第144回–2019年12月
関西テレビ『胸いっぱいサミット!』委員会決定を通知公表へ
第144回放送倫理検証委員会は12月13日に開催され、12月10日に当該放送局への通知と公表の記者会見を行った読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。
出演者の不適切な差別的発言を放送し審議中の関西テレビの『胸いっぱいサミット!』について、担当委員から意見書の再修正案が示された。意見交換の結果、大筋で合意が得られたため、1月に当該放送局への通知と公表の記者会見を行うこととなった。
参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の候補者を公示前日に紹介する内容を放送し審議中の北海道放送の『今日ドキッ!』について、担当委員から意見書の原案が提出され意見交換を行った。
仮の家族や恋人などをレンタルするサービスを描いた番組で、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて検証する必要があるとして審議中のNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、担当委員から意見書の原案が示された。
少年野球のピッチャーの投球などスポーツ映像の早回し加工が行われ審議中のTBSテレビの『消えた天才』について、担当委員から意見書の原案が示され、意見交換を行った。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議入りしたTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、番組制作関係者らに対するヒアリングが行われ、その概要が報告された。
スーパーの買い物客に密着する企画で、登場した主要な客4人がディレクターの知人だったことが明らかとなり放送に至った経緯を解明する必要があるとして審議中のテレビ朝日の報道番組『スーパーJチャンネル』について、番組制作関係者に対するヒアリングが行われ、その概要が報告された。
琉球朝日放送が9月に放送した『島に"セブン-イレブン"がやって来た』と北日本放送が10月に放送した『人生100年時代を楽しもう!』という2つのローカル単発番組について討議を行い、日本民間放送連盟放送基準(以下「民放連放送基準」という)等に照らし、それぞれの番組で取り上げている特定企業の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかといった意見が多く、また、同じテーマで意見書を公表した委員会決定第30号の審議の経過や結果を両放送局がどのように受け止めていたのかなどについて検証が必要であるとして、テーマが共通していることに鑑み2番組を1件としたうえで、審議入りすることを決めた。
トランスジェンダーの方について不適切な放送を行ったという新聞記事が載ったテレビ山口のローカル情報番組『週刊ちぐまや家族』について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、委員の中から厳しい意見が出されるなど、放送倫理に照らして問題がある放送であるところ、当該放送局の報告書に記載されている取材対象者本人の心情などへの配慮等も含め、総合的に判断して、当該局に注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載することとした上で、今回で討議を終え、審議の対象とはしないこととした。
1. 読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見を通知・公表
読売テレビ『かんさい情報ネットten.』「迷ってナンボ!大阪・夜の十三」に関する意見(委員会決定第31号)について、当該放送局に対する通知と公表の記者会見が12月10日に行われた。
読売テレビは、5月10日夕方のニュース・情報番組『かんさい情報ネットten.』のコーナー企画の中で、取材協力者に対して性別を執拗に確認する内容を放送した。ロケのVTR終了後、スタジオで見ていたレギュラー出演の男性コメンテーターから厳しい叱責があったが、特に他の出演者からの反応はなく当該コーナーの放送は終わった。6月の委員会において、当該放送局の事後の自主・自律の迅速な対応は評価できるものの、なぜこの内容が放送されるに至ったかの経緯等を解明する必要があるとして審議入りし、議論を続けてきた。
委員会は、本件放送には、民放連放送基準の「(3)個人情報の取り扱いには十分注意し、プライバシーを侵すような取り扱いはしない」に反し、「適正な言葉と映像を用いると同時に、品位ある表現を心掛ける」よう求める放送倫理基本綱領および「人権の尊重」と「報道における表現は、節度と品位をもって行われなければならない」と求める民放連の報道指針に反する放送倫理違反があったと判断した。
今回の委員会では、委員会決定を伝えた読売テレビのニュースを視聴し、委員長や担当委員から、会見での質疑応答などが報告された。
2. 出演者の不適切な差別的発言を放送した関西テレビ『胸いっぱいサミット!』の審議 1月に通知・公表へ
関西テレビが4月6日と5月18日に放送した情報バラエティー番組『胸いっぱいサミット!』の中で、コメンテーターとして出演した作家が、韓国人の気質について「手首切るブスみたいなもんなんですよ」と発言した。この発言について、当該放送局は、4月の放送前に制作や考査の責任者らが検討し、「国の外交姿勢を擬人化したもので、民族・人種への言及ではない」と判断して放送したとしていたが、6月に、視聴者への配慮が足りず心情を傷つける可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだったと謝罪した。
