第132回 放送倫理検証委員会

第132回–2018年12月

日本テレビ『世界の果てまでイッテQ!』について追加の報告書を要請し討議を継続

第132回放送倫理検証委員会は12月14日に開催された。
飲酒運転によって8人が死傷した交通事故で、発生当初、事実と異なるニュースを報道し、容疑者逮捕を受けてお詫び放送した青森テレビのローカルニュース番組について、当該放送局から報告書の提出を受け討議した。第一当事者や事故原因を誤って推認させる当該放送局の報道内容は、刑事事件に関するセンシティブな情報の取り扱いという観点からは裏付け取材が不十分で、放送倫理上の問題がなかったとは言えない。しかしながら、容疑者逮捕を受けて、お詫びの放送も行い、誤報に至った経緯を詳細に検証したうえ適切な再発防止策も実施しているとして、当該放送局の自主・自律の対応を評価して討議を終了した。
海外ロケをした「祭り企画」にでっち上げの疑いがあると一部週刊誌が報じた日本テレビの『世界の果てまでイッテQ!』について、委員会は、当該放送局からの報告書をもとに討議した結果、さらに確認したい点があるとして、追加の報告書を求めて討議を継続することになった。

議事の詳細

日時
2018年12月14日(金)午後4時~午後7時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

神田委員長、是枝委員長代行、升味委員長代行、岸本委員、斎藤委員、渋谷委員、鈴木委員、中野委員、藤田委員

1. 8人死傷の交通事故で事実と異なるニュースを報道し謝罪した青森テレビのローカルニュースを討議

青森県つがる市で2018年9月22日、4台の車が絡み8人が死傷する交通事故が発生し、この事故の続報として青森テレビは、翌23日の『JNNニュース』内ローカルゾーンと24日の『わっち!!ニュース』において、「対向する軽自動車同士の正面衝突に後続の2台が巻き込まれた可能性がある」と放送した。さらに25日の『ひるおび!JNNニュース』内ローカルゾーンと『わっち!!ニュース』で、「最初に正面衝突した軽自動車のどちらかの運転手が酒気帯びだった可能性がある」と報道した。ところが、10月22日、青森県警が、事故は後ろから来た飲酒運転の乗用車が暴走し前方の軽自動車に追突したことが原因とみられ乗用車の運転手を逮捕したと発表した。このため当該放送局は、一連のローカルニュースでの誤報を認め、お詫びの放送を行った。
当該放送局の報告書によると、県警から「放送内容は警察の見立てと違う」などと何度か示唆されていたにもかかわらずサインを見逃し、さらに当該放送局の誤報をもとにインターネット上で事故の犠牲者を容疑者扱いする中傷が広がっていたことにも気付かなかったという。

委員会では、刑事事件に関するセンシティブな情報の取り扱いという観点からは、当該番組は裏付け取材が不十分で、誤った情報がネットで拡散して被害者家族が心を痛めていたことは非常に重く、放送倫理上の問題がなかったとはいえないなどと厳しい意見が相次いだ。しかしながら、当該放送局は、誤報に至った経緯を社内で詳細に検証したうえ報告書に包み隠さず記載し、適切な再発防止策も実施しているとして、当該放送局の自主・自律の対応を評価して討議を終了した。

[委員の主な意見]

  • 「可能性がある」という表現とはいえ、酒気帯び運転の当事者をほぼ特定してしまうことが分かっていて、なぜ放送前にもっと取材して確証を得ようとしないのか理解に苦しむ。

  • 放送の結果生じる影響をどれだけ真剣に考えたのか。デスクや編集長という立場の人間こそ、一歩引いた冷静な目で見ることが必要。

  • 演出とか見せ方の問題でなく、事実の取り扱いを間違った事案だ。刑事事件のセンシティブな情報を扱っているという自覚が全く感じられない。

  • 血中アルコール濃度など科学的根拠を追加取材をしていたら、早い段階で誤報を修正できたのではないだろうか。

  • 事故で家族を失ったうえに、1か月もの間いわれのない中傷にさらされた被害者遺族が受けた報道被害は、容易に消えるものではなく、事案として極めて重い。

  • 関係者の内面にまで踏み込んで原因を追究する報告書には訴えるものがある。それほどの痛みを感じているのなら、それを糧にして自分たちの力で立ち直ってほしいと思う。

  • 刑事事件を扱った過去の事案と比較しても、生じた被害は深刻であるが、報告書に示された再発防止策が確実に実行されるのであれば、委員会で審議して意見を述べる必要はないのではないか。

  • 事後対応もきっちりとしており、当該放送局は自らを律することができる局だと思う。

2.「海外ロケの企画をでっち上げた疑いがある」と報じられた『世界の果てまでイッテQ!』について日本テレビに追加の報告書を要請し討議を継続

2017年2月12日と2018年5月20日に放送された日本テレビの「謎とき冒険バラエティー『世界の果てまでイッテQ!』」で、海外ロケをした「祭り企画」にでっち上げの疑いがあると一部週刊誌が報じたことを受け、当該放送局から報告書と同録DVDが提出された。報告書には、「祭り企画」としてこれまでに放送した111本の企画すべてについても触れられている。委員会はこの報告書に基づき、委員会決定第7号「最近のテレビ・バラエティー番組に関する意見」(2009年11月)や、委員会がこれまでに出した、そのほかのバラエティー番組についての意見も踏まえながら討議した。その結果、2件の「祭り企画」以外にも確認したい放送内容があり、考え方を重ねて聞きたい点があるとして、追加の報告書を求めて討議を継続することになった。
なお神田委員長は、法律顧問を務めたことがある制作会社が「祭り企画」の制作に参加していたため、この番組の議事に加わらないことになった。

3. その他

11月29日、北海道地区の意見交換会が開催され、9月に起きた北海道胆振東部地震を中心に意見を交わした。日本で初めて発生した「ブラックアウト」(大規模な電源喪失)によって、放送はするものの視聴者がテレビを見ることができないという前代未聞の状況下で生じたさまざまな問題等が報告された。

以上

第209回 放送と青少年に関する委員会

第209回-2018年12月17日

視聴者からの意見について…など

2018年12月17日、第209回青少年委員会をBPO第1会議室で開催し、7人の委員全員が出席しました。
委員会では、まず11月16日から11月30日までに寄せられた視聴者意見について意見を交わしました。
中学生と教師の純愛をテーマとした連続ドラマについて、先月に引き続いて「教師と中学生の恋愛は合法なのか。違法なら違法行為を助長すると思う」「中学生と教師の恋愛観を正しいと思わせている。理解力の低い未成年が見たら、それが正しいと感じるのではないか」などの意見が寄せられました。これについて、委員からは、「子どもが真似をするのではないか、実際の女性教師はこんなことしないという意見は、ドラマはメディアで作られたフィクションであることをどう認知するかの問題ではないだろうか」などの意見が出されました。
12月の中高生モニターのリポートのテーマは「指定するドキュメンタリー番組について」で、課題番組は今年度の日本民間放送連盟賞テレビ教養番組部門最優秀作品『拉致と言えなくて~寺越さん母子の55年~』(テレビ金沢制作)でした。28人から報告がありました。モニターからは、「拉致問題は、私にとってはずっと昔のことで全く知らないことであっても、今、知るべき問題だと思いました。拉致と言えないのはもどかしくもあるけれど、家族あってのことだと感じました。どれだけ月日がたっても、どこにいても家族の絆は強いと気づかされました」、「今回のドキュメンタリー番組の場合、家族である寺越友枝さんのみに密着していたため、彼女に寄り添った内容になっている。そして視聴者が彼女に共感するような構成で作られている。ドキュメンタリー番組を見るときは、自分自身が偏った視点で物事を見ていないか、考えるとともに、単なるニュースとは別物という認識で見る必要があると思った」、「拉致被害を含め国の問題がなかなか解決しない原因の一つに我々一般人の無関心さがあると考えます。私たち全員が『知った』段階で自分たちの問題としてとらえ、考えることができたら拉致のような悲しい事態を少しでも減らせるのではないかと思います」、「私は寺越武志さんの気持ちを深く考えました。子どもの頃に全く知らない国に連れてこられ、一生ここで暮らすかもしれない恐怖。そこから生きていこうとする武志さんは本当に素晴らしいと思いました」などの意見が寄せられました。委員会では、これらの意見について議論しました。
次回は1月22日に定例委員会を開催します。

議事の詳細

日時
2018年12月17日(火) 午後4時30分~午後6時00分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
視聴者からの意見について
中高生モニター報告について
調査研究について
今後の予定について
出席者
榊原洋一委員長、緑川由香副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、菅原ますみ委員、中橋雄委員、吉永みち子委員

視聴者からの意見について

男子中学生と女性教師の純愛がストーリーのドラマについて、今月も複数の意見が寄せられました。「中学生と教師の恋愛観を正しいと思わせている。理解力の低い未成年が見たら、それが正しいと感じてしまう」「同世代の子どもを持つ親からすれば男子中学生はママ活、女性教師は未成年淫行を思い起こさせても不思議ではない」「教師と中学生の恋愛は合法なのか。違法なら違法行為を助長すると思う」などの内容です。
これに対し委員からは「子どもが真似をするのではないか、実際の女性教師はこんなことしないという意見は、ドラマはメディアで作られたフィクションであるということをどう認知するかの問題ではないだろうか」「犯罪というのだったら、テレビドラマの中ではどんどん人を殺している。それは別にけしからんと言わないが、なぜこのドラマに関しては問題視されるのか不思議だ」などの意見が出されました。
これらの件に関しては、これ以上話し合う必要ない、となりました。

中高生モニター報告について

34人の中高生モニターにお願いした12月のテーマは、「指定するドキュメンタリー番組について」です。課題の番組は、2018年度民放連賞テレビ教養部門最優秀受賞作品『拉致と言えなくて~寺越さん母子の55年~』(テレビ金沢制作)でした。この番組は、中学生の時に能登半島沖で失踪した寺越武志さんと母・友枝さんの55年に及ぶ苦悩の日々を題材にしたドキュメンタリーで、数奇な運命に翻弄されてきた親子の軌跡と今を20年にわたって取材したものです。
全部で28人から報告がありました。
「指定するドキュメンタリー番組ついて」では、「新聞やニュース、本などで拉致問題に関する情報を得ようとすると難しいものが多く抵抗がある。しかしドキュメンタリーの場合は、自分が体験するように視聴でき抵抗なく番組を見ることができた」や「再現ドラマやイラストではなく実際の映像から被害者の気持ちが伝わってくる」などドキュメンタリーが持つ力を感じたという報告や、「ニュースではあまり取り上げられていないことでも、解決すべき、そして私たちが知るべき社会問題はまだまだある」という気づき、また「すぐにチャンネルを変えられてしまう深夜枠やゴールデン枠よりも視聴スタイルが習慣化されている朝の番組などでこのような現状を伝えてくれないだろうか。一人でも多くの人が問題の存在を知り、興味を向けることが解決の一歩になるのだから」という意見などが寄せられています。
また「自由記述」には、先日最終回を迎えたドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ)について「性別世代関係なく楽しめるので学校でも先生や生徒の間で話題になっている」、「学生ってこんなに楽しいの!?とびっくりしてしまうほど面白い」、「先生と生徒の恋愛(『中学聖日記』/TBSテレビ)や、ツッパリが出る番組(『今日から俺は!!』/日本テレビ)があってもいいのではないか。視聴者が楽しめるドラマのための必要な要素だと思う。あくまでもドラマの上での話と多くの人が理解している」など3人のモニターが好意的に受け止め、触れています。「青少年へのおすすめ番組」では『M-1グランプリ2018』(朝日放送)に8人が感想を寄せており、中高生の人気と関心の高さが伺えます。

◆委員の感想◆

  • 【指定するドキュメンタリー番組について】

    • 今回はリポートの文字量から見ても、それぞれの子たちが、番組をよく見て感じたことが多かったのかな、と思う。それだけよくできた番組で、メッセージがしっかりと伝わったということなのではないかと感じた。

    • ある意味、生まれてそれほど時間もたっていない10代の子どもたちが、歴史的な思いや経緯を知るというところに、ドキュメンタリー番組の価値を感じてくれているのだとわかった。

    • 自由記述やおすすめ番組の欄で、『M-1グランプリ2018』(朝日放送)や『今日から俺は!!』(日本テレビ)について複数から好意的な意見があった一方で、課題としたドキュメンタリー番組に対しては「重い感じ」とか、「メッセージ性があって影響を受けてしまうのではないか」という意見があった。このことから、彼らにとって、テレビを視聴するということの意味がどちらかというと娯楽、あるいはストレス解消や気晴らしなのだな、と感じる。ドキュメンタリー番組は重くて疲れるという感覚で見ているんだなという感じがあった。

  • 【自由記述について】

    • 『今日から俺は!!』(日本テレビ)についての記述がいくつかあったが、やはりドラマはこうでなくてはいけないな、と思わせてくれる作品だったのかもしれない。つまり、日常の閉塞感から離れさせてくれるだけの力がドラマにはあるということ。ドラマのパワーを感じる。

◆モニターからの報告◆

  • 【指定するドキュメンタリー番組について】

    • 今回の番組を見て思ったのですが、若い人はあまりドキュメンタリー番組を見ないけれど、このような良い番組があるのにもったいないと思いました。(東京・中学2年・女子)

    • 「拉致ってなんだろう?」少し幼い頃、ニュースを見ながらよく思っていました。この番組を見て考えたことが2つあります。ひとつめは他人事と考えてはいけないということです。同じ経験を僕はしていないからニュースとして見るけど、実際、人権に関わることであり、他人であってもよく考える必要があります。ふたつめは、せっかく家族と再会できたのに、日本に帰国できないということです。北朝鮮の代表として帰国し、日本語ではなく朝鮮語を話さないといけない。拉致されたとは言えない。本当にかわいそうです。(兵庫・中学2年・男子)

    • 私にとっては、ずっと昔のことで全く知らないことであっても、今、知るべき問題だと思いました。暗い話題は、本人も世間も忘れてしまいたいのだろうけれど、それでは今後につながりません。私たち若者が学ぶべきことは「拉致された」という事実だけでなく、その周りの人たちの気持ちでもあると思います。「拉致とはいえない」ことは、もどかしくもあるけれど、家族あってのことだと感じました。それはどれだけ月日が経っても、どこにいても、家族の絆は強いのだと気づかされました。拉致は良いことではないし、今も問題として残っているのに、私はあまり触れてこなかったことを後悔しています。知ることにより、問題を風化させないことはできます。関係者の高齢化が進んでいると聞いて、拉致問題も戦争と同じように伝えていくことが、若者やメディアの役割だと思いました。(岐阜・中学2年・女子)

