放送人権委員会

放送人権委員会 議事概要

第232回

第232回 – 2016年4月

自転車事故企画事案、世田谷一家殺害事件特番事案、STAP細胞報道事案の審理、地方公務員からの申立て事案2件審理入り決定…など

自転車事故企画事案、世田谷一家殺害事件特番事案、STAP細胞報道事案を引き続き審理。また事件報道に対する地方公務員からの申立て事案2件を審理要請案件として検討し、審理入りを決めた。

議事の詳細

日時
2016年4月19日(火)午後3時~9時
場所
「放送倫理・番組向上機構 [BPO] 」第1会議室(千代田放送会館7階)
議題
出席者

坂井委員長、奥委員長代行、市川委員長代行、紙谷委員、城戸委員、
白波瀬委員、曽我部委員、中島委員、二関委員

1.「自転車事故企画に対する申立て」事案の審理

審理対象は、フジテレビが2015年2月17日にバラエティー番組『カスぺ!「あなたの知るかもしれない世界6」』で放送した「わが子が自転車事故を起こしてしまったら」という企画コーナー。
同コーナーでは、母親が自転車にはねられ死亡した申立人のインタビューに続いて、「事実のみを集めたリアルストーリー」として14歳の息子が自転車事故で小学生にけがをさせた家族を描いた再現ドラマが放送された。ドラマは、この家族は示談交渉で1500万円の賠償金を払ったが、実はけがをした小学生は「当たり屋」だったという結末になっている。
申立人は、当たり屋がドラマのメインとして登場することについて事前の説明が全くなく、申立人に関して「実際に裁判で賠償金をせしめていることだし、どうせ高額な賠償金目当てで文句を言い続けているのだから、その点で当たり屋と似たようなものだ」との誤解を視聴者に与えかねないとして名誉と信用の侵害を訴え、放送内容の訂正報道や謝罪等を求めている。
これに対してフジテレビは、事前説明が十分でなかった点は申立人にお詫びしたが、「再構成ドラマは子供の起こした交通事故をテーマとするものであって、母親を自転車事故で亡くされた申立人の事案とは全く類似性がない」とし、この点は視聴者も十分に理解できるので、申立人の名誉と信用を侵害したものではないと主張している。
今月の委員会では、第2回起草委員会で修正された「委員会決定」案が提示され、詳細に検討した。その結果、大筋で了承されて委員長一任となり、5月に決定の通知・公表が行われる運びになった。

2.「世田谷一家殺害事件特番への申立て」事案の審理

対象となったのは、テレビ朝日が2014年12月28日に放送した年末特番『世紀の瞬間&未解決事件 日本の事件スペシャル「世田谷一家殺害事件」』。番組では、FBI(米連邦捜査局)の元捜査官(プロファイラー)マーク・サファリック氏が2000年12月に発生したいわゆる「世田谷一家殺害事件」の犯人像を探るため、被害者遺族の入江杏氏らと面談した模様等を放送した。入江氏は殺害された宮澤みきおさんの妻泰子さんの実姉で、事件当時隣に住んでいた。番組で元捜査官は、「当時20代半ばの日本人、宮澤家の顔見知り、メンタル面で問題を抱えている、強い怨恨を抱いている人物」との犯人像を導き出した。
この放送を受けて入江氏は、テレビ朝日に対し、演出上の問題点などについて抗議。放送法第9条に基づく訂正放送・謝罪等を求めたが、テレビ朝日は「放送法による訂正放送、謝罪はできない」と拒否した。このため入江氏は、委員会に申立書を提出。「テレビ的な技法(プーという規制音、ナレーション、画面右上枠テロップなど)を駆使した過剰な演出、恣意的な編集並びにテレビ欄の番組宣伝によって、あたかも申立人が元FBI捜査官の犯人像の見立てに賛同したかの如き放送により、申立人の名誉、自己決定権等の権利侵害が行われた」として、放送による訂正、謝罪並びに責任ある者からの謝罪を求めた。
これに対しテレビ朝日は、サファリック氏の怨恨説を否定する申立人の発言をそのまま放送しており、申立人がサファリック氏の「強い怨恨を持つ顔見知り犯行説」に賛同したように見えるという申立人側の指摘は当たらないと反論。申立人が指摘するような「恣意的な編集」や「過剰な演出」はないと認識しており、「放送法第9条による訂正・謝罪の必要はないと考えている」と主張している。
今月の委員会では、ヒアリングに向けて起草委員が作成した論点・質問項目案について検討した。その結果、5月の次回定例委員会で申立人、被申立人双方にヒアリングを実施することになった。

