第69回 放送倫理検証委員会

第69回 – 2013年3月

「BPOへ、放送界へ。」 退任委員からのメッセージ

第69回放送倫理検証委員会は3月8日に開催された。
事務局からの報告事項について意見交換を行ったほか、2月の視聴者意見の概要や、3月4日に開催されたBPOの年次報告会等について説明が行われた。
また、委員会の最後に、今回をもって退任する5人の委員からのメッセージが述べられた。

議事の詳細

日時
2013(平成25)年3月8日(金)午後5時~7時
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
視聴者意見2月分について

出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員

■退任委員からのメッセージ

  • 吉岡 忍委員長代行 (2007年5月 委員会発足時から)
    いろいろ不祥事はあったが放送業界がダメだという印象は持っていない。問題を起こした各局からの報告は的確なものだったし、第三者機関である委員会と放送局とのオープンな検証のしくみは、世界的に見ても例がない貴重なものだと思う。心残りは、世論全体から厳しい指弾を浴びた番組を検証委員会だけは擁護する意見書を書きたいという夢が実現しなかったことだ。

  • 石井彦壽委員 (2007年5月 委員会発足時から)
    委員会での毎回の激しい議論は、異業種格闘技のような緊張感があった。いろいろな思い出があるが、例えば「光市母子殺害事件の差戻控訴審」の事案では、
    メディアは、司法制度や弁護人の役割に関する理解が乏しいのではないかと思われた。一般論として、捜査機関がリークした情報に基づいて番組が作られ、推定無罪の原則が守られていない。放送関係者の皆さんには、司法制度のしくみをもっと勉強してほしいと思う。長かったが充実の6年間だった。

  • 重松 清委員 (2010年4月から)
    良きにつけ悪しきにつけ「組織」であるテレビの世界の難しさ、さらにその難しさに向き合うべき個人のスキルや常識が揺らいで来ていることを痛感した3年間だった。だが、これからもテレビの可能性を信じていたい。決して萎縮することのないつくり手たちのボトムアップによる「組織」がつくるテレビの表現を、これからは視聴者として期待したいと思う。

  • 立花 隆委員 (2007年5月 委員会発足時から)
    初めの頃は議論も面白かったが、テレビの世界がだんだん質的に低下して、委員会で取り上げる事案もどんどん小粒になってきたように思う。テレビだけでなくメディア全体が、これまでそれなりに果たしてきた社会を支えるという機能を失っており、健全なメディアのない社会がどうなるかという大きな実験がこれからますます進行するのではないか。

  • 服部孝章委員 (2007年5月 委員会発足時から)
    「あるある問題」を経てこの委員会ができた時、放送業界も少しは変わるのではないか、活気づいてくれるのではないかと期待したが、現在はそれ以前に戻っているという感じがする。相当ひどいことになっているというのが実感で、これからは、ニュース以外、テレビをほとんど見なくなるのではないかとさえ思う。

 次回の第70回放送倫理検証委員会は、小出五郎(科学ジャーナリスト)、斎藤貴男(ジャーナリスト)、渋谷秀樹(立教大学大学院教授)、升味佐江子(弁護士)、森まゆみ(作家)の5人の新委員を迎えて、4月12日に開催される予定である。

以上

第68回 放送倫理検証委員会

第68回 – 2013年2月

アルジェリア人質事件実名報道について

議事の詳細

日時
2013(平成25)年2月8日(金)午後5時~6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
視聴者意見1月分について
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、服部委員、水島委員

第68回放送倫理検証委員会は2月8日に開催されたが、討議対象となる事案がなかったため、BPOには数多くの視聴者・読者意見が寄せられたアルジェリア人質事件(1月16日発生)でのテロ犠牲者の実名報道について意見交換を行った。
視聴者意見の多くは「政府や日揮が氏名の公表を差し控えている段階から、メディアが独自の判断で報道したこと」に対する批判であった。
ここでは、
(1) 事故、災害における犠牲者実名報道は一般的にどうあるべきなのか。
(2) 今回の事件では、日揮が犠牲者の氏名を公表しないという強い姿勢を見せ、それに政府が一定の時期まで同調したが、そういう場合に実名報道はどうあるべきなのか。
(3) 遺族に取材が殺到してメディアスクラムが発生するという問題にどう対処すべきなのか。
という3つのレベルの異なる問題点が提起されていると考えられる。
視聴者意見を参考にしながら委員が様々な観点から報道の役割について自由に考えを述べ合った。ジャーナリズムが、その本来の役割をきちんと果たしているかどうかという観点から具体的な状況に応じた実名報道の是非を考えるべきではないか、という趣旨の意見で一致をみた。

【委員の主な意見】

  • ジャーナリズムの役割を果たすうえで、実名報道が認められる場面は当然ある。日揮の社員があそこでどんな仕事をしていて、どういう理由でテロの対象になって、どんな経緯で不幸な結果になったのかということを追究する中で、「この人は」という記事が実名で報じられることは必要なことだ。しかし、亡くなった方の尊厳といいながら、それを星を見るのが好きでしたというような私生活のお涙頂戴のレベルで報じるのでは、遺族感情を尊重すべきだという意見に対抗できないだろう。
  • 遺族取材も大事だが、真相究明には不可欠なはずの生存者への取材やインタビューがほとんど出ていない。今回のように日揮や政府が実名を公表せず取材が困難な場合、今後どう対応していくのか。
  • 実名報道したことによって、社会の関心度は上がったのは事実で、それがなければ数字で済まされてしまう可能性はあった。しかし上がった関心が、企業戦士をたたえる方向に陳腐化されて終わってしまい、アラブの春からフランスのマリ軍事介入に至る複雑な事件の背景を考える契機にはならなかった。
  • 一方ネットには、ジャーナリズムが「お涙頂戴の物語を売るために名前をさらしているだけでないか」という強い不信感がある。さらに進んで、「政府が実名を出さないと言っているのに勝手に明かしてけしからん」という意見が大勢を占めている。メディアスクラムが起こって遺族が迷惑したことも、遺族感情を尊重して実名報道を控えるべきだという意見に重みを与えている。各社が横並びで取材するためにメディアスクラムが起こり、報じられている内容がパターン化されたお涙頂戴物語であることで、結局商品を売るために遺族を利用しているだけじゃないかという見方をメディアがされ、政府の方針に従うべきだという批判になっているのであり、この危機的状況をメディアが自己認識しているのかどうかが問題ではないか。
  • メディアの報道内容には細かいクレームをつけるのにネットの情報を無防備に肯定する人々がいるのは、彼らがメディアを、市民の意識や情報をコントロールするひとつの権力だとみなしているからではないか。メディアは事実に肉薄して、伝えるべき情報を責任と矜持を持って伝えてほしい。
  • 遺族感情を大切にする側からは、メディアは信用できず、政府は信用できるということになってしまっている。政府が何のために情報操作をするのかが分かるように見せるのがジャーナリズムの役割なのに、その役割を果たしていないから、ジャーナリズムが信頼されなくなっている。
  • 実名報道と、メディアスクラムとか過熱取材の弊害の問題は、別個の問題として考えるべきである。重大事件での実名報道は事件の全貌をリアリティをもって伝える上で必要だか、被害者・遺族が公表を希望しないときは、プライバシーと公共性の比較衡量の問題になろう。
  • いつ報道するのが適切かという時間の問題もある。
  • ジャーナリズムは権力でもなければ視聴者そのものでもないところにポジションがある。どちらの側からも批判されうるものだという認識が視聴者・読者に希薄になっていることが視聴者意見からうかがえる。

