第36号

琉球朝日放送と北日本放送の単発番組に関する意見

2020年6月30日 放送局:琉球朝日放送・北日本放送

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやって来た〜沖縄進出の軌跡と挑戦〜』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう!~自分に合った資産形成を考える~』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかとして審議入りを決め、議論を続けてきた。

琉球朝日放送の番組には広告取引の実態がなかったにせよ、番組の中身や表示の問題点から、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連の「留意事項」は、広告取引という対価性の有無にかかわらず番組全般に適用される。それに盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、本件番組は視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められる。従って、委員会は放送倫理違反があったと判断した。
また、北日本放送の番組は特に後半部分は提供スポンサーの意向や事業などから独立した内容なのか見分けがつきにくく、視聴者が広告放送であるとの疑いや誤解を抱くのは無理もない。民放連放送基準の「(92)広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければならない」や、民放連の「留意事項」に盛り込まれた「視聴者に『広告放送』であると誤解されないよう、特に留意すべき事項」に照らして総合的に判断すれば、本件番組は視聴者に広告放送であると誤解を招くような内容・演出になっていたと認められる。従って、委員会は放送倫理違反があったと判断した。

2020年6月30日 第36号委員会決定

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目 次

2020年6月30日 決定の通知と公表

通知は、2020年6月30日午後2時30分から、千代田放送会館7階の会館会議室で行われ、午後3時30分から千代田放送会館2階の大ホールで記者会見が行われた。記者会見には50社67人が出席した。
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2020年10月9日【委員会決定に対する琉球朝日放送の対応と取り組み】

委員会決定 第36号に対して、琉球朝日放送から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年9月30日付で提出され、委員会はこれを了承した。

琉球朝日放送の対応

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目 次

  • 1.委員会決定についての放送対応
  • 2.ホームページへの掲出
  • 3.委員会決定の社内周知
  • 4.社員・スタッフによる番組再検証
  • 5.社内連絡会議
  • 6.番組審議会への報告
  • 7.再発防止への取り組み
  • 8.総括

2020年12月11日【委員会決定に対する北日本放送の対応と取り組み】

委員会決定 第36号に対して、北日本放送から対応と取り組みをまとめた報告書が2020年11月30日付で提出され、委員会はこれを了承した。

北日本放送の対応

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目 次

  • 1.はじめに
  • 2.放送倫理違反があったと判断された番組
  • 3.番組放送から現在に至るまで
  • 4.主な取り組み
  • 5.おわりに

2020年度 第73号

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」
に関する委員会決定

2020年6月30日 放送局:フジテレビ

見解:問題なし
フジテレビは、2018年7月6日に放送した『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』で、オウム真理教の元幹部7人の死刑執行について報じた。
申立人の松本麗華氏はオウム真理教の代表だった松本智津夫元死刑囚の三女で、本件番組は、死刑囚の名前と顔写真を一覧にしたフリップに「執行」のシールを貼るなどした点で死刑執行をショーのように扱っているとし、父親の死が利用されたことや父親に対する出演者の発言によって名誉感情(敬愛追慕の情)を害されたなどとして、BPO放送人権委員会に申立てを行った。
委員会は、審理の結果、いずれについても名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

 申立ての対象は、2018年7月6日にフジテレビが放送した『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』(以下、「本件番組」という)である。本件番組は、地下鉄サリン事件などオウム真理教による一連の事件で死刑が確定したオウム真理教の教祖・麻原彰晃こと松本智津夫元死刑囚ら、教団の元幹部7人の死刑執行に関する情報を、中継やスタジオ解説などを交えて報じた。
 申立人は松本元死刑囚の三女で、本件番組は、死刑囚の顔写真を一覧にしたフリップに「執行」の表示を印字やシール貼付で行ったことなどの点で、人の命を奪う死刑執行をショーのように扱い、また、父親の死が利用されたことや父親に対する出演者(被害対策弁護団の伊藤芳朗弁護士)の「松本死刑囚が生きながらえればそれだけ、まあ生きているだけで悪影響というものはある」という発言が放送されたことによって、名誉感情(敬愛追慕の情)を害されたなどとして、フジテレビに謝罪を求め、BPO放送人権委員会に申立てを行った。これに対しフジテレビは、速報情報を生放送で扱う時間的、技術的制約の下、複数の死刑執行の情報等を迅速に分かりやすく伝えたものであり、人権や表現上の配慮を十分行っている、などと説明している。
 まず、本件番組の意義について検討すると、本件番組は、戦後犯罪史上屈指の重大事件の首謀者や、事件において重要な役割を果たした者の死刑が執行され、または執行されようとしているという極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものである。
 人権侵害に関しては、申立人の故人に対する敬愛追慕の情の侵害の有無が問題となる。敬愛追慕の情の違法な侵害があったと言えるかは、諸事情を総合考慮して社会的に妥当な許容限度(受忍限度)を超えたかどうかによって判断する。
 フリップ及び「執行」シール貼付の手法による人権侵害の有無については、申立人の立場からすれば、悲しみに追い打ちをかけられたと感じることも当然だとは思われるものの、生放送で速報情報を扱う時間的、技術的制約の下で、複数の死刑囚の執行情報を視聴者に分かりやすく伝えるという目的の正当性があり、「執行」の文字の大きさや色などについて配慮がなされていることなどからすれば、必要性・相当性も認められる。
 「執行」シールを貼付する場面についても、それは1回だけであり、時間もごく短いもので、貼付行為そのものに注意を促すような出演者の言動もなかったことから、一般視聴者に対してシールの貼付自体が殊更に強い印象を与えたとも言えない。シール貼付には、迅速かつ正確に最新情報を伝える現実的な手法として必要性・相当性が認められる。
 以上より、フリップ及び「執行」シール貼付の手法の利用は、本件番組が死刑執行直後であることを考慮しても、申立人の故人に対する敬愛追慕の情を許容限度を超えて侵害するものではない。
 伊藤弁護士の発言による人権侵害については、その発言の趣旨は、現在も教団の後継諸団体に対して松本元死刑囚が影響力を有しており、無差別大量殺人に及ぶ危険性があるという状況の下で、被害対策弁護団の一員として「松本死刑囚の死刑執行までに時間がかかれば、それだけ悪影響はある」というものであり、それに加えて、死刑執行がなされない限り、被害者・遺族に不安を与え続けていたという趣旨も含まれていると、一般視聴者には理解される。同元死刑囚の教団の後継諸団体への影響力の点は、公安審査委員会や公安調査庁の認識を踏まえれば虚偽ではなく、また、本件発言は、同元死刑囚を首謀者として遂行された戦後犯罪史上屈指の重大事件の被害者や遺族の被害感情を代弁する発言の一部として述べられたものであることからすれば、表現として不相当であるとも言えず、本件発言は、本件番組が死刑執行直後であることを考慮しても、申立人の故人に対する敬愛追慕の情を、許容限度を超えて侵害するものではない。
 本件番組には、元死刑囚らの移送された先の拘置所名や、元死刑囚らのかつての教団内での地位などについて誤りがあるが、一般に、生放送中にミスが生じることはありうることであって、また、そのほとんどは最終的には実質的に修正されているため、誤りがあることをもって死刑をショー化する等の意図があったとは言えない。
 放送倫理上の問題について、申立人は、本件番組が死刑をショー化しており、人命を軽視し、視聴者に不快感を与えるなどとして日本民間放送連盟放送基準や放送倫理基本綱領に違反すると主張する。しかし、前述のとおり、本件番組は、極めて公共性の高い出来事を、公益を図る目的によって放送したものであるし、「執行」シールを貼るという手法も、死刑の執行をことさらショーのように扱ったものではなく、放送倫理上の問題があるとは言えない。
 以上のとおり、委員会は、本件番組に人権侵害の問題はなく、放送倫理上の問題も認められないと判断する。

