2015年11月17日

「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の通知・公表

[通知]
「謝罪会見報道に対する申立て」事案に引き続いて、BPO会議室で申立人側と被申立人側が同席して「委員会決定」の通知を行った。申立人の佐村河内氏は体調が思わしくないとの理由で欠席し、代理人の2人の弁護士に決定を通知した、被申立人のフジテレビからは編成制作局の担当者ら6人が出席し、委員会からは、坂井委員長と起草担当の曽我部委員、林委員が出席した。
坂井委員長は「名誉感情の侵害はない、放送倫理上の問題もないという『見解』になった」と述べ、決定文のポイントを読み上げた。
委員会側との意見交換で、申立人の代理人は「名誉感情の侵害とともに、番組を見ている小さい子どもや青少年への悪影響が放送倫理上問題ではないかと思って申し立てた。この番組は若い視聴者が多いと思うので、影響は少なからずあるのではないかなというのが率直な感想で、ちょっと残念ではある」と述べた。
一方、フジテレビは「主張を認めていただいてありがたい。ただ、決定を読むと、やはりぎりぎりのところで表現の自由と人権の問題は存在しているので、よりよい番組を作るための参考にしていかないといけない」と述べた。

[公表]
千代田放送会館2階ホールで、「謝罪会見報道に対する申立て」事案に引き続いて記者会見を行い「委員会決定」を公表した。
坂井委員長が「結論として名誉感情の侵害なし、放送倫理上の問題なしで、判断のグラデーションでいうと一番下の『問題なし』の『見解』になった」と述べ、決定文を読み上げながら説明した。続いて、2人の担当委員が以下のように説明した。

(曽我部委員)
先ほどの謝罪会見報道事案は、事実を事実として伝えるということだったが、こちらの大喜利事案は演芸の形式だということがポイントであった。これは風刺画なども同様だが、確立した表現手法によって名誉感情が侵害された場合にどういう基準で判断するかが問題になったが、比較的幅を認めるのが表現の自由の趣旨からして適当であると判断した。
それから、個別の回答の中には障害にかかわる回答があるわけだが、これは障害自体を揶揄しているというよりは、申立人の言動にフォーカスを当てて、それを風刺・批判あるいは揶揄する、そういうものだと理解するのが通常の視聴者だと思うので、そういう観点から許容範囲内であると判断した。

(林委員)
こちらはやはりパロディーというジャンルになるかと思う。そうすると、そのパロディーと表現の自由との兼ね合いという問題になるが、今回の場合はやはり佐村河内さんという時の話題の人、しかも、かなりキャラクターが立っている、風貌とか演出の仕方とか、そういうことに対してのパロディーということで、これは許容範囲ではないかと判断をした。さらに大喜利の回答が、子どもたちのいじめを助長するなど、社会的影響に波及するとは受け止められないので、こういった判断に至った。

以上

2015年11月17日

「謝罪会見報道に対する申立て」事案の通知・公表

[通知]
午後1時から、BPO会議室で申立人側と被申立人側が同席して通知を行った。申立人の佐村河内氏は体調が思わしくないとの理由で欠席し、代理人の2人の弁護士に決定を通知した。被申立人のTBSテレビからは情報制作局の担当者ら3人が出席した。委員会からは坂井委員長と起草担当の曽我部委員、林委員に加え、少数意見を書いた委員の1人の奥委員長代行が出席した。
坂井委員長が「結論は申立人の名誉を毀損したと判断する『勧告』である」と述べ、決定文のポイントを読み上げた。
担当委員による補足の説明と少数意見の委員による説明が行われたあと、申立人側、TBSとそれぞれ個別に意見交換を行った。
申立人の代理人は「感謝している。BPOとしての機能を十分果たしていただいて、あえて裁判ではなくて裁判外でこういった形で申立てをした主旨が報われたものかなと思っている」と述べた。
TBSは「正直言って非常に驚いた感じがしている。佐村河内さんの耳が聞こえているのかどうか、説明が十分でなかったとすれば、そうかもしれないが、番組は新垣さんと佐村河内氏が言っていることのどちらが正しいかを検証したもので、診断書など与えられたものを評価しただけと考えている」等と述べた。

[公表]
午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、「委員会決定」を公表した。24社の51人が取材した。通知の際の坂井委員長ら4人の委員に加え、もうひとつの少数意見を書いた中島委員が出席した。
坂井委員長が「本件放送は申立人の名誉を毀損したものと判断した『勧告』となった」と述べ、決定文の判断部分を中心に説明を行った。起草担当の2人の委員は以下のように説明を行った。

(曽我部委員)
放送局の立場からすると、大変厳しい判断だと受け止められるのではないかと推測する。その関係で3つほど手短に補足させていただきたい。
まず、今回の人権侵害の判断は、過去の判断をご覧になればわかるように比較的まれな判断で、異例の厳しい判断と受け止められるのではないかと思う。ただ、勧告の中には、人権侵害と放送倫理上重大な問題ありの2つあるが、これは人権侵害のほうが重いということでは必ずしもない。訴訟になった場合、名誉毀損の程度は結局慰謝料の金額で表せるが、委員会はそういう認定をしないで、人権侵害の結論だけになってしまうので、重く見えるかもしれない。しかし、必ずしも放送倫理上重大な問題というのが人権侵害よりも軽くて、逆に人権侵害のほうが重いということではない。
2つ目は、佐村河内さんのこの間の動きを見ると、やはり疑惑はあるのではないかという点との関係である。実際、本人も一部お認めになり、社会を裏切ったこともあるので、これくらいの放送をしても、多少の行き過ぎがあったかもしれないが、人権侵害という結論は厳し過ぎるのではないのかという受け止めもあるかと思う。これについては2点ほど申し上げたいが、1つはやはりいくら疑惑があっても、その勢いで何を言ってもいいということではない。やはり客観的な証拠とか、裏付けに基づいて言える範囲のことを言っていただくことが必要で、今回も疑惑は疑惑として明確に伝わるように放送すべきではなかったか。それとの関係で2つ目として、聴覚障害はセンシティブな問題であるということである。また非常に専門的な内容であって、一般の視聴者は、仮に放送内容が誤っていた場合に簡単に誘導されてしまうおそれがあるということもあり、やはり疑惑は疑惑としてきちんと伝える、そういった配慮も必要ではなかったかということである。
最後に3点目だが、本件は情報バラエティーということで、報道・ニュースとは違うので、多少アドリブも入っていたり、自由な発言をしてもいいのではないかということとの関係で厳し過ぎるという受け止めもあろうかと思う。ただ、本件はいわゆる情報バラエティーで、特にこの回は事実を事実として伝えるということがテーマだったはずで、バラエティーだからといって、一概に判断基準を緩和するのは申立人の名誉権との関係では適当ではない。これを活字メディアとの対比で言うと、いわゆる全国紙であろうが、週刊誌であろうが、スポーツ新聞であろうが、裁判所は同じ基準で判断をしているわけで、それとの類推からもそういうことは言えるかと思う。
もちろん、委員会の中でも議論があり、3人から少数意見が出されたのは、異例のことで、いろいろな受け止めがあったということだが、最終的にはこういう形でまとまった。

(林委員)
本件はかなり難しい案件だったと私も思う。ただ、そうはいっても、この案件は、やはり放送人権委員会の原点に立ち返るべき案件ではないかと思っている。社会的に佐村河内さんはいろいろ問題がある方だった、そしてすでに社会的評価も下がっている。しかし、そういう人であっても、やはり結論ありきで、間違った、あるいは根も葉もないことを基にいろいろ冗談を言ったり、ましてや体の障害について面白おかしく話をすることは、やはり影響力の強い放送番組としてはやってはいけないだろう。
少数意見があるが、放送倫理上問題があるということでは全員一致している。聴覚障害は、なかなか難しい専門的知識が必要で、私も勉強したが、だからこそ障害について理解を歪めるような社会的影響も懸念される。その点からしても、こうした決定をすべきだと思っている。

続いて、本決定に付記された2つ少数意見の説明が行われた。奥委員長代行は市川委員長代行との連名で少数意見を書いた。

(奥委員長代行)
事実の摘示という入口の部分で多数意見と私どもとは違う。事実の摘示というとすごく難しいが、私の理解では、一般の人がテレビを見て番組でどんな内容が流れたのかというある種の印象とかイメージとか、そういうものだと思う。
多数意見は、こうこうこういう事実が摘示されたが、真実性・相当性の証明がないから名誉毀損にあたるという趣旨だが、我々は決定文が言うような事実の摘示が、明確かつクリアなかたちであったとはいえないだろうと受け取った。
とりわけ日曜日の昼過ぎの情報バラエティー番組であり、もちろん、多数意見で指摘されているように事実を事実として取り上げるわけだから、正確でなければいけないが、視聴の形態とか、見ている側の意識ということからいうと、結局、視聴者が受け取ったのは「全聾だと言っていたのはやっぱり嘘だったのかと。今も聴覚障害があると言っているけど、それは怪しいぞと。手話通訳、本当に必要なのかな」という程度のものではなかったかと思う。手話通訳が必要だということについては、かなり強い疑いがあると番組視聴者の多くは受け取っただろうと思う。ここに我々の考える事実の摘示があったと判断した。しかし、手話通訳の必要性について強い疑いを持つということは、これは今までの流れの中で、ある種の真実性はあったわけで、それは名誉毀損にはならないだろうということで、人権侵害という結論をとらなかった。
しかし、放送倫理上の問題ということでいえば、やはり聴覚障害をめぐる診断書の説明が、いろいろな部分で非常にあいまいで、しっかりした説明をしていなかった。こういう問題を取り上げるときは、ちゃんとしっかりやってくれよということで、放送倫理上問題はあるという結論になった。

(中島委員)
私は本件放送に名誉毀損の成立の前提となる事実の摘示があったとは考えていない。委員会決定のように厳格な医学的説明を要求して、それがなされないまま申立人の聴力について聴こえているのではないかとコメントすると、正常な聴力を有するという事実の摘示があったとされる。それについて真実性の証明を求めるとなると、申立人は聴こえないと主張しているわけだから、実際には証明できないということになり、名誉毀損の成立を認めざるを得ない。
しかし、すでに申立人は謝罪会見時には一定の聴力があることを認めていたので、どこまで聴こえているのか、これも聴こえているのではないかという観点から意見を述べることは許されると思う。この点で、その意見が公正な論評にあたるかどうかが問われたのが本件であると私は考えている。
委員会決定は、公正な論評についても真実性の証明を要求しているが、それは事実の摘示と同様に不可能な証明を要求することになりかねない。これは表現の自由の観点から大いに問題があると思う。論評というのは意見を自由に述べることが大前提だからである。放送人権委員会は裁判所の代行機関ではないから、表現の自由と人権保障のバランスを最高裁と同様な態度でとらなければならないとは私は考えていない。実は私が申し上げたような論評に関する考え方は、東京地裁等日本の一部の裁判所が採用し、あるいはアメリカの裁判所では一般的にとられている立場でもある。
他方、奥・市川両代行の少数意見は、事実の摘示はあったが、真実性と相当性を認めることができると論じている。私は、本件放送は謝罪会見における事実を報道し、例えばペンの受け渡し等々だが、それについて公正な論評を付したものと理解した。つまり、事実の摘示を視聴者がどのようにとらえたかという観点で論じていない。これを行うと、視聴者の視点、その時々の多数者と言い換えてもいいと思うが、そうした受け止め方を基準にして事実の摘示の有無を決定することになり、多数者の視点で表現の自由の保障があるか・ないかを検討することになりかねない。奥・市川両代行の今回の少数意見は名誉毀損を認めていないので、結果的に表現の自由に配慮がなされたことになるが、表現の自由の一般論として「一般人」=多数者を基準とするのは適切ではないと考える。
しかしながら、本件放送には申立人との関係においてではなく、障害がある人々一般に対する配慮が著しく欠けているという点で、放送倫理上重大な問題があると私は考えた。逆に言うと、申立人との関係では放送倫理上の重大な問題は認めていない。以上の点で、私の意見の法律構成上の特徴があると考えている。

このあと質疑応答に移った。主な内容は以下のとおりである。

(質問)
佐村河内さんがどのくらい聴こえるのか、委員会としてどうやって確認したのか。
(坂井委員長)
佐村河内さんの聴力がどのくらいあるのか、我々の力で確認することはできない。委員会は佐村河内さんの聴力がどうなのかを判断する場でもないし、判断する能力もないという前提で、放送内容について判断をしただけである。

(質問)
この時期に他の報道番組でもかなりこの問題を報道していると思うが、それは今回の判断に反映されたのか。
(坂井委員長) 
委員会は申立てを受けた番組について判断をするということなので、他の番組は考慮の対象外である。

(質問) 
「人権侵害」と「放送倫理上重大な問題あり」が2つとも「勧告」の中に入るというケースはありえないのか。
(坂井委員長)
委員会の結論に両方書くことはないのかというご質問だが、それもありえないと思っているわけではない。ただ、過去にそういう例はないし、人権侵害ありとしたときには、決定文に書いたように、人権侵害をしてはならないという放送倫理上の規定もあるので、当然放送倫理上の問題も生じることになろうかと思う。それを、結論にあえて書くのかどうかというと、少なくとも今回に関しては名誉毀損があったという判断で足りると。ただ、それにつながるような放送倫理上の問題は具体的に指摘しておいた。

(質問)
今回の決定自体は人権侵害を認めているが、少数意見の3人の委員は人権侵害はないと認定している。これだけ真っ向から意見が分かれる場合には、1つの意見に集約しないという考え方が、BPOとしてありうるのか、お尋ねしたい。
(坂井委員長)
原則全員一致で決定を出せるのがベターだということにはなっているが、かといって、例えば今回のように少数意見が3名、その少数意見がまた2種類あるということもある。しかし、意見が分かれるからといって、決定を出さないということは考えられない。
委員会の運営規則の16条は、「委員会の議事は委員全員の一致を持って決することを原則とする。全員の一致が得られない場合は、多数による議決とする」と書いてあり、「賛否同数の場合は委員長の判断による」と。「多数決による議決の場合は、『勧告』または『見解』に少数意見を付記することができる」、こういう規定になっている。

(質問) 
人権侵害なしという少数意見は、表現の自由に配慮するという立場からすると、大変傾聴に値する意見だと思う。我々報じる側が、両論きっちりあり、それぞれの意見を踏まえて番組制作者に考えてもらいたいと報道することが問われているのかなと思った。
(坂井委員長)
普通の裁判所の判決と違って、最高裁判決には補足意見、少数意見があるというのと同じ意味で、「あっ、こういうバランスだったのか」ということがわかる。最高裁判決について言えば、ひょっとしたら次は変わるかもしれないということもありうる。それが1ついい面であって、おっしゃるとおり委員会の議論はこういうことだったのかと分かるかもしれない。
ただ、少数意見は個人、その少数の方の意見なので、委員会全体で議論するわけではない。委員会の決定として、最終的にどうだったかといところはぜひ重く受け止めていただきたい。その上で、少数意見もあったということを理解していただくのは意味がある。私も少数意見を書いた経験があるので、ぜひ読んでいただきたいと思うが、その前に委員会としてどういう結論だったのか、少なくともそこはしっかり受け止めていただきたい。

(質問)
率直に拝読してずいぶん厳しい決定だと思った。特に情報バラエティーと銘打って、ゲストを呼んでコメントをさせていく形で進んでいく番組であり、現場が萎縮する可能性をどのくらいお考えになったのか。
(坂井委員長)
表現の自由も重いし、放送される人の人権も重いので、申し立てられた案件について淡々と判断していくしかないのかなというのが私の考え。
今回について言えば、重いと受け止められる可能性がもちろんあるかもしれないが、事案を事案として判断をしていったら、こういう判断が出たということ。委員会がどうしてこういう判断をしたのだろうかということをぜひ考えていただきたい。厳しいことを言わなきゃいけないときもあるし、そうではないときもある。厳しいことを言われると、萎縮ということが頭をよぎるかもしれないが、しかし、そこでなぜ委員会がそういう厳しい判断をしたかということをぜひ考えていただきたい。
(林委員)
これまでも、現場が萎縮するというご指摘を受けたことがあるが、現場が萎縮するから、こういう判断を出さないということはありえない。いろいろ少数意見もあり、放送現場の方がこれらをどういうふうに議論していくか、放送局全体の問題として受け止めていただくということではないか。現場では委縮という受け止めではない方法で考えていただきたいというのが、私たち全員の希望です。
(曽我部委員)
BPOの決定と萎縮という話を、二律背反的に考えてしまうと、なかなか話が進まないところもあるかと思う。今回の決定でも人権侵害という結論を出した以上、放送倫理上の問題は必ずしも述べる必要はなかったが、もう少し具体的にどの点が問題だったのかをきちんと伝えたいというところで、かなり放送倫理上の問題についても書かせていただいた。名誉毀損の部分についてもかなり詳細に書いているのは、そういうところまでお読みいただいた上で、これから考えていくヒントにしていただきたい、そういう思いがあった。

(質問)
決定を受けて、当然制作サイドで考えなくてはいけないことが多いと思う。例えば、会見から2日後に情報バラエティーで取り扱うこと自体がなかなか難しいということなのか、あるいは、こういう工夫をすれば放送できたとか、お考えがあればうかがいたい。
(坂井委員長)
事実の摘示をしっかりやって、その上でいろいろな批判、論評をしていただく分には、それは公正な論評になるだろう。そこを、論評するときの意見に合うように事実摘示をしたところが問題だというのが今回の決定のメッセージのつもりです。事実の摘示の部分は、ちゃんと客観的内容を言った上で、どうも私は信用できないという分には、問題にはならないというのが私のアドバイス、考え方です。放送人権委員会は別に、何か表現を萎縮させてもよいとか、人権だけを考えているというわけではない、委員会は、報道の自由や表現の自由を守るためには自律していなければいけないとしてできた組織、という意識を持ってやっている。ですから、久しぶりであっても、人権侵害という判断をしなければいけないときはするんだと、そういう姿勢でないと、自律的な組織とはいえないという意識は個人的にすごくある。そうすることによって、BPOなり、それを作っているNHKと民放連、民放各局に対する信頼ができてくるという意識でやっているので、その辺までわかっていただければありがたい。

