第242回放送と人権等権利に関する委員会

第242回 – 2016年12月

STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、都知事関連報道事案の審理、浜名湖切断遺体事件報道事案の審理、世田谷一家殺害事件特番事案の対応報告…など

STAP細胞報道事案および事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の「委員会決定」案をそれぞれ議論、また都知事関連報道事案、浜名湖切断遺体事件報道を審理した。世田谷一家殺害事件特番事案について、テレビ朝日から提出された対応報告を了承した。

議事の詳細

日時
2016年12月20日(火)午後4時~9時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では、11月30日に行われた第4回起草委員会での議論を経て提出された「委員会決定」案を事務局が読み上げ、それに対して各委員が意見を出した。委員会で指摘された修正部分を反映した決定案を次回委員会に提出、最終的に確認する運びとなった。

2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の審理

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の審理

対象となったのはテレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれニュースで扱った地方公務員による準強制わいせつ容疑での逮捕に関する放送。申立人は、放送は事実と異なる内容であり、初期報道における「極悪人のような報道内容」などにより深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めていたもので、9月に双方からヒアリングを行っている。
今委員会では、まず起草委員より第2回起草委員会で修正した「委員会決定」案について説明を行った上で各委員から意見を求めた。委員からは、警察広報担当者による発言に基づく記事内容の扱いを巡って突っ込んだ意見が交わされた。これを受けて委員会は、来月初めに第3回起草委員会を開くことを決め、今委員会での意見を反映した修正案を次回委員会に提出し、さらに議論を深めることとなった。

4.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は、1メートル位の至近距離からの執拗な撮影行為によって衝撃を受け、これがトラウマになって家を出て登校するたびに恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した答弁書において、長男と長女を取材・撮影する意図は全くなく執拗な撮影行為など一切行っておらず、放送した雅美氏の発言は、ディレクターが家賃について質問した以降のやり取りを恣意性を排除するためにノーカットで使用したとしている。さらに雅美氏は政治資金の使い道について説明責任がある当事者で、雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
今月の委員会では、前回委員会での検討を経て一部修正された本件事案の論点とヒアリングの質問項目の案が示され、ほぼ確定した。

5.「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、テレビ静岡が本年7月14日に放送したニュース番組(全国ネット及びローカル)で、静岡県浜松市の浜名湖周辺で切断された遺体が発見された事件で「捜査本部が関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」等と放送した。
この放送に対し、同県在住の男性は同月16日テレビ静岡に電話し、自分は事件とは関係ないのに同社記者が勝手に私有地に入って撮影し、犯人であるかのように全国ネットで報道をした等と抗議した。
同氏はその後テレビ静岡と話し合いを続けたが不調に終わり、9月18日付で申立書を委員会に提出。同事件の捜査において、「実際には全く関係ないにもかかわらず、『浜名湖切断遺体 関係先を捜索 複数の車押収』と断定したテロップをつけ、記者が『捜査本部は遺体の状況から殺人事件と断定して捜査を進めています』と殺人事件に関わったかのように伝えながら、許可なく私の自宅前である私道で撮影した、捜査員が自宅に入る姿や、窓や干してあったプライバシーである布団一式を放送し、名誉や信頼を傷つけられた」として、放送法9条に基づく訂正放送、謝罪およびネット上に出ている画像の削除を求めた。
また申立人は、この日県警捜査員が同氏自宅を訪れたのは、申立人とは関係のない窃盗事件の証拠物である車を押収するためであり、「私の自宅である建物内は一切捜索されていない」と主張、そのうえで、「このニュースの映像だけを見れば、家宅捜索された印象を受け、いかにもこの家の主が犯人ではないかという印象を視聴者に与えてしまう。私は今回の件で仕事を辞めざるをえなくなった」と訴えている。
この申立てに対しテレビ静岡は11月2日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件放送が『真実でない』ことを放送したものであるという申立人の主張には理由がなく、訂正放送の請求には応じかねる」と述べた。この中で、「当社取材陣は、信頼できる取材源より、浜名湖死体損壊・遺棄事件に関連して捜査の動きがある旨の情報を得て取材活動を行ったものであり、当日の取材の際にも取材陣は捜査員の応対から当日の捜索が浜名湖事件との関連でなされたものであることの確証を得たほか、さらに複数の取材源にも確認しており、この捜索が浜名湖事件に関連したものとしてなされたことは事実」であり、「本件放送は、その事件との関連で捜査がなされた場所という意味で本件住宅を『関係先』と指称しているもの。また本件放送では、申立人の氏名に言及するなど一切しておらず、『申立人が浜名湖の件の被疑者、若しくは事件にかかわった者』との放送は一切していない」と反論した。
さらに、「捜査機関の行為は手続き上も押収だけでなく『捜索』も行われたことは明らか。すなわち、捜査員が本件住宅内で確認を行い、本件住宅の駐車場で軽自動車を現認して差し押さえたことから、本件住宅で捜索活動が行われたことは間違いなく、したがって、『関係先とみられる住宅などを捜索』との報道は事実であり、虚偽ではあり得ない」と主張した。
前回の委員会で審理入りが決まったのを受けてテレビ静岡から申立書に対する答弁書が提出され、申立人からは反論書が提出された。今月の委員会ではこれまでの双方の主張を事務局が説明した。

6.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」対応報告

2016年9月12日に通知・公表が行われた本決定(勧告:放送倫理上重大な問題あり)に対して、テレビ朝日から対応と取り組みをまとめた報告書が12月9日付で提出され、委員会はこれを了承した。

7.その他

  • 委員会が1月31日に広島で開催する予定の中国・四国地区意見交換会の概要を事務局が説明し、了承された。
  • 次回委員会は1月17日に開かれる。

以上

第110回 放送倫理検証委員会

第110回–2016年12月

TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』に関する意見の通知・公表について意見交換など

12月6日に当該局への通知と公表の記者会見を行った、TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見について、出席した委員長や担当委員から当日の様子が報告され、意見交換が行われた。
参議院議員選挙と東京都知事選挙について放送局からの報告や視聴者からの意見が寄せられたことから、選挙報道の公平・公正についての委員会の考え方を示すのは意味があるとして、委員会は、二つの選挙に関する放送の具体例を踏まえながら、選挙報道全般の問題点について審議を継続している。今回の委員会では、担当委員から出された意見書の原案について、さまざまな考え方が示され、次回、これらの議論を踏まえた意見書の修正案が提出されることになった。
テレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』の「慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件」の特集で、被害女性への配慮を欠いた内容の放送がなされたという事案について、前回に引き続き討議した。しかし、当該局の謝罪放送以降は事案に進展はなく、被害女性の心情などへの配慮も含め、委員会として総合的に判断して今回で議論を終え、審議の対象とはしないことを決めた。
委員会の10周年にちなんだ記念のシンポジウムについて、担当委員から最新のパネリストと構成の案が報告された。

議事の詳細

日時
2016年12月9日(金) 午後5時00分~7時50分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見を通知・公表

実際は最後まで解答した出演者を、映像を加工して途中でレースから脱落したことにして放送した、TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見(委員会決定第24号)の通知と公表の記者会見が、12月6日に実施された。
委員会では、当該局の当日のテレビニュースを視聴したあと、委員長や担当委員から、通知の際のやり取りや記者会見での質疑応答の内容などが報告され、意見交換が行われた。

2. 参議院議員選挙と東京都知事選挙の選挙報道について審議

委員会は、7月に行われた参議院議員選挙と東京都知事選挙について、視聴者からさまざまな意見が寄せられる中で、「選挙報道が萎縮しているのではないか」といった指摘がなされている現状も考えると、具体的な事例を参照しながら選挙報道の公平・公正についての考え方を示すのは意味があるとして、選挙報道全般の問題点について審議を継続している。
今回の委員会では、前回までの議論にもとづいて担当委員から意見書の原案が示され、これに対して委員から「選挙でも、事実に基づく公正な評論は自由だということを忘れてはいけない」「公平・公正の基準は、放送局が自律的に設定するものだという趣旨は大事である」「選挙報道に求められているのは量的な公平ではなく質的な公平ではないか」「論文のようにせずに、放送の制作現場で働く人たちがわかりやすいものにしたい」といった意見が出されるなど、選挙報道のあり方についてさまざまな議論が交わされた。
その結果、これらの議論をもとに担当委員が意見書の修正案を作成し、次回委員会に提出することになった。

3. 慶應大学広告学研究会の女性集団暴行事件の報道で、被害女性に配慮を欠いた内容を放送したテレビ朝日の『羽鳥慎一モーニングショー』を討議

テレビ朝日の情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』は、「独自 慶應生女性暴行疑惑 現役メンバー直撃 当事者の証言」と題した特集を10月20日に放送した。独自取材として放送されたVTRは、慶應大学広告学研究会のメンバーや男性OBの「被害女性側にも非があるのではないか…」というインタビューなど、男子学生側の言い分を中心に構成されていた。また、サークルメンバーの話にあった「大学側も動画を確認し、事件性なしと判断したと聞いている」というコメントを裏取り取材をせずにスタジオで取り上げ、コメンテーターから大学側の対応を非難する発言があった。
その後、当該局は被害女性の弁護士と面会して、放送内容が配慮を欠いていたことを謝罪するとともに、10月27日の当該番組内でお詫び放送を行った。
前回の委員会の議論では、「男子学生側の主張で構成されている上、裏取り取材がほとんど行われていない」「女性への配慮が決定的に欠けた放送内容になっている」などとの厳しい意見が相次ぎ、さらに、確認や検討が必要な点もでてくる可能性があるとして、討議を継続していた。
しかし、当該局の謝罪放送以降は事案に進展はなく、当該局の一連の対応から、問題点について理解したのではないかとみられることや、被害女性の心情などへの配慮も含め、委員会として総合的に判断して今回で議論を終え、審議の対象とはしないことを決めた。

【委員の主な意見】

  • この事案は、このような番組が放送されるに至ったプロセスが問題だった。当該局は、問題点については理解して反省・謝罪している。被害女性の心情について配慮する必要もある。
  • これ以上の議論の継続は、この状況では、あまり意味が無いのではないか。

4. 委員会発足10周年記念シンポジウムについて

10周年記念のシンポジウムについて、担当委員から最新のパネリストと構成の案が報告された。

以上

2016年12月21日

『オール芸人お笑い謝肉祭‘16秋』(2016年10月9日放送)

2016年12月21日 放送局:TBSテレビ

2016年10月9日18時30分から21時54分にTBSテレビで制作・放送された『オール芸人お笑い謝肉祭‘16秋』の内、「大声厳禁 サイレント風呂」と「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」のコーナーについて第185回青少年委員会で審議入りを決め、TBSテレビに質問書を送り回答書の提出を求めました。TBSテレビからの回答を受け、第186回青少年委員会で、「意見交換」(TBSテレビから当該番組プロデューサーをはじめとする、制作局、編成局の関係者ら6人、BPOから7人の全委員が出席)を開催、引き続き委員による審議を行い「委員会の考え」をまとめることにしました。第187回青少年委員会で「委員会の考え」を承認し審議を終了、以下に経緯を含め公表します。

<委員会の考え>

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2016年12月21日

TBSテレビ
『オール芸人お笑い謝肉祭‘16秋』に関する
委員会の考え

放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送と青少年に関する委員会

 BPO青少年委員会は、多くの視聴者意見が寄せられたTBSテレビ『オール芸人お笑い謝肉祭‘16秋』(2016年10月9日 日曜日 18時30分から21時54分放送)について、第185回委員会で審議入りを決め、TBSテレビに番組の演出意図などについて質問書を送り回答書の提出を求めるとともに、第186回委員会で制作担当者などを招いて意見交換を行いました。TBSテレビには、真摯に対応していただいたことに感謝します。
青少年委員会は、これらを踏まえて審議を行い、各放送局にも引き続きバラエティー番組について考えていただきたいと願っている論点が含まれることから、以下のとおり、「委員会の考え」として公表することとしました。

