2024年1月31日

福岡・大分の放送局と意見交換

放送人権委員会の「福岡・大分意見交換会」が2024年1月31日に福岡市で開催された。2県の合同開催となったのは、2020年3月に大分市で開催予定だった意見交換会が直前に大分県内でコロナ患者が確認され急遽中止となり、今回の福岡開催に併せて大分の各局にも参加を呼び掛けたためである。福岡での開催は8年ぶりで、委員会から曽我部真裕委員長をはじめ9人の委員全員に加え、大日向雅美理事長と渡辺昌己専務理事が参加した。出席したラジオ、テレビ局は福岡が9局、大分が5局で計14局、人数は45人にのぼり、3時間を超える意見交換が行われた。

●大日向理事長「ジャニーズ問題、なぜ、理事長見解を出したのか」

会議の冒頭あいさつに立ったBPOの大日向理事長はジャニーズ問題に触れて「黒子役である理事長、事務局がなぜ見解を出したか。それは、この問題が、一芸能事務所や放送界だけの問題ではなく日本の社会・文化をどういう方向に持っていくかの試金石だと思ったからだ」とした上で「放送局とBPOが忌憚のない意見交換を行って、新しい日本社会の文化の向上に寄与していきたい」と語った。

●曽我部委員長「BPOは、放送局の規制機関ではない」

続いてあいさつした曽我部委員長は「ネットの存在感が大きくなっても、公共の電波を預かる放送局は特別の使命を持っている。偽情報のあふれる中で、信頼性のある情報を届ける使命だ」と述べました。さらに「こうした使命を果たすために重要なのは、放送局の意識や努力だ。BPOは放送局の規制機関ではない。放送局の自主自律的な努力をサポートする組織だと認識している」と語った。

意見交換会は三部構成で行われた。
第一部は委員会決定第78号「ペットサロン経営者からの申立て」を取り上げ、論点を「直接取材」に絞って議論を進めた。第二部は「コロナ禍の取材、共有と教訓」、第三部は「災害報道と人権」をテーマに意見交換を行った。

<第一部 第78号「ペットサロン経営者からの申立て」>

「直接取材なしでもOA可能なケース」だったのか?

第78号「ペットサロン経営者からの申立て」に関して

申立ての対象は、日本テレビが2021年1月28日に放送した情報番組『スッキリ』で、同月12日に北九州市内のペットサロンでシェパード犬がシャンプーを受けた後に死亡した件を取り上げ、「愛犬急死“押さえつけシャンプー”ペットサロン従業員ら証言」「愛犬急死 経営者“虐待”シャンプー?」などと、サイドスーパーを出しながら放送した。これに対してペットサロンの経営者である申立人が、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として申立てを行った。

この決定の最大のポイントは「当事者への直接取材」である。日本テレビ『スッキリ』は関係者の証言を軸にペットサロン経営者を追及したが、経営者本人への直接取材はなされないままであった。決定文では「放送倫理上の問題があるとまではいえない」と結論付けたが「直接取材の重要性をあらためて認識」するよう要望が加えられた。
決定文には、直接取材が免除されうる例外ケースについての記述があり(下記カッコ内参照)、事前のアンケートではこの部分の読み取り方に多くの質問が寄せられていた。
本編VTRの短縮版(日本テレビ作成)の上映に続いて、決定文の起草を担当した野村委員が解説を行った。野村委員は「申立人への直接取材がないまま放送したことの是非に絞って議論したい」とした上で以下のように解説した。

<野村委員>

●例外が許されないとは言えない

前提として、真実性・相当性の議論の中でどのような取材をしていたのかが直接取材の要否に関わってくる。日本テレビが行った取材を踏まえると、決定では「放送で示された各事実があると日本テレビが信じたことについて、少なくとも相当の理由があった」という表現で、結論としては名誉権の侵害を否定した。
そして、放送倫理上の問題、「重大な問題点を指摘する放送内容でありながら、申立人への直接取材をせずに放送に至ったことに問題はないのか」という論点が今日の本題となる。
この点について本決定では、総論として「取材・放送に当たっては、対象となる人物に番組意図を明らかにしてその弁明を聞くことが原則であるが、例外が許されないものとは言えない」としている。そのうえで、例外についてこう記している。

<人権委員会決定第78号16P11行目~>
例えば、真摯な申入れをしたが接触できない、応じてもらえない場合、適切な代替措置が講じられた場合(当事者が当該対象事実について公表したプレスリリース等の掲載や、その他の方法による本人主張・反論の十分な紹介)、緊急性がある場合、本人に対する取材が実現せずとも確度の高い取材ができている場合などは、これら内容を含めた諸事情を総合考慮して、本人取材を不要とする余地があると解される

●例外ケースの記述は限定列挙ではない

このように要素をいくつか挙げた上で、限定した列挙ではないことを示す「など」を付けた。これら以外にも考慮すべき事情がある場合もあるだろう。そして「総合考慮」としているので、列挙したうちのどれかを一つを満たせば良いという意味ではないし、逆に全てを満たさなければいけないという意味でもない。

●取材の経緯が重要になる

担当ディレクターは1月26日にSNS投稿を見て事案を把握し、その日のうちに飼い主を取材し、飼い主が聴き取った学生2名の音声テープを入手した。翌27日にペットサロン店長を取材し、さらに申立人本人への取材も専門学校へ申し入れたが、不在で連絡が取れないという回答を受けたので、折返しの連絡を依頼した。しかし、放送までに折返しの連絡はなく、別途、27日の午後に、申立人の携帯電話にも2回電話したが出なかった。そうした中、27日深夜から28日未明にかけて、専門学校のホームページに謝罪コメントが掲載された。日本テレビは、以上の状況のもと、申立人が「取材を拒否した」と判断し、また、ホームページの謝罪コメントを放送することで、申立人への直接取材はしなくても放送に問題はないと判断した。26日にSNSを見てから28日の朝に放送と、ごく短期間のうちに放送に至った事案で、決定では、申立人が取材に応じる意思がないと客観的に判断できる状況には至っていなかったと整理した。

●5つの判断要素で「総合考慮」

①民事紛争の対立当事者である飼い主の言い分がベース
②直接取材の申し入れ+本人に2度電話をかけた
③ペットサロン店長、従業員、学生2名に取材済+音声データ。詳細で迫真的な告白を含む確度の高い取材
④謝罪コメントの全文紹介には一定の意義あり。ただし、直接取材を全面的に代替とまでは評価できず
⑤「『しつけ』のための事故死」との申立人の主張も紹介
 これらの事情を総合考慮すると、本件において申立人に対する直接取材が実現しなかったことをもって、放送倫理上の問題があるとまでは言えない、というのが委員会決定となった。そのうえで、本事案が、直接取材を実現すべくもう一歩の努力がなされることが望ましい事案であったことを踏まえて、委員会は日本テレビに対し、対象者に対する直接取材の重要性を改めて認識して今後の番組制作に当たることを要望するとした。

少数意見「本件は例外に該当しない」

続いて少数意見を書いた3人の委員を代表して二関委員長代行が概要を説明した。

<二関委員長代行>

●どんな人物に描いたかも判断要素

少数意見は「本件は放送倫理上の問題がある」と考えた。
本人取材(=直接取材)の原則に対して例外があるという枠組み自体には反対していないが、「本件はその例外に該当しない」というのが少数意見の立場だ。例外に該当するかを考える際には、<本人をどのように描いたか>という点も考慮すべきだ。こんなに悪い人物だという内容で社会的評価を下げる程度が強いほどそれに応じて本人取材の要請は強くなる。ペットがぐったりして本来心配すべきような場面で「やっと諦めたか。観念したか」と申立人が言ったと番組は伝えている。スタジオシーンでは「こういったペットサロンが世に存在してはいけないんだ」、「事故じゃなくて事件でしょ」とする指摘があった。さらに刑法犯たる動物愛護法の適用可能性にも触れている。ペットのしつけに関する申立人の信念についても公正に紹介しているとは言えない。19分間にわたって申立人を一方的に批判する番組になっている。

●従業員は「虚偽供述の動機」を有していた可能性も

対立当事者間の争いを報じる際には、双方から話を聞くというのがBPOの以前からの判断だ。今回のように、本人取材を省略したうえで、もう片方からの取材結果に確度があると言ってしまって良いか?現場にいた従業員は、犬が死んだのは自分たちのせいではないと言いたい動機、「虚偽供述の動機」を有していた可能性もある。
さらに情報源の問題を指摘しておきたい。複数の取材をしているが、飼い主側、あるいはその紹介の従業員ルートでたどった人だけが取材対象であり、一つの情報源から派生した取材先だけとなっている。

●HPに「事実と異なるコメント拡散」 なぜそこを取材しないのか

ホームページの謝罪コメントは取材に対応して出したものでなく、申立人によると、たまたまその日に弁護士と相談したタイミングで載せただけという。さらにコメントの内容に「事実と異なる内容が一部のSNSで拡散されて(いる)」という言い回しもあって、申立人に事実関係で異なる言い分があることが分かる。そのコメントを見たら、いかなる言い分かを具体的に取材するのが基本ではないか。

<質問>例外項目の記述をどう理解すれば?

続いて参加者からの質問を受け付けた。

<参加者>
直接取材がマストと分かっていても、本人に接触できないケースで放送するか悩む場合もある。そうした時の指標になるかもしれないという意味で、<代替措置><緊急性><確度の高い取材>と、いくつか例外ケースを例示してもらって非常に参考になった。直接取材が免じられる例外項目を記述した意図は?

●明確な例外基準を示したのではない。判断の要素を示した

<曽我部委員長>
あくまで事案に即した判断になる。本決定文の書きぶりも、判断要素について「例えば」と付いている。事前の質問でも「ここに挙がっている要素のどれかがあればOKなのか?」という質問もあったが、そうではない。明確な基準を示したというよりは、今回の事案と関わるような判断の要素を示して、それを総合的に判断したのが今回の決定だ。

●1件1件について、向き合って、考えるしかない

<野村委員>
皆さんに「ここをこうすれば大丈夫です」と言えると安心すると思うが、やはりそれはできない。1件1件について一生懸命考えるしかない。直接取材が実現していない段階で放送する場合には、そのハードルに向き合って、これを乗り越えられるケースであると必ず判断してから放送しないと、こうした申立て事案となってしまう。

●「これさえあれば大丈夫」と思ってはいけない

<二関委員長代行>
多数意見は、「どのようなケースが例外か」に一切触れないと手がかりがないので、「例えば」と例外項目をいくつか挙げたのだと思う。ただし、それが独り歩きして「これさえあれば大丈夫」と思ってはいけない。例外にあたるかどうかの考え方として「自分が似たようなことをされたらどうか?」を考えることが大事。テレビ業界に長くいると放送される側の気持ちから乖離してしまうことがあるのではないか

<質問>HP全文紹介は直接取材に相当しないのか?

例外ケースの「代替措置」で、HP紹介について質問が出た。

<参加者>
他局に先行される前に放送したいとなったときに、公式のホームページの文言を全文出すということで直接取材に代えることはできないのか?

●番組内容に対応しない、一方通行のコメントだった

<野村委員>
もしも、番組内容に対応して、公式ホームページで取材対象者の考えが全面的に表現されていれば、直接取材に代替しうる場合もあるかもしれない。しかし、本件の放送番組は、①申立人が犬を虐待死させたとの内容に加え、②犬のしつけに関する申立人の日頃からの考え・ポリシーに対する批判に当たる内容も含んでいるところ、ホームページに出たコメントは、①の虐待死と言われた部分に対する申立人のコメントが一方通行で載っているだけであって、②の部分には対応していない。そのため、番組全体に対する申立人のコメントとしては十分ではなく、直接取材に代えることはできないという考え方だ。

●取材意図を明らかにしていない

<二関委員長代行>
取材意図を明らかにしたうえで取材するのが原則だ。ウエブに出ているコメントは、そういったプロセスなしに出ているものなので、直接取材に代わるものではない。

<第二部 コロナ禍取材の問題点 共有と教訓>

コロナ禍、各局の苦悩

第二部は「コロナ禍の取材、共有と教訓」と題して、様々な制約を課されたコロナ禍での取材の問題点を共有して将来につなげようという視点で議論された。前半部分は、アンケートで各局が答えた内容を司会が読み上げ、回答局が説明するスタイルで進んだ。

▲「夜討ち朝駆け自粛で新人記者育成に苦慮」

<参加者>
器用な若手記者はオンライン等の新しい取材ツールを利用していた。夜回り取材を最初の段階で教えてあげられなかったことがどう影響していくのか?将来どういう記者に育っているのか見ていく必要がある。

▲「代表取材」「素材共有」が一気に進んだ

<参加者>
会見等の取材現場が密にならないように安全配慮する必要に迫られ、さらに取材相手からも「代表取材でお願いします」というケースが増えた。各局が同じ取材をするところは代表カメラとなり、5類に下がった現在も、競う必要がない取材は同じ映像で構わないと割り切っている。他局と違いを出したいところに力を入れるという流れだ。

この報告を受けて、曽我部委員長と鈴木委員長代行が次のようにコメントした。

●これからのキーワードは「競争と協調」

<曽我部委員長>
代表取材等が増えたのは直接的にはコロナがきっかけだが、社会の変化や生活様式の変化といった大きなトレンドがコロナ禍で一気に動いたという印象を受けている。夜討ち朝駆けなど「これが取材の王道」とずっと続けてきたが、コロナ禍はそれを立ち止まって考え直すきっかけとなったとも捉えられる。
総務省など放送関係の会議で出てくるキーワードに「競争領域と協調領域」というものがある。何でも競争するのではなく、協力できるところは協力して、それによって余裕が出た部分を独自の取材に充てるというメリハリが今後大事になってくる。

●状況が大変でも、一番大事なところは掴める

<鈴木委員長代行>
「ここは(他局と)違いを出さなきゃ」と皆さんが思われるところがあるはずなので、そこに力を入れていけば、人出不足など大変な状況の中でも、一番大事なところをちゃんと掴んでいける。

ラジオ局の苦悩も報告された。

▲「65歳以上と妊婦はスタジオ入り禁止」もラジオ出演者は高齢者多くて・・
▲ミュージシャン関係者のスタジオ入りも規制したが「大物」は例外となって・・

<参加者>
ラジオはテレビと比べてスタジオが小さく密になりやすいのでいろいろな制限を行った。レギュラーの65歳以上の方もリモート出演にしたり、マイクを引っ張って別室出演にしたりした。アイドルグループが来ればスタジオ入りは代表1人だけ、お付きの人もプロモーター1人だけと制限していたが、映画のキャンペーンで主役の方が来た時には、マネージャー、映画会社の方、スタイリスト等々がぞろぞろ入られて制止できなかった。

リモート取材については「効率的だ」と評価する意見が多かったが、以下のような「現場重視」の声もあった。

▲リモート取材は効率的だが、感染対策を安易な盾にせず、現場に足を運び続ける。
▲現場に足を運ぶことが真実性の見極めになる

<参加者>
直接足を運んで、その人がいる生活環境に触れることで得られる情報もある。フェイク画像等があふれる中で、真実性を見極めるためには現場に足を運ぶことは大事な要素だ。

後半は、コロナ禍当時に参加者が疑問に思ったことを報告し委員が意見を述べる形で進行した。

「同調圧力」…我々はちゃんと「ノー」と言えるのだろうか?

<参加者>
マスクにしてもワクチンにしても、科学的に何かしら解明ができている訳ではないが、最大公約数的に打った方がいいであろうと我々も報道してきた。「ワクチンを打ちたくない」という方もいたが、打っていないといろんなところに支障が出てくる。政府が言ったことを国民に伝えていくところの怖さ。戦前にあれだけ「報道機関は右に倣え」だったと言われているのに、このあと我々はちゃんと「ノー」と言えるのだろうか? 他が何と言おうと「これはこうだ」と言えるのか一抹の不安を感じた。

<松田委員>
皆さんはどこでそういう同調圧力を感じたのか知りたい。視聴者の側はテレビを見て「ああ、こんなことが求められているんだ」と感じる。皆さんは、一体どこでそういう雰囲気を察知して何を番組に落とし込んだのか?

<参加者>
私が迷ったのは「コロナが落ち着いた後でもマスクを着けてリポートさせるべきなのか?」という点。状況としてはそんなに密集しておらず、他者との距離も保てている。普通ならマスクは不要と判断するところだが、SNSでクレームが付いたらどう転がっていくか分からないので、まだ形にすらなっていない視聴者感情に判断を左右されたことが多々あった。

●少数意見も紹介して同調圧力を助長しない心掛けを

<曽我部委員長>
日本社会に同調圧力があること自体は、放送局にはどうしようもできないと思う。私が思うのは、1つは「放送局が同調圧力を助長していないか?」ということ。SNSで見つけた一部の意見を番組で取り上げることで本当に火がついてしまうようなことがあった。もう1つは「少数意見をきちんと伝えていく必要がある」ということ。ワクチンについても、打たない自由もあると、しっかり伝えていく。マスクについても、安全な場面では必ずしも着用しなくてもいいんじゃないかと。そういう意見を誰かに言わせることを意識的にやらないといけないと思う。放送法4条では「意見が対立している問題は、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」とある。ワクチンも意見が分かれているテーマなので、少数意見もしっかり伝えていく。そういう形で同調圧力を助長しないことを放送局として心掛けていく問題だ。
 SNS上の意見は非常に偏っていることがいろんな調査で明らかになっている。まず、そのことを認識することが大事だ。SNSで言われていることは一部の声に過ぎない。
放送局としては、SNSで指摘されたからといって忖度するのでなく、筋を通していくべきで、必要に応じて説明していけばサイレントマジョリティーは納得する。一時的には炎上しても基本的には理解してもらえる。

●少数派の偏った意見、メディアが扱うことで広がっていく

<松田委員>
メディアの皆さんはSNSをよく見ていると思うが、例えば40代、50代では半数以下しか利用していないし、多くは書き込まない。SNSに日常的によく書き込む人はすごく少数派だ。それをメディアが取り上げることで拡散していく。ツイッター改めXなどはいろんな素材や情報が転がっていて使いやすい部分があるとは思うが、偏っている。少数の人が書いたものをどういう形で扱うのか、メディアの皆さんが扱うことで広げてしまうことに関心を持ってほしい。

感染者のプライバシー、あそこまで報じる必要があったのか?

<参加者>
感染し始めた頃は、県や保健所が感染者の行動履歴を詳しく発表して、我々もその発表に基づいて放送していた。今となって考えれば、果たしてそこまで感染者のプライバシーを放送する必要があったのだろうか?

●この経験を風化させてはいけない

<曽我部委員長>
これは難しい問題だ。初期の頃はコロナがどんな病気か分からず恐怖感も強かったので、当時としてベストな報道がいかなるものかを考えるのが非常に難しかった。今からすれば、ちょっとやり過ぎだったんだろうと思うが、当時はやむを得ない部分もあったかもしれない。ただ、この経験は今後に活かしていくことが非常に大事なので、次に感染症が問題になった時には今回の反省も踏まえて考えていくことになる。メディアの方々はそれぞれ経験値を得たと思うので、風化させることなく、きちんと総括して次の機会の糧にしてほしい。

<事務局からの報告>

第三部に先立って、BPOに寄せられる苦情・意見を踏まえて植村統括調査役が参加局に注意喚起した。

●取材時の「映り込み」に注意

<植村統括調査役>
申立ての前段階としてBPOの人権相談に苦情が寄せられることがあるが、この1年半で3件ほど「映り込み」について苦情が来た。
▲「クマの出没で子どもたちが集団登下校」というニュースで自分の子どもの顔が映った
▲「新学期に登校してきた児童」という映像に自分の子供の服装が映った。特定できる
▲取材対象者の移動の様子を撮影したら、背後を自転車で通り過ぎる女性が映り込んだ。
3件とも共通しているのは「夫からのDVで居場所を知られたくない」というものだ。デジタル化が進んで画像の精度が上がったことに加えて、民生用の小型カメラでも撮影できるので、撮影していること自体分からないケースも増えている。今後もこうしたケースは十二分にあり得るので注意してほしい。

<第三部 災害報道と人権>

このテーマは2023年7月の九州北部豪雨で各局が災害特番を放送したことから設定したものだったが、2024年は元日に能登半島地震が発生し、意見交換会開催の1月31日まで連日災害報道が続くことになってしまった。
 災害報道という緊急性に紛れて気付かずに人権を侵害しているケースはないか、災害を報じる当事者として疑問に思うことはないかという角度から議論を進めた。

犠牲者氏名、なぜ非公表なのか?

まず、災害犠牲者名の非公表問題が取り上げられ、4人の委員がいずれも「公表すべき」という立場から意見を述べた。

<参加者>
犠牲者もそうだが、(九州北部豪雨の際に)大分県は安否不明者の氏名を「救助活動等に資する場合のみ公表する」とした。「救助活動に資する、とは何を指すのか?」というやりとりをしたが平行線のままだった。広く氏名が分かっていれば一般の方からの通報にもつながると思うが

●見たことのないおばけを怖がっている

<水野委員>
個人的には、災害であれ事件であれ名前を知りたい。京アニ事件での実名・匿名問題をゼミで議論すると、学生の8~9割は「遺族が望むなら」と匿名を支持する。しかし、「なぜそう思うのか?」と問い詰めていくと、あまり根拠がない。実名を公表することで実態以上に甚大なダメージを受けると過剰に恐れている節がある。見たことがないからこそ余計におばけを怖がるようなものだ。報道機関の方には、実名の意味・意義を踏まえて行政と対峙してほしい。

●民主主義の基本情報。踏ん張らなきゃいけないところだ

<廣田委員>
京アニの話が出たので、事件報道についてであるが、弁護士会の中で、犯罪被害者の支援をしている委員会からは「実名にする意味がない」という厳しい意見がある。実名が出た後の二次被害がひどい、特にインターネットでいろいろ書かれると消すことが難しいという。報道機関の方々には、なぜ実名にするのかをきちんと説明してほしい。内部では議論しているだろうが外に伝わってこない。
報道の現場の方々と話し、いろいろ考え、私の考えは変わっていった。私の個人的考えだが、今は、原則実名だ。ネットが発達して真偽不明の情報が出回るときに、訓練を受けた報道機関がきちんと裏を取って5W1Hを固有名詞を入れて報じて記録することは非常に重要になってきている。「面倒だからやめておこう」「実名を言わなければ言わないで済んでしまう」とやっていったら、後で何が何か分からなくなって事件の検証もできなくなる。5W1Hを正確に報じて記録したものは、民主主義の基本情報だ。踏ん張らなきゃいけないところだ。

●防災の手掛かりとなる情報は共有されるべき

<野村委員>
東日本大震災後、3年間、弁護士として石巻市役所に赴任・常勤して、復興事業に従事した。その経験から思うのは、犠牲者の情報は家族がコントロールするものだ、では済まないということだ。家族と一緒に亡くなったのか独りで亡くなったのか、津波の時にどういう避難行動を取っていたのか、といったことは将来の防災につながる話だ。個人にモザイクをかけると具体的な考察がぼやけてしまう。手掛かりになる情報は共有されるべきだ。石川県は家族の了解を公表の条件にしているが、全員の承諾は得られないので一部だけの公表になってしまう。そうなると全体像を掴むという意味では中途半端になって逆に意味がなくなってしまう。個人的意見としては、実名の公表可否を家族の意思に委ねることはよろしくないと考えている。

●公権力が情報をコントロールしてはいけない

<國森委員>
国とか自治体とか警察とか、そういった公権力が情報をコントロールしてはいけないと思っている。メディアが情報を全部引き出した上で、それをどこまで報道するかをメディア自らが、指針・信念・説明責任を持って判断していかないととても危険な社会になる。遺族はメディアスクラムを含めた取材そのものによる被害、その後のネットパッシングなどによる被害の恐れがあるが、そうした被害を食い止める努力をメディアがすることで当局あるいは社会に対して「ここまでやっているので情報を出して」と言えるようになれば良いと思う。

「土砂災害特別警戒区域」、どう伝えれば?

<参加者>
土砂災害が起きた地域が「土砂災害特別警戒区域」だったケースが多い。視聴者から「そういう区域に住んでいるからダメなんだ」という反応が来るし、災害の専門家もマイクを外すと「本当はここに人が住んじゃダメなんだ」と言う。大雨や台風の場合は被害が予測されるので早期避難を呼びかける事前報道に力を入れているが、犠牲となった方に非難の声がいかないように伝え方に非常に神経を使う。

●悩むことが大切。それは視聴者に伝わる

<斉藤委員>
報道する方たちは本当に悩まれると思う。この問題には正解はないと思う。
同じ言葉で伝えても、AIのニュースでは伝わらないが、リポーター本人が「どう伝えるべきなのか」と悩みながら語った場合、その思いは視聴者に伝わるのではないだろうか。伝える人間が、どう伝えるか悩んでいること自体がすごく大事なことだと思う。テレビは「どういう思いで伝えようとしているのか」ということも伝えてくれる。

●リスクあることを、地域の住民も社会も共有しないといけない

<國森委員>
とても難しい問題だ。東日本大震災の津波でも、どこまで津波が来たのかを皆が強く意識しないといけないし、メディアも伝えていかなければならない。それも踏まえて「ここにはリスクがある」ということは、住んでいる人も含めて社会で共有していかなくてはならないと思う。

●背景にも触れると伝わり方も違うのではないか

<廣田委員>
ずっと昔から住んでいて後から警戒区域の概念ができて指定されたのと、危険だと分かって住み始めたのでは違うのではないか。法律上は、分かって行くと非があるとされることもある。昔から住んでいる場合だったら、背景も踏まえて伝えると伝わり方も違うのでは。「古くからある集落で」というような一言があれば住民への非難の声は出ないのではないか。

●自己責任論、バッシングが起こらない伝え方を

<曽我部委員長>
法律的には警戒区域指定の前か後かで変わるが報道はフェーズが違うと思う。全国の土砂災害警戒特別区域に住んでいる人に危険性を伝える意味で、そういう地域で大きな被害が出ていることを伝えることは非常に重要だ。被害を伝えることに躊躇する必要はないが、他方で実際に住んでいる個々人と結び付けて報道すると自己責任論が出てバッシングにもなりうる。結局は伝え方の問題で先ほど紹介してくれたように住民に配慮しながら伝える方法は大変適切だ。

被災者映像 発災直後は使用可能でも時間経過すればどうなのか?

<参加者>
メディア取材に対する被災者の心情は、発災直後と時間が経過してからでは大きく変わる可能性がある。発災直後に取材に応じてもらった映像を時間が経ってから使う場合はかなり留意が必要なのではないか。

●「肖像権ガイドライン」が参考になる

<曽我部委員長>
以前大阪の朝日放送(ABC)から、阪神大震災のアーカイブをネット上で公開したいという相談を受けた。肖像権問題を含めどういう考え方で臨んでいいのか基準が分からない、ということだったので「デジタルアーカイブ学会」の「肖像権ガイドライン」が参考になるだろうと思い紹介した。
肖像の使用権が許されるかどうかは通常は総合判断で決めるが、このガイドラインでは<被撮影者の社会的地位><被撮影者の活動内容><撮影の場所><撮影の対応>といった要素を点数化する。例えば、公人・政治家であれば許容される方向に働くし、一般人であれば許容されない方向に働く。活動内容も、歴史的な公式行事なら許容の方向でプライベートな行事なら逆になる。点数を全部足し合わせて、何点ならいけるいけないというガイドラインを作成された。ABCはそれで判断して公開に至った。今後、災害に限らず時間が経った映像を利用する際には参考になるだろう。ABCのサイトは「阪神淡路大震災 激震の記録1995」で検索すればすぐ出てくる。「肖像権ガイドライン」は政府の知財本部などでも資料で出てくるくらいに広まった。参考になると思う。

以上

2024年1月16日

全国の放送局とオンラインで意見交換

放送人権委員会は、加盟放送局との意見交換会を1月16日に東京都内で開催し、ウェビナー参加者を含めて全国から110社、約230人が参加した。委員会からは曽我部真裕委員長をはじめ委員9人全員が会場で出席した。曽我部真裕委員長のあいさつに続き、鈴木秀美委員長代行は「みなさんの意見をうかがえる貴重な機会、率直な意見や質問をいただきたい」と参加者に呼びかけた。廣田智子委員は「人権意識が高まるなかテレビの笑いはどうあるべきか問われている。きょうは一緒に考えたい」、斉藤とも子委員は「(意見交換会で取り上げる)今回の案件は今でも心の中に蓋がのしかかっているような苦しい決定だった」、野村裕委員は「年々いろいろな基準が変化している。前回は大丈夫という判断をしたけれども本当に大丈夫なのかということが、問われているのだと思う」と、各委員からあいさつがあった。

意見交換会は二部形式で行われた。第一部は曽我部委員長が第79号「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」に関する委員会決定を説明し、起草を担当した二関辰郎委員長代行と松田美佐委員が説明を補足した。続いて補足意見を委員長と水野剛也委員が解説した。委員会決定とは結論が異なる少数意見について、國森康弘委員が理由を述べた。また決定通知後の取り組みについて、あいテレビから報告があった。第二部は東京大学理事・副学長で東京大学大学院情報学環教授の林香里氏が「日本の『お笑い』誰に奪われてしまったのか」を演題に講演し、「ジェンダーと放送業界」について社会構造の側面から、問題点を指摘した。

◆第一部
◎委員会決定第79号「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」の解説

<事案の概要>
申立ての対象はあいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラティー番組『鶴ツル』。番組はコメディアン・俳優である男性タレント、愛媛県在住の住職、愛媛県出身で県外在住の女性フリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送を開始した。申立人は、番組内で他の出演者の下ネタや性的な言動で羞恥心を抱かされ、放送を通じて申立人のイメージが損なわれ、人権侵害と放送倫理上の問題が生じたとして委員会に申し立てた。

●曽我部真裕委員長
新年早々、さまざまなことが起こり、とりわけ、被災地の放送局のみなさま方には大変な苦労をなさっていると拝察しております。しかしながら、放送の公共性が、あるいは存在意義が発揮される場面でもあり、ぜひともご尽力を期待したいと思っております。
本件は、人権侵害や放送倫理上の問題があったとまでは言えないという結論です。これは事案の特殊性によるものです。実際には全国の放送局において、考えていただくべきジェンダーの問題が含まれています。委員会決定でも、みなさまに考えいただく材料として、かなり詳しく付言をしました。
きょうの第二部では、このテーマについて、さらに理解を深めるために、ジェンダー平等の問題に詳しい、この委員会の元委員でもある林香里先生にお話しいただきます。ジェンダー、あるいはその他のマイノリティのテレビでの描き方、あるいは、その制作現場での構造問題については、昨年7月に、まさにこの場で開催いたしましたBPO20周年の記念セッションでも、取り上げたわけです。本日重ねてこのテーマを取り上げるのは、その重要性を踏まえてのことです。
本日の議論を、ぜひ各局にお持ち帰りいただいて、議論を各社で深めていただき、さらにこれを実践につなげていただきたいと思っています。前置きが長くなりましたが、本日はよろしくお願いいたします。

論点ですけれども、人権委員会は、人権侵害の有無、それにまつわる放送倫理上の問題の有無というものを判断するというのが任務ですので、本件でもこれらの観点から審理を行いました。
具体的には、申立人が意に反する旨を申告したにもかかわらず、性的な言動を継続したといった事情はあったか、本件放送に許容範囲を超える性的な言動、あるいは申立人の人格の尊厳を否定するような言動があったかという観点で判断したのが一つ目の人権侵害に関してです。倫理上の問題に関しては、性的な表現がどうだったか。そして出演者の健康状態の配慮に欠けた面があったかどうかを検討しました。

