第199回–2024年10月
テレビ東京『激録・警察密着24時!!』について審議
第199回放送倫理検証委員会は、10月11日に千代田放送会館で開催された。
テレビ東京は、2023年3月28日の『激録・警察密着24時!!』の中で人気漫画・アニメを連想させる商品に関する不正競争防止法違反被疑事件に密着し放送したが、逮捕された4人のうち3人が不起訴になった事実を伝えなかった等、複数の不適切な内容があったと2024年5月に公表し謝罪した。委員会は、当該放送局に報告書と番組DVDの提出を求めて討議した結果、放送倫理違反の疑いがあり詳しく検証する必要があるとして7月の委員会で審議入りを決めた。今回の委員会では担当委員から意見書の原案が提示され議論した。
毎日放送は、2024年7月17日に放送した『ゼニガメ』の中で、出張買取業者が奈良県内の家屋の清掃や遺品整理を行った際、金庫から金の延べ板が見つかり現金で買い取る様子を紹介したが、実際は買取業者が事前に用意した物であることがわかり、事実と異なる放送があったことを公表し謝罪した。その後さらに同じ業者を取材した2023年11月と2024年5月の放送分でも、事実と異なる内容があったことが判明し、毎日放送は9月4日に「一部事実と異なる内容があった」とする調査結果を発表し謝罪しているが、制作スタッフ側の関与は認められなかったとしている。委員会は議論の結果、放送倫理上の問題がなかったかを検証する必要があるとして9月の委員会で審議入りを決めた。今回の委員会では関係者に対するヒアリングの予定などが報告された。
TBSテレビが2024年6月19日に放送した『東大王』の特別番組「東大王VS難関中学 関東名門校SP」の中で、「野々村親子と学ぶ 業界No.1!味の素SP」というクイズコーナーが約30分間にわたってあり、視聴者からBPOへ「番組か広告か分かりづらい」という意見が寄せられた。当該放送局から提出された報告書を基に討議したが、審議入りはせず議事概要に意見を掲載することで終了した。
NHKのラジオ国際放送問題について議論した。
9月にBPOに寄せられた視聴者・聴取者意見などが報告された。
北東北地区(青森、秋田、岩手)で開催する意見交換会の実施要項と事前アンケートの集計などが報告された。
1. テレビ東京『激録・警察密着24時!!』について審議
テレビ東京は、2023年3月28日に放送した『激録・警察密着24時!!』の中で、人気漫画・アニメ「鬼滅の刃」を連想させる商品をめぐる愛知県警の不正競争防止法違反容疑の強制捜査を取り上げ、逮捕された4人のうち3人が不起訴になったことを伝えず、また事後撮影した映像を密着取材したかのように編集して放送した。委員会は7月に審議入りし、関係者からのヒアリングを済ませており、今回は担当委員が作成した意見書の原案をもとに審議した。各委員から様々な意見が出され、議論が交わされたことをうけて第2稿を作成し、次回の委員会で継続審議することを確認した。
なお、この番組はBPO放送人権委員会でも審理されている。
2. 毎日放送『ゼニガメ』について審議
毎日放送は、2024年7月17日に放送したローカルバラエティー番組『ゼニガメ』で、出張買取業者に密着取材する企画を放送した。奈良県内の家屋の清掃や遺品整理を行った際、金庫から金の延べ板が見つかり業者が現金で買い取る様子を紹介したが、実際は業者が事前に用意した物であることが明らかになり、事実と異なる放送があったことを翌7月18日に公表し謝罪した。さらに、2023年11月と2024年5月の放送分でも同じ業者が土地や建物を遺族とおぼしき人物から現金で買い取る様子を放送していたが、実際はロケ以前に業者が買い取っていたこと、遺族として登場した人物も買取業者が事前に依頼していたことなどが判明した。毎日放送は9月4日に「一部事実と異なる内容があった」とする調査結果を発表し謝罪しているが、制作スタッフ側の関与は認められなかったとしている。委員会は9月に審議入りし、当該放送局から提出された資料に基づき担当委員が議論を重ねた結果、ヒアリングの方向性がほぼ固まってきたことなどが報告された。関係者に対するヒアリングを10月中に行い、次回の委員会までに意見書の骨子案を作成することになった。
3. TBSテレビ『東大王』について討議
TBSテレビは2024年6月19日(水)19時から3時間にわたる『東大王』の特番「東大王VS難関中学 関東名門校SP」を制作。番組は3部構成で、中学受験で出題された問題を東大王チームが解くコーナー、動物園にいる動物を表す難読漢字をクイズにした番組名物の「難問オセロ!」コーナーと続き、最後に「野々村親子と学ぶ業界No.1!味の素SP」と題したクイズコーナーが放送された。
クイズは冷凍ギョーザや中華合わせ調味料など味の素の6商品を紹介して出題する形式で、正解の解説には味の素の社員が登場。画面左上には「東大王×No.1づくし!味の素」のテロップを表示し、味の素を冷凍食品界の王者と紹介。No.1商品と称する冷凍食品について3題を出題した後、何れも売り上げNo.1と銘打った中華合わせ調味料、和風だし、洋風インスタントスープに関するクイズを出題。クイズに優勝したチームには味の素商品の詰め合わせセットが贈られた。このコーナーの放送尺は約30分間だった。
放送後、BPOに視聴者から「クイズコーナーで味の素の商品に関する問題や解説を長時間にわたって取り上げていた。番組か広告か分かりづらい点、ステマなのかどうか分からない点において番組に疑問を持った」という声が寄せられた。これを受けて委員会は、TBSテレビに対して報告書を求め、10月4日に当該放送局から報告書が提出された。
報告書によると、当該コーナーは商品誕生の試行錯誤が学べる新企画として制作現場が立案したコーナーで、第1弾の明治に続く2回目の放送だった。制作にあたって味の素から対価は受け取っておらず、企画中に検討された企業PRにつながるような内容は全て取り上げず、番組側がクイズにしたいと考えた要素だけで自主的に構成された番組であるとしている。
一方で、放送中26分間にわたり画面左上に「東大王×No.1づくし!味の素」のテロップが出続けた点や、商品を賞賛するばかりの放送内容を「番組かCMか分かりづらい」と受け止めた視聴者がいた点については、結果的に反省すべき事だとしている。
