2013年度 第52号

「宗教団体会員からの申立て」に関する委員会決定

2014年1月21日 放送局:株式会社テレビ東京

見解:放送倫理上問題あり
テレビ東京が2012年12月30日に放送した報道番組「あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~」において、番組で紹介された男性が、公道で隠し撮影された容姿・姿態が放送されたほか、カウンセリングにおける会話や両親に宛てた手紙の内容が公にされるなどプライバシーを侵害されたとして、謝罪と今後二度と当該番組を放送しないと誓約するよう求めて申し立てたもの。
放送人権委員会は審理の結果、1月21日に「委員会決定」を通知・公表し、「見解」として本件放送には放送倫理上問題があるとの判断を示した。

【決定の概要】

 テレビ東京は、2012年12月30日午前1時25分から午前2時25分まで、『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』と題する番組で、オウム真理教の後継団体であるアレフの活動状況と、新たにアレフの信者となった若者らの様子をローカル放送した。番組は、申立人をアレフの信者であると紹介しつつ、申立人の顔に一定のボカシをかけながら、申立人が特定の地方都市の国立大学を放送の年に卒業したこと、年齢や出身地方を説明し、その大学を想起させる大学の構内や学部名の入った門柱の映像、実家付近の駅周辺の映像、卒業式らしき場で友人たちと写る写真などを放送した。また、申立人が実家で、アレフ脱会のカウンセラーからカウンセリングを受け、思春期の悩み等から信仰に至ったことを話す状況をカウンセラーのみの了承のもとで隠し録音し、音声を変えたうえで放送し、さらに、申立人が両親に送った私信の映像を流しながら、信仰に対する考え方を書いた部分のナレーションによる朗読を挿入するなどした。
委員会は、申立人から本件放送によってプライバシー権などを侵害されたとの申立てを受けて審理し、「見解」に至った。決定の概要は以下の通りである。
委員会は、アレフの危険性についての疑惑などに関係する調査報道を行う本件放送の公共性・公益性を高く評価し、今、なぜ若者がアレフに入信するのかを明らかにすることを目的とした本件放送の申立人に関する部分についても同様に公共性・公益性を認めるものである。
しかし、本件放送においては、申立人の顔に一定のボカシをかけ、申立人の声を機械的処理により変換したものの、年齢、出身地方や出身国立大学のある都市の情報、出身大学を想起させる構内や学部名の入った門柱の映像、実家付近の駅周辺の映像、卒業式らしき場での友人と写った写真などの情報を放送の中で順次示した。このため、申立人を知る一定の者には、本件放送の対象が申立人であると特定できることとなっている。
このように本件放送の対象が申立人であると特定できる状況下で、申立人が脱会カウンセラーとの間で脱会に関するカウンセリングを受けている場を、カウンセラーのみの了承のもとで隠し録音して放送し、申立人が両親に宛てた手紙を両親から提供を受けて放映しながらその内容をナレーションで朗読して放送し、申立人の思春期の心情や信仰に至る経緯を語る部分を明らかにしたことは、申立人の承諾なく私生活の領域に深く立ち入るものであり、申立人のプライバシーへの十分な配慮があるとは言えない。この放送部分の内容がプライバシー権の侵害に至るものであるか否かについては委員の意見は一致しなかったが、この放送部分に放送倫理上の問題があることで委員の意見は一致した。
いかに本件放送部分に高い公共性・公益性が認められるといっても、申立人と特定しうる状況下において、カウンセリングを受ける場や、両親に宛てた私信などの申立人の私生活の領域に、申立人の承諾なく踏み込んだ放送を行うことは、申立人のプライバシーへの十分な配慮があるとは言えず、放送倫理上問題があると判断する。
委員会は、本件放送の公共性・公益性を高く評価するものであるが、本件放送部分は、その放送目的を追求するあまり、申立人のプライバシーに対する十分な配慮があるとは言えない結果となったものであり、テレビ東京に本決定の主旨を放送するとともに、今後、プライバシーに配慮した放送を要望するものである。

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2014年1月21日 第52号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第52号

申立人
宗教団体会員の男性
被申立人
株式会社テレビ東京
苦情の対象となった番組
『あの声が聞こえる~麻原回帰するオウム~』
放送日時
2012年12月30日(日)午前1時25分~2時25分

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件放送は、申立人のプライバシー権、肖像権を侵害するものであるか
    • (1)申立人をアレフ信者であるとして、脱会カウンセリングの模様の隠し録音の内容と、私信の映像・内容などを放送したことと、申立人のプライバシー権
    • (2)商店街を歩く申立人、帰省時の申立人の撮影・放送と肖像権
    • (3)本件放送は申立人本人を特定しうるものであったか
    • (4)公共性・公益性とプライバシー権侵害の判断について
  • 2.本件放送の放送倫理上の問題について
    • (1)申立人の特定可能性への配慮
    • (2)カウンセリングの隠し録音と両親への私信の撮影・朗読の問題点
    • (3)本件放送の公共性・公益性により本件放送部分が許容されるか
    • (4)アレフの団体としての取材拒否、申立人の両親の承諾との関係