本件の特徴として、通常のセクハラとは違うだろうというのが出発点としてありました。つまり、一般の社内、企業内での社員に対するセクハラのようなものとは判断の基準が違うだろうということです。番組内での視聴者に見られるやり取り、意識したやり取りであったということですので、判断基準は異なるのではないかと考えたわけです。
具体的には、判断基準として設定したのは、放送局が、申立人の意に反していたことに気づいていたか、あるいは気づいていなかったとしても、通常の注意を払えば、気づこうと思えば気づくことができたかどうかということ。それから、別な観点ですけれども、深夜バラエティー番組として、社会通念上許容される範囲を超える言動があったかどうか、ということが基準としてあります。

まず一つ目、気づいていたかどうかということですが、結論としては、当時、気づくことは困難であったという認定です。委員会としては、申立人の方が、非常に内心悩み苦しんでおられたということは否定するわけではありませんし、被害者がハラスメント申告するということが難しいということを否定するものではまったくないわけです。
けれども、局の観点からすれば、それに気づくことが困難であったということです。ご本人もそれがわからないように努めていたと言われていたこともあって、こういう認定をしました。

次に人格の尊厳を否定するような言動があったかというところです。
ここは委員の意見も分かれたところです。非常に悪質であったという意見も複数ありましたが、全体として、人格の尊厳を否定するような言動があったとまでは言えないということになりました。

次に、ある時期に、ご本人がプロデューサーとじっくり話をする機会があって、何年かずっと悩んでいたことを告白するということがありました。そのあとの対応がどうだったかということを、ここでは問題にしております。プロデューサーは、そのご本人から告白があって、ようやく問題の深刻さを認識しました。そのあとは、かなりできることはやったということです。例えば、最終的には番組も終了になったとか、あるいはその終了前の数回、収録もかなり配慮をするという約束をしたということがありました。悩みの告白後の対応については問題があったとまで言えないということです。
以上が、人権侵害に関しての判断です。

次に、放送倫理上の問題です。結論としては、放送倫理上の問題があるとまで言えないとなりました。
まず一番目には、眉をひそめるような内容もあるけれども、深夜バラエティー番組であって、視聴者からの苦情も特に無かったというところで、表現のみを取り上げて放送倫理上問題だということは妥当ではなかろうということです。
二番目は、申立人自身も、外部から悩みが決してわからないようにしていたということです。これは先ほど申し上げた点ですけれども、そういった点を踏まえると、あとから気づけたはずだと評価するのは酷であろうということです。
三番目としては、出演者の身体的精神的な健康状態に配慮すべきことは、放送倫理上求められるわけですけれども、悩みの告白後の対応については、配慮が欠けていたとまでは言えない。結論としては、問題があるとまでは言えない、そういう判断です。

以上、人権侵害も放送倫理上の問題もあったとまで言えないというのが全体の結論です。

最後に、ここが付言、あるいは要望というところですけれども、かなり長めに書いています。
まず一つ目ですけれども、冗談としてでも、言動がくり返されることによって、言われた側が、そういうことを言ってもいい人物だというふうに役割が位置づけられてしまって、そういった立場を背負わされることになります。それが、放送を通じて公開されるということは、非常に酷な立場に追い込むおそれがあるということです。放送局としては、そういった状況を招かないようにする環境整備が望まれます。

二番目は、本件番組で問題となった言動は、一般的な性的話題にとどまらず、申立人自身が性的なことを好むかのように決めつける。つまり、「あなたが」こういうことが好きなんでしょう、「あなたが」という言い方です。一般的な下ネタと、「あなたが」こうなんでしょうというのは、やはり本人に対する影響の度合いが違う。そういう趣旨です。
そういう意味において、本件は非常に悪質な場面を含んでいるという指摘が複数委員から出ています。放送局には、こういった表現を放送することが、今日において果たして適当か否か、よくよくお考えいただきたいという意見が複数ありました。

あいテレビは、申立人は自分に意見があれば、物怖じせずに言う人だと主張しています。これは、申立人の普段の様子を見ていると、言いたいことをオープンに言える人だという、そういう印象を与えると。そういう人なのに言ってこないということは、特に不満がないのだろう。そういうことをおっしゃっているのだと思います。
確かに、普段はそういう面があったとしても、やはり立場の違いがあって、放送局とフリーアナウンサーというのは、構造的に立場が違うことを踏まえて物事を考えるべきではないか、そういうことをこちらで指摘しました。

それから、環境、職場におけるジェンダーバランスの問題です。本件スタッフ、番組のスタッフ、あるいは考査の担当者は、ほぼほぼ男性であったというところで、「行き過ぎなんじゃないか」ということが、なかなか内部から出てこない。そういうことが、あったのではないかというところです。これはいわゆるダイバーシティ、多様性の問題とつながる指摘かと思っております。

本件番組は、二か月間の放送で用いる番組の収録を一度にまとめて、八回分の放送を一回で撮ることで、かなりタイトなスケジュールでやっていた。そういう中で、出演者間あるいは出演者と制作側のコミュニケーションの機会が非常に限られていたのではないかというところです。もちろん、そういうスケジュール自体を見直すということは必要でしょうし、仮に、ある程度はやむを得ないにしても、そうした場合には、なおさら出演者の思いを積極的にすくい上げるような必要性があるのではないかというところです。
それから、本件の事案、教訓として、降板する覚悟はなくても、悩みを気軽に相談できるような環境や体制を整備していくということが求められるのではないかという要望を
しております。

最後ですけれども、これは本件の当事者である局だけではなくて、放送界全体の問題でもあるだろうということです。各局におかれましては、本事案を単に他社の事例と位置づけるのではなくて、自社のことを見直すきっかけにしていただければと思います。

●二関辰郎委員長代行
二つのルートで主に検討しました。一つ目は、人権侵害の判断基準で、申立人の内心がどうだったか、それに、放送局の立場から気づくことができたか、あるいは気づけなかったことに過失はあったか、というルート。もう一つは、表現それ自体の問題の検討。大きく分けるとその二つです。

一つ目のルートについては、(その場で表示したスライドに)「本件の難しさ」と書きました。申立人の主張でも、セクハラ的なことがあったのは収録の場に限られると言っていましたので、映像に映っている部分が問題になる。その意味では判断材料は客観的に残ってはいるのです。ところが、その映像からは分からないわけです。申立人本人も、内心で嫌がっていたことは外から分からないようにしていたと、おっしゃっていました。

しかも、本件の特殊性ということでは、ショーとして見られることを意識したやり取りでのセクハラ等が問題になっている点を指摘できます。たとえば、職場でそういうこと言われたら、それは当然、本人が嫌がるだろうというような言葉が、ショーの中でやり取りされています。こういうこと言われたら普通、嫌ですよねという判断もできない、そういう難しさがありました。

申立人の内心を外から気づけたか。放送局に責任があったか否かを問う委員会の判断においては、放送局の認識というものを、やはりベースにし、認識していたか、あるいは認識できたかという観点から検討することになるだろうということです。申立人が内心では悩んでいたということと、でも、外からは気づけなかったということは両立し得るわけです。その点は果たしてどうだったのかを判断しなければならない難しさがあります。

映像以外の背景事情とか経緯とか、いろいろなところで、申立人側とテレビ局側の主張は、対立していました。双方の主張、あるいはヒアリングで、それぞれ聞いたのですけれども、どちらも特にうそを言っている感じには受けとめられませんでした。その意味で判断が難しく、客観的な証拠とか、あるいは争いがない事実といったものを中心に、多数意見は判断しました。客観的証拠というのは、例えば、映像そのもの、あるいは申立人が当時送信していたメールだったり、ブログだったり、そういうものを中心に判断しています。

委員長の先ほどの説明にもあったとおり、自分の本心を本人が伝えにくかったということは、われわれも配慮したつもりです。言い出さなかったことが悪いなどと、ストレートな結論は出していません。本件では、言い出さなかっただけでなく、むしろ積極的に本人が番組を好意的に評価していたように見える。そういったものが客観的な証拠として残っています。それは、放送局の人とのやり取りにおける多数のメールやライン、あるいは本人のブログといったものです。

決定の中では、少しだけしか紹介してないのですけど、これが相当数あります。それだけ見ると、本人は番組を好意的に評価していたのかなと受けとめられる。放送局の認識をベースにしたときには、そういうふうに受けとめたのも仕方ないかなという状況があります。そうすると、何らかの、そういった好意的評価を打ち消すようなメッセージが、外に何か出されていないことには、放送局の責任を認めるのは難しいのではないかということです。それが、一つ目のルートです。

二つ目。表現それ自体の問題です。先ほども申し上げたとおり、ショーの中のやり取りですから、この表現はちょっと言われたら傷つくだろうという、直ちにストレートな判断
はできない難しさがありました。二つ目のルートを、本人の内心を踏まえた一つ目のルートとは別問題として取り上げたので、本人が内心どう思ったかは抜きに、表現そのものの評価ということで検討しました。その際に、BPOが、この表現は「○」、この表現は「×」というふうに評価すること自体、コンテンツに関わることを言うこと自体、そもそも謙抑的であるべきではないかという発想が背景にありました。

いろいろと検討し、本件事案そのものでは、問題ありとはできなかった。「できなかった」と言うと変ですけれども、申立人を救済するという観点から、いろいろ考え、議論をしたのですけれども、このような結論になりました。ただし、申立人と同じような立場に置かれている人はいっぱいいるだろうということから、今回、通常の決定にはないぐらい要望を詳しいものとして、かつ当該局に限らず、放送局全般の問題として詳細に述べたという、そういう取り扱いにしました。

●松田美佐委員
わたくしは起草担当委員の一人として、この委員会決定に同意しております。ただし、個人的には、本件で申立人に向けられ、そして、放送された性的言動は悪質であって、放送を控えるべきだったと考えています。ただ、表現内容だけを取り上げて問題にすることは、表現の自由に対する制約につながり得るために、謙抑的であるべきと考えるがゆえに、委員会決定には賛成するという形です。
これを前提とした上で申し上げたいのは、表現の自由を行使することについて、誰かを傷つけていないのかを、もう少し考えてみるべきであろうと。今回のことで言うならば、あいテレビは、申立人を害している可能性に気がつかなかったと主張されており、委員会も、気づけなかったのだろうというところを認めております。
とはいえ、被申立人、あいテレビ側は、自らの表現で誰かを、今回の件に限らず誰かを傷つける可能性について、どの程度意識をしながら放送をされていたのか。今回の件、傷ついている可能性に気がつかなかった、気にしないでいられたということに疑問を持ちます。さらには、申立人が外部からは悩みが決してわからないように振る舞わなければならなかったことに、そもそも強く疑問を持つというか、そこに問題があると思います。

社会学者のケイン樹里安さんが、「マジョリティというのは、なにかしんどい状況とか差別が目の前にあるときに、それに気づかずにいられる人とか、気にしないでいられる人とか、その場からサッと立ち去れる人たち」と定義しています。別のところでは、マジョリティ特権というのは、「気づかず・知らず・みずからは傷つかずにすませられること」とも言っています。
今回、読み上げるにはあまりにも不快で、私自身が経験してきた嫌なことを思い出すので行いませんが、委員会決定には、具体的にどんな言動があったか書かれております。こういった言動が、個人の人格に対して繰り返し向けられることが、いかにしんどいことであるか、気づくことができず、気がつこうともせず、番組制作が行われている。放送業界が、それが当たり前であると、もし、みなさんが理解しているというのであれば強い憤りを感じます。
放送は、すべての方のためにあると思っています。ならば、マジョリティ特権である、「気づかず・知らず・みずからは傷つかずにすませられること」を常に問い直しながら、番組を制作放送してほしいというふうに思います。そのための体制づくりに取り組んでいただきたいです。

今回の決定には三人の委員から、補足意見と少数意見が出た。補足意見とは、委員会決定と結論は同じで、決定理由を補足する。少数意見は、委員会決定と結論が異なる。

●曽我部委員長
わたくしも補足意見を書きました。放送業界全体の問題として考えていただきたいことを書きました。「放送とジェンダー」に関する近年の状況について情報提供をする趣旨です。内容は第二部の林先生のお話と重なるところもあると思うので、ごく簡単に紹介します。
まず一つ目、番組の内容。テーマ選びや内容に、そのテレビ局の組織体制が影響すると言われています。ジェンダー・ステレオタイプな表現の背景には、「メディアの送り手に女性が少ない」といったことが指摘されています。
二番目です。放送の画面に登場する人物の多様性の問題です。一つ目は、制作者の多様性の問題ですけれども、二つ目は出演者の多様性の話です。これも調査があり、六割が男性、女性四割です。女性は四割なのですが、若い女性に偏っています。
それから、肩書きのある登場人物、たとえば、社長とか、教授とか、そういう人は男性が多くて、街頭インタビューは女性が多い。六割四割というと、そんなに不均等ではないという印象を与えますが、中身も見てみると、かなりバイアスがあることが指摘されています。決定文の22ページに参考文献を書いています。ぜひ、参考文献も含めてご覧いただければと思います。

●水野剛也委員
人の心の内は、外からうかがい知ることはできない。このことを肝に銘じておかない。いくら素晴らしい要望、そして対策がなされても同じような悲劇が起きるのではないか。そう思い、補足意見を書きました。

申立人の精神的な苦痛は極めて深刻です。放送局は、他方でそのことにまったく気付いてなかった。両者のギャップ、乖離、溝の深さ、距離の遠さには戸惑うばかりでした。とくに、局側の驚きようが印象的で、文字どおり、虚を衝かれた、見えてないところから大きな問題が投げつけられたような様子でした。
放送局には、このような誤解があったのではないでしょうか。申立人とは、互いに何でも言い合える深い仲だったと。そう誤解してしまう理由もなくはないのです。申立人は明るくて、前向きで、心から番組を楽しんでいるようにしか見えません。番組内ばかりか、普段やり取りするメール、番組についての宣伝を兼ねた情報発信においても、心の葛藤や辛苦の影さえ見ることができない。プロとして仕事を完遂したい。そう思うがゆえに隠し通してしまった、通せてしまったように見えます。
だからこそ、本件の教訓は、問題などあるわけがないと思ってしまったら、問題が見えるわけがないということではないでしょうか。いくら積極的に組織、環境を改善し、風通しのいい組織にしたとしても、やはり言いにくいことは言いにくいし、言い出せないことは言い出せない。ましてや、本人が、絶対に内心を隠してしまおうと思ってしまったら、どうしようもない。
ならば、常日頃から、このように意識する必要があるのではないでしょうか。
「問題などあるわけがない、わけがない」と。ご静聴ありがとうございました。

●國森康弘委員
委員会ではマイノリティになってしまいましたが、私は人権侵害と判断しました。
同じことが繰り返されないように、その願いも込めて意見を書いています。ジャニーズとか吉本とか、宝塚も含めて、いろんな問題が今、浮き彫りになっています。きょうを機会に、1人でも多くの人といろんなものを共有できればと思っています。

まず、ハラスメントは、自分に悪気がなくても、気づけなくても関係なく、自分の言動が、相手に苦痛や不利益を与えること、尊厳を傷つけることであり、これは人権侵害にあたります。ハラスメントになる要因としては、コミュニケーション不足、無意識の偏見、性別役割の分担意識、不適切な業務量、そして倫理観の欠如というものが広く指摘されています。今回の現場では、そのすべてが満たされてしまったのではないかと見受けられます。
いくつか、申立人に対する表現を挙げるとすると、「世渡り上手、床上手」、「1日中欲しがってる」、「アッチイッテエッチシヨ」などの数々がありました。これら共演者からの言動に加えて、さらに、制作陣によるテロップやイラストが追加されています。特に、ひどかったイラストと思うのは、申立人の顔写真を貼ったその体には、黒色のレオタード、網タイツ、それからSMのムチという、そういうイラストに顔写真が貼ってあるという
こともありました。
こうしたものがハラスメントに該当すると思っています。私たち委員会の審理の対象期間は、申立てから遡って1年以内ですが、その期間から1か月外れたところで放送されたものでは、申立人に対して、共演者が、スタッフが用意したハンディカメラを持って、AV女優の名前を呼びながら、脇毛を見せてと言って脇を接写し、それが放送されることもありました。
別の放送では、共演者が申立人のファスナーを下ろして背中を露出させて、それを接写し放送するという場面もありました。ハラスメントどころか、性暴力的な状態だったと思っています。それらを含めて、共演者やスタッフに対する不信が高まり、視聴者からの中傷なりバッシングも増えてきたと、申立人は話していました。

表現の自由というものは、もちろん確かに大切ではあります。しかし、たとえ深夜番組のバラエティーであっても、許されない表現や演出はあると思います。今回の場合だと、申立人が性を売りに世を渡るような人であるみたいに、性的な要素を過度に結びつけて、アナウンサーである申立人のイメージを損なうなど、悪質でした。ましてや、本人の同意や承諾、納得や信頼がない中では、それは一層深刻な被害をもたらしたと言えます。

時代は変化しています。昔は1回の放送で終わっていたものが、今では、放送内容や、出演者への中傷を含む番組への評価が、ネット上を含めて、広く、長く、半永久的に公開されます。そういった点では、一般社会や職場よりもさらに深刻な損害、被害を与えると考えるべきではないでしょうか。

多数意見でも指摘されたとおり、制作現場には、ジェンダーバランスやパワーバランスの不均衡、業務量の多さ、それから意思疎通の不足などがありました。下ネタ、お色気を前提にしながらも、出演契約書も交わすことなく、出演者へのフォローもケアも不十分に見受けられました。そういった意味では、安全配慮の欠如もあったのではないでしょうか。
深刻な悩みや苦痛を申立人が告白したあと、それから申立て後の放送局の姿勢には、気づきや反省や改善の姿勢が見当たりませんでした。このままでは同じことが起きるのではないかと危惧しました。

申立人は、平穏な生活、信用、仕事、収入、多くを失い、多くを諦めながら、申立てに至っています。私は申立人の被害を認識するとともに、人権侵害があったと判断し、同様の被害を生まないことを願って、少数意見を書きました。

今回の事案をきっかけに組織的に改善策をとった、あいテレビから報告があった。

●あいテレビ
弊社は委員会決定の中で、制作現場における数々の問題点について要望を受けました。大きくは、出演者が本当に自分の心を吐露できる、悩みを相談できる環境整備、制作現場のジェンダーバランス、そういったものを指摘いただきました。審理に入った状態のところから、これらのことについて検討、改善を進めました。その中から大きなものを三つ、説明します。

一つ目です。社内体制についてです。23年7月の委員会決定から遡りまして、4月に、従来、編成報道局としていた部署をコンテンツ局に変更いたしました。それまでは1局2部で、局長、編成制作部長、報道部長、管理職3名が男性でしたが、今回1局3部に分けまして、私が女性のコンテンツ局長として着任、制作部長も女性が就任しました。報道部長と編成部長は男性が就任しております。自社制作番組については、私であったり、制作部長であったり、必ず制作部の女性の確認を経て放送に至るという体制になりました。
6月には、開局以来初の女性執行役員として私が就任しております。ただし、こういった幹部への女性登用は、以前から取り組み始めていたことです。去年の秋には、社内のプロジェクトで女性躍進や子育て支援を考えようと、部署を横断するプロジェクトチームが発足しました。これは女性が長く働き続けられる環境を整備し、幹部への女性登用を働きかけるということなど、いろいろな議論をしようというものです。

二つ目です。番組出演者の保護についてです。従来、番組出演者の相談窓口は番組のディレクター、プロデューサーとしていました。23年の4月から、総務部を窓口に加えています。担当者として、男性の部長と、女性の専任部長がおります。ハラスメントが発生した場合は、番組制作のスタッフを通すことなく、そちらの窓口を利用できることを契約書に明記をしております。

三つ目です。これがBPO講演会です。社内体制の見直しや環境整備を進める中で、現場のスタッフにも直接、BPO講師と顔を合わせて、さまざまな意見交換をする場を設けたいということで、昨年10月に、BPOの講師派遣制度を利用しました。
講演会当日は、コンテンツ局のスタッフを中心に30名余りが参加し、曽我部委員長から決定通知のポイントなど、さまざまなことを解説していただきました。そのあと、ジェンダーを意識した番組制作のあり方など、さまざまな意見交換を行いました。
作り手側の一方的な価値観を出演者等に押しつけることはいけない、さまざまな配慮が必要など、たくさん確認事項がありました。たくさんの気づきがありました。

この三点が取り組んでいる大きなものです。完全なものとは思っていません。
引き続き、時代に即した番組制作のあり方ですとか、制作現場のあり方、そういったものを考えていきたいと思っています。みなさまからも引き続き、ご指導をいただければと思っております。よろしくお願いいたします。

■主な質疑応答

Q:申立人がフリーアナウンサーという弱い立場にあり、ジェンダーの問題、男性中心社会であるということはもちろんですが、出演者が芸人やグラビアタレント、さらには男性の局アナなどであっても配慮が必要だと思います。その点いかがですか?

A:これはおっしゃるとおりで、マイノリティだから配慮が要るということではなく、すべての人に配慮が要るわけです。そういう意味では、誰に対しても配慮は必要であるけれども、ただ、とりわけマイノリティの場合、先ほど、松田委員がおっしゃったように、マジョリティが気づきにくいことがあるので、そういうアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)があることを踏まえながら対応しないといけないわけです。
基本的な考え方としては、すべての出演者、あるいは制作スタッフに対して、要するに個人として見るというか、人として見るということが当然、必要だと思います。
(曽我部委員長)

A:民放連が放送基準を改正し今年の4月から施行します。その中では、「出演者の精神的な健康状態にも配慮する」ということで、出演者をとくに属性やら性別、役割とかで区別せず、「出演者」一般に配慮が必要だということを前提にしています。(二関委員長代行)

Q:決定では、深夜時間帯の放送で、放送倫理上問題があると判断するのは控えるのが妥当と指摘されていますけれど、子どもや青少年が視聴する時間帯の放送だった場合は、放送倫理上問題があるという判断になったのでしょうか?

A:こちらはなかなか難しい問題で、いくつかの観点があると思います。ひとつは、今の民放連の基準なども、性的な制限について微妙な書き方をしています。もちろん、子どもや青少年が見ている時間帯に特に配慮が必要なのは当然だけれども、深夜に関しては一定程度、許容されるかのような書きぶりになっています。ですから、時間帯によって、当然、判断基準は変わり得るということはあると思います。というのが一点目です。

他方でということで二点、申し上げます。一つ目は、時間によって切り分けるのは、かなり昔の考え方で、今はいつでもどこでも見られるということです。深夜だからいいということが、昔のような形でストレートに通用するわけではないということです。
もう一つは、きょうのテーマですけれども、そもそも、その性的な内容というものがどこまで今の時代、許されるのかというところです。要するに、通常は女性だと思いますけど、極端に言えば、女性をある種の“物”として見るということに、つながるような内容です。全ての人に配慮が必要で、全ての人を尊重することが求められるという、今の世の中で、そういったものがそもそもどこまで許容されるのか、ということは考えていただ
く必要があると思います。
ただ、他方でさらに言うと、だからと言っても、一切そういうものがダメなのだと一足飛びに私は申し上げるつもりはないのです。けれども、やはり、そこはいろいろ考えていただくことで、従来の延長線上で何も考えずに漫然とやっていくことが許される時代ではないと思っています。(曽我部委員長)

Q:時間帯の話が出ました。そこまで何時に、どの時間帯かって関係なくなっているということですが。プッシュ型メディアのテレビの放送と、プル型メディアの動画配信ではいくらか異なるのではないでしょうか。放送基準42条の放送時間に応じた生活時間という言葉は、その辺りも含んでいるものと理解しています。まったく無視すべきではないにせよ、同列に語れないところがあると思いますが、いかがでしょうか。

A:おっしゃるとおりだと思います。(曽我部委員長)

Q:これはあいテレビさんへの質問です。番組は、先ほども委員から出ましたが、「床上手」、「欲しがっている」など、女性の人格を損ね、性に淫らという印象を与えるものだったと思います。社内で、このような発言は人権侵害に発展しかねないと、個人ベースでも議論するスタッフはいなかったのでしょうか?

A:当時は、番組全体として、いわゆるバーのママと常連との掛け合いということで、大人の会話として、時間帯等々を含めて視聴者に届けても大丈夫という判断のもと、放送していました。もちろん、こうして、「床上手」とか「欲しがっている」とか、言葉を切り取れば、もちろん不愉快で、いろんな思いを持たれる、出演者もそうなのですけれど、視聴者もそう思われるでしょう。
ただ、当時は番組全体を通して、娯楽として番組が成立すると考え、現場のスタッフも「この言葉は」って一言一言に立ち止まること、そういう立ち止まれるチャンスとして気づけなかったということです。今になって、こうして切り取っていろいろ考えてみると、気づけたかもしれないという立場に、今、私どもあいテレビはおります。(あいテレビ)

Q:申立人の女性がプロデューサーに心の内を明かしたのが11月で、BPOに申立てたのが2月。この期間に放送における対処というのは、意見書を読めば伝わるのですけれども、申立人に対して、あいテレビさんはどのような手立てをしていたのか。なぜ、申立てに至ってしまったのかということも含めて、差し支えない範囲で教えていただけたらと思います。

A:私どもが認知したのが2021年11月です。翌年の2022年3月で番組を終了しました。2021年11月以降、私どもから話をしようとしても、代理人を通してほしいと先方から回答がありました。ご指摘にあった私どものフォローは非常に難しかったのが事実です。(あいテレビ)

◆第二部
『日本の「お笑い」――誰に奪われてしまったのか』
(東京大学理事・副学長 東京大学大学院情報学環教授 
林香里氏)

●曽我部委員長
林香里先生は東京大学大学院情報学環の教授で、専門はジャーナリズムとマスメディアで、早くから男性中心のジャーナリズムの構造に対する問題提起をなさっています。私の補足意見でも、先生が最近出された共編著『ジェンダーに学ぶメディア論』を紹介しています。

現在は、東京大学の理事、副学長として、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に取り組んでおられます。また、2012年度から15年度まで、BPO放送人権委員会の委員をおつとめになり、私もご一緒させていただきました。今回のテーマは、放送業界全体で考えていただく問題だと認識しています。本日、林先生の講演をうかがって、この問題をみなさんに考えていただく機会を持てたというのは大変うれしく思っております。
本日、『日本の「お笑い」――誰に奪われてしまったのか』というタイトルにて、講演をいただきます。

●林香里教授
紹介にあずかりました林香里です。研究分野はメディアジャーナリズム研究で、メディアシステムの国際比較をし、日本のメディアの下部構造、すなわち産業の成り立ちや構造、そして、そこから生まれるコンテンツを研究してきました。
その中で、日本のメディアの最も深刻な問題として挙げられるのが、ダイバーシティの欠如だと考えます。そこには女性の権利の問題も含まれます。また、私自身も、女性としていろいろな苦い経験があります。女性にとってメディアという職場、そしてメディアが生み出すコンテンツ、それぞれに厳しい現実があります。しかし、それは「女性の問題」ではなく、メディア産業全体の問題です。
この被害者の方がこうした形で名乗り出てきてくださったことについて、これをきっかけに将来に向けて、日本の放送産業全体をいかによくしていくかという観点から問題を考えていきたいと思います。

BPO放送人権委員会のみなさまからは、本日本件事案の取り扱いやご判断について、いろいろ説明いただきました。ご説明をうかがっていると、なぜ人権侵害あり、あるいは放送倫理上問題あり
しなかったのかということへの弁解を述べられているように、聞こえました。結局、結論として「問題なしとしたけれども、問題はあった」というのがBPO人権委員会の結論かと思います。

私もBPO人権委員会の委員を務めていました。私が委員だったら、おそらく少数意見を書いて、少なくとも倫理上問題ありと考えていたと思います。ですけれども、その部分は結論であって、今回の場合は、おそらくは、結論はそこまで重要ではなくて、その先の問題をもっと議論したいというのが放送人権委員会のご意思だろうと、解釈します。だから私などをこの場にご招待くださった。それはたいへんありがたいことです。

ただ、そのような見方は、なかなか難しい。やはり結論は結論なのです。放送人権委員会としては、性的嫌がらせの問題や女性の人権よりも、ひたすら、広義の「表現の自由」を抑制しないように、人権委員会の存立意義であるところの「言論・表現の自由」の部分を犠牲にしたくないから、このような結論が出ていると推察します。しかし、それをすることによって、結果的には、世の中のたくさんのマイノリティの人たちを落胆させて、そして結果的には社会の人権感覚を鈍らせてしまっていると感じます。

ただ、それは放送人権委員会の問題もさることながら、日本の放送業界全体の問題でもあります。放送産業は、放送の自由とか表現の自由によって手厚く守られているからこそ、かろうじて、こんなひどいことをしても、「問題なし」という甘い結論になったことを、非常に謙虚に受けとめていただく必要があると思っています。
例えば、今回、放送倫理上の問題があったという結論が出たとしたら、それで放送局や業界が、「ほら、放送人権委員会はまた表現の自由を制限しているじゃないか」という話になったとしたら、それは本当に放送業界、終わっていると私は思うのです。
BPOと放送局の信頼関係もゼロということです。これはそういう話じゃないですよね。やっぱり、いい放送を作るために何をすべきかということを議論しなくてはいけないと思うのです。そういう建設的なマインドセットを、この問題を軸にして考えていただきたいと、まず大枠のところで私は思います。
もし、私が本日、この場で倫理上、何かここはおかしいと言ったとしても、それが放送局への表現の自由への制限ということではないです。ぜひ、そのところを誤解のないようにお願いしたいと思います。

もう一つ言いたかったのは、松田委員が「自分の経験が走馬灯のように思い出される」とおっしゃいましたけど、私もそうです。たくさんの人がそう思っています。声に出ないけれども、こういうことで本当に嫌な気持ちになる人が、たくさんいるわけです。そこも表現の自由とはまた別の意味で、「言論・表現の責任」という観点から問題を考えていただきたいです。

この話をしたのは、放送局はヒアリングのとき、ほとんど反省がないような、「いや、何でも言える子だった」とか、「もうちょっと有名になりたかったんじゃないですか」とか、そんなことを言ったようなことが委員会決定に書いてありました。私は状況を知りませんから、コンテクスト(文脈)はわかりませんけれども、そういう記録が残っているわけです。世間的には「なーんだ。こういう受け答えをするテレビ局でも倫理上問題なし」となってしまう。局はそこを真摯に受けとめてほしいです。そして、次にどういう発信をしてくださるか、期待しています。

また、もう一つ付け加えると、いわゆる「下ネタ」が、いまだに笑いの一つの重要なコンテンツになっていることにも、驚きを禁じえません。ぜひ、いつか、テレビ局が今、どういうふうにバラエティーのコンテンツの在り方を考えているかを知りたいです。
お示ししている毎日新聞の記事にもありますように、「下ネタ=笑い」という非常識な業界の常識があるようですが、女性の芸人だと、必ずこうした下ネタを振られるという現実があるようです。

今回の、委員会決定に書いてある「エッチな話に罪はなし」というテロップや、「下ネタがいいじゃない、やっぱり罪ないよ」と、有名な芸人さんが、おっしゃっているわけです。それはどういうことかというと、下ネタがメインストリーム化しているわけです。2021年の話です。昭和の話じゃないわけです。こういう状況の中で、申立人が名乗り出たというわけです。

先ほど委員長から、日本のテレビ番組を作っている側の人の男女比と、テレビのスクリーン上に出てくる男女比という説明がありましたが、このスライドでお示しするとおり、番組ジャンル別でオンスクリーンでの男女比をみると、バラエティーとお笑いでは圧倒的に男性出演者が多い。お示ししているデータは、『放送研究と調査』の2022年5月号からのものですが、現状の番組制作現場はこういう状況なわけです。
また、この写真はツイッターで出回っていたのですけども、お笑いコンテストの審査のとき、審査員は男性で、後ろの観客のほぼ全員が女性です。こういうイメージがお笑いに定着していることは、記憶しておくべきと思います。

