2015年10月

山形県内の6局と「意見交換会」を開催

 放送人権委員会は10月5日、山形市内で県単位の意見交換会を開催した。放送局側の参加者は山形県内の民放5局とNHK山形放送局から43人、委員会からは坂井眞委員長、市川正司委員長代行、城戸真亜子委員の3人が出席した。
午後7時半から開催された意見交換会では、まず地元局が視聴者から指摘があった事例や判断に迷った事例を報告、それに対して坂井委員長以下委員が考えを述べた。
後半では、最近の「委員会決定」をもとに委員会側が判断のポイントを説明し、人権や放送倫理を考える際の枠組みなどについて意見を交わした。
主な内容は以下のとおり。

◆坂井委員長の挨拶

冒頭の挨拶で坂井委員長はBPOの役割に触れて、以下のように述べた。
「なぜ、放送人権委員会のような委員会が立ち上がったのかというと、表現の自由が非常に大切だという前提で、放送で人権侵害等を起こさないようにすることが、実は、放送、あるいは表現の自由を守っていくということにつながるという考えからだ。そのようなことが、BPOの設立の経緯によく示されている」と、設立の経緯に触れてその目的を説明した。
続いて「私が言いたいことは、表現の自由ないしは放送局の自由な報道ということと個人の人権というのは、対立するものではないということだ。どちらかではなくて、どちらも大切にしなくてはいけないので、そういう観点から、放送人権委員会が申立てを受けて、人権侵害があったのか、あるいは放送倫理上問題があったのかということを審理して決定をしているということを、是非、理解してほしい。そして、委員会の決定が出て、放送倫理上問題があるとか人権侵害だとかいうと、どうしても結論にばかり注目が集まってしまうが、実は委員会では、かなり真剣な議論を、委員9名でした上で結論を出している。その中には、様々な要素を考えて書き込んだ部分があるので、そういう決定を読んで、結論だけで『なんだ』というようなことのないようにしてもらえれば有り難いと思っている」と、決定文の中身をよく読んで理解してほしいと訴えた。

◆山形県での事例

BPO設立の経緯をまとめたDVDなどを使った事務局からの放送人権委員会の概要説明に続いて、山形で起きた事例が2局から紹介された。

(インターネットに関連して視聴者から指摘を受けた事例)

ある局からは、(1)病院の不祥事を報道した際の病院建物の映像に通院患者がわずかに映り込んでいて、「人物が特定でき、プライバシーの侵害だ」として家族から指摘され自社のホームページにアップしていた映像を削除したこと、(2)番組のホームページに番組で紹介した女子生徒の小学生時代の写真を掲載していたところ、写っていた生徒から中学生なった数年後になって「恥ずかしいので削除して欲しい」との要請があり削除。その後、幼児や児童など子どもの画像は掲載しないルールに改めたこと、(3)ある学校の教師の不祥事を報道したニュースをホームページにアップしたところ他の個人サイトに転用されて拡散。地域住民から「学校名で検索するとその事件が何年も経過した後も出てくるので、局の責任で完全に削除して欲しい」との要請があったこと、などいずれもインターネットに関連して視聴者から指摘を受けた事例が紹介された。
報告者は、「一旦インターネットにアップすると、いろいろ手を尽くしても削除が難しいということがあり、クレームがありそうなニュースはアップしないほうがいいのではないかとも考えた。けれども、事件・事故とか、意見が対立する問題を、一切アップしないということは、逆に報道機関としてどうなのかという部分もあって、これからの課題だろうと受け止めている」と対応の難しさに悩んでいることを伝えた。

〇城戸委員
この事例に関して、城戸委員は自らホームページを運用している体験を踏まえ、「アップする側としては何の問題もないのではないかと思っていても、映像が本人にとっては恥ずかしいものであるなど個人のデリケートな心情を害する可能性がある。また、ネットにアップしたことで全く違うふうに受け取られて拡散されるというようなことも考えられるので、神経質過ぎると思っても、やはりその都度本人に確認を取るなど配慮していくことが大事だなと感じている」と答えた。

〇坂井委員長
また、坂井委員長は「(1)の病院の話については、ここで考えなければならないのは、病院というものの性質だ。病院というのは医療情報という非常にセンシティブな情報に関わる話になると思う。だから、そういう場所に出入りしているのを見られたくないというのは合理性がある。全部、とにかくダメだということではないにしても、病院というのはそういう注意が必要だと思う。そういうところで細かい判断をしていかなければいけない。(2)の写真の話は、おそらく、最初、載せた時は、その小学生の子ども本人とその親御さんの了解を取ったと思うので、それ自体は違法でも何でもなく、だからダメだということにはならないと思う。けれど、その子どもが中学生になって、『やっぱり困る』と言ってきた時には、それが違法かどうかということではなくて、『やっぱり配慮しましょう』という話が出てくる。そこから先、『だから載せるものは了解を得た大人と物だけにしよう』というところに、本当に行ってしまっていいのかなというところは、立ち止まって考える必要があるのかもしれない。これは、『行き過ぎた匿名化』につながる話だと思う。行き過ぎた匿名化でテレビメディアの持つ力を削いでしまう部分があるので、最大の配慮はしながらも、何でも匿名化してしまうということにはならないようにしていかなければならないと私は思う」と述べた。

〇市川委員長代行
続いて市川委員長代行は、「(1)の事例では、やはり『どこで』というところが一つは問題だと思う。最近、繁華街とか商店街でのインタビューの映像で人物の周りを全部マスキングしてしまうことがよくあるが、果たしてあそこまでやる必要があるのだろうか。ああいう公のパブリックスペースで、みんな顔を見られることを、ある程度、覚悟しながら歩いているところで、そこまでやる必要があるかという問題と、では病院の入口だったらどうかという問題だ。そこは自ずから、その人の肖像を守る価値が違ってくるだろうと思う。あとは、そこを撮る必要性がどれぐらいあるのか、そのことの重みにもよるのかと思う」と、肖像権に関する考えを述べた。
続いて(3)の事例について、「テレビの場合には、基本的にニュースを流して、その場で消えていくのが前提だがウェブサイトの場合には、それがずっと継続して残っていくというところが違うところだ。今までとは違って、どれぐらいの期間、残すのかということも、一つの考慮材料にしなくてはならない。何を映すのか、どれぐらい隠すのかということと同時に、どれぐらいの期間、残すのかということも、今、難しい問題になってきていると思う。ただ、この学校の不祥事の問題については、抽象的に学校の名誉とか地域の印象であるとかということが、果たしてどれだけ保護すべき利益なのかというと、私は、必ずしも、それほど利益のある、保護すべき利益とは思わないところもある。やはり、そこは、個人の権利、利益として何が侵害されているのかをきちんと確認しなければならないと思う」と、ウェブサイトにどの程度の期間掲示するのかという問題とともに、内容の公共性や取材対象のどのような利益を侵害する可能性があるかなどを具体的に考える必要についても述べた。

(匿名・実名で局によって判断が分かれた事例)
次に、県内で起きている事件・事故で、実名か匿名かということについて各局で判断が分かれたケースとして、天童市の女子生徒がいじめが原因とみられる自殺をした事例を別の局の報道担当者が紹介した。
自局の対応について、「私の局では当初から生徒の名前や学校名はずっと伏せたままにしており、現在もそのようしている。そう判断した理由は、遺族側への配慮が一番大きかったと思う。私どもが遺族側に取材して、学校名も含めて生徒の名前などを出してほしくないということが分かったので、そこに変化がない限りはそれを続けている状態だ。一方で、遺族側だけの取材というのも、報道のバランスの上で如何なものかというところもあるので、学校側とか、市教委側とか担当記者を分けて、バランス良く取材する形でやった。ところが、最近、岩手県では亡くなった生徒の名前が出ているケースもある。これは、ご家族のほうから、名前を発表してほしいという希望があったやに聞いている。こういうケースについては、必ず匿名だとかあまり最初から決めずに、ちょっと悩みながら判断していくというところが大事なのかなと、今、感じている」と、直面した事案について報告した。

〇市川委員長代行
これに対して市川委員長代行は「生徒の名前は伏せたとしても学校名を載せるのはどうかとか、生徒がやっていたクラブ活動を、どの程度、書くかとか、おそらくそういったところで、特定性、同定性がどの程度、絞られてくるのかということが決まってくると思う。そういう意味で、特に子どもの問題だということもあって、配慮は必要だ。その配慮がどういう点で必要かといえば、やっぱり遺族への配慮の問題。それからイジメをしていたのではないかということであるとすれば、そのイジメをしていた子ども自身の問題。そして、このケースは刑事事件にはなってないのかもしれないが、潜在的にはそういう可能性もあるとすれば、少年法61条(記事等の掲載の禁止)の趣旨をどれぐらい考えるのかという問題が出てくる。そう考えた時に、どこまで、焦点を絞り込んでいくのか。学校名、クラブ名をあげてということになってくると、ある程度、絞り込まれてきてしまうという感じもする。他方で、例えば校長や管理職としての教員の責任は、それはそれで、きちんと報道しなければならないということがある。そこでのバランスをどこで取っていくかというところが非常に難しいところだと思う。一概に、こうすべきだということは、私としては申し上げにくいが、考慮すべき材料としてはそういうところだ」と、判断する際のポイントについて説明した。

〇坂井委員長
続いて坂井委員長は実名か匿名かの議論の原点に立ち返って説明した。「ちょっと違った話から入るが、私は、こういうメディアの問題を扱うようになったのは、今から27~8年ぐらい前からだ。この問題に関わり始めた頃に、新聞社、通信社の方と匿名報道についてよく話をした。当時は微罪でも実名報道をされている時代で、『何で実名が必要なんだ』と問うたところ、『いや、事実を報道するのが報道なんだ』と、『名前は事実の重要な要素なんで、当然じゃないか』という答えが返ってきて、噛み合わない議論をしたことを、今、思い出した。当時は、報道の一番肝心な点である、『いつ、どこで、誰が、何をしたのか』の要素なのだということだった。この点を全部、匿名にしてしまって、本当にニュースと言えるのだろうかということが、きっと原点にあるのだろうと思う。そこで、『そうは言っても他の利益がありますよ』という話が同時に出てくる。全部、特定されてしまうと、プライバシー侵害だったり肖像権の侵害だったり名誉棄損だったりがあるから、そこでバランスを取りましょうという、そういう話なんだと思う」と述べた。
続けて、「何が言いたいかというと、この天童のイジメで自殺したのではないかというような話に関しては、ニュース価値はあるだろう。おそらく誰も異論はない。だから本当は実名で出したいのだけれども、そのことによって別の利益、法的な利益を侵したり倫理的な問題が生じるのであれば、そこは配慮をしていかなければいけないという、そういう問題だろうと思う。今の発表にあったように、被害者の方は名前を出してもらっては困るとはっきり言っている。それを無視して出すのは、それは如何なものかと考えるのは当然だ。だけど、一方で親御さんが、『亡くなったのはA子ではなくて、ちゃんと名前があるのだから、書いてくれ』とおっしゃる場合がある。それであれば、匿名にする理由はなくなる。ただ、別の配慮は必要かもしれない。だから個別の判断をしていくことだと思う。あとで決定のところで説明する散骨場の問題なども、これは肖像権とその報道の価値とのバランスということで、そういうことを細かく具体的に考えていくと、ある程度、答えが見えてくるのではないか。だからケース・バイ・ケースというのは、おっしゃるとおりだと思う」と述べた。

◆最近の委員会決定

(「散骨場建設計画報道への申立て」について)
次に、今年1月に通知・公表された「散骨場建設計画報道への申立て」事案について、当該番組を収録したDVDを視聴したうえで、その判断のポイントなどを坂井委員長が説明した。この事案は、ローカルニュース番組で「散骨場」建設計画について事業主の民間業者の社長が市役所で記者会見などをする模様を取材・放送した際、地元記者会との間で個人名と顔の映像は出さない条件であったにもかわらず顔出し映像を放送したため、社長が人権侵害・肖像権侵害を訴えて申し立てた事案。委員会は、人権侵害は認めなかったが記者会との合意事項に反した放送をしたことは放送倫理上の問題があるとの「見解」を示した。

