して、まず岸本委員長代行が作家や番組出演者としての経験を披露し、「共通する大前提は、性別を言う必要がない場面では言わないということだ。エッセイでは、話の流れに支障がなければ、女性店員と書くところを店員、スタッフなどに置き換える。店員の様子を思い浮かべて欲しいときは、女性ということは書かず、例えばつけ睫毛や髪の長さなど外見で表現する。ラジオでは、縁側でおばあさんがネコと日向ぼっこと言うべきところを縁側でお年寄りがとか、おじいさんあるいはおばあさんでしょうかと両論併記的な言い方をしている。テレビには映像があるので、男性、女性と言う必要がないことが多いと感じている。ただ、容疑者が逃走中のときは、男、女と言うのは視聴者にとって重要な情報だと思う」と述べた。
小町谷委員長は参考になればと断ったうえで「女性医師、女性弁護士、女流作家などの言い方があるが、そうしたプロフェッションの人は自身が『女性の~』とは思っていない。プロフェッションの自尊心を傷つけるジェンダーの使い方はやめた方がよいと思う。私は弁護士であり女性弁護士とは思っていない」とコメントした。
また、米倉委員は「放送局はオールドメディアという言われ方をしているが、それは旧来の価値観を保持しているメディアと見られているということだ。どのような表現をするかはケースバイケースで対処せざるを得ないが、考えなければならないのはジェンダーバランスだけではなく、ダイバーシティについて意識的であるということだ。常に変化していく表現については、職場内での議論を含め日常的に試行錯誤していかなければならない時代に来ている」と述べた。
高田委員長代行は「差別問題は特定の言葉を使わなければいいとか、危ない言葉に触れなければいいという発想になりがちだが、虐げられている立場の人、その人がどういう境遇だったかという現実の問題にどれだけ制作者が向き合ってきたかどうかが問われているし、今後も問われる」と発言した。
井桁委員は「放送における小さな言葉の言い間違いやうっかりミスなどと、国や自治体がマイノリティーを虐げるような政策を打ち出したり、政治家が明らかな差別的意識に基づく発言することを一緒くたにして議論することには違和感がある。放送には大きな影響力があり、差別的な用語や表現に注意することは大事だが、どうしてもケアレスミスは残ってしまう。問題のある言葉をゼロにするために、内部で言葉の意味を一つ一つチェックすることを自己目的化させることなく、より本質的に問題のある施策・姿勢をしっかりと検証する方向により注力してほしい」と述べた。

参加者からは、「いわゆる専業主婦の取材をする際、何も考えずに台所仕事の様子を撮影しがちだが、本当にそれでよいのかを考えるようになった。私たちの中には古くからのジェンダーバイアスのようなものがあり、原稿でも映像でも、それをどう払拭していくか考えなければならない時代だと感じている」という意見があった。

最後に参加局を代表して、仙台放送柳沢剛番組審議室長が「放送局の自主・自律を図るため、視聴者の信頼を得るため、できることを突き詰めていきたい。視聴者・スポンサー・放送局の『三方良し』を目指し、今日の議論を宮城・山形の各局が現場にフィードバックしていければと思う」と挨拶した。

終了後参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

  • 今年6月に出された委員長談話が指摘する「視聴率重視から生じる懸念」については、意味は十分理解するが、多くの人が関心を持つ「人」や「事柄」を取り上げることで、政治について関心を持ってもらったり、投票率の向上に寄与したりという効果もあるのではないかと思う。「質的公平性」をどう考え、どう実現していくかが課題だ。

  • 委員から「番組か広告かの問題について、ローカル局がなぜ大騒ぎしたのかわからない」との感想があった。テレビ・ラジオが広告としての媒体価値を落とすなか、ローカル局ではコスト削減を優先し、ともすれば手を抜いた安易な作業に流れがちである。一つ間違えれば自局も同じことになっていたかもしれないという危機感が多くの局にあったと思う。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とならないよう、制作の現場でよく考え大いに悩むことが重要と再認識した。

  • BPOという組織に、あまりポジティブな印象を持っていなかったが、委員の方々の顔を見ることができて正直少し安心した。委員の中にも色んな職業・立場の人がおり、みんなが個々の意見をぶつけながら結論を導き出しているのだと、会話を聞いて改めて認識した。
  • 意見交換会は、BPOが「向こう側」の存在ではなく、「こちら側」で一緒に試行錯誤する存在であるということ、また「こちら側」では、各局がそれぞれ共通の悩みを抱える同志でもあるということを知る大切な機会だと思う。

以上

第178回 放送倫理検証委員会

第178回–2022年12月

NHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見への対応報告を了承

第178回放送倫理検証委員会は12月9日に千代田放送会館で開催された。
委員会が9月9日に通知・公表したNHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見について、当該放送局から再発防止に関する取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
また、11月にBPOに寄せられた視聴者意見が報告され議論を行った。

議事の詳細

日時
2022年12月9日(金)午後5時~午後6時30分
場所
千代田放送会館
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、西土委員、米倉委員

1. NHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見への対応報告を了承

9月9日に通知・公表したNHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見(委員会決定第43号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、委員会決定の内容を全国の放送局に周知徹底した上で、再発防止を徹底する勉強会を200回以上実施していることや、放送倫理検証委員会の委員を招いて研修会を開催したことなどが記されている。また再発防止に向けて、全国の放送局に番組やコンテンツの正確さやリスクについてチェックする「コンテンツ品質管理責任者」を新たに配置したこと、「複眼的試写」の対象となる番組を拡大し、より明確なルールを設けたこと、ニュース企画用に「取材・制作の確認シート」のチェック項目を一部変更した「ニュースの確認シート」を新たに導入したこと、職員のジャーナリストとしての再教育にも不断に取り組んでいくことなどが報告されている。
委員からは、再発防止策が充実した内容になっている、ジャーナリスト教育等に触れている点を非常に興味深く拝見したなどの意見が出され、報告を了承し、公表することにした。
NHKの対応報告は、こちら(PDFファイル)

2. 11月に寄せられた視聴者意見を議論

ラジオ番組で俳優の急死を伝える際に違法薬物を使用していたかのような発言をパーソナリティーが繰り返していたこと、バラエティー番組の落とし穴企画の収録中にタレントが腰椎を圧迫骨折したこと、ドキュメンタリー番組で料理店の料理人を店長と紹介するなどの誤りがあったことなどを事務局が報告し、議論した。

以上

第177回 放送倫理検証委員会

第177回–2022年11月

10月に寄せられた視聴者意見を議論

第177回放送倫理検証委員会は11月11日に千代田放送会館で開催され、10月にBPOに寄せられた視聴者意見などが報告され議論を行った。

議事の詳細

日時
2022年11月11日(金)午後5時~午後7時
場所
千代田放送会館
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. 10月に寄せられた視聴者意見を議論

民放局の報道情報番組に出演するコメンテーターが、安倍晋三元首相の国葬について大手広告代理店が関与したという趣旨の事実でない発言をしたことに対する当該放送局の対応、および他の民放局の報道番組が、同氏への「デジタル献花」に旧統一教会が影響している可能性を報じたことに多数の意見が寄せられたことを事務局が報告し、議論したが、討議に入るべき事案にはあたらないとの意見が大勢を占めた。

以上

第176回 放送倫理検証委員会

第176回–2022年10月

NHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見に対する報道について報告

第176回放送倫理検証委員会は10月14日に千代田放送会館で開催された。
委員会が9月9日に公表したNHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見について、テレビ、新聞がどう報じたのか報告された。
また、9月にBPOに寄せられた視聴者意見が報告され議論を行った。

議事の詳細

日時
2022年10月14日(金)午後5時~午後7時
場所
千代田放送会館
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. NHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見の公表について報告

委員会は9月9日、NHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見の公表の記者会見(オンライン形式)を行った。今回の委員会では、NHKを含めテレビ、新聞がどのように報じたのかが報告された。これに関連して、総務省がNHKに対して行政指導を行ったことについて議論したところ、多くの委員から行政指導がなされたことについて懸念が示された。委員会は、番組内容に関する行政指導としては、2015年のNHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"に対する文書による厳重注意以来の指導になること、委員会は「『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見」(委員会決定第23号)において、放送法5条は放送事業者が自らを律するための「倫理規範」であり、総務大臣が個々の放送番組の内容に介入する根拠ではなく、「放送局が自律的に番組基準を定め、これを自律的に遵守すべきことを明らかにしたものなのである。したがって、政府がこれらの放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない。」との意見を表明していることを再度確認した。その上で、今回の行政指導は、NHKの報告書提出から約半年を経てなされたものであり、放送局が自主的にその原因を調査し再発防止策を検討して問題を是正すること自体が脅かされたとまではいえないこと等を踏まえて、委員会として意見を表明することはしないものの、委員会が議論を行ったことを公表することにより、今後も総務省の行政指導に対しては注視していくことを明らかにすることとした。

2. 9月に寄せられた視聴者意見を議論

9月に寄せられた視聴者意見のうち、安倍元首相の国葬報道・特別番組に対してさまざまな意見があったことや、民放番組のコメンテーターが、国葬に大手広告代理店が関与したという趣旨の事実に基づかない発言をし、訂正・謝罪に至ったことに対する批判的意見が多数寄せられたことなどを事務局が報告した。

以上

第175回 放送倫理検証委員会

第175回–2022年9月

NHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見の通知・公表について報告

第175回放送倫理検証委員会は9月9日にオンライン形式で開催された。
委員会が9月9日に行ったNHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見の通知・公表について、出席した委員長と担当委員から様子が報告された。
山梨放送が第26回参議院選挙期間中の7月2日に候補者が出演する番組『偉人の子孫を徹底リサーチ ハヤシソン!』を放送したこと、およびBS朝日が同選挙期間中の6月24日に『新・科捜研の女3』、7月8日に『暴れん坊将軍Ⅱ』を放送し、それぞれに候補者が出演していたことについて討議を行った。
第26回参議院議員選挙の投票日当日に、フジテレビが、討論番組『日曜報道THE PRIME』で、応援演説中に銃撃を受けて死亡した安倍晋三元首相の追悼番組を放送したことについて討議を行った。

議事の詳細

日時
2022年9月9日(金)午後5時~午後6時15分
場所
オンライン形式
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. NHKBS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見の通知・公表について報告

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、番組と局のホームページで公表し謝罪した。委員会は放送倫理違反の疑いがあるとして2月の委員会で審議入りを決め、議論を重ねてきた。審議を経て、委員会は次のとおり事実を認定した。①番組は五輪反対デモに参加していない男性を参加したかのように描くものだった。②男性のその他の発言についても事実の確証は得られていない。③別のデモに関する男性の発言を五輪反対デモに関するものであるかのように編集した。④男性に対し適切な説明をしなかった。そして、放送の結果、番組はデモの参加者はお金で動員されており、主催者の主張を繰り返す主体性のない人々であるかのような印象を視聴者に与え、デモの価値をおとしめたという問題も生じた。以上から、放送倫理基本綱領、NHK放送ガイドラインに反しているとして、重大な放送倫理違反があったと判断した。委員会は9月9日、当該局に対し意見書の通知を行い、続いて意見書の公表の記者会見(オンライン形式)を行った。同日に開催された9月の委員会では、委員会決定を伝えたNHKのニュース番組を視聴し、委員長と担当委員が通知・公表の様子について報告した。
通知と公表の概要は、こちら

2. 参議院選挙期間中に立候補者が出演した3番組について討議

委員会は、参議院選挙期間中に立候補者の出演番組を放送した以下の3番組について討議を行った。
① 山梨放送『偉人の子孫を徹底リサーチ ハヤシソン!』
山梨放送は第26回参議院選挙期間中である7月2日、『偉人の子孫を徹底リサーチ ハヤシソン!』を放送し、西郷隆盛の玄孫(やしゃご)である西郷隆太郎氏を取り上げた。同氏は6月6日、日本維新の会から比例代表候補として立候補表明をしていた。当該番組は他系列の放送局が1月8日に放送したものを購入して放送したものだった。
放送後、候補者の宣伝になるような番組を放送するのは山梨放送が応援しているようで大きな問題だという内容の視聴者意見がBPOに寄せられた。これを受けて委員会では、当該局に報告書と番組DVDの提出を求め、討議を行った。
報告書によれば、購入先の放送局から出演者リストを受けとった5月時点では西郷氏は立候補を表明しておらず、リストにもその記載はなかったという。また番組の素材チェックは公示2日前の6月20日に行われたが、同氏がいわゆるタレント候補ではなかったため担当者は立候補表明をしていたことに気づかず、そのまま放送した。
当該放送局は再発防止策として、購入番組は選挙期間中および公示1か月前からこれまでの担当者のほかに編成部員を加え二重の確認を行う、番組購入の際のチェック体制を一層強化することなどを挙げている。
② BS朝日『暴れん坊将軍Ⅱ』
③ BS朝日『新・科捜研の女3』
BS朝日は第26回参議院選挙期間中の6月24日に『新・科捜研の女3』、7月8日に『暴れん坊将軍Ⅱ』をそれぞれ放送した。
いずれも他局から番組を購入して再放送したもので『新・科捜研の女3』には候補者の石井苗子氏(日本維新の会・比例代表)、『暴れん坊将軍Ⅱ』には三原じゅん子氏(自由民主党・神奈川選挙区)がそれぞれ出演していた。
『暴れん坊将軍Ⅱ』は約40年前の1983年制作で、三原氏は素性を隠し市井にまぎれる将軍に、ある出来事を契機に恋心を抱く町娘の役。『新・科捜研の女3』は約15年前の2006年の制作で、石井氏は質店の社長だが、裏で金融業を営んでいて、融資先とのトラブルで殺害されるという役。三原氏および石井氏は、共に準主役であった。
BPOにはBS朝日から「参議院選挙候補者が選挙期間中に出演していた」旨の自主的な報告があり、また、視聴者からも「過去の出演とはいえ、公職選挙法に違反するのではないか」という意見が寄せられたため、委員会は当該局に報告書と番組DVDの提出を求め、討議を行った。
報告書には、出演者チェックやプレビューは購入時の4月のみで、放送直前には再度のプレビューを行わなかったこと、また、三原じゅん子氏は当時「三原順子」で芸能活動していたことをチェックの担当者が認識しておらず名前を見逃したこと、石井氏については番組資料の出演者リストの中に名前がなかったことなどが記載されていた。
また、再発防止策として、番組プレビューを購入時ではなく番組編成2週間前に行うことや、少なくとも選挙の公示・告示の1カ月前から内容・出演者が選挙期間にふさわしい作品かどうかを編成担当らが複数回確認する等が示されている。

上記の3番組は、委員会が過去に公表した3つの意見書で取り上げた問題を含んでいる。委員会は、2012年12月2日決定第9号「参議院議員選挙にかかわる4番組についての意見」において、参議院選挙期間中に再放送された番組に候補者が出演していた1番組について、放送倫理違反があるとは判断しなかったが、原因について出演者のチェックが行き届かなかったという単純なミスであることや選挙に対する関心の低さについて指摘をしている。
また、2013年4月には、知事選挙期間中に現職候補者の映像を放送したフジテレビのバラエティー番組『VS嵐』について、委員長談話を出し、参議院選挙の年であることに注意喚起も行っていたが、直後の参議院議員選挙期間中に再放送された番組に候補者が出演していた1番組があったため、委員会は、事態を重く見て、2014年1月8日第17号決定「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見」において、視聴者に与える印象の程度は、他の候補者との間で公平・公正性が害されるおそれのある程度にまで達していることや選挙に対する全社的な意識づけの不足があった点も踏まえて放送倫理違反があると判断している。
さらに、2017年2月7日 第25号委員会決定「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」においても、再放送された番組に候補者が出演していた1番組について審議を行っている(放送倫理違反とは判断していない)。
以上の意見書を踏まえて今回討議した3番組のうち、番組①は、候補者が番組の中で国のために働きたいなどの発言をし国政に出る気持ちが察せられたものの、放送に至る経緯をみれば、当該局に不注意があり、選挙と結びつける意図があったとは思われないこと、候補者がタレントでなかったことなどの事実が確認でき、番組②と③は選挙とは全く関係のない番組であることを踏まえて、いずれの番組も他の候補者との間で実質的には公平・公正性が害されるおそれがあるという程度にまでは達しているとまではいえないと考えられた。そして、いずれの放送局においても再発防止策がとられていることから、委員会は、その実効性に期待することとして、討議を終了した。
もっとも、参議院議員選挙のたびに、候補者が出演している再放送番組の放送が繰り返されることについて、委員から「いたちごっこ」になっているとして憂慮する声が相次ぎ、担当者のミスで終わらせるのではなく、出演者の名前を会社のシステムに登録しておくなどの仕組みによって防止できる可能性があること、放送番組は出演者にとっては利用価値のあるものであることを留意すべきであること、再放送であってもチェックには念を入れるべきであることなどの意見が出され、議事概要で改めて注意を喚起すべきであるとの結論で一致した。

3. 視聴者から「投票行動に多大な影響を与える」という意見が寄せられたフジテレビ『日曜報道THE PRIME』について討議

フジテレビは、第26回参議院議員選挙の投票日の7月10日(日)7時30分~8時55分に、討論番組『日曜報道THE PRIME』で、7月8日応援演説中に銃撃を受けて死亡した安倍晋三元首相の追悼番組『安倍晋三元首相を悼む…安倍氏の軌跡と日本の今後』を放送した。放送後、同番組について、視聴者からBPOに「実質的に特定の政党に投票を呼びかけるもので、公職選挙法に違反するのではないか」「放送法第4条、政治的に公平であることへの違反だ。投票行動に多大な影響を与える」といった意見が寄せられた。これを受けて委員会は、フジテレビに報告書と番組DVDの提出を求め、番組内容について討議した。
本件番組は、安倍元首相と所縁の深い3人の識者をコメンテーターとしてスタジオに招き、前半は、映像やコメンテーターが語るエピソードを通じて、安倍元首相の安全保障政策や外交政策の成果や功績について伝えた。後半は、銃撃事件の状況と警備上の問題点を専門家の解説を交えて伝え、選挙戦最終日を迎えた各党の同事件の受け止めを紹介し、最後に、コメンテーターが今後の日本はどうあるべきかについて語って終了した。
委員からは「自民党に直接つながることではないにしても、選挙の当日に、安倍元首相の功績や国際社会での評価を伝えることは、特定の政党の功績や評価を放送しているのと同じだと、視聴者に受け取られかねない」「番組の最後で、コメンテーターが、安倍氏の志を継いで憲法改正を岸田政権にやらせましょうと特定の政党へ投票を呼び掛けるに等しい内容の発言をしている。キャスティングの段階で、そういった発言が予期される場合、司会者や局側がどういう風にコントロールするのかを考えておくべきだ。番組制作のあり方に問題があったのではないか」という意見があった。
一方で「安倍元首相の襲撃事件を選挙前に報道した他の番組と比較して偏りがあるといえるだろうか」「特定の政党に投票を促すと認められる明示的な発言があったとまではいえないのではないか」「この番組が実際に投票行動を左右したかどうかを認定することは難しいのではないか」「銃撃事件のインパクトを考えると、週に1回編成されている番組が、その週を逃すと時期を逸するという気持ちになるのは分からなくもない。かなりレアな出来事に関して投票日当日に報道したということであれば、再発性は低いのではないか」という声があがった。
その上で、当該番組のみを取り上げて政治的な内容の番組に踏み込み具体的な判断を示すと、その判断が拡大解釈を招き、今後放送局が政治問題を伝えるにあたっての足かせになる恐れがあることに加え、当該番組が選挙についての報道・評論に関する番組とはいいがたく、他党の代表者の映像も含まれており、放送基準に照らして選挙の公正さや政治的公平性の問題として取り上げることは困難であるとして、本件番組については、委員から厳しい意見が出たことを議事概要に掲載して注意を喚起した上で、今回で討議を終了し、審議の対象とはしないとの結論に至った。

4. 8月に寄せられた視聴者意見を議論

8月に寄せられた視聴者意見のうち、ワイドショー番組などで旧統一教会に関連する様々な報道についての多様な意見や、情報番組で福島原発の処理水放出に関するコメンテーターの発言に対して批判的意見が寄せられたこと、宗教法人による悪質な霊感商法が社会問題となる中、霊能力者を自称する人物を番組出演させるのは不適切ではないかという意見があったことなどを事務局が報告した。

以上

2022年9月9日

NHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は9月9日午後1時30分からBPOで行われた。委員会から小町谷委員長、
高田委員長代行、西土委員、井桁委員の4人が出席し、NHKからは専任局長ら3人が出席した。
まず小町谷委員長から、NHKの報告等は字幕が誤っていたというトーンでまとめられているが、委員会は字幕の付け間違えという考えは取っていない。考えていただきたいのは、本件放送が視聴者に何を伝えたかということだ。五輪反対デモは確固たる信念を持った者が集まって行われているのではなく、主催者が金銭で参加者を組織的に動員し、主催者の意向に沿って行動させているという誤った印象を視聴者に与えることとなったと考える。なぜ、このような事態が起きたのか。委員会は取材、編集、試写の各段階に問題があると判断するに至ったとし、委員会決定に沿って問題点を説明した。
井桁委員は、重大な放送倫理違反と判断した理由について、単なる過失を超えていること、放送の影響が大きかったことの2点を挙げて説明した。コロナ禍での五輪開催という、国民の議論を二分するような大きなイベントに関して、その反対デモという一方当事者の信用や評価を傷つける結果となったことは否定できないと述べた。
高田委員長代行は、男性が五輪反対デモには行かないんだと繰り返して発言しているのにもかかわらず、なぜ、行くかもしれないといったようなことが番組のメインとして扱われることになったのか。一種の思い込みの暴走みたいなものに、なぜストップが掛けられなかったのか、非常に残念であり、疑問だと述べた。
西土委員は、国民が知りたいと思う社会的出来事に対する放送人の関心があって初めて、放送人の行動を規律する放送倫理が活きてくると思う。しかし、本件放送関係者はデモに対する関心が薄く、放送倫理違反に至ったということになる。本件放送は放送倫理の適用の在り方を検討する以前の問題を提起しているのではないか。その意味で、放送倫理を意識する上での条件を見直すべきことを問いかけているように思うと述べた。
これに対してNHKは、「指摘を真摯に受け止める」「取材や制作のあらゆる段階で真実に迫ろうとする放送の基本的な姿勢を再確認し、現在進めている再発防止策を着実に実行して、視聴者の信頼に応えられる番組を制作してまいりたい」と述べた。