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2020年6月30日 第73号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第73号

申立人
松本 麗華
被申立人
株式会社 フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『FNN報道特別番組 オウム松本死刑囚ら死刑執行』
放送日
2018年7月6日(金)
放送時間
午前9時50分~11時25分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.今回の死刑執行報道の特殊性と本件番組の意義
    • (1) 今回の死刑執行報道の特殊性
    • (2) 本件番組の意義
  • 2.敬愛追慕の情の侵害による人権侵害について
    • (1) 判断方法
    • (2) フリップ及び「執行」シール貼付の手法による人権侵害について
    • (3) 伊藤芳朗弁護士の発言による人権侵害について
    • (4) 事実関係の誤りによる人権侵害について
    • (5) 小括
  • 3.放送倫理上の問題について

III.結論

  • 補足意見

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年6月30日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年6月30日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
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第149回 放送倫理検証委員会

第149回–2020年6月

生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意していたTBSテレビ『クレイジージャーニー』を審議

第149回放送倫理検証委員会は6月12日にオンライン会議システムを使用して開催された。
バラエティー番組の生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意する不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、7月にも当該放送局への通知と公表を行うことになった。
スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人という不適切な演出をしたとして審議中のテレビ朝日のニュース番組「スーパーJチャンネル」について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させ、前回審議入りしたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、当該放送局の関係者に対して実施する予定のヒアリングの準備状況が報告された。
秋田放送又は山口放送がそれぞれ制作した弁護士法人一社提供のローカル単発番組を購入して放送した複数の局から提出された報告書を踏まえて引き続き討議を行ったが、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を複数の局が制作・放送し又は番組を購入して放送していることがわかったため、それらの放送局からも順次報告を求めることとし、討議を継続することとした。

1. バラエティー番組の生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意していたTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。
この日の委員会では、担当委員から示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、7月にも当該放送局へ通知して公表することになった。

2. スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人だった『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組「スーパーJチャンネル」で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。
11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。
今回の委員会では、担当委員から意見書のさらなる修正案が示されて意見交換が行われたが、次回も引き続き審議することになった。

3. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

フジテレビは4月3日、クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ホームページ上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
前回の委員会において、レギュラー番組として放送された第1回(2018年10月20日放送)から第25回(2019年10月26日放送)までについて、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めたが、今回の委員会では当該放送局の関係者に対して実施する予定のヒアリングの準備状況が報告された。

4. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。その内容は、ある弁護士法人が扱った過払い金などの借金問題の事例に法人の代表がクイズやQ&Aの形式で解説を加えるものであり、番組内において法人の料金体系の説明や県内で開催される無料法律相談の告知もされている。なお、提供は同法人であり、法律相談会の告知CMも放送されている。この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。秋田放送は同年10月19日には、山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を番組販売で購入し放送していた。
山口放送は、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を2018年6月2日などに、また、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を2019年5月25日などに制作放送していた。
委員会は5月、両局から提出された報告書を基に討議し、いずれの番組も、取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出されたが、上記番組のうち他の複数の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求めることとして、討議を継続していた。
今回の委員会では、上記の番組のいずれかを購入して放送した他の放送局から提出された報告書も踏まえて引き続き討議したが、当該他の局とは別に、同じ法人が提供する番組を複数の局が制作・放送し又は番組を購入して放送していることがわかったため、それらの放送局からも順次報告を求めることとし、討議を継続することとした。

以上

第281回放送と人権等権利に関する委員会

第281回 – 2020年6月

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理
委員会決定を6月に通知・公表へ…など

議事の詳細

日時
2020年6月16日(火)午後4時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」 千代田放送会館7階会議室
議題
出席者
奥委員長、市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」 事案の審理

フジテレビは、2018年7月6日、オウム真理教の松本智津夫元死刑囚らの死刑執行について特別番組で報じた。これに対して松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱っており、父親の死が利用されて名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、生放送の制約の中で複数の執行情報等を分かりやすく伝えたもので、人権侵害には当たらないなどと反論している。
今委員会では、担当委員から示された決定文の修正案について、最終的な議論を行ったうえで委員会決定を了承した。通知公表は月内に行う予定。

2.「一時金申請に関する取材・報道に関する申立て」事案の審理

札幌テレビが2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで行った「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づく一時金申請に関する報道に対して、一時金申請をした男性が「記者に働きかけられた」として申立てた事案。
前回委員会で、論点整理とヒアリングにおける質問項目を決めており、今委員会では新たな議論は行わず、ヒアリングの時期について、新型コロナウイルス感染拡大防止の自粛要請が一部継続していることから、状況の改善を待って決定する方針を確認した。

3.「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案の審理

フジテレビは、2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された話題を放送した。放送は、近所の進学塾の生徒たちが大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えていることに、周辺住民から苦情が出て、行政が規制を始めたことを紹介したもので、番組では周辺住民のインタビューが流された。
そのインタビューに答えた女性から、突然マイクを向けられ一度も見たことがないのに、誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。
これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」などと反論している。
今委員会では、起草担当委員から論点とヒアリング時の質問項目の原案が示され、審理の結果、次回委員会で双方からのヒアリングを実施することになった。

4.その他

  • 6月12日に行われたテレビ埼玉に対する委員会決定第72号「訴訟報道に関する元市議からの申立て」の通知公表について報告された。

以上

2020年6月12日

「訴訟報道に関する元市議からの申立て」に関する
委員会決定の通知・公表の概要

[通知]
2020年6月12日午後1時からBPO会議室において、奥武則委員長と事案を担当した城戸真亜子委員、廣田智子委員が出席して、委員会決定を通知した。申立人と申立代理人、テレビ埼玉からは取締役と編成局長が出席した。
奥委員長がまず、決定文の結論について「本件放送に名誉毀損の問題及び放送倫理上の問題は認められない」としたうえで、その判断に至る委員会の考えを、申立人の主張する3つのポイントにそって説明した。自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられた裁判であるかのような誤解を招くとする「ニュースのタイトル」については、ニュースの最初から最後までずっと表示されているタイトルスーパーの一部分であり、全体では誤解を招くようなものではないこと。議員辞職のタイミングが第三者委員会のセクハラ認定の後であるかのような時系列表現については、たとえ視聴者がそう受け取ったとしても、ニュース全体では申立人の裁判での主張を正確に伝えており、問題とはならないこと。そして、市議選への出馬に言及したことについては、「あの議員が性懲りもなくまた立候補する」との印象を与えてもいないし、再出馬を伝えることは地元メディアとして当然の責務と言えること。以上の理由から3点について、それぞれ名誉毀損も放送倫理上の問題もないとの結論に至ったと説明を行った。
続けて廣田委員が、結論は問題なしだが、委員会の議論の中では、テレビ埼玉の対応について懸念を示す意見があり、2箇所でそれを付記する形となっていることを説明した。1点目は、時系列表現の問題について、テレビ埼玉が「局所的な表記の問題」と捉えていることで、結果的に誤解が生じなかったから良いというものではなく、より正確な放送を目指すべきであるとの意見。2点目は、申立人側からの訂正要求に対して、一旦は応じる判断をしながら、交渉がうまく運ばず選挙告示前の訂正ができなかったことについて、正確な情報は有権者にとっても重要であり、申立人の納得が得られなくても、躊躇することなく実施すべきだったとの意見であることを説明した。
城戸委員は、放送局は視聴者のことだけではなく、放送でとりあげられる当事者がどう感じるのかも考えて、番組づくりをすることが大事であると述べた。
決定をうけ申立人は「非常に残念です」と述べ、申立代理人も「一般の受け止めではなく、放送される側への影響を理解してほしかった」と付け加えた。テレビ埼玉は、「ご指摘いただいたことを真摯に受け止め、今後の番組作りにしっかりと生かして行きたい」と述べた。