以上

第67回 放送倫理検証委員会

第67回 – 2013年1月

委員会決定第15号「日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』に関する意見」への対応報告書について

第67回放送倫理検証委員会は1月11日に開催された。
委員会が昨年10月に出した委員会決定第15号「日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』に関する意見」に対して当該局から提出された対応報告書を検討した結果、これを了承し、公表することにした。

議事の詳細

日時
2013年1月11日(金) 午後5時~6時
場所
「放送倫理・番組向上機構〔BPO〕」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
■委員会決定第15号「日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』に関する意見」への対応報告書について

出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、水島委員

■日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』の対応報告書を了承

日本テレビは『芸能★BANG ザ・ゴールデン』に関しての委員会決定第15号を受けて、社としての対応、再発防止策、更には全社的な制作体制の見直しを報告書にまとめ、2012年12月27日、委員会に提出した。
この報告書では事案の発生以降の日本テレビの対応、委員会決定通知後の現場レベルでの話し合い、新しい体制の導入、再発防止のためのベテランによるサポートなど、様々な取り組みがまとめられ、更にすべての番組制作者に向けて、報道、情報、娯楽、スポーツすべてのジャンルでの「めざすべき姿」に向けた放送ガイドラインの全面的な改定に着手したことが示された。
委員会はこの報告書をもとに議論を行い、報告書が今までにないところまで踏み込んで意欲的な対応を示していることを評価し、委員会として了承した。(報告書の全文はこちら[PDFファイル]pdfに掲載)

【委員のおもな意見】

  • この報告には2つの新しい取り組みがある。1つは「演出監修」というベテランディレクターが若手、社外スタッフと同じレベルで相談に乗っていくこと。もう1つは「べからず集」ではなくめざす姿を書こうという放送ガイドラインの全面改定である。これらは今までの対応策と質的に違う。評価してよいと思う。
  • 全面改定される放送ガイドラインが、どういう番組を作るべきかという基本哲学、例外的に許されること、放送倫理上許されないことに分類したうえで、それぞれに事例を多く入れて理解できるようなものに、ほんとうになれば、すごい教科書が出来ると思う。
  • 他局に役員が謝罪に行ったというところがあるが、ここまでやるのかと。それくらい重く受け止めたのだということはよくわかった。
  • 制作会社の社外スタッフを含めて、コンプライアンス研修をするというのは、こうあるべきだと思っていたことなので、これが前例になってくれればよいと思っている。
  • 今までこうあるべきだと思っていたことに踏み込み始めたこともあるので、このあと、どう機能したのか何らかの情報もほしいなとも思う。

以上

第66回 放送倫理検証委員会

第66回 – 2012年12月

iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について、2回目の討議

第66回放送倫理検証委員会は12月14日に開催された。
研究者の虚偽発表であることが明らかになったiPS細胞心筋移植手術実施のニュース報道について、2回目の討議を行った。
移植手術が実施されたことを前提に、朝から夜のニュースまで大きく扱った日本テレビに対して真実と判断した根拠は何だったのかに重点を置いた報告書を求めて議論した結果、審議の対象とはしないことになった。

議事の詳細

日時
2012年12月14日(金) 午後5時~6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構[BPO]」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
■iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について

出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、服部委員、水島委員

■iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について、2回目の討議

一部新聞が10月11日、一面トップで報じたiPS細胞心筋移植手術実施の記事は、ふたつの民放局がニュースとして伝え、民放各局のほとんどの情報番組でも、この新聞記事を紹介する形で放送した。その後、このニュースは誤報とわかった。
これらの放送について、前回の委員会では、民放各局の情報番組は基本的には新聞記事を紹介するという枠を出ていないこと、また、短いストレートニュースで伝えたテレビ朝日は研究者が移植を行なったと国際会議で公表したという事実のみの紹介であったことから、いずれも誤報とは言えないとして、前回で議論を終えた。
一方、日本テレビは移植手術が実施されたことを前提として、iPS細胞の作成方法や手術実施の経緯、患者のその後の状態などを、朝から夜のニュースまで詳しく伝えた。そのため日本テレビに対しては、真実と判断した根拠を中心にした報告書を求め、提出された詳細な報告書をもとに2回目の討議を行なった。
報告書には新聞記事をきっかけにした取材の開始から、ニューヨーク支局の動き、本社報道局のデスク、記者、ディレクターらの裏付け取材の内容・経緯が時間を追って具体的に示されていた。
討議の結果、本人以外からの裏付けが取れない状況で、真実であるかのようなニュースを放送してしまったことは問題ではあるが、全国紙の一面トップ記事を時間的制約がある中で後追いするために、担当者たちは精一杯の取材をしていること。疑問を持つべき情報も断片的にはつかんでいたが、放送を踏みとどまるのは難しかっただろうと思われること。誤報に至った経緯の詳細な検証を踏まえて、責任体制の明確化、科学・医療等の専門分野についての専門家見解取材の確認、この誤報についての研修、外部専門家ネットワークの構築、専門記者の育成努力などの対応を自主的にとっていることなどから、審議の対象とはしないことを決めた。

【委員のおもな意見】

  • ニューヨーク取材では、全国紙一面トップの報道、国際会議での展示、本人取材など道具立てが十分揃っている。iPS細胞の専門家でない記者が「これは嘘だろう」と判断するのは、この段階では無理ではないか。また放送前にこれだけのお膳立てが出来ていると、東京でも現場がブレーキをかけるのは難しいのではないか。
  • いくら本人から詳しく情報をとっても、それは裏取りにはならないということを忘れて、伝聞という形を取らずに、真実として放送してしまったところはやはり問題がある。
  • 普通の事象と違って、このニュースは科学的分野なので、記者が簡単に裏取りができるのかどうか疑問だと思う。こうした特殊性の上に舞台がニューヨークだったということもミスの要因だと思う。
  • 全国紙の一面トップということに大きく影響されている。捜査機関が思い込んで、それに反する情報はみんな軽視してしまい、評価を誤るというのは冤罪事件で共通している。思い込みがいかに恐ろしいかということである。
  • このニュース以前から、この研究者のいろいろな記事が新聞に掲載されていた。ところがその時点では誰も問題視していない。そのことも変だと思う。
  • 記者の科学情報に対するリテラシーの問題がある。この発表が演壇上の口頭発表でなくポスター展示という、通常内容審査のない簡易な形式の発表だったことの意味が解っていなかった。山中教授の方法とは全く違う方法でiPS細胞を作って心筋に注入したという発表だが、その方法でiPS細胞を作ったこと自体が、もし真実なら本当に画期的なのだから、それが展示発表のレベルでしか行われていないことに疑いを持つべきだろう。また、全く新しい方法で作ったiPS細胞を、動物実験も経ずにいきなり臨床で使うということに疑問を持たなかったのかということもある。
  • このニュースは専門家の中にも可能性としてあり得ると思った人もいたようだ。そういう意味ではこうしたニュースは特に慎重な報道が必要なのだと思う。
  • 心臓の再生医療の専門家などが懐疑的であることを知りながら、放送に十分反映されなかったことが問題。
  • 誤報原因の詳細な検証をしていることは評価できる。それを踏まえて、一応の再発防止策もとられている。