その後、午後2時30分からオンライン形式による記者会見を開き、委員会決定を公表した。記者会見には57社118人が参加した。
はじめに小町谷委員長が、本件放送が視聴者に何を伝えたのか、何が問題だったのか、委員会決定に沿って説明し、放送倫理基本綱領及びNHK放送ガイドラインに基づき、重大な放送倫理違反があったと判断したと述べた。そして、従来、委員会が取り上げる事案は経験の少ないスタッフが関わるものが多かったが、最近は他局も含め、中堅スタッフが中心になったケースが散見される。中堅スタッフに何らかの問題があるとすると、若手スタッフの育成を担うことができないということになる。すると、全体として、放送の質が下がっていく可能性があり非常に危惧するところだ。そういうことのないよう、ぜひ、取材の基本である事実確認を改めて徹底していただきたいと述べた。
続いて井桁委員は、本件放送は悪意に基づくものではないかという憶測を呼んでしまったことも否定できない。1つのイベントに対する意見を、一方的におとしめるような悪意があったのかもしれないと思われてしまった。そのように視聴者に誤信させてしまったという影響も無視できないと考えていると述べた。
高田委員長代行は、一番印象に残っているのは、ヒアリングの際に現場スタッフの方のほぼ全員がデモとか、いわゆる社会的活動に関心がないということを、あっけらかんと語っていたことだ。もともと関心がない、だから深く考えなかったと繰り返していた。放送番組を作る側の感度、意識の低さというか、そういう部分も今回の問題の背景にあったのではないかと思うと述べた。
西土委員は、ある研究者の言葉(※)を借りるなら、「あるテーマのための集会に自らの身体を投入するという判断には、相当の決意」が必要なはずだ。五輪反対デモのように、政府の政策に、ある意味で反対する。そのために「自らの身体を人々の前に投入することは、何らかの損害を被るリスクを高める」と私も思う。リスクがあるにも関わらず、あえて声を出している人々の尊厳を傷つける結果となってしまった重大さをNHKは噛みしめていただきたいと述べた。
記者からは、委員会決定の付言:字幕問題に限定されるべきではなかった、について質問が重なった。「NHKが字幕問題に収れんしてしまった原因をどう考えるのか」という問いに対して小町谷委員長は、「まず、委員会は放送局の自律を支援するという立場にある。委員会が報告書の提出を依頼する前からNHKは報告書の準備を進めていた。そういう自律的な動きは尊重したい。ただ、委員会はNHKの報告書とは違う視点で本件を見たということだ。NHKの報告書がどうしてそうなったのか、私たちはそれを追及する立場にはない」と答えた。
「単なる字幕の付け間違いという問題ではないということだが、どういう問題だと認識しているのか」という質問に対して高田委員長代行は、「NHKの報告書と委員会決定を見比べるとわかると思うが、NHKの報告書には、五輪反対デモについての発言ではないものを、五輪反対デモのものとして編集したとか、そういったところは強く書かれていない。あるいは、男性は2時間ほどの取材の中で、カメラが回っている取材の中では、一貫して五輪反対デモには関心がない、自分は行かないということを言い続けたというところはNHKの報告書からは十分に読み取ることができない。しかし、委員会は検証の結果、そういう判断をしたということだ」と述べた。
その他の質問は、事実関係の確認に関するものが多かった。

(※)毛利透「集会の自由―あるいは身体のメッセージ性について」毛利編集『人権Ⅱ』(信山社、2022年)244頁以下

以上

第43号

NHK BS1 東京五輪に関するドキュメンタリー番組への意見

2022年9月9日 放送局:NHK

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と局のホームページで公表し謝罪した。番組は、東京五輪の公式映画監督である河瀨直美さんと映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。
委員会は、取材、編集、考査、調査の各段階で問題があるのではないかといった厳しい意見が相次ぎ、放送倫理違反の疑いがあることから、2月の委員会で審議入りを決め、議論を重ねてきた。審議を経て、委員会は次のとおり事実を認定した。①番組は五輪反対デモに参加していない男性を参加したかのように描くものだった。②男性のその他の発言についても事実の確証は得られていない。③別のデモに関する男性の発言を五輪反対デモに関するものであるかのように編集した。④男性に対し適切な説明をしなかった。そして、放送の結果、番組はデモの参加者はお金で動員されており、主催者の主張を繰り返す主体性のない人々であるかのような印象を視聴者に与え、デモの価値をおとしめたという問題も生じた。以上から、放送倫理基本綱領、NHK放送ガイドラインに反しているとして、重大な放送倫理違反があったと判断した。

2022年9月9日 第43号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2022年9月9日 決定の通知と公表

通知は、2022年9月9日午後1時30分からBPOで行われた。
また公表の記者会見は、午後2時30分からオンライン会議システムを使用して行われ、委員長および担当委員が委員会決定の説明と質疑応答を行った。
会見には57社118人の参加があった。詳細はこちら。

2022年12月9日【委員会決定に対するNHKの対応と取り組み】

委員会決定 第43号に対して、当該のNHKから対応と取り組みをまとめた報告書が2022年12月8日付で提出され、委員会はこれを了承した。

NHKの対応

全文pdf

目 次

  • 1) 委員会決定の放送対応
  • 2) 放送現場への周知
  • 3) 経営委員会・放送番組審議会への報告
  • 4) 放送倫理委員会の開催
  • 5) コンテンツ品質管理連絡会の実施
  • 6) BPO 放送倫理検証委員会との研修会
  • 7) 再発防止に向けて

第174回 放送倫理検証委員会

第174回–2022年8月

NHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』を審議
9月に委員会決定を通知・公表へ

第174放送倫理検証委員会は8月22日にオンライン形式で開催された。
2月の委員会で審議入りしたNHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。意見交換の結果、了承が得られたため、9月に当該放送局へ通知して公表することになった。

議事の詳細

日時
2022年8月22日(月)午後5時~午後7時30分
場所
オンライン形式
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. NHK BS1のドキュメンタリー番組『河瀨直美が見つめた東京五輪』について審議

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と局のホームページで公表し謝罪した。番組は、東京五輪の公式映画監督である河瀨直美さんと映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。
2月の委員会では、委員会からの質問に対する回答書、NHKが設置した「BS1スペシャル」報道に関する調査チームがとりまとめた調査報告書が提出され、それらを踏まえて議論を行った。同報告書では、字幕の内容は誤りであったとされている。議論の結果、取材、編集、考査、調査の各段階で問題があるのではないかといった厳しい意見が相次ぎ、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
3月から7月までの委員会において、担当委員からヒアリングなどに基づいた意見書が提出され議論を行ってきた。今回の委員会では、前回委員会までの議論を踏まえ担当委員から示された意見書の修正案について意見が交わされた。その結果、合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、9月に当該放送局へ通知して公表することになった。

2. 7月に寄せられた視聴者意見を議論

7月に寄せられた視聴者意見のうち、安倍元首相の銃撃事件を伝えたニュースや特別番組の内容、参院選特番でのコメンテーターと候補者とのやり取り、参院選候補者の出演した番組などについて、批判的な意見が寄せられたことを事務局が報告した。

以上

第173回 放送倫理検証委員会

第173回–2022年7月

NHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』を審議

第173回放送倫理検証委員会は7月8日に千代田放送会館で開催された。
2月の委員会で審議入りしたNHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。

議事の詳細

日時
2022年7月8日(金)午後5時~午後7時30分
場所
千代田放送会館BPO第一会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. NHK BS1のドキュメンタリー番組『河瀨直美が見つめた東京五輪』について審議

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と局のホームページで公表し謝罪した。番組は、東京五輪の公式映画監督である河瀨直美さんと映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。
2月の委員会では、委員会からの質問に対する回答書、NHKが設置した「BS1スペシャル」報道に関する調査チームがとりまとめた調査報告書が提出され、それらを踏まえて議論を行った。同報告書では、字幕の内容は誤りであったとされている。議論の結果、取材、編集、考査、調査の各段階で問題があるのではないかといった厳しい意見が相次ぎ、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
3月から6月までの委員会において、担当委員からヒアリングなどに基づいた意見書が提出され議論を行ってきた。今回の委員会では、前回委員会までの議論を踏まえ担当委員から示された意見書の修正案について意見が交わされた。
次回の委員会には、再び、意見書の修正案が提出される予定である。

2. 6月に寄せられた視聴者意見を議論

6月に寄せられた視聴者意見のうち、ニュース番組で参院選に向けた党首討論がなされた際の司会役の進行や、情報番組で前日の緊急地震速報を繰り返し使用したことに批判的意見が多数寄せられたことなどを事務局が報告したが、踏み込んだ検証が必要だという意見はなかった。

以上

第172回 放送倫理検証委員会

第172回–2022年6月

テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』視聴者質問の作り上げに関する意見への対応報告を了承

第172回放送倫理検証委員会は6月10日に千代田放送会館で開催された。
毎日放送のバラエティー番組『東野&吉田のほっとけない人』についての委員長談話が6月2日に公表され、その概要が報告された。
委員会が3月9日に通知・公表したテレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』視聴者質問の作り上げに関する意見について、当該放送局から再発防止に関する取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
2月の委員会で審議入りしたNHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。

議事の詳細

日時
2022年6月10日(金)午後5時~午後7時
場所
千代田放送会館BPO第一会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. 毎日放送『東野&吉田のほっとけない人』についての委員長談話の公表を報告

毎日放送が2022年元日に放送したバラエティー番組『東野&吉田のほっとけない人』について、5月の第171回委員会では、放送局としての自律的な自浄作用が機能しているとの一定の評価を行うとともに、質的公平性について踏み込むことは政治ジャーナリズムの足かせになる可能性があることを考え、紙一重のところで審議入りはしないとの結論に至った。その上で、当該番組に問題がなかったと誤解されるおそれもあることから討議入りとし、6月2日、委員長談話をBPOウェブサイトに公表した。
今回の委員会では、小町谷委員長から公表についての報告が行われ、事務局からは毎日放送のチェック体制の強化策など対応が説明された。

2. テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』視聴者質問の作り上げに関する意見への対応報告を了承

3月9日に通知・公表したテレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』視聴者質問の作り上げに関する意見(委員会決定第42号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、委員会決定の内容を社内に周知徹底した上で、社内各部署の危機管理担当者で構成される「放送倫理関連委員会」において、放送倫理違反があった点と、本件放送の5つの問題点についての説明が行われ、全社的な共有をしたことや、検証委員会の委員を招いて勉強会を開催したことなどが記されている。また再発防止に向けて、番組全般の管理の強化や、中堅、ベテラン向けの報道倫理研修を行い、「放送倫理ホットライン」を設置したことと共に、制作会社のテレビ朝日映像における再発防止策などが報告されている。
委員からは、再発防止に向けて「管理の強化」や「徹底的なチェック」などが挙げられているが、それ以前に放送ジャーナリストとしての基本的な確認作業を怠らないようにすべきだとの意見が出されたものの、委員会の意図するところはくまれているとして、報告を了承し、公表することにした。
テレビ朝日の対応報告は、こちら(PDFファイル)

3. NHK BS1『河瀨直美が見つめた東京五輪』について審議

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と局のホームページで公表し謝罪した。番組は東京五輪の公式映画監督である河瀨直美さんと映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。
2月の委員会では、委員会からの質問に対する回答書、NHKが設置した「BS1スペシャル」報道に関する調査チームがとりまとめた調査報告書が提出され、それらを踏まえて議論を行った。同報告書では、字幕の内容は誤りであったとされている。議論の結果、取材、編集、考査、調査の各段階で問題があるのではないかといった厳しい意見が出され、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
3月から5月までの委員会において、担当委員からヒアリングに関する報告に続き、意見書の原案が提出され議論を行ってきた。今回の委員会では、追加で実施した当該番組の関係者に対するヒアリングの内容が報告された。その上で、前回委員会までの議論を踏まえ担当委員から示された意見書の修正案について意見が交わされた。
次回の委員会には、再度、意見書の修正案が提出される予定である。

4. 5月に寄せられた視聴者意見を議論

5月に寄せられた視聴者意見のうち、知床観光船事故で犠牲になった男性がプロポーズの手紙をしたためていたことを放送したことについてプライバシーの侵害だと指摘する意見や、人気お笑い芸人の死去に関する報道がWHOの「自殺報道ガイドライン」に反していたと指摘する意見が、それぞれ複数あったことについて、事務局から概要が報告されたが、さらに踏み込んだ検証が必要だという意見はなかった。

以上

委員長談話

毎日放送『東野&吉田のほっとけない人』について

2022年6月2日
放送倫理検証委員会
委員長 小町谷 育子

 BPO放送倫理検証委員会は、毎日放送が2022年元日に放送した2時間のトークバラエティー番組『東野&吉田のほっとけない人』(以下「本番組」という)に、政治的公平性を問題視する意見が視聴者から多数BPOに寄せられたことから、本番組について4回にわたり議論をしてきた。
 本番組では、司会のお笑いタレント2人が、3組のゲストとの間で順繰りにトークを行うという構成が取られていた。冒頭のゲスト1組が、松井一郎大阪市長、吉村洋文大阪府知事、弁護士でコメンテーターの橋下徹氏の3人だった。松井氏には日本維新の会代表、吉村氏には同副代表との肩書が付され、そこに日本維新の会前代表である橋下氏が加わることにより、同一政党の関係者が一堂に会した形となった。松井氏と橋下氏が吉村氏を挟んで並び、ボケとツッコミのような巧みな話術により笑いを取りながら、先の衆議院選における維新の躍進、文通費(文書通信交通滞在費)問題、将来の総理候補などの国政に関する政治問題や、大阪における新型コロナ対策、大阪万博、大阪都構想などの関西エリアの問題に関するトークが繰り広げられた。構成上、3人のトークは冒頭だけではなく最終パートでも流されており、3人がメインのゲストとして遇されている。
 委員会は、本番組を収録したDVDを視聴するとともに、毎日放送がまとめた報告書および番組審議会の議事要旨などを参考にしながら、本番組が制作された経緯や放送後の対応を検討した。委員会の席上、委員から次々と意見が述べられた。

  • 報告書は、視聴率の追求を前面に打ち出すことで、今回の問題を政治的公平性の案件とはとらえていない、政治性はないということを述べているようだが、果たしてそのように評価してよいか。
  • 政治的な問題を取り扱った番組としては量的公平性を著しく損なっている事案といえるが、それを質的公平性により補正し政治的公平性を保っているといえるか。番組側が日本維新の会の政治的主張に対する批判や反論を投げかけたりしていない以上、質的公平性も損なわれている可能性がある。
  • 収録番組で編成等の目を通っているはずで、バランスを取る編集も十分可能であったのに、そのまま放送に至ったのは、毎日放送のガバナンスに問題があるのではないか。
  • 報道、教養、教育、娯楽など各ジャンルの調和を保つことを求める番組調和原則があるが、多くの番組が特定のジャンルに分類することが難しくなっている現状を踏まえると、バラエティー番組だから政治的公平性は緩くても大丈夫という言い訳はもはや通用しない。
  • 番組を収録した以上、放送しなければならないという考えがあったとすれば、放送倫理違反など問題がある番組にストップをかけられなくなりかねず深刻な事態だ。
  • 政党政治家と公権力担当者の区別を曖昧にすることにより、行政の施策を府知事・市長が説明する形を取って、政党の言いたいことを言わせてしまっている。局は視聴者の知る権利に応えるために番組を制作すべきであり、誰の声を聴いて番組を制作しているのかわからない。
  • 政策トークの中に特定の政党名がふんだんに盛り込まれている。にもかかわらず、番組進行はただ面白く盛り上げているだけで、そのまま放送するようなことが許されていいのだろうか。
  • 局の他番組を精査した場合、果たして放送局全体で政治的公平性が保たれているのだろうか。放送、編成の実態も含めた判断が必要だ。

 委員のこれらの意見は、個別に述べられたものであるが、委員会の総意として共有のできるものであった。
 討議の結果、委員会は、全員一致の結論として、次の2つの理由から紙一重のところで本番組について審議入りを見送ることとした。
 第一に、テレビ放送における政治的公平性で問われるのは量的公平性ではなく質的公平性である(選挙報道・評論について述べたものとして「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」委員会決定第25号)。量的公平性を厳密に追求すると質的公平性がかえって損なわれる可能性があるとともに、放送ジャーナリズムの意義が形式化するおそれがある。質的公平性に十全に配意して番組制作がなされれば、たとえ量的公平性を損なっている部分があるとしても、政治的公平性を保つことができるはずである。しかし、本番組の制作過程で、質的公平性の確保に向けて、番組の構成を綿密に検討したり、トークの内容に創意工夫を尽くしたりした形跡はうかがわれない。非常に問題のある番組といえるのだが、委員会が審議し意見書を公表すれば、放送局が政治問題を伝えるにあたって質的公平性を追求する際の足かせになるおそれがあることを懸念した。
 第二は、放送後の対応である。本番組放送直後に開かれた番組審議会は、バラエティー番組の方が影響力は大きいこと、出演者が政治的な影響力を持っていることに制作者が鈍感であることなどを厳しく指摘し、維新の政策の取り上げ方、スタジオトークを出演者任せにした手法、毎日放送の番組全体で政治的公平性が取れていると局が考えたことなどに疑問を呈していた。委員会とは役割が異なるものの、番組審議会の意見は委員会も賛同ができるところである。そして、専務取締役をリーダーとして立ち上げられた調査チームが速やかに自主的な調査を行い、再発防止のための活動も始まっている。したがって、局の自律的な自浄作用が理想的な形で働いたと一定の評価ができる。
 以上が委員会が審議入りをしない判断に落ち着いた理由である。しかし一方で、審議入りしないという結論だけが独り歩きし、本番組に垣間見えた問題点が放送界に共有されないことを委員会は危惧する。そこで、各放送局の番組制作において参考にしてもらうために、以下の2点を指摘することとした。

①視聴率重視から生じる懸念
 まず、委員会が着目したのは、視聴率重視によるキャスティングが相次ぐことにより政治的公平性を損なうおそれがある点である。
 本番組で3人がキャスティングされた理由の一つは、松井氏、吉村氏が過去に出演したコーナーの視聴率が高かったことから、高視聴率が取れるのではないかと期待したからだという。新型コロナの感染拡大で、大阪府知事と大阪市長はコロナ対策の陣頭指揮を執るリーダーとしてテレビに出演する機会が格段に増えた。大阪の視聴者にとって、2人は名前も顔も良く知られた話題性のある政治家ということになる。彼らが話術に長けたタレント性を併せ持っていることもあって、視聴率を追求するならば、大阪の放送局では、日々のニュース以外でも日本維新の会の政治家を出演させる割合が高まる可能性がある。そこに党派的に偏った番組制作がなされる危うさがあるのだ。
 有権者に対する影響がより広範囲に及ぶ全国放送ではどうか。政治に関する番組を視聴率重視で制作するならば、テレビで取り上げられる機会が多くなじみのある政治家、すなわち大阪と同様に話題性のある政治家が視聴率の取れる出演者として選ばれることになるのではないか。それでは、特定の政党の政治家のみが取り上げられるおそれを払拭できない。 
 こうした視聴率重視のキャスティングが各番組でなされた場合、全体として政治的公平性を保つことは難しくなるといえる。
 番組ジャンル間の境界が曖昧になる中、バラエティー番組では、こと政治問題を取り上げるに限っては、視聴率重視によるキャスティングが適切であるかどうかは、今一度見直す必要がある。加えて、情報と娯楽が混在しているニュース番組や情報番組において、視聴率を偏重すれば本番組と同様のことが起きかねないことにも留意してほしい。
 さらに、視聴率にとらわれると、コメンテーター等の出演者の意見が過激になり、面白さを求めるあまり情報が偏り、結果として誤った印象を視聴者に与えることがありうるのではないか。政治に関する番組でそうしたことが起きた場合の悪影響はいうまでもないだろう。本番組はその最たる例になっているのではないかと、委員会は憂慮する。

②異なる視点の不提示と質的公平性
 次に、委員会が指摘したいのは、本番組が行政を担っている政党の政策について何ら異なる視点を提示しておらず、質的公平性を欠いているのではないかという点である。
 たとえば、新型コロナ対策については、行政における数々の実績が紹介される一方、その影で昨年5月以降、人口あたりの新型コロナ死者数が全国で一番高い水準で推移していたことなど、対策の評価にとって不都合な事実は紹介されていない。その他の事項についても日本維新の会の政策に対して、異なる観点から質問をしたり、反論、異論が出されたりすることはなく、同党の政策が一方的に肯定的に流される結果になったきらいがある。これでは、質的公平性をできる限り確保するために、局が自主性を発揮してさまざまな創意工夫をこらしたと見ることは困難だろう。
 もっとも、こうした事態は、バラエティー番組の本番組に限ったことではないかもしれない。政治家の記者会見や取材において、相手の嫌がる問題を取り上げたり、困らせる質問をしたりすれば、政治家を不愉快にさせ、怒らせ、ひいては将来の取材に支障をきたすのではないかと自粛、抑制、萎縮してしまっていないだろうか。それでは、メディアは、政治家の主張を紹介するだけの導管になってしまいかねない。
 政策を多角的に検討して、そのプラスとマイナスを十分に掘り下げることによって、視聴者はより広くより深く政策を理解することができ、その是非の判断もなし得るのである。質的公平性を担保するためには、異なる視点の提示が欠かせないことを忘れてほしくない。
 大切なのは、視聴者の側に立って、放送に至るまで、放送局が政治的公平性について真剣に議論をした上で番組を制作したのかということである。その鋭意な努力を欠いた放送番組によって一番不利益を受けるのは、偏った情報を受け取ることになる視聴者である。

 政治をめぐる放送において視聴率偏重の人選がなされていないか、異なる視点の提示がないなど質的公平性が担保されていない番組が制作されていないか。今回の問題をきっかけに各放送局において改めて確認をしてもらいたい。

