第169回–2015年4月28日
"ネット情報の取り扱い"に関する「委員長コメント」を公表…など
4月28日に第169回青少年委員会を、BPO第1会議室で開催しました。新任の4人を含め7人の委員全員が出席しました。まず、汐見委員長が新しい副委員長に最相委員を指名し、そのあと3月1日から4月15日までに寄せられた視聴者意見から、1案件について討論しました。4月の中高生モニター報告、調査研究の現状報告について話し合った他、2015年度事業計画案の承認、事務局からBPOと青少年委員会の業務についての説明などがありました。
次回は5月26日に定例委員会を開催します。
議事の詳細
- 日時
- 2015年4月28日(火) 午後4時30分~午後7時40分
- 場所
- 放送倫理・番組向上機構 [BPO] 第1会議室(千代田放送会館7階)
- 議題
- BPOおよび青少年委員会の業務について
2015年度青少年委員会の活動について
視聴者意見について
中高生モニター報告について
調査研究について
その他
- 出席者
- 汐見稔幸委員長、最相葉月副委員長、稲増龍夫委員(新任)、大平健委員(新任)、川端裕人委員、菅原ますみ委員(新任)、緑川由香委員(新任)
視聴者意見について
●「日曜夜の情報番組で、凄惨な映像や事故の映像などを多く扱うサイトの特集をしていた。まだ子どもも起きている時間であるのに刺激が強すぎる」「引用した動画は放送許容範囲だと思うが、興味を持った子どもがサイトにアクセスする可能性が高く、看過できない」などの視聴者意見があった番組について討論しました。論点として「ネット映像をテレビで紹介すること」「放送した映像が青少年に与える影響」について話し合いました。
委員からは次のような意見が出ました。
- 刺激的な映像は、見たくない人は見なければ良いというが、テレビの地上波は見たくなくても目に入ってしまう媒体であることを制作する側は理解する必要がある。
- 刺激が強く不快感を抱く人が多いであろう映像で人を引き付けようとする場合など、制作者側は、なぜその映像を選んで放送したのかその背景や状況を説明し、立場を明確にする必要がある。
- 子どもたちへの影響については、色々な条件があり、テレビだけの影響を考えるのは無理がある。
- このようなサイトを紹介すれば、たとえ映像を放送しなくても見たい人は見てしまうだろう。すべての情報をシャットアウトすることは出来ないし、無菌状態で育てばそれで良いのかというとそうではない。難しい問題だ。
- ついにこのサイトがテレビで紹介されたかという気持ちだ。子どもたちはテレビの情報がネットの情報より良心的で信じて良いものだと思っている。そのテレビがこのサイトを紹介することは、テレビがお墨付きを与えることになってしまう。民放連放送基準「第8章表現上の配慮(43)放送内容は、放送時間に応じて視聴者の生活状況を考慮し、不快な感じを与えないようにする。(46)人心に動揺や不安を与えるおそれのある内容のものは慎重に取り扱う。」などとの関係性を事前に議論したのだろうか。
- 番組の企画としてこのサイトを紹介するのは当然だと思う。ただもう少し映像の取捨選択をしたら良かったのではないか。
- このサイトを紹介すること自体は評価して良く、それなりの配慮は感じた。ただ、放送局側が何を伝えたかったのか分かりづらい。放送局内部でテレビの公共性についてどれ程議論したのか知りたい。
- 制作現場では日々葛藤しながら番組制作を行っている。今回もこのサイトの主催者の意見を出していた。これが放送局側の考え方を示しているのではないか。
- テレビは画像で伝えるものだ。写真が入手できない時にはネットの映像を使うだろう。今後ネット映像の使用についてのルールを業界全体で考えていく必要があるのではないか。
討論の結果、審議には進まないことにしましたが、汐見委員長は次のような「委員長コメント」を公表しました。
2015年4月28日
"ネット情報の取り扱い"に関する
「委員長コメント」
放送と青少年に関する委員会
委員長 汐見 稔幸
一般人が知り得ないような現場情報、特にその場にいた人間でないとつかみ得ないような情報をそのまま映像で流すことをミッションとしているインターネット上のサイトがある。その内容が戦争、虐待、人権無視、大災害など、平凡な日常生活を送っている人間には思わず目を背けたくなるような残虐なあるいは悲惨な事件や事故、出来事を、そのまま映像を伴って配信していることが多いのでとかく話題になっているのだが、日曜日の情報番組で、このサイトの流す情報のいくつかを紹介する企画があった。それを見た視聴者から、青少年が見る可能性のある時間帯であり、批判や懸念が多く寄せられたが、今回の放送については、映像をそのまま放送したのではなく、一定の取捨選択や配慮をしているので、課題はあるものの審議入りはしないという判断をした。