委員会は7月、人種や性別などによって取り扱いを差別しないなどとしている民放連の放送基準に照らし、収録番組であるにもかかわらず適切な編集が行われずに放送されたうえ、放送後にお詫びに至った経緯について詳しく検証する必要があるとして審議に入った。
今回は、前回までの議論を受けて担当委員から出された意見書の再修正案について意見交換が行われ、大筋で了解が得られたため、表現などについて一部手直しの上、次回の委員会で最終確認し、1月に当該放送局へ通知して公表の記者会見を行うことになった。
3. 参議院比例代表選挙に立候補を予定していた特定の政治家に取材し、公示前日に放送した北海道放送のローカルワイド番組『今日ドキッ!』について審議
北海道放送が参議院選挙公示前日の7月3日、夕方のローカルワイド番組『今日ドキッ!』で、比例代表に立候補を予定していた特定の政治家に密着取材した様子を放送した。9月の委員会において、その他の比例代表の候補者や政党にはまったく言及しておらず、参議院比例代表選挙には制度上北海道という区切りを入れる余地がないので、北海道関係者だけを取り上げて放送することは、道内の有権者を当該候補者に誘導する効果を否定できないことからすれば、本番組の内容は他の候補者との間で公平・公正性を害し、放送倫理違反となる可能性があり、放送に至った経緯等について検証する必要があるとして審議入りした。
今回の委員会では、担当委員から意見書の原案が提出され意見交換が行われた。次回委員会には、今回の議論を受けた意見書の修正案が示される予定である。
4. "レンタル家族"サービスの利用客として登場した人物がサービスを提供する会社のスタッフだったNHK国際放送『Inside Lens』について審議
2018年11月に放送されたNHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』で、家族や恋人などのレンタルサービスを描いた企画「HAPPIER THAN REAL」について、NHKは5月29日、利用客として出演した男性ら3人がサービスを提供する会社のスタッフだったと発表した。番組の制作担当者は利用客の属性や依頼の経緯などを再三にわたり確認しようとしたが、見抜くことができず、結果的に事実と異なる内容を放送することになったという。
委員会は9月、利用客が会社関係者でないことの確認が適切に行われなかったことなどについて、制作担当者から直接話を聞くなど、放送に至るまでの経緯を検証する必要があるとして審議入りを決めた。
この日の委員会では、担当委員から意見書の原案が示され、それを基に議論した。次回委員会には、意見書の修正案が示される予定である。
5. 少年野球のピッチャーの投球などスポーツの映像を早回し加工したTBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について審議
TBSテレビのドキュメントバラエティー番組『消えた天才』について、当該放送局から委員会に対し、8月11日の放送で、リトルリーグ全国大会で全打者三振の完全試合を達成した投手の試合映像を早回しして球速が速く見えるよう加工を行い、別の放送回でも、卓球とフィギュアスケート、サッカーの3件の映像について早回し加工を行っていたことが社内調査で判明したと報告があった。9月の委員会で、スポーツ番組の根幹である実際の試合映像を加工したことは放送倫理上問題がある可能性があり、番組制作の経緯やどのようにチェックが行われたのかなどを検証する必要があるとして審議入りが決まった。
今回の委員会では、番組関係者へのヒアリングが11月半ばに完了したことが報告され、担当委員が意見書の原案を示し、これを基に意見交換を行い、次回の委員会に向け修正案を準備することになった。
6. 生き物捕獲バラエティー番組で動物を事前に用意していたTBSテレビの『クレイジージャーニー』について審議
TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
前回の委員会では、当該放送局から提出された報告書や同録DVD、新たに提出されたメキシコの現地協力者などへの調査結果をまとめた追加報告書などを基に討議を行った。その結果、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。
12月初め、番組制作関係者らに対するヒアリングが行われ、その概要が担当委員から報告された。
7. スーパーで偶然出会ったように放送した買い物客4人が取材ディレクターの知人だったテレビ朝日の『スーパーJチャンネル』について審議
テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が、取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。前回の委員会では、当該放送局から提出された同録DVDや報告書を基に意見交換が行われ、その結果、放送倫理違反の疑いがあり放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。
12月初め、番組制作関係者に対するヒアリングが行われ、その概要が担当委員から報告された。
8. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議入り
