第209回放送と人権等権利に関する委員会

第209回 – 2014年5月

宗教団体会員事案の対応報告
児童養護施設関連ドラマ…など

宗教団体会員事案でテレビ東京から提出された対応報告を検討した。児童養護施設関連ドラマに対する申立書を審理要請案件として改めて検討し、審理対象外と判断した。顔なしインタビュー等について「委員長談話」を公表することを決め、文面をほぼ確定した。

議事の詳細

日時
2014年5月20日(火)午後4時~7時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

三宅委員長、奥委員長代行、坂井委員長代行、市川委員、大石委員、
小山委員、曽我部委員、田中委員、林委員

1.「宗教団体会員からの申立て」事案の対応報告

2014年1月21日に通知・公表された「委員会決定 第52号」に対し、テレビ東京から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月18日付で提出され、この日の委員会で検討された。
委員会では、「題材に高い公共性・公益性があるとしても、放送内容によっては放送倫理上問題ありとされることを認識してほしい」との意見なども述べられた。
(テレビ東京の「委員会決定に対する対応と取り組み」はこちらから

2.審理要請案件:児童養護施設関連ドラマ

児童養護施設を舞台にしたドラマに対する申立書について、審理要請案件として改めて検討し、委員会運営規則第5条の苦情の取り扱い基準に照らして、審理対象外と判断した。
申立ての対象とされた放送は、A社の連続ドラマ第1話で、申立てはある病院の院長によるもの。番組中の児童養護施設入所中の子どもに対するあだ名の設定や同施設長が子どもたちをペットショップの犬と同等とみなすような発言等が、児童養護施設入所中の子ども、里子ないし同施設職員の名誉を傷つけるとの理由から、本番組の内容変更及びドラマ制作の経過についての説明を求めたもの。
当委員会は、本件申立ての審理入りの可否について慎重に検討したが、次のとおり、本件申立ては、運営規則第5条の苦情の取り扱い基準の各要件に該当しないものとして、審理対象外とすることとした。

  • (1)まず、運営規則第5条1.(1)は、「名誉、信用・プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とする。」と規定している。
    この点について、本件申立ては、本番組の問題部分が、児童養護施設入所中の子ども、里子ないし同施設職員の名誉を侵害すると述べているが、個別具体的な子ども、里子ないし施設職員個人の特定がなされていないために、当該特定の対象者についての個別具体的な名誉侵害の有無を判断することができない。

  • (2)また、運営規則第5条1.(2)は、「公平・公正を欠いた放送により著しい不利益を被った者からの書面による申立てがあった場合は、委員会の判断で取り扱うことができる。」と規定している。
    この点に関して、本件申立ては、本番組の問題部分によって、児童養護施設の子どもが学校等で非人格的なあだ名等で呼称され、からかわれることを心配するとしており、本番組の問題部分に公平・公正を欠くために、これらの子どもが著しい不利益を被る旨、述べているものとも捉えられる。
    しかしながら、上記と同様、本件申立てにおいては、個別具体的な子どもが特定できず、著しい不利益の内容も明らかでないため、当委員会がその裁量で取り扱うべき事案であるか否かを判断することができない。

  • (3)さらに、運営規則第5条1.(6)は、「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人またはその直接の利害関係人を原則とする。」と規定している。
    この点に関して、申立人は、申立人が理事長・院長を務める病院の名誉その他の権利侵害等を、本件申立てによって主張するものではなく、児童養護施設入所中の子ども等の名誉等を問題とするものであるとの見解を明らかにしている。
    しかしながら、児童養護施設入所中の子ども等の特定がなされていないこととも相まって、当委員会は、当事者と第三者である申立人との直接の利害関係を認定することはできなかった。

以上のとおり、当委員会は、本件申立てについて、運営規則第5条の苦情の取り扱い基準の各要件に該当しないものとして本件申立てを審理対象外とした。

【委員会コメント】

放送倫理・番組向上機構[BPO]規約第4条2.は、「放送倫理検証委員会、放送と人権等権利に関する委員会および放送と青少年に関する委員会において、同一の放送番組を取り扱う場合、互いに連携して、必要な措置を講ずる」と規定している。この規定をふまえて、当委員会としても、これまで検討を重ねてきたので、下記のとおりコメントする。

現代社会の事象に対して問題提起する番組を制作することは、放送の自由の行使として、極めて意義のあることです。その一方で、青少年委員会委員長コメント("子どもが主人公のドラマ"に関する「委員長コメント」 2014年4月8日付)が指摘するとおり、そのような「番組内容の場合、その引き起こす社会的波紋に対する事前の配慮は、通常にも増して行う必要があったのではないか」という点において、今後さらに検証されるべきものであると考えます。
この点については、当該局自身「貴協議会から事前に児童養護施設を取り巻く環境などの実情を詳細に伺い、表現上留意すべき点などをより慎重に確認しておく必要があったと認識しております」(全国児童養護施設協議会に対する回答書 2014年2月4日付)と述べ、ドラマ制作の準備段階に問題があったことを認めています。
当委員会は、上記のような事項は単に当該局だけでなく、すべての放送局において共有され、今後十分に配慮されるべき点であると考えます。
当委員会は、苦情の取り扱いにおいて名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とし、公平・公正を欠いた放送により著しい不利益を被った者からの書面による申立てをも取り扱うことができるものではありますが、フィクションであるドラマの場合に、これらの取り扱い基準に該当することは、一般には容易なことではありません。しかし、社会的意義あるドラマが引き起こす波紋に対する事前の配慮は、人権侵害や放送倫理上の問題を生じさせないためにも必要であると考えるので、以上のとおりコメントするものです。

3.顔なしインタビュー・モザイク等の在り方について

報道・情報番組における顔なしインタビューやモザイク処理の在り方について、年初来続けてきた議論をふまえた「委員長談話」の修正案が提出され、各委員が意見を述べた。その結果、文面をほぼ確定して委員長一任を取り付け、「顔なしインタビュー等についての要望~最近の委員会決定をふまえての委員長談話~」を近日中に公表することになった。

「顏なしインタビュー等についての要望~最近の委員会決定をふまえての委員長談話~」
2014年6月9日 公表

4.その他

  • 2014年度の意見交換会の日程について、調整の結果、県単位の意見交換会を9月4日に札幌で、地区別意見交換会(中部地区)を10月7日に名古屋で開催することになった。

  • 年度中に刊行予定の『判断ガイド2014』について、事務局から構成案が示され、各委員が意見を述べた。

  • 次回委員会は6月17日に開かれる。

以上

第82回 放送倫理検証委員会

第82回–2014年5月

"全聾の作曲家"と紹介されていた佐村河内守氏の作品が別人のものと発覚した問題について討議…など

第82回放送倫理検証委員会は5月9日に開催された。
委員会が2月に通知・公表した、鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見に対して、当該局から提出された対応報告書を了承し、公表することにした。
"全聾の作曲家"と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について、各局から新たに提出された6本の番組の報告書を中心に討議を継続した。その結果、委員会として何らかの形で考えを示すためには、更なる検討や調査が必要であるとして、討議を継続することになった。

議事の詳細

日時
2014年5月9日(金)午後5時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

川端委員長、小町谷委員長代行、是枝委員長代行、香山委員、斎藤委員、渋谷委員、藤田委員、升味委員、森委員

1.鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見への対応報告書を了承

2月10日に委員会が通知・公表した、鹿児島テレビ「他局取材音声の無断使用」に関する意見(委員会決定第18号)に対する対応報告書が、5月初旬、当該局から委員会に提出された。
報告書には、再発防止に向けて「ディレクターとカメラマンがそれぞれの上司に異なる様式の"取材後報告書"を提出し、双方の上司が報告書を相互確認していること」「社員や社外スタッフへの教育・研修を継続的に実施する"放送人育成プロジェクト"がスタートし、多様な内容の研修会などを毎月開催していること」「再発防止策の中核を担う"番組推進室"を、3月1日付の組織改編で設置したこと」などの具体的な取り組みが盛り込まれている。
委員会は、この対応報告書を了承し、公表することにした。

2.「全聾の作曲家」と多くの番組で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として発表していたことが発覚した問題について討議

全聾でありながら『交響曲第1番HIROSHIMA』などを作曲したとして、多くのドキュメンタリー番組等で紹介されていた佐村河内守氏が、実は別人に作曲を依頼して自己の作品として公表していたことが発覚した問題について、取材・制作過程で真相を見抜けないまま放送したことや、発覚後の対応などに問題が無かったか、どうすれば再び同じ過ちを犯さないようにできるのかなどについて、討議を継続した。各局からは、新たに6本の番組についての詳細な報告書が提出され、あわせて7本の番組を対象にして、前回までの議論を踏まえた意見交換が行われた。
その結果、自伝に安易に依存した一連の放送が佐村河内氏の創り上げた「物語」を相互に補強し増幅させてしまったこと、佐村河内氏が「全聾の天才作曲家」であるという虚像がますます動かしがたい「真実」として通用するようになり、それを信じて放送に協力した人々、特に身体障害を持った子供や被災して母を失った子供の心に傷を残す結果になったことについて、委員会として何らかの形で考えを示すべきである、という基本方針を改めて確認した。
委員会は、そのためには更なる検討や調査が必要であるとして、各委員が佐村河内氏の自伝に目をとおし、取材の進め方や番組構成とのかかわりについても検討を加えたうえで、次の委員会で討議を続けることになった。

[委員の主な意見]

  • ほとんどの放送局の報告が「だまされてしまい申し訳なかった」で終わっているのが、とても気になる。放送のプロとしてそれでいいのか。不審な点を感じて、検証してみるような機会はなかったのだろうか。視聴者への説明も、ほとんどの局ではきちんと行われていないように感じられる。

  • それぞれの番組の演出や編集内容に類似部分が多かったのは、各局とも佐村河内氏の自伝に依存して制作していたからではないのか。独自取材は、どの程度行われていたのだろうか。

  • なぜこうした事態になってしまったのかと考えたとき、各局の報告書をきちんと分析して、各局を横断する問題点を指摘し、放送局が再び「共犯者」にならないような前向きな提言をすることが、この委員会の役割なのではないだろうか。

以上

2014年5月20日

「児童養護施設関連ドラマへの申立て」審理対象外と判断

放送人権委員会は5月20日の第209回委員会で、上記申立てについて、委員会運営規則第5条の苦情の取り扱い基準に照らして、審理対象外と判断した。

申立ての対象とされた放送は、A社の連続ドラマ第1話で、申立てはある病院の院長によるもの。番組中の児童養護施設入所中の子どもに対するあだ名の設定や同施設長が子どもたちをペットショップの犬と同等とみなすような発言等が、児童養護施設入所中の子ども、里子ないし同施設職員の名誉を傷つけるとの理由から、本番組の内容変更及びドラマ制作の経過についての説明を求めたもの。
当委員会は、本件申立ての審理入りの可否について慎重に検討したが、次のとおり、本件申立ては、運営規則第5条の苦情の取り扱い基準の各要件に該当しないものとして、審理対象外とすることとした。

