第55回 – 2012年12月
原発事故による放射能が日本各地の食事に与える影響を検証したデータに誤りがあり、謝罪と訂正を行ったNHK『あさイチ』
事前収録した出演者の映像を生中継であるかのように演出した日本テレビの音楽番組『ベストアーティスト2011』 ……など
第55回放送倫理検証委員会は12月9日に開催された。
まず、NHKの情報番組『あさイチ』が、原発事故による放射能の食事に与える影響を検証した企画を放送した際に、誤ったデータが使われたことについて討議を行った。結論を出す前に、NHKが12月15日に予定しているミスがなぜ起こったかを明らかにする放送を見る必要があるということで、継続討議となった。
日本テレビ『日テレ系音楽の祭典 ベストアーティスト2011』が3時間の生放送中に、2組のアーティストの演奏を生中継を装って挿入した問題についても討議を行った。生であるという付加価値に寄り掛かった、嘘がすぐにわかるような拙い演出手法ではあるが、当該局としては、今後視聴者の誤解を招かない別な手法を考え、導入すると表明しているので審議入りはしないこととした。
また、「東海テレビ放送『ぴーかんテレビ』問題に関する提言」については、前回の2局に続いて、新たに3局からの対応が事務局から報告された。
議事の詳細
- 日時
- 2011年12月9日(金) 午後5時~7時
- 場所
- 「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
-
原発事故による放射能が日本各地の食事に与える影響を検証したデータに誤りがあったNHK『あさイチ』
事前収録した出演者の映像を生中継であるかのように演出した日本テレビ『日テレ系音楽の祭典 ベストアーティスト2011』
福岡の各局と検証委員会との「意見交換会」開催 - 出席者
- 川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員
原発事故による放射能が日本各地の食事に与える影響を検証したデータに誤りがあり、謝罪と訂正を行ったNHK『あさイチ』
NHKの情報番組『あさイチ』で、10月17日、「放射能大丈夫?日本列島・食卓まるごと調査」と題して全国7家族を対象に食事に含まれる放射性物質の量を1週間分調査、分析した結果を放送した。放送されたデータについて視聴者から誤りがあると指摘を受け、11月24日同番組の冒頭でこの時点までに判明した誤りについて謝罪、訂正する放送を行い、更に12月15日に、間違いが起きた原因について、改めて同番組の中で詳しく説明することを公表した。
委員会では10月と11月の両放送の視聴、NHKのホームページ、NHKから提出された経過報告をもとに討議を行った。議論の中では、11月の謝罪と訂正の放送が、当面判明した間違いを説明したものであり、NHK自体もより慎重な調査・分析が必要としていることから、12月15日の『あさイチ』の放送内容を検討するまで判断を留保した方が良いとの意見が大勢を占めた。
このため、委員会は12月15日の『あさイチ』での放送を視聴した後に議論を再開する事になった。
【委員の主な意見】
- 11月24日の放送はとりあえずお詫びをということで終わっていると思う。12月15日の放送を見ないと判断がつかないところがある。
- 検出限界についての説明があやふやになっている。この意味をきちんと説明して欲しい。
- 誤りが事後に判明したのだとすると、倫理上の問題ではないのではないか。あらかじめ分かっていてやったとは考えにくい。
- ホームページで原因は分析装置の不備といっているが、混乱を招く言い方ではないだろうか。
事前収録した出演者の映像を生中継であるかのように演出した日本テレビの音楽番組『ベストアーティスト2011』
11月30日に放送された日本テレビの『ベストアーティスト2011』は、午後7時から約3時間にわたり幕張メッセから生放送されたが、このうち2組のアーティストの映像が2週間前に収録されたものであったという事案。