[公表]
 午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見し、委員会決定を公表した。18社25人が取材を行った。テレビカメラの取材は当該放送局のテレビ埼玉に加え、代表取材としてテレビ東京が行った。通知と同じく、奥委員長が決定の結論とそこに至る考え方を説明し、廣田委員が付記した意見の内容と、城戸委員が補足的な説明を行った。

(奥委員長)
結論的には名誉毀損も放送倫理上の問題も認められない。しかし、要望という形は取らなかったが、議論の中で出た委員の意見の一部を紹介する形でテレビ埼玉に考えて欲しいことを伝える決定となっている。
(廣田委員)
 放送は正確であることが基本。たとえ全体的には問題なくても、客観的な事実の訂正はした方がよかった。
(城戸委員)
 大筋正しければ、小さな表現の違いは「まあいいだろう」ではなく、放送される側にとっては、放送は一生に一度のことで、まさのその小さな表現が問題になることを、放送局は意識してほしい。

以上

2020年2月26日

在阪テレビ・ラジオ各局と意見交換会開催

放送倫理検証委員会と在阪のテレビ・ラジオ10局との意見交換会が、2020年2月26日大阪市内で開催された。放送局の参加者は10局74人、委員会からは神田安積委員長、升味佐江子委員長代行、長嶋甲兵委員、中野剛委員、西土彰一郎委員、巻美矢紀委員の6人が出席した。放送倫理検証委員会が大阪で意見交換会を開くのは2014年11月以来である。

開会にあたり、BPO事務局を代表して濱田純一理事長が「BPOの役割は、放送の自由、放送の責任を担っている現場の皆さんを後押しすることである。決定を出す背景にある委員会の議論や思い入れを知ってもらい、また局側からも言いたいことをフィードバックして、双方向の流れを作る意見交換会にしたい」と挨拶した。

意見交換会の前半は、2019年度の委員会決定から、「読売テレビ『かんさい情報ネットten.』『迷ってナンボ!大阪・夜の十三』に関する意見」(委員会決定 第31号)、「関西テレビ『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」(委員会決定 第32号)、「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」(委員会決定 第30号)の3事案を取り上げ、担当委員からの説明と質疑応答を行った。

「読売テレビ『かんさい情報ネットten.』『迷ってナンボ!大阪・夜の十三』に関する意見」について、まず、審議の対象となった番組部分のVTRを視聴した。その後、担当の升味委員長代行が意見書の要点を説明したうえで、「街ブラ企画では事前に取材対象が決まっているわけではないので、現場にアンテナの立っている人がいないと問題のある個所がそのまま通ってしまうことになる。編集の段階で複数の目でチェックする体制が維持できなかったことも問題があった。社会ではLGBTなど性的個性に触れることに敏感になっているのに、どうしてピンとこなかったのか、ヒアリングでも決定的な要因は見つからなかった。日々番組を作る人たちがアンテナを張っていないと問題点を指摘するのは難しい。アンテナが立つようにするには研修なども必要だが、現場で意見交換や違った価値観のスタッフの話を聞くことが必要だと思う。現場ではそうした余裕がないようだ」と述べた。続いて同じく意見書を担当した長嶋委員が「情報バラエティー番組と報道番組の境界線があいまいになってきていて、それぞれの番組作りのやり方が混ざり合うところで問題が起こっていると感じる。それをマイナスに捉えず、お互いの専門分野の知見と経験を生かし合ってよい番組を作る方向があるのではないか。今年度は意見書の数が増えたが、放送界にとってはむしろよいことだと捉え、これまでの番組の作り方や中身を検討し直す機会にしてほしい」と述べた。参加局からは「取材対象者は特に不愉快と感じていなかったそうだが、それでも問題なのか」と質問があり、升味委員長代行が「取材対象者がどう思っても、テレビが他人のセクシュアリティを詳しくしつこく聞くのは社会に対する影響から考えてまずいと思う」と答えた。

「関西テレビ『胸いっぱいサミット!』収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見」については、冒頭で審議の対象となった番組部分のVTRを視聴した。その後、担当の中野委員が意見書の要点を説明したうえで、「『韓国ってね、手首切るブスみたいなもんなんですよ』という発言を放送に残すことになった局内でのやり取りを意見書にしっかり書いた。また、放送後、局が自律的に『様々な感じ方をされる視聴者の皆様への配慮が足りず、心情を傷つけてしまう可能性のある表現で、そのまま放送した判断は誤りだった』とする見解に至った経緯にも詳しく触れた。意見書の内容がもし制作現場に十分に受け止められていないとすれば、それを埋めるのは局の仕事で、放送倫理規範を現場に浸透させていく活動をこれからも行っていただきたい」と述べた。また同じく意見書を担当した巻委員は「社会の多数派にとっては何気ないような表現であったとしても、当事者、特にマイノリティにとってはそれが自尊を傷つけるようなことがあるということを、改めて当事者の立場に立って、想像力を駆使して今後の番組作りに生かしてもらいたい」と述べた。参加局からは「特定個人の発言が良くなくても、別の出演者が『そういうレッテル貼りはいけない』と発言すれば番組は成立するのではないか」と質問があり、中野委員は「この番組に関しては、ほかの出演者から『それは違うんじゃないか』といった発言はなかった。私たちは個別番組ごとに判断する」と答え、神田委員長は「番組の流れの中で放送倫理違反と判断した。『手首切る』『ブス』という2つの言葉自体が問題であると判断したものではなく、あくまでも発言全体の文脈の中で広く韓国籍を有する人々などを侮辱する表現だという結論に至ったものだ」と述べた。

「長野放送『働き方改革から始まる未来』に関する意見」については、まず、神田委員長が、民放連が2017年に策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」の概要を含めて意見書の要点を説明したうえで、直前に開かれたBPOの事例研究会でも多くの質問が出たことを紹介した。参加局からは「テレビでは商品の露出に協力スーパーを入れたり、あるいは番組のバックボーンとしてそれを基に番組ができていたりなど、『タイアップ』と呼ばれる手法があるが、このタイアップについてはどういうところに留意すればよいか」と質問があり、神田委員長は、「個々の映像を前提としないで、タイアップという類型について一概に回答することは難しい。あくまで一般論としていえば、まず民放連の『留意事項』に照らし、『広告放送』であると視聴者に誤解されないように自主的・自律的に留意をしてもらうことが大切である。『留意事項』2の3つの要素はもちろんのこと、これらはあくまで例示であるので総合的に判断いただく必要がある。そして、結果として、放送倫理違反になる事例があるとしても、制作の過程で、『留意事項』に照らした議論をきちんとしていただければ、自ずと視聴者に『広告放送』と誤解されるような番組は減っていくのではないかと思っている。また、議論の経過をきちんと残しておくことにより、局が自主的・自律的な判断をしたことがきちんと説明できるのではないかと考える」と述べた。また別の参加局からの「どの部分がどういう違反になっているのか、どうあるべきだったか明快にされるべきではないか」という質問に対して、神田委員長は「長野放送の事案では、『留意事項』に照らし、最後の部分についてはかなり宣伝や広告に近いように映ったと指摘したうえで、放送全体として視聴者に『広告放送』と誤解されると判断したが、事案によっては、どの部分が放送倫理違反といえるのか特定できるものもありうる」と答えた。

