2023年度

芸能事務所における性加害問題について

2023年12月4日
BPO [放送倫理・番組向上機構]
理事長 大日向雅美

芸能事務所における性加害の問題につきましては、今年3月にBBCの報道を一つの契機として日本社会において重大問題とする認識が高まり、その後、9月以降、当該事務所の会見および具体的対策への動き等が認められております。未だ解決の道筋は見えず、むしろ緒についたところとも言える本問題ですが、社会的関心は言うまでもなく非常に高く、BPOにも視聴者からの意見が数多く寄せられています。

これまでいただいている視聴者意見は、概ね本問題に対する驚愕と許しがたい思いをベースとしていることで一貫していますが、当初の加害者や当該事務所の責任をもっぱら追及するもの、所属タレントの人権を擁護するものから、やがてそれを放置してきた放送界やマスメディア、さらには企業や社会全体のあり方を問うものへと、時間と共に様相を変えつつあります。

そうした中、本問題に対しBPOの各委員会が速やかに審議入りをして、放送局を諫めるべく動きをとることを期待する声も多数いただいております。

BPOは、放送界が市民社会に果たす公共的使命を自覚し、自ら第三者の意見を聴く仕組みを設けて放送内容の向上を図ることを目指して設立された機関です。具体的には「放送倫理検証委員会」「放送と人権等権利に関する委員会」「放送と青少年に関する委員会」の3つの委員会が、放送された番組について、その制作過程や取材方法、内容等に関して、倫理上、人権上、さらには青少年に及ぼす影響上の問題の有無の判断を行い、解決に向けて「勧告」「見解」「意見」等の決定の形で放送界に要請を行うものです。

BPOの設立趣旨から、これまで視聴者意見に真摯に向き合ってきたことは言うまでもなく、本問題に関しても3つの委員会の委員は、それぞれに当初から関心を寄せ、各委員会の中でも放送番組とのかかわりをめぐり議論を重ねております。

他方、各放送局は本問題について検証番組を放送し、あるいは番組審議会において議論を行っています。
放送局の自主・自律に寄与することがBPО設立の本来の目的であり、各放送局の動向に非常に注目しているところです。

放送局の自主・自律は、放送内容の向上はもちろんのこと、この社会に生き、暮らしているすべての人の人権と自由を尊重することに貢献し、ひいては日本社会の文化の質の向上につながるものです。
本問題は、特定の芸能事務所のことにとどまらず、それを取り巻くさまざまな媒体、さらには社会を構成する私たちが、一人ひとりの自由と人権をいかに守り、尊重することができるのか、換言すれば成熟した市民社会のあり方につながる問題でもあります。

こうした観点から放送局は、本問題の精査と反省を通して、自らの果たす使命をさらに認識し、今後も起こりうる諸問題に対しても真摯に検証し、改善を行うことが求められます。
視聴者と放送局を繋ぐ第三者機関の役割をもつBPОは、各放送局の今後の取り組みをたゆまず注視してまいります。そして放送がこれからも視聴者の信頼の上に公共的な役割を果たしていくため、適時、さまざまな形で放送局と議論する場を設けて、意見をたたかわせていきたいと考えております。

2003年度声明

視聴率問題に関する三委員長の見解と提言

2003年12月11日

BPO [放送倫理・番組向上機構]
放送と人権等権利に関する委員会委員長 飽 戸  弘
放送と青少年に関する委員会委員長 原  寿 雄
放送番組委員会委員長 木村 尚三郎

日本テレビで起きた視聴率操作事件は、放送の自律と放送文化の質の向上を目指す「放送倫理・番組向上機構」[BPO]にとっても、重大な問題を提起した。テレビ局のプロデューサーが担当番組の視聴率を上げるために、制作費を使って視聴率調査対象者に金品を贈るようなことは、放送・広告関係者だけでなく、視聴者や社会を欺く背信行為と言わなければならない。

BPOは三つの委員会が視聴者と放送界の透明な回路となり、苦情や批判に対応してきたが、視聴率競争の現状については、かねて疑問視する声が強かった。限定的に利用されるべき視聴率の数字が広告料金の重要な基準として独り歩きし、放送人の良識を疑わせるような過激な視聴率競争をもたらしていることは否定できない。

性、暴力の過剰表現などによる”低俗番組”の横行も、報道やワイドショーなどで起きる人権侵害事件も、視聴率競争から生み出されているものが少なくない。「低視聴率でもよいから良質の番組を出したい」という広告主の要望に対して「局全体の視聴率が低くなるから」などと言って断わることがあるような現状には、広告主の中からも厳しい批判が表明されている。

たしかに視聴率は、視聴の量を測る指標としては、現在入手可能な唯一の客観的データである。しかし、番組の質の評価基準としては不十分であり、また、量の指標としても600サンプルでは±2~3%の誤差を伴っているのに1%の差で一喜一憂するなどは、適切な視聴率の使い方とは言えない。にもかかわらず、現実には視聴率至上主義に走り、番組制作を左右していると言っても過言ではない。今回の事件はその実態の反映と見ることができよう。

事件は、世論のメディア不信と公権力による法的規制が進む情勢のなかで起きている。放送の自由と放送文化の向上を願う放送人は、この機に自律を強め、視聴率問題の歪みを正して世論の信頼を取り戻さなければならない。同時に、放送の社会的使命を再確認し、生き生きとした創造活動によってテレビの可能性を追求し、社会の期待に応えてほしい。