以上

第65回 放送倫理検証委員会

第65回 – 2012年11月

iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について
尼崎事件の顔写真取り違え問題について

第65回放送倫理検証委員会は11月9日に開催された。
委員会が今年7月に出した日本テレビ『news every.』「食と放射能」報道に関する意見について、当該局から提出された対応報告書を検討した結果、これを了承し、公表することにした。
新聞の一面トップの誤報記事が、テレビでも報道されたiPS移植のニュースについて討議した。裏づけ取材の方法から、このニュースを事実と判断した根拠まで、当該2局から自主的に提出された報告書も参考にして、広範な議論が行なわれた。その結果、ニュースとして大きく扱った局に対して、これを事実と判断した根拠の説明を改めて求め、次の委員会で討議を継続することにした。
NHKとすべての民放キー局がミスをした尼崎事件の顔写真取り違え問題についても、写真の入手経路や確認方法について、提出された報告書をもとに討議した。各局とも複数の関係者から確認をとった上で放送していること、間違われた被害者から各局の訂正放送と謝罪を受け入れてこれ以上触れないでほしいという意向が表明されていることから、審議の対象として意見を公表するまでの必要はないという結論になった。しかし、容疑者写真の取り違えは、それ自体が重大な過ちであるので、19年前の古い集合写真から抜き出した顔写真を容疑者の写真として放送することには、たとえ複数の関係者が同一性を認めていても、なお記憶の薄れなどから間違いが起きる危険があることを認識して放送の可否を判断する必要があるので、それを踏まえた再発防止の取り組みを社内で確立しなければならないという委員会の討議結果を、BPO報告などで公表することにした。

議事の詳細

日時
2012年11月9日(金) 午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構〔BPO〕」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
■日本テレビ『news every.』「食と放射能」報道の対応報告書を了承
■iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について
■尼崎事件の顔写真取り違え問題について
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、立花委員、服部委員、水島委員

■日本テレビ『news every.』「食と放射能」報道の対応報告書を了承

日本テレビは、 『news every.』 の「食と放射能」報道に関する意見(委員会決定第14号)を受けて、社としての再発防止策を報告書にまとめ、10月30日、委員会に提出した。
それによると日本テレビは、1年余り前、同じ報道番組の「ペットビジネス」事案に続いて類似の過ちを繰り返したことを踏まえて、▽番組制作上の問題点を根本から見つめ直す「番組制作向上委員会」(委員長は大久保社長)を始動させたこと▽従来の取材ハンドブックを発展的に改訂し、各種ガイドラインや社内研修用テキストなどを加えた新しい取材ハンドブックを作成・配布したことなど、多様な改善策を実施している。委員会は、意見書で指摘した過去の教訓を現場で「血肉化」するための取り組みが幅広く進められている点を評価して、この報告書を了承することにした。(報告書の全文はこちらに掲載)

■iPS細胞心筋移植手術実施との誤報について

10月11日、一部新聞が一面トップで報じたiPS細胞心筋移植手術実施のニュースは、その後国際会議でポスター展示発表を行った研究者の虚偽発表であることが明らかになったが、放送局では2局が報道番組で当該研究者のインタビューを含むニュースとして伝え、また、ほとんどの局の情報番組がこの新聞記事を紹介する形で報じた。
ニュースとして伝えた2局のうち、日本テレビは11日朝から夜のニュースまで移植手術が実施されたことが事実であることを前提として大きく扱った。テレビ朝日は当日の夕方ニュースの最後で、国際会議で発表があった事実だけを短く伝えた。
虚偽の疑いがあると判明したあと、2局は13日から15日にかけて、お詫びや報道に至った経緯を説明する放送を行い、その後、当委員会に対して、経緯報告書を自主的に提出した。(新聞記事の掲載前から取材していたNHKは心筋細胞移植手術実施のニュースとしては全く放送せず、12日夜のニュースの中で何故放送しなかったかを説明した。)
委員会では、新聞の特ダネ記事を追いかけて報道する際に、どのような裏づけ取材が行われたのか、事実と判断した根拠はどこにあったのかを中心に、意見交換が行われた。
討議の結果、移植手術実施が真実であることを前提として、iPS細胞の作成方法や手術実施の経緯、患者のその後の状態までニュースで詳しく伝えた日本テレビに対しては、真実と判断した根拠は何だったのかに重点を置いた報告書を改めて求め、次回の委員会で討議を継続することになった。一方、移植を行ったと日本人研究者らが国際会議で公表したという事実のみを短いニュースで伝えたテレビ朝日については、国際会議でそのような公表があったこと自体は事実であるから、あくまでその紹介のみのニュースであれば、誤報とは言えないとして、議論を終えることにした。
新聞の記事の紹介を中心に放送した民放各局の情報番組についても、コメンテーターの解説などに問題点が認められるものの、基本的には新聞で報じられたことを当該の新聞記事を使用して紹介するという枠を出ていないことから、誤報とは言えないとして、議論を終了した。

【委員のおもな意見】

  • この問題は2つに分けなければいけない。ニュースで流したところと、情報番組で新聞の紙面を見せたところと。それは違う性格のものだと思う。
  • 新聞がどんなに大きく報道しようと、自社で内容も確認しないで報道してよいはずがない。
  • 自分が自ら取材に行ったものではなくて、受身から始まる取材に対してどう裏づけを取るかという問題だと思う。自分から攻めて行っていない時のスタンスや対応に弱いところがあると思う。
  • テレビが独自にスクープしてこれは大きな間違いでしたということなら少し違うが、どう見てもこれは新聞の後追いだろう。テレビにもっと裏付けの取材しなさいということは言えるが、それ以上のことは言えない。
  • 間違ってはいけないけれど、間違うことはある。その時に単に反省しましたとか、以後気をつけますということになると、物事がどんどん痩せ細っていくという感じがする。BPOはそうした役割をしているのではないのだからいろいろな対応があって良いと思う。
  • 情報番組は、新聞の記事を紹介しただけでなく、ある種のコメントを重ねている。その部分に関しては番組として見なすべきであろう。情報番組でお詫びしていないのは、自主的自律的な是正が図られていないということではないだろうか。
  • 結局、真実と信じて放送したことにどれだけ合理性のある根拠があったのかということになる。

■尼崎事件の顔写真取り違え問題について

尼崎の連続不審死事件では、活字メディアだけでなく、NHKとすべての民放キー局も、事件とは無関係の人の顔写真を容疑者として放送した。後日、「あの写真は私だ」という女性の訴えが弁護士経由で寄せられ、各局とも間違いを認め、お詫び放送をした。すべての局が全く同じ写真を容疑者の写真だとして間違って使用したという今回のようなケースは前代未聞といえる。
この事件は、その特異性から社会の関心も高く、管轄の在阪局だけでなく、在京局からの応援を含めた共同取材体制が組まれたことから、委員会はキー局と在阪の系列局に対して、写真入手の経緯や放送すると判断した経緯などの報告を求め、それを基に議論が展開された。
各局が入手したのは、同じ集合写真の中から接写したもので、報告書によると、提供者の証言だけでなく、複数の関係者にあたり、「似ている。間違いない」との声が多かったことから、放送に踏み切った局がほとんどである。
しかし、この写真は19年前のものだった。委員会では、いくら複数の関係者から確認をとったと言っても、19年前であれば、当時を知っている人に確認をとっても記憶の薄れがあろうし、最近の容疑者の知人であれば、19年前の容疑者については想像に任せるしかない状況になる。しかも集合写真の小さな画像だったことを考えれば、いっそう同一性の確認は困難であったはずである。複数の関係者への確認作業を行うというマニュアルを守っていても、このケースでは当人かどうかの根拠にはならないのではないか、集合写真から一人を抜き出して拡大した写真を見せて、この人ですかと聞いた局もあったが、その方法では、判断する人を強く誘導する結果になるからそれ自体適切でないなどの意見が出された。
討議の結果、委員会では、ミスが確認された後、各社とも速やかなお詫び放送をし、今回の問題点について自主的に検証していること、また間違えられた当事者が、各放送局の謝罪を受け入れ、これ以上の騒ぎにならないことを望んでいるとのことなどから、審議入りしないこととした。
ただし、容疑者写真の間違いは人権上大きな問題であることを肝に銘じ、今後間違いを繰り返さないために、従来の型通りの手続きや手法だけではなく、何が真の確認になるかの社内議論を深めて、実効性のある再発防止策を確立して欲しいとの要望を、BPO報告やホームページを通じて、各局に伝えることになった。
さらに、委員会では、警察が異例の措置としてメディアに提供した写真を各局とも繰り返し使っているが、裁判員制度に関連して、使い方によっては犯人視報道につながる恐れがある、という意見もあったことを付記して、これを契機に、事件報道における容疑者の顔写真の扱いについて、各局が改めて検討や確認をするよう要望することにした。