III.結論

IV.番組の概要

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2014年1月21日 決定の通知と、公表の記者会見

放送人権委員会は1月21日午後1時からBPO会議室で、上記事案の「委員会決定」を通知し、その後、午後2時から千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き公表した。報道関係者は22社50人が出席した。
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2014年5月20日 委員会決定に対するテレビ東京の対応と取り組み

2014年1月21日に通知・公表された「委員会決定第52号」に対し、テレビ東京から局としての対応と取り組みをまとめた報告書が4月18日付で提出され、5月20日の第209回委員会で検討された。
委員会では、「題材に高い公共性・公益性があるとしても、放送内容によっては放送倫理上問題ありとされることを認識してほしい」との意見なども述べられた。

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目 次

  • 1.委員会決定後の対応
  • 2.社内での報告と周知
  • 3.決定についての検討内容等
  • 4.むすび

2013年度 第51号

「大阪市長選関連報道への申立て」に関する委員会決定

2013年10月1日 放送局:朝日放送株式会社

勧告:放送倫理上重大な問題あり
本事案は、朝日放送が2012年2月の『ABCニュース』で放送した「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」とのリードで始まるニュースについて、労働組合側が事実と異なる放送によって名誉や信用を毀損されたと訴えたもの。
放送人権委員会は審理の結果、10月1日に「委員会決定」を通知・公表し、「勧告」として本件放送には放送倫理上重大な問題があるとの判断を示した。

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2013年10月1日 第51号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第51号

申立人
大阪交通労働組合
A
被申立人
朝日放送株式会社
苦情の対象となった番組
『ABCニュース』(月~金 午前11時35分~42分)
放送日時
2012年2月6日(月)の上記番組内の1分37秒のニュース

【決定の概要】

1.朝日放送は、2012年2月6日の『ABCニュース』で、「大阪市交通局の労働組合が、去年の大阪市長選挙で『現職市長の支援に協力しなければ、不利益がある』と、職員を脅すように指示していた疑いが、独自の取材で明らかになりました」とのリードのニュースを「スクープ」として放送した。ニュースでは、「朝日放送が独自に入手した紹介カードの回収リスト」を映像で示し、内部告発者が、「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」と匿名映像で語っている。
2.本件の申立人は、大阪交通労働組合という団体である。このため、委員会は、個人による申立てを原則とする本委員会運営規則に照らし、審理入りの是非について検討した。その結果、労働組合が個々の労働者の権利・利益の確保を主眼とする、各労働者の集合としての性格が強い団体であること、また、本件放送は、組合及び組合員個人らの信用や名誉・名誉感情等の権利利益に対して深刻な影響を及ぼすおそれがある内容を含むものであることから、当委員会の過去の判断をふまえ、本件申立てについては救済を検討する必要性が高く、委員会において権利侵害や放送倫理上の問題の有無について審理することが相当であると判断した。
3.本件放送による権利侵害の有無について、委員会は次のように判断した。
本件放送の内容について、朝日放送は、申立人が選挙への協力を強要したとの「疑惑」あるいはこの疑惑を追及する市議会議員の活動を報じるものであると主張する。
しかし、協力を強要する文章が書かれた「回収リスト」について断定的に報じ、放送冒頭で「朝日放送のスクープです」と強調するなど、一般的な視聴者からすれば、本件報道は、申立人が非協力的な組合員を威圧し、選挙への協力を強要し、内部告発者が発した「やくざと言ってもいいくらいの団体だと思っています」とのコメントを伝えるものと受け止めよう。
本件放送は、申立人の社会的信用・評価を低下させるものである。本件放送には、公共性、公益性は認められるが、主要な部分において真実ではなく、また、放送の時点で真実であると考えたことについて相当の理由も認められない。すなわち、本件放送で報じられた「非協力的な組合員がいた場合は、今後、不利益になることを本人に伝える」との指示が書かれた回収リストは、ねつ造されたものであった。また、報道にあたって申立人に対する取材を行っておらず、取材を行わなかったことの理由も薄弱である。
その一方、回収リストの真偽については、朝日放送もその後の報道においてねつ造であることを報じている。本件放送によってもたらされた申立人の社会的評価の低下は、一定程度、回復されているとみることもできる。
4.しかしながら、本件放送には、放送倫理上の重大な問題がある。本件放送は、「スクープ」として疑惑を真実であるかのように断定的に報じ、さらに「やくざ」という強い表現で論評を行ったものである。そして、すでに述べたように、それは申立人への取材もないままに行われた。本件放送は、「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努力を傾けなければならない」とうたう放送倫理基本綱領(NHK・民放連)に違背し、正確・公正な報道を求める「日本民間放送連盟 報道指針」の「2 報道姿勢」に反するものである。
委員会は、朝日放送に対し、本決定の主旨を放送するとともに、スクープ報道における取材や表現のあり方、主要な事実が真実に反すると判明した場合の対応について社内で検討し、再発防止に努めるよう勧告する。