  • (1)まず、運営規則第5条1.(1)は、「名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とする。」と規定している。
    この点について、本件申立ては、本番組の問題部分が、児童養護施設入所中の子ども、里子ないし同施設職員の名誉を侵害すると述べているが、個別具体的な子ども、里子ないし施設職員個人の特定がなされていないために、当該特定の対象者についての個別具体的な名誉侵害の有無を判断することができない。

  • (2)また、運営規則第5条1.(2)は、「公平・公正を欠いた放送により著しい不利益を被った者からの書面による申立てがあった場合は、委員会の判断で取り扱うことができる。」と規定している。
    この点に関して、本件申立ては、本番組の問題部分によって、児童養護施設の子どもが学校等で非人格的なあだ名等で呼称され、からかわれることを心配するとしており、本番組の問題部分に公平・公正を欠くために、これらの子どもが著しい不利益を被る旨、述べているものとも捉えられる。
    しかしながら、上記と同様、本件申立てにおいては、個別具体的な子どもが特定できず、著しい不利益の内容も明らかでないため、当委員会がその裁量で取り扱うべき事案であるか否かを判断することができない。

  • (3)さらに、運営規則第5条1.(6)は、「苦情を申し立てることができる者は、その放送により権利の侵害を受けた個人またはその直接の利害関係人を原則とする。」と規定している。
    この点に関して、申立人は、申立人が理事長・院長を務める病院の名誉その他の権利侵害等を、本件申立てによって主張するものではなく、児童養護施設入所中の子ども等の名誉等を問題とするものであるとの見解を明らかにしている。
    しかしながら、児童養護施設入所中の子ども等の特定がなされていないこととも相まって、当委員会は、当事者と第三者である申立人との直接の利害関係を認定することはできなかった。

以上のとおり、当委員会は、本件申立てについて、運営規則第5条の苦情の取り扱い基準の各要件に該当しないものとして本件申立てを審理対象外とした。

【委員会コメント】

放送倫理・番組向上機構[BPO]規約第4条2.は、「放送倫理検証委員会、放送と人権等権利に関する委員会および放送と青少年に関する委員会において、同一の放送番組を取り扱う場合、互いに連携して、必要な措置を講ずる」と規定している。この規定をふまえて、当委員会としても、これまで検討を重ねてきたので、下記のとおりコメントする。

現代社会の事象に対して問題提起する番組を制作することは、放送の自由の行使として、極めて意義のあることです。その一方で、青少年委員会委員長コメント("子どもが主人公のドラマ"に関する「委員長コメント」 2014年4月8日付)が指摘するとおり、そのような「番組内容の場合、その引き起こす社会的波紋に対する事前の配慮は、通常にも増して行う必要があったのではないか」という点において、今後さらに検証されるべきものであると考えます。
この点については、当該局自身「貴協議会から事前に児童養護施設を取り巻く環境などの実情を詳細に伺い、表現上留意すべき点などをより慎重に確認しておく必要があったと認識しております」(全国児童養護施設協議会に対する回答書 2014年2月4日付)と述べ、ドラマ制作の準備段階に問題があったことを認めています。
当委員会は、上記のような事項は単に当該局だけでなく、すべての放送局において共有され、今後十分に配慮されるべき点であると考えます。
当委員会は、苦情の取り扱いにおいて名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利侵害、およびこれらに係る放送倫理違反に関するものを原則とし、公平・公正を欠いた放送により著しい不利益を被った者からの書面による申立てをも取り扱うことができるものではありますが、フィクションであるドラマの場合に、これらの取り扱い基準に該当することは、一般には容易なことではありません。しかし、社会的意義あるドラマが引き起こす波紋に対する事前の配慮は、人権侵害や放送倫理上の問題を生じさせないためにも必要であると考えるので、以上のとおりコメントするものです。

放送人権委員会の審理入りとは?

「放送によって人権を侵害された」などと申し立てられた苦情が、審理要件(*)を充たしていると判断したとき「審理入り」します。
ただし、「審理入り」したことがただちに、申立ての対象となった番組内容に問題があると委員会が判断したことを意味するものではありません。

* 委員会審理に必要な要件については、同委員会「運営規則 第5条」をご覧ください。

2013年11月20日

松江で島根・鳥取県内の各局との意見交換会を開催

島根・鳥取県内の各局と放送倫理検証委員会の委員との意見交換会が、11月20日に松江市内のホテルで開かれた。5回目の開催となる今回は、山陰中央テレビ、山陰放送、日本海テレビ、NHK松江放送局の4局を中心に、ラジオ1局を含む7局から57人が参加した。また委員会側からは川端委員長、渋谷委員、升味委員の3名が出席した。

意見交換会の前半は、まず直近の事案である関西テレビの「『スーパーニュースアンカー』インタビュー偽装」について、意見書のポイントを担当委員の升味委員が説明、「モザイクの向こうでは本人が話している、という視聴者の信頼を裏切ることになった。映像の偽装が分かった段階で、視聴者に伝え訂正すべきだった。報道の自由、取材の自由を支えているのは、カメラやマイクの後ろにいる市民(視聴者)であることを忘れないでほしい」と問題点を指摘した。また、川端委員長からも「この事案は、不適切な映像にとどまらない、視聴者を欺く許されない映像だと判断した」との補足があった。
これに対し、参加者からは「一本筋の通ったものを放送したいと考えていれば、後味の悪い取材のときは違和感が残る。その違和感を感じなかったことが問題だと思う」「ネットにすぐ上がってしまうということもあり、取材源の秘匿が必要なケースもある」「放送局側が自己防衛のため過剰にモザイクを多用している面もあるのでは」といった意見が出された。
モザイクや顔なし映像の多用に対し、川端委員長からは「顔なしの場合は、すでに実例も出ているように偽物が紛れ込んでもわからない。メディアとして、そのような風潮に抵抗してほしい」との発言があり、升味委員は「普通の人が取材されるときも、ボカシや顔が映らないことを条件にする傾向が一般化していることを危惧している」と指摘した。渋谷委員も「放送が匿名化しているネットに引きつけられているのではないか。匿名はできるだけやめたほうが報道の価値が高まる」と述べた。
続いて、今年も2番組が審議入りした参院選関連の事案として、2010年の「参議院議員選挙にかかわる4番組」が取り上げられ、渋谷委員から事案の概要の説明と「参院選の比例代表選挙の仕組みが理解されていなかったため、選挙の公平・公正が害されることになった」との問題点の指摘があった。また、参加者からの「参院選で同じような事例が続くことをどう考えるか」との質問に、川端委員長は「新聞などと違い放送は電波という公共財を使っている以上、一定の公共性が要求される。参院選の前の今年4月にも、民放のバラエティー番組について委員長コメントを出し注意を喚起したが、選挙制度をきちんと理解しない限り、同じような問題を起こすことになるのではないか」と指摘した。
さらに、各局からリクエストの多かったローカル局の問題事例が、事務局から紹介された。ニュース情報番組で、コメンテーターがある金融機関が破たんしかねないと誤報のコメントをして騒ぎになった事例、午前の情報番組で、フリーマガジンの読者として編集部の関係者を登場させた仕込みの事例などで、「ローカル局のミスは、生番組のコメントと、インタビュー取材の2点に集約される」(事務局)との説明があった。
参加者から「このような事例を聞くと、放送業界の人材育成に何か問題があるのではとも思えるが」との質問に対し、川端委員長は「制作現場を支えている制作会社社員に対する十分な研修などがなされていないこと、また、以前は制作会社にも社員を育てていく余裕があり、社員もキャリア・アップの希望が持てたが、現在はそのようなモチベーションが持ちにくいというのが非常に大きな問題と思う。また、放送局側の社員間でもベテランと新人の間に壁があり、本来は毎日現場でできるはずの教育も、実は上手くいっていないケースもあるようだ」と指摘した。
BPOや放送倫理検証委員会に対する質問のコーナーでは、「BPOが怖いという思いから、バラエティーの表現の幅が狭まっている風潮があるのでは」という質問に対し、川端委員長から「『最近のテレビ・バラエティー番組に関する意見』にもバラエティーは何でもありと書いたが、これで面白い番組が作れると確信するなら自信をもってやってほしい。世間の人がいろいろ言っても、こんな面白い番組を放送するなというほうがおかしい、という意見書を書いてもいいと思っている」というエールが送られた。
最後に、川端委員長から「サリンジャーに『ライ麦畑でつかまえて(The Catcher in the Rye)』という小説があるが、だだっぴろいライ麦畑で夢中になって遊んでいる子供たちが、よく前を見ないで走って崖から落ちそうになるのを捕まえて、けがをしないように適切なアドバイスをするのが我々の役割と考えている。皆さんの側でも自主的・自律的に放送内容を改善して、視聴者にテレビって素晴らしいねと思われるような放送を是非、実現していただきたい」とのメッセージがあり、意見交換会は終了した。

今回の意見交換会終了後、参加者からは、以下のような感想が寄せられた。

  • 交換会では、審議入りした内容について、現場のヒアリングなど、その経緯の報告に細やかな配慮も感じました。問題は問題だが、その背景を探り、問題点を明らかにしていく姿勢の中に、現場を委縮させたくないという思いも垣間見え、非常に暖かくヒューマンなものを感じた次第です。弊社の現場の若い社員たちにもっと参加してほしかったと残念な思いもありますが、まずは、コツコツとBPOの報告書などを現場の皆さんに共有してもらい、「気づき」のレベルを上げていく努力をしていかなければ…と気持ちを新たにさせていただきました。

  • 問題の発生を恐れてモザイク、ボイスチェンジを安易に使う傾向があることについて「危惧している。匿名、顔を隠さなければインタビューを放送できないのであれば、放送しないくらいの気持ちでやってほしい。現場で了解を取る最大限の努力をしてほしい」との委員の発言は、改めて取材の姿勢について考えさせられるもので印象的だった。

  • 実際に何か起きてしまったときのことをよく振り返ってみると、どこかに、「そういえば何か変だな~とちょっと思ってた」等、誰かに何らかの気づきがあったかも、いやあったと思います。これを、遠慮せず口に出すことが、不体裁や事故を防ぎ、倫理や人権に配慮した番組につながると思いました。

  • 質問タイムでは、放送局側の質問に対しBPO側が答えて終わるという、一方通行なやり取りが多かったことが気になりました。松江市での開催は今回が初めてというとても貴重な意見交換の場でしたので、ひとつの質問から議論が広まるような雰囲気づくりができていればと感じました。

  • 委員の皆さんが、想像以上に我々報道側の立場もきちんと理解しようと努力され、その中で視聴者側との折り合いをつけていこうという真摯な気持ちを持たれているという印象を受けました。今回の意見交換会では、いつも厳しい目を向けられがちな我々マスコミに対し意見や考えも聞いて下さり、うれしさと驚きを感じました。

