第23回 放送倫理検証委員会

第23回 – 2009年3月

虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組「バンキシャ」

戦時性暴力を扱ったNHKの「ETV2001」事案 …など

第23回放送倫理検証委員会は3月13日に開催された。まず、昨年の11月に日本テレビ「真相報道バンキシャ!」で、岐阜県の土木事務所が架空工事を発注し裏金作りが行われているとの匿名の男の証言が放送されたが、県による内部調査と当該局の再調査の結果、誤報であることがわかった事案。明らかに虚偽報道であるので審理入りすることにした。
NHK「ETV2001」事案は、当委員会が出した質問に対してNHKから回答が届けられたので、その内容について意見が交された。その上で委員会の決定文の作成についていくつかの問題点が議論されたが、結論は次回以降に持ち越された。
東金市女児殺害事件の知的障害がある容疑者に対する報道は放送倫理に違反しているのではないかと問題提起された事案については、放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)で扱うほうがより適当であると判断して、この討議結果を同委員会に伝えることにした。
最後に、バラエティー番組全体に見られる問題点を「バラエティー論」として取りまとめる事案について、担当委員から番組の分類や基本的な考え方をまとめた案が提出された。

議事の詳細

日時
2009(平成21)年 3月13日(金)午後5時~8時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組「バンキシャ」

日本テレビの報道番組「真相報道バンキシャ!」(2008年11月23日放送)で、全国の自治体の裏金をテーマに4府県をとりあげて放送した。そのなかで建設会社役員の男の証言が紹介され、岐阜県で土木工事の発注に絡み裏金作りが行われていることがスクープとして報じられた。それを受けて岐阜県は土木事務所に対して内部調査を行ったが、そのような事実は見つからず、日本テレビに調査と訂正を求めた。日本テレビが再調査した結果、建設会社役員の証言は虚偽であることが判明し、訂正放送が行われた事案。なお、この問題は日本テレビの社長の辞任にまで発展した。

<主な委員の意見>

  • 社内教育が低レベルになり現場の質がものすごく落ちている。これは放送だけではなく活字でも起こっている。メールを送るだけでことが済むという現象が日本の総社会的状況だ。人間的接触の大切さを再認識すべきだ。
  • 日本テレビの訂正放送等のコメントを聞いていると、日本テレビが被害者だと思っているのではないかと疑いたくなる。
  • 報道番組を作るプロセスが変わってしまった。常駐とは言いながら外部スタッフの比率が高いことは教育問題も含めて大きな問題だ。今の報道番組がどう作られているのか根本部分を洗うべきではないか。
  • 日本テレビは検証番組を作るべきだ。
  • 民放の制作現場は人、金、モノがますます厳しくなっている。報道番組が増える4月以降、各局にとっても、ますます切実な問題である。
  • 情報に対する飛びつき方が浅ましい。何を根拠に信用したかが子供っぽい。裏取りを徹底すべきだ。
  • 誰が悪いということではなく、報道現場がいかにグズグズになっているかを検証すべきだ。
  • メディアの世界、特にテレビ各局はこの問題に対する危機感が薄いのはなぜか。この放送が原因で建設会社役員の逮捕に至ったのだという認識が低いのではないか。
  • なぜ常識的なチェック機能が働かなかったのか。実効的な防止対策が必要だ。

以上のような意見を踏まえて、なぜ虚偽放送がされてしまったかの原因・背景や社会に与えた影響の大きさを考えた場合、重要な事案であり審理入りすることを決めた。さらに事実関係の調査については、特別調査チームを初めて組織することにした。

戦時性暴力を扱ったNHKの「ETV2001」事案

8年前に放送されたノンフィクション番組『ETV2001「シリーズ戦争をどう裁くか 第2回問われる戦時性暴力」』の制作過程において、政治的な圧力により内容が不当に改変されたと関係者が主張している事案について、3回目の審議(討議を含めると7回目)を行った。
まず、当委員会が出した5項目の質問書に対する回答がNHKから届けられたので、それについて意見がのべられた。
次に、NHKから提出された回答書を踏まえた上で、決定文の作成について議論された。具体的に話し合いがおこなわれたが最終結論に至らず、継続して審議することにした。

東金市女児殺害事件の容疑者に対する報道について

東金市女児殺害事件に関する一連の報道は、知的障害がある容疑者に対する人権侵害の疑いがあり、取材方法や放送のあり方が問われるべきだとして問題提起された事案。事前に配布された資料や映像をもとに討議した結果、当委員会で取り上げることも可能だが一般的・総論的な議論にならざるを得ない。このテーマの重要性を考えると、本事案に即した具体的な議論が必要なので、放送人権委員会で審理するほうがより適当であろうと判断し、この討議結果を同委員会に伝えることで一致した。

バラエティー番組の問題点について

バラエティー番組全体に見られる問題点を「バラエティー論」として総括しようとする事案については、担当委員から対象になっている15番組の分類、今後の議論の進め方等について提案がなされた。具体的な議論は次回以降に持ち越されることになった。

以上

第22回 放送倫理検証委員会

第22回 – 2009年2月

戦時性暴力を扱ったNHKの「ETV2001」事案

ブログを捏造して放送したクイズバラエティー番組 …など

第22回放送倫理検証委員会は2月13日に開催された。まず「ETV2001」事案で、当委員会が出した質問書に対するNHKからの回答が間に合わなかったと事務局から報告があり、その後、若干の意見交換を行った。
続いて新しく報告された3件の事案を検討した。 (1)最初はブログのウソを暴くというコンセプトのクイズバラエティー番組内のコーナー企画で、制作スタッフがブログを捏造して放送した事案、(2)次に金融ジャーナリストが特定の金融機関が破綻しかねないと解説し、誤解を与えたとしてお詫び放送したニュース情報番組、(3)最後に街頭インタビューで番組制作スタッフを出演させたことが発覚したバラエティー番組についてそれぞれ討議した。各番組とも個別の事案としては取り上げないことにしたが、2つのバラエティー番組は、バラエティー番組全般に見られる問題点についての意見をバラエティー論として取りまとめる際に改めて議論の対象とすることにした。

議事の詳細

日時
2009(平成21)年 2月13日(金)午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

戦時性暴力を扱ったNHKの「ETV2001」事案

8年前に放送されたノンフィクション番組『ETV2001「シリーズ戦争をどう裁くか 第2回問われる戦時性暴力」』の制作過程において、政治的な圧力により内容が不当に改変されたと関係者が主張している事案について、2回目の審議(討議を含めると6回目)を行った。 今回は、当委員会がNHKに出した質問書に対する回答をもとに審議する予定であったが、NHKからの回答が当委員会が指定した期限に間に合わなかったので次回に持ち越すことになった。事務局からはその間の経過報告と次回の委員会までに間に合わせるようNHKに要請した旨の報告があった。 引き続き、若干の意見交換を行った。