では、画面に出てこない制作者たちはどうか。これは民放労連の統計ですが、例えばキー局では女性がやっぱり圧倒的にマイノリティ。地方でも女性役員ゼロの局がたくさんあります。あいテレビさんは、執行役員に女性を入れたと先ほどおっしゃっていましたが、こういうことでもないと変わらないのだとすると、非常に残念です。

実は一つ難しいと思うところもあります。BPOの見解で、先ほど委員長がおっしゃいましたように、ジェンダーバランスが悪く、圧倒的に男性ばかりの職場環境が、こうした番組を生み出す一つの原因じゃないかと、BPOも書いているわけです。
じゃあ、放送業界での「女性の視点」って何ですか。女性だったら誰でもいいですか、ということになると思います。男性中心社会で、女性がマイノリティになれば、テレビ局の常勤の女性は、「男性と変わらないような」価値観を身に着けて出世していくわけです。これは私が調査した『テレビ報道職のワーク・ライフ・アンバランス』という本の一部ですけれども、やはり女性が男性と同じように対当に頑張るためには、男性と同じような価値観で仕事をしていかざるを得ない。
例えば、きょうもBPO放送人権委員会の見解がありまして、放送倫理上問題なしとなっていますけれども、補足意見と少数意見は、いずれも男性委員のみでした。ということは、女性委員がどういうふうにここに関わっているかは見えないわけですね。

じゃあ、いったい「女性」が意味するところの内実は何のかと言うと、今回の場合は、女性というだけでなく、女性であって、さらに非正規雇用者だったということが、かなり大きなポイントだと思います。この弱さの重なり、二重の負荷を背負っている現実、これを「インターセクショナリティ」と私たち研究者は呼びます。これはもともとは、黒人の女性が、白人の女性に比べてより過酷な差別を受けているという問題提起から始まった言葉です。例えば日本の場合、女性の非正規雇用者というのは、女性の正規雇用者よりもさらに社会的な待遇が低くて、声を上げる力も機会もない人が多い。この点がやはり大きく問題になっていると思います。

翻って、放送局の主張、意見書によれば、例えば「不快な感じも見受けられなかった」、「編集で全部カットしました」、「本心を隠してきたとは信じがたい」そして、「これまでも良好な関係を築いていたのです。クレームは一件もないです」というふうに、記載されています。
また、BPO人権委員会の結論は、申立人のほうが、そういう素振りを見せていなかったから局には過失はないとして、倫理上問題なしとして、最終的に、「制作現場における構造上の問題としてとらえるのが妥当である」と結論を出しています。

では、ここで言う「構造上の問題」とは何か。今日のこの会議では、この部分を言語化、共有化して、その後、みなさんがそれぞれの部署に戻って、制作現場の方々に伝え、話し合っていただければと思います。ということで、制作現場の構造上の問題とは何かを考えます。以下、三点あります。

第一に、「マジョリティ側の特権」を考えてほしいと思います。例えば現場で、日本人で、男性で、健常者で、正規雇用で高学歴、これが重なれば重なるほど、特権が増していきます。よく自動ドアの例えというのが言われているのですけども、前に進んでいくときに、こうした特権があればある人ほど、全く気付かずに、真っすぐドアがどんどん開いて、先に進めるのです。
ところが、こうした特権がない人、例えば体に障害がある方は、どこかでドアが自然に開かないとかですね。女性だったら、そこでまた開かないということで、マイノリティ性がある人ほど、先に進まなく、マジョリティにとっては当たり前のことができなくなる。こうした状況が、このマジョリティ特権を持つ人たちと、特権を持たない人たちとの分水嶺だと思います。

じゃあ、マジョリティの方々は誰かと言うと、大体、ここにいる人は、みんなマジョリティだと思えばいいです。男性、女性、関係ないと思います。集団の中で発言しても、内容に違和感を持たれづらく、自身も安心感がある。何か言っても、「あの人ちょっとなんかずれているよね」とか、「変わった人だね」とか、「言葉が聞き取りにくいね」とか言われない。つまり、文化や社会背景を共有する人たちが、周りにたくさんいれば、それがマジョリティです。だから、安心して何か発言もできる。

自分の属性を隠さなくてもいい人もマジョリティです。例えば、女性だと経験あると思うのですけど、やっぱり女を出しちゃいけないと思って、とにかく男性と同じように仕事をする。「女を隠す。女を捨てる」と、よく俗語で言うのですけども、それも一つの、このマジョリティの特権を持ってない側がやることです。
さらには、LGBTQの方は、自分の真のジェンダーやセクシュアリティを隠すとかですね。あるいは障害がある人も、「自分はちょっと迷惑になるから」と参加を遠慮するとか、そういうことをするわけです。自分の考えや属性を隠さなくていい人が、マジョリティ側にいることだと思ってください。

このほか、今の職場環境を自然に受けとめることができる人もマジョリティです。テレビ局の職場は労働時間が長いですよね。本当に大変な仕事だと思います。おつかれさまです。
ただ、その職場環境が、どちらかと言うと、自分たちに都合のいい職場のレイアウトだったり、働き方慣行がまかり通ったりしていませんか。最もわかりやすい話ですと、トイレの数です。男性と女性のトイレの数はどうでしょうか。あるいは、ジェンダー中立のトイレはあるでしょうか。
さらに、出勤や勤務時間、例えば小さな子どものお迎えの時間を心配しなければならない人や、介護のために長く休まないといけない人もいると思います。こうした人たちは、労働環境、労働条件をつねに負担に思い、肩身の狭い思いをしているのではないでしょうか。それは、日本のマジョリティの男性たちが、こうしたケアの義務を免除されているから、職場環境や労働条件がそこに合わせてつくられているからなのです。

最後に、マジョリティ側は、正規社員で会社にいる時間も長く、社内にネットワークがあり、いろんな情報アクセスできる。どこの部署の何さんが、あの問題には詳しいとか、あるいは、あの人は以前、こういうこと言っていたよというような情報を持っている。これもマジョリティの強みで、とても重要なことです。なぜならば、いろいろな状況で正確な判断をするためにはたくさんの情報が必要です。情報がないと不安になるし、怖いから何も言えなくなる。自分がいろんなことを知っていると思えば、意見が言えるのです。マジョリティとマイノリティの差というのは、この情報量の差が大きいのです。

本日先ほど、あいテレビの方が、本件の申立てを受けて、三つのことをしたとおっしゃっておられました。女性の執行役員を増やした、相談窓口を作った、そして、BPOの先生方をお招きしたとのこと。でも、それでは足りないです。それ以上に、こうした、自分たちはマジョリティ側にいるという意識のトレーニングをして、私たちがあたりまえに前提としているものは何か。私たちの世界観はどう規定されているかを自覚してほしいです。自分たちがどのように自分たちに有利な環境をつくり、いかにそこにどっぷりとつかっているのかを、もっともっと自覚する必要があると思います。

私は、勤め先がマジョリティの大本山の東京大学ですので、大いに反省するところがあります。そうした意味でも、大学全体でこうしたマジョリティのトレーニングを今年から始めまして、全員に研修を義務づけています。その一つとして、例えば幹部には、全員にこの資料にあるような演習をして、自分たちのマジョリティ性を意識してもらっています。
ただし、マジョリティにいること自体がダメだと言っているわけではありません。実際、それは変えられないのです。しかも、それはありがたいことでもあるわけです。だから、そうしたポジションから、マイノリティの人へ何ができるかということを考える。それがマジョリティの責任で、それにはトレーニングが必要です。当たり前にみんながわかることではないのです。
あいテレビにも、ぜひ、こういう研修をやっていただくと良いと思います。いろんな企業がやっています。こちらにいらっしゃる局の中にはすでに実施している局もあるかもしれません。もしやっていたら、このような場でも、のちほど情報共有すればいいかなと思います。どうか考えてみてください。

第二点目として、マジョリティの意識を持つことと同時に、私たちには皆、無意識のバイアスがあるということも自覚すべきだと思います。例えばステレオタイプ、先入観で、「こういう学歴の人はああいう人だ」とか。
あるいは、正常化バイアス。「このぐらいなら大丈夫じゃないか?そんな大きな問題じゃないよ」というようなこと。
このほか、権威バイアス。偉い人の意見は全て正しいと考えがちです。売れている芸人さんが言ったんだから、あれでいいのだとなったりする。
外見バイアス。女性で、優しい感じの人だと、あのくらいなら許してくれるのじゃないかとか。これも無意識のバイアスです。
今回の案件では、男性たちがアナウンサーにこれぐらいなら許してくれるだろうと思っていたら、本人には心ない言葉が胸の奥底に溜まっていて、最終的に非常に傷ついていたということです。こういう状況を作り出した罪も考えてみる必要があると思いました。

最後に、マイクロ・アグレッションという言葉についても言及しておきたいです。
さまざまな偏見の中で、日常的に小さな人権侵害、マイクロ・アグレッションというものが近年脚光を浴びています。「女性だから喜ぶんじゃないか」とか、「いつも明るく振舞っているよ」とかを前提に、立場の弱い人に日常的に言葉を、投げていると、とくに女性などのマイノリティ側は、そのようなステレオタイプの檻に閉じ込められ、閉塞感を抱いて、傷ついたまま放置されがちです。長年にわたってそのような状況に追い詰められ
た側は、日常の連続性の中で異議申し立てをするチャンスも失い、絶望に追いやられていくことになります。
マイクロ・アグレッションは日常に埋め込まれているだけに、意識をしないと、どんどん組織の中で蓄積していき、集団として差別に鈍感となり、やがて集団的な差別やヘイトスピーチといった大きな問題にもつながっていきます。組織そのものが鈍感になると、誰もあえて異論も唱えなくなる。同調同化作用がますます加速して、成長や軌道修正のチャンスも失われてしまう。クリエイティブが命のテレビ局には、まさに命とりになりかねません。

きょうの話で何をすればいいのかというのを、とても迷いました。ここで、放送人権委員会の判断そのものについて、それが正しかったのかとか、何が足りなかったのかとか、そういうことも細々と指摘することもできたのかと思います。
ただ、そのような話だけでなく、私たち全員で共有したいのは、テレビ局というのは表現で勝負をしている職業だということをまずは念頭に置く。そのうえで、勇気をもってこの案件を申し立ててくれた申立人の勇気と苦労を無駄にすることなく、今後、よりよい表現、おもしろい番組をつくっていくためには、何をしなくてはいけないかということを、BPOとテレビ業界すべてが考える必要があると思います。

何度も申し上げますように、この事案は、女性の問題でもなければ、法学的な表現の自由の問題でもない。これは、テレビ業界が抱える、圧倒的なマジョリティ特権が生む、現状再生産が永遠に続き、先細る日本社会の問題の一端で、人間の想像力や創造力(クリエイティビティ)を削ぐ組織構造や人材育成の問題だということです。
そして、ここにこそ、先程の人権委員会の話に関わってくるのです。つまり、制作現場における構造上の問題。それは単に女性の頭数が少ないというだけではなくて、テレビ業界の歪んだジェンダー構造に象徴される現状維持と再生産、そして業界全体の地盤沈下につながるのです。
本日、この後に、マジョリティの特権が全く意識されていないから、この申立てのような案件が起こったという私の指摘を、ぜひ一度、考えてみてくださればと思います。「林さんはあんなことを言っているけど、うちの局は違うわ」とか、「もうそんなことはとっくの昔からわかっている」ということでもいいです。今日の話と感想を、帰ったら各社で口に出してまわりの皆さんにお話してみてください。きっと、まわりには黙って我慢しているマイノリティの人がいるはずです。みなさんから、そういう話題を提供すれば、その方たちも思うことがあって、対話が始まるかもしれません。以上が私のきょうの発表です。ありがとうございました。

■主な質疑応答

Q:当事者にとって、こだわらざるを得ない部分、例えばLGBTQ以外にも多様な性があるという主張などでも、ニュースや番組尺の関係、また、あまりに複雑になると、視聴者の理解が追いつかないなどの理由で、簡略化や類型化しなければならない場合があります。全ての表現を取材先が納得するまでやり取りすることは、現実的でないとも思えます。どのような対応が好ましいのか日々悩んでいます。

A:そういうふうに悩んでいらっしゃるのが素晴らしいと思います。そういう方がいることが本当に希望だと思うのです。尺が短い。とくにテレビの場合は、尺が短いから紋切り型にならざるを得ない。それは確かに悩みですけれども、まず、それを意識することが第一歩です。
そして、第二歩目には、一回の放送で全部が解決できないではと思います。少し長いスパンで何ができるかということを考えて番組制作をしていただければと思います。
そして三つ目に、最後ですけども、その人だけでは解決できないと思うんです。例えば、自分はニュース制作していて、紋切り型やっちゃったよな。また、桜の映像とともに若い女性入れちゃったみたいな、そういうのがあると思うんです。でも、それはそれであったとしても、今度は別の番組、例えばドラマの人と話をして、対抗軸をつくってみるとか。これは一つの番組だけで解決することでは到底ありませんから、局内のネットワーク、あるいは番組制作会社同士のネットワークを作って、何らかの体系的取り組みを少しずつでもしていただければと思います。頑張ってください。応援しています。(林教授)

Q:メインターゲットが女性の商品を扱うときに、意図的に「女性のみなさん」と限定した呼びかけをすることはよくやっています。ユニセックスの財布を紹介する際に、女性のみなさんと呼びかけましたが、女性用の商品ではないので、ジェンダーの観点から、呼びかけは、ご覧のみなさまなどにしたほうがいいのでしょうか。

A:たくさん売れるために、みなさまって言ったほうがいいんじゃないですか。女性に限定する必要がある物だったらそうですけども、そうじゃないなら、みなさん使ってくださいと言ったほういいのではないですかね。男性、女性をそこまで意識する必要がどこまであるのでしょうか。性にも多様性があるわけだし、女性だからどうっていう紋切り型を崩すのが面白いところだと思います。お財布、いろんな人が使ってもらったほうがいいと思ったら、「みなさん」と言ったほうがいいと思います。(笑い)
(林教授)

Q:スタッフの制作現場に女性を登用することが問題解決の一つのポイントということは、もっともだと思います。ただ、いろんな問題でそれが適わない場合、どう対処すべきでしょう。女性を配置したら、それで事足りるということでもないと思いますが。

A:例えば、この度、あいテレビに、執行役員に女性の方が就任されて、私、ほんとうに大変だなと思って見ていました。女性にこの案件の反省全部を背負わせますかって。
私も東京大学で管理職をやっていますからよくわかりますけど、女性差別の問題を全部私が担いで、世界の女性のために、解放のためになんてできないです。むしろ男性側が気づいて、開かれた職場とか、開かれたテレビ番組を作ってもらわなくては。さらには、視聴者も巻き込みましょうということは、全員でやらない限りは、こうした女性差別、マイノリティ差別の問題は解決できない。
もちろん、気づきを多くするために女性を増やすのはいいことだと思いますし、私は女性が多くいることが、職場も番組も豊かにすると思います。
けれども、女性を増やすことだけで、そして、その少ない女性たちに、問題を背負わせること。それも気の毒だと思うし、そんな簡単な問題じゃないと思います。
(林教授)

Q:ストーリー性のあるドラマやアニメの中で、LGBTQに関する内容を主題にする場合、「おかま」という名称を使用する是非について、意見をうかがいたい。最終的に、LGBTQの当事者を否定しない内容で、ストーリー上必要なセリフとして、「おかま」というワードを使用することは問題があるのかどうか。また、LGBTQを主題に物語を作る場合、気にしたことがあれば教えてほしいです。

A:全部、私の意見ですからね、みなさんが考えて、そうじゃないと思われれば、みなさんで、話していただければと思いますけれども、「おかま」という言葉は過去に使われてきた言葉で、それで傷ついてきた人がたくさんいると思います。傷ついてしまうから、さっき言ったように、自分の属性を隠す。LGBTQはそのような典型的な社会グループの一つだったと思うんです。
その言葉をもし何かの形で使わなければいけないシチュエーションがあるとしたら、何らかの形で使わざるを得ないっていうことを、しっかりと留保をつけて、限定しない限り、私は使えないと思います。使うと大きな責任が発生するわけです。緊張感と覚悟をもって、どうしても使わなくはいけない理由を説明すべきです。説明する責任は使う側にあります。
特にテレビは、公益性、公共性がとても重要な価値なわけですから。ぜひ緊張感をもって考えていただければと思います。(林教授)

Q:数年前に、イギリスのBBCで、番組に出演する人たち全員の男女比をなるべく半々にしようという取り組みが始まったときに、批判の声が上がったと聞いたことがあります。例えば専門家のインタビューだったら、その道に一番通じる人に話を聞くべきだと。その以外の人たちにも、適材適所、もっともその道に優れている人を据えるべきで、男女比を均等にすることを目指そうとして、よりよい番組作りが阻害される恐れがあるのではないかという批判があったらしく、調べた限り、人権の立場から明確にそれに反論するインタビューにまだ出合えていなくて、どう思われるか、うかがいます。

A:そういう話もよくありますね。テレビに出演するコメンテーターは、もちろん、うまく解説のできる人、その分野の一番よく問題に精通している専門家が出ることがいいわけです。しかし、現実は、必ずしもそういう判断基準でコメンテーターが選ばれているとは限らないと思います。私も研究者ですから、そういうふうに思います。
どう選ばれているかというと、テレビ局の方が一番よくわかると思うのですが、あそこであの人は前も出ていたとか、時間がないから電話番号が携帯に入っているからとか、惰性や効率で決まっていくわけです。つまり、専門家の選定基準が、現状再生産の、ジェンダーバランスを全く気にしない方法がまずいのです。
惰性で選ぶのではなく、まさに優秀な専門性を基準に、これまであまり声を出していない女性の専門家を意図的に入れることも考えていただきたいと思います。

さらに付け加えるとすれば、声を与えることによって、専門家も伸びていくわけです。
今まで機会がなかったから、女性の専門家もメディアの中で育っていかなかったところがあると思います。
みなさんの公共的な使命の一つに、よい専門家を育てるという観点をお持ちいただければありがたいです。男女含めたいろいろな専門家を育てていただければ、女性の視点とか、マイノリティの視点とか、多様な視点が自然に増えていくわけですから、三方良しで、ぜひそうした形で専門家の選定も考えいただければと私は思います。(林教授)

●曽我部委員長
(講演で使った)放送業界での女性の視点とは、というスライドに、人権委員会の意見がいずれも男性委員によるものだとあります。この趣旨が、わからなかったのですけど。補足いただいてよろしいでしょうか。

●林教授
放送業界に女性が少ないことが問題だという委員会の意見は、女性こそがこうした問題に敏感だというご意見だと受け止めました。翻って、BPO放送人権委員会には女性の委員もおられるのですが、少数意見や補足意見は全員男性で、こうした部分に敏感な女性の意見があってもいいわけですけども、それがない。あるいは、BPOという組織でも女性が声を抑制している(抑圧されている)のかもしれない。そういう意味では、男性、女性ということを組織内の数で考えることが、どこまで適切かなと思います。
ただ、内情が私にはわからないので間違っているのかもしれません。

●曽我部委員長
委員が個別に意見を書くかどうかは完全に個人の自由なので、たまたまこうなったということではあります。女性の視点か、男性の視点かは関係ないということであれば、それはおっしゃるとおりだと思います。

●林教授
はい。組織の中ですと関係のないこともよくある、と申し上げました。

●曽我部委員長
そういう趣旨であれば、了解しました。ありがとうございます。

●林教授
委員会の要望では、放送産業の女性の少なさを強調されてきていると思うのです。そういうことなら、委員会の中でも男性と女性がいるので、女性としての何らか観点がもう少しあってもいいのかなと思ったので指摘しました。
この指摘が適切かどうかは、議論のプロセスはわかりませんので委員会に委ねます。書くか書かないかは、もちろん自由だと思います。けれども、書くこともできるわけなので、そういう意味では、委員会がご指摘されているような「女性の視点」は可視化されていませんでした。

●曽我部委員長
個別意見には出ていないけれども、男女を問わず、全員の意見を自由に出し合って、意見をまとめたということです。

■オンライン意見交換会のまとめ(曽我部委員長)
長時間、みなさまにお付き合いいただきましてありがとうございます。登壇いただきました林先生、それから説明いただいた、あいテレビの方々もどうもありがとうございました。人権委員会は、構造というよりは個別の行為、個別の事案を判断するのがミッションだと認識しております。構造問題を正面から扱うのは難しいという認識がありました。
したがって、今回取り上げた委員会決定の本体では、個別の問題を取り上げ、構造問題は付言のところで扱うにとどまりました。
他方、本日この場で議論すべきは、やはり構造問題だろうということで、本日はそちらになるべくフォーカスするスタンスで、私どもは説明もさせていただいたということです。ただ、その点について、わたくしども特段専門家でもありませんので、林先生には、こういった構造問題をご説明いただきました。
マジョリティが作る特権ですとか、無意識のバイアス(アンコンシャスバイアス)の温存ですとか、マイクロ・アグレッションの問題というようなところにまとめていただいて、われわれが漠然と申し上げていた構造問題というのが可視化されたと思っています。

これは林先生からもありましたし、私も冒頭申し上げたのですけれども、こういう意見交換会の場ですと、その場で話を聞いて「ああ、そうか」とか、「いや、違うんじゃないか」とか、感想はおありかと思います。けれども、大体それで終わってしまうことがあります。あいテレビさんにおじゃましたときも申し上げたのですけれども、講師を呼んで話を聞いて終わりでは、何も生み出さないと思います。
したがって、きょう話をお聞きになった方々はそれぞれ各社にお持ち帰りいただいて、さらに議論をしていただく。議論するだけではなくて、何らかのアクションにつなげていただく。そういうことが大事だと思います。アクションする中で、さらにアドバイスが必要であれば、それぞれ、専門家がいますので、そこに相談するとか、そういう形で今後につなげていっていただきたいと思っております。
本日がその一歩になれば、大変ありがたいと思います。どうもありがとうございました。

以上

第325回

第325回 – 2024年3月

2023年度申立て状況を報告…など

議事の詳細

日時
2024年3月19日(火) 午後4時 ~ 午後6時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室 (千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

2.2023年度申立て状況報告

年度末にあたり、2023年度の申立て状況全般について事務局から報告した。

3.運営規則改正について

現行運営規則に、主にヒアリングなどの実状に合わせた小さな修正を施した事務局案が提案され、議論の結果承認の決議がなされた。この後、5月の理事会で諮られることになる。

4.その他

今年度で退任する委員から挨拶があった。

以上

第324回

第324回 – 2024年2月

「判断ガイド2024」について…など

議事の詳細

日時
2024年2月20日(火) 午後4時 ~ 午後6時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室 (千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

2.委員会における審理の進め方について

放送人権委員会の審理の進め方について、運営規則などに改善すべき点がないか検討した。

3.「判断ガイド2024」について

事務局から完成した「判断ガイド2024」について説明した。今回の改訂からBPOウェブサイト上で公開されることも報告した。
「判断ガイド2024」はこちら

4.その他

2024年度の委員会開催日程を確認した。

以上

第323回

第323回 – 2024年1月

委員会における審理の進め方について…など

議事の詳細

日時
2024年1月16日(火) 午後4時 ~ 午後6時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室 (千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.意見交換会について

委員会に先立って行われたオンライン意見交換会について、全国の放送局110社から約230人が参加したことなどが報告され、委員から感想が述べられた。

2.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

3.委員会における審理の進め方について

放送人権委員会の審理の進め方について、改善すべき点がないか議論した。

4.その他

昨年12月に出された日本弁護士連合会の犯罪被害者等に関する意見書および日本民間放送連盟の「人権に関する基本姿勢」等を事務局から紹介し意見交換した。

以上

2023年12月19日

ドイツのテレビ自主規制機関FSFと交流

放送人権委員会は12月19日に開催された第322回委員会のなかでドイツの放送番組自主規制機関であるFSFとのオンライン交流を行った。
交流は、曽我部委員長とFSFミカット所長の間であいさつを交わして始まった。そしてまずミカット所長がFSFについて、ドイツの法律が定めるテレビ番組の青少年保護のための自主規制機関で番組内容によって放送時間を定めたランク付けを行っている。ドイツの民間放送37社が会員となって出資して運営されていることなどを説明した。FSFでは、全国から放送と利害関係のない教師や科学者、ジャーナリストら100人を委員として選び、一年間のうち4週間ほどベルリンに招いて1番組3から5人で審査を行っている。最近の課題として「リポーティング・プリビレッジ」(報道の権利)を挙げ、ニュース番組において“報道の自由”に基づいて放送されるコンテンツと青少年保護の在り方について議論が活発化していることを紹介した。これは世界各地の戦争や紛争における衝撃的なシーンが報道される機会が急増していることが背景にあるという。このほかFSFがランク付けの補助的作業にAI技術の導入を試みていることを紹介した。
これを受けて曽我部委員長が委員会を代表する形で、まずドイツがとる時間帯ごとの年齢別規制について録画機やインターネットの普及による変化はないかということや、日本でも議論のある性的表現の有害性に関するドイツの議論や、過激な政治的発言の扱いをどうしているかなどについて質問した。
これに対してミカット所長は「録画やネットへの対応はできない。しかし放送は、法律によって時間的規制を守る義務がある。録画等については親の責任ということになるだろう」と応じた。また性表現については「性的な表現だけで判断するわけではなく、暴力や賞賛といった要素が加わることで有害になることに注意している。ただ詳細な性描写は、理解できない幼い子供達には害になる」とドイツ国内の議論を紹介した。そして過激な政治的言動については「分類項目ではなく禁止事項としてリストアップされている」として、旧ナチスドイツのハーケンクロイツ(鉤十字)の例を紹介した。それによると鉤十字を放送で扱うことは基本的に禁じられているが、当時の歴史を振り返るといった文脈での使用は認められる。しかしそのプロパガンダを流布することは禁じられていると説明した。そして「過激な政治的発言について系統的に分類するならば“人権”ということになるのだろう」と応じた。
委員からは、FSFが試みる番組判定に関するAI補助の導入について具体的な内容を質問したのに対してミカット所長は「まずはシーンごとにタグ付けし、それぞれのリスクを判定、委員の意見を加味することを想定しているが、AIには問題シーンが出てくる文脈まで判断することはできないので、そこは人間が判断することになる」と述べ、AI導入はまだ試みの段階であることを強調した。
一方、人権委側からも活動内容を説明し、例として「リアリティー番組出演者遺族からの申立て」に対する委員会決定の概略を紹介した。これに対してFSF側からは「この番組を知っていた。委員会決定にも注目した」としたうえで、委員会決定について「表現の自由と出演者保護、どのようにバランスをはかったのか」と質問した。これに対して曽我部委員長は視聴者からは批判があるが「人権侵害は認定しない一方で放送倫理上の問題ありという決定にバランスの考慮が表れている」と応じた。

BPOとFSFとの交流は2021年には大日向理事長、2022年には青少年委員会と行い、今回の人権委との交流で3回目となった。青少年保護のための番組のランク付けを行うFSFとBPO人権委員会とでは目的も制度も違うため議論がかみ合うか心配もあったが、委員からは「直接話を聞けたことはよかった。放送事情も違い工夫がいるが、具体的な事案を通じて理解を深められると思う」という声が聞かれた。またFSF側からも「事案をめぐる議論は具体性があり、双方の考え方の違いも理解できて大変興味深かった」とのメールが届いた。
今回の交流、放送番組をめぐる問題意識や委員の姿勢など同じように取り組んでいることや、各国でも問題が起きているリアリティー番組について、BPOの委員会決定にも世界の目が注がれていることを知る機会となるなど、実りのある交流となったといえる。

第322回

第322回 – 2023年12月

ドイツFSFとのオンライン交流…など

議事の詳細

日時
2023年12月19日(火) 午後4時 ~ 午後6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室 (千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

2.ドイツFSFとのオンライン交流

放送人権委員会とドイツの放送番組に関する自主規制機関FSFとの交流会が約1時間、現地ベルリンとオンラインで結んで行われ、意見交換した。
詳細はこちら

3.意見交換会について

来年1月開催の二つの意見交換会についての細かな段取りなどを事務局から報告した。

4.その他

12月4日に大日向理事長名で公表した「芸能事務所における性加害問題について」について事務局から報告した。曽我部委員長から「そして放送がこれからも視聴者の信頼の上に公共的な役割を果たしていくため、適時、さまざまな形で放送局と議論する場を設けて、意見をたたかわせていきたいと考えております。」という見解の結語が重要だとする補足があった。

以上

第321回

第321回 – 2023年11月

「判断ガイド2023」について…など

議事の詳細

日時
2023年11月21日(火) 午後4時 ~ 午後7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室 (千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

2.「判断ガイド2023」について

「判断ガイド2023」の作業進捗状況と、ウェブサイトでの画面イメージや活用の仕方などについて、事務局から報告した。

3.意見交換会について

来年1月開催の二つの意見交換会について、概要や進行案を事務局から報告した。

4.その他

ドイツFSF(テレビ自主規制機関)とオンラインでの意見交換を近く実施予定であることを事務局から報告した。

以上

第320回

第320回 – 2023年10月

「判断ガイド2023」について…など

議事の詳細

日時
2023年10月17日(火) 午後4時 ~ 午後6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室 (千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

2.「判断ガイド2023」について

現行の「判断ガイド2018」に新規委員会決定などを書き加える形で作業が進行し、鈴木・二関両委員長代行による監修を受けて改訂している。また、今回の判断ガイドからウェブサイト上にも公開していくことも報告された。本文表現などについて議論した。

3.意見交換会について

来年1月開催の二つの意見交換会について、テーマなどを事務局から報告した。

4.その他

最近の視聴者意見の状況などにつき事務局から報告した。

以上

第319回

第319回 – 2023年9月

意見交換について…など

議事の詳細

日時
2023年9月19日(火) 午後4時 ~ 午後5時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、野村委員、丹羽委員、松田委員、水野委員