この観点から当面、次の点について提言し、関係者の積極的な論議と具体的な対応を要望する。

  • 過大な視聴率依存を改めるためには、番組の質を測定する視聴質調査も併用して総合的に評価すべきである。NHKと民放各社がこれまで個別に進めてきた視聴質研究を発展させながら、放送界全体としての新たな番組評価基準づくりに向けた対策機関の設置が必要と考える。視聴率制度の再検討は放送の根幹に触れる構造改革と言えるものなので、この対策機関には、広告界、制作会社や専門家、視聴者・市民なども参加することが望ましい。
  • 広告界も新しい評価基準づくりに向けて、積極的な協力を望みたい。広告主・広告会社もまた、放送文化の質に大きな社会的責任を持ち、それを果たすことによって、視聴者・消費者の信頼を得ることができる。
  • 放送人の自律を強める倫理研修などの必要性も改めて強調したい。日本テレビの調査報告書によれば、当のプロデューサーは「視聴率さえ上げれば何をやってもいい、という感覚があった」と述べている。視聴率至上主義は放送現場の倫理観をここまで麻痺させている。また、制作会社との関係のなかでキックバックを生むような土壌があるという批判にどう応えるか。現状を放置したままでは制作現場の倫理強化は望めない。
  • 視聴者・市民には、番組に対する積極的な発言を期待したい。番組を批判、要望、激励することで、視聴者もテレビ改革に参加できる。視聴者も放送文化の担い手であることを訴えたい。
  • 新聞、雑誌の関係者には番組批評を強めてほしい。また、「視聴率ベスト10」などの報道は、視聴率至上主義を増幅する面のあることに留意し、現状の再検討を望みたい。

BPOからの提言・声明・見解

2003年12月11日

「三委員長の見解と提言」 を出すにあたって

BPO[放送倫理・番組向上機構]理事長  清 水 英 夫

BPOは今年7月の発足以来、三委員会(BRC、放送と青少年に関する委員会、放送番組委員会)の独自性と独立性を尊重してきた。同時に、それら委員会に共通する問題や、そのどこにも該当しない問題等の処理に関して、検討を続けてきた。

今回の視聴率問題に関する三委員長の見解と提言は、BPOのあり方に関する一つの方向を示したものと言えるであろう。この提言がまとめられる過程として、各委員会において活発な意見交換が行われた。そして、それら有識者の意見を基に、三委員長による検討がなされ、まとめられたのが今回の見解と提言である。

ただちにわかることは、今回の視聴率問題に関する三委員長の見解が極めて厳しいことである。その背景には、各委員会における委員各位のさまざまな厳しい意見が存在している。そして、それらの意見に共通しているのは、今回の事件が偶発的でもなく、また当該プロデューサー個人の問題でもないという認識である。

放送による人権侵害、低俗番組の横行、青少年に与える番組の悪影響など、BPOの主な関心事の背景には、視聴率至上主義や視聴率即メディア通貨と捉えがちな業界体質の存在があるのではないかと、多くの有識者委員は考えている。その事実を放送界は重く受けとめてほしい。

有識者委員の多くも、放送局経営における視聴率調査の存在理由や、視聴率を番組評価の一手段とすることには否定的ではない。しかし、視聴率を巡る業界の現状は、市民の常識に反し、あまりにも常軌を逸していたと考えざるを得ない。その意味で、今回の事件は放送のあり方を再考するうえで重要な契機にしなければならない。

三委員長は、次のような重要な提言を行っている。

  • 量的な視聴率調査だけでなく、番組の質を測定する視聴質調査の導入も検討すること。
  • 広告界も新しい評価基準づくりに向けて、積極的に協力してほしいこと。
  • 放送人のモラルを高め、自律を強める倫理研修の必要性。
  • 視聴者(市民)の番組に対する積極的な発言を期待する。
  • 新聞や雑誌が視聴率至上主義の増幅に加担しないでほしいこと。

放送を担う人々がこれらの提言の真意を理解され、健全な放送文化の実現と発展のため、総力をあげて取り組まれることを切に希望する。

BPOも、第三者機関としての役割を再認識し、視聴者の声に耳を傾けながら、放送の自律と放送文化の向上のために努力していく所存である。

視聴率問題に関する三委員長の見解と提言

視聴率問題についての中学生アンケート結果

この問題を知っていましたか?(48人中)

事件の第一印象

  • なんでこんな事をしたのかなと思いました。こんな事をしてはいけないと思わなかったのか不思議です。
  • お金を払って視聴率を上げても、心から満足できないだろうなと思った。
  • なんでこんなことで騒ぐのだろうと思った。今までも普通にあった(不正操作が)と無意識のうちに思っていたから。
  • よく意味がわからなかった。ずるい人だと思った。
  • ひきょう。残念な気持ち。
  • 第一印象へぇーっ。視聴率が低かったらつまらないと思ってあきらめてほしい。
  • 日テレ=悪い会社というイメージが沸いた。
  • なぜお金を使ってまで視聴率をあげたいのかわからない。
  • 最悪!今まで結構視聴率を気にして見る番組を選んできたのでがっかりした。
  • そんなことまでして視聴率を気にするものなのかと思った。
  • 「視聴率さえ上がれば何をしてもいい」という考えがあるのが悲しかった。それよりも、いい番組を作って皆に支持してもらえばいいのに。
  • バカなプロデューサーがいると思った。これから、信用できなくなる。
  • 何も感じなかった。
  • 視聴率がTV局の利益につながるのだから、こういう事が起こるのは驚くようなことでもない。
  • テレビを作る人は、視聴者のことをまったく考えていないのだと思った。
  • スポンサーに対する詐欺だ。
  • こんなことをやる暇があるなら、おもしろい番組をつくれ!
  • 操作するのでは視聴率を測る意味がない。
  • そんなに視聴率を上げたいなら、ずるをしないで実力で勝負すればいいのに。

なぜこのような事が起きたと思いますか?