〇坂井委員長
この決定に関して坂井委員長は、「この事案の論点は次の3点だ。(1)まず誰と誰の合意なのかという点。(2)合意に反して顔の映像を放送したことは肖像権侵害にあたるのかという点。そこで考慮すべきものとして、公共性、公益性、それから合意違反と肖像権侵害との関係ということが問題になる。(3)合意に反して顔の映像を放送したことに放送倫理上の問題があるかという点だ」と論点を絞って説明した。
坂井委員長は、(1)の合意の主体については法律的には記者会と申立人の合意と判断されるが、記者会と申立人が合意したことを局も受け入れたわけだから当然それで拘束されるとした上で、肖像権と報道との関係について、次のように述べた。「(2)については、『顔を出しません』と言って約束して取材をしたのに、放送の時に顔を出してしまったら、それですぐ肖像権侵害になると思われるかもしれないが、実はここはひとつ論理的な操作が必要な部分だと思う。そもそも、肖像権とは何かというと『何人もその承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されたり、撮影された肖像写真や映像を公表されない権利』、つまり『みだり』に公表されない権利と書いてある。『みだり』にということなので、理由があれば公表できる場合もある。報道の自由との関係で言うと、公共性があると認められるならば、両者の価値を検討して一定範囲では報道の価値を優先し、肖像権侵害とならない場合もある」などと、法律的な考え方を紹介した。
その上で今回のケースに当てはめ、「相手の承諾なしに勝手に撮った場合と約束を違えて撮った場合は微妙に違うけれども、大きく見たら同じ範疇に入るので、その報道の内容、内容が持つ公共性、それから放送内容等を具体的に考えて、それが許される場合かどうかを考えるという論理構成になる」と考え方の枠組みを示した。
そして、本件の場合について、「散骨場計画は正当な社会的関心事で公共性があり、放送したのは報道番組で公益目的も認められる。放送された映像は隠し撮りをしたというようなものではなく、市役所に修正案を持っていくところや記者会見をしているところなので、プライバシーを侵害したり、肖像権を侵害する悪質性が高いわけではないので、肖像権侵害には当たらないと判断にした」と人権侵害を認めなかった理由を説明した。
しかし、約束違反をしたことについては放送倫理上の問題があったと委員会の判断を示した後、「最後に強調しておきたいのは、付言の部分だ。このケースは記者クラブが取材対象者の顔や実名を出さないと約束し、記者クラブのメンバーはそれに縛られるような形になっている。これはまずくないかということだ。なぜかと言うと、もともと記者会で報道協定を結ぶケースは、誘拐報道などの特別な場合だけだ。今回のケースは、理論的には、確かに特定の日に限られるものだが、場合によれば、次の日に何か事態が展開して、顔を撮ってしまおうという判断をするときに、記者クラブがした約束が縛りにならないかというようなことが考えられる。そうしたことから、記者会は取材先からの取材・報道規制につながる申し入れに応じたことと同様の結果をもたらす危険性を有するのではないか、ということをあえて、決定文に付言として書いた」と、特に付言の部分を強調した。

〇地元局質問
この事案に関して、報道制作に携わる参加者は、「事件や事故の現場で、一般の方からインタビュー取材をするが、撮影して放送するのを暗黙の同意を得たということで帰ってくる。しかし、帰ってきたあとに『顔を分かるように使わないでほしい』とか『一切使わないでほしい』などの申し入れがあるケースがある。これはどのように考えたらよいのか」と日常的に起こりうるケースについて問うた。

〇坂井委員長
それに対して坂井委員長は、「何か事件があって、近所の人の意見を聞いたというレベルだったら、その人が嫌だというのに顔を出した場合の正当性はなかなか得られないと思う。また、暗黙の了解ではなく、『顔を出しますけどいいですか』と確認して撮ってきたからといって、『やっぱり気が変わったのでやめてください』と言うのを押し切って出す正当性があるのかというと、なかなか難しいのではないかと思う。先ほどのケースは、社会の正当な関心事になっていて、その中心にいる人物が顔を出してくれるなということが言えるのかどうかという話だ。一番分かりやすいのは、総理大臣が顔を出してくれるなと言っても通るのかというと、通らない。いろんなレベルの段階、グラデーションがあるが、今の質問の場合は、ただ事件の近所の人を撮ったということだけでは、その人の意思に反して顔を出すことの正当化はないのではないか」と回答した。

〇地元局質問
さらに質問者が「報道する公共性・公益性等があれば、使わないでくれなどの申し入れがあっても、拒否して、放送する分には問題がないというふうに考えてよいのか」と、問うた。

〇坂井委員長
それに対して坂井委員長は、「実際そういう放送もいっぱいあると思う。それは皆さん判断されていると思う。一番分かりやすいのが政治家だ。そういう公的な立場の人間は全てではないが、NOと言っても受け入れざるを得ないときがあるということだ」と答えた。

(「大阪府議からの申立て」について)
次に今年4月に通知・公表された「大阪府議からの申立て」事案について、当該番組の音声を再生したうえで、その判断のポイントなどを市川委員長代行と坂井委員長が説明した。この事案は、ラジオの深夜トーク・バラエティー番組で、お笑いタレントが当時の大阪府議会議員が地元中学生らとトラブルになった経緯など一連の事態について「思いついたことはキモイだね」などと語ったことに対して人権を侵害されたとして申し立てたもの。委員会は「見解」として人権侵害も放送倫理上の問題もないとの判断を示した。
なお、本委員会決定の審理に当たった三宅弘前委員長は、政治家の場合は一般私人より受忍すべき限度は高く、寛容でなくてはならない、などの趣旨の補足意見を付した。

〇市川委員長代行
まず、この事案の起草を担当した市川委員長代行が、判断のポイントについて説明した。「問題になったのは、名誉感情の侵害と社会的評価の低下があったかだ。判断の枠組みは、まず名誉感情・名誉権を侵害するのかどうか。第一段階で名誉感情が侵害されたかを検討する。その上で、評価を下げている、あるいは名誉感情が傷つけられているということになった場合でも、それは直ちに権利侵害にはならない。次の段階として、公共性・公益性の観点から、許容されるのかを検討することになる」と、考え方の枠組みを説明した。
そして、「本件の場合には、『キモイ』という言葉は一定の社会的評価の低下、名誉感情に不快の念を与え、第一段階の名誉権、名誉感情の侵害という点はあるということになる。そこで、次の段階の公共性・公益性との間で許容されるかどうかということになる。その場合の判断としては、公共性・公益性がどれぐらい高いのかという問題と、侵害された社会的評価、名誉感情がどの程度のことなのか、その2つを天秤にかけて、公共性・公益性が重いということになれば、これは許容される。本件の特徴としては、放送の対象が公務員、しかも被選挙権のある公職の議員というところだった。それから、事実自体に争いはなく、論評としての許容性がもう一つの問題になる」と論点を整理した。
そして、議員が関わる名誉棄損などの判例を紹介した上で、「本件の場合は名誉感情を害された程度は低く、それに対して公共性・公益性は高いということで、人権侵害はなく、放送倫理上の問題もないと結論した」と委員会の判断を示した。さらに留意点として、「本件に関してはバラエティー番組だということで、『政治を風刺したりすることは、バラエティーの中の一つの重要な要素であり、正当な表現行為として尊重されるべきもの』として、バラエティーでの表現としては許されるという評価をしている。ただし、『キモイ』という言葉は『無限定に使うことを是とするものではない』と結論に付言をあえてした」と述べた。

〇坂井委員長
次に、「補足意見」について坂井委員長は、「どういう趣旨かと言うと、従前の委員会決定を踏まえたものとして、表現の自由というのは、まず自己の思想及び人格を形成、発展させる、自己実現と言い方をするが、そういう面と、民主主義社会は思想及び情報の自由を流通させないと、民主政自体が成立しない。これも民主政の過程で非常に大事で、この2つの面がある。法の運用や権力者の言動によって、取材・放送の自由が萎縮するようなことがあれば、先ほど指摘した2つの自己実現の形、民主政の過程が傷ついてしまう。だからそういう権力者については、受忍する範囲は緩くなるということをあえて指摘しておきたいということだ。本決定が述べるところの規範部分は、国政を担う政治家の行動についてはなおさら妥当するのだということをあえて付言しているという趣旨だ。これは私も全く同意見だ」と述べた。

〇地元局
委員の説明に対して地元局の幹部は次のように意見を述べた。「今の意見を聞いて非常に心強く思った。特に、報道の自由というところを非常に深くとっていることを心強く思った。もちろん我々も自律的に襟を正していかなくてはいけないが、BPOというのは民主主義の成り立ちとかかわっていると思う。最近、事案を見てみると、報道したことに対して公権力の方が『これは問題にすべき事案だ』とか言ってBPOにかけている。BPOを、放送局を縛ったり、あるいは自分に不都合な報道をさせないように扱う機関だというふうに公権力に勘違いされても困るなと思っているところがあったので、そういう点では自らを律すると共に、心強いなというふうに感じた」と全体を通じての感想を述べた。
意見交換会に引き続いて行われた懇親会でも、地元放送局と委員との間で活発な意見交換が行われた。

今回の意見交換会の事後感想アンケートで局側の参加者からは、「各局の事例報告は、実感を持って聴くことができたし、それに対する委員長、委員各位の意見などを直接聴くことができ、大変参考になった」「全国的にも知られている事例を解説されることでよりリアルに詳細に理解することができた。また、各局での題材も同じことがすぐに起こり得ることとして、当事者から生々しく聞くことができた」などの声が寄せられた。

以上

第227回放送と人権等権利に関する委員会

第227回 – 2015年11月

謝罪会見事案、大喜利・バラエティー事案の通知・公表報告、
出家詐欺事案の審理、ストーカー事件再現ドラマ事案の審理、
ストーカー事件映像事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、
自転車事故企画事案の審理…など

今月の委員会当日に行われた「謝罪会見報道」と「大喜利・バラエティー」の2事案の通知・公表について、事務局が概要を報告した。出家詐欺報道事案の「委員会決定」修正案が大筋で了承され、委員長一任となった。その結果、通知・公表は12月に行われることになった。ストーカー事件再現ドラマ事案の「委員会決定」案を検討し、ストーカー事件映像事案、STAP細胞報道事案、自転車事故企画事案を審理した。

議事の詳細

日時
2015年11月17日(火)午後4時45分~10時10分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「謝罪会見報道に対する申立て」事案の通知・公表の報告

2.「大喜利・バラエティー番組への申立て」事案の通知・公表の報告

佐村河内守氏が申し立てた上記2事案の「委員会決定」の通知・公表が、今月の委員会開会前に行われ、事務局がその概要を報告した。

3.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
この日の委員会では、前回委員会での検討を経た「委員会決定」の修正案が示された。審理の結果、決定案は一部表現、字句を修正したうえで大筋で了承され、委員長一任となった。
「委員会決定」の通知・公表は12月に行われることになった。

4.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された音声データや加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、11月5日の第2回起草委員会を経て委員会に提出された「委員会決定」案の審理が行われ、ストーカー事件の背景と取材などについて意見が交わされた。この結果、第3回起草委員会を開催して、さらに検討を重ねることとなった。

5.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、前事案と同じフジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今月の委員会では、名誉毀損と放送倫理上の問題にポイントを絞って審理が行われ、その結果、次回委員会に向けて、担当委員が起草作業に入ることとなった。

6.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では事務局がこれまでの双方の主張をまとめた資料を提出、論点を整理するため起草委員が集まって協議することとなった。次回委員会では、起草委員によって整理された論点をもとに審理を進める予定。

7.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前説明が十分でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
今月の委員会では、申立人から反論書が提出されたことを事務局が報告。これを受けて、フジから再答弁書が提出されることになっており、次回12月の委員会で審理を進める。

8.その他

  • 11月24日(火)に金沢で開かれるTBS系列北信越4局との意見交換会について、事務局から概要を説明した。
  • 今後予定される加盟局への講師派遣について事務局から説明した。
  • 次回委員会は12月15日に開催かれる。