  • 個人的には「何と言われようとBPOが守ってやる、と思えるような面白い番組を作ってほしい」という川端委員長の言葉に意を強くしたところです。

以上

2013年12月4日

福島県内の各局との意見交換会を開催

福島県内の各局と放送倫理検証委員会との意見交換会「福島を伝え続けるために――放送倫理を軸に」が、2013年12月4日、福島市内で開催された。参加者は、放送局側からは、福島テレビ、福島中央テレビ、福島放送、テレビユー福島、ラジオ福島、エフエム福島、NHK福島放送局の全7局から21人、委員会からは、水島久光委員長代行、小出五郎委員、森まゆみ委員の3人である。第1部で、水島委員長代行が放送倫理検証委員会の基本的な考え方について説明し、第2部では、福島の放送局が抱えている具体的な問題について、意見を交換した。

◆第1部 委員会の議論から福島の報道を考える◆

第1部では、まず水島委員長代行が、意見交換で基調となる放送倫理検証委員会の基本的な考え方について、これまでの4つの委員会決定に基づいて説明した。この中で水島委員長代行は、これらの意見書から読み解くべきポイントとして次の2点を挙げた。
1つは、放送の使命を実現していくために、それを脅かすように作用する政治的な力や経済的利害、ルーティンにはまってしまっている自分たち自身などに対して、我々は常にケアしなくてはいけないという点である。もう1点は、具体的なリスクがどこに潜んでいて、どういうところでそれを踏み越えてしまうのかという点を、ポイントとして読み解くべきであると述べた。
そして、これまでの検証委員会での議論を振り返って改めて感じたこととして、「信頼」は放送倫理基本綱領の中でも特に注目したい言葉で、それは日々の活動の中で作られるものであり、目標・目的であると同時に、次なる番組作りの前提となるものだと述べた。
水島委員長代行の話はこちらpdf

 この後の質疑応答では、「光市のようなケース(委員会決定第4号)であっても、どこかに冷静で客観的な視点があれば、バランスは保てるのではないか」「ブラックノート(委員会決定第8号)のように社会的使命と取材手法とがせめぎ合うような場合、局としては社会的使命に照らしてこれ以外に方法はないと思ってやったとしても、必ずしもそれは支持されるとは限らないので躊躇してしまう」などの意見や感想が出され、水島委員長代行は、すべての事案はケース・バイ・ケースで、個別具体的、かつ自律的に判断するべきであるという委員会の考え方を、あらためて示した。

◆第2部 「分断」「温度差」「風化」を乗り越えるために◆

第2部では、事前の聞き取りやアンケートの結果から設定したテーマに基づいて、各局が簡単な報告をしたあと、委員と意見を交換した。

1.放射線の健康被害に関する考え方の違いによる「分断」

  • まず、現在、福島県民の間で生じているさまざまな「分断」のうち、放射線の健康被害に対する考え方の違いから生まれる「分断」について、放射線情報をどう伝えるか、その「分断」をどう乗り越えるかについて、各局から以下のような報告があった。

  • 問題提起のきっかけとして2013年2月に県内の5,000世帯に対して郵送で行ったアンケート結果を紹介すると、放射線について不安を感じている人は8割、人間関係や発言の内容に気を使うようになった人は7割、憂鬱な気分が続くようになった家族がいる人は5割、7割近くの人は家族の誰も避難しなかったけれども、そのうちの4割近くは避難したくてもできなかった、などである。放射線の問題については、被害の拡大を防止したいし、何か出来ることはあるはずだと日々思っているが、中立であったり両論併記の報道をしていると、非常にもどかしく感じることがたびたびある。納得いく判断が出来るような情報を視聴者にきちんと伝えていくことを最低限のスタンスにしたいと思い、毎日、悩みながら報道に当たっている。(テレビユー福島)

  • 原発事故から1000日目を迎えても、放射線の健康への影響については、我々もグレーとしか答えようがない。いろいろな情報を示して視聴者の方に判断してもらうしかないと思っているが、日々こうした情報に向き合っている我々でもこんなに難しいことを、一般の人に判断できるのか、という思いがある。健康被害に関する情報については、いつも判断のたびに揺れていて、やはりデータを蓄積するしかないと思っているが、一方で健康調査を受けたくない人もいて当然とも思うので、全員受けるように呼び掛けるべきかどうか考える。食品に含まれる放射性物質の情報にしても、国の基準は下回っているが10とか20ベクレル程度の場合など、どのように伝えるか、日々、葛藤の中で伝えている。(福島中央テレビ)

  • 福島県に暮らす私たちには、たとえば先ほどのアンケートの話にもあったが、避難したか/しなかったかの、ゼロか1かで割り切れないような思いがある。そうした人の内面を少しずつていねいに拾い、放送することで、立場が違う人たちが少しでもお互いに理解できるようなことにつながり、「分断」の溝を少しでも埋められれば、というのが今一番思っているところだ。放射線に関する情報については、これから廃炉になるまで数十年、専門的な知識を、この実地の取材の中で積み重ねていくということが私達に求められていることなのだと思う。そして、ある程度道しるべを示せるようになることが信頼につながってくるのかなと思っている。(福島テレビ)

各局からの報告を受けて、小出委員が以下のように意見を述べた。

小出委員:放射線の影響について、白黒はっきりした情報を伝えたいけれどもなかなかそう断言できないところがあって非常に迷いがあるというお話だったが、私も全く同感だ。このような場合、どのように話せば分かってもらえるかということだが、ポイントの1つは「分からないところはどこか」ということだ。「このことについては分かっているが、このことは分かっていない。この問題はそういう状況にある」ということをまず分かってもらわないと、そこから話が進まない。その上で、分かっていない理由は何か、さらに、いつになるとそれは分かってくるのか、ということも必要だ。2つ目は、不確実な問題というものには、科学的な側面と社会的な側面の両方あるので、そういう問題の構造に乗ってものを伝えると、分かってもらえるのではないかという気がしている。そしてもう1つ大事なことは、代替案だ。代替案を複数提示して話をすることが必要だろう。
こうした「何とも言い切れない話」ではいろいろな情報が発信されるが、キーポイントとなるのは、それが公正で透明なプロセスから出てきた情報かどうかということだ。放送局は情報のプロセスをチェックし、公正で透明性のあるプロセスから出てきた情報は、きちんと伝えていくべきではないかと思う。もう1つのチェックポイントとしては、迅速に出てきた情報か、ということがある。いろいろ考慮された結果出てきた情報というのは、あまり信用出来ない。
そしてもう1つ大変重要なことは、その時、最終的にものを決めるのは誰かということだ。不確実な問題というのは、科学的な問題もあるけれども同時に社会的な問題も非常にあるわけで、そうなると、地域社会が決めることが最優先なのではないかと思う。政府や企業が決める話ではない。これが、こういった問題の一番基本的なスタンスだと思う。
リスクコミュニケーションでALARAの原則というのがある。ALARAとは、as low as reasonably achievableの頭文字を取ったものだが、科学技術の問題とそれから社会経済、政治的な問題というものをいろいろ勘案して、被害を一番合理的に最小限になるように調整していくという原則だ。ここで一番大事なのは、社会的合理性と科学技術的合理性とのバランスであって、Aさんの説とBさんの説ということではない。
情報の伝え方について、今、皆さんがおっしゃったようなことは、私も常々感じている。けっこう悩みながら、「どう言ったらいいかな」なんて顔を見ながら考えるようなところがあるわけだが、長いこと話して、顔もお互い分かって、言葉の意味するニュアンスが分かってくるぐらいまでいかないと、なかなか有効に話は伝わらない。対面で伝えるのが一番だろうが、放送でも、ある程度できるのではないかと、期待を込めて思っている。

科学ジャーナリストである小出委員の発言の後、質疑応答に入った。多様な立場の放射線の専門家からじっくりと話を聞く一般公開番組を制作し、自社のYouTube公式チャンネルに公開しているテレビ局(テレビユー福島)から、放射線の影響に関する情報の伝え方について、かなり専門的なレベルでの質問が続いた。小出委員は、「あるデータを取り上げる時には、このデータはここまでは言えるけれどもここから先はちょっとあやふやなんだとかの条件を付けるなど、データの見方について、ある程度時間をかけて伝えていかなければならないのではないかと思う。情報の出し方は重要で、情報公開のプロセスに不信感があったら、何を言っても通じない」などと述べた。

2.さまざまな「分断」を考える

放射線の考え方の違いによる「分断」以外にも福島で生じているさまざまな「分断」について、意見交換を行った。まず、局の方から以下のような報告があった。

  • 2013年3月、震災原発事故2年のタイミングに合わせ、ニュース番組の中のシリーズ企画で、原発事故の避難者が多く暮らす自治体で生じた避難者と地元の人たちの軋轢についてレポートした。「こんな軋轢もあるけれども解決に向けた模索も始まっている」という内容で放送したのだが、かなりの反響が寄せられた。伝える前からこうした問題は難しいだろうとは思っていたが、問題提起をするという狙いで放送した。放送したことに加え、多くの意見をいただいたことについても意義があったと思っているが、同時に、様々な立場の人たちの思いをしっかりと汲み取って報道することの大切さやバランス感覚が大事だということを再認識させられた。(NHK福島放送局)

  • 事故から2年9ヶ月が経ち、避難されている方の中でも意見や考え方がかなり分かれてきていると感じている。たとえば、自主避難を含めて避難した方と残られた方の考え方の差、食品の安全性に対する考え方の違い。こうしたものはなかなか埋められない。また、補償がもらえる、もらえないのお金の部分での分断も起きている。
    多少間違いがあっても、はっきりものを言う方に一般の人が引っ張られていってしまう傾向が強いような気がしているが、そうした物言いが多いネットの世界と比べ、我々放送局は、視聴者側から見れば、問題提起をするだけで判断をせず、非常に中途半端というかあいまい、と受け取られているような気がする。それがテレビに対する信頼性を損なわせていく一因となっているような気がしている。(福島放送)

これを受けて森委員が以下のようにコメントした。

森委員:私たちは、自分たちの地域でお互いのことを考えていこうと、『谷根千』という雑誌を30年前に始めた。30年の活動の中で、みんなで集まってみんなで考えていくネットワーク、そこでは自分が本当に考えていることを話しても非難されないという場所、を地域の中に作ってきた。震災以降はそこを中心に動き、被災地応援や脱原発デモなどの映像を全世界発信し、自分たちでエネルギー問題など勉強する会もやった。こういう、冷静に物を見られる人たちの核を地域の中に作って放送局の応援団にしていくことは大事だと思う。そうしないと、相手が見えずに、ちょっとした声に怯えて自主規制してしまうことになるのではないか。既にNPOやNGOのある地域ならそういう人たちとつながって、その地域でどんな声が上がっているのかを絶えず探ることは必要だと思う。
放射線については、子どもたちの住環境や健康調査の記録を取り続けることで将来に備えるということが、すごく大事だと思う。水俣病と同じく被害者が立証責任を負わされることになるのではないかと思うので、その時のために、住民の健康についてのデータを積み重ねていくということも、メディアがしなくてはいけないことだろうと思う。
忘れられてしまいそうな事象も記録しておくということが大事なのではないか。昔、『解体ユーゴスラビア』という、ユーゴスラビアに住んでいる日本人女性の目を通して近所に暮らす人たちのかそけき生の声を拾った本を読み、とても感動した。日常の変化や言葉の中に、いろいろな問題の萌芽が詰まっている。だから私も、3月11日から、そうしたことをブログに書き続け、それをまとめて『震災日録』(岩波新書)で出した。
私は畑を持っていた宮城県南部の丸森町にお手伝いに行くが、宮城県全体が北部のリアス式海岸の津波復興のほうに目が向いてしまっていて、放射線値の高い南部の方にはあまり関心が向けられていない。逆に福島県では、やや放射能のほうに関心が強まっているために、海辺の津波被災地がどう記録されているのかということも心配になる。