以上

2015年12月11日

「出家詐欺報道に対する申立て」事案の通知・公表

放送人権委員会は2015年12月11日に「出家詐欺報道に対する申立て」事案について「委員会決定」の通知・公表を行い、本件番組について勧告として「放送倫理上重大な問題がある」との判断を示した。
通知・公表の概要は、以下のとおりである。

[通知]
通知は、被申立人には午後1時からBPO会議室で行われ、委員会からは坂井眞委員長と起草を担当した奥武則委員長代行、二関辰郎委員が、被申立人のNHKからは副会長ら4人が出席した。申立人へは、被申立人への通知と同時刻に大阪市内にある代理人弁護士の事務所で行われ、申立人本人と代理人弁護士に対して、BPO専務理事と委員会調査役が出向いて通知した。
被申立人への通知では、まず坂井委員長が委員会決定のポイント部分に沿って、申立人を特定できるものではないとして「人権侵害に当たらない」としたうえで、「全体として実際の申立人と異なる虚構を視聴者に伝えた」などとして放送倫理上重大な問題があり、「放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する」との委員会決定の内容を伝えた。
この決定に対してNHKは「今回の通知につきまして、真摯に受け止めたいと思います。現在私どもは再発防止の取り組みを、全国レベルで行っております。先般の放送倫理検証委員会の意見、そして、本日の放送人権委員会の委員会決定を踏まえ、再び同じようなことが起きないよう再発防止をより一層徹底させてまいりたいと考えております」等と述べた。
一方、申立人は「人権侵害が認められなかったことは残念とは思うが、NHKが事実ではないことを報道したことを委員会が認めたことに感謝したい。NHKはこの決定を真摯に受け止め、訂正の放送をすることを求める」等と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い委員会決定を公表した。24社59人が取材、テレビカメラはNHKと在京民放5局の代表カメラの2台が入った。
参加した委員は坂井委員長、奥委員長代行、二関委員の3人。
会見ではまず、坂井委員長が委員会決定の判断部分を中心にポイントを説明し「人権侵害はないけれども放送倫理上重大な問題があった」との結論に至った当該番組の問題について説明した。
また、総務大臣の厳重注意や自由民主党情報通信戦略調査会の事情聴取に触れた箇所について、「憲法21条が規定する表現の自由の保障の下において、放送法1条が、まず放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって放送による表現の自由を確保することを法の目的の1つとして明記している。放送法3条では、この放送の自律という理念を具体化するという意味で『放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない』として、放送番組編集の自由を規定している。そして放送法4条は、放送事業がよるべき番組編集の基準を定めている。放送法4条が厳重注意等の「根拠」とされているようだが、この条文は、放送番組に対し干渉を規律する権限を一切定めておらず、逆に、放送法1条、3条を前提として、放送の自律の原則のもとで放送事業者が自ら守るべき基準を定めているものである。従って委員会としては、民主主義社会の根幹である報道の自由の観点から、報道内容を委縮させかねない、こうした政府及び自民党の対応に強い危惧の念を持たざるを得ないと考えている」と、述べた。
さらに放送の自律に関して、「放送には何よりも自律性が求められる。自律というためには、過ちを犯した際にも、また十全に自律を発揮しなければならない。NHKは、本件放送について当事者の聞き取りなどを行い、既に『クローズアップ現代』の報道に関する調査報告書を公表し、本件放送に多くの問題があったこと、そして再発防止策などにも触れ、『クローズアップ現代』でも検証番組を報道している。しかし、委員会としては、放送の自律性の観点から、NHKに対して、なお本決定を真摯に受け止めて、その趣旨を放送するとともに、今後こうした放送倫理上の問題が再び生じないように、『クローズアップ現代』をはじめとする報道番組の取材、制作において、放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告した」と述べた。
続いて奥委員長代行は「放送人権委員会の委員会決定はえてして非常に難しいという意見を漏れ聞くが、なるべくわかりやすく書いたつもりだ。すでに放送倫理検証委員会が意見を出しているので今回の委員会決定について重なっている部分があって既視感をもたれるのではないかと思う。同じように放送倫理上重大な問題があると指摘しているわけだが、放送倫理検証委員会は番組全体を放送倫理の観点から検証しているのに対して、放送人権委員会は番組で出家詐欺のブローカーとされた申立人の人権についてとそれに関わる放送倫理上の問題を検討したということだ。そのあたりの違いを分かっていただきたい」と述べた。

この後、質疑応答に移った。主な内容は以下のとおりである。

(質問)
放送法に関して、放送倫理検証委員会では放送法4条は法的規範性を有しないとしたが、政府は法的規範性があるとしており、法律についての論争があるが、その点については放送人権委員会はどう考えているのか。
(坂井委員長)
私も法律家、弁護士なので、それなりの考えは持っているが、法的規範性があるかないかというところの報道については、ある意味、用語の問題の部分があると思う。報道によっては倫理検証委員会の書いたことが倫理規範であるという書き方をしている報道もあった。しかし、それは、法律でないと言っているわけではない。放送法4条に書いてあるということは誰も否定できない。その上で行政指導の根拠となる法的規範性があるのかどうかという議論をしているのだと思う。放送法4条が法律であることは当然であるが、それについて、例えば行政が介入していく法的根拠になるのかというと、それは違うということを、今回、申し上げているつもりだ。
そういう意味では倫理検証委員会と考え方は同じだ。用語の問題として、法的規範なのかどうかとか、倫理規範なのかどうかというところは、そのような意味で若干混乱があると思う。法律に書いてあるということは誰も争いがないことで、その上でどのようなレベルでの規範性があるのかという議論ではないかと思う。

(質問)
そうすると、この4条をもって行政指導の根拠にはならないという認識は同じだというか。
(坂井委員長)
放送法4条には、その基準は書いてあるが、そもそもその前提となる3条に、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」という前提がある。放送法の1条に書いてある3つの原則の1つ、放送の自律の原則というのがあり、それを具体化するものが2条以下に定めているということは最高裁の判決も述べている。平成16年11月25日の最高裁判決、『生活ほっとモーニング』についての判決だ。
放送法3条に法律に定める権限に基づく場合でなければ干渉されないと書いてある。自律だと書いてあって、そのあとに4条があるわけだ。そこに番組の編集にあたっては次の各号に定めるところによらなければならないと書いてあるわけだが、そこには、委員会決定の中に書いたように、放送番組について干渉または規律するための権限はどこにも書かれていない。こういう基準で作らなければいけない、という規範はあるが、それについて、3条がいうところの法律に定める権限というのは、ないわけだ。
さらに言うと、放送法は憲法21条に基づく法律だから、憲法21条を放送法で解釈するようなことがあってはいけない。憲法21条の下に放送法があるということだ。
憲法21条は表現の自由、報道の自由についてどう定めているかというと、それは「人権相互の問題として調整は必要だ」という前提はあるが、「政策的に何か法律で定めれば自由に制限していい」という構成には決してなっていない。
放送人権委員会というのは、まさに名誉、プライバシーと表現の自由がぶつかった時にどうするのかということを扱っているわけで、それは法律で定めれば何かができるということとは違う。だから、放送法3条が法律に定める権限に基づく場合というのも、憲法21条の規定の下で許されるということなのだ。法律で定めればいいということではない。
そのような前提において、放送法4条、3条の関係で言うと、3条を前提に4条があって、4条は「法律に定める権限は何も決めていない」ということを委員会決定に書いたということだ。

(質問)
今の質疑の関連になると思うが、人権委員会で、こういった指摘をしたのは初めてなのか。
(坂井委員長)
こういう書き方は、これまでしていないと思うが、表現の自由についての指摘をしたことはある。
一つは、「大阪府議からの申立て」事案で、表現の自由についての補足意見として前委員長が、「取材・報道の自由、とりわけ取材・放送の自由は、情報の自由な伝達を妨げかねない特定秘密保護法の運用や、時の権力者の言動によって萎縮しかねない法的性質をも併有している」と記している。このケースは府議会議員だったが、国政に関わる者にも、より当てはまるという補足意見だった。
これは、そういう意味では同じ文脈であろうと思う。
また、「民主党代表選挙の論評問題」という事案がある。決定文の一部の抜粋だが、「申立人らが民主党の有力な政治家であり、自らも、メディアを通じて、その批判について反論する機会を有するだけの政治的な力量を持つ以上、むしろこのような自由な論評は甘受すべきであり、本件放送を論難することについては、報道の自由を堅持し、政治的干渉からの自由を擁護することを通じ、民主主義を維持発展させるという観点から疑問なしとしない」、という指摘をしている。
そういう意味で、政治家であるとか権力を持っている人間が表現の自由について尊重すべきであるということは指摘しているが、放送法という形では指摘していなかったかもしれない。ただ、文脈は同じだろうと思う。

(質問)
政府や自民党の対応に対して、「強い危惧の念を持たざるを得ない」と書いてあるが、こういうことに対しても以前から指摘されていたという解釈でよいのか。
(奥代行)
私の意見だが、ここに書かれていることは放送人権委員会の基本的立場で一貫していると思う。ただ、今回は、自民党がこういう形で事情聴取をしたり、総務大臣が厳重注意するなどの具体的な出来事があったからこういう書き方をしているのであって、放送人権委員会のプリンシプルは全然変わっていない。

(質問)
ネット上で閲覧が可能になっていたので審理の対象にするというのは、今までにもあったことなのか。審理に入る要件として、3ヶ月以内に事業者に、1年以内にBPOに言ってくるというのが運営規則だと事務局から先ほど説明があったが、今回はネット上で閲覧可能だったということで審理に入ったということか。
(事務局)
誤解がないようにご説明すると、ネット上に出ていたから審理入りしたのではなく、放送された映像と音声の同じものがNHKのホームページに誰でも閲覧可能な状態であったということで、原則という意味で放送されたと同じとして、運営規則はクリアしているということだ。
過去には、「上田・隣人トラブル殺人事件報道」事案がある。これも放送からは時間が経っていたが、ネット上で閲覧可能だったということで、委員会として要件を満たしていると判断している。ネットの社会になって、放送された同じ番組がネット上で見られたという場合は、要件を満たしていると判断するようになったということで、過去にもあったということだ。
(坂井委員長)
このケースは当該の局が誰でも見られるようにしているので、放送と同じように扱っていいのではないかという考え方だ。例えば誰かが違法にキャプチャーをしてネットに上げているようなケースとは、全く別だ。

(質問)
NHKの調査報告書は結果的にヤラセとはしなかった。放送倫理検証委員会はヤラセかどうかということは議論しないで、NHKのガイドラインが一般の感覚から乖離しているという言い方でNHKの対応を批判したが、今回の勧告では、特にNHKの姿勢についての論評がない。その辺、どういうふうに考えているのか。
(坂井委員長)
質問に対するストレートな答えとしては、まずヤラセの定義を決めないと、この議論はなかなか噛み合わないところがあって、「ヤラセとは何か?」という話をしないと進まないところがある。
委員会決定に関して言うと、別にその問題を避けているわけではなく、ヤラセとは何かと定義をして、それについて当てはまるかどうかということをやっても、我々の仕事としては意味がないと思う。我々の仕事としては、シーン4の部分で放送倫理上の問題として「明確な虚偽の事実を含む」と委員会決定に書いた。
ただ、それがヤラセなのかどうなのか、ということについては、そもそもこの申立人がブローカーだったのかどうなのかというところは、決定文で言うと「藪の中」で、判断し切れない。
ヤラセの定義とも関係あるが、シーン4については明確な虚偽の部分もあるが、例えば、申立人が真実、ブローカーであって普段やっていることを単に再現したのであれば、それはヤラセにあたるのだろうかという議論になるだろう。また、仮に申立人がブローカーであったとしても、普段やっていないことを演じてくれと言われてやってしまったら、それはヤラセになるかもしれない。そのような、いろいろな難しい問題があると思う。
しかし、我々がやるべきことは放送倫理上の問題を検討することなので、「明確な虚偽の部分がある。それは問題ではないか」と書いた。それをヤラセというかかどうかは定義の問題ではないかと思う。あえて、そこを述べる必要はないと、私は個人的には思っている。
(奥代行)
基本的に委員長の考えと一緒だ。ヤラセかヤラセじゃないかということを議論するのは、委員会の主要な対象にはなり得ないだろうと考えている。一般視聴者としての感覚で言えば、あれはヤラセだっただろうというふうに簡単に思う。
ただし、委員会決定にも書いたが、NHKの記者が「出家詐欺ブローカーの役をやってくれ」というふうに頼んでやったかどうかということは確認できないし、どうもそうではない可能性のほうが強いと私は思っている。
そうすると、やらせたわけではないということになる。申立人が、いろいろな事情、状況を斟酌して積極的に出家詐欺ブローカーの役を演じたということになると、それは果たしてヤラセなのかヤラセではないのかという、そういう議論になる。
だから、ヤラセという言葉は非常に分かりやすいのだが、実はこういう決定には馴染まない問題だろうと思っている。
(二関委員)
特に付け加えることがあまりないが、「ヤラセ」という言葉にメディアの人がこだわり過ぎているなという印象を持っている。

(質問)
放送倫理検証委員会もヤラセの定義というのは、意見書にそぐわないということではあったが、NHKの放送ガイドラインには「真実のねつ造につながるいわゆるヤラセ」とヤラセの定義を書いている。今回の勧告の中には「明確な虚偽を含むナレーション」と書いてはあるが、いわゆるねつ造という言葉はない。ねつ造というものに当たらないのか。
(坂井委員長)
これも、ねつ造という言葉の意味がはっきりしない。単刀直入に言うと、「明確な虚偽を含んでいる」と言うほうがまぎれのない表現だと思う。それをねつ造というのかどうかだが、ここから先は解釈の問題になるが、シーン4の部分は、仮に申立人がブローカーだったとしても、その事務所ではなかったわけだし、多重債務者が当日偶然来たわけでもなかった。
セッティングして待っていたという意味では虚偽なわけだが、もしブローカーが本当にいて、自分の事務所では撮影されては困るとからと言って他の場所を借りて、普段やっているのと同じことをやったとしたら、それはねつ造なのだろうか?虚偽なのだろうか?という、微妙な領域があると思う。
それがいいと言っているわけではないが、そこにはいろいろなグラデーションがあるので、それをねつ造に当たるかどうかということを議論してもあまり意味がないと思う。我々がはっきり言えることは、「あの部分については明確な虚偽が含まれている。それは、放送倫理上はだめではないか。事実を事実として報道する以上そういうことがあってはいけない」という意味で、もちろん「だめだ」と言っているわけだ。
そういう切り分けのほうがむしろすっきり理解できるのではないかと私は考えている。
(奥代行)
申立人がブローカーを演じることにどこまで納得していたかは全然わからない。かなり納得していたとすると、その事務所が彼のものではなかったとしても、ねつ造とまで言えるかとなると少し躊躇する。そういうグラデーションの感じで、「明確な虚偽」、あるいは「虚構」という表現を採用したということだ。

(質問)
委員会決定を読んだ印象は、記者個人が暴走したというのはわかるが、NHKの組織としての責任は、あまり明確ではないようだ。いかがか。
(坂井委員長)
記者が悪くて局に責任ないという話ではもちろんない。結論の部分には局に対する要望をしっかり書いて、NHKに対して、「今後こうした放送倫理上の問題がふたたび生じないよう、報道番組の取材・制作において『放送倫理基本綱領』の順守をさらに徹底することを勧告する」としている。
こうなったことについて、もちろん記者が裏付けをしないまま報道した、ということはもちろん大きいが、1人で番組を作るわけではないから、その制作チームなり、最終的な判断をする立場の人の責任も当然出てくるという意識で書いている。
だから、「個人の責任に重点を置いていないか」という指摘については、どちらかというと意外な感じで、「そういうつもりでは書いていない」と答える。

(質問)
倫理検証委員会は、組織のなりたちが行き過ぎた番組につながったのではないかということを指摘しているが、人権委員会の勧告は割と記者に特化しているような印象を受けるが、いかがか。
(坂井委員長)
そこは委員会のなりたちの違いがある。我々は放送された人、取材された人から申し立てられた内容について、その人権侵害があるのか、その人の人権侵害につながるような放送倫理上の問題があるのかという観点で、番組を見る。
番組の作り方がどうだったかということは、倫理検証委員会がまさにやっていることだが、我々は作り方がどうだったかとか、責任の所在がどこにあるのかということを追求することが主な仕事ではない。放送人権委員会は、この放送で人権侵害があったかどうか、人権侵害につながるような放送倫理上の問題があったかどうかというところにフォーカスして仕事をしている委員会だ。だから、そういう違いが出てくるのだと理解をしていただきたい。
(二関委員)
今、委員長が言ったことと同じことを若干言い方を変えて述べると、申立人が番組の中でどのように描かれていたかという点に我々は着目した結果、そういった描かれ方に一番近い、画面にナレーション等の出てきている記者にどうしてもフォーカスがあたってしまうというところはあると思う。