 今夏には参議院議員選挙が予定されており、積極的な政治報道が望まれるところである。民主主義社会においては、政治に関する情報は党派に偏ることなく主権者に対し潤沢に伝えられるべきであり、委員会は、各放送局が、政治的公平性に配慮しながら、有権者のために政治に関する情報を分かりやすく多角的に伝える放送を行うことを期待している。

以上

委員長談話全文(PDF)pdf

第171回 放送倫理検証委員会

第171回–2022年5月

毎日放送『東野&吉田のほっとけない人』を討議

第171回放送倫理検証委員会は5月13日に千代田放送会館で開催された。
2月の委員会で審議入りしたNHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』について、当該番組の関係者に対して行ったヒアリング等を踏まえ、担当委員から意見書の原案が提出された。
毎日放送のバラエティー番組『東野&吉田のほっとけない人』に同じ政党の関係者3人が出演し政治的な課題などについて見解を語ったことについて議論を行った結果、討議入りとし委員長談話を公表することを決めた。

議事の詳細

日時
2022年5月13日(金)午後5時~午後7時30分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. NHK BS1のドキュメンタリー番組『河瀨直美が見つめた東京五輪』について審議

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と局のホームページで公表し謝罪した。番組は、東京五輪の公式記録映画監督である河瀨直美さんと映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。
放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。
2月の委員会では、委員会からの質問に対する回答書、NHKが設置した「BS1スペシャル」報道に関する調査チームがとりまとめた調査報告書が提出され、それらを踏まえて議論を行った。同報告書では、字幕の内容は誤りであったとされている。議論の結果、取材、編集、考査、調査の各段階で問題があるのではないかといった厳しい意見が相次ぎ、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
今回の委員会には、当該局から提出された報告書やヒアリングの内容を基に前回の委員会で交わされた意見を踏まえ、担当委員が作成した意見書の原案が示され、議論が行われた。
次回の委員会では、意見書の修正案が提出される予定である。

2. 毎日放送のバラエティー番組『東野&吉田のほっとけない人』について討議

毎日放送は2022年元日、バラエティー番組『東野&吉田のほっとけない人』を放送した。番組ゲストとして、弁護士・コメンテーターの橋下徹氏と日本維新の会代表・大阪市長の松井一郎氏、日本維新の会副代表・大阪府知事の吉村洋文氏が出演し、MCのタレント2人と「今の政治&大阪の未来は!?」をテーマに、番組内で計1時間程度トークを展開する内容であった。
放送後BPOには、「まるで維新の会の宣伝にしか見えない」「一特定政党だけをヨイショする番組」など、視聴者から批判的な意見が多数寄せられた。また1月11日に開催された当該局の番組審議会では、委員から「政治的なバランスに欠ける」「バラエティー番組に政治家を招くことに対する認識が欠如している」などの意見が出された。
これを受けて毎日放送は社内に調査チームを立ち上げ、関係者に対するヒアリングを行って事実関係を明らかにするとともに、全社研修やチェック体制の強化など再発防止に向けた取り組み状況を3月1日の番組審議会に報告した。
委員会は、当該局の一連の取り組みについて、放送局としての自律的な自浄作用が機能しているとの一定の評価を行うとともに、質的公平性について踏み込むことは政治ジャーナリズムの足かせになる可能性があることを考え、紙一重のところで審議入りはしないこととした。一方で、問題がなかったと誤解されるおそれもあることから討議入りとし、政治問題や政治家に関する番組を制作する際の留意点などを委員長談話として公表することを決めた。
委員長談話は、こちら。

3. 4月に寄せられた視聴者意見について議論

4月にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、ニュース番組でのウクライナ情勢に関するインタビューの字幕が不正確といった指摘や知床の遊覧船沈没事故での不適切な取材のあり方、また、今夏に予定される参議院選挙に関連した放送に対する批判的意見などが事務局から報告され議論を行った。

以上

第170回 放送倫理検証委員会

第170回–2022年4月

NHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』を審議

第170回放送倫理検証委員会は4月8日に千代田放送会館で開催された。
字幕の内容に誤りがあったとされるNHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』について、2月の委員会で審議入りが決まったことを受け、今回の委員会では、担当委員から当該番組の関係者に対して実施したヒアリングの概要が報告され、事実関係について共有し議論を行った。
民放局のバラエティー番組に、同じ政党の幹部3人が出演し政治的な課題などについて見解を語ったことについて、当該放送局から提出された全社研修など事後対応についての報告書を踏まえ議論を行った。

議事の詳細

日時
2022年4月8日(金)午後5時~午後7時30分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、米倉委員

1. NHK BS1『河瀨直美が見つめた東京五輪』について審議

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と局のホームページで公表し謝罪した。番組は、東京五輪の公式記録映画監督である河瀨直美さんと映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。 放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。 2月の委員会では、委員会からの質問に対する回答書、NHKが設置した「BS1スペシャル」報道に関する調査チームがとりまとめた調査報告書が提出され、それらを踏まえて議論を行った。同報告書では、字幕の内容は誤りであったとされている。議論の結果、取材、編集、考査、調査の各段階で問題があるのではないかといった厳しい意見が相次ぎ、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。 今回の委員会では、これまでに当該番組の関係者に対して実施したヒアリングの概要が担当委員から報告され、委員の間で事実関係を共有し議論を行った。 次回の委員会では、今後行われるヒアリングの概要が報告され、意見書の原案が提出される見通しである。

2. 同じ政党の幹部がそろって出演した民放局バラエティー番組について議論

元日に放送された民放局のバラエティー番組に同じ政党の幹部3人が出演し、政治的な課題などについて見解を語ったことについて、視聴者から政治的公平性を問題視する意見がBPOに寄せられた。先月の委員会では、当該放送局から社内の調査チームがまとめた報告書とそれをもとに行われた番組審議会の議事録要旨が提出され、議論が行われた。今回は、当該放送局から全社研修の実施や番組内容を確認し助言する体制を強化することなど、事後対応の進捗状況について報告書が提出された。これらを受けて委員会では、放送における政治的公平性についてどのような形で意見表明をすべきか等について意見が交わされ、さらに検討が必要であるとして議論を継続することとした。 

3. 3月に寄せられた視聴者意見を議論

3月にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、民放放送局の深夜のバラエティー番組(生放送)で、女性の身体的特徴に関する発言や差別的な表現等が放送されたことに対し批判的意見が多数寄せられたことについて、事務局から概要が報告され議論したが、さらに踏み込んだ検証が必要であるとの結論には至らなかった。

以上

2022年1月21日

差別問題をテーマに「意見交換会」を開催

放送倫理検証委員会と全国の放送局との意見交換会が、2022年1月21日千代田放送会館2階大ホールで開催され、事前に申し込みのあった放送局には双方向のオンライン配信を同時に実施した。放送局の参加者は、会場に15社19人、配信にて参加したのは 152社で、そのアカウント数は367件であった。委員会からは小町谷育子委員長、岸本葉子委員長代行、高田昌幸委員長代行、井桁大介委員、米倉律委員の5人が出席した。コロナ禍の影響を受けて2021年度に放送倫理検証委員会が意見交換会を開くのは今回限りで、オンライン配信を利用して全国を対象に実施したのは前年度に引き続いてのことである。

開会にあたり、BPO事務局を代表して大日向雅美理事長が「この意見交換会は、放送局の皆さまが抱いている疑問をBPOに直接ぶつける場となっている。BPOにとっても皆さまの本音を伺う貴重な機会だ。今回は、差別問題に関連する放送上の留意事項をテーマとして取り上げる。近年放送を取り巻く環境は大きく様変わりをし、人権問題や差別に関わる問題に対して社会の厳しい目が注がれるようになった。権利意識の高まりやインターネットの普及を背景に、今まで声を上げられなかった人たちが批判の声を上げるようになったためだと考えられる。今日は、差別に関連する問題や放送上の悩み、対処方法など実例を交えながら議論し、お互いに学ぶところの多い意見交換会にしたいと思う」と挨拶した。

意見交換会の最初は、前年7月21日に公表した「第41号日本テレビ『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見」と題した意見書について、以下のとおり、高田昌幸委員長代行が解説した。

日本テレビは、午前中の情報番組『スッキリ』で、毎週金曜日の番組終了間際に2分間程度「スッキりすの週末オススメHuluッス」のコーナーを放送し、系列の動画配信サイト Huluのお薦めの作品などを1本紹介していたが、そのコーナーで2021年3月12日問題が起きた。
普段このコーナーではドラマとか映画とかが紹介されていたが、この日紹介されたのは『Future is MINE -アイヌ、私の声-』という、各界の評価が高い35分間のドキュメンタリー作品だった。内容は、アイヌ民族の人がどうやって差別を克服しながら新しい自分を見出していくかというものだ。コーナーの前半で作品そのものが紹介された後、画面がスタジオに切り替わり、リスの着ぐるみを着た男性タレントが、定番の締めの言葉を「ここで謎かけをひとつ。この作品とかけまして、動物を見つけた時ととく。その心は、あ、犬!ワンワンワンワンワン!」と発話する。このシーンには字幕がついており、「あ、犬」の言葉にはルビのような位置にカタカナで「ア、イヌ」という言葉が入っていた。さらに、「ワン」を5回繰り返す箇所では、画面左からアニメーションの犬が小走りに走って、画面中央に向けて駆けていく。最後に男性タレントが「この作品を見てアイヌの美しさを堪能しよう」と言葉を続け「というわけで、今週もお疲れした〜っす」と語ってコーナーを終えた。
番組終了後、日本テレビの系列局の札幌テレビには、道内の視聴者から抗議の電話が殺到したそうだ。日本テレビにも、これは問題ではないかという連絡が視聴者などから来た。
問題になったのは、このコーナーで男性タレントが発した「あ、犬」という言葉だった。この言葉の一体何が悪かったのか。ダジャレも言ってはいけないのか。あるいは単なる言葉遊びも許されないのだろうか。
一般的に、問題となる差別表現は、ある民族や社会集団などが、歴史的、構造的、時には制度的、法的なものも絡まって虐げられてきたという問題を背景としている。このことは、単なる快、不快ということとは区別して、押さえておかなければならない。
2016年の内閣官房「国民のアイヌに対する理解度についての意識調査」によると、アイヌの人に対する差別は今も存在しており、「アイヌに関して関心を深めるためにはどうしたらよいか」の問いに対しては、テレビ番組や新聞を利用した情報提供という答えが圧倒的に多かった。差別されている側の人たちは、放送には差別を無くすための機能があると期待している。今回の問題は、その前提があってこの放送が流れてしまったということだ。
委員会がヒアリングや資料を基に事実関係を精査したところ、このコーナーには専任で担当するディレクターが1人もおらず、他のコーナーと掛け持ちで担当していることが分った。内容がグループ会社の番組宣伝的なものだったこともあり、コーナー自体あまり重要視されておらず、大きな問題は起こらないだろうという思い込みが事前にあったのではないかという印象を持った。
コーナーの制作に関わった担当者やチェックしたプロデューサーに、アイヌ差別問題は何かということを、知っている人がほとんどいなかったことも大きな問題だと思った。北海道、厳密にいえば東北の一部も、ということになろうが、アイヌという人たちがいるということと、アイヌ民族差別があったということは何となく知っているが、それがどういうものであって、どういった形で行われており、今も続いているのかどうか、そういったことを誰も知らなかった。
コーナーのチェック体制は、チェックして問題がなければ担当者に誰も何も言わず、無言、無反応は了承だとする流れでずっと運用されていた。最終的に番組をチェックする責任の所在と、誰がどのタイミングでチェックしたのかが曖昧なまま流れていったということもあったのではないかと感じた。
以上の点を踏まえて、委員会としては、チェック体制が非常に隙だらけだったことから、今回の事態は起こるべくして起きたと受け止めた。
また、コーナーで紹介したドキュメンタリー作品は尺が35分間と比較的短かったのにもかかわらず、作品を視聴者に紹介する前に見たスタッフは1人しかおらず、放送内容に関する局側のこだわりの薄さを物語っていると感じた。制作現場の上の人は「もし自分が35分間のこの作品を見ていたら、この『あ、犬』の部分は絶対通さなかった。この番組の訴えている内容と、この『あ、犬』の表現が、いかにかけ離れているのかがよく分かったから。自分が見なかったことが悔やまれる」ということをおっしゃっていた。
現場のスタッフは差別する意図は全くなかったと語っていたが、意図があろうとなかろうと、差別的な事柄を電波に乗せてしまったという事実は厳然としてあり、それを拭い去ることはできないと委員会は判断した。放送倫理違反があったという結論になり、主に日本民間放送連盟の「放送基準」の(5)、(10)に反したと判断した。
日本テレビは、1994年に大型クイズ番組の中で、出演したお笑いタレントがアイヌ民族の集団舞踊「イヨマンテの夜」の曲を流しながら踊ってみせた際、アイヌ民族の尊厳を著しくおとしめ、差別を助長したという苦い経験がある。アイヌ関係の団体の方などから激しい抗議を受け当時は勉強会も開かれていたようだが、現在社内にはこの経験が継承されていないそうだ。だから私は今回の事態は過去の過ちの再発だったのではないかと考えている。
知識がないと有効な判断は働かない。特に差別問題に関しては、歴史的、構造的なことを前もってきちんと知っておくことが必要ではないか。差別というのは歴史的な経緯がある。歴史を知ることの重要性を改めてこの場で強調させていただきたい。そのうえで、差別される側の立場に立って、一瞬立ち止まってでもその番組を放送前に見つめ直すことができるかどうかが大切だと思う。

次に、米倉律委員が「差別問題と放送人としての“感度”」というテーマで講演をした。

今回の意見書では、放送人としての感度ということが、ある種のキーワードとして使われていた。その感度の問題について差別問題との関係で考えたい。
今回の話を初めて聞いたとき、私は、こういう差別表現が過去にあったことを知らない現場で、うっかりミスのような形で発生してしまった比較的シンプルな事案ではないかと感じていた。その後、関係者の方に話を伺うなかで、この問題は、今のテレビを取り巻く現状、具体的には、制作現場の複雑な分業化や人員の不足、制作現場の繁忙化、スタッフの疲弊といったさまざまな問題が反映された、かなり複雑な問題ではないかと考えるようになった。昨今、価値観の多様化、グローバル化が進み、差別問題も非常に複雑化、多様化している。引いた目で見ると、テレビと社会との関係性や距離感が問われている問題でもあるのではないかと考えている。
高田委員長代行の話にあったように、制作現場の方々は、アイヌ民族の人々を犬という形で例える差別表現が過去に実際にあったことを誰も知らなかった。実を言うと私自身、アイヌ民族の歴史や差別の問題について、一定の理解や知識はあったと思うが、そういう差別表現が過去に実際に使われていたということ自体は知らなかった。世の中に情報を発信していく仕事に携わる者として、当然知っていなければならないと思っているにもかかわらずである。
他方、仮に知らなかったとしても、民族を動物に例えることについて「ちょっと待てよ。大丈夫だろうか」というふうに一度立ち止まって考えたり、ディスカッションしたりしようという感覚があったかどうかについても、併せて問われるべきではないだろうか。それがまさに放送人としての感度ということに関わる問題だと考えている。
では、放送人としての感度というものをどう磨いていったらよいのか、あるいは維持していったらよいのか。そのことを考えるうえで、テレビの制作現場、放送の制作現場が今置かれている厳しい状況について踏まえておく必要がある。
今回、日本テレビで関係者の方にお話を伺うなかで、今のテレビの制作現場がとても大変な状況に置かれていると再認識させられた。制作現場では非常に複雑な分業化が進んでいる。当該番組『スッキリ』の制作スタッフは、調査時点で180人を超え、このうち日本テレビの社員は12人、それ以外の人は制作会社の方やフリーランスの方が分業体制で仕事をしている。
当該コーナー「スッキりすの週末オススメHuluッス」には専従者がいなかった。逆の見方をすれば、全員がいろいろなコーナーを担当していて、兼任という形でこのコーナーの制作を担当するやり方になっていた。業務フローも非常に複雑で、収録後、プレビューの機会が何回かあるが、これもオンラインで行われていた。それに加えて、現場は多忙で、皆さん異口同音に日々の仕事に追いまくられて本当に余裕がないとおっしゃる。こういうコーナーで紹介する作品を見る余裕がないということだった。このコーナーで紹介したドキュメンタリー作品は、35分間とそれほど長い作品ではないが、事前に視聴した人は1人だけだった。そういう時間的余裕が現場から失われている。
そうしたなかで、あってはならないことだろうが、業務にある程度優先順位をつけ、物によっては後回しになって、いったん立ち止まって熟考したりみんなで議論したりすることがなかなかできなくなっている。最近、テレビの番組の劣化とか、いろいろな批判を時々耳にするが、私が非常に強く感じるのは、劣化ではなくて疲弊ではないかということだ。現場の疲弊が大きな問題を引き起こしているのではないかと感じた。
そういう状況で、危機管理的な発想がどうしても前面に出てくるということがあると思う。今回日本テレビも、再発防止策として、チェック体制の強化と社員やスタッフに警鐘を鳴らす施策の拡充をうたっている。その必要性は全く否定しないが、放送人としての感度ということを考えるときに、そういう危機管理的な発想だけでは十分ではないのではないかと私は考えている。
では、何が重要なのか。先程高田委員長代行が、知識が必要で勉強しなければいけないと指摘されていた。本当にその通りだと思う。他方、私が強調したいのは取材経験についてだ。日本テレビでヒアリングをした際、ある人が、当該コーナーに報道系のスタッフ、記者経験者や取材経験のあるスタッフが1人でも関わっていれば、今回の問題は起きなかったのではないかというふうなことをおっしゃっていた。
この話を聞いたときすぐに思い起こしたのが、2020年にNHKが放送した『これでわかった!世界の今』で問題になった事案だ。この番組は、Blacks Lives 
Matter(ブラック・ライブズ・マター)を取り上げ黒人の差別問題を紹介しており、その際、ツイッターに番組に関連したアニメーション動画をアップした。動画では黒人の男性を、筋骨隆々で少し怖く「俺たちは怒っている」というふうな形で描いていた。これが極めて典型的なステレオタイプ表現で差別的だと強い批判を招いた。
私はこの番組に関わっていた人にたまたま話を聞く機会があった。その人は、編集部に、アメリカで生活をした経験がある人かアメリカ人がいれば、こういうことは起きなかったのではないかとおっしゃっていた。つまり、黒人問題を取り扱う場合、アメリカの現実を肌感覚として知っている人が、どれ位制作現場にいるかどうかが非常に重要ではないかということだ。
先程も紹介したように、制作現場は分業化が進んでおり、いろいろな人たちが関わる形になっている。取材は取材、撮影は撮影、収録なら収録、そして完プロなら完プロという形で、専門化、分業化が進んでいる。そうしたなかで、社会の現場で取材経験を積み、いろいろな人とコミュニケーションを取るという経験が相対的に減少、あるいは不足していることが、こうした問題の背景にあるのではないか。
1つ紹介したい議論がある。イタリアの著名な哲学者ウンベルト・エーコによるネオTVという議論だ。どういう議論なのかというと、現代のテレビは、現実社会を映し出す窓のような機能ではなく、むしろ、テレビが自ら作り出したある種の現実、バーチャルな現実、テレビ的な現実というふうに言ってもよいかもしれないが、そういうものを映し出しているのではないかというものだ。
テレビは窓ではなくて、自分が作り出した世界を映し出す鏡のような機能を担うようになってしまっているのではないか。言い換えれば、テレビの自作自演というふうな状況になっているのではないかと、エーコは批判的に主張した。
それになぞらえて言うなら、全部が全部そうだというわけではないが、現場の制作者は、テレビが作り出した現実に住んでいる人、典型的な例を挙げれば芸能人と言われるような人たちとの間では接点があり、いろいろなやり取りがあるかもしれないが、現実世界との接点を次第に失いつつあるのではないだろうか。ゆえに、現実そのものとの接点を、取材を通して維持していくということが、放送人としての感度ということを考えるうえで重要なのではないだろうか。
視点を変えて、差別問題とどう向き合っていくべきかについて話をしたい。差別問題というものの特徴として、コンテクスト(文脈)によるということが挙げられる。どういう文脈の中で、誰が、誰に向かってどういう意味合いで表現しているのかということだ。それによって、ある表現は差別的だということになり、別の表現はそうではないということになったりすることが、さまざまな形でありえると思う。
その表現に、当事者がコミットして承認しているのかどうかということも、差別表現の構成要件として重要なポイントになると考える。例えば、関西人は声が大きいとか、関西人はセコイとか、お笑い芸人の人たちの言い回しによくある「関西人は何々だ」みたいな言い方は、当の関西人がいくら言ってもあまり問題にはならないが、東京の人が関西人はこうだというふうに言うと、その瞬間にそれは問題含みになるということが挙げられるだろう。
NHKが放送している障害者情報バラエティー『バリバラ』を例として挙げたい。この番組は、障害者の人たちがMC、あるいは自ら出演者となり、自分たちの障害のことをある種の笑いにするという非常にユニークなバラエティー番組だ。障害者の障害を笑いの対象にするということは基本的には有りえないことだが、当事者がコミットして、その人たち自身が笑いにするという限りにおいては成立するという、一つの例ではないかと思う。
現在の差別問題、これからの差別問題を考えるうえで、多様性の見地は欠かせない。現代社会は非常に多様化、グローバル化し、複雑化している。社会がそうである以上、番組の送り手の側も多様でなければならないということが、最近言われるようになった。
1つ紹介したいのがイギリスの公共放送BBCの例だ。BBCは、出演者、制作スタッフの人員構成における多様性を担保するために数値目標を設定している。出演する男女比率を50%ずつにすることを目指すフィフティ・フィフティということが、ここ数年よく言われるようになった。その延長線上で、BBCの場合、画面に登場する人をフィフティ・フィフティにするだけではなく、画面の向こうにいる制作者の人たちもフィフティ・フィフティであるべきだとしている。フィフティ・フィフティは通常ジェンダーの文脈で言われることだが、BBCのユニークなところは、女性だけではなく、非白人の人たち、障害者の人たち、LGBTの人たち、こういった人たちもそれぞれ数値目標を設定して多様性を担保しようとしている点だ。
私の聞いている範囲では、女性に関してはまだ数パーセントこの目標に届いていないそうだが、すごいと思うのは、非白人、障害者、LGBTについては、もうこの数値目標を達成しているということだ。
どうしたら差別をなくせるか、差別問題を防ぐことができるかについては、特効薬もマニュアルもない。日常の実践、取材活動を通した現実社会との接点、あるいは、その経験を蓄積していくことこそ重要だ。言い換えるなら、日々の実践からしか、放送倫理というものは形成、あるいは維持できない。
今回、放送人の感度の問題ということを考えるうえで、送り手の放送局と社会との距離が遠くなっていないかということや、放送局が視聴者にエージェントとして受け止められ、視聴者の知りたいことにちゃんと応えているか、あるいは、自分たちの主張や意見、立場をきちんと社会に伝えて共有する媒体になっているかということなど、いろいろなことを考えた。放送人の感度という問題は、重要な指標として位置付けられるのではないかと、今は思っている。