森委員の話を受けて、ラジオ局のアナウンサーから、生放送のインタビュー番組で、放射線量のリスク評価が自分とは異なる人に対するリアクションに困ったという発言があった。森委員は、「同様なことは私も経験した。立場によっていろいろな考えがあって仕方ないが、率直に語り合える場をできるだけ作りたいと思っている」と答えた。

3.さまざまな問題を乗り越えるための各局の取り組み

続いて、ラジオというメディア特性を生かしたラジオ局の取り組みや、「温度差」や「風化」の問題を乗り越えるためのテレビ局の取り組みが紹介された。

【ラジオ局の取り組み】

  • 震災が起きてから1ヶ月間、24時間、情報を発信してきたが、リスナーの方の「子どもがなかなか寝つけないので子ども向けの音楽を流して欲しい」との声を耳にして、子どもに聞きやすい歌を流したりした。通常の放送に戻ってからは、FMとしてやれることは何かと議論を進め、放射線に対する質問に答える番組を約1年ほどラジオ福島さんと並行してやったり、『風評被害をぶっ飛ばせ』という番組を約1年ほど放送したりした。米の生産者の力になろうということで、田植えも収穫も行い、放射線を測定して安全であると訴える番組も作った。田植えの時は復興大臣と郡山市長にも参加していただいた。
    現在の取り組みとしては、やはりラジオは音声が主なので、音楽の力を信じて積極的にできるだけ明るい音楽を流している。「元気をもらった。ありがとう」という返事をもらったりする。するとアナウンサーが、「また元気をもらいました」と。そのような双方向的なラジオの特性を活かして、現在も番組では明るめの音楽を中心に、音楽を生かした放送を積極的に行なっている。(エフエム福島)

  • 震災以降、私たちが取り組んできたこととして、1つは、被災者の生の声をできるだけ出そうと、毎日、番組コーナーで電話インタビューをしたり、中継車を出して、いろんな取り組みをされている方を紹介したりしている。もう1つは、できるだけ制作者の意図を介さずストレートなお話をしてもらおうと、震災の年からずっと月曜日の19時から21時まで2時間の生番組を組んでいる。
    放射線関連の問題に関しては、ラジオは数字を伝えるのが非常に苦手な媒体だが、できる限りデータをそのまま伝え、科学的な根拠に基づく情報を出して行きたいと考えている。震災以来2年数ヶ月の間の大きな出来事として、東京発の情報ワイド番組をシーズン途中で止めたという事があった。ゲストコメンテーターの方が、根拠のない、あるいは科学的根拠に乏しいような、あるいは福島県民を翻弄させるような発言を繰返しており、制作局に問題を指摘したが満足な訂正がされず、私どもでは番組を打ち切った。いろんな悩み方をしながら、毎日、番組編成だったり制作をしている。
    放射線関連の問題に関しては、臨時災害FM局の南相馬ひばりFMさんと番組交換をして、南相馬ひばりFM制作で、東大医科研の先生が南相馬中央病院でボディカウンターの実測値を元に内部被曝の影響を説明されている番組を、私どもで放送している。臨時災害FM局との連携は富岡町のおたがいさまFMともやっており、互いに連携して、心のつながり、被災者の心のつながりを作っていこうというとしている。
    「分断」というテーマがあったが、福島県と私どもラジオ福島の企画「ふくしまきずな物語プラス」に寄せられた作文を見る限り、心の分断を叫んでいるものは意外に少なかった。ラジオはフォーラム的な話し合いの場を非常に作りやすいメディアなので、今後、我々が県民のために役立つことができる方法がおそらくまだまだあるだろうと、さきほどの森委員のお話を聞いて思った。
    小出委員から話があった社会的な合理性と科学的な合理性についても、冷静に考えれば落とし所というのがあるんだろうなとも考えられるが、被災県の福島としては、心証的に受け入れ難い。そういう部分を埋め合わせるメディアとして今後も努力していきたいと考えている。(ラジオ福島)

【「温度差」「風化」を乗り越えるためのテレビ局の試み】

  • 2012年の5月に福島市の小学校で2年ぶりに屋外で運動会が開かれた。それを全国放送するからということでキー局に送ると、キー局のデスクから「なんでマスクをしているところを映さないのか。マスクをしていないと、何の珍しい絵にもならないじゃないか。なんで全国ニュースで流すと思っているのか」と言われた。その時点でマスクをしている子は、小学校ではほとんどいなかった。その時は、かなり頭に来た。
    それ以来ずっと、キー局とは飽きるほど何度もケンカをした。キー局との中でも、このぐらいの温度差というのはある。(テレビユー福島)

  • 日々のニュースやドキュメンタリーは、ずっと発信し続けて行こうという話を社内でもしている。また、深夜帯だが、報道記者が独自の視点で作り、震災をみつめ直すようなコーナーを数年前から始め、ようやく軌道に乗ってきたところだ。ただ、全国的には、3年近く経つと、枠の確保といった点でもなかなか厳しい。西日本では、話題がもう東南海地震とその被害想定の話に全てすり替わっているような部分も感じる。番組制作では、弊社が制作しているバラエティー番組や旅番組等を全国の系列局さんに買っていただくという形で、福島県の現状を積極的にアピールしている。(福島放送)

  • NHKでは東京の全国ニュースの担当者の間でも震災や原発事故関連のニュースを積極的に集めて伝えていこうというマインドは定着しており、温度差は局内的にはそれほど大きくはない。工夫している取り組みとしては、県外に避難している人たちも見ることができるように、放送が終わったニュースをNHK福島放送局のホームページにアップしている。風化の防止に対しては、ネットワークを活かし、様々なチャンネルを通じて、地道に情報を発信し続けていくということに尽きると思う。(NHK福島放送局)

  • ネットに関する取り組みを報告する。ローカルのほうは、2011年の6月から月~金のお昼のローカルニュースをYouTubeの公式チャンネルにアップしている。夕方の企画ニュースも、項目を別に立てて200本くらいアップしており、現状では延べ260万回の再生回数があった。系列のほうは、2013年4月からFNNニュースローカルタイムというYouTubeの公式チャンネルに、被災3県の夕方のニュースのほぼ全項目をアップしている。これは、ありのままに近い福島の現状を知ってもらうツールとして有効だと思う。普通のニュースにこそ、普通に暮らす福島の人たちの姿が映っており、それが実は福島の空気感を一番正確に伝えていると思う。こうした普通のニュースは全国放送にはならないが、ネットでは発信でき、日本全国あるいは世界の方に見てもらえる。(福島テレビ)

  • ホームページでのニュースの動画配信は震災前から始めていたが、震災以降は、県外の避難者のために、夕方の情報番組のニュース部門で権利上の問題がないものを20分以内でアップしている。避難者が多い新潟と山形の系列局には、避難者にも直接関わるようなニュースを、原稿も送った上で配信している。全国の方には、ドキュメントで伝えていくのが一番分かってもらえると思って、ドキュメントの制作も心掛けている。国際放送の番組も作りながら福島をアピールしているが、終わりのなき戦いの中でスタッフも疲弊してきており、だんだん厳しくなってきているというのが現状だ。風化を防ぐために、全国ニュースで伝えたいと思うと、平穏ないつも通りの福島の姿が伝わらずに大変なイメージばかりを膨らませてしまうというジレンマがあって、その両方の福島をどう伝えるかが私たちの課題だと思っている。(福島中央テレビ)

最後に各委員が、各局の報告者に感謝の意を伝えるとともに以下のような感想を述べ、意見交換会は終了した。

森委員:大変ななかでジャーナリストとして鍛えられている方たちの話を聞き、勉強になった。私の通っている丸森や石巻でも、どうにか立ち上がる人たちが出てきている。福島でも、そういう立ち上がる人々のことを、私たちは是非知りたい。応援がしたい。行政が全国の市町村から支援を得ているように、放送局も、たとえば大学などの支援を得て、ドキュメンタリー番組などを作って欲しい。

小出委員:いろいろなことをうかがって、私も大変勉強になった。やはり基本的には信頼の問題だと思うが、信頼を作っていくには、人の問題、組織の問題、システムの問題と、3つぐらい要素があると思う。特にシステムについては、エフエム福島やラジオ福島の方たちの試みのように、視聴者のいる所に片足を置いたシステム作りを、試行錯誤しながらやっていくことが必要なのではないかと思う。
そういう試行錯誤自体が、日々の業務のリアリズムの中ではものすごく難しいと思うが、やっぱりそこは放送という仕事で生きている者の志の問題でもあるのかなと思う。私も、とっくに定年を過ぎてはいるが、長いあいだ放送に携わってきて自分の一部のようになっている所もあり、放送が大好きで愛している。主役である現役の皆さんには、是非、志を持ってやっていただきたいと思う。私たちはそのために応援をしたい、できることを何でもやりたいと、本当にそう思っている。

水島委員長代行:最後に3つほど申しあげたい。1つは、最初に検証委員会が議論してきた放送倫理の話をしたが、特に真実性の問題と公平・公正性の問題は大きなポイントだ。真実性や公平・公正性を自分自身に向かって問い続けるだけでなく、他者に対しても同じように考えることが必要なのではないかと思う。
2つ目は、さまざまな取り組みを自分たちの現場だけで抱え込むと大変になる時に、どうやって連携を作るかということだ。力を借りたり貸したりしながら問題に取り組んでいくことが、次の課題となると思う。福島以外の人たちとの連携も、大きな課題になってくるのではないか。
3番目に、私の大学では、学生たちが発災から1000日を契機に、震災や原発事故について改めて考える勉強会を始めているが、何度でも出会い直し、考え直すためにどのように情報を発信していくかが、これからの大きな課題になると思う。思い出したくないこともたくさんあると思うが、やはり出会い直すことで見えてくることや、分かることもあると思うので、これからはそういうチャンスを作ることができればいいと思う。みなさんには、これからの放送と地域のために、是非がんばっていただきたいし、私どもも、応援をしていきたいと思っている。

 

小出五郎委員は2014年1月18日に逝去されました。心よりご冥福をお祈りいたします。

以上

2014年1月23日

NNN(日本テレビ系)中部ブロック各局との意見交換会を開催

日本テレビ系の中部ブロック(北陸・甲信越・東海エリア)8局と放送倫理検証委員会の委員との意見交換会が、1月23日に名古屋市の中京テレビ会議室で開催された。系列局を対象とした意見交換会は、前年度に続いて2回目である。
放送局側からは8局の報道部長など18人、委員会側からは小町谷育子委員長代行と斎藤貴男委員が出席した。

