放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第233回

第233回 – 2016年4月

STAP細胞報道事案のヒアリングと審理…など

STAP細胞報道事案のヒアリングを行うため臨時委員会を開催し、申立人から詳しく事情を聞いた。

議事の詳細

日時
2016年4月26日(火)午後3時~7時55分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第2会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案のヒアリングと審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
本事案についてヒアリングを行うため、この日臨時委員会を開催した。ヒアリングには申立人が代理人弁護士2人とともに出席し、各委員が詳しく事情を聞いた。(被申立人のNHKのヒアリングもこの日予定されていたが、熊本地震の報道対応のため主なメンバーの出席が不可能になったことからいったん延期し、5月31日に臨時開催された第235回委員会で行われた。被申立人のヒアリングについては第235回委員会の「議事概要」参照
この日のヒアリングで申立人は、「NHKは番組を作成するうえで十分な取材・公平な取材の双方が不十分なまま、自分たちが捏造したストーリーに必要な材料だけを揃え、報道を行った。その報道姿勢は極めて強い人権侵害であり、報道機関として許されることではない」と述べた。
さらに、「本件番組構成は、NHKが正当性の根拠としている調査委員会の最終報告書でも認定されていない研究不正について、私を不当に犯人扱いしたものだ。独自取材に基づく調査報道番組であるとして、放送内容の正当性を述べているが、この発言と報道内容を踏まえると、NHKは独自の取材に基づいて調査し、NHKが悪と判断した人に制裁を与える権限があると考えている。これは報道機関として極めて深刻な人権侵害に対する感覚の鈍麻があることが明白だ」と主張した。
若山教授の描き方について、「番組では、疑問が指摘されて以降、STAP細胞があるのかを調べている人として若山教授が紹介されたが、若山教授は実際にSTAP研究を中心となって進めていたのだから、前提から視聴者を欺いている。NHKは、若山教授の言い分と自分たちがこうだと結論付けたものに沿った情報だけを流した。公平性に欠ける説明だし、偏向的な報道である」と主張した。
若山教授が渡したマウスと申立人が作製したSTAP細胞の遺伝子が異なっていたことの原因として、ES細胞が混入していたのではないか、と番組が指摘した点について、「若山教授が私に渡していたマウスとアクロシンGFPマウスの見た目は同じだ。であれば若山教授がアクロシンGFPマウスを誤って渡していたかもしれないと思うのが最初の発想だと思う。番組はそこを経ずにES細胞の存在をいきなり提示した」と主張した。
また、番組で申立人が使用する冷凍庫からES細胞が見つかったことを伝える部分について申立人は、「NHKは表現には十分に気を付けたと言うが、視聴者に伝わったのは小保方によるES細胞の窃盗の疑惑であったことは弁明の余地はない。実際には若山研究室が引越しの際に残していった不用品を引き取っただけで、警察の捜査によっても窃盗の容疑がないことが判明している」と述べた。
実験ノートの番組での使用については、「(たとえ公共性・公益性があったとしても公開されることは)我慢ならない。何故なら、それには、私のこれまでの、全ての秘密が書かれているからだ。私が見つけた細胞の秘密、細胞の神秘、私の発見、私のその時の感動、それが全て書かれたものだった」と訴えた。
笹井教授とのメールの公開については、「疑惑を私と笹井教授のみに向ける番組構成のためにプライバシーの侵害をしたうえ、あえて男女の音声を利用して二人の関係を視聴者に邪推させる悪質な演出が行われた」と述べた。
専門家として日本分子生物学会のメンバーの協力を得て論文を徹底検証したとされる部分については、「分子生物学会の会員ということから、STAPの研究について詳しく述べることができるということには全く繋がらない。噂レベル、井戸端会議みたいな感じだ」と述べた。
NHKの強引な取材によって怪我をさせられたと訴えている点については、「NHKは否定をしているが、私は本当に恐怖で全身が硬直して、右手と頸椎に激しい痛みをもたらす事実があったことは絶対間違いない。命をかけた検証実験をさせられている中で怪我まで負わせ、危険な目に合わせたこと自体反省することもなく、その事実さえ否定してくるNHKに憤りを感じている 」と訴えた。
さらに申立人は、「『ネイチャー』にはSTAPは否定されたが、まだSTAP研究は続いて続報が出ている。そのように科学は少しずつ進歩していくはずだった。それをNHKによって暴力的に握りつぶされた」「生きていくために社会によって認められている権利をNHKによって恣意的に否定された極めて強い人権侵害の事実にほかならない。この番組の放送、報道内容は故意の悪意に満ちた情報のみによって構成され視聴者を意図的に欺くものだった」など詳しく考えを述べた。

2.その他

  • 次回は5月17日に定例委員会を開催する。

以上