(質問)
裏付け取材もそうだが、チェック体制がちゃんとしていれば、こういう表現は回避できたのではないかと思うが、その辺あまり指摘がないように思う。いかがか。
(坂井委員長)
裏付け取材がないというのが一番大きく、裏付け取材がないままなぜ通ってしまったのかということはある。決定文に「これは、報道番組の取材として、相当に危ういことではないか」という表現があるが、裏付け取材は事実報道をする場合の根っこの部分だ。それは、やはりしなければいけない。
それがされないまま通ってしまったことは問題だと思うが、我々はなぜ通ってしまったかということを検証する立場ではなく、この番組に人権侵害があったのかを判断する立場なので、どうしてもそれ以上突っ込めないということになる。
(奥代行)
つまりこれは人権委員会でやっているわけであって、この番組トータルにどういう問題点があったのかということを検証したわけではない。だから、読んだ時の感じの違いは当然出てくると思う。
決定文でも、本件映像という言い方をずっと一貫して使っているが、申立てに関わる映像の問題として取り上げているわけだ。本件番組をトータルに取り上げてはいないのだ。
例えば、ヤラセということで言えば、最後の場面で、多重債務者とされている人を追いかけてインタビューする場面がある。あれなどは大きな問題だと思うが、そのことに全然触れていない。なぜ触れていないかというと、申立人の問題ではないからだ。

(質問)
結局、視聴者もこの問題を取材している我々もわからないのは、申立人がブローカーだったのかどうかというところだ。決定文はNHKの報告書とあわせて公表された外部委員の見解の中で、端的に言うと「ブローカーではない」という部分を引用している。放送人権委員会としてもこの判断は同じなのか。
(坂井委員長)
ブローカーかどうか、判断できればもちろんする。
ブローカーとして報道しているのはNHKではないか。だとしたら裏付けの話に戻るが、「ブローカーとして報道して、マスキングもした」「ブローカーとして報道したのは、事実こういう裏付けがあるからだ」という答えがふつう事実報道に関しては放送する側から出てくるはずだ。でも、それはなかった。
我々はそれ以上判断のしようがない。ブローカーであったという裏付けについて、NHKは主張はしているが説得的でないと判断をした。
NHKの調査報告書も「そう言っている」と引用して、それ以上ブローカーだったのかどうかということは、私たちの委員会で判断のしようがない。我々はできるだけ早く結論を出さなければいけないので、むやみに調査するわけにはいかない。ある程度主張と資料を出してもらったうえで、双方1回ずつヒアリングして、補充の主張等を出してもらうこともあるが、それ以上のことはしない。
倫理検証委員会のほうはもっとたくさんの人間にヒアリングをしたと思うが、それだけのことをやっている委員会と我々とは目的が違う。我々の委員会に出た材料の中でどう判断できるかというと、「それは判断しようがない」というしかないし、それでいいのだと考える。その上でどう判断するかだ。
例えば訴訟でも立証できないということはしょっちゅうある。この場合、立証責任という言葉を使うが、立証できなかった時にどちらがそれで不利益を負うのかという発想になる。何でもどちらかを判断できるということではないので、この委員会のシステムの中では、「そこは判断できない」ということしか申し上げようがない。

(質問)
今回の委員会決定の評価だが、判断のグラデーションに沿うと先日の「謝罪会見報道に対する申立て」の委員会決定と単純に比較すると、同じ「勧告」でも今回の方がややトーンが下がるのかなと思ったが、その辺はどのような認識でいればいいのか。
(坂井委員長)
「謝罪会見報道に対する申立て」のケースは人権侵害ありという結論、こちらは放送倫理上重大な問題があるという結論で、カテゴリーとしては同じ「勧告」の中に入る、という以上のことは申し上げられない。これ以上のグラデーションはないので、決定文の中に書いていることを読んで判断してもらう他ない。

(質問)
放送法4条について、倫理検証委員会が意見書を出したあとに、菅官房長官が「BPOは放送法を誤解している」と反論したことがあったし、その後に岸井さんを名指しにした意見広告が出された。そういうことを念頭に置いて、この委員会決定が改めて出されたということか。
(坂井委員長)
この事案については、申立てのあった番組について直接の動きがあったので、委員会として触れたということで、それ以外の意見広告については、我々の触れる話ではない。委員会決定はあくまでこの番組の申立てについてのものと理解してほしい。

(質問)
シーン4の場面については明確な虚偽を含むもので、虚構を伝えるものだったと書かれている。これは、記者の側にそういう意思がなければそういうことにはならなかったと思うが、なぜこういうことをしてしまったのか、動機にあたる部分、背景に何があるのかについてはどう考えているのか。
(坂井委員長)
その背景までは語るべき力はないと思うが、ただ、事実報道をする立場の人は放送かプレスかに関わらず、裏付け取材はイロハのイだ。基本的に裏付けを取らないで報道してはだめな話だと思うから、そこのところを「なぜ」と言われてしまうと、「なぜそんなことを起こしてしまうのだろう」としか言いようがない。だから、そこのところは「十分考えてください」という勧告になっている。
もう1つ、そのシーン4のところについては、さきほどからヤラセなのかねつ造なのか言葉の問題はあるが、例えば私が何らかの取材を受けた際に「すみません、そこのところもう一回言ってください」と求められることはあると思う。それをヤラセというのかというと、おそらくそこまでは言わないし、明確な虚偽を含むとも言わない。
それはなぜかと言うと、言っている内容は言う本人が本気でそう思っていることだからだ。そういう話から始まって、どこまで事実の報道に演出があっていいのかという議論はあると思うが、「このくらいだったらいいだろう」みたいな話で行ってしまったのかなと想像する。
だから、今回の明確な虚偽を含むというのは放送倫理上重大な問題があって、人権侵害はないけれども、やはりとても大きな問題で、もっときついことを言えば「そういう作り方してはいけない」という話、「論外だ」と思っている。
「なぜでしょう」と言われてしまうと、「私が聞きたい」という気がする。
(奥代行)
「なぜですか」と言われて、個人的な感想だが例えば1つだけ言えば、多重債務者として登場したBさんは取材協力者としてNHKの記者とはかなり長い付き合いで、記者はいろいろな形で情報をもらったりしていた。その人に対する過重な信頼があっただろうということとか、記者というのはいつもいい映像を撮って、いいタイミングで流したいというのがあるので、そういう功名心とか特ダネ意識とかがあったのではないか。そうしたことはいろいろ指摘できるが、それはこの委員会決定とはちょっと別の次元の話だ。

以上

第228回放送と人権等権利に関する委員会

第228回 – 2015年12月

出家詐欺報道事案の通知・公表の報告、ストーカー事件再現ドラマ事案の審理、
ストーカー事件映像事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、
自転車事故企画事案の審理、専決処分事案の審理対象外決定…など

出家詐欺報道事案の通知・公表について、事務局が概要を報告した。ストーカー事件再現ドラマ事案とストーカー事件映像事案の「委員会決定」案を検討し、STAP細胞報道事案、自転車事故企画事案を審理した。「専決処分報道に対する申立て」を審理要請案件として検討し、審理対象外と判断した。

議事の詳細

日時
2015年12月15日(火)午後4時~9時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の通知・公表の報告

「出家詐欺報道に対する申立て」事案に関する「委員会決定」の通知・公表が12月11日に行われ、事務局がその概要を報告した。そのうえで、当該局であるNHKが決定の内容を伝える番組の同録DVDを視聴した。

2.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された音声データや加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、第3回起草委員会を経て提出された「委員会決定」案が審理された。前回委員会からの変更点などについて起草担当委員が説明し、各委員から意見が述べられた。この結果、1月に第4回起草委員会を開催し、さらに決定案の検討が行われることとなった。

3.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、前の事案と同じフジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会では、第1回起草委員会を経て委員会に提出された「委員会決定」案が検討された。各委員から出されたさまざまな意見を踏まえ、1月に第2回起草委員会を開催して、さらに検討を続けることとなった。

4.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では起草担当委員が提出した「論点メモ」に沿って各委員が意見を述べた。次回委員会ではさらに議論を続け、論点の絞り込みと「委員会決定」の方向性に向けて審理を進める予定。

5.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前説明が十分でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
前回の委員会後、申立人の反論書に対するフジテレビの再答弁書が提出され、今月の委員会では事務局が双方の主張をまとめた資料を提出し説明した。次回委員会では論点の整理に向けて審理をすることになった。

6.審理要請案件:「専決処分報道に対する申立て」

茨城県潮来市の市長が繰り返し行った専決処分と随意契約をめぐる報道に対し、前市長から提出された申立書について、審理要請案件として審理入りの可否を検討した結果、審理対象外と判断した。
本件申立ての対象とされたのは、A局が本年3月に報道番組で放送した特集。
申立人は、この報道は、申立人が茨城県潮来市長だった当時、あたかも鹿児島県阿久根市の元市長のように違法に専決処分を繰り返し、かつ特定のコンサルタント会社と随意契約することで施工業者に損害を与えたかのような「事実と異なる内容が放送され、私の名誉は著しく傷つけられ、多くの市民の信頼を失いました」として、A局による謝罪と訂正を求めて申し立てた。
しかしながら、委員会において放送倫理・番組向上機構[BPO]規約第3条(目的)及び放送と人権等権利に関する委員会運営規則第5条の苦情の取り扱い基準に照らして検討した結果、BPOの目的や当委員会の任務に鑑み、市長による専決処分、随意契約という公職者による職務執行そのものを対象とした放送部分についての苦情は、当委員会の審理対象として取り扱うべき苦情に含まれないということで委員全員の意見が一致した。
したがって、本件申立てについては、当委員会の審理対象外と判断した。

7.その他

  • 佐村河内守氏が申し立てた「謝罪会見報道」と「大喜利・バラエティー番組」2事案の「委員会決定」の通知・公表が11月17日に行われたが、事務局がその概要と放送対応、新聞報道をまとめた資料を提出した。また、当該局であるTBSテレビとフジテレビから提出された決定を伝える放送の同録DVDを視聴した。
  • 委員会が11月24日に金沢で開催した系列別意見交換会について、事務局から概要を報告した。同意見交換会には、TBS系列の北信越4局から報道・制作担当を中心に20人が、委員会からは坂井眞委員長、林香里委員、二関辰郎委員が出席、約2時間にわたって最近の委員会決定や地元局が直面した事例などについて活発な意見交換が行われた。
  • 12月に委員会が実施した講師派遣について、事務局が報告した。長崎放送には坂井眞委員長、NHK大分放送局には委員会調査役を派遣、局職員らと委員会活動や放送と人権、放送倫理等について意見交換した。
  • 次回委員会は2016年1月19日に開かれる。

以上

第99回 放送倫理検証委員会

第99回–2015年12月

委員会運営規則の一部見直しについて検討…など

第99回放送倫理検証委員会は12月11日に開催された。
委員会運営規則の一部見直しについて、これまでの議論を踏まえて作成された改正案が提出され、意見交換の結果、了承された。今後、加盟各局から意見募集を行い、それを参考に来年(2016年)2月の委員会で正式に議決し、理事会の承認を経て、4月からの施行をめざすことになった。

議事の詳細

日時
2015年12月11日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.委員会運営規則の一部見直し、改正案を了承

委員会の運営規則を現状に即した形に一部見直す問題について、これまでの議論を踏まえて作成された改正案などが、事務局から提出された。
改正案の内容は、審議や審理に入る前にその適否を議論している「討議」と、審議の際にも原則的に行っているヒアリングを、運営規則に明文化するというもので、委員会運営の現状に適合させるための必要最小限の改正にとどめている。
また、この改正との整合性を図るために、BPOと加盟各局が交わしている「放送倫理検証委員会に関する合意書」についても最小限の改訂を行うことが、事務局からあわせて説明された。
意見交換の結果、運営規則の改正案は了承された。委員会運営への理解と認識を深めてもらうため、約1か月間、加盟各局に対してこの改正案についての意見募集を行い、寄せられた意見を参考に、来年2月の委員会で改正案を議決することとなった。その後理事会の承認を受けて、4月からの施行をめざすことにしている。

以上

中高生の生活とテレビ

"中高生の生活とテレビ"に関する調査

本調査では、めまぐるしく移り変わる今の時代の中高生の生活の様子を明らかにするとともに、新たなメディア環境のもとでテレビが果たしている役割や影響などを問い直すための質問紙調査を行った。調査は、関東(A校)、関西(B校)、中四国(C校)の中高一貫の私立3校の協力を得て、2014年9月から10月にかけて実施された。

調査内容

「"中高生の生活とテレビ"に関する調査」(2015年3月公表)

◆項目別PDF◆

調査研究報告会

「"中高生の生活とテレビ"に関する調査」

年次報告会に先立って3年間にわたりおこなった調査研究結果を、中心となってまとめた萩原委員が説明した後、調査チームメンバーの汐見委員長と加藤副委員長がコメントを述べ、引き続き参加者からの質疑応答をおこなった。

 pdf当日使用されたパワーポイントデータ(PDF)

日 時: 2015(平成27)年3月16日(月)午後0時30分~2時
場 所: 千代田放送会館 2階ホール

■報告者:
萩原 滋(はぎわら しげる)
【青少年委員会委員 立教女学院短期大学 特任教授】
1948年生まれ。慶応義塾大学大学院社会学研究科博士課程修了(文学博士)。
千葉大学文学部助教授、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所教授を経て現職。著書に『変容するメディアとニュース報道』『テレビと外国イメージ』『テレビニュースの世界像』など。

■調査チームメンバー:
汐見 稔幸(青少年委員会委員長・白梅学園大学学長)
加藤 理 (青少年委員会副委員長・文教大学教授)

2015年度 第57号

「出家詐欺報道に対する申立て」に関する委員会決定

2015年12月11日 放送局:NHK

勧告:放送倫理上重大な問題あり
NHKは2014年5月14日(水)に放送した報道番組『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』で、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」と紹介されたA氏(申立人)が、「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない」「申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」などとして、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
これに対しNHKは、「映像・音声の加工による匿名化が万全に行われており、申立人であることは本人をよく知る人も含めて視聴者には分からない」などと反論、人権侵害も名誉棄損も成立する余地はないと主張した。
委員会は2015年12月11日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には放送倫理上重大な問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

NHKは、2014年5月14日(水)に放送した報道番組『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』で、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた(以下、「本件放送」という)。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」と紹介されたA氏(申立人)が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
これに対し、NHKは、映像・音声の加工による匿名化が万全に行われており、申立人であることは本人をよく知る人も含めて視聴者には分からないと反論した。
委員会は申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下のとおりである。
本件放送には申立人が4か所登場する(以下、「本件映像」という)。本件映像では申立人の顔はまったく見えない。申立人はNHKの記者が持参したセーターに着替え、腕時計や指輪もはずして、撮影に臨んだ。申立人は体型としぐさの特徴などによって本人を特定できると主張するが、本件映像を詳細に検討しても、申立人と特定できるものではない。申立人と特定できない以上、本件映像は人権侵害には当たらない。
しかし、番組が放送された場合、視聴者が申立人と特定できなくても、申立人自身は自らが放送されていることを当然認識できる。それが実際の申立人とは異なる虚構だったとすれば、そこには放送倫理上求められる「事実の正確性」に係る問題が生まれる。
NHKの記者は、かねてからの取材協力者であり、本件映像に多重債務者として登場するB氏の話から申立人が「出家詐欺のブローカー」であると信じていたと思われる。しかし、「出家詐欺」をテーマとする番組に、それを斡旋する「ブローカー」として申立人を登場させる以上、最低限、本人への裏付け取材を行うべきだったし、たとえ、本人への直接取材ができなくとも裏付け取材の方法はいくつも考えられる。本件映像はそうした必要な裏付け取材を欠いていた。
また、本件映像には申立人の「ブローカー活動」の実際に関して、記者によるナレーションなどが伴っている。それらは「たどりついたのはオフィスビルの一室。看板の出ていない部屋が活動拠点でした」など、明確な虚偽を含むもので、全体として実際の申立人と異なる虚構を伝えるものだった。
NHKは必要な裏付け取材を欠いたまま、本件映像で申立人を「出家詐欺のブローカー」として断定的に放送した。また、明確な虚偽を含むナレーションを通じて、全体として実際の申立人と異なる虚構を視聴者に伝えた。匿名化のうえで「出家詐欺のブローカー」として映像化されることに申立人の一定の了解があったとはいえ、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」(「放送倫理基本綱領」日本民間放送連盟・日本放送協会制定)との規定に照らして、本件映像には放送倫理上重大な問題がある。委員会は、NHKに対して、本決定を真摯に受けとめ、その趣旨を放送するとともに、今後こうした放送倫理上の問題がふたたび生じないよう、『クローズアップ現代』をはじめとする報道番組の取材・制作において放送倫理の順守をさらに徹底することを勧告する。

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2015年12月11日 第57号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第57号

申立人
大阪府在住A
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『クローズアップ現代 追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~』
放送日時
2014年5月14日(水)午後7時30分~7時56分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.人権侵害に関する判断
  • 3.放送倫理上の検討

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年12月11日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には12月11日午後1時からBPO会議室で行われ、申立人へは、放送局への通知と同時刻に大阪市内の申立人の代理人弁護士事務所で行われた。
その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。報道関係者は24社59人が出席した。
詳細はこちら。

2016年3月15日 委員会決定に対するNHKの対応と取り組み

2015年12月11日に通知・公表された「委員会決定第57号」に対し、NHKから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年3月10日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。

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2015年11月19日

広島の放送局と意見交換会

放送倫理検証委員会と広島の放送局6局との意見交換会が、2015年11月19日に広島市内のホテルで行われた。放送局側から40人が参加し、委員会側からは川端和治委員長、是枝裕和委員長代行、中野剛委員、藤田真文委員の4人が出席した。放送倫理検証委員会では、毎年各地で意見交換会を開催しているが、広島県内の放送局を対象としたのは初めてである。