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.放送の概要と申立ての経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.本件申立てについて
  • 2.本件放送は何を報じたか
  • 3.本件放送により、申立人の社会的信用ないし評価が低下したか
  • 4.本件放送に公共性、公益性、真実性・真実相当性が認められるか
  • 5.放送倫理上の問題

III.結論

IV.放送内容

V.申立人の主張と被申立人の答弁

VI.申立ての経緯および審理経過

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2013年10月1日 決定の通知と、公表の記者会見

放送人権委員会は10月1日に、上記事案についての「委員会決定」の通知・公表を行い、本件放送について「放送倫理上重大な問題がある」として、朝日放送に再発防止を「勧告」した。
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2013年12月24日 朝日放送「放送人権委員会決定後の取り組みについて」

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2014年2月21日 報告に対する放送人権委員会の「意見」

放送人権委員会は、今回、上記の朝日放送の報告に対して「意見」を述べました。

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2013年度 第50号

「大津いじめ事件報道に対する申立て」に関する委員会決定

2013年8月9日 放送局:株式会社フジテレビジョン

見解:放送倫理上問題あり
フジテレビが2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』において、大津市でいじめを受けて自殺したとして中学生の両親が起した民事訴訟の原告側準備書面の内容を報道した際、加害者として訴訟を起こされている少年の実名部分がモザイク処理されずに放送され、少年と母親がプライバシーの侵害を訴え、申し立てたもの。

2013年8月9日 第50号委員会決定

放送と人権等権利に関する委員会決定 第50号

申立人
少年とその母親
被申立人
株式会社フジテレビジョン
苦情の対象となった番組
『スーパーニュース』(月―金 午後4時50分~5時54分)
放送日時
2012年7月5日(木)午後4時53分00秒頃~5時03分24秒頃
2012年7月6日(金)午後5時27分28秒頃~5時37分29秒頃

【決定の概要】

フジテレビは2012年7月5日と6日の『スーパーニュース』内で各1回、大津市の中学生いじめ事件の報道に際して、加害者として民事訴訟を起こされている少年の氏名を含む映像を放送した(以下、本件放送という)。委員会は少年と少年の母親(以下、申立人という)から本件放送によってプライバシーを侵害されたなどの申立てを受けて審理し、決定に至った。決定の概要は以下の通りである。
本件放送のうち少年の氏名を含む映像は、5日分が1秒未満、6日分が2秒弱と短く、画像内の氏名部分も微小で、通常のテレビ視聴形態では、氏名は判読できない。したがって、このテレビ映像に限れば、プライバシー侵害は生じていない。しかし、テレビ映像を録画した静止画像では少年の氏名を判読できる。これがインターネット上に流出した。この静止画像が申立人のプライバシーを侵害していることは明らかである。
テレビ映像を録画してインターネット上にアップロードする行為は著作権法に違反する。したがって、フジテレビに静止画像によるプライバシー侵害の責任は問えない。だが、録画機能の高度化やインターネット上に静止画像がアップロードされるといった新しいメディア状況を考慮したとき、静止画像にすれば氏名が判読できる映像を放送した点で、本件放送は人権への適切な配慮を欠き、放送倫理上問題がある。
この放送倫理上の問題はモザイク処理のない映像素材を使ったミスの結果である。委員会は、個人情報を含む等取り扱いに十分な配慮が必要な素材に関する十全な管理体制を整備するとともに人権意識の涵養に努め、こうしたミスがふたたび起きないようにすることをフジテレビに要望する。この点で、本件放送は少年の個人情報にかかわるものであり、少年法の趣旨に即して特段の配慮が必要だったことも付記する。

【本決定の構成】

I.事案の内容と経緯

  • 1.本件放送内容と申立てに至る経緯
  • 2.論点

II.委員会の判断

  • 1.はじめに
  • 2.放送倫理上の問題
  • 3.再発防止のための要望
  • 4.その他の判断
    • (1)誹謗中傷の加速・過熱化
    • (2)映像素材としての適否

III.結論

IV.申立てに至る経緯及び審理経過

V.申立人の主張と被申立人の答弁

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2013年8月9日 決定の通知と公表の記者会見

通知は、放送局側(被申立人)には8月9日午後1時からBPO第1会議室で行われ、申立人側へは、申立人の都合がつかなかったため、放送局への通知と同時刻に京都市内にある申立人の代理人法律事務所で行われた。
また、その後、千代田放送会館2階ホールで記者会見を開き、「委員会決定」を公表した。午後1時40分から事務局による事案の説明、午後2時から三宅委員長、奥委員長代行が記者会見した。報道関係者は23社53人が出席。
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2013年11月19日 委員会決定に対するフジテレビの対応と取り組み

『大津いじめ事件報道に対する申立て』事案で、2013年8月9日に委員会決定を受けたフジテレビは、局としての対応と取り組みをまとめた報告書を11月5日放送人権委員会に提出した。11月19日に開催された委員会で報告書の内容が検討され了承された。

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目 次

  • 1.委員会決定後の対応
  • 2.社内での報告と周知
  • 3.再発防止に向けた取り組みについて