以上

2015年10月22日

BSテレビ各局と意見交換会

放送倫理検証委員会とBSテレビ局との意見交換会が、10月22日に東京・千代田放送会館で開催された。民放BSテレビ局とNHKの計9局から26人が参加し、委員会側からは香山リカ委員と鈴木嘉一委員が出席した。放送倫理検証委員会では、毎年各地で意見交換会を開催しているが、BS放送局を対象としたのは初めての試み。
概要は以下のとおり。

冒頭、BPOの濱田純一理事長が、BPOの目的や役割について、「放送における『言論と表現の自由』を本当の意味で社会に根付かせていくところに、BPOの役割があると思う。そのために各放送局が、放送の自由の質を高めようと努力する活動を支援することも、大きな役割だと思っている。BPOの各委員会から出されるさまざまな報告などを、皆さんが放送の使命は何なのか、放送の質をどう高めるか、を考える時の手がかりにしてほしい」と挨拶した。
続いて、香山委員が、テレビ放送について感じていることを次のように述べた。
「放送局の現場では、BPOが表現の自由を守るためにあるのなら、もっと自由に番組制作を、という声があるかもしれないが、外部からの規制がかかったり、視聴者からの信頼を失わないようにするためには、自浄作用も必要だ。検証委員会では、放送倫理違反があれば指摘するけれども、それによって放送や表現の自由を担保していきたいと考えている。委員会で審議や審理に入る場合でも、それは取り締まるためではなく、委員会の役割として、放送や表現の自由をぎりぎりのところで守るためにはどうすべきかを、放送局と一緒に考えていきたいということだ。テレビの力はまだまだ大きく、多くの人に影響を与えているメディアなので、それに携わっている誇りや幸せを、忙しい中でも時々はかみしめてほしい」。
また、鈴木委員は、長年にわたる取材者としての観点から、現在のBSテレビの編成などについて次のように指摘した。
「BSデジタル放送の開始から15年たつが、"モアチャンネル"として十分定着し、全体的には"ゆったり感"もあって、人気番組がいろいろ生まれてきている。その一方で、民放BSテレビ局にも、地上波のような横並び的な傾向が現れてきているように感じるが、BS局には地上波の轍を踏んでほしくないと思っている。私がBSテレビ局に期待しているのは、いま地上波で受けている番組を真似した、"のようなもの"的な番組ではなく、地上波にはない番組や、かつてはあったが現在は放送されていないジャンルの番組などだ。スタッフの人数や予算などに制約があるのは承知しているが、是非、アイデアと工夫で勝負していってほしい」。
意見交換では、放送局側から「BSの放送でも報道系の番組が増えてきているが、どのように見ているか」との質問が出された。
これに対して鈴木委員は、「やるべきことは、網羅主義ではなく、一点突破ではないだろうか。ひとつのテーマを深掘りした特集や、地上波よりさらに長いスパンでの報道も期待したい。時の人からじっくりと話を聞く報道番組もひとつの鉱脈だが、その人の言いたいことをしゃべらせるだけでなく、もっとガチンコでのトークが聞きたいと思うこともある。BS局の報道番組は方向性としてはいいので、見せ方や切り口なども含めて、中身をもっと良くする段階にきていると期待している」と述べた。
また香山委員は、「報道番組での放送の公平・公正性や不偏不党などについて、それぞれが考えてほしい。何も言わないのが不偏不党とか中立性ではないので、時には踏み込んだ意見も取り上げるなど、さまざまな人の意見を伝えてほしいと思う」と述べた。
今後のBSの放送が目指すべき方向性についての質問に対して、鈴木委員は、「中高年層だけでなく、より若い人たちにも見てもらうために、かつてのユニークな民放局の深夜番組のような"少しとんがった番組"を期待したい。社員が少なければ、外部の新しい才能のあるスタッフを発掘し、共同作業で賛否両論を巻き起こすような新しい番組を制作していってほしい」と述べた。また香山委員は、「今の地上波の番組では物足りない、飽き足りないと感じている人たちはかなりいると思う。知的好奇心を持ち、知的な刺激を求めている人たちに訴求力があるような番組を期待したい」と述べた。
このほか、放送局側からは、外部からの持込番組が多い状況の中で、考査上の悩みなどについての発言もあり、委員側からのアドバイスも披露された。
最後に濱田理事長が、「放送倫理というと窮屈に考えがちだが、一番大事なことは、放送に携わる人たちが、どこまで誇りをもってその仕事ができるかであり、それを支えるのが倫理だと思う。きょうは、番組論や編成論まで広く議論が及んだが、放送倫理の積極的なあり方として意味があったと思う」と述べて、意見交換会を締めくくった。

終了後、参加者からは、「BPOについて考える機会を持てたのは有意義だった」「両委員からの期待やアドバイスは心強く、励みになった」などの感想とともに、「具体的なテーマを設定して実施すれば、もっと議論が活性化するのではないか」などの意見も寄せられた。

以上

2015年度 第55号

「謝罪会見報道に対する申立て」に関する委員会決定

2015年11月17日 放送局:TBSテレビ

勧告:人権侵害(少数意見付記)
TBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』は2014年3月9日の放送で、佐村河内守氏が楽曲の代作問題で謝罪した記者会見を取り上げた。この放送について、佐村河内氏は「申立人の聴力に関して事実に反する放送であり、聴覚障害者を装って記者会見に臨んだかのような印象を与え、申立人の名誉を著しく侵害した」等として委員会に申し立てた。
これに対してTBSテレビは「申立人の聴覚障害についての検証と論評で、申立人に聴覚障害がないと断定したものではない。放送に申立書が指摘するような誤りはなく、申立人の名誉を傷つけたものではない」等と主張してきた。
委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
なお、本決定には結論を異にする2つの少数意見が付記された。

【決定の概要】

TBSテレビの情報バラエティー番組『アッコにおまかせ!』は2014年3月9日の放送で、佐村河内守氏が自分の名義で発表してきた楽曲について新垣隆氏が作曲に関与していたことを謝罪する記者会見を取り上げた。この中で、佐村河内氏の聴覚障害について、会見のVTRや出演者のやり取りなどで、「検証」と「論評」を行ったとしている。
この放送について、佐村河内氏は「健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装って会見に臨んだ」との印象を与えるもので、名誉を著しく侵害されたとして委員会に申し立てた。
委員会は、申立てを受けて審理し、本件放送には申立人の名誉を毀損する人権侵害があったと言わざるをえないと判断した。
まず、本件放送によってどのような事実が摘示されたかについて、申立人の指摘する問題点を中心に、以下の検討を行った。(1)謝罪会見の際に申立人が配布した聴力に関する診断書に記載された検査結果について、本件放送が客観的な検査については十分に言及せず、むしろ自己申告制の検査であることを強調するなどして、一般視聴者に対し、診断書の検査結果の信頼性が低いという印象を与えた。(2)アナウンサーが「普通の会話は完全に聞こえる」との説明を行い、申立人には健常者と同等あるいはそれに近い聴力があるとの印象を与えたが、その説明は不適切であった。(3)本件放送が紹介した専門家の所見のうち、「通常の会話は比較的よく聞こえているはず」とする部分は、(2)の印象を裏付け強化するものであり、詐聴の可能性を指摘する部分は、(1)と同様、検査結果の信頼性が低いことを印象付ける。(4)「普通に会話が成立」というナレーションとテロップが付されて放送された本件謝罪会見のVTR部分は、申立人が謝罪会見の際、手話通訳なしに会話を交わすことが可能であったという事実を端的に摘示するものである。
以上、(4)を中心としつつ、(1)から(3)をも総合して一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば、本件放送において「申立人は、手話通訳も介さずに記者と普通に会話が成立していたのだから、健常者と同等の聴力を有していたのに、当該謝罪会見では手話通訳を要する聴覚障害者であるかのように装い会見に臨んだ」という摘示事実が認められ、これは申立人の社会的評価を低下させ、その名誉を毀損する。
名誉を毀損するような放送であっても、放送によって摘示された事実が公共の利害に関わり、かつ、主として公益目的によるものであって、当該事実が真実であるか又は真実と信じることについて相当の理由がある場合には、結論的には名誉毀損には当たらない。この点について、本件摘示事実については公共性があり、また、本件放送には公益目的があったと言えるが、TBSによる真実性の立証はない。さらに、相当性については、上記(4)に関し、放送されたVTR部分に先立つやり取りを踏まえた対応にすぎない可能性が十分にあり、また、謝罪会見を取材していたスタッフはこのようなやり取りについては承知していたはずであること、等から相当性も認められない。
以上より、本件放送は名誉毀損に該当すると言わざるをえない。
また、一般に、人権侵害を生じさせた放送は当然に放送倫理上の問題が存することになるが、本件放送に関して、委員会は、このような放送がなされてしまった背景に、TBSが申立人に対する否定的な評価の流れに棹さすごとく番組制作を行ったことがあるのではないかと考える。具体的には、事実をありのままに伝えること、専門性の高い情報を正確に伝えること、出演者への事前説明の努力、障害に触れる際の配慮の必要性、以上4点において放送倫理上の問題を指摘することができ、それらは決して軽視されるべきものではない。
バラエティー番組であっても、本件放送のような情報バラエティー番組には、事実を事実として正確に伝えることも求められる。とりわけ、本件放送は、聴覚障害という一般視聴者の予備知識が乏しい専門的なテーマに関するものであることから、番組による不正確な説明内容によって視聴者が容易に誘導されうることに配慮が必要であった。こうした問題は、本件放送が聴覚障害という人権に関わるセンシティブなテーマに触れるものであったことからすれば、より深刻である。
委員会は、被申立人であるTBSテレビに対し、本決定の主旨を放送するとともに、情報バラエティー番組において障害をはじめとする人権に関わる専門的な内容を含むテーマを取り扱う場合のあり方について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。

なお、本決定には結論を異にする2つの少数意見がある。

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2015年11月17日 第55号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第55号

申立人
佐村河内 守
被申立人
株式会社TBSテレビ
苦情の対象となった番組
『アッコにおまかせ!』
放送日時
2014年3月9日(日)午前11時45分~午後0時54分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送で摘示された事実と名誉毀損の成否
  • 2.本件放送の公共性・公益目的
  • 3.本件放送の真実性・相当性
  • 4.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年11月17日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、11月17日午後1時から、BPO会議室で行ない、その後、午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を行い、決定を公表した。
詳細はこちら。

2016年2月16日 委員会決定に対するTBSテレビの対応と取り組み

2015年11月17日に通知・公表された「委員会決定第55号」に対し、株式会社TBSテレビから局としての対応と取り組みをまとめた報告書が2016年2月15日付で提出され、委員会は、この報告を了承した。
なお、本件の委員会勧告に基づいて局が行った放送対応に関し、当該番組でエンドロールの後一旦CMが放送されてからアナウンサーによるコメントの読み上げがなされた点について、多数の委員から、放送対応のタイミングについてより工夫がなされることが好ましかったとの意見が述べられた。

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  • 「補足意見」、「意見」、「少数意見」について
  • 放送人権委員会の「委員会決定」における「補足意見」、「意見」、「少数意見」は、いずれも委員個人の名前で書かれるものであって、委員会としての判断を示すものではない。その違いは下のとおりとなっている。

    補足意見:
    多数意見と結論が同じで、多数意見の理由付けを補足する観点から書かれたもの
    意見 :
    多数意見と結論を同じくするものの、理由付けが異なるもの
    少数意見:
    多数意見とは結論が異なるもの

2015年度 第56号

「大喜利・バラエティー番組への申立て」に関する委員会決定

2015年11月17日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは2014年5月24日放送の大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出してお笑い芸人たちが回答する模様を放送した。
この放送について、佐村河内守氏は「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として一般視聴者を巻き込んで笑い物にするもので、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たる」等として委員会に申し立てた。
これに対し、フジテレビは「本件番組は、社会的に非難されるべき行為をした申立人を大喜利の形式で正当に批判したものであり、申立人の名誉感情を侵害するものでない」等と主張してきた。
委員会は2015年11月17日に「委員会決定」を通知・公表し、本件放送は許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えず、放送倫理上の問題もないとの「見解」を示した。