  • 会社とスポンサーの問題。「視聴率ランキング」の番組とかをやっているのを見て、いつかこういうこと(不正操作)が起きると思っていた。
  • スポンサーとの関係でいろいろあったのかなと思った。
  • 自分の番組をたくさんの人に見てもらいたくてこのような事件が起きたのではないかと思った。でも、これからはあまり見てもらえなくなるのでは。
  • 視聴率重視という会社の方針が、プロデューサーの重荷になったから。
  • 視聴率を測る機械を所有している家庭の数が限られているから。
  • 大人気ない人が増えたから。
  • お金がほしかったから。少しの数字でも莫大な額の違いが出るから。
  • 他の局との競争が激しいから。同じ局の中でも、よりたくさんの給料をもらうため。
  • プロデューサーの意思の問題。操作するためにお金を使うなら、その分を自分の番組につぎこんで、みんなが見てくれるような番組を作ればいいのに。

2004年度声明

テレビ局に対する総務省の行政指導に関する声明

2004年11月11日
BPO [放送倫理・番組向上機構]
放送と人権等権利に関する委員会委員長 飽 戸 弘
放送と青少年に関する委員会委員長 原 寿 雄
放送番組委員会委員長 木村尚三郎

放送倫理・番組向上機構[BPO]は、「放送事業の公共性と社会的影響の重大性に鑑み、言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情…(中略)…に対して、自主的に、独立した第三者の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的」に設立された(BPO規約第3条)。BPOを構成する三つの委員会(放送と人権等権利に関する委員会、放送と青少年に関する委員会、放送番組委員会)は、この目的を果たすため真摯な活動を行ってきたが、6月22日に総務省が通達した厳重注意などの行政指導は、以下の理由により、放送の自律や放送界の第三者機関に対する信頼を危うくするおそれが極めて強いと判断せざるを得ない。

第一に、総務省(情報通信政策局長名)が厳重注意を行ったテレビ朝日の国会・不規則発言編集問題については、当事者である衆議院議員・藤井孝男氏の申立てに基づき、放送と人権等権利に関する委員会[BRC]が審理の結果、テレビ朝日が重大な過失によって藤井議員の名誉を侵害したことを認定し、同局に対し適切な措置を講じるよう勧告した。然るに、総務省はテレビ朝日に対し重ねて通達(厳重注意)を行い、その中でBRCの事実認定や判断を引用して自らの措置を正当化した。これは、テレビ朝日側からすれば二重の処分(制裁)を受けたことを意味するとともに、第三者機関としてのBRCの存在意義を甚だしく軽視するものである。

第二に、総務省はテレビ朝日と山形テレビに対し、放送番組の編集上求められる注意義務を怠り、それぞれ政治的公平に反する番組があったとして厳重注意をするとともに、再発防止に必要な措置を講ずるよう要請した。たしかに、放送法第3条の2第1項は、放送番組の編集に当たって、放送事業者に求められる事項について定めている。しかし、当該規定は、総務省の前身である郵政省自ら「精神的規定の域を出ないものと考える」としているところである(郵政省「放送関係法制に関する検討上の問題点とその分析」1964年)。注意を受けた番組にもそれぞれ問題がないわけではない。だが、政治報道は言論の自由と深く関わるものであるから、公権力がその可否を判断することは、慎重のうえにも慎重でなければならないと考える。放送番組における政治的公平の問題については、BPOでも研究課題となっているが、総務省においては慎重な姿勢をとられるよう強く要望する。

そもそもBPOは、放送を通じて市民の知る権利に奉仕するに当たり、国家機関その他の公権力による支配を受けることのないよう、放送への苦情に的確に対応し、その判断を独立した第三者委員会に委ねるため、放送界が自主的に設立した機関である。この民主的な組織が成功するか否かは、一に放送事業者の自覚と公権力の謙抑とにかかっていると言っても過言ではない。

以上、BPOを構成する三委員会は、それぞれ独自に審議を行った結果、改めて放送の自律性と、第三者機関の自主独立の重要性に鑑み、総務省の今回の行政指導に関し、ここに三委員長名で見解を明らかにすることとした。

以上

BPOの三委員長「声明」について

2004年11月11日
BPO[放送倫理・番組向上機構]
理事長 清 水 英 夫

BPO[放送倫理・番組向上機構]を構成する三つの委員会の委員長は、昨(2003)年12月11日、いわゆる視聴率不正操作事件に関し、初めてその「見解と提言」を発表した。放送をめぐる重大問題について、独立した第三者が、それぞれの委員会の論議を経て、その意見を公表することは、極めて重要な意味を持っていると考える。

前回の「見解と提言」については、放送業界において重く受け止められた。すなわち、民放連〔日本民間放送連盟〕は直ちに「視聴率等のあり方に関する調査研究会」を設け、本(2004)年5月その報告書が発表された。今回の「テレビ局に対する総務省の行政指導に関する声明」もまた、それぞれの委員会における慎重かつ徹底した論議に基づくものであり、総務省をはじめ各方面において真摯に受け止められるよう強く希望する。

声明は、2004年6月22日付で総務省が行った二つの種類の通達(厳重注意)に関するものである。その第一は、BRC[放送と人権等権利に関する委員会]が放送局に対し行った強い勧告に重ねて、総務省が厳重注意の通達を行ったことが、第三者機関としてのBRCの存在意義を甚だしく軽視するものだ、という趣旨のものである。また、その第二は、政治的公平に反するとして行った総務省の厳重注意に関するものであるが、放送法の規定は精神的(倫理的)規定とされていること、また政治報道は言論の自由と深く関係しているところから、公権力がその可否を判断することは極めて慎重でなければならない、とするものである。