意見交換会の後半は、「実名・匿名報道などについて」をテーマに取り上げた。
はじめに、2019年7月に発生した京都アニメーション放火事件の遺族への取材をめぐる放送界全体の動きや自社の被害者氏名の報道について、毎日放送報道局の澤田隆三主幹が報告した。この中では、事件発生の3日後に在阪民放4社でメディアスクラム回避策を協議し、「警察発表の居住地への取材は代表1社のみとし、映像素材や情報を共有する」などと取り決めたこと、8月には、NHKと民放局が「取材交渉は代表1社の記者が行い、カメラは同行しない」「取材交渉では必ず、民放とNHKの 6社を代表していますと伝えること」といった「京都方式」と呼ばれる枠組みに合意したことなどが紹介された。また、毎日放送では、遺族の精神的ダメージが大きいことから、被害者の実名発表から24時間を過ぎれば、遺族が実名報道を拒否している場合は匿名にする方針を決めたこと、2回目に発表された25人の犠牲者のうち遺族が氏名の公表を拒否している20人について、全国ニュースと重ねて実名が放送されないようにローカルニュースでは匿名としたことが報告された。澤田主幹は「この事件は特定の会社で起こったことであり、公共の場で起きたテロなどとは報道の目的も変わってくる。この事件をきっかけに実名と匿名のあり方の議論を深めていくべきではないか。また、被害者とメディアの間に立って取材を受ける意向を確認できるような第三者機関ができないか議論を始めていければよいと思っている」と述べた。続いてNHKの担当者が「メディアスクラムは防ぎたいと、民放4社の動きの情報を得ながら、常に考えてきた。NHKは一貫して実名報道を行ったが、必要以上に長く実名を出さないように配慮した。実名報道が絶対的に正しいとは思っておらずその意義について、今後も議論を続けていきたい」と説明した。また朝日放送テレビの担当者は「この事件は実名報道が原則であることをゆるがしたのではないか。議論のうえで、実名報道は各番組で1回にとどめ、ネット配信では実名公表が可能とされている被害者も名前は出さなかった。今後このような事件が起きた場合にしっかりと実名報道する理由を放送の中で説明する必要があるのではないか」と述べた。これらの発言に対し、西土委員は「各局の発言を重く受け止めた。実名報道については、被害者本人がどう思うのか、想像力をたくましくして日々考えるしかないのではないか。現場で厳しい対応を迫られているジャーナリスト、とりわけ若い人々の実践を我々がどう厳粛に受け止めるかも大事だ。倫理は現場のジャーナリストが苦悩しているところからでき上ってくるものであり、BPOの委員が勝手に決めるものではないと思う」と感想を話した。
続いて、阪神・淡路大震災から25年を機に朝日放送テレビの映像アーカイブをウェブサイトで公開した取り組みについて、朝日放送テレビの木戸崇之報道課長が、実際のウェブサイトの映像を紹介しながら、公開したのは約38時間分・約2000クリップで、肖像権については、受忍限度と社会的意義のバランスについて議論のうえ公開することにしたと報告した。

意見交換会の終了にあたり、神田委員長が「私たちは、問題となった放送があった場合、『放送局の放送後の自主的・自律的な対応』と『放送倫理違反の程度の重さ』という2つの要素を考慮して審議に入るかどうかを決める。自主的・自律的な対応が採られていても、放送倫理違反の程度が重ければ審議入りをすることになるが、多くの事案では当該放送局自身も放送倫理違反であることを認識し、自主的・自律的であり、かつ適切な事後対応がされていれば、その点を適切に評価して審議入りしないとの判断に至っていると説明し、「今日は参加された放送局から多くの意見をいただき心強かった。皆さんとのやり取りを通じて放送業界の自主・自律を守っていかなければならないと感じている」と結んだ。
最後に参加局を代表して、NHK大阪放送局の有吉伸人局長が「メディアをめぐる状況が大きく変化していく中で、今日は意見書の背景や議論のプロセスなど我々にとって意味のある話が聞けた。それぞれの現場でよりよい放送を出していくために議論し続けていく」と挨拶した。
当日は意見交換会に続いて懇親会を予定していたが、新型コロナウイルスの感染が懸念される状況を考慮し中止することとした。

終了後、参加者から寄せられた感想の一部を以下に紹介する。

  • 委員長はじめ各委員の説明や見解を直接聞くことができ、普段書面等で読むことしかできないBPOの“生”の考えの一端を知ることができた。

  • 委員の方々の見解、審議や考察のポイント、放送局側出席者の声など、このような意見交換会でしか知ることのできない視点や意見などに触れることができ、非常に参考になった。

  • 委員の発言を聞いて、制作側の視点と第三者の視点の両方から見ようとされていること、結果の「○」「×」より過程の問題点を明らかにすることに力点があること、そして「今議論しておかなければ」という覚悟を持って取り組んでおられることが感じ取れた。

  • 読売テレビと関西テレビの問題は、映像もあり、実際の雰囲気がわかりやすかった。

  • 実名報道の件は特に勉強になった。

  • 番組についての意見を局同士で忌憚なくやり取りできる機会は、こうしたBPOと局との意見交換会しかないと思われるので、そういう意味でも時間をかけて議論する場をさらに広げていただきたい。

以上

2020年度 第72号

「訴訟報道に関する元市議からの申立て」に関する
委員会決定

2020年6月12日 放送局:テレビ埼玉

見解:問題なし
テレビ埼玉は2019年4月11日の『NEWS545』で、埼玉県内の元市議が提起した損害賠償訴訟のニュースを放送した。その中で、元市議は、自分が起こした裁判なのに自分がセクハラで訴えられたかのような「ニュースのタイトル」と、「議員辞職が第三者委員会のセクハラ認定のあとであるかのような表現」によって名誉が傷つけられ、また「次の市議会議員選挙に立候補予定」と伝えたことは選挙妨害であるとして、BPO放送人権員会に申し立てを行った。
委員会は、審理の結果、そのいずれについても、名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題もないと判断した。