放送では、生放送の会場から、司会者が別会場に呼びかける形をとり、収録の際もそれを受けるやり取りをしたもので、画面上にもパラボラアンテナのマークが表示されていた。放送後、視聴者から「てっきり生で歌っているのかと思った。騙された」という批判が相次いだ。当該局は、騙す意図はなく音楽番組としての臨場感、疾走感を出すための演出である旨の経緯報告を委員会に提出した。また、収録の際、観覧客に「口外しないよう求めた」と報じた一部記事に対し、そうした趣旨の説明はしていない、と述べている。
委員会では、演出の範囲、視聴者の許容度、実質的被害者の有無など様々な観点から論議が行われた。また、この番組の後で放送された他の放送局の音楽番組で、冒頭に収録部分があることを断った事例があったことも話題となった。
その結果、このような演出手法に問題がないとは言えないものの、視聴者の誤解を招かない新たな手法を考えたい、とする当該局の姿勢に期待し、審議入りはしないこととした。
【委員の主な意見】
- 3時間生放送という謳い方がどうかだ。収録だと言われなきゃわからないし、いかにも生放送のような挨拶も交わしているので、姑息といえば姑息だ。
- 生放送であることの付加価値を作り手が感じているから偽ったのだろう。
- 生放送の臨場感を作るために、自然に乗っかるように収録映像を入れたもので、報道的な生の価値とエンターテイメント的な生の価値は別ではないか。
- 収録であることがバレないはずはなく、騙す、騙されるということではなくて、サービス精神で下手を打ったということだ。
- 会場の客のボルテージを下げないためという局の説明だが、これはある意味で会場の客をも騙している。あまり良い感じはしない。演出方法としてもセコい。
- 生でないことが分かってしまう時代なのだから、そのことを考えて演出することが大事だ。
- この様な演出手法で問題はない、と委員会が言っているようには捉えられたくない。
- 当該局も別の新たな手法を考える、と言っているので、そこに期待を残したい。
福岡の各局と検証委員会との「意見交換会」開催
在福テレビ局とBPO検証委員会との意見交換会が、2011年12月6日、福岡放送の9階大会議室で開かれた。前年の大阪に続く2回目の開催である。RKB毎日放送、九州朝日放送、テレビ西日本、福岡放送、TVQ九州放送、NHK福岡放送局の6局を中心に、九州・沖縄地区からの参加局を含めて14局約90人が出席した。
委員会側からは、川端委員長をはじめ、小町谷・吉岡両委員長代行、香山・是枝・重松・服部・水島各委員のあわせて8人が参加した。この意見交換会は、放送局の取材・制作現場の人たちに、委員会の活動について理解と認識を深めてもらうとともに、放送局側からも委員会に対する疑問や要望などを、率直に語ってもらおうという趣旨に基づくもの。双方が本音の意見を交換できるようにという趣旨から、今回も非公開で行われた。意見交換のテーマとして、今回は2つの柱を設定した。
- 2011年は、報道番組や情報バラエティーで、事実や情報の取り扱いの杜撰さを指摘する委員会決定が相次いだことについて、どう考えるか。
- 東海テレビの「ぴーかんテレビ問題」を受けて、委員会がすべてのBPO加盟社を対象に公表した「提言」について、どう受け止めたか。
テーマ(1)については、情報の確認=裏を取ることに関連して、出席者のなかから「完全無農薬の野菜」と紹介する際に、実態は店頭の表示などを信用してそのまま伝えており、生産者まで溯っての裏取りには限界がある場合が多いなどの意見が出された。また、テーマ(2)をめぐっては、他山の石として放送現場の再点検を進めているという発言が目立ったが、たった一人の非常識な行為によって、放送界全体に問題があるように言われるのはおかしいという意見もあった。意見交換会は、予定の3時間を15分余りオーバーして午後5時前に終了し、会場を移して懇親会が行われた。懇親会には6局の社長・放送局長も全員参加し、委員を囲んでの歓談が続いた。各局から寄せられた出席者の声としては、「多くの委員から生の話が聞けたことはとても有意義。検証委員会が身近になった」「議論が盛り上がってきたなと思ったらもう終わりという感じで、もの足りなかった」「テーマをもっと絞り込んで、議論が噛みあうように工夫してほしい」などが多かった。
「8人もの委員が参加されたのだから、分科会のような方法も加味すれば、もっと充実した意見交換ができたと思う」との指摘も相当数あったので、次回への検討課題にしたいと考えている。
以上