    • この番組を見て、胸が痛くなりました。寺越さんは息子さんからの「無事」を知らせる手紙が届くまでどんな気持ちでいたのか、息子さんはなぜ北朝鮮から離れようとしないのか、などをよく考えさせられる内容でした。(宮城・中学2年・女子)

    • 番組を見た後、心が沈んで苦しい気持ちが離れませんでした。北朝鮮による拉致被害は、テレビで見たり、親から話を聞いてどのようなものか少しは知っていました。でも、今回の番組は、表にあまり出ない、でも、とても深刻な問題でした。寺越さん親子は、普通の生活を壊され、国という壁に邪魔されて、本音も話せず、両方の心のつかえが取れないまま。こういうパターンの拉致もあることを、もっと多くの日本の人に知ってもらいたいと思います。(大阪・中学3年・女子)

    • 拉致問題でイメージしていたのは、横田さんのような消息不明になっている人たちだったが、今回の寺越さんのように実際に生きていることがわかっていて、何度も会っているケースは初めて知りました。生存がわかっていないよりも良いことのように感じてしまうが、会えているのに日本に戻せない苦しみはとても大きく感じた。息子の武志さんは、日本より北朝鮮に住んでいる年数がはるかに長くなっているが、日本に帰りたいという気持ちを少なからず心の中に持っていると思う。お母さんが生きているうちに日本で暮らせる日が来てほしいと思いました。(東京・中学3年・女子)

    • 番組を視聴して、「拉致問題」に対する自分の見方や考え方が少し変わった。今までは問題解決のために被害者の家族が声を上げ、政府らと協力して日本に連れ戻すことができれば「解決」だと思っていた。しかし、必ずしもそうは言えない。番組で取り上げられていた被害者には、北朝鮮にも家族がいた。「拉致だ」と認定されれば、息子の生活はどうなるのか。北朝鮮で暮らす息子の幸せを守りたい。そんな母親の心情も描かれていて、自分なりに考えさせられるきっかけとなった。被害者の人生も、その家族の人生も、本来とは全く違うものにしてしまう「拉致問題」。これは人間の努力でなくせるものだとも思う。多くの悲しみを生むような過ちが二度と起こらないで欲しい。(兵庫・高校1年・男子)

    • ニュースや新聞の中で、「拉致」というワードにはよく触れます。しかし、拉致された方がどんな暮らしをしているのか、日本や朝鮮が拉致問題にどのように対処しているのか、ということはほとんど知りませんでした。新聞やニュース、本などで拉致問題に関する情報を得ようとすると、難しいものが多く、抵抗があります。しかしドキュメンタリー形式の場合、自分が体験するように番組を見ることができるので、内容がすんなりと入ってきます。そのため、ほとんど抵抗なく番組を見ることができました。その点でドキュメンタリー番組は、多くの人に難しい事柄を伝え、興味、関心を抱いてもらうことができるのではないか、と思いました。また、今回のドキュメンタリー番組の場合、拉致被害者の家族である寺越友枝さんのみに密着していたため、彼女に寄り添った内容になっています。そして視聴者が彼女に共感するような構成で作られています。だからこそ、考えるきっかけや自分の意見が生まれやすいというメリットがあります。しかし、そのような構成であることにより、視聴者は意見を誘導されてしまいます。また、拉致という問題も多面的にとらえることが難しくなります。だからこそ、ドキュメンタリー番組を見るときは、自分自身が偏った視点で物事を見ていないか、ということを考えるとともに、ドキュメンタリー番組の弊害を認識したうえで、単なるニュースとは別ものという認識で見る必要があると思いました。(福井・高校1年・女子)

    • 私は拉致被害を含め国の問題がなかなか解決しない原因の一つに我々一般人の無関心さがあると考えます。知った段階で自分のこととしてとらえず、他者は他者としてとらえてしまえば問題を解決することは極めて難しいはずです。まして我々は主権を持っているはずなのに結局国家に主権をほとんど譲渡しているようにもみえます。考えて行動する権利があるわけですからそれに対して関心を示さないというのはますます考えものです。逆に私たち全員が「知った」段階で自分たちの問題としてとらえ、考えることができたら拉致のような悲しい事態を少しでも減らせるのではないかと思います。日本からみて一番近い国のはずなのにこのような関係になってしまっていることが、私も非常に残念です…。一人一人が正しく「知る」ことによって少しでも状況が改善されることを願ってやみません。(埼玉・高校2年・男子)

    • 現在も続く日朝関係の問題。国同士の問題という大きい規模で、国民一人一人には直接影響がないにも関わらず、子どもながらに北朝鮮に拉致されてしまった方がたくさんいらっしゃることは、一言では言い表せないほどつらいものがありました。突然、消えてしまった息子からの手紙から始まった「拉致問題」。寺越さんから見て、生き別れた子どもと再会できたことは、嬉しくもあり、日本というふるさとに簡単に帰ってくることができない、一緒に暮らすこともできないという状況は受け入れがたいものだと思います。私は武志さんの気持ちを深く考えました。子どもの頃に全く知らない国に連れ去られ、一生そこで暮さねばならない恐怖。そこから生きていこうとする武志さんは本当に素晴らしいと思いました。世界情勢が目まぐるしく変化する中、私たちは一人一人が人権を持つことを改めて考え、見つめなおすべきだと思いました。(東京・高校2年・女子)

    • 拉致のドキュメンタリー番組を見たのは初めてでした。ニュースでも話題になっているのは知っていましたが、大きな問題だとは思っていませんでした。再現ドラマやイラスト、文字ではなく、実際に撮影された映像、そして被害者の気持ちが、私たちにも伝わってくるような番組だったと思います。ニュースでは見ることができない本音や、他人に考えてほしいことを取り上げるのがドキュメンタリー番組だと思います。たくさんの若い世代の人たちに見てもらうべきだと思いました。(北海道・高校2年・女子)

    • ニュース番組での特集やドキュメンタリー番組を見ると、いつも自分がいかに日本の社会問題の現状を知らないかを痛感する。今回見た番組も強烈にそう思ったドキュメンタリー番組だった。武志さんが帰国し、日本人として日本で生活を送る日は果たしてくるのだろうか、と途方に暮れた。さらに武志さんの母親・友枝さんもかなり厳しい境遇の中を生きていると思った。息子ともう一度日本で普通の生活を送りたいという一心で拉致されてからの人生を過ごしてきたのだろうと思う。「拉致と言えなくて」というタイトルの意味を理解した時に「拉致問題はなんて複雑で厳しい問題なのだろう」と気づかされた。事件が起きた当時の映像や、長年、寺越さん親子を取材してきた岡本記者の取材映像、岡本記者自身の言葉からも、拉致問題は今も続いていて、早く解決しなければならない社会問題だという思いが強く伝わってきた。最近はあまりニュースで取り上げられていないことでも、解決すべき、そして私たちが知るべき社会問題はまだまだ多いと思う。私もこれからもドキュメンタリー番組を見続けていこうと思った。(東京・高校2年・女子)

    • 事前情報はゼロだが、やや重そうなタイトルに少しビビる。見終わっても、感想がすぐに出てこない。この番組を見て、拉致問題について自分はほとんど知らなかったんだと思い知らされた。なんとなく問題があることは知っていて、最近は何人か被害者が帰ってきているので、解決に進んでいるんだとばかり思っていた。でも実際は、多くの人が苦しみ戦いながら先の見えない中で、必死にこの問題に立ち向かっているんだと初めて知った。武志さん失踪当時の映像・写真から、かなり前からある問題だったんだと感じた。1963年と数字で表されるよりも、映像・写真のほうが直感的にわかる。8月の戦争関連の番組をリポートした時と似たような意見になってしまうが、自分のようにこの問題をよく知らない人もたくさんいるはずだ。すぐにチャンネルを変えられる深夜枠やゴールデン枠よりも、見ることが習慣化されている朝の番組などで、このような現状を伝えてくれないだろうか。10分弱のコーナーで一週間だけでもいい。一人でも多くの人が知り、その問題に興味を向けることが、問題解決の一歩になるのだから。(東京・高校3年・男子)

  • 【自由記述】

    • 『今日から俺は!!』(テレビ新潟/日本テレビ)性別世代関係なく楽しめるので学校でも先生や生徒の間で話題になっています。(新潟・中学1年・女子)

    • VTR中心の番組で、スタジオでのトークがほぼ宣伝なのは、見ていてよい気持ちになりません。番組を面白くするためのゲストなのか、宣伝をするための番組なのか分からなくなります。それに「宣伝なしのゲスト」ということをわざわざアピールする必要はないと思うし、しないで欲しいです。(岐阜・中学2年・女子)

    • 先月のあるモニターの意見で「他局の番組の疑惑を話題にして視聴率を稼ごうとするのは見ている側もよい気持ちはしない」とありました。私も同感です。このような問題があったからこそ、1つの局を責めるのではなく、一度すべてのメディアが自身のことを見つめる機会も必要だと思いました。(東京・高校2年・女子)

    • 先月のモニターの意見を読んで先生と生徒の恋愛やツッパリがでる番組があってもいいのではないかと思った。他のモニターの方が述べていたように新鮮さを感じたり、俳優の演技が面白かったり、視聴者が楽しめるドラマのために必要な要素だと思う。あくまでもドラマの上での話と多くの人が理解していると思うので、そこまで厳しく批判するほどでもないのではないかと思った。(東京・高校2年・女子)

  • 【青少年へのおすすめ番組】

    • 『M-1グランプリ2018』(名古屋テレビ/朝日放送)毎年、楽しみにしています。ただただ笑えるのは、やっぱり漫才だと思うし、ほんの数時間でスターが生まれるのはこの番組ならではだと思います。(岐阜・中学2年・女子)

    • 『M-1グランプリ2018』(九州朝日放送/朝日放送)優勝者の発表の仕方をもっとハラハラするようにしてほしかった。出演者も視聴者もそう考えただろう。(福岡・中学2年・男子)

    • 『家事ヤロウ!!!スペシャル』(テレビ朝日)初めて見る番組。たくさんの芸能人の家にカメラを置いてそれをまとめて見ていくというのは、今までにありそうでなかった形で面白かった。通常は深夜放送ということで、時間が合えば見てみようと思えるスペシャルだった。(東京・高校3年・男子)

調査研究について

2017年度調査報告書「青少年のテレビ・ラジオに対する行動・意識の関連要因に関する横断的検討―『青少年のメディア利用に関する調査』―」は、間もなく完成し、BPOのウェブサイトに掲載予定であることが報告されました。

今後の予定について

  • 2019年2月23日(土)東京で開催される第2回「学校の先生方との意見交換」について、テーマ案を検討しました。

以上

第264回放送と人権等権利に関する委員会

第264回 – 2018年12月

「芸能ニュースに対する申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2018年12月18日(火)午後4時~6時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、白波瀬委員、二関委員、廣田委員、水野委員

1.「芸能ニュースに対する申立て」事案

対象の番組は、2017年12月29日に放送されたTBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター超豪華!芸能ニュースランキング2017決定版』。番組の中ほどで、「14位 俳優・細川茂樹
事務所と契約トラブル」とナレーションがあり、「昨年末、所属事務所から『パワハラ』を理由に契約解除を告げられた細川茂樹さん。今年5月、『契約終了』という形で、表舞台から姿を消した。」と伝えた。
この放送について細川氏は、事務所からパワハラを理由に契約解除されたことをわざわざ強調して取り上げているが、東京地裁の仮処分決定で事務所側の主張に理由がないことが明白になっており、申立人の名誉・信用を侵害する悪質な狙いがあったと言わざるを得ないと主張し、謝罪と名誉回復措置を求めて申し立てた。これに対してTBSテレビは、意図的に申立人を貶めた事実は全くないとする一方、放送に「言葉足らずであって、誤解を与えかねない部分があった」として、申立人におわびするとともに、ホームページあるいは放送を通じて視聴者に説明することを提案し、できる限りの対応をしようとしてきたとしている。
前回委員会でのヒアリング後の審理で結論の方向が固まり、起草委員会が開かれ「委員会決定」案が起草された。今月の委員会では、担当委員が決定案を説明して審理した。審理の結果を踏まえ、第2回起草委員会で決定案を修正し、次回1月の委員会に提案することになった。

2. その他

  • 事務局の山田瞳法律専門調査役(非常勤 弁護士)が今月限りで退任し、後任に當舎修弁護士が就任することになった。

  • 次回委員会は1月15日に開かれる。

以上

2018年10月2日

青少年委員会 「意見交換会」(熊本)の報告

◆概要◆

青少年委員会は、言論と表現の自由を確保しつつ視聴者の基本的人権を擁護し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与するというBPOの目的に沿って、"視聴者と放送事業者を結ぶ回路としての機能"を果たすという役割を担っています。今回その活動の一環として、熊本県の放送局との相互理解を深め、番組向上に役立てることを目的に、10月2日の14時から17時半まで、「意見交換会」を開催しました。
BPOからは、榊原洋一 青少年委員会委員長、緑川由香 副委員長、稲増龍夫 委員、大平健 委員、菅原ますみ 委員、中橋雄 委員、吉永みち子 委員の全委員と、濱田純一 理事長、三好晴海 専務理事が参加しました。放送局の参加者は、NHK、熊本放送、テレビ熊本、熊本県民テレビ、熊本朝日放送、エフエム熊本の各連絡責任者、制作・報道・情報番組関係者など23人です。
会合ではまず、地元放送局を代表してNHK熊本放送局の宮原孝明局長からご挨拶をいただきました。続いて濱田理事長が「BPOと青少年委員会」について説明をしたのち、
(1)「赤ちゃんポスト」を巡る報道や番組制作について、(2)熊本地震における災害報道について(青少年が関わる事柄について)、(3)青少年に関する取材全般についての課題と疑問など、について活発に意見交換がなされました。

【地元放送局代表 挨拶】(NHK熊本放送局 宮原孝明局長)