これらの指摘は、放送の自律と第三者機関の自主独立にかかわるものであり、今後の放送行政に当たって、深く留意すべき問題点であると考える。

2007年度声明

ダイエット法を紹介したテレビ番組等に関わる声明

2007年1月下旬以降、納豆ダイエット法を紹介したテレビ番組の放送内容に関し、BPOに対しても視聴者からの苦情が多く寄せられた。これら放送番組の一連の問題の重大性とBPOの役割に鑑み、1月29日、清水英夫理事長の「声明」として、BPO加盟全局に対し「放送界全体としても強く反省自戒し、公権力の介入を招くことなく、放送への信頼回復等に一層努めるよう」要請した。
続いて、2月7日、放送番組委員会の有識者委員による声明を発表した。この声明では、「番組制作システムの問題」「放送従事者の教育システムの問題」「公権力が放送に介入することへの懸念」の3点を指摘し、放送事業者の自主・自律による今後の全容解明と効果的な再発防止に向けた取り組みを求めている。

BPO理事長声明
(ダイエット法を紹介したテレビ番組等に関わる声明)

平成19年1月29日

声 明

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
理事長 清水 英夫

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕は、自主的かつ独立した立場から、正確な放送と放送倫理の高揚に資する ことを目的に第三者機関として設立された。
このBPOの使命と役割に鑑みて、放送番組に関する一連の不祥事に対しては、深刻な憂慮の念を禁じえない。特に最近、関西テレビが制作しネット放送された番組『発掘!あるある大事典』の実験データなどが捏造とされる問題については、当該局のみならずBPOに対しても、視聴者からの抗議が相次いでいる。
従前にも同様の事例があったが、いずれも放送局の姿勢や倫理が問われる内容であり、緊張感や責任感を著しく欠いたとの謗りを免れ難い。
近時、放送特にテレビの社会的影響力はますます増大している折から、関係者にはそれにふさわしい認識と対応が求められている。このような事態が繰り返されれば、放送に対する視聴者の信頼を失墜させ、ひいては放送の自由を危うくすることとなる。
今後放送界全体として、強く反省自戒し、公権力の介入を招くことなく、放送への信頼回復等に一層努めるよう切望する。

以上

BPOからの提言・声明・見解

2007年2月7日

声 明

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
放送番組委員会(有識者委員)

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕の放送番組委員会(有識者委員)は、放送活動全般の質的向上を願って、放送の理念や倫理に関わる問題から取材・制作のあり方まで、第三者の立場から広く審議し、ときには具体的な事例に即して議論を重ねている。

そのような私たちにとって、関西テレビ制作の『発掘!あるある大事典Ⅱ』が起こしたデータ等の捏造問題は、ジャーナリズム産業の基本の放棄であり、視聴者の期待を裏切り、放送界全体の信頼性を損ない、ひいては言論・表現・報道の自由を危うくする出来事と言わざるを得ない。

これまでも放送界はしばしば深刻な不祥事を繰り返してきた。そのたびに放送局は陳謝し、再生や再発防止を誓ってきたが、不祥事はいっこうに収まらない。ひとつひとつの態様は異なるとはいえ、こうしたことが繰り返される背景には、放送界が全体として抱える構造的な問題がありはしないだろうか。

私たちは今回の問題についても、単に1テレビ局の、あるいは1制作会社や制作担当者の問題としてだけでなく、放送界全体が抱える構造的な問題としてとらえる視点が重要だと考えている。その観点に立って、さしあたって以下の3点を指摘し、放送事業者の自主・自律による、今後の全容解明と効果的な再発防止に向けた取り組みに期待したい。

番組制作システムの問題

現在の番組制作においては、分業化が進んでいる。ひとつの番組が制作会社をはじめとする外部協力によって制作されることが当たり前になり、何重もの下請け化によって、実際の番組制作へのコスト面のしわ寄せなども常態化している。

こうした分業構造は、広範囲にわたって、番組制作環境の悪化を招いている。外部の制作者は時間に追われて余裕もなく、時には他の仕事とかけ持ちし、十分な取材や調査が出来ないまま、番組作りが進んでいく。

また、この分業構造は、発注側のテレビ局の番組制作力を削ぐだけでなく、製造業でいう「品質管理」能力の低下をもたらしている。制作経験の少ないテレビ局のプロデューサーやディレクターが、外部制作番組の管理を行ない、納品される番組の完成度や正確性を判断することには無理な面がある。

このような番組制作システムのもとでは、一貫した、きめの細かい品質管理を行なうことが難しくなっているのではないかと私たちは危惧している。今回の事件についても、その原因を一部の関係者の不心得に帰すのではなく、すでに放送界に定着した番組制作システムの構造それ自体の問題としてとらえる視点が必要である。

放送従事者の教育システムの問題

言うまでもなく放送は、民主主義の根幹をなす言論・表現・報道の自由に立脚する事業のひとつであり、これに従事する者は、その自由を享受すると同時に、それにふさわしい見識と責任意識を持たなければならない。

しかし、事業が大規模になり、技術が複雑化し、番組が多様化し、視聴率競争が激化する慌ただしさのなかでは、見識や責任意識はしばしば等閑視されがちである。また見識や責任意識といっても、組織統治や法令遵守から、番組の企画・取材・編集、さらに取材対象との接し方や距離の取り方まで、それぞれの仕事に応じた具体性と専門性を有しなければ、たんなるお題目に終わってしまう。