1 「表現上の配慮」について
番組のうち、「大声厳禁 サイレント風呂」と「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」のコーナーについて、多数の視聴者からBPOに対して、表現が下品で低俗であることに対する嫌悪感や不快感、男性の性器に触れるかのような演出で安易に笑いをとろうとした行為への違和感、また、子どもに与える影響を危惧する批判的意見などが寄せられました。
「大声厳禁 サイレント風呂」は、熱海の温泉場で、男性芸人たちが大声禁止のルールのもと様々なハプニングに対して我慢するというゲームでしたが、このなかで、三助役に扮した男性が複数の男性芸人の股間に"ヒリヒリする薬"を塗るシーンがありました。あわせて、別室でモニターを見ている女性アナウンサーの反応が映し出されました。
「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」は、熱海の海岸にローションを塗った大型の階段セットを用意し、芸人が転倒したりもつれあって滑り落ちたりしながら階段をよじ登って頂上を目指すというものでしたが、そのなかで、複数の男性芸人と女性芸人が下半身を露出し、また男性芸人1人が全裸で階段を昇り降りするシーンが放送されました。こちらも女性アナウンサーはじめ異性がいる前での演出でした。
番組を視聴した委員からは、これらの演出について、社会的受容の範囲を逸脱しているのではないか、性に対する扱いが不適切であるなどの意見があり、青少年委員会がバラエティー番組についてこれまでに公表してきた「委員会の考え」などが十分に理解されていないと考えざるを得ませんでした。
民間放送共通の自主的な倫理基準として制定された「日本民間放送連盟・放送基準」(放送基準)の第8章「表現上の配慮」(48)には「不快な感じを与えるような下品、卑わいな表現は避ける」と規定されています。また、今回の番組は、日曜日のゴールデンタイムに放送されていますが、放送基準の第3章「児童および青少年への配慮」(18)には「放送時間帯に応じ、児童および青少年の視聴に十分、配慮する」と規定されています。番組制作に携わる人たちは、これらの放送基準の意味を再確認していただきたいと思います。
青少年委員会は、2014年4月4日に公表した「日本テレビ放送網『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』に関する委員会の考え」でも述べているとおり、バラエティー番組には視聴者の心を解放し活力を与えるという働きがあるとともに、視聴者の喜怒哀楽や感受性を直接刺激し日常生活の価値志向にも影響を与えることから、作り手は常に社会の動きにアンテナを張りめぐらせ、視聴者の動向を見据える必要があると考えています。つまり、「表現の内容が視聴者に与える影響は時代の価値観や社会のあり方に規定される」ということです。
現代社会はジェンダーについての意識やセクシャルハラスメントに対する理解が深まり、とくに近年は性的少数者の社会的受容という性意識の変化が見られるようになりました。
テレビ局はこうした動向を鋭敏に感知する必要があり、特定の場面に嫌悪感を表し、また、子どもに悪影響を与えると懸念する視聴者に対しても謙虚に耳を傾けるべきではないかと考えます。

2 収録時の配慮について
今回の審議入りに当たって青少年委員会が最も懸念したのは、収録時の配慮が欠けていたのではないかということでした。多くの視聴者から指摘があったように、「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」は、公共の場所である熱海の海岸で収録され、放送には、一般の人々が見学する姿が映っていました。
TBSテレビからは、収録状況について、「セット前面の『撮影エリア』は海に面しており(海辺まで20メートル)、左右は、基本セットに加えて参加者のコースアウト防止のために1.5メートルほどの壁を設置し、周囲からは独立したスペースと考えており」「『撮影エリア内』は一般の方々の立ち入り規制をしておりました」との回答がありました。ハプニングとして男性芸人のズボンが脱げる程度の露出は、制作者も予見していなかったわけではないが、ロケ中に芸人が自ら服を脱ぐなどの行為は全く想定外であったとのことです。
しかし、ゲームの特殊性や進んで笑いを取ろうとする芸人の行動がエスカレートする可能性が皆無ではないことを考えれば、撮影場所の選定やセットの独立性の確保の点で配慮に欠けていたことを指摘せざるをえません。
番組の放送内容だけではなく、特に公共の場での収録に関しては、コンプライアンスへの十分な自覚と、不適切なハプニングが起きる可能性を想定するなど、細心の注意をもって臨んでいただきたいと思います。

3 多元的な視点によるチェック
回答書によれば、TBSテレビは制作局の自社制作番組のコンプライアンスおよび考査を制作考査部が担当し、通常、コンプライアンスや放送倫理をチェックするマネジメントプロデューサー(MP)が配置されます。ところが、今回の番組は2人のベテランプロデューサーが制作に携わっていたことなどから、専任のMPが配置されず、このため、結果として、制作当事者だけのチェックとなり、考査担当者による客観的な指摘や議論のないまま企画が進行し、放送されることとなったとのことです。
老若男女から外国人まで、多様な価値観を有する様々な人たちが視聴するテレビ・ラジオについては、可能な限り多くの人々に共感を得られる番組を作ることが求められます。TBSテレビにおいては、多元的かつ客観的な視点によるチェックを経て検討を重ねることの重要性を再確認するとともに、制作スケジュールの問題など、今回、局内のチェックシステムが働かなかった原因を探り、課題を克服するための仕組み作りを再考していただきたいと思います。

4 放送局の対応について
TBSテレビは青少年委員会に対する回答書のなかで、「バラエティ番組における下ネタの大前提は、社会に受容される範囲を越えて社会通念から逸脱すれば、視聴者に不快感を与え」るとし、「社会に受容される範囲」を線引きするのは難しいものの、問題になった2つのシーンは、「社会に理解される範囲を逸脱し、多くの視聴者に受容されない内容であったと反省せざるをえません」としています。
そこでこのたび直接寄せられた批判などを受けて、TBSテレビは制作局内でこれまでに青少年委員会が公表した「委員会の考え」「委員長コメント」を配布して勉強会を開き、意見交換を行いました。また、社内横断的な組織である放送倫理小委員会でも議論と検討を進めているほか、今後、全社的な議論の場である放送倫理委員会や外部の有識者が委員をつとめる「放送と人権」特別委員会でも取り上げていく予定とのことです。
TBSテレビには、青少年委員会に対する回答書の提出や意見交換においても、問題の所在を直截に捉えて、真摯に対応していただきました。今後もより良い番組作りのために更に議論が深まることを願います。

5 終わりに
青少年委員会は、テレビ・ラジオの使命である公共性について、これまで度々意見を述べてきました。今回の問題を受けて、放送局には、公共の電波を預かるものとして、また、国民の教養形成の最重要メディアとして、"公共善"の実現への責任を自覚していただきたいことを再度お伝えしたいと思います。放送局がこの自覚を忘れ、安易な番組制作に陥れば、2015年12月9日に公表した「テレビ東京『ざっくりハイタッチ』赤ちゃん育児教室企画に関する委員会の考え」で述べているように「権力的な統制を求める世論を高める可能性があり、結果的に制作者が望まない事態になる恐れ」もあります。そして、私たちは、これは表現のみならず収録を含む番組制作過程全般に当てはまると考えています。
視聴者に豊かな笑いを提供することは、上品と下品の境界上で、時として表現の限界に挑戦するような困難な努力が求められることではありますが、多様な価値観が広まっている現代社会において、自己模倣や安易な演出に流されることなく、視聴者が心を解放して明日への活力につながる爽やかな笑いに包まれるよう、より神経を研ぎ澄まして、真にチャレンジングなバラエティー番組を作っていただくことを期待します。

以上

<青少年委員会からの質問>

2016年10月28日

ご回答のお願い

平素よりBPOの活動にご理解・ご協力をいただきありがとうございます。
さて、10月25日開催の第185回委員会では、貴局制作・放送の番組『オール芸人お笑い謝肉祭 ’16秋』(2016年10月9日18時30分から21時54分放送)の内、「大声厳禁 サイレント風呂」と「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」のコーナーについて問題点を指摘する多くの意見が視聴者から届いたのを受けて番組を視聴し、討論した結果、「審議対象番組とする」という結論に至りました。
つきましては、以下の質問に対して貴局の回答を書面にてご報告いただきたくお願いいたします。なお、質問および回答は、「BPO報告」や「BPOウェブサイト」などで公表いたしますので、ご承知おきください。

    1. 男性が男性の股間を無理やり触ったり、全裸や下半身露出で坂を滑り落ちるなどの演出意図についてお聞かせください。

    2. 上記の演出について、制作者と、コンプライアンスや考査担当者との間でどのようなチェックや議論が行われたのか、また、社内でどこまで情報が共有されていたのかについてお聞かせください。

    3. 上記の演出について、公共の場所を利用した撮影であったことやセクシャルハラスメントの視点から、どのような配慮と議論がなされていたのかについてお聞かせください。

    4. 家族団らんで視聴することが多い日曜日夜の時間帯に上記コーナーを放送するに至った経緯についてお聞かせください。

    5. 青少年委員会では、「放送の公共性」や「表現上の配慮」について「委員会の考え」や「委員長コメント」で繰り返し意見を公表し、注意を促してきました。これらについて貴局のこれまでの対応と、「放送の公共性」や「表現上の配慮」をどのように考えているかについてお聞かせください。

ご検討いただく時間が短くて申し訳ありませんが、回答は11月14日(月)までに事務局にお送りいただきますようお願いいたします。

以上

<TBSテレビからの回答>

2016年11月14日

放送倫理・番組向上機構
放送と青少年に関する委員会
委員長    汐見 稔幸様

株式会社 TBSテレビ
制作局 制作一部長   合田隆信
制作考査部長  高田 直

 謹啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼を申し上げます。

 貴委員会よりご質問をいただいた2016年10月9日放送「オール芸人お笑い謝肉祭‘16秋」(以下、「謝肉祭」)につきまして、番組を統括する制作一部長、そして制作局でコンプライアンスや考査を担当する制作考査部長よりお答えします。

 当該番組は、TBSテレビの春・秋恒例の特別番組「オールスター感謝祭 ’16秋」(以下「感謝祭」)放送翌日の日曜日、「感謝祭」に続く2夜連続の大型番組として18時30分から21時54分まで放送された特別番組です。

 家族そろって大笑いしながら楽しめる番組を期待して企画されたもので、芸人40人が静岡県熱海市に集合。1泊2日で、熱海の風光明媚な海や山、そして温泉などを舞台にクイズやゲームに挑んだものでした。

 しかし、放送後視聴者から、この番組の2つのコーナーに関して「下品、低俗」、「子どもに見せられない」など多くの批判を受け、貴委員会からも「日曜の夜、家族に向けて放送する内容とは思えない」、「『放送の公共性』、『表現上の配慮』をどう受け止めてきたのか」などの指摘をうけました。番組内のクイズやゲームのほとんどは番組が独自に考案したもので、制作者たちは「理屈なしに笑ってもらえる」番組を目指して「笑い」を追求したつもりでしたが、どこかで、方向を見失っていた部分があったと考えております。視聴者や貴委員会からの指摘を重く受け止め、教訓としながら、今後は本当の意味でのチャレンジングなよりよい番組作りに努力してまいりたいと思っています。

 以下、貴委員会からいただいた5つの質問にお答えします。

問1について

 多くの批判を受けた演出は、「大声厳禁 サイレント風呂」と「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」の2つのコーナー内でのことでした。
「大声厳禁 サイレント風呂」は、温泉場として知られる熱海の特性を生かし、「温泉」にちなんだ何か楽しいゲームが作れないかと発想したものでした。
温泉には、お互いに気持ちよく入浴するために「大騒ぎしない、大声を出さない」などの入浴マナーがありますが、これをもじって、大声禁止ルールのもと、入浴中の芸人に様々なハプニングを用意し、声を上げたくなるところをぐっと我慢する芸人のやせ我慢ぶりを楽しむゲームでした。
「座ると壊れる椅子」、「強い悪臭がするシャンプー」、「突然冷水を浴びせられる」などに続いて、さらなる大きなリアクションを期待して奇想天外な仕掛けのつもりで準備したのが、最後に行った「浴槽にワニを放つ」と、「股間にヒリヒリする薬を塗られる」演出でした。
背中を流してくれるはずの三助役の男性が、突然とんでもない行為に及んだら…。なんとか「笑い」に転化できるのでは、と考えてのことでした。
ところが、結果的には、稚拙な悪ふざけの印象ばかりが残る後味の悪いものになりました。「面白くない下ネタで低レベルの笑いを取りにいった」などの指摘にも抗弁することができず、制作者として恥入るばかりです。

「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」は、弊社番組「オールスター感謝祭」でスタートした「ぬるぬる相撲」から派生したもので、「ぬるぬる」ものは弊社バラエティ番組の定番企画とも言えるものです。
今回は、「史上最大のぬるぬる坂」を謳って、熱海市の海水浴場に高さ9メートル、長さ25メートルの大型の「竜宮城」セットを用意しました。
このコーナーの狙いは、転倒したりもつれあって滑り落ちたりしながらも、ローションが塗られた階段をよじ登っててっぺんを目指す、芸人さんたちの奮闘とドタバタぶりの面白さでした。そのため、安全対策は念入りに行い、階段の素材は衝撃を吸収できるウレタンにして、参加者は全員、ヘルメット、ジャージ、ひじとひざのサポーター、ネックガードを着用していました。
過去の「ぬるぬる」企画を思えば、お互いに衣服を引っ張りあうなどして、ハプニングとして男性芸人のズボンが脱げる程度の露出は、制作者も予見していなかったわけではありません。いわば「お約束のシーン」と考えておりました。
参加した芸人たちは、なんとか「笑いがとれる」シーンを作るべく、進んで衣服を脱いだりお尻をさらして盛り上げようとしましたが、芸人たちにそうした方向でしか笑いがとれないと思わせた番組演出の力不足を恥入るとともに、本来は流れをストップし是正すべきであったと反省しております。