しかし、この番組はテレビという公共のための放送システムがこれから抱く可能性のある問題を先取りして示していたように思う。
メディアの発展は、これまで一般人が知り得なかった情報をわかりやすく大量に伝えることを可能にしてきた。他方で、世界では今あちこちで貧困と格差の拡大、局地戦争、人権無視の暴力や殺戮、テロ、深刻な環境破壊問題等々が起こっていて、それらの最前線の具体的事実についてはそのほとんどを私たちは知らないでいるという現実がある。そのため、その最前線の事実を、たとえそれがどんなに悲惨なものであっても、つかみ、伝えることが大事だと考える人が出てくる。なぜならそれが世界の現実だから、ということである。そしてそれを、私的に利用できるネットで公開しようとするようになるのも必然である。そうなればこうした情報も瞬時に世界を飛び回ってしまう。
公共的な責任を背負っている地上波のテレビメディアも、その周辺でこうした情報空間が広がっていくと、その現実を無視することができなくなっていく可能性がある。今回のようなネットメディアの情報をテレビが紹介したり、それに触発されて新たに番組を制作したりすることもこれから増えていくことが予想される。テレビ局の情報収集力は限られているが、ネット情報には、たとえそれが吟味されたものでないにしても、無限といってよいほどの収集力と提供力があるからである。しかし、その場合、テレビ局の独自性と責任性はどこにあると考えるべきか。このことはこれから大事な問題となっていくだろう。おそらく各局ともこの問題をめぐって自問自答を繰り返していく必要があると思う。こうした課題については、いずれ自由に意見交換する場を設けたい。
また、刺激的な情報が含まれる映像を放送する場合には、放送局側がどういう意図で放送することにしたのかを、まず丁寧に説明する方が視聴者に対して親切ではないか、という意見が青少年委員会で出たことも記しておきたい。
いずれにしても、今回の問題はこれからのテレビのあり方を考える際の大事な論点を示していると各放送局に受け取っていただきたいと思っている。
以上
中高生モニター報告について
2015年度は、全国の応募者の中から32人に中高生モニターをお願いすることにしました。
初回の4月は、「好きなテレビかラジオの番組を一つあげて、その番組の好きなところ、良いと思うところを具体的に報告してください」というテーマで書いてもらいました。32人のモニター全員から報告が寄せられました。
長い間続いている人気のバラエティー番組を支持する意見が目立ちました。『世界一受けたい授業』(日本テレビ)「生活の中で役に立つ豆知識や有名人の生き様などを紹介していて、とても役にたち、芸人がおもしろくしてくれるので楽しく見ることができる。芸人のネタが度を越えてふざけていないところが良い」(富山・中学1年男子)。『マツコの知らない世界』(TBSテレビ)「事例を紹介する人が熱を入れて説明すればするほど、マツコ・デラックスが冷めた口調で突っ込むので、その対比がおもしろい。お年寄りから小学生まで一緒に楽しめる番組だ」(兵庫・中学1年女子)。
地方放送局制作の番組についての報告もありました。『どさんこワイド179』「視聴者目線の優しい番組で、内容もニュース、スポーツ、エンタメなどがバランスよく配置されており視聴者と北海道を大切にしている番組だ」(北海道・中学3年男子)。『土曜ワラッター』(青森放送)「番組全体が遊び心に満ちていて、常にリスナーとの距離が近く、リスナーが関わる企画が多い。他のラジオ局でもこういう企画に挑戦してほしい。今後も青森県内外のたくさんのリスナーをたくさん笑わせてほしい」(青森・中学3年男子)。
新しい形の番組への関心も高いようです。『NEWS WEB』(NHK)「視聴者がtwitterのハッシュタグを利用して、取り扱われるニュースや番組に対して意見や質問をつぶやくことができる。一般人、特にtwitterをよく利用する若者世代の声が多く反映され、視聴者が一緒に作っていることを感じさせる番組」(愛知・高校2年男子)。