意見交換会では、まず斎藤委員と小町谷代行が委員会での議論などを通じて、日頃感じていることを述べた。
斎藤委員は「委員会で議論をすればするほど、放送は奥が深いと感じている。おかしな番組は、もっとチェックすべきだと思う一方、管理強化になって、記者や制作者たちの裁量をせばめる結果になってしまっていいのかという迷いもある。昔のように、ある意味何をやってもいいというのではなく、報道の自由を本気で守るためには、BPOも含めて自浄作用を発揮していくことが必要だと考えている」などと語った。
また小町谷代行は、検証委員会の発足当初から約7年間の活動を振り返って、「1期目の3年間は大きい事案が多くて『光市母子殺害事件の差戻控訴審』や『バラエティー番組』への意見書などがまとまった。2期目の3年間は、打って変わって比較的軽めの事案になったが、いろいろな問題点が表に出てきた。昨年からの3期目で特徴的なのは、以前の審議事案にそっくりな事案が出てきたことだ。繰り返し起きている問題を委員会としてどうとらえるかについて、議論を重ねている」と語った。
質疑応答では、「バラエティー番組は、モザイクをかけすぎているように思うが、ニュース現場でも、首から下のインタビュー映像が当たり前になりつつあることに悩んでいる」との質問に対し、小町谷代行は「最近、そういう映像が増えていることは気になっている。原則的には顔出しをまず交渉してほしい。そのうえで、個々の取材によって考えていくしかないのではないか」と述べた。また斎藤委員は「モザイクをかけた映像や、首から下だけの映像を使う必要がない場合も実は多いのではないか。本当に使う必然性のある映像なら、いろいろな工夫をして放送することは素晴らしいと思う」などと語った。
また「意見書では、組織上の問題やコミュニケーション不足の問題が、背景にある要因としてよく指摘されるが、実際のヒアリングで実感されているのか」との質問に対して、委員側からは「ヒアリングの中で具体的な状況を確認しながら、確信を得て書くようにしている」「委員会としては、原因や背景を掘り下げることによって、当該局だけでなく、他の放送局にも参考になる意見書にしたいと考えている」などの説明があった。
このほか、ネット上の画像などのニュースでの取り扱い方や、公表されたばかりの参院選関連2番組への意見書(委員会決定第17号)に関する質問などが、報道現場での日々の悩みとともに語られた。これに対して両委員からは、過去の具体的な事案の紹介だけでなく、法律家やジャーナリストとしての個人的な見解を交えた意見やアドバイスも披露された。
3時間にわたる意見交換を終えた参加者の間からは、「同じ系列局ということで、気兼ねなく本音に近い意見交換ができたと思う」という声が数多く聞かれた。

今回の参加者の感想の一部を以下に紹介したい。

  • 意見交換会では、BPOの意義や考え方、また番組へのご意見を聞かせていただけて、大変貴重な機会となりました。放送する側の私達がしっかりした考えや判断を持ち、それを制作の現場まで浸透させなければいけないという原点をあらためて確認いたしました。放送倫理を守りながら、かつ取材、報道、表現の自由を守るという重たい課題に、日々頭を悩ませていこうと思います。

  • 視聴者からの意見が、以前に増して直接届くようになり、批判を受けやすくなったテレビ報道の現場は、深く考えることなく安全な道を選びがちです。私たち自身が、視聴者のテレビを見る目をしっかり受け止めた上で、地に足をつけた対応が求められているのでしょう。テレビニュースの画面がモザイクだらけにならないよう、議論を深めていくことが大事だなと深く感じた意見交換会でした。

  • 委員2人のスピーチを興味深く聞かせていただきました。
    就任されて日が浅い斎藤委員は、番組づくりの現場に触れた率直な感想を述べられていました。「言論の自由を守ることは口で言うほど簡単ではない」という言葉が印象に残りました。
    発足当初から委員を務められている小町谷代行は、3期目は「デジャヴ」のような事件が相次いだと話されていました。これはBPOがまとめた意見を業界全体として教訓にできていないという意味で、重い指摘だと思います。

  • BPO委員のおふたりが我々テレビ局側の質問に対し、とても率直に、忌憚無くお答えいただいたのが印象的でした。我々からの質問には「こうした事案ではBPOの判断の基準はどうなのか」といった、BPOがルールを決めているかのような類のものも、いくつかありましたが、「それは放送局の責任で決めるしかない」と、ある意味当たり前の答えをいただいたのは、とても「目からうろこ」でした。この意見交換会を通じて、率直にテレビ局への愛ある叱咤激励、エールをいただき、非常に委員を身近に感じられ、BPOを頼もしくさえ思えました。

以上

5周年を迎えて 川端和治委員長インタビュー(2012年4月12日収録)

5周年を迎えて
川端和治委員長インタビュー(2012年4月12日収録)

放送倫理検証委員会は2007年5月に発足し、以来放送事業者に対する数々の委員会決定を公表してきました。5年間の区切りとして、発足当時から委員会をまとめてきた川端委員長に、重松清委員(2010年から委員、2013年退任)がインタビューを行いました。

シンポジウム報告 2008年5月

シンポジウム報告

放送倫理検証委員会発足1年を機に、東京大学大学院情報学環との共催により、2008年5月、シンポジウムが開催されました。

2008年5月

「事件報道と開かれた司法~裁判員制度実施を控えて~」

光市事件の裁判報道や香川県坂出市の祖母・孫殺害事件をめぐる報道、さらに、これらの報道のあり方と裁判員制度を議論する中で企画された。

PDFはこちらpdf

以上

2014年4月4日

『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』

2014年4月4日 放送局:日本テレビ

2013年大晦日の午後6時30分から翌日午前0時30分まで放送された『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』(日本テレビ)の、"お尻の穴に白い粉を詰めてオナラとともに顔に吹きかけるシーン""股間でロケット花火を受け止めるシーン""赤ちゃんに扮した男性のオムツ換えのシーン"について、日本テレビからの回答書や意見交換を基に、審議を行い、「委員会の考え」をまとめ審議を終了することにしました。以下に経緯を含めて公表します。

<委員会の考え>

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2014年4月4日

日本テレビ放送網『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』に関する
「委員会の考え」

放送倫理・番組向上機構[BPO]
放送と青少年に関する委員会

BPO青少年委員会は、多くの視聴者意見が寄せられた日本テレビ放送網(以下、日本テレビ)『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』(2013年12月31日放送)について、日本テレビに番組の制作意図などの報告書の提出を求めるとともに、制作およびコンプライアンス担当者を招いて意見交換を行いました。日本テレビにはまず、貴重な時間を割き、率直に意見を交換して対応していただいたことに感謝申し上げます。
今後各放送局にも考えていただきたい論点が含まれることから、審議の結果、下記のとおり「委員会の考え」を公表することとしました。

■日本テレビとの意見交換を受けての、BPO青少年委員会の考え方

日本テレビは1989年より、レギュラー番組として『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで』の放送を開始し、お笑いの限界に挑戦するユニークな企画を次々と編み出して多くの視聴者に支持されてきました。『絶対に笑ってはいけない地球防衛軍24時!』は2006年に始まったそのスペシャル版で、8回目となる今回は2013年12月31日18時30分から24時30分の6時間にわたり放送されました。
その一部のシーンに対して、表現の過激さや卑わいであることへの不快感や嫌悪感、また、子どもが真似をするのではないかと危惧する視聴者意見がBPOに多数寄せられました。とくに(1)「芸人が肛門に粉を注入してパンツを脱ぎ、別の芸人の顔面におならとともに噴きつける」、(2)「ふんどし姿の芸人の股間に向けてロケット花火を噴射する」、(3)「産着姿の中年男性のおむつ交換(局部のみ映像処理)」の3つのシーンへの意見が多くありました。
日本テレビの回答では、(1)と(3)のシーンは「過去も放送」したことがあり、また、(2)のロケット花火については「安全性を高める改良を施した」上での演出であり、「『マネをしないでください』とスーパーを計2回入れた」こと、制作担当者からはいずれも「不快だった人もいるかもしれないが」「笑ってもらえると腹をくくって制作した」との説明がありました。
以上を踏まえて、青少年委員会が何を問題と考えたのか、以下に2つの論点を挙げます。

まず第1に、「表現上の配慮」です。
バラエティー番組は時に放送の限界に挑戦し、新たな笑いの文化を生み、視聴者の心を解放し活力を与えるという大きな働きがあります。それは同時に視聴者の喜怒哀楽や感受性を直接刺激し、日常生活の価値志向にも影響を与えることを意味します。このため作り手は常に社会の動きにアンテナを張りめぐらせ、視聴者の動向をも見据える必要があります。つまり、表現の内容が視聴者に与える影響は時代の価値観や社会のあり方に規定されると考えられ、過去に放送したから今回もよいという考え方は放送の一般原則となるわけではないことになります。
とくに、(1)「顔面におならとともに肛門から粉を吹き付けるシーン」と(3)「中年男性のおむつ交換のシーン」に対しては、視聴者から「えげつない内容で放送するに値しない」「不快極まりなくチャンネルを替えた」などの意見が多数届きました。それまで楽しんで見ていたのに、その特定の場面によって視聴を打ち切り、番組を不愉快と受け止めた視聴者がほかにも多くいたことが予測される意見でした。日本テレビからは、(1)については「芸人の持ちネタであり、粉を吹き付けられる側もレギュラーの芸人を起用」、(3)については「ベテラン制作スタッフのキャラクターで恒例の企画」と、いずれもプロフェッショナルの芸で、すべて演出の範囲内との説明がありました。しかし視聴者がここで問題にしたのは出演者がプロか否か、演出かどうかということではなく、行為の下品さや卑わいさ、人間に対する否定的な扱いへの違和感であり、バラエティー番組のボーダーラインを超えているという不快感だったと考えます。
青少年委員会は2007年10月23日に「出演者の心身に加えられる暴力に関する見解」を公表し、そのなかで中高生モニターが「出演者をいたぶる暴力シーンや人間に対する否定的な扱い」に対して不快感を表明しています。中高生の認識は多くの一般視聴者の認識と通ずるものと考えてよく、今回は直接的な暴力とはいえないものの、逃げないよう頭を押さえ付けられた状態で顔に肛門から粉を吹き付けられたり、中年男性がおむつ交換されたりする行為を素直に笑い飛ばすことができない視聴者が多数いたことに留意していただきたいと思います。
また、(2)「芸人の股間にロケット花火を噴射するシーン」については、安全性を充分に配慮した上で真似をしないようスーパーで注意喚起したということ、その配慮は多としたいと思いますが、子どもの視聴者を想定すると、視聴者意見のなかにあった「子どもはなんでも真似をする可能性があり、真似をしないでくださいとあれば余計に真似したくなるもの」という声は無視できないものと考えます。安全への配慮がないまま真似する子どもが出てくる可能性は否定できないのです。当委員会が発表した「バラエティー系番組に対する見解」(2000年11月29日)にあるように、青少年はテレビに多大な影響を受け、放送されたものを社会的に肯定されたものと考えて行動の基準とする傾向があります。安全性に配慮するのは当然のこととして、視聴者、とくに青少年がどう見るかという点には細やかに想像力を働かせていただきたいと考えます。
(3)「赤ちゃんに扮した中年男性出演者のおむつ交換のシーン」についてはもう一点、おむつ交換を行っている同じ部屋に看護師役の女性出演者がいたことについて、とくに女性の視聴者から「あってはならない光景だ」「(局部を画面処理で)隠していればいいというわけではない」などの意見が寄せられました。これに対しては制作担当者から、この女性は「出演料をお支払いしているプロフェッショナルの出演者」で、女性も内容を了解した上での出演であるとの回答がありました。しかし、双方了解の上であったとしても、視聴者は女性が下半身を顕わにした男性の前に立たされて目線をはずさざるをえない状態に置かれている構図と捉え、セクハラまがいの演出と受け取っている事実があることを真摯に受け止めていただきたいと思います。番組が男性目線で制作されており、女性の視聴者がどのように見るかという配慮と想像力が十分でなかったのではないかと考えます。