ブログを捏造して放送したクイズバラエティー番組

インターネットで閲覧できる情報のウソを検証しようとするクイズ形式のバラエティー番組で紹介されたブログが、実は、番組の素材として使用するために制作スタッフが作ったものであったという問題。当該局からは、参考にした実在のブログのコピーが提出された。各ブログの放送使用許可が得られなかったので、制作スタッフが6つのブログをネット上に捏造して放送した制作・演出手法の適否を中心に討議された。

<主な委員の意見>

  • ネットもメディアである。テレビというメディアが他のメディアを扱うときの常識の欠如。なぜこういう企画が通るのか
  • 何で大騒ぎするのか。被害は何なのか、何もないではないか。どこかで歯車が狂ってきている。
  • しかし、捏造といえば捏造というカテゴリーだ。
  • 大した問題じゃないしレベルが低いから放っておけばいいというのとはちょっと違う。番組制作の安易さに対して苦言を呈したい。制作費がないのならば知恵を働かせるのがプロだ。ブログ上のウソを責めるような企画ではなく、他に目を向けて頑張ってほしい。
  • あちこちから捏造と言われると制作者が萎縮し、あれもこれもやめようとなって良い番組が消えてしまう。制作者が萎縮する傾向になるほうが恐い。
  • ネットは個人の書き手に全責任が委ねられ、読む方もそれを前提にするメディアだから、ウソがあるからテレビがそれを叩くという企画自体がおかしいのではないか。
  • 背後にウェブ世界の信頼性という大きな問題を抱えている。放送と通信の一律管理のような、テレビ番組だけで云々できない局面に本質があるのではないか。

以上のような意見交換の結果、ブログの捏造が否定されるべき手法であることは間違いなく、その限りにおいては当該局に反省を求めたいが、細かい部分の見せ方の問題であり、それによって誰かが被害を被ったわけではない。必要以上に捏造と騒ぐと制作者が萎縮するという意見もあり、個別の事案としては取り上げないが、バラエティー論の一環として他の事案と共に改めて検討することにした。

特定の金融機関が破綻しかねないと誤解を与えたニュース情報番組

この事案の経緯は次の通りである。 ローカル局の夕方に放送されているニュース情報番組内の、金融ジャーナリストが担当しているコーナーで、ある金融機関の経営状況について解説をした。その際、断定はしていないものの、当該金融機関が「このままでは債務超過に陥り破綻しかねない」という趣旨のコメントがあり、関係者から抗議が寄せられた。コメンテーターがリードするコーナーであるが、当該局の裏打ち取材がされないまま金融機関の破綻の恐れという重大なコメントが放送された制作のあり方に問題がある。ただ、当該局は、視聴者に不安を与え、取り付け騒ぎが起きるおそれなどを考慮して、速やかにその金融機関と対応を協議した。翌朝、当該局は金融機関が開店する以前に3回、さらに当該番組内でもお詫び放送を行った。

<主な委員の意見>

  • 丁寧にお詫びしたのは良いが、金融が国際化している視点に立てば翌朝ではなく、その日のうちにお詫びすべきではなかったのか。
  • 著名人やタレント依存という制作者の姿勢がまん延している。
  • 言論表現の自由があっても、出演者は例えば誹謗中傷やわいせつコメントはしないという倫理観をある程度もっているが、それ以外のところになるとかなりタガが外れている。
  • コメンテーターは誤解のないように言葉には気をつけるべきだが、この件で内容的に全く根拠のないことを言ったわけではないと思う。そのことを考慮しないとおかしなことになる。
  • デリケートな問題を乱暴に扱ってしまったということだが、番組としてはコメンテーターに丸投げしているような作り方をしているので、問題が起こる可能性は常に持っているのではないか。
  • コメンテーターが複数いると、会話のなかでまぎれたり修正されることもあるが、ひとりの場合はミスに気がつきにくいし、局の意見だと思われてしまうなど全然違う意味合いを持ってしまうおそれがある。

生放送におけるコメンテーター発言と放送責任についてはどの放送局でも起こりうる問題で、特にこの事案は対応を間違えると社会問題化する危険をはらんでいたが、視聴者に対して速やかに対応し、再発防止に向けて業務改善策を講じ、既に番組審議会への詳細な報告も行われているので、当委員会としては取り上げないこととした。

制作スタッフにやらせのインタビューをしたバラエティー番組

ローカル局のバラエティー番組で、出演タレントが街頭ロケで女性の通行人の年齢当てをする。その通行人にはスポンサーが提供する景品が贈られるコーナー企画。ところがインタビューされたのは制作スタッフの女性であった。再放送時に、インタビューされた人の名前と制作スタッフの名前が同じであることに視聴者が気づき、やらせが発覚した。当該局は記者発表をし、社内に調査委員会を立ち上げ、番組を打ち切るなどの処置を取った。

<主な委員の意見>

  • 当該局の対応は過剰反応ではないか。調査委員会を立ち上げてどのようなことが報告されるのだろうか。
  • ローカル局にとって1社提供スポンサーが大切なのはわかるが、視聴者対策よりもスポンサー対策が優先しているのではないか。それに倫理問題が利用されているようにもみえる。
  • インタビュー相手がいないならば、「今日はスタッフに聞きました」で済む話ではないのか。
  • 欧米ではやらせにならなくても日本はちょっと神経質なぐらい厳格にやらせにしてしまう。そこまで目くじら立てて取り上げる気はない。
  • やらせとか捏造という倫理を問うキーワードが便利なものとして流通していて、テレビたたきの便利な道具に使われている。
  • 放送局の営業や代理店は、その番組が買い切りのスポンサーになった瞬間に番組全体がCMであるかのような錯覚を持つようになることがある。その錯覚が問題だ。
  • 通行人にインタビューするくらいのことに手抜きをするべきでない。現場の一人一人が横着であり、その横着さと安直さがまん延しているのが許せない。
  • このようなリアクションでは、局は何も良くならない。視聴者のほうを向いていないし、これでは自らの制作活動への自省がないから、今後、も起きてくるのではないか。

以上のような意見交換の結果、単純なヤラセではあるが、ロケ現場の選び方から人名スーパーの出し方まであまりにも稚拙であり、悪意すら感じられない。当該局は過剰とも思われる対応をしているが、番組制作の基礎を踏まえて、横着せずに制作してほしいというのが委員会の希望である。単体の番組としては取り上げないが、バラエティー論を議論するときの材料に加えることにした。