今年は戦後70年、被爆70年でもある。そこでそれにふさわしい企画として、被爆70年の8月6日に広島の各局が放送した特別番組についての意見交換を第2部で行うこととした。第1部では、例年通り最近の委員会決定第22号(佐村河内守氏事案。広島は佐村河内氏の出身地でもある)と、第23号(クローズアップ現代事案)をベースに意見交換を行った。また第2部では、各局の特別番組を出席委員が事前に視聴したうえで、制作者を応援する視点から、議論を深めた。
冒頭、BPOの濱田純一理事長が、「広島の皆さんの番組を拝見した。共通していたのは、被爆の事実を伝え、それを伝え続けることの重要性であり、番組スタッフの方々はそのことの大変さを実感されていると思う。また、手法的にもご苦労されていると思う。事実を伝え続けるという大切な役割を担う"自由"を、私たちはしっかりと支えていこうと思う」と挨拶した。
2つの委員会決定をテーマにした第1部では、まず、11月6日に通知公表を行ったばかりの「NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見」について、担当した藤田委員と中野委員が報告した。
藤田委員は「今回の事案で印象に残ったのは、ふたりの関係者、"ブローカー"のAさんと"多重債務者"のBさんに対するヒアリングだった」と口火を切り、中野委員が「Aさん、Bさん、記者の3人の関係を、丁寧に説明することを心掛けた」と続けた。中野委員はさらに「問題の相談場面の状況を詳しく記すことが大事だと考えた。3人が揃って撮影現場に着いた時、他のスタッフがおかしいと感じながらそのまま撮影を進めたことに、委員として大きな違和感を覚えた」と指摘した。また、藤田委員は「意見書の20頁に書いた『問題の背後にある要因』をぜひすべての放送局で共有して欲しい、というのが委員会の願いだ」と述べた。
参加者からは、総務省の行政指導や自民党の事情聴取を厳しく批判した意見書の「おわりに」について、「放送の自由と自律に対してこれだけはっきりと書いてもらい、ぐっと来るものがあった。放送事業者側も身を律して行動しなければならない」「制作者の世代交代が進む中で、BPOの存在価値そのものが、今回の意見書で若い制作者に再認識させられたのではないか」などの意見や感想が述べられた。
これに対して、藤田委員は「『おわりに』がこんなに注目されるとは考えていなかったが、委員会は、具体的な番組事例に即して必要な意見を述べるところだということをあらためて確認したい」と述べた。また、川端委員長は「委員会が議論している番組に対する動きだったので、言うべきことはきちんと言わなければならないと判断した。そうでないと、委員会もそれらを是認していると誤解されかねない」と説明した。
続いて、広島出身で、自らも被爆2世だと語っている佐村河内氏の番組を審理した委員会決定第22号「"全聾の天才作曲家"5局7番組に関する見解」について、意見交換が行われた。
川端委員長は、「この事案はおよそ1年間検討を続け、私自身も佐村河内氏と新垣隆氏にヒアリングしたので印象深い。この見解(委員会決定)では、放送倫理違反とまでは言えないというのが結論だった。しかし、委員会が最も言いたかったことは、番組で間違うことはこれからもあるだろうが、間違いが明らかになった時に、なぜ間違ったのか、何が足りなかったのか、どうすれば防げたのか、をもっと真剣に再検証して欲しい。それを徹底的に詰めて欲しい、ということだ」と指摘した。
参加者からは、「どうしたら防げるかを考えたのだが、私なら、障害者手帳を見せて欲しいとは言えなかったのではないか。たとえば広島での取材で、被爆者の方に被爆者手帳を見せて欲しいとは聞けない。他人事のようには思えない事案だった」「最近のテレビ取材は情報を取ってくることよりも、それを加工することに重きが置かれているのではないか。情報の正確性を裏付けるためにどうすればいいのか、深く考えさせられた」などの意見が出された。
第2部は、今年の8月6日に各局が放送した原爆関連の特別番組を各委員が事前に視聴したうえで、「戦後70年 BPOは放送局を応援したい」をテーマに意見交換を行った。まず、5本の番組(NHK『きのこ雲の下で何が起きていたのか』、中国放送『あの日を遺す~高校生が作るヒロシマCG』、広島テレビ『池上彰リポート 原爆投下70年目の真実』、広島ホームテレビ『宿命―トルーマンの孫として―』、テレビ新広島『母に抱かれて~胎内被爆者の70年~』)のオープニング部分を会場で視聴し、是枝委員長代行が、テレビ制作者の経験を踏まえて、番組ごとに感想を述べた。 
参加者からは、「戦後70年の節目の年。被爆者の生の声を伝えられる最後の機会になるのではないかということを重く考えた」「先輩の制作者たちは、被爆者の方から『原爆の実態を伝えきれていない』と言われ続けてきた。どのように表現したら当時の皮膚感覚を含めて視聴者に伝えられるのかを、試行錯誤しながら制作にあたった」などの意見が出された。
質疑の中で、参加者から「証言者がいなくなった時にどのようにドキュメンタリーを撮ればいいのか?是枝監督が否定的な"再現"も、ひとつの有力な手法ではないのか」と問いかけがあった。
これに対して是枝委員長代行は「"再現"を完全に否定するつもりはないが、私がテレビでドキュメンタリーを作っていた時には、『ドキュメンタリーはタイムマシーンを持たない』ということと『ドキュメンタリーはこころの内視鏡を持たない』ということを自分の中の倫理規範として考えていた。つまり、『撮り損なうことを肯定的に捉える』ようにして、現在進行形のものとして表現するのか、あるいは、撮れないものは"再現"するのかで、大きく道は分かれると思う。かけ出しの頃、他局は撮影した決定的なシーンを撮れずに呆然となったが、他局が引き上げたあとのさまざまな人間的営みを撮影して別の作品に結実させることができた。『撮り損なったら後で考える』ことがドキュメンタリーとしてのアイデンティティーの核ではないかと考えている」と答えた。
ぜひ来年も広島で開催してほしいという要望の声を最後に、3時間半にわたる意見交換会の幕を閉じた。

参加者から終了後寄せられた感想の一部を、要約して以下に紹介する。

  • 政治が報道に介入する事態への違和感や危機感をBPOと放送局との間で共有できたことが最も大きな収穫だった。被爆70年の今年、広島では、原爆だけでなく、戦争責任や加害の歴史などについて取材の範囲が広がることも多くある。それらを放送で取り上げるのはバランスが難しいが、安易にそこに触れないというのではなく、工夫して放送することで、今起きていることを伝えるという報道の役割はもちろん、権力を監視する役割を担うことにもつながるとあらためて感じた。
  • BPOの活動が放送をよりよいものにするために行われていることを知り、BPOが制作者にとって心強い支えになると思うようになった。第2部では、自分が制作した番組を含め、広島の各局の番組を見て、被爆地広島の放送局が、原爆について強い思いを持って制作していることを目の当たりにし、刺激を受けた。これからも各局と切磋琢磨しながら、広島からの発信を続けて行きたい。
  • BPOのスタンスを改めて確認できたことは、若い人間には収穫だったと思う。原爆報道への取り組みについて、是枝さんに様々な角度から評価いただいたことは、各局の現場になにより励みになったと思う。(第三者から評価される機会がなかなかないので。)
  • 「BPOは放送局の応援団」という言葉がある。問題が起きたとき、何を考えながら聴き取り調査をして意見書にまとめるかという話を聞いて、委員の皆さんの「放送局が自律し信頼されるために」という思いを感じることができた。今回の意見交換会は人の温かさを感じた。
  • 佐村河内さんの事案に関連して、「被爆者の方に、あなたは被爆者ですか?と聞かない」という意見が出たが、まさにその通りで、取材対象との信頼関係の中でどう事実を担保していくか、大変難しい問題だと改めて感じた。是枝さんの再現に対する疑念を聞いて、もやもやしていたものが晴れた気がした。被爆者がご存命のいま、在広の放送局として被爆者のお話を聞き続けなければならないと痛感した。
  • BPOの皆さんが放送局を守ろうとしている印象を受けた。それはとても心強かったが、同じようなミスを食い止めるという意味では、非公開の会合でもあるし、委員の方が感じられた放送局側の問題点を、意見書以上に具体的に聞きたかった。

以上

2015年12月9日

『ざっくりハイタッチ』(2015年9月12日放送)

2015年12月9日 放送局:テレビ東京

2015年9月12日25時15分から25時45分までテレビ東京で放送された『ざっくりハイタッチ』~赤ちゃん育児教室~について第174回青少年委員会で審議入りし、回答要請を行ないました。第175回青少年委員会でテレビ東京からの回答書を基に審議を行い「委員会の考え」をまとめ審議を終了することにしました。以下に経緯を含めて公表します。

<委員会の考え>

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2015年12月9日

テレビ東京
『ざっくりハイタッチ』赤ちゃん育児教室企画に関する
「委員会の考え」

放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送と青少年に関する委員会

 BPO青少年委員会は、視聴者意見が寄せられたテレビ東京『ざっくりハイタッチ』~赤ちゃん育児教室~(2015年9月12日25時15分~25時45分放送)について10月27日開催の第174回青少年委員会において審議に入ることを決定し、テレビ東京に11月9日付で「ご回答のお願い」とする回答要請を行いました。そして11月24日開催の第175回青少年委員会において、テレビ東京より11月18日付で提出された「回答書」に基づき審議を行った結果、さらなる意見交換は行わずに「委員会の考え」を公表することで審議を終了することにしました。

 テレビ東京の『ざっくりハイタッチ』~赤ちゃん育児教室~は、芸人の第一子誕生をきっかけに、他の芸人たちが今後経験するであろう育児を学ぶというバラエティー企画です。画像処理はされているものの、芸人が赤ちゃん役となり下半身をあらわにしておむつを交換したり、女優がおむつ姿の芸人のボディマッサージを行い男性器を反応させたりした点について、視聴者から「下品なことを公共の電波で流すことはひどい」などの意見が寄せられました。こうした演出は日本民間放送連盟・放送基準(以下「放送基準」)に抵触する可能性を含んでいて、性的な刺激も強く、委員からも「不快で下品」「いじめのヒントを与える可能性は否定できない」「深夜とはいえ地上波の公共性をどう考えているのか」などの厳しい意見が出ました。
 放送基準 第3章 児童および青少年への配慮 (18)には「放送時間帯に応じ、児童および青少年の視聴に十分、配慮する」と規定され、解説には「テレビでは、午後5時~9時に放送する番組について、とりわけ児童の視聴に十分配慮する」といういわゆる"5時~9時規定"があります。制作者はこれを念頭に深夜帯ならば基準を緩めてもよいと判断し、制作・放送している可能性があります。今回もテレビ東京からは、「番組審査部による考査も深夜番組であるとの認識から通常より緩み、放送するに至った」との回答がありましたが、青少年委員会は、この規定は午後5時~9時以外であれば性的表現などの基準を緩めてよいということを言っているわけではないと考えています。
 最近は中高生も録画機器を使って、深夜帯の番組を録画して見ている傾向があることも分かっています。2015年6月1日に青少年委員会が公表した「『中高生の生活とテレビ』に関する調査」では、有効回答数2993件のうち半数以上がリアルタイムより録画視聴が多いと回答しており、録画視聴者の中では、深夜帯の番組の録画率がそれ以外の時間帯より上昇していることが明らかになっています。もはや深夜帯番組だから青少年のことは考慮しなくてよいという時代ではなくなりつつあるのです。
 もちろん、青少年委員会は、放送基準 第8章 表現上の配慮 (43)に「放送内容は、放送時間に応じて視聴者の生活状態を考慮し、不快な感じを与えないようにする」とあるように、深夜帯の番組も、昼間や夕方などの時間帯とまったく同様に判断しなければならないと考えているわけではありません。また、どの時間帯であれ、性的表現などに厳密な線引きを行うことは、本来自由であるはずの創造の現場を萎縮させ、表現の自由をゆがめることにつながりかねないと考え、性的表現などについての形式的な基準設定を行うことには肯定的ではありません。しかし、2015年1月18日付「"深夜帯番組の性的表現"に関する『委員長コメント』」で指摘したように、「ときに視聴者が嫌悪するような行き過ぎた内容になっていたり、人権侵害や公序良俗にもとる内容になっているのに、そのことに番組制作者が気付かないでいるのではないか」と危惧した事態が広がると、権力的な統制を求める世論を高める可能性があり、結果的に制作者が望まない事態になる恐れもあります。番組制作に関わる人たちが、放送基準 第8章 表現上の配慮 (48)「不快な感じを与えるような下品、卑わいな表現は避ける」を心に留め番組制作にあたることを望みます。
 青少年委員会は「下ネタ」のもたらす笑いが視聴者に開放感を与えることがあることを理解していますが、幼児からお年寄り、外国人までがいつでも無料で見られる公共性の高い地上波放送においては、課金システムのメディアとは自ずと表現上の制約に違いがあることを、2014年4月4日に公表した「『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』に関する『委員会の考え』」で指摘しています。この『委員会の考え』は「中年男性のおむつ交換のシーン」にも言及しているのですが、こうした過去の類似事案についての『委員会の考え』を、制作担当者のみならず、番組審査担当者でさえも「失念していた」「議論の俎上に上らなかった」ことは、放送倫理と番組向上の視点から残念で遺憾と言わざるをえません。
 今回、私たちが懸念したのは、これだけでなく、放送局の主体性の問題もありました。出演者はいずれも著名な実力派の芸人であり、プロデューサー以外は演出担当者もディレクターも構成作家も外部の制作会社の人々でした。番組制作においては一般的な方法の一つですが、外部の企画や制作方針に対して放送局の発言力が弱まっている状況があるのではないかという疑問が強くありました。今回、青少年委員会が番組の企画・制作・放送に至るプロセスを確認したのはそのためです。
 昨今は製作委員会方式のように放送局の関与が限られているケースもあり、それが番組作りの可能性を広げる起爆剤になっているとも思われますが、どのような方法で制作されたものであっても、番組内容や放送時間帯を決めるのは放送局であり、最終的な放送責任は放送局にあることを再度、確認していただきたいというのが青少年委員会委員の共通の思いです。
 なお、今回の審議を受けて、テレビ東京ではBPOの3委員会すべての審議事案の一覧表を作成して社内への配布、周知を行い、社内外およそ150人の制作担当者を集め、VTRを見ながらの研修を行ったとの報告がありました。真摯な対応に感謝します。各局においては、深夜帯番組の表現についてさらに議論を深めていただくようお願いします。

以上

<青少年委員会からの質問>

2015年11月9日

ご回答のお願い

 日頃よりBPOの活動にご協力のほど、感謝申しあげます。
 さて今般、貴社の番組『ざっくりハイタッチ』~赤ちゃん育児教室~(2015年9月12日25時15分~25時45分放送)の中で男性芸人が行った複数の行為に対して視聴者意見があり、それを受けて委員会で番組を視聴し討論した結果、本番組を「審議対象とする」ことになりました。
 つきましては、11月17日までに以下の質問に対して貴社の考えを書面でご回答願います。
 なお、質問およびご回答は、「BPO報告」やBPOホームページ等で公表いたしますので、ご承知おきください。

    1. 『ざっくりハイタッチ』~赤ちゃん育児教室~は、どのような経緯で企画・制作・放送されたのかをくわしくお聞かせください。

    2. 男性芸人が下半身を露出する場面(おしめ交換、女優によるマッサージなど)の演出について、制作者の側でどのような議論が行われたのかについてお聞かせください。

    3. 上記の演出について社内でどこまで情報が共有されていたかについてお教えください。その際、考査部門の判断はどうであったかについてもお聞かせください。

    4. 当該番組は放送直後から11月9日現在も動画サイトでの視聴が可能になっていますが、貴社はどのように対応されているのかお聞かせください。

    5. 青少年委員会では「下ネタ」を扱うバラエティー番組と放送の公共性について、「『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』に関する委員会の考え」および「"深夜帯番組の性的表現"に関する委員長コメント」を発表しております。この「委員会の考え」「委員長コメント」について、貴社の意見、またどのように社内共有されていたのかをお聞かせください。

    6. 放送の公共性について貴社の考えをお聞かせください。

【参考】

『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』に関する「委員会の考え」2014年4月4日 (抜粋)
 青少年委員会は、現代の日本でのバラエティー番組がもつ意味の大きさ、その重要性についてはよく理解しているつもりです。日々笑いを提供し続けることの苦労についても十分想像できますし、新たな笑いの創出のために快や不快、上品下品の境目で仕事をするということも分かっているつもりです。「下ネタ」も時と場合によっては見る者を開放的にし、豊かな笑いをもたらすでしょう。社会を風刺する毒のある表現が、視聴者の憂さ晴らしになることもあると思います。こうした番組づくりのために民放連の放送基準等を杓子定規にあてはめるつもりはありません。それは本来「なんでもあり」のバラエティー番組の萎縮につながりかねません。
 とはいえ、いつでもどこでも誰もが無料で視聴できる公共の地上波放送と、入場料が必要な映画や舞台、CS放送などの有料チャンネルとではメディアの特性が異なり、表現上の制約にも違いがあるということについては、制作側としてけじめをつけていていただきたいということは改めて願わざるを得ません。社会のグローバル化が進む中、幼児からお年寄り、外国人まで多様な視聴者が見る公共性の高い地上波放送においては、課金システムのメディア以上の配慮が必要であることはいうまでもありません。

"深夜帯番組の性的表現"に関する「委員長コメント」2015年1月8日 (抜粋)
 最近の深夜帯番組の性的表現に対して視聴者からも委員会からも強い批判や懸念があることを受け止めていただくことを前提に、放送の公共的責任についての自覚を持った上で、該当局だけでなく、各局においても、深夜帯番組における性的表現のあり方について速やかに議論を行っていただくようお願いすることにした。