第2に、「放送基準と放送の公共性」についてです。
青少年委員会は、現代の日本でバラエティー番組がもつ意味の大きさ、その重要性についてはよく理解しているつもりです。日々笑いを提供し続けることの苦労についても十分想像できますし、新たな笑いの創出のために快や不快、上品下品の境目で仕事をするということも分かっているつもりです。「下ネタ」も時と場合によっては見る者を開放的にし、豊かな笑いをもたらすでしょう。社会を風刺する毒のある表現が、視聴者の憂さ晴らしになることもあると思います。こうした番組づくりのために民放連の放送基準等を杓子定規にあてはめるつもりはありません。それは本来「なんでもあり」のバラエティー番組の萎縮につながりかねません。
とはいえ、いつでもどこでも誰もが無料で視聴できる公共の地上波放送と、入場料が必要な映画や舞台、CS放送などの有料チャンネルとではメディアの特性が異なり、表現上の制約にも違いがあるということについては、制作側としてけじめをつけていていただきたいということは改めて願わざるを得ません。社会のグローバル化が進む中、幼児からお年寄り、外国人まで多様な視聴者が見る公共性の高い地上波放送においては、課金システムのメディア以上の配慮が必要であることはいうまでもありません。もちろんそのような制約があるからこそ、ギリギリの境界線上のせめぎあいの中で新しい笑いも生まれるのでしょうし、また視聴者からの批判や反発が新たな企画を生む原動力となることもあるとは思います。
しかし、上記の3つのシーンに関しては、視聴者からの意見の届き方から見ても、また私どもが視聴し審議した結果からも、少なからぬ視聴者がおもしろいと感じることができなかったことは事実といわざるを得ません。「おもしろければなんでもいいというのは傲慢」「ネタ切れならやめればいい」といった厳しい意見も届いています。バラエティー番組づくりが、過去のネタの自己模倣やセクハラまがいの演出で笑いをとらざるをえなくなっている方向に向かっているのではないかという危惧も抱かされます。批判し落胆を表明した視聴者には、番組が放送時間の最後に発信した「笑顔でいたい 笑って生きたい」(替え歌) "今年も笑いが溢れる一年になりますように…"(スーパー)という重要なメッセージが残念ながら届かなかったのです。
日本テレビからは繰り返し、「個別のシーンではなく番組の全体を見て判断してほしい」との要望がありました。本件の担当委員は事前に全体を視聴した上で意見交換に臨んでおります。しかし、青少年委員会は番組全体のメッセージが正しければ個別のシーンに逸脱があってもその評価が緩和されるわけではないと考えます。また、民放連放送基準は放送局が自主的に定めた番組づくりの基準なのですから、常にそこに立ち返って番組を制作していただきたいとお願いしているものです。委員会から基準に照らして問題であるとの指摘があれば、日頃からこうした基準を大事にして番組をつくってほしいという促しのためと、ご理解いただきたいと思います。ちなみに青少年委員会は独自に番組全体の評価は行いませんし、行うことができるとも考えておりません。あくまでも視聴者の意見をきっかけに判断をすることが仕事だと考えています。
つまり、番組全体のメッセージがいかに優れたものであったとしても、細部において社会通念を逸脱したものがあれば、表現の自由を最大限に考慮した上で、その是非を問うことが必要だと考えているということです。逆にいえば、個々のシーンに配慮が足りなかったがゆえに番組全体のメッセージが視聴者に理解されないようなことを無くすべく、視聴者と放送局の間に立って放送局と議論を重ね、番組の向上を目指すことが青少年委員会の務めと思っています。

青少年委員会は、青少年に番組が与える影響をできるだけポジティブなものとするために、局側が気づかない視点を提示したり、安易に番組を作成したため結果として逆の効果を生んでいる等の問題を指摘したりして、それを克服するための方策を探ってもらうこと、青少年たちがよい番組として認知しているものや理由を伝え参考にしてもらうこと等、結果として青少年によい影響を与え得る番組の制作、番組向上への気運を高めることを大事なミッションとしています。そのため、番組内容、制作過程等について局側と率直な意見交換をすることが重要な手法となると考えています。
すぐに意見の一致が得られるわけではないということは承知しています。しかし、意見交換を行うことは決して無駄ではなく双方への理解を深める貴重な機会となるはずです。今後もよりよい番組作りのために各放送局と意見交換を行い、ともに考え続けることができればと願っております。

以上

<青少年委員会からの質問>

2014年2月12日

青少年委員会から日本テレビへの質問

    1. 下半身を露出するなどの3つの場面(肛門に粉を入れ顔に吹きかける、股間でロケット花火を受け止める、赤ちゃん姿の男性のおむつを交換する)の演出意図についてお聞かせください。

    2. 上記の演出について制作者の間でどのような議論が行われたのか、また、出演者(特に女性)に対する配慮はどのようになされていたのかについてお聞かせください。

    3. 老若男女の幅広い視聴者が見る大晦日の22時から23時台の時間帯に上記場面を放送するに至った経緯についてお聞かせください。

    4. 上記の演出について現場や社内でどこまで情報が共有されていたかについてお教えください。その際、考査部門の判断はどうであったかについてもお聞かせください。

    5. 放送の公共性についての貴社の考えをお聞かせください。なお、青少年委員会では2013年10月22日に以下のような「委員会の考え」を公表しておりますが、これについてのお考えもお聞かせください。
      ≪視聴者目線と電波が公共財であることを忘れると、テレビへの信頼は薄れていきます。お笑いも例外ではありません。テレビをもっと魅力的なメディアにしていくために、また多くの視聴者が心地よく笑えるために、バラエティー番組も<人間の尊厳><公共の善>を意識して作られるべきでしょう。≫

<日本テレビからの回答>  2014年2月20日 PDFファイルpdf

<意見交換の概要>  2014年3月6日 PDFファイルpdf

2014年4月に視聴者から寄せられた意見

2014年4月に視聴者から寄せられた意見

STAP細胞の研究者の記者会見があったが、真偽はともかく、現在のマスコミの取材状況が「メディアスクラム」ではないかなどの批判意見。消費税8%の事前報道が過熱し、いらぬ購買をあおった、などの意見。

2014年4月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,203件で、先月と比較して26件増加した。
意見のアクセス方法の割合は、メール70%、電話28%、FAX1%、手紙ほか1%。
男女別は男性69%、女性28%、不明3%で、世代別では30歳代27%、40歳代27%、20歳代16%、50歳代17%、60歳以上9%、10歳代4%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該局のBPO責任者に「視聴者意見」として通知。4月の通知数は528件【53局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、22件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

消費税が5%から8%に引き上げられたが、事前の煽るような報道のせいで、いらぬ出費をさせられたなどといった声が寄せられた。
STAP細胞について当事者たちの記者会見が開かれたが、マスコミの無責任な報道姿勢に対し、批判意見が多く寄せられた。
韓国の旅客船の海難事故の報道に対して、日本人の犠牲者がいないのに、なぜ長い時間を割いて報道するのかといった声が寄せられた。
ラジオに関する意見は38件、CMについては47件あった。

青少年に関する意見

放送と青少年に関する委員会に寄せられた意見は124件で、前月より10件増加した。
今月は、「性的表現に関する意見」が27件、次いで「暴力・殺人・残虐シーンに関する意見」が15件、「低俗・モラルに反する意見」と「言葉に関する意見」がそれぞれ10件と続いた。
「性的表現に関する意見」では、中高生向けのラジオ番組で、パーソナリティーがリスナーに性的な経験を聞いたことに対し、未成年に興味本位で聞くべきことではないとの意見が複数寄せられている。
「暴力・殺人・残虐シーンに関する意見」では、高校生が主人公の漫画を原作とした映画について、暴力シーンが過剰であり、不良少年を美化しているとの意見があった。なお、同映画については、青少年の喫煙を助長するとの意見も寄せられている。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • 消費税が4月1日に8%になったばかりだが、あるタレントが他番組で「いいよ10%で」と発言したことから、来年は消費税が10%になる話になった。番組に同席していた出演者も10%になることを何だか肯定しているような雰囲気だった。生活に困っている我々は消費税の再度の値上げは阻止したい。庶民への配慮が感じられず、不愉快であった。

  • 消費税について様々なことが報道されているが、あまりの過熱報道のために、いらぬ出費をする人が大勢出た。食材やトイレットペーパーなど、以前の税率アップのときと大差のないような物まで買いあさる人もいた。消費税にかかわらず、食物が不作の時や異常気象などが起きると、必ずといって良い程マスコミは国民に不安を与えるような報道をするが、影響力を真摯に考えてほしい。

  • STAP細胞の報道がひどい。今日は本人の会見があったが、記者の上から目線の言葉遣いや涙を流したところで一斉にフラッシュをたくなど、見ていて吐き気がした。30歳前半の女性が一人で大勢の記者に囲まれ激しいフラッシュを浴びる。その上で上から目線や強い口調で言われて、どんなに心の負担になるだろうか。アナウンサーやテレビ出演者には嘘つき呼ばわりする人もいて、気分が悪い。視聴者から意見を募集しても、批判の意見しか読まないなど、平等ではない。

  • STAP細胞疑惑で現在、女性研究者が全マスコミの標的になっているが、マスク姿まで撮って、彼女を追い詰めることは如何なものなのだろうか。自殺のおそれもあるというのに、執拗に追いかけることは考えた方がいい。もともとマスコミがよく知らないで、大々的に報じ、そのせいで、渦中の人になってしまったのだ。虚偽・捏造があったのかどうか知らないが、いまの状況はまさに「メディアスクラム」ではないのだろうか。

  • 女性研究者の他者からの引用・盗作ということについて、中学校生の時に書いた読書感想文を「アニメの文から盗作した」などと決めつけたような報道があった。アニメの原作者のところまでいって「これは盗作ではないか」などと取材する。本題のSTAP論文の問題から大きく逸脱していて、女性研究者本人を中傷するネタを集めているようにしか思えなかった。

  • 韓国の客船事故が連日大きく報道されている。大変痛ましい出来事ではあるが、日本人が巻き込まれたわけでもない海外の事故である以上、ここまで時間を割く必要性があるとは思えない。海外のニュースならウクライナ情勢のような日本に影響するものを詳しく取り上げるべきだ。