地元の放送局代表というのでNHKは全国転勤族じゃないかと思われる方もいらっしゃるかもしれないが、私は熊本出身なので、そういうこともあり、挨拶を一言、させていただこうと思う。
BPOというと、怖い印象を持つ放送現場の方がいらっしゃるかもしれない。実は私も、かつてはそういう思いを持って記者として取材をしていた時期もあった。でも、BPOは、本当は放送局の味方、ちょっと不遜な言い方をさせてもらうと、パートナーというつもりで、私はいる。実は私は、BPOの意見交換会に参加するのは今回で4回目になる。今年の6月まで広島放送局に勤務しており、これまでの3年間で放送倫理検証委員会、放送人権委員会、そしてこの青少年委員会と、3回の意見交換会がありそのすべてに参加し、今回は2周目に入ったところだ。それまではBPOは伝え聞くだけの組織だったが、ざっくばらんに意見交換をさせていただくうちに、先ほどのような印象に変わった。
私が初めて参加したのは2015年に行われた放送倫理検証委員会の意見交換会だったが、実はその直前にNHKは『クローズアップ現代』という番組の報道を巡りBPOから委員会決定がなされていた。「何でこんなタイミングにBPOの意見交換会があるんだろう」と思いながらの参加だったが、そこで、委員の皆さんの放送局に対する意見、そして、BPOの視点などに触れることができた。実はそのときに放送倫理検証委員会に出された決定を、私はいつも持っていて、きょうも持っている。BPOのウェブサイトからダウンロードできるので、もし読んでいらっしゃらない方がいらしたら、ぜひ読んでいただければと思う。当然、前半の部分では当時のNHKの番組についての問題点などが指摘されているのだが、何よりも「終わりに」と書かれた4ページにわたり書かれている意見が、非常にBPOをあらわしていると思う。要は、当時の総務省の行政指導や、自民党の部会による意見聴取、事情聴取を、本当に毅然とした書きっぷりで厳しく批判している。それらの経験を通して、やはり、BPOと放送現場は意見を交わしながらやっていかなければいけないと思っている。
きょうは「赤ちゃんポスト」や「熊本地震」など熊本の放送現場が直面している課題について意見交換をするということで、何か言ってはいけないことがあるのではないかなどと構えている方もいるかもしれないが、そんなことは気にせず、自由に意見を交換しあう意味のある場にできればと思う。

【BPOと青少年委員会】(濱田理事長)

私からは、BPOの概略と、青少年委員会がこれまでどのように考えて活動してきたかということを、ざくっとお伝えしたい。BPOには放送倫理検証委員会、放送人権委員会、青少年委員会の3つの委員会があり、それぞれの役割を果たしている。放送倫理検証委員会は、放送倫理上の問題を取り扱うわけだが、特に、事実に対する向き合い方や事実をおろそかにしていないか、ということについて委員は注意を払っているという印象を私自身は持っている。
BPOについては今、宮原さんが実感を持ってどういう組織かということを語っていただいたので、それ以上つけ加えることはないが、よく「自主規制の機関なのか」、それとも「第三者機関なのか」ということを聞かれる。そういうときには「BPOは、第三者の支援を得て、放送局、あるいは、放送関係者が自律を行う仕組みだ」と、答えている。
もちろん、この自律を放送局が行えばそれでいいのだが、それだけでは視聴者や国民の信頼を得られない場合もある。そういう場合に第三者が関与することによって、放送の自由と自律を守っていこうという仕組みだ。
そういう意味で強調したいのは、自律の主体はあくまで放送事業者、放送に関係する方々だということだ。つまり、放送に関係する方々が自分たちの自由のために、あるいは、自分たちの責任のために一生懸命頑張っていこうとしている、それをしっかりと第三者の立場から応援するのがBPOということになる。極端に言えば、放送に携わる方が、自由や責任を放棄してしまうとBPOという組織は成り立たない。BPOとは、あくまで放送で頑張ろうとしている方々を応援する組織だと、私は考えている。
ただ、こういう仕組みがきちんと機能するためには、BPOという組織と放送に携わる方々との相互交流がしっかり保たれなければいけない。そのために、BPOが番組や放送について考え方を示した場合には、それに対応して放送局の方々がどういうふうに改善をしたかの報告をいただく、あるいは、研修をしてもらう、あるいは、きょうのように意見交換会をする、あるいは、さまざまな事例を取り扱う勉強会を一緒に行うなど、いろいろな仕組みが設けられている。BPOの役割というと、ともすれば、決定や見解、考え方が公表されておしまいというふうに世の中の人は見ているかもしれないが、それだけではなくて、それらをどのようにして今後の放送番組に生かしていくかという、そのためのプロセスをきちんと動かす活動が大切なのだと思っている。そういう意味で、3カ月報告、研修、研究会など放送局とBPOという組織がやりとりをするこのような仕組みこそが、BPOというものが自由と自律を保証するための応援をしていくうえで、とても重要だと考えている。
各委員会はこれまでに様々な決定や見解等を出しているが、私が強調しておきたいのは、それらが出されたときの受け取り方、読み方についてだ。これは、勝った、負けたではないということだ。つまり、決定や見解などの中には、番組づくりにあたって何を考えることが大切なのかという、基幹となるメッセージが含まれている。そういうものを手がかりに、これからの番組づくりを自分の頭でしっかり考えてやっていってほしい、それが委員会として、特に希望しているところである。自分の頭で考えるというのは、何か表現をすることの根本だろうと思う。もう少しかたく言えば、ジャーナリズムというのは、自分の目で見、自分の耳で聞き、しっかりと事実を踏まえて自分の頭で考えていくことが根幹であり基本だろう。その基本を番組づくりにおいて忘れないようにする、そのきっかけが、BPOの出す決定や見解であるというふうに受けとめていただけるとありがたい。
特に、青少年委員会について話をすれば、青少年委員会では視聴者から日々寄せられているさまざまな意見に注意を払っている。そういう意見や、良質な番組の視聴講評などを通じて視聴者と放送局を結ぶ回路としての役割を果たしていこうというのが特に青少年委員会の特徴である。また青少年委員会は、青少年とメディアについての調査研究も行い定期的に公表もしている。つまり、放送倫理検証委員会、放送人権委員会というのは、どちらかといえば、問題がある番組についてものを言うという性格が強いが、青少年委員会は視聴者と放送局を結ぶための回路をどうつくっていくか、そういうところにかなり力を入れている委員会ということをご理解いただきたい。
また青少年委員会には、中高生モニターという仕組みがある。BPOに来る視聴者意見というのは、壮年以上の方の意見が多い。青少年の声が届けられることはなかなかないので、モニター制度や調査研究を通じて、青少年の意識をしっかりつかんでいこうという取り組みを行っている。また青少年委員会では基本的にどのようなスタンスをとっているのか、それがわかるメッセージをたびたび出してきたので、そのいくつかを抜粋し紹介をしておきたい。
まずバラエティー番組についてだが、「バラエティー番組は特に放送の限界に挑戦し、新たな笑いの文化を生み、視聴者の心を開放し、活力を与えるという、大きな働きがあります」と、以前出した見解の中で述べている。つまりバラエティー番組というのは、ともすれば、下品だとか不真面目だとかいう評価もされるが、しかしバラエティー番組というのも、人々の生活にとってとても大切なものだということをしっかり押さえた上で議論をしていこうというのが青少年委員会のスタンスである。これは青少年委員会に限らず、広く各委員会のスタンスでもあるが、そのような考え方を踏まえながら、いろいろな議論がされているということだ。それでもやはり、人間の尊厳に背くような行為をあえてして笑いをとろうとするような場合には、視聴者からの批判の意見が寄せられる。そういう意味では、バラエティー番組なども含め番組によって、人々の心に訴えかける、人々に喜んでもらう、あるいは、開放感を味わってもらう、そういう制作上での挑戦を行うことによって人間の尊厳や価値に何が生じるかということに想像力を働かせてほしい。これまで問題になったいろいろな案件では、それらの基本を失念していたとか、あるいは、そういう問題意識が議論の俎上に上らなかったというような報告が、放送局から出されることがある。しかし、そういう基本、根幹はしっかりと押さえながら番組づくりをしてほしい。世の中から下品だ、つまらないなどと批判される内容であっても、どういう意図で放送したのかということをしっかり伝えることができれば、放送として番組として立派なものだと私は思う。
ただ、そういうことすら考えずに、とにかく放送してしまうということを、委員会としても一番、気にしている。あくまでしっかりと考え、創造力を働かせながら番組づくりを行ってほしい。それが委員の思いだろうと、私は思っている。
ただ意見や見解というものは、委員の目から見て申しあげるわけだが、それがひょっとすると番組づくりの現場と見方が違うかもしれない。その可能性は常に、委員も慎重に考えている。また、実際に番組づくりの現場にいる方からすれば、委員は一体何を考えているのか、と思われることもある。そういう差を、少しでも縮めていこうということでこのような意見交換会が設けられている。ちなみに今、申しあげた趣旨が、青少年委員会の考え方の中にうまくまとめられているので最後に読ませていただきたい。『青少年委員会は青少年に番組が与える影響をできるだけポジティブなものにするために、局側が気づかない視点を提示したり、安易に番組を作成したため結果として逆の効果を生んでいるところの問題を指摘したりして、それを克服するための方策を探ってもらうこと、青少年たちがよい番組として認知しているものや理由を伝え参考にしてもらうことなど、結果として青少年によい影響を与えうる番組の制作、番組向上への気運を高めることを大事なミッションとしています』。
きょうの意見交換会で大事なのはこの考え方で、すぐに意見の一致が得られるわけではないということは承知しているが、意見交換を行うことは決して無駄ではなく、双方への理解を深める貴重な機会となるはずだ。今後もよりよい番組づくりのために各放送局と意見交換を行い、ともに考え続けることができればと願っている。これは青少年委員会を含め、各委員会からの明確なメッセージでもある。以上で説明は終わろうと思うが、おしまいに私が日ごろあちこちで言っていることを伝えたい。放送の自由と自律を支えていくというのは、放送人としての誇りと緊張感であろうと思う。誇りと緊張感を思い起こしていただくというのが、BPOの役割ということになる。BPOというのは組織であり、仕組みであり、思想でもあると、私は思う。BPOというのは一つの組織ではあるが、さまざまな意見交換を通じて動いていくことで初めて意味がある、放送番組がよりよいものになってくる、そういうきっかけになってくる、そういうものだと思う。そのように自分たちが抱えている課題を、自分たちで議論して解決していくことは、社会のあり方としては、とてもすばらしいものだろう。そういう意味で、BPOは社会の哲学だということになる。そのような市民社会の在り方としての一つの夢の形の実現を、BPOが媒介をして、放送に携わる方々にやっていただいているということだ。その一つの形が、きょうの意見交換会であるいうことを、改めてご理解いただければうれしい。

【意見交換の概要】

(1)「赤ちゃんポスト」を巡る報道や番組制作について

※「赤ちゃんポスト」とは
実の親が諸事情のために育てることのできない赤ちゃんを匿名で受け入れる施設。国内唯一の施設が、熊本市にある慈恵病院が2007年5月10日、運用を開始した<こうのとりのゆりかご>である。2018年3月末までに137人が預け入れられている。
※「赤ちゃんポスト」についての議論を進めるにあたり、熊本放送・熊本県民テレビの2局の理解と協力を得て、参加者には事前に以下の2番組を視聴いただいた。

【熊本放送】
RKK NEWS JUST ゆりかご10年シリーズ(3) 『預けられた赤ちゃんは今…』
「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」に預けられ、育ての親のもとで10代に成長した子どもに、現在の思いをインタビューするニュース内企画

【熊本県民テレビ】
NNNドキュメント’18『ゆりかごから届く声~赤ちゃんポスト11年~』
出自が分からない子どもを生み出してしまうという問題など様々な課題が横たわる一方、孤立する女性の駆け込み寺のような存在となる慈恵病院の取り組みや、ゆりかごに赤ちゃんを入れた女性の声、特別養子縁組の実例などを通して、家族とは何かを考えるドキュメンタリー

(事務局)本日の意見交換会参加にあたり、事前に番組を視聴してもらい、アンケートに回答していただいたが、そのなかで特に関心が高かったポイントについて、議論をしていきたい。アンケートで多かった回答は、取材する際のプライバシーの配慮と報道の兼ね合いについてや子どもの将来についての配慮、取材の工夫と課題、ポストについての議論が深められないことへのジレンマなどがある。言わずもがなではあるが、きょうは赤ちゃんポストの是非を問う議論ではなく、メディアの人間が、赤ちゃんポストにどのように向き合っていくかということについての議論を行いたいと思う。
まずは事前視聴していただいた番組の取材制作者の狙いや思いについて、RKK熊本放送報道部の佐々木慎介さんからお話しいただく。