以上

<テレビ東京からの回答>

2015年11月18日

放送倫理・番組向上機構【BPO】
放送と青少年に関する委員会
委員長   汐見 稔幸 様

株式会社テレビ東京
制作局 CP制作チームプロデューサー
金子 優
編成局 番組審査部長
大岡 優一郎

貴質問書に対する回答書

 謹啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を
賜り、厚く御礼を申し上げます。
 弊社といたしましては、『ざっくりハイタッチ』(2015年9月12日放送)に対す
る今般の貴委員会からのご指摘を大変重く受け止めていることをまず、お伝えした
く存じます。社内での度重なる議論も経た今、当番組には不快な思いを抱く視聴者
がいたであろうことは否定できないと考えるに至りました。ひとえに、深夜1時過
ぎから放送する番組であったことで制作基準、審査基準を緩めてしまったからに他
なりません。我々としては同じような逸脱を起こさないよう、早急に対策を講じま
した。今月初め、社内外の制作者を集めて今回の番組を見直しながら問題点を洗い
出す研修会を開いた他、各番組制作現場に対しては放送基準の読み直し、貴機構で
過去に審議された事案についての再確認、またチェック体制の強化を図ったところ
です。これらの作業を通じ、今一度立ち止まって番組制作というものと真摯に向き
合い直さねばならないことを一同、痛感しましたが、誤解を恐れずに言えば、我々
は今回の貴委員会からのご指摘をその良い契機として捉え、今後、よりよい番組作
りに邁進していく所存です。
 貴委員会より頂きました6つのご質問につきまして、以下にお答えいたします。

1.番組の企画・制作・放送経緯
 そもそもは、番組にレギュラー出演している芸人の一人にまもなく第一子が誕
生するとの情報を受け、話題性もあり、未経験者が多いゆえに不慣れな「育児」
というものを芸人たちに実践させることで何か面白い発見があるかもしれないと
の考えから始まりました。本番組は制作会社の協力の下、弊社が局制作をしてい
るものですが、その定例会議の席上、制作会社の演出担当者と構成作家から、「赤
ちゃん育児企画」というものをやってみたらどうだろうかという提案が出されま
した。そこで、演出担当者と制作会社の番組担当ディレクターが当芸人に同様の
提案をし、相談したところ、当企画を進めていくことが決定された次第です。
あくまでも「育児教室」というテーマではあるものの、制作現場としましては、バラエティ番組である以上、そこから多くの「笑い」を生み出すような様々な演
出も必要不可欠であろうとの思いから、出演者が赤ん坊になりきり、様々なリア
クションをしやすくなるようにと考えました。
 7月14日、演出担当者、担当ディレクター、弊社プロデューサーの立会いの下
に臨んだ収録ではやや逸脱した部分もありましたが、それは編集作業でカットで
きると考えました。ゆえに、編集作業に移る前に、プロデューサーや演出担当者
が入念に収録VTRをチェックし、芸人たちが馬鹿馬鹿しさを演じることで「笑い」
を呼び起こすであろうと思われたバラエティ要素の強い部分は最大限に尊重しな
がらも、多くの人が不快に感じるであろうシーンについては、カットすることに
しました。いわゆる「画角」や「カット割り」などと呼ばれる手法で編集作業を
行うように努めたのですが、出演者たちのやりとりの上でどうしてもカットでき
ないと思われたブロック、あるいは多少「暴走気味」と思われる可能性があった
としても、ある種の「笑い」を呼ぶためにはカットするには忍びないと思われる
ブロックがありました。それらを残す際、悩んだうえにとった手法がイラストに
よって部分的な処理を行うという対応でした。番組審査部による考査も深夜番組
であるとの認識から通常よりも緩み、放送するに至った次第です。

2.制作者の間での議論
 我々、制作者の間では、「育児教室」というテーマの中、同期同士であったり、
コンビの相方であったりして照れくささを感じる関係性もあるような芸人たちに
対し、赤ん坊というものを演じさせ、完全になりきらせるところから一定の面白
さ、すなわち何らかの「笑い」が引き出せるのではないかとの前提から、様々な
演出上の議論を行いました。もちろん、芸人たちに下半身を露出させた状態で番
組を進行してもらおうというこだわりがあったはずもなく、あくまでも「笑い」
を生み出すような演出になることを想定し、芸人が赤ん坊役を演じることで様々
なリアクションをとりやすいかと考え、おしめを着けてもらった次第です。
 その際、過去に類似の番組があり、貴委員会からもそれに対する「考え」が出
されていた事実については、我々制作者一同の頭の中から抜け落ちており、議論
の俎上に上らなかったことは正直に認めざるを得ません。ただ、芸人である以上
は笑いをとろうという意識から、収録の際の振る舞いに何かしらの行き過ぎが生
じる可能性があることはある程度想定していた中でも、芸人たちの下半身が映っ
てしまっては放送できなくなると考え、我々としては「画作り」の工夫について
慎重に議論を行い、そのためのリハーサルを何度も行ったのは事実です。
 収録後、VTRのプレビューを重ね、編集の際にも色々と考慮をしたうえで
多くの部分を削除したのですが、貴委員会のご指摘の通り、十分とは言えず、視
聴者が不快と感じても仕方がないシーンを残す結果となってしまいました。また、
女優が出てきて、いきなり芸人にマッサージをするという演出については、出演
芸人へのサプライズとして企画しましたが、そこから何かの「笑い」に転化でき
ればよいとの考えから行いました。これらは、あくまでも深夜番組であるとの認
識から生じた結果ですが、現時点で冷静に考えれば、視聴者に不快感を与えてし
まったであろうことは否めず、流してはいけないシーンであったと思っています。
それは、社会常識に照らし合わせ、自ずと判断せねばならないことでした。
 また、「マネしないでください」「芸人同士が体をはった赤ちゃん教室です。マネしないでください」などの注意喚起テロップを入れることで、視聴者の印象も緩和されるのではないかとの甘えが我々の中にあったことも否定できません。

3.社内共有
 収録前の7月9日に番組担当プロデューサーから、企画意図と内容について記
したメールが編成部と番組審査部に送付されました。それに対し、番組審査部か
らは「細心の注意・配慮をしながら収録するように」との指摘をしております。
その後、編集したオフラインデータが9月9日に送られてきた際、番組審査部か
らは「前週にすでに『赤ちゃん企画』を放送していることもあり、企画そのもの
を今さら取りやめろとまでは言わないが、タレントが女性に触られて生理的な反
応を示し、そのまま全裸で自らの持ちネタを披露するシーンについては、『全裸は
放送基準に抵触する』『いじめのようで不快である』と思う」と指摘しました。
また、「絶対にマネをしないでください」などの注意喚起テロップも入れるよう
忠告をしました。
 ただ、担当した審査部員も、長年の経験から考査に精通し、過去に貴機構で指
摘された事案について知悉していたものの、昨年、類似の事案が起きた際に貴委
員会から出された厳しい指摘の詳細は失念しており、そうした観点からことさら
強い指摘をするようなことはしませんでした。また、すでに収録が済んでいたこ
とから、何とか番組として成立させたいという判断が働いてしまったのも事実で
す。何よりも、深夜1時15分から始まる深夜番組であったことが指摘を緩くすることに繋がってしまいました。今後は、深夜帯の番組においても日中の番組と同じ基準で審査することを改めて徹底します。

4.動画サイトへの対応
 弊社の公式動画配信サービスでは、当該番組は配信しておりません。現在、インターネットの各種動画サイトに掲載されているものはすべて違法アップロードされたものです。違法アップロードは重大な著作権侵害行為ですから、我々としましては当該番組に限らず、各種動画サイトに対してこれまでも違法動画の削除要請をしてきました。今回のご指摘を受けてから、当該番組の違法アップロードのチェックおよび削除要請を強化しております。
 なお、10月13日に貴委員会からのご指摘を受け、放送を予定していた地方局11局にはすぐさま要請を出し、放送を休止したことはお伝えしておきます。

5.貴委員会の意見・コメントに対する弊社の考え
 バラエティ番組というものの存在と必要性に対する一定の評価、また制作者の
置かれた立場にまでも理解を示す寛容なスタンスに貫かれる一方で、有料放送な
どとは異なる地上波放送としての当然の責務と心構えを説いた貴委員会の通達は、いずれも極めて公正かつ的確なものと認識し、社員一同、十分に納得、理解した
つもりでおりました。当然のように、「委員会の考え」も「委員長コメント」も、
当時の弊社内のBPO連絡担当者から社内メールシステムを通じ、各現場の部長
(プロデューサー)以上に迅速に伝えられ、そこから部会を通じて各部の部員へ
の周知が行われておりました。他の全ての貴機構からの連絡伝達と同様の流れによるものです。
 しかしながら、今回の結果を考えますと、その共有が弊社社員の中で十分に徹
底されていたと言うことは到底できません。
 ゆえに、今回の事案を受け、貴機構設立以来の3委員会全ての審議事案につい
ての一覧表を改めて作成し、社内への配布、周知を行いました。また、再発防止
に向け、11月5日に社内外およそ150人の制作担当者を集め、今回の番組のVT
Rも見せながら議論する研修を開催しました。これまでも、新入社員研修、異動
前後に現場の制作者を集めて行う研修など、様々な場で貴機構に関する勉強会の
時間は十分に設けてきましたが、今後はさらなる充実を図ります。

6.放送の公共性
 多くのメディアが台頭し、「テレビ離れ」などの言葉もしばしば見受けられる
今日でもなお、国民の多くがテレビを最も身近に感じるメディアとして捉えてい
るとの調査結果を知るたびに、テレビが極めて大きな社会的影響力を持つ「公共
性」の高いメディアであるとの自覚を新たにするのは言うまでもありません。
 特にあの東日本大震災の報道以来、我々はそうした「公共性」というものにつ
いて改めて強く考えさせられてきました。現地でその瞬間に何が起きているのか
を遠く離れた人々さえもリアルタイムで理解し、時に人命をも救い、あるいは被
災者への支援や様々な議論を活性化させることにもテレビの映像が少なからず
寄与したことを思えば、放送というものが常に重い社会的責任を伴うのは自明の
ことです。有料テレビなどとは異なり、地上波放送は自らにより厳しいモラルを
課し、業務にあたらねばならないのは当然とも考えます。
 視聴者の生活に一服の清涼を与えるべきバラエティ番組においても、豊かで上
質な真の笑いを提供できるような「公共性」のあるものを創造しようと、日々、
現場のスタッフ間で真剣に話し合い、アイディアをひねり出し、制作にあたって
おります。しかしながら、確かに今回の番組からはそうした観点が欠けており、
視聴者に不快感を与える番組であったと指摘されても仕方がないことと考えてい
ます。しかも、すでに昨年、貴委員会から指摘されていたような形での番組作り
を繰り返したことは、先日の放送倫理検証委員会の委員会決定でも言及されてい
たように、本来ならば自律が保障されているはずの放送局がみすみす外部からの
介入を招き入れることにつながりかねず、それこそ「公共善」を損なう結果を生
んでしまう危険性があるという認識を改めて社員全員で共有致します。
 最後に、これまでも弊社制作現場には「公共性」に鑑みて番組制作に取り組む
意志は当然のように強くあったということだけはご理解頂きたく存じます。弊社
の番組ラインナップをご覧頂ければお分かりのように、経済番組、ヒューマンド
キュメンタリー、芸術番組、情報番組、子供向け人気アニメなどを中心に編成す
る過程で、むしろ我々は視聴者に非常に近い、視聴者の利益になる番組を作るこ
とに専心してきたつもりです。もちろん、そうして作り上げた視聴者からの信頼
もあっという間に損ないかねないことを肝に銘じ、「築城三年、落城一日」の言葉
を改めて胸に刻み込みながら、今後も番組作りに邁進してまいります。その際は、
悪い形での委縮などはしたりせず、新しいことに果敢にチャレンジしながらも、
常に社会常識や放送基準に照らし合わせることを忘れずに、視聴者の期待に応え
ていけるよう努めます。

謹白

第175回 放送と青少年に関する委員会

第175回–2015年11月24日

テレビ東京『ざっくりハイタッチ』の審議「委員会の考え」を公表することで審議を終了…など

11月24日に第175回青少年委員会を、BPO第1会議室で開催しました。7人の委員全員が出席しました。まず、前回から継続の1事案について審議しました。次に、10月16日から11月15日までに寄せられた視聴者意見を中心に意見を交わしました。そのほか、11月の中高生モニター報告、今後の予定について話し合いました。
なお委員会に先立ち、在京7社25人と委員との「インターネット情報の取り扱いについて」をテーマにした意見交換会・勉強会を開催しました。【詳細はこちら
次回は12月22日に定例委員会を開催します

議事の詳細

日時
2015年11月24日(火) 午後4時30分~午後6時20分
場所
放送倫理・番組向上機構 [BPO] 第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
汐見稔幸委員長、最相葉月副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、川端裕人委員、菅原ますみ委員、緑川由香委員

テレビ東京『ざっくりハイタッチ』の審議

●「"赤ちゃん育児教室"と題し、芸人がおむつ着用で寝転がり、そのおむつを脱がせたり(画像処理はしてある)、セクシー女優がローションで刺激させ男性器を反応させたりしていた。こんな下品なことを公共の電波で流すことはひどい。育児とは苦労の連続であり、子育てとエロ・下品を結びつけないでほしい」という視聴者意見があった『ざっくりハイタッチ』(テレビ東京、9月12日25時15分から30分間)について前回審議入りし、当該局に11月9日付で質問状を送り回答を求めました。今回、11月18日付で提出された「回答書」を基に審議しました。委員からは次のような意見が出ました。

  • 深夜番組での仲間内の悪ふざけだ。視聴率も高くなく青少年に悪い影響を与えるとも思われない。相当程度に下品ではあるが、「表現の自由」を考えた時に価値判断にかかわることに関しては謙抑的でありたい。これ以上段階を進める必要はない。
  • 過去の類似シーンに関する “青少年委員会の指摘"を全く知らなかったのは問題だ。
  • なぜこのような番組が作られたのかそのプロセスを知りたいと思った。かなり多くの人が録画視聴しているという現状を考えれば、深夜だから許されるとは一概に言えない。社内での議論を深め具体的な行動を示してくれれば、これ以上審議の必要はない。
  • 類似事例が過去にあったのに、考査担当者が失念していたというのは脱力感を覚える。
  • 局側の担当者が何人いてその責任体制がどうなっているのかがよく分からない。
  • 品が有る無しに関しては個々人の受け取り方だ。制作に携わったプロダクションの人たちが、これまでの"青少年委員会の指摘"を共有していなかったことと、現場は何でもやりたいもので、それを管理する立場にある人が歯止めをかけられなかったところに問題がある。
  • 番組制作における当該局のイニシアチブが弱いのではないか。番組制作のプロセスに考えるべき点がある。

審議の結果、「委員会の考え」を公表することで審議を終了することにしました。【詳細はこちら

視聴者意見について

●ドッキリ番組で「X線検査のためのバリウムにウオツカを入れて飲ませていた」という視聴者意見について話し合いました。「もし本当にウオツカが入っていたら医療関係者は許可しないはずだ。逆にウオツカが入っていなかったとすれば番組制作上問題がある」「医学的な問題もあるが、視聴者にはウオツカ入りのバリウムを飲んだように見える。見ている人たちがどう思うかが問題だ」などの意見が出ましたが"ボーダーライン上の演出だ"として討論には入らないことにしました。

中高生モニター報告について

11月の中高生モニターは、「この半年の間に見た番組の感想(ドラマ・アニメ)」というテーマで書いてもらい26人から報告がありました。
連続テレビ小説『あさが来た』(NHK)に関して複数のモニターから、とても面白く、毎朝楽しみに見ているという報告が寄せられました。「実在の人物のストーリーだから歴史の勉強にもなるし役者さんの演技もうまいから、毎朝学校へ行く前にとても楽しく見ている」(東京・中学1年女子)。「お互いを思いあう主人公姉妹の気持ちがとてもよく表されていて、それぞれの未来を信じ奮闘する姉妹の今後を楽しみに期待して毎日見ている」(京都・中学2年男子)。
また、人気ドラマを支持する意見も寄せられました。『下町ロケット』(TBSテレビ)…「見ていてとても頑張ろうという気持ちになれる。夢に向かって大きな壁に果敢にぶつかっていく姿は本当にかっこいい。日本を支えてきた中小企業の未来について真剣に考えてみるいい機会になると思う」(神奈川・高校2年女子)。『科捜研の女』(テレビ朝日)…「科学捜査をテーマにしたいつ見ても面白い番組。専門的な内容も頻繁に登場するが、図やCGなどを使って丁寧に説明されている。全体を通して分かりやすく飽きさせないような多くの工夫が伝わってくる完成度の高い番組」(岐阜・高校2年男子)。
アニメに関しても温かい報告が寄せられました。『ちびまるこちゃん』(フジテレビ)…「日曜日の夕方は何となく嫌な気分になるけれど、この番組を見ている間は、楽しくいやされます。これからもずーっと見たいアニメです」(宮城・中学3年女子)。『Free!』(新潟放送)…「素晴らしい特徴がいくつかある。まず、スポーツアニメなのに人間関係や絆に焦点を当てている点。次に映像の美しさ。このアニメを見ると他のアニメが見られなくなるほど美しい。次にキャラクターの描き方。細かく性格が設定されていて人間味があり、いとおしい。とにかく演出が素晴らしく、カメラのアングルや焦点の当て方、小物の色や花言葉使い、BGMに至るまで登場人物の心情をあらわす工夫に満ちている」(新潟・高校2年女子)。
今回は自由記述欄で、最近の報道内容を受けて、BPOの活動やテレビ番組全般に関する意見を書いてくれたモニターもたくさんいました。「新聞の一面トップにBPOのことが載っていたので、僕もモニターとして興味深く読んだ。政府・与党が介入したことに対するBPO側からの意見がこれだけ大きくとりあげられたのは今回が初めてではないか。僕たち世代がテレビから受ける影響はとても大きい。だから、番組制作者は今後も圧力に屈せず放送の自由と自律を守ってほしいし、もちろん過度な演出で事実を歪曲させたり個人を傷つけたりすることのないようにしてほしい」(東京・中学3年男子)。「この前『学校へ行こう』(TBSテレビ)を家族みんなで見た。とにかく面白かった。昔はいい意味でむちゃくちゃな番組が許されていたことを羨ましく思う。だんだんテレビの内容が安全面とか規制とかを気にし過ぎてつまらなくなってきている。私は昔のような新鮮味があって斬新な番組が見たい」(埼玉・中学2年女子)。