■ANN(テレビ朝日系列)中・四国ブロックと検証委員会との意見交換会開催

テレビ朝日系列の中・四国ブロック4局との意見交換会が、10月30日、松山市の愛媛朝日テレビの会議室で行われた。これまで大阪・福岡・札幌で行われた意見交換会は、いずれもエリアの全局が対象だったが、今回のように、ある系列局だけで行うのは初めて試みであった。
放送局側からはブロックの4局から部長クラスを中心に12名、また委員会からは吉岡委員長代行、香山委員が参加した。
意見交換会では、まず両委員から、委員会での論議を通じ、日頃感じている点が紹介された。吉岡委員長代行が、「スタッフが何故今、放送局で働いているのか、何を伝えたいのか。放送倫理はスローガンではなく、その使命から生まれるのではないか」と直近の事例を交えて語り、香山委員からは「ミスは起きることを前提として、些細なミスでも報告しあい、皆で共有することが大切だ」と、自身が属する医療現場で今や常識になっている例を挙げ、グループワークでシミュレーションしていく研修方法が提案された。
これを受けて、各局からは、若いスタッフとのコミュニケーションをめぐる悩みや取材のありかたなどについて様々な意見が出され、予定時間まで活発な議論が交わされた。
各局からは、「意見を交わすうちに熱くなった」「これまで持っていた“高みからの監視機関”という見方が変わった」「エラーを少なくしていくヒントをもらった」などの感想が懇親会などで語られた。
さらに「他系列の局の人が一緒だとなかなか本音は出ないものだが、ここまでさらけ出せたのは気心が知れていたからだろう。こうした形式をどんどん採って欲しい」との声も多かった。

以上

第64回 放送倫理検証委員会

第64回 – 2012年10月

日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』通知・公表について

フジテレビ『めざましテレビ』委員長談話公表について

第64回放送倫理検証委員会は10月12日に開催された。
10月4日に「意見」を通知・公表した日本テレビの『芸能★BANG ザ・ゴールデン』と、10月3日に委員長談話を公表したフジテレビ『めざましテレビ』について意見交換を行った。

議事の詳細

日時
2012年10月12日(金) 午後5時~6時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議案
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員

日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』に関する意見の通知・公表

日本テレビの『芸能★BANG ザ・ゴールデン』で女性タレントと占い師の同居騒動を取り上げ、新聞の番組欄での告知や番組内のスーパー、ナレーションでこの占い師が出演するかのように表示しながら、実際に出演したのは別の占い師だったという事案。
放送倫理検証委員会は10月4日に当該局に対して委員会決定第15号の意見書を通知し、続いて記者会見をおこなって、これを公表した。事務局から通知・公表ついての報告があり、当日のテレビのニュースや新聞での伝え方をもとに、担当委員を中心に話し合った。

フジテレビ『めざましテレビ』ココ調・無料サービスの落とし穴』についての委員長談話公表

フジテレビの『めざましテレビ』が6月6日に放送した「無料サンプルの落とし穴」企画で、化粧品会社からの電話を意図的に36分間も引き伸ばし、隠し録音を安易に行ったという事案。委員会は2度の討議を経て10月3日に『委員長談話』を公表した。談話では、この事案に放送倫理違反がありながら審議対象としなかったのは、隠し撮り(録音)された被害者への謝罪が受け入れられており、的確な訂正放送や研修など自主・自律による是正策も適切に行われているうえ、隠し撮り(録音)という取材方法が不適切であったとの結論だけのひとり歩きが、真実追究の意欲を持った放送人の足かせとなる恐れがあったからであると説明している。
委員会では、談話の公表の経緯と反響が報告され、また談話の内容についても再確認がされた。
(注:「意見」および「委員長談話」は既にホームページに掲載

以上

第63回 放送倫理検証委員会

第63回 – 2012年9月

日本テレビ「食と放射能 飲み水の安全性」報道に関する意見

告知とは別の「占い師」が出演した日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』 …..など

第63回放送倫理検証委員会は9月14日に開催された。
7月31日に通知・公表した日本テレビの「食と放射能 飲み水の安全性」報道事案については、当日のテレビニュースや報道された新聞記事などを見たうえで意見交換を行った。
前回の委員会で審議入りした日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』については、担当委員から意見書原案が提出され、審議の結果大筋で合意を見た。若干の修正を加え、10月の初めに当該局に「意見」を通知し、公表することになった。
「無料サービスの落とし穴」という企画コーナーで、電話セールスのトラブルは局側の演出よるものだった等の不適切な取材・表現があったフジテレビ『めざましテレビ』については討議の結果、この事案に関する委員長談話を公表することになった。
また、事務局から9月10日付けで5周年記念冊子を刊行したことと在札幌局との意見交換会を実施したことが報告された。

議事の詳細

日時
2012年9月14日(金) 午後5時~8時20分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議案
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、立花委員、服部委員、水島委員

日本テレビ「食と放射能 飲み水の安全性」報道に関する意見

日本テレビの報道番組『news every.』の中で詳しく紹介され、利用者として重要なコメントをした「宅配の水」の女性利用者が、実は一般の利用者ではなく、宅配の水を製造・販売する会社の経営者の親族(会長の三女で社長の妹)で、執行役員の妻であり、大株主でもあったという事案。
7月31日、当該局に対して委員会決定を通知し、続いて記者発表を行った。事務局からそれに関する報告があり、続いて当日のテレビニュースや報道された新聞記事などを見たうえで意見交換が行われた。

告知とは別の「占い師」が出演した日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』

日本テレビが5月4日のゴールデンタイムに2時間放送した『芸能★BANG ザ・ゴールデン』の中で、週刊誌などで話題になっている女性タレントと占い師の同居騒動を取り上げ、新聞の番組欄での告知や番組内のスーパー、ナレーションで女性タレントと同居していた占い師が出演するかのように表示した。しかし、実際に出演したのはこの占い師と一緒に住んでいたことのある別の占い師だったという事案。
担当委員から意見書の原案が示され、この原案をもとに審議を行なった。
審議の結果、委員会は意見書原案を基本的に了解し、10月の初めに当該局へ通知し、記者会見をおこなうことを決めた。