(熊本放送報道部 佐々木キャスター)熊本の「こうのとりのゆりかご」赤ちゃんポストに関して、RKKでの取り組みについて紹介させていただく。熊本には水俣病やダム問題、ハンセン病、諫早湾の干拓問題、そしてトンネルじん肺など人権問題に関する深い取材テーマが常にたくさんある。そこに11年前、新たに加わったのが「こうのとりのゆりかご・赤ちゃんポスト」の問題だ。熊本の皆さんには説明は不要だが、委員の皆様に向けて簡単に概要を説明する。熊本市内にある民間の産婦人科病院・慈恵病院が国内で唯一、赤ちゃんを匿名でも受け入れるという赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を運用している。2006年11月に計画が発表され、各局が一斉に取材をスタートしたのが11年前のことだ。それ以来、2007年5月10日に運用が始まり、11年間で137人が赤ちゃんポストに預けられた。この子たちに関しては運用の仕組み上、親がわかればその親の居住地近くの乳児院などに措置されるが、親がわからない場合には、熊本市長が名付け親になり熊本県内の乳児院に措置されることになっている。137人の中の一定数は親がわからないので、我々は今、そういった子どもたちと一緒にこの熊本で暮らしているということになる。
RKK熊本放送としては、計画発表から取材を開始し、これまでに350本を超えるニュースを放送してきた。また節目には、TBSを通じて全国ニュースにも発信をしている。もちろんドキュメンタリーも熊本県域、九州ネット、関東ネットの放送などで、30分から1時間の番組を何本か制作している。
さらにニュースやドキュメンタリーだけではなかなか一般の方や若い方は見にくいだろうということで2006年、全国ネットの2時間ドラマも制作した。預けた母親、預けられた子ども、預けられた子どもを育てている親、それから病院関係者などを訪ねて全国を取材し、脚本家とともに3か月かけて脚本をつくり上げ、放送に至った。
赤ちゃんポストの問題というのは、子どもの立場、それから大人の立場、社会の立場、どの立場から見るかで全く見え方が変わるので、我々も特集を組むにあたり、どのようなテーマで取り組むかと毎回、頭を悩ませている。去年は赤ちゃんポストが10年を迎えたということで運用開始の5月10日を中心に特集を9本制作した。その中の3本目、運用開始丸10年の5月10日に放送した企画「預けられた赤ちゃんは今」を今回ご参加のみなさまにご視聴いただいた。
このインタビューを行うにあたり数年前から、本人とその保護者と接触していた。最初は「いつかあなたがゆりかごに預けられるということについて、何かテレビで言いたいというときには、ぜひ、私に知らせてほしい」ということで話をしていた。インタビュー取材に入る前にも2度、自宅を訪ね、最終的な意思確認を行い、個人の特定につながらないための約束事を書面に明記したうえで保護者と一緒に打ち合わせをした。打ち合わせでは、名前や居住地、年齢、就学状況、預入の背景などの表現をどのようにするかや、映像や音声の加工についてや取材時の服装についての約束事などを取り決め合意した。
また本人が現在暮らす地方の方言で話したときには、その部分の放送はやめるという打ち合わせもした。しかし、私たちがどうしても使いたいと思うようないいコメントが出たところで、本人もその言葉に気合いが入るので、方言が出てしまうということがあり、使いたかったコメントが使えなかったというようなこともあった。
また今回視聴していただいた企画ではないが、預けた女性についても取材をしており、この女性については取材に向かう途中の量販店で洋服を買い、その服を着てインタビューに答えていただき、インタビューが終わり次第、その服は廃棄した。服装に関する特徴などから本人が特定されることのないようにという配慮からだ。
今回、インタビューに答えてもらった男の子と保護者の放送後の反応についてだが、放送後会いに行き確認をしている。結果的には、本人の学校や地域で、テレビに出演したことについてのリアクションはなく、全くばれてはいなかったということだった。本人もテレビに出たことについては、誰かから強制されたわけではなく、伝えたいことがあった、と話してくれた。また里親である保護者の話では、「本人はゆりかごに預けられたという使命を背負っているので、そのことについてスピークアウトしていくという思いを持っているだろうと感じる。18歳未満のうちは私たちの責任だが、18歳を過ぎたら本人の意思で取材を受けることになるだろう」と話をしていた。本人に、「成人したら顔出し、実名で取材を受けますか」と聞いたら苦笑いをしていたが、預けられた子どもたちがスピークアウトするときはすぐそこまで来ているのかもしれない。

(事務局)とても丁寧に、取材対象者と向き合われた様子がわかったが、取材の過程で葛藤したり躊躇したりするような場面はなかったのか。

(熊本放送 佐々木)本人を特定されるのが一番まずい。従って、社内でも、当時の編集長、部長ぐらいしか私の接触相手を知らなかった。実際、全国のどこでどのような取材をしているか、私とカメラマンしか知らない。例えば、預けられた女性のインタビューは、ホテルの部屋を一室借りて、屋外でカメラを回すということは一切しなかった。つまり、その人にテレビカメラが向いているというシチュエーションを、公共の場で一切作らなかった。

(事務局)放送後の一般視聴者の反響はどうだったのか。

(熊本放送 佐々木)こういう形で預けられた子がいるんだということ、自分たちの社会や身の回りにこういう境遇の子がいるんだということがわかったという反応は、幾つかあった。まずはそのことをわかってもらうことが大事だと思う。
どうしても私たちは、両親がいて兄弟がいて祖父母がいて、というような標準的な家族に対してカメラを向けることが多いのだが、そうではないシチュエーションで、私たちの隣で生活している友達がいるということをわかってもらうことは、すごく大事かなと考えている。

(放送局)最初に映像を拝見したときに、佐々木さんがすごくラフな服装だと感じたが、子どもに打ち解けてもらうために敢えてそのようにしたのか?

(熊本放送 佐々木)狙いが当たったか外れたかはわからないが、そのつもりだった。本来であれば多分、スーツにネクタイということだとは思う。

(放送局)佐々木さんが出演した放送は当然、病院側との信頼関係があって成り立っているとは思う。しかし例えば、この放送を、これから慈恵病院に相談しようとか、預けることになるかもしれないと考えている女性が見たときに、赤ちゃんポストに子どもを預けると、マスコミに追いかけられることになるのではないか?という不安も抱かせることにならないだろうか、という葛藤はなかったのか?

(熊本放送 佐々木)それは多分、各局の皆さんも抱えている葛藤だろうと思う。我々メディアが、ゆりかご報道を通して何かを伝えるとき、「どれだけ母親が孤立しているか」や「父親の無責任さ」そして、「社会がそれに対していかに冷たいか」ということを視聴者に知ってもらうために、言葉は悪いが、彼らにスピークアウトしてもらうしかない。そういう中で、メディアが騒がなければ追跡される心配もないわけだが、しかし、だからこそ、取材に入るまでの間に決して強制はせず、直接会う前にも手紙でのやりとりを踏んで、ようやく面会するというようなプロセスが大事なのだと思う。

(榊原委員長)実際に今回、当事者にインタビューをしてみて、彼らの思いや発言について佐々木さんが事前に思ったとおりの発言だったのか、あるいは、思っていなかったような発言を得られたのか、聞かせてほしい。

(熊本放送 佐々木)インタビューを終えてほっとしたことを覚えている。このVTRの中でも言っているが、彼らが幸せとは言わないまでも、一般的な子どもたちと同じように、普通に成長していくかどうかというところが、自分たちの追跡取材の意味だと思っている。彼は、現在暮らしている居住地で、あるスポーツで2番になったぐらい運動を頑張っている。勉強も頑張っている。普通の子どもとして育っている。普通に育っているということに、私はすごく、ほっとした。支持者や専門家、コメンテーターなどが様々にこうのとりのゆりかごの是非を論じているが、最終的にその答えは、預けられた子たちしか持ち合わせていないだろうと、私は思っている。だからこそ、いつか、預けられた子に話を聞きたいと考えてきた。その子たちがしっかり自分の言葉で話せるまで待とうという中で、今、10年待って、ようやくこの取材が実現したということだ。

(放送局)番組を拝見し、スタンスも非常に明確ですばらしい取材をされていると思った。今のお話を伺っても、信頼関係を得るために、長年取材をされ、配慮もされていることに、地元の放送局としてすごくいい仕事をしていらっしゃるなと感じた。その上で、2点伺いたい。まず1点目は、子どもが着ていた服の柄が迷彩服のような特徴のある服装だったこと気になったのだが、そのあたりの配慮を伺いたい。2点目は、137人の預けられた子どもがいるなかで、今回の子どもは非常に幸せだという前向きなリポートだったとは思うが、そうでない子どもも多分いるであろうなかで、今回の出演者を137人いる子どもの代表としていいのかどうかとか、あるいは、そうではない状況の子どもいるんだということをどのように伝えるかということについて議論はなかったのか?

(熊本放送 佐々木)子どもの服装に関しては、最初こちらで量販店の服を提供すると提案したのだが、もうすぐサイズアウトし着なくなる服があるのでそれを着用すると先方から言われ、あの服装になった。取材の後、彼はこの服を着ていないようだ。
また2つ目の質問に関してだが、幼すぎる子どもだと、なかなか自分の言葉で、自分の考えを述べるということは難しいと思うが、彼は、取材の過程でも、保護者がいない場でもしっかり、自分の考えを伝えてくれていたので、彼の話は放送の価値があると判断した。ご指摘のように、厳しい境遇の中で育っている子も当然いるので、今後、そういう明暗の暗の部分の取材にも関わらなくてはならないと自覚している。

(放送局)服装について、感想だけだが、私も記者をやっていたが、自分ならどうするかと思った場合に、特定されたくない出演者が特徴のある服を着ていたら、本人がかまわないと言っても、着がえてもらうかな、と思った。かなり細かいことだが、喉に小さいほくろがあったことも気になったぐらいだったので、ちょっと神経を使い過ぎなのかもしれないし、いろいろな判断があると思うが、自分が取材者だったら服装は変えてもらうだろうと思った。

(菅原委員)難しい出自である彼が今、幸せであるという、その10年間の歩みやプロセスを、見ているほうはインタビューを聞きながら想像するのだが、放送の中で子どもの口から『なぜの部分』が語られなかったとしても、佐々木さんたちが取材の過程で感じられたことがあったら、お聞きしたい。

(熊本放送 佐々木)VTRの中では、友達と遊ぶとか勉強するということに幸せを感じるよと、紹介している。しかし、家族の関わりや地域との関わりについては、彼以外の人物が画面に登場することで個人の特定につながってしまうので放送できない。他にも運動は何をやっているとか、いわゆる彼の日常生活に関して情報を補足すると、そのことがどんどん本人の特定につながってしまうので、本当に出したい情報があるのに出せない。彼がニコニコ笑う表情も、モザイクで隠さなきゃいけないなど、放送したいことが放送できないということが、やはりすごく難しかった。

(中橋委員)赤ちゃんポストの問題というのは社会全体で、これからも考えていかなくてはならない問題だと思うので、これからもマスメディアが取り扱っていくということは使命だと感じるが、実際にオンエアを終えて反響も受けた上で、もっとこうしておけばよかった、次があったらこういうふうにしたいなどと思うようなことがあれば、教えていただきたい。

(熊本放送 佐々木)今回の子どものご家族ともいつも話をしているのだが、彼らはゆりかごに預けられたということを、負の遺産として背負っていきたくないと考えている。私たちの社会はどうしても、「ゆりかごに預けられた子たちはかわいそうだ、不幸だ」「産みの親がだらしなかった」などというイメージで捉え、それを預けられた子どもたちにまで背負わせてしまっているのかもしれないが、彼らは、「ゆりかごで命を助けられたんだ」とすごく前向きに育っている。実際、ゆりかごに預けられた他の子とも連絡を取り合っているが、みんな、ゆりかごに預けられたことを、恥ずかしいと思っていない。ゆりかごに預けられる前の父母のことよりも、ゆりかごから自分たちの人生が出発していると考えたり、今の保護者から伝えられたりしている子が多いので、いつかは、ゆりかごに預けられた子どもが顔出し、実名で、社会に何かを訴えたいという日が来るのではないか、と期待している。

(中橋委員)彼らが大人になって、社会的に発言をすることの意味や、赤ちゃんポストの仕組みや歴史などを詳しく知った後での発言と、まだ子どもである現在の発言というのは多分、変わってくることもあるだろう。そのときが来たら改めて考えなくてはならない問題なのだろうと思う。

(吉永委員)東京に暮らしているとなかなか継続的に見ることができず、節目節目に断続的に、考えるくらいだった。放送されたシリーズ全体を視聴すれば受ける印象もまた違うのだと思うが、事前に視聴させていただいた1本だけを見て一つ、二つ伺いたい。里親の方は、事実を前向きに捉えて肯定的に使命を持って、子どもを引き取っている。放送局もこの取り組みをきちんと伝えたいという使命を持っている。それに対して、子ども自身はどのくらい同じ思いを持っているのかなと感じた。そもそも子どもは親に対してものすごく配慮するところがあって、親がこういうふうに思っているんだったら自分もこうしなきゃいけないと、けなげに考えたりすることがある。自分はゆりかごの子どもであるということを理解している境遇であればなおのこと、そういうふうに思ってしまうのではないだろうか。例えば、インタビューに答える子どもの表情がわかるならば、私はそれを読み取れると思うが、この場合モザイクがかかっていることはすごく大事なことだけれども、大事であるがゆえに、逆に、この子のことがいまひとつわかり切れないというジレンマもあった。この子は今回の取材を自分で引き受けたがゆえに、これを背負っていかなきゃいけないのだろうなという点も、気になった。
それともう一つは、幸せであるということはすごくいいことだし、ほっとするのだが、幸せでなくても生きていてほしいというような思いがあるので、ある時期は不幸せかもしれないが、その先に、例えば二十歳になったときに、幸せだと感じてくれるかもしれない。そうすると、やはり、あるメッセージとして、幸せであることがこの制度の一つの目的のような感じになっていいのかなという思いと、やはりそうであってほしいという思いと、見ていてすごく葛藤があったのだが、佐々木さんがインタビューしながら、この2点について、どんなふうな思いがあったかを伺いたい。

(熊本放送 佐々木)今回インタビューに答えてくれた彼は、ゆりかごの報道を記事で見つけると、スクラップをしているそうだ。そのぐらい、自分の出自はゆりかごだということを、今はそのまま背負っている。私たちRKKは、当初から、このゆりかご問題の答えが出るのは20年先になるか30年先になるかわからないし、そのときに答えが出るかもわからないということで、常々、キャスターコメントをしてきた。同じように、ゆりかごを開設された慈恵病院の理事長の蓮田さんという方はずっと、「預けられた子がその後も幸せに育ってほしい」と言っている。ということで、今回のインタビューでは、「理事長が幸せになってほしいというふうに思っているが、あなたは幸せですか」という聞き方をした。私たちがスタジオで受けるキャスターコメントとしては、「彼らが普通に暮らせるような社会環境になっているのだろうか」ということを、常に述べるようにしている。だから我々のほうから「彼らが幸せな世の中にしなくてはならない」とか「彼らは幸せに育たなくてはいけない」などというふうにコメントをしないようにしているということは、今のご心配と少し一致するかもしれない。

(緑川副委員長)「こうのとりのゆりかご」ができてから10年という中で、長い時間をかけて慎重に、丁寧に取材をして、取材対象者、関係者との間で信頼関係を得た上で、番組をつくっていることが感じ取れる番組で、これこそがテレビで報道すべき、つくるべき番組なのだろうと思った。事前に視聴した、もう1本の番組『ゆりかごから届く声~赤ちゃんポスト11年』も、制度全体の問題点や、ドイツで行われている内密出産の問題にまでテーマを広げて制作されており勉強になった。番組制作者の吉村さん(熊本県民テレビ)は、制作過程での思いとして、子どもたちが大きくなったときにこの番組を見て傷つかないか、その点について、いつも立ち返りながら制作したと聞いているが、具体的に、どのようなところで、どういう配慮をされたのか伺いたい。

(熊本県民テレビ報道部 吉村記者)現在は、違法とはいえ、ユーチューブで番組がいつでも見つけられる時代で、いつか子どもが大きくなったときにこの番組を目にして、もしかしたらこれは自分のことではないだろうか、と感じることがあるかもしれないと考えた。特に、ゆりかごに託された子どもについて心配だった。産みの親からの愛情を受けていたけれども、そのとき学生だったからやむを得ず託されたということをわかってもらえればいいと思った。要らなかったから捨てられたというふうに思ってほしくなかった。そのような気持ちを、ナレーションでうまく入れればいいと考え、今回の番組では、編集チームのみんなで話し合いながら制作した。

(緑川副委員長)当事者を特定されないよう匿名性を確保するための服装や撮影場所などへの配慮はどうだったのか?