最後に、事務局から、最近の視聴者意見の概要報告、3月26日に開催されるBPO年次報告会の案内があった。

以上

第21回 放送倫理検証委員会

第21回 – 2009年1月

建設中のマンションをPR的に扱ったバラエティー番組

戦時性暴力を扱ったNHKのノンフィクション番組 …など

第21回放送倫理検証委員会は1月9日に開催され、まず建設反対運動が起きているマンションをPRのように扱ったのではないかとされるバラエティー番組について討議した。ある街の魅力的なスポットをランキング形式で紹介するという当該番組のコンセプトと、具体的な番組の問題点についていろいろな意見が出されたが、個別の事案としては取り上げないことにした。
NHKの戦時性暴力を扱ったノンフィクション番組について5回目の討議を行った。8年前の番組ではあるが、放送倫理上の問題がある可能性があると認められたので審議入りすることにした。
昨年9月の委員会で、バラエティー番組の演出方法や質の問題について事例を積み重ねた上で検討することを決めた件につき、事務局から中間報告が行われた。

議事の詳細

日時
2009(平成21)年 1月 9日(金)午後5時~8時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

建設中のマンションをPR的に扱ったバラエティー番組

この番組のコンセプトは、ある街で見つけたモノの良い面だけを捉えてランキング形式で紹介することなので、結果としてPR的な手法になることはやむを得ない。また、マンション建設の是非がテーマの番組ではないし、一方の主張だけを取り上げたともいえない。しかし、1位としたそのマンションを取材するときに係争中であることに気がつかなかった、というのは明らかに当該局の取材不足である。身近な街の紹介をコンセプトとする同種の番組は何本か放送されているが、十分なリサーチと、広告宣伝とは一線を画した毅然とした制作姿勢が求められる。
以上のような意見を踏まえて討議の結果、当該番組自体に放送倫理上の問題があるとまではいえず、委員会としては取り上げないことにした。

委員の主な意見は次の通り

  • 今までのこの番組の流れから見て今回が特別とは思わない。広告を模したつくりがコンセプトなので、PR的な番組にならざるを得ない。
  • 六本木など再開発の流れの一環として、街全体の大きな変化としての取り上げ方ではないか。たださまざまな配慮が足りなかった。
  • 番組制作過程においてPR的な要素を、疑おうと思えばいくらでも疑えなくはない。そのような番組を放置しておいていいのだろうか。
  • 放送法とか番組基準で考えていくと、広告と番組の境界線を壊していて、ある意味ではテレショップ番組より質が悪い。この番組だけをあげつらうんじゃなくて、全体的にチェックしていかなければいけない。
  • 報酬が伴われて番組にしたとすれば問題だが、番組制作者が本当に価値がある情報だと判断して紹介するのであれば問題はない。放送の中で商品を紹介することに対して、何がいえるかはかなり難しい。
  • 例えば、番組で書籍をストレートに紹介するとPRになるが、これは私にとっては役に立った書籍ですということと、これはこの地域にとって活性化にとても役に立つ再開発ですということ、PRと番組の境目がどこにあるのか難しい問題だ。
  • この種の番組は他にもたくさんある。店に入っていってコマーシャルベースで商品を紹介したりする。コンセプトがゆるくなっている。
  • 番組を通して見て、マンション建設を1位にしたことが悪いかというとそうともいえない。放送倫理の問題として何かがいえるのかというと難しいと思う。ただ、係争中のものを番組の中で取り上げて積極的に評価をして良いのかは疑問だ。
  • 視聴者サービスなのか広告まがいなのか、その境が難しい。制作者のセンスが重要だ。宣伝くささが立ちすぎると、番組の魅力がなくなるから必然的に視聴者が離れる。
  • このマンションを1位に持っていったのは作為的だ。つまり、1位以外はほとんどが食べ物店やせいぜい花屋くらい、店ばかりを紹介しておいて突如このマンションが1位はあまりにも不自然だ。
  • 番組を作るに当たって係争中ということを知らなかったというのはおかしな話だ。現地の人はみんな知っているはず。当該局は1週間の調査をしたとあるが、本当に知らなかったならば取材・調査不足だ。
  • このマンションを紹介するなら、値段や間取りと並んで係争中であることも必要情報として放送すべきではないか。
  • あの番組のコンセプトは紹介するものを全て好意的に捉えているから、マイナス情報は出せない。
  • 街作りをどう見るかの問題だ。再開発をして街を作っていくのがいいという人もいれば、今までの環境が変わるのがイヤだという街作りもあって、どちらがいいとは言い難い。

戦時性暴力を扱ったNHKのノンフィクション番組

戦争と裁判をメインテーマに、戦時下における性暴力を扱った8年前に放送されたノンフィクション番組(『ETV2001「シリーズ戦争をどう裁くか 第2回問われる戦時性暴力」』)。制作過程において政治的な圧力により内容が不当に改変されたと関係者が主張している事案について5回目の討議が行われた。
これまでの議論を踏まえて担当委員によって作成された、放送倫理上の問題点を整理した文書を元に討議がなされた。その結果、当該番組の制作プロセスを、NHKが自ら公開している文書および最高裁判所の判決により検討する限り、放送の自主性・自律性がどこまで守られたのかについて疑いが残ると認められるので、放送倫理上の問題がありうるとして、事案の審議入りを決めた。
今後の審議のため、NHKに補足的な説明を求める質問書を送ることにした。NHKの回答をまって、さらに議論を進めることになった。

まとめて議論する予定のバラエティー番組についての中間報告

委員会運営の問題点や新年度に向けての課題等について意見交換を行った。
まず、事務局から次のような現状と運営上の問題点を提示した。

第17回の委員会において、個別に審議するほどではないが、放送全体の倫理水準という意味では見過ごせないバラエティー番組が散見されるので、まとめて検討することを決定した。その後、討議の対象になりうるとしてリストアップされた10番組について、事務局から報告された。
今後は、担当委員を決めて番組の分類、分析等を行い、具体的な検討資料が作成された段階でその取り扱いを討議することにした。

以上

第20回 放送倫理検証委員会

第20回 – 2008年12月

歴史上の人物の扱いに問題があった深夜のバラエティー番組

事実誤認があり訂正放送したニュースバラエティー番組 …など

第20回放送倫理検証委員会は12月12日に開催され、まずヒトラーを偉人として扱ったバラエティー番組について討議した。他愛ない深夜のミニ番組といえども、制作・放送には十分な注意を払うべきだとの認識で一致した。
続いて、保育園の土地が行政代執行されたことを伝えた放送に事実誤認があり、後日、訂正放送が行われたニュースバラエティー番組については、当該局に出した質問書の回答をもとに2回目の検討を行った。
以上2つの事案は、第17回の委員会で出した方針に従い、バラエティー番組の質あるいは制作のあり方の問題として、事例が集まった段階でまとめて議論する対象に加えるべきであるとの結論になった。
次に7年前に放送された戦時性暴力を扱ったノンフィクション番組について、4回目の討議が行われたが、結論は次回以降に持ち越された。

