2025年4月25日

2025年4月25日

視聴者意見応対業務について

4月30日(水)から5月2日(金)までの間、次の対応といたします。

  • 視聴者意見の電話については録音により受け付けます。(午前10時~午後5時)
  • ウェブフォーム、郵便物、ファクスは通常通り受け付けます。

第47号

毎日放送『ゼニガメ』 偽の買取現場への「密着コーナー」に関する意見

2025年4月24日 放送局:毎日放送

毎日放送の情報バラエティー番組『ゼニガメ』は、2023年11月29日、2024年5月8日、同年7月17日の3放送回において、家屋清掃と出張買取を一度に行う業者を密着取材し、放送したが、全ての回において業者による“偽装”や“仕込み”のあったことが分かった。委員会は「事実と異なる放送を三度に渡って放送したことは、視聴者の信頼を大きく裏切るもの」と指摘したが、1回目と2回目の取材は、国家資格者である司法書士が立ち会ったうえで、偽の不動産売買契約等が行われていたこと等から、放送局側に放送倫理違反があったとまでは言えないと判断した。他方、3回目の放送では、古い家屋から見つかった金の延べ棒や、業者から紹介された「偽の依頼人」に対する基本的な事実確認が不十分だったとして局側に放送倫理違反があったと判断した。

2025年4月17日 第47号委員会決定

全文はこちら(PDF)pdf

目 次

2025年4月24日 決定の通知と公表

通知は、2025年4月24日午後2時からBPO第1会議室で行われ、
午後3時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
記者会見には、18社29人が出席した。詳細はこちら。



第205回

第205回–2025年4月

日本テレビ『月曜から夜ふかし 』審議入り

第205回放送倫理検証委員会は、4月11日に千代田放送会館で開催された。
2025年1月17日に通知・公表した放送倫理検証委員会決定第46号「テレビ東京『激録・警察密着24時!!』『鬼滅の刃』の模倣品捜査密着事案に関する意見」において、読み手に誤解を生じさせる可能性があるとして、一部を修正した。
また同委員会決定第46号について、テレビ東京から再発防止に関する取り組み状況などの対応報告が書面で提出され、その内容を検討した結果、報告を了承して公表することにした。
TBSテレビは、2024年10月19日に放送したバラエティー番組『熱狂マニアさん!』2時間スペシャルで、インテリア小売業大手「ニトリ」を特集した。放送後、視聴者からBPOに「番組の全編でニトリの商品を紹介していた。価格や商品名も入っていた。番組の提供にも入り、本編からCMに移ってもニトリのCMを流していた。これは番組といいながら、明らかに広告ではないのか」という声が寄せられた。委員会は、番組内容や制作過程に「番組と広告の違い」等を含む放送倫理上の問題がなかったかを詳しく検証する必要があるとして2025年1月の委員会で審議入りを決めた。今回の委員会では、意見書の修正案を次回の委員会までにさらに検討することになった。
日本テレビは、2025年3月24日に放送したバラエティー番組『月曜から夜ふかし』の街頭インタビューのコーナーで中国出身の女性の声を紹介したが、放送後この女性から実際に話した内容とは違うという指摘を受けた。委員会で議論した結果、このインタビューは女性が話した内容とは全く異なる文脈へと意図的に編集され、他国の文化に対する尊重を著しく欠いていた疑いがあり、制作過程に放送倫理上の問題がなかったかどうかを詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
3月にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見などが報告された。

議事の詳細

日時
2025年4月11日(金)午後4時~午後6時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

小町谷委員長、岸本委員長代行、高田委員長代行、井桁委員、
大石委員、大村委員、小柳委員、水谷委員、毛利委員、米倉委員

1. 委員会決定第46号の一部修正について

2025年1月17日に通知・公表した放送倫理検証委員会決定第46号「テレビ東京『激録・警察密着24時!!』『鬼滅の刃』の模倣品捜査密着事案に関する意見において、委員会は「読み手に誤解を生じさせる可能性がある」と考え、以下の通り修正することを了承した。

  • 意見書15ページ20行目から23行目
    「警察は、実は商標法違反でいったん男性を逮捕している。しかし、この時点で、『鬼滅の刃』の版権元の出版社が出願した主要キャラクター3人の羽織の柄の商標登録は、登録を却下されていた。結局、商標法違反での立件もなされなかったのである。」
  • この部分を以下の通り修正する。
    「警察は、実は商標法違反でいったん男性を逮捕している。しかし、結局、商標法違反での立件もなされなかったのである。」

2. テレビ東京『激録・警察密着24時!!』『鬼滅の刃』模倣品捜査密着事案に関する意見への対応報告を了承

1月17日に通知・公表したテレビ東京『激録・警察密着24時!!』『鬼滅の刃』の模倣品捜査密着事案に関する意見(委員会決定第46号)への対応報告が、当該放送局から委員会に書面で提出された。
報告書には、委員会決定が通知された後、テレビ東京グループの全役員・社員を対象にした説明会がリモートで開催され、代表取締役社長が「反省すべき点を真摯に反省し、正確で信頼されるコンテンツ作りに邁進してほしい」とのメッセージを発信。担当役員らが、委員会が指摘した具体的な問題点や要因、再発防止策の現状などについて説明したと記されている。
再発防止に向けた勉強会については2024年5月から今年3月までに「犯人視しない放送」「取材される側の権利」「放送倫理から見たモザイク」などをテーマに計8回実施。テレビ東京グループ社員や複数の制作会社のべ2,000人が参加したとしている。
こうした勉強会での議論を受けた形で、委員会が指摘した「問題をもたらした4つの要因」(「強力な“モザイク信仰”」「“三方良し”に潜む“当事者”の不在」「ひっ迫する制作体制」「繰り返された“ステレオタイプ”」)に対する再発防止策や意識改革などを記載。例えば「強力な“モザイク信仰”」について、「なんでもモザイクをかければ良いという思考は止めた」というグループディスカッションでの声を紹介し、テレビ東京として「“モザイク信仰”からの脱却を進めるべく地道に取り組んでまいります」と記している。
また「ひっ迫する制作体制」については、制作会社のプロデューサー・演出を招いた勉強会を実施したほか、テレビ東京の「番組制作ガイドライン」に、プロデューサーは発注番組においても、ロケのスケジュールや取材内容などの制作過程を把握することを新たに盛り込んだとしている。
最後にテレビ東京は「当社や制作会社の現場の声を丁寧に拾い上げて再発防止策やバックアップ策を維持・強化したい」と結んでいる。
この報告を受けて委員から「ひっ迫する制作体制」に関して、チェックではなく、バックアップの対応に触れていた点を評価し、今後の対応に期待するとした上で「テレビ東京がもし『警察密着』をやるのであれば、ちゃんと見ていきたい」との意見、委員会が指摘した要因に沿った形で詳しく検討しているとの意見があった。
テレビ東京の対応報告は、こちらpdf

3. TBSテレビ『熱狂マニアさん!』について審議

TBSテレビは2024年10月19日に放送したバラエティー番組『熱狂マニアさん!』2時間スペシャルで、「ニトリマニア集結!1万点からベスト3…名もなき家事が今夜消滅!」と題し、インテリア小売業大手ニトリの商品を使った時短料理や収納テクニックなどを放送した。
放送後、視聴者からBPOに「番組の全編でニトリの商品を紹介していた。価格や商品名も入っていた。番組の提供にも入り、本編からCMに移ってもニトリのCMを流していた。これは番組といいながら、明らかに広告ではないのか」という声が寄せられた。この番組は2024年の1月13日と6月1日にニトリを放送しており、今回が3回目であることが判明したため、委員会は当該放送局に番組DVDと報告書の提出を求めることにした。
TBSテレビの報告書によると、番組は特定のジャンルに並外れた熱意や愛情を注いでいるマニアが熱狂していることや好きなものを紹介するバラエティー。コロナ禍の巣ごもりでコンビニやスーパー、大手日用雑貨店への興味や関心がファミリー層などで高まったことを受け、時短料理や清掃・収納など人気有名企業の商品活用法に詳しいマニアを番組が発掘し、単なる商品紹介ではなく、衣食住にまつわる生活の知恵を幅広い視聴者に届けてきたという。
委員会は、番組内容や制作過程に「番組と広告の違い」等を含む放送倫理上の問題がなかったかを詳しく検証する必要があるとして2025年1月の委員会で審議入りを決めた。今回の委員会では、次回の委員会までにさらに意見書の修正案を検討することにした。

4. 日本テレビ『月曜から夜ふかし』について審議

日本テレビは2025年3月24日に放送したバラエティー番組『月曜から夜ふかし』の街頭インタビューのコーナーで中国出身の女性の声を紹介したが、放送後この女性から実際に話した内容とは違うという指摘を受けた。
委員会は当該放送局に報告書と番組DVDを求めそれらを踏まえて協議した。その結果、問題となっているインタビューは、女性が話した内容とは全く異なる文脈へと意図的に編集され、他国の文化に対する尊重を著しく欠いていた疑いがあり、取材から放送に至る経緯等について放送倫理上の問題がなかったかどうかを詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

5. 3月の視聴者・聴取者意見を報告

2024年度1年間にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見の総数は、過去20年間で最多だったことが報告された。千葉県知事選投開票日の前日に放送した報道番組について「候補者の1人に不利な内容の放送をしている」などとする意見が多数寄せられた。また生放送のスタジオ番組で、半裸の男性出演者が女性出演者を追いかけまわしたことについて「女性が人権無視され、セクハラを受けても笑って対応する社会ではいけない。女性タレントにも適切な労働環境が提供されるべきだ」などと批判する意見が多数あった。これらの意見について委員会で議論をした。

以上

第338回

第338回 – 2025年4月

放送人権委員会 新体制へ…など

議事の詳細

日時
2025年4月15日(火)午後4時~午後7時30分
場所
千代田放送会館BPO第1会議室
議題
出席者
廣田委員長、鈴木委員長代行、野村委員長代行、大谷委員、
國森委員、斉藤委員、成原委員、松尾委員、松田委員

1. 委員長選出、委員長代行指名

2025年度最初となる委員会は、新任の成原慧委員の挨拶があった後、3月末で退任した曽我部真裕前委員長に代わる新委員長の互選があり、廣田智子委員長代行が第10代委員長に選出された。廣田委員長は鈴木秀美委員長代行に継続して代行の職務にあたってもらうことを要請し、あらたに野村裕委員を委員長代行に指名した。

2. 委員会決定第80号・第81号に関する報告

委員会決定第80号「調査報道に対する地方自治体元職員からの申立て」について、事務局からサンテレビの放送番組審議会で決定の概要が報告されたことなどを報告した。また、3月に通知・公表した委員会決定第81号「警察密着番組に対する申立て」については、テレビ東京への研修日程などを事務局から報告した。

3. 最新申立て状況

事務局から最新の申立て状況について説明した。

以上

2025年4月14日

日本テレビ『月曜から夜ふかし』が審議入り

日本テレビは2025年3月24日に放送したバラエティー番組『月曜から夜ふかし』の街頭インタビューのコーナーで中国出身の女性の声を紹介したが、放送後この女性から実際に話した内容とは違うという指摘を受けた。
委員会は当該放送局に報告書と番組DVDを求めそれらを踏まえて協議した。その結果、問題となっているインタビューは、女性が話した内容とは全く異なる文脈へと意図的に編集され、他国の文化に対する尊重を著しく欠いていた疑いがあり、取材から放送に至る経緯等について放送倫理上の問題がなかったかどうかを詳しく検証する必要があるとして審議入りを決めた。
今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