(熊本県民テレビ 吉村)我々も子どもを託した母親のインタビュー時の服装を、制作サイドで用意した。また場所が特定されないよう、編集チームで細かく気をつけてチェックした。さらに靴下の柄などから特定につながってはいけないと、足元にもモザイクをかけたシーンもかなりある。ただ、その人の人となりというものをインタビューシーンに乗せたいという葛藤もあり、手元やちょっと少しの動きなどで彼女なりの葛藤を感じてほしいという点については、編集チームで考えたつもりだ。

(事務局)それに関しては、番組制作者のお二人から「個人を特定されないように配慮をすればするほど、映像のリアリティーが失われていってしまうので、そのはざまで悩んだ」や「ディテールを入れれば入れるほどプライバシーに寄っていってしまうので、ぎりぎりのラインで悩んだ」というような話を聞いている。

(熊本県民テレビ 大木編成局長)最初に理事長がおっしゃったが、こういう番組は勝ち負けではない。もちろん、他局でもすばらしい番組が作られていて、それよりもっといいものを作りたいという気持ちが、ディレクターには生まれるのだが、番組は勝ち負けではない。プロデューサーとしては、プライバシーと放送だけではなく、いかにディレクターが功名心を押さえるかというところも気にかけていた。もちろんプロデューサーとして、いいものをつくりたいし、それからリアリティーもどこかで出さないと、うそっぽくなってしまうと、放送とプライバシーの問題も考える。現場では苦労して取材をしているので、リアリティーは出してあげたいのだが、そこの部分は、本当に一つ一つ、リアリティーとプライバシーの保護を考えた。そしてもう一つ、番組は勝ち負けではないのだということ、私たちが目指さなくてはならないのは、この番組で何を伝えたいかということであると、伝え続けた。この小さな赤ちゃんポストの中には、今、子どもたちが置かれている過酷な現実や今の時代の課題や矛盾などが全部詰まっている、そういうものを見せることこそが一番のテーマなので、一つ一つのシーンにリアリティーを持たせるというよりも、番組全体でメッセージを伝えることのほうが大事だと、ディレクターには最初から言い続けた。そういう意味では、随分、悔しい思いをさせたとは思う。

(事務局)取材の中で苦労して知り得た情報を、制作の過程で捨てざるを得ないようなこともたくさんあったのではないかと思うが、その辺はどうか?

(熊本県民テレビ 吉村)出したい情報と出せない情報とを、編集チームで考えて臨んだ。開設当初にポストに0歳で入れられた子供が今、11歳。その子たちがどうやってこの思春期を過ごしているのかというところに、見た人が思いをはせてほしいと感じながら番組を作っていた。プライバシーの配慮については、居住地は基本的に言わないと決めた。また家族構成も知りたい情報ではあるが、生い立ちは明かさないようにしようと、決めて臨んだ。結果、イメージ映像ばかりになってしまい葛藤があったが、子どもを託した彼女の、葛藤した思いを感じてほしいという思いでつくった。

(熊本放送 佐々木)取材の過程で情報を知ってしまったがゆえに、非常に苦しむことも多々ある。例えば、生みの親の情報を私たちは取材の中で知りえたが、10年後、20年後の子どもの将来を考えたとき、育ての親には伝えないほうがいいだろうと判断し、育ての親には提供できなかったというような情報も、私たちは多々、握りながら取材をしているというのが現状だ。

(榊原委員長)なぜ、赤ちゃんポストの議論や運用が日本では広がらないのか。取材を通じて、何が問題だと感じたか?

(熊本県民テレビ 吉村)難しい質問だ。それがわかれば、赤ちゃんポストがどんどん広まると思う。取材中、ドイツの市民20人くらいにインタビューをしたが、みんな赤ちゃんポストについて知っていて関心があり、何が今、問題なのかといことをすらすら話してくれた。「自分は反対」「賛成」ということも言ってくれた。一方、熊本で街頭インタビューしたときには「賛成」「反対」さえも言えない現状だった。今回、放送後に寄せられた意見で、「赤ちゃんポストを知らなかった」というコメントがかなり寄せられたことにも衝撃を覚えた。こういう現実があるということに関心がないということが、一番大きな問題なのではないかと思う。またドイツは、民間が赤ちゃんポストを設置した後に、政府が運用や問題点について議会で話し合っている。その結果、問題点を踏まえて内密出産という新たなシステムが始められた。しかし日本では、熊本市政も赤ちゃんポストには関わっていない。もちろん国政では議論すらなされない。その点が、開設以来10年が経っても何も進んでいない日本とドイツとの相違点だと思う。まずは、番組を通じて、たくさんの方に赤ちゃんポストの実態を知ってもらい関心を持ってもらうことが必要だと考える。

(大平委員)みなさんの番組制作に向かう姿勢を伺っていると、プライバシーの保護を過剰に求めすぎる日本社会の問題が見えてくる。当事者のプライバシーが外へ漏れてはいけないとモザイクをかけていくと究極はモザイクだらけの画面でやるしかない。本当は、先ほどの話にもあったようにディテールにこそリアリティーが宿る。にっこり笑ったり悲しんだりするその表情を見れば、どんな育ちの人か、何を思っているのか、思っていないのか、言葉がなくてもわかるということがリアリティーだ。テレビが映像を武器にしているというのは、そういうことなわけで、それが発揮できないという今の世の中はやはりおかしいのかもしれない。

(2)熊本地震における災害報道について(青少年が関わる事柄について)

(事務局)第2部では、熊本地震における災害報道、特に、青少年が関わる事柄についてと、青少年に関する取材全般についての課題と疑問などについて話を進めたい。まず、熊本地震における災害報道についてだが、地震によるトラウマやPTSDへの配慮など日々どのようなことを思いながら取材していたかについて実際の経験を伺いたい。

(放送局)当時、ニュースデスクだったので、現場に出るより指示を出すほうが多かったが、時々、現場に行ったり、現場の記者の話を聞く中で感じていたことがある。それは、全国から大量におしよせたマスコミと地元の放送局との温度差だ。自分たちは被災地の局としてずっと寄り添っていく使命があるのでいろいろ配慮しながら取材を進めるが、応援でやってくる局のクルーは、節目に来て、取材をし、帰って放送を出せば終わりという感じを受けることもある。被災者の方から後から話を聞くと、どこから来たのかわからないようなカメラに勝手に撮られて、それが全国放送になっていたというようなこともあったようだ。
もう一つ、子どもたちへの配慮については、身一つで避難している人たちにカメラを向けるということは心苦しく葛藤もあったのだが、今、この現状を伝えることで何が足りないか全国に伝わるのではないか、今、このインタビューを流すことで、行政が問題に気づいてくれるのではないかと思い、その都度、保護者に了解を取って取材をしていた。
今、感じるのは、被災地の学校で「子どもたちが、カメラがあると不安になるので」という言葉が、当初よりも多く聞かれるようになった気がする。「子どもたちをあまり撮らないでほしい」という先生が多い。2年半たって、指導者側も非常にナーバスになってきているのかなということも感じつつ今、取材をしている。

(事務局)榊原委員長に小児科医の見地から教えていただきたいのだが、地震当時は大丈夫だったが、2年半経った今、カメラに対して子どもが不安を感じるというような症状があらわれることは、実際あるのか。

(榊原委員長)PTSD、心的外傷後ストレス障害という症状がある。例えば、有名な例では、アメリカの9.11のときに、現場にいてもいなくても、子どもたちがその後、悪夢を見たりするPTSDになった。ということで、現場にいれば、一定の割合で、大きなストレスを感じると心的外傷によって、そういうことが起こる。一人一人、感受性は違うが、繰り返し何度も何度も当時のことを聞かれるというようなことを繰り返すと、後になってから当時の記憶が誘発されるということは確かにある。ところが、もう一つ、子どもというのは、概してではないが大人よりも柔軟性がある。したがって、外傷後のストレス症候群がありながら、逆に、それを乗り越えていくような反応も出てくることがわかっている。東日本大震災後のある調査で、被災地の子どもと都市部の子どもの心理を追跡した。すると他人に対する寛容、親切心は、被災地の子どものほうが伸びる。つまり、自分が被災の経験をしたことによって、他人に優しくしようというような共感的心理がよくなるとわかっている。つまり言えることは二つあって、子どもというのは非常にナイーブなところがある半面、そこから回復する力も大きい。
今、伺った経験談では、現場で葛藤を感じながら取材されていた。これがやはり、こういう場面を報道する人間の基本であって、葛藤を感じているということでやり過ぎることはない。それでいいのではないかと思う。いずれにせよ、子どもたちは大変なストレスを負っているわけだから、その事実は変えようがない。その傷をむやみに深くするようなことがなければ大きな問題ではないし、そういう子どもたちがいることを全国に発信することの意味は大きい。

(事務局)取材のときに苦慮したことや行った配慮について具体的な話を伺いたい。

(放送局)先ほどの話に似ているが、全国からの支援に感謝の意思を示そうと、被災地の子どもたちがメッセージを書いて発信するということが、最近あった。その取材時の学校の対応に、メディアのインタビューを受ける子どもたちを先生が事前に指名していたという今までにない変化を感じた。こちらとしては、「地震」や「2年半前」などというキーワードを使わないので、子どもたちの生の言葉を自由に取材させてほしいと思うのだが、学校からの規制が強くなっていると感じている。とはいえ、これからこの子たちがどう成長していくのか、町がどうよみがえっていくのか、発災当時、生まれたばかりの赤ちゃんや小学校でボランティアをしていた子どもたちをこれまで同様、丁寧に追跡取材していきたい。熊本地震がどういうもので、何だったのかということを、リアルに後世に伝えていくことは、我々と彼らにしかできない役目だと思うので、その成長を見つめていこうと思う。

(放送局)先ほどから話に出ているが、節目だけではなくて、伝え続けていくことが大事だと思うので、週に1回、夕方のニュース番組の最後に、1週間の熊本地震関連ニュースをまとめて放送するということを今も続けている。子どもたちを追うというのは、0歳だった子が2歳半になって、だんだん大きくなって、地震からの経過時間がはっきりわかりやすいと思うので、子どもを取材し続けていく意味というのは、報道では大事なのではなかと感じている。

(吉永委員)この間の北海道の地震のときに、たまたま中学生と一緒にテレビを見ていたのだが、そのときにその子が「こいつら、本当、むかつくんだよな」と言っており「何にむかついているんだろう」と思ったら、報道陣にむかついているらしい。本当に大事なことが起きているときに、それを伝える側に対して、「こいつら、うざい」とか「むかつく」って言われてしまうということは、若い人たちとテレビが、これから先の信頼関係をどのように築いていくのだろうと憂慮し、大変心が痛んだ。ご存じのように、これまで災害報道のたびに報道批判が起きて、それが最近もどんどんエスカレートしているような気がする。熊本地震のときも、やはり、取材に関する問題が噴出した。BPOに来ている意見にも、報道批判が多かった。いつもは報道する側だが、在熊の放送局の方は、ある意味、被災者でもあった。取材される側の立場も同時に経験しながら、感じながら取材をされていたと思うが、貴重な二重の経験の中、これから先の災害報道について何か感じたことがあればお聞かせ願いたい。

(放送局)今おっしゃった報道に携わる者であると同時に、被災者であるという話だが、私の両親も、いまだ仮設で暮らしている身である。今回、被災し取材をする中で、地元のメディアとして、今は取材を受けるタイミングではないことを察してほしいなど、いろんなクレームも受けた。また、余震が1週間で1,000回を優に超え、しかも、震度7が2回来るなかで、3回目が来たら多分、電波も止まるだろうな、という半ば諦めやストレスを感じながら取材していた。個人的に思うのは、生まれ育った町がだんだん壊れていくのを見ながら、取材するときに、やはり忘れてはいけないのは、自分自身もものすごくストレスを受けているという事実。今思い返せば、当時は上司にもいらいらしたし、現場を見ていない人とたくさん衝突もするなど、ストレスがどんどんたまっていた。その精神状態やテンションで、被災者を訪ねても、「こんな聞き方をすべきではなかった」と後で反省するような雑な取材しかできなかった。だから、「自分も今、きついんだな」「ストレスを感じているんだな」ということを素直に受け入れ、認めて、その上で、現場に向かうという気持ちがすごく大事だなと感じた。被災地に生きる人間であり、マスコミの人間として、「強くならなきゃいけない」ではなくて、自分もかなりストレスを受けているなとか、結構、涙もろいし弱い人間なんだなということをきちんと認めることが出発点かもしれないということは、今回の反省点だ。

(事務局)ラジオ局の方は、テレビ局とはまた違った視点で震災時の放送に向き合ったのではないかと思うが、取り組みを教えてほしい。

(放送局)ラジオ局なので、テレビ局とは全く違った報道の仕方になる。どちらかというと、ひたすらライフライン情報を伝えていたというのが当時の状況だ。ただ当時、避難所に行っていて、ヘリコプターの音が気になった。避難所の人たちも相当気にしていた。ラジオ局が言うことでもないが、今後の取材に当たっては、ある程度状況が分かった後は、あれだけ何台もヘリを飛ばさなくていいのではないか、という話をテレビ局の知り合いとした記憶はある。発災直後は、避難所内での話し声も聞こえないぐらいの爆音がしていた。

(放送局)確かにご指摘のとおりで、現実的に発災直後は用意ドンになってしまうところはある。地上から被害の全容が撮影できない場所があると結局、空撮が早い。キー局からもいち早く映像をとリクエストもされる。そうなると、そのエリアに近い放送局がヘリを飛ばし、いち早く伝える。ある程度時間が経過すれば、共同取材にすることも可能かもしれないが、発災直後にできるかというと、今現在の形では、現実的に無理なのではないかと思う。

(菅原委員)2点、話をしたい。私の専門は心理学だが、先ほど被災者の方のPTSDが話題になっていたが、報道する人間のメンタルケアもとても大事だと思う。災害や事件が起きたとき最前線に立って報道する人を支えるメンタルケアのシステムも考えられたらいいと思う。もう1点は、ラジオについて。避難所では、子どもたちもラジオを聞いているので、年齢に合った、小さい子向けの楽しい歌や中高生向けの放送など、子ども目線のメッセージが放送されればすごくいいと思う。