一方、番組への手厳しい批判も寄せられました。「最近ニュースの読み違いや字幕の間違いが多すぎる。たくさんの人が見るのだから、もう少し自分の仕事に責任を持ってほしい」(千葉・中学2年女子)。「最近は、ゴールデンタイムでも、放送に適さない言葉や下ネタがよく使われるのは問題だ。深夜なら理解はしようと思うが、ゴールデンで多用するのは止めてほしい」(鹿児島・中学3年女子)。「人を叩くことがおもしろいとでも思っているのだろうか。番組を作る側や出演者は、叩かれる方の気持ちや視聴者がどう思うか、もう一度考え直す必要がある」(千葉・中学3年女子)。
■中高生モニターの意見と委員の感想
●【委員の感想】非常に成熟したしっかりした意見を皆書いてくれていて感心した。特にインターネットとのかかわりについての意見や、これからの番組の作り方への厳しい要望を述べた意見が印象に残った。
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(愛知・高校2年男子)『NEWS WEB』(NHK)放送中つぶやいた意見や質問が評価されたり、さらに議論ができたりすることで自分の肯定感を高めることができ、かつニュース・身近な出来事に関心を持つようになれた。一方で、一般的に子どものテレビ離れが進んでいると言われるが、その代わりに偏った情報をSNSなどから仕入れ、それが拡散して誤解を広めているような状況があり、よくないと思う。
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(山梨・高校2年男子)今後は100人視聴者がいれば100人全員に支持される番組を1個作るのではなく、制作費が許される範囲で10人に支持される番組を10個、あるいは1人に支持される番組を100個作ろうとする動きがこれまで以上に必要になると考える。新聞と同様、ターゲットを絞るという意味で娯楽向けと教養向けというコンテンツの明確な2極化は避けられないと思う。
●【委員の感想】楽しい番組を親子一緒に見て、癒される、というテレビの原点はいまだに変わっていないようだ。
- (東京・中学3年男子)僕が一番好きで家族と毎週欠かさず見ている番組は『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)です。いつも父と母と3人で心の底から笑って楽しめます。余り激しい無理な企画でなく、日曜日の夜ほっと一息付けて家族と笑って「明日からまた一週間頑張ろう」と思える楽しい企画だけで充分だと思います。
●【委員の感想】情報番組への興味が高いようだ。バラエティー番組であっても情報収集のできる番組の人気が高い。知りたい要求を充たしてくれるものを求めているように感じた。
●【委員の感想】モニターになり、テレビ番組をしっかり見ていると自然に中高生たちはメディアリテラシーを日々学んでいっているように思う。教えられるのではなく自分から意識的に学ぶことで、身についていくことは大変に良いと思う。
●【委員の感想】好きな番組は海外の情報を扱ったものが多かった。報告を読むと、海外のことを知ると同時にそれによって、自分たちのアイデンティティーを確認したいという欲求が強いように思った。
- (福岡・中学2年女子)『YOUは何しに日本へ?』(テレビ東京/TVQ九州放送)この番組は日本に来る外国人の気持ちがわかるのでためになります。外国人がこんなに日本を好きになってくれているんだと分かって自分も日本人で良かったと思いました。それにいろんな国の文化を知ることができる良い番組だと思います。
●【委員の感想】非常に分析力が高く、番組に対する視線も鋭い報告が多かった。
- (東京・中学3年男子)最近の民放夕方7時台から8時台のテレビはつまらない番組が増えたように思う。ネットが普及している今では、「今更」と思うような内容も多く見る気が起こらない。もっと本職の芸や芝居、スポーツなどでひきつける番組を作ってほしい。
- (滋賀・高校2年女子)バラエティーなどのトークショーなどで同じ芸人ばかり出たり、お笑い番組などでネタをする芸人が同じ人ばかりなのをやめてほしい。はやりの芸人だけでなく、どの年代でも楽しめるように出演者を選ぶべきだと思う。
調査研究について
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2014年度の「中高生の生活とテレビに関する調査」について、5月中に報告書を完成させる予定であると事務局から報告がありました。
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新年度からの調査研究の担当は菅原委員に決まりました。
今後の予定について
- 意見交換会を7月3日に愛媛県松山市で、9月29日に福岡市で開催することにしました。
その他
- 2015年度青少年委員会事業計画が承認されました。