1.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

2.意見交換会について

来年1月に予定されている意見交換会の概要を事務局から報告した。

3.その他

本人の申し出により今月末に退任することになった丹羽委員から挨拶があった。

以上

2023年7月18日

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」通知・公表の概要

[通知]
2023年7月18日午後1時からBPO会議室において、曽我部真裕委員長と事案を担当した二関辰郎委員長代行、松田美佐委員、補足意見を書いた水野剛也委員、少数意見を書いた國森康弘委員が出席して、委員会決定を通知した。申立人本人と代理人弁護士、被申立人のあいテレビ(愛媛県)からは番組プロデューサーら3人が出席した。
曽我部委員長がまず、「本件番組には人権侵害は認められず、放送倫理上も問題があったとまでは言えない」という委員会の判断を示したあと、今回は申立人の心情を深刻に受けとめた結果、「問題点の指摘と要望」という形で委員会の考えをまとめたと伝えた。
申立人の「番組内での他の出演者からの下ネタや性的な言動により羞恥心を抱かせられ、放送によってイメージが損なわれ、人権侵害を受けた」という主張については、本件の特徴として、他の出演者の言動が番組内に限られており、視聴者に見られることを意識したやりとりで特殊な場面と考えられ、通常のセクハラの判断基準とは異なるという見解を説明したうえで、本件では、①放送局が申立人の意に反していたことに気づいていたか、あるいは、気づいていなかったとしても気づくことはできたと言えるかどうか、②深夜バラエティー番組として許容範囲を超える性的な言動があり、あるいは、申立人の人格の尊厳を否定するような言動があったと言えるかどうか、という基準を採用したと述べた。それに照らすと、①について、あいテレビが当時気づくことは困難であり、②については、委員の中には番組内での性的な言動は非常に悪質だという意見はあったものの委員会で一致は見られず、最終的には、人格の尊厳を否定するような言動があったとまでは言えないとした。また、申立人が番組プロデューサーに悩みを打ち明けたあとの放送対応については、申立人が問題だと指摘した部分は放送しなかったという経緯があり問題があるとまでは言えないとした。これらを総合して判断した結果、人権侵害は認められなかったと説明した。
さらに、放送倫理上の問題に関しても人権侵害の判断と同様に、問題があるというのは妥当ではないとの結論に至ったと伝えた。
ただし、あいテレビに問題点として指摘される部分がなかったかというとそうではなく、要望として大きく取り上げたと伝えた。言動が繰り返され、言われた側の役割が固定化し、放送を通じてそれを公開されることは内心で意に反していると考える申立人を極めてつらい立場に追い込んだ。今後、あいテレビはそのような状況を招かないよう環境整備に努めること、また、ハラスメントに対する人々の問題意識が高まってきた今日において、本件番組で指摘されたような表現が放送するのに適当だったか否かをよく考えてほしいこと、そして、フリーアナウンサーとテレビ局という立場の違い、他の出演者との関係性、男性中心の職場におかれた女性の立場というジェンダーの視点に照らしても申立人は圧倒的に弱い立場に置かれていたことが明らかで、放送局としては降板するほどの覚悟がなくても出演者が自分の悩みを気軽に相談できるような環境やジェンダーに配慮した体制を整備する必要があること、そのうえで、日頃から出演者の身体的、精神的な健康状態につねに気を配り、問題を申告した人に不利益を課さない仕組みを構築するなど、よりよい制度を作るための取り組みを絶えず続けること、という要望が付いたと説明した。さらに、ジェンダーバランスが適切にとれていれば下ネタや性的な言動が本件番組ほどになされることはなく、申立人に対する性的な言動への歯止めがかけられた可能性があったことも指摘した。
最後に、要望は直接的にはあいテレビが対象であるが、本件を契機として、放送業界全体が自社の環境や仕組みの見直しを行い改善に努めてほしいと伝えた。
続いて二関委員長代行が、「放送人権委員会決定における判断のグラデーション」に基づき、あくまでもグラデーション上の人権侵害や放送倫理上の問題というカテゴリーに照らすならば、問題があるとまでは言えないと判断した旨説明した。そして、今回の委員会決定の「問題点の指摘と要望」の部分が異例の長文であることに触れ、あいテレビに問題がなかったわけではないと述べた。あいテレビに対して、自社で設置した相談窓口が本当に機能しているのかをきちんと検証してほしいと要望した。
松田委員は「本件で申立人に向けられ、放送された性的な言動は悪質であり、放送を控えるべきであった」と個人の思いを伝えた。しかし一方で、表現内容だけを取り上げて問題ありとすることについては、「表現の自由」の観点から謙抑的であるべきだという委員会の判断に賛成だと述べた。そして、あいテレビに対し、表現によって誰かを傷つける可能性にもっと意識を向けてほしいと要望したうえで、「なぜ、申立人の悩みに気づけなかったのか」「なぜ、申立人は悩みが外部に伝わらないよう振る舞わざるをえなかったのか」と問いかけ、放送業界全体に、さまざまなジェンダー構造上の問題に対して社会がよりよい方向に向いていくための取り組みを求めたいと述べた。
次に、補足意見を書いた曽我部委員長がその内容を説明した。放送業界全体にジェンダーの観点から考えてもらうため、放送とジェンダーに関する近年の状況について紹介したと伝え、ジェンダーに関する偏見を再生産するのではなく率先して社会の多様性を番組に反映していくこと、そのための組織の整備を行うこと、自主的な取り組みを進めてほしいことを述べた。
同じく補足意見を書いた水野委員が「あいテレビには申立人との関係が良好だという思い込みがあったように見える」と述べ、人の心のうちは外からはうかがい知れないということを肝に銘じ、放送局は職場環境の見直しに取り組んでほしいと伝えた。
続いて、少数意見を書いた國森委員が「ハラスメントとは、気づいているか否か、あるいは、悪気があるか否かということとは関係なく、相手に苦痛や不快、不利益を与えること、あるいは相手の尊厳を傷つけることであって、その観点から、本件では人権侵害があったと考えている」と述べ、その論拠を説明した。「一般社会でハラスメントにあたるものが番組内で許されるはずはなく、申立人と性的な要素を過度に結びつけて描いている表現は非常に悪質。ましてや本人が下ネタや性的表現に同意をしていない、番組制作のあり方に納得をしていない、スタッフや共演者に不信が募る、という状況では一層深刻なハラスメント被害にあたる」とし、今回の表現が問題ないと捉えられれば、ハラスメントは今後も助長され、番組制作の現場でも一般社会でも被害はなくならず、苦しみ傷つく人が増えるだろうと述べた。
この決定を受け申立人は「残念という言葉しかない。不満だ。あいテレビが“要望で済んだ”と受け取ってしまうことが心配。長年、苦痛を訴えてきたのは事実。あいテレビが気づかなかったから今回の判断になった、と言われたことはショックである」と述べた。
あいテレビは「真摯に受け止めている。今回の申立てを受け、相談しやすい環境を作るために、現在、組織的に動いている」と述べた。

[公表]
午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで記者会見し、委員会決定を公表した。放送局と新聞社、民放連合わせて25社1団体から36人が出席した。テレビカメラの取材はTBSテレビが代表取材を行った。曽我部委員長がパワーポイントを使いながら、決定の結論とそこに至る考え方を説明した。特に、結論部分にある「問題点の指摘と要望」の内容について強調し、もっとも時間をかけ、丁寧に説明した。
二関委員長代行は「本当に難しい事案で、委員の間でさまざまな議論が交わされた。申立人と被申立人の言い分が食い違う中での審理となったが、委員会は証拠調べや証人尋問等をするわけではない。双方から提出された資料に基づいて認定していった結果が今回の判断の骨格となっている」と補足した。
松田委員は「本件番組を視聴して驚き、あきれ、気分が悪くなった。理由は番組内での性的な言動やからかいが、女性である申立人に対して、その人格と絡める形で向けられたものであったからにほかならず、これまで自分が経験してきた、さまざまな場面で受け流すことを暗黙のうちに要請されたからかいを想起させられ、非常につらかった。しかし一方で、表現内容だけを取り上げて問題があるということは表現の自由の制約につながりうることも理解しており、謙抑的であるべきという多数意見に賛同している。放送局は、『気がつかなかった』で済ませずに、自らの表現がどういう可能性を内包しているかをもっと意識して制作を行ってほしい」と述べた。
続いて、曽我部委員長が委員会決定における補足意見と少数意見の位置づけを説明したうえで、自身の補足意見の内容について説明した。要望でも取り上げたジェンダーバランスの観点から、「放送業界は全体として、社会に存在する偏見をただ再生産するのではなく、社会の多様性を番組に反映し促進していけるよう組織を整えるために自主的な取り組みを進めることが期待されている」と述べた。
水野委員は、「申立人の苦痛は非常に深刻なのに、あいテレビはまったく気づいていなかった。その乖離に非常に戸惑った。あいテレビには、申立人とはなんでも言い合える関係であるという過信があったようだ。心の内は外からうかがい知ることはできないことを肝に命じておくことが重要である」と述べた。
國森委員は、「多数意見では構造的な問題点を指摘した上で、今後のよりよい制度作りに向けた取り組みを放送局に対して要望し、また、放送業界全体における改善も期待している。その点においては賛同している」と前置きしたうえで、「ただ、ハラスメントとは本人の意図とは関係なく、その言動が相手を困らせ傷つけるものであるという観点から、本件には人権侵害があったと考えた。審理対象期間外であるが、背中のファスナーを他の出演者から下ろされるようなシーンなどもあり、申立人が性を売りにして世を渡るような人物であるかのように、過度に人格に性的な要素を結びつけてイメージを損なった。本人も性的な表現に同意や承諾をしておらず、かなり悪質だ」と、結論に至った理由を説明した。

<質疑応答>
(質問)
申立人、被申立人双方の受け止めは?
(曽我部委員長)
申立人は委員会決定に不満だと述べた。放送局に苦痛を何度も伝えてきたのに委員会決定にそれが反映されていないというのは事実認定としておかしい、というのが申立人の言い分。本件の問題の深刻さに委員会が一定の理解を示しているというのはわかるが、結論として問題がないというのはあいテレビのやり方を認めることになってしまうと懸念していた。あいテレビは、委員会決定を真摯に受けとめていることと、体制についてはすでに一定の見直しを行い、相談体制やジェンダーバランスに関しても社内の意識を高め取り組みを進めていることをコメントした。

(質問)
2022年3月に番組が終了したことは本件と関わっているか。
(曽我部委員長)
大いに関係している。2021年11月に申立人が番組プロデューサーに悩みを伝え、降板すると申し出た。番組は開始当初から出演者3人でやってきたため申立人だけが降板するのではなく、番組自体を終了しようという判断となった。

(質問)
これを機に、委員会や委員長として、深夜番組について何か意見を出すようなことは考えているか。
(曽我部委員長)
民放連、あるいはNHKの放送基準には性的な表現についての規定があり、それに則って番組は作られている。委員会として「ここまでは許される、ここからはNGだ」ということを一概に言うということは難しく、行わない。

(質問)
あいテレビのジェンダーバランスについて、考査体制の点からお考えがあれば。
(曽我部委員長)
今まで女性が0だったのを1人入れたからもうそれでよい、というのではなく、実質的にジェンダーバランスが確保されるような、そういう体制を目指すことが重要だと思う。

(質問)
あいテレビは、申立人に対して謝罪を行ったか。
(曽我部委員長)
きちんとした形で謝罪したということにはなってない。
(二関委員長代行)
本人があいテレビ側との接触を嫌がったこともあり、コミュニケーションがお互い取れないような状態で現在に至っていると理解している。

(質問)
本件番組の表現について、あいテレビは現在どのような認識でいるのか。
(曽我部委員長)
まったく問題がないという言い方ではなかったが、ただ、番組は6年間続いており、基本的には他愛のないトークが繰り広げられる中で時々下ネタや性的な言動があるということで、「全体を見てほしい」ということを強調していた。

(質問)
少数意見の中に、申立人がプロデューサーへの不満等を伝え、それに対して、プロデューサーから「真意確認」というメール返信があったという記述があったが、多数意見ではまったく触れてはいない。これは委員会として、客観的な証拠として確認できなかったということか。
(二関委員長代行)
客観的に判断できる範囲で判断したというのが多数意見のスタンス。少数意見で言及しているが多数意見では言及していないのは、そのメールが資料として提出されてないからであり、そのため特に触れていない。
(國森委員)
委員会に証拠を提出することは義務付けられず、委員会では証拠調べはしないという制約がある中で、何に重きを置くかということを考えた。記述内容は具体的で信憑性があるとみた。双方の主張に争いのない部分で判断するというより、争いのある部分にこそ申立人が訴えたい問題があるのではないか。今回は、さまざまなものを犠牲にして訴えた申立人の方に重きを置くべきだと思った。

(質問)
「真意確認」というメールの資料提出を、例えばあいテレビに求めるような対応はできなかったのか。
(曽我部委員長)
例外的な場合を除き、基本的に委員会が資料提出を求めることはない。今回は求めていない。

(質問)
本件について人権侵害や放送倫理上の問題を判断するうえで先例やガイドラインはなかったという理解でよいか。
(曽我部委員長)
本件で直接参照できる先例やガイドラインがあったとは認識していない。そのため、委員会でどういう枠組みで判断するのかということを相当議論した。
(二関委員長代行)
ハラスメント関連の法律や厚労省のガイドラインなどは職場環境を害する言動を広く含むものとしてセクハラを定義したセクハラ防止のためのルールであるため、本件には当てはまらないと委員会で議論し、独自の基準を立てた。パワハラなどに関する実際の裁判例なども参考にした。

(質問)
少数意見で、申立人のファスナーを他の出演者が下ろすことなどの記述があったが、あいテレビが気づけたかということとは別に、そのようなシーンを放送することは性加害と視聴者に受けとられかねず、その点で人権侵害とは考えられなかったか。
(曽我部委員長)
当該シーンは背景事情として考慮しているが、直接の審理対象ではない。職場で行えば犯罪だと思うが、番組の場合、演出なのかどうかということがわからない部分がある。当時の申立人のブログ等では積極的に本件番組を宣伝していたし、ファスナーのシーンも比較的肯定的にブログに書いていた。そこからすると、あいテレビは気づかなかっただろうというのが委員会の考えである。他方で、行き過ぎた性的表現を放送するということ自体は、もちろん、放送基準の問題が発生するが、問題か否かの判断は一概にはできない。
(二関委員長代行)
申立人は、お尋ねのシーンの収録時にカメラを向けられてニコニコしている自分の写真を、自分からブログにアップしており、委員会ではこのシーンの位置づけが曖昧だと議論し、申立てから遡って1年以内の放送ではなく審理対象でもなかったので多数意見では触れなかった。

以上

第318回

第318回 – 2023年7月

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」通知・公表…など

議事の詳細

日時
2023年7月18日(火)  午後4時 ~ 午後5時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」通知・公表

審理入りしていた「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」について、委員会決定第79号として、申立人と被申立人双方への「通知」と「公表」記者会見を、委員会当日に行った。今回の委員会では委員長と事務局からその様子が報告された。

2.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

3.その他

事務局から今年度開催予定の意見交換会について報告した。

以上

2023年度 第79号

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」に
関する委員会決定

2023年7月18日 放送局:あいテレビ(愛媛県)

見解:要望あり(補足意見・少数意見付記)
申立ての対象は、あいテレビが2022年3月まで6年間放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組に出演していた女性フリーアナウンサーが、番組内での他の出演者からの度重なる下ネタや性的な言動によって羞恥心を抱かせられ、そのような番組を放送されたことでイメージが損なわれたとして、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと申し立てた。あいテレビは、番組の内容は社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はないと反論していた。委員会は審理の結果、人権侵害は認められず、放送倫理上の問題もあるとまでは言えないと判断した。そのうえで、制作現場における構造上の問題(フリーアナウンサーとテレビ局という立場の違い、ジェンダーバランスの問題)に触れ、あいテレビに対して職場環境や仕組みを見直し改善していくための取り組みを続けるよう要望し、また、放送業界全体に対しても注意を促した。

【決定の概要】

申立人はフリーアナウンサーであり、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで6年間にわたって週1回放送した深夜バラエティー番組『鶴ツル』(「本件番組」)に出演していた。申立人は、番組内での他の出演者からの下ネタや性的な言動により羞恥心を抱かせられ、放送により申立人のイメージが損なわれたとして人権侵害と放送倫理上の問題を理由に本件を申し立てた。申立人は、放送開始当初その悩みをあいテレビに伝えたと主張するのに対し、あいテレビは、番組の趣旨を十分理解して申立人は出演していたと主張し、申立人が悩んでいたこと自体を否定する。
決定の概要は以下のとおりである。
本件番組における性的な言動によって長年悩んできたという申立人の主張は真摯なものである。ただし、そのことに関連して放送局に責任が認められるためには、本件番組が申立人の意に反していたことに放送局が気づいていたか、あるいは気づかなかったことに過失が認められる必要がある。この点、2021年11月に申立人が自己の番組降板を伝えつつ本件番組に関する悩みを本件番組のプロデューサーに伝えた際の録音反訳があり、プロデューサーがその時点で申立人の悩みを初めて知って驚いたことがわかる。このことから、あいテレビは同年11月に初めて申立人の意向を知ったと考えられる。それ以前にあいテレビに過失があったかを検討するに、申立人自身が、仕事として引き受けた以上アナウンサーの矜持として悩みが人にはわからないようにしたと述べていることや、申立人の番組関係者へのメールやブログからは、本件番組に対する積極性や好意的評価が少なくとも外見上窺われることから、あいテレビに過失があったとは言えない。
2021年11月以降について検討すると、あいテレビは、申立人から悩みを伝えられて直ちに下ネタをやめるよう他の出演者に伝え、収録時に申立人が不快と伝えた部分は放送しない措置をとるなどしており、あいテレビの対応に問題があったとは言えない。
さらに、本件番組で仮に深夜バラエティー番組として社会通念上許容される範囲を超えた性的な言動があり、あるいは申立人の人格の尊厳を否定するような言動があれば、申立人の意向に関するあいテレビの認識にかかわらず人権侵害が成立しうる。この点、本件では、下ネタや性的な言動が申立人に向けられていた場合がある点を特に問題とする複数の意見があったが、表現内容に着目して放送局の責任を問うことは表現の自由に対する制約につながりうるので、人権侵害ありとの判断には謙抑的であるのが妥当である。本件番組では眉をひそめたくなるような言動もあるが、人権侵害に当たる言動があったとは認められない。
以上から、本件番組において申立人に対する人権侵害があったとは認められない。
放送倫理上の問題の有無としては、まず、民放連の放送基準に照らして表現に着目した検討を行う。本件番組は、一般に子どもや青少年が視聴しない深夜の時間帯の放送であり、トークショーとしてその場の演出として出演者間でやりとりをしている事情に照らし、表現に着目して放送倫理上問題があると判断するのは控えるのが妥当である。
本件番組では、回を重ねるごとに出演者間で相手に対し「ここまで言っても許されるだろう」と考える範囲が広がっていき、申立人に対する下ネタや性的な言動も、冗談として言う分には許されると他の出演者が考える範囲が次第に広がったと認められる。そうすると、この問題は、個別具体的な言動について放送倫理上の問題として取り上げるより、制作現場における構造上の問題として捉えるのが妥当である。
また、出演者の身体的・精神的な健康状態に放送局が配慮すべきことは社会通念上当然であり、配慮が欠けていれば放送倫理の問題になりえる。この点、あいテレビは、申立人から悩みを打ち明けられて前述の措置をとるなどしている。したがって、放送倫理上の観点から問題があったというほど、あいテレビについて出演者への配慮に欠けていたとは言えない。
以上より、本件において放送倫理上の問題があるとまでは言えない。
最後に、制作現場における構造上の問題について要望を述べる。フリーアナウンサーとテレビ局という立場の違い、男性中心の職場におかれた女性の立場というジェンダーの視点に照らし、本件において申立人は圧倒的に弱い立場にあった。しかし、あいテレビは、申立人が構造的に弱い立場にあるという視点を欠いていた。あいテレビに対しては、降板するほどの覚悟がなくても出演者が自分の悩みを気軽に相談できる環境や職場でのジェンダーバランスなどの体制を整備したうえで、日ごろから出演者の身体的・精神的な健康状態に気を配り、問題を申告した人に不利益を課さない仕組みを構築するなど、よりよい制度を作るための取り組みを絶えず続けるよう要望する。
ここでの指摘事項は放送業界全体に共通する面があり、放送業界全体が、本事案を自社の環境や仕組みを見直し改善していくための契機とすることを期待する。

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2023年7月18日 第79号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第79号

申立人
女性フリーアナウンサー
被申立人
株式会社あいテレビ
苦情の対象となった番組
『鶴ツル』(毎週火曜日 午後11時56分~午前0時11分)
(2016年4月5日放送開始、2022年3月29日放送終了 全304回)
放送日
2021年2月9日
2021年3月23日
2021年4月20日
2021年5月4日
20211年6月1日
2021年8月3日
2021年8月31日
2021年12月21日

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.本件の特徴
  • 2.人権侵害の有無
  • 3.放送倫理上の問題の有無

III.結論と要望

  • 1.結論
  • 2.問題点の指摘と要望

IV.補足意見及び少数意見

  • 1.曽我部真裕委員長の補足意見
  • 2.水野剛也委員の補足意見
  • 3.國森康弘委員の少数意見

V.放送概要

VI.申立人の主張と被申立人の答弁

VII.申立ての経緯および審理経過

全文PDFはこちらpdf

2023年7月18日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2023年7月18日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時30分から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

第317回

第317回 – 2023年6月

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2023年6月20日(火)  午後4時 ~ 午後6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、これまでの審理をもとにまとめた決定文の最終案が起草委員から示され議論し、委員会決定として了承した。その結果、7月中に通知・公表を目指すことになった。

2.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

3.その他

新たに就任した神田真介理事・事務局長が挨拶した。

以上

第316回

第316回 – 2023年5月

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2023年5月16日(火)  午後4時 ~ 午後8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、野村委員、
丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、修正された決定文草案について各委員が意見を述べ、概ね意見の一致をみた。次回委員会で最終的に文案を確認することになった。

2.最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

3.その他

7月に予定されている「BPO設立20周年セッション」の概要について、事務局から説明した。

以上

第315回

第315回 – 2023年4月

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2023年4月18日(火)  午後4時 ~ 午後7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、起草委員作成の決定文草案について活発に議論が行われた。次回委員会でさらに文案を検討していくこととなった

2.「判断ガイド2023」進捗状況報告

事務局から今年中の完成を目指す「判断ガイド2023」について作業の進捗状況を報告した。

3. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

以上

第314回放送と人権等権利に関する委員会

第314回 – 2023年3月

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2023年3月14日(火)  午後4時 ~ 午後7時30分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者
曽我部委員長、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、前回委員会での申立人・被申立人双方へのヒアリングを踏まえ、今後の方針などについて幅広く議論した。

2. 2022年度申立て報告

年度末にあたり、2022年度の申立て状況全般について、事務局から報告した。

3. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

4. その他

2023年度委員会日程などを確認した。

以上

2023年2月14日

「ペットサロン経営者からの申立て」通知・公表の概要

[通知]
2023年2月14日午後1時からBPO会議室において、曽我部真裕委員長と事案を担当した鈴木秀美委員長代行、野村裕委員、少数意見を書いた二関辰郎委員長代行が出席して、委員会決定を通知した。申立人本人と、被申立人の日本テレビからは取締役執行役員ら4人が出席した。
曽我部委員長がまず、本件放送に人権侵害は認められず、放送倫理上も問題があるとまでは言えないと委員会の判断を示したあと、今回は、当事者への直接取材が実現しないまま放送したことについて、直接取材の重要性を認識するよう求める要望が付いたこと、さらに、放送倫理上問題があるとする少数意見が付いたことを伝えた。
申立人の「犬を虐待死させたと印象付け、事実に反する放送で名誉を侵害された」とする主張については、放送内容そのものは申立人の社会的評価を低下させるものだが、公共性・公益目的性・真実相当性が認められるため、人権侵害は認められなかったと述べた。
また、申立人本人に直接取材しなかったことについては、当事者への直接取材は大原則だが例外もあり、本件では、直接取材実現に向けた申入れ、ホームページに掲載された申立人のコメント紹介、複数の関係者からの取材内容などの諸事情を総合的に評価すると「放送倫理上の問題があるとまでは言えない」との判断に至ったことを説明した。ただし、この点については、日本テレビに対して直接取材の重要性をあらためて認識して今後の番組制作に当たるよう求める要望が付いたこと、さらに、3人の委員が「放送倫理上問題あり」とする少数意見を付記したことを改めて説明した。
続いて野村委員が、「委員の間でなかなか意見がまとまらず激しい議論の末、多数意見に落ち着いた」と委員会の審理では白熱した議論が展開されたことを伝えた。
鈴木委員長代行は、委員会決定の法律的な部分を、委員長の説明とは言葉を変えて、かみ砕いた表現で双方に伝えた。
続いて、少数意見を書いた二関委員長代行がその内容を説明した。二関委員長代行は、人権侵害がないという結論は多数意見と同じだが、放送倫理上の問題についての結論は異なり、本件を直接取材がなくても許される例外ケースと認めて良いかどうか検討した、と述べた。日本テレビは「特段放送を急ぐ事情はなかった」と言いながら、直接取材を申し入れた後、実質半日程度しか待たずに放送している。放送時点で、申立人が取材を拒否したと判断できる事情があったとも言えない。また、多数意見は「複数の関係者から迫真的な告白を含む取材をしていた」とするが、シャンプーに居合わせた関係者は犬の死亡について自分たちも非難されかねず、責任を他者に転嫁したい動機がある立場だったと言えなくもない。さらに、日本テレビの取材を受けた関係者は、申立人と相対する犬の飼い主から辿り着いた関係者で、別ルートの関係者への取材は行われていない。そうした事情を考慮すれば、本件が、直接取材がなくても許される例外ケースとは認められない。したがって、放送倫理上の問題があるという結論に至ったと述べた。
この決定を受け申立人は「犬を虐待したということだけはありえないです」と訴えた上で、委員会の審理に対し「ありがとうございました」と述べた。
日本テレビは「要望と少数意見を真摯に受け止めます。少数意見が3委員になったことも重く受け止めます」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見し、委員会決定を公表した。放送局と新聞社など合わせて22社から32人が出席した。テレビカメラの取材は当該局の日本テレビが代表取材を行った。曽我部委員長はパワーポイントを使って報道陣に決定の内容を説明した。この中で曽我部委員長は「申立人への直接取材がなされなかったことが、放送倫理上どう評価されるのかが論点だった」と述べ、この部分を丁寧に説明した。
野村委員は、直接取材がなくても許される例外ケースについては、委員の間でも考え方に幅があったとした上で、「一般的にはどういったことが考慮要素になるのか深く議論し、本件に即して今回の多数意見に至った」と説明した。
鈴木委員長代行は「日本テレビは2021年の1月26日に取材を始めて、28日の朝に放送した。私たちが一番気にしたのは、この時間経過の中で本人取材はできなかったのか、ということだ」と述べた。
二関委員長代行は「直接取材がなくても許される例外ケースについて、例外のあてはめのところで多数意見と少数意見が分かれた」と述べ、「例外はあくまでも例外。あまり緩く認めたら原則と例外がひっくり返ってしまうこともあり得る。多数意見は緩すぎるのではないか」と放送倫理上の問題ありとした少数意見を説明した。

<質疑応答>
(質問)
日本テレビの受け止めは?
(曽我部委員長)
少数意見を含めて委員会の指摘を重く受けとめて番組作りに活かしていきたい、というコメントがあった。

(質問)
申立人にコンタクトを取ってから半日しか待たなかった。それが例えば1日、2日待てば、レスポンスがなくても、十分尽くしたと言えるのか。コロナ禍であっても、直接、取材に行くべきだったと言うのか。今回のケースでどこまでやったら取材が尽くせたと言えるのか。
(曽我部委員長)
なかなか難しいところで、単純に時間だけではない。諸事情を考えるべき。他のアプローチも、諸事情を考えて、できることはやったと言えるかどうかという個別判断になってくると思う。

(質問)
局として半日しか待てない事情があったのか。
(曽我部委員長)
日本テレビ側は、実際のところは放送時間との関係があったと思う。ただ、日本テレビは「その日に放送しないといけないという差し迫った事情はない」と説明しているので、両面あったのかなと思う。
(野村委員)
コロナに言及があったので誤解のないように申し上げるが、ここでいう直接取材というのは、対面という意味での直接ではない。遠隔の方法でも、動画での通話とか電話でもよかった。それらを含めた直接取材という意味。直接会わなければいけないという意味ではないという点を補足しておく。
(曽我部委員長)
一般論として、リモート取材と直接対面での取材、あるいは現地を見ての取材とは違うかと思うが、今回はそこまで意識されていない。直接取材と言うのはリモートでも構わないという認識だった。

(質問)
本人取材が免除されるかどうかの論点、多数意見と少数意見で一番評価が分かれたのはどこか。
(曽我部委員長)
多数意見は、他の取材で確度の高い情報が得られていたことを重視した。しかし、本人に言い分を述べる機会を設定するということと、他でちゃんと取材ができているということは別の話という考え方もできる。そのあたりが少数意見と多数意見の一番大きな考え方の違いかと思う。

(質問)
多数意見は、他の取材で補完し得るという立場で、少数意見は、本人取材には代えられないということか。
(曽我部委員長)
端的に言うとそういうことになる。

(質問)
「問題があるとまでは言えない」という結論で会見を開く理由は。
(曽我部委員長)
BPOの活動についての透明性の確保、また活動を広く知ってもらうために、結論に関わらず会見は行う。

(質問)
今回の少数意見は10分の3ということだが、これまでは6対4みたいなことはあったのか。
(曽我部委員長)
私の記憶では、6対4ということは記憶になく、3人の少数意見というのは比較的多いという印象だ。そういう意味では意見が割れたケースの1つだと思う。
(事務局)
少数意見の人数は、前回の77号が少数意見2人、76号も少数意見は2人だった。
(曽我部委員長)
少数意見が2人というのはあるが、3人はかなり珍しいと思う。

(質問)
申立人の反応は。
(曽我部委員長)
申立人にとっては望ましい結論ではなかったが、冷静に受け止めていただいたと思う。おっしゃっていたことは「とにかく真実を伝えたかった。虐待はしていないということを伝えたかった」ということ。直接取材がなかったことに関しては、申立て以前の日本テレビとの交渉でも謝罪を求めたが得られず残念だったと。あと、少数意見については評価されていた。

以上

第313回放送と人権等権利に関する委員会

第313回 – 2023年2月

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」ヒアリングを実施…など

議事の詳細

日時
2023年2月21日(火)午後2時~午後8時30分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」ヒアリング及び審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、申立人・被申立人双方への合計5時間のヒアリングを行った。終了後、本件の論点を踏まえ審理を続けた。

2. 委員会決定第78号「ペットサロン経営者からの申立て」通知・公表報告

2月14日に行われた「ペットサロン経営者からの申立て」に関する委員会決定の通知・公表について、事務局から報告を行った。

3. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

4. その他

2023年度委員会開催日程案が事務局から提案され了承した。

以上

2022年度 第78号

「ペットサロン経営者からの申立て」に関する委員会決定

2023年2月14日 放送局:日本テレビ

見解:要望あり(少数意見付記)
対象となったのは、日本テレビが2021年1月28日に放送した『スッキリ』。ペットサロンで預かっていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題について放送した。この放送に対し経営者は、虐待死させたかのように印象付け名誉を侵害したとして申立てを行った。局側は名誉を侵害していないと反論していた。委員会は審理の結果、人権侵害は認められず、放送倫理上の問題もあるとまで言えないと判断した。そのうえで、日本テレビに対して、経営者への直接取材実現にむけてもう一歩の努力がなされるべき事案であり、直接取材の重要性をあらためて認識して今後の番組制作にあたるよう要望した。