私たちは、いわゆる「下ネタ」がすべてダメだとは考えていません。
貴委員会も、これまでに、「下ネタ」が時と場合によっては「見るものを開放的にし、豊かな笑いをもたらす…」などの面にも言及されています。しかし一方で、バラエティ番組における下ネタの大前提は、社会に受容される範囲を越えて社会通念から逸脱すれば、視聴者に不快感を与え、楽しいはずのバラエティ番組が社会に違和感を与えるものでしかなくなってしまうことも指摘されています。
では、社会に受容される範囲とはどこまでなのでしょうか。これは難しい問題です。民放連・放送基準「不快な感じを与えるような下品、卑わいな表現は避ける」(48条)に大枠を定めているものの、その表現に至る流れ、周囲の状況、誰が演じるのか…などなど、様々なファクターで視聴者に与える印象は変わってくるのではないでしょうか。
ならば、今回ご指摘のあったシーンはどうであったか?残念ながらこのシーンはその社会に理解される範囲を逸脱し、多くの視聴者に受容されない内容であったと反省せざるをえません。視聴者の目線に立って、視聴者にどのような印象を持たれるのかについての洞察や想像力に欠けており、安易な演出に手を染めたことが見透かされ、視聴者にとっては、笑いよりも嫌悪感が先行してしまったのではないかと考えております。

問2について

制作局の番組では、制作局内におかれた制作考査部が、番組のコンプライアンス及び考査を担当しています。
バラエティの各番組には、制作当事者とは一線を画して客観的にチェックするコンプライアンス担当のマネジメントプロデューサー(MP)が配置されており、制作考査部に兼務で所属しています。MPは、番組によっては、放送前のVTRチェックだけでなく、収録に立ち会ったり企画段階からディレクターやプロデューサーの相談に乗るなどして、法令遵守や放送倫理の観点から、番組の質の向上に努めています。また、MPが出席する制作考査部会では、番組から相談をうけた個々の企画をコンプライアンスの視点から議論し、どうすれば実現可能かなどを話し合っています。
MPは、番組内容に懸念や疑問があれば番組のプロデューサーとまず直接議論しますが、解決しなかった場合、MPはさらに制作考査部長に相談。制作考査部長は、プロデューサーや番組制作現場を統括する制作一部長、二部長と話し合って問題を解決する、というシステムを作っています。
しかし、今回の番組は2人のベテランのプロデューサーが担当しており、うち1人は他番組ではMPを務めていることから、専任のMPは配置していませんでした。また番組を統括する制作一部長が、早い段階からこの企画の相談に乗りロケの一部にも立ち会っていたため、制作一部長が総合的にチェックするという形をとりました。
そのためこの番組は、結果的に制作当事者だけのチェックとなり、考査担当者による客観的な指摘や議論のないまま企画が進行することとなりました。制作考査部は、番組の安全対策には参加していたものの、上記の理由から内容面でのチェックには加わりませんでした。しかし、大型の特別番組であることを考えれば、制作考査部長などは、内容面についての確認は行うべきであったと反省しています。
VTRチェックの段階でプロデューサーは、「芸人が肌を露出している場面が目立つな」との感想は持ちつつも、「マスクやモザイクで丁寧に対応すれば、放送でカットするレベルの問題ではない」と考えました。
また制作一部長は、「下ネタを扱っているようだが、卑わいの印象はことさら強くなく、芸人が脱ぐことは、一種の『お約束』として視聴者に受け止められるのではないか」との印象を持ちそのまま編集作業を進める判断をしました。
今回の番組は「身体を張ったクイズバトル」であるとの認識が制作者側にあり、番組収録に先立って社内横断の安全対策会議を呼びかけ、編成局、コンプライアンス室、技術局、美術センターも加わって、大型セットの安全面などに重点を置いて事前チェックをしました。しかし内容面については、制作局が責任を負っており、あらためて社内の他のセクションに検討を要請することはありませんでした。
今後は、制作局が作る全ての番組について、制作考査部を中心に、客観的で複眼的なチェックを徹底してまいりたいと考えています。

問3について

「ぬるぬる坂クイズ」のロケ現場は、熱海市の海水浴場でした。セット前面の「撮影エリア」は海に面しており(海辺まで20メートル)、左右は、基本セットに加えて参加者のコースアウト防止のために1.5メートルほどの壁を設置し、周囲からは独立したスペースと考えておりました。また収録内容を放送前に公開したくないという目的や「映りこみ」を避けるため、「撮影エリア内」は一般の方々の立ち入り規制をしておりました。
しかし、どの程度撮影の様子が見えていたかはわからないものの、放送では、「撮影エリアの周辺」に一部見学の市民の方々が立つ姿が見てとれました。
先に述べたように、ロケ中に芸人が自ら服を脱ぐなどの行為自体はまったく想定外のことでしたが、ロケ地点の設定について、さらに慎重な配慮が必要であったと考えております。
また、「ぬるぬる坂」のコーナーに関しては、視聴者から、撮影現場の状況を考えれば女性アナウンサーや女性スタッフに対してのセクシャルハラスメントがあったのではないか、との指摘をうけました。
現場が想定外の状況にエスカレートしたとはいえ、このような事態を止められなかった背景には、ハプニング的な「男性芸人の肌の露出」に関しては、視聴者からも「お約束のシーン」として一定の理解を得ているという制作現場の甘い認識があったことは否定できず、「セクシャルハラスメント」に関して意識が低かったと言わざるをえません。さらに視聴者からは、「サイレント風呂」のシーンなどを含めた放送内容が男性目線であり、女性アナウンサーの反応を流すことはそれ自体が「セクハラではないか」との批判もありました。真摯に受け止めたいと思います。
今後、撮影場所の選定や、セクシャルハラスメントの問題については、あらためて重点チェック項目とし、意識改革してまいりたいと考えております。

問4について

 冒頭でも申し上げましたが、この番組はもともと弊社恒例の特別番組で、春・秋の土曜日に放送される「オールスター感謝祭」の翌日に放送される、2夜連続の大型番組として企画されたものでした。
また「謝肉祭」のHPでは、番組について「前日の感謝祭では全く目立てなかった、もしくはそもそも呼ばれてさえいない芸人たち40人が…身体を張ったクイズバトル」との紹介があり、基本的には「身体を張ったクイズバトル」を想定し、「家族そろって大笑い」できる企画として期待されていたものでした。
では制作過程において、当初目指したコンセプトがなぜ変質していったのか。
制作一部長は、それは、プロデューサーはじめ演出陣の「恐怖」と「自信のなさ」が原因ではないかと断じています。出演芸人の股間にヒリヒリする薬を塗ったり、ハプニングであったとはいえ、芸人の裸のシーンを放送してしまったのは、番組が「つまらない」ことへの恐怖から安易に逃れようとした結果に他ならない、と。
笑いの演出家である以上、誰しもが本音では「下ネタ」めいたものではなく、もっと独自のハイセンスな笑いを生み出したいはずで、そのための努力を極限まで尽くそうとはせずに、制作に臨んだ結果がこの放送であったと言えます。終わってみれば、とても「家族そろって屈託なく笑える」ものにはなっておらず、大きな悔いを残す結果となってしまいました。

問5について

 制作局では、これまでもBPOの各委員会から出された指摘を、局会や部会などで共有しつつ議論し、理解を深めるよう努めて参りました。
また近年、青少年委員会から示された意見などは、他社の事例であっても、現場で注目していたことは間違いありません。
しかしながら、今回の結果を考えますと、各事案の教訓が制作者たちの中で徹底されていたとは言えず、一定の時間を経て指摘された問題意識は風化しつつあり、今回の企画に関しても、過去の事案と比較して「あそこまでえげつないものではないだろう」との考えが、放送に至る判断を後押ししていました。
言うまでもなく貴委員会が過去に出されたメッセージは、倫理基準を機械的にあてはめるような線引きを目的としているのではなく、なぜバラエティ制作者たちは、視聴者が嫌悪し、不愉快にさせる表現で笑いをとろうとしているのか?という根源的な問いかけがあったのだと理解しています。また、メッセージの中には、「せっかくの日々の努力で、明るい笑いを届けようとしているあなたたちの番組が、ひとつの逸脱し、やり過ぎた表現で水の泡になってしまうのではないか…」と、制作者への忠告もありました。
私たちは、貴委員会の真意を受け止め切れていなかったと言わざるをえません。
このたびあらためて、制作局内の制作一部、制作二部、制作考査部の部会で、過去の事案の「委員会の考え」、「委員長コメント」の全文を配布して勉強会を開き、意見交換しました。
社内横断的な組織である放送倫理小委員会ではこの番組を取り上げ、その議論などを踏まえて、今後審査部門は、性的な表現についての具体的な指針を番組制作者に向けてまとめる予定です。さらに、今後、全社的な議論の場である放送倫理委員会や外部の有識者が委員をつとめる「放送と人権」特別委員会でも、この問題を取り上げていくことにしています。

終わりに

 「テレビ離れ」が言われる時代の中で、今なおテレビが好きで楽しみに見てくださっている方々の存在を、私たちは本当にありがたいことだと思っています。私たちは、そんな家族が集まった日曜夜の「お茶の間」に向けて、「理屈なしに笑ってもらえる」番組を作ろうとしたつもりでした。
しかし、地上波放送の中で、子どもからお年寄りまで様々な世代に同時に楽しんでいただけるような「笑い」を生み出すことは容易なことではありません。
本来は、制約があるからこそ番組制作者は壁に挑戦し、壁を越えるために十重二十重に考えをめぐらせて、ギリギリの境界線の上に視聴者に面白いと感じてもらえる新しい「笑い」が生み出されるのかもしれません。しかし今回は、視聴者に「もっと笑ってもらいたい」、「もっと笑ってもらいたい」と知恵をしぼっているうちに視野が狭くなり、放送の公共性や社会性が視野から遠ざかってしまった部分がありました。「短絡的な発想で、手っ取り早く笑いをとろうとした稚拙な演出だった」とのご批判も甘んじて受けざるをえません。
何よりテレビが大好きな視聴者の期待に応えられなかったことは、プロとして本当に残念で恥ずかしいことです。
また、私たちのせいで、他のバラエティ番組制作者の表現の幅をせばめてしまったかもしれないことにも悔いが残ります。
今回の件を教訓とし、今後ともバラエティ制作者としての果敢な気持ちを大切にしながらも、放送の社会性・公共性を肝に銘じ、真にチャレンジングな番組を作っていきたいと考えております。

<意見交換の概要>

2016年11月22日

TBSテレビ『オール芸人お笑い謝肉祭‘16秋』
意見交換の概要

●=委員、○=TBSテレビ

(1) 表現上の配慮の問題について
● TBSテレビが細目について準用している日本民間放送連盟・放送基準(放送基準)では、第3章「児童および青少年への配慮」(15)児童および青少年の人格形成に貢献し、良い習慣、責任感、正しい勇気などの精神を尊重させるように配慮する。(18)放送時間帯に応じ、児童および青少年の視聴に十分、配慮する。第8章「表現上の配慮」(48)不快な感じを与えるような下品、卑わいな表現は避ける。第11章「性表現」(73)性に関する事柄は、視聴者に困惑・嫌悪の感じを抱かせないように注意する。(79)出演者の言葉・動作・姿勢・衣装などによって、卑わいな感じを与えないように注意する。とあるが、これらの基準に照らし合わせ、どのように表現上の配慮をしたのか?
○ 企画段階から番組に関わりロケにも立ち会っていた。品がない企画だとの認識はあったが、卑わいとは感じず、放送しないという判断には思い至らなかった。今になって思えば、世間の感覚とズレがあったと言わざるを得ない。放送後に社内各所からも「家族で楽しめる内容ではなかった」「下品だった」など、かなりの批判を浴びた。
● 放送における表現の「不快」や「下品」について議論することは番組の評価にも関わり、その判断基準は人や時代によって変化するものなので「この表現はいけない」などと我々BPOが押し付けることはすべきではないと考える。しかしながら、今回「なぜ、無視できないほどの視聴者意見が寄せられたのか」を考え、問題意識を共有したい。当該番組の企画・制作段階において、今回の演出は「社会的に受容される」との判断があったということか。
○ 「ある程度の意見はくるだろう」との認識はあったが、社会に受容される範囲内だろうと判断していた。放送前の試写にも立ち会っていたが、番組の面白さや出来不出来など、内容ばかりに意識が向いていた。
● ロケを行う前の台本段階でのチェックはどのようなものだったのか?
○ 当該番組は、比較的多額の予算が与えられ、理屈抜きに笑うことができる番組を目指していた。出演者も大人数、セットも大がかりだったので、担当プロデューサーとしては「安全管理」に意識が集中していた。
○ 「サイレント風呂」については、危険ではないという程度の認識だった。「ぬるぬる坂」では、出演者のズボンが脱げてしまうようなハプニングもある程度、想定していたが、生放送ではないので問題ないだろうと考えていた。
○ 「ぬるぬる坂」については、出演者が衣服を脱ぎ始めたということよりも、階段から人が滑り落ちてくることなどにより事故が起きないようにすることに多くの注意を払っていた。衣服を脱ぎ始めた出演者の行為自体の是非ではなく、その映像をどのように加工処理して放送するかという2次的な対応に思考のベクトルが向かっていた。
● 「サイレント風呂」は、どのように企画され、なぜ放送されたのか?
○ 「男性が男性の股間に薬を塗る」という行為が、あれほどたくさんの視聴者に不快感を与える行為だと思わなかった。安全性も確保してあるので、「氷水をかける」ことと同じ感覚でいた。
● 当該番組には「性的不快感」という視点が欠けていたのではないだろうか。ある調査によればLGBTを含む性的少数者に該当する人は日本人の7.6%だとも言われている。今の時代、「サイレント風呂」の企画を「“男同士だから問題がない”とは言えない」と考える人が、制作者にいなかったのか?
○ LGBTの問題については、別の番組で取材した経験もあり、勉強もしている。しかし、今回の番組においては、そこに思いが至らなかった。
● 放送では性器をマスキング処理していたが、ロケ現場のモニター画面には処理されずに映し出されていたと思う。アナウンサーをはじめとする異性の出演者も見ていたはずだが、その人たちへの配慮はあったのか?
○ 企画内容を事前に伝えていたが、セクシャルハラスメント(セクハラ)にあたりかねないとの意識は低かった。