当該コーナーは、放送後TBSテレビの考査局から「慎重さが求められる事案」との指摘を受けたが、放送前の段階で番組プロデューサー陣は問題があるとは思わず考査部門には相談していない。TBSテレビは、制作現場の番組と広告放送の識別の甘さを改めるべく、今後勉強会の開催やヒヤリハット事例集をまとめるなどして周知・徹底を図りたいとしている。
委員会は、本事案について10月11日に討議入りを決定。民放連の「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に照合すると共に、番組か広告放送かの問題で放送倫理違反に問われた過去の委員会決定の事案と本事案とを比較して問題点を整理した。その結果、以下のような厳しい指摘が相次いだ。
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視聴者に身近な商品を取り上げれば視聴率につながると、制作現場が警戒心も後ろめたさもなく当たり前に考えていることに本事案の問題の根深さを感じる。
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1社提供で番組本編も提供社のことを取り上げているケースは、放送倫理違反であるにしても、視聴者は番組本編も広告だろうという意識で見るので実は影響はそんなに大きくない。むしろ、提供社でもない企業の事を殊更に取り上げる方が、その企業の担当者と何か裏取引があるのではないかという不信感が視聴者に募る。本事案はまさにそういう構成だ。
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テレビショッピングかと思う程、芸能人らが褒めて美味しい美味しいと繰り返しており、視聴者からは番組か広告か分かりづらくステマかもしれないという意見が届いた。番組で取り上げた企業から対価はもらっておらず、自主的に構成した番組なので問題があるとは思わずそのまま放送したというテレビ局の対応を是認してしまっていいのか。
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民放連の「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」は、取り上げた企業から対価をもらっていなくても、番組制作や考査にあたっては、視聴者に広告放送であるとの誤解を招く内容・演出になっていないか常に留意する必要があるとしている。だからこそ、これまでの委員会決定で指摘したとおり番組考査が大事なのだが、TBSテレビの報告書を読む限り、制作現場は考査の必要性を全く意識せずに放送に至っており問題だ。
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番組か広告放送かの問題を巡って、地方局で放送倫理違反を問われるケースが相次いで以降、全国の地方局は番組と広告の境目を常に意識し苦労している。キー局がその点を全く意識せずに番組を制作しているというのが信じられない。これまで委員会決定を通じてBPOが訴えてきたことがまるで伝わっていない。これまでの委員会決定及び委員長談話の対象は全て地方局の事案であり、放送局間で公平な取扱いをしているのかも気になるところだ。
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「味の素」という企業名を書いたテロップが出続けていたり、商品を売上げNo.1と強調し味の素の商品を激賞したりしており、視聴者が広告ではないかと感じるのも致し方ないところがある。
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番組か広告放送かの問題で審議入りをして放送倫理違反を問われたある放送局の番組は「おいしさの追求」と銘打って企業の肯定的な側面の紹介に終始していた。本事案も番組コーナーのコンセプトはほぼ同じなので同様に審議入りすべきだ。
こうした厳しい意見が相次いだ一方で、本事案は、番組全編を通して一企業を取り上げているわけではない点や、番組のフォーマットであるクイズ形式に取り上げた企業の商品情報を落とし込んでいる点において、審議入りの判断をするまでには至らないという意見が出た。番組全体ではなく番組の一部で企業の商品やサービスを取り上げたケースにおいても審議入りの対象としてしまうと、キー局はもとより地方局も今後の対応に苦慮するのではないかといった意見も出た。
また、TBSテレビが報告書で、制作現場の番組と広告放送の識別の甘さを改めるべく、今後勉強会の開催やヒヤリハット事例集をまとめるなどして周知・徹底を図りたいとしていることから、本事案は、今後のTBSテレビの自主的な対応に任せるということで討議を終了し、審議入りは見送った。
4. NHKのラジオ国際放送問題について議論
NHKは、2024年8月19日にラジオ国際放送などの中国語ニュースで中国籍の外部スタッフが、沖縄県の尖閣諸島の帰属などをめぐって、原稿にはない発言を行った。NHKは9月10日に「ラジオ国際放送問題への対応について」という文書を公表した。また、委員が作成したメモとNHKが公表した文書を資料としてこの問題について議論したが、委員会としてはこれについて取り上げるという判断には至らなかった。
5. 9月の視聴者・聴取者意見を報告
9月に寄せられた視聴者・聴取者意見のうち、タレントが80キロ超のチャリティマラソンに挑む番組企画について、台風が接近し影響が懸念されていたにもかかわらずマラソンを中止しなかったことについての批判や、そもそも一人のタレントに80キロ超のマラソンを課す番組企画は無謀だといった声が寄せられた。この他、女性芸人が護身術を学んだ後に痴漢にあった場合どんな反応を見せるかという番組コーナーについて、性犯罪を思い起こさせるような演出は悪ふざけの度が過ぎるといった意見が寄せられたことなどが事務局から報告され、議論した。
6. 北東北地区意見交換会の開催について
放送倫理検証委員会は、2024年10月30日に青森、秋田、岩手の東北3県の放送局を対象に盛岡市で意見交換会を実施する。事務局から当日の実施要項や事前アンケートの集計結果を説明した。
以上