BSテレビ各局と意見交換会
放送倫理検証委員会とBSテレビ局との意見交換会が、10月22日に東京・千代田放送会館で開催された。民放BSテレビ局とNHKの計9局から26人が参加し、委員会側からは香山リカ委員と鈴木嘉一委員が出席した。放送倫理検証委員会では、毎年各地で意見交換会を開催しているが、BS放送局を対象としたのは初めての試み。
概要は以下のとおり。
冒頭、BPOの濱田純一理事長が、BPOの目的や役割について、「放送における『言論と表現の自由』を本当の意味で社会に根付かせていくところに、BPOの役割があると思う。そのために各放送局が、放送の自由の質を高めようと努力する活動を支援することも、大きな役割だと思っている。BPOの各委員会から出されるさまざまな報告などを、皆さんが放送の使命は何なのか、放送の質をどう高めるか、を考える時の手がかりにしてほしい」と挨拶した。
続いて、香山委員が、テレビ放送について感じていることを次のように述べた。
「放送局の現場では、BPOが表現の自由を守るためにあるのなら、もっと自由に番組制作を、という声があるかもしれないが、外部からの規制がかかったり、視聴者からの信頼を失わないようにするためには、自浄作用も必要だ。検証委員会では、放送倫理違反があれば指摘するけれども、それによって放送や表現の自由を担保していきたいと考えている。委員会で審議や審理に入る場合でも、それは取り締まるためではなく、委員会の役割として、放送や表現の自由をぎりぎりのところで守るためにはどうすべきかを、放送局と一緒に考えていきたいということだ。テレビの力はまだまだ大きく、多くの人に影響を与えているメディアなので、それに携わっている誇りや幸せを、忙しい中でも時々はかみしめてほしい」。
また、鈴木委員は、長年にわたる取材者としての観点から、現在のBSテレビの編成などについて次のように指摘した。
「BSデジタル放送の開始から15年たつが、"モアチャンネル"として十分定着し、全体的には"ゆったり感"もあって、人気番組がいろいろ生まれてきている。その一方で、民放BSテレビ局にも、地上波のような横並び的な傾向が現れてきているように感じるが、BS局には地上波の轍を踏んでほしくないと思っている。私がBSテレビ局に期待しているのは、いま地上波で受けている番組を真似した、"のようなもの"的な番組ではなく、地上波にはない番組や、かつてはあったが現在は放送されていないジャンルの番組などだ。スタッフの人数や予算などに制約があるのは承知しているが、是非、アイデアと工夫で勝負していってほしい」。
意見交換では、放送局側から「BSの放送でも報道系の番組が増えてきているが、どのように見ているか」との質問が出された。
これに対して鈴木委員は、「やるべきことは、網羅主義ではなく、一点突破ではないだろうか。ひとつのテーマを深掘りした特集や、地上波よりさらに長いスパンでの報道も期待したい。時の人からじっくりと話を聞く報道番組もひとつの鉱脈だが、その人の言いたいことをしゃべらせるだけでなく、もっとガチンコでのトークが聞きたいと思うこともある。BS局の報道番組は方向性としてはいいので、見せ方や切り口なども含めて、中身をもっと良くする段階にきていると期待している」と述べた。
また香山委員は、「報道番組での放送の公平・公正性や不偏不党などについて、それぞれが考えてほしい。何も言わないのが不偏不党とか中立性ではないので、時には踏み込んだ意見も取り上げるなど、さまざまな人の意見を伝えてほしいと思う」と述べた。
今後のBSの放送が目指すべき方向性についての質問に対して、鈴木委員は、「中高年層だけでなく、より若い人たちにも見てもらうために、かつてのユニークな民放局の深夜番組のような"少しとんがった番組"を期待したい。社員が少なければ、外部の新しい才能のあるスタッフを発掘し、共同作業で賛否両論を巻き起こすような新しい番組を制作していってほしい」と述べた。また香山委員は、「今の地上波の番組では物足りない、飽き足りないと感じている人たちはかなりいると思う。知的好奇心を持ち、知的な刺激を求めている人たちに訴求力があるような番組を期待したい」と述べた。
このほか、放送局側からは、外部からの持込番組が多い状況の中で、考査上の悩みなどについての発言もあり、委員側からのアドバイスも披露された。
最後に濱田理事長が、「放送倫理というと窮屈に考えがちだが、一番大事なことは、放送に携わる人たちが、どこまで誇りをもってその仕事ができるかであり、それを支えるのが倫理だと思う。きょうは、番組論や編成論まで広く議論が及んだが、放送倫理の積極的なあり方として意味があったと思う」と述べて、意見交換会を締めくくった。
終了後、参加者からは、「BPOについて考える機会を持てたのは有意義だった」「両委員からの期待やアドバイスは心強く、励みになった」などの感想とともに、「具体的なテーマを設定して実施すれば、もっと議論が活性化するのではないか」などの意見も寄せられた。
以上