(2) 局内におけるチェック体制と放送責任について
● 当該番組は、通常と違い放送されるまで制作担当者しか番組試写をしていないという極めて特異な状況だったとのことだが、なぜ今回に限りそのようなことが起きたのか?
○ TBSテレビでは、コンプライアンスや番組考査を担当するMP(マネジメントプロデューサー)を番組ごとに配置している。しかし当該番組は制作部長が企画し、ベテランのプロデューサーが2人担当するという体制が組まれたので、(番組改編の)繁忙期だったこともあり、制作陣だけでも自主判断できるだろうと考えてしまった。通常の番組では、判断の最終責任者ともいえる制作部長が企画から制作に入り込んでいたという意味でも、今回のチェック体制はイレギュラーだった。
● 他番組でのMP経験もあるというプロデューサーが、今回の番組を担当していたにも関わらず、どうしてこのようなことになったのか?
○ 自分がMPとして担当している番組では、今回視聴者から指摘を受けたような表現に対しての経験が乏しかった。さらに制作スケジュールが切迫していく中で、番組を完成させることだけでいっぱいいっぱいになってしまっていた。
○ 放送前に、ダブルチェック、トリプルチェックしていれば番組内容は違っていたかもしれない。今後は、必ずMPを配置させたい。
○ 編成から制作への当初のオーダーは「週末のゴールデンタイムに家族で視聴できる番組」というもので、事前には演出の細部までは把握してはいないが、企画段階では編成としても了承はしていた。しかし放送後、編成部としても「家族で視聴できる番組とは、とても言えない内容だった」と制作に伝えた。
○ 放送翌週の10月14日に局内で「放送倫理小委員会」が招集され、当該番組が取り上げられた。「なぜ放送されてしまったのか」「どこかの段階で止めることはできなかったのか」と批判を浴びた。放送直後から局内では反省と今後の対応が必要だとの自覚があった。

(3) 収録時の配慮について
● 放送では「ぬるぬる坂」収録の際、一般の人が現場に入り込んでいるように見えるが、見物人に対する配慮はなされていたのか?
○ 「撮影エリア」内は、一般の人の立ち入りを規制していた。また「撮影エリア」は海に面しており、セットの左右には出演者の安全管理のために1.5メートルほどの壁を設置していたので、スタジオ同様とまでは言えなくとも、周囲からは閉ざされたスペースだという認識だった。
● 公開された場所での撮影で、出演者が衣服を脱ぎ全裸になるということは、例えばドラマのロケなどでは考えられない行為ではないだろうか。「お笑いならば許される」という意識があったのではないか?
○ 裸になった出演者がセットを越えて、一般の人が見えるような場所に飛び出していくようなことがあれば、当然、制止する。
○ 裸になった出演者の姿を見物していた一般の人が間近で見るようなことはなかったが、遠くから見えていた可能性が100%なかったとは言い切れない。
○ 制作担当者のコンプライアンスに対する意識が低かったことについては、今後、さらなる教育の必要があると考えている。また、当該番組がセクハラを助長する可能性をはらんでいたことなども再認識した。制作部だけではなく、全社的に対応すべき問題だと考えている。

(4) 再発防止策について
○ TBSテレビでは、番組考査の専門性を重視し、制作局内に制作考査部を設置し、番組ごとに担当のMPを配置している。しかし、今回はこのシステムが有効に機能しなかった。そこで、今後は(1) MP配置の徹底、(2) 直截な「べからず事例」の作成と共有、(3) 制作現場における活発な議論を行いたい。
● 放送基準の運用については、番組ごとに熟慮し判断することが適当ではないか。「べからず事例」が作られることによって、現場が委縮し、番組が面白くなくなってしまうのではないかと懸念する。
○ 直截な「べからず事例」を提示することにより現場から立ち上がる疑問の声をもとに、議論を行うことが現実的対策だと考えている。
○ 「事例」の提示をどのような形にすべきか、今、まさに局内で議論をしているところである。
● インターネットやSNSでだれもが自由に発言できる中、「BPOがテレビを面白くなくしている」などと言われることが多い。しかし、青少年委員会は、規制したり裁判のようなことをする委員会ではない。放送現場に望むことは、出演者と何でもディスカッションできる関係を築き、アイデアを出し合い、楽しい番組を作っていただきたいということ。委縮せずにもっと面白い、新しい笑いを生み出していただきたいという思いがある。

≪委員長まとめ≫
青少年委員会は表現の自由を守ることが一番大切だと考えている。そのためには、メディアに携わる人間は、放送の公共性を理解し、国民のコモンセンス、社会的教養の創出を預かっているのだと自覚し、努力しなければならない。そうし続けないと公権力の介入を招きかねない。答えはすぐには出ないが、「国民が求める笑いの質とは何か?」と、「笑いの創出」について問い続けるきっかけになれば幸いだ。

2016年12月6日

TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、12月6日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会から川端和治委員長、岸本葉子委員、鈴木嘉一委員、中野剛委員の4人が出席し、当該局のTBSテレビからは取締役(制作担当)ら3人が出席した。
まず川端委員長が「視聴して大変面白い番組だと思っただけに、今回の件は委員会としても非常に残念であった。その原因は、顔相鑑定の専門家として出演してもらったにもかかわらず、最終的には一つの素材のようにしか扱わなかったために、出演者に対する配慮や敬意が欠ける編集をしてしまったことである。その背景には、TBSテレビの局制作の番組でありながら、2つの制作会社が関与するなど非常に複雑で、責任があいまいになりそうな制作体制の中、制作過程全体のつながりがきちんと見られていないことに問題があったのではないか」と述べた。その上で「現在、このような制作体制は非常に広くとられているが、放送局側がどのように制作会社との関係を適切に構築していくのかが、これからの課題であることを十分留意してほしい」と指摘した。
また、中野委員は、「今回の件は、放送前に問題点に気づけるチャンスが何回かあった。その時に、スタッフが自分の意見をしっかり言えばストップがかかったのではないか。スタッフが自分の意見を率直に言えるような環境作りに、放送局側もしっかり取り組んでほしい」と述べた。また、岸本委員は、「とくに若い制作者には、意見書の結論部分だけでなく、それに至る過程についても是非読んでもらい、私たちの問題意識を共有して、番組制作にあたってほしい」と述べた。さらに、鈴木委員は、「委員会では、これまでも、番組で失敗したら、番組で取り返せというメッセージを送ってきた。今後、番組をよくする形で失点を取り戻してほしい」と述べた。
これに対してTBSテレビ側は「委員会の考えを、全社で、特に制作現場の皆に共有させ、ご意見を実のあるものにしていきたい。制作会社の力を借りて番組を制作する形態が多くなったが、局としてのガバナンスが効いていなかった。この制作形態を前提に、TBSとしてどうような体制が組めるのかが、今後の課題だと認識している」と述べた。

このあと、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には20社37人が出席した。
初めに、川端委員長が意見書の概要を紹介し、「委員会は、出演者に無断でレースから脱落したことにしてその姿を消すという、出演者に対する敬意や配慮を著しく欠いた編集を行ったことを放送倫理違反と判断した」と説明した。さらに「番組制作を担当した人たち相互の間でも、重要なことの伝達がなされていなかった。制作現場内の風通しの悪さが問題の背景にあったのではないか」と述べた。その上で「局制作をうたいながら、実際は制作会社が作っているという番組は現在たくさんあるが、局がしっかりその制作過程を管理できる体制を作っていかなければ、これからも同じような問題が起こるのではないか」と指摘した。
中野委員は「疑問を持つスタッフが複数いたにもかかわらず、最後の出演者の姿を消す段階まで、結局声を上げられなかったことが、担当者へのヒアリングで浮かび上がってきた。その道のプロとして番組を放送する以上は、率直に自分の意見を発言し、議論した上できちんと対応策を考えてほしかった」と述べた。岸本委員は「バラエティー番組ということで、長時間の慎重な議論を重ね、この意見書をまとめた。現場の制作者には、この意見書を隅々まで読んで、私たちの問題意識を共有していただきたい」と述べた。また、鈴木委員は、「言うまでもなく、出演者は一個の人格であり、それぞれ社会的な立場を持っている。出演者を単なる素材と見てしまうとそういう人間的な要素が抜け落ちてしまう。今回は、スタッフが出演者を素材視していたところに一番の問題があったのではないか。スタッフの意識が問われたケースだと思う」と述べた。

記者とのおもな質疑応答は以下のとおりである。

  • Q:事実関係の確認だが、TBS側のスタッフは、編集作業で時系列を入れ替えたことや、出演者の姿が消されたことを、問題が発覚するまで知らなかったということなのか?
    A:その通りです。(川端委員長)

  • Q:この番組のスタッフには、以前審議対象となった「ほこ×たて」のスタッフもいたと思うが、意見書で同じ制作スタッフがいたことに言及していないのはなぜか?
    A:同じスタッフがこの事案にも関与していることは当初からわかっていたので、そのことが今回の過ちが起こったことに関連しているかは注意してヒアリングをした。しかし、そういうことではないことがわかったので、制作会社と放送局との関係一般の問題にとどめて言及している。(川端委員長)

  • Q:個人の問題ではなくて、構造の問題ということか?
    A:そうです。(川端委員長)

  • Q:「ほこ×たて」と総合演出が同一人物で、スタッフたちが意見を言いにくい環境があったということだとすると、「ほこ×たて」の事案と共通項があることになるのではないのか?
    A:「ほこ☓たて」の事案の際に、総合演出に意見が言いにくいということが問題になっていたなら関係があることになるが、「ほこ×たて」の時はそうではなかったと理解している。あの事案では、ディレクターが単独で「ない対決を作り上げてしまった」ことなので、問題は違うと思う。(川端委員長)

以上

2016年11月に視聴者から寄せられた意見

2016年11月に視聴者から寄せられた意見

東京・神宮外苑前のイベントで痛ましい火災事故があったが、その報道姿勢や使用した映像に関する批判が多く寄せられた。また、アメリカ大統領選挙に関連した情報系番組における報道のあり方への意見、覚せい剤使用の容疑で逮捕された歌手への取材方法や映像使用に関する批判など。

2016年11月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,557件で、先月と比較して284件減少した。
意見のアクセス方法の割合は、メール78%、電話20%、FAX1%、手紙ほか1%。
男女別は男性65%、女性34%、不明1%で、世代別では40歳代30%、30歳代29%、50歳代18%、20歳代14%、60歳以上7%、10歳代2%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。11月の通知数は796件【45局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、21件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

東京・神宮外苑前のイベントで痛ましい火災事故があったが、その報道姿勢や使用した映像に関する批判が多く寄せられた。また、アメリカ大統領選挙に関連した情報系番組における報道のあり方への意見、覚せい剤使用の容疑で逮捕された歌手への取材方法や映像使用に関する批判も多く寄せられた。
ラジオに関する意見は37件、CMについては18件あった。

青少年に関する意見

11月中に青少年委員会に寄せられた意見は119件で、前月から62件減少した。
今月は「いじめ・虐待」が36件と最も多く、次に「表現・演出」が27件、「言葉」「性的表現」がそれぞれ8件と続いた。
「いじめ・虐待」では、バラエティー番組のトークシーンで、タレントが「学生時代に矛盾した言動が目立つ友人を問い詰めた結果、その友人が学校に来られなくなった」旨のエピソードを話したことについて、多くの意見が寄せられた。
「表現・演出」では、アイドルチームとお笑いタレントチームが体を使ったゲームで対決し、負けたチームが勝ったチームに土下座したことについての意見が複数あった。
「性的表現」では、深夜のアニメ番組で男児キャラクターの性器が描かれていたことについての意見が目立った。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • アメリカ大統領選報道において、各局が情報を出すタイミングを操作していたのではないかと疑念を抱いた。現地ニュースのWebサイトやリポーターが、トランプ氏勝利確定と言っている州をなかなか選挙人獲得としてカウントしなかった。一方、クリントン氏が選挙人を獲得する際は即時表示させ、あたかも僅差状態が昼過ぎまで続いているように報道していた。トランプ陣営の盛り上がりは終始伝えていたが、沈んでいるはずのクリントン陣営はほとんど映さなかった。こういった姿勢が、報道に一喜一憂する視聴者の感情を利用し、テレビに繋ぎとめるための方策としてあるのであれば許し難いことだ。

  • 神宮外苑前の火災事故の報道で、火災現場から発見された5歳児にモザイクを入れて放送していた。ツイッター上にアップロードされた動画を引用したようだ。救助を求める父親と思われる男性の悲痛な叫びも収められていた。事件事故を伝える目的のために、凄惨なシーンや遺族が動転して悲鳴を上げている姿を全国に放送する必要はあるのか。親御さんの心情を思うと見るに堪えられない。