■中高生モニターの意見と委員の感想

【委員の感想】ドラマ、アニメがテーマということで、強く支持する意見がある一方で手厳しい批判も見られた。

  • (埼玉・中学2年女子)『恋仲』(フジテレビ)。王道ラブストーリーで確かに私たちと同年代の女子が好きなドラマではあったが、展開や結末がありきたりで新鮮味が感じられないとも思った。大体の内容が読める展開だった。
  • (愛知・高校2年男子)『花燃ゆ』(NHK)。吉田松陰の死後は、残念ながら現代的な脚色が強い感じがして、見ていてわくわくする場面がだんだん減ってしまった。替わって主人公となった吉田松陰の妹、久坂美和が有名でないから資料が少なく脚本家による演出が強くなってしまうのだろうか。また構成はといえば、例年同じで、頭に1分ほどの導入部、次にオーケストラによるオープニングとスタッフクレジット、それからドラマ本体、終わりが次回予告、最後に関連する名所・史跡案内で終わる。大河ドラマの歴史が長い分、番組の流れがテンプレート化しているようで、進歩を感じさせない。

【委員の感想】今回はほとんどの報告をとても楽しく読んだ。自由記述欄にも読みごたえのある意見が多数あった。

  • (神奈川・中学1年女子)最近、ネットの動画をそのまま紹介する番組が多くなってきている。なかには、いかにも「これは嘘でしょ…」というような物を本物であるかのごとく紹介している場合もある。公のテレビ番組という立場からは、取り上げるネタは果たして視聴者皆に見せることに適しているのかどうか考えてもらいたい。
  • (神奈川・高校2年女子)現在どの時間帯に何を放送するかの大枠は決まっているようですが、これを取っ払ってみてはどうでしょう。たとえば、17時から19時の枠はどこもイブニングニュースショーをやっています。テレビ離れなんて言われることもありますが全くそんなことはないと思います。ただ、見たいものが見られる時間にやっていないから、テレビ以外のものへ興味が行ってしまうのです。時代に合わせて今までのものを変えるという流行り(はやり)な感じは、私は正直苦手ですし何でもかんでも変えることはないと思います。でも、従来の決まったものを壊していくというのも嫌いではないです。

●【委員の感想】ドラマ番組を温かく評する一方で、テレビ番組制作現場の"ゆるみ"を鋭く指摘している報告には、ハッとさせられた。

  • (福岡・中学2年女子)『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』(フジテレビ/テレビ西日本)。好きなアニメの実写化だったので不安な気持ちで見たが意外に良かった。身近な他の人の感想も良かったというものが多かった。俳優陣の熱演が良かったと思う。全員名前も知らない新人の俳優だったが一生懸命さが伝わってきて感動した。今のテレビは同じ人ばかりで見る気がしない。1週間のうち何度も同じ司会者、同じ俳優、バラエティーのゲストもいつも同じ人。見飽きた。

●【委員の感想】マルチデバイスと連動した、新しいシステムを含んだ番組を挙げたモニターもいた。

  • (神奈川・高校2年女子)『HiGH&LOW』(日本テレビ)。今季のドラマでまだ三話しか放送されていないが、映像のクオリティーが高くアクションもとても迫力があって面白い。また、Instagramと連動しているという新しい企画でもあり、携帯を眺めながらドラマを見る、というのがとても楽しくていい。

●【委員の感想】物語の展開を長い時間をかけて、じっくり丁寧に見たいというモニターがいた。潜在的にそういう欲求を持っている視聴者は多いのではないか。

  • (長崎・高校1年女子)ドラマやアニメなど、昔は1クールに収まらないものも多くあったという。今は、NHKの朝ドラを残して、他の局のドラマはすべて1クールである。朝ドラの視聴率が毎回高いのは、やはり主人公の人生を子どもの頃から追うことができるし、一人一人の生き方をクローズアップできるため、視聴者である私たちも主人公たちに親近感が湧くからだと思う。1クールのドラマは、物語の初めから結末までの展開が目まぐるしく、主人公については掘り下げることができるが、他の人物についてのストーリーがほんの少ししかないので、身近に感じることができず、あまり登場人物たちが迎えるその後への興味がそそられない。また、現在でも、人気のある作品は間を空けて続編が放送される場合もあるが、あまりに時間が空きすぎているため、もともと見ていた視聴者をリピーターとして確保できないのである。

今後の予定について

  • 10月30日に、立命館守山高校の1年生と2年生およそ300人と、青少年委員会から汐見委員長、最相副委員長、稲増委員、朝日放送からテレビ制作・ラジオ・報道担当者とアナウンサーが参加して「青少年との意見交換会(立命館守山)」を開催しました。司会を担当した稲増委員は、「高校生と放送局と青少年委員の三者による意見交換は、初めての試みであり良かったと思う。バラエティー制作者の話は説得力があって面白かった。高校生にいきなり放送について意見を語らせるのはちょっと難しかったかもしれない。今後はもっと少人数での対話でも良いかもしれない」、最相委員は「ラジオを聴いている人がほとんどいなかったのはショックだった。ラジオはリスナーや出演者が番組とともに成長していくものだ。ラジオの良さをもっと知ってほしい」、汐見委員長は「タブレットを使いながらの意見交換というとても貴重な体験ができた。今後もメディアリテラシー構築の一環として続けていきたい」とそれぞれ感想を述べました。【詳細はこちら

その他

  • 11月6日に検証委員会が通知・公表した「NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見」についての報告とその後の反響について事務局から説明がありました。

2015年11月24日

在京局担当者との「意見交換会・勉強会」概要

◆概要◆

青少年委員会は11月24日、「インターネット情報の取り扱いについて」をテーマに、在京テレビ各社(NHK、日本テレビ、テレビ朝日、TBSテレビ、テレビ東京、フジテレビ、東京MXテレビ)との「意見交換会・勉強会」を千代田放送会館で開催しました。本テーマについての会合は前回(7月28日)に続き2回目です。
今回は、砂川浩慶・立教大学社会学部メディア社会学科准教授をお招きし、同テーマに関するご講演をいただいた後、各局との意見交換を行いました。
各放送局からは、BPO連絡責任者、編成、報道、情報番組担当者など25人、青少年委員会からは汐見稔幸委員長ら7人の委員全員、BPOからは濱田純一理事長と三好晴海専務理事が参加しました。
司会役は川端裕人委員が務め、砂川准教授から、放送法や著作権法など、放送とインターネットに関する法律について解説いただいたうえで、(1)インターネット時代の放送倫理のあり方、(2)インターネット情報にどこまで配慮すべきか、(3)危険情報等への誘引懸念などを論点に、13時から16時まで活発な意見交換を行いました。
砂川准教授からは「日本の著作権法は世界的に見て権利者の保護という観点がとても強い。放送に際してはさまざまな権利処理が必要だ」「報道引用で許容される範囲は限定的である。引用部分とそれ以外の部分の"主従関係"が明確であること、"公正な慣行"に合致することなどの条件がある」など、インターネット上で入手した情報等を放送するにあたっての留意点について解説がありました。
また、「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の知的財産分野では著作権侵害の非親告罪化についての交渉も進められている。仮に合意に至れば、権利者以外の提起が可能になり、テレビ局での利用も含めた、違法利用に対する監視が強まることになろう」「2010年の放送法改正により、放送の定義が『公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信(従前は無線通信)』の送信に変わった。インターネット業界側がある種の"お墨付き"を得るために、従来の放送型の規制を自ら求め、一般放送として認定されることも考えられる。そうなると、今、議論している『インターネット情報』が放送というカテゴリーの中で扱われることになるかもしれない」「インターネット業界では"忘れられる権利"についての議論が進みつつあり、判例も出始めている。放送業界でも考えていかなくてはいけないテーマのひとつになろう」など、現状のみならず、今後の見通しや課題も示されました。
そのうえで、「放送におけるインターネット情報の取り扱いは過渡期である。放送業界全体で事例や情報を共有することで、ある種のスタンダードを確立していくことを考えてはどうか」との提案がありました。

【意見交換の概要】
△=砂川准教授、●=委員、○=放送局出席者

  • ○ 権利処理に関してのノウハウを放送局は持っており、その面においてはインターネット企業よりアドバンテージがあると考えている。仮にインターネット企業が一般放送事業者化することがあった場合、インターネット上に溢れているさまざまな情報をどれだけ合法的に伝えることできるのかについては疑念がある。
  • ○ 当社では出所や権利関係がはっきりしない映像は利用しない。インターネット上の情報が面白いからといって簡単に使うということはない。これからもきちんとした情報発信をしていきたい。
  • ○ 情報の裏付けを取ることは当然だが、これだけたくさんの情報が溢れている中で、すべての情報について100%信頼できる裏付けを取ることは不可能に近い。当該情報を放送するリスクと情報の信頼性を考慮して、放送するか否かを判断することも考えられる。
  • △ そういった場合の各局の判断の参考にするために、とてもデリケートな問題ではあるが、放送業界全体で事例を集めることを考えてはどうか。現場での判断を積み重ね、業界全体で共有化を進めていけば参考になると思う。
  • ○ インターネットユーザーは、インターネット上でうわさになっていることが事実かどうかをテレビで確認していることがある。テレビでの情報は信頼されているようだ。
  • ○ 若い人たちはインターネット情報を信じきっているのではないかと思うことがある。砂川先生の"ネットリテラシーに放送局としても取り組むべき"との考えに同意する。
  • ○ ネットリテラシーについてはテレビがその役割を果たすべきとの考えか。
  • △ そういった点も含めて自社や放送業界内で議論してほしい。私はインターネットを通じて放送局のコンテンツを見る人が多くなっているからこそ必要な取り組みではないかと考えている。今までは放送局のコンテンツはテレビのみで見られていたが、PCやスマートフォンで放送局のコンテンツを視聴するなど、環境が変わってきている。インターネットについて"よその家の話"と言える状況ではなくなってきている。
  • △ 若い人たちがインターネットサイトを見て、インターネット情報だと思い込んでいるものの中には、実は、放送局が制作したコンテンツも含まれている。発信元のクレジットをもっと明確にするなど、ポータルサイトで埋没しないような仕組みが必要だろう。
  • ○ テレビで蓄積したノウハウや判断基準を基に、ネット情報も判断していくべきだ。私はネット配信のニュースを担当しているが、時系列で情報を積み重ねて、ニュースを深掘りできるような特設サイトを作るなどの取り組みも進めている。
  • △ アドバンテージを活かすことは視聴者にとっても良いことだ。大災害時の報道などはインターネットがすぐに代替できるようなものではない。今現在起こっている事実を切り取って構成する力はインターネットにはない。
  • ○ 茨城で起きた水害の報道の際は現地が停電しており、現地の住民はスマートフォンでニュースを見ていた。人命を守るうえで現状を伝えることが重要だとの判断から、地上派とは異なる判断でニュース配信を行ない、大きな反響があった。地上波で危険なシーンを放送すると判断するには、それなりの時間を要すると思う。
  • ● 放送局のコンテンツのインターネットへの配信はビジネスとして確立されているのか。
  • ○ 利益があるような状況ではないが、さまざまなデバイスを通じてさまざまな人に情報を伝えていく展開を考えていきたい。
  • ○ 情報を無料だと思っている人が多いことが悩ましい。洗練されたしっかりした情報を出すにはマンパワーがかかることも理解してほしい。
  • ● 放送局の番組が動画サイトなどに無断でアップロードされていることが多々あると思うが、裁判を起こしたことはあるのか。また、放送番組の無断アップロードは違法行為である旨を視聴者にもっとアピールすべきではないか。
  • △ 海外の海賊版に関して、放送局が訴訟を起こしたケースもある。違法アップロードに費やす放送局の労力はとても大きなものになっている。
  • ○ 違法アップロードについては、民放連が「放送番組の違法配信撲滅キャンペーン」を行っており、有名俳優を使ったCMを各局で放送するなどの対応をしている。
  • ○ 若者がテレビ受像機を購入しない現状がある。テレビを見る手段を持たない人に放送局がどうアピールするかが課題だ。ハードが変わっていくことについて危機感を持っている。
  • △ 今の学生の中には動画投稿サイトに掲載される10分程度の動画に慣れてしまっていて、60分の長さの番組を見ることができない人もいる。10分で描ける世界もあれば、1時間、2時間ないと伝えられない世界もあることを若者に分かってもらう必要があろう。
  • ● 投稿動画など、インターネット上の映像を使って番組を作ることが多いことについて、BPOの中高生モニターから批判が多くあるが、どう考えるか。
  • ○ インターネット上の映像を使用している番組は確かに増えている。上手くショーアップできている番組は生き残れるだろうが、あくまでもインターネット上の情報や動画は番組作りの素材に過ぎない。志のない番組は淘汰されていくだろう。
  • ○ 海外の面白投稿映像などは供給元と独占契約を結べないケースが多く、複数の放送局や番組で使用することもあるので、既視感が生じているのかもしれない。
  • ○ 投稿動画などの真贋判断については確たる判断基準がない。ケース・バイ・ケースの判断を丁寧に積み重ねていくしかないだろう。
  • ● テレビは子どもたちにとって接触時間も長く、信頼度が高いメディアである。テレビがリーディングメディアとして、倫理性を示すチャンスでもあると考えてほしい。
  • ● 2000年ごろはメディアリテラシーに関する番組の放送が多くあったが、最近は見かけないので、ぜひ制作してほしい。

【汐見委員長まとめ】

最後に、汐見委員長から出席者に謝辞が述べられるとともに、「私たち委員も大変勉強になった。放送や新聞などの近代社会を作ってきたメディアが、新たなメディアに存在の根本を問われている状況だと思う。インターネットの発達により、個人でも簡単に情報を流せる時代だからこそ、放送局はこれからも強い使命感や倫理観、志を持ち続け、視聴者の信頼を確保してほしい。BPOとしてもそうした動きを応援していきたい」との感想があり、意見交換会を終えました。

以上

2015年10月30日

青少年との意見交換会(立命館守山)概要

◆概要◆

青少年委員会は、「視聴者と放送事業者を結ぶ回路」としての機能を担っています。その活動の一環として、10月30日(金)の午前9時から正午までの間、立命館守山高校(滋賀県守山市)メディアホールにおいて、青少年(視聴者)、放送局、青少年委員会委員の3者による意見交換会を行いました。3者が一緒に意見交換を行うのは初めてのことです。
今回の意見交換会は実験的な取り組みであり、立命館守山高校および朝日放送のご協力を得て実施しました。立命館守山高校からは1・2年生およそ300人、朝日放送からはテレビ制作・ラジオ・報道担当者とアナウンサー、BPOからは汐見稔幸委員長、最相葉月副委員長、稲増龍夫委員が参加しました。
当日は意見交換に先立ち、松井健副校長からあいさつがあった後、BPOの三好晴海専務理事がBPOおよび青少年委員会の役割について生徒に説明しました。その後は稲増委員と橋詰優子アナウンサー(朝日放送)の司会進行により、テレビ制作、ラジオ、アナウンサー、報道の仕事について、それぞれ朝日放送の担当者から説明があり、3者による活発な意見交換が行われました。
同校はタブレット端末を使用した授業を推進していることから、意見交換にあたっては、各クラスの代表生徒十数名がタブレット端末を持ち、放送局担当者や委員との質疑応答に活用しました。

テレビ制作、ラジオの担当者からは、実際に制作を担当した番組の映像や音声を利用しながら説明がありました。アナウンサーの仕事については、自らの実経験を踏まえた業務紹介、報道については写真や図を用いて、高校生にも分かりやすく説明が行われました。また、事前アンケートの結果を基に、高校生の視聴(聴取)実態や興味のある番組などについても意見交換が行われました。
意見交換を終えて、汐見委員長からは「生徒のみなさんはインターネットと放送を上手に使い分けているようだ。テレビやラジオは公共性を大事にしながら、たくさんの人が関わり、責任ある放送をしている。インターネットは様々な個人の意見が出ているのだと理解して、これからも使い分けてほしい。BPOは視聴者と放送局をつなぐ役割をしている。みなさんには一緒にいい番組を作っていく応援団になってほしい」とのまとめの言葉がありました。
また、上杉兼司副校長からは「放送がどのように制作されているかを知ることで、今後は新しい角度から視聴・聴取することができるようになるだろう。本日は初めての機会ということもあり、もっと言いたいことや深い意見があったにも関わらず、上手く発言出来なかった人もいると思う。これを機会に、積極的に自分たちの声を出すようにしてほしい」との言葉がありました。

放送局の各担当者の経歴・講演、質疑応答の概要は次のとおりです。

(1)「テレビ制作について」井口毅氏(朝日放送・東京支社制作部プロデューサー

<経歴>
1993年入社、テレビ制作部に配属。『ごきげん!ブランニュ』などを担当し、2002年東京支社制作部に異動。『みんなの家庭の医学』や『芸能人格付けチェック』などを担当。現在は『大改造!! 劇的ビフォーアフター』のプロデューサーをつとめる。
<講演>
自らが制作を担当した、『芸能人格付けチェック』や同番組の予選会の映像(お笑いタレントの罰ゲームシーンなど)を会場のスクリーンに映し出し、その映像を基に、企画、キャスティング・構成、シミュレーションなど、番組制作の仕組みを説明したほか、どのような考えで企画が生まれ、どのような点に留意して番組制作を進めているのかを具体的にわかりやすく伝えた。
質疑応答では、BPOに「お笑いタレントへの罰ゲームなどが子どもたちのいじめを助長している」との視聴者意見が多く寄せられていることから、生徒たちに意見を聞いた。「いじめを助長している」と考える生徒が少なかったことを受け、井口氏から「番組制作にあたっては様々なシミュレーションを行い、安全を確認している。親世代からの意見が多いようだが、実際の視聴者である高校生のみなさんが冷静に番組を見てくれているようで安心した」との感想があった。
また、バラエティー番組でのやらせをどう考えるかについて質問したところ、否定と肯定の意見がほぼ半数となった。井口氏からは「やらせの定義は難しいが、視聴者と何をどこまで約束しているかが大事だ。視聴者が何を番組で楽しんでいるのかを常に考え、それを裏切るようなことをしてはいけない」との考えが示された。