琉球朝日放送は9月21日に『島に"セブン-イレブン"がやってきた~沖縄進出の軌跡と挑戦~』という55分のローカル単発番組を放送した。この番組を見た視聴者から「放送なのか広告なのか曖昧だ」という趣旨の意見がBPOに寄せられたため、委員会はDVDと報告書の提出を求めて視聴した。番組は、あるコンビニエンスストアが沖縄に初めて出店する様子を描いたもので、開店の準備の様子や地元の反応に加え、独自の食品について紹介したあとで、スタジオで司会者が試食し、味を称賛している。番組は、このコンビニエンスストアを経営する企業の提供だった。
また北日本放送は10月13日、『人生100年時代を楽しもう! 自分に合った資産形成を考える』という15分のローカル単発番組を放送した。視聴者からの同じ趣旨の意見を受けて委員会が確認したところ、高齢化時代の資産形成に触れながら、番組の多くの時間を使って富山市に本社がある投資信託相談を手がける会社の事業を紹介していた。番組の直前にはこの会社が開くセミナーのCMも放送された。
委員会はいずれの番組についても討議を行い、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92条、第93条)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないか、また、前者は番組内で試食して味を褒め、また後者も番組の直前にセミナーのCMが放送されて、視聴者にとっては広告か番組か識別できないのではないかなど、放送に至った経緯について検証が必要だという意見が相次いだ。また、別の放送局の番組に対して委員会が10月に出した意見書の審議の過程や結果が、それぞれの番組の制作過程にどのように反映されたのか詳しく聞く必要があるとして、テーマが共通しているこの2番組を1件とし、審議入りすることを決めた。今後は、琉球朝日放送と北日本放送の社員らに対するヒアリングなどを行って、審議を進める。
9. トランスジェンダーの方への配慮を欠いた放送だという新聞記事が載ったテレビ山口のローカル情報番組『週刊ちぐまや家族』を討議
テレビ山口が11月9日に放送した『週刊ちぐまや家族』について、トランスジェンダーの方への配慮を欠いた放送だという記事が新聞に載った。このため委員会は、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。
番組は、毎週土曜日の午前中に放送される58分のローカル情報番組。山口県内の各地域のさまざまな話題を紹介するコーナーで、1分30秒の間、駐車場で車の下に入ってオイル交換をしている人を紹介した。この際、リポーターが、視聴者にオイル交換をしている人が女性であることを示唆しながら、CMを挟んだあと、別のインタビューを受けた本人をよく知る男性の発言を受けて、画面には「珍 女性のような男性」と表示した。
放送後、本人が不本意なテロップ等とSNSでテレビ山口に抗議した。テレビ山口は、新聞報道の後、自社のホームページに「不適切な放送をしてしまいました」とお詫びを載せ、本人に会って謝罪した。またLGBT問題に詳しい弁護士などに委員になってもらい、社内に再発防止策を取りまとめる番組検証委員会を設けたという。
12月の放送倫理検証委員会では、第31号事案を踏まえると、取材の執拗さ等において相違があることは否めず、その点について一定程度考慮する必要があるとしても、本人に対する配慮を著しく欠いた取材、放送内容である、本人が受けたダメージは計り知れないほど大きいといった厳しい意見が相次いだ。他方で、当該放送局の報告書に記載された本人の心情などへの配慮が必要である、新聞報道後であるという誹りは免れないものの、当該放送局が一定の自主的・自律的な取り組みを行っていることは考慮する必要があるなど、さまざまな意見が出された。
以上の点を慎重に議論、検討した結果、委員会としては、放送倫理に照らして問題がある放送であるが、本人の心情などへの配慮も含め、総合的に判断して、当該局に対して注意喚起を促す厳しい意見が出たことを議事録に掲載したうえで、今回で討議を終えることとし、審議入りしないことを決めた。
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委員会決定第31号事案を踏まえると、取材の執拗さにおいて相違があることは否めず、その点について一定程度考慮する必要があるとしても、本人のプライバシーに対する配慮を著しく欠いた取材、放送内容であり、放送倫理に照らして問題があると言わざるを得ない。
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本人が受けたダメージは計り知れないほど大きく、その点では審議入りも考えられる。
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本件において、担当ディレクターが、審議中である第31号事案のことを意識していなかったということは極めて遺憾である。
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放送倫理上問題がある放送であるとしても、報告書に記載されているご本人の心情への配慮が必要である。
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新聞報道後であるという誹りは免れないものの、自主的・自律的な取り組みを行っていることについては一定の評価をしてもよいのではないか。
以上