【決定の概要】

フジテレビは2014年5月24日に大喜利形式のバラエティー番組『IPPONグランプリ』を放送した。この中で、「幻想音楽家 田村河内さんの隠し事を教えてください」という「お題」を出して、お笑い芸人らが回答する模様を放送した。
この放送について、佐村河内氏は「一音楽家であったにすぎない申立人を『お笑いのネタ』として、一般視聴者を巻き込んで笑い物にするものであるから、申立人の名誉感情を侵害する侮辱に当たることが明らかである」等として委員会に申し立てた。
名誉感情とは、人が自己の価値について有している意識や感情のことであり、法的保護の対象となりうるが、主観的なものであるだけに、名誉感情の侵害は、社会通念上の許容限度を超えた場合に初めて法的な保護を受ける。
大喜利は、しばしば世相に対する批判も含む表現形式として、社会的に定着した娯楽であり、たとえ個人に対する揶揄となったとしても、その者が正当な社会的関心の対象である場合には、個々の表現が許容限度を超えない限り許される。そして、大喜利には大げさな表現やナンセンスな表現、言葉遊び等も当然含まれうるし、即興性が特徴である。名誉感情侵害の判断においてもこうした大喜利の特徴を斟酌すべきである。
その上でまず、本件放送で申立人を取り上げたことの当否については、全聾の作曲家として高い評価を得ていた申立人が他人に作曲を依頼していたことが発覚し、また、その聴覚障害についても疑惑が持ち上がったことに社会的関心が向けられることは当然である。それは、申立人が謝罪のための記者会見を行ってから2か月半ほど経過した本件放送時点でも同様であり、本件放送において申立人を取り上げたことには正当性が認められる。
次に、個々の回答による名誉感情侵害の有無について、各回答を概観すると、a)聴覚障害に関するもの、b)音楽的才能に関するもの、c)風貌に関するもの、d)その他、の4類型に分類可能であるが、大喜利の特徴も踏まえれば、いずれも、許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えない。
また、申立人は放送倫理上の問題として、いじめや聴覚障害者に対する偏見を助長するおそれを主張するが、本件放送は、自らの言動によってファンや関係者の信頼を裏切ったことにより正当な社会的関心の対象となっている申立人個人に対する許容限度の範囲内での風刺等であり、いじめや聴覚障害者に対する偏見を助長する内容とは受け止めにくい。したがって、放送倫理上の問題は認められない。
以上より、本件放送は許容限度を超えて申立人の名誉感情を侵害するものとは言えず、また、放送倫理上の問題も認められないとの結論に至った。

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2015年11月17日 第56号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第56号

申立人
佐村河内 守
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『IPPONグランプリ』
放送日時
2014年5月24日(土)午後9時~11時10分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.判断の方法について
  • 2.本件放送で申立人を取り上げたことの当否
  • 3.個々の回答による名誉感情侵害の有無
  • 4.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2015年11月17日 決定の通知と公表の記者会見

通知と公表は、同じ佐村河内守氏が申し立てた「謝罪会見報道に対する申立て」事案の通知・公表とあわせて11月17日に行われた。
詳細はこちら。

2015年11月6日

NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見の通知・公表

上記の委員会決定の通知は、11月6日午後2時から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。委員会からは、川端和治委員長、升味佐江子委員長代行、中野剛委員、藤田真文委員の4人が出席した。当該局のNHKからは、局内の調査委員会委員長を務めた副会長をはじめ5人が出席した。
まず川端委員長は、「NHKは日本で唯一の公共放送でしかも最も信頼されている。NHKなら正確な報道をしてくれるという視聴者の信頼があるのに、それを裏切ることはメディア全体の信頼度を引き下げることにつながりかねない。番組のねらいは非常に良かったが、肝心の相談場面は事実と相当にかけ離れていた。真実を追求しようとして努力を尽くすことが全くないまま、ブローカーとされる人物の言うことをそのまま垂れ流すというのは、最も問題のある態度ではなかったか」と述べた。そのうえで、「日本を代表する報道番組として、視聴者の信頼を得られる素晴らしい放送を今後も作っていただきたい」と要望した。
続いて藤田委員が、「NHKの調査報告書は『NHKガイドライン』の枠の中にとどまることで、視野を狭くしてしまったのではないか。現場でこの意見書をかみしめて欲しい」と述べた。中野委員は「放送された内容と事実の間に大きな乖離があった。視聴者側に向いた調査報告書にして欲しかった」と述べた。升味委員長代行は、「特に『クローズアップ現代』という番組だけに残念だった。時代の先端に切り込む姿勢を失わないで欲しい」と述べた。
これに対してNHK側出席者は、「今回の決定を真摯に受け止める。取材、制作、放送のあらゆる点で多くの問題があったことを率直に認めざるを得ない。"視聴者のために公共放送がある"という原点に戻り、信頼される放送、番組制作に取り組みたい」と述べた。

このあと、午後3時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には27社77人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
初めに川端委員長が「相談場面は事実とかけ離れた情報を視聴者に伝えている。報道番組として許容される範囲を著しく逸脱していた点で非常に問題があり、重大な放送倫理違反があると判断した」と述べた。さらに、「政府側のメディア規制の動きが目立っている状況のなかで、総務省の文書による厳重注意の行政指導と政権与党の事情聴取は、問題があると指摘せざるを得ない」と強調した。そして、「『クローズアップ現代』は、これからも良心的な番組を作り続けて欲しい」と要望した。
続いて藤田委員が、「委員会の調査はNHKの調査報告書への疑問から始まった。この意見書を読んで、自分たちの番組作りはどうだったのかを検証して欲しい」と述べた。中野委員は、「慎重に進めた事実認定の結果、放送された内容と事実の間にある落差が大きすぎると感じた。意見書を基に良い番組作りを進めて欲しい」と述べた。升味委員長代行は、「視聴者に報道が真実かどうかを確かめる術はない。制作現場の皆さんは、視聴者が番組を見て、その内容を信じて社会を見る目をはぐくんでいくことを考えながら、制作にあたって欲しい」と述べた。

記者とのおもな質疑応答は以下のとおりである。

  • Q:「重大な放送倫理違反」と判断したが、「重大な」が付いた理由は?
    A:視聴者が報道番組に寄せる信頼を裏切るレベルの倫理違反、という意味で「重大な」という形容を付けた。(川端委員長)

  • Q:この事案が「やらせ」でなければ何が「やらせ」なのだろうかという疑問がある。委員会では議論にならなかったのか?
    A:この問題を「やらせ」のあるなしということのみで判断するべきではないと考えた。また、「やらせ」の定義の問題にしたくないとも考えた。番組は、事実が全くないのにゼロから作り上げたわけではないので、ねつ造とまでは言えない。多重債務者は信用情報機関のリストに載っている状態であり、ブローカーとされた人物は専門用語を使って手口を詳しく語ることができた。さらに、多重債務者は全く出家のことを考えていない、という状態ではなかった。従って、NHKガイドラインにあるような「事実のねつ造につながる『やらせ』」ではない。ただ、視聴者の一般的な感覚からすると、NHKガイドラインの「やらせ」の概念は狭いと感じるだろう。(川端委員長)

  • Q:自民党内には「BPOはお手盛りではないか」という意見がある。BPOに対する疑念があるのではないか?
    A:BPOの意見に対して放送局が改善策を取る、という「循環」があるようになったが、こうした「循環」が完全な状態ではないのも事実で、放送倫理が問われるケースが少なくなっているわけではいない。ただ、少なくとも放送局はBPOの意見に従って自主的自律的に改善策を講じていて、前には進んでいるのではないか。(川端委員長)

  • Q:野党からのNHKへの事情聴取も今回あったが、与党とどう違うのか?
    A:政権与党であるがゆえに、呼ばれた放送局側は事実上の強制力を感じざるを得ない点が問題である、と意見書で指摘した。(川端委員長)

  • Q:A氏がブローカーであるかどうかについて、委員会はどのように判断したのか?
    A:ブローカーの定義そのものが難しいが、少なくとも「経営が行き詰った寺などを多重債務者に仲介することによって、多額の報酬を得ているといいます」という番組でのナレーションとは違うと判断した。(升味委員長代行)
    A氏は活動拠点を持って、B氏以外の人の出家詐欺を仲介した、という事実は確認できなかった。(藤田委員)

  • Q:出家詐欺が広がっているかどうかの、委員会としての判断は?
    A:広がっていることを確定的に言える材料はなかったが、一方、全然広がっていない、とも言いきれないと判断した。(川端委員長)
    番組に登場する出家の仲介をうたうサイトの存在は確認した。(中野委員)

  • Q:ブローカーではない人物をブローカーとして放送したことについて、委員会での議論はどのようなものだったのか?
    A:いわば、相談場面の丸投げという形で取材がなされたこと自体に大きな問題がある。事後の取材もない。安直な取材だったことに問題を感じた。(升味委員長代行)

以上

第174回 放送と青少年に関する委員会

第174回–2015年10月27日

テレビ東京『ざっくりハイタッチ』の"芸人のおむつ交換の企画"など審議入り…など

10月27日に第174回青少年委員会を、BPO第1会議室で開催しました。5人の委員が出席しました。まず、9月16日から10月15日までに寄せられた視聴者意見から、1案件について討論し審議入りすることを決めました。そのほか、10月の中高生モニター報告、調査研究、今後の予定について話し合いました。
次回は11月24日に在京局との意見交換会・勉強会と定例委員会を開催します。

議事の詳細

日時
2015年10月27日(火) 午後4時30分~午後6時45分
場所
放送倫理・番組向上機構 [BPO] 第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
汐見稔幸委員長、最相葉月副委員長、稲増龍夫委員、大平健委員、菅原ますみ委員

視聴者意見について

●「"赤ちゃん育児教室"と題し、芸人がおむつ着用で寝転がり、そのおむつを脱がせたり(画像処理はしてある)、セクシー女優がローションで刺激させ男性器を反応させたりしていた。こんな下品なことを公共の電波で流すことはひどい。育児とは苦労の連続であり、子育てとエロ・下品を結びつけないでほしい」という視聴者意見があった『ざっくりハイタッチ』(テレビ東京、9月12日25時15分から30分間)について委員全員が番組を視聴し討論しました。委員からは次のような意見が出ました。

  • 深夜の時間帯ではあるが、人気芸人が出ているだけに、録画やネットで子どもたちが見ることもあるだろう。子育てを愚弄しているとは感じなかったが、不快感が残る。女性のマッサージのシーンは性的な問題があると思う。
  • やり過ぎとしか言いようがない。テレビ局は面白ければ良いと考えているのだろうか。子どもたちのいじめにも繋がる可能性がある。
  • 不快で、下品な番組だと思った。しかし青少年委員会で主観的な判断部分の線引きができるかどうかは難しい問題だ。ただ、社会的に悪影響があると考えるなら何らかの形で注意を促す必要はあると思う。
  • 芸人同士のおふざけをテレビで放送する場合、テレビ局がどれだけコントロールできているのか。また、このような内容の番組を放送することは放送局のイメージダウンに繋がると思うが、どのような経緯で企画・制作・放送されたのか聞いてみたい。
  • このような放送を続けていると、やがては公権力が介入し自由な番組作りができなくなる恐れもある。以前「中年男性のおむつ交換シーン」に関して"委員会の考え"を公表しているが、その時よりひどい内容になっている。当該放送局は青少年委員会のこれまでの審議をどう捉えていたのだろうか。聞いてみる必要がある。

討論の結果、審議入りし質問状を当該放送局に送って回答を求め、次回委員会から実質審議に入ることにしました。

●「ぬいぐるみのウサギを幼児が殴るアニメがあった。子どもが怖がっていた」という視聴者意見があったアニメ番組について話し合いましたが、全体として問題はないと判断しました。