(放送局)発災の2日後ぐらいに、エフエム仙台とエフエム東京から連絡があり、今後、子どもたちの心のケアがものすごく大事な話になっていくという、彼らが震災当時できなかった反省を踏まえたアドバイスをいただいた。放送局として、ラジオ局として、もっとこうすればよかったというアドバイスを当時、現場におろしながら放送を続けた。例えば、楽曲がまさにそうなのだが、東日本大震災の当時、「アンパンマンマーチ」などを放送して子どもたちがとても喜んだという話があったので、例えば、スタジオジブリ関連のCDなんかを全部集めろと指示をし、3日間ぐらいはほとんど、それらの曲を中心に流していた。東日本大震災の教訓を生かせたとは思う。また大阪北部地震の際には、こちらから地元のラジオ局に連絡をしてアドバイスをすることもできた。細々とでも少しずつつなげていくことで進化できればいいと思いながら制作にあたっている。

(3)青少年に関する取材全般についての課題や疑問など

(事務局)最後に、取材対象者の青少年の将来への配慮に関して、事前にたくさんのご意見をいただいているので、そこについての意見交換を行いたい。実際に青少年を取材して困ったこと、考えたことなどあれば発言をお願いしたい。

(放送局)以前、フリースクールを立ち上げた教育者のドキュメンタリーを制作した経験がある。フリースクールに通う子には、何らかの事情を抱える子どもも多いが、映像だからこそ伝わることがあると考えていたので、顔を出してもいいと本人も保護者も言ってくれる子を取材しようと思っていた。実際、そこに通う中学生は10人ぐらいしかいなかったのだが、幸い出演の承諾と許可を得ることができ取材に入った。その結果、フリースクールに通い始めて数カ月で、子どもたちが笑顔を見せたという過程を放送できたのはよかったのだが、その後、彼らが高校生や社会人になったときに、フリースクールに通っていたことを知られたくないと思ったとしても取り返しがつかない。実際は、先生も保護者も本人も放送後に「いい放送してくれた」と言ってくれたので、今のところはその懸念はない。しかし、放送された事実は恐らく一生残るので、今後については、わずかな心配もある。

(放送局)自分はマスコミ業界に入って2年目の、本当に新人なので、青少年の報道に関しての経験はまだない。しかし最近、テレビの報道を見ていて、事件そのものよりも、当事者のプライベートなところに踏み込んでいくことが多いように感じている。当事者の家族や卒論の内容など、あまり事件の報道にとって重要ではないように思えることが増えている。今はネット社会なので、それらの報道がネットに流れてしまえばもう消すことはできないと言っていい。それを考えたときに、当事者だった青少年がまた世の中に出ていって、自分の足で立って生きていこうとしたときに、それが障害になってしまう可能性も大いにあると思うので、報道する側の人間は気をつけていかなくてはならないと考えている。

(事務局)取材対象者の青少年や子どもの将来への配慮については、実は去年、ある番組をきっかけに青少年委員会でも話をしたことがある。緑川委員から手短に、当時の概要と見解をご説明いただきたい。

(緑川副委員長)去年の8月に、あるチャリティー番組で5歳の男の子を育ててきた母親が、「自分は実の母親ではないということを子どもに告白したい」と番組に申し出て、その告白シーンが放送された。そのようなプライベートで非常にセンシティブな内容が、モザイクなしの顔出しで放送されたので、BPOにも批判的な視聴者意見が多数寄せられた。青少年委員会でも、「本当にその事実の意味をわかっているかどうかもわからない5歳という年齢の子どもの非常にセンシティブな状況を放送するということについて、放送局としてはどのようなことに配慮して放送に至ったのか」「親子や周囲へのフォローがきちんとされているのか」という点について意見が出た。その後、放送局から番組企画について自発的に説明書が提出され、その内容の問題点については十分に認識し、放送することのマイナス面も含め当事者に丁寧に説明をしたうえで放送に至ったということがわかった。その報告を受けて、青少年委員会で再度検討した。「5歳の男の子の出自にかかわるプライベートでセンシティブな内容を放送したということについて、その子本人が、その後どういうふうに考えるのかを継続的に調べられるわけではない。そのことについての懸念がある」という意見も出た。ただ、放送局としてはできる限りの配慮をしたうえで番組に取り組んだことが理解できるということで、議論を終えた。この議論に関して、委員会では5歳の男の子のきわめてセンシティブなプライバシーについて放送するということについて問題意識を持って議論はしたが、そのような取り組み自体を否定するという結論にはならなかったことは申しあげておきたい。この経緯については、BPOのウェブサイトに青少年委員会2017年10月の議事概要が掲載されているので、ご覧いただきたい。

(事務局)先ほどの取材経験談にあったような、例えば、不登校の中学生をロケするような場面で、その子どもの将来の不利益を考えて躊躇してしまったような経験、あるいは、その放送後の反響に不安になったということなどはないだろうか?

(放送局)メディアを取り巻く環境は近年、様変わりしており、青少年に関する事件や事故を報道する際、テレビで一生懸命配慮をしていても、ネットでは様々な情報が出回っている。最近、熊本では、高校生の自殺があったのだが、亡くなった生徒の顔写真などテレビでは報じないことがネットには出ている。報道への配慮について、ここでは議論しているが、一方では、もう情報化の中で全然違う次元で社会に情報は出回ってしまっている。このような現状に関し、本当に矛盾を感じているというところが実際にある。テレビは配慮していても、社会の現状はかけ離れている。これだけ情報化社会になってくると、テレビの自己規制ってどうなんだろう、と疑問を感じながらやっているのが実感だ。

(濱田理事長)私もずっとメディアの研究しており、実態もよくわかっているつもりだ。そういうジレンマについては本当によくわかる。きっとこれ以上ひどい状態が、これからも出てくると思う。そのときに、少なくとも私自身は、良識ある人間として守らなければいけないものは、しっかり示しておくというスタンスをとりたいと思っている。つまり、世の中がぐじゃぐじゃになっているから、それに合わせるのだということでは、恐らく社会が成り立たない。私たちが守らなくてはいけないラインはどこにあるのか。モラルも含めてどこにあるのかということをしっかり示すことは、やはりマスメディアの役割であろう。まして、放送というのは、社会的責任が非常に大きく期待されている。確かに、SNSなどで情報はいろいろ流れてくるかもしれないが、それでも、私たちが共通に持っておくべき良識ある情報というものはある。だからこそ、放送というものの意味があるのだ。そういう一種の、社会的責任を守る盾としての役割もマスメディアは担っているのではないかと、私は思う。恐らくインターネットに流れるものに全て社会の水準を合わせていくということにはならないと思う。例えば、暴力表現や性的な表現など、匿名実名に関係なく、ネット上にはいろんなものがあふれているが、放送もそれに合わせていいのかというと、多分、そうはならない。放送の持っている矜持、放送の持っている意味というものを社会に理解してもらう。きれいごとかもしれないが、きれいごとを維持していくということも社会としては大事なのかもしれない。

(放送局)先ほどの地震報道で話が出たヘリコプター取材について、BPOとしてキー局と話し合いをしたり意見を出したりはしていないのか?

(放送局)BPOではなく放送局全局で取り決めがあるのではないか。災害報道のたびに視聴者から意見があるようだが、多分、視聴者はそれがマスコミのヘリなのか、人命救助のための消防のヘリなのか、警察のヘリなのか、混同しているのではないか。もちろん、マスコミのヘリが最初に飛んでいるというのは否めない事実だが、全てがマスコミではない。

(放送局)熊本地震の際、ヘリに乗って上空取材をしたが、少なくとも、上空を3層に分けると一番下の層は、被害状況を確認する警察や国交省や消防のヘリ、その上を搬送の必要があった場合などに二番手でおりてくるヘリ、そしてマスコミのヘリは、その一番上を飛んでいる。言いわけかもしれないが、地上から機体番号が肉眼で見えるような位置をマスコミのヘリは、まず飛べないし許可も下りない。例えば、救出現場の上空を自由に旋回できるかといったら、絶対にできない。マスコミのヘリの騒音が全くないとは言わないが、理解を求め周知していくことは大事かもしれない。

(放送局)報道する我々の側にも、「取材より目の前の被災者を一人でも助けに行きたい」というような声をあげた現場の記者がいた。またマスコミのヘリに関しては、この間の北海道地震しかり、熊本地震しかりだが、被害の全容が空撮でわかる場合がある。北海道地震での地滑り被害や、阿蘇大橋の陥落など、空撮映像がなければ現実の被害の大きさは伝えられなかった。それぐらい、空撮映像は大事な情報だ。またもう一方で、西日本豪雨等での教訓もあり、災害報道の最近の流れというのは、大雨や台風など被害が起きてからではなく、被害が起きる前から注意喚起の報道をすることで、一人でも多くの命が救えるのではないかというように、マスコミの災害報道への向き合い方が変わってきていると感じている。

(吉永委員)大きく今までと違うのは、今、取材する側が取材されているということだと思う。取材の様子を見かけた誰かが、ちょっとしたことをSNSなどに上げると、それが全てのマスコミのしわざであるように思われる。だから、自分たちは取材しているつもりだが、実はものすごくたくさんのスマホで監視されている中で取材を行っているという、かつてとはまた違うとても難しい状況、緊張感のなかに置かれているということを、取材する一人一人が胸に置いていないと、今後の報道はなかなか難しいのではないか。テレビの取材陣が、今度は、市民のスマホにさらされつつ仕事をするということを十分に理解していないと、誤解を生み信頼感を失う事態になりかねない。被災地などでは、被害を受けた人たちの気持ちや感情、状況も理解した上で、常に大勢の耳目にさらされながら取材していることを自覚しなければならない時期なのだと感じている。

【榊原委員長まとめ】

今回、初めて意見交換会に出させていただき、非常に感銘を受けた。当たり前のことを言って怒られそうだが、一言で言うと、番組をつくっている方が、真剣に放送と向き合っているという印象を強く受けた。きょうは、熊本で起こり全国的に非常に大きな課題となった二つのテーマ、一つは赤ちゃんポストのこと、それからもう一つは、未曾有の大震災について、実際に取材制作する方の苦労などを伺うことができて、非常に意を強くした。
赤ちゃんポストについて言えば、開設前からずっと寄り添って取材がなされてきたという真摯な対応に、感銘を受けている。外側からではなく、当事者、子どもを預けた母親、あるいは、実際に預けられて大きくなった子どもという当事者の声を、できるだけそのまま放送したいという、その努力についてよくわかった。後半の震災の話も、報道する立場の良心を感じた。放送関係者が葛藤を感じながら自律していく、自分たちを律していくという気持ちがあらわれた話だと思って聞いていた。私は、委員長としての日も浅くBPOの精神を語れるほどの立場ではないのだが、やはり自律の主体はみなさんであり、BPOというのは、放送人の誇りと緊張、放送の自由を下支えする、サポートする、そういう立場の機関だということをわかっていただけたらと思う。

以上

2018年11月7日

「命のビザ出生地特集に対する申立て」通知・公表の概要

[通知]
11月7日午後1時からBPO第1会議室において、奥武則委員長と、事案を担当した市川正司委員長代行と水野剛也委員が出席して、委員会決定を通知した。申立人の杉原まどか氏と平岡洋氏が代理人弁護士とともに出席し、被申立人のCBCテレビからは報道局長ら2人が出席した。
奥委員長が決定文に沿って説明し、結論について「名誉毀損にはあたらない、また放送倫理上の問題はない、しかし放送倫理に絡んで要望を少し述べている決定である。判断の枠組みにあるように、申立人は10本の放送全体として名誉毀損の成否を判断すべきとの主張だが、一般視聴者はすべてを連続して見ているわけではないので、個々の放送についてそれぞれ人権侵害と放送倫理上の問題を検討することにした。第1回の放送の申立人法人事務所の取材に関しては、放送倫理上の問題までは問えないが、申立人側から見れば悪印象を与えるものという受け止めには十分理由があるとする複数の意見があったことを付記した。第2回の放送の申立人に対する取材のあり方に関しては、インタビュー部分の放送は原則的に放送局の裁量の範囲なので、放送倫理上の問題を問うまではない。しかしCBCテレビは筆跡鑑定事務所の鑑定結果を得たあとに申立人にインタビューしたのであれば、疑問点を明らかにして、自筆かどうかを追及することが調査報道としては非常に重要なのだから、しっかり取材するべきであり、今後の取材・報道にあたって、この点を参考にすることを要望する」と述べた。
続いて、市川委員長代行が補足説明し、「2回目の放送は、CBCテレビが主張する通り、杉原千畝の出生地に関する疑問と、これを巡る八百津町の対応についての疑問を投げかけており、前者の疑問が生じる根拠の一つとして手記の問題が出てくるというのが全体の流れであり、申立人の関与について言及する表現はなく、社会的評価が下がることはない。鑑定事務所と杉原まどか氏の発言が対比的に扱われており、そうであれば鑑定結果を端的に聞くことが放送局の対応としては望ましかった」と述べた。
水野委員は「キャスターの表情、しぐさ、口調については、一般視聴者が番組全体を見た時に、申立人に対して、申立人が訴えているような印象を持つかというと、そうは言えないだろうと判断した」と述べた。
決定を受けた申立人は「第3回以降の放送に、自分たちの取り扱いがないことは認識している。ただ、7番目の放送(独自中継)は、短いけれども、八百津町が手記の申請を取り下げたということについて、何故そうしたかの経緯は色々あるのに、明らかに手記そのものに何か疑いがあって、町としては苦渋の判断をせざるを得なかったというようなことを、いきなり記者が緊急放送で流すようなやり方は、テレビ局の真摯な報道姿勢とずれていると思う」と述べた。
一方、CBCテレビは「地方自治体に対する問題提起という我々の取材の趣旨を汲んでもらえたのは非常にありがたく思う。ご指摘の要望等は真摯に受け止め、今後の取材及び番組制作の面で生かしていきたいと思う」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見をして、委員会決定を公表した。21社34人が取材した。テレビカメラの取材は、キー局代表としてのNHKと、当該局のCBCテレビが行った。
まず、奥委員長が判断部分を中心に、「要望あり」の見解となった決定を説明した。続いて、市川委員長代行と水野委員が補足的な説明をした。
その後の質疑応答の概要は、以下のとおりである。