【決定の概要】

本件は、日本テレビが2021年1月28日に放送した情報番組『スッキリ』が、同月12日にペットサロンでシェパード犬がシャンプーを受けた後に死亡した件を取り上げたことに対し、申立人が、自らが犬を虐待死させたと印象付けるもので、事実に反する放送により名誉を侵害されたとして、申立てを行った事案である。
本件放送では、同日、申立人が経営するペットサロンにおいて、犬の首輪を手すり(シンクの金具)に付けた状態で約2時間にわたり押さえつけてシャンプーした後、犬が動物病院に運ばれたが死亡したこと、従業員に対し、逆らえば「辞めてもいい」などと述べる日頃の申立人の発言等が関係者のインタビューを交えて紹介される。飼い主は、申立人から犬は事故で死亡したと説明されたが、シャンプーに同席した学生は虐待があったと教えてくれたと語る。この間、「愛犬急死 経営者“虐待”シャンプー?」など画面に表示されている。これに続くスタジオトークでは、コメンテーター等からほぼ一方的に申立人を非難する発言が相次いだ。
本件について、委員会は、名誉権侵害の問題に加えて、申立人への直接取材が実現しないまま放送されたことの放送倫理上の問題について、概要、以下のとおり判断した。
まず、本件放送では申立人の氏名等が匿名化されていたが、SNS上で拡散されていた情報が取材の端緒であったとの背景もあり、申立人及びペットサロンの特定は容易であったと判断する。
本件放送を見て、一般的な視聴者はシャンプー行為の中で「虐待」があり、犬の死亡原因になったと認識すると考えられ、本件放送は申立人の社会的評価を低下させる。
そこで次に、本件放送について、日本テレビに真実性の抗弁または相当性の抗弁が認められるかが問題となる。
ここで「虐待」の中核となるのは、犬の首輪を手すりに付けた状態でシンク内に伏せをさせて、約2時間にわたり犬を押さえつけながらシャンプーし、犬の頭にシャワーを繰り返しかけたこと及びこれにより犬が死亡したこと(因果関係)と捉えられる。
この点につき、申立人は、シャンプー行為の一部を途中から手伝ったに過ぎなかったなどと述べている。これに対し、日本テレビは、上記のような放送内容について、ペットサロン関係者ら及び飼い主等から放送内容全般につき矛盾のない取材結果が得られていたとして詳細に説明した。その内容に格別の不審はなく、放送で示された各事実があると日本テレビが信じたことについて、少なくとも、相当の理由があったと判断される。
以上より、本件放送は申立人に対する人権侵害に当たらない。
次に、委員会は、本件放送に当たって、日本テレビが、申立人の言い分を直接取材し得ないまま放送に踏み切ったことにつき、放送倫理上の問題を検討した。
委員会はこれまで、取材・報道に当たっては、原則として、報道対象者に報道の意図を明らかにしてその弁明を聞くことが必要であると指摘してきた。
他方、速報性も重要な要素の一つであり、対象者が直接取材に応じるまでの間は一切放送・報道できないとの結論は妥当でなく、例えば、真摯な申入れをしたが接触できない、応じてもらえない場合、適切な代替措置が講じられた場合(当事者が当該対象事実について公表したプレスリリース等の掲載や、その他の方法による本人主張・反論の十分な紹介)、緊急性がある場合、本人に対する取材が実現せずとも確度の高い取材ができている場合などは、これら内容を含めた諸事情を総合考慮して、本人取材を不要とする余地があると解される。
本件で、日本テレビは、申立人に取材を申し入れたほか、申立人の携帯電話にも2度電話をかけた(取材経緯・時系列の詳細は「Ⅱ.委員会の判断」参照)。また、民事紛争の一方当事者の主張に依拠した放送には慎重である必要があるが、申立人と共にシャンプー行為に当たった従業員らを含むペットサロン関係者5名から迫真的な告白を含む取材をしていた。また、ホームページに掲載された申立人の謝罪・反論コメントのほぼ全文を本件放送で紹介しており、直接取材の全面的な代替とはならずとも、一定の意義を認め得る。
本件放送は、「シャンプー行為に起因して、犬が死亡した」との事実に加えて、ペットのしつけに関する申立人の信念に対する批判も含む、申立人の社会的評価を低下させる内容であったので、本来、直接取材が要請される事案としてもう一歩の努力がなされることが望ましかったが、その上で、委員会は、以上に列挙した要素を含む諸事情を総合的に評価したとき、申立人に対する直接取材が実現しなかったことをもって、放送倫理上の問題があるとまでは言えないと判断する。
結論として、委員会は、本件放送には人権侵害は認められず、また、放送倫理上の問題があるとまでは言えないと判断する。
ただし、本事案が、直接取材を実現すべくもう一歩の努力がなされることが望ましい事案であったことを踏まえて、委員会は、日本テレビに対し、対象者に対する直接取材の重要性をあらためて認識して今後の番組制作に当たることを要望する。

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2023年2月14日 第78号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第78号

申立人
福岡県在住のペットサロン経営者
被申立人
日本テレビ放送網
苦情の対象となった番組
『スッキリ』
放送日
2021年1月28日
放送時間
8時~10時25分のうち8時33分から8時55分までの22分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.匿名化・モザイク処理について
  • 2.本件放送による社会的評価の低下について
  • 3.本件放送による名誉毀損の成否について
  • 4.放送倫理上の問題点の検討

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2023年2月14日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2023年2月14日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2022年12月2日

北海道の放送局と意見交換

放送人権委員会の「意見交換会」が2022年12月2日に北海道札幌市で開催された。北海道での開催は2014年以来8年ぶりで、委員会から曽我部真裕委員長をはじめ10人の委員全員(二関辰郎委員長代行はリモート)が参加、北海道のラジオ、テレビ局9社からは編成、報道、コンプライアンスの担当者など39人が出席し、3時間余りにわたって活発に意見交換が行われた。

会議ではまず、曽我部委員長が、「BPOは国が作った組織ではなく、放送業界が自主的に設立した第三者機関で、今日ではBPOに象徴される放送局の自主・自律が、ネットコンテンツとは異なる放送の価値の源であるという認識が高まっていると感じている。最近の放送局の経営をめぐる環境の大きな変化の中で、放送にはそれだけの価値があるということをこれまで以上に強く示していくことが求められている。放送の価値の一つは、間違いなく放送局が放送倫理に裏付けされた安心安全な番組コンテンツを提供していくということであり、そういう意味で放送倫理の重要性はますます高まっている」と、あいさつした。
続けて植村統括調査役が、放送人権委員会が他の2つの委員会と異なる点は、申立制であるとした上で、申立てから委員会決定までの審理の流れをBPOホームページの記載に沿って丁寧に説明した。

意見交換会は二部構成で行われた。第一部は、まず「少年法改正と実名報道」と題して、廣田委員が2022年4月に少年法が改正された経緯と、特定少年の実名報道について解説した。次に曽我部委員長が第76号「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」に関する委員会決定を説明した後、委員会決定とは結論が異なる少数意見について、二関委員長代行と國森委員がそれぞれ理由を述べた。第二部では、第77号「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」に関する委員会決定について、起草を担当した水野委員、鈴木委員長代行が解説した後、少数意見を書いた二関委員長代行と斉藤委員がその理由を説明した。最後は2022年4月に北海道知床半島沖で起きた観光船沈没事故について、北海道放送の磯田報道部長がVTRを交えて苦労した遺族取材やメディアスクラムの問題などを報告し、丹羽、野村、松田の各委員がそれぞれ見解を述べた。

◆第一部
◎「少年法改正と実名報道」解説と質疑応答

●廣田智子委員
少年法とは、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする法律で、「少年」とは、少年法では「20歳に満たない者」とされています。2022年4月には民法も改正されて18歳で成年となりましたが、これまで同様、犯罪を犯す者たちもいて、未だ未成熟で成長途上にあって更生が期待できるということから、少年法にいう少年は20歳に満たない者のままで改正されませんでした。
しかし、他の法律では、18歳、19歳は責任ある立場となっていますから、少年法は18歳、19歳を特定少年として、17歳以下の少年とは異なる扱いをすることになりました。
どこが異なるかというと、特定少年は原則、逆送事件が増え、逆送後は20歳以上の者と原則同様に扱われます。これが厳罰化と言われるものです。原則逆送事件にどのような事件が増えたかというと、改正前は故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件に限られていましたが、改正後はこれに死刑、無期または短期1年以上の懲役、禁錮にあたる罪の事件が加わりました。たとえば、強盗、強盗致傷、強制性交、放火、組織的詐欺罪など、被害者が死亡していなくても原則逆送になり、検察官に送致されることになります。そして、検察官は原則として起訴しなければならず、特定少年は公開の刑事法廷で刑事裁判を受け、無罪とならない限り、刑罰を科せられることになりました。
次の改正点は、この起訴の段階で、特定少年の推知報道禁止が解除されたことです。改正前は、少年法61条で、少年の氏名、顔写真などの報道は禁止されていましたが、特定少年のときに犯した罪により起訴された場合、この推知報道禁止が解除されました。起訴段階の検察の事件広報で氏名が発表されることになり、改正からすでに8カ月が経ちましたが、氏名は発表されたり、されなかったりしています。
検察において、そのような運用がされているのは、この法改正には衆参両院の付帯決議があるからです。決議には、逆送されたとしても事案の内容や報道の公共性の程度にはさまざまなものがあり、インターネットの掲載で半永久的に情報を閲覧できるので、特定少年の健全な育成や更生の妨げにならないよう十分配慮しなければならないと記載されています。この付帯決議を受けて、最高検が各地検に事務連絡で、この決議内容を踏まえた事件広報をせよとして、氏名の公表をする場合の基準を示しています。「犯罪が重大で、地域社会に与える影響も深刻な事案では、社会の正当な関心に応えるという観点から氏名の公表を検討せよ。典型は裁判員裁判事件である」としたため、事案によって公表される場合と、されない場合があるわけです。
では、検察が氏名を公表した場合、報道はどうだったのか。2021年10月、山梨県甲府市で、当時19歳の男が後輩の女子生徒の両親を殺害、妹にも重傷を負わせ、住宅に火をつけた放火殺人事件で、甲府地検は法改正後の2022年4月8日、初めて起訴時に氏名を公表しました。報道について、テレビはNHKと在京キー5局がいずれも氏名を報じ、民放の多くは顔写真も放送しました。紙面で匿名にしたのは私が調べた限り、東京新聞、河北新報、琉球新報の3社でした。インターネットでは、氏名は有料・無料配信で異なる扱いがされたり、顔写真についても一部の新聞社で、紙面とは異なる扱いがされました。地元局、地元紙について見てみると、山梨放送とテレビ山梨は、どちらも当日のニュース番組で氏名と顔写真を報道し、その理由も放送しています。また、山梨日日新聞は実名で報じたうえで「本紙見解」という形で、社内での意見交換の内容などを伝える記事を併せて掲載し、論説記事も実名報道に関してでした。
このように、報道の特徴としては、実名・匿名の判断の説明のほか、判断に至る悩みや社内外での議論について賛成・反対両方の意見を報じています。この他、紙面・放送とウェブサイト、さらにウェブサイトでも有料・無料で異なる扱いをしているという点が特徴として挙げられます。
私がその後の逆送起訴事件を報道などから調べた結果、2件目の氏名公表となったのは、2022年3月に大阪府寝屋川市で起きた強盗致死事件でした。こちらは報道が分かれ、調べる限りNHK、読売、産経、日経の4社が、放送・紙面・ウェブとも実名。朝日、毎日は紙面・ウェブとも匿名でした。また、在阪民放では、読売テレビ、MBSが放送は実名、ウェブは匿名という扱いでした。あくまで私が報道などから調べたものですが、2022年12月段階で、19件の特定少年の逆送起訴があり、検察が氏名公表したのが10件、非公表が9件でした。その理由は、諸般の事情を踏まえてといった抽象的なものが多く、結局よくわからないというものになっています。この点は、報道の実名・匿名の説明でも同様と言えます。
公表か非公表かを見てきましたが、山梨放火殺人事件の新聞報道では、「初の実名解禁」という見出しもありました。法務省も「実名報道解禁」と表現しているのですが、実名報道解禁なのでしょうか。なぜ、少年事件はこれまで実名報道をしてこなかったのか。そもそも少年法61条はどのような規定なのか。少年法61条違反が問われた裁判例から見ていきたいと思います。
実は、ほとんど裁判例がないのですが、1998年、大阪府堺市で、シンナー中毒の19歳少年が5歳児を殺害のうえ、その母親と女子高校生にも重傷を負わせた事件で、雑誌『新潮45』が、事件直後に実名、写真掲載の詳細なルポを掲載したことをめぐり、被疑者の少年が、プライバシー権、肖像権、名誉権、実名で報道されない権利を侵害されたとして訴えを起こしました。一審の大阪地裁は、少年法61条は、少年の利益や更生について優越的地位を与えたものであって、それを上回る特段の公益上の必要性があって、手段方法がやむを得ない場合でなければ賠償責任を負うとして、出版社側に250万円の賠償を命じましたが、二審の大阪高裁は一転、一審とは逆の判断を示しました。その判決内容は、61条は罰則がなく、推知報道しないことを社会の自主規制に委ねたものであり、表現行為が社会の正当な関心事であり、その表現内容、方法が不当でない場合は違法性を欠くとして、この記事にそれらを認めて、一審判決を取り消しました。少年が上告を取り下げたために確定し、最高裁の判断はされていません。
ほぼ同じ時期に、集団によるリンチ殺人、長良川事件について、被告人の1人が『週刊文春』の実名をもじった仮名の記事について提訴した件では、名古屋地裁は、大阪地裁と同様の考えで30万円の損害賠償を認めました。名古屋高裁はこれに加え、少年法61条は、少年の成長発達過程において、健全に成長するための権利を保障したものと判断し、出版社側の控訴を棄却しました。
この件では、仮名記事が推知報道にあたるかどうかも争点でしたが、最高裁は、少年法が禁じる推知報道にあたるかどうかは、この記事によって不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知できるかどうかで判断すべきであって、本件仮名の記事は推知報道にあたらないと判断し、61条については、それがどういう条項であるのか、直接判断はしませんでした。結局、名誉毀損、プライバシー侵害について、通常の判断方法で判断せよとされ、最終的に少年の敗訴となりました。
これらはインターネットが普及する前の裁判例であって、少年を知らない一般市民が実名を知っても永遠に記憶しているとも思えないであるとか、情報の伝達範囲が限られているとされており、このインターネットが発達した現代において、同じ結論になるかはわからないところもあります。最高裁が少年法61条について直接判断したものはなく、高裁の判断も分かれていますが、実名を報じたとしても直ちに違法な名誉権やプライバシー権の侵害になるわけではなく、表現の自由、報道の自由との調整が必要と考えられます。
それなのに、なぜ、これまで新聞、通信社、放送は実名で報じてこなかったのか。新聞協会の方針は1958年からずっと同じで、61条は罰則がなく自主的規制に待とうという趣旨だという考えのもと自主規制し、例外的に少年保護より社会的利益の擁護が強く優先する特殊な場合は、氏名や写真の掲載をすることがあるとしてきました。放送も同様だと思います。自律的判断で報じてこなかったのであって、単に少年法61条が禁じているから報じなかったわけではないと思います。
では、改正で18歳、19歳が61条の対象から外れ、検察が氏名を発表したらどうするか、報道機関はより一層重い自律的判断を迫られていると思います。特定少年の実名報道について、社会の意見は、少年の更生という目的は同じでも考え方が真っ向から対立しており、賛成意見の中には、処罰感情や社会的制裁の観点から賛成とする人もいます。
報道機関の実名・匿名の選択は、このどちらかの意見によるものなのでしょうか、そうではないと思います。どちらの意見も大切ですが、報道は当事者の利益に従うものではないし、当事者の利益に沿う報道が良い報道というわけではないはずです。報道には、こうした賛成・反対の意見に留まらない意義があって、それがさまざまな立場の市民からの信頼につながるのだと思います。つまり、特定少年の実名・匿名の問題は、なぜ実名で報じるのか、なぜ事件を報じるのか、報道が守ろうとする社会的利益は何かという報道の根本的な存在意義につながる問いであり、それが今、市民によくわからない状況になっていると思います。ですから、それを説明すること、判断のプロセス、議論や悩みを説明することは、とても意味のあることなのです。
いろいろな考えがあると思いますが、山梨日日新聞は「実名を報道することは、社会的制裁を加えたり、処罰感情を満たしたりするためではない。事実を正確に伝え、社会として検証を可能にするために必要な要素だと考えるからである。報道機関が事件を伝えるのは、どんなことがどういう背景で起きたか社会で共有するため、事件に向き合って、問題を探り、教訓として、再発防止に知恵を出し合って、安心安全な社会づくりに役立てる。取材報道を通じて、読者の知る権利に応えるとともに、罪を犯した人を排除せず、傷付いた被害者、遺族を温かく見守る社会を目指し、記者一人ひとりが不断の努力を重ねなければならない」と報じています。
この実名報道の目的が、逆に言えば、実名報道をする基準にもなるかもしれません。こういうことは、報道機関の皆さんからしたら当たり前のことかもしれませんが、私も含め、言ってもらわないとわからないのです。判断のプロセス、議論や悩みについては、放送の場合、時間の制約などもあるので、ウェブサイトを使うという手法は良いと思います。
MBSが、寝屋川事件について「特定少年を実名で語る」というタイトルで、警察担当、司法担当、報道編集長の目線という3つのコラム(※参考)を、それぞれの方たちが実名、顔写真を出して、ウェブサイトに掲載していますが、それぞれの立場での事件への接し方、実名・匿名の考え方、悩みなどが率直に書かれています。司法担当記者の「実名報道によって、若くして道を踏み外してしまった人の、その後の人生まで左右してしまってよいのか。もし正解があるとすれば、これまで以上に取材を丁寧に重ねることしかないのだと思う」といった率直な言葉は心に届き、好感、信頼感を持ちました。報道編集長は今後の課題を挙げ、実名・匿名の判断にあたって、家裁からの情報には、少年の性格、人格面での情報が乏しく、捜査情報をもとにした犯罪内容や罪の大きさという尺度が比重として大きくなる可能性をはらんでいるという指摘をしており、それには、なるほどと思い、改善の必要があるのではないかと、問題の共有ができました。
弁護士会の中でも、実名・匿名について議論することがあり、報道機関は捜査機関の発表を右から左に報道しているだけだという批判を聞くことがあります。しかし、こうした批判に対して、報道機関から発信された記事を示すと、非常に説得力があり、役に立っています。また、もっとも説得力があるのは、取材を尽くした結果の判断であるということだと思います。
事実の正確さは、多くのネット上の言論との一番の違いであり、報道機関の存在意義だと思いますので、取材内容や苦労もできるだけ詳しく伝えていただいたほうがよいと思います。このように、実名か匿名かの説明においては、型どおりのものではなく、報道の現場を視聴者に、社会に伝えるものにしてほしいのです。あと、起訴時に実名報道をした場合には、特にその後の刑事裁判を取材し、報道してほしいと思います。
先ほどの寝屋川事件の判決が10月31日に出ましたが、懲役9年以上15年以下の不定期刑でした。改正で、特定少年には不定期刑は適用しないとなりましたが、経過措置規定により不定期刑にしています。つまり、この少年は、特定少年として扱うか、少年として扱うべきか、境界上の事案だったと言えます。報道によれば、裁判員の1人は、事件を知ったときは極悪な少年なのかと構える部分があったが、裁判の受け答えがとても素直で幼い印象を持ったとの感想を述べたということです。
こうした事実の報道が、少年法の改正が適切だったのか、検証する重要な材料になります。そして、少年の成育歴や反省など、裁判で明らかになった事実から実名報道が正しかったのか、逆送起訴がふさわしかったのかを検証し、論じてほしいと思います。何が少年を犯罪に向かわせたのか、社会に潜む問題を明らかにして、問題提起をしてほしいのです。実名報道について、見せしめ効果で少年犯罪を抑止するとの考えもありますが、真の抑止は問題の解決です。
さらに重要なのが、被害者、遺族支援です。厳しい現状を伝え、精神面、経済面の支援策について問題提起をしていただきたい。実名報道の意義に、被害者感情や制裁を挙げることがありますが、被害は被疑者の実名や顔写真がさらされることで真に回復はしません。こうした報道を特定少年について続けていくのが、実名報道を行った責任ではないかと思います。
改正少年法は、5年後に見直しがあります。改正少年法やその運用に実際に深く接するのは付添人、弁護人となった弁護士はもとより、取材により少年や事件に深く切り込んだ報道機関の皆さんです。検察が公表・非公表を振り分けていいのか。非公表の中に本来、公表すべき事案はなかったのか。検察の公表・非公表の判断基準は適切なのか。公判廷での少年の扱いは適切か。公判廷で明らかになった事実からして、実名・匿名は適切だったのか。原則逆送事件の範囲は適切か。皆さんが取材した事実から、判断材料の提供、問題提供をしていただきたいと思います。
報道機関の皆様には、これまで以上に重い責任、重い判断が課されていると思います。大変だと思いますが、よりよい報道のために頑張っていただきたいと思います。
【※参考】
 https://www.mbs.jp/news/column/scene/article/2022/05/088890.shtml
 https://www.mbs.jp/news/column/scene/article/2022/05/088891.shtml
 https://www.mbs.jp/news/column/scene/article/2022/05/088892.shtml

<質疑応答>

●参加者
特定少年の実名・匿名をめぐる問題は、メディアによって対応が違うことを説明いただきましたが、それによる影響など、何か具体的に把握されていることがありますか。

●廣田委員
対応は各社で違ってよくて、むしろ対応が違ったことで、社会に議論が起きなければいけないと思います。どうしてあの社は実名なのか、なぜ、あの社は氏名を公表しないのか、そこに何があるのかということで議論が起きるべきであり、議論を起こすべきであるのに何の議論も起きていないことが問題なのではないかと、私は思います。

●参加者
テレビ報道とネット記事に関連して、実名・匿名の判断を統一するべきではないかという考え方と、ネット記事は放送よりも閲覧性が高く、検索性も高いので分けて考えるべきという考え方がありますが、この点についてご意見あればお伺いしたいです。

●廣田委員
その2つの考え、どちらでもあり得ることで、事案によって違うかもしれないですし、私はその社で議論を尽くして決めればいいと思います。ただ、全体的な流れから言いますと、ネット上にはデジタル・タトゥーの問題もあり、紙面や放送は実名だけれども、ウェブ上では匿名にするというのが主流ではないかと思います。

●参加者
有料だったら名前が見れるというのは、名前を知るためにお金を払う。つまりは、メディアとしての収入の糧にしているというふうにも見える気がするのですが、いかがお考えでしょうか。

●廣田委員
検索しても引っ掛からないと、かなり閲覧数も変わってきて、その閲覧数を抑えるため、検索に引っ掛からないようにするために有料と無料とを分けていると、聞いたことがあります。ただ、説明の仕方によっては、名前を有料で売るみたいな、取られ方もされると思うので、(新聞社には)きちんと説明してもらうべきだなと、今すごく思いました。

●司会
曽我部委員長、このコーナー全体を通して、何かご意見あればお願いします。

●曽我部真裕委員長
一義的な回答というのはないということです。ただ、法律的に申しますと、実名・匿名の問題は、プライバシーと報道の自由とのバランスの問題でありまして、今までのところ裁判所は、実名を出しても良いという判断をしています。
直近でも、新聞報道で、被疑者の住所の地番まで出したことについて、これはプライバシー侵害ではないか、名誉毀損ではないかという訴えがあったのですが、地番まで表示することは許されるという高裁の判断が確定しています。
事件報道に関しては、法律、純法律的にいうとかなり広く、実名、住所の表記が現状、許されているというのが実際のところだと思います。ただ、プライバシー意識が非常に高まっていますので、5年後、10年後、今のようなバランス感覚で裁判所も判断するとは、私は思っていません。
別な例を挙げますと、少年事件の非常に詳細な記録を引用しながら論文を書いた元家裁の調査官に対して、プライバシーの侵害だと訴訟が提起されたのですが、最高裁はセンシティブな情報が含まれているけれども許されるとの判断を示しました。理由は学術論文だからです。学術論文ですから当然見る人も少ないわけですが、単に見る人が多い、少ないという話ではなく、学術的に必要だ、なので許されるという理屈だったわけです。
ということで、単に有料版で数が少なく閲覧者も少ないから実名、無料で広く見られるから匿名という理由は、理屈として成り立たず、結局のところ、この事件を報じるにあたって、なぜ実名なのかということをしっかり整理していく必要があるということです。

●廣田委員
今、曽我部委員長がおっしゃったように、プライバシー意識の高まりやインターネットによる拡散、デジタル・タトゥーの問題などもあり、多くの弁護士から、なぜ実名でなければいけないの?ってよく聞かれるのですが、やはり名前というのは、非常に重要な要素であると、皆さん同様に私も思います。
日本は、情報開示請求をしても全部黒く塗られてくることが多く、報道機関の報道が記録する役目をずっと担ってきたと思います。私も仕事上でいろいろな調べものをするとき、いつ、どこで、誰が何をしたかまで、すべて報道から情報を得ています。誰もがすぐにアクセスできて、見ることができるという機能を、日本においては報道が担ってきたという側面があるので、常になぜ実名なのかということを意識して発信を続けていただきたいと、しみじみ思いますので、よろしくお願いします。

◎委員会決定の解説 ①

第76号「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」に関して

対象となったのは、2020年5月19日に放送されたフジテレビの『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』。募集によって選ばれた初対面の男女6人が「テラスハウス」と称するシェアハウスで共同生活する様子を映し、スタジオのタレントらがそれにコメントするスタイルのいわゆるリアリティ番組で、NetflixとFOD(フジテレビが運営する動画配信サービス)で配信され、数週間後に地上波で放送されていた。
この番組に出演していたプロレスラーの木村花さんが放送後に亡くなったことについて、同氏の母親が、娘の死は番組の“過剰な演出”がきっかけでSNS上に批判が殺到したためだとして、人権侵害があったと委員会に申し立てた。

委員会決定文の起草を担当した曽我部委員長(当時、委員長代行)が、SNS上で誹謗中傷が殺到し、木村花さんが自死するきっかけとなった「コスチューム事件」など、この事案を判断する上でポイントなる内容を時系列で説明した後、3つの論点を提示し解説した。

●曽我部委員長
まず本件の一番大きな論点は、本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害という申立人の主張です。木村さんが自傷行為や病院を受診するなどのきっかけとなったのは、直接的にはネット上の誹謗中傷であり放送局に責任はないように思えますが、申立人は、放送局は誹謗中傷が殺到することを十分に予想でき、放送局にも責任があるという主張です。
これについて、まず大前提として、表現の自由との関係で問題があり、ネット上の誹謗中傷の責任を放送局に帰責するということは、一般論として、なかなか受け入れられないという側面があります。ただし、本件には、特殊性がありまして、何かと申しますと、まずネットフリックスで配信が行われて、そこですでに誹謗中傷が起きていて、かつ、それによって自傷行為という重大な結果を招いてしまっているという事実です。少なくとも、先行する放送ないし配信によって重大な被害が生じている場合、それを認識しながら漫然と実質的に同一の内容を放送するということは、被害が予見可能であるのにあえて放送したという意味において、放送局にも責任があるんじゃないかという考え方です。
これを、本件に当てはめてみると、フジテレビ側は、自宅の訪問、LINEによる体調ケア、医師の紹介など一定のケア対応をしていました。さらに本件放送を行う前にも一定の慎重さを持って判断がなされていたこともわかり、決して漫然と放送したものとは言えず、よって、人権侵害があったとまでは断定できないとの判断になりました。
2つ目の論点は、自己決定権及び人格権、プライバシーの侵害があったかどうかという点です。木村さんとフジテレビ側の間では、「同意書兼誓約書」いわば出演契約書のようなものが結ばれていました。申立人は、これが出演者にとって非常に不利な内容で、制作側の指示で不本意なこともやらざるを得ず、自己決定権、人格権の侵害があったと主張しました。
この主張に対し、委員会は、若者であるとはいえ成人である出演者が自由意思で応募して出演している番組制作の過程で、制作スタッフから出された指示が違法性を帯びることは、自由な意思決定の余地が事実上奪われているような例外的な場合であると、認定しました。そのうえで、本件では、制作スタッフからの強い影響力が及んでいたことは想像に難くないが、例外的な場合にあったとはいえず、よって、自己決定権などの侵害は認められないとの判断をしました。
最後の論点は、放送倫理上の問題です。今回のテラスハウスは、いわゆるリアリティ番組だったわけですが、リアリティ番組の特殊性として、出演者に対する毀誉褒貶を出演者自身が直接引き受けなければならないという構造があります。どういうことかと言いますと、例えばドラマや映画ですと、登場人物がいかに嫌われるようなことをしても、これは演技であるということが視聴者にもわかるわけですが、リアリティ番組の場合は、素の状態でそういうことをしているというふうに見られますので、何か嫌われるようなことをしたときには直接、攻撃が本人にいってしまうということです。
したがって、出演者自身が精神的負担を負うリスクは、フィクション、つまりドラマなどに比べてはるかに高く、放送局はリアリティ番組を制作する以上、出演者の身体的・精神的な健康状態に格段の配慮をすべきであり、そのことは放送倫理の当然の内容であるとしました。しかし、本件では、こうした配慮が欠けていたと判断できることから、放送倫理上問題があったと結論付けました。出演者の健康状態に配慮するということが放送倫理の内容になるという今回の判断は結構、反響が大きいものでした。
その他、リアリティ番組の制作、放送を行うに当たっての放送局側の体制の問題を課題として指摘せざるを得ないと、委員会では判断していまして、フジテレビには自ら定める対策を着実に実施し、再発防止に努めることを要望しました。
さらに、普通は当該局に対してだけ判断を伝えるわけですが、今回は異例ではありますが、放送界全体に対しても、木村さんに起こったような悲劇が二度と起こらないよう、自主的な取り組みを進めていってもらいたいというメッセージを付け加えました。

この後、本件の委員会決定とは結論が異なる「少数意見」をそれぞれ書いた二関委員長代行と國森委員が、その理由を解説した。放送人権委員会の委員会決定における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではなく、その違いは以下に示すとおりである。

補足意見:
委員会決定と結論が同じで、決定の理由付けを補足する観点から書かれたもの
意見 :
委員会決定と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
少数意見:
委員会決定とは結論が異なるもの

<少数意見>
●二関辰郎委員長代行
人権侵害の有無について、多数意見(委員会決定)は無しとしましたが、私は人権侵害については、有りとも無しとも判断せず、本件については放送倫理上の問題があったかどうかのみを判断するのが妥当という立場を採りました。
その理由として、まず、当委員会の運営規則「苦情の取扱い基準」で、放送されていない事項は、原則として取り扱わないとされていることが挙げられます。本件はこの点、放送からは知り得ない事項、たとえば、木村さんがどういった心理状態でいて、それがどのように変化したのかが判断の上で非常に重要な要素になってきますが、ご本人が亡くなっていて事情がよくわからない。また、人の精神的状況のケアにかかわる専門的知見が当委員会にはない。このような場合に結論を出すことは、結局のところ立証責任の問題になり、申立人に不利に働き、事案に即した内容に至れないおそれもあると考えました。
加えて、この問題では、内容的に違法ではない番組を放送することによって法的責任が生じるかという、表現の自由との緊張関係があります。その意味で、事実認定などが困難な状況において、本件は法的問題としては取り上げない方がよいと判断しました。
次に、放送倫理上の問題についてお話します。多数意見は放送倫理上「問題あり」としていますが、私は当委員会の判断区分でより重い「重大な問題あり」としました。何が結論の違う理由なのか、理由づけで多数意見と異なるポイントだけご説明します。
まず、同意書兼誓約書の問題です。同意書兼誓約書を締結したときに十分な説明をしたかという問題も重要ですが、締結した結果生じる、出演者と放送局との関係に着目しました。つまり、放送局は、この契約関係を通じて出演者を管理支配しうる状況を確保しており、そのような強い立場性の反映として、出演者の精神状態に配慮すべき要請が強く働くと考えました。
次のポイントは、未公開動画についてです。多数意見は、この未公開動画の配信について、フジテレビが「視聴者からの木村さんの評価を回復できるのではないかと考えた」との主張は、あながち不当とは言い難いと、積極的要素としてとらえていますが、果たしてそうだろうかというのが私の見解です。
コスチューム事件は、木村さんが命の次に大事だと言っていたコスチュームを洗濯機に置き忘れたことに端を発しており、その意味では木村さん自身にも非があったのに、自分の落ち度を棚に上げて男性出演者に感情をぶつけたことがSNS上で非難される原因だったわけです。
実際、この未公開動画の配信後、木村さんへの批判が増えました。その数日後に本件放送を行ったフジテレビの行為は、木村さんの精神状況に配慮すべき放送局のあるべき姿とはかけ離れたものと言えます。
これらのことから、本件は放送倫理上重大な問題があったと言わざるを得ないのではないかというのが、私の見解です。