中高生モニター報告について

今回は、9月と10月の中高生モニター報告を掲載しています。
まず、9月の中高生モニター報告は、「番組企画を考えてください」というテーマで書いてもらい29人から報告がありました。様々な企画を中高生ならではの視点から考えてくれました。
今回目立ったのは、TwitterやLINEなどSNSを駆使して多くの情報を取り、双方向で視聴者が生で参加できる番組が見てみたい、という意見でした。「『双方向クイズ クイズタイムトラベラー』…視聴者も参加できる「双方向番組」である。少し前まではよく放送していた双方向番組だが、なぜか今はあまり企画がない。私は放送されたら是非見るし、参加する」(鹿児島・中学3年女子)。「『朝の15分ニュース -LIVE ライブ-』…TwitterなどのSNSと連携して、視聴者の意見をリアルタイムで番組制作サイドに届けられるようにすることで、番組の良い点、悪い点を次回の放送に活かしていくような番組」(埼玉・中学3年男子)。「『家族みんなで!世界のテーマパーク巡り』…毎週、家族で楽しめる世界のテーマパークを巡り、有名な所から、そうでない所まで幅広く紹介する。また、毎回Dボタンを使って視聴者参加型クイズを行う。赤青黄緑の四択で、一番投票数の多かった答えを視聴者の答えとし、その正解数で泊まるホテルのランクが決まる」(千葉・中学2年女子)。
また、大変ユニークな企画も寄せられました。「『これって、何のためにあるの?~モノの表記編~』…私が作ってみたい番組は、ジュースや牛乳、お菓子の袋などに記入されている"表記"についてです。それぞれ違う表記を集めてその意味を映像と共に伝えていくという内容です。家族で一緒に見て楽しめる番組がいいです」(兵庫・中学1年女子)。「『Hello, World!』…Android やIOSのモバイルアプリ開発やWebサービス、映像編集やゲーム開発などを学べる番組があるといい。アプリなどの作り方を伝えるだけでなく、視聴者が作ったオリジナル作品を番組内で紹介したり、必要に応じて素材を番組ホームページで配布したりするなどして、オリジナルの作品を作りやすくする」(岐阜・高校2年男子)。「『動画の裏側』…いつも見ている動画がどんな機材を使い、どのような工夫をして動画を撮影しているのかを、細かな説明つきで教えてくれる番組。いつも見ている動画が、用意や撮影にどれだけ苦労しているのか、どれだけの費用が掛かっているのかを知りたくなったのでこういう番組を考えた」(千葉・中学1年男子)。

■中高生モニターの意見と委員の感想

【委員の感想】いい企画がたくさんあった。とても面白く読んだ。昭和の歌手とそのヒット曲を振り返ることによって昭和という時代を表現する企画などは秀逸だった。

  • (東京・中学3年男子)タイトル:『天国からの歌声~(1)村下孝蔵』
    内容:既に亡くなった昭和の歌手をヒット曲と共に振り返る音楽&トーク番組。
    司会:TBS安住伸一郎アナウンサー。ゲスト:取り上げる歌手ゆかりの著名人。
    "昭和の歌"の素晴らしさをこれからの世代に知ってほしいと思ってこの番組を考えた。間延びしないよう30分番組として、歌の持つ魅力をストレートに伝えたい。

【委員の感想】インターネットの世界の裏側に入り込む企画がとても良かった。全体的に、子どもたちがとても新鮮な視点を持っていることが分かった。

  • (千葉・中学1年男子)タイトル:『動画の裏側』
    対象は小中高校生。放送時間帯は19時から20時。キャスターはHIKAKIN、SEIKIN、はじめしゃちょー~。
    いつも見ている動画の作成現場に踏み込み、内情を明らかにする番組。10分程度の動画にどれくらいの撮影時間がかかっているのかを4択クイズで視聴者が予想するコーナーも作る。この3人はユーチューバの中でもメジャーで小学生にも人気がある。

●【委員の感想】大多数の「普通」の人の生活が見たい、平均的な姿を紹介してほしい、という中高生ならではの等身大の企画が目立った。若い世代の悩みを生放送で募集して番組に参加させる企画や、学校を舞台にした企画などが複数寄せられた。

  • (東京・中学1年女子)タイトル:『内村さんの学校訪問!』
    対象は学生。放送日時は日曜日の正午から。キャスターは内村光良など。
    内村さんが色々な学校(小、中、高校、大学、専門学校、教習所など)に来て、一日生徒になってみんなと一緒に授業を受けたり遊んだりする。学校の特徴や面白い部活などを紹介する番組。

●【委員の感想】大学のゼミで毎週番組企画を学生に作らせているが、それと比べて遜色ない優れた企画が多かった。なかでも生活の実体験から出た小さな発見、物の"表記"を取り上げるという中学1年生の企画は素晴らしい。

  • (兵庫・中学1年女子)タイトル:『これって、何のためにあるの?~モノの表記編~』
    品々の特徴によって書き方の印刷表示が異なるため、それぞれ違う表記を集めてその意味を映像と共に伝えていくことによってその大切さが分かるバラエティー番組。

●【委員の感想】正直に言って一つも見たい番組はない。番組の制作企画を現場でやっていた経験からすると、どれも実現するのが難しい企画ばかり。実際に番組にするには高いハードルがありそう。

●【委員の感想】次にテレビを支える人材を発掘する番組企画には心ひかれた。テレビ離れの中、視聴者にも加わってもらい才能ある人材を発掘するという発想は面白い。

  • (青森・中学3年男子)タイトル:『ニュー・スター発掘隊』
    10代から30代を対象とする。放送日時は19時から20時。キャスターは、くりぃむしちゅう、ナインティナイン、ネプチューンなど。
    若手の芸人さんやミュージシャンに自分の発表をしてもらい、プロから講評を受ける。1年に1度最優秀をとった人たちを集めてチャンピオンを選ぶ。この選考には視聴者にも加わってもらい、視聴者のニーズにあった人を発掘する。

●【委員の感想】多くの中高生が、参加型、双方向の番組を求めているようだ。自分たちが考えていることを発信して社会を作っていく道具としてテレビを見ているのではないか。情報を一方的に送る送り手としてのマスメディアと受けるだけの受け手としての視聴者の関係から、個々人がインターネットで自分の考えを発信する社会に移行し、また、その先の世代の社会におけるテレビというマスメディアのあり方を示唆し、問いかけているように感じた。

■モニターの企画書に対する在京局の現場の方から届いたコメント

・(神奈川・高校2年女子)タイトル:『キョウカイのキョウカイ線』

キャスター他:(MC)華丸大吉さん、南キャン山里さん、小藪さん。(レギュラーゲスト)坂上忍、有吉弘行、アンタッチャブル山崎、バカリズム、おぎやはぎ小木。
番組内容:バラエティー。
日本に数多くある「○○協会」(日本コナモン"粉物"協会、日本ツインテール協会など)を調査し、その協会のディープな世界に触れる。最後に出演者に、この協会は必要か必要でないのかの境界線をひいてもらう。

日本テレビ 制作局チーフ・プロデューサーの感想 (担当番組『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』)

ハイレベルな企画が多く驚きました。実用性のある番組、ショートコンテンツを意識した番組など、テレビ番組に「情報」「双方向性」を求める傾向がありました。『キョウカイのキョウカイ線』は、コンセプトが非常に明確で、深夜の時間帯で即見たいですね。企画には、実際の「情報」に基づくものと、「フィクション」の2つに大別されますが、コント要素のある、無から作り上げるバラエティー企画も是非考えていただきたいジャンルです。

TBSテレビ 制作局制作一部プロデューサーの感想

民放制作者はよく「身の回り5m以内のモノに視聴率はある」といいます。映像編集やアプリといった中高生にとって「手の届く範囲の好奇心」を取り上げた企画が多数ありましたが、なかでも商品表示の意味を探る企画は身近な意外性という視点が秀逸でした。一方で手の届く現実ばかり描きがちな昨今のテレビですが、自戒の念も込めて、次世代を担う皆さんには、是非「手の届かない未知の世界」にワクワクするような企画も期待したいですね

・(長崎・高校1年女子)タイトル:『わらいっぱつ!!!』

夜11時以降の30分番組。1回につき、4組の一発屋(NEXTブレイクもしくはまだ無名)or素人・中堅・大物の過去ネタを拾うのも可!。1組目から視聴者のネット、Twitter投票開始。4組目終了後、みんなの「見たい!」が一番多く集まった人のネタを最後にもう一度見せる。芸人がのびのびと芸人らしくあることのできる番組。

フジテレビ 編成制作局バラエティ制作センタープロデューサーの感想(担当番組『ネプリーグ』『バイキング』)

今回、皆さんが求めている番組の多くは、「視聴者がリアルに参加できる番組」「視聴者も参加できる"双方向番組"」「出演者が一般人のリアルな番組」「Twitterなどで視聴している人たちがどんどん参加して、意見の言える番組」「Twitter やFacebookなどのSNSを活用し参加する番組」であり、テレビは見るためだけのものではなく、自ら参加し共に作るものだと考えているんだなと、改めて実感しました。数年前にはなかったSNSをうまく使いながらのテレビ視聴が中心になっている番組こそが、中高生の皆さんにはごく自然で当たり前の風景であることも再認識し、新たな番組作りへの意欲が湧いてきました。また『わらいっぱつ!!!』は、とてもシンプルでありながら笑いや芸人さんに対する愛が伺え、もう一度原点に返っての番組作りは大切だと思いました。実際今ネタ番組が見直され、始まっています。その中で新しい切り口がみなさんの新鮮味あふれる発想と情熱で見つけられると、素敵な新しい番組の誕生になると思いました。

・(神奈川・中学1年女子)タイトル:『ティーンリアル』

双方向で視聴者がリアルに参加できる番組が見てみたい。生放送の番組内で、若い世代の悩みや質問などをリアルタイムで募集して、電話やTwitterなどで視聴している人たちがどんどん参加して、意見の言える番組が面白いと思う。大人が作り上げた番組内容ではなく、今を生きている若い世代の生の声が聞けると思う。

NHK 制作局青少年・教育番組部チーフ・プロデューサーの感想(担当番組『Rの法則』など)

企画書を拝見し、みなさんがテレビを通じて「ためになる情報を得たい」「家族と楽しく時間を過ごしたい」と思っていることが、まず強く伝わりました。それはテレビ本来が持つ役割を的確につかんでいることを意味します。それを踏まえ、それぞれ企画した見せ方には工夫があり、感心させられました。特に『動画の裏側』『ティーンリアル』『かぞくみんなで!世界のテーマパーク巡り』『クイズタイムトラベラー』『わらいっぱつ!!!』など、データ放送やSNS を用いた双方向の演出企画は、これからのテレビの可能性をより深く考えていると思います。

・(愛知・高校2年男子)タイトル:『みんなでつくる学校』

ツマラナイ、メンドクサイことも多い「授業」。どうすれば、もっと楽しく面白く、そして価値のある学びができるものとなるか。中高生が自由な発想で楽しく学べる「理想の授業」を企画し、学校の先生に提案する。学校の先生と生徒が一体となって授業を企画し実際に行う。従来の講義型形式にとらわれず、もっと生徒が参加して楽しいと感じることができるような授業を生み出す。その事例を学校の先生には今後の授業づくりに活かしてもらう。

・(山梨・高校2年男子)タイトル:『今日の百科事典』

番組のコンセプトは"人生を豊かにする5分間"。毎日日替わりで様々な分野の教養をテーマとして取り上げ、各分野の専門家にその概要を説明してもらうというもの。放送時間帯はゴールデンタイム終盤の5分程度(『世界の車窓から』のようなイメージ)。内容は大人から子どもまでその分野の知識が全くない人やこれから勉強しようとしている中高生にも、わかりやすいものとし、全年齢を視聴対象とする。

テレビ東京 制作局プロデューサーの感想

企画書の中に「家族みんなで!世界のテーマパーク巡り」「みんなでつくる学校」など「みんなで」番組作りに参加していく番組が多数入っていたのが印象的でした。SNS全盛時代に、中高生の皆さんにも同じ時間と体験を多くの人と共有するツールとして、テレビを認めていただいているのかもしれない、と可能性を感じました。「ティーンリアル」や「クイズタイムトラベラー」も面白くなりそうな企画ですね。また、日頃長時間の番組ばかり作っている身としては「今日の百科事典」のような高品質なミニ番組を作ってお届けすることは、一つの夢でもあります。テレビ版の"春秋""天声人語"というアイディアはとてもよいと思います。