2025年3月18日

「警察密着番組に対する申立て」通知・公表の概要

[通知]
2025年3月18日午後1時20分から千代田放送会館において、曽我部真裕委員長と事案を担当した廣田智子委員長代行、大谷奈緒子委員のほか、申立人2名と代理人弁護士、被申立人のテレビ東京側から4名が出席して、委員会決定第81号の通知が行われた。
まず、曽我部委員長が委員会決定の概要を説明し、廣田委員長代行および大谷委員から補足説明があった。
委員会決定の説明の後、申立人、被申立人とそれぞれ意見交換を行った。申立人の代理人弁護士は「結論は我々の求めていたものとは異なるものの、委員会としてどうしてこのような結論に至ったのかが理解できる内容となっている。警察密着番組自体が内包する危うさなども指摘されており、今後、同じことが起きないよう、この委員会決定が広がりを持ってもらえればと期待している」などと述べた。一方、申立人からは「国の機関に確認しながら行ってきたビジネスが罪に問われること自体がおかしいのに、この番組が人権侵害にあたらないとの判断には納得がいかない」との考えが示された。これに対して廣田委員長代行は「今回の委員会決定は本件放送の内容を、あらゆる予断を排して検討したものである。申立人側の主張や取り組みも精査したうえで判断しているので、あらためて委員会決定の詳細を確認いただければと思う」と述べた。
テレビ東京側は「委員会決定を真摯に受け止め、今後の番組制作に活かしていきたい。番組制作に携わるみんなで学び、話し合いながら、再発防止の取り組みを着実に進めていきたい」との発言があった。これに対して、曽我部委員長は「チェック体制の強化で終わらせるのではなく、スタッフが仕事に取り組む際の環境整備にも目を配りながら対策を進めていただきたい」と述べた。

[公表]
午後2時40分から千代田放送会館2階ホールで記者会見し、委員会決定第81号の内容を公表した。会見には、放送局や新聞社など17社1団体から35名が出席した。
通知と同様、曽我部委員長が委員会決定の概要を説明し、廣田委員長代行および大谷委員から補足説明があった。その後、質疑応答を行った。概要は以下のとおり。

<質疑応答>
(質問)
「再現」部分が警察の恣意的なものかどうかを判断するにあたり、委員会が警察にヒアリングを行うという方法もあったと思うが、実施しなかった理由は何か。
(廣田委員長代行)
本件放送で示された部分に加え、申立人へのヒアリングなどで具体的な事項を確認することができたので、特に警察側へ確認しなければならないものはなかったと考えている。

(質問)
テレビ東京は事前に詳細なペン取材を行ったことを「再現」であることの根拠としているが、委員会決定は詳細なペン取材があったとは認定していない。テレビ東京はなぜ、このような主張をしたと考えているか。
(廣田委員長代行)
今回、制作会社の担当者にも個別にヒアリングを行った。それらの結果、事前に詳細なペン取材が行われたと認められるような事実は見当たらなかった。ただ、テレビ東京が虚偽の説明をしているとの印象は持っていない。

(質問)
テレビ東京のお詫び放送が、本件放送から1年以上経ってから行われており、もっと早く実施していれば、被害の回復もさらに明確なかたちでできたのではないか。今回の委員会決定は時間の経過よりも、双方が合意して対応したことを評価しているということか。
(廣田委員長代行)
事後撮影が行われたことをテレビ東京が把握したのは、申立ての後であり、そこから制作会社に聞き取りを行い、お詫び放送の実施へと進んでいるという事情があったと思う。時間の経過はあるものの、テレビ東京の取り組みについては一定程度評価できると考えている。

(質問)
申立人、被申立人双方の受け止めは。
(曽我部委員長)
テレビ東京は「真摯に受け止め、再発防止に努める」といった内容であった。一方、申立人側については、経緯をできるだけ詳細に認定することを心掛けたこともあり、基本的に理解いただけたものと考えている。ただ、申立人のお一人は刑事事件そのものに不満を持っておられ、その思いを強い言葉で話されていた。

(質問)
テレビ東京が「取材源の秘匿」を根拠に、事後撮影が行われた日付について明らかにしないのは「合理性に欠ける」と指摘しているが、このように判断した理由をうかがいたい。
(曽我部委員長)
本件の場合、取材源は明確であるので、「取材源の秘匿」を理由とすることは、説得力に欠ける主張だったと考える。
(廣田委員長代行)
撮影した日付を明らかにできない理由を主張してもらえれば、明らかにすることの不利益と明らかにすることの必要性を比較検討することができるが、今回、そういった主張がなかったため、不合理であるとの結論に至った。
(質問)
審理にあたって情報を提供しなかったからといって、一概に「合理性に欠ける」と判断するものではないということか。
(曽我部委員長)
資料が提出されないのであれば、その状況の中で委員会として判断することになる。

(質問)
今回以外でも、事後撮影が行われたケースがあったのか。
(曽我部委員長)
審理の中では特段、確認はできなかった。

(質問)
今回、「放送倫理上重大な問題あり」との結論にならなかったのは「やらせ」や「ねつ造」がなかったからなのか。
(曽我部委員長)
先例があるわけではないが、今回の委員会決定で、定義したような意味での「やらせ」が行われていた場合、「放送倫理上重大な問題あり」と判断することはありうると考える。

(質問)
今回、意図的に事実と異なる虚偽の放送がされたとはいえず、その意味では「やらせ」「ねつ造」があったとは認められなかったとしているが、申立人や視聴者からすれば、意図的かどうかはあまり関係がないのではないか。
(曽我部委員長)
個人の考えとなってしまうが、「やらせ」「ねつ造」が行われた場合、放送局の存続にかかわるような、極めて重大な問題になると思う。今回の事案は、事実とは言えない部分はあったものの、意図的に存在しないものを作り出したというところまでは認められなかったと判断した。

(質問)
放送倫理上の判断においては、意図的であるかどうかが重要であるということか。
(曽我部委員長)
事実を伝えるべきところを、意図的に事実と異なるものを作ろうというのは、まさにメディアの存在意義を自ら否定するような行為であると考える。

(質問)
委員会決定で、氏名推知可能な状況で手錠装着場面を取り上げることは「必要性、相当性を欠き、申立人らに過度に社会的制裁を加えるものになっている」との記載がある。手錠装着場面の是非について、申立人側は強く主張していなかったと認識しているが、委員会としてあえて論点にしたという理解でよいか。
(廣田委員長代行)
申立書にも若干の記述があるが、今回、放送局にあらためて考えてもらいたいと思い、記載したものである。
(質問)
ある種の提言であるということか。
(曽我部委員長)
警察密着番組はさまざまな構造的な課題があり、見過ごすことのできないひとつのテーマとして今回、取り上げた。

(質問)
事後撮影部分のテロップやナレーションは、審理の対象となっているのか。
(廣田委員長代行)
警察官が恣意的な「再現」をしたのかどうかを検討しているので、事後撮影部分のテロップやナレーションは一切排して検討した。

以上

2025年4月8日

2025年4月8日

榊原洋一青少年委員会委員長のご逝去について

BPO放送と青少年に関する委員会(青少年委員会)委員長の榊原洋一氏は、
2025年3月29日に逝去されました。2018年4月から7年間にわたり委員長を務め、
青少年が視聴する番組の向上に力を尽くされました。謹んでお悔やみ申し上げます。

2025年3月に視聴者から寄せられた意見

2025年3月に視聴者から寄せられた意見

地下鉄サリン事件から30年、オウム真理教についての番組に意見が寄せられました。

2025年3月にBPOに寄せられた意見の総数は、2,148件で、先月から524件増加しました。
意見のアクセス方法は、ウェブ 86.3% 電話 12.6% 郵便・FAX 1.1%
男女別は、男性 52.0% 女性 23.6% 無回答 24.4%で、世代別では10代 1.4% 20代 9.4% 30代 19.3% 40代 22.9% 50代 21.2% 60代 10.6% 70歳以上 2.9%
視聴者意見のうち、個別の番組や放送局に対するものは当該局へ個別に送付します。3月の個別送付先は30局で、意見数は726件でした。放送全般に対する意見は119件で、その中から12件を選び会員社すべてに送りました。

意見概要

番組に関する意見

地下鉄サリン事件発生から30年の節目に各社が放送した番組やニュース企画に意見が寄せられました。ラジオに関する意見は59件、CMについては7件でした。

青少年に関する意見

2025年3月中に青少年委員会に寄せられた意見は54件で、前月から7件減少しました。
今月は「表現・演出」が22件と最も多く、次いで「要望・提言」が19件で、以下「報道・情報」の5件などが続きました。

意見抜粋

番組に関する意見

  • 地下鉄サリン事件から30年、事件の風化防止を訴える番組は素晴らしかった。今後もオウム真理教や派生した団体の現状を報道してほしいし、自己啓発セミナーなどを入口にカルトへと誘う事例について注意喚起してほしい

  • 地下鉄サリン事件から30年の節目にオウム真理教関連の特集番組が多くあった。気になったのはかつて使用が制約されていたと思われる、教団代表による説教や歌唱の肉声を流す番組があったことだ。オウムがマインドコントロールのために使った肉声をそのまま放送するのはいかがなものだろうか。事件を知らない青少年に対する影響を含めて強い違和感を覚えた。

  • 東日本大震災から14年、被災地の現状を伝え防災意識を高めようという各社の報道姿勢は素晴らしいと思う。胆振東部地震や熊本地震、大雨による災害などについても被災地のその後を伝え続けてほしい。

  • 千葉県知事選の投票前日に、立候補者であり兵庫県知事選でも話題となった政党党首について、報道番組が特集していた。

  • 選挙演説中の政党党首が刃物で襲われた事件。政党党首をめぐるテレビ報道やネット上の情報によって容疑者が影響を受けた可能性があるのか無いのか知りたいと思う。動機についての取材と報道を続けてほしい。

  • バラエティー番組の中のインタビュー映像が不適切な編集によって作られた虚偽の内容だったと分かった。番組の公式HPにはお詫びが掲載されているがそれで十分なのだろうか。

  • 食品ロスが社会の問題となる中、出演者がひと口食べてコメントするシーンを見ると、食べ残しは捨てられているのではないかという疑念にかられてしまう。番組内での食品の扱い方や視聴者への説明を改めて意識してほしい。

  • 事件事故や言い争いなどの場面を個人がスマホで撮影した映像がよく使われているが、撮影者が面白おかしくしようと意図をもって撮った可能性もあり信ぴょう性に疑問が残ると思う。放送局の報道スタッフが現場で取材して確認できた事実を伝えてほしい。

  • かつてスポーツ紙の紙面をボードに貼り付けてそのまま読んでいた情報番組だが、今は週刊誌記事の文章をそのままパネルに書き写して読み上げている。自らの取材によって裏取りしない不確かな情報をテレビで伝えることを見直す時期ではなかろうか。

  • テレビ報道は週刊誌記事とは公共性の重みが違う。一方に偏らず両論併記する。訂正があればその旨をすぐに伝える。報道した内容には責任を持つ。こうした当たり前のことが守られているだろうか。週刊誌レベルの報道ならば電波を使う必要は無いと思う。

  • 二刀流メジャーリーガーの努力と技術は素晴らしいし日本人メジャーリーガーの人数が増え多くの選手が活躍していることも誇らしい。しかし朝から晩までほとんどの局で同じ話題を長々と取り上げるので見ていると疲れてくる。過熱気味の報道を見直す放送局や番組が現れてもいいのではないか。

青少年に関する意見

【「表現・演出」に関する意見】

  • バラエティー番組の「大食いタレントが太らないのはなぜか」との企画。女性2人が出演したが、万が一、過食嘔吐等の症状を抱えていたらと思うと見ていて非常に不安だった。医師の適切な監修を受けていたのだろうか。このような企画は危険ではないか。

  • アニメ番組の妖精キャラクターが、主人公が歌う様子などの動画を撮って勝手にインターネットにアップロードするシーンがあった。主人公がそれを注意することがなかったので、今の子どもたちが真似してしまいそうで不安だ。

【「要望・提言」】

  • バラエティーだが出演者が競輪に賭ける番組で、視聴者の射幸心をあおるものだ。子どもが見る機会もある。番組がきっかけでギャンブル依存症になる可能性に配慮しているのだろうか。無料の放送でギャンブルにはしゃぐ番組に怒りを覚える。

