放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第242回

第242回 – 2016年12月

STAP細胞報道事案の審理、事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の審理、都知事関連報道事案の審理、浜名湖切断遺体事件報道事案の審理、世田谷一家殺害事件特番事案の対応報告…など

STAP細胞報道事案および事件報道に対する地方公務員からの申立て事案の「委員会決定」案をそれぞれ議論、また都知事関連報道事案、浜名湖切断遺体事件報道を審理した。世田谷一家殺害事件特番事案について、テレビ朝日から提出された対応報告を了承した。

議事の詳細

日時
2016年12月20日(火)午後4時~9時35分
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では、11月30日に行われた第4回起草委員会での議論を経て提出された「委員会決定」案を事務局が読み上げ、それに対して各委員が意見を出した。委員会で指摘された修正部分を反映した決定案を次回委員会に提出、最終的に確認する運びとなった。

2.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)事案の審理

3.「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ) 事案の審理

対象となったのはテレビ熊本と熊本県民テレビが2015年11月19日にそれぞれニュースで扱った地方公務員による準強制わいせつ容疑での逮捕に関する放送。申立人は、放送は事実と異なる内容であり、初期報道における「極悪人のような報道内容」などにより深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出など放送局の対応を求めていたもので、9月に双方からヒアリングを行っている。
今委員会では、まず起草委員より第2回起草委員会で修正した「委員会決定」案について説明を行った上で各委員から意見を求めた。委員からは、警察広報担当者による発言に基づく記事内容の扱いを巡って突っ込んだ意見が交わされた。これを受けて委員会は、来月初めに第3回起草委員会を開くことを決め、今委員会での意見を反映した修正案を次回委員会に提出し、さらに議論を深めることとなった。

4.「都知事関連報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、フジテレビが2016年5月22日(日)に放送した情報番組『Mr.サンデー』。番組では、舛添要一東京都知事(当時)の政治資金流用疑惑に関連して、舛添氏の政治団体から夫人の雅美氏が代表取締役を務める会社(舛添政治経済研究所)に事務所家賃が支払われていた問題を取り上げ、早朝に取材クルーを舛添氏の自宅を兼ねた事務所前に派遣し、雅美氏が「いくらなんでも失礼です」と発言した模様等を放送した。
申立書によると、未成年の長男と長女は、1メートル位の至近距離からの執拗な撮影行為によって衝撃を受け、これがトラウマになって家を出て登校するたびに恐怖を感じ、また雅美氏はこうした撮影行為に抗議して「いくらなんでも失礼です」と発言したのに、家賃に対する質問に答えたかのように都合よく編集して放送され視聴者を欺くものだったとしている。雅美氏と2人の子供は人権侵害を訴え、番組内での謝罪などをフジテレビに求めている。
これに対してフジテレビは委員会に提出した答弁書において、長男と長女を取材・撮影する意図は全くなく執拗な撮影行為など一切行っておらず、放送した雅美氏の発言は、ディレクターが家賃について質問した以降のやり取りを恣意性を排除するためにノーカットで使用したとしている。さらに雅美氏は政治資金の使い道について説明責任がある当事者で、雅美氏を取材することは公共性・公益性が極めて高いとしている。
今月の委員会では、前回委員会での検討を経て一部修正された本件事案の論点とヒアリングの質問項目の案が示され、ほぼ確定した。

5.「浜名湖切断遺体事件報道に対する申立て」事案の審理

対象となった番組は、テレビ静岡が本年7月14日に放送したニュース番組(全国ネット及びローカル)で、静岡県浜松市の浜名湖周辺で切断された遺体が発見された事件で「捜査本部が関係先の捜索を進めて、複数の車を押収し、事件との関連を調べている」等と放送した。
この放送に対し、同県在住の男性は同月16日テレビ静岡に電話し、自分は事件とは関係ないのに同社記者が勝手に私有地に入って撮影し、犯人であるかのように全国ネットで報道をした等と抗議した。
同氏はその後テレビ静岡と話し合いを続けたが不調に終わり、9月18日付で申立書を委員会に提出。同事件の捜査において、「実際には全く関係ないにもかかわらず、『浜名湖切断遺体 関係先を捜索 複数の車押収』と断定したテロップをつけ、記者が『捜査本部は遺体の状況から殺人事件と断定して捜査を進めています』と殺人事件に関わったかのように伝えながら、許可なく私の自宅前である私道で撮影した、捜査員が自宅に入る姿や、窓や干してあったプライバシーである布団一式を放送し、名誉や信頼を傷つけられた」として、放送法9条に基づく訂正放送、謝罪およびネット上に出ている画像の削除を求めた。
また申立人は、この日県警捜査員が同氏自宅を訪れたのは、申立人とは関係のない窃盗事件の証拠物である車を押収するためであり、「私の自宅である建物内は一切捜索されていない」と主張、そのうえで、「このニュースの映像だけを見れば、家宅捜索された印象を受け、いかにもこの家の主が犯人ではないかという印象を視聴者に与えてしまう。私は今回の件で仕事を辞めざるをえなくなった」と訴えている。
この申立てに対しテレビ静岡は11月2日、「経緯と見解」書面を委員会に提出し、「本件放送が『真実でない』ことを放送したものであるという申立人の主張には理由がなく、訂正放送の請求には応じかねる」と述べた。この中で、「当社取材陣は、信頼できる取材源より、浜名湖死体損壊・遺棄事件に関連して捜査の動きがある旨の情報を得て取材活動を行ったものであり、当日の取材の際にも取材陣は捜査員の応対から当日の捜索が浜名湖事件との関連でなされたものであることの確証を得たほか、さらに複数の取材源にも確認しており、この捜索が浜名湖事件に関連したものとしてなされたことは事実」であり、「本件放送は、その事件との関連で捜査がなされた場所という意味で本件住宅を『関係先』と指称しているもの。また本件放送では、申立人の氏名に言及するなど一切しておらず、『申立人が浜名湖の件の被疑者、若しくは事件にかかわった者』との放送は一切していない」と反論した。
さらに、「捜査機関の行為は手続き上も押収だけでなく『捜索』も行われたことは明らか。すなわち、捜査員が本件住宅内で確認を行い、本件住宅の駐車場で軽自動車を現認して差し押さえたことから、本件住宅で捜索活動が行われたことは間違いなく、したがって、『関係先とみられる住宅などを捜索』との報道は事実であり、虚偽ではあり得ない」と主張した。
前回の委員会で審理入りが決まったのを受けてテレビ静岡から申立書に対する答弁書が提出され、申立人からは反論書が提出された。今月の委員会ではこれまでの双方の主張を事務局が説明した。

6.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」対応報告

2016年9月12日に通知・公表が行われた本決定(勧告:放送倫理上重大な問題あり)に対して、テレビ朝日から対応と取り組みをまとめた報告書が12月9日付で提出され、委員会はこれを了承した。

7.その他

  • 委員会が1月31日に広島で開催する予定の中国・四国地区意見交換会の概要を事務局が説明し、了承された。
  • 次回委員会は1月17日に開かれる。

以上