  • 韓国の沈没した船のニュースを未だに取り上げている。番組の内容が野次馬根性的で不愉快だ。自国でこのような悲劇が起こらないためには、または、海外で事故に遭遇したときに自分の命をどのように守るか、そのことをテーマにしてほしい。興味本位や揚げ足取りではなく、悲劇を繰り返さないための教訓を学ぶ番組にしてほしい。事故が落ち着いてからの検証番組で十分だ。

  • 韓国で起きた旅客船沈没事件に関して、いまだ修学旅行生が数多く行方不明になっている。捜索によって見つかった修学旅行生の発見について「遺体が回収された」と報じたが、耳を疑った。「遺体が収容された」なら分かるが、人を「回収」などと聞いたのは初めてだ。事故そのものに対する悲しみと憤りが続く中で、「遺体を回収した」との伝え方が、更なる悲しみと憤りを生んだ。このような言葉の表現に問題を感じた。

  • 韓国船の沈没事故の報道では、船から見つかった水死体を男性キャスターが「ご遺体」と伝え、北海道のOL殺人事件の報道では、路上で発見された焼死体を女性キャスターが単に「遺体」と伝えた。「ご遺体」と「遺体」と、伝え方に差をつける理由は何なのか。

  • チリで起きた地震による津波の画像情報を流しているが、CMになると表示しない。注意警報を出すなら、スポンサーに配慮などせずにCM中も表記すべきではないか。また「10cmの津波」などといった表記が出ているが、私は津波を体験したことがないので、危険性を全く感じない。低い津波でも危険であるなら、それをきちんと伝えるべきではないか。

  • チリの大地震による津波注意報が発令され、日本地図のテロップを表示していたが、録画にとっては邪魔なものだ。データ放送を生かし、表示を消すことができる技術を取り入れてほしい。

  • 「国際司法裁判所が日本の調査捕鯨に中止命令」と判断したことを取り上げていた。この中で男性キャスターが「日本は(鯨を)年間何百頭も殺している」という発言をしていた。いくらなんでも「殺している」という言い方は不適切だ。情報番組の司会者として相応しい発言を心がけるべきだ。

  • 記者会見でのカメラのフラッシュなどで、映像が激しく点滅・変化することがある。NHKは画面を暗く処理して、きちんと対応ができているが、民放は各局とも一部の例外を除いて、相変わらずそのままの映像で、フラッシュ注意を促すテロップを出しているだけだ。画面を暗く処理することを義務付けるべきだ。

  • 四国遍路の巡礼者が利用する徳島県の休憩所に「大切な遍路道を守りましょう」と印字し、外国人排除を訴える紙が貼られていたという報道があった。四国八十八ケ所霊場会は「差別は許されない。ほかにも貼っているようであればやめさせたい」と話したとのこと。しかし、もともと韓国の人が、外国人が迷わないよう、矢印やイラストで道順を示すハングル語ステッカーを貼る活動をしたからで、貼り紙はこうした行為を中傷したためとみられる。無神経にハングルステッカーを貼りまくる行為も、問題ではないだろうか。是々非々の報道を期待したい。

  • 「憲法改正国民投票」また「憲法改正案」などの報道がされているが、この「改正」という言葉は、不適当なところや、不備な点を改めることであり、「改正」自体が正しいものであるとの印象を与えるものである。潜在的イメージを作り上げる「改正」という表現は避けるべきである。今回の国民投票は憲法を改正すべきか否かの判断が国民に委ねられている。それにもかかわらず、安易に「改正」という言葉を用いることは国民の判断を左右しかねないばかりか、マインドコントロールの危険性を孕んでいる。各報道機関は「改正」に代わって「変更」という言葉を使用するべきだ。言葉を慎重に選んでほしい。

  • 報道系の情報番組は現在、玉石混交状態だ。たとえば過激な発言を売りにする大阪の有名な番組は、出演者をはじめあまりに右翼的で、見るに堪えないし、そうかといえば先日のある番組では、メディアの使命として、政治の監視、視聴者に知らしめる役割、示唆する役割などをあげ、見ていて非常に役にたった。番組制作者にはこれからの日本のため、ぜひとも頑張ってほしい。

【番組全般・その他】

  • 過去に付き合っていた元彼がどのくらい危ないかを判定するという内容だった。女性タレントそれぞれがVTRに出演していた。過去の恋愛事情を持ち出してそれを公にさらして暴露する番組が多いが、これもまさにそうだった。タレントや芸人は芸を見せるのが本業だと思うが、最近は公に恥さらしするようなプライベートの切り売りが目立つ。業界内の暴露や個人のプライバシーを切り売りする放送は不快だ。

  • 「通勤途中の人に声をかけ、仕事場にお邪魔してよいか」という内容だった。通勤時間帯に会社に向かう方々に声掛け、場合によっては体をつかみ無理やりその場に引きとめていた。これから職場に向かう方々に対して失礼極まりない行為だし、その場でいきなり「仕事場におじゃましてよいか」とは、仕事を軽んじているような行動だと思う。私は専門職なので、この発言を聞いて、プロの仕事をナメているのではないかと思った。

  • 番組の放送時間の変更の理由が知りたいと思い、地元の系列局に問い合わせをした。しかし「編成上の問題ですから」と面倒くさそうに何度も繰り返すばかりで、何の回答にもなっていなかった。我々一般視聴者は"編成上"などと言われてもピンとこない。素人にもわかるように丁寧に説明してくれても良いのではないか。"売り言葉に買い言葉"で最終的には口論となってしまった。電話応対の仕方をもっと勉強するべきだ。

  • 最近のゴールデンタイムでは、別々の番組がひとつになる、いわゆる「合体スペシャル」がある。しかし、その多くが結局のところ、いつもの内容を別々でやっているので、単体の番組でもいいと思う。録画もしづらいし、本当に見たい番組が見られなくて迷惑だ。時間ごとに区切って、単体番組として放送してほしい。

  • 深夜のバラエティー番組で、美女と不細工な女性の対決をやっていたが、不快だった。バーでは、美女は可愛らしいカクテルを作ってもらっていたが、不細工な女性は見た目も悪く、名前も悪意のあるカクテルをバーテンダーが出していた。出演者は笑いながら見ていたが、容姿を笑いにするなんて、やっていいわけがない。最近のバラエティー番組の容姿差別は目に余る。

  • 番組のメイン出演者がホームレスと思われる人を指さして大笑いしていた。その人自身は、モザイクによって隠されていたが、話の内容からおそらくホームレスがゴミ箱か何かを漁っていたのだろう。高額の収入を得ている人間が、社会的弱者を見て大笑いしていたのだとすれば、これほどの偏見はない。

  • パネルボードを読みながら説明したり、新聞記事の部分を隠して剥がしながら読んでいく方法がある。隠すことによってその部分に興味を集中させたいのだろうが、隠す部分が多すぎてかえってわかりにくい。読みながら剥がしていくなら、隠さない方が理解しやすい。

  • ネット上の面白動画を紹介するテレビ番組だが、他人が作ったものを流すだけで、放送する理由がよく分からない。ただのハプニング映像で画質が悪い場合も多い。なぜ、工夫もなにもないインターネットで拾ってきただけの動画を見なければならないのか。

  • 最近のゴールデンタイムに放送されているバラエティー番組は芸人がツルんでバカ騒ぎしているだけの内容のないものが多いが、この番組は様々な物を作る職人に密着したり、我々が知っているようで、じつは意外に知られていない、外国で使われている日本にまつわる物などを取り上げており、大変良いと思った。どれも大変良いと思うが、特に気に入っている内容は、半年ほど前に放送されたものだ。外国からの取材班に密着するという特集は、外国人の視点で各地を回ることで、日本の良さを改めて再発見させてくれる。この特集はどうやら不定期の放送らしいが、是非とも続編の放送を期待したい。

  • 「霊園での花見の禁止はやりすぎ」という論調で取り上げていた。しかしおかしいのは霊園内で花見という名の飲酒・飲食の方ではないだろうか。しかも近距離には有名な花見の名所がある。このような見解とはあきれた。しかも安易に来年の宴会再開を強要するような締め方をしていた。ゆっくり永住の地で魂を休めている先人の眠る墓所で、飲酒飲食をしたいと考える浅はかさを責めるべきではないか。

  • 音信不通になった子を探してほしいと親が番組に依頼して、親子の再会を企画する内容だった。しかし、親と絶縁したことによって平穏を得られ、子が新しい人生を歩んでいることもある。決心した子にとって、親に自分を探されているということ自体が脅迫になる可能性もある。それほど、家庭内暴力の親が子に与える心理的破壊力は甚大であり、それについて親が反省の意を示したとしても時間は巻き戻せないし、恐怖は時間では癒せない。私自身は被虐待児ではないが、親の支配から必死に逃がれた人たちを知っている。彼らの平穏を破らないでほしい。

  • 3年前の流行というテーマの回で、東日本大震災を「懐かしく感じる」か、それとも「最近のこと」と感じるか、二者選択のアンケートを実地していた。これは公式ホームページで確認できる。凄惨だった震災を「懐かしく」感じるとはどういうことか。アンケート対象者である中高生が疑問に思わなかったことも不思議だが、それ以上に番組スタッフが、なぜこのような馬鹿げたことに気付かなかったのか不思議でならない。

【ラジオ】

  • 今日のテーマは「密かにあだ名を付けていた、あの人のお話し」だった。男性パーソナリティーが学生時代の話として、「同じクラスにいた女性の○○さんは"個性的な顔立ち"で、"ミックスピザのような顔"、サラミが目で・・、だから、本人に内緒のあだ名は『ピザ』だった」と実名を出していた。公共のラジオで個人名を出すことは問題ではないか。もしも本人が聞いていたら、自分のことであることに気付くだろうし、また、ネット時代なのだから、すぐに本人を探し出すことができる。

  • ヤンキーの話題から、女性パーソナリティー(シンガーソングライター)が「ヤンキーが好みで、A型かO型のヤンキーが良い」と、ヤンキーを持ち上げる発言と血液型差別とも受け取れる発言をした。放送終了間際までヤンキーの話題で引っ張り、ヤンキーを美化する発言が目立った。不快に感じる人もいるだろうし、影響力のあるパーソナリティーがヤンキーを持ち上げる発言をすることは如何なものか。

【CM】

  • CMで、若い男女がキスをする場面が昼夜構わず流されるのは不快だ。町中でカップルがキスをしていることも余り良いものではないが、テレビで次々と若いカップルがキスをすることを見せられて気持ちが悪い。やめてほしい。

  • ネットスラングの「w」を乱用してある文章が出てくるが、不愉快極まりない。しかも、若者言葉丸出しで鬱陶しい。気持ちが悪い。一刻も早く放送中止にしてほしい。

青少年に関する意見

【性的表現に関する意見】

  • 夕方に小学生の子どもとテレビを見ていたところ、新番組の"番組宣伝スポット"があり、出演者の性的な発言がテロップ付きで放送された。番組であれば、注意して見ないようにすることも可能だが、"番組宣伝スポット"はそうはいかない。子どもの目に触れる時間帯にふさわしい内容かどうか、精査してから放送すべきである。