【「視聴者意見への反論・同意」】

  • 深夜アニメに関する苦情の意見が入りすぎている。深夜枠は比較的に表現の自由が広い時間帯だ。子どもが視聴する朝枠や夕方枠と異なり、深夜枠は大人がターゲットだから、「性的だ」とのクレームは違うと思う。そういうクレームのせいで、アニメ自体がつまらなくなっていることに気付いてほしい。

第277回

第277回-2025年3月25日

高校生モニターとのオンラインミーティング…など

2025年3月25日、第277回青少年委員会を千代田放送会館BPO第一会議室で開催しました。吉永みち子副委員長をはじめ7人の委員が出席しましたが、欠席の榊原洋一委員長については事務局から3月末日の退任が発表されました。この日の議事進行は吉永副委員長が代行しました。
会議の冒頭、2024年度の高校生モニター8人とのオンラインミーティングが行われました。
引き続いて、2月後半から3月前半までの1カ月の間に寄せられた視聴者意見について、担当の委員から報告がありました。
3月の中高生モニター報告のテーマは「この1年間で最も印象に残った番組について」でした。
委員会ではこれらの視聴者意見や中高生モニター報告について議論しました。
最後に今後の予定について確認しました。

議事の詳細

日時
2025年3月25日(火)午後4時00分~午後6時30分
放送倫理・番組向上機構BPO第一会議室(千代田放送会館7階)
議題
高校生モニターとのオンラインミーティング
視聴者からの意見について
中高生モニター報告について
今後の予定について
出席者
吉永みち子副委員長、飯田豊委員、池田雅子委員、佐々木輝美委員
沢井佳子委員、髙橋聡美委員、山縣文治委員

高校生モニターとのオンラインミーティング

2024年度の高校生モニター8人とのオンラインミーティングが行われました。この1年間を振り返ったモニターたちからは「テレビの話をする良いきっかけとなりました」「テレビに対する見方が変わりました」「今後の進路活動でのいろいろな視点を持つことができました」「まわりの人の意見に注目できるようになりました」などモニター活動が有意義だったとの感想が多くありました。
また、各委員からは「毎月、モニター報告を書くことはとても大変だったと思います。本当にありがとうございました」「この1年間、本気でテレビ・ラジオに向き合って報告を書いてくれたのは大切な経験だと思います」などこの1年のモニター活動への感謝と労をねぎらう言葉がありました。

視聴者からの意見について

2月後半から3月前半までの1カ月の間に寄せられた視聴者意見について担当の委員から報告がありました。
日曜午前の子ども向け特撮ヒーロー番組で、ヒーローグループのひとりが老夫婦から家宝の高額な壺をだまし取るようなシーンがありました。番組の最後は円満に収まり壺は男性ヒーローがサインして返却されましたが、視聴者から「詐欺という犯罪を若年者が軽く考えてしまう悪影響が懸念される」などの批判的な意見がありました。
担当委員は「このシーンが犯罪行為を助長するようには見えない。(犯罪を肯定するように見えたのであれば)一緒に視聴した保護者が子どもにきちんと説明すれば足りるだろう」として、問題ではないという見方を示しました。
別の委員は「世間では高齢者を狙った特殊詐欺の事件が増えているので、こうした批判が多く寄せられたのだろう。壺が返却されたことを示すものが写真だけだったことも、(返却された)結果を曖昧にしてしまったのではないか」と指摘しました。
これを受けて担当委員は「サインが入った壺が返却されて老夫婦が喜ぶカットがひとつでもあれば、視聴者の受け止めはだいぶ変わっただろう。指摘のように詐欺が多発する時代なので、『犯罪行為だと受け止められるかもしれない』前提で番組を制作する必要はあった。その点は少し配慮が足りないと思う」と述べました。
このほかに大きな議論になる番組はなく、新たに「討論」に進むものはありませんでした。

中高生モニター報告について

3月のテーマは「この1年間で最も印象に残った番組について」で、28人のモニターから合わせて25番組への報告がありました。
複数のモニターが取り上げた番組は『第75回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)と『日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」』(TBSテレビ)で、ジャンル別では情報バラエティー9番組、ドラマ7番組、ドキュメンタリー4番組、音楽3番組、アニメ2番組など、多岐にわたる番組に関する報告が集まりました。
また「自由記述」にはモニター活動の感想のほか、委員へのメッセージ、放送局に対する要望やエールが届いています。
「青少年へのおすすめ番組」では『池上彰×土屋太鳳 昭和100年』(テレビ東京)に6人から、『秘密のケンミンSHOW 極 春の2時間SP』(読売テレビ)に3人から、『有吉のお金発見 突撃!カネオくん「2025年春休み お金のヒミツSP!」』(NHK総合)と『わが家は楽し』(TBSテレビ)、『テレビ朝日ドラマプレミアム 山崎豊子生誕100年記念「花のれん」』(テレビ朝日)、『ボクらの時代』(フジテレビ)、『純喫茶つながり、閉店します』(テレビ愛知)にそれぞれ2人から感想が届いています。

◆モニター報告より◆

【この1年間で最も印象に残った番組について】

  • 『第75回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)
    • 司会者に選ばれた3人(アナウンサー以外)が、なぜ選ばれたのか理由を知りたかった。また「紅組」「白組」で分けずに「アダルト部門(演歌など)」「ヤング部門(K-POPアイドルなど)」「名曲部門(どの世代にも知られている曲など)」のように3つに分けてほしい。その年の流行りでなくても「ネット投票」で1位に選ばれたアーティストにゲスト出演してほしい。(中学1年・女子・鹿児島)
    • 今年は推しのNumber-iが出演するので久しぶりに視聴しました。また普段は視聴しない母や父もB‘zやTHE ALFEEが出演するからと家族全員で見ることが出来ました。『紅白』は老若男女が見られる番組だと改めて感じました。(中学3年・女子・神奈川)
  • 『感想戦 3月11日のマーラー』(NHK総合)
    私はジュニアオーケストラに所属しています。トレーナーの先生方は新日本フィルハーモニー交響楽団の団員で、大勢番組に出演していました。身近な先生方が14年前の3月11日にマーラー交響曲第5番を演奏していたと知り、とても驚きました。日本中が3月11日に心を寄せる時、音楽と非常時を考える上で貴重な資料だと思います。ノンフィクションの番組を見たのは久しぶりでしたが、自分が興味を持っているからか何回も見たいと思いました。(中学2年・女子・東京)

  • 『新プロジェクトX~挑戦者たち~「世界最速へ技術者たちの頭脳戦~スーパーコンピューター「京」~」』(NHK総合)
    今年最も演出やストーリーのクオリティーが高いと思いました。良いなと思ったのは3点で、1点目は冒頭の地上の星が流れる部分です。「ひらめきの六次元」が三次元を超越したところは模型でイメージしやすく、虹色のような光の演出も特別感があって良いなと思いました。2点目はストーリー展開で、最後一気に主人公に有利な展開になっていくところ、今回でいうと悩んでいた主人公が複雑なエスカレーターを見て一気にひらめいたところが、個人的に面白いと思います。3点目は出演者からのメッセージで、感動の物語の後だからこそ沁みると思いました。(中学2年・男子・東京)

  • 『NHKスペシャル「“一億特攻”への道 ~隊員4000人 生と死の記録~」』(NHK総合)
    家族が録画していたので夏休みにたまたま視聴した。戦後80年もたつのに、新しく見つかった映像があることに驚いた。事件や事故や災害を風化させてはいけないとよく言われるが、こうして後世で変わることもあるんだと感じた。戦争番組はよくあるけれどこれはひと味違って、同じ戦争でも見方が変わると違って見えてくることを感じられた番組だった。(中学3年・男子・東京)

  • 『かんさい熱視線「阪神・淡路大震災30年 災害関連死 一人ひとりの命守るために」』(NHK総合)
    出演者の中辻さんらは阪神・淡路大震災当時、被災した高齢者などに食材の硬さや大きさといった個人の要望をききとり、食事を提供していた。その食事を食べた被災者が感動しているシーンは印象的だった。災害時に地域住民に寄り添った対応をするには自治体単位での対策が必要だが、自治体等に一任するのではなく、地域住民である自分たちが行動することも大切だと再認識することができた。(高校1年・男子・兵庫)

  • 『連続テレビ小説「おむすび」』(NHK総合)
    今回の朝ドラはなかなか進路が決まらなかった時に「米田結(橋本環奈)のように人の役に立ち人を喜ばせられる栄養士になりたい」と思わせてくれたドラマで、これがなかったら進路が全く違っていたかもしれないなと思います。米田結は最初は料理が苦手でしたが、専門学校に通って毎日練習し、今では管理栄養士となり毎日患者を笑顔にする献立を考えているのを見て、私も料理が苦手ですが将来、このような栄養士さんになりたいと思いました。(高校3年・女子・栃木)

  • 『さんま・玉緒のお年玉!あんたの夢をかなえたろかSP』(TBSテレビ)
    一般人が有名人に会うのはテレビでしかできない事なので、テレビの良さが分かる番組だと思った。どの夢も感動的だったけど、笑える場面もあってバランスが取れていた。たくさんの応募の中から「実現させる夢」を決める裏側の映像も見てみたかった。(中学2年・女子・鳥取)

  • 『海に眠るダイヤモンド』(TBSテレビ)
    • 脚本を担当した野木亜紀子さんの作品が好きで視聴しました。端島(長崎県)は「もう終わった島」「ただの廃墟」だと思っていましたが、ドラマを見ていくにつれて端島で青春を生きた人や端島を愛した人がいて、その人たちの中では端島はまだ生きて輝いていると気づきました。(高校1年・女子・愛知)
    • 端島の見える場所でコスモスが咲く光景を朝子(杉咲花)が見たシーンはとても感動しました。主題歌の「ねっこ」(King Gnu)が流れるタイミングも良すぎて、最終回では涙が出ました。ドラマを見終わった後、実際に自分の目で端島を見たいと思い、3月の休みを使って長崎に行きました。50年前に本当に人が住んでいたのかと思うと不思議な感じがしました。(高校1年・女子・岐阜)
  • 『西園寺さんは家事をしない』(TBSテレビ)
    面白いと感じたポイントは3つあり、1つ目は話のテンポが良く笑える場面もあったことです。2つ目は主役や脇役を含め多くのキャラクターそれぞれがとても際立っていたことです。様々なバックグラウンドやそれぞれの感情の機微も丁寧に描かれていました。そして3つ目は仕事・家族・子育て・恋愛・家事負担などの身近なテーマがたくさん詰め込まれていたことです。毎話、最後に主題歌が流れると「もう終わっちゃったの!?」と思っていました。キラキラとした世界観をたくさん満喫しました!(中学3年・女子・長崎)

  • 『不適切にもほどがある!』(TBSテレビ)
    令和と昭和のコンプライアンスのギャップに衝撃を受けました。主人公の小川市郎(阿部サダヲ)の昭和の考え方は現代では否定されています。しかし令和のコンプライアンスをそのまま引きずってしまえば、甘えてばかりの社会になってしまい成長しないと思いました。このドラマを見終えて、コンプライアンスのことをよく考えました。これからの社会で必要なことなので、このドラマを多くの人に見てほしいです。(高校2年・男子・山口)

  • 『御上先生』(TBSテレビ)
    兄が録画していて、自分も興味があったので視聴した。進学校をテーマに難関大学を目指す生徒が描かれており、自分も難関大学を目指しているので共感した。『ビリオン×スクール』(フジテレビ)と比較すると「笑える」要素は少なくミステリー要素が強めだが、ネットニュースなどで話題となっていた理由は多くの人が進学校にあこがれており、勉強しなかったことを後悔している大人が多いからかもしれない。第8話で溝端先生(迫田孝也)が信念を失いつつある姿が描かれていて、その原因をもっと知りたいと思った。(中学1年・女子・神奈川)