議事の詳細

日時
2008(平成20) 年12 月12 日(金) 午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

歴史上の人物の扱いに問題があった深夜のバラエティー番組

女性アイドルタレントが世界の「偉人」について、学校形式で簡単な紹介をした後に、似顔絵や物真似を披露する深夜の短いバラエティー番組。若いタレントによる軽いタッチの番組とはいえ、偉人としてヒトラーを取り上げたことは一般常識に照らしても問題がある。また、制作会社や当該局側のチェック体制が機能していなかった。しかし、ミスを認めて自主的にお詫び放送をしているので、個別には取り上げないことにした。

委員の主な意見は次の通り

  • タレントは台本通りに演じただけということで許されるのか。多額の出演料がタレント会社に流れているのだから、責任の一端があるのではないか。
  • タレントが台本を見て「私にはできません」と拒否することは現実的には難しい。
  • 相当な人数が番組制作にかかわっているのに、ヒトラーをあのように表現して誰も何も言わないことが怖い。
  • この放送は確かに問題であるが、ただし、強引に封じ込めると逆に思想を統制する危険を感じる。
  • 思想ではなく無知の問題。思想以前の問題だ。
  • 外国から、日本にはタレントはいるがアーティストはいないといわれてしまう。文化の質として低い。
  • 外部からの問題指摘ばかりで、局内から「おかしいよ」という声が上がらない。パッケージ番組をそのまま放送する体制に問題がある。

事実誤認があり訂正放送したニュースバラエティー番組

保育園が園児用のイモ畑に使用している土地に対して、道路建設用地としての買収に応じなかったので、強制収用の行政代執行が行われたことを伝えた番組について前回に続いて討議した。
この事案についてはいくつかの疑問点があったため、前回の討議の後、委員会が当該局に対して質問書を送り、回答を得て再度討議した。

<委員会から当該局への質問(骨子)>

  • 放送の冒頭で、当該番組のジャーナリストと称する人物が、高速道路を背景に、「高速道路建設をめぐってある騒動が巻き起こりました」と述べる映像がありますが、背景となっている高速道路は、全く別な場所の高速道路の映像であるとお聞きしております。
    視聴者はその現場の映像であると認識して視聴するものと思われますが、問題はないとお考えになったのでしょうか。なぜ、全く別の高速道路を背景とした映像を放送したのか、その理由をお聞かせ下さい。
  • 10月19日の放送で、保護者と思われる人々と行政代執行を行う人々がもみ合う映像の後、「騒動となったのは保育園の野菜畑」というナレーションとともに、園児たちが畑の中に並んで立っている映像が使用されています。
    その後の場面で園児が泣いている映像が使用されており、視聴者は、行政代執行の日に園児たちが畑に並び、園児たちの見ている中で行政代執行が行われたかのように認識するのではないかと思われます。また、保育園が園児たちをことさらに行政代執行の現場に連れて行ったかのような誤解を生じさせる可能性も否定できません。
    実際にスタジオでのトークは、そうした誤解に基づいて進められています。貴局が、このようなつなぎ方をした理由、またその結果、上記のような誤解を生じさせたと思われることについてのご意見をお聞かせ下さい。
  • 2に関連して、貴局は、訂正放送で、「保育園側が園児たちを現場に連れて行き並ばせたかのような表現がありましたが、そのような事実はありませんでした。」と訂正をされています。この訂正放送により、保育園が園児を現場に連れて行っていないという事実は明らかになったということになるかもしれませんが、園児たちが畑に並んでいた映像はいつの映像で、なぜ代執行の現場の映像と関連づけられて放送されたのか、スタジオのコメンテーター達の発言については訂正の必要がないのかは明らかにされておりません。
    これらの点について、訂正放送で詳しく説明されなかったのは、どのような理由によるものでしょうか。
  • 行政代執行が実施された経緯として、収用委員会が今年3月に収用裁決をしたことに対し、テロップで、保育園側が収用取消しを求め裁判を起こしたが、地裁で棄却されたため控訴し、今月末に高裁で予定されている決定を待つことなく、行政側が行政代執行を実施したなどの説明がなされ、同様のナレーションが流されています。一方、このVTRを受けてスタジオでは、法律家のコメンテーターが、保育園は行政代執行を止めるための仮処分をしていたが、地裁で棄却される決定が出たため即時抗告をしていること、即時抗告には執行停止を止める効力はないことなどをコメントしています。
    強制収用の裁決の取消しを求める裁判(取消訴訟)と土地の明渡しの執行停止を求める裁判(執行停止の申立)とは、別の裁判であり、手続きも全く異なります。番組制作者には、これら2つの裁判についての混同ないし誤解があるように思われます。なぜこのような混同が生じる結果となったのでしょうか。
  • 4と関連しますが、地裁の判断と高裁の判決予定について、訂正放送をするような誤りが生じた理由、訂正放送をするに至った経緯についてご説明下さい。
    また、訂正放送では、「強制収用の取消しを求めた裁判が地裁で棄却されたとお伝えしましたが、収用裁決の取消しの裁判に関しては、まだ裁判所の判断が下されていません」というだけの訂正がなされています。なぜ2週間後に高裁の判決が予定されていると放送したのか、この収用裁決に関する法的な争いは正しくはどのように進められているのかについて、視聴者に与えた誤解はこれだけの訂正放送で解消したとお考えなのでしょうか。ご意見をお聞かせ下さい。

<当該局の回答(骨子)>

  • 当該番組では、問題となった菜園の状況が既に収まっていたことなどから現場の取材は行なわず、VTRの冒頭に問題の象徴として高速道路を背景とした番組リポーターの導入コメントを都内で撮影し紹介しました。
  • また、園児が多数並んでいる映像は前日の映像と認識した上で当日の映像と組み合わせて経緯を紹介しました。いずれも初めて見る人には誤解を招く余地があり、映像の収録場所や日時の字幕表示をより詳しくすべきだったと考えています。
  • また、土地の収容をめぐる2つの裁判を原稿作成者が不注意にも混同してしまったことは事実で、これをチェックすべき番組デスクやプロデューサーも見逃してしまったことについては深く反省しています。
  • 訂正放送については保育園側との話し合いに沿って行ったものですが、貴委員会から指摘されたように、一般の視聴者にとっては説明不足の感は否めず、特に2つの裁判はそれぞれの進行状況を区別して紹介した方がより良かったと考えています。それらも含め、訂正放送の在り方については、今後社内であらためて検討することにいたしました。
  • 今回の事案は今後各部局が研修事例として共有し、会社全体で再発防止と意識の啓発に努めてまいります。