委員長談話公表へ 不適切な取材・表現があったフジテレビの『めざましテレビ』

6月6日放送の『めざましテレビ』は、「ココ調」のコーナー企画で、無料サンプルに応募したところ化粧品会社からのセールス電話が36分間にも及んだと報じた。しかし、電話はディレクターが意図的に引き伸ばし、会話は無断録音だったこと、さらに無料カットサービスのロケでも美容師の声を隠し録音していたこと、実況放送風にみせかけた過剰な演出があったことが判明し、前回の委員会から討議に入っていた。
今回は、フジテレビが事前に提出していた「不適切表現の問題点から学ぶ」という社内向けテキストの内容も参考にしつつ、この事案の扱いについて意見を交わした。
各委員からは、この事案の問題点は、意図的な電話の引き伸ばしをしたのにセールストークが長引いたかのように事実をゆがめて伝えていること、隠し録音、隠し撮りは、例外的にしか認められない手法なのに、重大性も緊急性もないにもかかわらず、隠し撮りが許されると安易に判断しているうえ、必要も無いのに後付け実況をしている点で放送倫理違反があるとの指摘があった。さらに2010年8月に起きた同局の『Mr.サンデー』事案との比較や、昨今のプライバシー意識の向上と表現の自由の関係など多岐にわたる意見が交わされたが、最終的には、迅速な訂正放送と謝罪により隠し録音の放送に抗議した化粧品会社の納得は得られていること、美容師も隠し録音放送を事後承諾していること、後付け実況は過剰な演出だが討議の対象とするほどの重みはないこと、迅速な内部調査と再発防止策の策定と実行により当該局の自主的・自律的な取り組みが十分に行われていることなどを総合的に考慮して審議入りはせず、委員長談話を出して、隠し撮り、隠し録音の基準についての問題点を指摘しつつ、審議の対象としなかった理由を説明することとした。またフジテレビが作成した総括テキストは、他局の人が読めば再発防止の共有財産になるとの評価もあったので、フジテレビの同意を得て、上記テキスト全文をBPOのホームページに掲載することにした。

その他

1.「放送倫理検証委員会2007~2012」発刊

BPOの放送倫理検証委員会は2007年の発足から5周年を迎え、これまでの委員会の決定、提言、委員長談話、それに委員会で議論になった事案をまとめた冊子、『放送倫理検証委員会2007~2012』を発刊した。
この冊子は、5年間に60回開かれた、放送倫理検証委員会が公表した勧告、見解を含む13の委員会決定、1つの提言、それに1つの委員長談話をすべて網羅するとともに、委員会で議論となったおもな事案59件を掲載した。
また、発足以来委員長を務めてきた川端和治委員長に、重松清委員が、放送倫理検証委員会がこの5年間何を考え、どんな思いで活動してきたかについてインタビューを行い、冒頭に掲載した。
『放送倫理検証委員会2007~2012』が放送倫理と番組の向上に役立つことを願い、BPO加盟の全国の放送事業者や関係先に配布した。

2.在札幌のテレビ・ラジオ各局とBPO検証委員会の意見交換会開催

在札幌局との意見交換会が9月10日、札幌市内のホテルで開かれた。一昨年の大阪、昨年の福岡に次いで3回目の開催であるが、ラジオ2局を含む8局から55人が、また委員会側からは、川端委員長、重松委員、服部委員の3名が出席した。
意見交換会は、2つのテーマを設け、第1部を「最近の事例から」また第2部を「委員会は発足以来、何を考え続けてきたか」とした。
第1部では、直近の事例である日本テレビの「宅配の水」の意見書のポイントを川端委員長が説明、1年前の「ペットビジネス」事案を踏まえて対応策を作ったはずなのに、なぜ同じようなミスを繰り返してしまったのか、その要因として、血肉化されなかったガイドライン、そして制作担当がベテランであったが故に「お任せ」になってしまうスタッフの意識があることが指摘された。
続いて、重松委員から、ミスは全国で起きていて、その原因や背景を見ると他局にとっても決して他人事ではないという事例を、ここ数年の討議・報告案件から紹介した。
さらに、服部委員が、こうしたミスが続くと行政や政治が介入する口実を与えることになり、放送局として危機感を持つ必要性を訴えた。
第2部では、委員会が発足5周年を機に刊行した冊子に掲載した「川端委員長へのインタビュー」を基に、会場からの質問を交えながら委員会がこの5年間何を考え続けてきたかを鼎談ふうに語り合った。
意見交換会では、会場からそのつどの質問のほかに、あらかじめ参加者に質問カードを配り、休憩中に回収、その質問をそれぞれのパートで適時取り込んだことから、放送局側と委員会側の意見交換が活発に展開される効果が生まれた。
特に、「ミスが起きるのは東京など大きな組織であるがゆえの意思疎通不足ではないかと思っていたが、実際に全国で起きている事例を聞くと、われわれも身につまされる」といった感想が出された。最後に川端委員長が、「番組制作側にぜひともこれを伝えたいという強い意思があるときにすばらしい番組が生まれる。そうした真摯な挑戦を続けている場合に、委員会が頭から「これは放送倫理違反だ」というような形式的な議論をすることは一切ない」と委員会のスタンスを述べた。
意見交換会終了後に開かれた懇親会では、「会場に来るまでは、きっと眠くなると思っていたが、双方のやり取りに聞き入ってしまい、寝る暇もなかった」と冗談めかした感想や、「自分なりに知っていると思ったことが、表面的にしか理解していなかったことがよく分かった」という声があちこちで聞かれた。
また、開催時間が午後2時から5時という時間帯であったため、制作現場からの参加者は限られていたが、「意見のやり取りを現場の若いスタッフにも聞かせてやりたかった」と残念がる局幹部も多かった。

以上

第62回 放送倫理検証委員会

第62回 – 2012年7月

“不適切な取材対象者”が繰り返された日本テレビの報道番組『news every.』

告知とは別の「占い師」が出演した日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』 …..など

第62回放送倫理検証委員会は7月13日に開催された。
「宅配の水」の利用客として登場した女性が、宅配水メーカーの経営者の親族だったことが判明した日本テレビの報道番組『news every.』は、2回目の審議が行われた。1年余り前の「ペットビジネス」事案と類似した過ちが、なぜ繰り返されたのかを中心に検証した意見書の修正案が了承され、7月中に通知・公表を行うことになった。
日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』の新聞の番組欄や番組内のテロップなどで、話題となっている占い師が出演するかのように告知しながら別の占い師が出演した事案についても、前回に続いて討議した。その結果、視聴者の信頼への裏切りという、放送倫理の根本に関するところで問題があるとして審議入りを決めた。
また、フジテレビ『めざましテレビ』の「無料サービスの落とし穴」という企画コーナーで、電話セールスのトラブルは局側の演出よるものだった等の不適切な取材・表現があった事案について討議。取り扱いについては次回委員会で結論をだすことになった。

議事の詳細

日時
2012年7月13日(金) 午後5時~9時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議案
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員

“不適切な取材対象者”が繰り返された日本テレビの報道番組『news every.』

4月25日に放送された原発事故後の「飲み水の安全性」の特集企画の中で、「宅配の水」の利用者として紹介された女性が、一般の利用客ではなく、宅配水メーカーの経営者の親族(会長の三女で社長の妹)で執行役員の妻であり、大株主でもあったことが判明した事案。
2回目の審議で、担当委員から、1年余り前の「ペットビジネス」事案と類似した過ちがなぜ繰り返されたのかについて、分析・検証した意見書の修正案が委員会に提出された。
意見交換の結果、若干の補足を加えることでこの修正案は了承され、7月中に当該局への通知と公表の記者会見を行うことになった。