●國森康弘委員
私は、本件放送について人権侵害があったと判断し、少数意見を書きました。もちろん多数意見(委員会決定)にも多く賛同する点があり、ここでは意見が異なる主な二点について説明します。
まず、番組制作過程における人権侵害の有無についての私の見解を述べます。木村さんをはじめ出演者は皆、放送局との間で「同意書兼誓約書」を結んでおり、その内容は演出を含む撮影方針に従わざるを得ないような、かつ損害賠償にも触れており、かなりある意味で圧力を感じるようなものとなっていました。それに加えて、今回のような若い出演者は制作側スタッフとの年齢差、業界歴の長さのほか、出演する側と出演させる側といった違いなどから、かなり弱い立場にあったことが見受けられます。
そのような関係性において、スタッフからの提案、指示、要請は半ば強制力を持っており、実際、木村さんは、親しい人や他の出演者に、いろいろスタッフへの不信や不満を打ち明けていました。たとえば、「これも撮る前に○○さんにめちゃ、煽られたからね」「編集では、やっぱり面白いようにいじられますね」「スタッフにも悪意を感じる」「スタッフは信用できない」「これでまた炎上するんだろうな」「炎上して話題になって製作陣は満足かな」などと心情を吐露しています。
以上のことから、木村さんには、自由な意思決定の余地が一定程度、奪われている様子が見受けられること、しかも「真意に基づく言動とは異なる姿」で自分自身が描かれ、その人物像に不満を抱き、かつ、その像によって自身がバッシングの標的になっていることから、自己決定権や人格権の侵害がなかったとは言えないのではないかというふうに考えました。
そして、二つ目は、木村さんの自傷行為後の本件放送についてです。多数意見(委員会決定)では、木村さんへのケアとか再発防止について、「一定の対応がなされたことによって再度の深刻な被害の予見可能性は低下しており、また、一応の慎重さをもって判断がなされたことがうかがえるため、漫然と放送を決定したものとは言えない」との判断を示しています。
ただ私は、漫然とまでは言わなくても、精神的ケアやバッシングの防止についての対応が不十分であったら、それは問題であると思いますし、また放送決定に至った判断材料の吟味が不十分であれば、それも問題であると考えています。確かにネットフリックスの先行配信では、直ちに人権侵害があったとまでは言えないと思いますが、現実にはこの先行配信で沸き起こったバッシングを苦にして、木村さんはリストカットをされており、同居していた友人らは、うつが見られたと話しています。
自傷行為というのは、心の痛みを体の痛みでふたをするものであって、そのふたをする効果を継続的に得るためには、さらに自傷の頻度とか強度を高めていかざるを得なくて、最終的には死をたぐり寄せてしまう傾向にあります。また、うつ病や躁うつ病というのは、心というよりは脳の働きに異常をきたして適切な判断ができなくなる病気であって、死にたいから死ぬのではなくて、死の恐怖よりも苦しみのほうが強くなることで死を求める、そのような病気です。
自傷行為を始め、それを重ね、そして自死に至るまでの間、木村さんは友人だけでなく、制作側スタッフにもLINEでいろいろ苦しい胸の内を明かしていました。「死にたくなってきた」「生きててすみませんてなって」「腹を切って詫びたい」などと連絡しています。これらのSOSを現場だけでなく、より責任ある立場の人たちとも共有しながら速やかに全社的な対応をとるべきではなかったでしょうか。ところが現実には、視聴者やネットユーザーにバッシングの自制を呼びかけることもなく、地上波放送でさらなる誹謗中傷を呼び込むことになったことから、木村さんの孤独感と苦痛を増大させたことは否めず、深刻な再被害の予見可能性はむしろ上がっていたと、私は考えます。
漫然と放送を決定したとは言えないものの、バッシングにさらされ、重大な被害を受けている出演者を守りケアする、若者の心身を預かるという視座において対応が十分でなかったために、木村さんに相当な精神的苦痛を与える形になり、それは一人の生身の人間の許容限度を相当に超えていたと考えられ、木村さんの人権を侵害したと判断するに至りました。
イギリスのように日本の制作現場においても、精神科医をはじめSNS対策専門家、弁護士らが常駐あるいは継続的に立ち会い、助言する体制が望ましいと考えます。それが出演者はもちろん、視聴者そして制作者自身を守ることにつながるからです。

◆第二部
◎委員会決定の解説 ②

第77号「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」に関して

申立ての対象となったのは、NHK宮崎放送局が2020年11月20日に放送したローカルニュース番組『イブニング宮崎』で、同日のトップ項目として、同年3月に宮崎市内で男性2人が死亡した住宅火災の続報を報道した。その内容は、火災は放火殺人事件の疑いが強くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ住民の男性を殺害し自分も死亡した可能性があるというもので、その原因として2人の間に「何らかの金銭的なトラブル」があったかのように伝えた。これに対し、亡くなった被害者の弟である申立人が「兄にも原因の一端があるような報道は正確ではなく、放送は亡くなった兄の名誉を損なうものだ」として、委員会に申立てを行った。

本件の起草担当者は、水野委員と鈴木委員長代行で、はじめに水野委員が委員会決定文の内容を解説した。

●水野剛也委員
先に結論を述べますと、「三なし」です。人権侵害なし、放送倫理上の問題なし、そして要望もなし、です。しかし、今後の取材活動に関わり、注意しておくべき点として、「トラブル」という言葉は、立場や文脈や視聴の仕方により多様に受け取られる可能性があるため、事件報道の常套句、決まり文句のようなものとして安易に用いることのないよう留意する必要があります。
それでは、まず、人権侵害があったかどうかについて解説します。申立人は事件の被害者の弟で、本件放送により兄の名誉を毀損され、ひいては申立人の人格的利益(遺族としての敬愛追慕の情)をも侵害された、と主張しています。
委員会ではこれまで、故人が誹謗中傷された場合、故人に対する近親者の「敬愛追慕の情の侵害」としてとらえることが可能との判断を示しています。どのように判断するのかというと、本件放送が社会的に妥当な許容限度(受忍限度)を超えているか否かを、客観的、かつ総合的に判断します。総合的判断の要素には、亡くなった兄の社会的評価への影響、放送内容、公共性、公益性、そして取材方法、などがあります。
まず、本件放送が兄の社会的評価を低下させたか否かについてですが、一般的な視聴者の普通の見方をすれば、兄に非があってトラブルになったという放送内容とは受け取れないので、明らかに低下させているわけではない、と考えられます。また「何らかの金銭的なトラブル」という表現についても、申立人の兄、容疑者とも亡くなっていて、複数の捜査関係者から一定の裏付けを取った上で警察の認識として伝えており、不適切とは言えません。そして、2人が死亡した火災が事故ではなく、放火事件である可能性が強まったことを報じる本件放送には、高い公共性があり、その目的にも十分な公益性があることから、許容限度を超えて申立人の敬愛追慕の情を侵害していない、と判断しました。
次に、放送倫理上の問題があったかどうかについて解説します。申立人が問題視しているのは2点です。1点目は「何らかの金銭的なトラブル」という表現について、兄にも非があることを示唆している、と主張しています。しかし、本件放送全体を見れば、兄に何らかの非があったとはっきり伝えているわけでも、強く示唆しているわけでもないので、問題はない、と判断しました。
もう1点、申立人が問題視しているのは「何らかの金銭的トラブル」について、まったく聞いたことがないのに、警察への取材だけで自分に確認せずに放送した、という点です。しかし、すでに述べている通り、兄と容疑者はすでに死亡していること、また複数の捜査関係者への取材で確認し、警察の認識として伝えていることなどから、放送倫理上も問題はない、と判断しました。
以上が決定文の内容の解説ですが、せっかく皆さんと対面でお会いしているので、私見も含め少しお話しさせていただきます。今回、私は実の兄を亡くされた申立人の心情もある程度は汲んで決定文を書きました。結論だけ見ると、申立人の主張をまったく受け入れていないのですが、意外なことに申立人の方は納得というか、満足されているようで、通知公表のときに我々に非常に感謝してくださいました。
結果は申立人の思うようなものでなくても、人権委員会の委員全員がヒアリングで真剣に話を聞き、中には、申立人の話に涙ぐむ委員もいました。彼が十分に自分の主張を伝えることができたという点で、納得していただいたのかなと思います。人権委員会の委員として、もっともやりがいを感じる瞬間です。
次に、報道に携わる方には、被害者の人権、心情にも意識を向けていただきたいです。ヒアリングの場で放送局側は、ガソリンをまいて死亡した容疑者を犯人視しないよう気をつけた、容疑者にも人権がある、という点を繰り返しておっしゃっていましたが、被害を受けて亡くなった方、その遺族の人権については、あまり言及されていませんでした。容疑者の人権ももちろん大事ですが、被害者の人権、遺族の人権・心情も意識すると、よりバランスが取れるのかなと感じた次第です。
また、トラブルという言葉は頻出語ですから、注意喚起はしましたが、この言葉を使うこと自体を躊躇する必要はまったくないと思います。ただ、便利な言葉だけに盲点があって、それぞれの人がレンズ越しに自分の感覚で認識してしまう。人による解釈の多様性に気づきにくい、という盲点があるんだろうと考えます。
最後に、BPOのBPとは何か?とかく放送現場の方々は、BPOは怖い、厳しい、監視機関というようなイメージが強いようです。奥武則前委員長は、BPOのBPは「ブラック・ポリス」または文句ばかり言っているから「ブーイング・ピープル」だと、冗談で言っておられましたが、委員は皆、普通の人です。私たちは、皆さんの話をもっと聞きたいし、皆さんにも私たちの話をもっと聞いてほしい。これからはBPOのBPは「ベスト・パートナー」だと認識してほしいと思います。

●鈴木秀美委員長代行
水野委員とともに起草委員を担当させていただきましたが、この宮崎の案件は、私が2021年4月に、放送人権委員会の委員になって初めて扱うものでした。水野委員からもお話があったとおり、先ほどのあのニュースを見て「これのどこが問題?」と感じた方、結構多いのではないかと思います。かくいう私もそうでした。
ところが、先ほどのお話にありましたとおり「2人の間に何らかの金銭的トラブル」という表現について、私は自分に非がなくてもトラブルに巻き込まれることはあるし、お兄さんの評判を悪くするような報道との認識はなかったのですが、いや、そうではないと受け取る委員もたくさんいて、本当に見方はいろいろで、ニュースで言葉を選ぶのは本当に難しいんだなと、考えさせられました。
この案件を皆さんにもっとよく知っていただくため、私が記者会見のときにお話しした内容をここで紹介させていただきます。申立人である弟さんはもともと、この火事は本当に事故なのか疑いを持っておられました。しかし、警察が事故という前提でこの件を処理しようとしている中で、たった一人で調査を始めたんです。実は弟さん、お兄さんとは長く別々に暮らしていて、あまりお付き合いもなかったそうです。
ところが、お兄さんが亡くなって初めて、自分の兄がどういう人生を送っていたのか知りたいと思って調べ始め、その結果、これは単なる火事ではなく事件ではないかとの疑念を抱き、そしてようやく警察、検察も事件として扱うことになったので、どういう報道がされるのか、すごく期待していたようです。
ところが、期待していたところのニュースとは違っていたことで落胆し、本来は自分に確認してほしいと思っていたことも確認されず、さらに、この「金銭的なトラブル」という言葉で、お兄さんにも非があったのでは?というようなことを一部の人から言われたりもしたそうです。そうした弟さんのいろいろな思いが、申立てをするきっかけになったということを、ぜひご紹介しておきたいと思った次第です。

続いて、委員会決定とは結論が異なる少数意見を書いた二関委員長代行と斉藤委員が、それぞれ、その理由を述べた。

<少数意見>
●二関委員長代行
多数意見(委員会決定)のとおり、「トラブル」という言葉は中立的な表現ですし、本件の全体的な文脈から、申立人の兄に何らかの非があったとはっきり報道しているわけでもない。それはそのとおりなんですが、私には何か引っ掛かったんですね。その引っ掛かりが何なのかと考えたところ、本件放送では、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあり」という言い回しをしています。単に「トラブル」あるいは「金銭的なトラブル」と言うのではなく、「2人の間に何らかのトラブルがあり」と。こういう言い回しを使うときは、トラブルの存在を両者が認識している場合を指すのではないかと思いました。
この点は後で補足することとしし、まずは判断の枠組み的な話を少しします。
報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについて、BPOは、最高裁判例の考えを踏まえ、一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準にしています。本件放送でも、法的判断ではこの基準に従い、人格的利益(遺族の敬愛追慕の情)の侵害にはならないと判断しました。しかし、法的判断とは別に放送倫理上の問題を検討するにあたっては、その基準を用いない方が良い場合があり、本件はそのような場合にあたるのではないかと、考えました。一般視聴者は次々に映し出されては消えていく画面を受動的に視聴し、次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされる立場にあります。他方、放送局は情報をあらかじめ準備して編集のうえ提供する側です。放送倫理の問題を検討するにあたっては、この違いを踏まえるのが妥当な場合があるのではないかと思うのです。放送倫理は、放送局に対する高度な規範ですので、少なくとも法的責任よりは厳しい面があってもいいと理解しています。そのため、一般視聴者の基準とまでは言えなくても、特定少数を超えた相当数の視聴者の視点を基準に、「このように受け止める視聴者もいるだろう」と言える場合には配慮する、より慎重な配慮が求められて然るべきであろうと考えました。
さて、冒頭で触れた内容に戻りますが、本件放送では「2人の間に何らかの金銭的なトラブル」があり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ、兄を殺害した疑いが強まったと警察はみているという内容を報じています。人は通常、よほどの理由がなければ、人にガソリンをまいて火をつけるような残酷な行為は行わないのではないでしょうか。行為者がそういう残酷な行為を平気で行なう人物として描かれていれば別かもしれませんが、本件ではそういう紹介はなく、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあり」と、それが動機であったように報道しています。
そうすると、視聴者の中には、申立人の兄が、金銭をめぐって容疑者からよほど恨みをかうようなことを行ったのではないかと受け止める人もいたのではないか。
これは、冒頭で申し上げたとおり、「2人の間にトラブルがあり」と言う場合は、トラブルの存在を両者が認識している場合が前提で、その一人が一方的に何かひどい目にあう場合は指さないのではないか、そういう問題意識が根底にあります。
このほか、容疑者には住居侵入窃盗後に証拠隠滅のために住居に放火をした同種前科がありました。NHKもこの事実を本件放送前に把握していたことを認めています。前科に触れなかった理由について、NHKは、容疑者が死亡していて弁解の余地がないこと、無罪推定の原則が働くことから犯人視報道をしない観点からであると説明していました。
仮にこの前科の情報がニュースに含まれていたら、申立人の兄に被害者としての落ち度があったか否かに関する視聴者の受けとめ方が変わっていた可能性があったかもしれません。もっとも、どう放送するかは放送局の判断ですし、前科に触れない理由にもっともな部分もありますから、伝えなかったこと自体が悪いというつもりはありません。とはいえ、容疑者の人権に配慮して前科に触れないのであれば、同様に、亡くなっていて説明する機会を持たない申立人の兄の人権にも配慮してもよかったのではないでしょうか。
そのため、少数意見は、根拠も具体的内容も明確ではない「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあり」という表現の使用は控えるのが妥当であり、そのような表現を使った点に放送倫理上の問題があったと考えました。正直、この少数意見の結論は、私自身も少々厳しいかなと思う一方、BPOは国による組織でなく、放送局自身が作った組織です。水野委員からBPOのBPはベストパートナーの略という話がありましたが、厳しいことも言う、耳に痛いことも言う友人こそがベストパートナーではないでしょうか。より良い番組を作ってほしいという観点もあって、こうした意見にしました。

●斉藤とも子委員
私は2021年4月に委員となり、これが初めての審理案件で、ヒアリングも初めてでした。私は一視聴者として、それからもう1つ、取り上げられる、放送されることによって、私生活にどのような影響が及ぶかという点はある程度、実体験もあり、お話できるかなと思っています。
このニュースを見ただけでは最初、私も何の問題も感じませんでした。何も問題なく、そのまま聞いてしまいそうなニュースではあったんですけれども、委員会に申立てがされた後は、お兄さんを亡くされた弟さんの気持ちというものを考えずにはいられませんでした。
「2人の間に何らかの金銭的トラブル」と聞いたときに、確かにそう言われてみると、どちらか片方だけに非があるのではなくて、両方に何か問題があったのかな?ガソリンをつけて焼かれるというのは、余程の何かがあったのかなと思う人もいるだろうなと。そして、もし私の身内がそういう殺され方をして、「2人の間に何らかの金銭的トラブル」という言い方をされたら、すごく傷つくだろうなというふうに思いました。
ヒアリングのときに、弟さんは、事件の真相を知るために自分の仕事を辞めて8カ月、何があったのかということを、いろいろな人に聞き取りに回られていたことがわかりました。NHKによると、「何らかの金銭的トラブル」については、複数の捜査関係者から裏付けが取れているということですけれども、実際どれだけの捜査員がこのことを把握していたのか、それが具体的にどういったことを指すのか、ということははっきりしませんでした。にもかかわらず、この「金銭的トラブル」という言い回しを使う必要性が、私にはよくわからなかったのです。
よく言われる公共性、公益性という言葉が、私はすごく引っ掛かります。この「金銭的トラブル」という言葉を使うことが、公共性と公益性に関係があるのだろうか。私は、「金銭的トラブル」という表現がなくても十分、報道として通用すると思いますし、現に私が知る限り他の報道機関では使われていません。
遺族を傷つける可能性がある言葉は、十分に慎重であってほしいと思います。なぜなら、弟さんは実際に、知人たちからお兄さんにも何か非があったのではないかというふうに言われて、非常に傷ついていますし、この一言によって、その人の人生が変わってしまう可能性もあると思うんですね。
弟さんがNHKの取材を受けたときに、誠意がないように感じた、きちんと聞いてくれていないように感じたということをおっしゃっていたんですね。BPOのNHK側へのヒアリングのときも、自分たちには何も落ち度がないという形で、準備してきた答えをゆるぎなく述べられていると、私は感じてしまいました。自分たちはそんなつもりではなく使った言葉が、ここまで傷つけていたということであれば、これからは考えます、というような相手を思う言葉があればちょっと違ったのかもしれないんですけど。
確かに、「放送倫理上問題あり」との意見は厳しい気もしますが、これを「問題なし」としたら、私は何のためにここにきているのかとも思いました。なので、私的な意見ではありますが、特にこの弟さんのように市井の方の場合、公に弁解もできませんし、放送される言葉の遣い方ひとつで、致命的に傷つくケースがあるということを、どうか心に留めておいていただきたいと思います。

●参加者
決定文本文の中にない事柄も含めていろいろご説明いただき、なるほどそういう背景があったのかと、非常にストンと落ちました。宮崎は他に民放が2局ありますが、2局がこの事件をどう報道したのか。何らかのトラブルという言葉がもし引っ掛かったのだとすれば、それはNHKさんだけが使用した単語だったのか、その辺りのことお分かりならば教えていただきたいと思います。

●水野委員
宮崎の他局の報道については把握をしていません。しかし、申立人は当初、この案件が終わった後に、他局についても申し立てるつもりだと言っていました。したがって、他局の報道についても不満があったと思いますが、自分の気持ちを委員会に受けとめてもらい納得したというか、腑に落ちたようなので、さらなる申し立てをとりやめた経緯があります。

●参加者
委員会に提出した意見書、審理の過程でお話した内容とは変わってくると思いますが、私の印象をお伝えすると、少しわかりにくいニュースが、ご遺族を傷つける結果につながったんじゃないかなと思っています。通常ですと、捜査中の事案の場合、「警察で詳しい経緯を捜査しています」というような形で原稿を締めるところを、被疑者死亡のまま書類送検という一区切りついたことになったので、何らかの結論を持っていかなきゃいけないと考えたのではないかと推測します。
2人の間に何らかの金銭的なトラブルというと、私もこれまで原稿を見る立場でもありましたけど、双方に何らかの落ち度があるというふうに思う方がいるという前提で、その言葉を選んできたので、そういう意味で万全ではなかったと思います。なので、取材者に対し、今回の件を教訓として共有していきたいなというふうに思いますし、特に少数意見で率直なことをお聞かせいただき、すごく役立ちました。ありがとうございました。

●参加者
この案件の書類作成、ヒアリングなど、いろいろ対応にあたりましたが、窓口対応者としては、BPOは、やはり裁判みたいに感じるところがありました。我々としては、「これは放送上問題ない」という前提で話をしていこうと組織で決定し、その決定に基づいて対応にあたってきました。現場のデスクとも何度もやり取りをして、いろいろ話もしましたけれども、ヒアリングの場で委員が感じられたのは、やはりそういう冷たい感じだったので、ちょっといろいろ考えさせられました。でも私が知る限り、現場の人間は事後対応を含め、これで良かったんだろうかと悩みながらやっているのは事実でして、決定をいただいた後も、伝え方は本当にいろいろと考えていかなければいけないと話しているところでありますので、その点少しでもご理解いただけるとありがたく思います。

◎「知床観光船沈没事故における人権と放送」解説と質疑応答

最後は、2022年4月、北海道知床半島沖で起きた観光船沈没事故における人権と放送をテーマとして取り上げた。この事故取材をめぐっては、遺族取材やメディアスクラムなどの問題で、各社が非常に厳しい判断を迫られた。
事故の概要などをまとめたVTR(約4分)の後、北海道放送の磯田雄大報道部長が、取材・放送で直面した課題などについて報告した。

●磯田雄大氏
4月に事故が発生したときは、ニュースデスクをしておりました。今回の知床観光船沈没事故ですが、乗客・乗員26人のうち生存者なしという、最近では異例の大惨事となり、依然6人が行方不明のままです。6月1日に船体を網走港に陸揚げするまで1カ月以上、各社とも知床に取材班を置きましたが、長期取材を通じて、これまでと違う点がいろいろと見えてきました。
過去の被害者が多数発生した事故では、乗客名簿が公開されるケースがありましたが、今回の知床の事故では乗客名簿は公表されませんでした。1985年の日航機の墜落事故では520人の方が亡くなりましたが、このときは、航空会社がすぐに乗客名簿を公開し、報道機関はそれを実名で報じました。また、2000年に北海道の浦河港沖で14人が死亡する漁船転覆事故がありましたが、そのときも海上保安庁と地元の漁協が全員の身元を公表しています。
そうした中で、今回は名簿が公表されなかったわけですが、当初、第一管区海上保安本部は、運航会社の知床遊覧船に名簿を出すよう要請したということです。一方、国土交通省は、連絡がつかない家族がいたため名簿の公表を検討しましたが、2日後にすべての家族と連絡が取れたということで公開しないという考えを示しました。このときの説明は、公益性は高いが、プライバシー保護の観点から公表しないという説明でした。知床遊覧船の桂田社長は、4月27日の記者会見で、家族から名簿が流出しているとの抗議を受けたことを語り、家族が名簿の公開に否定的であることを明らかにしました。しかし、どうも非公式に出回っている名簿があったようで、それを入手して取材をしている報道機関もあったというふうに聞いています。このように、身元が確認された被害者家族の意向を受けて海上保安庁では匿名で発表することを選択しました。
もう1つは、メディアスクラムの問題です。事故発生直後から、家族取材を自粛するよう要請を受けました。その理由は、家族はかなり憔悴しているので取材は自粛してほしいというものでした。こうした中、北海道内の24社は、集団的過熱取材(メディアスクラム)を避けるため節度ある取材を進めること、例えば、代表取材をしたりするなど、誠意をもって協力するというような内容の申し合わせを行いました。
しかし、こうした申し合わせが結ばれたにもかかわらず、家族からの報道批判はありました。事故で息子さんとお孫さんを亡くされた遺族が記者会見を行い「なぜ私達をそっとしておいていただけないのでしょうか。それが報道の使命ですか。絶対に許したくない」と、怒りをあらわにしました。
他の地域で過去に起きた事件では、メディアスクラムを防ぐために記者クラブで協力している例があると聞いています。2019年7月に起きた京都アニメーション放火殺人事件では、新聞社などの記者クラブと民放の記者クラブが話し合って代表取材を決めたということです。ずっと個別取材しない、接触を永遠に控えるというわけではなく、一定の区切りがつくまで、例えば四十九日とか、そういう区切りがつくまでといった内容で、代表取材解除のタイミングもあらためて話し合って決めるというものでした。
このほか、事故で行方不明となっている22歳の男性が、同乗した恋人の女性に船の上でプロポーズする予定だったことがわかり、通夜と告別式の会場で、女性に宛てた手紙が掲示されました。各社がその手紙を撮影して報道したところ、当社やSNS上の書き込みに「プロポーズの手紙を公開するのはどういう神経でやっているのか、はなはだ疑問だ。遺族の許可があったとはいえ、不特定多数に公表するようなものなのか」などの批判や違和感を覚えるなどの意見が寄せられました。被害者のエピソードを取材するというのは、報道機関としては至極あたり前のように思うのですが、視聴者からこのような批判や意見が届くと、報道にあたっては、いろいろなことを考えなければいけない時代になったのかなというふうに思います。
今回の事故取材をめぐっては、さまざまな課題が浮き彫りとなり、これまでやってきた取材手法だけでは立ち行かないと思うと同時に、見直すべき点も多々あったと思う次第です。以上で報告を終えますが、メディアスクラムの問題で、実際に私も批判を受けるようなことがあったのですが、どのように対応することが望ましかったのか、ご意見頂戴できればと思います。

●丹羽美之委員 
今回の事故に関しては、本当に報道現場の皆さん、悩まれることが多かったということがとてもよくわかりました。メディアスクラムの問題については、一律で何か解決策があるわけではないと思います。ただ、ぜひやっていただきたいのが、今回申し合わせを行ったにもかかわらず、うまく機能しなかった原因はどこにあったのかという点と、実効性のある申し合わせをするためには何が必要なのかということを、ぜひ、事後検証していただきたいということです。特にメディアスクラムは初動時、事件・事故が起こった早い段階で起こることが多いと思いますが、申し合わせがそこにどの程度対応できていたのかということも含めてです。磯田さんの報告によると、申し合わせを破ったのはキー局だったのですか?

●磯田氏
キー局というか、私どもの取材班に応援に来てもらっていたキー局の若い記者が、私たちの指示のもと、関係者と思われる方に名刺を差し出したところ、それがたまたま、先程の記者会見を開いてメディアの対応を強く批判されたご遺族の方だったということです。

●丹羽委員 
これもよくあるパターンだと思うのですが、大きな事故・事件であれば、全国から取材応援のため記者が入ってきます。そのときに末端の取材陣にまで、その申し合わせが行き渡らないケースもあるのではないかと思います。そういう意味で言うと、申し合わせをきちんと実効力のあるものにするためには、どういう体制作りが必要なのか、北海道モデルみたいなものが、今回の件を教訓にうまく作り出せるといいのかなと思います。
もうひとつは、そういう制度整備だけではうまくいかないところがあると思っていまして、それは報道の文化とか、記者の職業規範の問題です。現場の記者は、ライバル社に負けるな、特オチするなというプレッシャーを掛けられる一方で、メディアスクラムには加担するなという真逆のメッセージを出されているわけで、苦悩している記者は結構多いのではないかと思います。
私はドキュメンタリー番組をよく見ますが、ドキュメンタリーは、ニュースの取材が一段落した後から取材が始まるところがあって、ニュースが落としていったものを拾い上げることでドキュメンタリーを作っていくというようなところもあるわけです。そう考えると、特オチを恐れず、しっかり時間をかけて機が熟するのを待って取材をするとか、被害者の方々もあのタイミングではダメだったけれど、もう少し時間が経てば取材に応じてくださるとか、そういうこともあると思います。
すべての人が取材拒否しているわけではなく、この思いを多くの人に聞いてもらいたい、忘れないでほしいと思っている被害者の方、遺族の方もいると思いますから、そういう人たちが心を開きたくなる瞬間まで待つという、取材倫理みたいなものをどう作り上げていくかということも大事なのではないかと思いました。

●野村裕委員 
磯田さんの報告を聞いて申し上げたいのは、まずメディアスクラムがなぜ起きるのかということです。メディアがスクラムを組んでいるだけではなく、そこには視聴者スクラムというか、視聴者側も見たがっている、だからそれに応える、応えたいという大きな力が働いているように思います。
しかし、ただ視聴者の欲求に応えていれば良いという問題ではなく、メディアスクラム対策としては、今後は取材の中身もさることながら、放送の分量みたいなところも意識する必要があるのではないかと思います。放送量すなわち尺が長ければ、当然、厚めの取材をしてたくさんの映像を撮る必要が出てくるでしょうし、またどんどん続報を打っていくという方針ならば、追加取材のための新規映像を撮らなければいけなくなるからです。
一方で、いまメディアに求められているのは、個々のニュースについて、それだけの放送量、扱いを視聴者が本当に求めているのかという冷静な判断ではないでしょうか。視聴率に惑わされないケースバイケースの試行錯誤、積み重ねが、新たなテレビの文化につながっていくのではないかと思います。
「されど視聴率」であることも重々わかりますが、その上で、「今、このニュースばかりを扱っているけれども、あの件もきちんと報道しておくべきじゃないか」みたいな、そういう大局的判断を日頃から意識することが、メディアスクラム対策につながるのではないかと思いました。

●松田美佐委員 
今回の事故の被害者家族への取材ですが、私、個人的には、すぐに本当に伝える必要があったのかなというふうに見ていました。もちろん、視聴者にこの悲惨な事故の詳細や、巻き込まれた方の人となりを伝え、再発防止に向けて世論に働きかけていくということがとても重要であることはわかるんですけれども。
でも、そのために、被害者のご遺族に負担を強いることがあっていいのかということですよね。これまでは、それがある意味、マスメディアの社会的役割としてあったんですけれども、どうもそれが受け入れられなくなってきているということです。
インターネットの普及により、情報の自己コントロール権、自分で自分の情報をコントロールする権利というようなことがよく言われていますが、それ以上に私たちは今、外から強いられるのではなく、以前に比べ自分で何でも選択できる幅が広がり、それが当たり前となっている社会にいるということです。
そういう時代なのに、何か事件・事故が起きたら、否応なしにいきなり巻き込まれ、時間をくれないし、選択の余地も与えてもらえない、そういうところに、マスメディアに対する抵抗があるのだと思います。普段、自分の意思で状況を選択して動いている人なら、訳が分からないまま入り込んでこられることに一層、反発するのではないでしょうか。
社会全体が変容しつつある今の時代において、知る権利にきちんと応えていくということは当然あるにしても、その知る権利への応え方もかなり変わってきていることを再認識した上で、視聴者および事件・事故の被害者家族にも納得してもらえる報道の在り方を、一緒に考えていければなというふうに思っています。

●司会
ありがとうございました。予定の時間を過ぎておりまして、ここでそろそろ終わりという形にさせていただきたいと思います。本日は、長時間にわたる意見交換会にご参加いただき、誠にありがとうございました。本日の議論を、ぜひ、今後の番組作りに生かしていただければと思います。

以上

第312回放送と人権等権利に関する委員会

第312回 – 2023年1月

「ペットサロン経営者からの申立て」委員会決定を通知・公表へ…など

議事の詳細

日時
2023年1月17日(火)午後4時~午後7時30分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ペットサロン経営者からの申立て」審理