  • 神宮外苑前の火災事故の報道で使用している映像素材は、救助に全く手を貸さず、現場状況を最後まで平気でカメラに収め、SNSに投稿したものと思われる。このような倫理に外れたものを使用する番組制作者や現場ディレクターの判断、テレビ局としての姿勢に憤りを覚える。

  • 神宮外苑前の火災事故で投稿映像を流しているが、必要ないと思う。私は消防団に入っているが、火災現場に行くと野次馬の中に携帯電話で撮影している人がいる。消火活動の邪魔にもなる。テレビでこのような映像が使われると、一般市民が自分たちの事故現場の撮影に公共性があると勘違いしてしまう。

  • 高齢者による交通事故を取り上げて、「高齢者の運転=いけないこと」と批判している。徒歩圏内に店の無い地方の高齢者には、運転しなければ生活できない事情もある。やみくもに「運転するな」と批判されてもどうにもならない。高齢者が運転せざるを得ない背景も併せて伝えるべきだ。

  • インターネットの意見を、あたかも多数派の意見のように取り上げるテレビ番組が非常に多い。あるいはその意見を"視聴者の意見"として制作に反映している。これでは誤った情報を伝えている可能性もある。テレビの影響力を考えてほしい。番組によっては「インターネットの意見は無視してよい」という発言もある。限度はあるが大体そのとおりであると思う。テレビ制作者側のインターネットに対する知識が足りな過ぎではないだろうか。

  • 覚せい剤使用の容疑で逮捕された歌手のタクシー内映像が放送された。単に逮捕の直前の映像というだけで、事件の現場でもなく、動機やアリバイを示す決定的映像でもない。タクシー会社は、警察からの依頼の場合を除いて、乗客の同意なく防犯カメラの一般公開を前提とした映像を提供しないはずである。例え、タクシー会社から提供を受けたとしても、この映像を流すのは、プライバシーの面から重大な問題があると思う。こうした行為が許容されるなら、乗客は車内カメラのスイッチを切れと要求したり、事件捜査以外に映像を利用しないよう確認しないと安心してタクシーを利用できなくなる。

  • 歴史ある音楽賞の買収疑惑を週刊誌が伝えている。しかしどの局も、この話題を一切取り上げない。不倫問題等、弱っている人間に対して連日容赦ない攻撃をしておきながら、大きな力には屈するようで憤りを覚える。各局で伝えるべきだ。

【番組全般・その他】

  • 日本各地の家族を訪ね歩く番組は、人と人との出会いによる感動があり、素晴らしい。このような心温まる番組が増えることを願っている。放送を見て、実際に出演者が訪れたロケ地に観光に行く人も多いそうだ。地方の活性化・観光PRにも大いに役立つ。

  • この人気芸人は、どの番組でもセクハラと思われる行動をするが、不思議と大きな問題にならない。一般の会社ならクビになるようなことでも何故か許されている。相方と女子アナウンサーと三人で都内近郊を散歩する番組は、度重なるセクハラをテレビに映し、女性を笑いものにしているようで気分が悪くなる。

  • 夜のニュース番組で、「トランプ氏が大統領になると、米国から車の輸入を押し付けられる、基地負担を求められる」と不利益ばかりを強調し、「ニューヨークでは反対意見が多い」と結論付けた。トランプ氏はクーデターで政権を取ったわけではない。選挙という民主的な手段で選出されたのだ。反対意見ばかりだと言うなら、取材した場所と人が偏っているのだろう。トランプ氏を支持した人達の意見と、彼らがトランプ氏に何を期待しているのかを聞きたいが、肯定する意見を取り上げることは一切なかった。報道は中立・公平なものでなければならず、多面的な視野に立っての見解が求められる。無用な不安を煽るのは報道番組としてすることではない。

  • 夜のニュース番組で、ゆるキャラについて放送していた。誕生した経緯やその活躍を取り上げるならまだ分かる。しかし、流れてきたのは、中に入っている人がかつて鬱病で苦しんでいたことや、重い難病を患っていたということだった。ゆるキャラは、人に夢を与えるものだ。その下の素顔まで知ると楽しめなくなる。困難を乗り越えた人を取材したいなら、他にやり方があるだろう。視聴者にとって触れてほしくないところをあえて見せる。この番組を見ると、制作側が素人集団のような気がしてならない。

  • 昼のニュース担当の女性アナウンサーは、かなりの回数で噛んだり読み間違いをする。今日も、アメリカ大統領関連のニュースで何度もつかえ、同じ所を繰り返し読み直していた。平日5日間のうち2~3日くらいは噛みまくり、非常に聞きづらい。人間だから全く噛むなとは言わないが、毎日毎日噛まれては、ニュースが頭に入って来やしない。

  • 年末恒例の歌番組は、人気アイドルグループのメンバーそれぞれが掲げた「夢」に1ヵ月間投票を募り、その「夢」の順位を生放送で発表するとのこと。人の夢を他人の投票で順位をつけること自体がおかしな話だか、メンバーの気持ちを思うとかわいそうになる。記者会見のときに初めて企画を知らされ「残酷すぎませんか?大晦日まで争わないといけないなんて」とコメントしていたが、まさにそのとおりだと思う。メンバーは12~25歳の女の子で構成され、未成年も多い。このような企画には到底賛成できない。

  • 終電を逃した人の家に付いて行くだけの番組は、街で飲んでいる人の意外な人生が分かり、人は見かけによらないと感心させられる。市井の人々が懸命に生きていることが垣間見られ、切なくもいい番組だ。田舎の移動販売車で買い物をしているお年寄りに付いて行って、話を聞くことも実に面白い。以前、おじいさんが亡くなって、お葬式でそのビデオを流して喜ばれたというエピソードの回は本当に良かった。この局は、外国人など一般の人々をよく取材して面白い番組を作っている。下手なタレントや芸人を使うより何倍も良い。

【ラジオ】

  • 通信販売コーナーで宣伝しているお掃除ロボットを購入した。最新型と強調していたが、届いたのはいわゆる型落ち品だった。私は量販店で下見をしていたのでそのことに気づき、クーリングオフで返品できた。しかし購入者の中には、放送で言っているとおり、最新型と信じて使っている人も多いと思う。ラジオ局に最新型という売り文句を外すよう申し入れたが改善されず、つい先日も「最新型を紹介します」と言って型落ち品を宣伝していた。番組パーソナリティーやゲストも商品説明に加わっているので信用度も格段にアップしており、余計に腹立たしい。

【CM】

  • 賃貸住宅のCMで、着ぐるみのキャラクターが、公道をキックボードに乗ってバスを追いかけるシーンがある。キックボードは遊具であり、交通量の多い公道での使用は禁止されている。CMを見て真似をする人も現れるのではないか。

青少年に関する意見

【「いじめ・虐待」に関する意見】

  • バラエティー番組のトークシーンで、タレントが「学生時代に矛盾した言動が目立つ友人を問い詰めた結果、その友人が学校に来られなくなった」旨のエピソードを話していたが、テレビで笑い話として話すような内容ではない。後悔しているような感じもなく、大変不快だった。

  • トーク番組で、あるお笑いタレントの変わった性格を別の多数のお笑いタレントが揶揄していた。本人が嫌がっているにも関わらずトークは続けられ、小学生のいじめを彷彿させるような内容だった。子どもたちへの悪影響が心配だ。

【「表現・演出」に関する意見】

  • タレントに簡単なテストを受けさせて、誰が一番勉強できないかを決める企画があった。タレントの出身校が表示されていたが、その学校の中にはいじめにより不登校になった生徒を受け入れているような学校も多く見られた。辛さを乗り越えてやっと学校に通っている生徒がたくさんいるにも関わらず、一部のタレントの成績だけで勉強ができないと思われてしまうのはかわいそうだ。このような企画で高校名を出す必要があったのだろうか。

  • アイドルチームとお笑いタレントチームが体を使ったゲームで対決する番組で、負けたチームが勝ったチームに土下座していた。勝負事で負けた方が土下座するという概念を子どもたちに植え付けないでほしい。

【「性的表現」に関する意見】

  • 深夜のアニメ番組で、小学校高学年くらいの男児キャラクターの性器を何度も描いていた。乳児や幼児ならともかく、社会通念から外れているのではないか。

【「危険行為」に関する意見】

  • 視聴者からの投稿動画を紹介する番組で、息子が父親にいたずらするシーンを取り上げていたが、危険な行為が多かった。特に、寝ている父親の口を掃除機で吸って起こす行為やドライヤーに小麦粉を入れておく行為は重大な事故に繋がりかねない。子どもが真似しないか心配だ。

  • あるタレントが重さ9kgのボールを使って腹筋を鍛えている旨を紹介した際に、そのトレーニング方法を他の出演者にも挑戦させていた。普段鍛えているタレントならともかく、重たいボールを腹に落とす行為はとても危険だ。子どもに人気があるグループのメンバーが挑戦しており、学校などで真似する子どもが出ないか危惧する。

2016年10月27日

沖縄県内の各局と意見交換会

放送人権委員会は10月27日、沖縄県那覇市内で県単位の意見交換会を開催した。放送局側の参加者は沖縄県内の民放5局とNHK沖縄放送局等から合計42人、委員会からは坂井眞委員長、奥武則委員長代行、曽我部真裕委員の3人が出席した。
午後7時半から約2時間にわたって開催された意見交換会では、前半は地元沖縄での事例に基づいて議論し、後半では最近の事案として「謝罪会見報道に対する申立て」事案と「出家詐欺報道に対する申立て」事案を取り上げ、委員会側が「委員会決定」の判断のポイントや放送法の解釈等について説明、意見を交わした。
主な内容は以下のとおり。

◆ 坂井委員長 冒頭あいさつ

表現の自由、他の権利との調整求められる時代
BPOの放送人権委員会は、時には局に厳しい意見を言ったりするので、ちょっと煙たいと思われているかもしれない。ただ、小言を言ったり、学校の風紀委員みたいなことをやっているつもりはない。
表現の自由は極めて重要だけれども、時に他の人権、プライバシーだとか名誉だとかを傷つけてしまうことがある。それは避けなければいけない。放送人権委員会はそのバランスを取る、そういう仕事だと思っている。BPOがこの役割を担うことは放送メディアが自律していく、自らを律していくことでもあるので、そういう目で見ていただけたら有難い。
かつては、「表現の自由」に対して、誰も正面からは異論を言わなかった。それがある時期から、例えばアメリカの場合9.11以降、非常に表現の自由に対する規制の問題も出てきている。ヨーロッパの場合も、今、右傾化と言われる中で同様の問題が出てきている。これはISの問題や移民の問題があってというようなことだ。日本でも今年法律ができたが、ヘイトスピーチの問題などが出てきている。
だから表現の自由は大切だというだけでは、なかなか「そうですね」で話が終わらなくなってきている。憲法改正などということも言われている。そういう中で、メディア自体がちゃんと他の人権との調整を図っていくということが改めて求められている時期だと思っており、そんな問題意識を持っている。
そういう意味で、今日は、我々がやっていることについてのご意見をいただいたり、疑問をお聞かせいただいたりして、今後さらに放送メディアが発展していく役に立てればいいと思っている。

◆ 沖縄での事例(米軍属による女性殺害事件)

意見交換会の実施に先立って行った地元局との事前の打ち合わせで沖縄での事例について何を取り上げるのかを協議、地元局からの提案もあり「米軍属による女性殺害事件」を取り上げることとなった。
まず、地元の2つの放送局から、事件報道の経緯等の報告があり、それに基づいて意見交換を行った。

□ 地元局の報告(A)
この事件で人権との関わりというと、やはり匿名報道という部分になるかと思う。被害者の名前については行方不明になっている時点から出していたが、死体遺棄容疑で容疑者が逮捕され、その後取材の中で暴行の疑いが出てきたというところから、被害者の人権に配慮して匿名に切り替えるという形を取った。
難しいと思ったのは、犯行の態様が出てくると、亡くなられた被害者や遺族の心情に配慮しながら、どこまでどう表現していくのかといったところについてはかなり配慮を求められたということだ。
それから、匿名に切り替えた時点でオンエアとしてはそこから匿名になっていくわけだが、過去に配信したWEB情報は、自社のほかキー局のホームページ等にも載っている。ともすると忘れがちになるが、そこまで徹底して匿名に切り替える作業もやっていかないとザルになってしまうので、この点もやはり気を付けなければいけない点だと思った。
大きな事件なので、本土からも多くのメディアも来るという中で、遺族や交際相手の取材に集中していくわけだが、どうしてもメディアスクラムに近い状況が生まれがちになってしまう。そんな中で、関係者になるべく負担をかけない形、2回も3回も同じようなアプローチをするようなことのないように情報の共有に配慮する必要があると思い、その点も気を使った。