【決定の概要】

テレビ埼玉は、2019年4月11日(木)の夕方のニュース番組『NEWS545』(以下、「本件番組」という)のトップ項目で、さいたま地裁Z支部(Zは放送では実名)で、埼玉県内のX元Y市議会議員(氏名X、市名Yともに放送では実名。以下同様)が提起した損害賠償請求訴訟の第1回口頭弁論のニュース(以下、「本件放送」という)を放送した。
元Y市議は、本件放送について以下の3つの点を問題として本件申立てを行ったが、委員会は、審理のうえ、そのいずれについても名誉毀損等の問題は認められず、放送倫理上の問題も認められないと判断した。
(1) 申立人は、本件放送のタイトルが「元Y市議セクハラ訴訟」となっていること自体が問題であるとし、申立人が提訴した裁判であるのに、申立人がセクハラを訴えられたような印象を与え、申立人の名誉を損なうと主張している。
しかし、本件放送において、一般視聴者が新聞の見出しのように「元Y市議セクハラ訴訟」の部分だけを拾い出して見る事情はないから、本件放送が何を伝えたかは、本件放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断する。本件放送は、冒頭で「元Y市議が被害を訴えた女性職員を相手取った裁判」と明確に伝え、裁判では、申立人が女性職員から請求された慰謝料を支払う義務がないことの確認と女性職員に対する損害賠償を求めていること、申立人が女性職員の言うセクハラ被害は事実ではないと意見陳述したことなどを報じている。本件放送から一般視聴者が、この裁判について申立人がセクハラを訴えられたような印象を受けるとは認められず、名誉毀損は問題とならない。
また、「元Y市議セクハラ訴訟」との表示には、正確性と公正性の観点を配慮して工夫の余地があったとは言えるが、同表示は本件放送の一部であり、本件放送では、裁判における申立人の主張である請求の内容や意見陳述の内容が伝えられており、同表示に放送倫理上問題があるとはいえないと判断する。 
(2) 申立人は、実際には第三者委員会のハラスメント認定前に議員辞職しているのに、経緯の説明において「認定され、辞職しました」というナレーションがなされたことで、一般視聴者は、第三者委員会にハラスメントを認定されたのを受けて議員を辞職したと受け止め、議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等を与え名誉が損なわれたと主張している。
このナレーションによって、一般視聴者が、申立人はハラスメントを認定され、辞職したと、ナレーションの順番どおりの時系列で受け止める可能性はある。しかし、そのことを前提としても、本件放送は、申立人がハラスメントの事実を否定し、辞職理由について騒ぎに市議会を巻き込みたくなかったためであり断じてハラスメントの行為を認めたわけではないと意見陳述したことを報じており、本件放送によって一般視聴者が、申立人が議員辞職当時ハラスメントを認めていたかのような誤解等をするとは認められず、名誉毀損は問題とならない。同様の理由で、放送倫理上の問題もない。
この時系列の点について、申立人は代理人弁護士を介して本件放送直後に訂正の申入れをしたが、お詫びと訂正の放送は選挙投開票翌日となった。時間的制約などから当日の本件番組内で訂正しなかったことは一定程度理解できる。翌日、告示前に同じ時間帯の番組内でお詫びと訂正の放送をする選択があってしかるべきだったとは言えるが、本件放送当日夜のニュースでハラスメント認定と辞職の時系列がはっきりとわかるように修正して放送していること、本件放送は申立人の社会的評価を低下させるものとは認められないことから、それをしなかったことをもって放送倫理上問題があるとまではいえないと判断する。
(3) 申立人は、本件放送で次の市議会議員選挙への出馬に言及したことは、いくつものハラスメントを認定されて議員を辞職したばかりの元市議が性懲りもなく立候補するという印象を視聴者に与える選挙妨害であると主張している。
しかし、市議選への出馬は申立人自身が述べ、すでに周知されていたことであるし、本件放送では、申立人の提起した裁判の内容や意見陳述の内容を報じたうえで伝えており、申立人の市議選出馬に言及しても、申立人の社会的評価が低下することはないし、性懲りもなく立候補するという印象を一般視聴者に与えてもいない。市議選への出馬に言及したことは名誉毀損として問題にならないし、選挙を妨害するとは認められない。

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2020年6月12日 第72号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第72号

申立人
埼玉県在住 元市議会議員
被申立人
株式会社 テレビ埼玉
苦情の対象となった番組
『NEWS545』
放送日
2019年4月11日(木)
放送時間
午後5時45分~6時15分のうち午後5時45分~5時47分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.本件放送の内容
  • 3.論点

II.委員会の判断

  • 1.名誉毀損について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
      • ア 「本件放送は何を伝えたか」をどう判断するか
      • イ 本件放送は何を伝えたか、申立人の社会的評価を低下させたか
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 市議選出馬への言及に問題はなかったか
  • 2.放送倫理上の問題について
    • (1) タイトルスーパー中の「元Y市議セクハラ訴訟」の表示について
    • (2) 第三者委員会のハラスメント認定と市議辞職の時系列について
    • (3) 本件番組中の訂正要求への対応とその後の措置について問題はなかったか
      • ア 事実経過
      • イ 委員会の判断

III.結論

IV.放送概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯と審理経過

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2020年6月12日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、2020年6月12日午後1時からBPO会議室で行われ、午後2時から千代田放送会館2階ホールで公表の記者会見が行われた。
詳細はこちら。

2020年5月に視聴者から寄せられた意見

2020年5月に視聴者から寄せられた意見

新型コロナウイルス対策における政府の対応を伝えた民放各局のワイドショーへの意見や、検察庁法改正案を取り上げた番組への意見など。

2020年5月にメール・電話・FAX・郵便でBPOに寄せられた意見は2,598件で、先月と比較して167件増加した。
意見のアクセス方法の割合は、メール98%、郵便1%、FAX1%(電話応対は休止中)。
男女別は男性72%、女性27%、不明1%で、世代別では40歳代28%、30歳代27%、50歳代18%、20歳16%、60歳以上8%、10歳代3%。
視聴者の意見や苦情のうち、番組名と放送局を特定したものは、当該放送局のBPO連絡責任者に「視聴者意見」として通知。5月の通知数は延べ1,836件【51局】だった。
このほか、放送局を特定しない放送全般の意見の中から抜粋し、25件を会員社に送信した。

意見概要

番組全般にわたる意見

新型コロナウイルス対策における政府の対応を伝えた民放各局のワイドショーへの意見、また、検察庁法改正案を取り上げた番組への意見が多く寄せられた。
ラジオに関する意見は62件、CMについては25件あった。

青少年に関する意見

5月中に青少年委員会に寄せられた意見は96件で、前月から23件増加した。
今月は「表現・演出」が27件、「報道・情報」が16件、「暴力・殺人・残虐」が9件、「性的表現」「いじめ・虐待」「その他」がそれぞれ6件と続いた。

意見抜粋

番組全般

【取材・報道のあり方】

  • 新型コロナの報道には、政府批判が多過ぎる。給付金についても、「遅い」との批判でなく、仕組みや手続き方法を繰り返し伝えた方がいい。批判しても何も解決しない。この緊急事態で、うまく変化している人もたくさんいる。国民に様態変化が迫られる今、マスコミが平和ボケの旧態依然なのは如何なものか。今後のことも含め、報道のあり方を検証すべきだ。

  • マスコミは、新型コロナについて、もう少しまともな報道をしてほしい。自治体や医療現場、飲食店などの悲鳴を報じて不安をあおり、平然と繁華街に繰り出す人たち、パチンコ店の行列に並ぶ人たち、他県にわざわざ行く人たちを過剰に報じることが、他県ナンバーの車や一部の店舗、医療関係者や物流関係者、コロナ患者やその家族に対する悪質な嫌がらせが横行する要因になっている。深刻に考えてほしい。メディアリテラシーを改めて、客観的な報道意識を持ってもらいたい。

  • 新型コロナや検察庁法改正案の報道を見て、テレビがものすごく怖くなった。真実を伝えようという意志がなく、嘘で塗り固められた内容に震え上がってしまう。死者や感染者数など、総人口の割合から見れば、日本の対策が順調であることは明らかなのに、そこに触れたり掘り下げたりしない。検察庁法改正案についても、スパムメールやデマ画像によって、増加した偽りのツイート数をあたかも確かな数字のように報じ、人々の勘違いを訂正することなく、悪い悪いと一辺倒に決めつけて伝えている。このような異常な報道をすべての局がやっている。なぜこんなことになってしまったのか。メディアに正しい情報を届ける気は無く、むしろ日本を破滅させてやろうという強い気持ちで日々制作にいそしんでいるように感じる。捏造、偏向しか伝えないテレビはもういらない。