  • 『超無敵クラス』(日本テレビ)
    亀井裕介くんと安斉星来さんのコンビでの最後のロケが印象に残った。毎回、水や泥の中に入って生き物を捕まえる姿がかっこよかった。一人の高校生が熱中していることをレギュラーメンバーが体験するといった企画を最近あまりやっていなかったため、また見たいと思った。また12官庁を紹介する企画も普段どのような仕事をしているのか知ることができて面白かったので、また放送してほしい。(高校2年・女子・東京)

  • 『D×WEST.』(日本テレビ)
    WEST.が様々なアーティストとコラボして、自分たちの音楽をアレンジし披露する番組です。一番驚いたのは「ハート」という楽曲をオーケストラで歌唱していた放送回です。バックミュージックが変わるだけでこんなにも曲の雰囲気が変わるんだなと感じました。このアレンジはテレビだからこそのクオリティーだと思うので、他のアーティストも起用して長く番組が続いてほしいです。(高校2年・女子・愛媛)

  • 『ヒルナンデス』(日本テレビ)
    8月の高校生モニター会議で生放送の現場を直接見たため印象に残った。報道フロアからのニュースは必要ないのではないかと思っていたが、伊藤遼アナウンサーが「8月1日は 打ち水の日」のフリップを一生懸命に書いていたり、報道フロアでせわしなく働いたりしている人を見て、視聴者に届けたいという気持ちが伝わってきた。またニュースの間は『ヒルナンデス』のスタジオでも休憩時間になっていてよいと思った。(高校2年・女子・青森)

  • 『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ)
    一年間毎週欠かさずに見ていた唯一の番組です。この番組の良いところは、私たちが当たり前のように享受している生活がどのようにして成り立っているのか、分かりやすく知ることができることです。最近は自己肯定感を求め、SNSを使ったり時には過激な行為をしたりする人も増えているように感じます。日々の生活に感謝する心があれば、ある種の「満足」が感じられ、もう少し幸せに生きていけるのではないかと思います。そして生産者や食べ物への感謝を忘れないという、特別なことではないけれど、大切なことを思い出させてくれる番組です。(中学3年・男子・千葉)

  • 『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)
    今年度一番印象に残ったのは手越祐也さんが出演した放送回です。放送前後、Xは『イッテQ!』の話で持ち切りでしたし、学校でもみんな「放送が待ちきれない!」と言っていて、小学校時代を思い出し懐かしくなりました。『イッテQ!』は「手越さんが出演したら見るのにな」という視聴者の心の声をくみ取り実現し、結果的には成功を収めたのだと思います。手越さんは一度降板しているので再びオファーするのは難しいかもしれませんが、そのくらいしないと今の若者はテレビを見ようとしないと思います。(高校3年・女子・奈良)

  • 『Google Pixel presents ANOTHER SKY「ゲスト:TWICE ナヨン/韓国・済州島』(日本テレビ)
    雰囲気もコンセプトも一番好きな番組です。好きな場所を選んで撮影するからなのか、ゲストの普段とは違う自然体な姿を見ることができるので、多くの人が新しいナヨンさんを見ることができたと思います。また白い文字のテロップが特徴的で、出演者が身に着けるイヤホンで直接翻訳しながら会話しているので、どこまでもシンプルで分かりやすいなと思います。(高校3年・女子・熊本)

  • 『葬送のフリーレン』(日本テレビ)
    このアニメは異例の『金曜ロードショー』スタートの番組で、多くの人に注目された。また自分が住んでいる長崎県に展示イベントが来るなど、多くの人に認知された番組だったので、影響力がすごいと感じた。番組同士のつながりは大事だと思った。(高校1年・男子・長崎)

  • 『家政夫のミタゾノ』(テレビ朝日)
    このシリーズは前回から見始めたが、風刺がきいていて「いいのか?」と思うくらいきわどいので好きです。また“悪事を暴露して崩壊して終わり”ではなく“暴露して再生する”のが、救われる気がしてなお好きです。人を痛めつけることや批判だけすることは簡単だけれど「なんにでも救いの道がある」と思えてほっとします。(高校3年・男子・東京)

  • 『サスティな!』(フジテレビ)
    紹介されていたハンバーガーのパティは害獣である鹿を使用していて、秋田県でも熊が問題視されているので活かせると思いました。番組に若い世代が出演すると、人気や流行を知ることができると期待がふくらみます。(中学2年・女子・秋田)

  • 『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)
    20代の独身男性の54.4%に結婚の意思があると紹介されていました。以前ニュースで若い世代の「恋愛離れ」を耳にしたのと少子高齢化が加速している現状から考えて、このデータには少し驚きました。リモートワークが普及し、人と人との関わりが減った今だからこそ結婚相談所の需要が高まることは当然ですが、私は人と人との偶然の出会いも大切だと思うので、肩書や趣味といった情報だけでマッチングする現状に少し寂しさを感じました。(中学3年・女子・東京)

  • 『新しいカギ』(フジテレビ)
    テレビのチャンネルを変えていた時に「学校かくれんぼ」の企画を偶然見て興味を惹かれました。壁を増築したり地面の中に空間を作ったりして隠れるなど、もはやかくれんぼの域を超えていました。ただ少し危険だなと思うのは、学校名と生徒の映像が全国に放送されることです。学校の宣伝にはなりますが、同時にプライバシーを含む情報を視聴者に与えてしまうことになります。SNSの普及が進んだ現在においては、その後利用される可能性を考慮して制作するべきだと思いました。(高校2年・男子・神奈川)

  • 『27時間テレビ』(フジテレビ)
    盛り上げよう楽しませようという熱気に満ち溢れていてパワーをもらえた。特に印象に残っているのはカギダンススタジアムで、初心者の芸人を経験者の高校ダンス部がうまく使っていて、ストーリーがわかりやすく面白かった。なにより芸人たちの成長に驚いた。また本番の芸人たちのスピーチで努力の大切さやストーリーの面白さに熱気が加わり感動した。(高校2年・女子・東京)

  • 『日曜ビッグバラエティ 密着!JR24時 山手線から新幹線まで激レア(秘)映像大公開SP』(テレビ東京)
    小さな頃から電車を見たり乗ったりすることが好きで、妹と一緒に興味深く視聴しました。東京駅のコンビニの裏側はどんな風になっているのか気になり、一番混んだ日の売り上げ金額が1000万円をこえたことに驚きました。首都圏や田舎のコンビニの売り上げの平均値があると、すごさがさらに分かると思いました。新幹線や山手線を含め、電車以外の様子なども放送されていて、なかなか普段見られない場所の映像もあり楽しかったです。(中学1年・男子・山梨)

  • 『夜桜さんちの大作戦』(毎日放送)
    私の推しアニメです。作画はもちろん、声優さんの配置や音声がとてもはまっていて面白いです。音は大事だと思うので、これからも大切にしてほしいです。(中学1年・男子・山形)

  • 『春になったら』(関西テレビ)
    家族ドラマの中でも群を抜いて好きなドラマです。人は自身の終末に突然向き合った時に何を思うのか、その自覚の変化が細部に散りばめられていて、感情移入したり泣いたりが毎回のお決まりになっていました。多くのキャストが個性を出しつつ目立ちすぎていなかったところもすごいと思います。またフィルターのかかったような映像は温かみがあり、作中に登場した一眼レフと相まって、どことなく懐かしい気持ちになりました。(中学2年・女子・埼玉)

【自由記述】

《モニター活動の感想》

  • 色々な番組を探して視聴したことで、純粋にテレビやラジオが楽しく面白いなと感じました。SNSが普及し主流になっても放送局がなくなってほしくないので、今後も見続けたいです。(中学2年・女子・埼玉)

  • 友人とテレビの話をすることが増えました。自分たちがどんな番組を望んでいるのか、どんな感想を持ったのかを常に考えさせられ、同じ番組を見ても抱く感想や価値観が違うことを実感する1年でした。(高校1年・女子・愛知)

  • 一番の思い出は8月の高校生モニター会議です。テレビ局の裏側まで実際に見ることができ、今後の進路を考えるヒントになりました。意見交換会では私の意見が役に立ったか分かりませんが、こういった機会を通じて世の中は改善されていくんだなと感じました。(高校2年・女子・愛媛)

  • モニター活動の経験から、テレビやラジオがSNSに負けないように新しい何かを開発したいと思い、大学で電子情報工学を学ぼうと考えています。(高校2年・男子・山口)

《委員へのメッセージ》

  • 毎月の委員からのおたよりが嬉しかったです。委員にも個性があって、ほめてくれる人、ちょっと辛口の人、いろいろいることが分かりました。(中学1年・男子・山梨)

  • リポートを通して青少年委員の皆さんと交流できたことはとても貴重な経験だった。特に印象に残ったのは9月に書いた戦争に関する番組のリポートで、吉永委員から『自分とほとんど同じ年の子どもたちが戦争に巻き込まれたことに対して、もしその時代に生きていたらどうしたと思うか?』と問われたことだ。改めて考えると「戦争には死んでも行きたくない」という思いが強く、「戦争に行かないのはありえない」という当時の空気をとても恐ろしく感じた。1年前までは何気なく見ているだけだったテレビというメディアを、別角度からとらえなおすことができた。高校一年というこの時期にこのような素晴らしい体験をすることができて、とてもよかったと思う。(高校1年・男子・兵庫)

《放送局に対する要望やエール》

  • 『有働Times』(テレビ朝日)では気象予報士の片岡信和さんがピアノを演奏しながら天気予報を教えてくれるので、最近はいつも見ている。憂鬱な日曜日の夜の心を明るくしてくれる。(高校2年・女子・青森)

  • 【青少年へのおすすめ番組】について、鹿児島で視聴できる番組が1年間を通して変わらなかったので、もっと増やしてほしい。(中学1年・女子・鹿児島)

  • モニター活動を通じて「テレビの価値」をもう一度知ることができました。「オールドメディア」という言葉は大手ネットメディア等で否定的に取り上げられていますが、テレビをはじめとしたマスメディアが信頼を失うことはとても危険なことです。不特定多数が発信できるSNSでは責任の所在がはっきりしない、だからこそ発信が容易だがデマも広がりやすい。今はまだ致命的な問題にはなっていませんが、ラジオを巧みに使いこなしたかつてのヒトラーのような人が出てきたらどうなるのか、その危険性を忘れてはならないと思います。そしてそれに唯一対抗し得るのはテレビをはじめとしたマスメディアです。責任が伴うからこそ正確な情報を伝えることができる、中立だからこそ偏向も起きにくい。テレビなどの情報がどれほど大切かを1年間の活動を通して考えることができました。(中学3年・男子・千葉)

【青少年へのおすすめ番組】

  • 『有吉のお金発見 突撃!カネオくん「2025年春休み お金のヒミツSP!」』(NHK総合)
    「渓谷探検」について国内外の自然の美しさに驚くとともに、水の上をロープで渡るなど死と隣り合わせの様子に、見ていて思わずソワソワしてしまいました。(中学3年・女子・東京)

  • 『わが家は楽し』(TBSテレビ)
    祖父母がわざわざ孫の目の前で離婚話を持ち掛けるのはさすがに現実味がないと思うが、いきなり離婚話が出てきたのは驚いたし、面白かった。視聴者が予想しない展開がこれからのテレビ離れを食い止める方法だと思う。(中学2年・男子・東京)

  • 『テレビ朝日ドラマプレミアム 山崎豊子生誕100年記念「花のれん」』(テレビ朝日)
    • セットが細部まで作りこまれていて、寄席を見たことのない自分もその場に立ち合えたような気分を味わいました。生きるため、家のために笑顔を作っていた主人公が最期に穏やかに笑っていた所が凄く刺さり、泣いてしまいました。(中学2年・女子・埼玉)
    • 「節季」などの専門用語の意味が画面左下に表示されたのは分かりやすくてとても良いなと思いました。主人公・河島多加(北川景子)視点が多く、他の人物から多加がどう見えているのかの描写があったら良いなと思いました。(中学2年・女子・東京)
  • 『ボクらの時代』(フジテレビ)
    読書が好きで、本谷有希子さんがゲストということで初めて視聴しました。司会者がいるようでいないような不思議な番組で、座る位置といい、自然で穏やかに感じました。(中学3年・男子・東京)