□ 地元局の報告(B)
今回この事件を取材していて非常に悩ましかったところは、いつの時点で匿名に切り替えるかということだった。5月19日に死体遺棄容疑で逮捕されたのちに、殺人と強姦致死で再逮捕されるが、5月19日の時点では、もうすでに警察は行方不明者ということで事前に顔写真を公開しており、各社顔写真を使って実名で彼女がいなくなっているという事実を伝え続けていた。
その後、取材していくと暴行の容疑が垣間見えてきた時点で、いつ切り替えるのか考えた。弊局としては逮捕2日後の21日の昼ニュースから匿名にした。
では、その時に匿名にしただけですむのか。というのは、例えば彼女がウォーキング中に襲われたのではないかということで、このウォーキングの現場を映像で出した場合、見る人が見れば、うるま市のあそこの道だということが分かる。また、告別式が実家のある名護市で開かれた。これもまた、匿名報道をしている中で被害者の特定につながってしまう。それぞれ表現や映像をどこまで出していいのか、非常に悩んだ。
ただ、今回の事件は事前に顔写真が公開されているので、県民としてはあの事件だというのはほぼ分かっていることであろうと判断して、名護市であった告別式のときの場所はきっちり伝えたし、彼女が歩いていたというウォーキングコースもことさら隠すことなく放送した。ただし名前は全て伏せた。そういったところに難しさがあったかと思う。
もう一つ、加熱する取材、過剰な関係者への追いかけ取材のところも悩んだ。働いていた職場が近くにあるが、そこの取材をするのにも各社が集まっていくし、朝から晩までずっと立って待っておけばいいのかという問題もある。いわゆる過熱報道と人権との間で非常に悩んだ事例だった。
のちのち、この日の判断はこうだったんだ、あの日の判断はこうだったんだと一つ一つ振り返る必要があると思う。

□ 坂井委員長
実名・匿名、事件の本質を見極めて

匿名に切り替えるのがいつかという問題と、いわゆるメディアスクラム、集団的過熱取材の2つの問題があると思う。当初は行方不明事件で公開捜査をしてということなので、本当にそれだけであれば、むしろ行方不明になった方を探すためにメディアが協力するということは必要な場合もあるので、それは実名で致し方ないのかなというのが一点。
それで、それが性犯罪絡みだということが分かってきた段階で、できるだけ早く切り替えるということだろうと思う。ただ問題は2つあって、殺人事件でも警察は最初死体遺棄で逮捕して、そのあと殺人で捜査するというのはよくある話で、事件報道に当たっている方は分かっていると思う。
本当に、単に行方不明だから探しましょうということであれば、それは実名で出す以外にないと思う。ただ、ケースによると、本当のところはどうだろうか。警察がやろうとしていることが分かるのであれば、最初から匿名にするということもあるかもしれない。それが一点だ。
それから、取材の集中の問題というのは、古くて新しい、何か起きると繰り返されてきた問題だ。和歌山カレー事件のときは、逮捕の瞬間を撮るために、夏にビーチパラソルをさして、ずっと家の前で待っていたというようなことがあった。和歌山のときは現場に行っていろいろ話を聞いた。テレビメディアだけではなくて新聞も来るので、同じことを何遍も何遍も聞かれる。それはたまらないということを地元の方はおっしゃっていた。その時は日弁連の関係で行ったのだが、「弁護士さんにそういうこと相談していいんですか」というようなことを言われて、そうですよという話をした記憶がある。
当時集団的過熱取材については、県庁の記者クラブだとか県警の記者クラブに話を通して、窓口を決めてやるという話も出ていた。場合によると窓口を作って関係者に負担をかけないでやる、という話をすることが可能なケースもあるかもしれない。

□ 奥代行
メディアスクラム、取材者がそれぞれの現場で理性的な振舞いを

メディアスクラムの話だが、これが絶対起こらないようにするということは実はなかなかできないだろうと思う。今回の場合でも、そういう問題意識を持って現場で取材に当たっていたということは、やはり昔に比べれば事態が相当改善されてきたと思う。しかし、自由に取材するというのが当然必要なわけだから、それを何らかの形で規制することと取材の自由をどう両立させるかというのは、実は難問で、おそらく「これが答えだ」というのはないだろう。取材者たちがそれぞれの現場で理性的に振舞うしかないだろうと、そういうふうに思っている。

□ 曽我部委員
何のため?匿名にすることの意味を考えよう

公開捜査なので実名でもしょうがないということだが、二十歳の女性がいなくなったということは、当然これは性犯罪に巻き込まれている可能性があるというのは、すぐ連想されることだと思う。その後こういう展開になるのは予想できたような気もするので、当初の時点から何らかの配慮ができるといいのかなという感じはある。
それから、匿名に切り替えた話だが、これは一般論としていつも不思議に思うが、性犯罪だと匿名にするが、これが殺人だけだったら匿名にしなかったのか。そこの判断基準というのは、何か考える余地があるのではないかという気はする。
先ほどの地元局のコメントで大変示唆的だったのが、匿名にすることの意味だ。匿名というのは一般論からすると、本人の特定を避けるためにやるものなので、その結果、その事件のディティールは報道できないということになる。しかし、今回の場合、当初は実名報道だったので、本人の特定を避けるという意味で匿名にするということではなかった。匿名は匿名だけれども、匿名であるがゆえにその事件のディティールを報道できないということでは必ずしもないという点で特徴的な事例だったのではないかと思う。
そこから考えると、匿名にするのは特定を避けるという趣旨が通常だと思うが、それ以外にも遺族の心情からすると非常に苦痛が大きいので、そういう被害者配慮のための匿名というのもあるというのが、先ほどの報告で思ったことだ。

□ 地元局からの質問
メディア横断的な調整の仕組みとは?

我々の局も5月21日の時点をもって匿名に切り替えた。ただ、5月19日に容疑者が捕らえられたとき、すでに性犯罪というか、死体遺棄以外のものについても印象があった。そこでどういうふうに匿名に切り替えるのか、もう少し聞きたいと思うところだ。メディア横断的な調整の仕組みというのを、具体的にどういう考え方があるかを伺いたい。

□ 坂井委員長
報道内容に関する一本化はあってはならない

窓口をある程度一本化するという話はメディアスクラムの話としてはあったが、実名・匿名のような話は報道内容にかかわるので、それを足並みそろえて一本化というと、こんなにある意味、気持ち悪いことはない。取材の迷惑という話であれば、報道内容に直結するわけではないから、ある程度一本化も実現できると思うが、内容に関わる話は別だ。
もう一つ気持ち悪いのが、最近そういうことが起きた結果、警察とか役所が仕切る、ないしは口出ししてきたりすることだ。それは報道に公権力の介入を許すことになり、あってはならない。拉致被害者の方が戻ってこられたときに、ひどいメディアスクラムが起きて、私の記憶では、市役所が仕切りに入ったことがあった。役所の介入を引き出すような報道の在り方でいいのか、と思った記憶がある。最近は被害者や取材を受ける側が警察にお願いをして、警察が取材規制につながる動きをすることも起きているので、警察を窓口にした取材規制というようなことが起きないようにメディア側で何かできたらいいとは思っている。

□ 地元局からの質問
すでにネットで実名が出ても匿名化するのか?

匿名・実名の問題だが、以前被害者の女性の名前が、警察が公表する前にネットで行方不明だと情報が出回ったことがある。被害者がそういう犯罪に巻き込まれているとなれば各社匿名にするわけだが、ネットですでに名前が出ている状態となっている場合、どう判断したらいいのか。ネットで名前が出ていても、あえてそれを匿名にして、SNSとかで出回った情報と全く区別してメディアはメディアとしてやっていくのか、というところをお聞きしたい。

□ 坂井委員長
放送局が独自で判断を

そういうことは実際多いと思う。マスメディアが伏せていても、名前がネットで流れたり、顔写真が出るというのはよくある話だと思う。だからといってマスメディア側が、もう流れているから匿名にしてもしょうがないという判断はないだろう。やはり影響力も違う。そこはメディア側として独自に判断していけばそれでいいと思う。

◆ 委員会決定第55号「謝罪会見報道に対する申立て」について

続いて、昨年11月に通知・公表した委員会決定第55号「謝罪会見報道に対する申立て」について、当該局の了承を得て番組の一部を視聴したうえで起草を担当した曽我部委員が判断のポイントなどを説明した。
この事案は、TBSが2014年3月に放送した番組『アッコにおまかせ!』に対して、楽曲の代作問題で話題となった佐村河内守氏が謝罪と訂正を求めて申し立てたもの。放送人権委員会では2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。

□ 曽我部委員
どんな番組でも、事実の伝え方は報道番組と同等にきちっとすべきだ

この事案で申立人が主張したのは、この番組は申立人が健常者と同等の聴力を有していたのに、手話通訳を必要とする聴覚障害者であるかのように装って謝罪会見に臨んだとの印象を与えるので、名誉を毀損されたということだ。判断基準は、裁判所の判断でも同じだが、一般の視聴者が番組を見た時に、その番組の内容が申立人の言うような内容に見えるかどうかだ。
VTR部分を見てみると手話通訳がなくても普通に話が通じているように見えることは、おそらくあまり異論がないのではないかと思う。あの部分だけを見ると、申立人の言っているとおりに見えると思う。ただ決定では、それだけで結論に至るのではなく、診断書についての部分も検討した。診断書の紹介の仕方にいろいろ問題があって、その内容が正確に視聴者に伝わってないのではないかと指摘した。
診断書の結論は聴覚障害に該当しないという診断だが、聴覚障害に該当しないという言葉の意味は、法律の言っている基準に達していないというだけであって、普通の人と同じように聞こえるという意味ではない。ところが番組では、聴覚障害に該当しないとの診断イコール、普通に聞こえるというような感じで議論していた。委員会では、自己申告というのを強調して、「嘘ついている」というふうに持っていって、結局診断書が嘘に基づいて作られたというような印象を視聴者に与えたのではないかと判断した。
仮にそういう印象を与えたとしても、公共性、公益性があって、それが真実であれば良いわけだが、そういう証明はTBSの側からはなかったということで、最終的に名誉毀損に該当するという結論に至った。
以上が決定の全体だが、2、3コメントする。ひとつは、本件は報道番組ではなくて情報バラエティ番組なのであまり硬く判断するのでなく、少し緩やかに判断したほうが良いのではないかという意見もあろうかと思う。しかし、この決定では、そういうことはせずに事実の伝え方については、報道番組と同等にきちっと放送すべきだという前提を取った。
もう1点は出演者の発言についてだ。出演者は聴覚障害について予備知識もないだろうし、診断書の読み方について事前に説明を受けていたわけでもないと思う。出演者が素人目線でいろんな意見を言うのは、バラエティのやり方としてあると思うが、やはり障害に関する、あるいは専門的な知識が必要なものについては、もうちょっと事前に説明して、最低限の配慮をすべきであったのではないか、というのが教訓だろう。

□ 坂井委員長
決定文、なぜこういう判断が出たかを考え、読んでほしい

わたしは決定文の読み方ということを話そうと思う。
この件は名誉を毀損する人権侵害があったと判断し、放送倫理上の問題も指摘しているが、結論だけではなくて、どういう構成で、この結論を出したのかを、ぜひ理解していただきたい。厳しい、厳しくないというところで、喜んだり悲しんだりするのではなくて、こういう判断が出たことについて考え、今後にどう生かしていったらいいのかという見方を、是非していただきたい。
端的に言うと事実に対しては、謙虚に報道してもらいたい。『アッコにおまかせ!』でも、やはり都合の良い事実だけを拾っている感が、私にはある。事実に対してそういう向き合い方をしては駄目だ。脳波検査で異常があると出ているのなら、そう伝えるべきだ。そのうえで例えば「どうもわたしには、信じられません」と言えば、こういう問題にはならなかったのではないか。
今の話には、ちゃんと判例がある。ロス疑惑の夕刊フジ訴訟で、その考え方の枠組みは、前提事実が問題になるということを言って、前提事実について真実性、真実相当性が認められた時は、人身攻撃に及ばない場合は、これは名誉毀損に当たらないという判例だ。そういう下敷きがあって、我々はああいう判断をしている。
一方、所沢ダイオキシン報道の最高裁判決は、テレビの特性として一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準にすると言っている。そういう基準で見たら、どうなるのか。この番組で言うとフリップやテロップ、出演者のいろいろなコメントも影響する。そういう考え方をして、この結論を出した。
そういうことを理解していただきたい。「わたしは彼の言うことは信じません」と言っただけでは名誉毀損にならない。作り方を工夫していただければ、良いと思う。

◆ 委員会決定第57号「出家詐欺報道に対する申立て」について

続いて、昨年12月に通知・公表した委員会決定第57号「出家詐欺報道に対する申立て」について、当該局の了承を得て番組の一部を視聴したうえで起草を担当した奥委員長代行が判断のポイントなどを説明した。
この事案は、NHKが2014年5月に放送した番組『クローズアップ現代 追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~』に対して、出家を斡旋する「ブローカー」として番組で紹介された男性が名誉・信用を毀損されたとして申し立てたもの。放送人権委員会では2015年12月11日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には放送倫理上重大な問題があるとの判断を示した。
なお、当該番組に対して総務省が厳重注意したことなどに触れ、「委員会は民主主義社会の根幹である報道の自由の観点から、報道内容を委縮させかねない、こうした政府及び自民党の対応に強い危惧の念を持たざるを得ない」と委員会決定に記した。