【番組全般・その他】

  • ゴールデンウイークなのに、駅や高速道路が混雑していない状況を、さも残念な事であるように報じる番組が多い。商店街や駅などのまばらな人通りを、混雑しているように見せかける撮影を行い、外出自粛している人を皮肉るように報じている。平時に賑わっていた場所が混雑していないのは、自粛要請の報道に皆が納得して従っていて、喜ばしい事であり、恥ずべき事ではない。自粛を促す報道に従ってくれる人たちが多い事に感謝するべきだと思う。

  • ニュースとワイドショーの線引きがあやふやになっている。タレントが事実と感想をごちゃごちゃに発言するため、事実がかすんで紛らわしい番組が多く、それをニュースと思いこむ人が多くなっている。ワイドショーで政治ネタを扱うなとは言わないが、公平な立ち位置で番組を作ってもらわなくては、偏向報道ばかりになり、正しい情報が広まらず、世間の認識がねじ曲がってしまう。ネット社会でテレビが信用できるものではなくなっている。業界全体の放送のあり方を見直すべきだ。

  • 国民の不安をあおるワイドショーが一部にある。偏った意見の専門家やコメンテーターは、自分たちの持っていきたい方向に誘導し、ただ政権を批判したいためにしか見えない。正確な情報が知りたいだけなのに、素人同然の芸能人や専門外のコメンテーターに意見を求めたり、現場の医師の発言をゆがめて編集したり、いったい地上波テレビはどうしたのか。最近は、テレビからの情報が信用できず、インターネットの番組を見るようになった。夕方のニュースでインタビューを受けた知人が、こんな風にしてくれと演出までされて、事実とは全く違う映像が流れたと言っていた。一部の放送局のせいで、全体の信用を落としていることに気付いてほしい。

  • 番組出演者が命を絶った。ワイドショーでは、誹謗中傷した人たちを分析しているが、違う。匿名で中傷した人は悪い。しかし、テレビ局は本当に台本や過剰なあおりとなる編集をしていないのか。この番組は、以前も台本の有無やパワハラで問題になっていたと聞く。編集で話を広げ過ぎていたとしたら、中傷のきっかけを作ったのはテレビだ。少なくとも、当事者として会見などで説明してもらいたい。この話題を、一般人のリテラシーが低いと、メディアが自分たちの行動は棚に上げて批判していることが気になる。きっかけを作ったかもしれないと自分たちを省みるどころか、他局のワイドショーでは、「一般人の発信はメディアと違って精選されていない」と口にしていた。専門家でもない芸能人が無責任に発言して、批判されていることを分かっているのか。意図的な情報操作と捉えられる内容ばかりの現状を自覚してほしい。

  • キャスターが、番組の最後に、「ここでお詫びです」と言いつつ、具体的にいつのどの放送でどんな間違いがあったのか触れず、「○月○日の○○の放送で間違いがありました。訂正してお詫び申し上げます」。これだけ言われても全く分からない。このようなことが複数回ある。まるで指摘元に対して、番組で謝りましたよと言わんばかりに聞こえる。もっと視聴者の方を向いた訂正をしてほしい。

  • このところのBS放送は、どの局も代わり映えしない番組の横並びで、非常につまらない。朝から晩まで通販番組ばかり、それも「お金のたまる財布」「腰に巻くだけで腹筋が鍛えられる」など、うさんくさいオカルト商法的なものが多い。ドラマにしても、韓流ものかサスペンスばかり。ジャンルが偏り過ぎだ。わざわざ高い工賃を払ってアンテナを設置したというのに、これでは話にならない。

青少年に関する意見

【「報道・情報」に関する意見】

  • 夏の甲子園が中止になって、そのニュースを取り上げるのは分かるが、他の学生スポーツ大会も中止になっているので当事者たちの気持ちは同じではないか。夏の甲子園だけピックアップされたら、他のスポーツをやっている人たちがかわいそうだ。

【「暴力・殺人・残虐」に関する意見】

  • クイズ番組でスポーツ選手の解答者が変な答えをしたときに、お笑い芸人の司会者がいきなり顔を平手で叩く場面があり、相当痛そうだった。他の解答者には小学生も含まれていたし、テレビを見ている子どもも多いはずだ。顔を叩くのはいじめを誘発する行為だと思う。

【「犯罪の助長」に関する意見】

  • 最近のバラエティー番組は昔と比べてコンプライアンスの問題からか、過激さが抑えられていると感じるが、逆にドラマは表現の自由が過度に主張され、犯罪を誘発・助長するような場面がリアルに描かれているものが多い。子を持つ親としては非常に遺憾に思う。

第148回 放送倫理検証委員会

第148回–2020年5月

琉球朝日放送と北日本放送のローカル2番組を審議
6月にも委員会決定を通知・公表へ

第148回放送倫理検証委員会は5月15日にオンライン会議システムを使用して開催された。
委員会が1月24日に通知・公表した関西テレビの『胸いっぱいサミット!』に関する意見への対応報告が、当該放送局から書面で提出され、その内容を検討した結果、委員会との意見交換が適切な時期に開催されることを期待し、報告を了承し公表することにした。
3月31日に通知・公表を行ったNHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見について、出席した委員長と担当委員から当日の様子が報告された。また4月8日にメールにて通知し、委員会決定をBPOウェブサイトに掲載して公表した北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見について、委員長から経過の報告がされた。
番組で取り上げている特定企業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっているのではないか、民放連の放送基準に照らして検証が必要だとして審議中の琉球朝日放送と北日本放送の2つのローカル単発番組について、担当委員から意見書の修正案が提出された。意見交換の結果、大筋で了解が得られたため、6月にも当該放送局への通知と公表を行うことになった。
海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画で不適切な演出を行ったとして審議中のTBSテレビのバラエティー番組『クレイジージャーニー』について、担当委員から意見書の再々修正案が提出され、意見交換が行われた。
スーパーの買い物客に密着する企画で登場した人物が取材ディレクターの知人という不適切な演出を行ったとして審議中のテレビ朝日のニュース番組『スーパーJチャンネル』について、担当委員から意見書の再修正案が提出され、意見交換が行われた。
① 秋田放送が制作放送した『そこが知りたい!過払い金Q&A』、②山口放送が制作放送した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』、③山口放送が制作放送し、また秋田放送が放送した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座! PART2』というローカル単発番組について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、日本民間放送連盟放送基準の広告の取り扱い規定等に照らし、それぞれの番組で取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出された。もっとも上記番組のうち別の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書と同録DVDの提出を求め、継続して討議することとした。
出場者の人数が不足した場合、解答権のないエキストラを番組に参加させていたことが判明したフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、当該放送局に報告書と同録DVDの提出を求めて討議した。その結果、同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(委員会決定第20号)において指摘した背景や問題点との類似が窺われることなどについて意見が出され、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。

議事の詳細

日時
2020年5月15日(金)午後1時~午後4時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)他オンライン
議題
出席者