テレビ朝日 総合編成局制作1部 統括担当部長の感想

中高生の皆さんから提案された企画を見てまず思うのは、プロである現役テレビマンから提出される企画と根本的にほぼ変わらないなあ!ということです。若手のタレントさんが何かを調べたり、だれかを手伝ったり、いわゆる"汗をかく"企画を複数の方が提案されていました。こういったものが古くもならなければ、飽きられもしないのがテレビの本質です。我々が中高生だった時には考えもつかなかった点は、ネットの動画やSNSを使用した双方向性のある企画などです。新しいものを追い求めるのは、若者とテレビの常でこれもまた一つのテレビの本質であるのかもしれません。何をすれば"だれもまだみたことが無い"企画になるのか?永遠のテーマです。しかし、そういう企画は何らかの問題があるから放送されなかったはず。中高生のみなさんには自由な発想で思いついた斬新な企画が"なにをクリアすれば実際かたちになるのか?"を考えてほしい。テレビに限らず、将来皆さんがかかわる仕事のほとんどがそんな発明の積み重ねでできているのかもしれません。

10月の中高生モニター報告は、「最近見た番組の感想(報道・情報・ドキュメンタリー)」
というテーマでリポートを書いてもらい27人から報告がありました。
好きな番組に対する暖かい報告がいくつかありました。『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)…「司会のウッチャンが明るく面白くしゃべってくれるのが、僕の好きなところです。こういう子どもが見ても面白いと思える情報・報道番組がこの先増えていったらいいなと思いました」(千葉・中学1年男子)。『NHKスペシャル"ジョーズ"の謎に挑む~追跡!巨大ザメ~』(NHK)…「この番組には、本当にドキドキわくわくさせられた。まるで映画を見ているような迫力を感じた」(兵庫・中学1年女子)。『情熱大陸』(毎日放送)…「私はこの番組が大好きです。今まで知らなかった職業、知識、情報などをこの番組を通して知ることができます。視野がとても広がります。将来のことについても考えるようになりました」(埼玉・中学2年女子)。『密着 市川染五郎in Las Vegas』(NHK) …「伝統芸能と最新の技術の融合を目指して奮闘する姿がすごかった。最初は失敗が多くそれでもあきらめずに挑戦し、最後、大成功で拍手喝采を浴びたところは鳥肌が立った」(福岡・中学2年女子)。『U-doki』(宮崎放送)…「地元のニュース情報番組。エンタメ、グルメ、トレンド、天気などたくさんの内容が満載です。私は"ヒューマン"という宮崎出身で県外の様々な業界で活躍されている方を紹介するコーナーが地方の番組ならではの企画で、とてもいいなと思います。土曜日の夕方、家族でホッとできる時間を作ってくれるこの番組が大好きです」(宮崎・高校1年女子)。
一方で、今回も、番組内容に対する厳しい意見が寄せられました。「『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)とか、『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)とか、『水曜日のダウンタウン』(TBSテレビ)などは、下品であるだけでなく、"イジメ助長番組だ"と、みんな言っています。こんな愚劣な番組を恥ずかしくもなく放送する大人の学力低下は極めて深刻です」(富山・中学1年男子)。『ZIP!』(日本テレビ)…「私はスタジオの出演者が異常に多いところが気になる。何のためにいるのかよく理解できない。こんなに人をスタジオに集めて出演料を払っているのであれば、その経費をロケに回すなどしてより豪華な番組にした方がいいと思う」(千葉・中学3年女子)。
また、安易な制作姿勢への意見も寄せられました。「最近、YouTubeなどに投稿された動画を集めた番組をあちこちのテレビ局でやっている。投稿された動画に頼るのではなく、自分たちで企画し制作した番組がもっと見たい」(千葉・中学2年女子)。「秋の番組改編時の特番で気になったのは、仰天映像や恐怖映像などの動画を寄せ集めて、スタジオでタレントが見ながらコメントする番組が多かったことです。YouTubeなどに一般人が投稿したような映像を頼りに番組を作るのはちょっと手抜きな感じがします」(東京・中学3年男子)。
『バース・デイ』(TBSテレビ)…「フィギュアスケート選手の浅田真央さんについての短いドキュメンタリー。こんなに内容が薄くてつまらない番組は見たことがありません。他の番組からとってきた映像をつなげただけで、しかもその映像を繰り返し放送しているだけでした」(神奈川・高校1年女子)

■中高生モニターの意見と委員の感想

●【委員の感想】最近の報告を読むと、モニターの文章や見方に個性がはっきり出てきたように思う。かなり激しい意見を寄せてくるモニターもいる。

  • (富山・中学1年男子)『サンデーモーニング』(TBSテレビ/チューリップテレビ)に対して「反日に偏向した悪質な報道番組だ」と言う友だちが多い。日本の情報番組の一部は政治的なプロパガンダの場になっているのではないか。平成生まれの日本人が世界で不当な不名誉を背負わないように、まともな番組を制作してほしい。

●【委員の感想】マニアックな番組をまじめに真正面から視聴している。いい報告を寄せてくれている。

  • (岩手・高校2年女子)『ニッポン戦後サブカルチャー史II』(NHK Eテレ)。他の番組には見られない構成で、視聴者自身も出演する受講生の一員になった感覚で見ることができ、自分の考えを持ちやすくなる。風間俊介さんら受講生として出演する3名が、ただ講義を聞くだけでなくしっかり意見を持っていることもこの番組の重要な要素だ。

●【委員の感想】私も大変鋭い見方をしているモニターが多いと感心した。番組を分析するだけでなく、陥りやすい危険性にも触れている。

  • (愛知・高校2年男子)『クローズアップ現代』(NHK)。この番組で重要なのは狙いの設定とキャスターの専門家に対する問いの投げかけ方である。毎回はっきり決められた具体的ねらい、質問は視聴者に分かりやすくしかもねらいに沿うよう工夫されている。その一方でこれら2つの要素は危険性もはらむ。抽象的な質問→具体的な質問→全体をまとめた抽象的な質問という流れで行く構成は、方向性がずれてしまった場合、何が言いたいのかがかすんでしまう。同時に、例えば政治的なことに番組を利用できるようになり、公平性が確保できなくなる恐れも出てくるのではないか。

●【委員の感想】番組の中にはきちんと数字の意味が把握できてないニュースを流していたり、間違った統計の数字を比較したりしていることがあるが、内容の矛盾点をしっかり指摘する報告があり、頼もしいなと感じた。

  • (岐阜・高校2年男子)『ほっとイブニングぎふ』(NHK)。岐阜県内の地域別「田園型交通事故」発生件数を紹介していた。単純にその数のみを比較していたのには疑問を呈したい。その地域の自動車の登録台数に対する交通事故発生率を比較するなどの方法をとらないと正しい結論には行き着かないはず。統計データなどの数値を使って説明する時は1つだけの要因でなく、考え得る全ての要因を勘案して説明を導き出すべきではないか。

●【委員の感想】番組内の表示方法や音声の大きさに対して意見があった。

  • (長崎・高校1年女子)『ZIP!』(日本テレビ/長崎国際テレビ)は、白と黄色を基調にしたテロップが見づらい。誰にとっても見やすい、ユニバーサルデザインのような番組作りを皆で追及してみては?
  • (滋賀・高校2年女子)最近の番組はどれも効果音やナレーターやトークの声が大きく、いろいろな色を使ったテロップが表示されていて、番組を見ても疲れがとれた気がしない。もっとのんびり楽しく見られる番組を作ってほしい。

●【委員の感想】遺跡に大きな関心を持っているモニターが、関連した番組を比較し感想を述べている。

●【委員の感想】回を追うごとにモニターの見方が鋭くなり、深く掘り下げた内容の報告が多くなった。

  • (東京・中学3年男子)ドキュメンタリー番組は圧倒的にNHKで放送されるものが、内容が濃く面白い。なかでも気に入っているのが『地球ドラマチック』です。しかし残念なことにこれは日本のテレビ局が制作したものではないのです。『世界ふしぎ発見!』(TBSテレビ)はテーマによっては面白いが、クイズのやり取りなどの時間が長く掘り下げ方が弱い。かといって『世界遺産』(TBSテレビ)のようだと美しい映像がメインなので、環境ビデオのようにさらっと流してしまう。『NHKスペシャル』は回によって政治や社会問題などがテーマの時も多く堅苦しいイメージで毎回見る気にはなれない。1つのテーマでじっくり取材した、見応えがあって楽しめる番組を作ってほしい。

●【委員の感想】自由記述欄にも、もっともな意見が見られた。

  • (鹿児島・中学3年女子)有名人の結婚の話題をどの局も大げさに引っ張り過ぎではないか。もっと重要である情報を厳選して視聴者に提供してほしい。

調査研究について

  • 調査担当の菅原委員から次回調査のテーマ「青少年のテレビに対する行動・意識の形成とその関連要因に関する横断的検討」について、調査方法、スケジュール等の説明がありました。2015年度は予備調査、2016年度に調査の質的検討、2017年度に全国調査を行ない、討論・検討を経て報告書を作成することにしました。

今後の予定について

  • 10月23日に開催された関東独立放送局研修会に講師として参加した最相葉月副委員長から、当日の報告がありました。
  • 10月30日に開催する「青少年との意見交換会(立命館守山)」について事務局から説明がありました。今回は立命館守山高校の1年生と2年生およそ300人と、朝日放送からテレビ制作・ラジオ・報道担当者とアナウンサー、汐見委員長、最相副委員長、稲増委員が参加しての意見交換会で、多くの現役高校生を対象にした初めての意見交換会になります。
  • 11月24日に開催する「青少年委員会委員と在京局担当者との意見交換会・勉強会」の進捗状況などについて事務局から説明がありました。テーマは前回に引き続き「インターネット情報の取り扱いについて」です。当日は、立教大学社会学部メディア社会学科准教授の砂川浩慶氏にご講演いただいた後、砂川講師を交えて、委員と各放送局の担当者が意見交換する予定です。

その他

  • 「青少年へのおすすめ番組」(11月分)について、事務局から報告がありました。

2015年10月に視聴者から寄せられた意見

2015年10月に視聴者から寄せられた意見

TPPの大筋合意のニュースや番組に対して、是々非々の放送をしてほしいなどの意見や、ノーベル賞を受賞した2人の日本人科学者への質問が稚拙過ぎるといった意見。横浜市のマンションでのデータ改ざん問題に対する過剰な報道姿勢に、住人などから多くの批判が寄せられた。

2015年10月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は1,146件で、先月と比較して649件減少した。
意見のアクセス方法の割合は、メール68%、電話29%、FAX1%、手紙ほか2%。
男女別は男性70%、女性27%、不明3%で、世代別では40歳代28%、30歳代28%、50歳代18%、20歳代14%、60歳以上10%、10歳代2%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。10月の通知数は503件【46局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、18件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

環太平洋経済連携協定いわゆるTPPが大筋合意したが、それを報じたニュースや情報番組に対して、是々非々の放送をしてほしいなどの意見が寄せられた。
2人の日本人科学者がノーベル賞を受賞したが、生中継に出演してくれた受賞者に対する質問が、あまりに稚拙だといった批判などが寄せられた。
横浜市のマンションでのデータ改ざん問題が発覚したが、ヘリ取材をはじめとする過剰な報道姿勢に対して、住人などから多くの批判が寄せられた。
再びゆとり世代を扱った番組に対して、ゆとり世代のいい面も紹介するべきだなどといった意見が寄せられた。
ラジオに関する意見は36件、CMについては32件あった。

青少年に関する意見

10月中に青少年委員会に寄せられた意見は85件で、前月から、17件増加した。
今月は、「暴力・殺人・残虐シーン」が17件と最も多く、次に「性的表現」が12件、「表現・演出」が9件、「その他」が8件、「言葉」が7件と続いた。
「暴力・殺人・残虐シーン」は、少年が主人公のアニメ番組での射殺シーンなどについて多くの意見が寄せられたほか、ドラマの暴力シーンに関する意見も複数あった。
また、青少年委員会が深夜のバラエティー番組について審議することについて、賛否それぞれの意見があった。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • TPPが大筋合意したが、デメリットばかり取り上げて政権批判しかしないことはおかしい。何故メリットも取り上げられないのか。もっと是々非々の放送をしてほしい。