□ 奥委員長代行
明確な虚構、放送倫理上重大な問題がある

本件放送には放送倫理上重大な問題があるということで勧告になった。名誉毀損ということにはなってないが、勧告というのは言葉としても非常に強い。映像はマスキングしているし、声も全部変えているので申立人と特定出来ないので名誉毀損などの人権侵害は生じない、というのが入口での判断だ。
しかしそれで終わっていいのかというと、そうではなくて、放送倫理のレベルで考えると、非常に大きい問題があった。放送倫理の問題をここでなぜ問うかというと、別の人から特定は出来ないとしても、申立人本人は自分がそこに登場していることが当然認識出来る。放送倫理上求められる事実の正確性にかかわる問題がそこに生まれる。
ヒアリングなどを通じて分かったことは、このNHK記者には日ごろから申立人と交流があった取材協力者がいて、いわゆるネタ元となっていた。そこに完全に依存していた。この取材協力者は、実は番組に出てくる多重債務者だ。NHKは申立人本人の周辺取材、裏付け取材をまったくしていない。取材協力者が、「申立人は出家詐欺のブローカーをやっている」と言うので、結局ああいう場面を作った。
しかし、虚偽を含んだナレーションがいっぱいある。一番ひどいとわたしたちが考えたのは、「たどり着いたのは、オフィスビルの一室。看板の出ていない部屋が活動拠点でした」というところだ。
これは実は取材協力者が全部セットして、ああいう部屋を借りて、ああいうセッティングをして、そこでああいう場面を撮ったことが分かった。出家詐欺のブローカーの活動拠点でもなければ、そこに日ごろから多重債務を抱えている人が次々に来て…という話では全然ない。これは明確な虚偽と言わざるをえないということで、重大な問題があるということになったわけだ。
NHKは過剰演出があったということで処分をしたが、この番組に関して総務省が厳重注意をした。放送法の問題などについては、後で委員長が話をするので、ここではふれないが、そうした動きに関しても我々は非常に注目している。

□ 坂井委員長
表現の自由、内容を問題にして権力者が規制出来るものではない
報道の自由を支えるものは市民の信頼。だから人権のことも自分たちで処理をして、権力が口を出すような隙は作ってほしくない

私は、表現の自由、報道の自由の関係についてお話をしたい。ご存知のとおり、この番組に関して総務大臣が厳重注意をしたほか、自民党の情報通信戦略調査会が事情聴取をした。
表現の自由、報道の自由の一番根っこにあるのは憲法21条だ。「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と、書いてある。
一方、電波法という法律がある。放送局は電波の免許更新の時は大変気を使うと聞いているが、免許に関係する電波法は表現の自由ではなくて、電波の設備に関する法律だ。
憲法と放送法との関係を考える前提として、『生活ホットモーニング』事件という、私も高裁から最高裁にかけて関わった事件の最高裁判決がある。これは訂正放送をめぐるもので、最高裁の判断は訂正放送は認めず慰謝料請求だけを認めたというものだった。その判決で最高裁は、放送法は憲法21条の表現の自由の保障の下に定められている、と言っている。その放送法の一条には法の目的が3つ書いてある。一条の一項の1号2号3号だ。
「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること」、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」、3つ目は「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」、これが目的だと書いてある。この最高裁判決は、放送法の2条以下がこの3つの原則を具体化したものだと言っている。放送法がそういう構造になっていることを、ぜひ頭の中に入れておいていただきたい。
それで日本国憲法21条に戻るが、結局憲法21条が保障する表現の自由というのは、内容を問題にして、お役所とか権力者が規制出来るものではない。そんなことをしていいとは、どこにも書いていない。そのような法律は憲法が認めておらず、その憲法の下に放送法がある。総務大臣が行なった行政指導については、放送法には何も書いてない。放送法の3条には、「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と書いてあるが、その前提として、内容を問題にして行政指導ができるような法律は憲法が認めていない。
この番組について、自民党の調査会が「けしからん。話を聞かせろ」と言ってみたり、総務大臣が口出しをしそうになる。だけれども、そんな権限があるとは放送法のどこにも書いていない。それをよく覚えておいていただきたい。
電波法76条には、放送法の問題で電波法の権限を行使出来るという趣旨の定めはある。しかし、放送法の下に位置すると言っても良い、電波設備について定める電波法の規定を根拠に、放送の内容をチェックして公権力が口出し出来るなどという転倒した解釈は到底許されない。
憲法があって、その下に放送法があって、その下に電波法があると思っていただければいい。その構造を、放送を担っている人たちが、よく頭に入れておかなければならないと、今更ながら申し上げたい。
報道の自由を支えるものは結局市民のメディアに対する信頼なので、だから人権のことも自分たちで処理をして、権力が口を出すような隙は作ってほしくないということだ。

意見交換会に引き続いて行われた懇親会でも、地元放送局と委員との間で活発な意見交換が行われた。

◆ 事後感想アンケート

事後感想アンケートに対して局側の参加者からは、「米軍属事件について。時間に余裕があれば、もう少し突っ込んだ議論につながったのかも」や「『土人』発言や『辺野古・高江取材のあり方』などもっと地域に特化した内容に時間を割いてみてもいいのではないかと思う」など、開催時間やテーマについて、さらに工夫を求める意見が寄せられた。
一方、「各局の事例報告は、実感を持って聴くことができたし、それに対する委員長、委員各位の意見などを直接聴くことができ、大変参考になった」「全国的にも知られている事例を解説されることでよりリアルに詳細に理解することができた。また、各局での題材も同じことがすぐに起こり得ることとして、当事者から生々しく聞くことができた」「今回委員の方から様々な見方を伺うことが出来、とても良かったです。とくに、『強姦殺人が発覚なら匿名、殺人なら実名報道なのか』という考え方を伺った際にははっとしました。当たり前のように先入観や慣れで放送してしまっているのではないか、と思ったからです」などの意見もあった。

以上

第186回 放送と青少年に関する委員会

第186回–2016年11月22日

『オール芸人お笑い謝肉祭 ’16秋』についてTBSテレビと意見交換。「委員会の考え」公表へ…など

2016年11月22日に第186回青少年委員会を、7人の委員全員が出席しBPO第1会議室、第2会議室で開催しました。まず前回の委員会で審議入りした『オール芸人お笑い謝肉祭 ’16秋』(TBSテレビ)について、TBSテレビ関係者と委員とで「意見交換」を行い、その後当該番組について審議しました。また、10月16日から11月15日までに寄せられた視聴者意見について意見を交わしました。そのほか、11月の中高生モニター報告、調査研究報告、今後の予定について話し合いました。
次回は12月19日に定例委員会を開催します。

議事の詳細

日時
2016年11月22日(火) 午後3時00分~午後6時50分
場所
放送倫理・番組向上機構 [BPO] 第1会議室・第2会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
汐見稔幸委員長、最相葉月副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、菅原ますみ委員、中橋雄委員、緑川由香委員

『オール芸人お笑い謝肉祭 ’16秋』についてTBSテレビと「意見交換」

前回の委員会で審議入りした、TBSテレビの『オール芸人お笑い謝肉祭 ’16秋』(2016年10月9日 日曜日 18時30分から21時54分)内のコーナー「大声厳禁 サイレント風呂」と「心臓破りのぬるぬる坂クイズ」について、青少年委員会からTBSテレビに対して10月28日付で「質問書」を提出、TBSテレビから11月14日付で「回答書」が寄せられました。それを基に委員とTBSテレビの番組関係者との間で「意見交換」を行いました。

『オール芸人お笑い謝肉祭 ’16秋』について審議

「意見交換」を基に、委員で審議しました。その結果、「委員会の考え」を公表することにしました。
「委員会の考え」「質問書」「回答書」「意見交換概要」については後日公表します。

視聴者からの意見について

●「バラエティー番組で女性タレントが、八方美人なふるまいをした女子を問い詰め、学校に来られなくなった過去を話していた。ただのいじめで、それを公共の電波で話すべき内容ではない」という視聴者意見について、委員からは次のような意見が出ました。

  • たくさんの視聴者意見が来ているが、番組を見ないでネットの情報をそのまま書いている視聴者意見も多いようだ。
  • 視聴者が過敏な反応をしていると言ってしまうのは微妙なところだ。
  • "いじめ"というより"いじめの始まり"と考えられるが、この女性タレントのキャラクターを考えると問題にするほどでは無いと思う。

話し合いの結果、これ以上の段階には進まないことにしました。

中高生モニター報告について

32人の中高生モニターにお願いした11月のテーマは「最近見たドラマ・アニメ番組の感想」でした。また「自由記述」と「青少年へのおすすめ番組について」の欄も設けました。全部で25人から報告がありました。
「最近見たドラマ・アニメ番組の感想」については、ドラマに17人から、アニメには7人から、その他、映画番組に1人から報告がありました。複数の意見が寄せられた番組は『逃げるは恥だが役に立つ』(TBSテレビ)で、10人のモニターが取り上げました。"契約結婚"という「設定の面白さ」、垣間見える「身近な問題意識」、家族で楽しむことができる「安心感」、そしてエンディングで流れる"恋ダンス"という「話題作りの巧みさ」を評価する声が多く、「久しぶりに放送が待ち遠しいドラマ」「視聴後の気分がすがすがしい」といった感想が寄せられました。
「自由記述」では、アメリカ大統領選挙についてメディアの取り上げ方への疑問や「役割語」に着目して報道を見ていて気が付いたこと、通学路で起きた事故について取材のマイクを突き付けられ困惑した経験など、放送を自分自身の視点で見つめ、意見を述べる報告が多くみられました。また「今クールは、面白いドラマが多く、テレビを見るのが楽しくなった」という意見も2件ありました。

◆委員の感想◆

  • 【最近見たドラマ・アニメ番組の感想】

    • 『逃げるは恥だが役に立つ』(TBSテレビ)の作品の中に、他番組のパロディーが仕込まれていることを評価し、楽しんでいると複数のモニターが書いていたが、パロディーであることが理解できるということは、「よくテレビを見ているのだなぁ」と感心した。

    • 『べっぴんさん』(NHK)を見て「戦時中生きていなかった私たちが戦争のことを知る数少ない機会」だと考えたり、『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ)で「校閲という職業を初めて知り、驚いた」と感想を述べたり、ドラマを通じて、中高生モニターのみんなが日々、小さな発見や小さな勉強をしていることを嬉しく思った。

    • 『相棒』(テレビ朝日)について、「なぜここまで続く人気シリーズと成り得たのか」についての考察をしたリポートを大変面白く読んだ。モニターの"番組愛"を強く感じることができた。

  • 【自由記述】

    • アニメ番組について「放送時間が30分なので、1時間やそれより長いドラマやバラエティーなどより罪悪感なく勉強の合間に見ることができる」「物足りなく感じる時もあるが、浸かりきらず勉強に復帰できるギリギリの時間が30分」だという感想が興味深い。30分という単位は、中高生の生活リズムのなかでは、見やすい長さなのかもしれない。

    • 「池上彰さんの番組を授業でも使用できたら良いと思う。"縄文弥生"“飛鳥"“平安時代"も大切だけど、"現代"を考える題材が不可欠なのではないか」という意見があったが、混とんとした時代、"現代"を理解させてくれる題材を、若者たちは欲しているのではないだろうか。また、放送コンテンツの教育活用についても、青少年委員会として考えていきたいと思う。

    • 「高校生になってから忙しくなり、テレビを見る時間が格段に減った。そこで、自分が気を付けるようにしていることは、ラジオを聴く時間を増やすこと。少しの時間でもラジオでニュースを聴くようにしている」という記述から、意識的に"情報"を取り入れていかなくてはならないと考えるモニターの姿が垣間見える。

◆モニターからの報告◆

  • 【最近見たドラマ・アニメ番組の感想】

    • 『夏目友人帳 参』(IMAGICAティーヴィ)妖怪と人間の話になると、どちらかというと技で戦ったり、力でねじ伏せたりすることが多いが、この主人公は人間で、妖怪が見えるということ以外特別な能力もなく、すぐにトラブルに巻き込まれてしまう。ただ妖怪の気持ちに寄り添い、妖怪の気持ちを汲むことで心を通わせることができ友人になっていく。争いごとの関係ではなく、なにげない日常を少し違ったところから描いて心を通わせる姿がゆっくりとした時間が流れているようで、見ていて穏やかな気持ちになる。(宮城・中学1年・男子)

    • 『夏目漱石の妻』(NHK総合)「吾輩は猫である」を読んだことがありますが、もう一度読んでみたいと思います。作者の生活や生い立ちを知ることで、自分の勉強になるだけでなく、読書の幅を広げてくれて本を読むのも面白くなると思います。(岡山・中学2年・女子)

    • 『逃げるは恥だが役に立つ』(TBSテレビ)この番組は、漫画が原作の社会派ラブコメディーです。主人公の森山みくりが家事代行から、給料が発生する「契約結婚」をして、最初は何とも思っていない2人がやがて恋に落ちていくという物語です。この番組の面白いところは、『情熱大陸』や『NEWS23』の番組のオープニングを取り込んでいるところです。また、エンディングの「恋ダンス」は、社会現象を巻き起こしています。このドラマは、僕自身、久しぶりに毎週録画して見ている番組です。((埼玉・中学2年・男子)