(2)「ラジオ制作について」鈴木洋平氏(朝日放送・ラジオ局編成業務部主任)

<経歴>
2003年入社、技術局から2005年テレビ制作部に異動。コメディ番組やM-1グランプリの担当を経て2013年ラジオ局に異動。現在、月曜~木曜の午後10時から午前1時までの番組『よなよな…』のプロデューサーをつとめる。
<講演>
『よなよな…』の音源を聞きながら、ラジオ番組の制作について、「ラジオは台本があってないようなもの。『よなよな…』は生放送なのでその場で判断し、展開している」「スタッフは少なく、ほぼ3人で放送している」など、制作現場の実態について説明があった。また、「テレビでのタレントのイメージと違う一面が出るところも魅力。タレントの素の話を聞きたいならラジオが適している」とラジオの楽しみ方を伝えた。
質疑応答では、ラジオを実際に聴取している生徒が少なかったことから、「どうしたらラジオを聴くようになるか」と質問した。生徒からは「好きなタレントが出演していたら」「もっと手軽に聞けるようになったら」などの回答があったほか、テレビを利用してラジオの魅力をもっとアピールすべきとの意見も複数寄せられた。
また、会場でラジオ受信機を持っているかどうか聞いたところ、持っている人が少なかったことを受け、委員から「防災用品として、ひとりが1台持ってほしい」との発言もあった。

(3)「アナウンサーについて」橋詰優子氏(朝日放送・編成局アナウンス部主任)

<経歴>
1997年アナウンサーとして入社。夕方の情報番組のサブ司会、夕方のニュース番組キャスターをつとめる。2011年末に双子を出産し、2013年9月職場復帰。現在、ラジオ『堀江政生のほりナビ!』の火曜レギュラー、『橋詰優子の「劇場に行こう」』、『橋詰優子のサンデーかうも。』を担当。
<講演>
担当番組での業務について詳しい説明があり、アナウンス業務の楽しさと厳しさを生徒たちに伝えた。また、同社では聴覚障害者向けの解説放送に力を入れており、自らも『新婚さんいらっしゃい』の解説放送を担当していることから、解説放送にも興味を持ってほしいと訴えた。
また、担当番組以外のアナウンス業務について、「天災などへの対応に備え、泊まり勤務があり、誰かが必ず局にいる。何かあったときにひとりでも多くの命を救うために常に訓練している」と、その使命についても語った。

(4)「報道について」田中徹氏(朝日放送・報道局局長補佐)

<経歴>
1982年入社、報道局に配属。警察・司法担当後、「ニュースステーション」に1年派遣。「おはよう朝日です」などの情報番組経験も豊富。「サンデープロジェクト」にはディレクター、プロデューサーとして合計6年かかわる。
<講演>
ニュースネットワークや取材拠点などの紹介を通じて、ニュースが放送されるまでの仕組みなどをわかりやすく伝えた。また、「世の中には色々な出来事が起こっているが、放送時間は限られている。様々な要素があるが、"驚き"をひとつの基準として、ピックアップした出来事をニュースとして伝えている」との考えを示した。
質疑応答では、生徒から「特に朝のニュースでは要点をまとめて放送してほしい。夕方や夜のニュースでは学生が見やすいように工夫してほしい」との要望があり、「いかに分かりやすく伝えるかに注力しているが、どうしても高校生より上の年代を意識している面があるかもしれない。高齢者への配慮は進んでいるが、今後は若者への配慮も考えていきたい」との回答があった。
また、「質疑応答を通じて、テレビとインターネットでは情報の信頼性が違うと理解している生徒が多く、安心した」との感想もあった。

【質疑応答】
△=生徒、○=放送局、●=委員

【演出とやらせについて】

  • ● インターネットの掲示板などでは、『芸能人格付けチェック』の一部の出演者が答えをあらかじめ知っているのではないかとのうわさもある。高校生はどう思っているのか。
  • △ 制作者は面白い展開にしたいと考える。視聴者にはばれないので、あらかじめ答えを教えているのではないか。
  • △ 答えを教えていてもいなくても、出演者が上手に対応してくれると思うので、教えていないと思う。
  • ○ 答えを教えてはいない。制作する側からすると、正解でも不正解でも面白い展開になることが予想されるので、事前に教える意味が全くない。
  • ○ 事前に答えを求めるようなタレントに出演してもらうことはない。一流と呼ばれる出演者が間違ってしまうリスクもあるため、出演を断られることもあるが、正月の恒例番組として理解頂き、出演いただいている。クイズ的な要素もあるが、タレントの本当の姿はどうなのかという興味に迫ることが番組の趣旨だと考えている。
  • ● バラエティー番組であれば多少のやらせをしてもいいと思うか。
  • △ バラエティー番組は面白ければいいので、多少のやらせはあってもいいと思う。
  • ○ 視聴者と何をどこまで約束しているかが大事だ。視聴者が何を番組で楽しんでいるのかを常に考え、それを裏切るようなことをしてはいけないと考えている。
  • ● 『大改造!! 劇的ビフォーアフター』の出演者はどのように選んでいるのか。
  • ○ たとえスタッフの知り合いが出演したいと言っていても、番組のフォームから応募してもらうことにしている。

【罰ゲームといじめについて】

  • ● BPOには視聴者から、お笑いタレントへの罰ゲームなどが子どもたちのいじめを助長しているとの意見が寄せられることがある。お笑いタレントにとっては、いわゆる「おいしい」演出ではあるが、いじめを助長している面もあると思うか。
  • ● タブレット端末の回答を見てみると、「いじめを助長する」と考えている生徒はほとんどいないようだ。
  • △ バラエティー番組なので、多少の罰ゲームはあってもいいのではないか。
  • △ ちょっとしたことから発展していじめにつながることも考えられる。
  • △ 番組の中で行われていることであり、テレビの中だけの話だと理解している。学校でのいじめには全く関係ない。
  • ● 年配の人からは若い人に悪影響を与えるとの意見が多く寄せられている。
  • ○ もう少し「いじめを助長する」と考える生徒が多いかと思っていた。若い人たちが冷静に番組を見ていることがわかった。
  • ● 予想どおりの結果となった。番組での行為がいじめの方法を考えている人にヒントを与えてしまうとの意見もあるが、そういう人はいつの時代にもいる。
  • ● 制作現場では罰ゲームの程度について、どのように判断しているのか。
  • ○ シミュレーションをしっかりとしている。罰ゲームは軽すぎると面白くないが、やりすぎると危険だ。大がかりな罰ゲームについては、専門業者に頼んで事前に実験をしている。その後、プロデューサーやディレクター自身でチェックすることもある。
  • ○ 必要に応じて、事前にタレントに対し、仮に罰ゲームを受けることになった場合、どのような展開になっていくのかの概要は伝えることもある。

【録画視聴の実態について】

  • ● 深夜帯の番組を録画視聴している人はどれくらいか。(6~7割の生徒が録画視聴していると回答)
  • △ 深夜帯のアニメ番組が好きだが、夜の遅い時間に視聴することは親が許してくれないので、親に録画を頼み、休日の朝などに見ている。
  • ● 深夜帯のアニメ番組については、保護者からだけではなく、若い人からの意見も多い。

【ラジオについて】

  • ● ラジオ受信機を持っている人、およびラジコを使っている人はどれくらいか(受信機を持っている生徒が20人、ラジコを使用している生徒が10人程度挙手)
  • ● 今の若者は受信機もなく、ラジコの存在も知らない人がほとんどのようだ。どうすれば若者もラジオを聴くようになると思うか。
  • △ 有名な人や好きな人が出演していたら聴きたい。
  • △ もっと手軽に聴けるようになれば聴きたい。
  • △ テレビCMでラジオの魅力をアピールすべき。
  • △ テレビが無くなれば聴く。
  • ○ 高校生のラジオ聴取に関するリアルな現状を知ることができた。みんなに聞いてもらえるよう、頑張っていきたい。

【報道について】

  • ● 講演を聞いて、高校生のみなさんが思うよりニュースはあらゆることに気をつけて制作されていることを理解してもらえたと思う。インターネット上に情報があふれ、若者はテレビ離れをしている。放送が世の中に役立っていることを啓発し続けていくことも大事だと考える。
  • △ テレビのニュースは、色々な過程を経てから放送されていることが良く分かった。
  • ● 事前アンケートではテレビは偏向しているなどの意見もあった。テレビのニュースにどのような不満があるのか教えてほしい。
  • △ 放送時間が長いニュースがあるが、特に朝のニュースでは要点をまとめて放送してほしい。
  • △ 夕方や夜のニュースでは、もっと学生が見やすいような工夫が必要だと思う。

【インターネットとテレビについて】

  • ● テレビを見ながらインターネットをするのはどのようなときか。
  • △ スポーツ中継を見ながら、他の試合会場での試合情報を確認したりしている。
  • △ 「ニコニコ生放送」などにアクセスしながら、仲間とテレビ番組の良かった点などについて意見交換をしている。
  • ● 事件などがあった場合、テレビのニュースではプライバシーに配慮して匿名にしているが、インターネットでは実名が出ていることがある。そうした情報を知りたい場合はインターネットで確認をしているのか。インターネットとの付き合い方や問題点をどう考えているのか教えてほしい。
  • △ テレビでは放送されない動画や写真は、SNSなどを通じて見ている。
  • △ インターネット上の情報とテレビの情報が違うことがあり、混乱することがある。
  • △ インターネット上の情報には嘘の情報があるので怖い。
  • △ インターネットもテレビも好きなように使えばいい。
  • △ テレビとインターネットは別物と考えている。テレビの情報は先生から聞いているような感覚で、インターネットの情報は友達と話しているような感覚だ。
  • △ インターネット上には嘘の情報もあり少し怖いが、面白いこともたくさんある。テレビの情報はほぼ信用できるので、ニュースはテレビ、面白い動画などはインターネットで見ている。
  • △ テレビは速報があり、情報が早い。
  • △ インターネット上の情報には嘘も多いが、テレビが意図的に隠していることが分かる点が魅力だ。
  • △ インターネットニュースや新聞は見出しがあり、自分の見たいニュースを選べるところが利点だ。
  • ○ 放送局では、どの情報を出すべきか、出さざるべきか、様々な要素を基に判断している。少年犯罪の報道などでは、加害者であっても特定されないように配慮しているが、インターネット上の情報で特定されることもあり、判断が増々難しくなってきている。
  • ○ 一般の人であっても面白い素材を撮影できる時代になっており、ポジティブに考えると、放送できる素材が多くなったとも言える。これをテレビなりに取捨選択して使用することが大事であり、インターネットとは共存共栄の関係でありたいと考えている。
  • ○ インターネット上の情報は、テレビよりリアリティーがあるとの気持ちもある。テレビではなかなか本音が言えない面もある。インターネット上では、正しい、正しくないは別として本音が言えているような気がする。
  • ○ インターネットとテレビでは情報の信頼性に違いがあるということを認識してくれていて安心した。

【ニュースについて】

  • ● どうすればもっとニュースを見るようになるか教えてほしい。
  • △ 特に朝のニュースでは要点をまとめて放送してほしい。
  • △ 夕方や夜のニュースでは学生が見やすいように工夫してほしい。
  • △ 今のままでいい。
  • △ 使用する語句を含め、もっと分かりやすく伝えてほしい。
  • ○ いかに分かりやすく伝えるかに注力しているが、実際にはどうしても高校生より上の年代を意識している面もある。
  • ○ 現在の『報道ステーション』の前身である『ニュースステーション』を立ち上げたときの目標が、「中学生でも分かるニュース」だった。しかし、まだまだ工夫の余地があるようだ。
  • ○ 最近のニュースで理解できないことはあるか。
  • △ 政治、マイナンバー制度、安全保障制度を含む憲法改正論議などが難しい。
  • ○ 高齢者などには配慮しているが、中高生をあまり意識した番組作りをしていないかもしれない。
  • ● 学生が自由に使える時間が少ないことが分かった。ニュースには簡潔さを求めているようだ。
  • ● 家族と一緒に番組を見ているという人が8割ほどいたのが驚きだった。
  • ○ テレビのニュースは「先生の話を聞いているようだ」との意見もあった。偉そうに言っているように思われているのだろうか。考えたい。
  • ● 取材にあたり、取材対象に無神経な行動をしていると感じることはあるか。
  • ○ 犯罪であれ事故であれ、被害者への取材はつらい。放送局の都合を優先して取材してしまうこともあることは否めない。
  • ○ ひとりひとりの記者がしっかりとした取材や対応をしていても、取材する放送局が多くなってしまうと過熱感が出てしまう。近年は各局で調整することもあるが、難しい課題だ。
  • ● 特ダネ争いはあるのか。
  • ○ 報道は、いわゆるやじうま根性に支えられている面もある。これが無理な取材が生じてしまう要素になっているとも言える。
  • ● 視聴者は特ダネ争いにはそれほど興味がないのではないか。
  • ○ 世の中の人が知らない大事なニュースや、隠されたニュースなどを発掘するきっかけになっている場合も多い。

【汐見委員長の言葉】

まず、第一線で番組を作っている放送局の人が、第一線で番組を見ている若い人たちと話をする機会を持てたことを感謝したい。
ラジオが私の予想よりも若い人たちに聴かれていなかったが、とてももったいないと思う。意見交換では、ネットは会話しているような雰囲気がいいとの意見が生徒からあったが、ラジオは品を保ちつつ会話しているように感じる媒体である。声と音だけで想像する喜びはラジオならではであり、暖かさが伝わってくる。ぜひ、ラジオを聴く機会を確保してほしい。
生徒のみなさんはインターネットと放送を上手に使い分けしているようだ。テレビやラジオは公共性を大事にしながら、たくさんの人が関わり、責任を持って放送している。インターネットは様々な個人の意見が出ているのだと理解して、これからも上手に使い分けてほしい。
これから、18歳で参政権を持つ時代になる。テレビのニュースを政治のことなどを議論するきっかけにも使ってほしい。海外の学生は政治について常に議論している。テレビを活用して、政治についてもバラエティー的に気楽に議論をしてほしい。
BPOは視聴者と放送局をつなぐ役割をしている。みなさんには、批判をするだけではなく、一緒にいい番組を作っていく応援団になってほしいと考えている。

以上

2015年11月に視聴者から寄せられた意見

2015年11月に視聴者から寄せられた意見

パリの同時多発テロ事件で、民放各局がいまだに使っている「イスラム国」という呼び名は如何なものかという意見。BPO放送倫理検証委員会が出した意見書で、権力の番組への介入を批判したことに対して、「納得できない」といった反論や、「頑張ってほしい」といったエールまで、賛否両論の意見など。

2015年11月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,490件で、先月と比較して344件増加した。
意見のアクセス方法の割合は、メール68%、電話29%、FAX2%、手紙ほか1%。
男女別は男性73%、女性25%、不明2%で、世代別では40歳代28%、30歳代24%、50歳代19%、60歳以上14%、20歳代13%、10歳代2%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。11月の通知数は580件【44局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、18件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

フランスはパリで同時多発テロ事件が発生したが、民放局のニュースでいまだに「イスラム国」という呼び名を使っているが、如何なものかという意見などが寄せられた。
BPOの放送倫理検証委員会が出した意見書で、権力の番組への介入を批判したことに対して、「納得できない」といった反論や、「頑張ってほしい」といったエールまで、賛否両論様々な意見が多数寄せられた。
視聴者参加型のクイズ番組で、微妙な政治問題を賞金の出るゲームの対象にするのは、不謹慎だといった批判が寄せられた。
ラジオに関する意見は50件、CMについては41件あった。

青少年に関する意見

11月中に青少年委員会に寄せられた意見は113件で、前月から28件増加した。
今月は、「性的表現」が18件と最も多く、次に「暴力・殺人・残虐シーン」「報道・情報」がともに16件、「表現・演出」「視聴者意見への反論・同意」が14件と続いた。
「性的表現」は、子ども向けアニメ番組に登場するキャラクターの設定について多くの意見が寄せられた。「報道・情報」については、テロに関する報道が子どもに与える影響を懸念する声や、子どもへのインタビューについての意見が目立った。「視聴者意見への反論・同意」では、アニメ番組に残虐なシーンがあったとの視聴者意見について、「物語のテーマや背景を踏まえると必要なシーンである」「単なる残虐シーンではなく、命の尊さや平和を考える貴重な機会にもなり得る」などの意見が寄せられた。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • イスラム過激派ISについての報道だが、差別を助長するなどという理由でISもしくはISILという呼び方に改めるべきという国際的な風潮の中で、未だに民放各局が「イスラム国」という呼び名を用い続けているのはおかしい。そもそも、ISは表向きは過激な思想を持つイスラム教徒の集まりということになっているが、実際はイスラム教徒のふりをしているだけの人間が大半だ。その証拠にイスラム圏以外の国の人間もかなり多いらしい。差別を助長しかねない「イスラム国」という名称は使うべきではない。

  • パリのテロ現場に居合わせた当事者が携帯端末で撮影した動画を放送していた。その動画中、多数の亡骸が映っていた。亡骸の映像にはモザイクが施されていた。人が亡くなった現場の動画を、モザイク処理はしたとしても、簡単に放送してはいけないのではないか。

  • 欧州の移民問題についての報道で、移民や難民受け入れ制限を主張する政党を「極右」として報道していた。彼らの主張は自国の国益と相いれない犯罪者や、キャパシティーを超える移民や難民の大量受け入れを制限しようというものであり、主権国家としてごく当たり前のことだ。「極右」という表現を使うことは、印象操作だ。

  • ロシア軍機撃墜事件に触れた際に、有志連合によるISに対する連帯的な攻撃体制のことを指して「イスラム包囲網」という語を用いて解説を行っていた。「イスラム包囲網」という語は、ISとは関係のない無辜のムスリム国家に対する武力行使を連想させる。