  • 『池上彰×土屋太鳳 昭和100年』(テレビ東京)
    • ゲストの年齢層がバラバラで良かった。昔の暮らしだけではなく、当時のスタイルで現在暮らしている人の紹介もあって面白かった。(中学2年・女子・鳥取)
    • 年表がとても分かりやすく、社会科の教科書では触れなかった深いところまで解説されていました。ただの「違い」だけでなく「なぜ違うのか」を解説するので、とても面白く勉強になりました。(中学3年・男子・千葉)
    • 「昭和時代の方がむしろ多様性に富んでいた」とインタビューに答えた人の意見をきいて、驚いたと同時に少し納得した。今の時代、多様性とはよく言われるものの、SNSの普及により今まで以上に周りの目を気にしたり「流行」に流されすぎたりしている人が多くいると感じているからだ。(高校2年・女子・東京)
  • 『秘密のケンミンSHOW 極 春の2時間SP』(読売テレビ)
    兵庫県のラーメンを特集していたが、全く知らない店が紹介されていて驚いた。神戸市の「もっこす」「第一旭」に人が殺到しているのを見て行ってみたくなったが、インタビューされた人が口をそろえて絶賛していたのは少しおおげさな編集だと思った。自分の住んでいる県が特集されるたびに知らなかった一面を知ることができるので、県単位の特集をもっと見たい。(高校1年・男子・兵庫)

  • 『発見!!食遺産 #あなたのレシピ残させてください』(テレビ大阪)
    たまに料理をするので食材に興味を持ちました。関西の番組なので私が暮らす地方とは旬の食材が違い、文化の違いを知る機会となりました。有名芸能人が登場していて、さすが大阪だと思いました。(中学2年・女子・秋田)

  • 『純喫茶つながり、閉店します』(テレビ愛知)
    人と人とのつながりを描くドラマだと思いました。私もこんな優しく話しを聞いてくれる喫茶店に行きたいです。(高校1年・女子・岐阜)

  • 『交通安全ココワンtube』(愛媛朝日テレビ)
    「春の車のメンテナンス」について学びました。まだ17歳なので車の免許は取ることができませんが、家族に伝えることでこの情報を広げていきたいと思います。(高校2年・女子・愛媛)

  • 『青森×鹿児島 北端!南端!ワザワザ見聞録』(南日本放送)
    鹿児島県と青森県の職人が、それぞれ思いを持って作る姿が印象的だった。伝統の品は上の世代が作ったり利用したりしているイメージがあったけれど、若い世代が時代に合わせてアップデートしながら作っていることを知ることができて、嬉しかったし親近感を持てた。(中学1年・女子・鹿児島)

  • 『ぞっこん!-昭和歌謡を愛する者たちの歌マネの競演-』(BSフジ)
    モノマネをするうえで大切なのは「愛があるか」という事。その通りだと思い、それぞれの愛を感じることができました。セットの予算やゲストの人数が削られているような気がしましたが、BSなので仕方がないのかもと思いました。(中学1年・男子・山梨)

  • 『工藤阿須加が行く 農業始めちゃいました』(BS朝日)
    農家の方が育てたビーツを収穫した際、工藤阿須加さんが「ここまで大きくならないですよ。自分が育てた時は」と話していて、ビーツのサイズ感が伝わってきた。経験した人のレポートは学びになる。農業は私たちが生きていく上で欠かせない仕事なので、こういった番組が増えるとよい。(高校2年・女子・青森)

【青少年へのおすすめ番組2月分】

  • 『東京ホテイソンと学ぶ生存戦略』(青森テレビ)
    前半がSDGs、後半が防災に関する内容だった。自衛隊の方がいざという時に役に立つ知識(担架作りや簡易水道の作り方)をレクチャーしていて分かりやすかったし、信憑性があり今後のための勉強になった。また大喜利などお笑い要素もあり、楽しく視聴することができた。(高校2年・女子・青森)

◆委員のコメント◆

【この1年間で最も印象に残った番組について】

  • 中学3年生のモニターから『第75回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)を家族全員で見ることができたという報告があったが、番組の内容よりも両親と一緒に見ることができたということが、きっととても良い思い出になって、最も印象に残った番組につながったのだろうと思う。

  • 『葬送のフリーレン』(日本テレビ)に関する高校1年生のモニター報告に「番組同士のつながりは大事だ」とあったが、これは“テレビらしさ”の本質をついている感想だと思う。テレビには時に“局を越えたつながり”があって、例えばガチャピンがフジテレビ以外の番組に出演するだけで盛り上がるし、生放送の『FNSの日』(フジテレビ)に出演していたビートたけしが『スーパーJOKEY』(日本テレビ)の生放送に出演した後にまた戻ってくるといった、そういうところにテレビらしさとか芸能界らしさみたいなものを私も子ども心に感じていた。そういった部分は権利的にも残すのが難しく、そぎ落とされた形で作品としてだけ番組がアーカイブされるが、実はその“そぎ落とされた部分”が本当の“テレビらしさ”なのではないかという気がして、大切にしていくべきポイントなのではないかと思う。

  • 高校2年生のモニターから「学校名と生徒の映像が全国に放送されるのは少し危険だと思う」とあったが、これはテレビという映像を伴ったメディアにとっては重たい指摘だ。「危ないことはやめておこう」という流れが行き過ぎるとテレビメディアの良さが損なわれてしまうし、安全性を担保して映像の力をどう発揮するかはテレビに関わる人たち全体の問題でもある。特に青少年に関わる部分では何か事件が起きたときに取材しづらくなっているという声もあるので、こういったこともテーマに今後も議論を続けていきたい。

【自由記述について】

  • モニター活動について「自分なら視聴しない番組に出会うことができた」という感想が多くあったが、番組と青少年をつなげる何らかの工夫があればもっと注目してもらえるのではないかという印象を持った。

今後の予定について

次回は2025年4月22日(火)に千代田放送会館BPO第一会議室で定例委員会を開催します。

以上

2025年2月3日

近畿地区意見交換会を開催

「SNS時代の選挙報道 局の垣根を越えて議論」

放送人権委員会の近畿地区意見交換会が2025年2月3日に大阪市で開催された。近畿地区での開催は、2019年以来6年ぶりとなる。前年の2024年秋に行われた兵庫県知事選挙で、SNSが有権者の投票行動に大きな影響を与え、また25年も7月に参議院議員選挙が行われることなどから「SNS時代の選挙報道はどうあるべきか!」をテーマに意見交換を行った。近畿地区の20放送局から約100人が参加し、SNSで拡散されるデマや誤情報への対処、選挙報道における「公平性・中立性」の問題などを論点に3時間にわたって活発な議論が展開された。

●曽我部委員長「選挙における放送の役割が問われている」

会議の冒頭あいさつに立った曽我部委員長は「放送界のあり方が深いところで問われる局面がこのところ続いている。放送は民主主義が機能するために不可欠で、選挙は民主主義の根幹の一つであるから、選挙に関してこそ放送はその役割を発揮しなければならないはずなのに、それができていないのではないかと今日改めて問われている。」と述べた。さらに「放送界全体として、放送法や公職選挙法の改正、あるいは法解釈の見直しを国に対して提案することも求められる一方で、個々の放送局としては、今の法律を前提として何ができるのかを考えていただく必要があると思っており、本日の議論をそのための一助としていただきたい。」と語った。

続いて、毎日放送 報道情報局東京報道部部長兼解説委員である大八木友之氏が兵庫県知事選挙を現場取材して浮き彫りになった課題について語った。

<毎日放送 大八木氏>

●エポックメイキングな選挙だった
今回の兵庫県知事選挙の街頭取材では、これまでの知事選挙とは異質な熱気、うねりを感じた。現場ではテレビで伝えてきたこととの乖離が起きており、SNSをきっかけに演説会場に来た聴衆からは「テレビに騙された」などと厳しい言葉が投げかけられた。
なぜテレビが厳しい言葉を浴びたのか、その要因は選挙の前と後で変化した報道量にあると考える。告示前は斎藤知事関連で多くの報道があったが、告示後はニュースや番組での取扱量が明らかに減少した。それは例えば、伝えることで特定候補に有利又は不利になる情報は扱わないなどと判断したためであるが、もう一方では生の情報番組が単純化した構図やキャッチーさにこだわるあまり、複雑なテーマを噛み砕いて伝える難しさを避けてしまうような傾向も手伝ったのかもしれない。その結果、テレビが選挙期間中に報道量や頻度を減らす一方で、ネットやSNSの世界で動画の投稿数や閲覧数がどんどん増えていくという現象が起きていた。

●テレビは選挙という「面倒ごと」を避けてきたのではないか
テレビが選挙期間中に報道量を減らすことは、有権者が投票に際して最も欲しいと思うタイミングで情報を提供しないということにつながっている。それは長年の課題であり葛藤でもあるが、どこかに甘えがあるとも思う。
敢えて本音と建前という言い方をすると、建前としては放送法や公職選挙法を遵守して各候補者や政党を中立・公平・公正に取り上げる必要があるからとしながら、本音としては陣営・政党・視聴者からのクレームを避けたい、面倒を避けたいという理由から、結果的に自らその報道量を減らしているのではないかと感じる。

●テレビは「政治的公平性」に縛られているのか?
BPOの放送倫理検証委員会は、今回の兵庫県知事選挙から7年も遡る2017年の委員会決定で、選挙報道に求められるのは、事実を偏りなく報道し、明確な論拠に基づく評論をする質的公平性だと指摘している。
また、総務省幹部は「放送法に書かれている政治的公平性については、それをどう解釈してどう報道するのかは自主・自律の話だ」と見解を述べる。
つまりBPOからも総務省からも各社の判断で選挙報道を行うよう促されているのだが、今後の選挙報道を変えていくにあたって質的公平性をどう担保するかは非常に悩ましい。

●兵庫県知事選挙で何が突きつけられたのか?
今回の兵庫県知事選挙で突きつけられたのは、一つは結果偏重の報道からプロセス重視に移ることだと思う。選挙は結果が大事であり、それこそ与野党の過半数などは意識してしまうが、これまでの放送は選挙結果を伝えることに重きを置きすぎたきらいがある。テレビは人員・予算を大幅にかけて投開票日に特番を放送するが、有権者はやはり実際に投票に行く際に有益な情報を事前に提供してくれる番組や記事を求めており、そこにきっちりとコミットできる報道が求められる。
もう一つはまさに今回欠けていたと反省する点だが、ネットやSNSと対話をしていくことが大事だと思う。例えば選挙期間中に取材したことや街頭で起きていることを発信したり、ネットやSNS上で話題になっていることを情報の正しさ、誤りを含めて伝えたりすることができる。それをやらないことで「テレビは無視している」「私たちの声を取り上げていない」「街で起きていることを伝えていない」と批判されるのであり、普段の番組でやっているのと同じようにネットやSNSとの対話を繰り返し、取り上げていくことが必要ではないかと思う。

●これからの選挙報道は…
これからの選挙報道をどうするかについては、それぞれの選挙に応じてやり方はいろいろあると思う。投開票日だけにこだわらない事前の特番、ネット世論やSNS上の言説のファクトチェックのほかにも、有権者ファーストから入る報道、政策やイシューを重視した報道などができるのではないか。
また、放送局はすでにWEB配信を行っているので、そこを十分に利活用する手があると思う。地上波では時間的な制約があるが、WEB配信でそうした物理的な制限がなくなれば、各種討論会を開催したり、記者や解説者が出演して今起きていることを伝えるなどして有権者に判断材料を提供していくことができる。
答えがない世界ではあるが、頭を悩ませて、結果的に今回の兵庫県知事選挙が選挙報道を変える良いきっかけになるように、ひいては民主主義の最大の手段である選挙をきっちりと伝える役割を担えるようにしていきたい。