(質問)
CBCテレビは、何故その鑑定結果を本人に直接当てなかったのかについて、説明はあったか?
(奥委員長)
CBCテレビとしては、出生地に対して戸籍を含めて疑問が生じていることに、八百津町がきちんと対応していないという番組の作りになっていて、申立人が自筆であると考えていることをあらためて議論するとか取り上げる対象とは考えなかった、と説明した。
委員会は、明らかに筆跡鑑定事務所で一定の見解が出ていて、取材した段階ではその情報があったわけだから、それを当てることによってより調査報道として優れたものになっただろうと考えた。

(質問)
「放送倫理上問題あり」の決定の際に「少数意見付記」というのが(過去に)あるが、今回の事務所の取り上げ方の中での「付記する」という言葉使いは、それとは別物か?
(奥委員長)
少数意見として別だてするまでもなく、こういう形で付記すれば良かろうと、そういう主張をしている委員の判断があって、そのようになった。

(質問)
CBCテレビは「49枚の手記」がユネスコに提出されていることを、まどかさんたちの取材を通じて初めて知ったという体で、そのあと鑑定所に行く作りになっているが、そもそも「49枚の手記」をどういう方法で入手したのか?また、それと「手記の下書き」は、誰が管理しているのか?そして申立人も含めて、「手記の下書き」は清書の下書きであるという共通認識はあるのか?
(市川委員長代行)
CBCテレビは「49枚の手記」を事前に持っていたと聞いている。また「原稿段階のメモ書き」は、写しの存在しか分かってなく、原本の保管者については把握していないが、それが清書の下書きであるというのは共通認識として持っている。

(質問)
念のために確認するが、要望として、筆跡鑑定のことを聞くべきだったとあるが、それは放送に映っていないだけではなく、実際にも取材時に「ご本人の文字じゃないのではないか」という質問を申立人に聞いていないということか?
(奥委員長)
CBC側は、筆跡鑑定所で自筆ではない可能性が高いという鑑定結果を得ている訳だが、それについてインタビューの段階で申立人側には聞いていない。

(質問)
理事長と、副理事長のお二人と、NPO法人という四つの肩書が出てくるが、これは申し立て時も現在も変わっていないか?
(市川委員長代行)
今現在は、変わったという話は聞いていない。

以上

第208回 放送と青少年に関する委員会

第208回-2018年11月27日

視聴者からの意見について…など

2018年11月27日、第208回青少年委員会をBPO第1会議室で開催し、5人の委員が出席しました。(2人の委員は所用により欠席)
委員会では、まず10月16日から11月15日までに寄せられた視聴者意見について意見を交わしました。
中学生と教師の純愛をテーマとした連続ドラマについて、先月に続いて「教師と生徒の恋愛は道徳的に問題がある。同世代の子どもを持つ身としては不愉快だ」「大人の女性と未成年、それも中学生男子がキスするようなドラマを放送してよいのか。淫行を奨励しているようなものではないか」などの意見が寄せられました。これについて、委員からは、「一方的に教師が未成熟な子どもを騙したり脅したりして性的な興味の対象として扱っているわけではない。条例違反などに関しては法務チェックを受けた上でつくっているのではないか」などの意見が出されました。
11月の中高生モニターのリポートのテーマは「最近見たドラマについて」で、31人から報告がありました。モニターからは、中学生と教師の純愛をテーマにしたドラマについて「よくある恋愛ドラマとは違い、先生と生徒の恋愛なので、くっついてはいけない間柄という点からハラハラして見ている。主人公の俳優の表情やしぐさの演技が上手だと感心した」、ネットメディアの虚偽ニュースをテーマにしたドラマについて「複数のことがストーリーの展開とともに結びつき、真相が明らかになっていく構成が、緊張感があり、面白かった。メディアから発信される情報をうのみにするのではなく、目の前の情報が誤り(フェイク)でないか受け取る側もしっかり意識しなければならないと感じた」、ツッパリの高校生たちが織り成す学園ドラマについて「80年代をテーマにしていて私たち10代には新鮮で面白い。今のドラマに珍しく大量の流血シーンに驚いた。このドラマの暴力シーンはありだと思うが、コンプライアンスが厳しい世の中で良い悪いの基準がわからないな、と思った」などの意見が寄せられました。委員会では、これらの意見について議論しました。
次回は12月17日に定例委員会を開催します。

議事の詳細

日時
2018年11月27日(火) 午後4時30分~午後6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
視聴者からの意見について
中高生モニター報告について
調査研究について
今後の予定について
出席者
緑川由香副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、菅原ますみ委員、中橋雄委員

視聴者からの意見について

男子中学生と女性教師の純愛がストーリーのドラマについて、先月に引き続き「教師と生徒の恋愛は道徳的に問題がある。同年代の子どもを持つ身としては不愉快」「青少年に悪影響しかないストーリーをなぜわざわざドラマにするのか」「男子生徒が女性教師に抱きついたり、キスしたりと現実にあったら犯罪だ」などとの意見が寄せられました。
これに対し委員からは「淫行に関する条例は自治体毎に定めているが、一般的に、青少年に対する性行為等一般を対象とするのではなく、青少年を誘惑し、威迫し、または困惑させるなどの青少年の未成熟に乗じた不当な手段を用いての性交等や青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象としか扱っていないような性交等を対象としていると考えられている。このドラマの制作者側はそこの要件を検討した上で、ストーリーを作っているのではないか」「一方的に教師が未成熟な子どもを騙したり脅したりして性的な興味の対象として扱うというストーリーではない。条例違反などに関しては法務チェックを受けた上でつくっているのではないか」との意見が出されました。
この件に関しては、これ以上話し合う必要ない、となりました。

中高生モニター報告について

34人の中高生モニターにお願いした11月のテーマは、「最近見たドラマについて」でした。また「自由記述」と「青少年へのおすすめ番組について」の欄も設けました。全部で31人から報告がありました。
「最近見たドラマについて」では、ひとりで2つの番組を報告したモニターがおり、全部で32番組について報告がありました。
複数のモニターが取り上げたドラマあり、『今日から俺は!!』(日本テレビ)を6人、『中学聖日記』(TBSテレビ)を5人、『フェイクニュース』(NHK総合)を3人、『ドロ刑-警視庁捜査三課-』(日本テレビ)、『獣になれない私たち』(日本テレビ)、『SUITS/スーツ』(フジテレビ)、『僕らは奇跡でできている』(関西テレビ)にそれぞれ2人ずつから報告がありました。
『中学聖日記』や『今日から俺は!!』などは、これまでに批判的な視聴者意見が寄せられることもありましたが、「よくある恋愛ドラマとは違い先生と生徒の恋愛なのでハラハラドキドキしてみている。周りの友達もたくさん見ているので、次の日はその話で盛り上がる」「中学生ならではのもどかしさや、反抗期の親への思い、友人関係など同世代が共感できる内容で心情描写が上手でおもしろい」「批判も多いようだが、このドラマを見ているとどんなに完璧に見えてもそれぞれ問題を抱えながら懸命に生きているという当たり前のことに気付かされる」(『中学聖日記』)や「俳優たちは脚本にとらわれない自由な演技をしている」「難しいことを考えずに、見ているだけで面白い」(『今日から俺は!!』)など、モニターからの意見はどれも好意的で、10代ならではの感性と視点で視聴されている様子がうかがえます。
「自由記述」などで、BPOが報告書を求めたことが報じられた『世界の果てまでイッテQ』(日本テレビ)について、7人のモニターが意見を述べています。「今回のことを問題だとは思わないが、視聴者の信頼を失うことのない番組作りをしてほしい」という番組への意見や「今回の疑惑を何度も取り上げている放送局があり違和感を抱いた。他局の疑惑を話題にして視聴率を稼ぐのは見ている側もいい気持ちはしない」という話題の報じ方への批判的な感想などがありました。
「青少年へのおすすめ番組」では、『ウワサの保護者会』(NHK Eテレ)を3人、『くりぃむしちゅーの!THE レジェンド』(日本テレビ)と『UTAGE!』(TBSテレビ)を2人のモニターが取り上げています。

◆委員の感想◆

  • 【最近見たドラマについて】

    • 『今日から俺は!!』(日本テレビ)についての感想が多かった。最近の若い子たちはヤンキーっぽいものが好きだという研究結果を見たが、あそこまで過激に表現すれば、子どもたちもギャグとして受け止め楽しんでいるのだとわかった。

    • 『今日から俺は!!』(日本テレビ)「俳優たちは脚本にとらわれない自由な演技をしている」と評価しているモニターがいる。完璧に作りこまれたドラマよりも自由に作られていることに新しさを感じているのかもしれない。

    • 『中学聖日記』(TBSテレビ)「よくある恋愛ドラマとは違い先生と生徒の恋愛なのでハラハラドキドキしてみている。周りの友達もたくさん見ているので、次の日はその話で盛り上がる」との報告があった。テレビを見て、次の日学校で盛り上がるような光景は最近なくなっていると言われていたが、こういうことが今でもあるということを、制作者の側にも伝えたい。

    • 『中学聖日記』(TBSテレビ)「中学生ならではのもどかしさや、反抗期の親の思い、友人関係など」同世代ということで共感できるようなところがあるのかなと思った。やはり大人の見方と違うのかなと感じた。

    • 『僕らは奇跡でできている』(関西テレビ)は、わりと大人向きのドラマだと思っていたが、10代の彼らも、意図をよく読み取って見ていることがわかる。中学生にも支持されているところがおもしろい。

    • 『獣になれない私たち』(日本テレビ)は、中学生には難しいドラマだと勝手に思っていたが、これをおもしろいと感じ、かなり深く読み取れるというのは、今の中学生の子たちのメディアリテラシーの高さがうかがえると思う。

    • 今月は録画視聴をしたという報告が多かった。やはりドラマをしっかり見ようと思うときには録画をして視聴するのだと感じた。反対に言うとリアルタイムでの視聴は、親と一緒に見るなどの特徴があるのかなとも思った。

  • 【自由記述について】

    • 「バラエティー番組などでCMに入る前に、意外な展開が!?と言っているけど、CM後そんなに大したことはないことが多い」という、いわゆるあおりについての意見がある。同様の意見はたびたびあるが、私もこのあおりは何とかしてほしいと思っている。あおりを楽しみにして、結局裏切られると、「今度はだまされないぞ」と視聴者は思ってしまいかえって逆効果なのではないだろうか。

    • 「LGBTがドラマなどで描かれることが多くなり、多様な性を認める社会の実現にむけてテレビが役割をしっかり果たしている」という意見があった。最近は、中学高校でも、学校教育の中で性的少数者を扱うことが多いらしく、性の多様性への着目は、今の中高生の視点だと言えるのかもしれない。

◆モニターからの報告◆

  • 【最近見たドラマについて】

    • 『今日から俺は!!』(テレビ新潟/日本テレビ)ギャグ要素が強いドラマなので、難しく考えることもなく、ただ見ているだけで笑ってしまいます。(新潟・中学1年・女子)

    • 『僕らは奇跡でできている』(新潟総合テレビ/関西テレビ)主人公が人とは違う考えで、違うことを思っている。現代人は自分の好きなことだけをして生きていけないと思っているが、主人公のような生き方もできるんだと気づかせてくれるとてもよいドラマだと思う。(新潟・中学2年・男子)

    • 『僕らは奇跡でできている』(テレビ長崎/関西テレビ)家族で楽しめるドラマです。この番組をきっかけに自分の興味を深めようとする人が増えていくのではないかと思います。(長崎・中学3年・女子)

    • 『中学聖日記』(TBSテレビ)よくある恋愛ドラマとは違い先生と生徒の恋愛なのでハラハラドキドキしてみています。周りの友達もたくさん見ているので、次の日はその話で盛り上がります。主人公を演じる岡田くんの表情やしぐさの演技が上手だなと感心します。(東京・中学3年・女子)

    • 『今日から俺は!!』(日本テレビ)監督は福田雄一さんで、始まる前から面白い予感はありましたが、案の定、面白いです。腹を抱えて笑いました。俳優たちは脚本にとらわれない自由な演技をしています。これからも"福田組"から目が離せない。(東京・中学3年・男子)

    • 『中学聖日記』(TBSテレビ)男子中学生の中学生ならではのもどかしさや、反抗期の親への思い、友人関係など、同世代の私からも共感できるような内容であり、心情描写が上手でおもしろいと感じていた。さらに印象的だったのはLGBTの人物が登場してくること。ドラマ内では主人公の婚約者の上司役であるが、大企業の立場ある人間との設定でLGBTの人物が登場してくることは、多様な性を容認する社会の実現のために、テレビが良い役割をしていると感じた。(神奈川・中学3年・男子)

    • 『中学聖日記』(TBSテレビ)教師と生徒の許されない恋の物語で、とても興味を惹かれました。世の中の人は、こういう恋や不倫を、自分には関係ないと思って、報道された人たちを傷つける言葉をSNSにのせたりもしますが、本当に他人事だろうかと思わされます。そして、無関係な人たちが介入するのはおかしいと思います。「このような恋愛を肯定しているからそう考える」わけではないですが、よく思っています。(宮崎・高校1年・女子)

    • 『フェイクニュース』(NHK総合)複数のことがストーリーの展開とともに次第に結びつき、真相が明らかになっていくという構成が、緊張感もあり、面白かった。メディアから発信される情報を鵜呑みにするのではなく、正しい情報とは何か、目の前の情報が誤りではないか、受け取る側の私たちもしっかり意識しなくてはならないと感じる。(兵庫・高校1年・男子)

    • 『中学聖日記』(TBSテレビ)センセーショナルな内容で、SNSなどでは批判も多いですが、私は毎回楽しみにして見ています。このドラマを見ていると、どんなに完璧に見えても、大人も子どももいろんな問題をそれぞれ抱えながら懸命に生きているのだという当たり前のことに気づかされます。周りの素晴らしい尊敬できる人を見ていると、自分の嫌なところばかりに目が行ってしまいますが、そのようなところも受け入れて、頑張ろう、そう思えるような活力を与えてくれます。また、登場人物のそのような懸命な葛藤、一生懸命さが愛おしいとも思えます。(福井・高校1年・女子)

    • 『今日から俺は!!』(日本テレビ)1980年代をテーマにしていて、私たち10代には新鮮で面白いです。母とみていて話題になったのは暴力シーンについてです。今のドラマには珍しい大量の流血に驚きました。私はこのドラマの流血シーンはありだと思うのですが、コンプライアンスが厳しい世の中で良い悪いの基準がわからないなと思いました。(東京・高校3年・女子)