  • 「BPOが政権の番組への介入を批判」というニュースを知った。私はBPOを強く支持する。そして政権による放送局への干渉を強く非難する。BPOはネット右翼や国粋主義者から多くの非難が来るだろうが、負けないでほしい。屈服しないでいただききたい。

  • NHK「クローズアップ現代」をめぐる意見書で、NHKを厳重注意した総務省を激しく非難したことについて、苦言を申し上げる。そもそも総務省および総務大臣は放送法の所管官庁であり、放送法に基づいてNHKを厳重注意したものであり、政府による個々の番組内容への介入という意見はお門違いと言わざるを得ない。総務大臣によるNHKへの行政指導は極めて適切な行為であった。NHK番組の問題発覚後に、BPOが即座に対応しなかったがために、総務省や政権が対応にあたったのであり、自らの責任を棚に上げて政府を批判することは、厚顔無恥な行為だ。

  • 「クローズアップ現代」について、BPOとして放送倫理違反があったとの見解をまとめて発表したこと自体は高く評価する。その中で政権による政治介入についての意見もしていたが、これについては全く納得できない。そもそも常日頃から、BPOがきちんとこういう放送倫理違反について厳しく各テレビ局に処分を出していれば、政治介入などが起きる余地もないはずである。各局の酷い偏向報道に関し、放置しているBPOの怠慢こそ非難されるべきだ。政府の批判をする前に、まずはテレビ局の身内の馴れ合い体質を厳しく律して、政治家から批判される余地を作らないことこそ、BPOがやるべきことではないのか。

  • 「クローズアップ現代~出家詐欺」報道に関する意見という、放送倫理検証委員会の決定内容について疑問を感じる。BPOというほぼ公的な機関が、決定内容の「終わりに」で突然「放送の自由」を盾に、政府や総務省からの批判を逆に非難しだすということは如何なものか。おかしい報道があれば、謙虚にききいれて是正するべきなのに、他者からの批判を受けつけないという姿勢は、BPOの存在意義を否定するものだ。マスメディアは普段より「報道の自由」を金科玉条のごとくかかげ、他者の非難ばかりしている傾向がある。外からの批判を「圧力」などと表現するようでは、BPOはマスメディアの手先だと言われても仕方がない。

  • 「委員長がんばれ」と言いたくてメールした。私は以前から政権が放送や新聞に圧力を掛けることは国家のあり方として極めて危険だと思っている。ましてや政党が何を言うかという怒りを覚える。放送内容についてはBPOに検証を任せるべきだ。BPOを応援している市民は沢山いる筈だ。政治家などに負けずに頑張ってほしい。

  • 先日発表されたBPOの意見書の内容を全面的に支持する。NHKの誤りをただすことは、BPOの本来の職責だと考える。また、放送の不偏不党を守る姿勢は、放送の本分であり、強いて言えば国民の「知る権利」を守ることに繋がる。その意味において、政権が行った諸々の所業に対して圧力そのものであると指摘したことは、まことに正当なものであった。この発表に対して、一部から批判する投稿があったと報道で知ったが、国民の大多数(サイレントマジョリティ)はBPOの理性ある見解を支持していると考えている。国民の「知る権利」を守るためにも毅然とした対応を堅持していただきたい。

  • NHK「クローズアップ現代」のやらせ指摘問題の意見書についてだが、BPOが設立して10年近くなるが、相変わらずやらせ、ねつ造が続いている。BPOがまったく機能していないと感じる。マスメディアは第4の権力であり、したがってBPOが政府を批判することは第4の権力であるマスメディアを援護していることにしかならない。権力内にいるBPOは今回の意見書をやり直し、政府・与党の部分を削除するべきだ。

  • 委員長の政権への反論はじつにまっとうだ。付記するものはない。委員長を非難する意見が多いそうだが、小生には理解できない。放送などのジャーナリズムは権力になびいてはならない。今のマスコミはおかしい。先の東日本震災後のマスコミは変質してしまった。BPOが権力からの壁になるようでは、日本のマスコミはジャーナリズムとは言えない。「BPOがんばれ」と言わねばならない現状は情けない。

  • ニュースを取り上げ、芸能人が論評する番組だが、維新の党分裂のニュースでは、一方的に大阪方に肩入れして、東京方を「おかげで復活当選できたくせに」などと罵っていた。この番組では、以前から大阪維新の会を擁護する意見やVTRしか放送されておらず、出演者も維新応援のメンバーで固められている。これから大阪W選挙まで時間のないなか、こんな番組が流れることは、公正な選挙に大きな影響を与える。

  • ニュースでドラマのように芝居じみた大袈裟なナレーションを映像に挿入する必要があるのか。ニュースはサスペンスドラマではない。事件・事故を大袈裟に誇張して報道することに、何の意味があるのか。アナウンサーが原稿を読み上げるだけで十分だ。物騒な事件をサスペンスドラマと一緒にしないでほしい。

  • 高齢者による交通事故の報道で、決まって「判断能力の低下」「認知症の可能性」について指摘している。しかし交通事故の要因は1件1件違っており、道路事情そのものが事故の引き金となることも少なくない。しかし実際の報道では他の要因を軽視して、事故をすべて年齢のせいにしてしまう。これは年齢ハラスメントと言えるのではないか。

  • 「流行語大賞」を紹介していた。候補は何十種類もあったにもかかわらず、「SEALDs」「戦争法案」「とりま廃案(とりあえずまあ)廃案)」など、反政府の意味合いを持つ言葉を強調していた。これ以上の偏向報道はやめるべきだ。

  • 男性が顔の皮を剥がされ殺害された事件で、通報した同居人が、逮捕や指名手配などを一切受けていないにもかかわらず、加害者であるかのような報道をしていた。「殺害された前日の晩、2人はケンカをしていた」や、コメンテーターの「顔の皮をはぐという行為は恐らく相手を独占したいという思いの表れ」などというコメントは、同居人が加害者であると断定しているようだ。不確定な要素と憶測で報道することは、報道番組としてあるまじき行為だ。

  • 女子高生殺害の事件で、容疑者の家宅捜査の際、「首絞めを題材にしたDVDが見つかった」などの情報とともに、「アニメキャラクターのフィギュアも発見」という、いかにもアニメオタクを犯罪者呼ばわりする放送があった。「アニメなんか見るような人間だから犯罪を犯すのだ」と言っているように見えた。

  • 「元議員、初公判欠席」を伝えていた。その際、世間を騒がせた前代未聞の「号泣会見」の映像をまたもや流し、映像の合間には彼の声を"効果音"のように使用していた。バカにしていることは明らかで、もはや"いじめ"とも受け取れるような演出だった。彼はすでにそれなりの世間的制裁を受けたはずだ。ニュースとして経過を伝えることは間違いではない。しかし必要以上に面白おかしく演出するべきではない。

【番組全般・その他】

  • 二択で多数派を選んで、多数派を選び続けて賞金を獲得するというゲーム番組だった。「飼うのは猫がいいか犬がいいか」程度の質問なら問題はない。しかし「改正安保法案が良いか、廃案か」という問いは問題がある。なぜ賞金を出すゲームに微妙な政治問題を入れたのか。何の疑問も持たず放送してしまうのは不謹慎だ。

  • "過激なペット"というコーナーで、中東の大富豪たちのあいだで猛獣をペットとして飼うことが流行していることを取り上げていた。猛獣を飼うことや密輸は、紹介された国でも違法であると述べた上で、このような深刻な問題を、おちゃらけた内容に仕上げていた。スタジオの司会者やゲスト達も、密輸ペット業者や猛獣をペットとして飼う大富豪たちが犯罪者であることを感じさせない笑顔やコメントだった。問題の重要さを軽視した内容となっており、不快だった。

  • 全てのスポーツ中継において言えることだが、人気が出てきたからといってマスコミによる取材が過熱しすぎている。フィギュアスケートやラグビー、テニス、高校野球、サッカーなど好成績をあげ人気がでてきた選手が出てくると、練習や試合直前の精神集中を行う大切な場所にまでカメラや取材陣が立ち入り、選手の妨害を行っている。選手達は練習不足や精神集中ができず、試合で好成績を出せない状態に陥いる。各スポーツの協会側の配慮が欠けている部分もあるかと思うが、せめて試合直前など、マスコミは選手に介入しないように心がけてほしい。

  • 10月末のハロウィーンで仮装した人が渋谷などの特定の地域に集中して、周辺の道路交通機関や利用者に迷惑をかけたが、テレビ局各社の取材が事態を悪化させていた。ハロウィーン前から「昨年はどうだった」等、「仮装して集まること」を呼びかけるような内容を放送していた。人が集まることで経済的な効果はあると思うが、混乱による怪我や揉め事、すりや痴漢など犯罪行為も比例して起こる。そういった事を局側は考えてほしい。

  • 埼玉県を題材にした漫画を取り上げていた。その中で「埼玉狩り」という言葉が使われていた。「ダさい」という言葉を「ダ埼玉」の略語として埼玉県を直接的に侮辱し嘲笑するために使用して以来、今日でも各局でこの言葉を使用している。このような特定の地域を侮辱し、嘲笑する言葉の使用は、当該地域に対する差別を助長するのみならず、そこに住む人の心を傷つけ、当該地域の出身者に対するいじめの原因にもつながる。

  • マイナンバー制度について「都市伝説をブッた斬る」として、副業が難しくなることに触れ、あたかも所得がバレないように副業する方法もあり、詳細については税理士などに相談するよう促す場面があった。ある意味、収入のごまかしや税法違反、更には詐欺の幇助ともとれる内容だった。

  • 岸和田市で暴走族が集まって暴走行為を繰り広げる事について取り上げていた。多数の警官が駆り出され、地元商店は迷惑行為を避けて店を閉めるという。それほど地元の人達に嫌われている暴走行為であるのに、出演者が「いいじゃないか、その日限りのことなのだし」「だんじりも同じようなものだ」などと擁護する発言をした。だんじり祭りと暴走行為を同列に論じるなどとんでもない。

  • 毎週楽しみに見ている。1時間があっという間に過ぎるほど、脚本もキャストも素晴らしい。久しぶりに、テレビドラマも捨てたものでないと思える作品に出会えた。これからも、このような質の高いドラマを制作して頂きたい。

  • 世の中には、病気と懸命に闘っている人がいる。その患者や家族は治療法がない病気に苦しみ、悲しみ、辛い思いを繰り返し、乗り越えながら1日を懸命に生きている。そういった病気をドラマに取り入れ、患者に対し誤解や偏見を招くようなフィクションとして放送し、患者や家族にさらなる精神的苦痛を与える。放送局からの患者家族に対する社会的いじめとしか思えない。制作者自身の家族がその病気だったとしても、素晴らしい作品だと家族に見せることができるのか。ドラマ制作に関わる方全員にお聞きしたい。

  • ディレクターのインタビューの模様が映されたが、一般の方に対してしつこい質問で相手の怒りを誘導し、自分の意見を押し通そうとする強引さだった。相手が喜んで質問に答えているならいいが、しつこさに辟易している様子も伺えた。このような手法でインタビューが行うのは如何なものか。一般の方の面白い意見を引き出すことが番組の主旨だが、相手を怒らせている様子、困っている様子さえも笑いに変えようとしている番組の作り方は問題がある。

  • 2歳児に喫煙をさせ、逮捕された親に関するニュースを放送していた。その後、他国で行われた児童虐待映像(親に無理やりタトゥーを掘られ泣き叫ぶ子どもの映像など)を次々に流した。日本以外の国の児童虐待の実態を報道する意図があったのかもしれないが、あまりにも痛々しい映像だった。そこまで放送する必要があるのだろうか。

【ラジオ】

  • 時事川柳のコーナーを楽しみにしている。毎回面白い川柳が披露され、笑ったり感心したりしている。しかしよく聞いていると、いつも同じ名前ばかりが読み上げられる。この日の放送では優秀作品の中から「大賞」が選ばれて賞金が贈られたが、受賞者はやはり常連の方だった。コーナーに投稿する人は限られていて、その中で上手な人は更に限られるのかも知れない。しかしコンクールならともかく、ラジオ番組である。優劣にこだわるあまり一部の熟練者の発表の場になっていることは残念だ。多少稚拙でも新しい投稿者の作品も紹介し、番組のフレッシュ化を図ってほしい。

  • この日のパーソナリティーは、まるでお酒を飲んでいるかのような口調で、他のメンバーとの会話もおかしかった。番組中に他のメンバーがたしなめる様子も聞いていて伝わってきた。酔った状態で進行してもいいのだろうか。

【CM】

  • 朝に子どもとテレビを見ていたら、いきなりホラー映画のCMが流れた。最新作らしい。恐ろしい台詞と最後のシーンは、大人としては怖くはないが、4歳と2歳の子ども達にはとても見せられなかった。小さい子達が見る時間帯に、何故あえてこのようなCMを流したのか。

  • 肺炎球菌の予防接種のCMが流れている。CMを見る限り、注射を打ちさえすれば全ての肺炎にかからないように受け取れる。しかし医師に聞いたところ、他の肺炎には効き目が無いとのことだった。視聴者に誤解を与えるようなCMは流すべきではない。

青少年に関する意見

【「性的表現」に関する意見】

  • 子ども向けアニメ番組で、男性設定のキャラクターが女性化して、意味ありげにバナナを食べるシーンがあった。子どもには意味が分からないかもしれないが、親として非常に不愉快だった。

  • 日曜日昼のバラエティー番組における素人の出演者の「下ネタ」が度を越している。昔から家族で見ている番組であり残念だ。方向性を変えてほしい。

【「暴力・殺人・残虐シーン」に関する意見】

  • バラエティー番組を見ていたところ、ドラマの番組宣伝スポットCMがあり、首を吊るシーンが放送された。視聴していたバラエティー番組は家族だんらんに適した番組であり、家族で見ていた人も多いと思われる。自殺シーンは青少年への影響が大きいので、過激な番組宣伝スポットCMを放送するにあたっては、時間帯や現在視聴者が見ている番組の内容などを踏まえた配慮をしてほしい。

【「報道・情報」に関する意見】

  • 東京都福生市で顔の皮膚がはがされた遺体が発見された事件の報道を見て気分が悪くなった。被害者の状態を詳細に伝える必要があったのか疑問だ。このような報道を子どもたちはどのように受け止めるのだろうか。大人の私でも具合が悪くなるような内容であり、成長過程の子どもたちの心に傷をつけてしまうのではないか。事実を伝えようとする報道の姿勢は分かるが、猟奇的な事件の殺害方法まで詳細に伝える必要はないと考える。

  • 老人が少女を自宅に連れ込んでいたずらしたニュースで、被害者である少女とその母親にインタビューしていた。顔は映さず、少女の音声は変えて放送していたが、事件内容を踏まえるとインタビューを放送したことが理解できない。

  • 糖尿病の児童に薬を与えないなど、適切な治療をさせずに死亡させたとして祈祷師が逮捕された事件のニュースで、亡くなった児童の同級生にインタビューしていた。インタビューを受けている児童は今にも泣きだしそうだった。同級生が亡くなってショックを受けている時に聞く必要があるのか疑問だ。亡くなった児童のことを聞くなら、担任や校長先生など、大人に聞けばいいのではないか。

第98回 放送倫理検証委員会

第98回–2015年11月

NHK総合の『クローズアップ現代』”出家詐欺”報道に関する意見の通知・公表について意見交換…など

第98回放送倫理検証委員会は11月13日に開催された。
11月6日に当該局への通知と公表の記者会見を行った、NHK総合の『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見について、出席した委員長や担当委員から当日の様子が報告され、意見交換が行われた。

議事の詳細

日時
2015年11月13日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、香山委員、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1.NHK総合の『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見を通知・公表

寺院で「得度」の儀式を受け法名を授けられると、家庭裁判所の許可を受けて戸籍の名を法名に変更できることを悪用した"出家詐欺"が広がっていると伝えた、NHK総合テレビの『クローズアップ現代』に関する意見(委員会決定第23号)の通知と公表の記者会見が、11月6日に実施された。
委員会では、当該局の当日のテレビニュースを視聴したあと、委員長と担当委員から、記者会見での質疑応答の内容などが報告され、意見交換が行われた。
多くの全国紙が一面で報道するなど、大きな反響があったことについて、「総務省や自民党への批判は、事案に則して当たり前のことを指摘しただけなのに、予想外の反響に率直に驚いている」という声が、多く聞かれた。「番組の取材・制作に関する事実認定や検証についても、きちんと読んでほしい」などの意見も出された。
さらに、事務局からは、意見書に対してこの時点で80件を超える視聴者意見が寄せられ、60件以上は「政府や自民党を批判するのはけしからん」という内容だったが、その一方で、意見書の指摘を応援・激励する意見も十数件あったことが報告された。視聴者意見のほとんどは、通常、番組や放送局、BPOなどに対する苦情・反論・批判で占められており、異例のことである。

2.委員会運営規則の一部見直しについて検討

委員会の運営規則を、現状に即した形に見直す問題について、手続きに関するメモや改正案のたたき台などが、事務局から提出された。
審議や審理に入る前にその適否を議論する「討議」や、審議の際にも原則的に行っているヒアリングについて、運営規則に明文化する必要があるのではないかという議論が行われた。また、BPOと各放送局が交わしている「放送倫理検証委員会に関する合意書」が、運営規則と密接に関連しているため、その調整をどう図るべきかについても、意見が交わされた。
意見交換の結果、運営規則の見直しは、委員会の現状に適合する必要最小限のものにとどめることで一致した。担当委員と事務局とで細部の表現などを修正し、次回委員会で改正案が了承される見通しとなった。
今回の検討は、これまで慣例的に行われてきたものを運営規則に明示し、一段と分かりやすい委員会運営に努めるという意向がまとまったのを受けて、第95回委員会(2015年7月)から議論が続いているものである。

以上