告知とは別の「占い師」が出演した日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』

日本テレビは5月4日のゴールデンタイムに、深夜のレギュラー番組『芸能★BANG+!』を『芸能★BANG ザ・ゴールデン』として2時間放送した。この放送では、週刊誌などで話題になっている女性タレントと占い師の同居騒動を大きく取り上げた。新聞の番組欄での告知や番組内のスーパー、ナレーションでは、女性タレントと同居していた占い師が出演するかのように表示したが、実際に出演したのはこの占い師と一緒に住んだことのある別の女性占い師だったという事案。
前回の委員会の後、日本テレビは委員会に対して、追加の資料として『芸能★BANG ザ・ゴールデン』問題の反省をもとにした全社的な取り組みを示すとともに、別紙として、経営トップからの社員への指示、その後開かれた研修会での社員の意見などを報告した。
委員会はこれらをもとに、前回に引き続いての継続討議を行った。バラエティ-番組の演出をめぐる放送倫理が問題となったこの事案の扱い方の難しさを中心に長時間に渡る討議がなされた。そして、視聴者からの信頼という放送倫理の根本を裏切っていることから、審議に入らざるを得ないという結論に達し、次回の委員会で審議を行うことになった。

【委員の主な意見】

  • 前回の討議でもあったが、具体的に放送基準などの何に当たるかというのは非常に難しい。
  • 要するに視聴者に対してフェアでないということ、視聴者を大事にしていないということで、まさに倫理の問題だと思う。
  • 今回のケースは、制作者の意図に反して「誤解」された事案ではなく意図的に視聴者の「誤解」を狙った「虚偽」だと考える。
  • ここまでレベルの低い案件はBPOが審議する前に局の内部で対応し、けじめをつければよい。委員会がわざわざ意見を述べるほどの奥行きのない事案だと思う
  • 本来は、本当にタレントと同居していた占い師の出演がだめになった段階で、この企画は占い師の登場を前提としないで、霊能者や占い師に騙されてお金を取られた出演者のトーク番組に変えてしまえばよかった。問題の占い師は出演しないことになったのに、変えられないまま最後まで行ってしまったとしか取りようがない
  • このケースが誤解をねらった確信犯ではなく、視聴者がそのように受け取るとは考えなかったというならば、コミュニケーション能力の低い制作者で、それだけで失格だ。

不適切な取材・表現があったフジテレビの『めざましテレビ』

問題となったのは6月6日放送の「無料サービスの落とし穴」という企画コーナーで、ディレクターが実際に化粧品会社の無料サンプルに応募、その後かかってきた電話が36分間も続いたと放送したが、実は電話のやりとりの大部分は番組側が意図的に質問を重ねて会話を引き伸ばしていたという事案。また無料カットサービスを受けた美容室では、客になってくれた女性にマイクをつけ美容師との会話を録音した。
当該局は6月13日の同番組内でお詫びコメントを放送。7月9日には検証委員会に自主的に報告書を提出した。そのなかで、あたかも一方的な勧誘が長く続いたようになった点、さらに隠し撮り・隠し録音について社内規定に沿った許諾手続がとられなかったことに問題があったと自ら認めた。取材先にも直接陳謝したという。委員会は様々な角度から意見を出し合ったが、取り扱いは次回委員会で結論を出すことにした。

【委員の主な意見】

  • こちら側で質問を作って、結果的にできた36分を証拠に、ひっぱり電話が向こうからあったように表現する部分は悪質。
  • サンプルを送るだけだから、先方はセールストークをする理由はほとんどない。それを迷惑電話がくるという企画に合わせて撮ろうとするからむりやり引き伸ばすことになる。
  • モザイクが一般化し、水際で隠せばなんでもOKという雰囲気が怖い。
  • 原則、盗聴はするなと局の内規にあるが、なぜそのような内規があるのかを理解していないから、これは例外だと思いこむ。
  • 技術がよくなり、いまは秘密の意識なしに音が録れてしまう。
  • 放送局であることを明かさずに取材することは多いので、隠し録音が「いけない」と言われると逆に萎縮する懸念がある。
  • 自分の企画にはめこむ形で隠し撮りを利用しているが、これが一般化して隠し撮り自体がタブーだという流れになることは危険。そうなると表玄関からしか取材できなくなり、撮れるものも撮れなくなる。

以上

第61回 放送倫理検証委員会

第61回 – 2012年6月

“不適切な取材対象者”が繰り返された日本テレビの報道番組『news every.』

新聞の番組欄や番組内テロップなどで、話題の「占い師」が出演するかのように表示し、実際には別の「占い師」が出演した日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン ……など

第61回放送倫理検証委員会は6月8日に開催された。「宅配の水」利用客として登場した女性が、宅配水メーカーの経営者の親族だったことが判明した日本テレビの『news every.』について、まず審議が行われた。担当委員から、担当ディレクターを含む11人に対して実施したヒアリングの内容が報告され、1年余り前の「ペットビジネス」事案と類似した過ちが繰り返された原因や背景について意見交換が行われた。その結果、論点がほぼ整理できたため、次回の委員会で意見書をまとめることになった。また、日本テレビのバラエティー番組『緊急放送!芸能★BANG ザ・ゴールデン』で、新聞の番組欄や番組内テロップに、芸能ニュースで 話題となっている「占い師」が出演するかのように表示したにもかかわらず、実際には別の「占い師」が出演したために、多数の苦情が寄せられた問題について、委員会としてどう取り扱うべきかの討議がおこなわれた。

議事の詳細

日時
2012年6月8日(金) 午後5時~9時15分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員

“不適切な取材対象者”が繰り返された日本テレビの報道番組『news every.』

『news every.』は4月25日放送の特集企画で、福島第一原発の事故の影響で懸念されている水道水の安全性の問題を検証した際、最近「宅配の水」として利用者が急増しているボトルドウォーターについても取り上げた。この中で、利用者として紹介され、子どものためにも宅配の水のほうを選ぶとコメントした女性が、一般の利用客ではなく、宅配水メーカーの親族(会長の三女で社長の妹)だったことが判明し、委員会が前回審議入りを決めた事案。
2011年1月8日に放送された『news every.サタデー』で、ペットサロンやペット保険を取り上げた際にも、一般利用客として紹介した2人の女性が、運営会社の従業員だったことが発覚した。委員会は、事実を正確に伝えておらず、また、公正性が損なわれている点で放送倫理の違反があるという意見書を公表し、当該局も再発防止策を策定実施したにもかかわらず、なぜ類似の過ちが繰り返されたのかが、論議の焦点になった。
「ペットビジネス」事案を担当した2人の委員が今回も担当者に指名され、この企画の取材・制作にあたった2人のディレクターをはじめ、内容をチェックしたプロデューサーや、宅配水メーカーの関係者から聞き取りをした報道局幹部など、あわせて11人からヒアリングを実施した。
ヒアリングは、「ペットビジネス」事案を教訓に、取材対象企業の関係者をユーザーとして扱わないことや対象企業に安易にユーザーの紹介を依頼しないと定めた当該局の「企業・ユーザー取材ガイドライン」がどこまで浸透・機能していたのか、編集・制作段階での局内のチェックはどのように行われたのか、などを中心に進められ、それをもとに問題点を整理した意見書素案が委員会に提出された。
意見交換の結果、今事案の論点はほぼ整理できたため、次回の委員会で意見書をまとめ、7月いっぱいを目途に通知・公表することになった。