各局も社員研修等はしているが、番組制作が外部協力によって行われている現状では、外部制作者の末端までにも、真に実効性のある教育システムが必要である。

また、将来的には、一定の経験を積んだ放送従事者が更に見識を深めるため、放送界が、豊かで専門性の高い教育制度作りに取り組むことを、私たちは期待したい。

公権力が放送に介入することへの懸念

私たちは、ここ1、2年、政府・総務省による放送界への関与・介入が強まっているという印象を持っている。NHKの国際放送に対する「命令放送」、民放の報道番組やスポーツ中継の不手際に関する「厳重注意」等々、頻繁に関与・介入が行なわれている。

今回の関西テレビの不祥事に関しても、総務省は「報告」を求めている。

これらは、いずれも放送法や電波法に基づくとされるが、本来、民主主義社会の根幹をなす言論・表現・報道の自由の重要性に鑑みれば、慎重の上にも慎重を期すべき事柄であり、行政の役割は、直接に指示したり、懲罰的な行政指導を行なうことではないと考える。

私たちは、健全で、魅力にあふれた放送が、民主主義社会をいきいきと成熟させるために欠かせないと考えている。今回の問題にせよ、これまでも相次いだ不祥事にせよ、その底流には、構造的な問題が横たわっていることを示しているが、その深部への切開が行なわれ、そこから再発防止のための具体的な手だてが講じられなければ、この国の民主主義の将来も危ういと、私たちは深く憂慮している。

放送倫理・番組向上機構 放送番組委員会(有識者委員)
委員長 天野 祐吉 委  員 上滝 徹也
副委員長 田中 早苗 委  員 里中満智子
委  員 石田佐恵子 委  員 清水 哲男
委  員 市川 森一 委  員 吉岡  忍

「テレビ局に対する総務省の行政指導に関する声明」全文

2004年11月11日

テレビ局に対する総務省の行政指導に関する声明

BPO [放送倫理・番組向上機構]
放送と人権等権利に関する委員会委員長  飽 戸 弘
放送と青少年に関する委員会委員長  原 寿 雄
放送番組委員会委員長 木村尚三郎

放送倫理・番組向上機構[BPO]は、「放送事業の公共性と社会的影響の重大性に鑑み、言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護するため、放送への苦情…(中略)…に対して、自主的に、独立した第三者の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与することを目的」に設立された(BPO規約第3条)。BPOを構成する三つの委員会(放送と人権等権利に関する委員会、放送と青少年に関する委員会、放送番組委員会)は、この目的を果たすため真摯な活動を行ってきたが、6月22日に総務省が通達した厳重注意などの行政指導は、以下の理由により、放送の自律や放送界の第三者機関に対する信頼を危うくするおそれが極めて強いと判断せざるを得ない。

第一に、総務省(情報通信政策局長名)が厳重注意を行ったテレビ朝日の国会・不規則発言編集問題については、当事者である衆議院議員・藤井孝男氏の申立てに基づき、放送と人権等権利に関する委員会[BRC]が審理の結果、テレビ朝日が重大な過失によって藤井議員の名誉を侵害したことを認定し、同局に対し適切な措置を講じるよう勧告した。然るに、総務省はテレビ朝日に対し重ねて通達(厳重注意)を行い、その中でBRCの事実認定や判断を引用して自らの措置を正当化した。これは、テレビ朝日側からすれば二重の処分(制裁)を受けたことを意味するとともに、第三者機関としてのBRCの存在意義を甚だしく軽視するものである。

第二に、総務省はテレビ朝日と山形テレビに対し、放送番組の編集上求められる注意義務を怠り、それぞれ政治的公平に反する番組があったとして厳重注意をするとともに、再発防止に必要な措置を講ずるよう要請した。たしかに、放送法第3条の2第1項は、放送番組の編集に当たって、放送事業者に求められる事項について定めている。しかし、当該規定は、総務省の前身である郵政省自ら「精神的規定の域を出ないものと考える」としているところである(郵政省「放送関係法制に関する検討上の問題点とその分析」1964年)。注意を受けた番組にもそれぞれ問題がないわけではない。だが、政治報道は言論の自由と深く関わるものであるから、公権力がその可否を判断することは、慎重のうえにも慎重でなければならないと考える。放送番組における政治的公平の問題については、BPOでも研究課題となっているが、総務省においては慎重な姿勢をとられるよう強く要望する。

そもそもBPOは、放送を通じて市民の知る権利に奉仕するに当たり、国家機関その他の公権力による支配を受けることのないよう、放送への苦情に的確に対応し、その判断を独立した第三者委員会に委ねるため、放送界が自主的に設立した機関である。この民主的な組織が成功するか否かは、一に放送事業者の自覚と公権力の謙抑とにかかっていると言っても過言ではない。

以上、BPOを構成する三委員会は、それぞれ独自に審議を行った結果、改めて放送の自律性と、第三者機関の自主独立の重要性に鑑み、総務省の今回の行政指導に関し、ここに三委員長名で見解を明らかにすることとした。

以上

「BPOの三委員長『声明』について」(理事長コメント)

2004年11月11日

BPOの三委員長「声明」について

BPO[放送倫理・番組向上機構]を構成する三つの委員会の委員長は、昨(2003)年12月11日、いわゆる視聴率不正操作事件に関し、初めてその「見解と提言」を発表した。放送をめぐる重大問題について、独立した第三者が、それぞれの委員会の論議を経て、その意見を公表することは、極めて重要な意味を持っていると考える。