最後に、井桁大介委員が「差別問題 対応の視点」というテーマで講演をした。

はじめに、ある研修の場でいただいた1つの質問を紹介したい。「バラエティー番組などで、人を動物に例えることはよくあることで、今回の『あ、いぬ』というのもその中の1つとも思われる。バラエティーなど他の多数の例では許されて今回はだめだと言われても、線引きの基準が分からなければ、なかなか難しいのではないか」。この質問は、差別問題における線引きの難しさというとても重要な問題を含んでいると思われるので、これを題材に説明をさせていただきたい。
先程米倉委員が「関西人が自分たちで関西のことを何か言う場合にはOK」というふうに、コンテクストによってOKな場面があるとおっしゃったが。逆に言えば、OKかNGかはすべてコンテクストに依存してしまうように思われるので、悩まれると思う。つまり何らかの基準・物差しがないから常に手探りで対応せざるをえない。すべて総合判断、すべてコンテクスト依存ということになってしまうと、現場の対応力に任せざるをえず、悩み深き問題になってしまう。
この点について、高田委員長代行は「知識をしっかりインプットして高めていくことが大事だ」というふうにおっしゃっていたし、米倉委員は放送人としての感度が大事だとおっしゃっていた。いずれもおっしゃるとおりだが、私は法律家なので、こういった問題に関して法律家はどのように対応しているのかについて少し紹介したい。もちろん、法律と放送倫理というのは似て非なるものだということは当然の前提だ。また、今回紹介する視点は、国や自治体が何か差別的なことをしてしまって、それが訴訟になるような場合におけるものを典型とするもので、放送機関の皆さんのように放送の自由・表現の自由という憲法上の権利を行使した結果、差別的な取り扱い・表現をしてしまったという場面とは、当然同じようには考えられない。それでもなお、一つの視点として何らかの参考になるのではと紹介させていただく。
まず、差別問題に取り組む際には、差別は誰にでもあるということを前提にして取り組む必要がある。これについては最近、アンコンシャスバイアスという言葉がよく使われるようになっている。
自覚的な差別意識というのは実はあまりない。自分のことを非倫理的な人間だと思う人が基本的にはいないのと同じで、自分のことを差別的だとか、自分はここに関して差別的な意識を持っているとか自覚して明言する人は少ないと思う。
しかし、差別的なものの考え方というのは誰にでも少しは必ずある。例えば、私であれば、男女差別とか外国人差別とかはないのかと言われると、やっぱりあるのかもしれないというふうに思いながら生活をしている。友人や家族からそういう指摘を受けて、そういう差別的な意識があったのかなと気づくこともある。このように、個人レベルでは自分にも差別意識があることを前提に行動するというのが最初の前提になってくると思う。
そのうえで、放送機関という組織として、許されない差別的な放送をしないようにするには、構成員の各人に何らかの差別的意識があることを前提に、組織的な統制システムを作っていく必要が今後は出てくるだろう。その1つの手段として、先程米倉委員がおっしゃった多様性のある環境をしっかり作ることで差別的な意識を可視化する、もしくは共有化していくということが大事になってくるだろう。
そういった差別問題に取り組む際の、個人レベル・組織レベルの対策を踏まえたうえで、法律家はどのように差別問題に対応するかという視点を紹介したい。もったいつけて申し上げているが、実際のところは、法律においても差別問題に対応する具体的で万能の基準などというものはない。差別問題というのは非常に難しいということが、裁判でも法律業界でもある意味前提となっている。
どうしても差別問題の対応というのは基準が抽象的にならざるをえない。米倉委員がおっしゃったコンテクスト依存というのは本当にそのとおりで、判例が示している基準というのもせいぜいが、「事柄の性質に遡行した合理的な根拠に基づくものでない限り、差別的取り扱いを禁止するのが憲法の趣旨だ」と言っているだけである。不合理な区別は禁止しましょうと言うだけだ。これだけでは、何が不合理な区別で許されない差別なのかといえば、結局はコンテクスト依存ですねということになる。それを学説などにおいて、過去の膨大な裁判例・判例を検討し、少しずつ精緻な視点・基準が積み重ねられてきたので、それを紹介したい。

検証委員会 図

大きく3つの視点が重要だと思う。1つ目の視点は区別の属性である。例えば放送において、特定の属性をひとくくりにして評価を下す場合、その属性が、容易に変更できないものかどうかがポイントになる。
容易に変更できない属性とは、例えば、憲法の条文では「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」といった要素が挙げられているし、多くの皆さまが仕事の現場で触れていると思われる個人情報保護法では「要配慮個人情報」という言葉が使われ、具体的には「人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」と整理されている。こういった属性をひとくくりにして、何か取り扱いを区別しているのかというところが、1つ目の目の付けどころとなる。
次に2つ目の視点は、そのひとくくりの取り扱いによって対象となる属性に生じるダメージである。法律業界では反従属、反別異といった用語が使われるが、端的に言うと、地位のレベルに関するダメージが及ぶものなのか、利益のレベルに関するダメージが及ぶものなのかということだ。ありていに言えば、その人たち、その属性の人たちやその属性そのものを馬鹿にしたり、地位をおとしめたりするようなものなのか。そうではなくて、あくまで利益的なものなのかということだ。
利益的なものというのは、分かりやすく言うと、例えば、女性には妊娠、出産があり、労働法において産前産後の法定休暇が認められる。これは、女性を区別的に取り扱っているわけだが、別に女性をおとしめる意図とか、ダメージが与えられるようなものがあるわけではない。こういうふうに、利益レベルのものなのか、地位レベルのものなのかというところで分けて考えてみようというのが、視点の2つ目だ。
3つ目の視点は、放送機関の皆さまが、なぜその報道、表現、放送を行うのか、その目的や必要性の検討だ。その報道、表現、放送において、なぜ属性をひとくくりにする必要があるのか、その必要な程度はどのぐらいなのか、どういう目的でやっているのかというのを、自己分析をしてみるということだ。
この3つの視点を持ち込むことで、検討の目を細かくしていきましょうというのが私からの提案だ。もちろん実際に裁判例などで議論される要素はより多岐にわたるが、まずはこの3つの視点を意識することで、「不合理な区別は許されない」という抽象的な基準を、具体的な事例に落とし込み検討に役立てようという知見が蓄積されつつあるというところだ。
整理すると、第1に差別された属性が、人種とか信条とか、性別とか、そういったものである場合には、アラートを出してほしい。また、差別によるダメージが地位のレベル、つまり馬鹿にする、尊厳をおとしめるといったものであれば、さらなるアラートを出してほしい。
これらが重なる場合、例えば民族をひとくくりにして馬鹿にするようなものであれば、かなり厳しくアラートして立ち止まっていただく必要がある。そのような場合には、その表現でなければ報道、表現、放送がどうしても成り立たないのか、そういう報道を放送することが本当に必要なのか、言い換えは難しいのかということを、慎重に検討していただいたほうがいいと思う。いわば、原則NGで、高い必要性がある場合や言い換えが極めて難しい場合には許容される、といった基準を持ち込むということとなる。
他方で、差別される属性が変えられる場合、例えば、スーツを着ているかどうかとか、メガネをかけているかどうかとか、そのぐらいであれば、その人の人格に根ざした変えられない属性というわけではない。そういった変えられる程度の属性に着目した報道、表現、放送で、かつ、それがその属性の人々の尊厳を傷つけるようなものではないならば、よほどの場合でなければ特に目くじらを立てなくても良い、ということとなる。
このように、表現によって、どのような属性にどのようなダメージが生じるのかという着眼点に根ざして分析をしていただくと、少し緻密な検討ができるのではないかというふうに考えている。
本日の資料末尾の参考に、放送基準、法令、裁判例など、差別の問題に関して参考になる資料を付けている。例えば、最近ヘイトスピーチなどに関しても少しずつ裁判例が出てきている。ヘイトスピーチは、総体としての民族や人種に対する差別というところで、法律学でもどうやって取り扱ったらいいのかが争われてきた分野だが、少しずつ議論が進展してきており、参考にしてほしい。

この後の意見交換での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: 井桁委員が説明した3つの視点を表にまとめた『差別表現のマトリクス』について、もう少し詳しく教えてほしい。
A: あくまで私が簡略化したものなので、本当の意味での正確性に欠けるかもしれないが、属性とダメージ、それぞれで、どれほど重い差別になるのかある程度の基準が動くということを表している。人種、性別、社会的身分のような変えられない属性に着目した区別的な取り扱いであれば、原則NGの方向で検討していきましょうという作用が働きやすいということだ。ダメージのところは、その表現によって、地位がおとしめられる、馬鹿にされる、社会全体で、その属性の人たちは馬鹿にしていい属性だというふうにメッセージを発信してしまうような表現の場合は、同じく、一旦立ち止まりましょうという方向に作用が働くでしょうということだ。そこの掛け合わせで、属性を変えられない人種などの属性に着目し、馬鹿にするなど、地位をおとしめるような表現をする場合には、原則NGだと思って立ち止まったほうがいいんじゃないかというふうに読んでいただければと思っている。
属性が変えられるレベルであれば、馬鹿にする表現をしたとしても、変えられない属性よりは少し緩やかな基準だとしていいのではないか。「メガネの人は貧乏だ」みたいなことを言ったとしても、貧乏だというのは馬鹿にした表現になるかもしれませんが、メガネをかけているというのは比較的、変えられる属性になるので、ある程度許容度が高まるのではないかというぐらいの話だ。
このマトリクスを、二次関数みたいにきれいな相関性で作れるかというと、そこまでではない。視点として、こういったマトリクスを頭の中に入れていただくと、何か現場で問題が起こったときに、少しだけ緻密な検討ができるのではないかということだ。
補足をさせていただくと、過去の委員会決定などを見ても、一言で言うと、地位をおとしめる、尊厳を傷付ける、馬鹿にするということに関しては、少し厳しい目が向けられている。そこはやはり、こういったマトリクスが検討の際に意識的にせよ無意識的にせよ作用しているのではないかというふうに思う。ですので、特に差別された属性が簡単には変えられない場合、地位のレベルで馬鹿にするような表現をするということについては、感度を高めていきましょうという視点になるかなというふうに思っている。(井桁委員)
  おさらいすると、このマトリクスは4象限あり、左上ほどアラート度が高く、右下は左上よりもアラート発令度が低いという、そういうグラデーションと見ていいのか。
(岸本委員長代行)
  その通りだ。では、右上と左下とではどちらのアラート度が高いのかというと、ちょっと難しい話になってくると思うが、個人的には、やはり地位のレベルのほうが、より厳しくなってくるかなというふうには感じている。(井桁委員)
  色分けをするとすれば、左上が真っ赤で、その右はオレンジ、一番右下になると黄色という、そんな色分けのイメージで、これを活用してみてもいいのか。(岸本委員長代行)
  最初はそういう色分けをしていたのだが、ちょっとどぎつくなるかなと思い自粛した。
(井桁委員)
  利益のレベルで、変えられない、変えられるというゾーンに入る具体的な例を挙げてほしい。(田中調査役)
  地位のレベルは、分かりやすくいうと、馬鹿にすると思っていただければよい。それ以外の区別的な取り扱いは、ほぼ全部、利益のレベルになる。実は、世の中にはたくさんの利益のレベルの取り扱いの差異があり、身近な例を挙げると、会社の近くに住んでいる人には近距離手当を支給する会社がある。一方で、遠くに住んでいる人には交通費しか支給していない。そういう取り扱いは、別にいつでも変えられる住所ですから、すぐに変えようと思えば変えられるものについて、利益のレベルでの取り扱いを変えているだけであったりするわけだ。同じように、放送表現のレベルでも、実はいろいろなところで、何かに着目して取り扱いを変えているということはたくさんある。属性について表現をするときには、ほとんど実はそういう表現を無意識にしている。その時に、地位のレベルでなければ、大体それは利益のレベルだというふうに思っていただければ いいと思う。そのぐらいの位置付けです。(井桁委員)
   
Q: 福島県では、部落という言葉を、地区という意味で主に中高年の方が使うことが多い。うちの部落ではこうこうこういうことがあるというインタビューを撮ったときに、福島県内での放送ではそのまま流しているが、昨今ネットでのニュース発信が多くなっているので、全国で見るということを考えたときに、部落という言葉を外す対応をとっている。西日本の方は部落という言葉に対して、受け止め方が違うだろうと配慮して、そのような対応をしているが、この対応は妥当か。
A: 福島県で部落という言葉を使っているのは、その地域だけの共通認識事項だと思う。その地域外の方からすると、一瞬ギョッとする表現であることは間違いないだろう。そうすると、放送や配信をする地域が広範囲に渡るときには、ある程度一定の配慮をするのは、当然のことではないかと思った。むしろ、その言葉を使いつつ、傍らに何か注記をするというのも、わざわざ部落という言葉を取り出して強調するようになってしまうので、適切ではないような気がする。対応としてそういうことがあるというのを、改めて共有させていただいた。(小町谷委員長)
  部落という言葉自体は封建時代からあった表現で、当初は、部分集落というワードで、それを縮めて部落という言い方をし始めたと私は認識している。もしかしたら間違っているかもしれないが。戦時中までは、郡部の自治組織という意味合いでも部落という言葉が使われていた。
自治組織や人が集まっているという意味の部落という言葉に、被差別部落という言葉が重なってきたのは、戦後の部落解放運動の高まりのなかだった。そういう歴史的な背景があるのだというふうに私は思っている。
実は私は出身が四国の高知県で、学校教育の中で同和教育があったので、それこそ中学校ぐらいから、部落と言えば被差別部落とイコールだと言われて育ってきた。一方で、私の祖母の世代、祖父母の世代というのは、部落という言葉は被差別部落と必ずしもイコールではない。昔から、明治時代からもう普通に、あの辺、あそこの集落という意味で、部落という言葉を普通に使っていた。先程、福島テレビの方のお話にあったのと同じで、それを使っていいのかどうかというのは、まさに文脈で判断すべきことなんだろうと思う。
たとえば、自治体のホームページを注意深く見ていると分かるが、九州では、あくまで行政的な意味で部落という言い回しをするとき、それを集落という言葉に置き換えることは、同和関係団体の方と議論をした結果、逆差別に当たるということになったと断り書きをして、部落という言葉をそのまま使っているところもある。九州は、被差別部落の問題がたくさんあると思いますけれども。
だから、文脈でどう考えるかだと思う。一律、いいとか悪いとかという判断はなかなかしにくい。しかし、誤解を招く恐れがあるのだったら、あえてそれを突っぱねる必要もないのではないかというふうに、私は思う。(高田委員長代行)
   
Q: 考査の現場にいると、非常に細かな言葉の悩みというか、判断が非常に難しい面がある。例えば、女の子らしい服装をしなさいとか、男の子だから泣いちゃダメよとか、今まで当たり前のように使われてきた言葉について、これ大丈夫でしょうかみたいなことを相談されたときに、これからの時代ダメだよねという部分と、これまで使われてきたからある程度文脈の中で許容できるよねという部分と、どちらで判断するのか非常に悩ましい。
関西なので、やはり部落というと被差別という意味合いがくっついて回る一方で、放送局として、その言葉がそういう意味を持たないというのであれば、正々堂々と使うべきじゃないかと。一番懸念するのは、やはり言葉狩り、表現狩りというところに行き着いてしまうということ。その辺りに関して、委員は、どういうふうに考えているのか。
A: 私も日々このラジオ、テレビで話すとき、あるいは文章を書くときに、この言葉を使っていいのかと迷う。ラジオの生放送は考査で判断してくれる人がおらず、自分で判断しなければならない。その時の判断基準には、放送倫理的に沿うかどうかよりも、自分を守る本能みたいなものが働く。その本能の部分でこれはどうかというのを判断している。先程から感度をどう身に付けるかという話が出ており、知識や取材経験が必要だとの指摘があったが、私にとって感度を身に付けるきっかけになるのは、同時代の炎上案件だ。
オリンピックの前に、ある要人の発言が非常に問題になった。女性の多い会議は長いと。あの炎上騒ぎを見ていて私が感じたのは、何かある事柄とか傾向を、性別と結び付けて語るというのは、今は危ないということだ。その炎上案件を見てから、自分がものを書いたり話したりするとき、少し考えるようになった。
以前だったら、女性同士、今度温泉に行きましょうみたいなこと言っていたのを、これは、女性同士とわざわざ言う必要があるのかなと、その必要性と目的を考える。別に女性と言わなくても、自分の表現したいことは成り立つと思えば、なるべく性別のことは言わないようにする。ただ、温泉に行くことを話すときに、男女で行くのかといった、誤解を招く恐れがある時は自然に女性同士と言う。
考査に上がってくる男の子らしさ、女の子らしさについて、私だったら、今はなるべく使わないが、文脈で判断し、プラス、その時代の感度で判断する方がよいと思っている。男女のことを合わせて話したいときに私がとった具体策を1つ紹介したい。女の子がピンクの色を好むという話をしたいときに、下手をすると差別になるので、困っていたところ、ある人の経験を知った。子どもの遊ばせの世話をしている人が、折り紙を広げて、皆、好きな色を選んでいいよと子どもを走らせると、女の子は皆ピンクを取りたがる、不思議だよねというような話を聞いたのだ。女の子はピンクが好きという話をしたかったら、ある人が体験した出来事として、折り紙で好きな色を選ばせたらピンクを選ぶ女の子が多かったそうですと言えば、それは別に差別ではなく、その人が体験した出来事だから嘘ではない。
このように、危ないなと思う表現をあえて使うには、後々気にする人がいることを自覚して使う覚悟が要る。そして、気にする人が何か言ってきた場合に、いや、こういうことで言ったんですよと説明ができるかどうかというところが、最終的に大事だと思う。後は、説明はできるが、この言い方をしなくてもいいのであれば言わないという判断だと思う。
(岸本委員長代行)
  性別と色の関係で思い出したのだが、化粧室、トイレの表示は、女性は赤かピンク色、男性は青などに色分けされている。日本はそうだが、世界的に見ると非常に珍しい。他の国に行くと、マークは何となく女性っぽいマークがあったり男性っぽいマークがあったり、あるいは、言葉でウーマンとかマンとか書いてあるが、それは全部黒などの同じ色で表現されている。世界の中で日本は特殊だということをご紹介しておく。(小町谷委員長)
  先程井桁委員の差別表現のマトリクスというところで話があった、差別される属性ということで考える際、ジェンダーにおいて考えなければいけないのは、その属性というものが、不変のもの、全く変わらないものなのではなくて、どんどん変わっていくということだ。そして、今は非常に細分化されていっている。差別される属性、アイデンティティというものがものすごく多様化し細分化されている。しかもそれが、多くの人たちの間で意識化され、言語化されている。そういう状況があるということを前提に考えないといけないということだと思う。
放送はマスメディアだから、ある種の大衆メディアみたいなものだ。そして、大衆メディアだからこそ、社会のマジョリティに向かって、どうしても情報発信、メッセージを伝えるというふうな性格が今まで強かった。これまでのそういうやり方のままでは、おそらくいろんな問題が起きてしまう、通用しなくなっている、そういう状況があると思う。先程私が言った、オーディエンスが放送局、テレビ局やラジオ局を自分たちにとってのエージェントとして、見てくれるのかどうかということが、今非常に重要になっていると思う。
日本では、あまりマイメディアという感覚がオーディエンスの中にない。国際比較の調査を見ると、海外と比べて、そういう感覚がないというふうなことが言われている。理由はいろいろあると思うが、1つは党派性があまりないこと。諸外国では、そういう党派性のあるメディア、主張がはっきりしているメディアはあると思うが、日本の場合はそうではない。
それだけではなく、何となくマイメディアということを持てない背景として、テレビ局やラジオ局が大衆に向かって、マジョリティに向かってメッセージを発信してきているがゆえに、感覚が時代の変化について行けていないということが挙げられる。世の中では非常にアイデンティティというものが細分化され、多様化してきており、オーディエンスはいろいろなことをセンシティブに意識している。そういうなかで、放送局というのは、自分の価値観、自分の感覚と全然合わないことをやっていると受け止められてしまうというふうな問題があるのではないかと思う。ジェンダーの問題も、たぶん、そういう観点で捉えるべきではないか。
ジェンダーに対する感覚とか意識とかが、ものすごい勢いで変化し、ずっと変化し続けているというところがあるので、そういったことを常に意識し続けるということが、放送局の現場は問われているのではないかというふうに考えている。(米倉委員)
  アイヌの問題で言うと、先程申し上げたように、2016年の調査で、内閣官房がアイヌの人たちに放送に何を期待しているのかと質問したところ、差別を無くすために正しい情報を伝えてくださいという期待値が1番高かった。米倉委員のおっしゃる通り、視聴者、オーディエンスが一体テレビに今、何を期待しているのか、何を求めているかというのが極めて重要な問題だと思う。
ですから、考査の場でも、この番組は放送局として何を伝えようとしているのか、どんなメッセージをオーディエンスに送ろうとしているのか、その番組全体の趣旨に沿いこのシーンでこの言葉を使わないとダメなのか、番組全体として最終的にどんなメッセージを視聴者に伝えようとしているのかを十分吟味し、判断するべきだと考える。言葉尻で、これがいいとか悪いとかと言うよりも、視聴者側は、放送局なり、その番組なり全体のスタンスを、極めて鋭く敏感に読み取っているのではないかと感じる。
『スッキリ』のケースに戻れば、この「あ、いぬ」という言葉自体は、アイヌの問題を取り上げた社会的な番組、ノンフィクション番組で、きちんと説明したうえで使っているのであれば、何の問題もなかったと思う。
絵で犬がワンワンワンと出てきて「あ、いぬ」と言うこのシーンが、このコーナーに本当に必要だったのか。そういう検討が十分に加えられていないなかで、今回の問題が起きてしまったと考える。(高田委員長代行)
   