<委員の主な意見は以下の通り>

  • ある新聞報道では当該局の経営者は他の局に比べるとバラエティーについて真剣に考えているように伝えられている。にもかかわらず、回答書には番組の出演者を守るという意識があると感じた。それがある限り議論し難い。
  • テレビ界全体が制作費カットの中で、主体的な取材ではない映像や情報を2時間のワイド番組の中で何度も使い、コメンテーターが面白おかしく見せるカタチで制作費を安く上げる傾向がある。これからはどんどん起きてくる問題だ。
  • 今から考えればこうすべきだった、と回答しているのでそこで議論が止まってしまうが、訂正の仕方がおざなりすぎることが気になる。本当に認識しているのか疑問を感じる。
  • 問題が起きたときの局の対応がマニュアル化し、BPOを意識して直ぐにお詫び放送をし、回答書はこう書けば大体スルーされるだろうというパターンができつつあるのではないか。そうすると本質的な問題がいつも置き去りにされてしまうことになる。
  • 子供たちが並んでいるカットは意図的ではないのか。回答書には、なぜこういうつなぎ方をしたのか、何を狙ったかの肝心な説明がない。
  • 情報バラエティー番組でニュース素材を扱う場合は、報道の人とは別のマインドで制作するのだろうから、正確性において報道局とは意識の上で差が生じるのではないか。
  • キャッチーなものを優先するのは、この番組特有のことではなくもっと根本的なこと。それを否定的に捉えて、キャッチをとることを仕事にしている制作現場の人たちに対して意見を求めてもかみ合わない。BPOとの距離感を広げるだけになる。
  • 取材して直ぐに放送するのではなく、そのプロセスに慎重さがあればどれも防げる問題なのに、慎重さを発揮できないのは個々人の能力を越えた何かがベースにあるからではないか。その結果として言い訳的な回答書になってしまう。

討議の結果、事実誤認については不十分ながらも訂正放送がされており、委員会の質問に対して制作現場にヒアリングをした上で回答し、改善の方向がみられるので、個別の事案としては取り上げないこととした。
ただし、継続議題としているバラエティー番組に関する事例のひとつとして蓄積し、改めて議論する対象にすることとした。

戦時性暴力を扱ったノンフィクション番組

戦争と裁判をメインテーマに、戦時下における性暴力を扱った7年前に放送されたノンフィクション番組について4回目の討議が行われた。制作過程において政治的な圧力により内容が不当に改変されたと関係者が主張している事案。 主に、委員会の役割や権限との関係でどういう形で取上げられるかについて検討した。担当委員が合議のうえ作成した原案が出され、かなり議論は具体化してきたが、委員間の考え方の温度差を埋めるにはまだ不十分であったので次回に持ち越すことにした。

以上

第19回 放送倫理検証委員会

第19回 – 2008年11月

事実誤認があり訂正放送したニュースバラエティ番組

戦時性暴力を扱ったノンフィクション番組 …など

第19回放送倫理検証委員会は11月14日に開催された。ニュースバラエティ番組において、「保育園が畑として使用している土地が行政代執行された放送内容には事実誤認があり訂正・謝罪をした」と新聞に報道された事案を討議した。その結果、当該局に質問書を出し、回答をもとに再度検討することにした。次に7年前に放送された戦時性暴力を扱ったノンフィクション番組について、3回目の討議が行われたが、結論は次回以降に持ち越された。事務局からは、BPOの理事新任の報告があった。

議事の詳細

日時
2008(平成20) 年11月14日(金) 午後5時~8時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

事実誤認があり訂正放送したニュースバラエティ番組

保育園が園児用のイモ畑として使用している土地に対して、道路建設用地として買収に応じなかったので、強制収用の行政代執行が行われた。そのことを伝えた番組で、事実誤認があり、放送局側も訂正・謝罪したと新聞に報道されたので映像を見た上で討議した。
主な映像の内容と問題点は次の通り。
そのイモ畑に対して行政代執行が開始されると、保育園側の人たちが身を挺して阻止し揉み合いとなるが、そこに10数名の園児たちがいるかのような編集になっている。しかし、園児たちの映像は執行前日に撮影されたものであった。そのVTRを見たスタジオのコメンテーターも執行の当日に園児たちがいたと理解して、園児を盾にすべきではないという趣旨のコメントをしている。
加えて、番組の冒頭でリポーターが高速道路を背景にして「高速道路建設をめぐって騒動が起こった」と紹介しているが、そのロケ現場は当該保育園があるのとはまったく違う都道府県であった。更に、コメンテーターが法律的手続きを説明しているが、番組は収用裁決取消訴訟について2週間後に大阪高裁の判決が予定されていることを前提としており、手続きの誤解ないし混同があると思われる。
後日、訂正放送が行われたが理解しにくい内容であった。

<主な委員の意見>

  • 高速道路の雰囲気を出すために別の場所で撮影したという理屈は報道では通用しない。映像自体がひとつの説明なのだから。
  • この番組はスタート段階ではこういうネタをやらなかった。全体的にパロディ番組だった(当該番組は局のホームページでは「バラエティ」に分類されている)。
  • 仮に制作側がパロディ番組だからといっても、この作りでは視聴者はニュースだと信じてしまう。
  • バラエティ番組を理由に片付けるべきではない。バラエティだってしっかりと下調べして作ったモノもある。番組で、ある真実を伝えるときにはやはり慎重を期すべきだ。番組としておかしい。
  • 園児たちが並んでいる映像はストーリー的には捏造ではないか。
  • 訂正放送で「園児たちを現場に連れて行き並ばされたかのような表現がありましたが、そのような事実はありませんでした」とあるが、これでは説明にも訂正にもなっていない。
  • コメンテーターによる法律的手続きの説明も不可思議。執行停止を申し立てていれば直ぐに判断が下るが、その場合は「判決」ではなく「決定」だ。本訴とごっちゃにしている。
  • 訂正放送では本訴の話ししかしていない。よく調べないで慌てて訂正したのではないか。

討議の結果、ニュースを扱った番組としては正確さに欠け、視聴者に誤解を与えるので、当該局に対していくつかの点について質問書を出し、回答を得た上で再度討議することにした。

戦時性暴力を扱ったノンフィクション番組

戦争と裁判をメインテーマに戦時下における性暴力を扱った7年前に放送されたノンフィクション番組。制作過程において政治的な圧力により内容が不当に改変されたと関係者が主張している事案。
委員会として取上げるかどうかについて、複数の委員から論点を整理した資料が提出され、それをもとにさまざまな角度からの議論が行われた。関係資料を精査した上で、どういうことが言えるのか、言うべきなのかについて意見が出された。各委員の意見にはまだ幅があり、抽象論で議論しても決められないので原案になるようなものを作成し、方向性を見極めたうえで結論が得られるよう、更に継続して討議することになった。