新聞の番組欄や番組内テロップなどで、話題の「占い師」が出演するかのように表示し、実際には別の「占い師」が出演した日本テレビ『芸能★BANG ザ・ゴールデン』

芸能記者などが出演して芸能情報をバラエティー手法で伝える日本テレビの深夜レギュラー番組『芸能BANG+!』が、5月4日のゴールデンタイムに『緊急放送!芸能★BANG占い・離婚・・・渦中のアノ人が記者軍団と激突SP』のタイトルで2時間スペシャルとして放送され、週刊誌などで話題になっている女性タレントと占い師の同居騒動にまつわる話を大きく取り上げた。
新聞の番組欄で、「今夜遂にスタジオへ・・・オセロ中島騒動の占い師が謎の同居生活全貌激白」と告知した。さらに番組内ではオープニングから45分以上にわたって同様のスーパー、ナレーションなどを繰り返し、女性タレントと同居していた占い師が出演するかのように放送した。
しかし、実際に出演したのはこの占い師と一緒に住んだことのある別の占い師の女性だった。放送後、当該局に対して多数の抗議が届いたほか、BPOにも視聴者からの多くの意見が寄せられた。
委員会は、当該局からの報告をもとに討議を行ったが、虚偽の事実を告知して視聴者を誤解させたという意味で審理案件ではないかという意見から、騙されるということも含めてバラエティーのカテゴリーの中に含まれるという意見まで、幅広い意見が出て議論が長時間交わされた。今回の委員会では結論に至らず、次回の委員会で更に討議を続けることになった。

【委員の主な意見】

  • 新聞の番組欄でも番組中のテロップでも嘘をついている。結果的にではなく、意図的に嘘をついている。これは時間泥棒ではないか。
  • こうしたバラエティーの場合、これもギャグの範疇という事案はなくはない、しかしこの放送の場合はどう考えてもそうはみられない。
  • 作り手のモラルの問題である。視聴者に対する目線が、視聴者を低く見て馬鹿にしているのではないだろうか。
  • 全体として占い師に騙されてはいけないという啓蒙番組のようにとれなくもない。最後の占い師の部分もそれなりに面白い。
  • 騙されることも含めてバラエティーというカテゴリーに含まれる。視聴者との間で、騙し騙されるという関係自体がバラエティーという番組の一つのスタイルである。
  • 騙し騙されるという関係については、制作者と視聴者が了解しあってなければならないはずだが、この番組ではそれがない。
  • この番組は、オセロ中島騒動の占い師という現実の情報をとりあげている。そう考えると情報番組という側面がある。とすれば視聴者に嘘をついて引っ張るようなことをしてはいけないというしかない。
  • 視聴者は、この番組を見るときに、芸能ニュースを見ようとしたから怒ったのではないか。騒動についての情報を占い師本人から知りたいと思って見たから、期待が裏切られたということになった。
  • 裏番組の制作者は、この番組を許せないと思う。裏番組の制作者にとってこの番組は公正ではない。

以上

第60回 放送倫理検証委員会

第60回 – 2012年5月

“不適切な取材対象者”が繰り返された日本テレビの報道番組『news every.』

取材対象を十分確認せず誤映像を放送した熊本放送の『夕方いちばん』

第60回放送倫理検証委員会は5月11日に開催された。
日本テレビの報道番組『news every.』(4月25日放送)の特集企画の中で、最近利用者が急増している「宅配の水」(ボトルドウォーター)について取り上げたが、利用客として登場した女性は、宅配水メーカーの経営者の親族(会長の娘、社長の妹)だったことが判明、当該局はお詫び放送をして謝罪した。
同じ番組で、1年余り前に「ペットビジネス」の運営会社の社員を一般利用者として紹介した事案では、委員会は放送倫理違反として意見書を公表したが(委員会決定第10号)、類似の問題が同一番組で繰り返された原因を検証するため、この事案も審議入りすることになった。
熊本放送の県域情報番組『夕方いちばん』のニュース枠で、洋服加工工場で起きた作業員の死亡事故を伝えた際、別の工場の映像が誤って放送された。誤報の原因は、警察の正式な発表前にインターネット検索で見つけた誤った情報が、取材者の一方的な思い込みや不十分な確認作業で最後まで訂正されなかったためで、当該局は5回の訂正・謝罪放送をして、誤報の被害者の納得を得た。被害は回復され、放送後に十分な原因調査を行い改善策も示しているとして、討議を終えた。
番宣や番組内で、芸能ニュースで話題となっている占い師が出演するかのように表示したが、実際には別の占い師が出演したバラエティー番組に対し、騙されたと批判する視聴者意見が多数寄せられた事案が事務局から報告された。当該局から報告書を求め、次回の委員会で討議を行うことになった。
また、「東海テレビ放送『ぴーかんテレビ』問題に関する提言」について、新たに名古屋地区の放送局から対応報告があった旨、事務局から報告された。

議事の詳細

日時
2012年5月11日(金) 午後5時~8時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、吉岡委員長代行、石井委員、是枝委員、重松委員、立花委員、服部委員、水島委員

“不適切な取材対象者”が繰り返された日本テレビの報道番組『news every.』

『news every.』は4月25日放送の特集企画で、原発事故の影響で懸念されている水道水の安全性の問題を検証した。その中で、最近「宅配の水」として利用者が急増している専用サーバーを使用するボトルドウォーターについても取り上げ、子どものためにも宅配の水のほうを選ぶという女性を、一般利用者として詳しく紹介した。ところがこの女性は、宅配水メーカーの親族(会長の三女で社長の妹)だったことが、当該局やBPOに寄せられた視聴者意見から判明し、当該局は1週間後に「お詫び放送」をして視聴者に謝罪した。
2011年1月8日に放送された『news every.サタデー』で、新しいペットビジネスとしてペットのマッサージサロンやペット保険を取り上げた際にも、一般利用客として紹介した2人の女性が、運営会社の従業員だったことが発覚した。委員会は、報道番組で従業員を一般利用者として紹介することは、事実を正確に伝えておらずまた公正性をそこなうという意見書を公表(委員会決定第10号2011年5月31日)していた。
当該局は、この事案のあと、「企業・ユーザー取材ガイドライン」を新たに作成して、取材対象企業の関係者をユーザーとして扱わないことや対象企業に安易にユーザーの紹介を依頼しないことなどを定めていた。しかし、当該局の説明によると、今回の特集企画の取材・制作担当者の中で、出演者の女性が対象企業の関係者かどうかに気を配ったり確認したりした者は、誰もいなかったという。
委員会は、「ペットビジネス」事案を教訓に作られた「企業・ユーザー取材ガイドライン」がどこまで浸透・機能していたのか、再発を防止するための社内研修はどのように行われていたのかなど、類似の問題が繰り返された原因や背景をきちんと検証する必要があるとして、審議入りすることを決めた。

【委員の主な意見】

  • のど元過ぎればではないけれど、たった1年でみんな忘れ去られてしまうのだろうか。1年前、いろいろ議論を重ねて作った意見書が何の役にも立たなかったのだとすれば、それは問題ではないか。
  • 前の事案と比較して最大の相違点は、ペットビジネスのディレクターは承知の上で故意にやったのだが、今回の取材者は親族だと知らなかったと言っていること。制作過程の問題を軽重で言えば、今回はやや軽い。
  • 結果的に企業に近い人が広告的な活動をするのを防げなかったという点では同じではないか。今回のほうが、より経営者に近い人物だし、商品の大写し映像も多く、より広告的だったとも言える。
  • 再発防止の切り札だったはずの「ガイドライン」が、なぜ全く役に立たなかったのか。実際に使われていたのか。今回の取材・制作関係者から徹底してヒアリングをすることが必要だろう。
  • 今回の取材・制作担当者は、報道番組の経験や実績が豊富な中堅以上の人たちだったということだが、中堅やベテランになるほど、ガイドラインはあっても気にとめず、自分の経験ややり方で仕事を進めるのではないか。
  • 社内の研修はどうしても若手社員や若手の社外スタッフ中心になりがちで、中堅クラスや管理職は漏れていたのではないか。実効性の高い研修がきちんと行われていたかどうかだ。