前回の「見解と提言」については、放送業界において重く受け止められた。すなわち、民放連〔日本民間放送連盟〕は直ちに「視聴率等のあり方に関する調査研究会」を設け、本(2004)年5月その報告書が発表された。今回の「テレビ局に対する総務省の行政指導に関する声明」もまた、それぞれの委員会における慎重かつ徹底した論議に基づくものであり、総務省をはじめ各方面において真摯に受け止められるよう強く希望する。

声明は、2004年6月22日付で総務省が行った二つの種類の通達(厳重注意)に関するものである。その第一は、BRC[放送と人権等権利に関する委員会]が放送局に対し行った強い勧告に重ねて、総務省が厳重注意の通達を行ったことが、第三者機関としてのBRCの存在意義を甚だしく軽視するものだ、という趣旨のものである。また、その第二は、政治的公平に反するとして行った総務省の厳重注意に関するものであるが、放送法の規定は精神的(倫理的)規定とされていること、また政治報道は言論の自由と深く関係しているところから、公権力がその可否を判断することは極めて慎重でなければならない、とするものである。

これらの指摘は、放送の自律と第三者機関の自主独立にかかわるものであり、今後の放送行政に当たって、深く留意すべき問題点であると考える。

BPO[放送倫理・番組向上機構]
理事長 清 水 英 夫

【参考】視聴率問題についての中学生アンケート結果

視聴率問題に関する三委員長の見解と提言

視聴率問題についての中学生アンケート結果

この問題を知っていましたか?(48人中)

事件の第一印象

  • なんでこんな事をしたのかなと思いました。こんな事をしてはいけないと思わなかったのか不思議です。
  • お金を払って視聴率を上げても、心から満足できないだろうなと思った。
  • なんでこんなことで騒ぐのだろうと思った。今までも普通にあった(不正操作が)と無意識のうちに思っていたから。
  • よく意味がわからなかった。ずるい人だと思った。
  • ひきょう。残念な気持ち。
  • 第一印象へぇーっ。視聴率が低かったらつまらないと思ってあきらめてほしい。
  • 日テレ=悪い会社というイメージが沸いた。
  • なぜお金を使ってまで視聴率をあげたいのかわからない。
  • 最悪!今まで結構視聴率を気にして見る番組を選んできたのでがっかりした。
  • そんなことまでして視聴率を気にするものなのかと思った。
  • 「視聴率さえ上がれば何をしてもいい」という考えがあるのが悲しかった。それよりも、いい番組を作って皆に支持してもらえばいいのに。
  • バカなプロデューサーがいると思った。これから、信用できなくなる。
  • 何も感じなかった。
  • 視聴率がTV局の利益につながるのだから、こういう事が起こるのは驚くようなことでもない。
  • テレビを作る人は、視聴者のことをまったく考えていないのだと思った。
  • スポンサーに対する詐欺だ。
  • こんなことをやる暇があるなら、おもしろい番組をつくれ!
  • 操作するのでは視聴率を測る意味がない。
  • そんなに視聴率を上げたいなら、ずるをしないで実力で勝負すればいいのに。

なぜこのような事が起きたと思いますか?

  • 会社とスポンサーの問題。「視聴率ランキング」の番組とかをやっているのを見て、いつかこういうこと(不正操作)が起きると思っていた。
  • スポンサーとの関係でいろいろあったのかなと思った。
  • 自分の番組をたくさんの人に見てもらいたくてこのような事件が起きたのではないかと思った。でも、これからはあまり見てもらえなくなるのでは。
  • 視聴率重視という会社の方針が、プロデューサーの重荷になったから。
  • 視聴率を測る機械を所有している家庭の数が限られているから。
  • 大人気ない人が増えたから。
  • お金がほしかったから。少しの数字でも莫大な額の違いが出るから。
  • 他の局との競争が激しいから。同じ局の中でも、よりたくさんの給料をもらうため。
  • プロデューサーの意思の問題。操作するためにお金を使うなら、その分を自分の番組につぎこんで、みんなが見てくれるような番組を作ればいいのに。

放送番組委員会[有識者委員] 声明 (2007年2月7日)

2007年2月7日

声 明

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
放送番組委員会(有識者委員)

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕の放送番組委員会(有識者委員)は、放送活動全般の質的向上を願って、放送の理念や倫理に関わる問題から取材・制作のあり方まで、第三者の立場から広く審議し、ときには具体的な事例に即して議論を重ねている。

そのような私たちにとって、関西テレビ制作の『発掘!あるある大事典Ⅱ』が起こしたデータ等の捏造問題は、ジャーナリズム産業の基本の放棄であり、視聴者の期待を裏切り、放送界全体の信頼性を損ない、ひいては言論・表現・報道の自由を危うくする出来事と言わざるを得ない。

これまでも放送界はしばしば深刻な不祥事を繰り返してきた。そのたびに放送局は陳謝し、再生や再発防止を誓ってきたが、不祥事はいっこうに収まらない。ひとつひとつの態様は異なるとはいえ、こうしたことが繰り返される背景には、放送界が全体として抱える構造的な問題がありはしないだろうか。

私たちは今回の問題についても、単に1テレビ局の、あるいは1制作会社や制作担当者の問題としてだけでなく、放送界全体が抱える構造的な問題としてとらえる視点が重要だと考えている。その観点に立って、さしあたって以下の3点を指摘し、放送事業者の自主・自律による、今後の全容解明と効果的な再発防止に向けた取り組みに期待したい。

番組制作システムの問題

現在の番組制作においては、分業化が進んでいる。ひとつの番組が制作会社をはじめとする外部協力によって制作されることが当たり前になり、何重もの下請け化によって、実際の番組制作へのコスト面のしわ寄せなども常態化している。