3.「STAP細胞報道に対する申立て」事案の審理

対象となったのは、NHKが2014年7月27日に『NHKスペシャル』で放送した特集「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。番組では英科学誌「ネイチャー」に掲載された小保方晴子氏らによるSTAP細胞に関する論文を検証した。
この放送に対し小保方氏は人権侵害等を訴える申立書を委員会に提出、その中で「何らの客観的証拠もないままに、申立人が理研(理化学研究所)内の若山(照彦)研究室にあったES細胞を『盗み』、それを混入させた細胞を用いて実験を行っていたと断定的なイメージの下で作られたもので、極めて大きな人権侵害があった」などとして、NHKに公式謝罪や検証作業の公表、再発防止体制づくりを求めた。
これに対しNHKは答弁書で、「今回の番組は、世界的な関心を集めていた『STAP細胞はあるのか』という疑問に対し、2000ページ近くにおよぶ資料や100人を超える研究者、関係者の取材に基づき、客観的な事実を積み上げ、表現にも配慮しながら制作したものであって、申立人の人権を不当に侵害するようなものではない」などと主張した。
今回の委員会では論点と質問項目を確認したうえで、ヒアリングを行うために4月26日に臨時委員会を開催することを了承した。

4.審理要請案件:「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(テレビ熊本)~審理入り決定

上記申立てについて、審理入りを決定した。
対象となった番組は、テレビ熊本(TKU)が2015年11月19日に放送した『TKUみんなのニュース』と『TKUニュース』。番組では、熊本県内の地方公務員が同年7月、「酒を飲んで意識が朦朧としていた知人女性を自宅に連れ込み、デジカメで女性の裸を撮影した」等として準強制わいせつ容疑で逮捕されたと放送した。
同公務員は12月8日、不起訴処分で釈放された後、テレビ熊本に対し、逮捕から不起訴に至るまでの報道の有無とその内容に関する情報開示を請求するとともに、委員会に申立書を提出し、テレビ熊本の事件報道は、「警察発表に色を付けて報道しており、視聴者からすると、あたかも無理やり酒を飲ませて酔わせた挙句、無理やり家に連れ込み、無理やり服を脱がせたうえで写真を撮ったかのように受け取られる」など事実と異なる内容で、またフェイスブックから無断で使用された顔写真や職場の内部、自宅まで放送されるという「完全なる極悪人のような報道内容」、「初期報道でレイプや殺人犯かのような扱い」により、深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出、事実と異なる異常な報道であった旨の放送、インターネットに拡散している情報の削除を求めた。
申立人はその後テレビ熊本に出向いて同局の放送内容を確認のうえで2016年2月22日に追加書面を委員会に提出、その中で(1)自宅前での記者リポートの結果、そこにいられなくなり引っ越した。社会的に抹殺しようという意図が疑われる、(2)「意識朦朧とした女性を連れ込み」という表現により、無理やり連れ込んだという意識を植え付けた、(3)「飲酒以外の影響、薬物の使用」の疑いを強調して「間違いなく」使っているだろうという意識を植え付ける内容、(4)フェイスブックより写真を2枚使用され、画面全体に長時間にわたり表示された、(5)「服を脱がせて裸にして裸を撮影した疑い」という、容疑内容以外のことも容疑内容として放送しており、容疑を認めたという報道により、そのすべてを認めていると誤認させる、(6)「現在の基準に照らしても懲戒免職に該当する」という首長のコメントを放送しているが、詳細を確認し「準強制わいせつということが明確になれば、懲戒免職に該当する」というコメントの一部を抜粋し、恣意的な報道により視聴者に「コイツは懲戒免職になってしかるべき」という印象を植え付けた、(7)2015年12月16日の同番組年末企画「くまもとこの1年」において、不起訴処分にもかかわらず、再度、逮捕の報道を繰り返し、いたずらに名誉を傷つけられた――などと主張した。
これに対しテレビ熊本は3月28日、本件申立てに関する「経緯と見解」書面を委員会に提出。同書面の中で、「今回の事案は、現職の公務員が起こした準強制わいせつの事案であり、その社会的影響は極めて大きいものと考えて、これまでの他の事案に基づき、その上で取材を重ね、事実のみを報道した。その中には、思い込みや容疑者や被害者を陥れるような、また過剰な演出は全くなく、事実のみを伝えており、申立人が指摘するような事実は微塵もない」として、申立人に対する人権侵害は全くないと主張した。
同局はまた、放送は警察発表及び警察幹部への取材を基に行ったものであり、申立人が指摘した記者リポートについては「『犯行現場』でのリポートであり、これは通常の取材と照らし合わせても正当なもの」とする一方、フェイスブック等の写真は申立人の知人ら複数の人に本人確認したうえで使用しており、「著作権法上の報道引用の範囲であり、この事案の報道の主たるものではない」と指摘。さらに申立人が不起訴処分になった時点で申立人の氏名は「匿名」に切り替え、自治体の処分(懲戒免職)についても自治体側の記者会見を元に取材し報道したとしている。
このほか同局は、放送内容のホームページ上の掲載については、「アップされてから24時間で自動消去している。これはいたずらにネット上で拡散する事を防ぐ対応であり、他社と比較しても短いものであると考える」と述べている。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準)に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回定例委員会より実質審理に入る。
尚、委員会は、熊本県を中心に発生した地震に伴う甚大な被害に配慮しつつ本事案の審理を進めることを確認した。