その他

事務局からは、BPOの理事が新しく放送界以外から3人選任されたことの報告があった。

以上

第18回 放送倫理検証委員会

第18回 – 2008年10月

継続事案の検討

新しい事案の検討 …など

第18回放送倫理検証委員会は10月10日に開催され、報道番組内における大食い企画と公取委から排除命令が出されたテレショップ番組について、各当該局からの回答を検討した結果、委員会として了承した。次に関係者から内容が不当に改変されたと指摘があったノンフィクション番組の事案が継続討議されたが、結論は次回以降に持ち越された。動物保護団体および宗教団体から抗議があった2つの事案については、討議の結果取り上げないこととした。事務局からは、2冊のブックレットの刊行についての説明があった。

議事の詳細

日時
2008(平成20)年10月10日(金)午後5時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、上滝委員長代行、小町谷委員長代行、石井委員、市川委員、里中委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

継続事案の検討

  • 報道番組内での大食い企画

    前回の委員会決定として、当該局に対してこの企画は報道番組として放送したのかの確認あるいは制作費に関する問題など4項目の質問書を出した。
    これに対して当該局から、報道番組であるとした上で、今後報道番組での大食い企画を自粛すること、また、取材先のレストランに対しては取材経費を支払っている旨の回答があった。討議の結果、回答書に述べられた当該局の対応を了承した。
    委員の主な意見は次の通り。

    大食い企画自体、道徳に反するし食糧問題もあるのだからやめるべきだ。報道番組で扱わないだけでよいのか。

    報道番組で扱わなければよい。しかし、これに限らず、報道番組としてふさわしくないカテゴリーの企画が見受けられる。

    食糧問題が問われているときにこういう企画をやるのはセンスが悪い。テレビはばかばかしいことをやってもよいところもあるが、ワイドニュース内で枠企画をどのように位置付けているのか。

    当該局は「報道番組の原点に立ち返りたい」をきちんと示して欲しい。

  • 公取委から排除命令が出たテレショップ番組

    テレビ局系列の通販会社に対して公取委が景品表示法違反(優良誤認)に基づく排除命令を出した。当委員会は、このテレショップ番組を放送した局に対して、排除命令を受けたあと公示や処置がどのように行われたかを問い合わせた。その結果、適切な対応が行われたと理解できる回答が得られたので、当委員会として了承した。

  • 戦時性暴力を扱った番組について

    戦争と裁判をメインテーマに、戦時下における性暴力を扱った7年前のノンフィクション番組で、その制作過程において内容が不当に改変されたと関係者が主張している事案。番組を視聴し関係資料等を読んだ上で、取上げるか否かを再度討議した。議論は多方面に及んだが、論点の整理を行った上で継続して検討することになった。

  • 内容が虚偽ではないかと抗議があった科学番組

    チベット高原でナキウサギが異常発生して草原の砂漠化が進み、その結果、日本に異常気象をもたらしたと説明した番組に対して「非科学的あるいは虚偽ではないか」と抗議があった。映像を視聴した上で討議したが、学術論争はともかく当該局は中国の研究者の監修の下に番組を制作しており、虚偽であるとの抗議は当たらないと判断し取り上げないこととした。

新しい事案の検討

・隠し撮り映像によるニュース報道について

宗教団体から、隠し撮りされた映像がニュース番組で放送されたことは放送倫理違反であると抗議があった。映像を視聴し討議した結果、この事案では、住居侵入の疑いや信教の自由を阻害しかねない点を考慮したとしても、当該宗教団体を取材する目的に公共性・公益性が認められ、挑発的な取材とも思えずなおかつ他に取材方法が見出し難かったと考えられる。また、放送に際してはモザイクをかけて肖像権や人格権にも配慮されている。正当な取材および放送の範囲内であると判断し、取り上げないこととした。

その他

・ブックレットの刊行について

放送倫理検証委員会ブックレット第1号として「光市事件と裁判報道」が9月下旬に刊行され、続いて第2号の「事件報道と開かれた司法」は10月中旬に刊行されることになった。

以上

第17回 放送倫理検証委員会

第17回 – 2008年9月

報告事項の検討

その他

第17回放送倫理検証委員会は9月12日に開催され、報道番組内における大食い企画、バラエティ番組でのセクハラシーン、公取委から排除命令が出されたテレショップ番組、内容が不当に改編されたとされる番組などの事案が討議された。また事務局から、2冊のブックレットの刊行状況の説明があった。

議事の詳細

日時
2008(平成20)年9月12日(金) 午後5時~8時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、石井委員、立花委員、服部委員、水島委員、吉岡委員

報告事項の検討

・番組内での大食い企画について

女性の大食いタレントとアシスタントの2人で構成される2チームが、それぞれ中華料理店と焼肉店で大食いを競う報道番組内のコーナー企画。皿数の数え方が不明確で分からないなど演出上の問題も指摘されたが、この企画がバラエティでなく、どうして報道番組で放送されたのかに対して疑問が呈された。既に、番組内容の不備についてはお詫び放送がなされ、制作した会社との契約解除、社内処分も出されているが、この企画自体を報道番組で放送したことに関して当該局に質問することにした。 委員の主な意見は次の通り。

  • ことさら審議するほどのものではないが、繰り返し起きてくることが問題だ。なぜニュースで大食い企画なのか。
  • 食料のない時代に育った人間には腹が立つ。品数ではなく品性の問題だ。
  • お詫び放送、制作会社への契約解除、社内処分がなされているが、ニュース番組の中でこんな企画を放送することが問題だ。
  • バラエティ番組なら問題ない。お詫び放送は意味がよく分からない。

・お笑いタレントによるセクハラシーンについて

お笑いタレントの運動会を屋外で収録したバラエティ番組。昼休みの場面で、男性タレントが背後から女性タレントの胸を揉むシーンがあった。その部分だけ切り取ればセクハラシーンだが、個別の番組としての結論は出さずに、バラエティ番組全体の演出方法や質の問題として捉え、今後、具体的に問題ある事例を積み重ねた上で継続的に考えていくことになった。

委員の主な意見は次の通り。

  • 下品だ。一つ一つのシーンはともかく、今後もずっと続くだろう。委員会としてどう対応するかだ。
  • お笑いネタだから許されると考えているのならば、委員会として何かコメントすべきだ。
  • レベルが低いが、こうした番組を見たがる人がいるのも事実だ。
  • こういった風潮が容認されていることがおかしい。単純に「ダメ」じゃなくて、違う角度からの指摘が必要。
  • 一つ一つの番組に対応しないで、番組事例を積み重ね蓄積してから構造や仕組みについて討議すべきだ。