  • TPPの報告の後に、政府の国内の農業支援策について論じていたが、農家のためになぜ税金を投入しなければならないのだとも受け取れる発言があった。これからの日本の農業の問題なのだから、もっと慎重にコメントしてほしい。

  • 物理学でノーベル賞を受賞した科学者に対しての生中継での質問が稚拙すぎる。また、全く関係のないことを言って笑いを取ろうとしていた。科学者に対して失礼だし、インタビューするならば、最低限の勉強をしてからにするべきだ。番組のレベルの低さを感じた。

  • データ改ざんの横浜市マンションの報道で、記者と名乗る人物がマンションの住民に声をかけ「説明会の資料がないか」と追いかけまわしているようだ。また、マンションの裏のお店の駐車場に中継車を置き、取材に応じるとも何も言っていないのに、いきなりカメラ数台に囲まれ、怖い思いをしたという話も聞いた。説明会の音声を入手し、巧みに編集して、あたかも説明会が大荒れだったかのような報道もしている。

  • 私は、今問題となっているマンションの住人である。建物を支える杭の一部が固い地盤に達してしないことが判明した後、ヘリコプターの騒音があったり、マンション前には多くの報道人が集まり、外出の際や子ども達の通学時に、インタビューを求められるなど、支障をきたしている。子ども達は集団登下校をせざるを得ない状況だ。また、連日、住民説明会が開催されているのだが、その様子を生中継する局もあり、夜間の騒音などの迷惑をこうむっている。私の所有している棟は何の問題もないし、また、傾きが確認された棟の住人も生活には全く支障がない。大げさに報道されることで、資産価値に影響を与えている。過剰な取材は控えていただきたい。

  • 横浜市の杭の問題が見つかったマンションについて、「今朝から杭の調査が始まった」と放送し、植木の撤去などの作業をする様子をヘリコプターで撮影していた。先週からヘリコプターの騒音でマンション住民だけでなく、地域住民全体が非常に迷惑している。マンション裏手のドラックストアに無断で中継車を停めたり、住民を追いかけまわして、いきなりカメラで撮影したり、取材のモラルを欠いている。子ども達は学校で「傾いたマンション」などと、言われて心を痛めている。

  • 横浜市内の大型マンションが傾く事態となっている件を取り上げた。その際、大阪の某マンションの雨漏りのことや、中国のマンションのドアが段ボールで出来ていることなど、今回の件に関係ないことまで例に出した。今一番不安な気持ちでいる横浜のマンションの住民の感情を逆なでするようなものだ。過剰な報道で、住民の感情を煽っているように思える。

  • 沖縄県の知事による「米軍基地移転承認の取り消し」について伝えていた。その際、男性キャスターが「知事は沖縄の民意を貫こうとしている」などと説明し、移転承認の取り消しが沖縄県民の総意であるかのように表現した。移転に賛成する県民もかなりいるそうなのだが、ニュースではそれらの人達の存在には触れず、反対派の主張だけを報道した。報道の偏りと言われても仕方がない。

  • 沖縄の辺野古基地問題を取り上げていたが、コメンテーターの男性が「地元の人のほとんどが基地に賛成」「知事の本音は辺野古基地建設反対ではなく、政府からの補助金を増やすための駆け引き」という趣旨の解説をした。さらに「現地で反対運動を行っているのはほとんどが本土の人か、日当をもらって出向いてきた人」などと述べた。そういった間違った情報をもとに出演者が議論していて、番組として酷かった。

  • 大阪では府知事、市長選挙まで1ヵ月を切っている。この状況で立候補を予定しているある政党の主たる代表を招き、放送することは、有権者に対しての投票誘導ともとれるのではないか。放送の公共性、公平性から見ても、重大な違反ではないのか。

  • 福島県内の放射線量に関する報道について疑問を持っている。報道では「風評被害」と言っているが、”風評被害”とは「根拠のない噂のために受ける被害」のことであって、今の福島の肉、魚、野菜などで基準値以上の数値が出ているといわれている。そのため”風評被害”という言葉はふさわしくない。地元のことを知らない人は報道を信じて、多量の放射線物質を含んだ食品を口にしてしまうだろう。いずれにしても、正しい情報を伝えてほしい。

  • 事件のニュースで気になる言葉がある。「全裸で」と「衣服を身に着けていない状態で」はどちらも嫌な言葉だが、どうしても報道の必要があるなら、「衣服を身に着けていない状態で」の方がまだ多少ましだ。「全裸で」という言葉は、あまりにも露骨だ。殺されただけでも気の毒なのに、顔写真とともに「全裸で」という言葉がつくと、自分が被害者だったら耐えられない。

  • 事件・事故の被害者や加害者の情報として、個人のブログやフェイスブック、街中の防犯カメラの映像を利用しているが、防犯カメラは法的にマスコミが安易に利用していいものなのか。また本人自ら行ったとはいえ、インターネット上に公開している個人情報をマスコミが公開していいものなのか。本人や親族、サイト運営者の同意等は必要ないのか。情報番組やワイドショー等で安易に扱っているように思える。

  • 女子高生殺害事件について、「現場周辺の地域はライトノベルや少女漫画、アニメの舞台になったことがある」などと報じられているが、この事件と一体何の関係があるのか。アニメや漫画の舞台になり、新聞や雑誌で取り上げられたことが事件のきっかけとでも言いたいのか。アニメや漫画が好きな人間を、犯罪と結び付けようとしているとしか思えない。

  • 私は福祉施設の職員だ。最近「下流老人」という言葉がよく使われるようになった。低所得者のことを言うようだが、差別的な表現だ。低所得者を見下しているようで問題だ。たとえ経済的にゆとりがなくても、心豊かに暮らしている人も多い。この言葉が定着し、その立場にいる人を見下す風潮が助長されないかと、危惧している。

【番組全般・その他】

  • 大反響と銘打ち、ふたたび「ゆとり世代」を扱っていたが、明らかにゆとり世代をバカにした番組構成だった。出演しているタレントやモデルのキャラが演出なのか、元々こういった方々なのかは不明だが、ゆとり世代のイメージを悪くさせる、悪者扱いにする演出は許せない。ゆとり世代という言葉はもはや差別用語では無いか。

  • 若者をゆとり世代と報道する番組を見かけるが、不愉快だ。今の若者は生まれた時から不況で、就職でも苦労をしており、必ずしも、ゆるい環境で生きたとは言えない。もっと、若者の頑張りやいい面を報道すべきではないか。今の報道はマイナスな部分ばかりを取り上げている。

  • 女優が亡くなって数日たつのに、未だに特集を組んでいる。現在、癌で治療中の患者やその家族は生きる望みが湧くどころか不安になる。このような特集番組は癌と戦っている人への配慮に欠けている。喜びの出来事なら何日も継続して特集を組むことはよいと思うが、不幸な出来事を繰り返し放送することはやめて頂きたい。

  • 「女性タレントの退院会見」を伝えている。その際、自身が明かした「医師から『(今後)5年の生存率は50%、と告げられた』」ということを、どの局も大きく取り上げている。この数字は、同じ癌に苦しむ一般視聴者にとって、あまりに衝撃的だ。人の生死にかかわる内容は、もっと慎重に扱って頂きたい。

  • 深夜番組のバラエティーなのは理解できるが、メンバーの中にAV女優が含まれている。職業に貴賤はないというが、如何なものか。先日も、MCからの「仕事は何?」の質問に対して、「○ックスです」と、恥じらいもなく回答するシーンがあった。公序良俗に反する内容を悪びれもなく語り、それを連呼する。放送内容の早急な改善を希望する。

  • 「天気予報」の中で、「爆弾低気圧」「ゲリラ豪雨」等、物騒な言葉が用いられることが多い。気象庁に問い合わせると「これらは”気象用語”ではなく、気象用語としては『集中的な豪雨、突発的な豪雨』等が該当する。しかしマスコミまではコントロールできない」とのことだった。本来の正しい言葉ではなく、インパクト勝負だけの言葉が氾濫することに危機感を覚える。

  • 深夜枠に放送しているアニメが現実で起こった殺人事件などの影響で放送休止になることがある。一方、ゴールデンタイムのドラマなどでは殺人事件や誘拐を連想させるような事件のシーンがあるが、放送休止にはならない。これは「表現の自由」における差別なのではないか。「アニメは行き過ぎた表現ばかりしているから教育に悪い」と言わんばかり報道しているが、如何なものか。

  • UFOや超常現象映像などを紹介していました。明らかにCGで製作された映像にもかかわらず、外国人が真剣にリアクションし感想を述べている姿がバカらしかった。「えーっ」などのスタジオ音声もわざとらしく思えた。映像が本当か嘘かは断言していないが、視聴者をバカにしているのではないのか。

  • 1分半もの間、画面全体が青色や赤色などに激しく点滅した。最近は規制も厳しいのでおそらく決められた時間を逸脱してはいないのだと思うが、いわゆる「ポケモンショック」のような症状を起こした。半日は目を閉じてもめまいと酔いが止まらず、しばらく嘔吐し続けた。少し短い時間であったなら、色も変化させれば大丈夫だろうと踏み切ったのだと思うが、ツイッターをはじめネットで検索した限り、気分を悪くしている方がたくさんいたようだ。留意してほしい。

  • 新番組や最終回が近い番組にかかわっている俳優や作家が、当日のバラエティー番組のゲストに出演していることが当たり前のようになっている。同じ人が終日顔を出すので、本当に不愉快だ。同様に、新番組やシリーズの放送日の前になると過去の同じ番組の再放送が必ずあるが、如何なものか。

  • 「ウンコ」「チンコ」という読みの名前の人はいるかを検証する企画だった。電話帳で探し「運子」「珍子」という名前を見つけ、アポなしで急に電話をかけ、「ウンコさんですか?」「チンコさんですか?」と聞く。実際には読み方は違っており、運子さんに関しては怒って電話を切ったようだった。彼女達はきっと今までの人生でひどい言われようをしてきたのだろう。それを考えず、面白がってテレビで扱うことは最低だ。

  • 最近よく見かける裸芸人は見ていて不愉快だ。パンツ一つで女性芸能人の前に出てくることは、セクハラだ。局側からすればちょっと話題になり、ギャラが安いから使いたいのだろうが、見ている側の中には不愉快に感じている人もいる。パンツ一つの芸人をテレビで取り上げることはいかがなものか。

  • 必要のない海外ロケが多い気がする。番組を盾にした海外旅行のように見える。スタッフ一行が泊まったホテルのタイアップ宣伝映像を長々流し、それで毎回宿泊代を浮かしているのか。電波の私的流用のような気がする。

  • 一般人の新婚夫婦を迎えトークをする長寿番組だが、この日出演した夫婦の妻が卑猥な単語を連呼する歌を歌っていた。字幕は伏せ字となっていたが、歌はカットされることなく放送された。気持ちが悪かった。一般人夫婦の「ぶっちゃけトーク」が人気な番組なのでカットしなかったのかもしれないが、日曜日の昼間はあらゆる世代が視聴可能な時間帯だ。

  • 地元の情報番組の再放送だった。放送時のテロップ表示で、初めて古い情報だとわかった。電話で確認すると、昨年迄で営業は終了しており、今年はやっていないとのことだった。情報番組の再放送であれば、放送する時点での情報の再確認が必要と考える。放送局に問い合わせしたが、放送にあたり情報の再確認はしないとの回答だった。あまりに安易な番組の2次利用であり、責任感に欠けるのではないのか。

【ラジオ】

  • 楽しいトークで聞きやすいのだが、「自腹で馬券買う」というコーナーが復活していた。「いくらで購入する」と発言していた。馬券を買うことは個人の勝手ではあるが、番組を通してやるのは倫理的にいいのか。賭けごとを推進しているかのようだ。

  • 深夜のコーナーで、「オレンジ色に光った人がいた」と言ったり、現実にはありえない話をした挙句、出演者の女性が突然ものすごい絶叫をした。うとうとしながら聞いていたが、深夜とはいえ如何なものか。

  • ラジオ番組で行われているスペシャルウィーク企画というのが腹立たしい。レーティングの数字を金銭やもので釣ることはいかがなものか。メディアとしては失格ではないか。