5.審理要請案件:「事件報道に対する地方公務員からの申立て」(熊本県民テレビ)~審理入り決定

上記申立てについて、審理良入りを決定した。
対象となった番組は、熊本県民テレビ(KKT)が2015年11月19日に情報番組『テレビタミン』内で放送したローカルニュース『テレビタニュース』。番組では、熊本県内の地方公務員が同年7月、「酒に酔って意識が朦朧としていた知人の女性を自分の家に連れて行き、着ていたものを脱がせて全裸をデジタルカメラで撮影した」等として準強制わいせつ容疑で逮捕されたと放送した。
同公務員は12月8日、不起訴処分で釈放された後、熊本県民テレビに対し、逮捕から不起訴に至るまでの報道の有無とその内容に関する情報開示を請求するとともに、委員会に申立書を提出し、熊本県民テレビの事件報道は、「警察発表に色を付けて報道しており、視聴者からすると、あたかも無理やり酒を飲ませて酔わせた挙句、無理やり家に連れ込み、無理やり服を脱がせたうえで写真を撮ったかのように受け取られる」など事実と異なる内容で、またフェイスブックから無断で使用された顔写真や職場の内部まで放送されるという「完全なる極悪人のような報道内容」、「初期報道でレイプや殺人犯かのような扱い」により、深刻な人権侵害を受けたとして、謝罪文の提出、事実と異なる異常な報道であった旨の放送、インターネットに拡散している情報の削除を求めた。
申立人はその後熊本県民テレビに出向いて同局の放送内容を確認のうえで2016年2月22日に追加書面を委員会に提出、その中で(1)警察発表では「意識朦朧」といいう記載はないのに、なぜそのような表現になったのか。また無理やり家に引きずり込み、無理やり服を脱がせたかのように思わせる内容だが、そのような事実はない、(2)「意識が朦朧とした女性の服を脱がせ犯行に及んだ」という趣旨の放送もされており、薬か何かを用いているように思わせている、(3)「間違いありませんと容疑を認めている」と放送することにより、私は写真を撮ったという行為のみを認めているにもかかわらず、全てを認めているかのような報道内容、(4)所属していた職場のアップの映像が放送され、職場には絶対に戻ってこれないように社会的に抹殺してしまおうというモラルを欠いた映像の作り方になっている、(5)フェイスブックより写真が2枚使用されており、画面全体に長時間に渡り表示されていた、(6)スタジオでの男性司会者のコメントについて、有罪になった犯人でもないのに「卑劣な行為」と断言したことで、「コイツは犯人(刑法犯)」という思考にさせる。またそのような事実がないにもかかわらず、「薬物を使用した可能性がある」という点を強調している――などと主張した。
これに対し熊本県民テレビは4月8日、本件申立てに関する「経緯と見解」書面を委員会に提出。同書面の中で、「当社が報道した内容は、公務員が本人の承諾なく女性の裸体の写真を撮影したことによって準強制わいせつ容疑で逮捕されたというものであり、社会的に重大な事案であると考える。申立人の写真や職場の映像を使用したのは、容疑者がどのような人物なのか、どのような職務を行っていたのかを伝えるためで、これは国民の知る権利にこたえるためであり、手順等にも問題があるとは考えていない」と反論。
そのうえで、「今回の当社の報道は、正当な方法によって得た取材結果に基づいて客観的な立場からなされたものであり、申立人のいうような悪意的でモラルを欠いた報道内容であったとは考えていない」として、「当社の報道は、申立人の名誉、信用、プライバシー・肖像等の権利を不当に侵害する内容ではなく、これらに係る放送倫理に違反した内容でもなく、公平・公正を欠いた内容でもないことから、当社としては、申立人の貴委員会への主張は妥当性がないものと考える」と述べた。
さらに同局は、申立人が不起訴処分になったのが分かった12月9日、ニュースでその事実を放送し、「その際は匿名で申立人の人権にも十分配慮しており、名誉回復は果たしていると考える」と主張した。
委員会は、委員会運営規則第5条(苦情の取り扱い基準) に照らし、本件申立ては審理要件を満たしていると判断し、審理入りすることを決めた。
次回定例委員会より実質審理に入る。
尚、委員会は、熊本県を中心に発生した地震に伴う甚大な被害に配慮しつつ本事案の審理を進めることを確認した。

6.その他

  • 放送人権委員会の2015年度中の「苦情対応状況」について、事務局が資料をもとに報告した。同年度中、当事者からの苦情申立てが27件あり、そのうち審理入りしたのが6件、委員会決定の通知・公表が6件あった。また仲介・斡旋による解決が3件あった。
  • 次回委員会は4月26日に臨時委員会を開催する。5月の定例委員会は5月17日に開かれる。

以上