  • 大八木氏のプレゼンを受けて、メディア論が専門でSNS問題も研究テーマとする松田委員、兵庫県出身の斉藤委員が意見を述べた。

●松田委員「視聴者の感情面での公平性を考えた報道を」
質的公平性について、視聴者が感じる感情面での公平性をどのように考えるのかが非常に気になった。今回の兵庫県知事選挙と似ていると言われるものの一つに「推し活」がある。有権者は自分が応援する候補の選挙戦に参加して、演説会場などいろいろなところに見にいって応援する。かつ、候補者もSNSで活躍するインフルエンサーやYouTuberと同じように、見せ方を工夫し、自己演出する。そんな選挙戦では有権者の感情が非常に動く。
その一方で、放送局が斎藤知事に対して「パワハラ」「おねだり」と繰り返し報道するのは、旧態依然たるメディア側が古くさいレッテルを貼って個人攻撃をしているという感情を持たれてしまっている。推し活には「お互いの『推し』について悪く言わない」という暗黙のルールがあって、お互いに好きなものをそれぞれ応援するといった振る舞いがSNS上でウケる状況の中で、放送局が古くさいレッテルを貼って上から目線で攻撃するというイメージが感情的な反発を引き起こしたのではないかと思う。
このため質的公平性においては、情報の内容としての部分はもちろん重要であるが、一方でSNS時代を考えたときには、視聴者の感情にどう訴えるかについても考える必要があると思う。

●斉藤委員「スピードよりも、信じられる情報を」
BPO委員というよりは個人的な意見になってしまうが、兵庫県知事選挙の後で神戸の友人たちに話を聞くと、反応が重く歯切れが悪かった。みんな何が本当なのかわからない様子で、選挙の話題を振ると気まずい雰囲気になってしまった。
私もパワハラやおねだりの報道があり、県議会から全会一致で不信任決議を受けたあたりまでは、簡単に言うと「斎藤知事ってとんでもない人だな」と思っていたが、その後にSNSなどで「斎藤知事は実はよくやっていた」というような言説を見聞きすると、斎藤氏が知事の時にどういう政策をしていたのかあまり把握していなかったことに気づいた。候補者の人間的な面を伝えることももちろん大事だが、政策や実績、注目される問題についての考え方など、有権者として自分が求めるものに対する立場をきちっと伝えてくれる情報が欲しかったという友人もいた。
質的公平性の判断は難しいし、守りに入って報道を控えてしまうのもわかるが、SNSがこれだけ発達した中で、いま私個人がテレビの選挙報道に求めるのは、スピードではなくて信じられる情報だ。みんなが悩んでいるような問題について有権者と問いかけ合い、一緒に考えるような報道をそれぞれの放送局がいかに一生懸命頑張って発信するかが大事だと思う。

  • ここから4つの論点について意見交換が行われた。
    論点は、①拡散されるデマ・誤情報への対処、②取材者に対する個人攻撃のリスク、③公平性・中立性の“呪縛”、④SNS時代の選挙報道とは・・・、である。

論点①「拡散されるデマ・誤情報への対処」

●参加者「ファクトチェックが特定候補者を利する場合は?」
選挙中に流布されるSNS情報については、ファクトチェックが難しいだけでなく、そのファクトチェックの指摘が候補者の有利、不利に直結する場合は非常に躊躇してしまう。ファクトチェックを具体的に行ったために特定の候補者の報道量が多くなって、結果としてその候補者を応援しているように受け取られるのではないかと危惧する。

●曽我部委員長「指針を作って公平・公正に適用し、説明できることが重要」
私は日本ファクトチェックセンターの運営委員長でもあり、その観点からもお話ししたい。今後の選挙報道には質的公平が大事であるということだが、現実的にはこれまで量的公平を重視して報道してきたこと、さらには質的公平には基準や答えがないことから、いきなり量的公平から質的公平に移行するのは実際上大変難しいと思う。このため部分的に、できることから始めることを提案したい。
まずできることの一つは、ネットで流通する偽・誤情報に対するファクトチェック的な取り組みを放送番組とWEBの両方で行うこと。放送人権委員会の決定に判断のグラデーションがあるように、日本ファクトチェックセンターの判定基準にもグラデーションがある。ファクトチェックは「正確か誤りか」という二択ではなくて、「正確」「ほぼ正確」「根拠不明」「不正確」「誤り」の五段階があり、言説に対する評価のニュアンスを反映するような仕組みになっている。例えば「根拠不明」とは煮え切らないような感じだが、「この言説は根拠不明なのでよく注意してもらいたい」という視聴者への注意喚起になるので、一定の役割を果たすと思う。
もう一つは、最近は選挙運動期間中に突発的にいろいろなことが起きるので、それを伝えること。起きたことを伝えないと、逆に有権者の判断が歪んでしまう。最近「選挙ハック」的なものが多々行われているが、私が一番衝撃を受けたのは衆院東京15区補欠選挙でつばさの党が非常に妨害的な行為をしたことで、これがリアルタイムには全然放送されないということに極めて大きな違和感を持った。あれはまさに有権者の判断に資する情報であり、放送しないのは逆に公平に反すると思う。
特定の候補者に有利、不利に働いてしまうおそれがあるという点については、私はあまり気にする必要はないと思う。大事なのは、まず各局でファクトチェックの指針をきちんと作るということだ。日本ファクトチェックセンターでも、どういうものを取り上げるのかについて指針を作り、その上で指針を公平・公正に適用している。現状では偽情報を流す陣営が限られているので結果として偏ってしまうのが実情だと思うが、指針がしっかりしていて、その基準に従って取り上げていることをきちんと説明できるのであれば、公平・公正についての問題はない。ただ、理屈としては今申し上げたとおりだが、実際問題としてどうするかは、各社において工夫の余地があるかもしれない。

●参加者「候補者のプライバシー情報の扱いは?」
これまでは政策に関係のないプライバシー情報を地上波で扱うことは避けてきたが、SNSが発達して有権者の投票行動に影響を与えるようになった今、プライバシー情報の扱いについても議論が必要になってきているのではないか。

●松尾委員「プラットフォームに対応を求めるか議論が必要」
今、プライバシー情報の扱いについて問題提起を頂いた。
直接的には、いわゆる告発をされた方のプライバシー情報がSNSで盛んに取り上げられたこと等を念頭にテレビがどうすべきか、という文脈でおっしゃられていると理解している。とはいえ、なかなか個別事案についてはコメントすることができない反面、この問題は私も非常に悩ましい問題だと思っているので、特にインターネットにおいて、選挙にも影響がある形で虚実織り交ぜたプライバシー情報が広まるという問題について、どういうところが特に悩ましいのか説明することでご勘弁頂きたい。
インターネット上の虚偽情報、プライバシー侵害、名誉毀損情報等については、権利侵害や法律違反でプラットフォームに通告して削除を依頼する。やはり内容次第で、プライバシー侵害になりやすいのはいわゆる私人の行為。これに対し、選挙における公人の行為はなかなかプライバシー侵害にならない。
とはいえプライバシー侵害にならなくても、公職選挙法上は虚偽事項の公表罪があるので、違法情報として通告して削除することも一応はできる。これが理論的な帰結ではあるものの、ネット上にそうした情報が大量にある場合にはプラットフォームが迅速にすべてを削除するのは簡単ではない。逆にそうした精査をせずに削除する場合には、問題があることをしたわけでもないのにXのアカウントを凍結されるような事態も起きてしまう。
そのような観点を踏まえると、AIだけで自動的に対応するような雑な対応ではなく、やはりプラットフォームに相当なマンパワーを割いてAIと人間がタッグを組んで対応する必要があると思う。そして、確かに兵庫県知事選挙は大きな選挙なので、これに力を注いでくれといえば、プラットフォームとして力を注いでくれるだろう。しかし、1700以上ある自治体の個々の選挙すべてについてプラットフォームにそうした重い対応を求めるかは、さらに議論が必要なポイントだと思う。
さらに生成AI、特に画像生成AIが発展してしまったために、まるで本当にそういう事実があったかのような画像を簡単に作れるようになってしまった。
生成AIに対しては、電子透かし等とも言われるウオーターマークを埋め込んで、ウオーターマークが入っていたらそれが生成AIで作られたことがわかる、そうした特定の情報があるとプラットフォームは「これは生成AIでつくられた画像です」といった警告表示を出す、などの方向で一応動いてはいる。しかし、結局ウオーターマークはただの情報なので、一定の技術的措置を講じれば抜き取ることができる。
警告表示がなければ本物と認識される状況の中でウオーターマークを取り去って、プライバシーに関わるものを含むフェイクニュースを、選挙に影響を与える目的でアップロードすることも全く不可能ではない。特に選挙期間は2週間程度と短いので、そうした期間の短さを利用して、選挙戦の後半あたりにウオーターマークを取り去った偽画像をアップロードして選挙戦を有利にすることもあり得るのではないかと悩ましく思っている。

●参加者「人手をかけずにファクトチェックを行う方法は?」
今後SNS選挙が展開されるにおいてファクトチェックが非常に重要になるのは一致した意見だと思うが、チェックをしようにも人が足りないというマンパワー的な問題がある。何か具体的な方法を伺いたい。

●國森委員「選挙期間中に限らず、ファクトチェックにこそ労力を」
マンパワーがないという話だが、ファクトチェックにこそ労力を注ぐ時代が来ていると思う。視聴者の立場から言うと、選挙期間中に限らず、ネット上に流通している偽情報をファクトチェックするというテーマの番組があれば、私は是非観てみたいと思う。エンタメに偏りすぎずにジャーナリズムの視点を持って放送すれば、視聴者の希望に沿うような番組になるのではないか。
ネット上では、少数の人たちのネガティブなコメントや悪意、敵意が増幅され拡散していくので人権侵害が起こりやすい。その人権侵害の被害者には取材をする記者も含まれ、放送局は記者を守るという毅然とした対応を取っていく必要がある。ネット上で記者が攻撃に晒された場合には、民事や刑事の法廷にも持ち込んで、今ある法律を積極的に用いながら記者と放送局自身を守っていく。ネット上の人権侵害を絶対に許さないということを広く社会に訴えアピールしていく、こうしたことが放送局として必要だと思う。それは個別の放送局に限らず、放送業界、メディア全体として、公権力による言論規制を招く前にネット上の配信や投稿における人権侵害に対してしっかりと働きかけていくことが大事なのではないかと考える。

●曽我部委員長「午後8時の当落予測が最高のプライオリティか問うべき」
マンパワー不足は現実的には非常に深刻な問題だと思うが、そもそも選挙報道は何のためにやるのか、恐らくそういうところから考えていく必要がある。
放送局は今、経営の問題や働き方改革で人が増やせない、報道は大変な仕事なので人材が採れないなどの制約があり、今まで人海戦術でできていたことがだんだんできなくなっている。このため部分的に効率化しながら何とか今までどおりにやろうとしているのだと思うが、今後もずっとそれで行けるとは限らないし、そもそもそれが唯一の答えかどうかもわからない。そうであれば、選挙報道にはもっと大きな考え方の転換があり得るのではないだろうか。
例えば情勢取材は投開票日の午後8時から始まる選挙特番で出すことが本当に最高のプライオリティなのか、むしろ選挙運動期間中の議論を充実させることが有権者のためになるのではないかなど、本来いろいろな考え方があると思う。今のようなマンパワー不足を一つの契機に、もっと根底的に報道の仕方を考えることも一つのアプローチだと考える。

論点②「取材者に対する個人攻撃のリスク」

●参加者「リアルでもネットでも攻撃に晒される記者を守るには?」
今回の兵庫県知事選挙では、取材に基づいて斎藤知事が不利になるような報道をすると親斎藤派からネット上で批判され、会社のSNSがターゲットにされる事態が起きた。また、街頭で取材をしていた記者が暴言を吐かれたり、YouTube上で事実誤認の情報を発信されたり、写真を撮られてSNS上に晒されるなどして怖い思いをしており、記者を守るための方法を伺いたい。