Q: (オンライン)女性警察官がさほど珍しくなくなった今でも、女性白バイ隊員などの表現が時々ある。テロップをチェックする上司が女性である場合は、この点に気づけるが、男性である場合は気づかないという揺れが生じたことがあった。言葉狩りではなく、意識を改善するための対策はあるか。
A: 私は弁護士で、私たちの業界では女性弁護士という言い方をする。これはわざと言っている場合がある。どういう場合かというと、司法におけるジェンダーのバイアスを強調するために、女性弁護士の比率が少なく意思決定過程に入っていないということを強調するために、わざわざ言うことがある。
それとは別に、一般的な場で、女性弁護士という言われ方をすることも非常に多い。以前から私は、それは女性であるという属性をくっつけて、男性の弁護士と完全に区別して、ある意味貶めているというふうに思っている。女性は、そういうことに凄く敏感だと思う。恐らくその女性白バイ隊員の場合も悪気は全くないと思う。白バイ隊員というのは、基本的に男性が多いだろうと考え、そこに女性がいることが珍しいという趣旨で使っているのかなと思うが、女性と付ける必要性が本当にあるのかというと、ないだろう。やはり必要性ということが重要だと思う。もちろん文脈ということも関係するのかもしれないが。
もう1つ、女性を紹介するときに「美人の」と付く。新聞のラテ欄などを見て「美人の」という表記が目につく。一方で、男性に「ハンサムな」とはあまり言わない。やはり、女性を容姿で見ていることを示しているのだと思う。あまり意識されていないのかもしれないが、実は隠れている問題があると以前から感じている。
ジェンダーの問題というのは、米倉委員がおっしゃったように、加速度的な形で今、動いている課題なので、女性・男性と付けなくても表現できるのであれば、別の表現に置き換えたほうが良いのではないかと個人的には思う。(小町谷委員長)
  情報を提供する企業や公的な機関などが、いまだに「女性チームが出来ました」「女性役員が誕生しました」といったプレスリリースを出したり、あえて打ち出してきたり、そういうことが結構ある。恐らく、先程の女性白バイ隊員もそういう広報の一環ではないかと思う。そういうことを言ってきたら、あなたのところ古いですねと言ってあげるぐらいで、ちょうど良いと思う。
私がかつていた新聞社では、女性警察官とか、女性教員とか、女性何々と書くのは例外的なことだとしていた。そう書く場合は、なぜそうするのかをデスクに説明しなければいけないというルールがあった。
もう1つ、私が気になっているのは、女性を紹介するとき「家に帰れば二児の母」などと紹介されることがあるということだ。逆のパターンで男性を「家に帰れば三児の父」「家事と両立させている」と紹介することはほとんどない。非常にステレオタイプの表現が多いので、そういったことも再考されたほうが良いのかなと感じている。(高田委員長代行)
  先週、アジアからの留学生だけの大学院のクラスで、日本のバラエティー番組をジェンダーという観点から見ようという授業をして、生徒に「どういうふうに見ましたか」と聞いたところ、「古いですね」「昭和ですね」といった感想が異口同音に出た。私の感覚で言うと、これだけジェンダーということが言われているなかで、報道番組、ニュース、ドキュメンタリーといった番組では、比較的いろんな形で神経を使って作られているが、バラエティー番組など、いわゆる娯楽のジャンルにおいては、相当クレームも来ているだろうに、かなり内容がオールドファッションだと感じる。先程から話題に出ているルッキズムなどステレオタイプ表現というのがいろんな形で散見される。娯楽番組というのは半ば冗談みたいなもので、笑いの世界だということなのかもしれないが、実社会ではいまや、宴会の席だから冗談だからというふうなことは通用しないという状況だ。
そういう時代のなかで、娯楽番組のジャンル、バラエティー番組だけはなぜか、これぐらいは許されるだろうみたいな形で、今でもさまざまな表現がなされているというふうに、強く感じる。それを見て、人によっては、本当にテレビは古いと言い、放送は古い世界だというふうに受け止めてしまうということについて、十分に意識的である必要があるのではないかと考えている。(米倉委員)
   
Q: (オンライン)米倉委員が関西人を例に挙げて説明されたことだが、地上波という甚大な拡散力のあるメディアの機能を考えたとき、当事者が言っているからOKだとしてそのまま放送することが、本当にOKなのかと最近疑問を感じている。例えば、女装家のタレントが自分のことをおかまと呼ぶ。当事者が言っているからいいということになっているが、それは当事者一人のことでしかない。そのタレントが属性の同じ人すべてを背負えるわけではない。属性の同じ人は、それを見て傷ついたり不快に思ったりする人もいるかもしれない。さらに言うと、出演している当事者が、その属性に対して悪意のある発言をするかもしれない。そのあたりを最近すごく悩んでいる、あまりそれを言い始めるとどんどん表現の幅が狭くなってしまうというのもあるが、当事者がOKなんだからというふうに、何となく業界的になりすぎているような気がする。そのあたりをどう思われるのか意見を聞かせてほしい。
A: 日本が批准している障害者権利条約に、私たちのことを私たち抜きに決めないでくれというくだりがある。呼称、表現、制度、システムなどに当事者が関わっているかどうかということは重要なポイントだと思う。しかし、今のご指摘のように、ケースによっては、それだけでは判断出来ないということがあるというのは、なるほどそうだろうというふうに思った。井桁委員の、何々のためにその表現、その言葉であるということが、どのくらい重要な意味を持っているのか。あるいは、公共性という観点からどうなのかということは、ケースバイケースで判断していかなければならないと思う。
また、そういう言葉を使う人が、アナウンサーとか記者といった放送局の社員なのか、それとも、出演者の芸能人なのか、街頭インタビューに答えた一般の人なのかといった立場の違いによっても、良いという場合もあれば、ダメだろうという場合もあるように、判断はいろいろ分かれるのではないかと思うし、それを放送の現場で考えるべきだと考える。
ジェンダーの関係でいうと、例えば、奥さんという言葉は、ジェンダー論的にはNGワードだと思うが、一般の方が「うちの奥さんは」と自分の妻のことを言ったときに、奥さんという言葉はダメだし、その言葉によって傷つく人もいるというふうに言いだすと、じゃあどこまでやるんだというふうなことになってくる。ケースバイケースだし、その発話者がどういう立場の方なのかということにもよるし、非常に難しい問題だと受け止めている。
(米倉委員)
   
Q: (オンライン)放送の機能と影響力を考えたとき、通常「これは当事者が言っているからOKとして放送している」という説明を付けていないので、世の中に、OKだという価値観を拡散してしまっている面があると思っている。それでいうと、マツコさんの「自分はおかま」みたいなことを、どんどん放送していいのかどうかというふうなことについても、ちょっと考えてみる必要があるのではないかと感じている。ありがとうございました。
   
  質問が出るまでの間のつなぎで話をしたい。皆様から寄せられた事前アンケートを読んでいると、何かの基準、マニュアルを求めているとひしひしと感じる。私が文章を書くときに使っているのは、共同通信社から出ている記者ハンドブックだ。これには差別語不快用語という項目があり、この言葉に関しては、こう言い換えたらいいでしょうという言い換え集が設けられている。私は物を書く際、これはどうかなと思うときに、この共同通信の記者ハンドブックを調べて、これは今、差別語不快用語に入るんだなというふうに、まずアラートを立てる。しかし、だからといってその言葉を使わないのかというと、そうではない。
例えば、この差別語不快用語には、町医者という言葉は開業医と言い換えましょうと書いてある。町医者が本当にダメなのだろうか。今のコロナ禍の状況で、大病院に行くのは怖いから、まず近所のお医者さんで診てくれればいいなという思いがある。そういうことを語りたいときに、開業医という言葉でその思いが伝わるだろうか。東京の開業医は割と小規模なところが多いが、鹿児島など地方では個人の病院が大病院で入院施設も備えているというのが現状としてある。だから、開業医と言い換えるのかどうかは、身近なお医者さんで診てもらいたいという思いが伝わるかどうかという観点から検討する。
差別語不快用語に町医者イコール開業医と言い換え例があるからといって、機械的に言い換えるということをしない方が、言いたいことが伝わる場合もあるのではないか。ただしその場合、町の身近な医療機関とか、町の身近なクリニックとか、そういった身近という評価を1つ付け加えることで、もしかしたら、身近な町医者でも許されるのではないだろうか。準マニュアルとしての本の紹介と、しかしそれだけではないという私の考えについて話をした。
八百屋だったら、八百屋という3音だけを切り取って、そこを生鮮食品店みたいな別の言葉に言い換えようとすると、すごく不自然になるし、本当にそこで伝えたいことが伝わらない場合がある。機械的な言い換えではなく、ここで何を伝えたいのかという、表現者としての原点に戻って考えることが必要だと思う。
また、先程のおかま問題で、私は、当事者が言っているからいいという基準に加えて、2つ必要なことがある気がする。まず、当事者が誇りを持って言っているかどうか。そして、その言葉を言うことが、そのシーンで伝えたいことに必要かどうかだ。本人の誇りと必要性ということが、当事者性に加わってくると考える。
例えば、おかまの人が「私たちおかまはね、助け合うのよ」みたいなことを言いたかったとしたら、そこでおかまという言葉を外すのはどうなのかなと思う。同時に、その場合であっても、あまりにも「おかま、おかま」としょっちゅう出てくるのではなく、回数を1回ぐらいにするとか、そういった微調整がとても大事なことだと思う。(岸本委員長代行)
   
Q: (オンライン)放送後に総務省から出された行政指導について伺いたい。以前、放送倫理検証委員会でNHK『クローズアップ現代』の際、番組内容を理由とした行政指導に対して、「放送法が保障する『自律』を侵害する行為で『極めて遺憾である』」という声明をわざわざ出した。今回のケースも番組内容に対する指導であって、全く同じ状況であるように思うが、今回の決定では、そもそも行政指導に関して何も言及されていない。なぜ言及しなかったのかということと、委員会の議論の中でこの指導についてはどういう位置づけだったのかということを伺いたい。
A: 今回の件については、アイヌ差別を禁止する法律に対して疑義があったということで、内閣官房が主導したというふうに認識している。それは、番組に対しての是正というよりも、基本的には、差別的な放送をしないでくださいねという要請だったというふうに受け止めている。そういう意味では、以前のケースとは若干異なっているのではないか。内部で議論をしたが、総務省から放送法に基づいて指導があったということではなかったと理解している。(高田委員長代行)
   
Q: (オンライン)今回のケースは、総務省から民放連、NHKに対して行政指導が出ている。高田委員長代行の見解によると、差別的表現だからダメだというふうな総務省の指導は許されるということになってしまう。それでは、国家権力の介入を許してしまうように思え、問題なのではないかと個人的には考えている。差別的表現だからダメだという指導は許されるということか。差別的表現かどうかということは非常に曖昧なところがあるので、そういった指導を許してしまうと、放送局の自立性が侵害されてしまうのではないかというふうに危惧を抱いている。
A: 『スッキリ』の意見書をまとめることについては、委員会の内部で、総務省の部分について特段議論をしていない。ヒアリングの過程で、内閣官房からの聴取に対して、テレビ局がどのように対応したかとか、どういうやり取りがあったかということについては検討し、その範ちゅうの中で判断は下しているということだ。(委員会は実際に放送された番組を対象に制作プロセスにどんな問題があったかを審議する場であるから)総務省の行政指導について、そこだけを取り上げて議論したということはなかった。しかし、それはイコールそれ(放送局の自立性の侵害)を看過しているといったことではない。(高田委員長代行)
   
Q: (オンライン)行政指導が問題ではあるということですか。看過していないということは、問題ではあるという認識ですか。
A: (行政の行為に対して見解を示すことは、個別の番組を審議する委員会の役割とは異なっているため)委員会として、その部分に結論は出していないということだ。
(高田委員長代行)
   
Q: (オンライン)情報番組などでタトゥーが入っている人を取材した場合、極力タトゥーが見えないように撮影したり、そのカットを外したりといった作業をしている。一方で、外国人の人たちがテレビに映っている時は、タトゥーを堂々と出している。自主的に、日本人だったらタトゥーは外すが、外国人はOKみたいな感じで何となく運用しているが、そのあたりについて、どういう基準で番組制作をやっていけばいいと考えているか。
A: 基準と言われると、基準はありませんというふうにお答えすることになってしまう。
日本人と外国人を分けているというのは多分理由があるのだと思う。つまり、外国人の場合は、おしゃれで入れており一種の洋服のようなものだが、日本人の場合は、別の意味があるというふうにみんなが受け取る。そういうことで区別されているのではないか。
今ではそれが若干変わってきて、若い方がおしゃれで入れるということもなくはない。
でも同時に、入れ墨を入れている人はお断りしますというようなことが、お店や銭湯、温泉を利用する際の条件になっている。それはなぜかというと、やはり反社会的勢力の根絶と関連しているはずだ。そこまで視野に入れて、どう対応するかを検討することになるのではないか。
また、入れ墨を入れている人を、そのまま映してしまうと、その方が反社会的勢力であるかのように受け取られてしまう可能性もある。そういうことも考えざるをえないのではないかというふうに思う。これは私の個人的な意見だ。特にBPOに基準というものはない。
(小町谷委員長)
  もしかしたら世代の問題もあるのかもしれない。個人の感想で大変恐縮だが、もちろん
反社会的勢力への対応ということは理解しつつも、そろそろ社会的にタトゥーを許容してもいいのではないかというふうに感じている。数年前、最高裁でタトゥーの彫師の人が医師法違反で起訴された事件で無罪というのがあった。そこで、彫師というのは1つのれっきとした職業であり、入れ墨というものは1つの文化的なものだという判断が下されている。
もちろん入れ墨を入れている一部の人が、反社会的勢力だったことは間違いないので、ある意味差別的な取り扱いが許容されてきた時代があったことは確かだ。しかし、おしゃれでタトゥーをしている人たちまで差別してしまうということが、属性に基づく差別と評価される時代がもう来るのではないかと感じている。今は過渡期だと思うが、私はタトゥーを許容する社会に近づいていってほしいと正直思っている。(井桁委員)
   
Q: 意見書27号『ニュース女子』事案以降、審議に際し、制作過程に加えて考査部署の対応についても言及することがやや増えているように感じている。2020年10月の委員長談話にあるとおり、30号36号のような案件では、そこに焦点を置かれることは理解しているが、その他の案件も含めて、各委員の考査部署への見方や考え方などに何か変化があったのであれば教えてほしい。
A: 考査部門に対する見方の変化はない。一方で、持ち込み番組、あるいは、営業サイドから働きかけがあった番組が増えているという事象がある。その場合、外部で制作されたものを放送局が放送する場合でも、直接的な制作責任はないが放送責任が生じ、考査は、放送するかどうかという判断の大きな要ということで、その役割を重く見た意見書が出た。
意見書は基本的には放送局に対して出すものだ。制作会社が作った番組について調査をする場合、放送局との覚書で動いているBPOとしては、直接その制作会社の人に協力いただくのではなく、放送局の方に、放送に至った経緯を伺うという形で調査をしている。
直接的な答えになっているかどうか分からないが、考査に対する見方そのものが変化したわけではない。ただ考査の比重が大きい案件が増えているという印象は持っている。
(岸本委員長代行)

小町谷委員長が「まん延防止等重点措置が東京都に適用された日にもかかわらず会場までお越しいただき感謝している。今日は、オンライン参加の人も含め多くの方と意見交換の機会を持つことができた。コロナが終息したら、また各地にお邪魔して意見交換をさせていただきたい。場の持ち方も、当初は大きなテーマ1つでやるのではなく、分科会でやったらどうかという話もあったが、運営上の観点から出来なかったので、これから工夫していきたい。いただいたアンケートの内容については、BPO放送倫理検証委員会で共有しており、今後の活動に役立てていきたい」と述べて意見交換の場を結んだ。

最後にBPO事務局の渡辺昌己専務理事が、「限られた時間の中ではあったが、視聴者に直接向き合っている皆さまに役立つ内容を提供出来たのではないかと思っている。きょうここにいらっしゃらない社員の人、あるいはスタッフの人にも、ぜひ社内で情報を共有していただき、今後の番組制作に生かしてほしいと思う。改めて日ごろのBPO活動へのご理解とご協力に御礼を申し上げる」と挨拶して閉会した。

【参考資料】

  • 憲法14条1項 、21条1項
  • 民法709条
  • 個人情報保護法2条3項 、同施行令2条
  • 京都朝鮮学校判決(京都地判H25.10.7)
  • 大阪ヘイトスピーチ条例判決(大阪地判R2.1.17)
  • 日本民間放送連盟 放送基準 第一章 人権 (2) (5) 、第二章 法と政治 (10)
  • 放送倫理検証委員会 委員会決定
    • 第4号 光市母子殺害事件の差戻控訴審に関する放送についての意見 (2008.4.15)
    • 第13号 『ありえへん∞世界』に関する意見 (2011.9.27)
    • 第26号 『白熱ライブ ビビット』「多摩川リバーサイドヒルズ族 エピソード7」に関する意見 (2017.10.5)
    • 第31号 『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見 (2019.12.10)
    • 第32号 『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見 (2020.1.24)
    • 提言 『ぴーかんテレビ』問題に関する提言 (2011.9.22)

終了後に実施したアンケートの回答から一部を紹介する。

  • 1テーマに十分な時間をかけ考察する機会は良いことだと思った。
  • 質疑応答に半分くらい時間を割いており質問も具体的で大変参考になった。
  • 差別に関する意識の変化を再認識することができ社内で共有していくべきだと感じた。
  • オンライン参加で多くの局員が視聴でき有意義だと感じた。
  • 放送現場の“劣化”は差別問題に限らず他の問題にもつながるという認識を持った。
  • ジェンダー問題についての質問に対して委員の様々な意見が聞けたのが役立った。
  • 視聴者から指摘を受けた言葉を使わないようにするだけでは何も解決しないと感じた。
  • 「差別表現のマトリクス」は客観的なものさしとして活用できると思った。
  • スタッフの感度を磨いても確実な再発防止策とはならないところが難しい点だと思う。
  • 事前に寄せられた質問に対して答えてもらえる時間がもっと長いほうがよかった。
  • 各局が抱えている懸念などを議論する時間をもっと多くとってほしい。
  • 在京、在阪局と地方局との課題は違う。地方局に関する事案を取り上げてほしい。
  • 全国から多数リモート参加していることを意識して率直な意見交換がしにくかった。
  • 夕方の自社制作番組の準備のため報道・制作の現業部門が参加しづらい日程だった。

以上

第169回 放送倫理検証委員会

第169回–2022年3月

テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』視聴者質問の作り上げに関する意見の通知・公表について報告

第169回放送倫理検証委員会は3月11日に千代田放送会館で開催された。
委員会が3月9日に行ったテレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』視聴者質問の作り上げに関する意見の通知・公表について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
字幕の内容に誤りがあったNHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』について、前回委員会で、放送倫理違反の疑いがあり放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りが決まったことを受け、今回の委員会では、担当委員から当該番組の関係者に対して行うヒアリングの準備状況が報告された。
民放局のバラエティー番組に同じ政党の幹部3人が出演し、政治的な課題などについて見解を語ったことについて、当該局から提出された調査報告書および番組審議会議事録要旨を踏まえ意見交換を行った。

議事の詳細

日時
2022年3月11日(木)午後5時~午後6時40分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』視聴者質問の作り上げに関する意見の通知・公表について報告

テレビ朝日が2020年10月から2021年10月までに放送した情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』の視聴者からの質問に答えるパートにおいて、番組スタッフが作成した質問を視聴者からの質問であるかのように放送したケースが含まれていた。委員会は放送倫理違反の疑いがあるとして11月の委員会で審議入りを決め、議論を重ねてきた。
審議の結果、質問は視聴者の関心事やその傾向を示す重要な事実情報であり、制作者が歪めることがあってはならず、また投稿者の属性を書き換えることはその出所を不明確にするものであり、いずれも民放連放送基準に反しているとして、放送倫理違反があったと判断し、3月9日、当該局に対し意見書の通知と公表の記者会見(オンライン形式)を行った。
この日の委員会では、委員会決定を伝えたテレビ朝日の当該番組内で放送された検証コーナーを視聴し、委員長と担当委員が通知・公表の様子について報告した。
通知と公表の概要は、こちら

2. NHK BS1『河瀨直美が見つめた東京五輪』について審議

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と局のホームページで公表し謝罪した。番組は、東京五輪の公式記録映画監督である河瀨直美さんと映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。
前回の委員会では、委員会からの質問に対する回答書、NHKが設置した「BS1スペシャル」報道に関する調査チームがとりまとめた調査報告書が提出され、それらを踏まえて議論を行った。同報告書では、字幕の内容は誤りであったとされている。議論の結果、取材、編集、考査、調査の各段階で問題があるのではないかといった厳しい意見が相次ぎ、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
今回の委員会では、担当委員から当該番組の関係者に対して行うヒアリングの準備状況等が報告された。

3. 同じ政党の幹部がそろって出演した民放局バラエティー番組について意見交換

元日に放送された民放局のバラエティー番組に同じ政党の幹部3人が出演し、政治的な課題などについて見解を語ったことについて、視聴者から政治的公平性を問題視する意見がBPOに寄せられた。これについて2月の委員会では番組を視聴した上で意見交換を行った。
今回の委員会には、当該放送局が社内に設置した調査チームがまとめた報告書とそれをもとに行われた当該放送局の番組審議会の議事録要旨が提出され、委員会はそれらを踏まえて意見交換を行った。委員会では政治的公平性のバランスのとり方や制作過程でのチェック体制などさまざまな観点から意見が交わされ、さらに検討が必要であるとして議論を継続することとした。

4. 2月に寄せられた視聴者意見を議論

2月にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、特定の政党関係者がさまざまな番組に数多く出演しているのは政治的公平性の面で問題があるとする批判的意見が多数寄せられたことに関して事務局から概要が報告され、意見交換が行われた。