神田委員長、鈴木委員長代行、升味委員長代行、大石委員、岸本委員、高田委員、長嶋委員、中野委員、西土委員、巻委員

1. 関西テレビ『胸いっぱいサミット!』に関する意見への対応報告を了承

1月24日に通知・公表した、関西テレビの『胸いっぱいサミット!収録番組での韓国をめぐる発言に関する意見(委員会決定第32号)への対応報告が、当該放送局から委員会に対し書面で提出された。また、同局の番組審議会およびオンブズ・カンテレ委員会の議事内容をまとめた「番組審議会議事録」、「オンブズ・カンテレ委員会の見解」もあわせて提出された。
報告書には、再発防止、放送倫理意識向上に向けた「制作局における取り組み」が制作部会で共有され、自社検証番組「カンテレ通信」で審議に至る経緯、決定内容、改善に向けた取り組み等について放送したほか、専門家を招いた「全社的研修会」を3回開催したことなどが記されている。
委員からは、「意見書やオンブズ・カンテレ委員会が指摘しているにもかかわらず、制作現場と局の間にある意見の分断の解消についての言及がないのは残念である」「意見書を受け、制作現場の意識に変化はあったのかについて書いていただけるとよかった」といった意見が出されたが、意見書で指摘した課題に対し概ね適切な対応が行われており、また、新型コロナウイルスの拡大に伴う緊急事態宣言のため、委員会と当該局との意見交換は行われていないが、今後、適切な時期での開催を期待することとして、当該対応報告を了承し、公表することにした。
 関西テレビの対応報告書はこちら(PDFファイル)

2. NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見および北海道放送『今日ドキッ!』参議院比例代表選挙の報道に関する意見の通知・公表について報告

NHK国際放送のドキュメンタリー番組『Inside Lens』について、委員会は放送の内容は正確ではなく、適正な考査も行われなかったとして放送倫理違反があったと判断し、3月31日に通知と公表の記者会見を行った。この日の委員会では、通知・公表に出席した委員長や担当委員が当日の様子を報告した。
また、北海道放送のローカル情報番組『今日ドキッ!』について、委員会は有権者に誤解を与え、比例区の投票行動をゆがめた可能性があるなど選挙報道に求められる公正・公平性を害し放送倫理に違反していると判断し、4月8日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下であることを踏まえ、通知はメールで、公表は委員会決定をBPOウェブサイトに掲載する形で行った。この日の委員会では、その経緯について委員長が報告した。

3. 放送か広告か曖昧だと指摘された琉球朝日放送と北日本放送のローカル単発番組について審議、6月にも通知・公表へ

琉球朝日放送が2019年9月21日に放送した『島に“セブン-イレブン”がやってきた〜沖縄進出の軌跡と挑戦〜』と、北日本放送が同年10月13日に放送した『人生100年時代を楽しもう!自分に合った資産形成を考える』という2つのローカル単発番組について、民放連放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が出した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の留意事項」などに照らすと、それぞれの番組で取り上げている事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いが大きいのではないかとして、昨年12月の委員会で審議入りした。この日の委員会では、担当委員から示された意見書の修正案について意見交換が行われ、大筋で合意が得られたため、表現などについて一部手直しの上、6月にも当該放送局へ通知して公表することになった。

4. バラエティー番組の生き物を捕獲する企画で事前に動物を用意していたTBSテレビ『クレイジージャーニー』について審議

TBSテレビは2019年8月14日に放送したバラエティー番組『クレイジージャーニー』で、海外に生息する珍しい動物を捕獲する企画を放送した際、番組スタッフが事前に準備した動物を、あたかもその場で発見して捕獲したかのように見せる不適切な演出を行ったと発表した。
11月の委員会で、民放連放送基準に抵触している疑いがあり、制作過程を検証してこの内容が放送されるに至った経緯を解明する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の再々修正案が提出され、意見交換が行われた。

5. スーパーマーケットで偶然出会ったように放送した買い物客が取材ディレクターの知人だった『スーパーJチャンネル』について審議

テレビ朝日は2019年3月15日、ニュース番組『スーパーJチャンネル』で、スーパーの買い物客に密着する企画を放送したが、この企画に登場した主要な客4人が取材ディレクターの知人だったとして、記者会見を開き謝罪した。
11月の委員会で、放送倫理違反の疑いがあり、放送に至った経緯を詳しく検証する必要があるとして審議入りした。今回の委員会では、担当委員から意見書の再修正案が示されて意見交換が行われた。

6. 視聴者に広告放送と誤解される疑いのある内容だった秋田放送と山口放送のローカル単発番組を討議

秋田放送は2019年10月26日に『そこが知りたい!過払い金Q&A』と題した30分のローカル単発番組を制作放送した。その内容は、ある弁護士法人が扱った過払い金などの借金問題の事例に法人の代表がクイズやQ&Aの形式で解説を加えるものであり、番組内において法人の料金体系の説明や県内で開催される無料法律相談の告知もされている。なお、提供は同法人であり、法律相談会の告知CMも放送されている。
この番組を見た視聴者から「CMの延長のような番組作りは許されるのか」という意見がBPOに寄せられ、併せて「山口県で放送されたものと同じ内容の番組も1週間前に流している」との指摘もなされた。
秋田放送では、上記番組を2018年2月17日に初回放送し、その後、同年10月13日に2回目の放送をし、今回は3回目の放送であった。また、上記番組とは別に、2019年10月19日に山口放送が制作した『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』を放送していた。
そして、山口放送では、2018年6月2日、同月15日、2019年5月11日及び同月18日に、『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!』を、また、2019年5月25日および同月29日に、上記の『“見ねれば”損!損?過払い金びっくり講座!PART2』をいずれも制作放送していた。
そこで、委員会は秋田放送と山口放送から提出された報告書を基に討議した結果、いずれの番組も日本民間放送連盟放送基準の広告の取り扱い規定(第92、第93)や2017年に民放連が策定した「番組内で商品・サービスなどを取り扱う場合の考査上の留意事項」に照らし、それぞれの番組で取り上げている特定法人の事業の紹介が広告放送であると誤解されかねない内容になっており、放送倫理違反の疑いがあるのではないかといった意見が多く出された。もっとも、上記番組のうち別の放送局に番組販売され放送されている番組があることがわかったため、それらの放送局からも報告書の提出を求め、継続して討議を行うこととした。

7. 解答権のないエキストラで欠員補填していたフジテレビのクイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』を審議

クイズバラエティー番組『超逆境クイズバトル!!99人の壁』について、4月3日、フジテレビは、100人の出場者を集めて収録すべきところ、人数が不足した場合、解答権のないエキストラで欠員補填して番組に参加させ、「番組が標榜している『1人対99人』というコンセプトを逸脱し、視聴者の信頼を損なう形となっていた」として、番組ウェブサイト上で事実関係を公表するとともに謝罪した。
委員会は、当該放送局から提供された報告書と同録DVDを基に討議した結果、委員からは「意欲的な番組であるが、もともと無理があったのではないか」「同局の番組に対して委員会が2014年4月に出した意見書(委員会決定第20号)において指摘した背景や問題点との類似が窺われる。なぜ教訓が生かされなかったのか、再発防止策が生かされていたのか解明する必要がある」などの意見が出され、これまで2017年12月31日から2020年3月7日にかけて放送された番組のうち、レギュラー番組として放送された1回目(2018年10月20日)から25回目(2019年10月26日)までの回について放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。今後は当該放送局の関係者からヒアリングを行うなどして審議を進める。

以上

第280回放送と人権等権利に関する委員会

第280回 – 2020年5月

「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理…など

議事の詳細

日時
2020年5月19日(火)午後4時~6時30分
場所
新型コロナウイルス対策のためオンラインにて開催
(主会場):「放送倫理・番組向上機構 [BPO]」 第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
(主会場):奥委員長
(参加者):市川委員長代行、曽我部委員長代行、紙谷委員、城戸委員、國森委員、二関委員、廣田委員、松田委員、水野委員