こうした分業構造は、広範囲にわたって、番組制作環境の悪化を招いている。外部の制作者は時間に追われて余裕もなく、時には他の仕事とかけ持ちし、十分な取材や調査が出来ないまま、番組作りが進んでいく。

また、この分業構造は、発注側のテレビ局の番組制作力を削ぐだけでなく、製造業でいう「品質管理」能力の低下をもたらしている。制作経験の少ないテレビ局のプロデューサーやディレクターが、外部制作番組の管理を行ない、納品される番組の完成度や正確性を判断することには無理な面がある。

このような番組制作システムのもとでは、一貫した、きめの細かい品質管理を行なうことが難しくなっているのではないかと私たちは危惧している。今回の事件についても、その原因を一部の関係者の不心得に帰すのではなく、すでに放送界に定着した番組制作システムの構造それ自体の問題としてとらえる視点が必要である。

放送従事者の教育システムの問題

言うまでもなく放送は、民主主義の根幹をなす言論・表現・報道の自由に立脚する事業のひとつであり、これに従事する者は、その自由を享受すると同時に、それにふさわしい見識と責任意識を持たなければならない。

しかし、事業が大規模になり、技術が複雑化し、番組が多様化し、視聴率競争が激化する慌ただしさのなかでは、見識や責任意識はしばしば等閑視されがちである。また見識や責任意識といっても、組織統治や法令遵守から、番組の企画・取材・編集、さらに取材対象との接し方や距離の取り方まで、それぞれの仕事に応じた具体性と専門性を有しなければ、たんなるお題目に終わってしまう。

各局も社員研修等はしているが、番組制作が外部協力によって行われている現状では、外部制作者の末端までにも、真に実効性のある教育システムが必要である。

また、将来的には、一定の経験を積んだ放送従事者が更に見識を深めるため、放送界が、豊かで専門性の高い教育制度作りに取り組むことを、私たちは期待したい。

公権力が放送に介入することへの懸念

私たちは、ここ1、2年、政府・総務省による放送界への関与・介入が強まっているという印象を持っている。NHKの国際放送に対する「命令放送」、民放の報道番組やスポーツ中継の不手際に関する「厳重注意」等々、頻繁に関与・介入が行なわれている。

今回の関西テレビの不祥事に関しても、総務省は「報告」を求めている。

これらは、いずれも放送法や電波法に基づくとされるが、本来、民主主義社会の根幹をなす言論・表現・報道の自由の重要性に鑑みれば、慎重の上にも慎重を期すべき事柄であり、行政の役割は、直接に指示したり、懲罰的な行政指導を行なうことではないと考える。

私たちは、健全で、魅力にあふれた放送が、民主主義社会をいきいきと成熟させるために欠かせないと考えている。今回の問題にせよ、これまでも相次いだ不祥事にせよ、その底流には、構造的な問題が横たわっていることを示しているが、その深部への切開が行なわれ、そこから再発防止のための具体的な手だてが講じられなければ、この国の民主主義の将来も危ういと、私たちは深く憂慮している。

放送倫理・番組向上機構 放送番組委員会(有識者委員)
委員長 天野 祐吉 委  員 上滝 徹也
副委員長 田中 早苗 委  員 里中満智子
委  員 石田佐恵子 委  員 清水 哲男
委  員 市川 森一 委  員 吉岡  忍

「三委員長の見解と提言」を出すにあたって(理事長コメント)

「三委員長の見解と提言」 を出すにあたって

2003年12月11日

「三委員長の見解と提言」 を出すにあたって

BPO[放送倫理・番組向上機構]理事長  清 水 英 夫

BPOは今年7月の発足以来、三委員会(BRC、放送と青少年に関する委員会、放送番組委員会)の独自性と独立性を尊重してきた。同時に、それら委員会に共通する問題や、そのどこにも該当しない問題等の処理に関して、検討を続けてきた。

今回の視聴率問題に関する三委員長の見解と提言は、BPOのあり方に関する一つの方向を示したものと言えるであろう。この提言がまとめられる過程として、各委員会において活発な意見交換が行われた。そして、それら有識者の意見を基に、三委員長による検討がなされ、まとめられたのが今回の見解と提言である。

ただちにわかることは、今回の視聴率問題に関する三委員長の見解が極めて厳しいことである。その背景には、各委員会における委員各位のさまざまな厳しい意見が存在している。そして、それらの意見に共通しているのは、今回の事件が偶発的でもなく、また当該プロデューサー個人の問題でもないという認識である。

放送による人権侵害、低俗番組の横行、青少年に与える番組の悪影響など、BPOの主な関心事の背景には、視聴率至上主義や視聴率即メディア通貨と捉えがちな業界体質の存在があるのではないかと、多くの有識者委員は考えている。その事実を放送界は重く受けとめてほしい。

有識者委員の多くも、放送局経営における視聴率調査の存在理由や、視聴率を番組評価の一手段とすることには否定的ではない。しかし、視聴率を巡る業界の現状は、市民の常識に反し、あまりにも常軌を逸していたと考えざるを得ない。その意味で、今回の事件は放送のあり方を再考するうえで重要な契機にしなければならない。

三委員長は、次のような重要な提言を行っている。

  • 量的な視聴率調査だけでなく、番組の質を測定する視聴質調査の導入も検討すること。
  • 広告界も新しい評価基準づくりに向けて、積極的に協力してほしいこと。
  • 放送人のモラルを高め、自律を強める倫理研修の必要性。
  • 視聴者(市民)の番組に対する積極的な発言を期待する。
  • 新聞や雑誌が視聴率至上主義の増幅に加担しないでほしいこと。