    • 『べっぴんさん』(NHK総合)ドラマなどでやる戦争のシーンは、私たちが戦争中のことを知る数少ない機会だと思う。実際今までの朝ドラなどでの戦争シーンを見て学んだこともたくさんある。またドラマの話を理解する上で、私たちには理解しがたいシーンを細かく表現してもらうことで、よりその頃の時代背景が見えてくるように感じる。(東京・中学3年・女子)

    • 『レンタル救世主』(日本テレビ/中京テレビ)このドラマはちょっと変わっていて面白いです。第1話は一部生放送で視聴者からの電話を受け付けていました。今までにない感じがとても面白いと思いました。実際にはこのような職業があるかどうか分かりませんが、もしあったら少しやってみたいなぁと思える設定です。主人公たちはみんな年齢も性別も違うし性格もバラバラですが、それぞれがそれぞれを補いながら仕事をしているところがすごく良いなぁと思いました。放送時間が少し遅いですがとても面白く家族みんなで楽しめるドラマだと思います。(愛知・中学3年・男子)

    • 『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ)一番惹きつけられるのが、題名である。「校閲」という意味深な職業が、実際にあるのが驚いた。石原さとみさんが扮する主人公は、今どきのサバサバした女性で、一見すると「校閲」が「場違い」の職業であるように感じるが、逆に校閲するのがマッチしているのである。こんなハチャメチャな主人公が、「恋」にはカラッキし無防備であり女子高生的な感覚を持ち合わせているので、この論理的に思考する「校閲」とのギャップが、視聴者がドキドキしてしまって、共感することが多いのではないかと考えます。今後の展開が楽しみです。(東京・中学3年・男子)

    • 『逃げるは恥だが役に立つ』(TBSテレビ)この番組が大好きで毎週楽しみで仕方がありません。このドラマは「契約結婚」という現実には少しありえないようなテーマで、今までとは違ったスタンスの恋愛ドラマになっているのですが、妙にリアルで魅力的だなと思います。それに、大学院まで出て就職できなかったり、派遣切りにあったりという"リアルさ"と、家事を職業とし結婚を考えるなどといった"現実味のなさ"がとてもうまくバランスをとって描かれているのもこのドラマの凄さといえると思います。(東京・高校1年・女子)

    • 『逃げるは恥だが役に立つ』(TBSテレビ/中国放送)「結婚」に対する価値観が変化して、結婚をしないという選択が当たり前になった昨今、「仕事としての結婚」ということで、新しい「結婚」の形、そして「仕事」について考えさせられるドラマだと思いました。ドラマの中で時々入る深くて考えさせられるセリフは、とても奥が深いです。(広島・高校2年・女子)

    • 『相棒』(テレビ朝日)相棒シリーズは、水谷豊が演じる杉下右京とその相棒を中心として話が展開していく。『相棒』がこんなにも長く放送され、みんなから愛されているのには幾つか理由があると考える。その一つが個性あふれる杉下右京の相棒の存在である。また、杉下右京のライバルや肝心な時に助けてくれる人など、『相棒』というドラマは事件そのものだけでなく、人間関係もとても魅力あるものになっている。また、シーズン15までやってきたが、今まで登場した人物などを活用しながら、事件が被らないようにしている点も評価できる。事件の多さは『名探偵コナン』並である。これらのことから、『相棒』は多くの人から好かれており、これからも続いていくだろう。ひとつ心配なのは、水谷豊さんが、年齢的に走ったり跳んだりといった激しい動作が続けられるかどうかである。(東京・高校2年・男子)

    • 『逃げるは恥だが役に立つ』(TBSテレビ/テレビ山口)この番組では「恋愛」を様々な角度から見直すことができると思います。今の時代、恋愛や結婚に対して様々な価値観が存在していることもこのドラマからうかがえます。そして、現代に潜む様々な社会問題(みくりが経験した就職難など)についても考えることができます。「恋愛」や「社会問題」は私たちの身近に存在していることです。テーマが身近に感じることもこのドラマが人気な理由だと思います。また、終始明るい雰囲気でドラマが進むので、視聴した後はとてもすがすがしい気分になります。そして、「来週も見たいな」という気分にさせてくれます。どんな番組でも、視聴者からみて、全体の雰囲気が明るく見ていて気分がよくなる番組は、人気番組になると思います。(山口・高校2年・男子)

  • 【自由記述】

    • 今、アメリカの大統領選挙の結果を見ながらこれを書いています。トランプ氏勝利。とても驚きました。メディアによるこれまでの報道はどうだったのでしょうか?今までの選挙戦で、トランプ氏はヒラリー氏のメール問題(結局法に触れず)や夫である元大統領ビル・クリントン氏の問題の悪口を言っていましたが、テレビはもちろん新聞などは、これらをどのように報じてきたのでしょう。私は今回のアメリカ大統領選挙についてのメディアの取り上げ方に疑問を覚えました。(東京・中学1年・女子)

    • 7月から9月期のドラマは、あまり面白いと感じるものが無かったのですが、10月からは面白いドラマが多いので、だいたい録画して見ています。今回のテーマで選んだ番組の他にもたくさんあるのですが、今テスト前で時間がないので、テストが終わったらゆっくり視聴したいと思っています。(東京・中学2年・男子)

    • 東日本大震災の時の岩手県石巻市立大川小学校の事件について。津波で亡くなった児童の遺族と岩手県と石巻市の裁判で、ニュースなどで津波の映像が流れる時「これから、津波の映像が流れます」という字幕が出てきました。この配慮はとても素晴らしいと思います。(埼玉・中学2年・男子)

    • 池上彰さんの番組を、授業でも使用できたらいいと思います。根本的なことが、「明瞭化」しており、最高です。なんとかならないかな。「縄文弥生」「飛鳥」「平安」時代も大切だけど、「現代」を考える題材が不可欠なのではないか。グローバル時代なのだから、大学でゼミでやるような現代の問題点を、中学、高校でも積極的に思考することが、肝要だと考えます。(東京・中学3年・男子)

    • 最近の番組は、テレビ局それぞれの個性があまり感じられず、どの局も同じような番組を放送しているように思える。またインターネットに頼りすぎているような気がする。確かにインターネットの情報は速報性に優れ、テレビ局にとっては魅力的かもしれない。ただ、それではテレビがテレビでなくなっているような気がする。テレビ局だからできることをもっと増やさないとテレビを視聴する頻度は減少する一方だと思う。(兵庫・中学3年・男子)

    • 高校生になってからより忙しくなり、自由な時間が減ったため、テレビを見る時間が格段に減りました。そこで私が気を付けるようにしていることは、ラジオを聴く時間を増やすことです。朝や寝る前の少しの時間でもラジオでニュースを聴くようにしています。世の中の状況が今どうなっているかを知るためにも大切にしていきたい時間です。(高知・高校1年・女子)

    • 漫画を原作とする映像作品が最近多すぎるように思えてしまう。ドラマのために作られたオリジナルの脚本が、漫画を脚色したものに評価で劣ってしまうのはどうにも腑に落ちない。各局、各メディアのオリジナルストーリーのぶつけ合いに期待してみたい。(京都・高校1年・男子)

    • 僕の通学路でもある博多駅周辺で、大規模道路陥没事故が起きた。これまではテレビやラジオでの情報はありがたいと思っていたけれど、通学途中でインタビューを迫られたりしたので、戸惑い、断った。報道番組とは、困っている人たちに平気でマイクを向けて話を聞くんだなあと驚いたし、困った。(福岡・高校1年・男子)

    • 新聞で「役割語」に関する記事を読み、ニュース報道においての吹き替えの言葉遣いに着目して視聴するようになった。最近のアメリカ大統領選のテレビでの報道を見ていても、両候補の吹き替えはもちろん、街頭インタビューを受けているアメリカ人の吹き替えを聞いていても人種、性別による言葉遣いの違いが如実に表れていると思った。制作者側は「役割語」を不快に思う人がいるということも意識して番組制作するべきではないか。(神奈川・高校2年・女子)

    • アニメに関して。30分間なので、1時間のドラマやそれより長いバラエティーなどより罪悪感なく勉強の合間に見られる。物足りなく感じる時もあるが、浸かりきらず勉強に復活できるギリギリの時間、それが30分だと個人的には思っているので、ちょうど良い。(東京・高校3年・女子)

10月のモニター報告の中に、「10月6日の『SCHOOL OF LOCK』では、"君がひとりぼっちじゃないと気付いた日を教えてほしい"と題して放送されていました。この日の放送ではパーソナリティーとリスナーが電話をつないで話を聞いていました。どの話も"ひとりぼっちじゃないと気付いたきっかけ"がとても感動的でした。今独りぼっちと感じている人にはとても励みになったのではないかと思います。久しぶりに良い番組を聴いたなと感じました」(高校2年・男子)という意見がありました。委員から当該番組をぜひ聴いてみたいという希望があり、制作局のエフエム東京の協力を得て委員全員が聴きました。大平委員から以下のようなコメントが寄せられています。

ロックの学校
送っていただいたCDをかけて、いきなり耳を疑いました。ロックの音楽とともに聞こえてきたのがSchool of ‘L’ock. 確かにそう聞こえました。もう一度掛け直して・・・やっぱりLにしか聞こえません。ちょっと不安になりながら、とりあえず続きを聞いてみると、RじゃなくてLだと言っています。未来の「鍵」を握るんですと。思わず、ニンマリしてしまいました。じゃ、Lock’n Lollかな。玄関の鍵かけて、家の中でだらだらしながら聴こう。
そう思って読みかけの本を開いて、聴きはじめたのですが、ながら族という大昔の技能はすっかり失われていました。コーヒーをすするのが精一杯。で、番組の初めから最後まで、しっかり耳を傾けてしまいました。ジイさんにも楽しめる’中高生向け番組’ってなんなのだろうねえ・・・。
実は、関係者の手を煩わせてまでこのラジオ番組(エフエム東京)を送っていただいたのは、BPOの中高生モニターのひとりがリポートで褒めていたからです。「君がひとりじゃないと気がついた日」という特集が良かったと。で、僕も聴いてみて、この企画もいいけど、番組自体が素敵なのだと分かったのでした。そして、肝心の部分は・・・ひとりぼっちでいる人のために、ある日、自分はひとりぼっちじゃないと気づいた人の声を集める。このあたりの軽く迂回する間合いが秀逸です。そして、中高生の訥々としたリポートとDJならぬ「校長」や「教頭」の軽妙にしてやさしい合いの手で進行して、最後にその校長だか教頭だかが言います。みんな(ひとりぼっちじゃなくなるために)踏み切り板に向かって助走しているんだね。勇気を出してここ一番、飛べば飛べるんだ!
久しぶりに、いい気持ちになれました。さあ、僕も締め切りに向かって走らなくっちゃ。

調査研究について

担当の菅原委員から、2015年10月に行った立命館守山高校アンケート調査リポート「高校生のメディア・リテラシーに関する探索的研究-バラエティー番組に対する感想をめぐって-」を、10月8日9日に静岡大学浜松キャンパスで開催された「第13回子ども学会議」でポスター発表し優秀ポスター賞を受賞したことについて、報告がありました。
また、2017年度発表予定の調査研究「青少年とテレビ調査:青少年のテレビに対する行動・意識の形成とその関連要因に関する横断的検討」について、今年度中に質問項目を確定し来年度早々に調査を行いたいとの報告がありました。

今後の予定について

  • 来年3月5日に日本テレビの協力を得て開催予定の「2016年度 中高生モニター会議~日テレフォーラム18~」について、進捗状況の説明が事務局からあり、内容について検討しました。
  • 来年1月24日に開催予定の在京局との意見交換会・勉強会について、進捗状況の説明が事務局からあり、東京大学先端科学技術研究センター熊谷晋一郎准教授に講演をお願いすることにしました。

第24号

TBSテレビ『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』「双子見極めダービー」に関する意見

2016年12月6日 放送局:TBSテレビ

TBSテレビの『珍種目No.1は誰だ!? ピラミッド・ダービー』(2016年6月19日放送)の珍種目の一つ「双子見極めダービー」で、実際は最後まで解答した出演者を途中でレースから脱落したことにし、映像を加工してその姿を消して放送した事案。
委員会は、背景となる番組の制作体制や制作環境、そして、スタッフの意識の問題点などを指摘した上で、「出演者に無断でレースから脱落したことにしてその姿を消すという、出演者に対する敬意や配慮を著しく欠いた編集を行ったことを放送倫理違反」と判断した。
また、局制作の番組といいながらも、制作過程のほとんどが制作会社によって担われているという実態は、番組に対する責任の所在をあいまいにする危うさをはらむこともあわせて指摘した。

2016年12月6日 第24号委員会決定

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目 次

2016年12月6日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、12月6日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。また、午後2時30分から記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には20社37人が出席した。
詳細はこちら。

2017年3月10日【委員会決定を受けてのTBSテレビの対応】

標記事案の委員会決定(2016年12月6日)を受けて、当該のTBSテレビは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
3月10日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

TBSテレビの対応

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目 次

  • 1 委員会決定に伴う放送対応
  • 2 委員会決定の社内周知
  • 3 意見について勉強会の開催
  • 4 総括