日本テレビは、2021年1月28日午前8時からの『スッキリ』で、「独自 愛犬急死 “押さえつけシャンプー” ペットサロン従業員ら証言」とサイドスーパーを出しながら、ペットサロンに預けられていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を放送した。放送は、犬の飼い主やペットサロン従業員など複数の関係者の証言を基に構成されていた。
この放送に対して、ペットサロン経営者の申立人は、「同番組内で申立人が、お客さんから預かっていた犬を虐待して死亡させたなどと、虚偽事実」を放送したと主張し、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として、BPO放送人権委員会に申し立てた。
これに対して日本テレビは、放送内容は真実であり、また「当社は事前に十分な取材を行っており、真実であると信じるにつき相当な理由」があり、「私たちの取材・放送によって人権と名誉が侵害されたという申立人の主張はいずれも根拠が無く、受け入れられません」と反論している。
今回の委員会では、これまでの審理をもとにまとめた決定文の最終案が起草委員から示され議論し、委員会決定として了承した。その結果、2月中に通知・公表を行うことになった。

2.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、ヒアリングに向けて論点や質問項目などを最終的に確認した。次回委員会でヒアリングを行うことになった。

3. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

4. その他

「判断ガイド2023」の原稿作成状況について、事務局から報告した。

以上

第311回放送と人権等権利に関する委員会

第311回 – 2022年12月

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2022年12月20日(火)午後3時~午後6時
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ペットサロン経営者からの申立て」審理

日本テレビは、2021年1月28日午前8時からの『スッキリ』で、「独自 愛犬急死 “押さえつけシャンプー”ペットサロン従業員ら証言」とサイドスーパーを出しながら、ペットサロンに預けられていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を放送した。放送は、犬の飼い主やペットサロン従業員など複数の関係者の証言を基に構成されていた。
この放送に対して、ペットサロン経営者の申立人は、「同番組内で申立人が、お客さんから預かっていた犬を虐待して死亡させたなどと、虚偽事実」を放送したと主張し、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として、BPO放送人権委員会に申し立てた。
これに対して日本テレビは、放送内容は真実であり、また「当社は事前に十分な取材を行っており、真実であると信じるにつき相当な理由」があり、「私たちの取材・放送によって人権と名誉が侵害されたという申立人の主張はいずれも根拠が無く、受け入れられません」と反論している。
今回の委員会では、再修正された決定文草案について各委員が意見を述べ、概ね意見の一致をみた。次回委員会で最終的に文案を点検することになった。

2.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、ヒアリングに向けて論点や質問項目を検討した。また、社会通念上許容できる範囲を探るため、BPOに寄せられたバラエティー番組での下ネタやセクハラについての視聴者意見を情報共有した。

3. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

4. その他

12月2日に札幌で開催された北海道意見交換会の事後アンケートなどについて事務局から報告した。

以上

第310回放送と人権等権利に関する委員会

第310回 – 2022年11月

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2022年11月15日(火)午後4時~午後9時15分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ペットサロン経営者からの申立て」審理

日本テレビは、2021年1月28日午前8時からの『スッキリ』で、「独自 愛犬急死 “押さえつけシャンプー” ペットサロン従業員ら証言」とサイドスーパーを出しながら、ペットサロンに預けられていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を放送した。放送は、犬の飼い主やペットサロン従業員など複数の関係者の証言を基に構成されていた。
この放送に対して、ペットサロン経営者の申立人は、「同番組内で申立人が、お客さんから預かっていた犬を虐待して死亡させたなどと、虚偽の事実」を放送したと主張し、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として、BPO放送人権委員会に申し立てた。
これに対して日本テレビは、放送内容は真実であり、また「当社は事前に十分な取材を行っており、真実であると信じるにつき相当な理由」があり、「私たちの取材・放送によって人権と名誉が侵害されたという申立人の主張はいずれも根拠が無く、受け入れられません」と反論している。
今回の委員会では、修正された決定文草案について各委員が意見を述べ、白熱した議論が展開された。次回委員会でさらに文案を練り検討していくことになった。

2.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、厚労省指針や裁判例からハラスメント認定方法を委員会として情報共有した上で、審理の進め方や判断方法についての基本的な考え方を議論した。

3.「判断ガイド2023」進捗状況報告

来年発行予定の「判断ガイド2023」について事務局から進捗状況を報告した。

4. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況を報告した。

5. その他

12月に札幌で開催される意見交換会の進行など細かい点について、事務局から説明した。

以上

第309回放送と人権等権利に関する委員会

第309回 – 2022年10月

「ペットサロン経営者からの申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2022年10月18日(火)午後4時~午後8時
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ペットサロン経営者からの申立て」審理

日本テレビは、2021年1月28日午前8時からの『スッキリ』で、「独自 愛犬急死 “押さえつけシャンプー” ペットサロン従業員ら証言」とサイドスーパーを出しながら、ペットサロンに預けられていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を放送した。放送は、犬の飼い主やペットサロン従業員など複数の関係者の証言を基に構成されていた。
この放送に対して、ペットサロン経営者の申立人は、「同番組内で申立人が、お客さんから預かっていた犬を虐待して死亡させたなどと、虚偽事実」を放送したと主張し、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として、BPO放送人権委員会に申し立てた。
これに対して日本テレビは、放送内容は真実であり、また「当社は事前に十分な取材を行っており、真実であると信じるにつき相当な理由」があり、「私たちの取材・放送によって人権と名誉が侵害されたという申立人の主張はいずれも根拠が無く、受け入れられません」と反論している。
今回の委員会では、申立人・被申立人双方へのヒアリングを踏まえた決定文草案を受けて、活発に議論が行われた。次回委員会でさらに文案を検討していくこととなった。

2.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、提出された書面を確認し、委員から質問が出された。今後の方向性などを議論していくこととなった。

3. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況が報告された。

4. その他

12月に札幌で開催される意見交換会の内容について、事務局から報告した。

以上

第308回放送と人権等権利に関する委員会

第308回 – 2022年9月

「ペットサロン経営者からの申立て」ヒアリングを実施…など

議事の詳細

日時
2022年9月20日(火)午後3時~午後7時30分
場所
千代田放送会館会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ペットサロン経営者からの申立て」ヒアリング及び審理

日本テレビは、2021年1月28日午前8時からの『スッキリ』で、「独自 愛犬急死 “押さえつけシャンプー” ペットサロン従業員ら証言」とサイドスーパーを出しながら、ペットサロンに預けられていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を放送した。放送は、犬の飼い主やペットサロン従業員など複数の関係者の証言を基に構成されていた。
この放送に対して、ペットサロン経営者の申立人は、「同番組内で申立人が、お客さんから預かっていた犬を虐待して死亡させたなどと、虚偽事実」を放送したと主張し、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として、BPO放送人権委員会に申し立てた。
これに対して日本テレビは、放送内容は真実であり、また「当社は事前に十分な取材を行っており、真実であると信じるにつき相当な理由」があり、「私たちの取材・放送によって人権と名誉が侵害されたという申立人の主張はいずれも根拠が無く、受け入れられません」と反論している。
今回の委員会では、申立人・被申立人双方へのヒアリングを行った。特に犬の死亡の経緯について詳しく話を聞いた。終了後、本件の論点を踏まえ審理を続け、担当委員が決定文の起草に入ることになった。

2.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、双方から提出された書面を確認した。今後更に提出される書面を待ち、議論を深めることとした。

3.「判断ガイド2023」体裁について

2023年発行予定の「判断ガイド2023」のウェブ上での体裁などについて、事務局から報告した。

4. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況が報告された。

以上

第307回放送と人権等権利に関する委員会

第307回 – 2022年8月

「少年法改正と実名報道」4月の少年法改正に伴う実名報道についての現状を共有…など

議事の詳細

日時
2022年8月16日(火)午後4時~午後8時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ペットサロン経営者からの申立て」審理

日本テレビは、2021年1月28日午前8時からの『スッキリ』で、「独自 愛犬急死 “押さえつけシャンプー” ペットサロン従業員ら証言」とサイドスーパーを出しながら、ペットサロンに預けられていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を放送した。放送は、犬の飼い主やペットサロン従業員など複数の関係者の証言を基に構成されていた。
この放送に対して、ペットサロン経営者の申立人は、「同番組内で申立人が、お客さんから預かっていた犬を虐待して死亡させたなどと、虚偽事実」を放送したと主張し、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として、BPO放送人権委員会に申し立てた。
これに対して日本テレビは、放送内容は真実であり、また「当社は事前に十分な取材を行っており、真実であると信じるにつき相当な理由」があり、「私たちの取材・放送によって人権と名誉が侵害されたという申立人の主張はいずれも根拠が無く、受け入れられません」と反論している。
今回の委員会では、双方から所定の書面すべてが提出されたのを受けて、論点を整理し、ヒアリングのための質問項目を絞り込み、次回委員会でヒアリングすることを決めた。

2.「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
今回の委員会では、双方から提出された書面を基に議論した。今後更に提出される書面を待ち、議論を深めることとした。

3. 民放連「放送基準」改正について

2023年4月施行の民放連「放送基準」の改正について、事務局から概要を報告した。

4.「少年法改正と実名報道」

廣田智子委員から、2022年4月施行の少年法改正に伴う「特定少年」の実名報道解禁の現況が報告された。今後起こりうる放送での実名報道に対する人権侵害の申立てに備え、少年法改正の概要と4月以降の「特定少年」実名報道の実状、過去の少年刑事事件での実名報道に起因する名誉毀損案件の裁判例など、多岐にわたり詳細に伝えられた。

5. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況が報告された。

以上

第306回放送と人権等権利に関する委員会

第306回 – 2022年7月

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理入り…など

議事の詳細

日時
2022年7月19日(火)午後4時~午後7時
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「ペットサロン経営者からの申立て」審理

日本テレビは、2021年1月28日午前8時からの『スッキリ』で、「独自 愛犬急死 “押さえつけシャンプー” ペットサロン従業員ら証言」とサイドスーパーを出しながら、ペットサロンに預けられていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を放送した。放送は、犬の飼い主やペットサロン従業員など複数の関係者の証言を基に構成されていた。
この放送に対して、ペットサロン経営者の申立人は、「同番組内で申立人が、お客さんから預かっていた犬を虐待して死亡させたなどと、虚偽事実」を放送したと主張し、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として、BPO放送人権委員会に申し立てた。
これに対して日本テレビは、放送内容は真実であり、また「当社は事前に十分な取材を行っており、真実であると信じるにつき相当な理由」があり、「私たちの取材・放送によって人権と名誉が侵害されたという申立人の主張はいずれも根拠が無く、受け入れられません」と反論している。
今回の委員会では、双方から提出された書面を基に議論した。今後更に提出される書面を待ち、議論を深めることとした。

2. 審理要請案件「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」

申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
申立てを受け、双方による交渉が持たれたが不調に終わり、今回の委員会で審理入りするか否かを検討した。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。
なお、審理対象とするのは、申し立てられた日から1年以内の2021年2月以降の放送分とし、それ以前のことは背景事情として考慮することが委員会で決定された。

3.「判断ガイド2023」について

来年2023年を目途に制作される「判断ガイド2023」について、事務局からウェブ化を図りたいことなど計画を説明した。体裁などにも委員会の賛同を得て、実務編集作業を進めることとなった。

4. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況について説明した。

5. その他

今年12月に開催予定の札幌での意見交換会について、事務局から概略を説明した。

以上

2022年7月19日

「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」審理入り決定

 BPO放送人権委員会は、7月19日の第306回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。

 申立ての対象となったのは、あいテレビ(愛媛県)が2022年3月まで放送していた深夜のローカルバラエティー番組『鶴ツル』。この番組は男性タレント、愛媛県在住の住職とフリーアナウンサーである申立人の3人を出演者として、2016年4月に放送が開始された。3人が飲酒しながらトークを行う番組だが、申立人が、番組中での他の出演者からの度重なるセクハラ発言などによって精神的な苦痛を受けたとして申し立てた。
 申立書によると、番組開始当初から苦痛、改善を訴えていたにもかかわらず、放送された他の出演者のトークが、申立人自身に対するものも含めてしばしば性的な内容に関することに及んで申立人に羞恥心を抱かせることで、また、そのような内容の番組の放送によって申立人のイメージが損なわれたことで、人権侵害を受け、放送倫理上の問題が生じたと主張している。
 被申立人のあいテレビは、申立人は番組の趣旨を十分に理解した上で出演しており、申立人からの苦情も2021年11月が初めてで、また、番組の内容も社会通念上相当な範囲を逸脱しておらず、人権侵害や放送倫理上の問題はない、と主張している。
 申立てを受け、双方による交渉が持たれたが不調に終わり、今回の委員会で審理入りするか否かを検討した。

 7月19日に開かれたBPO放送人権委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。
 なお、審理対象とするのは、申し立てられた日から1年以内の2021年2月以降の放送分とし、それ以前のことは背景事情として考慮することが委員会で決定された。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第305回放送と人権等権利に関する委員会

第305回 – 2022年6月

「ペットサロン経営者からの申立て」審理入り…など

議事の詳細

日時
2022年6月21日(火)午後4時~午後6時
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1. 審理要請案件「ペットサロン経営者からの申立て」

日本テレビは、2021年1月28日午前8時からの『スッキリ』で、「独自 愛犬急死 “押さえつけシャンプー” ペットサロン従業員ら証言」とサイドスーパーを出しながら、ペットサロンに預けられていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を放送した。放送は、犬の飼い主やペットサロン従業員など複数の関係者の証言を基に構成されていた。「押さえなさい。暴れないように。それを何回も何回も繰り返すので」「『私は神だ』みたいなことを言うんです」といった、ペットサロン経営者に関する発言が放送された。
この放送に対して、ペットサロン経営者の申立人は、「同番組内で申立人が、お客さんから預かっていた犬を虐待して死亡させたなどと、虚偽事実」を放送したと主張し、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として、BPO放送人権委員会に申し立てた。
これに対して日本テレビは、放送内容は真実であり、また「当社は事前に十分な取材を行っており、真実であると信じるにつき相当な理由」があり、「私たちの取材・放送によって人権と名誉が侵害されたという申立人の主張はいずれも根拠が無く、受け入れられません」と反論している。
3カ月以上、9回の面会・交渉を経ても解決せず、「相容れない状況」となっていたために今回の委員会で審理入りするか否かを検討した。
今回の委員会では、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

2. その他

事務局から最新の申立て状況や「自殺報道」に対する視聴者意見、「民放連放送基準」改正について説明した。

以上

2022年6月21日

「ペットサロン経営者からの申立て」審理入り決定

 BPO放送人権委員会は、6月21日の第305回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。

 日本テレビは、2021年1月28日午前8時からの『スッキリ』で、「独自 愛犬急死 “押さえつけシャンプー” ペットサロン従業員ら証言」とサイドスーパーを出しながら、ペットサロンに預けられていたシェパード犬がシャンプー後に死亡した問題を放送した。放送は、犬の飼い主やペットサロン従業員など複数の関係者の証言を基に構成されていた。「押さえなさい。暴れないように。それを何回も何回も繰り返すので」「『私は神だ』みたいなことを言うんです」といった、ペットサロン経営者に関する発言が放送された。
 この放送に対して、ペットサロン経営者の申立人は、「同番組内で申立人が、お客さんから預かっていた犬を虐待して死亡させたなどと、虚偽事実」を放送したと主張し、「字幕付きの放送をしたことで、申立人が預かっていた犬を虐待死させたかのように印象付け、事実に反する放送をすることで申立人の名誉を侵害した」として、BPO放送人権委員会に申し立てた。
 これに対して日本テレビは、放送内容は真実であり、また「当社は事前に十分な取材を行っており、真実であると信じるにつき相当な理由」があり、「私たちの取材・放送によって人権と名誉が侵害されたという申立人の主張はいずれも根拠が無く、受け入れられません」と反論している。
 3カ月以上、9回の面会・交渉を経ても解決せず、「相容れない状況」となっていたために今回の委員会で審理入りするか否かを検討した。

 6月21日に開かれたBPO放送人権委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第304回放送と人権等権利に関する委員会

第304回 – 2022年5月

BPOの国際活動について委員会に報告…など

議事の詳細

日時
2022年5月17日(火)午後4時~午後5時30分
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「判断ガイド2023」について

「判断ガイド2023」について、事務局から目次構成案を示し、協議した。現在の「判断ガイド2018」の目次項目に、未収録の10本の「委員会決定」の内容を加えてみて、過不足がないか議論した。今後、委員長代行2名が監修委員となり、執筆・編集作業を進めていくことが確認された。

2.BPOの国際活動について

2021年度から開始しているBPO全体としての国際活動の現状について、事務局から報告した。特にドイツの放送自主規制機関FSF所長とBPO大日向理事長とのオンラインによる交流について詳しく伝えた。

3. その他

事務局から最新の申立て状況について説明した。

以上

第303回放送と人権等権利に関する委員会

第303回 – 2022年4月

「判断ガイド2023」の編集方法を協議…など

議事の詳細

日時
2022年4月19日(火)午後4時~午後5時30分
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、松田委員、水野委員

1. 2022年度新任委員挨拶 新任調査役挨拶

2022年度の新任委員として松田美佐中大教授が挨拶した。また、6人の調査役のうち3人が新たに事務局に加わりそれぞれ挨拶した。

2.「判断ガイド2023」について

概ね5年に一度の改訂を行っている「判断ガイド」の次期改訂方針について、事務局から報告した。現在の「判断ガイド2018」以降に10本の「委員会決定」が公表されているため、新たな決定をどのような方法で編集していくかなどを協議した。

3. その他

事務局から最新の申立て状況について説明した。また、4月15日に公表されたBPO青少年委員会「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」に関する見解について事務局から概略を説明した。

以上

2022年2月18日

「リアリティ番組」をテーマに意見交換会を開催

放送人権委員会は、加盟放送局との意見交換会を2月18日にオンラインで開催し、全国103の放送局から約230人が参加した。委員会からは曽我部真裕委員長をはじめ委員9人全員が出席した。
放送人権委員会の意見交換会は、感染拡大の影響で、2019年に名古屋市で開催した「中部地区意見交換会」以来ほぼ2年ぶりとなり、冒頭で2021年度に就任した4人を含む委員全員を紹介した。
今回のテーマは、2021年3月に委員会が出した決定第76号「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」で、前半は委員会決定と個別意見の解説を行った。
後半は今回の事案で課題にあがったSNSへの対応について意見交換をした。

〈事案の概要〉
審理の対象となった番組は、2020年5月19日にフジテレビが放送した『TERRACE HOUSE T0KYO 2019-2020』。
放送後、出演していた木村花さんが亡くなったことについて木村さんの母親が、“過剰な演出”がきっかけでSNS上に批判が殺到したことなどが原因で、人権侵害があったと申し立てた。
委員会は決定で、人権侵害があったとまでは断定できないとした一方、「出演者の精神的な健康状態に対する配慮が欠けていた」と指摘し、放送倫理上の問題があったとした。

◆委員会の判断と個別意見

委員会の考え方や判断理由について、担当した曽我部委員長(審理当時は委員長代行)が解説した後、個別意見を付した委員3人がそれぞれの見解を説明した。
(以下、発言者と発言の概要)

一連の経緯について(曽我部委員長)
「コスチューム事件」と呼ばれる場面が2020年3月31日にNetflixで配信され、SNS上で木村さんへの非難が殺到した。直後に木村さんが自傷行為に至り、そのことは数日経って制作会社からフジテレビの制作責任者へ報告された。
木村さんは4月中旬頃まで精神的に不安定な様子で、制作会社のスタッフは自宅を訪問したりLINE等でやり取りをしたりして一定のケアをしていたが、コロナ禍もあり十分なコミュニケーションがとれないところがあった。
5月14日に番組公式YouTubeで未公開動画が配信されて再び誹謗中傷を招き、5月19日に地上波で放送が行われた後、木村さんは亡くなった。

人権委員会 図

「放送局の責任」の考え方 (曽我部委員長)
申立人は、視聴者からの誹謗中傷がインターネット上に殺到することは十分認識できたのだから、放送局には「本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」の責任があると主張した。
委員会は一般論として、責任があるとすれば誹謗中傷を書き込んだ者の責任であり、その元になった放送局に常に責任があるとすることは、表現の自由との関係で問題があると考えた。
ただこの事案では、先にNetflixの配信で誹謗中傷を招き、すでにその段階で自傷行為という重大な結果を招いていたので、放送局は「大変な状況になる」ことが予見可能だったにも関わらず、地上波で放送した点に責任があるのではないかという点が更に問題となる。
この点について委員会は、具体的な被害が予見可能なのに、あえてそうした被害をもたらす行為をしたといえるような場合には人権侵害の責任が認められるであろうと考えた。
この点に関する裁判例はなく、「少なくともそういう場合には人権侵害と言えるだろう」という考え方である。
そのうえで、木村さんに対しては一定のケアがなされていたし、放送前も一定の慎重さを持って判断されていたので漫然と地上波で放送したとはいえず、人権侵害とまでは断定できないという結論になった。

「自己決定権の侵害」への判断(曽我部委員長)
申立人は、放送局と交わした「同意書兼誓約書」は、放送局の指示に反した場合に重いペナルティがあるなど木村さん側に非常に不利なもので、そうした威嚇のもとで無理な言動をさせられたとして、自己決定権や人格権の侵害があったと主張した。
委員会は、成人である出演者が自由意思で応募して出演している番組制作の過程で、制作スタッフからの指示が違法と言えるのは、自由な意思決定の余地が事実上奪われているような場合に限られると考えた。
委員会の審理手続きの限界もあって事実経緯に分からないところもあるが、今回は、少なくともそうした例外的な場合にはあたらないと判断した。

放送倫理上の問題(曽我部委員長)
放送倫理上の問題については、結論として、木村さんに精神的な負担を生じることが明らかな放送を行うという決定過程において、出演者の精神的な健康状態に対する配慮に欠けていた点で放送倫理上の問題があったと判断した。
リアリティ番組での出演者の言動は、ドラマなどと違って本人の真意のように見えるため、そのリアクションは良いことも悪いことも直接出演者に向けられ、それを自身で引き受けなければならないという構造がある。
このため出演者が精神的負担を負うリスクはフィクションの場合より格段に高く、放送局は、特に出演者の身体的・精神的な健康状態に配慮すべきといえる。

課題と委員会からの要望(曽我部委員長)
決定では、最初に自傷行為があった後のケアの体制やSNSで誹謗中傷を招いた時の対応について、組織的な対応や準備が十分でなかったとして、制作や放送体制に課題があったと指摘した。
リアリティ番組の特殊性やリスクというものを今回の事案と本決定から汲み取って、放送界全体で教訓として受け止めてほしい。
放送倫理としての出演者への配慮については、放送基準などに明確な規定はないが、当然に放送倫理の内容と考えるべきという提起だと受け止めてもらいたい。

放送とSNSについて(廣田智子委員)
SNSは発信される側としては制御することは難しく、社会のさまざまな場面で深刻な問題を引き起こす場合がある。そうした問題が起きたとき、放送局はどう対応すべきで、放送番組はどのような責任を問われるのか、非常に難しい問題である。
一方でSNSには、番組への利用の仕方によって社会を楽しくするような新しい可能性があり、放送とSNSとの関係について、放送界全体で、また放送に携わるひとり一人が考え続けて常にアップデートしていくことが重要だと思う。

補足意見(水野剛也委員)
木村さんを追いつめた直接的で最大の要因は、番組そのものではなくネット上の誹謗中傷と考えられ、結論として「放送倫理上問題あり」とすべきか、とても迷った。
放送局は全くケアをしていなかったわけではなく、スタッフが何とか木村さんを救いたいと真摯に向き合っていた姿勢が見えた。コロナ禍で思うように面会できないなど、放送局にとって不幸な事情も重なった。
しかし、未熟な若者の生の感情を資本とするリアリティ番組の本質部分の危うさについて、作り手側のあまりに無自覚な姿勢が見えた。番組制作者は、いつ爆発しても不思議ではない若者たちの生の感情をコンテンツの中核に置いていることに、もっと自覚的であるべきだったと考える。

少数意見(國森康弘委員)
自傷行為やうつは致命的な状況であり、放送局側は把握した時点で早急に専門家らによるケアや放送の中止、差し替えをするべきだった。地上波で放送したことは危機意識の欠如と言わざるを得ず、木村さんへの精神的ケアや誹謗中傷を防ぐための対応、また放送決定に至った判断材料の吟味も不十分だったと考える。
木村さんが番組スタッフにも送っていたSOSを、より責任ある立場の人たちと共有して速やかに全社的な救済対応を取るべきではなかったか。
重大な被害を被っている出演者を守る対応が不十分だったために、相当な精神的苦痛を与える形となって人権を侵害したと判断した。
木村さんは出演者として弱い立場にあり、自由な意思決定が一定程度奪われていたと思われ、一人の生身の人間にのしかかる精神的苦痛としては許容限度を相当に超えていたと考えられる。
日本の制作現場でも、精神科医やSNS対策の専門家、また弁護士などが常駐したり継続的に立ち会ったりして助言するような体制をつくることが望ましいと考える。
それが、出演者はもちろん視聴者ひいては制作者自身を守ることにつながると思う。

少数意見(二関辰郎委員長代行)
放送人権委員会は、放送されていないことは原則として取り扱わない。今回の事案では、木村さんの当時の心理的状況やケアのあり方など放送されていない事項が検討材料として大きな比重を占めていた。また、委員会には精神的ケアに関わる専門的知見がない。そのため、そうした問題を委員会が判断することは難しいと考え、法的責任の有無については、判断を控えるほうが妥当と考えた。
一方、放送倫理上の問題としては、「同意書兼誓約書」によって、放送局は出演者をコントロールできる強い立場を確保していたとみられ、そのことに対応して安全配慮義務的な責任が重くなると考えた。
また「コスチューム事件」は、木村さんがコスチュームを乾燥機に置き忘れた自分のミスを棚に上げて男性出演者を非難しているため、もともと視聴者からの批判が集まりやすいと予想できるものであった。YouTubeの未公開動画は、その点を修正する効果はなかったと考えられる。実際、YouTube未公開動画の配信後に再びSNSで非難が上がっており、その直後に地上波で放送した経緯を重視すべきと考えた。
放送倫理上の問題があるという根拠として多数意見が指摘する点に、そうした観点を踏まえ、放送倫理上は重大な問題があったとの判断に至った。

<おもな質疑応答>

Q: 木村氏の自傷行為を認識した時点での対応や判断は大事な論点だと思うが、その重大な事実が放送局の上層部で適切に共有・検討されなかったように見える。その点について委員会はどう考えたか
A: 自傷行為がフジテレビ側の責任者に連絡されたのは3日後ということだが、その点に関しては明瞭な説明が得られなかった。委員会の審理に限界もあり具体的な事実関係が解明できなかった部分はあるが、その範囲であったとしてもフジテレビ側のガバナンスがうまくいってなかったのではないか、危機意識が十分ではなかったのではないかという印象を持った。
(曽我部委員長)
   
Q: 今回の番組が、ネット配信がなくて通常の放送のみだった場合は、放送局に人権上の問題があったといえるのか。
A: 番組の全部あるいはその前のエピソードを見ると、木村さんの怒りというのはそれなりに理由があり、ネット上の激しい反発を呼び起こすことが確実だとか、意図的に煽っているという感じはなかったというのが多くの委員の考えだと思う。
番組の内容自体に、人権侵害や放送倫理上の問題があるようには見受けられず、仮定の話で断定はできないが、一回だけの配信や放送だったとすれば、問題はないという判断が出ることは十分あると思う。(曽我部委員長)
A: 一回放送して誹謗中傷などが起き、それで終わったのであれば放送倫理上問題ありという判断からやや遠のくと思われる。ただ一定期間後に再放送した場合は、かなり似た状況になって、問題ありとなる可能性はあるのではないか。(水野委員)
   

◆SNSとの向き合い方

後半では、今回の事案をきっかけにSNS対策部を新設したフジテレビから、具体的な取り組みについて報告してもらった。
これを受けてSNSへの対応について意見交換し、SNSとの向き合い方をめぐる課題や問題意識を共有した。

<おもな質疑応答>

Q: 自社ニュースのネット配信を行っているが、その記事に対するネット上のコメントで取材対象者の人権を侵害するような書き込みをされることもあり得る。具体的な事例はないが、放送以外の部分でどう対応していくべきか考えさせられる。
A: 放送したニュースがネガティブなものであれば、報道された対象者に対するネット上の誹謗中傷や批判が多数なされるということは普通にあり、そうした場合にも放送局に責任があるとすると、表現の自由や報道の自由は成り立たなくなってしまう。
ニュースや番組の内容自体が、名誉毀損やプライバシー侵害、肖像権侵害ということであれば放送局は責任を負うが、それ以上に誹謗中傷が引き起こされ、それによって放送対象の人物が傷ついたということについては、放送局には、少なくとも人権侵害といった法的な責任はないということを明確にしておきたい。
そのうえで、少しでも余計な被害や負担を減らすという配慮は考えられると思うが、法的な責任ということでいえば、先ほど述べたことが基本であることを押さえてほしい。
(曽我部委員長)
   
Q: 一般の人が主人公となる番組において、SNSの誹謗中傷からどう守ってあげられるか、今後そうしたことが起きたときのために何をすべきか。
A: すべての放送局がフジテレビのような体制を組むわけにいかないだろうがやはりSNS上の状況には注意をして、必要に応じて対応を取ることは大事だと思う。
そのときに、どういう対応、選択肢があり得るのか、実際にどのようにやるのか、誰に相談すればいいのかを予め社内で共有し、議論しておくことが必要ではないか。
SNSの誹謗中傷に限らず、出演の際のいろいろな悩みについて相談できるような体制、雰囲気といったものを作っていくことは、配慮すべき点だと思う。(曽我部委員長)
   
Q: BPOの審理・審議の対象は基本的に放送となっているが、最近はこの事案のようにSNSやデジタルのプラットフォームなどにおける発信で人権侵害や倫理上の問題が起きている。BPOの組織や審理、審議対象のあり方などについて、これまでどのような議論がなされ、今後どのような展開が見込まれるか。
A: BPOはNHKと民放連の合意に基づいて、放送への苦情や放送倫理上の問題に対応する組織として設立されたので、その合意に基づいた運営をしている。
したがって、BPOがただちにSNSやデジタルプラットフォーム上でのコンテンツに関して、審議・審理の対象にするということにはならないし、そうしたものを対象にするということであれば、改めてNHKと民放連に議論してもらい、合意の上で対応することになる。
(BPO渡辺専務理事)
A: 放送人権委員会の実情について補足すれば、先例として、例えばニュースを細分化してニュースクリップとしてウェブサイトに掲載するなど、放送と同じ内容のものがネットに掲載されている場合は審理している。
これは、放送に関する人権侵害を扱うというミッションからは厳密には外れるが、放送の延長線上にあるということで解釈上可能だろうと判断している。
今回の事案では、YouTubeで配信された未公開動画は放送された番組には出てこない部分だった。これを正面から審理して判断することは、現状のルール及びその解釈では難しいと思われる。(曽我部委員長)
   
Q: 性的指向や性自認などについての理解は深まっているが、性別に関わる放送用語についてどこまで配慮すべきか悩ましい。看護婦や保母といった役割の決めつけによる用語の言い換えは進んでいる一方、女優、女性警官、女流棋士など、説明として使用する用語も性差別となってしまうのか。
A: 難しい問題で確たる答えというものはないが、差別かどうかはグラデーションであり、ここまでは差別ではなくここからは差別だという明確な線引きがあるわけではない。ただ基本的なスタンスとして、必然性のないものは中立的にやっていくというのが大きな視点としてはあるのではないか。
例えば女優という言い方は、新聞社によっては性別を問わず俳優としているところもある。他方で女流棋士という呼び方は、まさに制度として棋士と女流棋士とで分かれていて、そこには必然性がある。
ニュースなどの中で、必然性があるときは性別を示すこともあるだろうが、そうでない場合、とくに説明できない場合は中立的に使うというのが基本的なスタンスではないか。
また、そうした言葉遣いも大事だが、番組全体の作りについてもジェンダーの観点というものが重要なのではないかと思う。(曽我部委員長)
   