・公取委から排除命令が出たテレショップ番組について

テレショップ番組で、ゲルマニウムや竹繊維が配合されているとして販売された枕に、それらの成分が含まれていない製品があることが分かり、公取委が通販会社(テレビ局が100%出資した子会社)に対して景品表示法違反(優良誤認)に基づく排除命令を出した。公取委の命令に従い、通販会社は商品の回収に着手しているが、公示や処置がどのように行われたかを当該局に問い合わせることにした。

・戦時性暴力を扱った番組について

戦争と裁判をメインテーマに、戦時下における性暴力を扱ったドキュメンタリー番組(放送されたのは7年前)を関係者の指摘により討議した。その制作過程において介入があり、内容が不当に改変されたとされる事案。討議の結果、番組を視聴し資料等を見た上で取上げるか否かを判断することになった。

・内容が誤りではないかと指摘された科学番組 について

日本の自然をテーマにした番組で、チベット高原でナキウサギが異常発生して草原の砂漠化が進み、その結果チベット高気圧が日本上空にまで張り出したことにより、日本に猛暑・豪雨などの異常気象をもたらしたと説明している。それに対して、視聴者から非科学的で虚偽の事実に基づいて制作された番組だとの抗議がなされた。番組や資料を見た上で次の委員会で討議することにした。

その他

放送倫理検証委員会ブックレット第1号として「光市事件と裁判報道」、第2号として「事件報道と開かれた司法」が9月以降に刊行されることになった。第1号は当委員会の「意見」に対して在京6局がどう対応したかを中心に、制作担当者の感想や反論も盛り込まれている。第2号は当委員会が発足して1年が経過したことを契機に、本年5月30日に東京大学大学院情報学環と共催したシンポジウムの記録である。

以上

第16回 放送倫理検証委員会

第16回 – 2008年7月

委員会の運営方法について

放送局と委員会との意見交換会の開催について …など

委員会の運営方法について

委員会の運営方法について何点かのテーマを討議したが、当面はルール化しないで、その度ごとに判断を重ねていくことにした。

放送局と委員会との意見交換会の開催について

必要に応じて事務局がテーマを設定し、検討することにした。

報告事項

  • 光市事件報道の委員会「意見」に対する在京局の報告書の公表について

    在京6局から提出された光市事件報道に関する報告書を、当委員会は議論をより深めるために公表したいと考え、各局もこれを了承した。報告書は、BPOのホームページに掲載されるほか、委員会の「意見」と在京局の報告書をひとつにまとめた冊子も刊行することになった。

  • テレビ局の通販番組に公取委から「警告」が出された事案

    乗馬型健康器具を紹介した通販番組で、ダイエット効果を実際のものよりも著しく優良であると放送したとして、当該局が公取委から景品表示法違反の疑いがあるとして警告を受けた事案。
    番組ではモニターによる3週間の減量効果として1.4キロ~6.6キロと紹介したが、公取委による調査結果の理論値は0.4キロで、データを過大に表示したことには問題がある。しかし、公取委の判断は法令違反(排除命令)ではなく、行政指導(警告)であるし、当該健康器具の通販番組は約1年前に終了している。更に、当該局は本件について関係者の処分を行っているので、当委員会はこの番組についてはこれ以上討議しないこととした。
    その一方で、通販番組とCMとの区別があいまいなことは問題であり、CM総量規制にも係わってくるとの意見が出された。これは「放送基準」に関することなので、委員会から民放連に対し、通販番組とCMとの区別の基準の明確化について検討を要望することとした。(BPOでは、7月15日に事務局長ら2人が民放連を訪れ、口頭で申し入れをした)

  • プラスチックごみの再生油で車を動かすスタジオ実験の信憑性

    報道番組で、プラスチックごみを加熱して軽油などに似た油を再生する装置を紹介した。その信憑性を確認するために、2トントラックの燃料タンクへ再生油を注入し、実際に走らせるというスタジオでの実験が放送されたが、視聴者から、あの実験方法ではエンジンはかからないはずだとの意見がBPOに寄せられた。当該局は実験プロセスを簡略化したことで誤解を招く表現になったことを認め、放送から12日後、新たに詳細な実験プロセスによる放送(約4分)をニュース番組の中で自主的に行った。
    映像を視聴して討議した結果、再生のしくみ自体に虚偽性はないこと、誤解を招いた部分は速やかに訂正されたことなどから、当委員会ではこの事案を取上げないことにした。

以上

第15回 放送倫理検証委員会

第15回 – 2008年6月

光市事件報道の委員会「意見」に対する在京6局の検討結果の報告書について

シンポジウム「事件報道と開かれた司法」の総括 …など

光市事件報道の委員会「意見」に対する在京6局の検討結果の報告書について

委員会が公表した「意見」に対する在京6局の検討結果の報告書について討議した。各局において、委員会の「意見」に対する批判も含めて活発な議論が行われたことについて、評価する意見が大勢を占めた。また、この報告書を一般に公開することにより、更に議論が深まり放送界の発展に寄与するのではないかとの討議がなされ、BPOのホームページ等に公表すべきだとされた。

<主な委員の意見>

  • 各局で議論が行われ、刺激になったことは良かった。
  • この「意見」は現場へのクレームではなく、局のスタンスに対する意見書だと思う。局のスタンスが現場に浸透していないのではないか。
  • 各局もBPOもお互いに“考える”ことが大事。“考える”素材としての「意見」だ。それなりの波紋、反発はあってよいと思う。各局はむしろ委員会の「意見」に対する批判を遠慮しているのではないか。
  • 個別具体的な番組にはモヤモヤが残るかもしれないが、見えてきたのは良いこと。ある局では、委員会が出したこの「意見」によって社内が変化した。少しずつ輪が広がればよいと思う。
  • この先どうするかが大切。各局は受け止めたことを、どう具体化するかが大切。コミュニケーションがとまることがまずい。
  • 「5:5が公平か?」という批判があったが、「意見」ではそうはいっていない。繰り返し理解を求めることが大切だ。
  • BPOに監視されている、と思われているのは誤解だ。そうではないと繰り返し言うべきだ。
  • できればこの「意見」を報道・制作現場の方、全てに読んでもらいたい。私たちの「意見」は、表現の自由を尊重する立場からのものだ。

シンポジウム「事件報道と開かれた司法」の総括

東京大学大学院情報学環との共催で開催されたシンポジウムについて、参加者は263名と別に用意したモニター室も満員になったこと、「タイムリーで中身の濃いパネルトークであった」「情報番組とドキュメンタリーとの役割の意味に言及して欲しかった」などのアンケート結果が事務局から報告された。