以上

2022年3月9日

テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』視聴者質問の作り上げに関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、3月9日午後3時20分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われた。委員会から小町谷育子委員長、岸本葉子委員長代行、高田昌幸委員長代行、大村委員の4人が出席し、テレビ朝日からは常務取締役(報道局担当)ら4人が出席した。
まず、小町谷委員長から委員会決定について、視聴者質問の作り上げが行われた本件放送は、事実に基づいて報道されてない点と、意見の出所が明らかにされてない点とで、民放連の放送基準に抵触していると判断したことを伝えた。そして意見書に沿って、①“完璧な番組”への自縄自縛、②働かなかった「複数の目」、③権限の集中がもたらした歪み、④局が果たせなかった責任、⑤機能しなかった通報窓口、の5つの問題点について説明した。
続いて高田委員長代行は、大きなポイントとして「権限が番組のトップに過度に集中していた」ことを挙げ、「いかに有能な人物でも、権限の過度な集中は時に独善を生み、自分にとって都合の良い事実を求めていくことがある。今後は権限の集中を是正してもらいたい」とコメントした。また岸本委員長代行は、「制作を業務委託した生放送の番組で管理・把握が難しいと思うが、もっと局の関われる点があったのではないか」「現場の人間の様々なパーソナリティを包含する組織を作り、視聴者の期待に応える番組作りをしてほしい」と述べた。最後に大村委員から、「通報制度は、体制を整備することと運用を実効的に行うことが必要で、研修などを通じてものが言いやすい雰囲気づくりが必要と考える」とコメントした。
これに対してテレビ朝日は、「今回の問題は番組の信頼を毀損する許されないことと受け止めており、視聴者、関係者の方々に深くお詫びする」「今回の決定を真摯に受け止め、今後の番組制作にしっかりと生かしたい」と述べた。

引き続き、午後4時から千代田放送会館7階の会館会議室からオンライン形式による記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には54社100人が参加した。
はじめに小町谷委員長が意見書の概略を説明し、「質問者の属性の書き換えと質問の作り上げを前提にすると、事実に基づいて放送していない点と意見を取り扱う時の出所が明らかにされていない点で、民放連の放送基準に抵触していると考え、委員会は放送倫理違反があると判断した」と述べた。また、判断の過程で委員会が問題とした5点について解説し、番組に投稿を続けた視聴者との間の信頼を裏切ったという点で重い事案だと述べた。
続いて高田委員長代行は、「報道においてダブルチェックのプロセスが入り込む仕組みになっていなかったことが大きなポイントである」「ものが言えない雰囲気の中では、有能さが独善を生む」と指摘した。岸本委員長代行は、「視聴者の質問はそのままで扱わないと放送倫理違反になる、という判断ではない」「すべての放送人に意見書を良く読んでもらい、どこに誤りがあったのかなどを自分事として理解してほしい」と述べた。大村委員は、「コロナ禍においてもコミュニケーションを円滑にはかり、相談しやすい環境や制作体制を整える工夫が求められる」とコメントした。
記者からは、「審議入りの際の議事概要には、世論誘導にもつながりかねない深刻な事案とあったが、結果はどうだったのか」という質問があり、これに対して小町谷委員長は、「ヒアリングを通してそのような事実は認められなかった」と答えた。その他の質問は、事実関係の確認に関するものがほとんどだった。

以上

第42号

テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』視聴者質問の作り上げに関する意見

2022年3月9日 放送局:テレビ朝日

テレビ朝日は、情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』の2021年3月から10月にかけて放送した視聴者からの質問に答えるパートにおいて、番組スタッフが作成した質問を視聴者からの質問であるかのように放送したケースが含まれていたとして、10月21日、番組と番組のウェブサイトで公表し謝罪した。同パートでは、番組の前半で当日のテーマを視聴者に伝え、放送中に番組ウェブサイトなどで受け付けた質問を番組終盤で紹介し出演した専門家らが答えていた。ところが、番組スタッフが作成した質問を視聴者からの質問として放送したケースが多数含まれていた。また視聴者から受け付けた実際の質問を使用した場合も、文章の表現を修正したケースでは、クレームを避けるためとして投稿者の属性を書き換えて架空の属性で放送していたという。
委員会は、視聴者の質問や意見を番組が作ることは世論の誘導にもつながりかねず、放送倫理違反の疑いがあるとして、11月の委員会で審議入りを決め、議論を重ねてきた。審議の結果、質問は視聴者の関心事やその傾向を示す重要な事実情報であり、本件放送のようにそれらを制作者が歪めることがあってはならない。また、本件放送で扱われた質問は、視聴者の意見表明とは必ずしも言えないが、投稿者の属性を書き換えることはその出所を不明確にするものであり、日本民間放送連盟の放送基準の「(32)ニュースは市民の知る権利へ奉仕するものであり、事実に基づいて報道し、公正でなければならない」「(35)ニュースの中で意見を取り扱う時は、その出所を明らかにする」に反しているとして、放送倫理違反があったと判断した。

2022年3月9日 第42号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2022年3月9日 決定の通知と公表

通知は、2022年3月9日午後3時20分から千代田放送会館7階の会館会議室で行われた。
また公表の記者会見は、東京都で新型コロナウイルス感染拡大防止のためのまん延防止等重点措置が実施されていたため、午後4時からオンライン会議システムを使用して行われ、委員長および担当委員が委員会決定の説明と質疑応答を行った。
会見には54社100人の参加があった。詳細はこちら。

2022年6月10日【委員会決定に対するテレビ朝日の対応と取り組み】

委員会決定 第42号に対して、テレビ朝日から対応と取り組みをまとめた報告書が2022年6月1日付で提出され、委員会はこれを了承した。

テレビ朝日の対応

全文pdf

目 次

  • 1.委員会決定前の対応
  • 2.委員会決定時の放送内容
  • 3.委員会決定内容の周知徹底
  • 4.放送番組審議会への報告
  • 5.委員会決定後の取り組み
  • 6.再発防止に向けて
  • 7.終わりに

第168回 放送倫理検証委員会

第168回–2022年2月

NHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』審議入り

第168回放送倫理検証委員会は2月10日にオンライン会議形式で開催された。
番組スタッフが作成した質問を視聴者からの質問として放送し、11月の委員会で審議入りしたテレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了承が得られたため、3月にも当該放送局へ通知して公表することになった。
字幕の内容に誤りがあったNHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』について、当該局から提出された番組DVDや調査報告書等を踏まえて協議を行った。その結果、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
民放局のバラエティー番組に同じ政党の幹部3人が出演し、政治的な課題などについて見解を語ったことについて、当該局から提出された番組DVDを視聴した上で意見交換を行った。

議事の詳細

日時
2022年2月10日(木)午後5時~午後7時15分
場所
オンライン会議形式
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. テレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』について審議
3月にも委員会決定を通知・公表へ

テレビ朝日は、情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』の2021年3月から10月にかけて放送した視聴者からの質問に答えるパートにおいて、番組スタッフが作成した質問を視聴者からの質問であるかのように放送したケースが含まれていたとして、10月21日、番組と番組のウェブサイトで公表し謝罪した。11月の委員会で、視聴者の質問や意見を番組が作ることは世論の誘導にもつながりかねず、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会では、前回までの議論と追加で実施した調査を踏まえ担当委員から示された意見書の修正案について意見が交わされた。その結果、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、3月にも当該放送局へ通知して公表することになった。

2. NHK BS1『河瀨直美が見つめた東京五輪』について審議

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と局のホームページで公表し謝罪した。
番組は、東京五輪の公式記録映画監督である河瀨直美さんと映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。
放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。
1月の委員会では、NHKから提出された報告書と番組DVDを踏まえて議論を行い、深刻な事案である可能性があるとして討議入りを決めた。その上で当該局に対し事実関係について質問を行うとともに、改めて詳細な報告書の提出を求め、議論を継続することにした。
今回の委員会では、委員会からの質問に対する回答書、NHKが設置した「BS1スペシャル」報道に関する調査チームがとりまとめた調査報告書が提出され、それらを踏まえて議論を行った。同報告書では、字幕の内容は誤りであったとされている。議論の結果、取材、編集、考査、調査の各段階で問題があるのではないかといった厳しい意見が相次ぎ、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
委員会は今後、当該番組の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

3. 同じ政党の幹部がそろって出演した民放局バラエティー番組について意見交換

元日に放送された民放局のバラエティー番組に同じ政党の幹部3人が出演し、政治的な課題などについて見解を語ったことについて、視聴者から政治的中立を問題視する意見がBPOに寄せられていたことから、委員会は番組を視聴した上で意見交換を行った。
当該局からは社内に調査チームを立ち上げて制作過程の調査を行っているとの報告があったため、委員会はその結果を待って議論を行うことにした。

4. 1月に寄せられた視聴者意見を議論

1月にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、民放局のバラエティー番組で放送された、コンビニエンスストアの食品を料理人が評価する企画や、民放局の報道番組で元総理大臣のツイートを批判したコメンテーターの発言に対する批判的意見等に関して事務局から概要が報告されたが、さらに踏み込んだ検証が必要であるとの意見はなかった。

以上

2022年2月10日

NHK BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』審議入り

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』後編の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と局のホームページで公表し謝罪した。
番組は、東京五輪の公式記録映画監督である河瀨直美さんと映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。
放送後、視聴者から字幕の内容が事実であるかの問い合わせが相次ぎ、NHKが男性に確認したところ、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。
1月の委員会では、NHKから提出された報告書と番組DVDを踏まえて議論を行い、深刻な事案である可能性があるとして討議入りを決めた。その上で当該局に対し事実関係について質問を行うとともに、改めて詳細な報告書の提出を求め、議論を継続することにした。
今回の委員会では、委員会からの質問に対する回答書、NHKが設置した「BS1スペシャル」報道に関する調査チームがとりまとめた調査報告書が提出され、それらを踏まえて議論を行った。同報告書では、字幕の内容は誤りであったとされている。議論の結果、取材、編集、考査、調査の各段階で問題があるのではないかといった厳しい意見が相次ぎ、放送倫理違反の疑いがあることから、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
委員会は今後、当該番組の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第167回 放送倫理検証委員会

第167回–2022年1月

NHK BS1『河瀨直美が見つめた東京五輪』について討議

第167回放送倫理検証委員会は1月14日に千代田放送会館でオンラインを併用して開催された。
11月の委員会で審議入りしたテレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』について、当該放送局に対して行ったヒアリング等を踏まえ、担当委員から意見書の原案が提出された。
字幕に不確かな内容があったNHK BS1のドキュメンタリー番組『河瀬直美が見つめた東京五輪』について、当該放送局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて議論した。その結果、事実関係や放送に至った経緯等に不明な点があるため、より詳細な報告書の提出を求めるとともに、討議事案としてさらに議論を継続することとした。
手製の筏を漕いで無人島から脱出を図りその所要時間を競う企画を放送した民放テレビ局の番組について、不適切な演出が行われたと週刊誌が報じ、BPOにも視聴者意見が寄せられたことについて、委員会は番組を視聴したうえで意見交換を行った。

議事の詳細

日時
2022年1月14日(金)午後5時~午後7時30分
場所
千代田放送会館会議室およびオンライン
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. テレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』について審議

テレビ朝日は情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』の2021年3月から10月にかけて放送した視聴者からの質問に答えるパートにおいて、番組側が作成した質問を視聴者からの質問であるかのように放送したケースが含まれていたとして、10月21日、番組と番組のウェブサイトで公表し謝罪した。同パートでは、番組の前半で当日のテーマを視聴者に伝え、放送中に番組ウェブサイトなどで受け付けた質問を番組終盤で紹介し、出演した専門家らが答えていた。また視聴者から受け付けた実際の質問を使用する場合も、文章に手を入れ表現を修正したケースでは、クレームを避けるためとして投稿者の属性を書き換え架空の属性で放送していたという。
11月の委員会で、視聴者の質問や意見を番組が作ることは世論誘導にもつながりかねず、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会には、当該局から提出された追加報告書やヒアリングの内容を基に前回の委員会で交わされた意見を踏まえ、担当委員が作成した意見書の原案が示され、議論が行われた。
次回の委員会では、意見書の修正案が提出される予定である。

2. NHK BS1のドキュメンタリー番組『河瀨直美が見つめた東京五輪』について討議

NHKは2021年12月26日に放送したBS1スペシャル『河瀬直美が見つめた東京五輪』の字幕の一部に不確かな内容があったとして、2022年1月9日、番組と放送局のホームページで公表し謝罪した。
番組は、東京五輪の公式記録映画監督である河瀬直美さんら映画製作チームに密着取材したもの。男性を取材した場面で「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて伝えた。
放送後、視聴者から問い合わせがあり、NHKが男性に再度確認したところ、男性はデモに参加する意向があると話していたものの、実際に五輪反対デモに参加していた事実を確認できず、字幕の内容が不確かだったことがわかったという。
委員会は、当該放送局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて議論を行った。委員からは、報告書に記されている内容だけでは、取材時および放送に至る過程での確認作業が適正に行われたかどうかがわからない、字幕で紹介された男性の発言内容など事実関係に不明な点が多い、などの意見が相次いだ。議論の結果、委員会は、深刻な事案である可能性があるとして討議入りを決め、当該局に対し放送に至った経緯等について質問を行うとともに、改めて詳細な報告書の提出を求め、それを踏まえて議論を継続することにした。

3. 民放局が放送したバラエティー番組について意見交換

手製の筏を漕いで無人島から脱出を図りその所要時間を競う企画を放送した民放テレビ局の番組について、船が筏をけん引するなど不適切な演出があったとする週刊誌報道があり、また、BPOにも視聴者からの意見が寄せられていたことから、委員会は番組を視聴した上で意見交換を行った。
委員からは「番組の最後に『安全に配慮して撮影しています』と小さくクレジットがしてあった。牽引はやむなくやっていることで、面白おかしくするためにやっているわけではないということだろう」「このタイプの番組で最も気を遣うのは出演者の安全確保だ。それを否定すると他の同種の番組が作れなくなるのではないか」という意見があった。
一方で、「出演回数の多いお笑いタレントを番組内のスターとして育てているのは理解できる。ただ、参加者同士の競争という体をとっておいて、3組のうち2組がリタイヤし、残った筏を船で牽引して成功させるというのはやりすぎだ」「少年少女に語り掛けるコーナーを設けるなど、この番組は子供向けの感動的な物語風の作りになっている。それだけに、今回船による牽引が行われたことは罪深いのではないか」という声もあがった。
その上で「週刊誌報道をきっかけに、番組を見る人に筏は牽引されていることがあるということがわかってしまった。今後自浄作用が働くのではないか」「そういう番組作りだとわかって楽しんでいる視聴者も沢山いると思う。幻滅する人は見なくなるだろう。この番組の扱いに関しては、そうした視聴者の判断に委ねるべきだ」として議論を終えた。

4. 12月に寄せられた視聴者意見を議論

12月にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、大阪のクリニック放火殺人事件や女優の急死の取り上げ方等に関して事務局から概要が報告されたが、さらに踏み込んだ検証が必要であるとの意見はなかった。

以上

第166回 放送倫理検証委員会

第166回–2021年12月

テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』の審議

第166回放送倫理検証委員会は12月10日に千代田放送会館で開催された。
番組スタッフが作成した質問を視聴者からの質問として放送したテレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』について、11月の委員会で審議入りが決まったことを受け、今回の委員会では、担当委員から当該放送局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が報告された。

議事の詳細

日時
2021年12月10日(金)午後5時~午後7時
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. テレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』について審議

テレビ朝日は情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』の2021年3月から10月にかけて放送した視聴者からの質問に答えるコーナーにおいて、番組側が作成した質問を視聴者からの質問であるかのように放送したケースが含まれていたとして、10月21日、番組と番組のウェブサイトで公表し謝罪した。同コーナーでは、番組の前半で当日のテーマを視聴者に伝え、放送中に番組ウェブサイトなどで受け付けた質問を番組終盤で紹介し、出演した専門家らが答えていた。また視聴者から受け付けた実際の質問を使用する場合も、文章に手を入れ表現を修正したケースでは、クレームを避けるためとして属性を書き換え架空の属性で放送していたという。
11月の委員会で、視聴者の質問や意見を番組が作ることは世論誘導にもつながりかねず、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
今回の委員会では、11月末から12月にかけて当該放送局の関係者に対して実施したヒアリングの概要が担当委員から報告され、それを踏まえて議論が行われた。委員からは、制作体制の中のポジションによる意見表明の難しさ、企画・制作の段階における局の関与の程度、好調な視聴率を背景とした制作フロー点検の欠落の可能性、視聴者とのキャッチボールという枠組みの変更可能性、コロナ禍でのコミュニケーションの困難さなどを指摘する意見が出された。
次回の委員会では、意見書の原案が提出される見通しである。

2. 11月に寄せられた視聴者意見を議論

11月の30日間にBPOに寄せられた視聴者意見のうち、多数の意見があった「バラエティー番組の企画」等について事務局から概要が報告され議論したが、さらに踏み込んだ検証が必要であるとの意見はなかった。

以上

第165回 放送倫理検証委員会

第165回–2021年11月

テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』審議入り

第165回放送倫理検証委員会は11月12日に千代田放送会館で開催された。
委員会が7月21日に通知・公表した日本テレビ『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な再発防止策などをまとめた対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表する事にした。
番組スタッフが作成した質問を視聴者からの質問として放送していたテレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』について、同局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて協議した結果、視聴者の質問等を番組が作ることは世論誘導につながりかねず放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯について検証する必要があるとして審議入りを決めた。

議事の詳細

日時
2021年11月12日(金)午後5時~午後7時
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. 日本テレビ『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見への対応報告を了承

7月21日に通知・公表した日本テレビ『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見(委員会決定第41号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、社内の検証チームが今回の事態に至った経緯と原因について調査
し、結果を30分番組にまとめて放送したことや、当該番組『スッキリ』において、担当以外の複数プロデューサーによるチェック体制を構築したこと、他の生放送の情報番組においても、事前に制作したVTRを可能な限り担当者以外の視点でチェックする体制を構築したことが記されている。また、再発防止への取り組みとして、コンプライアンス推進室に人権問題の相談に対し助言を行う担当を新たに設けたことや、全社員・スタッフを対象に専門家を招いてアイヌ民族差別や人権問題に関する研修会を2度にわたって実施したことが報告されている。
委員からは、「今回の問題は1994年『イヨマンテの夜』の事実上の再発だ。再発防止策が機能しているかどうか、長いスパンで確認する仕組みがあればなお良いと思う」「チェック体制の強化や研修の実施が柱になっているが、それよりも職場のコミュニケーション不足への対応の方が重要なのではないか。今後何らかのかたちで取り組んでほしい」などの意見が出され、概ね適切な対応がなされているとして報告を了承し、公表することにした。
日本テレビの対応報告書は、こちら(PDFファイル)

2. テレビ朝日の情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』について審議

テレビ朝日は情報番組『大下容子ワイド!スクランブル』で、2021年3月から10月にかけて放送した視聴者からの質問に答えるコーナーで、番組側が作成した質問を視聴者からの質問であるかのように放送したケースが含まれていたとして、10月21日、番組と番組のウェブサイトで公表し謝罪した。
同コーナーでは、番組の前半で当日のテーマを視聴者に伝え、放送中に番組ホームページなどで受け付けた質問を番組終盤で紹介し、出演した専門家らが答えていた。
当該放送局によると、放送中の短い時間で採用する質問を選り分けるため、チーフディレクターが選別の基準としてコーナーの流れを想定した質問案を事前に作っていたが、今年3月から10月にかけて、この想定質問を視聴者からの質問として放送に使ったという。104問が番組側で作成され、年齢や居住地域などは架空の属性で紹介された。また視聴者から受け付けた実際の質問を使用する場合も、文章に手を入れ表現を修正したケースでは、クレームを避けるため属性を書き換えていたという。
委員会は、当該放送局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて協議を行った。その結果、視聴者の質問や意見を番組が作ることは世論誘導にもつながりかねない深刻な事案で放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
委員会は今後、当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

3. その他

視聴者意見等を踏まえて、衆議院議員選挙を含む報道について議論を行った。

以上

2021年11月12日

テレビ朝日『大下容子ワイド!スクランブル』が審議入り

放送倫理検証委員会は11月12日、テレビ朝日の『大下容子ワイド!スクランブル』について、審議入りすることを決めた。
対象となったのは、同番組内の視聴者からの質問に答えるコーナーで、今年3月からおよそ半年間にわたり、番組スタッフが用意した質問を視聴者からの質問であるかのように放送していた。
テレビ朝日は10月21日、番組や番組ホームページで概要を公表するとともに、謝罪を行った。
同局によると、放送した質問のうちおよそ2割にあたる104問が番組側で作成されていたほか、視聴者から受け付けた実際の質問の中には、質問者の居住地域や年代などが架空の属性で紹介されていたものもあった。
委員会は、テレビ朝日から報告書と番組DVDの提出を受けて協議を行った。その結果、深刻な事案であり、質問の内容等によっては世論誘導にもつながりかねないなどの意見が出され、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
委員会は今後、当該局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第164回 放送倫理検証委員会

第164回–2021年10月

9月の視聴者意見を報告

第164回放送倫理検証委員会は10月8日に開催され、9月にBPOに届いた視聴者意見の概要が事務局から報告された。

議事の詳細

日時
2021年10月8日(金)午後5時~午後6時40分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、大石委員、
大村委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. 9月の視聴者意見の概要

9月の30日間にBPOに届いた視聴者意見のうち、批判的な意見が寄せられた「バラエティー番組の企画」および「自民党総裁選」や「皇室関連」を巡る報道について、事務局からその概要が報告され、議論を行った。

以上

第163回 放送倫理検証委員会

第163回–2021年9月

日本テレビ『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見の通知・公表について報告

第163回放送倫理検証委員会は9月10日にオンライン会議形式で開催された。
今回の委員会より大村恵実委員が加わり、また委員会の冒頭、小町谷委員長が委員長代行に高田昌幸委員を指名した。
委員会が7月21日に行った日本テレビの情報番組『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見の通知・公表について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。

議事の詳細

日時
2021年9月10日(金)午後5時~午後6時15分
場所
オンライン
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、大石委員、
大村委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. 日本テレビ『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見の通知・公表について報告

