第234回 – 2016年5月
世田谷一家殺害事件特番事案のヒアリングと審理、自転車事故企画事案の通知・公表の報告、ストーカー事件2事案の対応報告、STAP細胞報道事案の審理、審理要請案件の検討…など
世田谷一家殺害事件特番事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。自転車事故企画事案の通知・公表について、事務局から概要を報告した。ストーカー事件再現ドラマ、ストーカー事件映像の2事案について、フジテレビから提出された対応報告を了承した。STAP細胞報道事案を引き続き審理、また生活保護ビジネス企画に対する申立てを審理要請案件として検討した。
議事の詳細
- 日時
- 2016年5月17日(火)午後3時~9時30分
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- 1.世田谷一家殺害事件特番事案のヒアリングと審理
2.自転車事故企画事案の通知・公表の報告
3.ストーカー事件再現ドラマ事案の対応報告
4.ストーカー事件映像事案の対応報告
5.STAP細胞報道事案の審理
6.審理要請案件:生活保護ビジネス企画に対する申立て
7.その他 - 出席者
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坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員
1.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案のヒアリングと審理
対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
今月の委員会では、申立人と被申立人のテレビ朝日からヒアリングを行った。
申立人は代理人弁護士4人とともに出席し、「この番組を見た方たちは、私が著書や講演で述べている半年間にも及ぶ怨恨説の否定の作業と、その過程で見いだした生きる意味について一体何だったんだということになる。そこがぐらつくと、私の述べる悲しみからの再生は伝わらなくなってしまう。悲しみからの再生を決意し、これまで覚悟を持って積み重ねてきた私の活動、私の生き方そのものがこの番組によって破壊されたと感じた。風化を防ぐというもっともらしい目的を挙げ、報道番組だと言われたから真摯に取材に応じたのに、実は興味本位の視聴率稼ぎの番組に遺族役として当てはめられたと感じた」等と述べた。
テレビ朝日からは制作担当のプロデューサーら5人が出席し、「事件の重大性、内容から、報道局も加わった。取材方法や事実関係の確認や放送内容をチェックするという体制で慎重を期した。出演依頼時には企画書を提示し、犯人像・犯人動機を元プロファイラーが独自の分析でアプローチするというのがメインの趣旨であるということを伝えた。犯罪被害者遺族である申立人が、番組に出演して、過去の記憶が呼び覚まされ、苦痛を覚える可能性があるということも含み置いて出演の許諾をいただいた」等と述べた。
ヒアリング後の審理で、次回委員会に向けて担当委員が「委員会決定」文の起草に入ることになった。
2.「自転車事故企画に対する申立て」事案の通知・公表の報告
本件事案に関する「委員会決定」の通知・公表が5月16日に行われた。委員会では、その概要を事務局が報告し、当該局のフジテレビが放送した決定を伝えるニュースの同録DVDを視聴した。
3.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の対応報告
4.「ストーカー事件映像に対する申立て」の対応報告
2016年2月15日に通知・公表された「委員会決定第58号」ならびに「委員会決定第59号」に対し、フジテレビから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が5月13日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。両決定はフジテレビの同じ番組を対象にしている。
5.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理
対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
委員会は4月26日に臨時委員会を開いて申立人のヒアリングを行った。被申立人のNHKのヒアリングは熊本地震の報道対応のため主なメンバーの出席が不可能になったことからいったん延期し、5月31日に開催する臨時委員会で行うことになった。今回の委員会では、NHKのヒアリングに向けて、質問項目等が確認された。
6.審理要請案件:「生活保護ビジネス企画に対する申立て」
いわゆる「生活保護ビジネス」を取り上げたニュース企画に対する申立書について、委員会運営規則に照らして審理事案とする要件を満たしているかどうか検討した。次回委員会で改めて申立書の取り扱いを検討する。
7.その他
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4月の定例委員会で審理入りが決まった「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)と同(熊本県民テレビ)に関連して、熊本地震の被害状況等について事務局から報告し、引き続き現地の状況に配慮しつつ審理を進めることを確認した。
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次回委員会は5月31日に臨時委員会を開催する。6月の定例委員会は6月21日に開かれる。
以上