●廣田委員長代行「誹謗中傷を甘受せず、法的措置など毅然とした対応を」
私は記者活動を法的に支援する団体を作る活動を始めたところだが、記者が人物を特定されて誹謗中傷されるということを最近あちこちで聞くようになった。報道はある意味、批判をするのが仕事なので、批判をされるのはやむを得ないとは思うが、当然ながら記者や報道機関が誹謗中傷を甘受しなければならないということではない。
誹謗中傷されて心が折れそうになったとき、何が支えになるかといえば報道する使命や意義、放送局で報道に携わるプロの記者としての誇りしかないのではないかと思う。今いろいろマスコミ批判がされているが、SNS上の言説との違いは事実の裏取りがされていること、何を報ずべきかをきちんと考えて報じていること、意見の対立があるときには自分の言いたいことだけではなく反対側の言い分も伝えて解説することで、これはプロの記者にしかできないことだ。最近では昭和の精神論は通用しないと言われるが、こと報道においては報道の意義、なぜ自分たちは報じるのかという原点が何より重要であるように思う。抽象的ではあるが今そうしたことが報道機関にとって一番重要になってきているので、何のために報道するのか、自分たちの報道がSNS上で飛び交う言説とどう違うのかを、年長者は若い人たちに常日頃から伝えていただきたい。
しかしながら精神論だけでは対応できないところがあるので、社内に相談窓口を設置して、一人で抱え込まないようにするのが重要だと思う。そして限度を超える誹謗中傷に対しては、マスメディアであろうと発信者情報開示請求などをきちんとして法的措置を取る必要もあると思う。また、産経新聞社が自社の記者への誹謗中傷についてコメントを出したように、場合によっては社として対応することも必要になるのではないか。マスメディアが批判を生業にするものだとしても批判と誹謗中傷は違うので、言論のルールを示す意味でも誹謗中傷には毅然とした対応をしていただきたいと思う。

●松尾委員「報道への妨害、取材先からのハラスメントと捉えて対応を」
取材を申し込むと相手からYouTubeでの生配信を条件にされるなど、取材を取り巻く状況がかなり変わってきたと思う。その重要な原因としては、おそらく従前よりも取材や編集に対する信頼感が社会一般において低下していることが考えられる。これは取材を受ける側として、メディアの「編集」を信頼できず、いわば、勝手に「切り取られる」のではないかという不安があるためと思われるが、だからといって取材記者の個人情報を晒したり、虚偽情報を公表したりしていいわけではない。それは記者に対する人格権侵害であることに加えて自由な報道に対する妨害であり、やってはいけないことだ。
現在、東京都カスハラ条例等の形でカスタマーハラスメントが注目されているが、私はそうした度を越した取材対応は記者に対する一種のカスタマーハラスメントではないかと考えている。放送局では従業員がハラスメントを受けた場合の規定や相談窓口をすでに設けているところも多いと思うが、その枠組みの中に取材先からのハラスメントも入れて対応していくことが大事だと思う。

論点③「公平性・中立性の“呪縛”」

●参加者「放送法や公選法への勝手な思い込みがあるか?」
選挙報道に際しては放送法や公職選挙法を常々意識してきたが、その先の潜在意識としては、中身について深く立ち入って考えると相当なエネルギーを使うのではないか、相当なリスクがあるのではないかと勝手に思い込んでいたところがあるかもしれない。長年あまり深く考えずに量的な平等性を保つ選挙報道を続けてきたので、こちらが勝手に“呪縛”と思い込んでいる節は多分にあると思う。これまではトラブルやクレームを避ける意識が先行しがちだったと思うので、改めて選挙報道における放送法の解釈や、放送メディアに対するアドバイスをいただきたい。

●鈴木委員長代行「政治的公平は判定不能。偏りを排す自律的な努力を
政治的公平について学者の間では、倫理的な規定にすぎない、法的には拘束力がないという考え方が従来から支持を集めている。最近では、放送法第4条の内容規制は刑法のように違反すると制裁を受けるハードローではなくてソフトロー、即ち業界のガイドラインのようなものだと説明する学者もいる。
総務省の解釈は1993年の椿発言事件以来「政治的公平には法的拘束力がある」という立場に変わって、違反をすると電波法第76条を適用して行政指導したり電波を止めることもありうるという解釈になっているが、これまで何回か行われた総務省の内容に関する行政指導は事実を曲げているかどうかとの関係がほとんどで、政治的公平に反したり抵触したための行政指導は本当に数が少ない。
つまり何が政治的に公平かはそもそも判定不能と考えて、放送局が自律的に守っていくしかないのだと思う。偏りがないように自分たちが努力さえしていれば、クレームが来ても、例えばこれは重要なイシューであるから、重要な候補者であるからと毅然とした態度で説明できるので、量で公平を図る必要は全くないと考えている。
とは言え、やはり質的に公平にしようとすると難しい。結局、質的公平を目指そうとすると、一つ一つの扱いについてちゃんと理由がないといけないことになる。それは大変であるし、また少しでも扱いが異なると候補者や政党からクレームが来たり、あるいは今ならSNSで反対派の人に批判されるなどいろいろな厄介ごとが起きるので、それを避けるには量的に公平にしておくのがシンプルであったと思われる。
ちなみに、安倍政権下では政治的公平の解釈について極端な場合は一つの番組でも政治的公平を測るとしていたが、総務省は公式にはこれを撤回していないものの国会答弁で当時の説明をしなくなっており、政治的公平は番組全体で測るものであり、放送局各社が自律的に考えるものだという以前のスタンスに戻っている。
こうして政治状況も変化し、今回の兵庫県知事選挙や東京都知事選挙のこともあるので、この機会に政治的公平を量で測る必要はもうないと考えて、ではどうすればいいのかを是非検討していただければと思う。

●曽我部委員長「質的公平の前提として選挙制度への理解と知識の継承を
BPOの放送倫理検証委員会は、質的公平に言及した2017年の委員会決定第25号「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」のほかにもいくつか選挙の公平に関して意見を出している。我々放送人権委員会は外部の意見として外から見ているので、真意を捉えているかどうかについてはお断りが必要だが、この中にヒントがあると思うので紹介したい。
2020年の委員会決定第35号「北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見」では選挙報道に関する放送基準を十分理解していないという重要な指摘がなされている。またそれに先立つ2014年の委員会決定第17号「2013年参議院議員選挙にかかわる2番組についての意見」や2010年の委員会決定第9号「参議院議員選挙にかかわる4番組についての意見」でも放送局は選挙制度の正確な理解等を徹底する必要があると指摘している。典型的な例は、参議院比例代表選挙は全国を対象にしているにもかかわらず、地元局がその放送エリア内の候補者だけを取り上げて、結果として不公平になったというもので、これに対し選挙制度の理解が足りないと繰り返し指摘され、そこに起因する放送倫理違反が繰り返し指摘されている。
質的公平を追求することは非常に難しい。量的公平には答えがあるが、質的公平には答えがないので、あとは説明責任でやるしかないが、その前提としてやはり選挙制度に関する理解が必要ということだと思う。また、何か拠りどころがないと質的公平の議論はできないので、制度理解のほかに今までの事例の理解や知識が必要だ。ただ、限られたスタッフで制作していることや選挙に詳しい外部の有識者が限られていることを考えると、質的公平にシフトしていくために理解や知識を深めるのは現実問題としてはなかなか難しいと思う。そうした中であり得る方法としては、社内の誰かが異動にかかわらず継続的に知識を深め、選挙番組のデスクやプロデューサーに助言をしたり相談相手になることから始めてはどうかと思う。

●野村委員「自分たちの考え方を謙虚に丁寧に説明して」
この公平性・中立性の問題については、我々が市民として常識だと思っていたことや、放送局が常識だから最後は視聴者に理解されるだろうと思っていたことが通用しなくなっている。今までは特に説明をしなくても「これはおかしい」と視聴者にわかってもらえるはずだったが、今は放送局が思う常識を謙虚に丁寧に説明することが求められている。
政治的公平の問題について、いま話があった、質的公平という観点を取り入れるとすると、こういう人を選んで、こういうことを取り上げます、ということを、放送の中で根拠を示して自分たちの考え方を謙虚に丁寧に説明することが必要になる。もしかすると、その説明は面白くないかもしれないけれど、放送局として面白く見てもらうことを優先するのか。それとも、少しつまらない部分や回りくどい部分が生じたとしても、放送局が選挙と市民の意見形成に対して蚊帳の外であってはいけないと考えて、有権者が考えるための適切な場としてあろうとするのかどうかが問われる。批判を受けることもあるかもしれないが、テレビが選挙にコミットすることが非常に大切であるので、何故これをこういうふうに取り上げるのか、頑張ってしっかり丁寧に説明していただきたいと思う。
もう一つ別の話になるが、選挙制度についてはこれまで公職選挙法のルールや手続きを悪用したり逆手に取るような話はなかったが、そういう人たちが現れている。我々法律家は、制度を悪用する人に対しては、法律の解釈や制度を変えて対処していくことになるが、それにはどうしても時間がかかってしまう。ルールを破った人を罰したりペナルティを受けさせようとしても、それが実現するまでに時間がかかるので、結果的に破った人が得をしてしまう。特に選挙期間は短いので、ルールを破って当選することを法律家が防ぐことは難しい。
こうした法律家がすぐには対処できないことに対して、ぜひメディアの力でタイムラグを埋めてほしい。質的公平という意味で、ルールを破っている人を同じ候補者として取り扱うのか、ルールを破っていることをうまく伝えることはできないのかといったことも含めて考えいただきたい。

●参加者「有権者の投票に役立つ情報をどう伝えるか?」
記者1、2年目のときに先輩が「いくら選挙の取材をしても選挙が終わらないと伝えられないのは悔しい」と言っていたのをよく覚えている。私もいま組織をまとめる立場になるとどうしても、量的公平性を維持してリスクを管理するのが仕事だというマインドになっている。やはり公平性・中立性の担保を優先すると面白みのない報道になってしまうので、その中から役に立つ情報をどう伝えて、どう投票行動につなげていけばいいのか悩んでいる。

●廣田委員長代行「バラエティー・情報番組でも正しい知識の共有を」
選挙制度に対する理解や質的公平と量的公平の問題については、報道の方は先輩記者から教わる機会が多々あり十分わかっていると思うが、ほかのバラエティー・情報番組の方や制作会社の方たちにもきちんとわかってもらうのが大切だと思う。いくら報道で量的にも質的にも公平を意識した番組を作ろうとしても、ほかの番組でただ尺を合わせるだけの放送をしているようでは変わっていくことはできない。報道だけではなく放送局全体として、選挙報道に対する正しい知識をみんなで共有することが重要だ。

論点④「SNS時代の選挙報道とは・・・」

●参加者「“オールドメディア”だからこそ果たせる役割は?」
兵庫県知事選挙をめぐって元県議会議員の竹内英明氏が亡くなったことについて、NHK党の立花孝志氏がSNSで虚偽の情報を発信したが、その後すぐに県警本部長がそれを否定したというニュースを報道したことでSNSが収まった。我々はオールドメディアと言われているが、オールドメディアなりに強い情報網を持っているので、選挙期間中においても自分たちが取材して裏づけを取って放送できるものに関してはきちんと放送することが大事ではないかと思う。

●大谷委員「信頼されるメディアとして、多くの受け手に情報提供を」
今回の兵庫県知事選挙では確かにSNSが大きな影響力を持ったが、その一方でマスメディアが全く機能しなかったわけではない。やはりSNSを利用しない世代の人たちはマスメディアの情報を信用しているし、またSNSの情報に惑わされている人もファクトチェックの機能をマスメディアに求めているところがある。
インターネットの情報は真偽を確かめるのが大変だという弊害があるが、人々は信頼性を疑いつつも便利、速い、簡単というところからSNSで情報を入手している。こうした状況においてマスコミ側は、受け手に多くの情報を提供していくことが引き続き重要ではないかと思う。
またコロナ下で、少数派であっても声が大きい人が主流を形成する傾向が強くなり、その声が大きい人の言っていることが正しいかどうかの判断は後回しにされているところがある。マスメディアには、こうしたSNSでの偏ったメッセージがひとり歩きしないような中立・公平な情報を提供する役割が今後は一層求められるのではないかと思う。