◆意見交換会のまとめ(曽我部委員長)

今回の事案は、出演者が亡くなってしまうという重大性があったが、フジテレビには真摯に受け止めてもらい、しっかり体制を作ってもらった。今後、引き続き発展させてもらうとともに、他の放送局にもぜひ参考にしてもらいたい。
テレビ離れと世の中で言われるが、ネット上でもテレビ番組の話題というのは、まだまだ非常に多いと感じる。番組の出演者の言動などをきっかけに炎上することも少なからずあり、そうしたときに放置するのか、謝罪や釈明をするのか、あるいは抗議するのか法的措置をとるのかなど、いろいろな選択肢がある。
どういうときにどういう対応をするのか、法的措置をとるとすれば誰にどう相談したらいいかということを普段からシミュレーションしておくことが大事だ。
その前提として、自社の番組に対するネット上の反応というものを常に見ておく必要があるが、一方で注意すべきは、炎上に参加している人というのはわずかであって、炎上の中に出てくる声が世論全体の声とは限らないことである。
したがって過剰反応せずに冷静に見ていく必要があるので対応は難しいが、炎上とはどういう現象なのかといったネットに対する理解を深めることも大事である。
それぞれの放送局が問題意識をさらに深めて必要な準備をしてもらうことが、今回の教訓ではないかと思う。

以上

第302回放送と人権等権利に関する委員会

第302回 – 2022年3月

2021年度の人権委員会への申立て状況を報告…など

議事の詳細

日時
2022年3月15日(火)午後4時~午後5時30分
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、水野委員

1. 放送人権委員会意見交換会について報告

2月18日に全委員参加でオンライン開催された「2021年度放送人権委員会意見交換会」について、事務局から報告した。参加は103社約230人で、事後のアンケートなどから今後の意見交換会の実施方法について議論した。

2. 2021年度申立て状況報告

年度末にあたり、2021年度の申立て状況を報告した。申立て総数は26件で、審理入りしたのは1月18日に通知・公表を行った「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」1件だった。

3. その他

事務局から最新の申立てについて説明した。

以上

第301回放送と人権等権利に関する委員会

第301回 – 2022年2月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」通知・公表に関する放送実績を報告…など

議事の詳細

日時
2022年2月15日(火)午後4時~午後5時
場所
オンライン開催
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、
丹羽委員、廣田委員、水野委員

1. 委員会決定第77号「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」通知・公表に関する放送実績の報告

前回委員会当日に通知・公表を行った委員会決定第77号について、当該局NHK宮崎放送局のニュースなどを視聴した。

2. 放送人権委員会意見交換会について

2021年度放送人権委員会意見交換会(オンライン開催)の概要について説明した。

3. その他

事務局から申立て状況などを報告した。

以上

2022年1月18日

「宮崎放火殺人事件報道に対する申し立て」通知・公表の概要

[通知]
2022年1月18日午後1時からBPO会議室において、曽我部真裕委員長と事案を担当した鈴木秀美委員長代行、水野剛也委員、少数意見を書いた二関辰郎委員長代行が出席して、委員会決定を通知した。申立人本人と、被申立人のNHKからは宮崎放送局長ら2人が出席した。
曽我部委員長がまず、「本件放送には人権侵害も、放送倫理上の問題もないというのが結論です」と委員会の判断を示したあと、「ただし今回は、放送倫理上問題があるとする少数意見がついています」と決定の全体像を伝えた。  
申立人の「兄にも何らかの非があるかのような表現によって兄の尊厳が傷つけられ、ひいては申立人の人格的利益をも侵害した」とする主張については、委員会は敬愛追慕の情の侵害の主張と捉え、裁判所の判断基準に則って総合的に判断した結果、許容限度を超える人権侵害はなかったとの判断に至ったと説明した。
また「何らかの金銭的なトラブル」との表現を使ったことについて、被申立人であるNHKは、複数の捜査関係者に裏づけ取材を行った上で警察の認識として伝えており、さらに2人が死亡した住宅火災は放火殺人事件である可能性が高まったとするニュースには高い公共性と十分な公益性があるため、放送倫理上の問題もないと判断したと述べた。
ただし「トラブル」など、多様に受け取られる可能性のある言葉は、使用するにあたり注意が必要だろうと付け加えたこともあわせて説明した。
続いて水野委員が、申立人に対し、「トラブル」など、放送で日常的に使われる言葉について、多様な受け止め方があることを示し注意喚起できたことはこの申し立ての意義があったと受け止めてほしいと述べた。
鈴木委員長代行は、人格的利益の侵害については、裁判所の判例に基づいて一般の視聴者の普通の視聴の仕方で放送全体を見て判断するので、こういう結論になったが、委員9人中2人が、放送倫理上問題ではないかとの少数意見を示しており、私も考えさせられたと述べた。
次に委員長が、「委員会全体としての判断とは別に、委員個人が異なる意見を述べるのが少数意見です」との説明を行った上で、二関委員長代行が少数意見について説明した。
二関委員長代行は、人格的利益の侵害という法的責任に関する判断については、最高裁判所の考え方に従って一般的な視聴者の視点で捉えるのが正しいが、放送倫理上の問題を考えるにはその基準を用いない方が妥当な場合がある。次々に変化していくテレビの画面について、受動的な視聴者とは異なり、放送局は予めそれらを準備する立場なので、それがどのような受け止め方をされるかを、十分に考えた上で番組を作るべきだと思う。その上で「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」という表現を考えると、この表現によって、容疑者が何の落ち度もない被害者を一方的に殺害したわけではなさそうだな、と一部の視聴者に受け止められる可能性のある放送になっていたと言える。容疑者の過去の同種前科に触れない配慮をしたのは一つの見識だが、その配慮をするのなら、同様に被害者の人権への配慮があって然るべきだったのではないか。そういったことなどから放送倫理上の問題があったのではないかと考えたと説明を行った。
この決定を受け申立人は「長い時間と多くの労力をかけていただき感謝します」と発言したあと、NHKの報道姿勢と視聴者対応に対する強い不満を表明した上で、「裁判所の判決のような決定で、もっと放送倫理的な方向に振って欲しかった」との意見を述べた。
NHKは「放送したニュースに問題はないとの主張が認められたと受け止めています。今後も人権に充分配慮しながら報道していきたい」と述べた。

[公表]
午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見し、委員会決定を公表した。放送局と新聞社、民放連合わせて19社1団体から27人が出席した。テレビカメラの取材は当該局のNHKが代表取材を行った。通知と同じく、曽我部委員長が決定の結論とそこに至る考え方を説明した上で、最後に記した注意喚起について、「トラブルという言葉は、最近意識してニュースを見るようになったが、非常によく使われている。場合によっては思わぬ受け取られ方をすることもあるので、決まり文句や常とう句のようなものとして、安易に用いないようにする必要があろう」と付言した委員会の思いを述べた。
水野委員は、今回の決定は「問題なしの見解」であり、これまでに17件の同種の見解が出ているが、その中で少数意見がついたのは初めてである。その理由は「トラブル」という言葉の幅が大変広いからで、委員のなかでも異なる意見があった。送り手側が特段の意味を込めなくても、そうではない受け取り方をする人が一定数いることを意識した方が良いと述べた。
鈴木委員長代行は、当事者2人がともに死亡し真相が分からない中で、申立人は警察や報道機関がなぜもっと調べてくれないのか不満を持ちながら、自ら調査していた。8か月後にようやく真相に迫る報道があるのかと期待していたところ、自分は聞いたことがない兄にも非があるかあるかのような報道がなされ、期待が裏切られたと感じたのではないか、と申立ての背景を紹介した。
二関委員長代行は、「何らかの金銭的なトラブル」という言葉の受け止め方について、「トラブル」はそれだけを取り出すと確かに曖昧で中立的ではあるが、「2人の間に何らかの金銭的トラブルがあった」と言う場合は、2人ともそのトラブルの存在を認識している場合を指し、どちらか一方がその存在すら認識していない場合は含まないのが一般的ではないだろうか。その結果、本件は被害者が気づかないうちに金銭がとられるなどの一方的な犯罪行為ではなく、被害者である申立人の兄がよほど恨みを買うようなことをしたのではないか、と一部の視聴者が受け止める可能性があるものになっていたと考えられる。放送局にはそこまで考慮した高度な倫理性が求められるのではないかと、放送倫理上の問題ありとした少数意見を説明した。

<質疑応答>
(質問)申立人、被申立人双方の受け止めは?
(曽我部委員長)
申立人は、BPOに対しては審理への感謝を表明した上で、判断内容については「裁判所のような判断であり、もう少し放送倫理に踏み込んだ判断をして欲しかった」と述べた。放送局に対しては、強い言葉で批判を述べた。その背景には、2人が亡くなる重大な事件であるのに長い間続報がなく、8か月たってようやく報道された内容は、警察の発表通りで期待外れなものだったということがあると思われる。
NHKは、「主張が認められ感謝すると共に、今後も人権に配慮した報道をしていきたい」と述べた。

(質問)以前はよくあったような報道内容だが、報道機関に対する社会の見方が変わってきたというような議論は審理の中であったのか?
(曽我部委員長)
その点を直接議論はしなかったが、委員の問題意識、認識としてはあったと思う。今回のケースは広く社会の耳目を集めるものではなかったが、事件報道の観点からいうと重要な問題提起をするものだと考えている。事件報道の実務に関し、今まで当たり前だと思われていたことについて、全国の放送局や新聞社に考えていただきたい題材を提供するケースだったというのが、委員の共通認識だと思う。

以上

第300回放送と人権等権利に関する委員会

第300回 – 2022年1月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」委員会決定の通知・公表を報告…など

議事の詳細

日時
2022年1月18日(火)午後4時~午後5時
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、水野委員

1. 委員会決定第77号「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」通知・公表

審理入りしていた「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」について、委員会決定第77号として、申立人と被申立人双方への「通知」と「公表」記者会見を、委員会当日に行った。今回の委員会ではその様子が報告された。

2. その他

事務局から現時点での申立て状況などを報告した。

以上

2021年度 第77号

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」
に関する委員会決定

2022年1月18日 放送局:NHK

見解:問題なし(少数意見付記)
NHK宮崎放送局は2020年11月20日の『イブニング宮崎』で、男性2人が死亡した宮崎市内の住宅火災の続報として、放火殺人の可能性があり、2人の間に「何らかの金銭的なトラブル」があったかのように伝えた。これに対し、被害者の弟が、兄にも原因の一端があったとの印象を抱かせるものであり、兄の尊厳を傷つけたとしてNHKに対し謝罪を求める申立てを行った。NHKは取材を基に客観的な事実を伝えていると反論していた。
委員会は、審理の結果、人権侵害はなく、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 委員会は、以下のとおり、本件放送には人権侵害も、放送倫理上の問題もない、と判断する。
 まず、申立人は本件放送について、事件の被害者である兄にも非があるかのような「何らかの金銭的なトラブル」という表現を使ったことなどで兄の名誉を毀損し、ひいては申立人の人格的利益(敬愛追慕の情)をも侵害した、と主張している。
 しかし、「何らかの金銭的なトラブル」は、それ自体を単体でとらえれば申立人のような受けとめもできようが、兄に何らかの非があったとはっきりと伝えているわけでも、強く示唆しているわけでもなく、それ以外の部分を含め一般的な視聴者の普通の見方をすれば、本件放送が全体として社会的評価を明らかに低下させるわけではない。
 「何らかの金銭的なトラブル」に言及したこと自体も、当事者である兄と容疑者がすでに死亡しており背景がつかみにくい状況で、複数の捜査関係者への取材で一定の裏づけをとったうえで警察の見方として伝えており、また兄と容疑者の関係性や放火の動機につながる情報を警察がどう認識しているかは報道の一要素であるため、不適切とはいえない。
 そして、2人が死亡した火災が事故ではなく、放火殺人事件である可能性が強まったことを報じる本件放送には、高い公共性があり、その目的にも十分な公益性がある。
 以上の事情を総合すると、きわめて不可解、残酷な形で突然、肉親を失った申立人の大きなショックを考慮しても、本件放送は許容限度(受忍限度)を超えて申立人の敬愛追慕の情を侵害してはいない。
 申立人はまた、「何らかの金銭的なトラブル」という表現をめぐる放送倫理上の問題として、①兄にも非があると示唆すること、②遺族である申立人はまったく聞いたことがないのに、警察への取材に依拠し、申立人に確認をせず放送で使用したこと、を主張している。
 しかし、①については、すでに指摘したように本件放送を全体として見れば、兄に何らかの非があったとはっきりと伝えているわけでも、強く示唆しているわけでもなく、②についても、兄と容疑者がともにすでに死亡していること、複数の捜査関係者への取材で確かめたうえで、両者間に「何らかの金銭的なトラブル」があったという警察の認識として伝えていることなどから、放送倫理上の問題があるとはいえない。
 ただし、一般論として、「トラブル」のように、立場や文脈や視聴の仕方により多様に受け取られる可能性のある言葉は、事件報道の常とう句、決まり文句のようなものとして安易に用いることのないよう、留意する必要があろう。

全文PDFはこちらpdf

2022年1月18日 第77号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第77号

申立人
宮崎県在住の男性(事件被害者の弟)
被申立人
日本放送協会(NHK)
苦情の対象となった番組
『イブニング宮崎』(宮崎放送局ローカルニュース)
放送日
2020年11月20日
放送時間
午後6時10分~7時のうち番組冒頭約2分間

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1. 放送の概要と申立ての経緯
  • 2. 本件放送の内容
  • 3. 論点

II.委員会の判断

  • 1.申立人の人格的利益(敬愛追慕の情)の侵害
  • 2.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

全文PDFはこちらpdf

2022年1月18日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2022年1月18日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。詳細はこちら。

  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

第299回放送と人権等権利に関する委員会

第299回 – 2021年12月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」委員会決定を通知・公表へ…など

議事の詳細

日時
2021年12月21日(火)午後4時~午後6時
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、
斉藤委員、野村委員、丹羽委員、廣田委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した住宅火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭的なトラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
委員会では、これまでの審理をもとにまとめた決定文の最終案が起草委員から示され議論し、委員会決定として了承した。その結果、1月中に通知・公表を行うことになった。

2.  その他

事務局から現時点での申立て状況などを報告した。

以上

第298回放送と人権等権利に関する委員会

第298回 – 2021年11月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2021年11月16日(火)午後4時~午後7時30分
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、
野村委員、丹羽委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した住宅火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭的なトラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
委員会は、前回委員会の審理をもとに修正した決定文の修正案が起草委員から示され議論を行った。その結果、概ね審理が尽くされ、次回委員会で最終決定に向けて議論することを確認した。

2.  その他

事務局から現時点での申立て状況などを報告した。

以上

第297回放送と人権等権利に関する委員会

第297回 – 2021年10月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理…など

議事の詳細

日時
2021年10月19日(火)午後4時~午後7時
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、丹羽委員、廣田委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した住宅火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭的なトラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、前回委員会での申立人・被申立人双方からのヒアリングやその後の審理を受けて、起草委員から決定文案が示された。委員の間で議論が行われたが、特に「金銭的なトラブル」という表現の評価について、各委員から意見が出された。その結果、委員会は、決定文の原案に修正を加えるとともに、決定内容について次回委員会でさらに議論することとした。

2.  その他

事務局から現時点での申立て状況などを報告した。

以上

第296回放送と人権等権利に関する委員会

第296回 – 2021年9月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」ヒアリングを実施…など

議事の詳細

日時
2021年9月21日(火)午後3時~午後7時20分
場所
千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
野村委員、廣田委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」ヒアリング及び審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した住宅火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭的なトラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、申立人・被申立人双方からのヒアリングを実施した。特に「金銭的なトラブル」という表現について、両者の意見を聞いた。その後、審理に移り決定の方向性について意見を交わし、その議論を基に担当委員が起草に入ることを決めた。

2.  その他

事務局から現時点での申立て状況を報告した。

以上

第295回放送と人権等権利に関する委員会

第295回 – 2021年8月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」ヒアリング実施を決定…など

議事の詳細

日時
2021年8月17日(火)午後4時~午後5時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
丹羽委員、野村委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した民家火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭的なトラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭的なトラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、双方から所定の書面すべてが提出されたのを受けて、論点を整理し、ヒアリングのための質問項目を絞り込み、次回委員会でヒアリングすることを決めた。

2.  その他

事務局から現時点での申立て状況を報告した。

以上

第294回放送と人権等権利に関する委員会

第294回 – 2021年7月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」に対するフジテレビの対応と取り組みを了承…など

議事の詳細

日時
2021年7月20日(火)午後4時~午後5時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
丹羽委員、野村委員、廣田委員、水野委員

1. 「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した民家火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭トラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭トラブルがあった」と報じられたことで、「兄にも原因の一端があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、双方から提出された書面がすべては整わず、現時点での意見交換を行った。

2. 「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」フジテレビの対応と取り組み

今年3月30日に通知公表を行った委員会決定第76号「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」について、当該放送局のフジテレビから「対応と取り組み」をまとめた報告書を受領し、委員会での検討の結果、了承した。委員からは、「特に出演者や制作スタッフを守るための専門家の導入を期待したい」との意見があった。
フジテレビの対応報告は、こちら(PDFファイル)。

以上

第293回放送と人権等権利に関する委員会

第293回 – 2021年6月

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理入り決定…など

議事の詳細

日時
2021年6月15日(火)午後4時~午後6時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、
丹羽委員、野村委員、廣田委員、水野委員

1. 審理要請案件「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理入り決定

NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した民家火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭トラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
ニュースでは、この火災について、被害者の服からガソリンの成分が検出されたことや、容疑者の自宅や車などの捜索から被害者の父親名義の銀行通帳が見つかり、口座から現金が引き出されていたことを報じた上で、「こうした状況から警察では2人の間に何らかの金銭トラブルがあり、容疑者(実名)がガソリンをまいて火をつけ被害者(実名)を殺害した疑いが強まったとして、殺人や放火などの疑いで容疑者死亡のまま書類送検する方針です」と締めくくった。
この放送に対して申立人(被害者の弟)が、「2人の間に何らかの金銭トラブルがあった」と報じられたことで、「亡くなった兄にも何らかの原因があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。
今回の委員会では、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

2. 最新申立て状況報告

事務局から最新の申立て状況について報告した。

以上

2021年6月15日

「宮崎放火殺人事件報道に対する申立て」審理入り決定

 BPO放送人権委員会は、6月15日の第293回委員会で、上記申立てについて審理入りを決定した。

 NHK宮崎放送局は、2020年11月20日午後6時10分からの『イブニング宮崎』(宮崎県内で放送)の中で、同年3月26日に宮崎市内で男性2人が死亡した民家火災の続報を放送した。そこでは、この火災は放火殺人事件の疑いが濃くなり、容疑者がガソリンをまいて火をつけ被害者(申立人の兄)を殺害し自分も死亡した可能性があり、その原因として「何らかの金銭トラブル」が死亡した2人の間にあったかのように伝えられた。
 ニュースでは、この火災について、被害者の服からガソリンの成分が検出されたことや、容疑者の自宅や車などの捜索から被害者の父親名義の銀行通帳が見つかり、口座から現金が引き出されていたことを報じた上で、「こうした状況から警察では2人の間に何らかの金銭トラブルがあり、容疑者(実名)がガソリンをまいて火をつけ被害者(実名)を殺害した疑いが強まったとして、殺人や放火などの疑いで容疑者死亡のまま書類送検する方針です」と締めくくった。
 この放送に対して申立人が、「2人の間に何らかの金銭トラブルがあった」と報じられたことで、「亡くなった兄にも何らかの原因があったのではないか」との印象を抱かせるものであり、事件被害者である兄の尊厳を傷つけたとして、NHKに対して謝罪を求めてBPO放送人権委員会に申立てを行った。
 これに対してNHKは、「事件当事者の2人が亡くなっている中でも、当時の取材で知り得た情報を基に『被害者』と『加害者』を明確に分ける形で客観的な事実を伝えており、申立人の主張する指摘は当たらない」と反論した。

 15日に開かれたBPO放送人権委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らして、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。次回委員会から実質審理に入る。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を満たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

第292回放送と人権等権利に関する委員会

第292回 – 2021年5月

「判断のグラデーション」表記について…など

議事の詳細

日時
2021年5月18日(火)午後4時~午後6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」第1会議室(オンライン開催)
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、二関委員長代行、國森委員、斉藤委員、丹羽委員、野村委員、廣田委員、水野委員

1.「判断のグラデーション」の表記について

2021年3月30日に通知公表を行った「委員会決定第76号 リアリティ番組出演者遺族からの申立て」の報道において、今回の委員会決定を「3番目に重い」と表現する新聞記事があった。今回は、「2番目に重い」判断であるが、「判断のグラデーション」では上から3番目に記載されていたことが上記の記事の記載につながったと考えられることから、表記の見直しを行った。
議論の結果、「人権侵害」と「放送倫理上重大な問題あり」を従来は縦列に表記していたが、横列で表記することになった。(下記参照)なお、「判断のグラデーション」の内容自体に変更はない。

委員会決定における判断のグラデーション

勧 告

人権侵害

  • 名誉毀損
  • プライバシー侵害
  • 肖像権侵害 等

放送倫理上重大な問題あり

見 解 放送倫理上問題あり
見 解 要望
問題なし

 

2.  事例研究

2021年度2回目の委員会である今回の委員会では、新任委員が委員会での議論の流れや判断基準を理解できるように、直近の委員会決定4件について担当起草委員がポイントを解説し、状況の共有に努めた。

以上

第291回放送と人権等権利に関する委員会

第291回 – 2021年4月

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」通知・公表報告…など

議事の詳細

日時
2021年4月20日(火)午後4時~5時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
曽我部委員長、鈴木委員長代行、國森委員、斉藤委員、丹羽委員、野村委員、廣田委員、水野委員

1. 委員長選出

2021年度最初の今月の委員会は、3月末で退任した奥武則委員長、市川正司委員長代行、紙谷雅子委員、城戸真亜子委員、松田美佐委員に替わり、新任の、斉藤とも子委員、鈴木秀美委員、丹羽美之委員、野村裕委員の挨拶があった後、曽我部真裕委員長代行が委員の互選により第9代委員長に選出された。曽我部委員長は鈴木委員と二関辰郎委員を委員長代行に指名した。

2.「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」通知・公表報告

3月30日に通知・公表が行われた「委員会決定第76号 リアリティ番組出演者遺族からの申立て」について、当該局フジテレビの当日のニュース番組を視聴し、新聞各紙を事務局が説明して意見交換を行った。

以上

2020年3月30日

「リアリティ番組出演者遺族からの申立て」通知・公表の概要

[通知]
2021年3月30日(火)午後1時から千代田放送会館2階ホールにおいて、奥武則委員長と事案を担当した曽我部真裕委員長代行、廣田智子委員、補足意見を書いた水野剛也委員、少数意見を書いた國森康弘委員、二関辰郎委員の6人が出席して、委員会決定を通知した。申立人本人と代理人弁護士、被申立人のフジテレビからは編成制作局コンテンツ事業センター局長補佐ら3人が出席した。
はじめに奥委員長が、放送人権委員会の判断の対象はあくまで「放送」であり、Netflixでの先行配信などは関連して取り上げることになると説明した上で、委員会の決定を伝えた。「人権侵害については3点の判断を行った」として、「①本件放送自体による、視聴者の行為を介した人権侵害」については、人権侵害があったとまでは断定できないと述べた。「②自己決定権及び人格権の侵害」については、自由な意思決定の余地が事実上奪われているような場合には当たらず、自己決定権等の侵害は認められないとした。また、申立人が主張する「③プライバシー侵害」も、木村氏は撮影されることを認識し認容していたことなどから、違法なプライバシー侵害であるとは言えないと説明した。一方、放送倫理上の問題については、「Netflixでの配信を契機に木村氏に対する誹謗中傷が起こり、自傷行為に至るという深刻な事態が生じていたところ、本件放送を行うとする決定過程で、出演者の精神的な健康状態に対する配慮に欠けていた点で、本件放送には放送倫理上の問題があった」とした。これに関連してドラマなどのフィクションとは違い、視聴者の共感や反発が生身の出演者自身に向かうことになるというリアリティ番組の特殊性についても言及した。決定文の最後に「放送界全体が本件及び本決定から教訓を汲み取り、木村花氏に起こったような悲劇が二度と起こらないよう、自主的な取り組みを進めるよう期待する」と記したことは、放送人権委員会としては異例のことであり、ぜひその真意をくみ取ってほしいと締めくくった。
続いて、曽我部委員長代行が補足説明し、「人権侵害と放送倫理上の問題では、判断の基準が違う。番組そのものに違法性がない場合、人権侵害を認めるのはハードルが高い」と発言した。
続いて、水野委員が補足意見の意図について述べ、少数意見を書いた國森委員、二関委員が自身の意見の要点を説明した。
決定を受け、申立人は「娘本人がこの場に不在のため、事実を証明することが難しく悲しい」と発言。フジテレビは「今回の委員会決定を真摯に受け止め、今後の放送と番組作りに生かしていきたい」と述べた。

[公表]
午後3時から紀尾井カンファレンス・メインルームで記者会見を行い、委員会決定を公表した。29社50人が取材した。テレビカメラの取材は、在京局を代表して当該局のフジテレビ、そのほかTOKYO MXが行った。出席委員は奥武則委員長と事案を担当した曽我部真裕委員長代行、廣田智子委員、補足意見を書いた水野剛也委員、少数意見を書いた國森康弘委員、二関辰郎委員の6人。
まず、奥委員長が判断部分を中心に、決定を説明した。続いて、曽我部委員長代行が、「決定文の最後に、放送界全体へのメッセージを織り込んだ。通常は対象となった放送局に向けて要望を述べるのだが、この案件は放送界全体で考えてもらいたいという気持ちが込められている。また、木村氏の自傷行為後のケアについて、フジテレビの責任ある役職者と現場の間で情報共有や協議がなされていなかったという問題はあるが、制作スタッフは現場としてできることを懸命にやっていたと思う。さらに判断の内容の補足となるが、いずれも花さんへのケアの問題に焦点を当てながら、人権侵害と放送倫理上の問題で異なる見解を出した理由は、判断の基準が違うということ。番組そのものに違法性がない場合、人権侵害を認めるのはハードルが高い」と説明した。廣田委員は本事案の審理の難しさについて「委員会で議論を重ね、悩んで、考えて、今回の結論に至った」と述べた。
続いて、水野委員が補足意見を書いた意図について話し、さらに、少数意見を書いた國森委員、二関委員が、委員会決定との差異を中心に自身の意見の要点を説明した。
その後行われた質疑応答の主な内容は以下のとおり。

(質問)
番組と木村花氏の死の因果関係をどう考えているのか。また、木村氏のケアに関連してコロナ禍について触れているが、コロナだったら自傷行為をした後、放っておいてよいというのか。また、この案件について放送倫理検証委員会と合同で議論する余地はなかったのか?
(奥委員長)
番組と木村花氏の自死との因果関係はわからない。テレビ局も自死を予見することはできなかったと思う。番組スタッフも木村氏を放っておいてよいとは思っていなかったはずだ。決定文ではコロナ禍との関連について、緊急事態宣言が発出されていたため木村氏のケアに物理的な制約があったことを指摘している。
BPOの3委員会はそれぞれ独立して活動しており、委員会に付与されている役割も違う。放送倫理検証委員会は、申立て制を取っている放送人権委員会とはまったく違う角度から放送番組を検証する役割だと理解している。簡単に合同委員会を開いて、ということにはならない。
(曽我部委員長代行)
番組と木村花氏の自死との因果関係については、委員会は判断していない。ただ、ケアをする責任はあるということで、それが十分だったかどうかに焦点を当てて議論した。コロナに関しては二つ影響があったと考える。一つはケアに関し制約があったということ。精神科医の受診ができなかったことや、テラスハウスに同居していれば日常的なサポートができたはずがコロナの関係で収録が中断しており出演者は自宅へ帰っていた。もう一つ、本業であるプロレスの興行ができなかったことが木村氏に与えた影響は無視できないと思う。

(質問)
今回はNetflixでの先行配信がきっかけで木村氏への誹謗中傷が起こったわけだが、番組以外の理由で木村氏への誹謗中傷が起きていた場合も、フジテレビは放送倫理上の問題を問われるのか?
(曽我部委員長代行)
今回については、先行配信があって自傷行為があり、そのケアの問題に焦点を当てたのだから、先行配信が無ければ責任は生じないというのが基本だと考える。前提として、BPOは、適法な内容の番組放送に関する第三者の誹謗中傷への責任をテレビ局が負うことについて否定的な立場を取っている。ただ、特殊な事情があれば、またその時に判断することになると思う。

(質問)
現在BPOは、放送されていない番組は扱わないという規則で運営されているが、最近は、スピンオフ作品を配信のみで流すという形が浸透している。放送局の自主自律を守っていく上で、今後、“放送はされていないが局が制作したコンテンツ”にどう対応していくか、見解をうかがいたい。
(奥委員長)
委員会は、現行の運営規則に則って審理しているが、BPOという組織そのものが新しい状況にどう対応するかという課題はあると思う。
(曽我部委員長代行)
運営規則にある委員会のミッションは、われわれ委員が決めているわけではない。BPO全体、ひいてはNHKと民放連で考えていくべき問題だと思う。

(質問)
木村氏の自死について、フジテレビから親子関係が要因の一つであったような発言があったとのことだが、具体的に教えてもらいたい。
(廣田委員)
ヒアリングではなく委員会への提出書類の中で、いろいろな背景事情の一つとして親子関係が挙げられていただけで、フジテレビが親子関係を自死の原因として主張しているわけではない。

(質問)
今回の審理を振り返って、難しさを感じた点があればうかがいたい。また、ヒアリングの規模感や難航した点があれば教えてほしい。
(奥委員長)
本来の当事者とも言うべき木村花氏が亡くなっていることに一番の難しさを感じた。
当委員会は、基本的に書面を提出してもらい、それに基づいて当事者にヒアリングするというやり方を採っている。調査対象を広げて大勢に話を聞くという仕組みにはなっていない。しかし今回は、フジテレビの社員だけでなく制作会社のスタッフにもヒアリングし、申立人側では木村氏のケアに当たったプロレス仲間の方二人にも協力していただき話を聞いた。
(曽我部委員長代行)
放送人権委員会は、普段は名誉毀損やプライバシー侵害を審理していて、申立人と放送局側の当事者の意見を聞くという意図で手続き等が定められている。そこが放送倫理検証委員会と違う点で、放送局のさまざまな立場の方に多数ヒアリングすることは想定していない。

(質問)
決定は、放送局の対応について、例えば放送を見送ることや内容を差し替えるなどの編成上の問題には踏み込んでいないが、そのような視点での議論はされなかったのか。
(奥委員長)
放送することを前提に、こうすべきだったと指摘しているわけではない。自傷行為以降、地上波放送にいたるまでの間に、ケアが十分であればもっと違う対応もあったのではないかということだ。放送するか否かは放送局が決めることであって、われわれ委員会は「放送を中止すべきだった」「内容を差し替えるべきだった」というようなことを言う立場にはない。

(質問)
制作の現場と制作責任者との間の意思疎通のあり方に問題があったと指摘しているが、制作会社とフジテレビの間で意識の違いはあったと思うか。また、放送決定にいたる過程で、現場と責任者の間に温度差があったのか知りたい。
(奥委員長)
意思疎通のあり方の問題点とは、自傷行為があった時点で、フジテレビ本体に情報を伝えて、どう対応するかを議論・検討すべきだったのではないかということを指している。また、放送決定に至る過程でどのような議論がされたか不明だ。ヒアリングで、放送するか否かの判断について温度差があったか等については浮かび上がってこなかった。

以上