委員からは「テーマが多岐にわたり、コーディネーターは難しかったと思う」「予定時間より大幅に長くなってしまったことは反省点」「キーワード毎に各論に入る方法もあったのではなかったか」「裁判の公益性と報道の関わりをもう少し展開できればよかったが、公益性・公共性の定義は難しい」「パネリストの人選も今後の参考になった」といった意見が出された。

(なお、シンポジウムの概略はこちら

報告事項

  • 取材先の日本原燃から隠し撮りや誤謬等を指摘された報道番組

    当該局と原燃が話し合いを行い、第2弾の放送時に不明確な表現を修正した結果、お互いの主張は了解点に達した。放送局の自主自律の原則に則り解決が図られたので、当委員会はそれを了解した。

  • テレビ局が女性の卑猥なパフォーマンスを仕掛けたと報道された事案

    秋葉原で女性が下着を見せるパフォーマンスが行われ、それにテレビ局のスタッフが関っていると週刊誌に報道された。週刊誌の記事と当該局の説明内容を討議した結果、このパフォーマンスを当該局が正式に取材し放送したわけでもなく、委員会で取上げる問題ではないと判断した。

  • 放送記者による新聞記事盗用

    テレビ局の放送記者が新聞記事を元に、実際には取材をせずにニュースを放送した。このこと自体は責められるべき問題であるが、新聞社と折衝し、当該局の責任において処理すべき事案で、当委員会が取り上げるべき問題ではないと判断した。

  • 報道番組のキャスター・コメントに対する抗議

    報道番組の後期高齢者医療制度を取上げたコーナーで、自民党の幹部が談笑している映像を見たキャスターが「よく笑っていられますね」とコメントした。それに対して自民党から、その問題を議論しながら笑っていたわけではない、との抗議が局にあった事案。討議した結果、キャスターは印象を述べたものであるし、談笑している映像も放送前日に開催された役員連絡会冒頭のいわゆる「アタマ撮り」で、その役員連絡会では後期高齢者医療制度が話し合われているから、まったく関係のない映像を使用したとは言いがたい。更に、役員連絡会については会議が始まる冒頭、いわゆる「アタマ撮り」の取材しか許されていないので、直近の「アタマ撮り」の映像を使用したことにも理由があると判断できる。確かに、番組の作り方にも誤解を生まないように配慮すべき点があるが、それについては、5日後に、同番組で4分間弱にわたってキャスターにより説明がなされているので、視聴者も正しく理解したと判断できる。以上の理由により、当委員会はこの事案を取上げないこととした。

以上

第14回 放送倫理検証委員会

第14回 – 2008年5月

光市事件裁判報道の総括

報告事項

光市事件裁判報道の総括

<主な委員の意見>

  • この委員会は間違いを指摘する組織だと権威的に見られている。特定の番組のここを直せといっているのではない。こういうことに関して考えてみましょうという意見書の場合、委員会と放送局、特に現場の人々との意思疎通を促し、向上につなげていく仕組みづくりを議論すべきではないか。
  • ここは「放送倫理・番組向上機構」だ。「番組向上」の部分が抜け落ちて、駄目なやつを叱るだけの機能の機構と理解されているのではないか。回答書も以後注意しますという感じで「向上」が抜け落ちてしまっている。
  • 今回は個別の番組ではなかったが、この委員会がつまらない意味で権威化してゆくことをどう避けるかは大事だ。そのためにBPOの発表の仕方はできるだけ多様なスタイルを作っておくべきだ。この委員会はいい意味での刺激となって番組が活性化してゆくことを最も考えなければいけないと思う。ここは査問会をやっているわけではない。
  • 本村さんは、私が発言することによって、この委員会が指摘するような被害者遺族対弁護団という図式を作ってしまっているのではないか、そうだとしたらそれは私の真意ではないと言っている。また、「言論・報道の自由」に自ら制限を加える意見のように受け取られるとも指摘している。
  • 今回この委員会の役割の中で大事だったと思うのは、犯罪被害者に寄り添う報道が抱える課題を突きつけたことだ。この議論が犯罪報道のあり方を変えるきっかけになればと思う。
  • ある在京局のキャスターの女性はBPOのことを知らなかった。局内の現場に情報が伝わっていないのは問題だ。
  • この案件は各局の意見を参考に、今後も継続性を持ってやるべきテーマだ。

報告事項

  • 事務局から以下の事項を報告した。
  • 「日本の原子力発電が新しい段階に」をテーマに、六ヶ所村にある日本原燃の再処理施設などを取材したニュース番組。放送された番組の一部に隠し撮りおよび内容的に誤謬があったとして原燃から当該局に抗議があった。当該局は原燃の広報部の指示のもとに取材したと説明し、話し合いが継続中である。

以上

第13回 放送倫理検証委員会

第13回 – 2008年4月

光市事件をめぐる裁判報道について

報告事項 …など

光市事件をめぐる裁判報道について

前回の臨時委員会での意見に基づき、小委員会がまとめた委員会決定案の一部を修正することで大筋の合意を得た。細部の表現の字句修正を委員長と担当委員に一任し、4月15日に通知・公表することを決めた。

報告事項

クイズ番組において、戊辰戦争で旧幕府軍が会津若松城を明け渡した理由として「ふん尿が城内に溜まったこと」を正解とした件について、当該局は会津若松市に対し謝罪し、昼の時間帯で「謝罪放送」をおこなった旨が事務局から報告された。「本放送」および「謝罪放送」を視聴した後、委員会はこの報告を了承した。

「光市母子殺害事件の差戻控訴審に関する放送についての意見」の通知・公表

4月15日、在京5局とNHKに対して、「意見」の通知を行った。また、当日、千代田放送会館2階ホールで記者発表を開催、35社76名が集まった。

(意見の全文はこちらに掲載)

以上

第12回 放送倫理検証委員会

第12回 – 2008年4月

光市事件をめぐる裁判報道について

報告事項

光市事件をめぐる裁判報道について

前回出された意見を受けて、小委員会が改訂した「意見」草稿に基づいて議論がおこなわれたが、結局結論を見ず、4月11日の定例委員会で最終的結論をまとめることとなった。

報告事項

  • 1月21日に当委員会がフジテレビに出した『FSN27時間テレビ「ハッピー筋斗雲」に関する意見』をうけて、フジテレビから提出された改善策について議論した。霊能師を出演させることについて正面から発言していないという意見もあったが、フジテレビの取り組みを評価する意見が多数であった。(フジテレビの改善策はこちらに掲載)
  • クイズ番組において、戊辰戦争で旧幕府軍が会津若松城を明け渡した理由として「ふん尿が城内に溜まったこと」を正解としたことについて、会津若松市から当該局に対し抗議が寄せられているという新聞報道を紹介した。詳細については当該局に事情を聞き、次回委員会で報告することになった。

以上