放送を担う人々がこれらの提言の真意を理解され、健全な放送文化の実現と発展のため、総力をあげて取り組まれることを切に希望する。

BPOも、第三者機関としての役割を再認識し、視聴者の声に耳を傾けながら、放送の自律と放送文化の向上のために努力していく所存である。

「視聴率問題に関する三委員長の見解と提言」全文

視聴率問題に関する三委員長の見解と提言

2003年12月11日

視聴率問題に関する三委員長の見解と提言

BPO [放送倫理・番組向上機構]
放送と人権等権利に関する委員会委員長 飽 戸  弘
放送と青少年に関する委員会委員長 原  寿 雄
放送番組委員会委員長 木村 尚三郎

日本テレビで起きた視聴率操作事件は、放送の自律と放送文化の質の向上を目指す「放送倫理・番組向上機構」[BPO]にとっても、重大な問題を提起した。テレビ局のプロデューサーが担当番組の視聴率を上げるために、制作費を使って視聴率調査対象者に金品を贈るようなことは、放送・広告関係者だけでなく、視聴者や社会を欺く背信行為と言わなければならない。

BPOは三つの委員会が視聴者と放送界の透明な回路となり、苦情や批判に対応してきたが、視聴率競争の現状については、かねて疑問視する声が強かった。限定的に利用されるべき視聴率の数字が広告料金の重要な基準として独り歩きし、放送人の良識を疑わせるような過激な視聴率競争をもたらしていることは否定できない。

性、暴力の過剰表現などによる”低俗番組”の横行も、報道やワイドショーなどで起きる人権侵害事件も、視聴率競争から生み出されているものが少なくない。「低視聴率でもよいから良質の番組を出したい」という広告主の要望に対して「局全体の視聴率が低くなるから」などと言って断わることがあるような現状には、広告主の中からも厳しい批判が表明されている。

たしかに視聴率は、視聴の量を測る指標としては、現在入手可能な唯一の客観的データである。しかし、番組の質の評価基準としては不十分であり、また、量の指標としても600サンプルでは±2~3%の誤差を伴っているのに1%の差で一喜一憂するなどは、適切な視聴率の使い方とは言えない。にもかかわらず、現実には視聴率至上主義に走り、番組制作を左右していると言っても過言ではない。今回の事件はその実態の反映と見ることができよう。

事件は、世論のメディア不信と公権力による法的規制が進む情勢のなかで起きている。放送の自由と放送文化の向上を願う放送人は、この機に自律を強め、視聴率問題の歪みを正して世論の信頼を取り戻さなければならない。同時に、放送の社会的使命を再確認し、生き生きとした創造活動によってテレビの可能性を追求し、社会の期待に応えてほしい。

この観点から当面、次の点について提言し、関係者の積極的な論議と具体的な対応を要望する。

  • 過大な視聴率依存を改めるためには、番組の質を測定する視聴質調査も併用して総合的に評価すべきである。NHKと民放各社がこれまで個別に進めてきた視聴質研究を発展させながら、放送界全体としての新たな番組評価基準づくりに向けた対策機関の設置が必要と考える。視聴率制度の再検討は放送の根幹に触れる構造改革と言えるものなので、この対策機関には、広告界、制作会社や専門家、視聴者・市民なども参加することが望ましい。
  • 広告界も新しい評価基準づくりに向けて、積極的な協力を望みたい。広告主・広告会社もまた、放送文化の質に大きな社会的責任を持ち、それを果たすことによって、視聴者・消費者の信頼を得ることができる。
  • 放送人の自律を強める倫理研修などの必要性も改めて強調したい。日本テレビの調査報告書によれば、当のプロデューサーは「視聴率さえ上げれば何をやってもいい、という感覚があった」と述べている。視聴率至上主義は放送現場の倫理観をここまで麻痺させている。また、制作会社との関係のなかでキックバックを生むような土壌があるという批判にどう応えるか。現状を放置したままでは制作現場の倫理強化は望めない。
  • 視聴者・市民には、番組に対する積極的な発言を期待したい。番組を批判、要望、激励することで、視聴者もテレビ改革に参加できる。視聴者も放送文化の担い手であることを訴えたい。
  • 新聞、雑誌の関係者には番組批評を強めてほしい。また、「視聴率ベスト10」などの報道は、視聴率至上主義を増幅する面のあることに留意し、現状の再検討を望みたい。

理事長声明 (2007年1月29日)

BPO理事長声明
(ダイエット法を紹介したテレビ番組等に関わる声明)

平成19年1月29日

声 明

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
理事長 清水 英夫

放送倫理・番組向上機構〔BPO〕は、自主的かつ独立した立場から、正確な放送と放送倫理の高揚に資する ことを目的に第三者機関として設立された。

このBPOの使命と役割に鑑みて、放送番組に関する一連の不祥事に対しては、深刻な憂慮の念を禁じえない。特に最近、関西テレビが制作しネット放送された番組『発掘!あるある大事典Ⅱ』の実験データなどが捏造とされる問題については、当該局のみならずBPOに対しても、視聴者からの抗議が相次いでいる。
従前にも同様の事例があったが、いずれも放送局の姿勢や倫理が問われる内容であり、緊張感や責任感を著しく欠いたとの謗りを免れ難い。

近時、放送特にテレビの社会的影響力はますます増大している折から、関係者にはそれにふさわしい認識と対応が求められている。このような事態が繰り返されれば、放送に対する視聴者の信頼を失墜させ、ひいては放送の自由を危うくすることとなる。

今後放送界全体として、強く反省自戒し、公権力の介入を招くことなく、放送への信頼回復等に一層努めるよう切望する。

以上