●毎日放送 大八木氏「有権者ファーストの選挙報道を」
基本的にSNSやネットで情報を入手するという波にはもう抗えないと思うが、そこで得られる情報とテレビなどのマスメディアが伝えていることには乖離がある。マスメディアの側がニュースだと思っていたことがだんだんそうではなくなってきて、こういう報道なんだと提示すること自体が間違っているのかもしれない。私は選挙報道は有権者ファースト的であるのが一番大事で、時代的にもそうなりつつあるのではないかと思う。そういう意味で、先ほど松田委員がおっしゃったとおり、感情的公平性をどう取るのかが非常に重要で難しい課題になる。

●松田委員「有権者の都合で検索できる動画やテキストを」
何か知りたいことがあったとき、SNSでは自分の都合で検索をするが、それに対して放送は時間のメディアであって、ニュースの時間が決まっているので、放送局はその時間に向けてニュースを作り、放送している。このため、今はニュース番組を見る側の視点と、ニュース番組を作る側の視点が違ってきているように感じる。放送局はこれまでのように時間のメディアとしてニュース番組を定期的に出す以外に、YouTube上で動画を公開したりテキストとして残したりして、見る側が自分の都合に合わせて検索して見るような、これまでとは違う接触の仕方を念頭にニュース番組制作を考えていかなければならないように思う。特に選挙はSNSでの時間の流れ方が違っていて、候補者は午後8時以降、街頭演説や選挙カーなどでの選挙運動を禁じられているのに、YouTubeを検索すれば夜中でも候補者の動画を見ることができる。以前は選挙という枠組みも選挙報道もほぼ同じ時間の流れにあったものが、SNSが主流になることで時間の流れにズレが生じており、その対応が必要なのではないかと思う。

  • これまでの議論を通じて、委員から放送局に改めてエールが送られた。

●松尾委員「今こそ自信をもって放送の使命の体現を」
インターネットの影響力が高まっている時代だが、そのような時代だからこそ、放送メディアには大きな役割があるのだ、と自信を持ってほしい。先ほどSNS上のデマに対して放送局が県警本部長のコメントを引き出してそれを打ち消したという例が挙げられたが、そうした例を多く実現して放送の使命を体現していただきたい。

●斉藤委員「視聴者も一緒になって考えていける放送局に」
人が少なくなってできることが限られてくる一方で、放送に加えてネットにも対応するため仕事量が増えて、そこで叩かれると萎縮してしまうのは同じ人間としてよく分かる。こういうときこそ、なぜ放送局に入社して報道をやっているのか、原点に帰って考えることが支えになると思う。
選挙報道に関して言えば、各局とも開票速報でスピードを競っているが、そのために労力を使うよりも、もっと大事なテーマを伝えてほしいと思う。例えば、地球環境が危機にさらされている今、候補者がそのためにどういう政策を持っているのか知りたい。特に原発問題や環境問題などいろいろな事象が複雑に絡み合った問題については、候補者はなかなか政策を語らないので、有権者が一番知りたいときに情報が得られない。
うわべが良くて人が食いつきそうなものが興味本位で先行してしまうと肝心なものが見えなくなるので、こういうときこそ自分たちが伝えたいことを自信をもって報道していただきたい。また、この時代をどう生きて行けばいいのか、視聴者も一緒になって考えていけるような放送局であってほしいと思う。
今回の兵庫県知事選挙に関しては、例えば検証番組を作って、放送局はどうすればよかったのかもう一度考えることもありうるのではないかと思った。

●國森委員「深く多面的な報道で安心と信頼を」
ある調査によると、今回の兵庫県知事選挙で斎藤知事に投票した人の46%がSNSの影響で投票したが、稲村和美氏についてはSNSの影響が5%、新聞・テレビの影響が66%となっているのは興味深い結果だと思う。
マスメディアとSNSのどちらが真実を伝えているか、多面的な伝え方をしているか、そうしたことを視聴者がわからなくなっているのが今日的な問題だが、それはマスメディアの人たちにはチャンスでもあると思う。みなさんが県警本部長から立花孝志氏の言説を否定するコメントを引き出したのは、まさにプロの矜持だ。
マスメディアは社会の大事なインフラの一つだと思う。またマスメディアが決定的にSNSと違うのは、みなさんのプロとしての力量、相手へのリスペクト、それから倫理も含めた専門的な知の集積をもって事実を追求している点にある。みなさんには現場にいる強さと地道な取材努力があって、それをもとに確かな根拠で報道できる。その資金力や圧倒的な技術力、カメラワークも含めた技術の蓄積も併せて、深く多面的に伝えることで正確さを増している。
放送は圧倒的な取材力と調査分析力を活かして、視聴者との間で一方的ではない双方向、多方向のやりとりをすることが安心や信頼につながり、これから先もサバイブできると思う。みなさんの事実に基づいた報道により視聴者の具体的な投票行動につながり、その投票が私たちの社会を豊かに成熟させていくので、みなさんのプロの矜持をもっと世の中に伝えていただきたいと願っている。

●鈴木委員長代行「ファクトチェックや嘘を打ち消す力を発揮して」
政治的公平に関しては、私が気にするなと言ってもみなさんは気にせざるを得ないのかもしれないが、これからは量ではなく質で考えるということを少しでも意識していただけたら嬉しく思う。
選挙の投票行動にはこれまでも口コミが大きく働く面があり、だからこそSNSで動くこともあるかと思う。SNSでは偽・誤情報がどんどん拡散してしまうので、どうしてもマスメディアはスピードについていけないところはあるが、先ほど具体例として出てきた県警本部長のコメントのように、報道機関のファクトチェックの力や嘘を打ち消す力は大きい。報道機関が何も情報を発信しないと偽・誤情報だけが拡散してしまうので、放送は決まった時間にしかニュースを出さないとは思うものの、スピード感を意識することも大事になっている。これからも民主主義のために放送が果たす役割は非常に重要であり、それが放送法の目的規定に書いてあることでもあるので、みなさんの仕事はますます大変になるけれどぜひ頑張っていただきたい。

●廣田委員長代行「放送にしかできないことを追求して」
SNS時代の選挙報道と言うが、私は放送にしかできないことがあると思う。自分の知りたいことだけを知るのではなく、民主主義のために知らなければならないことを伝えたり、正確な情報を伝えたりすることは放送にしかできないことだと思うので、あまりSNSのことばかりを意識せず、放送だからこそできることを追求していただきたい。
また、自分の当選を目的とせずに立候補するといったことについては、選挙制度の悪用になっていないかなど、選挙の時期だけではなく常日頃から選挙制度をきちんと報じて、民主主義における選挙の意義が情報の中で流通できるようにしていただきたいと心から思う。

  • 最後に曽我部委員長が今回のテーマの総括とコメントを述べた。

<曽我部委員長>

●メディアだけでは解決できない課題がある
まず当然の前提ではあるが、選挙にまつわる様々な問題はメディアだけでは解決できない。選挙制度そのものの問題もあるし、選挙制度を逆手に取って物議をかもしている人たちに関しては、もしそれが選挙法令やその他の刑罰法規に触れるのであれば、適正な法執行を通じて責任をとっていただくことも公権力側の課題としてあると思う。
また先ほど國森委員から稲村陣営でSNSを見て投票した人は5%しかいないという話があったが、今のSNS上の選挙運動がある意味非常に不健全に見える背景には、既存陣営側が適切にネットを活用していない状況がある。そういう意味では、既存陣営側の見識不足という部分もあるので、制度の問題や撹乱する人たちだけの問題ではないということも忘れてはならない。

●今回の兵庫県知事選挙の非常な特殊性が弊害を生んだ
今回の兵庫県知事選挙はある意味、非常に特殊性があった。知事選挙は通常あまり有権者の関心が高くなく、有権者の間に候補者に関する知識がほとんどないことが多いが今回は違った。
また在阪局の本拠は大阪にあるので、兵庫県はどうしても取材が手薄になりがちで、兵庫県を本拠地とするサンテレビ以外の局にとってはやや扱いづらいところがあったのではないか。さらに地方選挙はローカル枠で扱うしかないため、そもそも放送尺が短いという問題がある。ただ今回は注目された知事選挙だったので、そうは言っても放送尺は取れたと思うが、その後立花孝志氏が泉大津市長選挙に出たように、あの規模の自治体では放送で取り上げることは極めて困難という中で、何かが起こったときにどう対応するか考えなければならない。
国政選挙に関しては、有権者もそれなりに知識があり、既存の枠組みもあり、メディアもより大きく扱うので、今回のような弊害が出てくる度合いは少ない。このため、メディアのみなさんが対応を考える時間はまだあると思う。

●テレビは感情のメディアから熟慮のメディアへ
松田委員から「SNSの感情に向き合う」という話があったが、私はこれを非常に感慨深くお聞きした。つまり、ネットの時代が来る前は、テレビは感情のメディアであり、お茶の間に侵入して視聴者の感情を直接揺さぶるものだった。それがテレビの魅力である一方で青少年に有害であるなどと言われていたが、今やSNSが出てくると、テレビは感情のメディアではなくて熟慮のメディアとしての役割が期待されるようになった。

●選挙報道はプロセスの重視を
選挙運動がいろいろな形で穴を突かれ、裏をかかれて、アテンションエコノミーの中に取り込まれているが、そうであるならやはり選挙運動期間中に何が起きているのか伝えなければならない。毎日放送・大八木氏から「結果からプロセスへ」という非常に示唆的なご指摘があったが、「プロセス」は選挙運動期間中に何があったのか伝えるという意味でもあると思う。

●専門家と連携したファクトチェックを
ファクトチェックに関しては、関係者の間でも限界が多々あり万能ではないと言われているが、それを克服するための試みも行われている。例えば、偽・誤情報がたくさん出てくるので、後からファクトチェックしてもなかなか追い付かないという構造的な問題に対しては「プレバンキング」という試みが行われている。プレバンキングとは、選挙の際に出てくる偽・誤情報や災害時に出てくるデマ情報など、定型的にわかっているものに対して、予め「こういうデマがありがちなので注意しましょう」と前もって呼びかけることをいう。
放送局が今後ファクトチェックに力を入れていくのであれば、ファクトチェックの団体や専門家がどういう議論をしているのか、どういう手法を取っているのか参照する必要があるし、場合によっては連携することも必要かと思う。ちなみに日本ファクトチェックセンターでは実際に放送局の人員を受け入れて、ファクトチェックをお手伝いいただいた例もある。
なおファクトチェックに関しては、番組で行うのも大事だが、偽・誤情報に影響を受ける人たちはテレビを見ていないので、ちゃんとSNSやネットにも情報を出さねばならないことは言うまでもない。

●業界として記者を守る姿勢を
記者への攻撃はグローバルな動向だ。国境なき記者団でも、記者に対する攻撃や暴力は報道の自由に対する重大な問題だという意識で活動しており、これは日本だけの問題ではない。それに対してはやはり記者を会社として守る、業界として守るという姿勢が重要で、今後はそうしたところをより強く打ち出す必要があると思う。

●メディアがどう考えているか、存在意義とは何か、青臭く発信を
最後に、これはこれまでご発言いただいた委員の方々と同感で、放送やマスメディアにできることは依然として多々あると思っているので是非ご尽力をいただきたい。
事前のアンケートに、自分たちが考える報道倫理について一般の方になかなか理解してもらえないというご指摘があった。先ほど来の記者への攻撃に対して報道界、メディア界、放送界として世間に向き合うことの重要性も併せて、メディアがどう考えているのか、メディアの存在意義が何なのかということを発信しなければならない。日本ではこういう大上段の情報発信は上から目線だと言われがちで非常に躊躇されるが、こういったことを言うのがメディアの存在意義なので、やはり青臭く言っていくことも必要なのではないかと思う。

以上