日本テレビは3月12日に放送した情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した際、出演したタレントが「この作品とかけまして、動物を見つけた時ととく。その心は、あ、犬」という謎かけのコメントをした。
委員会は、本件放送はアイヌ民族に対する明らかな差別表現を含んだもので、オンエアに至った背景には、収録動画の最終チェック体制が極めて甘く、アイヌ民族やその差別問題に関する基本的知識がスタッフ間で決定的に不足していた点があったことを指摘し、日本民間放送連盟の「放送基準」の「(5)人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別しない」「(10)人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない」などに反しているとして、放送倫理違反があったと判断した。
当該局に対する通知および公表の記者会見は、7月21日、新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言下であることからオンライン会議システムを使用して行った。
この日の委員会では、通知・公表に関する当該局の報道と、その後当該番組内で放送された検証コーナー、ならびに当該局の検証番組を視聴したうえで、委員長と担当委員が通知・公表の詳細について報告した。
通知と公表の概要は、こちら

以上

2021年7月21日

日本テレビ『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、7月21日午後5時40分から、オンライン会議システムを使用して行われた。委員会から小町谷育子委員長、高田昌幸委員、井桁大介委員、米倉律委員の4人が出席し、日本テレビからは取締役専務執行役員ら3人が出席した。
まず、小町谷委員長から委員会決定について、本件放送にはアイヌ民族に対する明らかな差別表現が含まれており放送倫理違反があると判断したことを伝えた。その背景として「収録動画の最終チェック体制が極めて甘かったことや、紹介作品をスタッフの中で1人しか見ていないなど自らの制作番組に対するこだわりが薄かったこと、番組で取り上げたアイヌ民族やその差別問題に関する基本的知識が決定的に不足していたことが挙げられる」と説明した。そして「ヒアリングを受けた制作スタッフは口々に差別をする意図はなかったと語っているが、意図がなくても差別発言が容認されるわけではない」と指摘した。また、スタッフの1人が、当該コーナーで紹介した作品は差別される側の問題を伝える内容なので、番組で片方の意見だけを伝えることになるのではないかと考えたことについて「バランスをとって伝えるということが誤って放送現場に定着している可能性がある。研修等を通じて改める必要がある」と述べた。
続いて高田昌幸委員が「日本テレビでは、かつて、バラエティー番組内でお笑いタレントが「イヨマンテの夜」の曲を流しながら踊ってみせた際、アイヌ民族の尊厳を著しく貶め差別を助長したという問題が起きた。その教訓が全く生かされておらず継承もされていない。我々が常識だと思っていたことが、若い世代にとってはそうではなく、そこにこの問題の一筋縄ではいかない難しさがある」と述べた。そのうえで「幹部や上席の人は、現場を信頼して任せることと、任せっきりにすることは違うと自覚し、細やかな目配りや手当てをしてほしい」と指摘した。
これに対して日本テレビ側は「委員会決定を真摯に受け止め、今後の番組制作に生かし再発防止に努めたい。社員、スタッフの人権意識や感度の低さに光をあて、不断の努力を重ねて、正しい情報を視聴者に伝えていきたい」と述べた。

続いて、午後6時15分からオンラインによる記者会見を開き決定内容を公表した。小町谷育子委員長、高田昌幸委員、井桁大介委員、米倉律委員の4人が出席し、132アカウントからの参加があった。
はじめに、小町谷委員長が委員会の判断について「チェック体制が隙だらけだった。また、制作番組に対するこだわりが薄く、担当のディレクター以外誰も紹介作品を視聴していなかった。差別に関する知識に乏しく放送人としての感度にも問題があった」と説明し、差別の意図がなくても差別表現をした放送が容認されるわけではないと指摘した。
続いて高田委員が「差別をしてはいけないという当たり前のことが世代間で継承されていない。番組のチェックがきわめて簡略に行われていた背景には、当該コーナーがグループ会社の配信映画を紹介するいわば番組宣伝だとして、制作する側が軽く見てしまった側面もあるのではないか」と指摘した。
記者からは「どういうところで放送人の感度が欠けていると感じたのか」という質問があり、これに対して高田委員は「感度とは、人を動物にたとえたときに、これでいいのかなと一瞬立ち止まることができるかどうかということだ。今回、番組を制作する上で、それはできたのではないか」と説明した。
井桁委員は「現在もなお差別はさまざまな形で続いている。一般常識を持っていればそれに気づき、立ち止まって議論できたのではないか。その最初の引っかかりがなかったこと自体に感度の低さを感じている」と答えた。
米倉委員は「チェック体制が緩いという以前に、一つ一つの制作プロセスにおいて、現場のスタッフの間で本当にいいのかの一声がなかなか出ない。出たとしても十分に議論された形跡がない。その点こそが放送人の感度に関わる部分ではないか」と述べた。

以上

第41号

日本テレビ『スッキリ』アイヌ民族差別発言に関する意見

2021年7月21日 放送局:日本テレビ

日本テレビは3月12日に放送した情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した際、出演したタレントが「この作品とかけまして、動物を見つけた時ととく。その心は、あ、犬」という謎かけのコメントをした。放送後、日本テレビには視聴者から不適切だという批判が相次ぎ、日本テレビは、同日夕方のニュース番組『news every.』で「放送内容においてアイヌの方たちを傷つける不適切な表現がありました。深くお詫び申し上げるとともに今後、再発防止に努めてまいります」と謝罪し、日本テレビのウェブサイト及び番組ウェブサイトにお詫びを掲載した。翌週月曜日15日には、『スッキリ』の番組冒頭で「制作に関わった者に、この表現が差別に当たるという認識が不足していて、番組として放送に際しての確認が不十分でした」と説明し、全面的に謝罪した。
委員会は、当該放送局に報告書と同録DVDを求め協議した結果、差別的な表現であり放送倫理違反の疑いがあるとして、4月の委員会で審議入りを決め、議論を重ねてきた。審議の結果、本件放送はアイヌ民族に対する明らかな差別表現を含んだもので、オンエアに至った背景には、収録動画の最終チェック体制が極めて甘く、アイヌ民族やその差別問題に関する基本的知識がスタッフ間で決定的に不足していた点があったことを指摘し、日本民間放送連盟の「放送基準」の「(5)人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別しない」「(10)人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、その感情を尊重しなければならない」などに反しているとして、放送倫理違反があったと判断した。

2021年7月21日 第41号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2021年7月21日 決定の通知と公表

新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言発出を踏まえ、通知は7月21日午後5時40分からオンライン会議システムで行われた。また公表の記者会見は午後6時15分から同じくオンライン会議システムを使用して行われ、委員長および担当委員が委員会決定の説明と質疑応答を行った。会見には132アカウントの参加があった。
詳細はこちら。

2021年11月12日【委員会決定に対する日本テレビの対応と取り組み】

委員会決定 第41号に対して、日本テレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2021年10月20日付で提出され、委員会はこれを了承した。

日本テレビの対応

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目 次

  • 1、委員会決定についての放送
  • 2、検証番組の放送について
  • 3、番組審議会への報告
  • 4、BPO委員を招き研修会を実施
  • 5、再発防止に向けた取り組み
  • 6、おわりに

第162回 放送倫理検証委員会

第162回–2021年7月

日本テレビの情報番組『スッキリ』を審議
7月中に委員会決定を通知・公表

第162回放送倫理検証委員会は7月9日にオンラインで開催された。
アイヌ民族に対する差別表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について、担当委員から意見書の修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、7月中に当該放送局への通知と公表を行うことにした。

議事の詳細

日時
2021年7月9日(金)午後5時00分~午後7時00分
場所
千代田放送会館会議室およびオンライン
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、井桁委員、大石委員、高田委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について審議

日本テレビが3月12日に放送した情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した際、出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをしたことについて、委員会は、差別的な表現であり放送倫理違反の疑いがあるとして、4月の委員会で審議入りを決めた。
今回の委員会では、担当委員から示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、7月中に当該放送局へ通知して公表することにした。

以上

第161回 放送倫理検証委員会

第161回–2021年6月

フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見への対応報告を了承

第161回放送倫理検証委員会は6月11日にオンラインで開催された。
委員会が2月10日に通知・公表したフジテレビの「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な再発防止策やこれに基づいて再開した世論調査の実施状況など取り組みをまとめた対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について、担当委員から意見書の原案が示され、意見交換を行った。

議事の詳細

日時
2021年6月11日(金)午後5時00分~午後7時30分
場所
千代田放送会館会議室およびオンライン
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、井桁委員、大石委員、高田委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見への対応報告を了承

委員会が2月10日に通知・公表したフジテレビの「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見(委員会決定第40号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、委員会決定を社内やFNN(フジニュースネットワーク)の各会議で報告・共有し内容の浸透を図ったこと、再発防止策とこれに基づいて再開した世論調査の実施状況、研究者を招いての社内勉強会やBPO委員との研修会の模様、また報道局全社員が委員会決定を読み提出した所感の抜粋などが記されている。
委員からは、「取材活動であるはずの世論調査が、契約に基づく単なる委託業務としてルーティン化していたなどの反省が示されるなど問題が的確に認識されている」「再発防止策を緻密に設定しているのは問題を深刻に受け止めた結果だと感じる」「BPOが『丸投げ』と指摘した今回の問題は、世論調査特有のものではなく制作現場全てに当てはまる教訓だ、と所感にあるが、こうした問題に制作現場全体で取り組んでもらえるとよい」「マスメディアが行う世論調査に内在する問題に対策が必要とされる中、今後どうすればよいかの課題が見えて来たという点で、委員会の調査と当該放送局の対応には意義があった」などの意見が出され、適切な対応がなされているとして、当該報告を了承し、公表することにした。
フジテレビの対応報告は、こちら(PDFファイル)

2. アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について審議

日本テレビが3月12日に放送した、情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した際、出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをしたことについて、委員会は、差別的な表現であり放送倫理違反の疑いがあるとして、4月の委員会で審議入りを決めた。
5月委員会でのヒアリング結果の報告を経て、今回の委員会では、当該局の関係者に対して実施したヒアリングに基づき担当委員が作成した意見書の原案が示され、意見交換を行った。次回は修正案が提出される予定である。

以上

第160回 放送倫理検証委員会

第160回–2021年5月

日本テレビの情報番組『スッキリ』を審議

第160回放送倫理検証委員会は5月14日にオンラインで開催された。
委員会が1月18日に通知・公表したフジテレビの『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見について、当該放送局から委員会に対し、具体的な改善策を含めた取り組み状況など対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、当該対応を了承して公表することにした。
アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について、前回委員会で、差別的な表現は放送倫理違反の疑いがあり放送された経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りが決まったことを受け、今回の委員会では、担当委員から当該放送局の関係者に対して行ったヒアリングの途中経過が報告された。

議事の詳細

日時
2021年5月14日(金)午後5時00分~午後6時45分
場所
放送倫理・番組向上機構[BPO]第1会議室(千代田放送会館7階)およびオンライン
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、井桁委員、大石委員、高田委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見への対応報告を了承

委員会が1月18日に通知・公表した、フジテレビの『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見(委員会決定第39号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。 また、担当委員から、4月に当該放送局がオンライン形式で実施した研修会での委員との意見交換の様子などが報告された。委員会は、当該放送局の今後の改善状況を見守り、当該報告を了承して公表することにした。

2. アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について審議

日本テレビは3月12日、情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した後、コーナーに出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをした。放送後、視聴者からアイヌ民族を犬とかけるのは不適切だという批判が相次ぎ、日本テレビは、同日夕方のニュース番組『news every.』で謝罪するとともに局および番組ホームページにお詫びを掲載した。また、翌週月曜日15日には、番組冒頭で「制作に関わった者に、この表現が差別に当たるという認識が不足していて、番組として放送に際しての確認が不十分でした」と説明し、全面的に謝罪した。
前回の委員会で、当該放送局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて協議した結果、差別的な表現は放送倫理違反の疑いがあり、適切な編集が行われずに放送された経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りが決まった。今回の委員会では、担当委員から当該放送局の関係者に対するヒアリングの途中経過の報告を受けて議論をした上、次回委員会において提案される予定の意見書案を踏まえてさらに検討することとした。

以上

第159回 放送倫理検証委員会

第159回–2021年4月

アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』が審議入り

第159回放送倫理検証委員会は4月9日に開催された。
委員会の冒頭、3月に退任した神田安積前委員長、中野剛委員に替わり新たに就任した小町谷育子委員、井桁大介委員が挨拶を行ったあと、委員の互選により小町谷育子委員が委員長に選出された。また、小町谷委員長は岸本葉子委員長代行及び升味佐江子委員長代行を引き続き委員長代行に指名した。
アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』について同局から提出された報告書と番組DVDを踏まえて協議した結果、差別的な表現は放送倫理違反の疑いがあり、放送された経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。

議事の詳細

日時
2021年4月9日金午後5時00分~午後7時00分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、井桁委員、大石委員、高田委員、長嶋委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』が審議入り

日本テレビは3月12日、情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した後、コーナーに出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをした。放送後、視聴者からアイヌ民族を犬とかけるのは不適切だという批判が相次ぎ、日本テレビは、同日夕方のニュース番組『news every.』で謝罪するとともに局および番組ホームページにお詫びを掲載した。また、翌週月曜日15日には、番組冒頭で「制作に関わった者に、この表現が差別に当たるという認識が不足していて、番組として放送に際しての確認が不十分でした」と説明し、全面的に謝罪した。
委員会は、当該放送局に報告書と番組DVDを求め、それらを踏まえて協議した。その結果、差別的な表現は放送倫理違反の疑いがあり、適切な編集が行われずに放送された経緯等について詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

以上

2021年4月9日

アイヌ民族に対する差別的表現を放送した日本テレビの情報番組『スッキリ』が審議入り

日本テレビは3月12日、情報番組『スッキリ』のコーナー『週末オススメHuluッス』で、アイヌ民族の女性を描いたドキュメンタリー作品を紹介した後、コーナーに出演したタレントが「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は。あ、犬」という謎かけのコメントをした。放送後、視聴者からアイヌ民族を犬とかけるのは不適切だという批判が相次ぎ、日本テレビは、同日夕方のニュース番組『news every.』で謝罪するとともに局および番組ホームページにお詫びを掲載した。また、翌週月曜日15日には、番組冒頭で「制作に関わった者に、この表現が差別に当たるという認識が不足していて、番組として放送に際しての確認が不十分でした」と説明し、全面的に謝罪した。
委員会は、当該放送局に報告書と番組DVDを求め、それらを踏まえて協議した結果、放送に至る経緯等を解明する必要があるとして審議入りを決めた。今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

第158回 放送倫理検証委員会

第158回–2021年3月

2月の視聴者意見を報告

第158回放送倫理検証委員会は3月12日に開催され、2月にBPOに届いた視聴者意見の概要が事務局から報告された。

議事の詳細

日時
2021年3月12日(金)午後5時~午後7時
場所
放送倫理・番組向上機構[BPO]第1会議室(千代田放送会館7階)+オンライン
議題
出席者

神田委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、大石委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. 2月の視聴者意見の概要

2月の28日間にBPOに届いた視聴者意見のうち、新型コロナウイルスのワクチン接種のニュースで注射の映像が頻繁に放送されることに対する批判的な意見などが事務局から報告されたが、個別の番組について特に踏み込んだ議論は行われなかった。

以上

2020年12月3日

全国の放送局を対象に意見交換会開催

放送倫理検証委員会と全国の放送局との意見交換会が、2020年12月3日千代田放送会館2階大ホールで開催された。また事前に申し込みのあった放送局に対して、オンライン配信を同時に実施した。放送局の参加者は、会場に40人、配信にて視聴したのは97社で、そのアカウント数は298件であった。さらに社内の会議室等で複数名による共同視聴をしたところも多数あった。委員会からは神田安積委員長、岸本葉子委員長代行、升味佐江子委員長代行、西土彰一郎委員の4人が出席した。コロナ禍のため、2020年度に放送倫理検証委員会が意見交換会を開くのは今回限りで、オンライン配信を利用して全国を対象に実施したのは初めてのことである。

開会にあたり、BPO事務局を代表して濱田純一理事長が「この意見交換会はBPOとしても大変重視しており、BPOの活動と放送局の皆さまとをつなぐ非常に重要な役割となっている。これからメインテーマである番組と広告の問題について議論してもらうが、民放連の広告の取り扱いのルールなどにもあるように、放送の番組内容と、広告放送との識別、区別というのは大変重要で、視聴者にとって、放送の効用というものがしっかり伝わっていくための重要な原理だと思う。同時に、広告放送は民間放送が放送を自由で自律的に行っていくための大事な柱でもあるので、この番組と広告の問題というのは、放送局全体として幅広く議論していくテーマである」と挨拶した。

意見交換会の最初は、10月30日に公表した「番組内容が広告放送と誤解される問題について」と題した委員長談話について、以下のとおり、神田委員長が解説をした。
放送基準は全部で152条あるが、3分の1以上は広告に関する放送基準である。理事長から、番組と広告の問題は民放において重要な原理であるとのお話があったが、放送基準における広告にかかる条文の多さはそのことを物語っている。
約3年前に、ある地方局の番組の中で、いわゆるステマの問題が取り上げられたことがあり、2017年5月25日付で民放連が「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」を策定した。
「留意事項」は、まず、「民放は視聴者の利益に資することを目的に、さまざまな情報を番組で取り扱っており、そうした取り組みのひとつとして、特定の商品・サービスなどを取り上げ、紹介することが日常的に行われている」「番組で特定の商品・サービスを取り扱うことは、視聴者に対して具体的で有益な情報提供となる」ということを明らかにしている。
同時に、「留意事項」は、「取り上げ方や演出方法などによっては、広告の意図や目的がなくても、視聴者に『広告放送』であるとの誤解を招く場合がある」ことも指摘している。また、万が一にも「誤解や疑念を持たれることは、民放の信頼やメディア価値の根幹にも関わる」と書かれている。
皆さんには、常にその2つの視点を意識しながら、番組の制作をしていただきたい。委員会も、番組が広告と誤解されることが問題になることがあれば、この2つの視点から考えることになる。つまり、特定の商品・サービスを取り上げ、紹介する番組について、最初から規制ありきではなく、視聴者に対して具体的で有益な情報提供であるという点を前提としたうえで、検討や評価をしているということをご理解いただきたい。
本年、秋田放送、山口放送の番組に関して、広告と誤解されるのではないかとの視聴者意見が寄せられ、委員会は討議を約半年間かけて行ってきた。その経過の中で、本年3月6日に、民放連の放送基準審議会が、「放送基準の遵守・徹底のお願い」という文書を発出した。本文書は、番組と広告の識別に関して、「その取り上げ方は放送責任の範囲内でおのずと決まってまいります。そのうえで、演出や構成などには大いに工夫の余地があるのではないでしょうか。番組の企画から放送前の考査まで、社内横断的なしっかりとした体制を構築し、放送の価値向上と収益の確保に尽力していただきたいと思います」としている。この点について、委員会は、民放連が各局に向けて、自主的・自律的な検討を促す趣旨のメッセージであると受け止めている。また、本文書は、番組と広告の問題とは別に、BPOにおいて過去にあった事例と同様の事例が繰り返し審議入りされていることについて、各局に対して警鐘を鳴らしている。
委員会は、このような動きを踏まえながら、半年間をかけて両放送局の番組の討議を行い、また、番組と広告の問題について、民放各局の自主的・自律的な対応を促すために望ましい結論に向けた議論をし、その結果、本年10月30日付の委員長談話を出すに至った。
委員長談話において触れているとおり、委員会は、これまで3局の事案について2つの意見書を出してきた。その中で、番組と広告の問題について、今後も民放各局で自主的・自律的に判断してほしい、その判断に当たっては「留意事項」を総合的に判断していただきたいということを繰り返し伝えてきた。その趣旨は、意見書で問題になった番組が放送倫理違反であると評価したとしても、そのことが、ある特定の部分を放送しなければ問題なかったということを意味するものではなく、むしろ、たとえば、その番組の中で、仮に問題がある部分があったとしても、他の部分で別の内容の放送になっていれば、いわば広告の印象が減殺され、全体として放送倫理に違反しないとされる余地があるのではないか、言い換えれば、ある特定の部分だけの問題ではなく、番組全体について「総合的に」考えてほしいということである。
通知公表時の質疑応答や意見交換会において、「番組の内容をどのようにすれば広告放送であると誤解を招かれなかったのか教えてほしい」といった質問や、さらには「番組と広告の境目をはっきりさせる明確な基準を示してほしい」という質問・要望も寄せられた。しかし、委員会の守備範囲は放送局の判断基準を作る役割ではない。仮に私たちが判断基準を作ることになれば、民放連が自主的・自律的に策定した「留意事項」を越えて、放送局の手足を縛る基準を作ってしまうことになりかねない。また、「総合的に判断する」ことは、放送局の自主的・自律的な判断を必要以上に阻害しないようにするためであり、決して放送局の判断を迷わせるためではない、ということは委員長談話でも重ねて触れているところである。
もっとも、「留意事項」が策定されてから既に3年が経過しているとしても、委員会で具体的なケースが取り上げられたのは去年以降であり、番組と広告の問題が急にクローズアップされて放送倫理違反という判断が出され、多くの局がどのような対策を講じたらよいか悩んでいることが意見交換等でもうかがわれたところである。そこで、委員長談話において、そのような事情を踏まえ、本問題について放送事業者や民放連が自ら問題点を整理した上で、処方箋を出すことが望ましく、自主的・自律的な取り組みが期待できるのであれば、その成果を待つべきであろうと考えるに至った。なお、自主的・自律的な取り組みが期待できるという1つの事情として、先ほど言及した民放連の放送基準審議会の文書に触れ、「本問題に関する放送局の現場の声を集約しながら、改めてこの問題に向き合う必要があるという民放連の自覚と決意がうかがわれる」と評価させていただいた。
以上のような点を踏まえて、委員会は、「民放連加盟各社または民放連の自主的・自律的な取り組みを当面注視することとする」旨の結論に至った。放送基準92条や「留意事項」の原点に立ち返っていただき、「留意事項」を実質的にまた総合的に会社の中で議論し参照して、よりよい番組作りをしてほしいと思う。委員会が「見守る」というのは、本問題を今後も皆さんと一緒に考えていくという趣旨であり、このような意見交換の機会があれば引き続き一緒に考えていきたいと思っている。
なお、本年9月に民放連の放送基準審議会に私が出席し、本問題について意見交換の機会をいただいた。議事要録が作成され各局に配付されていると聞いているので、どの程度ご参考になるか心もとないが、ご参考にしていただきたいと思う。
ご清聴いただき感謝申し上げたい。