取材対象を十分確認せず誤映像を放送した熊本放送の『夕方いちばん』

熊本放送の県域情報番組『夕方いちばん』のニュース枠で、今年2月24日、熊本市内の洋服加工工場で起きた作業員の死亡事故を伝えた際に、誤って別の工場の映像を放送した。この2つの工場は、業務内容が同じ、会社名まで酷似しており、工場の所在地も町名・字名まで同一で番地だけが異なっていた。
事故の一報連絡を受けたニュースデスクが、断片的な情報をもとにインターネットで検索した結果、別の工場のほうを事故が起きた工場と思い込んで、カメラマンに撮影を指示した。カメラマンはなんら変わった様子が見られない工場に不審を抱き、デスクに問い合わせたが、デスクは思い込みから間違いないと答え、カメラマンは工場側にコンタクトを取らずに撮影をした。その後、警察から正式な発表があったが、確認取材が不十分で、誰も誤映像であることに気づかなかった。
当該局は、間違えられた工場の苦情を受けて、5回の訂正・謝罪放送をして被害者の納得を得たほか、総務省に放送法に基づく訂正放送の報告を行った。委員会は、報道の根幹にかかわるミスではあるが、間違って映像を放送された工場の名誉回復は訂正・謝罪放送で果たされており、また放送局は放送後に十分な原因調査を行い具体的な改善策も示しているとして、審議入りしなかった。

以上

第59回 放送倫理検証委員会

第59回 – 2012年4月

NHK松山放送局『おはようえひめ』不適切テロップの送出

平成24年度地方局との意見交換会の計画

第59回放送倫理検証委員会は4月13日に開催された。
NHK松山放送局の県域ニュース番組『おはようえひめ』で2月16日、ニュースと関係のない不適切な架空字幕が放送された事案について、NHKから新たに提出された回答書をもとに2度目の討議を行ったが、審議入りしないことになった。
ただ、他局でも類似したミスが起きており、委員長コメントをBPO報告の議事概要に付け加えることにした。
また、事務局から平成24年度の地方局との意見交換会の実施に関しての説明を行った。

議事の詳細

日時
2012年4月13日(金) 午後5時~7時30分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者
川端委員長、小町谷委員長代行、吉岡委員長代行、石井委員、香山委員、立花委員、服部委員

NHK松山放送局『おはようえひめ』不適切テロップの送出

2月16日、NHK松山放送局の朝のニュース番組『おはようえひめ』で「しまなみ海道」関連のニュースを放送中に、「窃盗の疑い 愛媛大学教授逮捕」という、ニュースと関係のないタイトル字幕が2秒間放送され、訂正とお詫びが翌朝までに3度放送された事案。
委員会の再質問に対し、NHKから事故原因の詳細な説明と再発防止の具体策があらためて提出された。回答書では、契約スタッフが作成した練習用字幕が消去されずに電子台本に残った経緯、最初のおわびでは字幕のような事実がないことを確認する時間がなかったために「関係のない字幕が表示されました。失礼いたしました」とお断りするのが精一杯であったこと、契約スタッフの監督責任体制に不備があったので改めること、今後は固有名詞を使わない例文の用意など練習マニュアルを見直すことにより同種の事案の再発防止を図ること、放送中の緊急回避操作を確認したことなどが示された。
討議の結果、事実に反する字幕の放送による被害は迅速な訂正により回復されているし、提示された再発防止策は適切で同類のミスは防げるであろうとの判断から審議入りしないことにした。ただ、不適切字幕が出ないような対策が「ぴーかんテレビ問題」以後もとられていなかったことは問題であり、さらに電子台本については予期せぬ事態に対応する方法が技術的に複雑な点を危惧する意見が出た。

【委員の主な意見】

  • 不適切字幕の防止策として練習用には固有名詞を入れないというのだから、この類の事故は防げると思う。
  • 字幕の事実関係の有無をすぐには確認できなかったためとりあえずのお断りを入れ、確認ができた後に名前を挙げられた大学の名誉についてお詫びをしたのだから、これでいい。
  • ネクスト画面にでた字幕を急遽削除すると画面上は消えたように見えるが、実際には削除されなかったというのは、レアケースとはいえ不親切なシステムだ。
  • 2種類ある字幕系統の仕組みを完全に把握しておかないと削除方法もわからないということか。
  • システム設計に問題はないか。普段使わない回避操作をとっさにやれというのは無理ではないか。
  • 事故が頻発するのは問題だが、技術は複雑化しており、絶対間違いのない放送を求めるのは過剰な負担をかける気がする。

また、委員会では、バーチャルスタジオを使った他局の番組で最近、間違った映像が出てしまった事例についても意見が交わされた。昨今はコンピューター技術が番組制作に深く関わっており、誤字幕、誤映像等のミスが生じた場合の対応を再点検する必要があるのではないかという意見があがった。「ぴーかんテレビ問題」を契機に委員会として「提言」をおこなって注意喚起をしたにもかかわらず、同種のミスが散見されるので、委員長コメントを出すことにした。

■委員長コメント

最近、電子台本とかバーチャルスタジオとかネット上の動画の利用といった放送技術がさらに進化し、またより広く利用されるようになったことに関連して、誤って放送局が意図しなかった不適切な結果を招いてしまった事案が、委員会で討議の対象となったり報告されたりした。進展を続ける放送技術に、放送をする人間側が十分に対応できていないのではないかと思われる現象が見られるのである。
もとより当委員会は、放送倫理の向上という大きな目的のために設けられた機関であり、単なる技術上の問題に起因する放送事故について意見を述べる立場にはないが、東海テレビの『ぴーかんテレビ』における不適切なテロップの放送問題のように、誤って放送されてしまった内容によっては、視聴者の誤解など重大な放送倫理問題を招来する場合もある。
番組制作に使用される技術やシステムは、人間は必ず誤りを犯すということを前提に、たとえ誤りがあってもそれが重大な結果には直結しないような仕組みが用意され、運用されていなければならないはずである。今、起こっている問題は軽微であるが、このままでは将来重大な事故が発生するおそれがあるのではないかと憂慮されるので、委員会としてあらためて注意喚起しておきたい。

平成24年度地方局との意見交換会の計画

これまで地方局と委員会との意見交換会は、一昨年大阪で、また昨年には福岡で、それぞれ近隣の県の放送局も参加する形で行われ、参加局からは、「なかなか接する機会がない委員から生の話が聴けて有意義だった」と概して好評であった。こうした機会を多く設けてほしいという放送局の要望を受けての計画案として、

  • 過去2回の例と同様に一定の地区で多くの局に参加を募る形式
  • (1) の形式にテーマごとの分科会を設け、二部構成にする
  • 都道府県単位で、各放送局に参加を募る形式
  • 系列のブロック単位で行う形式

など、放送局の意向に沿った様々なパターンを検討していることが説明された。

以上