  • 中高生向けのラジオ番組で、パーソナリティーが未成年者に対して、興味本位と思われる性的な質問をしていた。未成年者への質問としては不適切であり、不快である。

【飲酒・喫煙に関する意見】

  • 春休み期間の昼帯の生放送番組に、司会者が二日酔いだと公言したうえで出演し、反省する様子もなく、開き直りととらえられるような発言を繰り返していた。一般社会ではこのような状態で仕事をすることは許されない。子どもが見ている可能性があるにも関わらず、このような放送を行うのは無神経だ。

  • 高校生が主人公の映画で、不良学生が制服姿でタバコを吸うシーンがあった。未成年者がタバコを吸うきっかけになりかねないので、放送にあたっては配慮してほしい。

【言葉に関する意見】

  • バラエティー番組で、お笑いタレントの薄毛をテロップでからかうシーンがあった。人の容姿を"笑い"のネタにすべきではない。

【危険行為に関する意見】

  • 工場で完成した新幹線を車両基地まで輸送する作業を紹介するシーンで、車道で鉄道写真を撮っている人を取材・紹介していた。車道での撮影は交通事故の危険性が高い。子どもが真似しないよう、安全な場所で撮影をしている人だけを取材・紹介してほしい。

  • 子ども向けの番組で、ドライアイスを使用して飛翔能力を高めたペットボトルロケットを作成していた。ドライアイスの使用は危険を伴うので、子どもたちにも危険性が伝わるよう、もっと注意文言を分かりやすく表示すべきだ。

【暴力・殺人・残虐シーンに関する意見】

  • スクープ映像を紹介する番組で、死体などについてはモザイクがかけられていたものの、大量の血痕などの過激な映像はそのまま使用されていた。子どもが視聴する時間帯での放送であり、さらなる配慮を求めたい。

第157回 放送と青少年に関する委員会

第157回–2014年4月22日

2014年度中高生モニターの最初のテーマ、「好きなテレビ・ラジオ番組の、好きなところ、良いと思うところ」について、24人から報告。長年続く人気バラティー番組、海外テレビ局制作番組、情報番組など。

第157回青少年委員会を、4月22日に7人の委員全員が出席してBPO第1会議室で開催しました。今回は、討論の対象番組はありませんでした。その他、3月10日から4月15日までに寄せられた視聴者意見、4月の中高生モニター報告、6月6日に予定されている沖縄での意見交換会、調査研究などについて話し合いました。
次回は5月27日に定例委員会を開催します。

議事の詳細

日時
2014年4月22日(火) 午後4時30分~午後6時00分
場所
放送倫理・番組向上機構 [BPO] 第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
汐見委員長、加藤副委員長、小田桐委員、川端委員、最相委員、萩原委員、渡邊委員

視聴者意見について

  • 視聴者からの意見を基に委員間で話し合いましたが、今回は特に取り上げる案件はありませんでした。

中高生モニター報告

■中高生モニター報告 概要

2014年度最初の中高生モニターは、「好きなテレビかラジオの番組を一つあげて、その番組の好きなところ、良いと思うところを具体的に報告してください」というテーマで書いてもらい、24人から報告がありました。
長い間続いている人気バラエティー番組を支持する意見が複数寄せられました。『笑点』(日本テレビ)、『世界の果てまでイッテQ』(同)、『世界一受けたい授業』(同)、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)などの番組です。「見るたびに外国に関する知識が増えているようで嬉しくなる。子どもと大人が一緒になって楽しめる番組だ」(愛知・高校2年女子)、「司会者が嫌みなく、絶妙な間合いと適度なさじ加減で番組を彩り、出演者のいじり方も上手で自然体で接している様子が心地良い」(東京・高校2年女子)などの意見がありました。海外テレビ局制作の番組に関しても、『iCarly』(NHK Eテレ)や『glee』(同)などについて「日常でよくあるさりげない小笑を大笑いに替えて面白い」(神奈川・中学1年男子)、「高校生という身近な人の話なのでとても親近感がわく。ストーリー性・内容だけでなく細かい所までの配慮もいいと思う」(大分・中学2年女子)という意見が寄せられました。情報番組に関しても、『ZIP!』(日本テレビ)や『ヒルナンデス!』(同)に、「休みの日には必ず見ている、という友だちも何人かいて、おしゃれ好きな中学生には人気のある番組だと思う」(東京・中学2年女子)、「主婦だけでなく中高生でも楽しめる番組だ。これからもたくさんの最新情報に期待している」(広島・中学2年女子)など、熱い支持が寄せられました。
自由記述欄は、「ラジオ・テレビについて思ったことを自由に書いてください」というテーマを設定しました。「私は"音響効果"による過剰演出がとても気になる。笑い声や驚き声などを必要以上に使用していると感じる」(兵庫・高校2年男子)、「最近のドラマは面白みが欠けていて1話見て飽きてしまうことが多い」(愛知・高校2年女子)、「番組の切り替え時期の特番の時間が長すぎる」(宮城・中学2年男子)などの批判が寄せられました。
また、「私たちの地域では、30年以内に大地震が来ると言われている。もっと防災について放送してほしい」(広島・中学2年女子)、「地方に住んでいると他の地域では見られるのに見られないという番組が多い。しかも、たとえ見られても番組によって放送時間が遅くなったり不安定で、東京よりも内容が2週間ずれたりすることが許せない」(愛媛・高校2年男子)など、地方在住者からの要望がありました。

■中高生モニターの意見と委員の感想

●【委員の感想】バラエティー番組に対する厳しい意見が目立った。これからの日本社会のコアとなる中高生の番組批評に、番組制作者は耳を傾けてほしい。

  • (神奈川・高校2年女子)最近ではバラエティー番組を見ることがめっきり少なくなりました。中身のないものをだらだら見続ける時間がもったいないと感じるようになったからです。ありきたりな演出、身内だけで盛り上がる進行、良いところで必ず挟まれるCM…。そういう演出の番組を見るたびにうんざりした気持ちになります。

  • (宮崎・高校2年女子)私が最近あまりテレビを見なくなった理由は、バラエティーが、出演している芸能人だけが楽しんでいる番組になりつつあるからです。私たちが見て得をしないというか、一緒に楽しめないなと私は思います。

●【委員の感想】「好きな番組について書いてください」というテーマだけに、もっとばらばらに意見が分かれるかと思ったら、意外と『ヒルナンデス!』(日本テレビ)、『タモリ倶楽部』(テレビ朝日)、『世界の果てまでイッテQ』(日本テレビ)などに好意的な意見が集まった。やはり、長寿番組や、安定感のある笑いを主軸にした番組に人気があるようだ。

  • (広島・中学2年女子)『ヒルナンデス!』(日本テレビ/広島テレビ放送)この番組のことを知ったのは母が毎日録画をして見ていたからです。私が一番好きなコーナーは3色ショッピングです。広島にはないものの最新情報ばかりで、最新雑貨なども紹介されるので、私の周りでも見ている友だちは多いです。

  • (東京・中学2年女子)『ヒルナンデス!』(日本テレビ)の好きなところは、ファッションのコーナーがあるところだ。その中でも一番好きなのが、毎週木曜日にある今最も売れているファッションアイテムを探す対決だ。その理由は、流行を素早く知ることができるからだ。

●【委員の感想】自由記述欄で、父親から勧められてモニターに応募した旨を書いている人がいたが、その内容に感心した。

  • (沖縄・中学2年男子)正直、私はあまりテレビやラジオを見たり聞いたりするほうではないと思います。それなのに今回中高生モニターに応募したのは、父親からインターネット社会である現代において、ネットとテレビやラジオのあり方を考えることにより、いろんな見方・考え方ができるようになるからと強く勧められたからです。自分なりに、テレビとラジオの可能性を探る1年にしていきたいと思います。

●【委員の感想】深夜に放送されているアニメにはいろいろ問題があると思っていたが、充実した番組もあることが分かった。また、ライトノベルのアニメ化、実写化についての意見には、想像力を固定化させないという意味で誠にまっとうな内容と思った。

  • (東京・中学3年男子)僕の好きな番組は、フジテレビの『ノイタミナ』です。深夜にアニメを放送する番組で1時間に一つか二つの作品を放送しています。様々な制作会社の作品が放送され、はずれの作品が少なく、露骨な萌えとか残酷な表現が無いので安心して見ることができます。また、ライトノベルをアニメ化して、それをさらに実写化することや、無理に二次元のものを三次元にしたり、特定のタレントをごり押しするのもやめてほしい。

●【委員の感想】全般に、昨年の内容とはまた違っていて興味深く読んだ。面白いだけでなく知識を得ることもできるものを求めているようだ。放送局側にもヒントになるのではないか。また、残酷なシーンを弟と妹が一緒に見てしまった、という報告はその時は理解できなくとも後にフラッシュバックすることもあるので、やはり放送する際には留意してほしいと思う。

  • (滋賀・中学1年女子)『世界の果てまでイッテQ』(日本テレビ/読売テレビ)は面白いだけではなく、他国の国旗の意味や、その国ならではの面白いことや、有名なものなどを紹介してくれるので、知識が自然と身につき、良いと思う。

  • (佐賀・中学1年女子)『それでも夜は明ける』という映画がアカデミー賞の作品賞を受賞しました。『ZIP!』(日本テレビ/福岡放送)や他の番組で、長い時間、映画のVTRが流れました。作品は奴隷制度の映画で、人がムチで打たれたり、殴られたり縛られたりするシーンがありました。弟と妹は意味も分からず見ていました。小さい子どもも見ているので、人を傷つける恐い映像を放送するのはやめてほしいと思いました。

●【委員の感想】「防災情報についてもっと報道してほしい」という報告があったが、大変もっともなことだと思う。観光地などにおける避難場所への誘導看板がどこに出ているのかも報道すると良いと思う。

  • (広島・中学2年女子)時々、防災関連のニュースを見ますが、9月の防災の日か、3月の東日本大震災に近い日だけの放送のように思います。学校の友だちは避難場所を知らない子が多いです。もっと防災について放送してほしいです。

●【委員の感想】地域密着型のローカル番組を褒めている報告があった。これからも地方放送局制作の番組について、たくさん報告が上がってくると良いと思う。

  • (東京・高校1年男子)私は3月まで北海道に住んでいたので、あえて北海道の番組を取り上げます。長寿番組の『どさんこワイド179』(札幌テレビ)の良いところは、(1)わかりやすく北海道愛を感じる番組であること、(2)視聴者との関係を上手に保っているところです。夕方のローカル番組はたくさんありますが、この番組は群を抜いています。

●【委員の感想】初めて書いた報告にしては、皆とてもよく書けていると思った。なかでも英語の勉強を兼ねてテレビ番組を見ているという報告が印象に残った。

  • (大分・中学2年女子)『glee』(NHK Eテレ)はストーリー性・内容だけでなく、細かい所までの配慮も良いと思います。音声切り替えで英語のまま見ることができるのも良いし、日本語訳も直訳でなく日本語にない言い回しも分かりやすく訳しているし、英語を聞いた後に訳を見ると、きれいな訳の仕方だと感じることもあります。

その他

  • 6月6日に沖縄で開催予定の意見交換会について準備状況が報告されました。
  • 調査研究の今後の予定が報告されました。