1.「オウム事件死刑執行特番に対する申立て」事案の審理

フジテレビは、2018年7月6日、オウム真理教の松本智津夫元死刑囚らの死刑執行について特別番組で報じた。これに対して松本元死刑囚の三女である松本麗華氏が、死刑執行をショーのように扱っており、父親の死が利用されて名誉感情を傷つけられたなどと申し立てた。
フジテレビは、生放送の制約の中で複数の執行情報等を分かりやすく伝えたもので、人権侵害には当たらないなどと反論している。
今委員会では、担当委員から決定文の修正案が示され、意見交換を行った。この中では、各論点での人権侵害の有無に加え、放送全体を踏まえた放送倫理上の問題についての検討をめぐり活発な議論が交わされた。
今回の議論をもとに再度決定文案の修正を行い、次回委員会で引き続き審理することとなった。

2.「一時金申請に関する取材・報道に関する申立て」事案の審理

 札幌テレビは、2019年4月26日の『どさんこワイド179』内のニュースで、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金支給等に関する法律」に基づいて一時金の申請を行った男性について報道した。番組では、男性が家で申請書類を記入し、北海道庁で申請手続きをする様子などを放送した。この放送に対して取材の対象となった男性が、記者が申請のための請求書を取り寄せるなど、「一時金申請を希望していなかった申立人に対して、申請するよう働きかけた」と主張して、放送内容の訂正と謝罪を求めて申立書を提出した。
申立てに対して札幌テレビは、放送と取材は記者との信頼関係があったからこそ可能となったものであり、「検証の結果、報道の内容は公正で、取材手続きも適正である」と反論している。
今委員会では、ヒアリング開催に向けた論点と質問項目について起草担当委員から案が示され、委員会の議論をへて決定した。ただ、実施時期については、新型コロナウイルスの緊急事態宣言が継続しており、今後の状況を見極めて決めることを確認した。

3.「大縄跳び禁止報道に対する申立て」事案の審理

フジテレビは、2019年8月30日の『とくダネ!』で、都内の公園で大縄跳びが禁止された話題を放送した。放送は、近所の進学塾の生徒たちが大縄跳びをしながら声を出して歴史を覚えていることに、周辺住民から苦情が出て、行政が規制を始めたことを紹介したもので、番組では周辺住民のインタビューが流された。
そのインタビューに答えた女性が、突然マイクを向けられ一度も見たことがないのに、誘導尋問され、勝手に放送に使われたとして、フジテレビに対して「捏造に対する謝罪と意見の撤回」を求めて申立書を提出した。
これに対してフジテレビは、インタビュー内容を加工せずそのまま放送しており「捏造には該当しない」などと反論している。
今委員会では必要な書面が整ったことを確認し、実質的な審理を始めるため、起草担当委員が論点の整理を行うことになった。

4.その他

  • テレビ埼玉が2019年4月11日『NEWS545』で放送した損害賠償訴訟のニュースを巡り、元市議が申し立てた「訴訟報道に関する元市議からの申立て」に関する委員会決定は、前回委員会(3月)で了承された。ただ、通知公表は、新型コロナウイルスの影響でまだ行われておらず、緊急事態宣言解除後速やかに行う方針を確認した。

以上

2020年6月2日

2020年 6月2日

通常業務への復帰についてのお知らせ

BPOは、今回の新型コロナウイルス感染拡大に関する政府の緊急事態宣言の解除を受け、6月1日から通常業務に復帰しました。視聴者電話の受け付けは6月第2週から再開する予定です。

2020年3月31日

NHK国際放送『Inside Lens』「レンタル家族」企画に関する意見の通知・公表

上記委員会決定の通知は、3月31日午後1時30分から、千代田放送会館7階のBPO第1会議室で行われた。委員会からは神田安積委員長、升味佐江子委員長代行の2人が出席し、NHKからは国際放送局長ら2人が出席した。
委員会決定について神田委員長は、「NHKと日本民間放送連盟が1996年に定めた放送倫理基本綱領、また、NHKの『放送ガイドライン』に照らした適正な考査を行わなかったことを含め、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した」と述べた。続いて升味委員長代行が、「NEP(NHKエンタープライズ)による試写はプロデューサー1人だけ。できれば、NHK本体としても考査の役割を果たすために最終的に番組内容を検討する機会を意識してもつことが、今後、このようなつまずきにつながらない方法かと思う」とコメントした。これに対してNHKは、「再発防止はもとより、国際放送はこれからも放送法、放送番組基準、NHKの『放送ガイドライン』にきちんと従っていく形で、ますます視聴者のみなさまに資するチャンネルとして力を入れていきたい。今回のことを糧にして、これからも頑張っていきたい」と述べた。
続いて、午後2時30分から都市センターホテル会議室で記者会見を開き、決定内容を公表した。記者会見には19社30人が出席した。
はじめに神田委員長が、「自主制作か外部への委託制作か、持ち込み番組かを問わず、放送局は全ての番組について放送責任を負い、その内容は放送倫理にかなったものでなければならない。NHKが適正な考査を行わなかったことを含め、本件番組を放送したことについて、放送倫理違反があったと判断した」と述べ、意見書の構成に沿って説明を加えた。続いて升味委員長代行が、「テレビ局についての信頼は、事実が正しいことが大前提だ。事実の正しさを確認することは、地味で単純な作業だと思うが、それが大切である。それから、試写や考査で疑問が生じた時には、中途でうやむやにせず、結末まで原因を追究する必要性を再確認する機会にしていただければありがたい」と述べた。

記者会見での主な質疑応答は以下のとおりである。

Q: 「事実確認の基本的作業なし、誤認の連続」とのこと。ディレクター、カメラマン、音声マンの3人とも本当に誤認だったのか。つまり、どこかで気付いていたのではないかという議論、3委員の間であったのか。
A: カメラマン、音声マンは日本人ではない。不信は感じなかったと言っている。ディレクターは、その場で全く疑問を感じなかったと答えている。1点あるとすれば、「彼女をレンタルする20代男性」の取材している場面。彼女をレンタルする動機が、女性と話すのが苦手だからという割に、非常にこなれた感じで最初から彼女に接していることについて、「あれっ」と思ったことはあったようだ。しかし、自ら納得してしまったところがある。若い人はこんなものなのかということと、前に同じ女性をレンタルしたことがあったので、2度目ならこういうものなのかなと納得してしまった。ディレクターの説明によると、1つずつ多少の疑問はあったけれども、自分の中で納得してしまっているうちに終わってしまったようだ。(升味委員長代行)
   
Q: 音声マンとカメラマンが日本人ではないとことだが、日本語はよく理解できないような方だったのか。
A: 完ぺきではないと思うが、外国から呼んだわけではないようだ。日本にいるスタッフ。(升味委員長代行)
   
Q: この審議が行われている途中で、NHKの朝の番組でシューズレンタルの話があった。事後のブリーフィングで、その件は取り上げないということだったので、今日の意見書の中に取り上げているのかなと注目していた。記載すべきだという議論はなかったのか。
A: NHKの『おはよう日本』についての質問かと思う。『おはよう日本』については、審議に至らずという結論となった。ただし、討議に付し、その中での委員の議論状況は委員会のHPで開示した。委員会の問題意識を必要十分に開示したということを踏まえて、本意見書に重ねて指摘することは結論として控えた。(神田委員長)

以上