次に、西土委員が「番組と広告の境目について」というテーマで講演をした。
本委員会は番組と広告の識別をめぐる問題を扱い、2つの決定を出している。これらの決定では、対象となった番組について、民放連放送基準第92条及び「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断した結果、視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと結論づけた。
決定を公表した後、「何を基準として総合的に判断するのか」という声をよく聞く。この基準については、何よりも皆さんがお作りになった民放連放送基準第92条及び留意事項に依拠して判断する。その際、迷った時には原点に立ち返ってもらいたい。なぜ放送基準第92条及び留意事項が定められたのか、そこが原点になろうかと思う。当然だが、放送局の独立とそれに対する視聴者の信頼を保持することに、第92条の趣旨、目的を見出すことができる。
以上の趣旨に照らして、最終的には視聴者の読後感というか、視聴後感において、番組全体が広告放送であるとの印象を残すかどうかがポイントになるかと考える。つまり、番組の中に広告の要素、特定の商品をPRする要素があったとしても、番組を見終わった後に、例えば全体としてこれは情報番組であるという印象を視聴者に残すかどうかが、重要になる。
この判断のために、留意事項の2において例示として挙げられている「番組で取り扱う理由・目的」「視聴者への有益な情報」「視聴者に対してフェアな内容」など事案に即した多様な要素を番組のテーマや制作に至った背景も含め検討する。こうした検討は、繰り返しになるが、視聴者の知る権利に奉仕する放送の自由を確保するためという視点に立ってのことである。
もちろん、視聴者の知る権利に奉仕する放送の自由を行使するのは皆さんであり、したがって番組と広告の境目の問題は、皆さんがまず自主・自律的に考えていただくことになる。この点について、決定第36号は、決定第30号を引用して、「番組と広告の違い、その境目を認識し、緊張感を持って一線を画す日々の作業は部署を問わず、すべての民放関係者が肝に銘じるべき根本ではないか」と指摘して、自主・自律による対応策を求めている。
濱田理事長が冒頭で述べられた通り、広告は民放各局の自主・自律にとって、また財源という点でも極めて重要である。皆さんが番組と広告の境目の問題に突き当たって苦慮されていることは、私共も重々承知している。綺麗ごとではないことを承知してはいるけれども、国民の知る権利に奉仕する放送のプロの皆さんであれば、視聴者の立場に立って、説得力のある根拠を示しながら、グレーゾーンにある番組と広告の線引きも行うことができるものと確信している。そして、以上の不断の積み重ねにより養われるはずの皆さんの実践的な知を、民放連等を通じて、ぜひとも放送界全体の共有知にしてくだされば、大変嬉しい。それができるのであれば、この問題を扱った本委員会として、せめてもの救いになると考えている。最後に希望を付け加えて、私からの簡単な話に代えたいと思う。
どうもありがとうございました。

このあとの意見交換での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: 番組と広告の問題は民放全体の重要な課題でありながら、例えば他局の営業系番組に関する深い情報を聞くことなどはなく個別の問題は表に出て来ないのだが、共有知とするために、委員会がヒアリングなどを通じて経験したことから共有化に向けての方策や方法論として気付いた点があれば披歴してほしいのだが。
A: 委員会決定の対象になった当該局が、その経験値を民放連に伝えるとか、系列局で悩みや苦労を共有して民放連に出してもらい、民放連が何らかの形で文書化するのが筋道立った方法ではないかと考える。(西土委員)
  各事案の意見書、特に委員会の「調査」または「検証」というところには、ヒアリングで制作過程について詳細にお聞きし、委員の受け止めたことが非常に具体的に書かれている。ヒントや共有知としてお役立ていただければうれしく思う。(岸本委員長代行)
  事例研究会であれば、参加している局どうしの意見交換、質疑応答の場があるので知見を共有できると思う。また、各局からの依頼(講師派遣制度)で機会を設けていただければ、率直な意見交換ができると思う。(神田委員長)
   
Q: 今後番組が番組として成立しつつ、ビジネスツールとしても考えていかねばならない時代に、現場にはBPOを恐れるような感覚があるが、新しい取り組みについて委員はどういうふうに考えるのかを伺いたい
A: 大変難しい質問であるが、問題になった時に備えて、きちんと説明できる社内における社内横断的かつ総合的な検討と、それを記録しておくことが必要である。新しい取り組みの内容については私たちにも知見として教えていただきたいし、勉強会などで意見交換していくことも大切な役割であると思う。(神田委員長)
  個人の意見だが、家のテレビで自分の家族が見た時にどう思うか、というのが1つの判断基準になるのではないか。恐れるべきはBPOの審議入りより、視聴者にそっぽを向かれることのはずだ。皆さんと共にトライ&エラーしながら経験値を重ねて、視聴者の信頼を失わない放送を、維持していきたい。(岸本委員長代行)
  番組は放送局が自らの責任で作る。局自身の判断で作られていると視聴者は信じているから、広告放送の中でなく番組の中である特定の商品やサービスが取り上げられると、その商品やサービスに対する好意的印象は高まる。だからこそ、広告主も広告放送ではなく番組の中で、自分の商品やサービスが取り上げられることを期待する。そこに気を付けないと、局の作る番組の中に広告が紛れ込み、視聴者は混乱し、商品やサービスに対する判断を誤ることにもなる。それは、本来局が制作する番組に対する信頼を低下させる恐れもあり、その点が心配である。そうならないためには、局が独自の視点で番組を展開していることが明確になるようにしなければならないのではないか。番組が全部同じ方向での特定の商品やサービスの情報提供になると視聴者の選択肢がなくなるので、番組の制作主体である局の姿が見えにくくなりがちである。番組制作の際に構成や内容に何かしらの手間をかけ、制作する主体が局である点に誤解が生じないようにすることが、放送の領域を自分たちで守ることにつながると思う。(升味委員長代行)
   
Q: 秋田放送と山口放送のローカル単発番組について、委員会は審議の対象としないという結論になったが、その理由について詳細に聞きたい。また、審議入りするか否かの判断基準について「①対象となる問題が小さく、かつ、②放送局の自主的・自律的な是正措置が適切に行われている場合には、原則として審議の対象としない」との考え方は、今後も判断基準の1つと考えても良いのか。
A: 後者の質問については、2009年7月に出した委員長談話の中で、審議に入るか否かの基準についてご指摘の2点の基準を明示しており、現在もその基準に沿って運用している。最初の質問については、議事概要に書いてあるとおりである。討議で終了している案件は、当該局に対してもそれ以上の説明をしていないので、その旨ご理解いただきたい。(神田委員長)
   
Q: 現在、民放連の考査事例研究部会で放送基準の改定作業が始まっているのだが、放送基準の書きぶりやよく分からない点などが委員会で議論になったことがあるか。
A: 「留意事項」において「対価を得て」という点が要件になるのかが議論になった。この点について、民放連に問い合わせたところ、対価の支払いの有無に関係なく「留意事項」は適用がされるとの回答であった。このことは意見書や委員長談話において触れているが、民放連でも改めて各局に十分周知されたほうがよいのではないかと思う。(神田委員長)
   
Q: 番組制作に伴う収益化が放送局にとっては命綱なので営業担当としては守っていきたいのだが、考査上のストライクゾーンが以前と比べて狭まった訳ではないのか。今までストライクだと思っていたのをボールと言われたのが今回の例だった、と解釈しているのだが。
A: ストライクゾーンつまりホームベースの大きさは変わっていない。ただし、ホームベースを通っていなくてもストライクだと思い込んでいた可能性はあるかもしれない。投げる前にきちんと考査をしてほしい。ストライクゾーン自体に変わりはないとしても、永久に変えなくて良いのかという問題はあると思う。時代の変化やメディアの役割の在り方などを踏まえ、民放連や各局において自主的・自律的に検討の余地はあるのかもしれない。(神田委員長)
   
Q: 対価性があっても視聴後感が悪くなく、番組内容が視聴者にとって有益であれば、番組として成立するのかどうかについて聞きたい。
A: 「留意事項」に照らして総合的に判断した結果、特に内容に問題がなければ、対価の支払いの有無にかかわらず、番組として問題ないという判断になると思う。(神田委員長)
   
Q: 質問ではなく要望ですが、2009年にバラエティー番組に対して出された意見書(委員会決定第7号)の中に、バラエティーが「嫌われる」5つの瞬間というのがあってすごく分かりやすかったので、「番組が広告と認識されない5つの瞬間」のような形でまとめてもらえると理解しやすくなると思うのだが。
A: 今回の番組と広告の問題は、民放の信頼やメディア価値の根幹にも関わる問題であり、少し硬い文章にせざるを得なかった。ご指摘の趣旨を踏まえて、今後も分かりやすく説明する機会や工夫をするように努めていきたい。(神田委員長)

意見交換会のまとめとして、神田委員長が、「当面は放送局の自主的・自律的な対応を見守りたいと考えているが、チェックリスト化、マニュアル化という対応ではなく、自主的・自律的に総合的な検討を深めていただきたい」と述べ、「是非お声掛けいただければ、できる限り意見交換の機会を設けていきたい」と結んだ。
最後にBPO事務局の竹内淳専務理事が、「番組と広告をめぐる現状の厳しさはひしひしと伝わってくるが、皆さまの自主・自律に期待することをご理解いただき、コロナ禍でもこういう意見交換の場は今後オンラインも加味して設けていきたい」と挨拶して閉会した。

終了後に実施したアンケートの回答から一部を紹介する。

  • 気になっていた「委員長談話」の詳細な解説を聞くことができて良かった。
  • 番組と広告の境界線については、今後も引き続き取り上げてほしい。
  • 多数かつ関連部署の人が同時に遠隔参加できることがオンラインの最大の利点。
  • 出張しなくて済むので助かる。時間も交通費も節約でき、大変ありがたい。
  • 参加しやすく効果的なので、今後もオンライン形式での意見交換の場を設けてほしい。
  • 必要な資料の事前共有をさせてほしかった。
  • キー局の場合は社員数が多いので、「1社5枠」という配信の制限は厳しい。

以上

第157回 放送倫理検証委員会

第157回–2021年2月

フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見と、「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見の通知・公表について意見交換

第157回放送倫理検証委員会は2月12日に開催された。
委員会が1月18日に通知・公表したフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見の通知・公表について、委員長と担当委員から詳細が報告された。
委員会が2月10日に通知・公表したフジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見の通知・公表について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。

議事の詳細

日時
2021年2月12日(金)午後3時~午後6時
場所
オンライン
議題
出席者

神田委員長、岸本委員長代行、升味委員長代行、大石委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員、米倉委員

1. フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見の通知・公表について報告

フジテレビが2018年10月20日から2019年10月26日にかけて放送したクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、委員会は、解答権のないエキストラを出場させていたことは、番組が標ぼうしている「1人対99人」というコンセプトを信頼した多くの視聴者との約束を裏切るものであり、また、NHKと日本民間放送連盟が定めた「放送倫理基本綱領」の「放送人は、放送に対する視聴者・国民の信頼を得るために、何者にも侵されない自主的・自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つことにつとめる」との規定に照らし、制作過程の重要な部分を制作者たちが十分に共有していなかった点において、その過程が適正に保たれていなかったと言うべきであるとして、放送倫理違反があったと判断した。
新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言発出を踏まえ、1月18日、当該局への通知は電子メールで行い、公表は委員会決定をBPOのウェブサイトに掲載する形で行い、記者会見の開催は見合わせた。広報を窓口に質問を受け付けたところ、当日数件の確認の連絡が寄せられた。
この日の委員会では、委員会決定を伝えた当該局のニュースを視聴し、委員長と担当委員が通知・公表の経緯について報告した。
通知と公表の概要は、こちら

2. フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見の通知・公表について報告

フジテレビは、2019年5月から2020年5月まで14回にわたり行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」の一部に架空データが含まれていたとして、2019年5月13日から2020年6月1日にかけて18本のニュース番組で報じた一連の世論調査結果に関する放送を取り消した。世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査結果を1年余りにわたって報じたもので、委員会は、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めないとして、本件放送には重大な放送倫理違反があったと判断した。
新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言発出を踏まえ、2月10日、当該局に対する通知および公表の記者会見をオンライン会議システムを使用して行った。
この日の委員会では、委員会決定を伝えた当該局のニュースを視聴し、委員長と担当委員が会見での質疑応答などについて報告した。
通知と公表の概要は、こちら

以上

2021年2月10日

フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が発出されていることから、2021年2月10日午後1時30分からオンライン会議システムで行われた。委員会から神田安積委員長、高田昌幸委員、巻美矢紀委員の3人が出席し、フジテレビからは5人が出席した。
まず神田委員長から、委員会決定について、「架空データが含まれた一連の世論調査報道」には重大な放送倫理違反があったと判断したことを通知した。その理由として、架空データが含まれた世論調査の結果を正しい世論調査として放送し、事実に反する情報を視聴者に伝えた点を挙げた上で、当該局は架空データ作成に関与しておらず、本件放送において意図的な作為もなかったものの、世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査のニュースを1年余りにわたって合計18本放送し、市民の信頼を大きく裏切り、また、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない、と指摘した。
続いて高田委員は、民主主義の根幹である世論調査の信頼性に大きな影響を与えたことに言及した上で、「委託先の調査会社が全面的に信用できると考え、立ち会いで防げたかもしれないのに立ち会わなかった」といった、過去の審議事案と同様の思い込みや判断ミスが認められるとし、「ニュース番組で報じる以上、世論調査もジャーナリストの取材活動の一環であるとの認識があれば、委託先の作業であっても、より目配りがきいて今回の事態を防止できた可能性がある」と述べた。巻委員からは、「民主主義における世論調査の重要性を強く認識している以上、委託先に任せたままにせず、何らかの対応を取るべきだった。再発防止策をつくり、世論調査を開始しているが、二度とこうした事態を招かないようジャーナリストとしての目線を欠かさないでいただきたい」との意見が示された。最後に神田委員長から「結論として重大な倫理違反と評価しており、再発することがないように自主的、自律的な努力を続けていただきたい。」と要望が伝えられた。
これに対してフジテレビは、「本日の決定をきわめて重く受け止めている。ご意見を真摯に受け止め、今後の世論調査の報道に生かしていきたい」「世論調査は先月再開したが、不正防止策を徹底していくことで、視聴者の信頼回復に努めていきたい」と述べた。

続いて、午後2時30分から同じくオンライン会議システムによる記者会見を行い、委員会決定を公表した。記者会見には42のアカウントから参加があった。
はじめに神田委員長が「本件放送は、フジテレビが、架空データが含まれた世論調査の結果を正しい世論調査として放送し、事実に反する情報を視聴者に伝えたものであり、放送倫理基本綱領、民放連放送基準の前文、さらには、放送基準の第32条に反しているものと評価される。フジテレビは、架空データ作成に関与しておらず、また意図的な作為もなかったが、世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、意見書の別表に記載したテーマに関し、架空データが含まれた世論調査報道を1年余りにわたり、合計18回放送したものであり、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めない。これらの点を踏まえ本件放送には重大な放送倫理違反があったと判断した」と述べ、意見書の構成に沿って概要を説明した。
続いて高田委員は「専門の業者に調査そのものを任せたとは言え、世論調査に関する作業はすべて取材活動の一環であり、集めた材料が正しいかどうか、記者として仔細に検討し、裏付けを取り確認に確認を重ねるという、ジャーナリストとしての初歩の行いを貫徹することができていれば、また違った結果になったと思う」と審議を振り返った。
巻委員は「ヒアリングを通じ、当該局の皆さんが民主主義における世論調査の重要性を認識していることがわかったが、そうであれば、委託先の調査会社に任せたままにせず、ジャーナリストとして適切な対応を取るべきだったのではないか」と述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: この調査は産経新聞社と合同だが、主体はフジテレビだったという認識か。
A: BPOは放送のみを対象としている。新聞社は検証の対象にしておらず、フジテレビのみを対象として調査をした。(高田委員)
   
Q: 本件において、委員会は委託先、再委託先をヒアリングの対象としていないが、不正に実効的な役割を果たしていた再委託先、ないしは委託先にヒアリングしなかったのはなぜか?
A: フジテレビが委託先、再委託先にヒアリングを実施しており、フジテレビに対する委員会の調査で委託先、再委託先のシステムの実態について必要な情報が得られた。フジテレビに対するヒアリングの内容に特段の疑義があれば委託先、再委託先にヒアリングを求めることもあり得たが、今回の事案では、フジテレビからの聞き取りで事実認定が可能と判断した。(神田委員長)
   
Q: 他の新聞やテレビ各社に比べフジテレビのチェック体制はどうだったと評価しているか?
A: 委託先への立ち会いに入るか、入らないかなどは、他メディアと比べての判断ではない。今回はヒアリングでも、当のフジテレビ自身に、委託先を訪問していれば防ぐことができたかもしれないとの認識があり、我々もヒアリングを重ねる中、訪問していれば、防ぐことが出来た可能性があった、という判断をしている。他局と比べての判断ではない。(高田委員)
   
Q: フジテレビは取り消した放送18本の世論調査の結果と、それを修正した結果を、現在に至るまで公表していない。不正の内容を公表するべきと考えるが、委員会では明らかになっていない状態をどう考えるか?
A: 訂正をどのように行うかは、それぞれの当事者が自主的に判断することだと思う。取り消した場合はこのような内容で放送しなさいと言うことは、もとよりBPOの役割ではない。(高田委員)
放送の取り消しの方法には、各局の自主的・自律的な判断がある。取り消した放送の内容を紹介・周知することもひとつの考え方であり、それを明らかにしないということも、その是非は別として、当該局の判断だと考える。そこで、どのような内容の放送の取り消しだったのかということを事実として別表に客観的に記載するにとどめ、当該局のかかる自主的・自律的な判断については委員会が評価を控え、意見書の読み手がそれをどう評価するかに委ねることとした。(神田委員長)
   
Q: 重大な放送倫理違反があったという結論だが、重大がついた理由は?
A: 報道番組における重要な情報である世論調査であることを前提とし、フジテレビがその世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにしていたこと、その時々に世論形成に大きな影響を与える重要なテーマに関して架空データが含まれた世論調査報道を1年余りにわたり合計18本放送したということを踏まえ、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことを総合的に考慮し、委員会で議論の結果、重大な放送倫理違反があったとの判断に至った。(神田委員長)
   
Q: 1人に任せきりだったということだが、政治部長や、報道局長、あるいは解説委員室もあると思うが、一緒に作業をしていなかったということか?
A: トピック的にその時々の政治情勢、社会情勢に関する質問をつくる場合、報道局内で声をかけ質問を集め検討はしていた。ただ、委託先の世論調査会社から(調査の)答えが返ってくると、そのデータは共有するが、分析・解析、ニュース原稿の作成といったプロセスは担当者に任されていた。政治部長や報道局長は、職制上は当然関わっているが、事実上任されていた。(高田委員)

以上

第40号

フジテレビ「架空データが含まれた一連の世論調査報道」に関する意見

2021年2月10日 放送局:フジテレビ

フジテレビは、2020年6月19日、2019年5月から2020年5月まで14回にわたり行った世論調査「FNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞 合同世論調査」のデータの一部に架空入力があったと発表した。フジテレビが調査を委託した会社が再委託した調査会社で、実際には電話をしていないにもかかわらず「電話をした」として架空の調査データが入力されていたと明らかにした。フジテレビは世論調査を休止し、2019年5月19日から2020年6月1日にかけて18のニュース番組で伝えた世論調査結果とそれに関連する放送を取り消した。
2020年8月の委員会において、誤った世論調査の結果が合計18回にわたり放送されたことや、調査を委託した会社が不正の行われた調査会社へ再委託した経緯自体をフジテレビが把握していなかったなどのチェック体制の不備を踏まえ、合計18回の放送について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決め、議論を続けてきた。
日本民間放送連盟(民放連)とNHKが1996年に定めた放送倫理基本綱領は「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」と定め、また、民放連の放送基準の冒頭では「世論を尊び」「正確で迅速な報道」の重視を求めている。さらに放送基準の第32条は報道の責任として「事実に基づいて報道し、公正でなければならない」と規定する。
委員会は、本件放送は世論調査の業務を委託先の調査会社に任せたままにし、架空データが含まれた世論調査結果を1年余りにわたり報じたもので、市民の信頼を大きく裏切り、他の報道機関による世論調査の信頼性に影響を及ぼしたことも否めないとして、本件放送には重大な放送倫理違反があったと判断した。

2021年2月10日 第40号委員会決定

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目 次

2021年2月10日 決定の通知と公表

コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が発出されていることから、当該局に対する通知は2021年2月10日午後1時30分からオンライン会議システムで行われた。また公表の記者会見は午後2時30分から同じくオンライン会議システムで行われ、委員長、担当委員が決定の説明及び質疑応答を行った。記者会見には42のアカウントから参加があった。
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2021年6月11日【委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み】

委員会決定 第40号に対して、フジテレビから対応と取り組みをまとめた報告書が2021年6月1日付で提出され、委員会はこれを了承した。

フジテレビの対応

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目 次

  • 1.経緯、委員会決定時の報道と社内部局への周知
  • 2.再発防止策の策定・公表と世論調査再開
  • 3.委員会決定を受けての取り組み
  • 4.終わりに

2021年1月18日

フジテレビ『超逆境クイズバトル!!99人の壁』解答権のないエキストラ補充に関する意見の通知・公表

フジテレビに対する委員会決定の通知は、新型コロナ特措法に基づき政府が緊急事態宣言を発出したことを踏まえ、1月18日午後1時30分に電子メールで行った。

これを受けてフジテレビは、「決定を真摯に受け止め、今後の番組制作に生かしてまいります。全社一丸となり、再発防止に取り組んでまいります」とコメントした。

意見の公表は、同日午後2時30分にBPOのウェブサイトに委員会決定の全文を掲載することにより実施し、記者会見の開催は見合わせた。広報を窓口に質問を受け付けたところ、当日数件の確認の連絡が寄せられた。

以上