【CM】

  • 女性アイドルグループが消費者金融のCMに出演している。若い方でも気軽に借りられるというイメージを与えている。昔の消費者金融と比べてクリーンなイメージを持つ。しかし、いくらイメージがよくなったといっても、”お金を借りる=借金をする”ということは変わらない。現に、何気なく使っているキャッシングのせいでローンが組めない人が多いのだ。

  • 電力会社のCMがよく放送されているが、原発を再稼働させたいという意図がミエミエだ。福島の原発事故については住民の帰還や高濃度汚染水など問題が山積みであり、再稼働した鹿児島の川内原発についても地元の賛否は分かれている。このような状況で原発絡みのCMを放送することは、福島の人々の苦労を踏みにじるものではないだろうか。

青少年に関する意見

【「暴力・殺人・残虐シーン」に関する意見】

  • バラエティー番組で、司会のお笑いタレントが、過去に後輩お笑いタレントを何回ビンタしたかを面白おかしく特集していた。暴力行為を肯定・推奨しているように感じる。

  • 子どもが視聴する時間帯のアニメ番組で、主人公の少年が無抵抗の捕虜や敵兵を射殺するシーンがあった。タイトルを見て、子ども向け番組だと思って視聴した子どもも多いと思う。どうしても放送したいなら年齢制限を設けてほしい。

【「性的表現」に関する意見】

  • バラエティー番組で、司会の男性お笑いタレントが女性ゲストの胸を触ろうとするしぐさを何度もしていた。冗談であろうが、セクシャルハラスメントだと言われかねない行為であり、とても不快だ。

【「表現・演出」に関する意見】

  • 元暴走族の芸能人の実家をリフォームする企画で、昔の暴走族仲間が集まってリフォームを手伝っていた。暴走族は違法行為を繰り返す集団であり、近隣住民に多大な迷惑をかけている。このような人たちを「昔はやんちゃだったが現在は立派になった」として美談にする内容に嫌悪感を覚えた。

  • バラエティー番組で、お笑いタレントによる運動会を行っていた。進行役に小学生を起用したこと自体に問題はないが、現金を持たせてチラつかせたり、指でお金を表すしぐさをさせたりするのはいかがなものかと思う。

【「喫煙・飲酒」に関する意見】

  • バラエティー番組で、出演者がお酒を飲みながら本音を語るという企画があったが、一方のタレントがお酒に弱いタレントに強いお酒を勧めていた。お酒に弱い人に飲酒を強いるのは危険だ。若者が真似ることも考えられる。子どもも見るような時間帯に放送するような企画ではない。

【「委員会」に関する意見】

  • 最近、バラエティー番組の内容に関して、社会の目が厳しすぎるように思う。先日も深夜のバラエティー番組について、青少年委員会が審議入りしたとの報道を見た。私は我々が絶対にできないようなことをしてくれるバラエティー番組に面白さを感じている。何でも規制する方向に流れていくことを危惧している。

第23号

NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見

2015年11月6日 放送局:NHK

NHK総合テレビ『クローズアップ現代』(2014年5月14日放送)と、その基になった『かんさい熱視線』(同年4月25日放送 関西ローカル)は、寺院で「得度」の儀式を受けると戸籍の名を変更できることを悪用した"出家詐欺"が広がっていると紹介。番組で「ブローカー」とされた人物が、演技指導によるやらせ取材だったと告発したのに対して、NHKは「過剰な演出」などはあったが「事実のねつ造につながるいわゆるやらせは行っていない」との報告書を公表していた。
委員会は、NHK関係者のみならず、番組で紹介された「ブローカー」「多重債務者」に対しても聴き取り調査を行った。その結果、2つの番組は「情報提供者に依存した安易な取材」や「報道番組で許容される範囲を逸脱した表現」により、著しく正確性に欠ける情報を伝えたとして、「重大な放送倫理違反があった」と判断した。
その一方で、総務省が、放送法を根拠に2009年以来となる番組内容を理由とした行政指導(文書での厳重注意)を行ったことに対しては、放送法が保障する「自律」を侵害する行為で「極めて遺憾である」と指摘した。

2015年11月6日 第23号委員会決定

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目 次

2015年11月6日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、11月6日午後2時から、千代田放送会館7階のBPO第一会議室で行われた。また、午後3時から記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には27社77人が出席し、テレビカメラ7台が入った。
詳細はこちら。

2016年2月12日【委員会決定を受けてのNHKの対応】

標記事案の委員会決定(2015年11月6日)を受けて、当該のNHKは、対応と取り組み状況をまとめた報告書を当委員会に提出した。
2月12日に開催された委員会において、報告書の内容が検討され、了承された。

NHKの対応

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目 次

  • 1)委員会決定の放送対応
  • 2)放送現場への周知
  • 3)経営委員会・放送番組審議会への報告
  • 4)放送倫理委員会の開催
  • 5)全国勉強会の実施
  • 6)BPO放送倫理検証委員会との研修会
  • 7)「放送ガイドライン」追補版を作成
  • 8)再発防止に向けて

第226回放送と人権等権利に関する委員会

第226回 – 2015年10月

ストーカー事件映像事案のヒアリングと審理、出家詐欺報道事案の審理、ストーカー事件再現ドラマ事案の審理、STAP細胞報道事案の審理、自転車事故企画事案の審理…など

ストーカー事件映像事案のヒアリングを行い、申立人と被申立人から詳しく事情を聞いた。出家詐欺報道事案の「委員会決定」修正案を検討し、ストーカー事件再現ドラマ事案の「委員会決定」案を議論した。STAP細胞報道事案を審理し、自転車事故企画事案の審理に入った。

議事の詳細

日時
2015年10月20日(火)午後3時~8時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
曽我部委員、中島委員、二関委員、林委員

1.「ストーカー事件映像に対する申立て」事案のヒアリングと審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。この番組に対し、取材協力者から提供された映像でストーカー行為をしたとされた男性が、「放送上は全て仮名になっていたが会社の人間が見れば分かる。車もボカシが薄く、自分が乗用している車種であることが容易に分かる。会社には40歳前後で中年太りなのは自分しかいなく自分と特定されてしまう」として、番組による人権侵害を訴え、「ストーキングしている人物が自分であるということを広められ、退職せざるを得なくなった」と主張する申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは「番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、ストーカー被害という問題についてあくまでも一例を伝えるという目的で、事実を再構成して伝える番組であり、場所や被写体の撮影されている映像にはマスキングを施し、場所・個人の名前・職業内容などを変更したナレーションやテロップとする」など、人物が特定されて第三者に認識されるものではなく、「従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送等の必要はない」と主張。また、申立人の退職の原因について、「本件番組及びその放送自体ではなく、会社のことが放送される旨会社の内外で流布されたこと、及び申立人も自認していると推察されるストーキング行為自体が起因している」と反論している。
今回の委員会では、申立人と被申立人のフジテレビから個別にヒアリングを行い詳しく事情を聴いた。申立人は冒頭陳述で「放送を見ると、自分が警察で見せられたものと同じ映像が流され、自分であることは間違いないと確信した。これだけのことをしたからには退職は仕方ないとは思うが、事実と違う内容の放送をされ、会社の人たちに無視されたり、あからさまに睨みつけられたりするのは、正直辛いものがあった」と訴えた。また、「誰かの指示を受け、共謀して、いじめやいやがらせをした事実はない」と述べた。さらに申立人自身が行なったストーカー行為として放送された実写映像について、「コンビニで被害者の写真は撮っていない。被害者の車を撮っていた。あからさまな尾行、つけ回し、ずっと後ろを走っていたという事実はない」として、被申立人に対し「事実と違う内容の放送があったことと、個人を特定できる放送をしたことを認めてもらえればいい」と主張した。
一方、フジテレビからは編成担当幹部ら4人が出席し、ストーカー事件に関わる申立人の実写映像を放送したことについて、「視聴者の方が信ぴょう性を感じられるように、そういった情報、ないしは実際の映像を用いている。申立人を描き、申立人を基にした内容であるのは違いないが、申立人を特定する内容ではない。あくまで描写の一部というふうにとらえている」と説明。そのうえで、「申立人自身や申立人が運転している車、会社の駐車場などの映像には十分なマスキングをしていると考えているので、同定はできない」と主張した。また、取材協力者らが放送前に周囲に会社のことが放送される旨流布してしたことについて、「事実、流布が行なわれてしまったことを考えると、確かに、流布されるような人物であったことを見抜くことができなかったことは反省すべきだと思うが、予見することはその時点では非常に難しかった」と述べた。さらに、取材で知り得た事実を他言しない旨の承諾書を取材協力者と取り交わしていたことについては、「取材協力者の方々のプライバシーと安全を守るという意図で承諾書を交わす。安全のために不必要な言論は控えた方が良いですよという意味合いで交わしている」等と説明した。
ヒアリング終了後、委員会は論点に沿って双方の主張を整理しながら議論し、次回も審理を続けることになった。

2.「出家詐欺報道に対する申立て」事案の審理

審理の対象はNHKが2014年5月14日の報道番組『クローズアップ現代』で放送した特集「追跡"出家詐欺"~狙われる宗教法人~」。番組は、多重債務者を出家させて戸籍の下の名前を変えて別人に仕立て上げ、金融機関から多額のローンをだまし取る「出家詐欺」の実態を伝えた。
この放送に対し、番組内で出家を斡旋する「ブローカー」として紹介された男性が「申立人はブローカーではなく、ブローカーをした経験もなく、自分がブローカーであると言ったこともない。申立人をよく知る人物からは映像中のブローカーが申立人であると簡単に特定できてしまうものであった」として、番組による人権侵害、名誉・信用の毀損を訴える申立書を委員会に提出した。
NHKは「収録した映像と音声は、申立人のプライバシーに配慮して厳重に加工した上で放送に使用しており、視聴者が申立人を特定することは極めて難しく、本件番組は、申立人の人権を侵害するものではない」と主張している。
今回の委員会には第2回起草委員会を経て修正された「委員会決定」案が提出された。結論部分を中心に審理した結果、ほぼ内容がまとまり、今後細部について検討することになった。

3.「ストーカー事件再現ドラマへの申立て」事案の審理

対象となったのは、フジテレビが本年3月8日に放送したバラエティー番組『ニュースな晩餐会』。番組では、地方都市の食品工場を舞台にしたストーカー事件とその背景にあったとされる社内イジメ行為を取り上げ、ストーカー事件の被害者とのインタビューを中心に、取材協力者から提供された映像や再現ドラマを合わせて編集したVTRを放送し、スタジオトークを展開した。この放送に対し、ある地方都市の食品工場で働く契約社員の女性が、放送された食品工場は自分の職場で、再現ドラマでは自分が社内イジメの"首謀者"とされ、ストーカー行為をさせていたとみられる放送内容で、名誉を毀損されたとして、謝罪・訂正と名誉の回復を求める申立書を委員会に提出した。
これに対しフジテレビは、「本件番組は、特定の人物や事件について報道するものではなく、事実を再構成して伝える番組」としたうえで、「登場人物、地名等、固有名詞はすべて仮名で、被害者の取材映像及び取材協力者から提供された音声データや加害者らの映像にはマスキング・音声加工を施した。放送によって人物が特定されて第三者に認識されるものではない。従って、本件番組の放送により特定の人物の名誉が毀損された事実はなく、訂正放送の必要はない」と主張している。
この日の委員会では、第1回起草委員会を経て提示された「委員会決定」案の検討に入った。委員会の判断のポイントについて起草担当委員が説明を行い、各委員が意見を述べた。そのうえで、11月初旬に第2回起草委員会を開らき、さらに検討を重ねることになった。

4.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
9月の委員会後、申立人から「反論書」が、被申立人から「再答弁書」が提出された。今回の委員会では、事務局が双方の新たな主張を取りまとめた資料を基に説明した。次回委員会では、論点の整理に向けて審理を進める予定。

5.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前の説明が適切でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
9月の委員会で審理入りが決まったのを受けて、フジテレビから申立書に対する答弁書が提出された。今回の委員会では事務局が双方の主張をまとめた資料を配付して説明した。

6.その他

  • 次回委員会は11月17日に開催かれる。

以上