    • 『ドロ刑-警視庁捜査三課-』(日本テレビ)特別理解するのが難しいシーンや暴力的なシーンもなく、土曜日の夜にゆっくり見るには適したドラマだなと思った。終わって歯磨いて11時半に寝たくなる感じのドラマ。そして最後にはしっかり感動のオチがあり、絶妙なタイミングでエンディング曲が流れて終わる。このまとめ方がうまいのなんの…。ホームランを打つわけでもなく三球三振するわけでもなく、しっかりと一塁打を打ち続けるもはや職人芸のような土曜10時枠の安定感。(東京・高校3年・男子)

  • 【自由記述】

    • バラエティー番組などで、CMに入る前に「意外な展開が!?」とか言ってるけど、CM後、たいしたことはないってことが多いです。(兵庫・中学2年・男子)

    • 民放では、芸能人だけでなく、テレビ局のアナウンサーやキャスターまでもが、番組の中でお互いのことを「ちゃん」付けで呼んでいるのを時々目にします。母から「あれは放送業界の習慣だ」と聞きましたが、視聴者から見ると、アナウンサーやキャスターが幼稚に見えてみっともなく、不快です。(福岡・中学3年・女子)

    • 最近はLGBTなどがドラマなどで描かれることが多くなったような気がする。いわゆるおねえと呼ばれるトランスジェンダーの人がバラエティーに出ることは多かったが、レズやゲイ、バイセクシャルについてもテレビで取り上げられることは、多様な性を認める社会の実現のための印象的なことのひとつに感じ、テレビが持つ役割をしっかりと果たしているように思えた。(神奈川・中学3年・男子)

    • 『世界の果てまでイッテQ』の祭り企画のやらせ疑惑が報道されたことについて、ある放送局が何度も取り上げていて疑問を抱きました。他局の疑惑を話題にして視聴率を稼ぐのは見ている側もいい気持ちはしないです。(山梨・高校2年・女子)

    • 今話題の『世界の果てまでイッテQ』の問題について、私は別に良いと思ってしまいました。番組では、お祭り自体よりも、タレントがどれだけ面白く頑張るかがクローズアップされていたので、私は今回の問題もあまり気にしていません。

  • 【青少年へのおすすめ番組】

    • 『スポーツ ザ・チーム 勝ち負けの向こう側』(BS11)相撲部の女性主将という異色な女子大生の、部の存続や大会へのチャレンジ精神に勇気をもらった。この相撲部を応援したくなった。この気持ちをもっと誰かと共有したい。(福岡・中学2年・男子)

    • 『ウワサの保護者会 発達障害かも…どうすれば?』(NHK Eテレ)私の通っていた中学には、発達障害の人たちのクラスがあったので、他の人たちよりは発達障害について考えているほうだと思っていたが、その考えはまだまだ浅かったと痛感した。この番組を見て、クラスメートが自分自身で「吃音」をカミングアウトしていたことを思い出した。これからは多様性の時代。障害が「個性」ととらえられるのはいつになるのだろうか。(愛知・高校1年・男子)

    • 『ウワサの保護者会』(NHK Eテレ)子どもの教育や発達に興味があるので見ています。この番組の良いところは、ただ延々と専門家の話を聞くだけではなく、様々な子どもの実際の様子を放送し、それに対して尾木ママと保護者が話し合うという、子どもに寄り添った番組だと思います。(北海道・高校2年・女子)

調査研究について

11月、京都市で開催された日本子ども学会で、菅原ますみ委員が、2017年度『青少年のメディア利用に関する調査』についてポスター発表したことが報告されました。また、菅原委員が作成した報告書について委員会として最終確認をしました。

今後の予定について

  • 11月19日、盛岡市で開催された岩手地区の放送局との意見交換会について、当日地元局で放送されたニュースを視聴した上、参加委員から感想が出され、総括しました。

以上

2018年11月に視聴者から寄せられた意見

2018年11月に視聴者から寄せられた意見

週刊誌記事が発端となった、人気バラエティー番組の海外ロケ部分における”ねつ造疑惑”に関する意見など。

2018年11月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,331件で、先月と比較して29件増加した。
意見のアクセス方法の割合は、メール78%、電話21%、郵便0.8%、FAX 0.2%。
男女別は男性61%、女性38%、不明1%で、世代別では30歳代27%、40歳代27%、50歳代20%、20歳代15%、60歳以上7%、10歳代4%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該放送局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。11月の通知数は延べ780件【40局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、24件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

週刊誌記事が発端となった、人気バラエティー番組の海外ロケ部分における”ねつ造疑惑”に関する意見が多く寄せられた。
ラジオに関する意見は45件、CMについては28件あった。

青少年に関する意見

11月中に青少年委員会に寄せられた意見は103件で、前月から35件減少した。
今月は「表現・演出」が43件、「いじめ・虐待」が11件、「低俗・モラル」が10件と続いた。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • ハロウィーン騒動のニュースで、暴れている若者の顔にモザイクを入れているが、その必要があるのだろうか。特に、軽自動車を横転させ、その上で踊っている映像は、明らかな犯罪行為だ。被害者は警察に届けを出している。モザイクなしで公開すべきだと思う。

  • お金を下ろすためにコンビニを探し、国道を走行していた。信号の手前で右折して駐車場に入ったが、探していたコンビニチェーンと違い、そのまま近くの小道を通り国道に戻ろうとしたら、突然男性がこちらに向かって来た。何ごとかと車を止めて窓を開けたところ、「今、ショートカットしましたよね?」といきなり言われ、勝手に撮影された。テレビ局名、番組名は知らされなかった。不法侵入者扱いされたが、コンビニに寄った経緯を説明し、一旦帰宅した。しかし、納得できなかったため元の場所に引き返し、詳しく説明を求め、その場で映像を消去してもらった。翌朝、マナー違反運転を特集したコーナーで、取材内容を放送していた。もし、引き返していなかったら、私の映像もそのまま放送されていたかもしれない。このような取材の仕方に抗議したい。

【番組全般・その他】

  • 9時からの連続ドラマを楽しみにしていた。この日は、プロ野球・日本シリーズが放送されており、画面には「9時20分まで延長」とテロップが出ていた。仕方なく待ってチャンネルを合わせると、今度は「9時30分まで」となっていて、次は「34分、45分…」と小刻みに延びていった。いったいどうなっているのかと思いながらも待っていたのだが、当日夜放送予定のドラマは翌週放送になり、野球中継は11時過ぎまで続いていた。放送延長や番組休止に関して、もう少し早めの判断があってもよかったのではないか。

  • いじめに関して、専門家を交えて討論していた。いじめの根幹にあるものは、自分と異なるものを排除するという感情だろう。だが、歳を重ねて経験を積んでいくと、世の中には自分と異なる考えや習慣があり、その多様性によって社会が成り立っているものだと気づく。番組での専門家の主張は、真っ当な意見だと感じたが、司会者は見解が異なるようで、話を遮ったり非難したりしていた。自分の意見を押しつける司会者、それに同調し顔色をうかがう共演者たち。この番組を見て、「なぜいじめがなくならないのか」分かったような気がした。

  • 海外の祭り企画について。一部には「昔からやらせはあった。バラエティー番組なのだから視聴者がもっと寛容になるべきでは…」などという意見もあるが、体罰やセクハラなど、時代とともに意識改革が求められている昨今、そうした変化に一番敏感に反応すべきテレビ関係者が、旧態依然のまま、視聴者を欺き続けているのは問題だと思う。バラエティーとして笑いの要素は必要としても、取材の申請手続きや放送前の事前準備がいい加減であっていいとは思わない。これからオリンピックを控える日本は、海外の国や人、文化に敬意を払うことを心掛けるべきだと思う。

  • 私の家には幼稚園児がいる。やらせ疑惑について厳しい意見もあるかと思うが、毎週日曜、子どもと一緒にこの番組を楽しみにしている。子どもは番組のおかげで虫がさわれるようになり、生き物が好きになった。国の名前や国旗もよく覚えていて感心している。人気番組だけに、週刊誌から狙われ、他局が煽っているのだと思う。疑惑に関して決定的な証拠があった場合、海外の祭りなどのコーナーを続けることは難しいと思うが、番組終了は避けてほしいと願っている。

  • 芸人コンビと医師が、看護学校でいろいろと考えていく内容だったが、とても勉強になった。実習のコーナーでは、視聴者の自分も研修に参加しているような気分になった。患者の気持ちにどう接すればいいのか、災害時の心のケア、人の死との向き合い方など、看護を学ぶ熱心な学生との会話には感動した。ユニークな番組だが、その中にも優しい気持ちが伝わってきて、見ていて涙が出てきた。今後も社会の役に立つ番組を制作してほしい。

【ラジオ】

  • 10年以上ラジオで外国語講座を聞いているが、講師は大学教授がほとんどである。彼らは学問としての研究者で、論文を書き、長年若い学生向けに教えている。彼らには、教え方の工夫は感じるが、我々学習者にはやりにくい。一方、今回の講師は、主に一般人相手に外国語を教えている女性で、大変実践的で無駄が無く感心させられる。15分という時間を有効に使える良い例だと思う。

  • FM局の夜10時台の番組に、アイドルが出演していた。リスナーの悩みに友達のように寄り添い、自身の経験を基に問題を解決したり、一緒にセッションをしたりと素晴らしい対応だった。こうした10代、若者の悩みをしっかりと聞いてくれるラジオ番組がもっと増えてくれればと思っている。

青少年に関する意見

【「報道・情報」に関する意見】

  • 子どもが見ている時間帯の情報番組で、衝撃的なパワハラ暴行映像が増えている。社長が社員を殴る映像や鍋に顔を押し込むシーンなど見るに堪えない。せめて衝撃映像を流す前に告知してからでないと子どもの心に悪影響だ。

  • 報道番組で事件、事故取材の際に子どもへのインタビューをしている内容がよく流れる。痛ましい事件、事故後に共に過ごしてきた子どもへの配慮もなく、心への影響を考えず非常識で不躾な取材は報道機関としての姿なのか疑問だ。

【「動物」に関する意見】

  • ケーキが入っているように見せかけた箱の中に何匹ものネズミを入れたドッキリ番組で、ふたを開けて驚いた人がふたを離したためネズミが潰されてもがいていたり、箱の中に何段も重なってネズミが入れられていた。子どもはネズミがかわいそうだと泣いていた。子どもも見るバラエティー番組で動物虐待ともとれる構成に安心して見せることができない。

第263回放送と人権等権利に関する委員会

第263回 – 2018年11月

「芸能ニュースに対する申立て」事案のヒアリングと審理など

議事の詳細

日時
2018年11月20日(火)午後3時~8時5分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、白波瀬委員、二関委員、廣田委員、水野委員

1.「芸能ニュースに対する申立て」事案

対象の番組は、2017年12月29日に放送されたTBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター超豪華!芸能ニュースランキング2017決定版』。番組の中ほどで、「14位 俳優・細川茂樹 事務所と契約トラブル」とナレーションがあり、「昨年末、所属事務所から『パワハラ』を理由に契約解除を告げられた細川茂樹さん。今年5月、『契約終了』という形で、表舞台から姿を消した。」と伝えた。
この放送について細川氏は、事務所からパワハラを理由に契約解除されたことをわざわざ強調して取り上げているが、東京地裁の仮処分決定で事務所側の主張に理由がないことが明白になっており、申立人の名誉・信用を侵害する悪質な狙いがあったと言わざるを得ないと主張し、謝罪と名誉回復措置を求めて申し立てた。これに対してTBSテレビは、意図的に申立人を貶めた事実は全くないとする一方、放送に「言葉足らずであって、誤解を与えかねない部分があった」として、申立人におわびするとともに、ホームページあるいは放送を通じて視聴者に説明することを提案し、できる限りの対応をしようとしてきたとしている。
今月の委員会では、申立人とTBSテレビにヒアリングを実施した。
申立人側は細川茂樹氏本人と代理人弁護士2人が出席し、「この問題を取り上げたいくつかの局のワイドショーは、正しい裏付け取材もせずに契約解除の理由をでっち上げた内容を放送したため、謝罪コメントを番組ホームページに出してもらったが、本件放送はある局の謝罪コメントが出された10日後に放送された。TBSテレビは裏付け取材をしておきながら、申立人が契約書の条項にしたがって契約期間満了を理由に契約関係を終了したのに、裁判所で否定された前事務所側の契約解除通知を事実と称して報道した。この悪質性に鑑み、他局が行った謝罪レベルのコメントでなく、どうしてあの時期に、あのような放送を行ったのか、踏み込んだ謝罪と反省を求めたが、為されなかった。話し合いや書面でも、故意、意図的な放送ではないとする客観的証拠は示されなかった。放送の影響による被害はインターネットでまだ拡散しており、申立人の社会的地位を奪い、裁判所決定を否定した放送の責任は重い」等と述べた。
TBSテレビからは番組の責任者ら3人が出席し、「申立人の件は年末時点では視聴者の関心も薄れていると予想したが、2017年は他のタレントのトラブルも話題になっていたので、申立人の件を導入部として『タレントと事務所とのトラブル』という括りで伝えることにした。導入部という限られた時間の中で『細川さんは事務所側からパワハラを理由に契約解除を突き付けられ、これを認めずにトラブルになったけれども、別の形で契約終了の道を選び、芸能界の一線から退くことになった』ということを、どう分かりやすく伝えるか腐心した。放送時点では表現に問題はないと考えたが、申立てを受けて再検討すると、『細川さんが事務所の主張を認めていない』という点が明確でなく、視聴者の誤解を招きかねない表現だったと反省し、申立人に大変なご心痛をおかけしたことは本当に申し訳ないと思っている。ただ、『判断ガイド2018』に記載されているような『誰の目にも明らかな権利侵害』に当たるとは考えていない」等と述べた。

ヒアリング終了後、本件事案の論点を踏まえて審理を続け、その結果、担当委員が決定文の起草に入ることになった。

2.「命のビザ出生地特集に対する申立て」事案 決定の通知・公表の報告

本件事案の委員会決定(見解:要望あり)の通知・公表が11月7日に行われた。事務局がその概要を報告し、当該局のCBCテレビが放送した決定を伝えるニュース番組の同録DVDを視聴した。

3. その他

  • 次回委員会は12月18日に開かれる。

以上